平成11(ワ)201 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年9月15日 宇都宮地方裁判所
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判決文本文11,834 文字)

判決 主文 1 被告らは,各自,原告Aに対し金4222万3929円,原告Bに対し金3992万5267円,及びこれらに対する平成11年4月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告A及び原告Bのその余の各請求をいずれも棄却する。 3 原告本人兼亡C訴訟承継人Dの被告らに対する各請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,原告A及び原告Bと被告らとの間に生じたものは,これを3分し,その1を同原告らの負担とし,その余を被告らの負担とし,原告本人兼亡C訴訟承継人Dと被告らとの間に生じたものは全部原告本人兼亡C訴訟承継人Dの負担とする。 5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,各自,原告Aに対し6398万9887円,原告Bに対し6296万0771円,原告D及び亡C訴訟承継人Dに対し各550万円並びにこれらに対する平成11年4月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,中学校内において中学1年生の少年からナイフで刺殺された中学校教諭の遺族である原告らが,少年の両親である被告らに対して,不法行為に基づき,損害賠償を求めた事案である。 1 争いのない事実(1) E(以下「E教諭」という。)は,黒磯市立黒磯北中学校(以下「黒磯北中」という。)の教諭であったが,平成10年1月28日午前11 時40分ころ,黒磯北中の1年生であったF(昭和××年×月××日生。以下「F」という。)に授業態度等について注意をしたところ,Fからバタフライナイフ(以下「本件ナイフ」という。)により左胸 40分ころ,黒磯北中の1年生であったF(昭和××年×月××日生。以下「F」という。)に授業態度等について注意をしたところ,Fからバタフライナイフ(以下「本件ナイフ」という。)により左胸や背中など7か所を刺され,心臓刺切創,左前胸上部刺切創,右背部刺切創等の傷害を負い,直ちに黒磯市内の那須野が原菅間病院に搬送されたが,約1時間後,心臓刺切創による失血により死亡した(以下「本件事件」という。)。 なお,本件ナイフは,Fが購入して中学校に持ち込んでいたものである。 (2) 本件事件当時,被告GはFの父として,被告Hは母として,共同して親権を行使する立場にあった。被告らは家業として酪農を営んでおり,家族構成は,Fの兄2人と祖母の6人であった。 (3)  Fは,小学校のころは,クラブ活動でサッカーをし,成績も優秀であったが,平成9年4月,黒磯北中に入学後は学習意欲が減退して欠席日数も増加し,学業成績も伸び悩み,特に英語は苦手となり,また,スポーツの面でも,テニス部に入部したものの,成長期に発病するオスグッド・シュラッター病による膝の痛みに悩まされ,激しい運動ができなくなってしまい,自転車通学ができず,被告らに自動車で送り迎えをしてもらっていたこともあった。Fは,平成9年の2学期ころからは計14回(そのうち平成10年に入ってからは計6回)保健室に通うようになり,膝を痛めてから本件事件の直前まで苛立ちが募る状態が持続していた。 (4) 原告AはE教諭の夫であり,原告Bは長男である。 (5) 亡C及び原告DはE教諭の両親である。 亡Cは,平成14年8月23日,死亡し,原告Dが,相続により (4) 原告AはE教諭の夫であり,原告Bは長男である。 (5) 亡C及び原告DはE教諭の両親である。 亡Cは,平成14年8月23日,死亡し,原告Dが,相続により,亡Cの地位を承継した。 