- 1 - 主文 被告人を懲役3年に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は、定年及び再任用が終了するまで教師として勤務してきたものであるが、約35年前に当時中学2年生の生徒であったAから好意を打ち明けられて、同人と性的関係を持つようになった。この性的関係はAが高校2年生になった頃まで継続したが、その後も被告人は、高校を卒業して結婚したAの相談に乗ったり、Aの息子の家庭教師を行ったりするなどして、Aと非常に良好な関係にあり、被告人としてはAの父親のような気持ちを有していた。 その後、被告人は、Aが監禁されている旨を告げる電話が突然切られて以降、三、四年ほどAとの音信が途絶えていたが、令和3年10月頃に、Aの3年後輩に当たるBからの電話を受け、Aとの性的関係について問いただされた上、らちが明かないとして被告人方を来訪したAとBから、妻の面前で約1時間半以上にわたって強く非難された挙げ句、「謝って済む話ではないでしょう」「誠意を見せろ」などと問い詰められた結果、AとBから300万円を脅し取られることとなった。 被告人としては、この300万円の支払によりAとの問題から解放されたと思っていたが、令和4年8月にAから電話があり、既に支払われた300万円は慰謝料であって、病院代を別途支払うよう要求された。被告人は、このAの要求を拒否し、妻を通じてAからの電話の着信を拒否するよう設定したものの、妻ともどもAとの問題は思い出したくないとの気持ちを抱くようになった。 被告人は、令和5年9月26日午後2時頃、Bからの電話を受け、再度病院代を支払うよう求められたほか、「先生、ジャニーズのこともあるんだよ」と言って当時社会の耳 ないとの気持ちを抱くようになった。 被告人は、令和5年9月26日午後2時頃、Bからの電話を受け、再度病院代を支払うよう求められたほか、「先生、ジャニーズのこともあるんだよ」と言って当時社会の耳目を集めていた芸能事務所での性加害と際限ない賠償問題に関する話題をほのめかされたため、自身も今後はAとの性的関係を理由に繰り返し脅されて金 - 2 -員を請求されることになるとの恐怖、不安、絶望を覚えるようになった。 その後、2回ほどBから電話があった後の同日午後9時過ぎ頃、被告人方のインターホンが鳴ったため、被告人が玄関を見に行ったところ、玄関ドアのガラス越しにAが訪れていることが分かるとともに、Aを車に同乗させたBも来ているであろうと推測した。被告人は、来訪予定のなかったAとBが被告人方に訪れたことで更に絶望し、また、かつて両名から「恐ろしい集団が黙ってないよ」と脅されたことを思い出し、とっさにAとBを殺さなければ妻、子、孫ら家族にも危害が加えられかねないと考えるに至り、台所に行って引き出しから千枚通しを手に取り、再び玄関に向かった。 (罪となるべき事実)被告人は、令和5年9月26日午後9時13分頃、北海道室蘭市a町b丁目c番d号当時の被告人方玄関前及びその付近において、第1 A(当時48歳)に対し、殺意をもって、右の順手で強く握った千枚通し(針部の長さ約8センチメートル。令和5年領第1051号符号1-1)でAの胸部等を複数回突き刺すなどしたが、Aに抵抗されるなどしたため、Aの胸部や左腕等に合計6か所の刺創(いずれも皮下出血や筋組織へのダメージなし)等を負わせて、Aに全治約1週間を要する左右胸部刺創等の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった。 第2 B(当時45歳)に対し、殺意をもって、右の順手で強く握った前記 へのダメージなし)等を負わせて、Aに全治約1週間を要する左右胸部刺創等の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった。 第2 B(当時45歳)に対し、殺意をもって、右の順手で強く握った前記千枚通しでBの胸部等を複数回突き刺すなどしたが、Bに抵抗されるなどしたため、Bの胸部や左腕等に合計13か所の刺創(うち1か所は深さ約6.3センチメートルで肺に刺さり、心臓の約8ミリメートル手前で止まる)等を負わせて、Bに全治約1か月を要する外傷性血気胸(左肺)等の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった。 (証拠の標目)省略(法令の適用) - 3 -罰条いずれも刑法203条、199条刑種の選択いずれも有期懲役刑を選択する。 法律上の減軽いずれも刑法43条本文、68条3号併合罪の処理刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重をする。)刑の執行猶予刑法25条1項訴訟費用(不負担) 刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)被告人はA及びBを何度も執拗に突き刺し、自身の体力が残っていたら更に刺し続ける気持ちがあったなどと述べていることから、殺意は強固であった。しかし、そのような殺意を抱くに至ったのは、A及びBから金銭を支払うよう追い詰められる中、夜中に不意の来訪を受けて更に追い込まれたためであって、冷静さを失う中で突発的に生じたものである。また、殺意の内容も、判示のとおり、攻撃的なものというよりは、防御的なものである。これらの点に照らすと、被告人の殺意に対しては強い非難を向けることはできない。 本件の発端は、当時中学校の教師であった被告人が、生徒であるAと性的関係 撃的なものというよりは、防御的なものである。これらの点に照らすと、被告人の殺意に対しては強い非難を向けることはできない。 本件の発端は、当時中学校の教師であった被告人が、生徒であるAと性的関係を持った点にあるのであって、被告人に非があるといわざるを得ないが、それでも30年以上経った後に突如Aらから金員を脅し取られるなどして徐々に追い詰められていったという経緯には一定程度酌むべきものがある。被告人が警察等に相談しなかった点も、後から見れば誤った判断であるが、それまでに築き上げてきた教師としての功績等を考慮するとやむを得ない面もあるので、一概に非難することはできない。 以上の点を考慮すると、検察官が主張する殺人未遂罪の量刑傾向を前提にしても、本件は比較的軽い部類に位置付けられる(なお、A及びBに負わせた傷害等の結果は、仮定を入れることなく、判示認定のとおりのものとして評価する。)。 加えて、本件が広く報道され、生活の本拠としていた室蘭では生活できないよう - 4 -になるなど、被告人はもとより家族も一定の社会的制裁を受けている。また、被告人とA及びBとの間ではそれぞれ示談が成立しており、示談書にはAもBも被告人を許し、被告人の刑事処罰は求めない旨が記載されている。そして、被告人の娘夫婦が被告人夫婦を引き受けるなど、家族が被告人を支えていることを考慮すると、被告人には、社会内での生活を通じて本件の罪を償わせるのが相当であると考え、主文のとおり刑を決めた(なお、懲役刑の執行を猶予する期間は、本件の罪の重さに照らし、最大限の期間とする。)。 (求刑-懲役6年、弁護人の科刑意見-執行猶予付き判決)令和6年5月17日札幌地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官井戸俊一 主文 (求刑-懲役6年、弁護人の科刑意見-執行猶予付き判決) 理由 令和6年5月17日札幌地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官井戸俊一 裁判官新宅孝昭 裁判官斎藤由里阿
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