令和2(ワ)29552 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年11月30日 東京地方裁判所
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判決文本文35,380 文字)

1 令和4年11月30日 判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 令和2年(ワ)第29552号 損害賠償請求事件 口頭弁論終結日 令和4年9月14日 判 決 主 文 1 被告は、原告に対し、97万5426円及びこれに対する令和元年 5 11月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを20分し、その3を被告の負担とし、その余を 原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 10 事 実 及 び 理 由 第1 請求 1 被告は、原告に対し、374万1678円及びこれに対する令和元年11月 22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する令和元年11月20日か 15 ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 被告が設置、運営するi高等学校(以下「本件高校」という。)は、男女交 際を禁止する旨の校則を定めている。原告は、校則違反(男女交際)を理由と 20 して、本件高校の学校長から自主退学勧告を受け、本件高校を退学した。 本件は、原告が、①上記校則は社会通念に照らして不合理であって無効であ り、また、学校長が上記自主退学勧告につき裁量権を逸脱又は濫用したから、 上記自主退学勧告が違法である旨主張して、被告に対し、使用者責任に基づく 損害賠償として、慰謝料300万円、編入・大学受験関連費用40万1678 25 円、弁護士費用34万円の合計374万1678円及びこれに対する原告が上 2 記自主退学勧告を受けた日である令和元年11月22日から支払済みまで民 円、編入・大学受験関連費用40万1678 25 円、弁護士費用34万円の合計374万1678円及びこれに対する原告が上 2 記自主退学勧告を受けた日である令和元年11月22日から支払済みまで民 法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ)所定の年5分の 割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、②本件高校の教員から上記校 則違反について執拗な事情聴取を受けたことにより精神的苦痛を被った旨主 張して、被告に対し、使用者責任に基づく損害賠償として、慰謝料300万円、 5 弁護士費用30万円の合計330万円及びこれに対する上記事情聴取が行わ れた日である令和元年11月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割 合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実 以下の各事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨に 10 より容易に認めることができる。 ⑴ 当事者等 ア 被告は、教育基本法及び私立学校法に従い、学校を設置して中等教育の 振興を図ることを目的として設立された学校法人であり、本件高校を設置、 運営している。 15 イ 原告は、平成29年4月に本件高校に入学した女性であり、令和元年1 1月当時、本件高校の第3学年に在籍していた。原告は、本件高校の同学 年の男子生徒(以下「本件生徒甲」という。)と交際していた(以下、原 告と本件生徒甲との交際を「本件交際」という。)。 ⑵ 本件高校における校則の定め 20 本件高校の校則(「学校生活についての諸事項」)には、以下の規定があ る。なお、上記校則は、本件高校が在学生に配布する生徒手帳(スチューデ ントノート)に記載されている。[甲2、乙3の2、弁論の全趣旨] 「【風紀】 [1~5 略] 25 6 特定の男女間の交際は、生徒の本分と照らし合わせ、禁止する。 に配布する生徒手帳(スチューデ ントノート)に記載されている。[甲2、乙3の2、弁論の全趣旨] 「【風紀】 [1~5 略] 25 6 特定の男女間の交際は、生徒の本分と照らし合わせ、禁止する。」 3 (以下、上記6の規定を「本件校則」という。) 「【賞罰について】 1 賞罰はすべて職員会議を経て校長がこれを行う。 2 生徒が学則、その他本校の定める諸規則を守らず、その本分にもとる 行為のあった時は、懲戒処分を行う。懲戒は戒告、謹慎、停学及び退学 5 とする。 [3~6 略] 7 校長は、下記のいずれかに該当する生徒に退学を命ずることがある。 ①入学誓約に背反する行為があり、改善の見込みがないと認められる者。 ②勉強する意欲に欠け、単位履修成業の見込みがないと認められる者。 10 ③正当の理由がなく出席が常でない者。 ④学校の秩序を乱し、その他生徒としての本分に反した者。 ⑤その他前項に準ずる程度の特に不都合な行為があった者。」 (以下、上記7の規定を「本件退学規定」という。) ⑶ 本件交際の発覚等 15 本件生徒甲の担任であったa教諭は、令和元年11月20日午後2時頃、 本件高校の第3学年に在籍していた女子生徒(以下「本件生徒乙」という。) から、本件交際について報告を受けた。a教諭及び原告の担任であったb教 諭は、同日午後、原告を小会議室(以下「本件面談室」という。)に、本件 生徒甲を指導室にそれぞれ呼び出し、本件交際について事情聴取を行った。 20 原告は、同日午後6時頃、a教諭に対し、本件生徒甲との間で性交渉を伴う 交際をしていたことを認めた(以下、同日に行われたa教諭による原告の事 情聴取を「本件事情聴取」という。)。a教諭から報告を受けたb教諭は、 原告に対し、翌日から自宅で謹慎をするように告げて、原告を帰宅させた していたことを認めた(以下、同日に行われたa教諭による原告の事 情聴取を「本件事情聴取」という。)。a教諭から報告を受けたb教諭は、 原告に対し、翌日から自宅で謹慎をするように告げて、原告を帰宅させた。 [甲23、乙8、9、弁論の全趣旨] 25 ⑷ 原告に対する自主退学勧告等 4 ア 本件高校は、原告への対応を協議し、本件高校の学校長(以下「本件校 長」という。)は、令和元年11月21日、原告に対する自主退学勧告(以 下「本件自主退学勧告」という。)を決定した。[乙12、弁論の全趣旨] イ b教諭は、令和元年11月22日、本件高校において、原告及び原告の 母親(以下「原告母」という。)と面談をし、本件自主退学勧告を伝えた。 5 [甲23、乙8、弁論の全趣旨] ウ 原告は、令和元年11月25日、一身上の都合を理由とする退学願を被 告に提出し、同月28日をもって本件高校を退学した(以下、この退学を 「本件退学」という。)。なお、本件生徒甲も、自主退学勧告を受けた後、 本件高校を退学している。[乙4、5、弁論の全趣旨] 10 ⑸ 本件退学後の経緯等 原告は、本件退学後、f高等学校(以下「編入先高校」という。)に編入 し、g大学法学部の入学試験を受けて、令和2年4月に同大学に入学した。 [甲12の1・2、甲19~23、乙6、11] 3 争点 15 本件の争点は、①本件校則の有効性[争点1]、②本件自主退学勧告の違法 性の有無[争点2]、③本件事情聴取の違法性の有無[争点3]、④原告に生じた 損害の額[争点4]である。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件校則の有効性)について 20 ⑴ 原告の主張 男女交際を一律に禁止する本件校則は、以下に述べるとおり、社会通念に 照らして不合理であるから、公序良俗に反し、無効である。したがって、 争点1(本件校則の有効性)について 20 ⑴ 原告の主張 男女交際を一律に禁止する本件校則は、以下に述べるとおり、社会通念に 照らして不合理であるから、公序良俗に反し、無効である。したがって、無 効な本件校則の違反を理由とする本件自主退学勧告は、違法である。 ア 文部科学省が定める高等学校学習指導要領は、高等学校における性に関 25 する学習指導について、性に関する適切な情報の取得を前提とした行動選 5 択(自己決定)と自ら行動を選択することによる自己形成(人格的成長) を促すことを主眼とする教育的指針を定めており、男女交際を一般的に不 適切なものとして排除するという考え方には依拠していない。本件校則の 内容は、学習指導要領の記載内容に照らしても不合理である。 イ 男女交際は個人の自己決定権そのものであり、男女交際の自由は幸福追 5 求権の一内容を成す。本件校則は、これらの権利を制約するものである上、 その適用において、生徒の内心や私生活のプライバシーに踏み込むことを 前提としている。また、本件校則は、「特定の男女間の交際」の定義や具 体的内容を明記しておらず、具体的・客観的にどのような行為が規制対象 となるかも不明確かつ無限定である。本件校則は、私立学校の在学関係に 10 おいても最大限尊重されるべき生徒の基本的人権を制約するものであって、 その制約の度合いは極めて高く、被告における教育の自由を考慮しても、 不合理である。 ⑵ 被告の主張 私立学校は、建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針によっ 15 て教育活動を行うことを目的とする。本件校則は、以下に述べるとおり、被 告における在学契約の目的を達成するために必要性が認められ、その内容も 社会通念に照らして合理性を有するから、本件校則が無効であるなどという ことはできない。 ア 本件校則は、以下に述べるとおり、被 告における在学契約の目的を達成するために必要性が認められ、その内容も 社会通念に照らして合理性を有するから、本件校則が無効であるなどという ことはできない。 