令和6年2月8日宣告広島高等裁判所令和5年第83号公職選挙法違反被告事件原審広島地方裁判所令和4年(わ)第126号 主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は、弁護人中村健太(主任)作成の控訴趣意書に記載のとおりであるからこれを引用するが、論旨は、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というものである。 そこで、記録を調査して検討する(なお、略称については原判決のそれと同様である。)。 1 原判決の判断概要原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、令和元年7月21日施行の参議院議員通常選挙に際し、広島県選出議員選挙の選挙人であり、同選挙に立候補する決意を有していたAの選挙運動者である被告人が、Aを当選させる目的で、同人への投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、同年6月17日頃、広島市内のA選挙事務所において、Aの配偶者であるBから現金30万円の供与を受けた、というものである。 原判決は、概要、本件選挙におけるAの置かれた状況、AとBとの関係、金銭交付の時期、交付した金額、本件金銭交付を示す記載のあるリストの保存状況等に照らすと、Bが被告人に交付した金銭に、本件選挙に関し、Aを当選させる目的で、Aへの投票や投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬が含まれていたことは明らかであり、被告人の当選祝いとしては不自然さは否めず、その趣旨を証拠上排斥できないとしてもその可能性はかなり低く、そもそも、当選祝いやⅩ党の党勢拡大、B及びAの地盤 培養等の趣旨があったとしても、それらの趣旨は上記報酬の趣旨と両立ないし重なるものであり、それにより上記報酬の趣旨が含まれることは否定されないと 祝いやⅩ党の党勢拡大、B及びAの地盤 培養等の趣旨があったとしても、それらの趣旨は上記報酬の趣旨と両立ないし重なるものであり、それにより上記報酬の趣旨が含まれることは否定されないと説示した上、被告人の認識について、本件選挙におけるAの置かれた状況、AとBとの関係、被告人が、BからAの選挙応援の依頼をされることや現金を渡されることを懸念し一旦は面会を断るなどしたが、本件選挙の公示日の2週間余り前の時期に結局Bとの面会に臨み、Aのポスター等が入った紙袋を渡されると共に現金入りの封筒を差し出され、押し問答をした末に受領したという経緯等に照らすと、被告人は、差し出された現金が選挙運動をすることの報酬を含むものであったと認識していたことは明らかであり、本件金銭交付につきBに領収書を交付していないことや、Bとの面会前後の妻に対する言動なども被告人の上記認識と整合しているとして、買収の趣旨を認識していなかったという被告人の供述を排斥し、Bは本件選挙にAを当選させる目的をもってAへの投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として被告人に対し現金30万円を供与し、かつ、このことを被告人も認識していたと認められるとの判断を示したものである。 2⑴ 所論は、Bが被告人に対し金銭を交付したのは選挙運動をすることの報酬としての趣旨を含むものであるとの原判決の判断について、①原判決は、Aが本件選挙で苦境に立たされていたかのように分析しているが、それが事実でないことはBの証言や被告人の供述から明らかである、②原判決は、Bが相手方の氏名や供与額を記載したリストを作成しながら地方議会議員ら合計約100名に現金を供与したと認定しているが、上記リストの内容は名前と金額を羅列したものにすぎず、実際に交付した相手方やその金額とも一致していない 額を記載したリストを作成しながら地方議会議員ら合計約100名に現金を供与したと認定しているが、上記リストの内容は名前と金額を羅列したものにすぎず、実際に交付した相手方やその金額とも一致していないのであるから、実際の現金供与との関連性はなく、作成しながら現金を供与したという原判決の説示は誤りである上、上記リストの題名は「陣中見舞い等」であり買収に関係す るものではないから、これを買収の趣旨の認定根拠とすることはできない、③被告人は頼まれなくてもAの選挙応援を自主的にするような立場にあり、組織力に乏しく票の取りまとめも期待できない被告人に、リスクを冒してまで選挙応援を頼み報酬を前払いする必要はない、④Bが公示2週間前に被告人と面会したことは特に意識したものではなく、Bが渡したAのポスター等はⅩ党の地盤作りのものであり、Bも渡したことを失念し被告人も結局は廃棄するなど客観的には価値のあるものではなかったから、強調すべき事柄ではない、⑤当選から2か月後に当選祝いを渡すことは不自然ではなく、当選祝いの趣旨を証拠上排斥できないならそのとおり認定すべきであるし、Ⅹ党の党勢拡大等の活動であれば現職候補者のための活動ともなるのであり、Aの選挙応援の報酬の趣旨とは両立しない、また、Bは本件金銭交付について被告人への励ましと今後仲良くするための寄付的なものと証言しており、当選祝いが口実だとすればその裏側には仲間作りの資金という切実な意向があったのであって、その内容は客観的事実と整合し体験した者しか証言し得ないものであり信用することができるなどと指摘して、Bによる金銭交付にAの選挙応援の趣旨が含まれると認めた原判決の判断には誤りがあるというのである。 