平成21(た)8 再審請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年3月7日 大阪地方裁判所
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判決文本文57,560 文字)

- 1 -主文 請求人両名について,それぞれ再審を開始する。 理由 第1 本件再審請求の概要 1 事案の概要本件は,請求人甲が平成11年3月30日大阪地方裁判所で現住建造物等放火,殺人,詐欺未遂被告事件(当庁平成7年(わ)第3294号,第3457号)で無期懲役に処せられた確定判決について,請求人乙が平成11年5月18日同裁判所で現住建造物等放火,殺人,詐欺未遂被告事件(当庁平成7年(わ)第3295号,第3458号)で無期懲役に処せられた確定判決についてそれぞれ再審請求をした事案である。請求人両名に対する各確定判決が認定した犯罪事実はおおむね共通しており,その概要は次のとおりである。同人らは内縁関係にあり,請求人乙の前夫との子G及びSと4人で請求人乙の父H所有家屋(以下「本件家屋」という。)で生活していたが,Gに掛けていた保険金を得るため,共謀の上,平成7年7月22日午後4時50分頃,請求人甲が本件家屋1階風呂場に隣接する土間兼車庫(以下「本件車庫」という。)の床面にガソリンを撒いてライターで点火して火を放ち,本件家屋を焼損すると共に(以下「本件火災」などという。),その頃,上記風呂場においてGを焼死させて殺害し(以上現住建造物等放火,殺人被告事件),同年8月22日,上記殺害の事実を秘して保険会社に保険金の支払請求をしたが,請求人両名が警察に逮捕されたためその目的を遂げなかった(詐欺未遂被告事件)というものである。 2 本件再審請求に至る経緯確定審の記録及び当請求審で提出された証拠等によれば,以下の事実が認められる。 (1) 請求人両名の関係,生活状況等ア請求人乙は,昭和58年にTと婚姻し,同人との間に長女G(昭和58年10月11日生)及び長男Sをもうけたが された証拠等によれば,以下の事実が認められる。 (1) 請求人両名の関係,生活状況等ア請求人乙は,昭和58年にTと婚姻し,同人との間に長女G(昭和58年10月11日生)及び長男Sをもうけたが,Tの金銭問題等を理由に昭和62年9月離婚した。 請求人乙は,子らの将来のことを考え,離婚後もTの姓を名乗っていた。 - 2 -イ平成2年4月頃,請求人乙は,ホステスとして働いていたスナックに客として来ていた請求人甲と知り合い,間もなく交際するようになり,請求人両名は,同年5月末頃から請求人乙がG及びSと住んでいた大阪市a区内のマンションで同棲を始めた。請求人甲は電気工事会社で電気職人として働き,請求人乙は不動産会社のビラ配り等のアルバイトをしており,家計は全て同人が管理していた。平成3年12月頃,より家賃の高い同区内のマンションに引っ越したり,ローンで車を購入するなどしたため,カード会社等からの負債額が増え,請求人甲は高収入を求めて稼働先を変えたり,自分の屋号で電気工事を請け負うようになった。 ウ平成6年3月頃,家計状況がより厳しくなったため,請求人両名は家賃の安い同区内のマンションに引っ越したが,請求人乙は同マンションが気に入らなかった。そのような中,平成7年1月10日頃,請求人両名は同区内の新築マンションの販売センターに赴き物件を見学した。請求人乙が同マンション最上階の部屋を気に入ったため,請求人両名は同室の購入を決め,同月18日価格4050万円で仮契約を結び,頭金10万円を支払った。他方,本契約のためには,同マンション引き渡し予定時期である同年9月までに手数料170万円を準備する必要があった。 エ同年1月末,請求人両名ら4人は当時住んでいた上記a区内のマンションに不具合が生じるなどしたため,空き家だった本件家屋に引っ越した である同年9月までに手数料170万円を準備する必要があった。 エ同年1月末,請求人両名ら4人は当時住んでいた上記a区内のマンションに不具合が生じるなどしたため,空き家だった本件家屋に引っ越した。 (2) 保険契約の締結平成4年7月頃,請求人乙は保険外交員から勧誘されたのをきっかけとして,請求人甲を被保険者,自らを保険金受取人とする災害死亡保険金3000万円の保険契約を締結した。さらに,同年11月には,Gを被保険者,自らを受取人とする災害死亡保険金1500万円の保険契約を,平成7年(以下,年号の記載がない場合は平成7年のことを指す。)3月には,Sを被保険者,自らを受取人とする災害死亡保険金2000万円の保険契約を締結した。 (3) 本件火災当日の経緯7月22日,請求人甲は自動車(ホンダアクティー。以下「本件車両」という。)で - 3 -自宅を出発し,午前8時頃から大阪市b区内のマンション建設現場で電気工事の仕事をしていた。請求人乙は,別車両で自宅を出発し,午前8時頃から商品配達のアルバイトをしていた。GとSは小学校が夏休み中だったため,自宅で宿題をしたり,遊んだりしていた。当日は朝から雨だったため,請求人甲は仕事が早く終わり,午後4時5分頃本件車両を運転して上記現場を出発し,途中,大阪市a区内のガソリンスタンドでガソリンを満タンに入れて帰宅した。請求人甲が帰宅した際,請求人乙は,G及びSと共に,自宅に遊びに来ていたGの友人を同女方まで乙運転車両で送りに行っており留守だった。 やがて請求人乙ら3人が帰宅すると,同人はGに風呂に入るように言い,Gは1人で風呂に入った。請求人乙及びSは6畳間でテレビを見ており,請求人甲は着ていた作業服を脱いでパンツ1枚になるなどしていた。 同日午後4時50分頃,本件家屋において火災が発生し ように言い,Gは1人で風呂に入った。請求人乙及びSは6畳間でテレビを見ており,請求人甲は着ていた作業服を脱いでパンツ1枚になるなどしていた。 同日午後4時50分頃,本件家屋において火災が発生した。請求人甲は,同家屋表の市道に出て,請求人乙は,消防への通報後,Sを連れて裏口から本件家屋外に出た。他方,Gはその頃風呂場で焼死した。同日午後4時57分頃,消防車が到着し消火活動が行われたが,本件家屋は全焼した。 (4) 保険金請求8月22日,請求人乙は大阪市c区d町所在の保険相互会社支部を訪れ,「車の底から出火し,煙が風呂場にまわり,入浴中のGがその煙を吸って気絶した。」旨の内容の事故状況報告書兼事故証明書を作成した上,上記会社保険外交員Cに対し,上記証明書をGの災害死亡保険金請求書等と共に提出するなどして保険金の支払請求をした。 (5) 捜査の経緯等ア本件火災発生日である7月22日の夜,請求人両名は,a警察署で事情聴取を受け,翌23日には本件家屋等の実況見分に立ち会い,その後同署で事情聴取を受けた。 同月24日,請求人甲は身体検査令状に基づく身体検査を受け,頭部毛髪を採取された(甲確定1審検23,乙確定1審検21。以下,確定審の証拠を引用する場合,上記のように請求人甲,同乙の証拠番号を並べて記載する。)。さらに,請求人乙は同月27日に,請求人両名は同月30日に,それぞれ同署で任意の事情聴取を受け,同日,請求 - 4 -人甲は警察官から本件火災の重要参考人であるという趣旨のことを言われた。 イ請求人甲は,8月14日,警察官による取調べにおいて,Gとの間に性的関係がある旨の自供書を作成し(甲確定1審検173),同月17日,請求人乙と相談の上,1人で無料法律相談に赴き,担当弁護士に本件で警察に疑われているなどと相談した。 る取調べにおいて,Gとの間に性的関係がある旨の自供書を作成し(甲確定1審検173),同月17日,請求人乙と相談の上,1人で無料法律相談に赴き,担当弁護士に本件で警察に疑われているなどと相談した。 ウ 8月15日以降取調べはなかったが,9月10日朝,請求人両名は本件火災後身を寄せていたH方からの引っ越し先であるウイークリーマンションを訪れた警察官から任意同行を求められ,それぞれ後述する警察署に向かった。 (6) 請求人両名の逮捕から有罪判決確定までの経緯等ア請求人甲について請求人甲は,9月10日の任意同行後e警察署で取調べを受け,当初は本件犯行を否認していたが,その後保険金目的で放火,殺人行為に及んだ旨自白するに至り,同日午後8時頃までに自供書8枚(甲確定1審検232ないし239)を作成した。同日午後8時20分,現住建造物等放火,殺人の被疑事実で通常逮捕され,逮捕時の弁解録取においても被疑事実を認める供述をしたが(甲確定1審検217),その夜接見した弁護士に対しては本件犯行を否認し,翌11日の検察官による弁解録取及び勾留質問では黙秘したが(甲確定1審検218,219),同日,上記被疑事実で勾留された。同月12日の取調べにおいても当初黙秘していたが,昼過ぎから犯行を認める供述をし,請求人乙に宛てて「真実は一つだから仕方がない。自分は逮捕される前に全て正直に話している。弁護士が来て,やったと言ったら死刑になると言われた。全て本当の話をしている」との内容を記した書面を作成した(甲確定1審検229,乙確定1審検313)。 同月13日にも本件犯行を認める内容の自供書3枚(乙確定1審検314ないし316)を作成したが,その後弁護人との接見後の取調べでは否認に転じ,翌14日の取調べにおいて再度自白するに至り,自供書11枚(乙確定1審検317な を認める内容の自供書3枚(乙確定1審検314ないし316)を作成したが,その後弁護人との接見後の取調べでは否認に転じ,翌14日の取調べにおいて再度自白するに至り,自供書11枚(乙確定1審検317ないし327)を作成した。その後は自白を維持し,同月30日,現住建造物等放火,殺人の事実で大阪地方裁判所に起訴された(当庁平成7年(わ)第3294号)。10月13日,詐欺未遂事件で追起訴され(当庁平成7年(わ)第3457号),両事件は併合審理された。 - 5 -請求人甲は,12月19日の第1回公判期日において,放火行為をしておらず,詐欺未遂事件についても欺罔していない旨述べて起訴事実をいずれも否認したが,平成11年3月30日大阪地方裁判所は同人を無期懲役に処するとの有罪判決を言い渡した。 これに対し請求人甲は控訴したが,平成16年12月20日大阪高等裁判所は控訴棄却の判決を言い渡した(同庁平成11年(う)第678号)。 請求人甲は上告したが,平成18年11月7日最高裁判所において上告棄却の判決がされ(同庁平成17年(あ)第378号),さらに,判決訂正の申立てをしたが,同月24日同裁判所において棄却されたことから(同庁平成18年(み)第27号,第28号),上記第1審判決が確定した。 イ請求人乙について請求人乙は,9月10日の任意同行後a警察署で取調べを受け,当初は本件犯行を否認していたが,同日午後2時過ぎ頃から自白するに至り,自供書5枚(乙確定1審検146ないし150)を作成した。同日午後8時6分頃,現住建造物等放火,殺人の被疑事実で通常逮捕され,逮捕時の弁解録取においても被疑事実を認める供述をした(乙確定1審検141)。その夜及び翌11日弁護人と接見し,検察官による弁解録取及び勾留質問においては本件被疑事実を否認したが(乙確 通常逮捕され,逮捕時の弁解録取においても被疑事実を認める供述をした(乙確定1審検141)。その夜及び翌11日弁護人と接見し,検察官による弁解録取及び勾留質問においては本件被疑事実を否認したが(乙確定1審検142,143),同日,上記被疑事実で勾留された。その後も否認し続けたが,同月14日夜,再度自白するに至り,自供書3枚(乙確定1審検151ないし153)を作成した。同日深夜弁護人と接見し,翌15日以降は再び黙秘又は否認を続けたが,同月30日現住建造物等放火,殺人の事実で大阪地方裁判所に起訴された(当庁平成7年(わ)第3295号)。10月13日,詐欺未遂事件で追起訴され(当庁平成7年(わ)第3458号),両事件は併合審理された。 請求人乙は,平成8年1月26日の第1回公判期日において,請求人甲との共謀の事実はなく,同人の行為は知らない,保険金請求は正当なものである旨述べて起訴事実をいずれも否認したが,平成11年5月18日大阪地方裁判所は同人を無期懲役に処するとの有罪判決を言い渡した。 - 6 -これに対し弁護人は控訴したが,平成16年11月2日大阪高等裁判所は控訴棄却の判決を言い渡した(同庁平成11年(う)第753号)。 請求人乙は上告したが,平成18年12月11日最高裁判所において上告棄却の決定がされ(同庁平成17年(あ)第457号),さらに,異議の申立てをしたが,同月22日同裁判所において棄却されたことから(同庁平成18年(す)第823号),上記第1審判決が確定した。 (7) 再審請求請求人甲は平成21年7月7日,同乙は同年8月7日,当裁判所に対し,それぞれ上記各確定判決について無罪である旨主張して再審請求した(請求人甲につき平成21年(た)第8号,同乙につき同年(た)第11号。)。当裁判所は,請求人両名の各確定 同年8月7日,当裁判所に対し,それぞれ上記各確定判決について無罪である旨主張して再審請求した(請求人甲につき平成21年(た)第8号,同乙につき同年(た)第11号。)。当裁判所は,請求人両名の各確定審における証拠構造及び当請求審における主張・立証は共通していると判断し,平成23年6月16日請求人甲の再審請求事件に同乙の再審請求事件を併合する旨決定した(以下「本件再審請求」などという。)。 3 確定判決が認定した事実の要旨請求人両名は借金返済やマンション購入のための資金等に窮したことから,本件家屋に火を放ち,火災事故を装ってGを殺害し,先に請求人乙が前記保険相互会社との間で締結していた,Gを被保険者,請求人乙を保険金受取人とする新生存給付金付定期保険契約(災害死亡保険金1500万円)に基づく保険金を詐取しようと企て,共謀の上,7月22日午後4時50分頃,大阪市a区内に所在する当時の請求人両名宅で,請求人乙がGを入浴させた上,請求人甲において,同居宅1階風呂場南側に隣接する本件車庫コンクリート床面に同所に駐車してあった本件車両から抜き取っておいたガソリンを撒き,これに所携のライターで点火して火を放ち,その火を上記車両や付近の柱,天井等に燃え移らせ,よって,G及びSが現に住居に使用する木造瓦葺2階建て家屋(延べ床面積89.6平方メートル)を全焼させて焼損すると共に,その頃,同家屋風呂場において,G(当時11歳)を焼死させて殺害し(確定判決犯罪事実の第1),8月22日,大阪市f区所在の前記保険相互会社g支部において,上記保険契約に関し,保険約款上, - 7 -保険契約者又は保険金受取人の故意によって保険金支払い事由が生じた場合には保険金の支払いを受けられないのに,請求人両名においてGを殺害した事実を秘し,「車の底から出火し,煙が風 , - 7 -保険契約者又は保険金受取人の故意によって保険金支払い事由が生じた場合には保険金の支払いを受けられないのに,請求人両名においてGを殺害した事実を秘し,「車の底から出火し,煙が風呂場にまわり,入浴中のGがその煙を吸って気絶した」旨のGが事故によって死亡したとする事故状況報告書兼事故証明書を作成した上,上記保険相互会社保険外交員Cらに対し,上記証明書をGの災害死亡保険金請求書等と共に提出し,上記Cらを介して,これらを,同月25日,神奈川県内に所在する上記保険相互会社保険金課に到達受領させ,同課課長Dに対し保険金の支払いを請求し,人を欺いて保険金支払い名下に現金1500万円を交付させようとしたが,請求人両名が警察に逮捕されたため,その目的を遂げなかった(確定判決犯罪事実の第2)ものである。 第2 確定判決の証拠構造 1 確定審の判断概要(1) 請求人甲についてア確定1審判決(ア) 本件火災の原因について関係証拠上,放火や失火,風呂釜種火からの引火の可能性は認められず,本件車両が発火原因である旨指摘するM技術士意見を検討しても,本件車両のバッテリー等の電気系統,エンジン,燃料タンク及び燃料系配管,車内積載物からの発火の可能性は認められず,排気系統・エアコンコンプレッサーの過熱による発火の可能性も極めて低いと認められ,請求人甲の自白の信用性を否定するに足りない。 (イ) 請求人甲の自白調書等の任意性について関係証拠によれば,9月10日ないし同月12日に作成された自白調書等については,任意同行の過程で特に強制的な手段はとられておらず,通常人の活動する時間帯であること,請求人甲の誤信に乗じた違法な身柄拘束があったとはいえないこと,取調官が同人の退出を妨げた事実もないことなどから違法な身柄拘束の事実はな 制的な手段はとられておらず,通常人の活動する時間帯であること,請求人甲の誤信に乗じた違法な身柄拘束があったとはいえないこと,取調官が同人の退出を妨げた事実もないことなどから違法な身柄拘束の事実はなく,その余の自白調書等についても,利益誘導ないし脅迫,暴行,いわゆる切り違い尋問の事実は認められず,任意に供述,筆記されたと認められる。 - 8 -(ウ) 請求人甲の自白調書等の信用性について請求人甲の自白は,同人の頭髪に焦げがあったことや,放火に使用したというライターを持っていたこと,当時の帰宅経路に給油ポンプを販売している金物店が実在すること,本件車両に放火するとの着想のきっかけとなったと供述するh自動車道におけるトラック炎上事故について,その供述と相違しない事故が現に発生していたことなど,その内容がほとんど全て争いのない事実や客観的事実と一致しているほか,本件の動機,犯行を思いつくきっかけとなった請求人乙の言葉,同人との謀議の日時やその状況,放火当時の状況等について当初から一貫していること,一連の流れが具体的かつ詳細で自然であることなどから信用性が認められる。他方,本件犯行を否認する請求人甲の公判供述は総じて不自然であり,信用できない。信用性が認められる同人の自白によれば,前記犯罪事実は優に認められる。 イ確定控訴審判決(ア) 請求人甲の自白調書等の任意性について以下のとおり,請求人甲の取調べに違法があったとは認められず,その供述調書及び自供書等はいずれも,同人が任意に供述又は作成したものである。 8月14日付自供書について,捜査官が虚偽の事実を告げて偽計による違法な取調べをしたとは到底認められず,請求人甲はGとの性的関係について自発的かつ任意に供述した。9月10日の取調べと自白調書等について,欺罔による 供書について,捜査官が虚偽の事実を告げて偽計による違法な取調べをしたとは到底認められず,請求人甲はGとの性的関係について自発的かつ任意に供述した。9月10日の取調べと自白調書等について,欺罔による黙秘権侵害や,弁護人依頼権の侵害,虚偽の事実を告げた追及,利益誘導,請求人乙も自白した旨告げ自白に追い込むような取調べ,暴行という弁護人ら主張の事実はいずれも認められず,また,捜査官らが口述するとおりの内容を請求人甲に筆記させて自供書を作成させた事実もない。 同月11日から14日の取調べと自白調書等について,否認していれば死刑になるなどと不安をあおり立てるような取調べや,弁護人との接見に対する違法,不当な干渉,妨害,弁護人依頼権の侵害があったとは認められない。同月15日以降の取調べと自白調書等について,担当の取調べ警察官が全ての取調べ過程を完全に掌握し,請求人甲をしてすがりつかせ,その構想した筋書を徹底させたなどとは認められない。 - 9 -(イ) 請求人甲の自白調書等の信用性について以下の点から,請求人甲の自白調書等は十分信用に値するものと認めることができる。 ① 本件犯行の動機について関係証拠に照らせば,請求人両名は9月までに購入マンションの諸費用170万円の現金を用意する必要があり,また本件火災の直前3か月はいずれも支出が収入を上回る状況にあった事実が認められるのであって,本件犯行の動機に関し請求人甲の自白調書等が客観的事実に反しているとは認められない。 ② h自動車道におけるトラック炎上事故について請求人甲は本件車両に放火するという犯行を着想するきっかけとしてh自動車道におけるトラック炎上事故について供述しているところ,関係証拠によれば,上記事故発生時,道路を走行中の請求人甲が高く上がる黒煙を目撃したことは間違いない るという犯行を着想するきっかけとしてh自動車道におけるトラック炎上事故について供述しているところ,関係証拠によれば,上記事故発生時,道路を走行中の請求人甲が高く上がる黒煙を目撃したことは間違いないと認められ,同人の供述を客観的事実に反する作り話とはいえない。 ③ 請求人乙との共謀状況について請求人乙との謀議の回数や,同人が保険金目的の殺人を切り出した1回目の謀議の際の状況に関する供述の核心部分は一貫しており,供述の変遷は記憶を喚起した結果であってその信用性に疑いを生じさせるものではない。雨の日に本件犯行を決行する理由に関する供述内容は大筋において首尾一貫している上,極めて詳細かつ具体的であって,理由の追加は請求人甲自身が気付いて補充したものとみるのが自然であり,その他捜査官の誘導の事実や,請求人甲の仕事や家族らの生活状況とかけ離れているとも認められない。請求人乙の「生命保険があるやん。」という一言で本件放火殺人,詐欺未遂の共謀を遂げたという点についても,共謀の一連の経過に関する供述は一貫している上,内容は極めて具体的かつ詳細,自然であって,警察官の作文というにはいささか出来過ぎの感があり,他の関係証拠との食い違いはみられず,謀議の内容も極めて詳細で十分信用することができる。請求人両名がG殺害の謀議を,同人が寝ているそばでしたことや,他方で犯行実行の合い言葉,合図を決めたとの供述は格別不自然とはいえない。本件火災当日,請求人甲が自宅に数回電話をしたことについて,GとSだけで留守番をしてい - 10 -るのを案じたからなどとする同人の原審公判供述は信用できないのに対し,本件犯行において請求人乙が果たすべき役割からすると,その在宅を確認した上で本件犯行を実行することを伝えるためであった旨の捜査段階の供述は十分信用することができる。 公判供述は信用できないのに対し,本件犯行において請求人乙が果たすべき役割からすると,その在宅を確認した上で本件犯行を実行することを伝えるためであった旨の捜査段階の供述は十分信用することができる。 ④ 犯行状況についてa 請求人甲の自白は点火後ターボライターを置いた場所について変遷しているが,ターボライター自体については一貫して供述しており供述の核心部分に変遷はなく,点火直後で最高に興奮していたとの変遷理由は不自然でない。ターボライターが本件家屋付近から発見されなくても供述の信用性は左右されない。給油ポンプの価格等について記憶がない理由として,一貫して,大変興奮していたなどと述べており,これが取り立てていうほど不自然なこととは思われない。本件車庫内で給油ポンプを使用してガソリンを抜いた後,同ポンプを本件車両の車体真ん中辺りの下に押し込んだ旨供述しているところ,本件車両の駐車位置のほぼ中央付近に,給油ポンプに形状,長さ等がよく類似している溶融物の残渣が付着していたことなどに照らすと,断定はできないものの,上記残渣は給油ポンプにほぼ間違いはないと認められる。 b ガソリンを撒いた場所についての供述は,本件車両後方という限度では一貫している。撒いたガソリンの広がり方については,本件車両中央付近で右側面(北側)に少しの幅でじわっとはみ出して流れていた旨一貫して供述しているところ,排水口付近は焼けていないと認められることに照らすと,本件車庫の傾斜状況からしてもガソリンが排水口まで達していないことは明らかであるし,燃焼再現実験においては本件車庫の土間やガソリンの撒き方が忠実に再現されているとはいえないから,同実験結果をもって請求人甲が供述するガソリンの広がり方に疑問を呈することはできない。 c 請求人甲が7リットルもの大量のガソリンを撒いて点 やガソリンの撒き方が忠実に再現されているとはいえないから,同実験結果をもって請求人甲が供述するガソリンの広がり方に疑問を呈することはできない。 c 請求人甲が7リットルもの大量のガソリンを撒いて点火すれば,爆発的な燃焼(爆発音,衝撃等の発生を含む。)が起こり,同人が相当のやけどを負うことは不可避であるとして疑問を呈する鑑定人らの意見(甲確定控訴審弁101,116,乙確定控訴審弁90,106,109。請求人甲控訴審において放火方法に関する同人の自白が不合理か否かを鑑定事項とし,燃料化学,石油化学等を専門とするZ大学大学院工学研究科 - 11 -教授X,助教授Yを鑑定人として裁判所が実施した鑑定をいう。以下「Z鑑定」という。)については,ガソリン蒸気の爆発的な燃焼は撒いたガソリンの蒸発時間や可燃混合領域にあるガソリン蒸気の量にもかかっており,請求人甲は撒いたガソリン量の割には少ししか流れてきていないと感じたことや,ガソリンを撒いて直ぐに点火したことを供述している。また,関係証拠によれば爆発的な燃焼があったことを窺うことはできないこと,請求人甲の点火位置(車庫北西位置)から反対側(車庫東南位置)の2階へ筒抜け状態の空気の流通があったことが推認され,これらの事情に照らすと上記疑問は理由がない。 d 請求人甲は本件車両ガソリンタンクから抜いたガソリン量について供述を変遷させているが,その供述自体,ガソリンの入ったポリタンクを手で持って揺すった際の手応えや重さの感覚による不確かなものであるところ,実況見分の立会等による記憶の喚起で供述が修正されたものと認められ,捜査官の誘導などによる不自然,不合理な変遷とはいえない。 e 溶解したポリタンクの上に焼けた電気の線等が付着しているところ,電気コード等の点に関する供述がないとしてもポリタンクを移動 と認められ,捜査官の誘導などによる不自然,不合理な変遷とはいえない。 e 溶解したポリタンクの上に焼けた電気の線等が付着しているところ,電気コード等の点に関する供述がないとしてもポリタンクを移動させるなどした放火行為が実際になかったとまではいえない。 f 燃焼再現実験(甲確定1審検28)では,本件車庫はもとより,ガソリンの量,撒き方,広がり方,その範囲,ガソリンへの点火方法等が請求人甲の供述と異なっており,自白どおりの忠実な再現が不可能である以上,燃焼状況等に関し自白と再現実験結果に差異が生じるのはやむを得ないところ,請求人甲の自白によっても煙が発生していたことは間違いなく,炎の高さやその位置等火災状況に関する自白内容は消火活動にあたった付近住民らの供述等関係証拠に符合している。再現実験による燃焼状況と自白に差異があったとしても,それだけで直ちに自白にかかる火災の状況が現実のものではなく,観念的であるなどとはいえない。 (ウ) 本件車両からの自然発火による可能性について関係証拠によれば,本件車両の燃料系,排気系,電気系,エンジン本体のいずれにおいても出火原因になったような状況があったことは認められないし,本件車両から漏洩 - 12 -したガソリン蒸気に本件車両床下の過熱した部品が火種となるなどして本件車両が発火した可能性は抽象的な可能性に止まる。よって本件車両からの自然発火による可能性は極めて低い。 ウ確定最高裁判決刑訴法328条に関し弁護人らが主張する原判決判例違反の点については,原判決破棄の理由にならず,上告趣意のその余の主張は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,再審事由の主張であって,同法405条の上告理由に当たらない。なお,所論にかんがみ調査しても,同法411条を適用すべ その余の主張は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,再審事由の主張であって,同法405条の上告理由に当たらない。なお,所論にかんがみ調査しても,同法411条を適用すべきものとは認められない。 (2) 請求人乙についてア確定1審判決(ア) 本件の争点本件の争点は,①本件火災が請求人甲の放火によるものか否か,②本件火災に伴うGの死亡が右放火による殺害といえるか否か,③請求人乙が右放火及び殺害について,請求人甲と共謀した事実があるか否かである。請求人甲が本件家屋に放火したとする点について目撃者や決め手となるような物的証拠はなく,請求人乙らの犯行であることを結び付ける直接証拠としては,請求人両名の捜査段階における各自白しかない。関係証拠により明らかに認められ,ほぼ争いのない前提となる事実関係によると,本件火災及びGの死亡に請求人乙らが大きく関わっているのではないかと疑わせる情況証拠ともいえる事実が浮かび上がってくる点が本件の特徴といえる。 (イ) 本件火災の原因についてa 第三者による放火,失火は考え難く,請求人両名についてみると,本件車庫内に単独でいる機会のあった請求人甲の方が放火の可能性は高い。本件火災後の請求人両名の行動は,本件車庫内での出火という場に直面しながら火災の拡大に対する速やかな対応をしているとは認め難いところがあり,ひいては,風呂場にいるGが逃げ遅れ,死に至るという大事になることを回避しようという積極的な姿勢も窺われず,これは本件火 - 13 -災が自然発火を原因とする予期せぬ事故であるというには余りにもそぐわない行動というほかなく,むしろ,本件火災による本件家屋の焼失とこれに伴うGの死亡を十分に考えての行動ではないかと疑う余地さえある。その供述をまつまでも する予期せぬ事故であるというには余りにもそぐわない行動というほかなく,むしろ,本件火災による本件家屋の焼失とこれに伴うGの死亡を十分に考えての行動ではないかと疑う余地さえある。その供述をまつまでもなく,請求人甲が本件火災の原因となる放火をし,請求人乙も何らかの関与をしている疑いが強い。 b 本件火災発生当時風呂釜が種火状態であったことはうかがわれるものの,本件火災後の風呂釜の状態,風呂釜周辺は燃えていなかったとの消防隊員の供述,風呂釜と本件車両の位置関係からいって,風呂釜が原因であるとは到底認められない。また本件車両は2月の車検時から本件火災当日請求人甲が運転使用するまで格別問題があった形跡はなく,同人自身,本件車両に異常があったとの認識は持っていないこと,燃料系,排気系,電気系,エンジン本体のいずれについても出火原因となったといえるような状況は発見されなかったことに照らすと,本件車両からの自然発火の可能性は極めて小さい。 (ウ) 請求人甲の検察官調書の任意性について逮捕前後の取調べの際,警察官から暴行を受けたり,請求人乙が全部自白した,本件車両からガソリンを抜いて火を付けたとしか考えられないとの鑑定が出た,火を付けているのをSに見られているなどと虚偽の事実を告げられたり,本件を認めればGに対する強姦は事件にしないが否認すれば事件にすると利益誘導及び脅迫される状況があったとしても,その問題の程度等からすると,請求人甲の検察官調書の任意性を否定しなければならないような状況があったとは認められない。 (エ) 請求人甲の検察官調書の信用性について以下の点から,請求人甲の検察官調書の信用性は十分認めることができる。 ①請求人甲の供述は,犯行に至る経緯,具体的な犯行状況,犯行後事故による被害者を装うために種々動いた状況等, 性について以下の点から,請求人甲の検察官調書の信用性は十分認めることができる。 ①請求人甲の供述は,犯行に至る経緯,具体的な犯行状況,犯行後事故による被害者を装うために種々動いた状況等,その内容は自分自身の心理的な描写も含め,具体的かつ詳細で迫真性があり,格別不自然なところもみられない。さらに,関係証拠により認められる事実に符合しているほか,前提事実ともおおむね合致し,特に,突然の火災という不運を被ったにしては不自然ともいうべき,請求人両名の本件火災当時の行動についても合理的に説明できるものになっている。厳密な意味での秘密の暴露といえるよう - 14 -なものがあるとは必ずしもいえないにしても,その供述の信用性は極めて高い。 ②共謀の時期や共謀の際の請求人乙の態度や発言内容等に関する供述には,変遷や請求人乙供述との不一致があるが,その多くは単なる表現方法の違いであり,請求人甲供述の基本的部分の信用性を損なうものではない。火災による殺害方法の選択が荒唐無稽で不自然とはいえない。再現実験結果(乙確定1審検168)によると,直ちに炎が立ち上がり,黒煙が多量に発生するとされているが,上記再現実験は請求人甲の供述するガソリンの撒き方とは異なっており忠実な再現とはいい難いのであって,同実験結果をもとに同人の供述の信用性を云々するのは相当でない。 ③本件犯行の動機に結び付く事情には明瞭さに欠けるきらいはあるが,請求人乙らにおいてGの保険金欲しさという動機付けとなるものが全くない,およそ考えられないとはいえず,その限りでは請求人甲供述の全体の信用性を阻害するものとはいえない。 ④請求人乙との共謀に関する請求人甲供述は,具体的かつ詳細で不自然な点はなく信用性が高い上,本件火災時の請求人乙の行動等からして同人が本件火災発生及びGの死 の信用性を阻害するものとはいえない。 ④請求人乙との共謀に関する請求人甲供述は,具体的かつ詳細で不自然な点はなく信用性が高い上,本件火災時の請求人乙の行動等からして同人が本件火災発生及びGの死亡について何らかの関与をしている疑いが強いこと,請求人甲は保険金の受取人ではないこと,請求人乙の関与なくして本件犯行は遂行できないことなどに照らすと,同人が本件犯行に共謀という形で関与していないなどとは到底考え難い。 (オ) 請求人乙の供述について実の娘を保険金目的で殺害するとの重大犯罪につき虚偽の自白を誘引するだけの問題があったとは考え難く,請求人乙の自供書等について任意性を否定しなければならないものはなく,その取調べに証拠排除すべきほどの重大な違法があるとまでは認められない。そして同人の供述内容は,信用性が極めて高い請求人甲の検察官調書の内容と大筋でほぼ合致しており十分信用性がある。 イ確定控訴審判決(ア) 理由の食い違いの主張について火災状況に関する原判決の説示が時間的,場所的に同一の場面について互いに矛盾した事実認定をした違法があるなどとはいえない。 - 15 -(イ) 請求人甲の検察官調書の任意性について以下の事情からすると,原審が請求人甲の検察官調書の任意性を認めて証拠能力を肯定し,証拠として採用して取り調べたのは正当である。 9月10日の取調べ状況等について,任意同行の態様やその後の取調べ状況が実質的に逮捕ないし身柄拘束下の取調べに等しいものであったなどとはいえないし,その他欺罔による黙秘権侵害や弁護人依頼権の侵害,暴行,警察官の口授による供述書作成,虚偽の事実の告知,利益誘導ないし脅迫の事実は認められない。同月11日以降の取調べにおいて,警察官による脅しや利益誘導,弁護人依頼権の侵害はなかった。請求 の侵害,暴行,警察官の口授による供述書作成,虚偽の事実の告知,利益誘導ないし脅迫の事実は認められない。同月11日以降の取調べにおいて,警察官による脅しや利益誘導,弁護人依頼権の侵害はなかった。請求人甲は9月10日から同月14日までの5日間に3度にわたって自白と否認で大きく揺れ動いていたところ,真犯人であればその供述が全て真実で変遷も存しないはずであるとか,その逆に供述の変遷が存したり,一部に虚偽が存したりする以上,真犯人ではあり得ないとか,取調官による誘導ないし強要によって獲得されたもので検察官調書が証拠能力を欠くなどと断定することはできない。上記供述経過をたどった請求人甲に対し,捜査官側が万全の態勢で詳細な供述調書を作成し,その後の供述の変遷に備えようとしたことを,不当であるとか請求人甲に対する心理的支配関係の継続を図るものであるなどと非難することもできない。 (ウ) 請求人乙の自供書及び警察官調書の任意性について以下のとおり,原審が証拠能力を肯定し,これらを証拠として採用して取り調べたのは正当である。 9月10日の取調べ状況について,取調官による暴行,脅迫など虚偽の自白を余儀なくさせられるほどの違法不当な取調べがあったとはいえず,任意同行や取調べ過程に違法とするような事情はなかった。同月14日作成の自供書3通について,その記載は格別不自然なところがなく合理的説明であること,同日に特に厳しい取調べがあったという具体的供述はないこと,請求人乙が特別に体調が悪いという訴えをしたふしが窺えないことなどにかんがみると,自供書の証拠能力に影響を及ぼすような違法,不当な取調べはなかったと認められる。 - 16 -(エ) 事実誤認の主張について原判決が本件各公訴事実につき請求人甲との共謀を認めて請求人乙を有罪としたこと 響を及ぼすような違法,不当な取調べはなかったと認められる。 - 16 -(エ) 事実誤認の主張について原判決が本件各公訴事実につき請求人甲との共謀を認めて請求人乙を有罪としたことやその判断過程等について示したところは以下のとおり正当であって,請求人両名の本件火災当時の行動には,自然発火を原因とする予期せぬ事故であるというには余りにも不自然なものがあるといわざるを得ない。 ① 本件火災発生前後の請求人甲の行動について請求人甲が,火災に気付くや大声で火事だと叫んで近隣に急を知らせたり,近所のA方で消火器を借りて消火活動をしたとの事実は認められず,結果的には実効のある行動は一つもないこと,Gの所在について救助隊員に対しあいまいな説明しかしていないことなどに照らすと,本件火災時の請求人甲の行動には突然の火災発生でパニックに陥ったというだけでは説明のつかない不自然なところがあることは否定できない。 ② 本件火災発生前後の請求人乙の行動について請求人乙が水を掛けた際に火が広がったり,119番通報の際に大きな音がしたりしたことは否定し難いにせよ,関係証拠によれば,同人がGを助けに行かなかったのはやむを得ない判断であったなどとはいえない。請求人乙が路地に出た後Sと一緒にしゃがんでじっとしており,請求人甲との間で大丈夫などと会話を交わしていること,表路上に出た後もだれに言うともなく「中に子供がいる」などと口にするにとどまっていたことは,実の娘を燃えさかる家の風呂場に残してきた母親の言動として,多分に不自然さや物足りなさを感じさせる。当時の動揺による記憶のあいまいさ,Gを失った悲しみと自責の念といった事情があったとしても,請求人乙が,一貫性がなく,しかも明らかに事実に反する説明を知人らにしていることを十分合理化すること させる。当時の動揺による記憶のあいまいさ,Gを失った悲しみと自責の念といった事情があったとしても,請求人乙が,一貫性がなく,しかも明らかに事実に反する説明を知人らにしていることを十分合理化することはできず,このような説明内容の不自然さは,請求人乙の本件火災時の行動の不自然さをより強く窺わせる。 ③ 原判決認定の放火行為と再現実験結果,Z鑑定(乙確定控訴審弁90,106,109)との矛盾について所論は,大量のガソリンを床に撒いて点火すれば,請求人甲の自白のように床上2センチメートルまで点火したライターを近付けるまでもなく,それ以前に制御不能な爆発 - 17 -的燃焼が起こり,同人は大やけどを負うと共に多量の黒煙が発生することになるはずだが,そのような事実はないから,請求人甲の自白は客観的な火災状況と矛盾する旨主張する。しかし,請求人甲は目をそむけ手を伸ばした状態で点火した旨供述しており,上記2センチメートルという点はもともと正確ではない。また,新旧の燃焼再現実験(乙確定1審検168,同控訴審検54)いずれも,ガソリンの撒き方や本件車庫床面傾斜が正確に再現されていないから,自白による方法で火を放った場合にどの位置に大きな炎が立ち上がるかという点については何ら決め手にならない。新燃焼再現実験によれば,大量の黒煙が発生したといっても時間の経過に応じてその量や程度が相当に異なる可能性が高いことが明らかであり,そもそも本件火災時,近隣住民に黒煙を目撃した者がいないなどとたやすく断定することはできない。また,関係証拠を踏まえて検討すると上記Z鑑定の指摘はたやすく採用できず,請求人甲が当然に大やけどを負うとか,大量の黒煙が継続的に発生するはずとまではいえない。 ④ 自然発火の可能性についてガソリン蒸気漏出という機序に基づく小規 鑑定の指摘はたやすく採用できず,請求人甲が当然に大やけどを負うとか,大量の黒煙が継続的に発生するはずとまではいえない。 ④ 自然発火の可能性についてガソリン蒸気漏出という機序に基づく小規模かつ継続的な燃焼であれば,請求人両名も直ちに消火活動に従事するとか,風呂場にいたGにも声を掛けるなどして消火活動に協力させるといった対応に出られたと考えられるのであって,請求人両名のその後の実際の行動はこの燃焼状況とは到底そぐわない。また関係証拠上,自然発火の可能性は抽象的なものにすぎず,現実的な蓋然性を認める余地はまずない。 ⑤ 犯行動機について請求人乙の自供書や供述書によると,いざ犯行を思い立つに際して,SではなくGを殺害の対象としたことが不可思議とまではいえないし,マンションを新規購入し,あるいはまとまった金を得たいがためにGの死亡保険金を目的に本件犯行に及ぶということがおよそ考えられないなどとは到底いえない上,請求人両名がそのような重大な内容の虚偽の自白をたやすくしたものとも到底考え難い。 ウ確定最高裁決定弁護人らの上告趣意は,刑訴法405条の上告理由に当たらず,所論にかんがみ調査 - 18 -しても,同法411条を適用すべきものとは認められない。 2 検討の視点確定審の前記判断概要及び証拠関係によれば,請求人両名の確定審いずれにおいても,本件犯行と同人らを結び付ける直接証拠は,その各供述以外ないことが前提となっており,その上で,捜査段階の一定時期から起訴後に至るまでの間,Gを殺して保険金を得るため本件家屋に火を付けた旨一貫して供述し,多数の供述調書及び供述書が作成され証拠請求された請求人甲の自白の信用性が中心に検討され,それを認めて前記各有罪判決に至ったといえる。そうすると,本件再審請求においては,新証 付けた旨一貫して供述し,多数の供述調書及び供述書が作成され証拠請求された請求人甲の自白の信用性が中心に検討され,それを認めて前記各有罪判決に至ったといえる。そうすると,本件再審請求においては,新証拠によって請求人両名の自白,特に請求人甲の自白の信用性が揺らぐことになれば,確定判決の有罪認定もまた動揺せざるを得ない証拠構造にある。 なお,本件では,確定審が認定した犯罪行為のうち,殺人,現住建造物等放火の事実が請求人両名の犯行でなければ,それに続くGの死亡保険金請求行為は正当な権利行使であって詐欺未遂罪が成立しない関係にあることは明らかであるから,これを前提に以下論述する。 第3 当請求審における審理 1 再審請求の理由請求人甲の再審請求理由は,弁護人ら作成の平成21年7月7日付再審請求書,平成22年3月1日付反論書及び平成23年10月31日付意見書,請求人甲作成の同年11月13日付意見書各記載のとおりであり,請求人乙の再審請求理由は,弁護人ら作成の平成21年8月7日付再審請求書(再審趣意書),平成22年3月23日付反論書,同年7月15日付「再審請求補充書-最高裁判決を踏まえて-」及び平成23年10月31日付再審請求書(最終意見書),請求人乙作成の同年11月13日付意見書各記載のとおりであり,請求人両名の弁護人らは別紙(略)記載の証拠を提出した。請求人両名について弁護人らが主張する再審請求理由は共通しており,その内容は多岐にわたるが,骨子は以下のとおりであると解される。すなわち,①当請求審段階で実施された燃焼再現実験の結果及びその理論的検討等に関する新証拠に照らして吟味検討すると,請 - 19 -求人甲の自白は多数の事項について科学的見地から不合理な内容である上,②その他の実験,考察等に基づく新証拠によっても,請求人甲の自白 討等に関する新証拠に照らして吟味検討すると,請 - 19 -求人甲の自白は多数の事項について科学的見地から不合理な内容である上,②その他の実験,考察等に基づく新証拠によっても,請求人甲の自白は極めて不自然・不合理であって,いずれによっても信用できないことが明らかとなった,③提出した新証拠を踏まえると,確定審が自然発火の可能性を否定した論拠,根拠は崩壊し,自然発火の蓋然性が高いことが明らかとなった,以上によれば,新証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されたとすれば有罪の事実認定に到達し得なかったことは疑いを容れないから,刑訴法435条6号にいう無罪を言い渡すべき「明らかな証拠をあらたに発見したとき」に当たるため,再審開始の決定を求めるというものである。 2 検察官の意見請求人甲の再審請求に対する検察官の意見は,検察官作成の平成21年11月25日付再審請求に対する意見書,平成23年11月4日付及び同月25日付各意見書記載のとおりであり,請求人乙の再審請求に対する検察官の意見は,検察官作成の平成21年12月3日付再審請求に対する意見書,平成23年11月4日付及び同月25日付各意見書記載のとおりである。検察官の意見は,請求人両名の再審請求について共通しており,要するに,①当請求審段階で実施された燃焼再現実験は本件火災当時の状況を忠実に再現したとは認め難く,結果に重大な影響を与える条件の設定方法についても明らかでないから,上記実験の経過・結果を前提とする新証拠については,請求人甲の自白の信用性について合理的な疑いを抱かせ,その認定を覆すに足りるものとは認められない,②その他の提出証拠も明白性の要件を欠く上,確定審の控訴審終了時までに提出された証拠と実質的に同じものが含まれており,いずれも新規性又は明白性の要件を欠く,③提出証 すに足りるものとは認められない,②その他の提出証拠も明白性の要件を欠く上,確定審の控訴審終了時までに提出された証拠と実質的に同じものが含まれており,いずれも新規性又は明白性の要件を欠く,③提出証拠を踏まえて検討しても自然発火の可能性は低く,請求人両名の自白の信用性は減殺されないから確定審の有罪判断は揺らがない,したがって本件再審請求は棄却されるべきであるというものである。 第4 当裁判所の判断 1 刑訴法435条6号における証拠の新規性,明白性(1) 証拠の新規性の意義 - 20 -刑訴法435条6号が定める証拠の新規性とは,確定審裁判所によって実質的な証拠価値の判断を経ていないことを意味すると解するのが相当であり,確定審後に作成された書証はもとより,確定審における未提出記録,不同意書証についても新規性があるものと認めるのが相当である。 (2) 証拠の明白性の意義刑訴法435条6号にいう無罪を言い渡すべき「明らかな証拠」とは,確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせ,その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいうものと解すべきであるが,この明らかな証拠であるかどうかは,もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば,果たしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から,当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべきであり,この判断に際しても,再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において,「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が適用され(最決昭和50年5月20日第一小法廷・刑集29巻5号177頁参照),この原則を具体的に適用するにあたっては,確定判決が認定した犯罪事実の不存 しいときは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が適用され(最決昭和50年5月20日第一小法廷・刑集29巻5号177頁参照),この原則を具体的に適用するにあたっては,確定判決が認定した犯罪事実の不存在が確実であるとの心証を得ることを必要とするものではなく,確定判決における事実認定の正当性についての疑いが合理的な理由に基づくものであることを必要とし,かつ,これをもって足りると解すべきであるから,犯罪の証明が十分でないことが明らかになった場合にも上記の原則があてはまる(最決昭和51年10月12日第一小法廷・刑集30巻9号1673頁参照)と解される。当請求審においても,これに従って証拠の明白性について判断を行うべきものと考える。 2 y町新実験関連の証拠について当請求審における請求人両名の主張・立証の中心は,本件火災当時の本件車庫内の状況を可能な限り忠実に再現し,請求人甲の自白に基づく方法による放火を試みた燃焼再現実験(以下,y町新実験などという。)にあると解される。同実験は,放火行為という請求人甲の自白の核心部分の信用性に関するものであって,再審請求理由の有無を検 - 21 -討する上で重要な意義を有するといえる。よって,まず,放火方法に関する確定判決の判断について見た上でy町新実験関連の証拠の新規性・明白性の要件該当性を検討する。 (1) 放火方法等に関する確定判決の認定ア本件車庫内の状況等本件家屋1階の西側市道に面した場所に本件車庫があり,同車庫の市道に面した部分にアルミサッシ戸が3枚入っており,玄関として使用されていた。本件車庫の東側には6畳間があり,その間は引き違いの2枚のガラス戸(以下「ガラス戸」という。)で仕切られていた。本件車庫北側壁には風呂釜が設置されており,本件火災当時,風呂釜種火は付いた状態 いた。本件車庫の東側には6畳間があり,その間は引き違いの2枚のガラス戸(以下「ガラス戸」という。)で仕切られていた。本件車庫北側壁には風呂釜が設置されており,本件火災当時,風呂釜種火は付いた状態であった。また本件車両は本件車庫内に,西側市道に車体前面を向けて駐車されていた。 イ放火方法及び請求人甲の供述請求人両名の確定判決はいずれも,請求人甲は,本件車庫に駐車してあった本件車両から抜き取ってあったガソリンを本件車庫のコンクリート床面に流して撒き,これに所携のライターで点火して火を放った旨認定しているところ,この認定の直接証拠は,放火行為に及んだことを認める内容の請求人甲の供述調書及び自供書である。そして,放火行為に関する請求人甲供述には変遷も認められるものの,最終的な供述内容は大要,以下のとおりである(甲確定1審検188,189,195,乙確定1審検123,129)。 「本件車両のガソリンを満タンにして帰宅した際,乙,G及びSは不在だった。本件車庫内にバックで本件車両を駐車し,アルミサッシ戸を閉めた。排気ガスの臭いでガソリンの臭いをごまかすため,車のエンジンはかけっぱなしにしていた。