平成18年3月29日判決言渡平成15年(ワ)第1156号損害賠償請求事件判決主文 被告は,原告らに対し,それぞれ50万円及びこれらに対する平成12年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,これを16分して,その1を被告の負担とし,その余を原告らの負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告は,原告らに対し,それぞれ833万3603円及びこれらに対する平成12年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要(以下,原則として,平成12年については月日のみで表示する。)本件は,亡A(大正2年2月8日生。)の相続人である原告らが,Aが大動脈解離で死亡したのは,被告の開設するB病院(以下「被告病院」という。)の医師が,大動脈解離であると確定診断する注意義務又は専門医の診断にゆだねる等の措置を採るべき注意義務に違反したためであるとし,仮に死因が大動脈解離ではなかったとしても,病態を明らかにするための検査を行う注意義務があるにもかかわらずこれを怠ったためであるなどと主張して,被告に対し,不法行為責任に基づく損害賠償及びAの死亡した日である12月18日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 前提事実当事者間に争いのない事実,甲B1,3,4号証,乙A1,2号証の1,5, 8,原告C本人尋問の結果,被告代表者D(Aの主治医であり,かつ被告病院院長であった。以下「被告代表者」という。)尋問の結果,鑑定の結果及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 (1)当事者等ア原告C,同E,同F及び同Gは,Aの子であり,Aが12月18日 院長であった。以下「被告代表者」という。)尋問の結果,鑑定の結果及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 (1)当事者等ア原告C,同E,同F及び同Gは,Aの子であり,Aが12月18日に死亡したことによって,同人の権利義務をそれぞれ4分の1ずつ相続した。 イ被告は,Aの入院当時,被告病院を設置及び管理していた。 (2)入院後の経緯(なお,体温,脈拍,血圧及び酸素飽和度その他については,別紙臨床症状一覧表(以下「別紙一覧表」という。)のとおりである。)アAは,被告病院に入院する以前,原告Gと同居し,同人から介護を受けていたが,同人が入院することになったため,被告病院に介護目的で入院することになった。 イ10月16日,A(当時87歳)は被告病院に入院した。Aは,当時通院治療を受けていた中川診療所において,高血圧症,虚血性心疾患及び高尿酸血症と診断され,かつ,老人性痴呆も認められており,身体障害者4級及び要介護2度の認定を受けていた(乙A1号証7,8頁。以下,乙A1号証については,(2)においては,頁のみで表示する。)。 Aの姿勢は前傾前屈しており,歩行時は開脚し,不安定であった(12,14頁)。 ウ10月17日,血液検査が行われ,その結果,白血球数が6990(単位は/μl),CRP値が0.13(単位はmg/dl),BUN(尿素窒素)値が30.1(単位は㎎/dl),Cr(クレアチニン)値が1.8(単位は㎎/dl)であった。なお,被告病院が基準としていたのは,白血球数が3500~9700,CRP値が0.45以下,BUN値が8~20,Cr値が0.6~1.0である(62頁,70頁)。 エ10月20日,胸部レントゲン検査が行われた(61頁,乙A2号証の 1。以下,当該レントゲン写真を「レントゲン写真①」という。)。 オ11月 ,Cr値が0.6~1.0である(62頁,70頁)。 エ10月20日,胸部レントゲン検査が行われた(61頁,乙A2号証の 1。以下,当該レントゲン写真を「レントゲン写真①」という。)。 オ11月1日,血液検査が実施され,その結果,白血球数が7270,CRP値が0.05,BUN値が26.1,Cr値が1.7であった(63,71頁)。 カ11月5日,朝食を食べずに薬を内服させようとすると,Aはそれを拒否し,水を飲むように勧めても,いらないと拒否して,検温も拒否した。 午後9時,検査をしようとすると,「助けてー」と叫びだし,検温等ができなかった(22頁)。 キ11月7日,Aは,大勢の人がやってきて私を風呂に入れてやると言ってくるなどと述べ,入浴を拒否した。被告代表者は,Aの意思を尊重し,入浴はしばらく勧めず,できるだけA自身にベッドで身体を拭かせるよう指示した(23頁)。 同日,原告C及び同Eと被告代表者が面談した。被告代表者は,原告CらにAの現状を説明し,病室の変更も考えている旨話し,一方,原告Cらは入院継続を希望した(24頁。被告代表者尋問の結果7頁)。 ク11月8日午前5時,「助けて,助けて,殺される。助けて,助けて,誰か。私たちは真っ暗の中で虜にされている。」と叫ぶ等したため,Aに対し,精神安定剤であるコンスタン及びケセランを投与し,それ以外の投薬を中止した(24,25頁)。 被告代表者は,原告らに相談した上で,Aを原告C宅で外泊させることを決め,外泊の状況を見て,被告病院に帰院させるか判断することとした(25頁,原告C本人尋問の結果11頁)。 外泊中,原告らから,被告代表者に対し,今後自宅療養するとしても,原告G宅で療養することは困難との話があり,11月13日,Aは被告病院に再び入院した(26頁,原告C本人尋問の結果12頁)。 