2 争点(1) Fの責任能力の有無(原告らの主張)本件事件は,Fが,E教諭に対し,隠し持っていた本件ナイフで胸腹部や背中をめった突きにした上,目をつり上げ,怒り狂ったように内臓が破裂するほどの強い力で足蹴りを繰り返すという常軌を逸した態様で行われて,E教諭を即死させたものである。また,本件事件はFがE教諭から授業に遅れたことを注意されたことに立腹したという極めてささいな事柄が発端となっており,動機においても常軌を逸している。そして,Fは,本件事件による家庭裁判所の処分として教護院に入院した後も,心身の不調や,凶器と化す物を居室に隠し持つ,職員や他の児童に対して暴力や殺人に結びつく言動をはばかることなく行うなどの問題行動から個室処遇,強制的措置寮への入院等の措置を受けた上,最終的には処遇困難として関東医療少年院に送致されて相当期間の治療を受けることになったこと,教護院入院中の病院での診断においても,Fには,軽度の脳波異常等の生物学的所見を伴った腹部発作及び不機嫌状態を伴うてんかんとそれと並んで存在する周期的不機嫌状態がみられ,爆発性精神病質であって,DSM-Ⅳ分類によれば,問歇性爆発障害,一般疾患による精神障害(てんかん性腹部発作及び不機嫌発作)あると診断されていること,Fは,本件事件前後,物に当たったり,周囲の人に対しても攻撃的な言動を繰り返すなど,体調不良にも起因して強い苛立ちを伴った不機嫌状態が持続していたとこ 嫌発作)あると診断されていること,Fは,本件事件前後,物に当たったり,周囲の人に対しても攻撃的な言動を繰り返すなど,体調不良にも起因して強い苛立ちを伴った不機嫌状態が持続していたところ,これらの状態は,上記の教護院入院後の言動及び医師の診断による病状とも共通していること等にかんがみると,Fは本件事件当時も教護院入院後の診断と同様の精神的疾患に罹患していたことが認められ,本件事件もこれによって惹起されたことがうかがわれる。以上の諸点を総合すれば,本件事件当時,Fに責任能力がなかったことは明らかである。 また,黒磯北中校長はFが責任無能力であるとの前提で被告らから監督を委託されたものでないから民法714条2項の代理監督者とはいえないし,代理監督者に責任がある場合でも法定監督義務者は自ら監督義務を怠らなかったことを立証しない限り責任を免れないというべきである。 (被告らの主張)本件事件当時,Fは13歳の中学1年生であり,小学校在学中も学業成績は優秀であったのであるから,殺人行為の是非弁別を識別できる程度の知能を有していたことは明白である。鑑定の結果によっても,Fの犯行時の行動は,心身の不安定性や衝動性から来る瞬時的,突発的に発生した行動とされており,Fの責任能力を否定するものではない。Fの教護院送致後の生活行状の変化は, Fの生来の精神的疾患によってもたらされたものではなく,長期の拘禁とこれに反発する思春期特有の攻撃性から発生したものであって,本件犯行がFの精神的疾患に基づくものであって責任能力がなかったとはいえない。 仮にFの責任能力が認められないとしても,本件事件におけるFの殺人行為は,黒磯北中校内 あって,本件犯行がFの精神的疾患に基づくものであって責任能力がなかったとはいえない。 仮にFの責任能力が認められないとしても,本件事件におけるFの殺人行為は,黒磯北中校内において発生したのであるから,民法714条2項に定める代理監督者として黒磯北中校長に責任無能力者の監督は委託されているのであるから,本件事件の現場にいなかった被告らに不法行為に関する監督義務はなかったもので,被告に対して民法714条に基づく責任を問うことはできない。 (2) 被告らの不法行為の成否(原告らの主張)被告らは,Fが本件ナイフを持って登校していることに気付きこれを止めさせることはもちろん,いかなる場合であっても人を殺傷してはならないこと,ナイフで刺せば人が死亡することがあり,そのようなことをしてはならないことをFに教示し,これを指導監督する義務を負っていた。