帰宅途中に買った給油ポンプを使って本件車両ガソリンタンクからガソリン約7.3リットル(甲確定1審検195(起訴当日である平成7年9月30日付検察官調書),検89(平成7年9月27日付実況見分調書))をポリタンクに移し入れ,その後,火事になれば燃えてなくなってしまうと考え,給油ポンプを本件車両下に押し入れた。その際,同車両の下にバトミントンラケット1本が落ちているのが見えた。ガソリンを入れたポリタンクは, - 22 -元あった本件車庫の東南角に戻した。その後本件車両運転席で待っていると,一,二分後乙らが帰宅し,ガラス戸を開けて6畳間に入っ が落ちているのが見えた。ガソリンを入れたポリタンクは, - 22 -元あった本件車庫の東南角に戻した。その後本件車両運転席で待っていると,一,二分後乙らが帰宅し,ガラス戸を開けて6畳間に入っていった。本件車両のエンジンを切り,ガラス戸を開けて6畳間に入った。乙から風呂に入るように言われ,Gは風呂場に向かった。脱衣場に行き,Gが風呂場でシャワーを使っているのを確認し,ターボライターを持ってパンツ1枚の姿でガラス戸を開け本件車庫に降りた。ガソリン入りのポリタンクを持ち,本件車両左後方から,ガソリン全部を同車両の下に流し撒き,ポリタンクは元の場所に戻した。本件車両右側(運転席側)に回り込むと,ちょうど前輪と後輪の間にガソリンがはみ出して流れていたので顔を背けながらガソリンの端に上記ライターで火を付けた。ガソリンにライターの火が引火して頭部の毛髪右側部分が熱く感じた。火を付けた直後はガソリン付近に大きく炎が上がった。ガラス戸を開けて6畳間に入り,Sに,『何やあれ』と言って,初めて火事に気付いた振りをした。本件車庫に降りるため再度ガラス戸を開けると,本件車両右下の炎は高さ40センチメートルくらいだったが,同車両左後方は天井まで大きく燃え上がっていた。本件車庫に降り,同車両右側の炎を飛び越えて通り抜け,アルミサッシ戸を開けて本件車庫の表側道路に出た。」ウ確定審における燃焼再現実験関連の証拠内容請求人甲の前記自白内容を検証するため,確定審段階においても燃焼再現実験が行われた。 まず,捜査段階で科学捜査研究所技術吏員により行われ,請求人両名の確定1審においてその経過・結果に関する鑑定書が取り調べられた実験は,本件家屋の間取りに基づき模擬室を設けた上で,模擬車庫の右後方床面上にガソリン4リットルを撒いて車両を止め,車両右側面中央部付近 確定1審においてその経過・結果に関する鑑定書が取り調べられた実験は,本件家屋の間取りに基づき模擬室を設けた上で,模擬車庫の右後方床面上にガソリン4リットルを撒いて車両を止め,車両右側面中央部付近にガソリン2リットルを撒き,その付近のガソリンに火のついた紙で点火するというものである。点火後直ちに炎が上がって激しく燃焼し,黒煙は模擬室屋根の高さを超えるなど大量に発生するという結果が認められた(甲確定1審検28,乙確定1審検168)。 次に,確定控訴審係属中,科学捜査研究所技術吏員により行われ,その経過・結果に関する鑑定書が取り調べられた実験は,上記実験同様模擬家屋を設け,模擬車庫内に車 - 23 -両を置いた上で,車庫右後方床面上にガソリン5リットルを,続いて車両右側面中央部付近床面上にガソリン2リットルを撒き,棒の先に取り付けた布片に火を付けガソリンに点火するというもので,点火場所や車庫前後の戸の開閉状態,ガソリン撒布時間の長さ等の条件を変え,2度の実験が行われた。いずれの実験においても点火後直ちに炎が上がり,黒煙が発生し,特にガラス戸を開けた時点から炎が模擬家屋1階部分の高さを超えるなど激しく燃焼した(甲確定控訴審検5,乙確定控訴審検54)。 (2) y町新実験関連の証拠の新規性,明白性についてア提出証拠y町新実験に関連する提出証拠は,陳述書(新証拠38),DVD(同43,45),鑑定書(同44),ガス風呂釜バーナー一式(同49),逆風止め(バフラー)(同50),写真撮影報告書(同51,52),連続静止画像プリント報告書(同57)及び意見書(同70)であり,当請求審において,実験実施者Iの証人尋問を行った。そして,前記第4の1(1)の証拠の新規性の意義に照らして検討すると,いずれの証拠についても新規性を認めること 同57)及び意見書(同70)であり,当請求審において,実験実施者Iの証人尋問を行った。そして,前記第4の1(1)の証拠の新規性の意義に照らして検討すると,いずれの証拠についても新規性を認めることができ,この点は検察官も争っていない。 イ y町新実験の実験概要,実験結果(ア) 実験概要y町新実験は,平成23年5月20日,i県j郡y町内の第一園芸跡地において,I外1名によって実施された。本件車庫等の主な再現状況についてみると,確定審証拠に基づき,本件車庫の広さを再現し,排水口,ガラス戸及び同ガラス戸下の通気口などを設けた実験小屋2棟(A棟,B棟)が建設され,風呂釜は本件火災当時と同等のものが使用され,煙突はバフラー部分及び高さを含め当時の状況が再現された。また,本件車両と同種車両を実験小屋内に設置し,実験小屋外から遠隔操作によって撒布可能なガソリン撒布機を製作して小屋内に設置した。 実験手順は以下のとおりである。①前記請求人甲の自白に基づき,給油ポンプ及びバトミントンラケットを車両下床面に置く,②風呂釜主バーナーに点火して約30分間燃焼させ,小屋外に設置した風呂桶内の湯温を40度に設定する,③風呂釜を種火状態に - 24 -戻して約2時間保ち,その後種火状態を確認する,④25度に設定したガソリン約7. 3リットル入りポリタンクをガソリン撒布機にセットし,A棟では約36秒,B棟では約60秒で撒ききる速度で実験小屋床面にガソリンを撒布する,⑤風呂釜種火への引火と火災発生の確認後,A棟では約30秒,B棟では約180秒経過後消火活動を開始する。 本件火災当時風呂釜が種火状態であった点を再現したのはy町新実験が初めてであり,これは確定審の証拠となった2回の前記燃焼再現実験との大きな相違点といえる。 (イ) 実験結果 始する。 本件火災当時風呂釜が種火状態であった点を再現したのはy町新実験が初めてであり,これは確定審の証拠となった2回の前記燃焼再現実験との大きな相違点といえる。 (イ) 実験結果①A棟小屋A棟実験では,ガソリン撒布開始後約20.8秒で風呂釜種火に引火した。引火時,ガソリン液体は風呂釜まで到達しておらず車両右側前輪と後輪の間付近にはみ出した状態で,引火した火炎とガソリン液体の最短距離は約64センチメートルだった。種火に引火した約1.6秒後,火炎はガソリン撒布継続中のポリタンク口に達し,約2秒後には実験小屋内全体に行きわたり,炎が車両を包むように上がった。他方,黒煙も発生し,実験小屋内が見えない状態になった。床面に置いた給油ポンプはその赤い手押し部分,ホース部分が明確に判別できる程度に残存し,バトミントンラケットも残存していた。 ②B棟小屋B棟実験では,ガソリン撒布開始後約20.1秒で風呂釜種火に引火した。引火時,ガソリン液体は車両右側後輪付近にはみ出した状態で,引火した火炎との距離は約1. 9メートルだった。種火に引火した約3.2秒後,火炎はA棟同様ポリタンク口に達し,約4秒後には実験小屋内全体に行きわたった。ガソリン撒布開始後約48.6秒でガラス戸のガラス部分が破損し,その直後通気口から火炎が吹き出すなど激しく燃焼した。 A棟同様,黒煙が発生したほか,床面に置いた給油ポンプはその赤い手押し部分,ホース部分が明確に判別できる程度に残存し,バトミントンラケットも残存していた。 ウ y町新実験関連証拠の証拠価値についてy町新実験は,当請求審における裁判所,検察官及び弁護人による打合せの場におい - 25 -て弁護人から提案されたもので,当時の風呂釜等が準備されるなど可能な限り本件火災当時の条件を再現して実施に至 実験は,当請求審における裁判所,検察官及び弁護人による打合せの場におい - 25 -て弁護人から提案されたもので,当時の風呂釜等が準備されるなど可能な限り本件火災当時の条件を再現して実施に至ったものである。実験実施の局面においても,恣意的な面があったことを窺わせる証拠は存在しない。また,Iは,実験の経過・結果に関し理論的根拠に基づく合理的な説明をしており,実験の中心的実施者としての資質,専門性等に特に問題は見当たらない。 さらに,y町新実験の結果は確定審段階の前記燃焼再現実験及び鑑定の結果と符合している。まず,点火後,瞬間的に炎が立ち上がり,その高さは数秒の間に車両を超える程度に至ったこと,黒煙が大量に発生したこと,実験後,赤い手押し部分,ホース部分が明確に判別できる程度に給油ポンプが残存していたこと(甲確定1審検28,乙確定1審検168のいずれも写真第97図)などの点については,前記確定審段階の燃焼再現実験の結果と符合している。また,Z鑑定は,7リットルのガソリンを撒いて点火すれば,瞬時に爆発的に燃焼し,本件車庫内は酸素不足の不完全燃焼条件下にあるため燃焼が始まれば必ず黒煙が発生すると考えられるなどと指摘するところ,これらの点はy町新実験の結果と符合する上,7リットルのガソリンを撒いて燃やしながら点火者がほとんどやけどを負わない可能性は極めて低い旨の意見は,y町新実験に基づく後述のIの考察と合致している(甲確定控訴審弁101,116,乙確定控訴審弁90,106,109)。 このように,y町新実験は,その実施過程,実施者の資質等において問題は見当たらない上,実験結果は別の機会に行われた複数の燃焼再現実験及び専門家による鑑定意見と符合する内容となっており,信用性は高く,高い証拠価値を認めることができる。 エ Iによる考察 問題は見当たらない上,実験結果は別の機会に行われた複数の燃焼再現実験及び専門家による鑑定意見と符合する内容となっており,信用性は高く,高い証拠価値を認めることができる。 エ Iによる考察Iは,y町新実験を踏まえての考察として以下の点を指摘し,請求人甲の自白による放火行為を行うことは科学的見地から不可能であると結論付けている(新証拠44,I供述)。 (ア) ガソリンの広がり方について,本件車庫床面に傾斜があるため,水と比較して表面張力,粘度が低いガソリンは傾斜の低い排水口に向かって流れ車両前輪と後輪の - 26 -間にはみ出て広がるが,請求人甲の自白にあるように「丸く広がる」ことはない。 (イ) ガソリン蒸気は,ガソリン液体より軽く,また,濃度の濃い部分から薄い部分に拡がる性質があるため,拡散速度がガソリン液体より速い上,これと風呂釜の煙突効果(煙突内部の空気の温度が周囲より高い場合,空間上部では煙突内部の空気が外部に吸い出され,下方では外部の空気を吸い込む現象)とが相俟って,ガソリン蒸気はガソリン液体より速く移動し,ガソリン液体の風呂釜到達前にガソリン蒸気が風呂釜種火に引火する。請求人甲がゆっくりと60秒程度かけてガソリンを撒いたとしても,ガソリン約2.5リットルを撒いた時点で風呂釜種火に引火することになるため,ライターで火を付けることは不可能である。 (ウ) 風呂釜種火に引火後,炎が小屋全体に及んでいわゆる「火の海」状態になるまでの時間は,A棟で約2秒,B棟で約4秒と極めて短い。請求人甲の自白どおり,やけどもせずにライターでガソリンに着火し,奥の6畳間に戻り,その後本件車庫内の炎を飛び越えて外に出ることは不可能である。 (エ) 燃焼時間を長くとったB棟実験で,風呂釜種火に引火後約30秒でガラス戸が破損し, イターでガソリンに着火し,奥の6畳間に戻り,その後本件車庫内の炎を飛び越えて外に出ることは不可能である。 (エ) 燃焼時間を長くとったB棟実験で,風呂釜種火に引火後約30秒でガラス戸が破損し,外部から空気が入ったことで酸素が供給され,火災は激しくなった。請求人甲の自白によれば,ライターで着火後,本件車庫からガラス戸を開けて6畳間に戻り,更に一旦閉めたガラス戸を開けて本件車庫に降りて外に出たというが,ガラス戸を開けたことによる火災の激化については一切述べられていない。 (オ) 本件火災後,本件車庫内から給油ポンプは発見されていないが,y町新実験では床面に置いた給油ポンプは残存していた。これは,炎は固体のごく近くでは存在できないため,床に置いた場合にはなかなか燃えきらないためである。 なお,Iは本件車庫内から給油ポンプは発見されていないと述べるところ,請求人甲の確定控訴審は,本件車庫床面に給油ポンプに形状,長さ等がよく類似している溶融物の残渣が付着しており,その付着箇所は請求人甲が給油ポンプを押し込んだと供述している位置に符合していることから,上記残渣は,請求人甲が使用した給油ポンプの溶融残渣と断定はできないものの,ほぼ間違いはないと認められるとしている(前記第2の - 27 -1(1)イ(イ)④)。上記溶融物の残渣が給油ポンプのそれと認められるかどうかはともかく,少なくとも本件実験後の給油ポンプの残存状況とは明らかに異なるということは指摘できる。 オ y町新実験関連証拠により浮かび上がる請求人甲の自白に対する疑問点(ア) 上記考察は,実験結果に忠実に,理論的分析,検討がなされた結果導き出されたものである。y町新実験は,確定審段階の前記燃焼再現実験と比較し本件火災時の状況をより忠実に再現したものであり,その証拠価値も高いと認 は,実験結果に忠実に,理論的分析,検討がなされた結果導き出されたものである。y町新実験は,確定審段階の前記燃焼再現実験と比較し本件火災時の状況をより忠実に再現したものであり,その証拠価値も高いと認められるところ,そのようなy町新実験の結果及びIの考察を踏まえて検討すると,放火方法に関する請求人甲の自白に対しては,以下のような疑問が生じる。 (イ) 着火行為についてy町新実験では,風呂釜が種火状態の実験小屋内でガソリンを撒くと,約7リットルのガソリン全量を撒き終わらない段階でガソリン蒸気が種火に引火する結果が生じた。 この実験結果に照らすと,請求人甲の自白どおりガソリンを撒けば,ガソリン蒸気が風呂釜種火に引火して燃焼が開始し,同人がライターで点火する余地はないのではないかとの疑問が生じる(上記エ(イ))。ガソリン蒸気の風呂釜種火への引火可能性については,y町新実験以外の実験結果によっても裏付けられている(新証拠1,10,25)。 確定審においては風呂釜種火を再現した燃焼再現実験は行われなかったため,上記結果はy町新実験において初めて認められたところ,そもそもの点火行為に関するものとして特筆すべき事情と思われる。 (ウ) やけどについてy町新実験では,点火後直ちに炎が上がり,激しく燃焼した。請求人甲がパンツ1枚の状態でライターで床面に流したガソリンに点火し,6畳間に出入りして本件車庫の炎を飛び越え市道に出るという行動に出ながら,頭髪を焦がす程度にとどまることがあり得るのか,自白が真実であれば,その過程で何らかのやけどを負う方がむしろ自然なのではないかとの疑問が生じる(上記エ(ウ))。実験小屋内の再現状況からすると,本件車両が止められた本件車庫内は物理的に相当手狭な空間であったことが窺われること, - 28 -点火後ガラス戸を開け はないかとの疑問が生じる(上記エ(ウ))。実験小屋内の再現状況からすると,本件車両が止められた本件車庫内は物理的に相当手狭な空間であったことが窺われること, - 28 -点火後ガラス戸を開けると,新たに酸素が供給されるため燃焼は激しくなると思われることも,上記疑問を強める事情である。また,この疑問は,y町新実験の結果と異なり,何らかの機序でガソリン蒸気が風呂釜種火に引火せず,自白どおり請求人甲がライターで点火行為を行ったと考える場合にも同様に当てはまる。 (エ) y町新実験の結果と本件火災時の状況との齟齬について① y町新実験においては,引火後直ちに火炎が上がり,火炎は車両を超えて高く上るなどして激しい燃焼が始まると共に,黒煙が実験小屋内に充満した。これに対し,本件火災の燃焼状況に関する請求人甲の自白によれば,本件車両の右下(運転席側)付近は炎が高さ40センチメートルくらいに上っていたが,同車の左後方付近は天井の方まで大きく燃え上がっていた(甲確定1審検189,乙確定1審検129など),請求人甲は,その本件車両右側の炎を飛び越えて外に出たとされている一方,黒煙については触れられていない。このように請求人甲の自白による燃焼状況とy町新実験で見られたそれとの間には明白な差異がある。また,本件火災初期段階で消火活動に当たった近隣住民のAは,本件車両運転席側前輪と後輪の間付近の車の下で,高さ30センチメートル,幅50センチメートルくらいの炎が出ており,煙はほとんど出ていない旨(甲確定1審検61,同審における証言,乙確定1審における証言),同Kは,本件車両運転席側前輪と後輪の間付近の車体底部分かその下の床が燃えているような感じで,炎が30ないし40センチメートルくらいの高さに上がっていた旨(甲確定1審検63,乙確定1審における証言)それ ,本件車両運転席側前輪と後輪の間付近の車体底部分かその下の床が燃えているような感じで,炎が30ないし40センチメートルくらいの高さに上がっていた旨(甲確定1審検63,乙確定1審における証言)それぞれ供述しているところ,y町新実験の結果は,上記各供述から認められる本件火災の初期段階の状況とも矛盾している(I供述によると,これら目撃者が述べる30センチメートル,幅50センチメートルの炎の高さとなるのは,ガソリンであるとすると数十ミリリットルかせいぜい多くて100ミリリットルの量が燃えた火炎の状態であると認められる。)