しかしながら、上記所論①についてみるに、所論のいうように本件選挙においてAに有利な事 指摘して、Bによる金銭交付にAの選挙応援の趣旨が含まれると認めた原判決の判断には誤りがあるというのである。 しかしながら、上記所論①についてみるに、所論のいうように本件選挙においてAに有利な事情もあったことは否定できないにしても、広島県連がAの支援を行わない方針を決定し、Aが県内の支援団体等の組織的なバックアップを期待できなかったことは、広島県全域を選挙区とする本件選挙においてAに不利に働き得ることは間違いのない状況といえるのであるから、原判決が、そのような状況にあったことを本件金銭交付に選挙運動の報酬の趣旨が含まれていることを推認する一つの事情として指摘したことに誤りがあるなどとはいえない。上記所論②につ いてみても、上記リストは「A参議院議員選挙'19」と題するフォルダに保存されており、Bは誰に幾ら持って行こうかと思いを巡らせながら作成したと証言しており、被告人を含めリストの記載通りに現金が供与された者もあったのであるから、上記リストはBがAの選挙応援のための現金供与を念頭において作成され、これが実際の現金供与につながっていたものとみることができる。そして、いかに手持ちのリストであるからといって買収金などと露骨に記載することは考え難いことからしても、当該リストの題名が買収金等ではなく「陣中見舞い等」と記されていたことが、供与された現金の趣旨が買収であるとの推認を妨げるような事情とはみられないのであるから、リストを作成しながら現金を供与したという原判決の説示に特段誤りがあるなどとはいえない。上記所論③についてみても、被告人が組織力に乏しくさほど影響力がなかったとしても、被告人は実際過去にAの選挙で協力をしているのであって、本件選挙においても投票や投票に向けた協力をそれなりに期待し得る立場にあったといえるのであ 告人が組織力に乏しくさほど影響力がなかったとしても、被告人は実際過去にAの選挙で協力をしているのであって、本件選挙においても投票や投票に向けた協力をそれなりに期待し得る立場にあったといえるのであり、このような被告人に対して金銭を交付することに意味がないわけではないから、所論の指摘は原判決の認定判断をいささかも左右するものではない。上記所論④についてみても、Bが特に公示2週間前を意識して面会したものでなく、渡したポスターは本件選挙に直接利用できるものではなかったにしても、Bは、広島県連の支援が期待できない中で、公示日を間近に控えた時期に、以前選挙協力もしてくれた被告人に、Aのポスター等の入った紙袋を持参して面会し、現金30万円の入った封筒を交付しているのは客観的な事実であり、また、「A参議院議員選挙'19」のフォルダ内のリストには「中区 C(被告人)30」との記載もあったのであるから、所論は、このような客観的事実を総合してBの金銭交付に選挙運動の報酬の趣旨が含まれていたと推認した原判決の判断を論難するに足る指摘とはいえない。ま た、上記所論⑤についてみても、無投票による当選後約2か月も経過した後に、特に説明もなく30万円もの現金の入った封筒を差し出して渡そうとし、一旦断られた後に、それまで被告人に対し一度も渡したことがない当選祝いと説明したというのは、当選祝いの趣旨だけの金銭交付とすればやはり不自然といわざるを得ないのであり、原判決も、被告人の当選祝いの趣旨を証拠上排斥できないとしても、その可能性はかなり低いと指摘しているのであって、その判断は適切かつ相当というべきである。そして、所論の指摘を踏まえてみても、現職候補者と共にAが当選すればⅩ党の党勢拡大にはなるのであるから、党勢拡大の趣旨とAの選挙応援に対する報酬の であって、その判断は適切かつ相当というべきである。そして、所論の指摘を踏まえてみても、現職候補者と共にAが当選すればⅩ党の党勢拡大にはなるのであるから、党勢拡大の趣旨とAの選挙応援に対する報酬の趣旨とは両立し得ないとはいえないのであり、さらに、所論が指摘するように、Bが、具体的な買収の意図はなく、配偶者であるAに当選してほしいという漠然とした思いがあったにすぎない旨証言しているにしても、原判決が指摘する状況事実ないし事情等を総合すれば、Bにおいて、被告人への金銭交付に際し、Aの当選を得しめる目的が含まれていたものと合理的に推認することができるのであって、Bがそのような曖昧な証言をしているからといって、それだけで原判決の判断が左右されるとはいえない。 ⑵ また、所論は、被告人の認識について、本件選挙においてはAの当選が見込まれていたのであり、AとBが夫婦であり、BがAの選挙をサポートしているからといって、被告人において、BがAの当選のため買収の金を渡すということまで認識できたとはいえないし、そもそも組織的バックアップのない被告人にはBも期待していなかったとみられるのであるから、金銭交付とAの選挙を結びつけることができたとはいえず、また、公示2週間前というのは特に意図したものではないし、ポスターは地盤培養のためのものであり、Bも記憶がないほどのものであるから重要ではなく、被告人が一旦受領を拒否したのはどんな金も受け取らな いという政治信条によるものであって、最終的に受け取ったのは、Bの強引さに折れ後で返せばいいと思ったからであり、当初金銭交付の事実を否認していたのも、被告人の認識としては、政治的寄付あるいは当選祝いという以外の意味がなかったことの証左であり、さらに、通常、当選祝いをもらった人がその場で現金を数えたり、 り、当初金銭交付の事実を否認していたのも、被告人の認識としては、政治的寄付あるいは当選祝いという以外の意味がなかったことの証左であり、さらに、通常、当選祝いをもらった人がその場で現金を数えたり、渡した人が領収証を要求したりすることはないから、被告人がその場で金額を確認せず領収証を交付しなかったことは一般的、常識的な行動であり、Bから金銭を受け取ったことを妻に報告しなかったのは、妻から、何の趣旨であれBから金を受け取らないように言われていたため、断り切れずに受け取ったことを説明しづらかった、Bに押し切られる人などと思われたくなかった、返す金だから報告不要と思ったなどといった理由からであり、受領した金銭を費消したのはいつでも返せる金額であったからであるなどと縷々主張し、被告人に買収の趣旨の認識があったと認めた原判決の判断は誤りであるというのである。 しかしながら、既に述べたとおり、本件選挙においてはAに不利に働き得る状況にあったことは否定できず、被告人においても、Aが広島県連から支援を得られていないなどの事情は知っていたというのであり、被告人は以前Aの選挙応援をした実績があって、客観的には選挙応援を期待される立場にあったのであるから、Bにおいて公示2週間前を意識して面会したものではなく、渡したポスターは実際には活用されないものであったにしても、そのような選挙情勢の中で、本件選挙を目前に控えた時期に、Bからポスター等を渡されたほか現金入りの封筒を渡されたということは、被告人に渡された現金が買収の趣旨であることを想起させるに十分な事情というべきである。被告人がBとの面会の前に選挙応援の依頼や現金を渡されることを懸念し、このことを妻に伝えていたこともむしろ被告人の認識を裏付ける事情とみることができる。そして、 被告人が、 きである。被告人がBとの面会の前に選挙応援の依頼や現金を渡されることを懸念し、このことを妻に伝えていたこともむしろ被告人の認識を裏付ける事情とみることができる。そして、 被告人が、受け取ることを一旦は断り、受け取った後も領収証を交付するなど金銭の授受を明確にすることをせず、また、Bと面会することを伝えていた妻に対し、Bから金銭を受け取ったことを告げなかったことは、被告人が買収の趣旨を認識していたことを裏付け、そのような認識に沿う行動であったというべきであり、このような事情も併せて被告人の買収の趣旨の認識を認定した原判決の判断に誤りがあるとはいえない。 ⑶ その他、所論は、Bが被告人に対し現金入りの封筒を差し出した時点では、被告人は封筒に現金30万円が入っていたと認識していなかったのであるから、Bが被告人に対し現金30万円が入った封筒を差し出したとの原判決の説示は誤っているなどともいうのであるが、原判決は、被告人が封筒の中身が現金の可能性があると考えて一旦受取りを断ったと説示しているのであって、被告人の認識ではなく客観的に現金30万円が入った封筒を差し出されたことを指摘しているにすぎないのであるから、所論は原判決の説示を的確に論難する主張とはいえない。また、所論は、原判決は、被告人がBと面会した際本件選挙がAにとってうまくいっていますねなどと発言したことについて、Aの選挙情勢が厳しいなどというとBからAの選挙応援の依頼の話をされると考えたことを殊更に取り上げているが、被告人は当時の内心を正確に記憶しているわけではなく、検察官から誘導されて、覚えていないというよりはできるだけ誠実な回答をしようとして後付けの理由を述べたものであって、原判決の認定評価は誤りであるともいうのであるが、被告人がそのように考えて発言したこ 察官から誘導されて、覚えていないというよりはできるだけ誠実な回答をしようとして後付けの理由を述べたものであって、原判決の認定評価は誤りであるともいうのであるが、被告人がそのように考えて発言したことは、当時の選挙情勢やBとの関係をみれば、状況として自然なやり取りとみることができるのであり、仮に、所論がいうようにそのような思惑が被告人の具体的な認識としてなかったとしても、そのことは金銭交付の趣旨の認識に関する原判決の判断の核心 を左右するものとはいえない。 3 以上のとおり、所論を踏まえて検討してみても、原判決の認定判断に論理則、経験則等に照らし特段不合理なところはなく、選挙運動の報酬の趣旨を認め、被告人にその認識があったと認定した原判決に事実の誤認があるとは認められない。 論旨は理由がない。 よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。 令和6年2月8日広島高等裁判所第1部裁判長裁判官森浩史 裁判官富張真紀 裁判官家入美香
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