頁)。 外泊中,原告らから,被告代表者に対し,今後自宅療養するとしても,原告G宅で療養することは困難との話があり,11月13日,Aは被告病院に再び入院した(26頁,原告C本人尋問の結果12頁)。 ケ11月14日午前5時,Aは,看護師に対し,背中が痛いので先生に言 っておいてほしい旨述べた(27,28頁)。 コ11月28日午前10時,腰痛が見られたことから,被告代表者は,被告病院外科医師に相談した(32頁)。 サ12月1日,胸部レントゲン検査が実施された(59頁,乙A2号証の5。以下,当該レントゲン写真を「レントゲン写真②」という。)。 シ12月2日午前10時及び同月3日午前10時20分,Aは腰痛を訴えた(33頁)。 ス12月6日,血液検査が実施され,白血球数が7090,CRP値が0. 28,BUN値が27.9,Cr値が1.8であった(64,72頁)。 セ12月8日午後5時,看護師が腰の痛みは良くなったか尋ねると,Aは,腰はまだ痛いと答えた(35頁)。 ソ12月10日午後6時,背中が痛い旨述べたため,看護師は,湿布2枚を貼って対処した。同日,Aは昼食にバナナを1本食べたのみであり,夕食はとらなかった(36頁)。 タ12月11日,昼食は半分も食べず,夕食は未摂取であったため,点滴を行った。また,活気も見られなかった。発熱が見られ,インフルエンザの予防及び治療薬が投与された(37頁)。 チ(ア)12月12日午前6時,下肢に力が入らず,立つことができなくなっていた。また,水を飲むことを勧めても飲みたがらなかった。 午前10時15分及び午後0時20分,「少しえらい。」旨述べた(37頁)。 (イ)Aの状態から,血液検査,尿検査,胸部レントゲン検査を行った(38頁,乙A2号証の8。以下,当該レントゲン写真を「レントゲン写真③」という。) 20分,「少しえらい。」旨述べた(37頁)。 (イ)Aの状態から,血液検査,尿検査,胸部レントゲン検査を行った(38頁,乙A2号証の8。以下,当該レントゲン写真を「レントゲン写真③」という。)。その後,抗生剤であるセフマゾンが点滴された。 (ウ)被告代表者は,原告C及び同Fに対し,同月9日からAの食欲が低下して活気がなくなったこと,同月10日にはぼんやりしてきたこと, 同月11日から熱が出たので解熱剤を用い,インフルエンザであると生命に関わるのでインフルエンザの治療も開始したこと及び同月12日の胸部レントゲン検査の結果では異状はないが,血液検査の結果次第では,被告が運営し,急性期治療が可能であるH病院又はI病院等へ転院してもらう必要があることを説明した。 一方,原告Cらは,原告Gは既に退院しているが,Aの世話をすることは困難な状況である旨話した。 被告代表者は,原告Fとも話をしたが,同人が興奮し,話がまとまらなかったため,12月13日に原告C及び同Fは,被告代表者と再度面談することとなった(38頁)。 (エ)午後2時前ころ,Aが,胸などがえらい旨述べたことから,高血圧症及び狭心症剤であるニトロールの点滴を行った(38頁)。しかし,その後,Aが点滴の針を自分で抜いてしまった(被告代表者尋問の結果22頁)。 ツ12月13日,前日の血液検査の結果が判明し,白血球数が14460,CRP値が10.5,BUN値が53.6,Cr値が2.6であった(65,73頁)。 被告代表者は,原告Cに対し電話で,血液検査の結果,炎症反応が見られたため,12日から点滴を開始したが,Aが自分で針を抜いてしまう状況なので,13日朝までで点滴を中止し,内服に変更したこと,摂食不良時には点滴を行うこと,貧血があるので同日から治療を開始したこと,Aに少し活気が出 ら点滴を開始したが,Aが自分で針を抜いてしまう状況なので,13日朝までで点滴を中止し,内服に変更したこと,摂食不良時には点滴を行うこと,貧血があるので同日から治療を開始したこと,Aに少し活気が出てきて,コミュニケーションもとれること及び被告病院にて診療を続けることを説明した(39,40頁)。 テ12月14日午後7時30分,看護師がポータブルトイレにAを座らせると,多量の排尿が見られた(41,42頁)。 ト12月15日午前10時,入浴した(42頁)。 ナ12月16日午前6時,「なんだか体がだるい。」旨話し,倦怠感が見られた。午前8時20分,血圧が高値を維持しているということから,高血圧症及び狭心症剤であるノルバスクが投与された。 昼食では主菜を10割,副菜を8割摂取し,夕食では主菜を10割,副菜を9割摂取した(42,43,54頁)。 ニ12月17日,朝食では主菜を8割,副菜を7割,昼食では7割摂取したが,夕食には手をつけなかった。 午後8時に看護師が病室を訪れると,Aは眠っており,午後11時においてもベッドで横になり眠っていた(43,44頁)。 ヌ12月18日午前1時18分,看護師が病室を訪れると,Aが,ベッドから離れた窓際の床に仰向けに倒れていた。既に呼吸及び心臓は停止しており,死亡が確認された。苦悶の表情は見られず,衣服の乱れもなく,下着も下ろしていない状態であった。また,靴は履いていなかったが,靴下は履いていた(44,45頁,被告代表者尋問の結果10頁)。 (3)大動脈解離についてア定義及び分類大動脈解離は,大動脈内膜に亀裂が生じ,大動脈壁内に血液が入り込み血腫が形成され,中膜が内外の2層に解離した状態をいう(甲B10号証の3)。Stanford分類によれば,上行大動脈に解離のあるA型と,解離のないB型に分類される が生じ,大動脈壁内に血液が入り込み血腫が形成され,中膜が内外の2層に解離した状態をいう(甲B10号証の3)。Stanford分類によれば,上行大動脈に解離のあるA型と,解離のないB型に分類される(甲B1号証89,90頁)。 