。上記AやKら本件火災初期段階を目撃した近隣住民は,いずれも,消火できないとか,本件車庫内に入れない状況ではないと思った旨供述しており,実際にも消火器を用い,ホースで水を撒くなどして消火活動に及んだ事実が認められる。これらの行動は瞬時に火炎が実験小屋を包みいわゆる「火の海状態」 - 29 -になったy町新実験で見られた燃焼状況とはそぐわない。 ② さらに,y町新実験で見られた燃焼状況は,その初期段階のみならず,その後の段階においても,本件火災時の客観的状況とはそぐわない。請求人甲の自白によれば,同人はライターで点火後,6畳間に戻り,Sに対し初めて火事に気付いたように装ったというが,y町新実験で見られた引火後の激しい燃焼状況に照らすと,請求人甲にそのような余裕があったとは思われないし,請求人乙が火災に気付かない振りをしたとか,Sが火災に気付かなかったというのも不自然というほかない。 カまとめ以上のとおり,y町新実験の結果に照らして検討すると,放火方法に関する請求人甲の自白には科学的見地からして不自然不合理なところがあり,実験時の燃焼状況は請求人甲の自白と矛盾し,本件火災の客観的状況ともそぐわない。 3 検察官の主 らして検討すると,放火方法に関する請求人甲の自白には科学的見地からして不自然不合理なところがあり,実験時の燃焼状況は請求人甲の自白と矛盾し,本件火災の客観的状況ともそぐわない。 3 検察官の主張について検察官は,以下のとおり諸々の指摘をしてy町新実験は本件火災当時の本件車庫内の状況を忠実に再現して行われたとは認められないため,実験の経過・結果を前提とする前記新証拠は請求人甲の自白の信用性について合理的な疑いを抱かせ,確定判決の認定を覆すに足りる証拠とは認められず,明白性の要件を欠く旨主張する。 もとより本件火災当時の状況を完全に再現することは不可能であるが,それを前提として,これまで見てきたy町新実験の結果と,請求人甲の自白ないし本件火災の客観的状況との矛盾点等が,検察官が指摘する条件設定の差異などにより合理的に説明でき,前述した請求人甲の自白に対する疑問点が払拭されるか否かを検討する。 (1) 実験小屋の構造についてア床面の傾斜角度(ア) y町新実験では,H作成の陳述書(新証拠38)に従い,実験小屋北西角の排水口部分を基準(高さ0センチメートル)とし,北東角及び南東角部分をそれぞれ6センチメートル,南西角部分を3センチメートル高くし,排水口部分が低くなる傾斜が設けられた(新証拠44)。検察官は,上記陳述書におけるH供述は信用できないため, - 30 -本件火災当時の本件車庫床面の傾斜は忠実に再現されていない旨主張する。 (イ) まず本件車庫床面の傾斜の有無,程度についてみる。Hが本件家屋の増改築に携わったのは昭和45年頃のことであり,時間の経過による記憶の減退,変容は当然のことながら考慮しなければならないところ,Hは本件車庫床面の傾斜の程度について,請求人甲の確定控訴審における尋問時には曖昧な供述をしてい 45年頃のことであり,時間の経過による記憶の減退,変容は当然のことながら考慮しなければならないところ,Hは本件車庫床面の傾斜の程度について,請求人甲の確定控訴審における尋問時には曖昧な供述をしていたにもかかわらず,陳述書においては上記のとおり高さについて具体的に述べるなど詳細な供述をしている。このような供述経過に照らすと,傾斜の程度に関するH供述を全面的に信用することはできない。しかし,Hは上記証言時においても,水が流れるようにするため本件車庫の奥側(東側)を高く,道路入口側(西側)を低くした旨合理的根拠に基づいた供述をしており,その限りでH供述は一貫しているといえる。よって,その具体的程度は明らかでないものの,少なくとも本件車庫奥側が道路側より高かったことは明らかといえ,y町新実験の実験小屋の床面傾斜はその限りで本件車庫に忠実に再現されたと認められる(請求人甲の自白(甲確定1審検190)では,ガソリンの撒布前,請求人甲が「車の左うしろからまけば右前輪の方が排水口の方角ですから右前輪付近にガソリンが少し流れてくる程度にまこうと考え」たとされているし,確定審においても本件車庫床面に排水口に向かって低くなる傾斜があったことは前提になっていたと思われる。Z鑑定採用決定別紙鑑定事項2項「鑑定の前提事実ないし前提条件」参照)。そうであれば,本件車庫床面の傾斜の程度が実験小屋のそれと異なっていたとしても,ガソリン液体は低い位置にある排水口付近に向かって流れ,それに伴いガソリン蒸気が移動して風呂釜種火に引火する結果になることに変わりはないものと認められる。 (ウ) 次に,床面傾斜の程度の差異がy町新実験の結果に与える影響についてみる。 I供述によれば,床面傾斜は液体ガソリンの移動速度,ひいてはガソリン蒸気の移動速度に影響を与えると認められるため,傾斜 (ウ) 次に,床面傾斜の程度の差異がy町新実験の結果に与える影響についてみる。 I供述によれば,床面傾斜は液体ガソリンの移動速度,ひいてはガソリン蒸気の移動速度に影響を与えると認められるため,傾斜の程度が異なればガソリン蒸気の移動速度が異なり,引火までの時間がy町新実験の結果と異なった可能性は否定できない。しかし,ガソリン蒸気は拡散と(風呂釜の煙突効果による)吸い込みの影響によっても移動するため,点火行為前にガソリン蒸気が風呂釜種火に引火するというy町新実験で見られた - 31 -点火の機序は左右されないと推認できる。仮に床面が平らで,撒いたガソリン液体そのものが動かなかったとしても同様である。 (エ) 以上から,本件車庫床面傾斜の再現状況に重大な問題があるとは認められない上,仮に本件車庫の実際の傾斜程度と異なっていたとしても,点火行為に及ばずとも風呂釜種火にガソリン蒸気が引火したという実験結果の重要部分には差異は生じないと認められる。 イ経年劣化,床面凹凸の有無(ア) 検察官は,実験小屋の状態は経年劣化に伴う床面の凹凸,埃や土砂の堆積,ガソリンが貯留するような凹凸の存在等が再現されていないと指摘してその忠実性を争う。 (イ) 実験小屋は実験日の1週間前に着工されたものであるから,増改築から本件火災まで約25年間が経過していた本件車庫とは,時間の経過による床面凹凸,埃や土砂の堆積等の点で違いがあったことは容易に推測される。しかし,他方,本件車庫床面に,ガソリン液体の量が本質的に左右されるほど大量にせき止められたり染み込んだりする凹凸や土砂等の堆積が存在していたことを窺わせる事情はない上,前述のとおりガソリン蒸気は拡散と吸い込みの影響によっても移動することからすると,上記の点は実験結果の重要部分に影響を及ぼす条件設定の差 る凹凸や土砂等の堆積が存在していたことを窺わせる事情はない上,前述のとおりガソリン蒸気は拡散と吸い込みの影響によっても移動することからすると,上記の点は実験結果の重要部分に影響を及ぼす条件設定の差異とはいえない。 また,請求人乙は確定審において,本件車両運転席側前輪の後ろ右側辺りの床面上に直径24センチメートルほどの水たまりのようなものがあり,その真ん中部分から火が出ていた旨供述する。仮に同供述により本件車庫床面に凹凸が存在していたと考えるとしても,前述のとおりガソリン蒸気の移動には拡散や煙突効果による吸い込みといった要素も影響を与えることに加え,請求人乙が目撃したという「水たまり」のようなものの位置はy町新実験における引火時のガソリン液体の位置とほぼ同じと認められることなどに照らすと,y町新実験と同様に,ガソリン液体の風呂釜到達前にガソリン蒸気が風呂釜種火に引火した蓋然性は高いということができる。 (ウ) 以上から,埃,土砂の堆積状況,床面凹凸の有無は,点火行為に及ばずとも - 32 -風呂釜種火にガソリン蒸気が引火したという実験結果の重要部分に差異を生じさせる事情とはいえない。 ウ実験小屋内の通気口(ア) 本件車庫の再現に当たり,通気口はガラス戸下に1箇所設けられ(以下「居間側通気口」という。),他方,風呂釜壁側にも通気口の存在が窺われたが(以下「風呂釜壁側通気口」という。),実際に通気口として機能していたか判明しなかったため風呂釜壁側通気口は塞いだ状態で実験が行われた(新証拠44,I供述)。検察官は,上記理由により風呂釜壁側通気口を塞ぐのは乱暴で恣意的な判断である,仮に風呂釜壁側通気口を塞がず実験を行っていれば,実験小屋内の空気の流れが変わり,実験結果も大きく異なった可能性が十分にある,本件実験当時,実験小 風呂釜壁側通気口を塞ぐのは乱暴で恣意的な判断である,仮に風呂釜壁側通気口を塞がず実験を行っていれば,実験小屋内の空気の流れが変わり,実験結果も大きく異なった可能性が十分にある,本件実験当時,実験小屋内の通気口が居間側通気口1つであることによってガソリン蒸気が容易に風呂釜に吸い込まれる空気の流れだった可能性が高い旨指摘する。 (イ) I供述によれば,実験小屋の風呂釜壁側通気口付近にほとんど流速はなく,居間側通気口及び風呂釜壁側通気口を共に開けた状態であっても,その流速は毎秒2センチメートル以下だったことが認められ,ほとんど流速のない風呂釜壁側通気口を塞いだ判断を恣意的であるとはいえない。風呂釜壁側通気口を塞がなかった場合と比較して実験結果が大きく異なった可能性も否定される。また,仮に本件火災当時,風呂釜壁側通気口が開いており空気の流れが実験時と異なっていたとしても,風呂釜の煙突効果及びベンチュリ効果については共通する事情であることに照らせば,ガソリン蒸気が移動し風呂釜種火に引火することに変わりはないと推認できる。 (ウ) 以上のとおり,通気口を2つとして実験を行っても実験結果に重大な違いが生じたとは認められず,また,風呂釜壁側通気口の状態が本件火災当時と異なっていたとしても,点火の機序という実験結果の重要部分に影響はないものと認められる。 (2) 実験時の天候等についてア気温,湿度等(ア) 検察官は,本件火災当時とy町新実験とでは天候が異なる上,実験小屋内の - 33 -温度を約25度に設定したことを示す温度計等の証拠がないなどと指摘し,気温及び湿度の再現状況には問題があった旨指摘する。 (イ) しかし,Iらが意図的に部屋の温度を上げて,撒いたガソリン液体を蒸発しやすくしたことなど,実験結果に影響を及ぼす操作 ないなどと指摘し,気温及び湿度の再現状況には問題があった旨指摘する。 (イ) しかし,Iらが意図的に部屋の温度を上げて,撒いたガソリン液体を蒸発しやすくしたことなど,実験結果に影響を及ぼす操作をしたことを疑わせる事情は見当たらない。また,実験実施の時期や天候からして,y町新実験時の湿度は,夏場で雨が降っていた本件火災時より低かったとは推察されるものの,ガソリン液体がガソリン蒸気になる上でも,ガソリン蒸気になった後においても,湿度の影響はほぼないことはI供述によって認められるところである。 (ウ) 以上のとおりであって,気温や湿度等の再現状況に問題はなく,検察官の指摘は理由がない。 イ風速検察官は,本件実験当時の実験小屋内の空気の流れ,同室内外の風速は明らかでないが,これらの点に配慮せずに実験がなされたことは,実験の信頼性・正確性を減殺する事情である旨主張する。 確かに,実験小屋内の空気の流れなどはガソリン蒸気の動き方に影響を与えると思われるところ,本件火災時の本件車庫内の空気の流れ等について客観的証拠が存在しない以上,再現の忠実性に限界があることは否めない。しかし,この点,y町新実験の前日には,燃焼機序判断にあたり重要な要素である風呂釜種火付近の流速測定がなされており,実験時の配慮が足りないとはいえない。また本件実験時,実験小屋のガラス戸及びアルミサッシ戸は閉じられており,その他同小屋内での燃焼状況に重大な影響を与える風速状況にあったことを窺わせる事情は認められない。 よって,実験小屋内の空気の流れに関する検察官の主張を踏まえても,y町新実験の信頼性・正確性は揺らがない。 ウ二酸化炭素濃度(ア) 検察官は,自白によれば,請求人甲は放火行為前,本件車庫内で本件車両のエンジンを数分間かけたままの状態にしてい えても,y町新実験の信頼性・正確性は揺らがない。 ウ二酸化炭素濃度(ア) 検察官は,自白によれば,請求人甲は放火行為前,本件車庫内で本件車両のエンジンを数分間かけたままの状態にしていたというが,本件実験時には実験小屋室内 - 34 -の二酸化炭素濃度につき何ら配慮されていない旨主張し再現の忠実さを争う。 (イ) I作成の意見書(新証拠70)によれば,二酸化炭素の消炎濃度(火が消えるのに必要な二酸化炭素の濃度)は体積濃度で22%であるところ,本件車庫内で5分間アイドリングした場合の二酸化炭素の体積濃度は,二酸化炭素が同車庫内に均等に堆積した場合で0.146%,床面から風呂釜種火までの高さ約10センチメートルに堆積した場合で2.43%であり,いずれも消炎濃度と比較して非常に小さい値である上,二酸化炭素は床面から離れるにしたがって濃度が減少するため,風呂釜種火の高さでは体積濃度はさらに低くなることが認められる。その上,そもそも,二酸化炭素の拡散作用,風呂釜種火による吸い込みと排出が機能していることなどから,排気ガスが床面に層状に堆積する状況自体考えられない(新証拠70)。よって,本件火災当時,車両のアイドリングにより発生した二酸化炭素によって風呂釜種火が消えた可能性はないものと認められる。 また,上記新証拠によれば,本件車庫床面に撒かれた液体ガソリンは直ちに表面から蒸発してガソリン蒸気となり,空気と混じって可燃混合気を形成するところ,可燃混合気中,少なくとも消炎濃度以上の二酸化炭素が混じらなければ引火は妨げられないと認められる。上記のとおり5分間のアイドリングで発生する二酸化炭素の量は到底消炎濃度に達するものではなく,排気ガスが床面に層状に堆積することもあり得ないといえるから,アイドリング行為により発生した二酸化炭素 る。上記のとおり5分間のアイドリングで発生する二酸化炭素の量は到底消炎濃度に達するものではなく,排気ガスが床面に層状に堆積することもあり得ないといえるから,アイドリング行為により発生した二酸化炭素によって風呂釜種火によるガソリン蒸気への引火が妨げられるとも考えられない。 (ウ) 以上によれば,仮にy町新実験においてガソリン撒布前に数分間車両をアイドリングさせて本件火災前の状況を再現したとしても,発生する二酸化炭素により風呂釜種火が消えたり,ガソリン蒸気の風呂釜種火への引火が妨げられたとは認められないのであって,本件実験結果が異なったものになった可能性は否定される。 (3) ガソリン撒布等についてアガソリン撒布時間の長さ(ア) 検察官は,実験時のガソリン撒布時間も本件実験の忠実性に関し問題になる - 35 -旨主張する。この点,請求人甲の自白は単に「ゆっくりと」撒いたというに過ぎず,具体的な時間の長さに関する供述はない。y町新実験では,弁護人らが本件実験前,本件車庫の状況を再現してポリタンクに入れた水を撒いた実験(以下「水撒き実験」という。)(新証拠39)の結果に基づいて約36秒(A棟)と,それより時間を掛け約60秒(B棟)で撒ききるようにガソリン撒布機が設定された(新証拠44)。 (イ) I供述によれば,ガソリン液体の流れ方はガソリン蒸気の動き方に影響を及ぼす要素と認められる。ガソリン撒布時間の長短は,その蒸気が風呂釜種火に引火するという機序自体を変化させるとはいえないが,ガソリン蒸気の動き方,ひいては風呂釜種火への引火までの時間に影響を与える要素であると推測される。しかし,ガソリン撒布時間に約24秒の差を設けたy町新実験においてガソリン撒布開始から風呂釜種火への引火までの時間は約0.7秒しか異ならないこと の引火までの時間に影響を与える要素であると推測される。しかし,ガソリン撒布時間に約24秒の差を設けたy町新実験においてガソリン撒布開始から風呂釜種火への引火までの時間は約0.7秒しか異ならないことからすると(A棟で約20.8秒後,B棟で約20.1秒後に風呂釜種火に引火),ガソリン撒布時間が極端に異ならない限り,本件実験結果に大きな差異は生じないものと認められる。請求人甲の自白どおり放火行為が行われた場合のガソリン撒布時間が36秒未満であったり,逆に60秒より長かった可能性を完全に排斥することはできないが,他方,請求人甲の供述によっても,極端に長い時間掛けて撒布したことを窺わせる事情は認められない。 (ウ) 以上のとおりであって,ガソリン撒布時間の条件設定は本件実験結果の重要部分に影響を与えるとは認められない。 