そして,本件事件前後,Fは攻撃的な言動を繰り返す等上記のような状態にあり,被告らにおいても,少年が常時苛立ったり感情的になったりする精神状態にあって,学校に行くことを嫌がったり,保健室等にも行くようになったことや物に当たったりしている様子を把握していたのに,それらの懸念について特に指導を行っていないことに照らせば,被告らがFに対する指導監督義務を怠ったことは明らかである。 (被告らの主張)被告らは,Fに対して,日ごろから他人に迷惑をかけてはならないという基本的な教育をしていたし,また,本件ナイフを買い与えた事実もなく,人を殺傷してはならないことを指導監督する義務を懈怠したということはできない。 また,仮に被告らにFに対する監督義務の懈怠があったとし し,また,本件ナイフを買い与えた事実もなく,人を殺傷してはならないことを指導監督する義務を懈怠したということはできない。 また,仮に被告らにFに対する監督義務の懈怠があったとしても,FによるE教諭の殺害という結果との間には,相当因果関係は存しない。被告らは,Fが本件ナイフを購入したことも,所持していたことも全く知らなかったし,Fには,本件事件以前に第三者に対して傷害事件等を起こしたといった著しい非行傾向も存しなかったのであるから,経験則に照らして特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性としての相当因果関係はないというべきである。また,同様の事情に照らせば,被告らにおいては本件事件に対する予見可能性もないのであるから,過失は認められない。 (3) 原告らの損害額(原告らの主張)ア原告A及び原告Bの損害① E教諭の損害逸失利益 8650万2420円E教諭は,本件事件当時,黒磯北中に勤務する教師であったから,定年まで勤務した場合のモデル生涯賃金の合計は2億5677万3783円であり,定年退職時における退職金は2990万7900円である。また,定年後67歳までの年齢別平均賃金の額は2 136万8400円であって,これを基に,生活費控除率を30パーセント,中間利息額を5パーセントとして計算すると,E教諭の逸失利益は8650万2420円となる。 慰謝料 3000万円本件事件の特殊性,E教諭が本件事 利益は8650万2420円となる。 慰謝料 3000万円本件事件の特殊性,E教諭が本件事件当時26歳であり,1歳になったばかりの幼児を残して死亡したことなどを考慮すると,E教諭は多大な精神的苦痛を受けたものであり,その慰謝料は3000万円を下らない。 ② 相続原告AはE教諭の夫であり,原告Bは長男であるから,E教諭の死亡により,上記原告らは各自法定相続分2分の1の割合でE教諭の上記損害賠償請求権を相続した。 ③ 原告Aは,本件事件により,E教諭の治療費9万8176円,遺体搬送料5万5720円,書類費用1万5600円及び葬儀費用120万円の合計136万9496円の出損をしたが,上記出損のうち74万6046円を地方公務員災害補償基金から支給された。 原告Aは,上記支給額の差額62万3450円の損害を被った。 ④ 原告Bは,遺族補償年金として,平成10年2月から平成11年3月分まで合計167万5212円の支給を受けた。 ⑤ 弁護士費用原告A及び原告Bは,原告ら訴訟代理人に対し,本件訴訟の遂行を委任したが,本件事件と相当因果関係のある弁護士費用の損害額は,原告Aが580万円,原告Bが570万円である。 イ亡C及び原告Dの損害亡C及び原告Dは,E教諭の両親であり,E教諭の上記上記状況,本件事件の特殊性を考慮すると,両親の精神的苦痛を慰謝するには各自500万円をもってするのが相当であり,弁護士費用の損害 亡C及び原告Dは,E教諭の両親であり,E教諭の上記上記状況,本件事件の特殊性を考慮すると,両親の精神的苦痛を慰謝するには各自500万円をもってするのが相当であり,弁護士費用の損害額については,各自50万円と認めるべきである。 