主文 1 原判決を取り消す。 2 北大阪労働基準監督署長が,控訴人に対して平成17年2月14日付けでした労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付及び障害補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 北大阪労働基準監督署長が,控訴人に対して平成17年2月14日付けでした労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付及び障害補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。 第2 事案の概要 1 事案の骨子及び訴訟経過本件は,控訴人(昭和▲年▲月▲日生)が,居酒屋チェーン店の店長として勤務中の平成13年3月13日に急性心筋梗塞を発症したのは,長時間かつ深夜の過酷な労働という業務上の過重負荷に起因するとして,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づいて北大阪労働基準監督署長(以下「原処分庁」という。)に対して療養補償給付及び障害補償給付の支給を求めたところ,原処分庁が,平成17年2月14日付けでいずれも支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたため,その取消しを求めた事案である。 原審は,控訴人の従事していた業務と心筋梗塞との発症との間に相当因果関係を認めることができないとして,控訴人の請求を棄却したので,控訴人がその取消しを求めて控訴した。 以下,平成13年中の出来事に関しては,平成13年の記載を省略すること がある。 2 前提事実次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第2の2のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決3頁9行目の「救急外来で」の ること がある。 2 前提事実次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第2の2のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決3頁9行目の「救急外来で」の次に「医療法人」を加える。 (2) 原判決3頁23行目の「12月末ころ」を「10月31日付けで」と改める。 (3) 原判決4頁4行目の「までの間」の次に「の療養補償給付請求」を加える。 (4) 原判決4頁16行目から同17行目にかけての「脳血管疾患及び虚血性心疾患の認定基準」を「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」と改める。 3 争点及びこれに関する当事者の主張次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第2の3,4のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決5頁12行目の「18」を「16」と改める。 (2) 原判決6頁初行の「客席」の次に「及び」を加える。 (3) 原判決7頁4行目末尾に改行の上,次のとおり加える。 「 ところで,休憩時間とは,労働者が労働時間の途中において休息のために労働から完全に解放されることを保障されている時間であるところ,仮に控訴人が本件店舗内の更衣室兼倉庫で喫煙していたとしても,店内で何かあればいつでも対応できる状態であったから,休息のために労働から完全に解放されていることを保障されているとは到底いえず,休憩時間とはいえない。」(4) 原判決7頁8行目から同11行目までを次のとおり改める。 「 控訴人は,店長会議のある日は,午前9時30分にα駅に集合して本社へ行き,店長会議終了後,そのまま本件店舗に出勤していたため,睡眠時間 が削られることになった。特に,3月3日は,店長会議に出席するための資料を早朝まで作成しており,その日の勤務が 合して本社へ行き,店長会議終了後,そのまま本件店舗に出勤していたため,睡眠時間 が削られることになった。特に,3月3日は,店長会議に出席するための資料を早朝まで作成しており,その日の勤務が終了するまで一睡もできなかった。控訴人は,本件会社に入社する前は,日中の時間帯に勤務しており,本件会社に入社してから深夜時間帯に勤務するようになったのであるが,深夜時間帯での勤務に慣れてきたころに,日中の時間帯に店長会議へ出席することは,生活リズムに乱れを生じさせることになる。」(5) 原判決7頁22行目の「6時」を「5時」と改め,同末行の「前」を削る。 (6) 原判決8頁13行目の「午前3時9分」を「午前2時29分」と改める。 (7) 原判決9頁4行目の「ところが」から同7行目までを次のとおり改める。 「近畿大阪銀行に対する調査嘱託の結果によれば,平成13年2月13日から同年3月12日までのうち,控訴人のタイムカードの打刻時間よりも早く送金されているのは,2月13日の「15:58」,同月27日の「15:48」,3月1日の「15:59」,同月6日の「15:23」の4日間であり,本件店舗から同銀行のATMまで往復5分かかるとしても,それぞれの勤務開始時間は,2月13日が「15:53」,同月27日が「15:43」,3月1日が「15:54」,同月6日が「15:18」とされなければならない。そして,2月12日以前については,送金時刻が不明であるため,控訴人の勤務開始時間については,少なくとも基本的に午後4時とし,タイムカードの打刻時間がそれ以前であればその時間を勤務開始時間とすべきである。」(8) 原判決11頁5行目末尾に改行の上,次のとおり加える。 「 しかも,控訴人が店長になった1月16日から本件発症までの間に,休日はあったものの, その時間を勤務開始時間とすべきである。」(8) 原判決11頁5行目末尾に改行の上,次のとおり加える。 「 しかも,控訴人が店長になった1月16日から本件発症までの間に,休日はあったものの,暦日でみれば,当該1日24時間がまるまる休日になっている日は一日もない連続勤務となっている。」(9) 原判決11頁11行目末尾に次のとおり加える。 