イガソリンの撒き方(ポリタンクを傾けた角度,撒布方向)(ア) 検察官は,請求人甲がガソリンを撒布した際,ポリタンクを傾けた角度やその口の向き,ガソリンの撒布方向などが証拠上特定できない以上,本件実験の再現状況には問題があり,そうであればあらゆる可能性を考えて実験を行うべきであったなどと主張する。 (イ) 本件実験でガソリンを撒布する方向は,撒いたガソリンは本件車両右側前輪と後輪の間に流れ出ていた旨の請求人甲の自白と,本件実験前に行われた前記水撒き実験の結果を踏まえて決定されたものであり,実際に撒布されたガソリンが上記位置付近 - 36 -に流れ出ていることからすると,合理的な条件設定であったといえ,様々な方向にガソリンを撒布しなかったからといって実験の信頼性・正確性に疑いは生じない。そもそも,y町新実験の結果やそれに関するIの説明によれば,ガソリンを撒く角度,方向が本件実験時と多少異なっていたり,ガソリン撒布機の角 布しなかったからといって実験の信頼性・正確性に疑いは生じない。そもそも,y町新実験の結果やそれに関するIの説明によれば,ガソリンを撒く角度,方向が本件実験時と多少異なっていたり,ガソリン撒布機の角度が時間の経過に伴い変化しているとしても,ガソリン蒸気が風呂釜種火に引火し,その後激しい燃焼状況になるという実験結果の重要部分には影響がないものと認められる。 (ウ) 以上のとおり,ガソリンを撒く角度や方向等の再現状況に特段問題はない上,それらの条件は実験結果の重要部分に影響を与えるとは認められない。 ウガソリンの広がり方(ア) 検察官は,y町新実験においては,ガソリンの広がり方について,本件車両右側部分に「わずかにはみ出す状態」であった旨の請求人甲供述,「水たまりのようなもの」との前記請求人乙供述を考慮した実験が実施されていないとして本件実験の再現の忠実性を争う。 (イ) この点,Iは,上記請求人甲供述に基づいて車両前輪と後輪の間にガソリンがはみ出る状態になるような撒き方を設定し実験を行った旨供述する。実験においてガソリンは車両前輪と後輪の間から排水口方向に止まることなく流れていることが認められ,ガソリンが止まった旨の請求人甲及び同乙の上記各供述と整合しないようにも思われる。しかし,請求人甲の自白内容の合理性を検討するとの本件実験の目的に照らせば,同人がガソリンを撒いた場所(車両左後方)とガソリンの量(約7.3リットル)は動かし難い実験条件であったと思われ,それに基づいてガソリンを撒いた結果上記の流れ方を示した点に特段問題があったとはいえない。そもそも,本件実験におけるガソリン撒布の結果に照らすと,ガソリン約7リットルを撒いて,請求人両名が供述するようにわずかにはみ出すとか,水たまりのような状態が生じるのかということ自体につ はいえない。そもそも,本件実験におけるガソリン撒布の結果に照らすと,ガソリン約7リットルを撒いて,請求人両名が供述するようにわずかにはみ出すとか,水たまりのような状態が生じるのかということ自体について疑問が生じる。 また,ガソリンの広がり方について,仮に請求人甲及び同乙の供述に基づいた実験を行ったとしても,床面凹凸等の有無の箇所で指摘したとおり(前記3(1)イ)実験結 - 37 -果の重要部分に影響があるとは認められない。 (ウ) 以上のとおり,ガソリンの広がり方に関する再現忠実性に問題はない上,その点は実験結果の重要部分に影響を及ぼさないと認められる。 エガソリンの量(約7.3リットル)(ア) 検察官は,ガソリンの量に関する請求人甲の自白は,ガソリンが入ったポリタンクを手で持って揺すった際の手応えや重さの感覚によるものであって確固たる根拠はないから,ガソリン量を約7.3リットルに固定した実験しか行っていないことを本件実験の再現の忠実性に対する疑問として指摘する。 (イ) 本件実験の目的は放火方法に関する請求人甲の自白の検証であり,ガソリン量については,確固たる根拠に基づくものではないにせよ約7.3リットルという供述以外に存在しないのであって,上記量に基づいて再現実験を行ったのは相当であったといえる(ただし,風呂釜種火のある空間でガソリンを撒いた際の点火機序,燃焼状況等について,より幅のある実験結果を確保するという観点からはガソリン撒布量を変えた実験が検討されてもよかったとは思われる。)。また,Iは,請求人甲の自白どおりガソリンを撒いて,ライターで点火するという態様で放火してやけどしないとすると,撒くガソリン量は数10ccないし100ccくらいまででなければならない旨供述し,その他ガソリンの流れ方に関する請求人甲 ソリンを撒いて,ライターで点火するという態様で放火してやけどしないとすると,撒くガソリン量は数10ccないし100ccくらいまででなければならない旨供述し,その他ガソリンの流れ方に関する請求人甲の供述内容なども指摘して,その自白調書で述べられているように「車両の右側(運転席側)に(半円形に)じわっとはみ出して流れていた」(甲確定1審検189)という広がり方を前提とすると,リットル単位の多量のガソリンが撒布されたとは考えられない旨の意見を述べている。もっとも,請求人甲の自白によれば,本件車両の左後方からガソリンを撒き,運転席右側に(半円形に)じわっとはみ出して流れていたガソリンにライターで点火したというのであるから,自白による撒いたガソリンの量(約7.3リットル)が,平成7年9月24日に請求人甲立会の下行われた水を用いた給油ポンプによる燃料タンクからポリタンクへのガソリン移し替えの再現実況見分の際,請求人甲がこれ位ポリタンクに移したとした水の量を計測した結果得られたものであり,それ自体不確かなものであるとしても,上記のような自白 - 38 -によるガソリンの撒布位置と点火位置を前提にする限り,常識的に見てガソリン撒布量が1リットルを下回るとは考えられず,リットル単位の多量のガソリンを撒布したとすることは動かせず,この点が請求人甲の自白の核心部分であることは動かない。そうして,前記のとおり,ガソリン約7.3リットルを約60秒で撒ききる速度で撒布したB棟実験では,ガソリン約2.5リットルを撒いた時点でガソリン蒸気に風呂釜種火が引火していることに照らすと,検察官が指摘するように5ないし6リットルのガソリンを撒布する実験を行ったとしても,点火までの時間や燃焼状況に多少の差異が生じることはあるにせよ,実験結果に基づく上記考察は左右されないと に照らすと,検察官が指摘するように5ないし6リットルのガソリンを撒布する実験を行ったとしても,点火までの時間や燃焼状況に多少の差異が生じることはあるにせよ,実験結果に基づく上記考察は左右されないと認められる。 (ウ) 以上によれば,ガソリン量に関する検察官の指摘は本件実験とは前提を異にするものというべきであって,必ずしも適切な指摘とはいえないし,本件再現実験結果に基づく考察に影響を及ぼすものでもないといえる。 オ燃焼時間及び給油ポンプの残存(ア) 検察官は,本件実験と本件火災時の燃焼時間の違いから給油ポンプの残存状況に差異が生じたなどと主張する。 (イ) 本件実験においては,風呂釜種火への引火から,A棟では約14秒後,B棟では約2分40秒後にそれぞれ消火作業が開始され,実験小屋床面に置かれた給油ポンプが原形を残した形状で残存した(新証拠44写真72,108)。他方,本件火災においては,発火から消火作業開始までの時間は約7分であったと認められる。I供述によれば,ポリエチレン製である給油ポンプの燃焼機序は,ポリエチレンが熱で溶融してその可燃成分が気化し,これと空気中の酸素が混合して発火温度以上になると燃焼に至るというものであるが,給油ポンプがコンクリート床上にあると,床面に接している部分には,酸素が供給されず,又熱がコンクリートに伝わって逃げてしまうため,燃焼するには至らず,必ず燃え残りが生ずるものと認められる。このような給油ポンプの燃焼機序からすると,本件再現実験の際,実験小屋コンクリート床上に置かれた給油ポンプが燃えきらず残渣が残ったという結果は燃焼時間がより長くても変わらないと推察される。また請求人甲の自白によれば,本件火災時の給油ポンプにはガソリンが付着してい - 39 -たことになるところ,本件実験で使用した給油 たという結果は燃焼時間がより長くても変わらないと推察される。また請求人甲の自白によれば,本件火災時の給油ポンプにはガソリンが付着してい - 39 -たことになるところ,本件実験で使用した給油ポンプ内にガソリンは入っていないが,床に接している以上焼け残ることにかわりはないと認められる。 (ウ) 以上によれば,本件火災時と本件実験における燃焼時間の差によって給油ポンプの残存状況に大きな差異が生じたとは認められない。 (4) まとめ以上検討したとおり,検察官主張の諸点を検討しても,y町新実験の再現忠実性に特段問題は見当たらず,異なった条件設定で実験が実施されていたとしても実験結果の重要部分は揺らがないと認められるのであって,既に指摘した請求人甲の自白に対して生じた疑問点は払拭されない。 4 放火方法に関する請求人甲の自白の信用性についてこれまで検討してきたとおり,高い証拠価値が認められるy町新実験に関する新証拠に照らして検討すると,請求人甲の放火方法に関する自白に対しては,風呂釜種火が存在する本件車庫内で約7リットルのガソリンを撒きライターで点火するまで引火しなかったのか,請求人甲の自白が真実であればやけどを負うのが自然でないのか,本件車両下に置いたとされる給油ポンプがそれとわかる形で残存したのではないかなどの疑問が生じる。また,火災初期段階の火炎の程度,その後の燃焼状況及び黒煙の発生状況等については,請求人甲の自白及び本件火災時の客観的状況と,y町新実験との間には明白な差異があるところ,点火の機序や燃焼状況等に関するIの説明を踏まえて検討すると,その差異は設定条件の差により生じたとして説明可能な範囲を超えているといわざるを得ない。放火方法に関する請求人甲の自白は見過ごせないほど不自然不合理な点を含み,客観的状況ともそぐわ えて検討すると,その差異は設定条件の差により生じたとして説明可能な範囲を超えているといわざるを得ない。放火方法に関する請求人甲の自白は見過ごせないほど不自然不合理な点を含み,客観的状況ともそぐわない内容になっている。そうすると,y町新実験に基づく前記新証拠(前記2(2)ア)が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていれば,請求人甲の自白中,放火方法という核心部分の信用性に疑問が生じることとなり,ひいては,同人の自白を直接証拠として認定された確定判決のような放火方法の認定に至ったかについても疑問が生じているというほかない。 5 その他の提出証拠の新規性,明白性について - 40 -(1) 提出された新証拠の概要についてIらは,y町新実験の外にも,以下のとおり鑑定,考察を行い,弁護人らは本件再審請求においてその関連の新証拠として,鑑定書(新証拠1),追加鑑定書(同10),実験・鑑定依頼書(同27),写真撮影報告書(同28),ポリタンク燃焼実験・鑑定結果報告書(同29),供述録取書(同31),燃料計を含むメーター(同47),燃料計(同48),質問書(同71)及び質問書の回答(同72)等を提出し,当請求審においてIの証人尋問を行った(なお,弁護人らはポリタンク焼毀残渣(新証拠46)をも新証拠として提出するが,上記物は請求人甲の確定審において証拠物として取り調べられているため,前記第4の1(1)の証拠の新規性の意義に照らすと,同人との関係については新規性を認めることはできないが,その余の証拠についてはいずれも新規性を肯認することができる。)。そこで,上記各証拠の明白性の要件について検討する。 (2) 燃料計(ガソリンメーター)についてア上記新証拠1,10,47及び48によれば,本件車両燃料計のコイルにはシリコンオイ る。)。そこで,上記各証拠の明白性の要件について検討する。 (2) 燃料計(ガソリンメーター)についてア上記新証拠1,10,47及び48によれば,本件車両燃料計のコイルにはシリコンオイルが使われており,シリコンオイルは加熱されることにより粘性,抵抗がなくなり,常温に戻った際,燃料計のレベルはその構造・設置角度により実際のガソリン残量いかんにかかわらず,ガソリン残量4分の3強付近の位置に戻ることが認められる。 この事実は,本件車両燃料計と同種のものを電気ヒータで約145度まで熱した実験において同様の結果が出たことによって裏付けられている。 イ本件火災後,本件車両燃料タンクに穴等が空いたとは認められず(甲確定1審検11,乙確定1審検9),また同車両燃料計はガソリン残量4分の3強付近を示していた(同写真第56,第57号)。他方,本件車両の焼損状況に照らすと,燃料計が相当の高熱に曝されたことは容易に推認できる。そうすると,本件車両燃料計のレベルが上記のとおり,ガソリン残量4分の3強付近を示していたからといって必ずしもガソリン残量が4分の3強程度であったとはいえなくなる。 上記事実が確定審の判断に与える影響についてみる。まず,請求人両名の確定審はいずれも,本件車両のガソリンタンクからガソリンを抜き取ったとの請求人甲の自白と, - 41 -本件火災後の燃料計のレベルという証拠上明らかに認められる事実が符合していることをもって,自白の信用性を補強する事実として考慮したと窺われるが,その判断は前提を欠くことになる。また捜査官らは,燃料計のレベルに基づきガソリンが抜き取られたという見立てをもって請求人甲を取り調べた事実が認められる。当時捜査官が燃料計の上記性質を知った上で取り調べたことを窺わせる証拠はなく,弁護人らが主張するように レベルに基づきガソリンが抜き取られたという見立てをもって請求人甲を取り調べた事実が認められる。当時捜査官が燃料計の上記性質を知った上で取り調べたことを窺わせる証拠はなく,弁護人らが主張するように強いて虚偽の事実を告げた上で取調べが行われたとまでは認められないが,前記のとおりの見立てを持った捜査官から,上記事実を告げられるなどして追及された請求人甲が,この見立てに沿った虚偽自白をするに至ったとしても必ずしも不自然ではない状況にあったということはできる。 ウ以上によれば,新証拠により燃料計について明らかになった事実に照らすと,本件車両からガソリンを抜いたとの請求人甲の自白を裏付ける事情は失われ,その信用性は動揺しているといわざるを得ない。 (3) やけどを負う可能性についてア Iらは確定控訴審における燃焼再現実験(甲確定控訴審検5,乙確定控訴審検54)をもとに,皮膚が火炎に暴露された場合の皮膚温度の上昇,それに基づく皮膚組織の損傷について計算し,請求人甲がその自白内容どおりの放火行為に及んだ場合の熱傷の受傷程度を明らかにした。その結果は,自白どおりに行動し,2度熱傷(火ぶくれができる,やけどの状態がはっきりする状態)を避け,請求人甲のように頭髪の焦げ程度の受傷ですむためには,ライターで点火後約0.39秒以内に,立ち上がり,長さ約2メートル,幅約40センチメートルで,自転車が3台置かれ物理的に狭い通路を通り抜けてガラス戸を閉めなければならないという,およそ不可能なことを想定することとなり,結局,自白どおりの放火方法に出れば2度以上の熱傷を負う可能性が極めて高いというものである。上記指摘は,引火して直ちに火炎が上がり,車庫全体がいわゆる火の海状態になったy町新実験の結果と整合的でもある。 イ検察官の主張についてIは, を負う可能性が極めて高いというものである。上記指摘は,引火して直ちに火炎が上がり,車庫全体がいわゆる火の海状態になったy町新実験の結果と整合的でもある。 イ検察官の主張についてIは,ガソリンとほぼ同じ発熱量を持つヘプタンを1.2平方メートルの燃焼皿に入 - 42 -れて燃焼させた火炎内を裸マネキンの皮膚が移動する実験を行った際に受ける熱流束(約50ないし70kW/㎡)を基準とし,約7リットルのガソリンを撒いた上記燃焼再現実験において,ガソリンは幅2メートル以上,長さ3メートル以上の6平方メートル以上に広がったため,その火源は上記実験の火源面積の6倍以上に及ぶとして,70kW/㎡という熱流束の値をアの計算式に用いたことが認められる。検察官は,裸マネキンが70kW/㎡の熱流束を受けたのは火炎中心を通過しているときであるなどと指摘して上記値を選択した点の妥当性を争うが,上記実験と燃焼再現実験とでは火源面積が異なる以上,Iの判断が合理的でないとはいえない。 また検察官は,Iが用いた計算式には明白な誤りがあったにもかかわらず,同人がその点に気付いていなかったことから,その専門的知識の正確性,上記鑑定書(新証拠1)の信頼性・正確性には疑義がある旨主張する。これに対してIは,検察官の指摘に対し,パソコンでの入力の際誤りがあったため,上記鑑定書で示した計算結果には誤差が生じるが,2度熱傷に達する火炎暴露時間について0.32秒としていた鑑定書と,0.39秒という再計算後の時間との差は0.07秒と小さいため,鑑定書の結論を変えるものではない旨明らかにしている(新証拠71,72)。