第3 争点に対する判断 1  前記争いのない事実に証拠(甲1ないし8,甲30ないし63,甲64の1,2,甲65,鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 (1) ナイフ等の購入・携帯状況等Fは,平成9年の夏休みころ,釣りなどに使用するために刃の長さ3ないし4センチメートルのサバイバルナイフを購入し,同年の2 学期に入ったころから,ナイフを友人に見せて自慢したりするため,制服の上着のポケットに入れるなどして登校の際にも常時携帯していた。また,本件ナイフは,平成10年1月20日午後7時過ぎころ,被告Hと一緒に買い物に行った際,同被告がスーパーで買い物をしている間に一人でゲーム・プラモデル等の販売店「I」において,お年玉の中から約5000円を出捐して購入したものであった。 Fが本件ナイフを購入した理由は,「かっこ良かったので半年くらい前から欲しかった」というものであるが,ナイフを友人らに見せて自慢したり,あるいは悪ぶって他人になめられないようにしたいという思いや,何らかのトラブルにあったときにナイフを出して相手を脅かそうという護身目的も併存していた。Fは,本件ナイフを購入後,登校時には制服の上着のポケットに入れ,普段外出する際にもズボンのポケットやポーチなどに入れて常時携帯を続けており,学校ではトイレや教室内で友達に見せたりしていた。 (2) ナイフ等に関するF及び被告らの認 ポケットに入れ,普段外出する際にもズボンのポケットやポーチなどに入れて常時携帯を続けており,学校ではトイレや教室内で友達に見せたりしていた。 (2) ナイフ等に関するF及び被告らの認識Fは,被告らにナイフの購入について相談等を持ちかけたことはなく,被告らはサバイバルナイフを含め,Fがナイフ等を購入して常時携帯していることには全く気が付いていなかった。 Fには,被告らが危険なナイフ等を持つことを許可してくれるような親ではないとの認識があったが,正当な目的なく一定以上の刃体の長さの刃物を持ち歩くことが法律違反になることの認識はなく,教師や被告らからその旨教わったこともなく,ナイフ等を学校に持参すべきではないとか,教師や被告らから命の大切さ等に関する指導を受けた記憶もなかった。 (3) 本件事件までのFの状況等Fは,本件事件当時まで,前歴等はなく,シンナー等の薬物に手を出したり,万引き等を行ったこともなかったが,黒磯北中に入学したころから被告Gのたばこを盗むなどして吸うようになり,平成9年の夏ころからは自分でたばこを購入し,多いときには1日に十数本のたばこを吸っていた。 Fは,小学校時代に約2回友人らに暴力を振るったことがあり,黒磯北中入学後は,直接暴力を振るったことはなかったものの,4,5回激高して暴力を振るう寸前に至ったり,黒板をげんこつで殴ったり,トイレのドアを殴って壊すなどの行動取ったことがあった。 Fは,本件事件前には,被告らの注意に対しても,気に入らなければ布団を殴りつけるなど,苛立ちや怒りを見せることが多くなり,口調なども荒っぽくなっていた。 このように,Fは,黒磯北中入学 本件事件前には,被告らの注意に対しても,気に入らなければ布団を殴りつけるなど,苛立ちや怒りを見せることが多くなり,口調なども荒っぽくなっていた。 このように,Fは,黒磯北中入学後は周囲の者に対する暴力的言動や物に当たるなどの行動が出始め,成績の悪化,欠席の増加,保健室への頻繁な出入り等の状況にあった。被告らはFのこのような状況にある程度気付いていたが,特段の対処は講じていなかった。 (4) 本件事件直前の状況Fは,本件事件当日,少し体調が悪かったことと,授業に出たくないという気持ちから,保健室で時間をつぶそうとしたが,養護教諭に授業に出るよう促され,トイレに行くなどした後遅れて授業に参加したところ,E教諭から注意されたため嫌な気分になった。その後友達から「先生のことむかつく。」等と問いかけられた際,自分は私語をしていないのに,E教諭から名指しで「うるさい。」などと強い口調で叱責されたことに怒りと苛立ちを募らせ,「すげーむかつく。」「刺すかもしんねえ。」「ぶっ殺してやる。」等と口走った。