イ所見及び確定診断(甲B1,10号証の3,4)(ア)臨床症状としては,解離に伴う疼痛と,解離の合併症としての出血及び臓器虚血により生ずる,突然起こる激烈な体幹部の痛み(特に胸痛及び背部痛)が特徴的であり,解離が腹部大動脈に及ぶと腹痛及び腰痛を来す。しかし,胸痛や背部痛が前面に出ない例が10ないし20%存在する。発症時には血圧が上昇するが,破裂による大量出血や心タンポ ナーデを来した例では低血圧となったりショックに陥る(甲B1号証91頁,10号証の4の1頁)。 (イ)血液検査では,白血球数の増加,CRP値の上昇が見られる(甲B10号証の3の1頁)。 (ウ)胸部レントゲン検査では解離病変を疑う重要な所見が得られる。縦隔陰影の拡大であり,胸部大動脈の拡大を疑わせる所見である。胸部大動脈の内膜の石灰化があれば,内膜から離れて外膜の陰影が見られるので,解離の存在が示唆される(甲B1号証95頁)。これをカルシウムサインといい,この距離が6㎜以上である場合は大動脈解離の徴候とされている(甲B10号証の3の1頁)。 (エ)確定診断は大動脈が真腔と解離腔の2腔に分かれることを検出することで,超音波法,特に経食道超音波法,造影CT,MRI,DSA,大動脈造影が有用である(甲B10号証の6の1168頁)。 ウ治療及び予後について大動脈解離には,すべての症例に内科的治療が必要である。内科的治療では,強力な降圧治療が最優先され,一般的にニトログリセリン,トリメタファン,ニカルジピン及びジルチアゼム等の薬剤を持続点滴(最低3日 大動脈解離には,すべての症例に内科的治療が必要である。内科的治療では,強力な降圧治療が最優先され,一般的にニトログリセリン,トリメタファン,ニカルジピン及びジルチアゼム等の薬剤を持続点滴(最低3日間)の方法で投与する。 合併症のない血栓閉塞型大動脈解離(解離腔が早期に血栓で完全に閉塞するもの)を除き,急性A型解離に対しては,内科的治療とともに,手術治療を行う。急性B型解離においても,大動脈の瘤化(径が5㎝以上に拡大),重要臓器の虚血及び再解離の発生が出現した場合は手術の適応がある。手術適応がない場合は,ニフュジピン等の経口薬に移行させて経過を追う。(甲B1号証98ないし100頁)大動脈解離に対する治療法が存在しなかった時代の自然予後は極めて不良であったが,内科的治療,外科的治療により明らかな予後の改善が見ら れ,手術成功例の5年生存率は約80%とされている(甲B2号証1318頁)。 本件の争点及び争点に対する当事者の主張(1)Aの死因について(原告らの主張)アAの死因は大動脈解離である。 (ア)胸部レントゲン写真の所見レントゲン写真③では,石灰化陰影は大動脈壁から距離をおいて内側に存在する一方で,大動脈壁には石灰化を認めることができないことから,大動脈弓部において,中膜を境に解離が発生しているとの所見が認められる。そして,レントゲン写真③上,大動脈外壁と石灰化陰影までの距離を計測すると12㎜以上であることから,胸部レントゲン検査上明らかな大動脈解離の所見が認められる。さらに,レントゲン写真③では,大動脈解離に伴う心不全及び胸腔内出血を示唆する心陰影の拡大及び胸水の所見が認められる上,大動脈周辺に存在する不規則な陰影は,解離周辺の染み状出血をうかがわせるものである。 (イ)臨床症状及び理学所見Aは,12月2日,同 胸腔内出血を示唆する心陰影の拡大及び胸水の所見が認められる上,大動脈周辺に存在する不規則な陰影は,解離周辺の染み状出血をうかがわせるものである。 (イ)臨床症状及び理学所見Aは,12月2日,同月3日及び同月8日には腰痛を,同月12日には胸痛等を訴えており,大動脈解離の臨床症状と合致する。また,12月5日以降には拡張期血圧が100㎜Hgを超えるなど,それ以前の経過とは明らかに異なる理学所見が存在する。 (ウ)鑑定人Jの鑑定についてJ鑑定人は,大動脈外縁と石灰化陰影との距離が開いていることを認めながら,両者間のカルシウムサインの幅を測定することもなく,視覚上の変化によるものと安易に判断して大動脈解離の可能性を排斥しているものであって,鑑定書の信用性には疑問がある。また,J鑑定人は, Aには大動脈解離特有の臨床症状が認められない旨述べるが,上記のとおり,Aには大動脈解離の臨床症状である腰痛及び胸痛のほか,血圧異常等もあったのであるから,鑑定の前提となる事実に誤認があるというべきである。 イ仮に,死因が大動脈解離であると認められないのであれば,Aは肺炎の増悪により死亡したものである。 レントゲン写真③では,肺野全体に鬱血が認められ,左下肺野には肺炎像と胸水,更に縦隔側では上葉に向かう肺炎とそれによると思われる局所の無気肺が認められ,12月11日から同月12日にかけては38度の発熱があり,血液検査でも白血球数は14460,BUN値は53.6,Cr値は2.6とそれぞれ上昇し,肺炎脱水を示唆する所見が得られていたことによると,12月12日当時,Aは肺炎に罹患していたものであって,その後同月18日に,肺炎の増悪によって死亡した。 (被告の主張)アAの死因は大動脈解離ではない。 (ア)J鑑定人による胸部レントゲン写真及び臨床症状等の検討 Aは肺炎に罹患していたものであって,その後同月18日に,肺炎の増悪によって死亡した。 (被告の主張)アAの死因は大動脈解離ではない。 (ア)J鑑定人による胸部レントゲン写真及び臨床症状等の検討によれば,大動脈解離を発症していたと疑うことはできず,大動脈解離と判断すべきではない。 (イ)レントゲン写真②上は大動脈解離の所見は見られないのであるから,12月2日及び3日の腰痛は大動脈解離によるものとはいえず,また,同月8日の訴えは「腰はまだ痛いけど」という程度で,大動脈解離の症状としての疼痛とはいえない。Aの腰痛は腰椎変形による以前からのもので変化がなく,耐え難い激烈な胸部痛及び背部痛という大動脈解離の一般症状は見られなかった。 (ウ)大動脈解離発症の際に見られる血圧の上昇,不安定さ,腎動脈の閉塞による腎機能障害についてもJ鑑定人は検討を加えて,大動脈解離を 否定している。 (エ)また,大動脈解離の可能性が極めて高い旨のK医師の意見書(甲B10号証の1)が提出されているが,K医師の専門は循環器内科ではなく,教科書的知識で単なる外線と石灰化陰影の距離のみから結論を出しており,到底信用できない。J鑑定人は,長年の豊富な経験に基づき,Aの具体的資料を基に詳細に検討しており,鑑定の結論を覆すものではない。 イAは肺炎で死亡したのでもない。 Aは,12月15日に入浴し,翌16日には平熱まで下がっていたことから,発熱については症状が改善していた。また,同月18日午前1時18分ころ病室の床に仰向けに倒れて突然死していたのであり,肺炎の増悪によって死亡したとはいえない。J鑑定人もAの死亡を突然死とし,鑑定書には肺炎による死亡との記述は一切ない。 ウAは入院当時87歳という高齢であった上,高血圧症,虚血性心疾患,高尿酸血症といった疾患を有 て死亡したとはいえない。J鑑定人もAの死亡を突然死とし,鑑定書には肺炎による死亡との記述は一切ない。 ウAは入院当時87歳という高齢であった上,高血圧症,虚血性心疾患,高尿酸血症といった疾患を有し,老人性痴呆もあって,身体障害者4級,要介護2度の認定を受けていた。これらの基礎疾患があった上,動脈に何層にも重なった石灰化像が認められ,一見して著明な動脈硬化があったのであるから,重い脳梗塞,脳溢血,心筋梗塞及び大動脈破裂等の動脈の支障によるあらゆる急死が考えられる。 (2)被告の過失についてア過失①(被告病院医師が大動脈解離の確定診断をすべき義務違反)の有無(原告らの主張)Aの死因は大動脈解離であり,胸部レントゲン写真,臨床症状及び理学所見から大動脈解離を疑うべき所見が得られており,大動脈解離は放置すれば確実に死に至る重篤な疾患であることに照らせば,被告病院医師とし ては,まず第一に鑑別すべき疾患であった。 そして,本件においては胸部レントゲン写真上,大動脈解離が明らかであるから,被告病院医師は,大動脈解離であることを疑い,解離の存在部位診断,型別診断,解離した大動脈とその分枝の血流状態及び解離腔血栓形成の把握を行い,大動脈解離に対する治療方針を決定するため,CT検査又は大動脈造影検査を施行し,確定診断をすべき注意義務があった。 しかし,被告病院医師は,CT検査及び大動脈造影検査を行わず,確定診断することを怠った。 (被告の主張)Aには,大動脈解離の一般症状である耐え難い激烈な胸痛及び背部痛が見られず,胸部レントゲン写真からは大動脈解離の所見が見られなかった。 仮に大動脈解離であったとしても,12月12日当時,被告病院医師が大動脈解離を疑うことは不可能であったから,レントゲン写真③から大動脈解離の確定診断を下すことはできなか 解離の所見が見られなかった。 仮に大動脈解離であったとしても,12月12日当時,被告病院医師が大動脈解離を疑うことは不可能であったから,レントゲン写真③から大動脈解離の確定診断を下すことはできなかった。したがって,被告病院医師には,CT検査及び大動脈造影検査を施行すべき注意義務はなかった。 イ過失②(専門医に診断をゆだね,相談を行うべき義務違反)の有無(原告らの主張)Aの胸部レントゲン写真,臨床症状及び理学所見から大動脈解離を疑う所見が得られているから,仮に被告病院医師が,自ら大動脈解離であると確定診断することが困難であっても,循環器内科医等の専門医に診断をゆだね,相談すべき注意義務があった。 しかし,被告病院医師はこれを怠り,循環器内科医等にレントゲン写真③の読影を依頼する等の措置を採らなかった。 (被告の主張)Aは大動脈解離を発症しておらず,循環器内科等専門医に診断をゆだね,相談すれば,J鑑定人同様,大動脈解離ではないとの診断がされたはずで あり,被告病院には注意義務違反はない。 また,過失①同様,被告病院医師が胸部レントゲン写真,臨床症状及び理学所見から大動脈解離を疑わなかったのはやむを得ないというべきであり,被告病院医師には,専門医に転医すべき義務も相談すべき義務もない。 ウ過失③(病態把握のための検査懈怠)の有無(原告らの主張)本件において,12月12日時点での臨床症状及び理学所見からすると,被告病院医師としては,遅くとも2,3日後に,レントゲン撮影,血液検査等を実施していれば,Aの肺炎,大動脈解離等の病態を把握することができたのである。そして,肺炎,大動脈解離等については診断後の適切な治療措置も期待することができ,Aを救命し得た。 したがって,被告病院医師には,遅くとも12月15日の時点で胸部レントゲン,血液検査 できたのである。そして,肺炎,大動脈解離等については診断後の適切な治療措置も期待することができ,Aを救命し得た。 したがって,被告病院医師には,遅くとも12月15日の時点で胸部レントゲン,血液検査等の検査を行うべき注意義務があったものである。 ところが,被告病院医師は,12月12日に原告らに対し行った説明から明らかなように,レントゲン写真③については問題なしと判断していたもので,同日以降Aに対し血圧測定以外の検査を何ら行っておらず,この点において被告の責任は明らかである。 (被告の主張)被告病院は,急性期疾患を治療する機能を持っていないため,そのためにはAを治療機能を持つ病院へ転院する必要があるところ,被告代表者が原告らと転院について協議した際,原告らは賛同しなかった。また,転院による弊害も大きかったので,結局転院しなかったのであり,原告らが主張するような検査をしてもそれに続く治療ができず,被告病院には検査をする義務はなかった。 さらに,Aの入院は疾患の治療を目的としたものというよりも,世話する人がいなくなるために世話を頼むというものであり,その痴呆状態,入 院後の精神不安定状態を考えれば,被告病院医師はJ鑑定人の指摘するような対応はできず,かつ対応する義務もなかった。 したがって,検査を行わなかったとしても被告には責任がない。 (3)因果関係についてア過失①及び②と死亡との間の因果関係(原告らの主張)レントゲン写真③,臨床症状及び理学所見によって,大動脈解離の所見が得られたのであるから,薬剤による降圧治療を行うことができたのであり,被告病院医師自ら,心エコー検査等によってAの大動脈解離の病型を確定するか,専門医に相談していれば,病型に応じた適切な治療を行うことができ,良好な予後が得られたと解される。しかし,本件では,外科的 ,被告病院医師自ら,心エコー検査等によってAの大動脈解離の病型を確定するか,専門医に相談していれば,病型に応じた適切な治療を行うことができ,良好な予後が得られたと解される。しかし,本件では,外科的治療も内科的治療も行われていないから,被告病院医師の注意義務違反とAの死亡との間には相当因果関係がある。 なお,神経学的合併症や呼吸器合併症を併発しない限り,高齢者の大動脈解離手術の手術成績は良好であるから,手術適応に関し,一般成人と別異に解する必要はない。 また,Aの大動脈解離の病型は不明であるが,被告病院医師が注意義務を尽くしていれば病型が確定されていたのであるから,病型が不明であることの不利益を患者側に帰することは条理に反する。 (被告の主張)Aの死亡は大動脈解離によるものではない以上,過失①及び②と死亡との間の因果関係はない。 仮に,大動脈解離によって死亡したとしても,レントゲン写真③からすれば,Aの大動脈解離はA型であり,解離の幅は相当大きいものであったと推測されるが,Aは高齢の上に痴呆が進んでおり,外科的治療を行うことは不可能であった。また,解離の大きさ及び点滴や飲み薬の投与ができ ない状態からすれば内科的治療で対応することも不可能であった。 したがって,仮に被告病院医師が大動脈解離を発見していたとしても,Aを救命できた蓋然性は極めて低く,大動脈解離の所見の見落としと死亡との間には相当因果関係はない。 イ過失①及び②と延命利益の侵害との間の因果関係(原告らの主張)仮に,被告病院医師の注意義務違反とAの死亡との間に因果関係が認められないとしても,被告病院医師が,レントゲン写真③により大動脈解離を確定診断し,又はそれを疑って診断をし,Aに対し内科的治療を速やかに開始していれば,それだけAの生存率が高まったものと考えられる。す ないとしても,被告病院医師が,レントゲン写真③により大動脈解離を確定診断し,又はそれを疑って診断をし,Aに対し内科的治療を速やかに開始していれば,それだけAの生存率が高まったものと考えられる。すなわち,外科的治療が困難であったとしても,Aが実際に死亡した12月18日より相当程度延命することができたものである。 (被告の主張)原告らの主張は争う。 ウ過失③と死亡との間の因果関係(原告らの主張)Aの病態が明らかになっていれば,その病態に応じて,治療措置を講ずることができたものであり,Aを救命できた蓋然性は高かったというべきである。 (被告の主張)そもそもAは,動脈硬化による疾患で急死を遂げたのであり,被告病院医師が検査をしてもAを救命することはできなかったのであって,検査を行わなかったとしても被告には責任はない。 (4)損害について(原告らの主張)被告の上記の不法行為により,原告らは,被告に対し,以下のとおり,合 計3333万4412円の損害賠償請求権を有する。 アAの逸失利益383万4412円。原告らは,これを4分の1ずつ相続した。 125万9100円(平成12年の国民年金受給額)×0.6(生活費控除4割)×5.0756(平均余命6年のライプニッツ係数)=383万4412円イ慰謝料原告らが最愛の母であるAを失った精神的苦痛は極めて大きい。原告らに対する慰謝料は計2500万円が相当である。 ウ葬儀費用150万円エ弁護士費用300万円(被告の主張)原告らの主張は不知ないし争う。 第3当裁判所の判断 Aの死因について(1)前記前提事実(第2の1(2)),乙A2号証の1,5及び8,鑑定の結果並びに弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 アレントゲン写真①ないし③においては,大動脈弓部において, ついて(1)前記前提事実(第2の1(2)),乙A2号証の1,5及び8,鑑定の結果並びに弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 アレントゲン写真①ないし③においては,大動脈弓部において,何層にも重なった石灰化像が見られ,一見して著明な動脈硬化が認められる。 イレントゲン写真①と②の画像を比較した場合,大動脈弓部の石灰化像は,基本的に変化していない。すなわち,レントゲン写真①及び②の撮影当時,Aは大動脈解離を発症していなかったものと認められる。 レントゲン写真③上,大動脈の石灰化部の外側に淡い陰影の増強が見られる。また,肺野全体に鬱血が,左下肺野には肺炎像と胸水が見られる。 