そこで検討すると,計算結果に誤差が生じたのはパソコンへの誤入力が原因であって,用いた計算式自体には問題がなかったことが認められ,また,当請求審における証人尋問時 らかにしている(新証拠71,72)。そこで検討すると,計算結果に誤差が生じたのはパソコンへの誤入力が原因であって,用いた計算式自体には問題がなかったことが認められ,また,当請求審における証人尋問時のI供述等その内容全般に照らして,同人の専門的知識の正確性に疑義を抱かせるものはない。また,請求人甲の自白による放火方法で2度熱傷を負うか否かという結論部分からすると,上記0.07秒という誤差の影響は小さいと認められる。検察官の主張を踏まえても,上記鑑定書等の正確性に対する疑義は生じない。 さらに検察官は,上記燃焼再現実験における燃焼状況を前提にした計算結果には証拠価値がない旨主張するが,Iは請求人甲の自白同様約7リットルのガソリンを撒いた同燃焼再現実験に基づき,自白どおりの放火方法に及んだ際の同人の熱傷の受傷程度を明らかにすることを目的として上記計算を行ったものであるから,同実験結果を前提にするのは当然というべきであって,検察官の主張は当を得たものとはいえない。Iの計算 - 43 -結果について証拠価値がないということはできない。 ウこのような熱傷の受傷程度に関する計算結果も,請求人甲の自白が真実であれば,本件火災当時同人がやけどを負わなかったことは不自然といわざるを得ないという結論に導くものであって,既にy町新実験の結果に基づいて検討したのと同様に,放火方法に関する自白の信用性に疑問を生じさせるものとなる。 (4) ポリタンク残渣についてアポリタンク焼毀残渣に関する提出証拠(新証拠27ないし29,31)及び当請求審における証人尋問時のI供述によれば,本件火災後のポリタンクにはテーブルタップ(電源コードがポリタンクに溶け込む形となっている。)及び金属たわしが付着し,段ボール切れ端と思われるものやガラス片が溶け込んでいる 人尋問時のI供述によれば,本件火災後のポリタンクにはテーブルタップ(電源コードがポリタンクに溶け込む形となっている。)及び金属たわしが付着し,段ボール切れ端と思われるものやガラス片が溶け込んでいること,電源コードをポリタンク取っ手にくぐらせない状態で溶融させると,溶融の過程でテーブルタップがポリタンクから外れ,電源コードは溶融残渣に溶け込まなかったことが認められる。なお,請求人甲の確定1審第26回公判供述によると,本件火災前,ポリタンクの把手のところに延長コードの付いたテーブルタップが置かれ,そのテーブルタップに電話と金魚用水槽上の蛍光灯の配線のコンセントが差し込まれていたというのであり,この供述を虚偽として排斥するに足る証拠はない。この事実からすると,請求人甲は本件放火行為時,ポリタンクから電源コードを取り除いてガソリンを撒いた後,再度電源コードをポリタンク取っ手にくぐらせるなどして元の状態に戻したか,あるいは電源コードが取っ手にくぐらされたままの状態のポリタンクからガソリンを撒いたかのいずれかということになる(なお,本件火災鎮火後,ポリタンクが発見されるまでの間に電源コード等が付着したことを窺わせる証拠はない。)。しかし,自白によれば請求人甲は,本件車両ガソリンタンクから給油ポンプを用いてガソリンをポリタンクに移し入れ,ポリタンクは元あった本件車庫の東南角に戻し,その後請求人乙らが帰宅し,同人に言われてGがシャワーを使っているのを確認してから,ガソリン入りのポリタンクを手に持ちガソリンを流したというのであるから,ガソリンを給油ポンプで移し入れたり,ガソリンを撒布する際に邪魔になる電源コードを取っ手にくぐらせたままこのような作業を行ったとは考 - 44 -えにくく,後者の可能性は低い。そうすると,前者かということになるが,自白に れたり,ガソリンを撒布する際に邪魔になる電源コードを取っ手にくぐらせたままこのような作業を行ったとは考 - 44 -えにくく,後者の可能性は低い。そうすると,前者かということになるが,自白によれば,放火行為前,極度の興奮状態にあったという請求人甲がわざわざ前者のような行動に出たというのは不自然というほかない。また前者であろうが,後者であろうが,請求人甲が真実そのような行動に出たのであれば,自白に際し,電源コードについて言及して当然と思われるが(これは,電源コードがガソリンを撒く上で妨げにならなかったとしても同様である。),請求人甲の自白中電源コードに関する供述は一切ない。請求人甲確定1審及び同控訴審は,電源コードなどに関する供述がないからといって供述全体の信用性は揺らがない旨説示しているが,ポリタンクに関する供述はまさに放火行為に直接関わる自白の中心部分というべきであるから,自白によれば請求人甲が放火に用いたガソリンを本件車両から抜き取って入れ,そのガソリンを撒布するのに用いたというポリタンクの取っ手にくぐらせていた電源コードについて一切言及されていないということは当然自白の信用性に大きく関わるものというべきである。 イまた,自白によると,請求人甲は本件車両から抜いてポリタンク内に移したガソリンをその後撒いたことになり,本件火災時ポリタンク内にはガソリンが付着していたといえる。この点,新証拠29及びI供述によれば,内部にガソリンが付着したポリタンクが熱に曝されれば爆発的燃焼が起きるのではないかと窺われるところ,本件火災後,ポリタンクは溶融するにとどまっていた(甲確定1審検7写真第38ないし40号)。 これについて検察官は,ポリタンクのそばにあった水槽のガラスが割れて水槽内の水が掛かったため,ポリタンク内部の急激な気体温度の上 クは溶融するにとどまっていた(甲確定1審検7写真第38ないし40号)。 これについて検察官は,ポリタンクのそばにあった水槽のガラスが割れて水槽内の水が掛かったため,ポリタンク内部の急激な気体温度の上昇及び燃焼が防止された旨主張するところ,前記アのとおりポリタンク残渣にガラス片が溶け込んでいることからすると,その可能性は完全には否定できない。また,I供述によると,ガソリンが付着したポリタンクの栓を閉めた状態で加熱したとしても,ポリタンク内部のガソリン蒸気の圧力はポリタンク自体を吹き飛ばすほど高いものではない上,その状態の実験も行われていないことからすれば,本件のポリタンクが爆発せず溶融するに止まったのは,ガソリン蒸気が噴出するような穴が開かず引火することがなかったためである可能性も否定できない。以上からすると,本件火災によってポリタンクが爆発しなかったのは,弁護人らが - 45 -主張するようにポリタンク内部にガソリンが付着していなかったためであるとまでは認められず,その可能性が残るというにとどまる。 ウ以上のとおり,ポリタンク残渣に関する新証拠によれば,請求人甲の自白中ポリタンクに付着した電源コード等に関する供述がないのは不自然というほかなく,また,ポリタンク残渣の状態はガソリンが付着していなかったことを積極的に裏付けるとまではいえないが,その可能性を排斥するものでもないということができ,この点も放火方法に関する請求人甲の自白の信用性に疑問を生じさせる事情といえる。 (5) まとめ以上のとおり,y町新実験関連証拠以外の新証拠によって,確定審において請求人甲の自白を裏付けるとされていた事実が揺らいだ上,その自白が真実であれば同人がやけどを負っている方が自然なことが皮膚の受ける熱流束に関する計算からも根拠付けられ,加えて自 って,確定審において請求人甲の自白を裏付けるとされていた事実が揺らいだ上,その自白が真実であれば同人がやけどを負っている方が自然なことが皮膚の受ける熱流束に関する計算からも根拠付けられ,加えて自白が真実であれば供述があるのが自然と思われるポリタンクに関する行動等について何ら供述されていないことなどが明らかになったことからすると,放火方法に関する請求人甲の自白の信用性に対してはやはり疑いを差し挟む余地が生じている状況にある。 6 新証拠に照らして検討した請求人甲の自白の信用性について確定判決においては,請求人両名の自白が唯一の直接証拠であり,特に放火の実行行為者とされ,放火行為について詳細に供述した請求人甲の自白の信用性に重点を置いて検討されているところ,当請求審において提出された新証拠によってその信用性に疑義が生じれば,確定判決の有罪認定もまた動揺する構造となっている。それを前提に検討すると,新証拠によって,請求人甲の自白は科学的見地から不自然不合理であり,本件火災の客観的状況ともそぐわないものである上,確定審において信用性を補強するとされていた事実が揺らいだことなどが明らかとなった。放火方法という,殺人,現住建造物等放火の罪体の中心部分かつ自白の核心部分において,直接証拠である請求人甲の自白の信用性に疑義が生じた以上,その自白全体の信用性も揺らいでいるといわざるを得ない。 - 46 -そして,新証拠に明白性の要件を認め再審開始決定をするか否かという点からすると,核心部分の信用性に疑義が生じた請求人甲の自白に確定判決における有罪認定を維持し得るほどの信用性を肯定することができるか否かを改めて検討する必要があると思われる。以下請求人甲の自白を再検討する。なお,請求人甲の自白について弁護人らはその任意性及び信用性の双方を 罪認定を維持し得るほどの信用性を肯定することができるか否かを改めて検討する必要があると思われる。以下請求人甲の自白を再検討する。なお,請求人甲の自白について弁護人らはその任意性及び信用性の双方を争っているが,本件の証拠構造上,信用性に疑義が生じれば任意性を論じるまでもなく再審開始の決定に至る可能性が高いため,信用性について検討する。 7 請求人甲の自白に対する主な疑問点(1) 請求人乙との共謀についてア請求人甲は,同乙から初めて犯行を持ち掛けられた際の状況に関し,事件の1か月くらい前,乙から,仮契約したマンションの手数料170万円のことなどについて問われ,金が足りないと責められた,同人が「生命保険があるやん」「生命保険のお金が入ったら170万円くらいぽんと出せるやん」などと言うのを聞いて,Gを殺して死亡保険金を手に入れると言っているのだとすぐにわかった旨供述している(甲確定1審検187,179,乙確定1審検124)。 しかし,上記発言までの間,請求人両名の間でGを殺して保険金を得る話は全くなされていなかったにもかかわらず,上記のような漠然とした発言のみから請求人乙の意図するところがわかったというのは,請求人甲の自白で述べられている当時の家計状況や請求人乙とGの関係等の事情を前提にしてもやはり唐突であって不自然な感が否めない。 イまた,請求人乙との共謀形成過程に関する請求人甲の自白は以下のとおり重要な点で変遷している。まず,上記発言をした際の請求人乙の様子について,逮捕当初は「気を取り乱して泣きながら」と述べていたが,その後は「きつい口調」だった旨供述するに至っている。上記場面は,請求人乙が本件犯行について初めて口にした場面であり,請求人甲は上記発言を聞いて請求人乙についてこわい女などと思ったというのであるから,その際 きつい口調」だった旨供述するに至っている。上記場面は,請求人乙が本件犯行について初めて口にした場面であり,請求人甲は上記発言を聞いて請求人乙についてこわい女などと思ったというのであるから,その際の同人の様子については記憶に残っているのが自然と思われる。少なくとも上記のとおり大きく変遷しているのは不自然であるが,その理由について合理的なこと - 47 -は何ら述べられていない。 次に,請求人乙との謀議の回数について,逮捕当初は6月22日頃と7月5日頃の2回であったのが(甲確定1審検234,乙確定1審検307),その後,7月中旬頃の謀議を加え合計3回であった旨供述が変遷している(甲確定1審検179,乙確定1審検118)。また請求人甲の自白によれば,7月5日頃の謀議の際,請求人乙は自分(請求人乙)とSが逃げる方法や,警察への犯行発覚について気にしていたなどというが,このような懸念は,請求人甲から犯行の具体的方法を聞いてすぐに抱くのが自然であって,請求人甲が請求人乙との謀議内容について記憶を喚起し,供述する上で触れられるのがむしろ自然な事柄と思われる。しかし,請求人甲の供述経過をみると,それまでの取調べにおいては述べられていなかった,請求人乙が上記のような懸念を示したことについて,殺人,現住建造物等放火事件の起訴日である9月30日になり初めて思い出して詳細に供述したというのであり(甲確定1審検193,乙確定1審検126),不自然不合理な変遷といわざるを得ず,取調官の誘導に基づいて供述された疑いを払拭するのは困難である。 さらに,本件火災当日請求人乙との間で犯行実行が決まった経緯について,請求人甲が自ら言い出したのか,同人が言い出せないでいたところ請求人乙が言い出したのかという点についても,その供述は変遷している。 ウ以上のとおり, 求人乙との間で犯行実行が決まった経緯について,請求人甲が自ら言い出したのか,同人が言い出せないでいたところ請求人乙が言い出したのかという点についても,その供述は変遷している。 ウ以上のとおり,請求人乙との共謀形成過程に関する供述は請求人甲の自白の信用性を検討する上で重要であるが,その内容には不自然な点があって,見過ごすことができない不合理な変遷がある上,その理由についても単に記憶を喚起したからという趣旨のことが述べられるにとどまっている。 (2) 動機,殺害方法の選択についてア犯行動機に関する請求人甲の自白は,仮契約していたマンションの手数料170万円の支払い及び借金返済の必要性からGの死亡保険金1500万円を手に入れるというものである。しかし,上記理由は,それまで通常の社会生活を送っていた請求人両名が,(請求人甲とは血縁関係はないものの)我が子であるGを殺して保険金を手に入れ - 48 -るという重大犯罪に及ぶ動機としては,迫られた理由として述べられる170万円という金額,当時の同人らの家計状況等に照らすと,飛躍があるといわざるを得ず,全くあり得ないとまではいえないにしても不自然な感が否めない。この点は,請求人乙の確定1審判決が触れているとおりである。 イ次に殺害方法の選択についてみると,本件家屋にガソリンを撒いて点火するという殺害方法は,請求人両名にとって当時の住居及び家財道具等を失わせるばかりでなく,自分たちの生命身体にも高い危険性を生じさせるものであり,請求人両名はこの点十分に予測できたといえる。請求人両名が仮契約していたマンションについて確実に本契約に至る見込みがあったとはいえず,マンションの予定完成時期も本件火災の約2か月後である9月のことであり,現に同人らは本件火災後一時的に請求人乙の実家に住んだ後 約していたマンションについて確実に本契約に至る見込みがあったとはいえず,マンションの予定完成時期も本件火災の約2か月後である9月のことであり,現に同人らは本件火災後一時的に請求人乙の実家に住んだ後,ウイークリーマンションに転居している。しかし,請求人両名が本件火災後の自分たちの生活に関し考慮したことは窺われず,この点はやや不自然というべきである。 また,請求人甲は,仕事でガソリントーチを扱うことがあり,ガソリンの危険性について認識していたというにもかかわらず,点火時や点火後の燃焼状況を想像し,自身や請求人乙,Sの生命身体への危険を避けるため,思考をめぐらせたことを窺わせる供述はない。現に自白によれば,約7リットルものガソリンを撒き,パンツ1枚の姿でライターで点火したというのであり,不自然な感が否めない。さらに,住居にガソリンを撒いて火を付ける以上,確実にGを死亡させる必要があったと思われるが,請求人乙に言われたからといってGが風呂に入るとは限らず(この点は請求人甲が述べる請求人乙とGの関係を踏まえると,なお当てはまるように思われる。),Gが風呂に入ったとしても,火災に気付く可能性や,Sが入浴中のGの元に駆け付けるなどして火災を知らせ,同人が逃げる可能性は低いとはいえず,殺害結果が生じる確実性は必ずしも高かったとはいえない。 ウ以上のとおり,本件犯行の重大性に鑑みると動機は希薄である感が否めず,また,本件犯行が請求人両名らの生活に与える影響の大きさや,請求人甲のガソリンに関する知識等の事情を踏まえて見ると,本件の殺害方法を選択したことについては不自然不合 - 49 -理さを感じざるを得ない。 (3) 給油ポンプについて給油ポンプに関する請求人甲の自白は,逮捕当初は,興奮していたので買った店も値段も覚えていないというものだ は不自然不合 - 49 -理さを感じざるを得ない。 (3) 給油ポンプについて給油ポンプに関する請求人甲の自白は,逮捕当初は,興奮していたので買った店も値段も覚えていないというものだったが(甲確定1審検235,乙確定1審検308),その後,金物屋で買った旨(甲確定1審検165),あらかじめ買おうと思っていた金物屋で買い,千円札を出しおつりとして受け取った小銭の枚数から金額は200円前後だったと思う旨(甲確定1審検188,乙確定1審検123)供述が変遷している。