授業終了後,Fは,E教諭に教室の入口付近で呼び止められて「トイレに行くときは先生に言ってから行くように」などと再度注意を受けたが,終始下を向いていたことなどからふてくされている原因を問いただされたのに対し,あいまいな答えを返したことによりE教諭からその態度を厳しく叱責されたため,くすぶっていた怒りを激発させ,「なめられてたまるか」という気持ちで制服の上着の右ポケットから本件ナイフを取り出してE教諭に向けた。Fは,ナイフを突き付けているのに,E教諭がこれに怯えるそぶりを見せず,自分を馬鹿にしたような目をされたと感じて更に激高し,手にした本件ナイフで本件事件に及んだ。 (5) してE教諭に向けた。Fは,ナイフを突き付けているのに,E教諭がこれに怯えるそぶりを見せず,自分を馬鹿にしたような目をされたと感じて更に激高し,手にした本件ナイフで本件事件に及んだ。 (5) 本件事件後のFの状況等Fは,本件事件により,平成10年2月24日,教護院に送致されたが,教護院において,心身の不調や凶器と化す物を居室に隠し持つ,職員や他の少年に対して暴力や殺人に結びつく言動をはばかることなく行うなどの問題行動から個室処遇,強制的措置寮への入院等の措置を受けた上,最終的には処遇困難として関東医療少年院に送致されて相当期間の治療を受けることになった。教護院入院中の病院においても,Fには,軽度の脳波異常等の生物学的所見を伴った腹部発作及び不機嫌状態を伴うてんかんとそれに並んで存在する周期的不機嫌状態が見られ,爆発性精神病質であって,DSM-Ⅳ分類によれば,問歇性爆発障害,一般疾患による精神障害(てんかん性腹部発作及び不機嫌発作)であると診断された。 2 Fの責任能力(争点(1))について本件事件において,Fは,在籍する中学校の教師であるE教諭に対して,十数か所にもわたる刺切創等を負わせた上,内臓が破裂するほどのけりをも事後的に加えるなどしており,殺害行為の残虐性は顕著である。また,Fは,教護院入院後の診断結果や処遇意見書等で,腹部発作及び不機嫌状態を伴うてんかん,これと並んで存在する周期的不機嫌状態,発作性精神病質などと診断されており,怒りの抑制がきかなくなる,耳元で音が一過的に聞こえるなどの症状もあり,軽度脳波異常とも判定されていること等に照らせば,  Fの精神状態には生物学的背景もうかがえ,これに本件事件当時のFの言動を併せ考慮すれば,Fは本件事件当時既に上記のような精 るなどの症状もあり,軽度脳波異常とも判定されていること等に照らせば,  Fの精神状態には生物学的背景もうかがえ,これに本件事件当時のFの言動を併せ考慮すれば,Fは本件事件当時既に上記のような精神疾患に罹患しており,これが本件事件惹起に影響した可能性は十分に存するというべきである。 しかしながら,本件事件における加害行為は,ナイフによる刺殺であって,殺人行為の是非弁別の判断やそれに伴う法的責任発生の認識は,既に中学校に入学し満13歳に達していたFにおいても,基本的には比較的容易なものであったというべきである。 そして,Fは小学校時代は学業の成績は優秀であったのであり,その理解力その他知的能力に特に問題はうかがえないこと,本件事件に関する警察官らに対する供述調書や少年審判においても,その応答や供述内容に特に異常性はうかがえず,激発に至った動機・経緯も,極めて短絡的ではあるにせよ,了解そのものは可能であって,Fは,他者の殺害行為が悪いことであったとの認識は示していること,Fは,殺害行為の時点において,てんかん性もうろう状態,その他成人であれば,心神喪失の条件となるような精神病状態にあったものではなく,成人であれば,人格障害(精神病質)の範囲にあるものであって,それに生物学的背景が存在するといった程度の状態にあり,年齢の考慮を捨象した場合における刑事的な責任能力はこれを肯定してよいと考えられること等にかんがみれば,  本件事件当時Fが精神疾患に罹患していたとしても,これが同人の是非弁別能力に影響を与える程度の重篤なものであったと認めることはできない。 そうすると,本件事件当時,Fは責任能力を有していたというべきであるから,この点に関する原告ら の是非弁別能力に影響を与える程度の重篤なものであったと認めることはできない。 