さらに,縦隔側では局所の無気肺が認められる(鑑定書3頁)。 (2)死因が大動脈解離であるとの主張について アAのレントゲン写真の所見,臨床症状及び理学所見は前記前提事実(第2の1(2))及び上記(1)の事実のとおりであるところ,原告らは,これらの所見に加え,レントゲン写真③上,大動脈外壁と石灰化陰影までの距離が12㎜以上あることから,大動脈解離の所見が認められるとして,Aは大動脈解離で死亡したと主張する。 しかし,以下のとおり,レントゲン写真①ないし③の所見,臨床症状及び理学所見からは,Aの死因が大動脈解離であると認めることはできない。 イ胸部レントゲン写真の所見について(ア)K医師は意見書において,石灰化部と大動脈壁の距離が6㎜以上であることが大動脈解離の所見であるところ,本件はレントゲン写真③の画像上,大動脈壁と石灰化像との距離が12㎜以上となっている部分があるとし,上部縦隔及び大動脈周囲の陰影の拡大も見られることから,12月12日当時,Aは大動脈解離であったとしている。 一方,J鑑定人は,レントゲン写真③の上記陰影の拡大について,肺炎による 部分があるとし,上部縦隔及び大動脈周囲の陰影の拡大も見られることから,12月12日当時,Aは大動脈解離であったとしている。 一方,J鑑定人は,レントゲン写真③の上記陰影の拡大について,肺炎による変化と鬱血と考えるべきであるとし,石灰化像の変化につき,「肺炎・胸水による変化が加わったための視覚上の変化と,筒を覗く軸方向の変化の範囲内と考えるのが妥当であるが,他の2枚と比べ弓部石灰化だけを取り上げればわずかな変化のある可能性があるといえる。これだけから大動脈解離を疑うべきかというと,それは無理と考える。肺炎像の所見が大きく,他の解離を疑わせる臨床症状がないだけに,まず肺炎の治療を行い,経過を見るのが通常行われるべき診療と考える。」旨判断している。 (イ)この点,Aが12月12日当時肺炎に罹患していたことが認められる(この点は当事者間に争いはない。)ところ,J鑑定人は,循環器疾患を専門とする医師として,Aが肺炎に罹患していたことを考慮に入れた上で,Aのレントゲン写真③の所見,臨床症状及び理学所見を,本件 に即して具体的に検討している。レントゲン写真②に対しても,J鑑定人は石灰化像の変化の可能性も一応考慮した上で大動脈解離の発症の可能性を否定しているなど,十分具体的な検討を加えている。また,L医師も,「質問事項に対する回答」と題する書面(乙B1号証)において,レントゲン写真③,臨床症状及び理学所見からは,肺炎を併発する心不全を疑うのが相当とし,大動脈解離を疑うことはできなかったとして,J鑑定人と同様の指摘をしている。これらの点からすれば,J鑑定人の鑑定内容は信用できるものと考えられる。 一方,K医師は,内科医ではあるが,循環器疾患は専門ではなく,意見書の内容も,Aが12月12日当時肺炎に罹患していたことがレントゲン写真に与える影響 鑑定人の鑑定内容は信用できるものと考えられる。 一方,K医師は,内科医ではあるが,循環器疾患は専門ではなく,意見書の内容も,Aが12月12日当時肺炎に罹患していたことがレントゲン写真に与える影響を考慮せずに単に画像上の距離のみを根拠に論を進めており,しかも,可能性を示唆するにとどまる部分が多い。これらの点から,K医師の意見を採用することはできない。 イ臨床症状及び理学所見について(ア)腰痛及び背部痛等について確かに,Aは,腰や背中が痛いであるとか,「胸がえらい。」などと述べていたことから,腰痛及び背部痛があったこと及び胸に痛み又は違和感を有していたことが認められる。 しかし,Aは,11月30日に,看護師に付き添われて,歩いて歯を磨きに行ったこと,12月1日には入浴したり,廊下をうろうろしていたことが認められることからしても(乙A1号証33頁),大動脈解離の特徴的所見である突然の激しい痛みがあったとまでは認められない。 また,確かに,大動脈解離であっても激しい痛みが見られない症例が10ないし20%存することは認められるが,本件では,他に大動脈解離を示す明らかな所見が認められず,上記例外に当たると認めることはできない。さらに,レントゲン写真①及び②からはAが大動脈解離であっ たとは認められないところ,Aは12月1日以前から腰痛及び背部痛を訴えており,痛みの訴え方に同日以降も変化がないことによると,大動脈解離の所見があったものということはできない。 (イ)血圧について確かに,12月12日以降,Aの血圧は高値であったことが認められるが,Aには高血圧症の既往があり,実際にも,10月20日及び同月24日朝の血圧がそれぞれ,167/100,156/108㎜Hgと,入院直後から拡張期血圧が100㎜Hgを超えることもあったことが認められ Aには高血圧症の既往があり,実際にも,10月20日及び同月24日朝の血圧がそれぞれ,167/100,156/108㎜Hgと,入院直後から拡張期血圧が100㎜Hgを超えることもあったことが認められ,11月28日にも164/100㎜Hgとなるなど12月1日以前から血圧が高かったのであるから,同月12日前後に突然上昇したというものではない。 また,大動脈解離においては,通常の降圧剤ではなかなか降圧,安定せず,非常に不安定になることが多いとされているところ(鑑定書4頁),12月12日ころから死亡まで,Aの血圧は全体的に高いものの,大きく上下していたとはいえず,不安定であったとまでは認められない。 (ウ)その他の臨床症状及び理学所見について12月11日から12日にかけて,最高で37度8分の発熱があり,同月12日の血液検査では,白血球数が14460,CRP値が10. 