同人の供述は時間の経過と共に具体的かつ詳細になっており,これは取調べを受けて記憶が喚起された結果であるとも評価し得るが,当初は興奮していたので覚えていないと述べていたにもかかわらず,その後値段の概算に至るまで供述が詳細になるのはやはり不自然といわざるを得ない。却って,上記供述がなされた期間,捜査機関が請求人甲の当時の仕事現場から本件家屋までの帰宅経路,給油ポンプ販売店及び販売価格の調査等諸々の捜査を遂げていたことに照らせば,取調官が捜査の進捗状況に基づいて請求人甲を誘導した結果,上記供述がなされた疑いは容易に払拭できない。 (4) 客観的な裏付けについてア確定審は,請求人甲の頭髪に焦げがあった事実や,同人がターボライターを所持していた事実などとの符合を自白の信用性を支える事情の一つとして指摘している。しかし,頭髪の焦げは,請求人甲が確定審の公判において供述しているとおり,本件車庫に出た後本件車両下を覗き込んだ際や,その後消火活動に及んだ際に生じたとしても説明がつくものである。また,本件火災後ターボライターは見付かっていない。 イ関係証拠上,請求人甲の帰宅経路に給油ポンプを販売している金物店が存在した事実は認められる。しかし,7月下旬という暑い時期に給油ポン のである。また,本件火災後ターボライターは見付かっていない。 イ関係証拠上,請求人甲の帰宅経路に給油ポンプを販売している金物店が存在した事実は認められる。しかし,7月下旬という暑い時期に給油ポンプが購入されたのであれば多少は印象に残ると思われるにもかかわらず,店主は購入事実の有無及び購入者について曖昧な供述をするにとどまっており,上記事実は,給油ポンプ購入の点に関し自白の信用性を高度に補強しているとはいえない(甲確定1審検47,48,乙確定1審検32,34)。加えて,本件火災後,本件車両下に認められた溶融物の残渣について - 50 -は,前記のとおり,請求人甲の確定控訴審は,請求人甲の使用した給油ポンプの溶融残渣と断定できないものの,ほぼ間違いはないとしているが,それ自体では給油ポンプのそれかどうか判別できない形態であり,y町新実験後の給油ポンプの残渣状況とも明らかに異なっており,これを給油ポンプの溶融残渣と認めることはできない。その他,請求人甲の自白中,捜査官らが知り得ず,捜査の結果客観的事実であると確認されたいわゆる秘密の暴露というべきものはない。 ウ以上からすると,請求人甲の自白によれば犯行を着想するきっかけとなった自動車事故に符合する事故が発生していたことなど自白に整合的な事実が存在することを踏まえてみても,自白の信用性を高度に保障する客観的裏付けは存在しないといわざるを得ない。 (5) 確定審における燃焼再現実験との齟齬について捜査段階及び請求人甲の確定控訴審段階で実施された2回にわたる前記燃焼再現実験は,ガソリンの撒き方,風呂釜種火の存在等の点で請求人甲が自白する放火方法を忠実に再現したとはいえないものの,約六,七リットルのガソリンを撒布して点火した点は自白と共通するところ,いずれの実験においても,点火後 の撒き方,風呂釜種火の存在等の点で請求人甲が自白する放火方法を忠実に再現したとはいえないものの,約六,七リットルのガソリンを撒布して点火した点は自白と共通するところ,いずれの実験においても,点火後直ちに火炎が高く上がり,黒煙が大量に発生したことが認められる。この実験結果は,本件火災後請求人甲が頭髪の焦げ以外にやけどを負わなかったことや,炎や黒煙の状況に関する同人の供述及び近隣住民供述から認められる本件火災の初期段階の燃焼状況とそぐわないものであり,この差異は,気温や温度,ガソリンの撒き方等実施条件の差異によって合理的に説明がつく程度を超えている。請求人両名の確定審は,いずれも,本件火災時と上記燃焼再現実験との条件の差異によって上記矛盾点は説明できるなどとして請求人甲の自白の信用性に疑問は生じない旨説示しているが,これまで検討してきたところを踏まえると,その判断は是認できない。 (6) まとめ以上のとおり請求人甲の自白を再検討すると,主なところだけを見ても重要な点で不自然不合理な点を多く含み,変遷が認められる一方,信用性を高度に補強するような客 - 51 -観的裏付けは存在しないというほかなく,その信用性にはやはり疑いを差し挟む余地がある。 8 小括(請求人両名の自白の信用性について)以上のとおり,y町新実験や本件車両燃料計,ポリタンク残渣等に関する新証拠を踏まえて請求人甲の自白を検討すると,その核心部分である放火方法に関して科学的見地から不自然不合理といわざるを得ない内容である上,本件火災の客観的状況等ともそぐわないものであって,その信用性に疑問を差し挟む余地が生じた。その上で請求人甲の自白を再検討すると,請求人乙との共謀や本件犯行の動機,殺害方法の選択といった重要部分について不自然不合理な供述が多く含まれ,変遷し あって,その信用性に疑問を差し挟む余地が生じた。その上で請求人甲の自白を再検討すると,請求人乙との共謀や本件犯行の動機,殺害方法の選択といった重要部分について不自然不合理な供述が多く含まれ,変遷しているなど,その信用性に疑問を生じさせる問題点が認められる。他方,確定審及び当請求審における全証拠を検討しても,請求人甲の自白の重要部分に客観的裏付けがあるとか,秘密の暴露が存在するなど,自白に対する疑問点を払拭するに足りる事情があるとは認められない。請求人甲の自白には,請求人両名が共謀して本件家屋に放火し,Gを殺害した犯人であると合理的な疑いを容れない程度に認めるだけの証明力はないものといわざるを得ない。そして,請求人甲の自白の信用性に疑問が生じた以上,同人の自白と符合していることを主な理由として請求人乙の自白に信用性を認めた同人の確定判決の判断も当然のことながら揺らぐ。その他,請求人乙の自白についてのみ,その信用性を肯定するに足りる事情は存在しない。 以上のとおり,本件放火行為の直接証拠である請求人両名の自白の信用性に疑問が生じた以上,確定判決の有罪認定にも動揺が生じたといわざるを得ない。 9 自然発火の可能性について(1) 弁護人らは,確定審段階から本件火災は自然発火が原因となったものである旨主張して諸々の証拠を請求し,当請求審においても同主張に関する証拠(新証拠1,10,14等)を提出したため,以下検討する。 (2) まず,風呂釜種火からの引火の可能性についてみると,請求人甲確定1審,同控訴審及び請求人乙確定1審は,本件火災後,風呂釜が原型をとどめており,バーナ - 52 -ー自体が焼損していない状況であること,風呂釜周辺は燃えていなかったとの消防隊員の供述,風呂釜と本件車両の位置関係及び引火実験(甲確定1審検21, 呂釜が原型をとどめており,バーナ - 52 -ー自体が焼損していない状況であること,風呂釜周辺は燃えていなかったとの消防隊員の供述,風呂釜と本件車両の位置関係及び引火実験(甲確定1審検21,22)の結果などから,その可能性を否定している。 しかし,I供述によればガソリン蒸気と空気中の酸素とが予め混じった状態で燃える予混合火炎の場合,拡散火炎(ガソリン液体が蒸発してガソリン蒸気となり,周辺の空気中の酸素と拡散し合いながら燃える火炎)と異なり,すすはほとんど出ないため,風呂釜にすすが付着していないからといって,風呂釜の種火が漏れたガソリンに引火した可能性を否定する根拠にはならないと認められる。またy町新実験においては,ガソリン蒸気が風呂釜種火に引火した直後,火炎は風呂釜周辺から離れてガソリン撒布機のほうに向かい,ガソリン液体の存在する辺りが燃え上がった状況が認められることや,この状況を説明するI供述に照らすと,本件火災後,風呂釜が原型をとどめているとか,バーナー自体が焼損していないこと,風呂釜と本件車両給油口とが約90センチメートル離れていた位置関係にあることなどは,風呂釜種火が発火原因であることを否定する根拠にはならない。また,I供述等によれば,約0.2リットルのガソリンをトレイに入れ,ろうそくの炎に横から近付けていったが引火せず,ろうそく下方に置いた際には引火し,焼却炉にすすが付着したという上記引火実験の妥当性は否定される。I供述等によれば,コンクリート床面上に拡がったガソリンと上記引火実験で用いられたように深さが4センチメートルあるトレイに,ガソリンをなみなみと入れず,底の方に深さ約0.5センチメートル溜まる程度に入れられたガソリンとでは,ガソリン蒸気の動き方が根本的に異なることが認められる。すなわち,上記実験ではトレイに入 トレイに,ガソリンをなみなみと入れず,底の方に深さ約0.5センチメートル溜まる程度に入れられたガソリンとでは,ガソリン蒸気の動き方が根本的に異なることが認められる。すなわち,上記実験ではトレイに入れられたガソリン液体の表面から,トレイの上端までの約3.5センチメートルが壁となり,ガソリン液体の表面から蒸発したガソリン蒸気はトレイ内に溜まってしまい,この壁(フリーボード)を越えられないのに対し,コンクリート床面上に拡がったガソリン液体の場合には,このようにフリーボードはなく,ガソリン蒸気はコンクリート床面上に拡散していくという根本的な違いがある。その上,更に上記実験では本件火災の際の風呂釜にみられた煙突効果が考慮されていない点も本件火災時との差異として指摘できる。なお, - 53 -燃焼してもすすが付着しない場合があることは上述したとおりである。以上によれば,請求人甲確定1審,同控訴審,請求人乙確定1審が説示するように風呂釜種火からの引火の可能性を否定する根拠は失われ,本件火災当時少なくとも何らかの原因でガソリン液体が床面に漏れた場合,そのガソリン蒸気が風呂釜種火に引火する可能性を否定することができないこととなる。 次に,確定審において技術士が指摘した,本件車両からガソリン蒸気が漏洩し,本件車両床下の過熱した部品が火種となるなどして本件車両が発火した可能性については,請求人両名の確定審はいずれも,その可能性は低いなどと判断しているが,完全には否定していない。そして,上記の検討結果に加え,前記の炎の高さが30ないし50センチメートルであったとする目撃者の供述や,I供述等の新証拠を総合すると,仮に何らかの原因で本件車両からガソリン蒸気が漏洩すれば,車両部品が火種とならないまでも,ガソリン蒸気が風呂釜種火に引火して発火に至る可能性は排 たとする目撃者の供述や,I供述等の新証拠を総合すると,仮に何らかの原因で本件車両からガソリン蒸気が漏洩すれば,車両部品が火種とならないまでも,ガソリン蒸気が風呂釜種火に引火して発火に至る可能性は排斥できない。 (3) 以上のとおり,当請求審で提出された新証拠によって自然発火の可能性を否定する確定審の論拠は揺らいだ一方,ガソリン蒸気が風呂釜種火に引火して燃焼が開始するという自然発火の可能性に整合的な事情が明らかになったといえる。もとより本件にかかる全証拠を検討しても本件火災の原因を自然発火と認定するまでには至らないものの,少なくともその可能性を積極的に排斥する証拠関係にないということはでき,これは請求人両名の自白の信用性に対する疑問が生じたことにより確定審の事実認定が動揺していることと相俟って,その有罪認定に疑問を差し挟ませる事情といえる。 10 乙確定審判決指摘の情況証拠たる事実関係について(1) 前述のとおり,本件犯行の直接証拠である請求人両名の自白の信用性に疑問が生じた以上,同人らを犯人とした確定判決の有罪認定は揺らいでいるが,他方,請求人乙確定1審は,以下で述べるような事実を指摘して,本件火災は請求人両名の自白がなくとも,請求人甲が放火をし,これについて請求人乙も何らかの関与をしている疑いが強いということができる旨判示しており(確定控訴審も上記判断を是認している。),請求人両名の犯行であることを示す情況証拠が存在すると判断しているとも思われる。 - 54 -仮に情況証拠により請求人両名を本件犯行の犯人であると認定できるのであれば再審開始には至らないため,以下,同人らの自白を除いても確定判決の有罪認定を維持し得るか否かを検討する。 (2) 請求人乙の確定審は,消火器を借りに近隣住民宅に行ったが実際には借りないまま れば再審開始には至らないため,以下,同人らの自白を除いても確定判決の有罪認定を維持し得るか否かを検討する。 (2) 請求人乙の確定審は,消火器を借りに近隣住民宅に行ったが実際には借りないまま外に出て,Gが風呂場にいることを知りながら救助隊員からの呼び掛けに対し「奥におるんや。」などと言うのみであったという請求人甲の行動,Sが「G」と叫んでいながら風呂場に向かわず,Gを本件家屋内に残したまま裏路地でしゃがんでじっとしていた本件火災時の請求人乙の言動及び本件に関して友人らに対し一貫しない説明をしたり虚偽を述べたという本件火災後の同人の行動等を情況証拠として指摘していると考えられる。 しかし,請求人両名が上記言動等に出たのは,本件火災時においては,突然の火災発生による動揺や狼狽,本件火災後においては,Gを助けられなかった母親としての自責の念故のものとしても説明可能である。そうすると,上記事実関係は請求人両名が犯人であることと矛盾しないという程度の証明力を持つにとどまり,同人らが犯人でなければ合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係とは到底いえない。上記事実関係のみで請求人両名が本件放火行為に及んだと認定できないことは明らかである。なお,上記事実関係は請求人甲の自白の信用性を高める事情としても指摘されているところ,請求人両名の上記言動は,結果としてGを助け出すのに効果的といえず,真実事故であれば本件に関し一貫した説明をするのが自然と思われることなどからすると,これらは保険金目的でGを殺害したとの請求人甲の自白内容と整合的な事情とも評価し得る。しかし,そうであるとしても,すでに指摘した請求人甲の自白に対する疑問点を解消し,その全体の信用性を回復するには到底足りない。 (3) 以上のとおり, 甲の自白内容と整合的な事情とも評価し得る。しかし,そうであるとしても,すでに指摘した請求人甲の自白に対する疑問点を解消し,その全体の信用性を回復するには到底足りない。 (3) 以上のとおり,請求人両名が犯人であることの情況証拠として指摘された上記事実関係の証明力は,それのみで同人らを犯人と認定することができる程度には到底及ばず,確定判決の有罪認定は動揺しているとの判断は変わらない。 - 55 -第5 結論確定判決が請求人両名を本件犯行の犯人であると認定した証拠構造によると,同人らと本件犯行とを結び付ける直接証拠は請求人両名の自白調書及び供述書のみであって,新証拠によって請求人両名の自白の信用性が揺らげば,確定判決の有罪認定もまた動揺せざるを得ない関係にあった。そして,当請求審段階で実施されたy町新実験に基づく新証拠を中心に請求人両名の自白を検討したところ,請求人甲の自白は放火方法という核心部分において科学的見地から不自然不合理な内容である上,客観的事実等ともそぐわないことなどが明らかとなり,その信用性は大幅に減殺された。その上で請求人甲の自白を再検討すると,供述の重要部分に不自然不合理な点や不合理な変遷が多く見られるなど,その信用性を容易に肯定できないものであることが明らかとなった。そして,請求人甲の自白の信用性に疑問を差し挟む余地が生じた以上,請求人乙についても同様であって,請求人両名の自白は,もはや確定判決における有罪認定を維持し得るほどの信用性はないものと認めざるを得ないとの判断に至った。他方,自白以外の情況証拠によって請求人両名を犯人と認定できないことは明らかである。 以上によれば,自白の任意性,弁護人らが当請求審段階で提出するその他の証拠の新規性・明白性等請求人両名のその余の主張・証拠について検討するま って請求人両名を犯人と認定できないことは明らかである。 以上によれば,自白の任意性,弁護人らが当請求審段階で提出するその他の証拠の新規性・明白性等請求人両名のその余の主張・証拠について検討するまでもなく,前掲(第4の2(2)ア,第4の5(1))の各新証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出され,これと既存の全証拠とを総合的に評価すれば,確定判決の有罪認定に合理的疑いが生じたものと認められるから,請求人両名に対し,無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したときに該当する。 よって,本件各再審請求は理由があるから,刑訴法448条1項,435条6号により,本件について,請求人両名との関係でそれぞれ再審を開始することとし,主文のとおり決定する。 平成24年3月7日大阪地方裁判所第15刑事部裁判長裁判官水島和男 - 56 - 裁判官和田将紀 裁判官長峰志織

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