そうすると,本件事件当時,Fは責任能力を有していたというべきであるから,この点に関する原告らの主張は失当である。 3 被告らの不法行為の成否(争点(2))について上記2のとおり,Fは本件事件当時責任能力を有していたと認められるので,被告らに対して民法714条に基づく責任無能力者の監督者の責任を問うことはできないというべきである。しかし,未成年者が責任能力を有する場合であっても監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認め得るときは,監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立すると解するのが相当である。 被告らは,Fに対して指導監督する義務を懈怠したことはないし,仮に監督義務違反があったとしても,FによるE教諭の殺害という結果との間に相当因果関係はなく,結果の予見可能性もないのであって,過失は認められない旨主張する。 しかし,Fは,本件事件当時,義務教育課程を終えていない13歳になったばかりの中学1年生の少年であり,上記のとおり,是非弁別能力等の責任能力は一応認められるにせよ,その程度は相当に低いものであるから,日常生活その他のあらゆる局面において親権者等の監督義務者の広い監督,支配に服すべきであるが,その反射的効果として,このような低い責任能力しか持たない年少少年の監督義務者の監督義務としては,広範かつ重大な責任が課せられて然るべきである。 そこで検討するに,Fは,正当な理由のない刃物等の所持が法律に違反することも知らず,学校にナイフを持って行ってはいけないとの指導を受けたことは一度もないなどと述べて 然るべきである。 そこで検討するに,Fは,正当な理由のない刃物等の所持が法律に違反することも知らず,学校にナイフを持って行ってはいけないとの指導を受けたことは一度もないなどと述べており,同供述から親権者らの日常の監護・教育の中で常識的に身につけるべき認識を欠いた状態にあったことがうかがわれる。このことからは,ナイフ所持の禁止あるいは人の生命の尊厳やかけがえのなさといった基本的な事柄について,被告らのFに対するしつけや指導には重大な過誤があったことが推認されるところ,被告らがこれらの点につき  Fに対して十分な指導教育を行っていた等上記事実に反する資料はない。また,Fは,本件事件に至るまで特に非行歴はなく,小学校時代には成績も優秀であったものの,中学校入学後は,膝の病気で思うように運動ができないことなどから苛立ちが高じて,周囲の人に対する暴力的言動や物に当たる等の行動が出始め,成績が悪化して,欠席も増加し,登校しても保健室に度々出入りするような状況にあったのであり,思春期特有の反抗行動といえる範囲を超えた明確な変化を示していた。しかし,精神的疾患の発露とも取れるこれらのFの変調の兆しに対し,被告らはある程度これに気付いていながら,特段の対処を講じていなかった。さらに,本件事件そのものは被告らの直接監督下にない黒磯北中内で発生したものであるが,前記1の(1),(2)のとおり,Fによるナイフ類の購入は本件事件の約半年前に初めてなされ,ナイフ等を常時携帯する習癖もそのころから発現していたことに加え,本件ナイフの購入も被告Hの同伴時になされており,その後本件事件まで約1週間にわたってFが本件ナイフを常時携帯していた等の事実があるにもかかわらず,被告らはこれらに全く気付かず,Fによ 本件ナイフの購入も被告Hの同伴時になされており,その後本件事件まで約1週間にわたってFが本件ナイフを常時携帯していた等の事実があるにもかかわらず,被告らはこれらに全く気付かず,Fによる家庭から学校への本件ナイフの持ち込みは継続していた。これらの諸事情を勘案すれば,被告らの外にFに対してナイフの持ち込み等について指導を行うべき主体が存在し得たことは置くとしても,被告らにおいて,Fに対する監督義務の懈怠があったことは否定できず,その懈怠が殺傷能力十分な本件ナイフの校内への常時持ち込みを許すことになった以上,被告らの監督義務違反とE教諭の殺害との間の相当因果関係もまた優に首肯し得る。 