ア 本件校則は、生徒の心身の未成熟さを考慮して、男女交際によって精神 20 的・肉体的な痛手を受けることを未然に防止し、生徒の健全な育成を図り、 適切な自己決定ができる資質や能力を育成しつつ、高校生の本分である学 業等に専念する時間を確保することを目的とする。本件校則は、在学生の 学習教育環境を守るために必要不可欠であり、本件高校の個性でもある。 イ 被告は、本件高校への入学を希望する生徒及び保護者に対し教育理念や 25 本件校則を含む諸規定について十分な説明をしている。生徒及び保護者(原 6 告及び原告の保護者を含む。)は、入学前に本件校則の内容を認識し、こ れに従う旨の書面を提出して本件高校に入学しており、本件校則は、一般 的に本件高校の入学希望者に受け入れられている。 ウ 本件校則は、生徒が内心において恋愛感情を持つこと自体を禁止するも のではなく、その外部への発現たる男女交際が、思春期の未成熟さゆえに 5 生徒本人や相手生徒の心身等に与える影響が多大であることから、いわゆ るパターナリズムの観点で規定されたものである。 2 争点2(本件自主退学勧告の違法性の有無)について ⑴ 原告の主張 ア 本件自主退学勧告は、大学入試の直前期において、これを受け入れない 10 選択肢はないという前提の下、その意思決定の自由を制約された状況でさ れており、事実上、退学処分と異ならない。 被告は、生徒及び保護者が自主退学勧告を拒否した場合には、謹慎処分 とするのが慣例であり、原告がこれを知っていたなどと主張するが、原告 は、そのような慣例を知らされてはいない。原告は 分と異ならない。 被告は、生徒及び保護者が自主退学勧告を拒否した場合には、謹慎処分 とするのが慣例であり、原告がこれを知っていたなどと主張するが、原告 は、そのような慣例を知らされてはいない。原告は、b教諭から、本件高 15 校の決定事項として本件自主退学勧告を告げられた上、これを受け入れて すぐに転校しなければ現役で大学に進学することはできないなどと説明さ れており、本件自主退学勧告を拒否し得る状況ではなかった。 イ 退学処分(自主退学勧告を含む。)は、生徒に改善の見込みがなく、学 外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って選択さ 20 れるべきである。しかしながら、本件校長は、原告が性交渉を伴う本件交 際を認めたという事実のみをもって、形式的に本件自主退学勧告をしてお り、以下に述べるような事情を一切考慮しなかった。本件自主退学勧告は、 本件校長が裁量権を逸脱又は濫用したものとして違法である。 本件交際の状況及び教育的指導の状況 25 原告及び本件生徒甲は、本件交際をひけらかすなどして、本件高校内 7 の風紀を乱したことはなく、純粋な恋愛感情に基づき真剣な交際をして いた。原告は、教員から男女交際の疑いを指摘され、気を付けるように 注意されたことはあったが、男女交際を禁止する理由等、本件校則の趣 旨及び目的に関して教育的な指導を受けたことは一度もなかった。 学校生活の状況 5 原告の学業成績や出席状況等は良好であった。原告は、本件以前に懲 戒処分等を受けたことはなく、色シャンプーの使用等について注意を受 けたことはあったが、いずれも真摯に反省して素直に行いを正している。 処分による訓戒的効果等 原告による本件校則の違反については、既に決まっていた指定校推薦 10 を取り消すことにより十分な訓戒的効果を及ぼすことがで ずれも真摯に反省して素直に行いを正している。 処分による訓戒的効果等 原告による本件校則の違反については、既に決まっていた指定校推薦 10 を取り消すことにより十分な訓戒的効果を及ぼすことができたのであり、 これに加えて本件自主退学勧告をする必要はなかった。 同種事案との比較等 本件高校内では原告以外にも生徒が男女交際をしているとの噂は日常 的にあり、本件自主退学勧告をしなければ同種事案との均衡を欠き、本 15 件高校内の秩序に混乱を来すといった事情はなかった。 自主退学勧告に至る経過等 b教諭は、a教諭が違法な本件事情聴取により原告から本件交際及び 性交渉があった事実を聞き出すや、特段の説諭等もなく、自宅謹慎を命 じた。本件自主退学勧告は、原告に対する教育的指導等もないまま、そ 20 の僅か2日後にされており、原告を退学させるという結論ありきであっ たことは明らかである。 ⑵ 被告の主張 ア 本件高校においては、性交渉を伴う男女交際が発覚して他の生徒の学習 教育環境に悪影響を及ぼすおそれなどが生じた場合には、学校長が自主退 25 学勧告を行い、生徒及び保護者がこれを拒んだ場合には、謹慎処分とする 8 ことが慣例である。 本件校長は、原告に対し、飽くまでも自主的な退学を勧めたにすぎず、 原告は、上記慣例を知った上で、今後の進路のことを考えて退学もやむを 得ないと判断し、自主的に本件高校を退学したのであるから、本件自主退 学勧告を退学処分と同視することはできない。なお、b教諭は、原告が現 5 役で大学に進学するためには、早急に自主退学をして転校し、希望大学を 複数回受験することが望ましいという説明はしたが、本件自主退学勧告を 受け入れなければ退学処分になる旨の発言は一切していない。 イ 本件自主退学勧告は、以下に述べる事情を総合的に勘 転校し、希望大学を 複数回受験することが望ましいという説明はしたが、本件自主退学勧告を 受け入れなければ退学処分になる旨の発言は一切していない。 イ 本件自主退学勧告は、以下に述べる事情を総合的に勘案すれば、校則違 反の種類及び違反の程度、他の生徒に及ぼす影響の程度、類似事案との公 10 平性・相当性等に照らして、本件校長が教育について有する裁量権の範囲 内でされた合理的なものというべきである。 校則違反の状況及び教育的指導の状況 原告が第1学年に在籍中、原告が本件高校内で本件生徒甲と2人で過 ごす姿が目撃され、距離が近いなどの指摘がされていたことから、本件 15 高校の教員らは、当時、原告を含む生徒らに対し、身だしなみ検査(月 1回程度)の際、本件校則を守るように繰り返し注意した。また、原告 が第2学年に在籍中、他の生徒が本件高校の教員に本件交際について報 告したため、同教員は、原告に対し、1年間に5回程度、本件校則を守 るように注意及び指導を行った。また、原告のSNSには本件交際を同 20 級生に認識させるような写真が繰り返し投稿され、本件交際は、生徒の 間で抽象的な噂としてではなく、具体的に認識されていた。本件交際が 本件高校において広く認識されるに至っていたことは、本件事情聴取が、 本件生徒乙からの訴えを契機として行われたことからも明らかである。 したがって、原告は、本件高校における教育的指導にもかかわらず、長 25 期にわたり本件校則に違反し続け、これにより本件高校の学習教育環境 9 に重大な悪影響を生じさせていたということができる。 同種事案との比較等 本件高校では、生徒が性交渉を伴う男女交際をした場合には、当該生 徒に対して自主退学勧告をするのが慣例であり、本件自主退学勧告は、 同種事案に照らしても相当である。性交渉を伴う男女交際と 案との比較等 本件高校では、生徒が性交渉を伴う男女交際をした場合には、当該生 徒に対して自主退学勧告をするのが慣例であり、本件自主退学勧告は、 同種事案に照らしても相当である。性交渉を伴う男女交際と、これを伴 5 わない男女交際とでは、前者の方が、心身の未成熟さから生徒が精神的・ 肉体的な痛手を受けて傷付くおそれが大きく、他の生徒に与える影響も 大きいのであるから、本件校長が、本件校則の違反への対応について、 その専門的・教育的裁量に基づき、性交渉の有無を重視することには合 理性がある。 10 自主退学勧告に至る経過等 本件事情聴取は、原告に対して適切な配慮をしつつ行われており、本 件自主退学勧告に至る経過等に問題はない。 原告は、本件自主退学勧告が、大学入試の直前期において、本件交際 の発覚から短期間でされたことを問題とする。しかし、原告による本件 15 校則の違反を黙過することができないことは明らかであり、本件校長は、 大学入試の直前期であったこと等から、事実関係を確認した後に速やか に本件自主退学勧告を決定したにすぎない。 3 争点3(本件事情聴取の違法性の有無)について ⑴ 原告の主張 20 本件事情聴取は、男女交際や性交渉の有無といった私生活上の事柄や恋愛 感情という個人の内心について、本人の意思に反して告白するように迫るも のであり、原告のプライバシーを侵害するとともに、内心にみだりに立ち入 られないという人格的利益を侵害する行為である。a教諭は、本件事情聴取 において、原告の意思に反して本件生徒乙を同席させたり、生徒との上下関 25 係を利用して原告が泣き出すまで執拗に質問したりしており、本件事情聴取 10 は、不法行為法上違法である。 ⑵ 被告の主張 原告は、私生活及び内心に関する質問等を許さない権利又は利益が侵害さ れた 利用して原告が泣き出すまで執拗に質問したりしており、本件事情聴取 10 は、不法行為法上違法である。 ⑵ 被告の主張 原告は、私生活及び内心に関する質問等を許さない権利又は利益が侵害さ れた旨主張するにすぎないところ、上記権利等の内容は、不明確かつ曖昧で あり、法律上保護されるべきものには当たらない。また、本件事情聴取は、 5 本件校則の違反の有無及び程度について確認するために必要かつ相当な限度 で行われたものであり、社会通念上許容される限度を超えて原告の権利又は 利益を侵害したということもできない。a教諭は、事実を正確に確認するた めに本件生徒乙を本件事情聴取に同席させたにすぎず、また、原告の意思に 反して男女交際や性交渉の有無を回答するように迫ったり、原告にスマート 10 フォンの中身(情報)を開示するように強要したりしたこともない。 4 争点4(原告に生じた損害の額)について ⑴ 原告の主張 ア 編入・大学受験関連費用 40万1678円 原告は、本件退学後に編入先高校に編入し、学習塾に通学した上で受験 15 料を支払って複数の大学を受験することを余儀なくされ、次の費用を支出 した(なお、原告は、本件高校から授業料等として、9万5000円の返 金を受けた。)。 編入先高校への編入費用 18万0426円 学習塾の授業料 16万3350円 20 大学受験のための費用 15万2902円 イ 慰謝料 600万円 原告は、本件自主退学勧告及び本件事情聴取によって精神的苦痛を被っ ており、これに対する慰謝料はそれぞれ300万円を下らない。 