5,BUN値が53.6,Cr値が2.6と,被告病院における基準値を大きく上回っていることが認められる。 確かに,大動脈解離においても上記所見が現れることがあり,腎機能の低下が見られることもあるところ,本件でも,BUN値及びCr値の上昇は,大動脈解離に伴う腎機能の悪化によるものと考えられなくはない。 しかし,同日当時,Aは肺炎に罹患していたことは争いないところ,肺炎でも発熱や,白血球数及びCRP値の上昇が見られる(甲B5号証 198頁)ことから,上記数値の上昇は肺炎による可能性が高い。BUN値及びCr値については,Aが水を飲みたがらなかったこと及び同月14日に多量の排尿が見られたことからも,大動脈解離による腎機能の低下ではなく,肺炎に伴う脱水の可能性が十分考えられる。 ウ以上のとおりであるから,レントゲン写真の所見に臨床症状及び理学所見を併せ考えても,Aが大動脈解離に罹患してい も,大動脈解離による腎機能の低下ではなく,肺炎に伴う脱水の可能性が十分考えられる。 ウ以上のとおりであるから,レントゲン写真の所見に臨床症状及び理学所見を併せ考えても,Aが大動脈解離に罹患していたと認めることはできず,他にAが大動脈解離であったと認めるに足りる証拠はない。 したがって,Aが大動脈解離によって死亡したと認めることはできない。 (3)死因が肺炎であるとの主張についてア上記(2)のとおり,12月12日当時Aが肺炎に罹患していたことが認められる。 イしかし,甲B5号証198頁の重傷度分類表によれば,(ア)38度6分以上の発熱,(イ)毎分130回以上の脈拍,(ウ)脱水,(エ)2万/μl以上又は4000/μl未満の白血球数,(オ)20㎎/dl以上のCRP値及び(カ)90%以下の酸素飽和度の各項目のうち5つ以上に該当する場合に重症肺炎と判断されるところ,前記前提事実(第2の1(2))からは,(ウ)に該当する可能性があるのみで,5つ以上該当するとは認められず,12月12日の時点で,重篤な肺炎であったとは認められない。 また,同月13日午前6時には体温が36度7分となり,その後同月16日まで36度台で推移していたこと及び同月15日には入浴したことが認められる。さらに,同月17日午後11時の時点で,Aはベッドで眠り,特に苦しんでいたという事実も認められないのであり,その後死亡までの間に肺炎が急激に悪化したことを推認させる事情もない。 ウ上記認定の事実からは,Aが肺炎の増悪により死亡したと認めることはできず,他にAが肺炎の増悪により死亡したと認めるに足りる証拠はない。 (4)したがって,Aが大動脈解離で死亡したとも,肺炎の増悪によって死亡し たとも認めることはできない。 そして,死亡直前の状態が明らかではないが,Aには,高血圧症, 認めるに足りる証拠はない。 (4)したがって,Aが大動脈解離で死亡したとも,肺炎の増悪によって死亡し たとも認めることはできない。 そして,死亡直前の状態が明らかではないが,Aには,高血圧症,高尿酸血症,虚血性心疾患の既往症があり,胸部大動脈には著明な動脈硬化も認められたこと,死亡の約2時間前である12月17日午後11時の時点でベッドの上で眠っており,特に苦しんでいた様子が認められないこと及びAが入院中に頭痛を訴えていた事実が認められないことなど前記認定の諸事情を考え併せると,Aの死因として最も考えられるのは,心筋梗塞等による急性心臓死であるということができる。 過失について(1)過失①(被告病院医師が大動脈解離の確定診断をすべき注意義務)についてアこの点につき原告らは,レントゲン写真③,臨床症状及び理学所見から,大動脈解離と確定診断すべきであったと主張する。 イしかし,Aの胸部レントゲン写真の所見,臨床症状及び理学所見は,前記前提事実(第2の1(2))及び上記1で認定したとおりであるところ,Aが大動脈解離に罹患していたことは認められず,また,肺炎に罹患していたことが認められ,上記所見は肺炎によって生じた可能性が高いと考えるのが相当であることから,被告病院医師が,肺炎を疑い,大動脈解離について確定診断を行わなかったとしても,特に落ち度はなかったと考えるのが相当である。 ウそして,他に大動脈解離を疑わせる所見があると認めるに足る証拠はないから,被告病院医師が,大動脈解離の確定診断のための検査等をせず,自ら確定診断をしなかったからといって,過失は認められないと考えるのが相当である。 (2)過失②(専門医に対し相談をすべき注意義務)について上記(1)のとおり,12月12日の時点で,被告病院医師が大動脈解離を疑 う からといって,過失は認められないと考えるのが相当である。 (2)過失②(専門医に対し相談をすべき注意義務)について上記(1)のとおり,12月12日の時点で,被告病院医師が大動脈解離を疑 うべきであったとは認められない。したがって,過失①同様,被告病院医師に専門医へ相談すべき義務はなく,被告病院医師に過失は認められない。 (3)過失③(検査をして病態を明らかにすべき注意義務)についてアこの点,被告は,原告らが転院に賛同せず,かつ転院による弊害も大きかったので,転院しなかったため,検査をしてもそれに続く治療ができなかったこと及びAの入院は,治療目的というよりも,介護目的の入院であったことから,検査を行う義務はなかったと主張する。 イしかし,以下に検討するところによると,上記の被告の主張を採用することはできない。 (ア)前記前提事実(第2の1(2)),乙A1号証(37頁)によれば,Aは12月12日当時,肺炎に罹患していたが,被告代表者は,同日,原告らに対し,レントゲン写真③は異常なしと説明したこと,Aに対し,抗生剤であるセフマゾンが点滴され,同月13日には抗生剤であるケフラールが投与されたことが認められる。