また,上記検討した被告らの監督義務違反の内容に照らせば,被告らにおいてFによる殺害行為自体を具体的に予見していなかったとしても,Fが本件事件当時一般的な他害行為に及ぶ可能性は十分に予見できたのであるから,予見可能性はあったというべきである。 したがって,被告らは,本件事件,すなわち,FによるE教諭の殺害について,Fに対する監督義務違反により共同不法行為責任を負うものというべきである。 4 原告らの損害額(争点(3))について(1) 原告A及び原告Bの損害ア E教諭の損害① 逸失利益E教諭は,本件事件当時,黒磯北中に英語教師として勤務し,給与年収446万5763円を得ていたので(甲8),同額から生活費 35パーセントを控除した額に死亡時の年齢26歳から稼働可能期間である67歳までの41年間に対応するライプニッツ係数17.2943を乗じると,次の計算式により5020万0959円となり,E教諭の逸失利益は5020万 亡時の年齢26歳から稼働可能期間である67歳までの41年間に対応するライプニッツ係数17.2943を乗じると,次の計算式により5020万0959円となり,E教諭の逸失利益は5020万0959円であると認める。 4,465,763×(1-0.35)×17.2943=50,200,959② 慰謝料E教諭は,職務中に教え子に刺殺されたこと,当時1歳の原告Bを残して死亡したこと等本件訴訟に現れた資料を総合すると, E教諭の死亡による慰謝料は,2800万円をもって相当と認める。 ③ E教諭は,被告らに対して上記①及び②の損害合計7820万0959円を請求する権利がある。 イ原告A及び原告Bは,E教諭の上記損害について各2分1の割合に相当する3910万0479円を相続により取得した。 ウ原告Aは,本件事件により,E教諭の治療費9万8176円,遺体搬送料5万5720円,書類費用1万5600円及び葬儀費用120万円の合計136万9496円の出損をしたことが認められ(甲3,4),上記費用はいずれも本件事件と相当因果関係を有するところ,同原告は,上記出損のうち74万6046円を地方公務員災害補償基金から支給された旨を自認しているので,上記支給額の差額62 万3450円が原告Aの被った損害である。 原告Bは,遺族補償年金として,平成10年2月から平成11年3月分まで合計167万5212円の支給を受けた旨を自認している。 エ弁護士費用本件事案の内容等を考慮すると,本件事件と相当因果関係のある弁護士費用の損害額は,上記原告らについて各250万円と認めるのが相当である。 (2) 亡C及び原告Dの損害亡C及び原告Dは,E教諭の両親であり, すると,本件事件と相当因果関係のある弁護士費用の損害額は,上記原告らについて各250万円と認めるのが相当である。 (2) 亡C及び原告Dの損害亡C及び原告Dは,E教諭の両親であり,我が子を殺害された打撃が大きかったことは推認に難くないけれども,本件事件当時,E教諭は原告Aと婚姻し,長男原告Bをもうけて独立した家庭を営んでいること,亡C及び原告Dと同居している等の関係もなく,同原告らの苦痛を慰謝すべき特段の事情が認められない本件にあっては,同原告らに固有の慰謝料を認めることには躊躇せざるを得ない。 5 結語以上の次第で,原告A及び原告Bの各請求のうち,被告らに対し,原告Aについて4222万3929円,原告Bについて3992万5267  円及びこれらに対する不法行為後である平成11年4月29日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の各請求は理由がないからこれを棄却することとし,亡C 及び原告Dの各請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結日平成16年6月2日)宇都宮地方裁判所第2民事部裁判長裁判官羽田弘裁判官今井攻裁判官馬場嘉郎

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