ウ 弁護士費用 64万円 25 エ 合計 704万1678円 11 ⑵ 被告の主張 否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実 前提事実、後掲各証 00万円を下らない。 ウ 弁護士費用 64万円 25 エ 合計 704万1678円 11 ⑵ 被告の主張 否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実 前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨(本人及び証人尋問の結果は、陳述 5 記載書面の頁数を引用する。)によれば、以下の事実を認めることができる。 ⑴ 本件高校の教育理念等 ア 本件高校は、「和魂洋才」を建学の精神として設立され、校訓「太陽の 如く生きよう」を掲げて教育活動を行っている。本件高校の受験生及びそ の保護者に配布される冊子(「保護者・生徒必読」)には、「本校では特 10 に、生活指導に力を入れています。生徒が安全に安心して通える環境をつ くる。そして基本的な生活習慣をしっかり身につけてこそ、学業に専念で き、目標の進路に向けて全力投球できると考えるからです。」、「人間の 基本として大切なモラル、躾面の教育にも力を注ぎ、単なる教科学習だけ にとどまらず、教育の4大視点として人間性、個性、国際性、可能性をと 15 らえ、学園生活のすべてを『教育現場』と考え取り組むことにしています。」 等と記載されており、特に保護者に理解してもらいたい事項として、本件 校則も紹介されている。[乙3の1・2] イ 本件高校は、入学試験の出願時において、保護者面接に代わるものと して「保護者見解回答用紙」の提出を求めており、その回答が本件高校 20 の教育方針と大きく異なる場合には、合否の判定に影響を与えることが あるとされている。[乙3の1] 保護者見解回答用紙には、「本校は、生活指導には、確固たる方針で 取り組んでいます。生徒の飲酒・喫煙・無免許運転・不純異性交遊・無 断外泊・無届集会・無届旅行・無届アルバイト、また、暴力行為・弱い 25 ものいじめ・盛り場はい回・無断欠席などに対して 固たる方針で 取り組んでいます。生徒の飲酒・喫煙・無免許運転・不純異性交遊・無 断外泊・無届集会・無届旅行・無届アルバイト、また、暴力行為・弱い 25 ものいじめ・盛り場はい回・無断欠席などに対しては、本校独自の教育 12 的見解と指導方法をもって生徒の生活指導にあたっております。」等と の説明文に加え、「本校は在校中1対1の特定の交友、男女関係、同棲・ 婚姻などは認めておりません。全てに亘って自分自身が責任を負えるよ うになってからでも遅くはないことと厳しい方針(自主退学など)で指 導いたしておりますが……。」との質問に対する回答欄が設けられてい 5 る。[乙3の3] 原告母は、原告の本件高校への入学試験の出願時に保護者見解回答用 紙を提出した際、上記 の質問につき、「学校の方針に賛成。在校中は 全て学校の指導方針に従います。」との回答に印を付けた。[乙3の3] ウ 本件校則は、生徒がその心身の未成熟さから男女交際によって精神的・ 10 肉体的な痛手を受けて傷付くおそれがあるため、生徒をそのような事態か ら守るとともに、非行や他の生徒への悪影響を防止して生徒の健全な育成 を図り、適切な自己決定ができる資質・能力を育成しつつ、高校生の本分 である学業等に専念する時間を確保することを目的とするものである。 [乙 3の1~3、乙12、証人e〔1頁〕、弁論の全趣旨] 15 エ 本件高校は、在学生が、いじめや仲間外れ、心配な同級生等について匿 名で学校に連絡することができる「スクールサイン」(旧サービス名:キ ッズサイン)というWeb上のサービス(以下「本件システム」という。) を導入している。本件高校の生徒の間では、男女交際の噂等がされること はままあったところ、本件システムを通じ、男子生徒と女子生徒が親密に 20 している様子の目撃情報等の連絡がされ、こ ム」という。) を導入している。本件高校の生徒の間では、男女交際の噂等がされること はままあったところ、本件システムを通じ、男子生徒と女子生徒が親密に 20 している様子の目撃情報等の連絡がされ、これを端緒として、教員が当該 生徒に対して本件校則の違反の有無を確認するということも少なくなかっ た。[甲23、弁論の全趣旨] ⑵ 原告の学校生活の状況等 ア 本件高校における原告の学業成績は概ね中位であり、出席状況に特段問 25 題はなかった(第1学年:欠席・早退・遅刻なし、第2学年:欠席4日・ 13 遅刻9日・早退1日、第3学年〔1学期〕:欠席2日・遅刻1日・早退1 日)。また、原告は、第1学年前期及び第3学年前期では学級副委員長を、 第1学年後期及び第2学年では学級委員長を務めていた。[甲3の1~7] イ 原告は、①色シャンプーを使用したこと(第1学年の春休み)、②授業 中に携帯電話を使用したこと(第2学年1学期)、③寝坊をしたこと(第 5 2学年2学期)について、それぞれ注意を受けたことがあり、その際、本 件高校に反省文を提出した。なお、原告母は、反省文にコメントを付記し て、家庭での原告の指導・監督を約していた。[甲5~7] ウ 原告及び本件生徒甲は、第1学年在籍時(平成30年3月頃)、お互い に好意を伝え合い、本件交際を開始した。原告は、本件交際の発覚に至る 10 まで、本件交際を秘密にしており、本件生徒甲と交際している事実は、数 人の親しい友人にのみ話していた。原告は、本件生徒甲との関係が目立た ないようにしてはいたが、本件高校内で本件生徒甲と2人で会話している ところを、教員から気を付けるように声を掛けられることはあった。[甲 23、乙8、原告本人〔22頁〕、弁論の全趣旨] 15 エ 原告は、第2学年在籍時(平成30年12月13日)、本件シ 会話している ところを、教員から気を付けるように声を掛けられることはあった。[甲 23、乙8、原告本人〔22頁〕、弁論の全趣旨] 15 エ 原告は、第2学年在籍時(平成30年12月13日)、本件システムを 通じ、本件高校内で本件生徒甲と2人で会話をしている旨の連絡があった として、当時の担任教員から交際の有無の確認を受けたが、これを否定し た。上記教員は、原告に対し、「今後は男女交際を周囲から疑われること がないようにしなさい」などと注意するとともに、原告母に対し、原告に 20 注意をした旨を連絡した。[甲23、乙8、弁論の全趣旨] オ 原告は、指定校推薦によるg大学への進学を希望していた。b教諭は、 進路希望に関する面談の際(第3学年の夏休み)、原告及び原告母に対し、 「指定校推薦は校則違反等をしていない模範生であることが条件となる。 原告には、男女交際の噂があるが大丈夫か。」と尋ねたところ、原告は、 25 「大丈夫です。」と回答した。原告は、第3学年前期には、本件高校から 14 g大学への指定校推薦を受けた。[乙8、弁論の全趣旨] ⑶ 本件交際の発覚に至る経緯等 ア 本件生徒乙の同級生であった女子生徒(以下「本件生徒丙」という。) は、仲の良かった原告及び本件生徒乙に対し、内々に、本件生徒丙が令和 元年夏頃に学外の男性と交際したことにより当該男性との間で問題が生じ 5 たという秘密(以下「別件事情」という。)を打ち明けた。その後、原告 は、別件事情を本件生徒甲(同人は、本件生徒乙・丙のクラスの学級委員 であった。)に話し、本件生徒甲を通じ、別件事情が他の生徒や教員にも 知られてしまうこととなった。本件生徒丙は、その後、本件高校を自主的 に退学した。[甲23、乙9、証人e〔28頁〕、弁論の全趣旨] 10 イ 本件生徒乙は、原告が別件事情を本件 が他の生徒や教員にも 知られてしまうこととなった。本件生徒丙は、その後、本件高校を自主的 に退学した。[甲23、乙9、証人e〔28頁〕、弁論の全趣旨] 10 イ 本件生徒乙は、原告が別件事情を本件生徒甲に話したことを知り、原告 や本件生徒甲の言動が原因となって本件生徒丙が退学することになったと 確信した。本件生徒乙は、原告を追及したが、原告が別件事情を本件生徒 甲に話した事実を否定したこと等から口論となった。本件生徒乙は、原告 に憤慨し、令和元年11月20日午後2時頃、a教諭に対し、原告のSN 15 S(インスタグラム)のアカウントの画像等を示しながら、原告と本件生 徒甲とが交際している旨を報告した(以下、この報告を「本件報告」とい う。)。[甲23、乙9、証人e〔28頁〕、弁論の全趣旨] ⑷ 原告に対する事情聴取(令和元年11月20日)の経緯 ア a教諭は、本件報告を受け、生徒指導部長であるc教諭及び原告の担任 20 であるb教諭に相談した。b教諭及びa教諭は、5時間目の授業の終了後 (午後3時頃)、b教諭が原告を本件面談室に、a教諭が本件生徒甲を指 導室にそれぞれ呼び出し、交際の有無を確認したが、原告及び本件生徒甲 はいずれも交際の事実を否定した。b教諭は、その際、原告のスマートフ ォンを預かった。[甲23、乙8、9、原告本人〔1、12~13、20頁〕、 25 弁論の全趣旨] 15 イ a教諭及びb教諭は、性別を考慮し、聴取者を交代した上で、本件交 際に関する事情聴取を継続することとし、a教諭が、原告に対し、本件 生徒甲との交際の有無を尋ねたが、原告は、これを否定した。a教諭は、 c教諭及び学年主任であるd教諭に相談した上で、本件生徒乙を本件事 情聴取に同席させることとした。 5 本件生徒乙は、自分のスマートフォンを用いて、原告のSNSのア は、これを否定した。a教諭は、 c教諭及び学年主任であるd教諭に相談した上で、本件生徒乙を本件事 情聴取に同席させることとした。 5 本件生徒乙は、自分のスマートフォンを用いて、原告のSNSのアカ ウントに投稿された写真等を原告に示すなどしながら、強い口調で、本 件生徒甲との交際を認めるように原告を追及した。しかしながら、原告 は、上記アカウントは自分のものではないなどと主張し、交際の事実を 否定し続けた。この間、本件生徒乙が、原告のせいで別件事情が広まり、 10 本件生徒丙が退学を余儀なくされたとして原告を責めるなどし、原告が、 その場で、本件生徒丙に電話を掛けて謝罪をするということもあった。 