さらに,同月12日のレントゲン検査及び血液検査は,呼吸器感染症も含めた何らかの感染症があるのではないか,心臓が弱っているのではないかということも考えて実施したこと(被告代表者尋問の結果17頁),同日の検査実施後,Aに対し血圧測定以外の検査を行わず,同日以降の具体的な検査内容についての検討をしていなかったこと(同32頁)が認められる。 (イ)そして,肺炎の治療については,原因の微生物を把握しなければならないところ(同19頁),上記のとおり,被告病院医師は原因微生物特定のための喀痰,レントゲン及び血液の各検査を行った事実は認め (イ)そして,肺炎の治療については,原因の微生物を把握しなければならないところ(同19頁),上記のとおり,被告病院医師は原因微生物特定のための喀痰,レントゲン及び血液の各検査を行った事実は認められない。また,12月12日当時,被告代表者が感染症及び心臓疾患の可能性を考えていたことから,検査を実施していれば,Aの肺炎の具体的な状態や原因菌,心臓及び周囲の血管の状態について明らかになった可能性は十分考えられる。この点,J鑑定人も,「12日の発熱,肺炎 像,血液検査を見て,二,三日後の再検査,確認などを施行していれば,病態がもう少し明らかになっていたことは想像できる。」と指摘し,これについて被告代表者も,「もっともなことだというように思います」と供述している(同31頁)。 (ウ)また,原告Cは,Aの病状を深刻なものとは考えていなかったようであり(原告C本人尋問の結果6頁),病態が明らかになって,転院しなければ生命に関わるということになれば原告らも転院を承諾していたと考えられ,病態によっては,被告病院においても治療ができた可能性もあった。 さらに,入院の目的が介護目的であったとしても,被告病院が入院に応じていた以上,何らかの疾患を疑う状況になれば検査を行うべき義務があることに変わりはない。 ウしたがって,被告病院医師には,病態を明らかにするために検査をすべき義務が認められ,12月12日以降血圧測定以外の検査を行わず,Aの病態が明らかになっていたとはいえないことから,上記義務に違反したといわざるを得ず,被告病院医師には過失が認められる。そして,これを覆すに足る証拠はない。 過失③と死亡との間の因果関係について前記のとおり,被告病院医師に,病態を明らかにすべき過失は認められるが,Aの死因は急性心臓死であったと考えられるのである して,これを覆すに足る証拠はない。 過失③と死亡との間の因果関係について前記のとおり,被告病院医師に,病態を明らかにすべき過失は認められるが,Aの死因は急性心臓死であったと考えられるのであるから,胸部レントゲン検査及び血液検査といった検査を実施していたとしても,Aを救命できた蓋然性が高いとはいえない。したがって,過失③と死亡との間の因果関係は認められないといわざるを得ない。 しかし,胸部レントゲン検査及び血液検査等の結果から,Aの病態が明らかになっていれば,血圧測定の結果と併せて検討した上で,高血圧症及び狭心症剤等を十分に投与するなどして,心臓及び周囲の動脈への負担を軽減していれ ば,死亡した12月18日以降もAが生存していた相当程度の可能性は認められると考えるのが相当である。 以上に検討したとおりであり,被告病院医師が検査を実施していれば,Aの病態が明らかになり,治療を行うことで,現実に死亡した当時生存していた相当程度の可能性があったということができ,被告は,被告病院医師の不法行為につき,原告らに対し,次のとおり,損害賠償として,慰謝料及び弁護士費用の合計200万円を支払うべき義務を負う。 (1)慰謝料180万円12月12日以降,遅くとも同月15日までに更なる検査を行えば,Aの病態が明らかになっていたといえるが,Aの精神状態が不安定で,点滴及び検査等を拒む態度を見せるなど,被告病院医師が検査等を行うことが通常に比べ困難であったこと,設備のより充実した病院に転院可能であったのに原告らが被告病院での治療継続を求めたこと及び被告病院への入院が介護目的であったといった前記の事情も考慮すれば,原告らの慰謝料として180万円をもって相当と解する。 (2)弁護士費用20万円本件における被告病院の担当者の不法行為と相当因果関 病院への入院が介護目的であったといった前記の事情も考慮すれば,原告らの慰謝料として180万円をもって相当と解する。 (2)弁護士費用20万円本件における被告病院の担当者の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用としては,20万円が相当であると認める。 以上によれば,原告らは,上記の200万円につき,その4分の1ずつである50万円の損害賠償請求権を有することが明らかである。 したがって,被告は,原告らに対し,それぞれ50万円及びこれらに対するAの死亡した日である平成12年12月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。 以上のとおりであり,原告らの本件請求は,主文掲記の限度において理由があるから認容し,その余の請求については理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条,65条を,仮執行の宣言に つき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官佐久間邦夫裁判官倉澤守春裁判官奥田大助
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