a教諭は、d教諭にも本件事情聴取に同席してもらい、本件生徒甲と の交際の有無を繰り返し尋ねるとともに、本件生徒乙やd教諭が原告に 対し、本件生徒甲と交際していないならスマートフォンの中身を見せて 15 も大丈夫なはずであるなどとして、原告のスマートフォンの中身を見せ るように求めたが、原告は、交際の事実を否定し、スマートフォンの中 身の開示も拒否した。本件生徒乙及びd教諭は、午後4時半頃、本件面 談室を退室した。 [上記イにつき、甲23、乙8、9、原告本人〔1~4、13~16頁〕、 20 弁論の全趣旨] ウ a教諭は、d教諭及び本件生徒乙が本件面談室を退室した後、職員室 で預かっていた原告のスマートフォンを持参して原告に渡し、スマート フォンのロックを解除するように求めたところ、原告はこれに応じた。 a教諭は、「見ても大丈夫なの?」などと尋ね、原告の同意を得た上で、 25 スマートフォンの中身(画像)を確認したところ、原告が本件生徒甲と 16 親密な様子で写っている写真が発見された。これを見たa教諭が原告に 「これはどう考えてもただの良い友達どまりでは 、 25 スマートフォンの中身(画像)を確認したところ、原告が本件生徒甲と 16 親密な様子で写っている写真が発見された。これを見たa教諭が原告に 「これはどう考えてもただの良い友達どまりではないよね。」と尋ねる と、原告は「友達どまりではないです、付き合っています。」などと答 えて、本件交際を認め、泣き始めた。 a教諭は、原告に対し、本件交際の期間や性交渉の有無等について尋 5 ねた。原告は、当初、性交渉の事実を否定していたが、a教諭が、「本 件生徒甲にも同じ質問をしても大丈夫?同じ回答が返ってくると言え る?」などと、性交渉の有無を繰り返し確認すると、最終的には、泣き ながら、本件生徒甲との間で性交渉があったことを認めるに至った。 [上記ウにつき、甲23、乙8、9、原告本人〔4~6、16、23~2 10 4頁〕、弁論の全趣旨] エ a教諭は、本件面談室を一旦出て、b教諭に対し、原告が本件交際を認 め、本件生徒甲との性交渉も認めた旨を報告した。b教諭は、a教諭と交 代して本件面談室に入り、原告に対し、簡潔に本件交際の有無及び性交渉 の有無を確認した上、いずれも肯定した原告に対し、翌日以降の自宅謹慎 15 を告げて、午後6時頃、原告を帰宅させた。[甲23、乙8、9、原告本人 〔20頁〕、弁論の全趣旨] オ a教諭は、本件事情聴取の際、原告に対し、威圧的な態度をとることは なかった。[乙9、証人e〔5~6頁〕、原告本人〔12、19頁〕、弁論 の全趣旨] 20 ⑸ 本件自主退学勧告の経緯等 ア a教諭は、令和元年11月21日、本件交際が発覚した経緯、本件事情 聴取の経緯及び原告の説明内容等を記載した事故報告書(乙10。以下「本 件報告書」という。)を作成して本件校長に提出した。[乙8、10] イ 本件校長は、令和元年11月21日、本件報告書の提 件事情 聴取の経緯及び原告の説明内容等を記載した事故報告書(乙10。以下「本 件報告書」という。)を作成して本件校長に提出した。[乙8、10] イ 本件校長は、令和元年11月21日、本件報告書の提出を受け、副校 25 長等との協議を経た後、原告による本件校則の違反について、原告の指 17 定校推薦を取り消すとともに、本件自主退学勧告を決定し、b教諭に対 し、原告及び原告の保護者に通知することを指示した。[乙12] 本件高校は、本件校則の違反に対する懲戒処分等について、明確な基 準は定めていない。ただし、生徒が性交渉を伴う男女交際をした事実が 判明した場合には、生徒に対して自主退学を勧告することとし、仮に生 5 徒及び保護者が同勧告に応じない場合には、1か月程度の謹慎処分とす るというのが慣例であった(以下、この慣例を「本件慣例」という。)。 なお、平成30年4月から令和4年3月までの間に本件校則の違反を理 由として自主退学勧告を受けた生徒は、原告及び本件生徒甲の2名のみ であった。[乙8、12、証人e〔3~5、7、11、15、17~18、 10 24~30頁〕、弁論の全趣旨] ウ b教諭は、令和元年11月22日、本件高校において、原告及び原告母 と面談をし、本件高校として、原告の指定校推薦の取消し及び本件自主退 学勧告を決定した旨を説明した。原告母が、b教諭に対し、本件高校を退 学しなければならないのかを尋ねたところ、b教諭は、本件自主退学勧告 15 に応じなければ、少なくとも謹慎処分になると考えられるが、謹慎してい る間は受験をすることができず、原告が現役で大学に進学するためには、 早急に本件高校を退学して通信制高校等に編入する必要があるという趣旨 の説明をした。[甲23、24、乙8、原告本人〔6~7、16~17、2 0~21、24~25頁〕、弁論 現役で大学に進学するためには、 早急に本件高校を退学して通信制高校等に編入する必要があるという趣旨 の説明をした。[甲23、24、乙8、原告本人〔6~7、16~17、2 0~21、24~25頁〕、弁論の全趣旨] 20 ⑹ 本件退学後の経緯等 ア 原告は、本件高校を退学したくなかったが、原告及び原告の両親(以下、 併せて「原告ら」という。)は、b教諭が説明した内容(前記⑸ウ)から、 原告が現役で大学に進学するためには、本件自主退学勧告に応じざるを得 ないと判断し、令和元年11月25日、退学願を被告に提出した(本件退 25 学)。[甲23、24、乙4、原告本人〔6~7、16~17、21、24 18 ~25頁〕、弁論の全趣旨] イ 原告の父親(以下「原告父」という。)は、本件交際を理由として本件 退学に至ったことに疑問を抱き、令和元年12月3日、本件高校を訪問し て説明を求めた。b教諭は、原告父に対し、本件高校では、性交渉を伴う 男女交際が判明した場合には退学を勧告する方針であること、原告が現役 5 で大学に進学するためには、本件高校を早く退学するのが最善であると判 断したこと等を説明した。[甲24] ウ 原告は、編入先高校に編入し、複数の大学を受験し、令和2年4月、 志望校であったg大学法学部に入学した。 原告が進学を希望し、実際に受験したg大学の入学試験の出願期間は、 10 令和2年2月以降(一般B方式:同月3日~12日、自己PR型AO〔4 期〕:同月24日~同年3月5日)であり、原告が併せて受験したh大 学の入学試験の出願期間は、同年1月以降(一般入試〔1期〕:同月1 0日~22日、一般入試〔3期〕:同年3月5日~16日)であった。 [甲25、26] 15 エ 原告は、令和2年11月20日、本件訴訟を提起した。 2 争点1(本件校則の有 般入試〔1期〕:同月1 0日~22日、一般入試〔3期〕:同年3月5日~16日)であった。 [甲25、26] 15 エ 原告は、令和2年11月20日、本件訴訟を提起した。 2 争点1(本件校則の有効性)について ⑴ 本件高校は、学校教育法上の高等学校として設立されており、法律に格別 の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を校則等 により一方的に制定し、これによって在学する生徒を規律する包括的権能を 20 有するものと解すべきである。特に、私立学校は、建学の精神に基づく独自 の伝統ないし校風と教育方針によって教育活動を行うことを目的とし、生徒 もそのような教育を受けることを希望して当該学校に入学するものと考え られるのであるから、その伝統ないし校風と教育方針を校則等において具体 化し、これを実践することが当然認められるべきであり、生徒においても、 25 当該学校において教育を受ける限り、かかる規律に服することを義務付けら 19 れるものということができる。もとより、私立学校が有する上記包括的権能 は、無制限なものではなく、在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容 が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認されるも のであるが、具体的に生徒のいかなる行動についてどの程度、方法の規制を 加えることが適切であるとするかは、それが教育上の措置に関するものであ 5 るだけに、必ずしも画一的に決することはできず、各学校の伝統ないし校風 と教育方針等によっておのずから異なるものであるといわざるを得ない(最 高裁昭和49年7月19日第三小法廷判決・民集28巻5号790頁、最高 裁平成8年7月18日第一小法廷判決・集民179号629頁参照)。 ⑵ これを本件についてみると、本件高校は、教育方針として、特に生活指導 10 に力を入れて 法廷判決・民集28巻5号790頁、最高 裁平成8年7月18日第一小法廷判決・集民179号629頁参照)。 ⑵ これを本件についてみると、本件高校は、教育方針として、特に生活指導 10 に力を入れていること等をうたっており、本件高校への入学希望者及びその 保護者に対し、男女交際の禁止を含め、独自の教育的見解と指導方法をもっ て生徒の生活指導に当たる旨を説明している(認定事実⑴ア、イ ・ )。 これらの事情に鑑みれば、本件高校は、学校生活全般にわたる生活指導に注 力するという特色を有しており、本件高校の生徒もそのことを受け入れて本 15 件高校に入学しているということができる。 本件校則は、生徒が男女交際により傷付くという事態を避けるとともに、 男女交際が他の生徒に悪影響を与えることを防止することにより、生徒を学 業等に専念させることを目的とするものである(認定事実⑴ウ)ところ、本 件校則が上記特色を有する本件高校における在学関係設定の目的と関連した 20 ものであることは明らかである。また、心身の発達途上の段階にある高校生 にとって、男女交際が生活習慣の乱れ等の要因になり得ること自体は否定で きず、本件校則の内容は、本件高校の教育理念や教育方針等に鑑みれば、男 女交際の禁止により生徒を学業等に専念させるためのものとして、社会通念 に照らして合理的なものであるということができる。 25 ⑶ア 原告は、高等学校学習指導要領に照らし、本件校則の内容が不合理であ 20 る旨主張する(前記第3の1⑴ア参照)。しかしながら、私立学校は、独 自の教育方針に基づき教育活動を行うことができるのであり、学習指導要 領が男女交際の一般的な禁止を定めていないことをもって、本件校則が学 習指導要領の趣旨に抵触するなどということはできない。したがって、原 告の上記主張は採用することが うことができるのであり、学習指導要 領が男女交際の一般的な禁止を定めていないことをもって、本件校則が学 習指導要領の趣旨に抵触するなどということはできない。したがって、原 告の上記主張は採用することができない。 5 イ 原告は、本件校則が生徒の人権を制約するものであり、その制約の度合 いも極めて大きいから、本件校則が不合理である旨主張する(前記第3の 1⑴イ参照)。 確かに、本件校則は、私的な事柄である男女交際につき、生徒が自らの 判断で決定する自由を制約する面を有するということはできる。しかしな 10 がら、私立学校が独自の伝統ないし校風と教育方針によって教育活動を行 うことを目的とし、これを前提として生徒も当該学校に入学する以上、生 徒が在学関係設定の目的に照らして合理的な制限を受けること自体はやむ を得ない。既に説示したとおり、本件校則は、本件高校における在学関係 設定の目的と関連し、かつ、その内容は、本件高校の教育方針等に鑑みれ 15 ば、社会通念に照らして合理的なものであるということができる。なお、 本件校則は、「特定の男女間の交際」を禁止することのみを規定しており、 禁止対象となる男女交際の範囲のほか、違反の有無を確認する方法、違反 に対する指導の方法等は、本件校則の趣旨・目的を踏まえた適切な運用に 委ねられているというべきであるが、このことをもって、本件校則による 20 男女交際の禁止それ自体が不合理であるということはできない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 ⑷ 以上によれば、本件校則が公序良俗に反して無効であるなどということは できない。本件校則は、本件高校の生徒を規律するものとして有効である。 3 争点2(本件自主退学勧告の違法性の有無)について 25 ⑴ア 原告は、本件自主退学勧告を受けて本件高校を退学してい とは できない。本件校則は、本件高校の生徒を規律するものとして有効である。 3 争点2(本件自主退学勧告の違法性の有無)について 25 ⑴ア 原告は、本件自主退学勧告を受けて本件高校を退学しているところ、原 21 告は、本件自主退学勧告が事実上退学処分と異ならない旨主張する(前記 第3の2⑴ア参照)のに対し、被告は、本件自主退学勧告を退学処分と同 視することはできない旨主張する(前記第3の2⑵ア参照)。 イ 確かに、自主退学勧告は、学校側の一方的意思表示により生徒の身分を 失わせるものではなく、また、本件慣例によれば、本件校則の違反を理由 5 とする自主退学勧告に生徒及び保護者が応じなければ、1か月程度の謹慎 処分となることが見込まれた(認定事実⑸イ )のであるから、本件自主 退学勧告が原告らに対して退学を強制するものであったといえるか否かは 問題となる。 ウ しかしながら、校則違反を理由とする自主退学勧告は、学校が校則に 10 違反した生徒に対して在学関係の解消を求めるものであるから、外形的 にみる限り、学校として、当該校則違反が退学処分事由に準じるもので あり、当該生徒との在学関係を維持するのは相当ではないと評価する旨 の判断を含むものであるといわざるを得ない。また、自主退学勧告を受 けた生徒及び保護者としては、同勧告に応じなければ、退学処分又はこ 15 れに準ずる処分(無期謹慎等)を受けることになると理解するのが通常 であると考えられる(なお、自主退学勧告は、一般的には、退学処分等 が見込まれることを前提として、正式な処分等をすることによる弊害を 避ける意図でされる場合が多いと解される。)。 本件高校の入学手続時の説明内容等(認定事実⑴ア・イ)に照らせば、 20 生徒及び保護者に対し、本件高校が男女交際を厳しく取り締まる方針で あり、自主 避ける意図でされる場合が多いと解される。)。 本件高校の入学手続時の説明内容等(認定事実⑴ア・イ)に照らせば、 20 生徒及び保護者に対し、本件高校が男女交際を厳しく取り締まる方針で あり、自主退学勧告があり得ることは明らかにされていたということが できるが、本件高校は、本件校則の違反に対する懲戒処分等の基準を定 めているわけではなく、本件慣例の存在や内容を生徒や保護者に対して 周知していたといった事情はうかがわれない。また、証人e(26~2 25 7、30頁)は、生徒又は保護者に対し、性交渉を伴う男女交際が判明 22 した場合には自主退学勧告になること等を説明してはいない旨証言し、 原告本人(9、25頁)は、本件校則の違反はまず謹慎処分がされると 認識していた旨供述しているのであって、本件高校の生徒及び保護者は、 当時、本件慣例の存在及び内容(①処分歴等にかかわらず、性交渉があ れば、自主退学勧告となること、②同勧告に応じなければ、1か月程度 5 の謹慎処分となること)を具体的に認識してはいなかったものと優に推 認することができる。 本件校長は、原告に対し、本件自主退学勧告によって、本件高校を退 学することを求めているのであり、特段の事情がない限り、原告らとし ては、これに応じなければ、退学処分等が見込まれると理解するのは自 10 然かつ合理的である。本件慣例によれば、原告が本件自主退学勧告に応 じなければ、1か月程度の謹慎処分となることが見込まれていたという ことはいえるものの、上記検討のとおり、本件高校の生徒及び保護者は、 本件慣例の存在及び内容を認識していなかったと認められるから、本件 慣例があったことをもって、本件自主退学勧告を退学処分と同視するこ 15 とができないなどということはできない。 エ 本件自主退学勧告及び本件退学の経緯等に 識していなかったと認められるから、本件 慣例があったことをもって、本件自主退学勧告を退学処分と同視するこ 15 とができないなどということはできない。 エ 本件自主退学勧告及び本件退学の経緯等についてみるに、b教諭は、 本件自主退学勧告を伝える際、原告及び原告母に対し、本件自主退学勧 告に応じなければ、少なくとも謹慎処分になると考えられるという趣旨 の説明をしており(認定事実⑸ウ)、原告らが、上記説明等によって、 20 本件慣例の内容を認識していたのではないかが問題となる。 しかしながら、b教諭は、原告及び原告母に対する説明の際、謹慎処 分の可能性に言及しつつ、現役で大学に進学するためには早急に本件高 校を退学する必要があるとも説明していたのであるから(認定事実⑸ウ)、 原告らとしては、現役で大学に進学するためには本件自主退学勧告に応 25 じるしかないと認識したのもやむを得なかったということができる(な 23 お、原告及び原告母が上記説明により本件慣例の内容を認識し得たこと を認めるに足りる証拠はない。)。 また、仮に、原告らが本件慣例の内容を認識していたとするならば、 原告の志望校の入学試験の出願期間は令和2年2月以降であった(認定 事実⑹ウ )のであるから、原告としては、本件自主退学勧告に応じず、 5 1か月程度の謹慎処分を受けた上で、謹慎期間後に大学の入学試験を受 けるのが自然かつ合理的であったということができる。原告らが短期間 で本件自主退学勧告に応じ、本件退学に至ったという事実経過は、原告 らにおいて、本件自主退学勧告に応じなければ、現役で大学に進学する ことは不可能であると認識していことを強くうかがわせる。 10 さらに、b教諭は、本件退学後、原告父に対し、本件自主退学勧告と いう結論に至った理由等を説明している(認定事実⑹イ) 大学に進学する ことは不可能であると認識していことを強くうかがわせる。 10 さらに、b教諭は、本件退学後、原告父に対し、本件自主退学勧告と いう結論に至った理由等を説明している(認定事実⑹イ)ところ、b教 諭は、その際、「無期謹慎というのが、退学勧告のいっこ手前になる感 じになります。だいたい1、2か月もしくはそれ以上になることもある のですけど、その処罰になっている間は受験することが出来ません。受 15 験資格がありません。理由としては卒業見込みが立たないからです。」、 「男女交際だけであれば、先ほどお伝えしたように、無期謹慎というこ ともあるのですけど、性交渉という次のステップに行ってしまうと、簡 単に言うと一線を超えるという状況になると、やっぱ残しておくことは できないのでという話なので、逆に早く伝えてあげましょうというスタ 20 ンス。」等と発言している(甲24)。上記発言は、原告が本件自主退 学勧告に応じずに謹慎処分を受けた場合には、大学の入学試験を受ける ことができなくなる事態が想定されていた旨を説明するものであり、本 件慣例の内容や今後の見通しの説明として適切ではないといわざるを得 ない(なお、本件自主退学勧告の時点においては、原告に対する謹慎処 25 分が具体的に検討されていたわけではなく、謹慎処分となった場合の謹 24 慎期間が確定していたわけでもないが、原告に対する謹慎処分が、本件 慣例と異なり、1か月程度を超えたものとなることが見込まれる状況に あったとはいい難い。)。 現役での大学進学を強く希望していた原告にとって、本件自主退学勧 告に応じない場合に予想される処分の内容(謹慎処分であれば、どの程 5 度の謹慎期間が見込まれるのか)は、本件自主退学勧告に応じるか否か を判断する上で、重要な要素であったことは明らかであるところ、 告に応じない場合に予想される処分の内容(謹慎処分であれば、どの程 5 度の謹慎期間が見込まれるのか)は、本件自主退学勧告に応じるか否か を判断する上で、重要な要素であったことは明らかであるところ、b教 諭が原告父に対して「無期謹慎」の可能性をも匂わせる発言をしていた ことに鑑みても、原告が、本件退学に先立ち、本件慣例の内容(特に、 本件自主退学勧告に応じなければ、1か月程度の謹慎処分となる見込み 10 であること)を具体的に認識していたとは考え難い。原告らは、b教諭 の説明(認定事実⑸ウ)を受けて、現役で大学に進学するためには本件 自主退学勧告を受け入れざるを得ないと認識していたものと優に推認す ることができる(認定事実⑹ア参照)。 オ 以上の検討によれば、本件の事実関係の下においては、本件自主退学勧 15 告は、実質的にみれば、現役での大学進学を希望する原告に対し、本件高 校を退学することを事実上強制するものであったということができる。 ⑵ 自主退学勧告は、学校の内部規律を維持し、教育目的を達成するために行 われる教育的措置であるから、校長が生徒に対して自主退学勧告を行うか否 かの判断は、校長の合理的な教育的裁量に委ねられるべきものである。そう 20 である以上、裁判所において自主退学勧告が不法行為法上違法であるか否か を審査するに当たっては、校長と同一の立場に立って当該勧告をすべきであ ったかどうか等について判断し、その結果と当該勧告とを比較して、その適 否、軽重等を論ずべきではなく、校長の裁量権の行使としての当該勧告が、 全くの事実の基礎を欠くか又は社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲 25 を超え、又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、不法行為法 25 上違法であると判断することになるものと解される。他方において、自主退 学勧告 上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲 25 を超え、又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、不法行為法 25 上違法であると判断することになるものと解される。他方において、自主退 学勧告は、学校側の一方的意思表示により生徒の身分を失わせる懲戒処分と しての退学処分とはその本質を異にするものの、生徒を学外に排除すること を意図したものであって、退学処分と実質的に同視できるような場合には、 生徒の身分に重大な影響を及ぼす措置であるということができるから、校則 5 違反を理由として当該勧告をするか否かの判断においては、校則違反の態様、 反省の状況及び平素の行状、従前の学校の指導及び措置、自主退学勧告をし た場合又はしない場合における本人及び他の生徒への影響、自主退学勧告に 至る経過等の諸般の要素を慎重に考慮することを要し、当該生徒を学外に排 除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って選択されるべ 10 きであると解する(前掲最高裁昭和49年7月19日第三小法廷判決、最高 裁平成8年3月8日第二小法廷判決・民集50巻3号469頁、前掲最高裁 平成8年7月18日第一小法廷判決参照)。 ⑶ 本件においては、原告について、本件校則の違反を理由として自主退学勧 告をするか否かを判断する際の諸般の要素(①校則違反の態様、②反省の状 15 況及び平素の行状、③従前の学校の指導及び措置、④自主退学勧告をした場 合又はしない場合における本人及び他の生徒への影響、⑤自主退学勧告に至 る経過)に関し、以下の事情を指摘することができる。 ア 校則違反の態様 原告は、平成30年3月頃から本件交際を開始しており(認定事実⑵ 20 ウ)、本件自主退学勧告の時点で、約1年9か月間にわたり、本件校則 に違反していたということができる。もっとも、高校生の男女交際は、 それ自 成30年3月頃から本件交際を開始しており(認定事実⑵ 20 ウ)、本件自主退学勧告の時点で、約1年9か月間にわたり、本件校則 に違反していたということができる。もっとも、高校生の男女交際は、 それ自体が直ちに刑罰法規等に抵触するわけではなく、また、一般的に、 社会通念上許容されない行為であると理解されているわけでもない。男 女交際は、本件高校の生徒にとって、懲戒処分等の対象となり得る校則 25 違反ではあるが、それのみをもって、本件退学規定の掲げる退学処分事 26 由に準ずる行為に当たるとまでいうことはできない。 原告は、本件生徒甲と交際している事実を秘密にし、数人の親しい友 人にのみ話しており(認定事実⑵ウ)、本件交際が本件高校で他の生徒 に広く認識され、他の生徒に動揺を与えるものであったことを認めるに 足りる証拠はない。原告による本件校則の違反(本件交際)は、その態 5 様に鑑みても、本件退学規定の掲げる退学処分事由に準ずる行為に当た るとまでいうことはできない。 イ 反省の状況及び平素の状況 a 原告は、本件事情聴取を経て、最終的には、本件交際の事実等を認 めており(認定事実⑷ウ ・ )、原告による反省の態度等に特段問 10 題があったことはうかがわれない。 b 証人e(3、21~23頁)は、本件校則の違反への対応は、違反 の状況、反省の有無・程度、今後の見通し等を総合して判断するとし、 原告の反省の有無・程度については、最終的には面談を通じて判断す ることを予定していた旨証言する。しかしながら、原告は、本件交際 15 の事実を告白して自宅謹慎を命じられてから本件自主退学勧告を伝え られるまでの間、事実確認等を受けるなどしたことはなく(認定事実 ⑷エ、同⑸ウ)、証人e(28~29頁)が、性交渉を伴う男女交際 が判明した場合には、生徒の反省の有 命じられてから本件自主退学勧告を伝え られるまでの間、事実確認等を受けるなどしたことはなく(認定事実 ⑷エ、同⑸ウ)、証人e(28~29頁)が、性交渉を伴う男女交際 が判明した場合には、生徒の反省の有無・程度等にかかわらず、自主 退学勧告をすることになる旨証言していることを併せ考えても、本件 20 校長が、原告に対する自主退学勧告の要否を検討するに当たり、原告 の反省状況等を適切に考慮したのかは疑わしいといわざるを得ない。 原告は、本件高校において、身だしなみや授業態度等について注意を 受けたこと(認定事実⑵イ)はあるが、本件自主退学勧告以前において 懲戒処分等を受けたことはない。また、原告の学業成績や出席状況等に 25 問題はなく、第1学年在籍時から継続的に学級委員を務めており、第3 27 学年前期には指定校推薦を受けたこと(認定事実⑵ア・オ)等に鑑みれ ば、本件高校における原告の平素の行状は、概ね良好なものであったと いうことができる。 ウ 従前の学校の指導及び措置 原告は、本件高校内で本件生徒甲と2人で会話している際に教員から 5 気を付けるように声を掛けられることがあったほか、第2学年在籍時に 当時の担任教員から本件生徒甲との交際を疑われないように注意を受け、 第3学年の面談時には、男女交際の噂を指摘された上で、本件校則に違 反していないことの確認を求められている(認定事実⑵ウ~オ)。しか しながら、これらの教員の言動は、飽くまでも原告に対して注意を促す 10 ものにすぎず、教員において、原告が本件校則に違反したとして具体的 な指導を行ったわけではない。そうである以上、原告について、本件校 則の違反が発覚して具体的な指導を受けたにもかかわらず、これに従わ ずに再度違反を繰り返したなどと評価することはできない。また、本件 高校は、原告につき男女 はない。そうである以上、原告について、本件校 則の違反が発覚して具体的な指導を受けたにもかかわらず、これに従わ ずに再度違反を繰り返したなどと評価することはできない。また、本件 高校は、原告につき男女交際の噂があり、何度か原告に注意したことが 15 あったことを前提とした上で、原告について指定校推薦をしており(認 定事実⑵ウ~オ)、少なくとも指定校推薦の時点で、これらの事情を特 段重視すべきものと理解していなかったことは明らかである。 原告による本件校則の違反の事実が発覚したのは、今回が最初である ところ、原告による反省の態度に特段問題はなく、本件高校における原 20 告の平素の行状も概ね良好であったこと等(前記イ )に照らせば、本 件校則の違反(本件交際)につき、原告に対して教育的指導を行ったな らば、今後は本件校則を遵守することを期待することができる状況にあ ったということができる。少なくとも、原告につき、本件交際が発覚し て具体的な指導を受けたにもかかわらず、これに従わず、本件校則の違 25 反を繰り返すことが見込まれる状況にあったなどということはできない。 28 エ 自主退学勧告をした場合又はしない場合における本人及び他の生徒への 影響 a 本件自主退学勧告は、大学入学試験を控えた時期において、現役で 大学に進学するためには早急に本件高校を退学して転校する必要があ るとの説明とともに伝えられたこと(認定事実⑸ウ)に鑑みれば、現 5 役での大学進学を希望していた原告にとって、極めて大きな影響を及 ぼすものであったということができる。 b 本件慣例を前提とすれば、仮に原告が本件自主退学勧告に応じなか った場合には、1か月程度の謹慎処分がされる見込みであったという ことができる(認定事実⑸イ )ところ、原告の志望校の入学試験の 10 出願期間が令 前提とすれば、仮に原告が本件自主退学勧告に応じなか った場合には、1か月程度の謹慎処分がされる見込みであったという ことができる(認定事実⑸イ )ところ、原告の志望校の入学試験の 10 出願期間が令和2年2月以降であったこと(認定事実⑹ウ )に鑑み れば、現役で大学に進学する原告の希望を前提とした場合において、 原告が本件自主退学勧告を受け入れて通信制高校等に編入することが 必要不可欠であったとまでいうことはできない。 また、原告の平素の行状(前記イ )に鑑みても、原告による本件 15 校則の違反(本件交際)に対する懲戒処分等につき、指定校推薦の取 消しに加えて、自主退学勧告以外の教育的措置を選択した場合に、こ れによる訓戒的効果が不十分であることが見込まれる状況にあったと もいい難い。 a 仮に、他の生徒らにおいて、原告が本件校則の違反を理由として退 20 学に至ったことを認識していたならば、本件自主退学勧告(本件退学) は、他の生徒に対して本件校則の遵守の必要性等を改めて認識させる という教育的効果があるということはできる。しかしながら、男女交 際の有無等は、プライバシー性の高い事項であり、本件交際が本件高 校で他の生徒に広く認識されているといった事情も認められない以上、 25 本件自主退学勧告や本件退学の経緯等を他の生徒に説明すること自体 29 が相当ではない(なお、証人e〔23頁〕は、一般的に、他の生徒に おいて、退学が男女交際を理由とするものであったことを知ることは ない旨証言している。)。そうである以上、本件自主退学勧告(本件 退学)が、他の生徒に対する教育的効果を期待し得るものであったと はいい難い。 5 b 原告に対して自主退学勧告をしなかった場合における他の生徒らへ の影響等についてみるに、既に検討したとおり、本件高校の生徒及び 保護 対する教育的効果を期待し得るものであったと はいい難い。 5 b 原告に対して自主退学勧告をしなかった場合における他の生徒らへ の影響等についてみるに、既に検討したとおり、本件高校の生徒及び 保護者は、本件慣例の内容を認識していなかったのであるから、性交 渉を伴う男女交際について自主退学勧告がされなかったからといって、 そのことにつき、他の生徒が不満(不公平感等)を抱くことは考え難 10 い。また、本件交際の噂は、少なくとも断続的にあったことがうかが われるものの(認定事実⑵ウ~オ)、原告は、本件交際の事実を秘密 にしており、他の生徒において、本件交際が性交渉を伴うものであっ たという事実が広まっていたとも考え難い。そうである以上、原告に つき、自主退学勧告ではなく、謹慎処分その他の教育的措置をするこ 15 とにより、他の生徒に対し、本件校則の規範性が弛緩しているといっ た印象を与えることはなく、他の生徒の男女交際を助長し、学内の風 紀の乱れを招くおそれがあったということもできない。 オ 自主退学勧告に至る経過 本件自主退学勧告は、本件事情聴取により本件交際の事実が判明した 20 翌日に決定されているところ、本件報告書には、原告に対する事情聴取 の経緯のみが記載され、本件交際が他の生徒に与えた影響等に関する記 載部分はない(乙10)。 a b教諭が作成した令和元年11月25日付け退学審査書(乙11) には、「一線を越えていることと、級友など周りの人間もあまりにも 25 状況を知りすぎているため退学勧告となった。」と記載されているが、 30 既に検討したとおり、本件交際が本件高校で他の生徒に広く認識され ていたといった事情を認めるに足りる証拠はない。 b 証人e(24頁)は、本件校則の違反が他の生徒に与える影響を把 握することは困難である旨証言して とおり、本件交際が本件高校で他の生徒に広く認識され ていたといった事情を認めるに足りる証拠はない。 b 証人e(24頁)は、本件校則の違反が他の生徒に与える影響を把 握することは困難である旨証言しているところ、本件校長が、原告に 対する事情聴取から本件自主退学勧告を決定するまでの間に、本件交 5 際が他の生徒に与えていた影響等を具体的に把握したことを認めるに 足りる証拠はない。退学審査書の上記記載(「級友など周りの人間も あまりにも状況を知りすぎている」)が何を意味するかは明らかでは ないが、原告につき男女交際の噂があり、何度か原告に注意したこと があったこと、又は、本件生徒乙が本件事情聴取に同席したこと等を 10 指摘するものにすぎないと解される。本件全証拠によっても、原告と 本件生徒甲との交際が噂になることがあり、一部の限られた生徒が本 件交際の事実を知っていたということを超えて、本件交際が他の生徒 の学習教育環境に具体的な支障を与えていたといった事情を認めるこ とはできない。 15 上記検討のとおり、本件自主退学勧告が僅か1日で決定され、その際 に考慮した具体的事情も明らかでないことに加え、本件高校における原 告の平素の行状が概ね良好なものであったこと(前記イ )、証人eが、 性交渉を伴う男女交際が判明した場合、生徒の反省の有無・程度等にか かわらず、自主退学勧告をする旨証言していること(前記イ b)等を 20 併せ考えれば、本件自主退学勧告は、本件慣例に依拠し、これを形式的 に適用して決定されたものであると評価せざるを得ない。 ⑷ 上記⑶で検討した諸般の要素によれば、原告の校則違反の態様が悪質であ ったとまでいうことはできず、原告に対して自主退学勧告をしなければ、他 の生徒の男女交際を助長し、学内の風紀の乱れを招くおそれがあったという 25 ことも 要素によれば、原告の校則違反の態様が悪質であ ったとまでいうことはできず、原告に対して自主退学勧告をしなければ、他 の生徒の男女交際を助長し、学内の風紀の乱れを招くおそれがあったという 25 こともできないのに対し、原告の平素の学校生活の行状は本件高校の生徒と 31 して概ね良好であり、従前の学校からの指導の状況に照らせば、原告に対す る教育的指導によって本件校則の遵守が見込まれる状況にあったことに加 え、本件自主退学勧告による原告への影響が極めて重大なものであったこと からすると、原告を学外に排除することが教育上やむを得ない状況にあった と認めることはできない。そうである以上、本件校長は、本件自主退学勧告 5 をするに当たり、このような個別具体的な事情を適切に考慮することなく、 本件慣例を過度に重視し、これを形式的に適用したものといわざるを得ない。 したがって、原告による本件校則の違反(本件交際)について、原告に対 する教育的指導等を経ることなく、本件自主退学勧告を行ったことは、考慮 すべき事情を考慮せず、又は考慮された事実に対する評価が明白に合理性を 10 欠き、その結果、社会通念上著しく妥当を欠いていると評するほかはなく、 本件校長が有する教育上の裁量の範囲を超える違法なものというべきである。 ⑸ア 被告は、原告による本件校則の違反が本件高校の学習教育環境に重大な 悪影響を生じさせていたとして、本件自主退学勧告は本件校長の裁量権の 範囲内のものである旨主張する(前記第3の2⑵イ 参照)。 15 しかしながら、既に検討したとおり、原告が、男女交際の噂を指摘され たり、本件生徒甲との交際の有無につき確認を受けたりしていたこと(認 定事実⑵ウ~オ)を踏まえて、本件全証拠を検討しても、本件交際が他の 生徒の学習教育環境に具体的な支障を与えていたといった事情 摘され たり、本件生徒甲との交際の有無につき確認を受けたりしていたこと(認 定事実⑵ウ~オ)を踏まえて、本件全証拠を検討しても、本件交際が他の 生徒の学習教育環境に具体的な支障を与えていたといった事情を認めるこ とはできない。この点、証拠(甲8、23、原告本人〔22~23〕)及 20 び弁論の全趣旨によれば、原告が、SNS(インスタグラム)において、 原告が本件生徒甲と写った写真を投稿していたことは認められる。しかし ながら、原告は、アカウント名を本件生徒甲以外に教えておらず、本件生 徒乙は本件生徒甲の後ろの席であったことから、上記アカウント名を盗み 見て知るに至った旨の説明をしており、少なくとも上記アカウントや上記 25 写真が他の生徒に広く認識されていたといった事情はうかがわれない。 32 また、本件交際は、本件生徒乙による連絡(本件報告)によって発覚し たものではあるが、これは、本件生徒乙において、原告が別件事情を本件 生徒甲に話したこと等に憤慨したことを契機としており(認定事実⑶ア・ イ)、本件交際を原因として生徒間の人間関係に問題が生じていたものと みることはできない。 5 以上によれば、被告の上記主張は採用することができない。 イ 被告は、本件高校が、本件校則の違反への対応につき、その専門的・ 教育的裁量に基づき、性交渉の有無を重視することについては合理性が あるとして、本件自主退学勧告は本件校長の裁量権の範囲内のものであ る旨主張する(前記第3の2⑵イ )。 10 a 本件校則は、生徒が男女交際により傷付くという事態を避けるとと もに、男女交際が他の生徒に悪影響を与えることを防止することによ り、生徒を学業等に専念させることを目的とするものである(認定事 実⑴ウ)ところ、性交渉を伴う男女交際は、これを伴わないものに比 べ、①当該生徒 男女交際が他の生徒に悪影響を与えることを防止することによ り、生徒を学業等に専念させることを目的とするものである(認定事 実⑴ウ)ところ、性交渉を伴う男女交際は、これを伴わないものに比 べ、①当該生徒において、妊娠等の問題が生じたり、性的逸脱行動等 15 に繋がったりする可能性が生じ、②他の生徒において、性交渉を伴う 男女交際があった事実を知ることによって動揺するなどして、学習教 育環境の悪化に繋がる可能性が相対的に高いということはできる。 b 既に検討したとおり、本件校則は、本件高校の生徒を規律するもの として有効であり、本件校則の違反に対する指導の方法等は、本件校 20 則の趣旨・目的を踏まえた適切な運用に委ねられているというべきで あるから、本件校則の違反への対応を検討するに当たり、性交渉の有 無を重視するか否かは、本件校長の専門的・教育的裁量に属するとい うことができる。また、本件校則が本件高校の教育方針等を具体化し たものであり、生徒及び保護者がこれを前提として在学関係を設定し 25 ていること等に鑑みれば、本件校則の違反への対応において、本件高 33 校内の秩序(本件校則を前提とする学習教育環境)の維持を重視する か否かについても、本件校長の専門的・教育的裁量に属するというこ とができる。 a 他方において、高校生が恋愛感情を持つことは至極自然なことであ って、前述のとおり、男女交際は、それ自体が社会通念上許容されな 5 い行為であると理解されるわけではないから、本件校則の違反の態様 として性交渉があったことのみをもって、本件交際が本件退学規定の 掲げる退学処分事由に準ずる行為に当たるとはいい難い。 b また、交際相手の有無や性交渉の有無は、私生活上の事柄であり、 本件校則の違反の有無・程度の確認や調査には限界があるといわざる 10 を得ず 掲げる退学処分事由に準ずる行為に当たるとはいい難い。 b また、交際相手の有無や性交渉の有無は、私生活上の事柄であり、 本件校則の違反の有無・程度の確認や調査には限界があるといわざる 10 を得ず、本件校則の運用に当たっては、この点を十分考慮する必要が ある。本件慣例によれば、生徒が本件校則の違反を真摯に反省し、性 交渉を伴う男女交際の事実を告白した場合、その他の事情にかかわら ず、自主退学勧告を受けることとなるが、このような運用が、本件校 則の趣旨・目的に沿っているとはいい難く、教育的措置としての懲戒 15 処分等の公平の観点からも問題があるといわざるを得ない(なお、証 拠〔甲23、24〕によれば、本件退学後、複数の生徒から、本件生 徒乙が男女交際している旨の連絡がされたが、本件生徒乙は男女交際 の事実を認めず、特段の懲戒処分等を受けなかったことが認められ る。)。 20 c さらに、本件校則の違反への対応において、本件高校内の秩序の維 持の観点を重視するとしても、同観点を踏まえて懲戒処分等の要否・ 内容を検討する以上、当該違反が他の生徒の学習教育環境に与えた影 響や反省の有無・程度等を適切に考慮する必要があるというべきであ る。本件において、本件交際が性交渉を伴うものであったという事実 25 は、原告の告白(本件事情聴取)により初めて判明したものであると 34 ころ、当該事実が他の生徒の学習教育環境に対して支障を与えること になったとはおよそ考え難い。本件慣例は、本件校則の違反が他の生 徒に与えた影響、反省の有無・程度等を全く考慮することなく、男女 交際が性交渉を伴うものであることのみを理由として、当該生徒を学 外に排除することを意図したものといわざるを得ず、本件校則が本件 5 高校の教育方針等を具体化したものであり、これを前提とする学習教 育環境の 性交渉を伴うものであることのみを理由として、当該生徒を学 外に排除することを意図したものといわざるを得ず、本件校則が本件 5 高校の教育方針等を具体化したものであり、これを前提とする学習教 育環境の維持が重要であることを踏まえても、本件慣例の形式的な適 用は、教育的措置として、著しく妥当を欠くというべきである。 上記検討によれば、本件校則の違反への対応において、本件高校内の 秩序維持の観点から、性交渉の有無を重視することを前提としても、当 10 該違反が他の生徒に与えた影響、反省の有無・程度等を全く考慮せず、 性交渉があったことのみを理由として、自主退学勧告をすることは、社 会通念上著しく妥当を欠き、本件の事実関係の下では、本件自主退学勧 告は、本件校長が有する教育上の裁量の範囲を超えるものといわざるを 得ない。したがって、被告の上記主張は採用することができない。 15 ウ 被告は、本件自主退学勧告に至る経緯等に関し、原告が大学受験を控え ていることから速やかに本件自主退学勧告を決定したとして、本件自主退 学勧告は本件校長の裁量権の範囲内のものである旨主張する(前記第3の 2⑵イ )。 しかしながら、原告の志望校の入学試験の出願期間が令和2年2月以降 20 であったこと(認定事実⑹ウ )に照らせば、原告は、本件自主退学勧告 に応じず、謹慎処分を受けた上で、志望校を受験することも可能であった ということができる。原告が、現役で大学に進学するためには本件自主退 学勧告に応じざるを得ないと認識していたこと(認定事実⑹ア)に鑑みれ ば、b教諭が、原告及び原告母に対し、本件自主退学勧告の趣旨・目的の 25 ほか、本件自主退学勧告に応じない場合における大学進学の可否・難易等 35 について適切な説明をしていたとはいい難い。本件自主退学勧告が原告の 希望(現役で 本件自主退学勧告の趣旨・目的の 25 ほか、本件自主退学勧告に応じない場合における大学進学の可否・難易等 35 について適切な説明をしていたとはいい難い。本件自主退学勧告が原告の 希望(現役での大学進学)に配慮したものであったということはできず、 既に検討したとおり、本件自主退学勧告は、現役での大学進学を希望する 原告に対し、本件高校を退学することを事実上強制するものであったとい うべきである。 5 以上によれば、被告の上記主張は採用することができない。 4 争点3(本件事情聴取の違法性の有無)について ⑴ア 本件事情聴取は、原告が本件校則に違反しているか否かを確認するため に行われたものであるところ、b教諭及びa教諭は、本件報告により、原 告及び本件生徒甲が本件校則に違反していると疑わざるを得ない状況に 10 あった(認定事実⑶イ)のであるから、a教諭が原告に対して本件生徒甲 と交際しているか否かを確認することは、原告に対する教育的措置の要否 等を検討するために必要な行為であったということができる。また、本件 交際における性交渉の有無は、本件校則の違反状況等を示す事情である上、 原告に対する教育的措置の方法等を検討する際に考慮する事情でもあっ 15 たということができるから、a教諭が原告に対して本件生徒甲との性交渉 の有無を確認することについても、原告に対する教育的措置の要否等を検 討するために必要な行為であったということができる。 イ 本件事情聴取の態様についてみても、a教諭は、本件事情聴取の際、原 告に対して威圧的な態度をとることはなく(認定事実⑷オ)、本件事情聴 20 取が相当長時間に及んだこと等を踏まえても、a教諭が原告に対して本件 交際等の事実を認めることを強制したなどということはできない。この点 に関し、a教諭が本件生徒乙を同席させたこ )、本件事情聴 20 取が相当長時間に及んだこと等を踏まえても、a教諭が原告に対して本件 交際等の事実を認めることを強制したなどということはできない。この点 に関し、a教諭が本件生徒乙を同席させたこと(認定事実⑷イ)の当否に ついては疑問の余地はあるが、本件生徒乙に対して本件報告の根拠となっ たSNSの画像等を示してもらう必要があったと考えられることに加え、 25 本件生徒乙の同席について他の教員に相談していたこと(認定事実⑷イ ) 36 等を併せ考えれば、a教諭が本件生徒乙を同席させたことが違法な措置で あったとまでいうことはできない(なお、原告は、本件生徒乙が同席して いる間、本件交際等の事実を否定していた〔認定事実⑷イ 〕。)。 ウ 以上によれば、本件事情聴取が不法行為法上違法であるということはで きない。 5 ⑵ 原告は、本件事情聴取が、原告のプライバシーないし内心の平穏に対する 違法な侵害に当たる旨主張する(前記第3の3⑴参照)。確かに、交際相手 の有無や性交渉の有無は、私生活上の事柄であり、その意思に反して回答を 強制することが許されるものではない。しかしながら、本件高校が本件校則 により男女交際を禁止しており、その生徒は本件校則に服することを義務付 10 けられる以上、少なくとも本件校則に違反した事実が疑われる状況において、 教員が上記事実の有無等を生徒に確認すること自体が違法であるというこ とはできない。また、上記事実の確認や調査が、不適切な方法で実施される こと等によって違法との評価を受けることはあり得るとしても、本件事情聴 取については、既に検討したとおり、その経緯や態様等に鑑み、これを不法 15 行為法上違法であるということはできない。したがって、原告の上記主張は 採用することができない。 5 争点4(原告に生じた損害の額)につい に検討したとおり、その経緯や態様等に鑑み、これを不法 15 行為法上違法であるということはできない。したがって、原告の上記主張は 採用することができない。 5 争点4(原告に生じた損害の額)について ⑴ア 原告は、本件退学後、編入先高校に編入している(前提事実⑸)ところ、 証拠(甲12、13)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、編入手続のた 20 めの費用として、18万0426円を支出したことが認められる。他方に おいて、原告は、本件退学に伴い、被告から9万5000円の授業料の返 金を受けたことが認められ(弁論の全趣旨)、この返金は損益相殺の対象 になるというべきである。したがって、原告が支出した編入手続のための 費用(18万0426円)のうち、授業料の返金分(9万5000円)を 25 差し引いた8万5426円が、本件自主退学勧告と相当因果関係のある損 37 害であると認められる。 イ 原告は、本件高校からの指定校推薦による進学が予定されていたのに、 本件退学により、学習塾に通学した上で、受験料を支払って複数の大学を 受験することを余儀なくされたとして、これらに要した費用も本件自主退 学勧告と相当因果関係を有する損害である旨主張する。しかしながら、原 5 告が本件高校に在籍し続けたと仮定しても、原告が本件校則に違反した事 実が発覚した以上、原告に対する指定校推薦の取消しは避けられない状況 であったといわざるを得ない。したがって、学習塾に通うために支出した 費用や大学受験のために支出した費用について、本件自主退学勧告との相 当因果関係を認めることはできない。 10 ⑵ 原告は、本件自主退学勧告を受け、卒業間近の時点で、それまでに友人関 係等を築き、愛着のある本件高校を退学するという重大な決断を迫られたほ か、短期間のうちに編入先高校に編入した上で大学受験 10 ⑵ 原告は、本件自主退学勧告を受け、卒業間近の時点で、それまでに友人関 係等を築き、愛着のある本件高校を退学するという重大な決断を迫られたほ か、短期間のうちに編入先高校に編入した上で大学受験に向けた準備をする こと等を強いられており、これにより相当程度の精神的苦痛を被ったものと 認められる。他方において、原告は、本件校則に違反した場合には何らかの 15 懲戒処分等を受けることになると認識しながら、また、本校高校の教員から 注意喚起等を受けていながら、あえて本件校則に違反し続けたのであり、こ れらの事実関係は、その慰謝料を減額する事情として考慮せざるを得ない。 原告による校則違反が約1年9か月に及んでいたこと、原告が本件校則に違 反した以上、何らかの懲戒処分等を受けることは避けられなかったこと、そ 20 の他本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると、原告の精神的苦痛を慰謝す るための金額としては、80万円をもって相当であると認める。 ⑶ 本件事案の内容、本件訴訟の経過、原告に生じた損害額等を総合考慮する と、本件訴訟の追行に要した弁護士費用のうち9万円が、本件自主退学勧告 と相当因果関係のある損害であると認められる。 25 ⑷ 以上によれば、違法な本件自主退学勧告により原告に生じた損害の額は、 38 97万5426円であると認められる。 第5 結論 以上によれば、原告の請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し、その 余はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 5 東京地方裁判所民事第49部 裁判長裁判官 村 田 一 広 10 裁判官 谷 池 政 洋 15 裁判官 後 藤 彩 裁判長裁判官 村 田 一 広 10 裁判官 谷 池 政 洋 15 裁判官 後 藤 彩

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