「特に,経験豊富なアルバイト店員が退職し,経験の少ないアルバイト店員 が多くなっていたため,シフトが組めずに控訴人の負担になっていたが,控訴人がエリアマネージャーにアルバイトの増員を要請したが,売上げの少なさを理由に拒否されたことから,ますます控訴人に負担がかかっていた。」(10) 原判決12頁10行目から同14行目までを次のとおり改める。 「 控訴人の本件発症前の業務は,店長として精神的な緊張を伴うものであり,労働時間の長さに加えて,深夜に及ぶものであったため,睡眠の質も十分ではなかった。このような控訴人の業務の質的・量的な過重性は,自律神経の失調を来すものであり,発症の基礎となる血管病変をその自然的経過を超えて増悪させるものであった。そして,控訴人は,本件発症当時35歳と若年で,健康診断などで格別の異常がなかったことから,基礎疾患がその自然の経過により心筋梗塞を発症する寸前まで進行していたとはいえず,ほかに確たる発症因子もないから,控訴人の本件発症と業務との間には相当因果関係があるといえる。」(11) 原判決14頁3行目末尾に次のとおり加える。 「なお,労働基準法上の休憩時間が,労働から完全に解放されることを保障されている時間と解されるとしても,業務の過重性が問題となる本件のような場合は,本件店舗内の更衣室兼倉庫で休憩(業務を行わない状態)をしていたのであれば,その時 労働から完全に解放されることを保障されている時間と解されるとしても,業務の過重性が問題となる本件のような場合は,本件店舗内の更衣室兼倉庫で休憩(業務を行わない状態)をしていたのであれば,その時間を労働時間として評価しないのは,当然である。」(12) 原判決16頁6行目末尾に次のとおり加える。 「控訴人は,店長になってから暦日でみれば当該1日24時間がまるまる休日となっている日は一日もないと主張するが,業務の過重性の判断において,暦日で休日の有無を検討することは無意味である。」(13) 原判決17頁10行目末尾に次のとおり加える。 「そのため,心筋虚血を引き起こすような冠攣縮の危険因子は,動脈硬化に みられるような血管壁の増殖性変化による器質的な血管狭窄を来す危険因子とは異なる要因が関与していることが示唆されている。」第3 当裁判所の判断 1 業務起因性の判断基準について次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第3の1のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決18頁13行目の「労災保険制度」から同14行目の「制度」までを「労働者災害補償制度は,使用者が労働者を自己の支配下において労務を提供させるという労働関係の特質にかんがみ,業務に内在ないし随伴する危険が現実化して労働者に傷病等を負わせた以上,使用者に無過失の補償責任を負担させるのが相当であるとする危険責任の法理に基づくもの」と改める。 (2) 原判決18頁24行目の「血管病変等が形成・進行・増悪」を「形成され,それが徐々に進行し,増悪」と改める。 (3) 原判決19頁5行目の「新認定基準は,」の次に「近年の医学研究等により,長期間にわたる疲労の蓄積も脳・心臓疾患等の発症に影響するものと考えられるようになってきたことから 増悪」と改める。 (3) 原判決19頁5行目の「新認定基準は,」の次に「近年の医学研究等により,長期間にわたる疲労の蓄積も脳・心臓疾患等の発症に影響するものと考えられるようになってきたことから,「異常な出来事」及び「短期間の過重業務」のほか,長期間にわたる疲労の蓄積についても,業務による明らかな過重負荷として考慮するものとし,」を加える。 2 控訴人の勤務状況について次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第3の2のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決19頁12行目から同13行目までを次のとおり改める。 「 前提事実,証拠(甲1,2,4ないし6,乙4ないし14,16ないし19(書証については枝番号を含む。以下同じ。),当審調査嘱託の結果,原審証人A,原審控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。」 (2) 原判決19頁18行目末尾に「同年1月31日までは,前店長であり,エリアマネージャーであったAが引継ぎのために一緒に勤務していたが,同年2月1日以降は,本件店舗に配属された正社員は控訴人1名であり,あとはアルバイトであった。」を,同23行目末尾に「控訴人の株式会社Bにおける勤務時間は,午前9時から午後6時までであった。」を,それぞれ加える。 (3) 原判決19頁25行目の「(甲1」から同末行までを次のとおり改める。 「(甲1,2,4ないし6,乙4ないし14,17ないし19,当審調査嘱託の結果,原審証人A,原審控訴人,弁論の全趣旨)」(4) 原判決20頁17行目の「であった」を「であり,正社員2名(うち1名が店長)が配属され,2名の正社員が交替で店長業務を行っていた」と改める。 (5) 原判決21頁4行目の「同時刻以降急に客が少なくなる」を「同時刻以降 あった」を「であり,正社員2名(うち1名が店長)が配属され,2名の正社員が交替で店長業務を行っていた」と改める。 (5) 原判決21頁4行目の「同時刻以降急に客が少なくなる」を「同時刻以降は,客が少なくなるが,常連客を中心に間欠的に来店があり,時には閉店時刻を過ぎても滞在することもあった。」と改める。 (6) 原判決21頁6行目の「(甲1」から同7行目末尾までを「(甲1,2,4ないし6,乙12ないし14,17,18,当審調査嘱託の結果,原審証人A,原審控訴人本人,弁論の全趣旨)」と改める。 (7) 原判決21頁末行末尾に次のとおり加える。 「行動計画書は,QSC(クオリティ,サービス,クリンネス)に関しての1か月の目標を記載するものであり,売上高の改善に関する目標設定も含まれていた。そして,エリアマネージャーのAの提案で,店長会議があるときには,その1時間ほど前にα駅に集合してから,本社に向かっていた。」(8) 原判決22頁初行の「午後2時」を「午前2時」と,同16行目の「していた。」を「していた(ただし,本件会社からタイムカード打刻前に送金業務を行うようにとの指示はなかった。)。」と改める。 (9) 原判決23頁7行目から同16行目までを次のとおり改める。 「 ラストオーダー時に注文がなかった場合は,閉店時刻前であっても,順次,客がいない部分から掃除を始めていた。また,ラストオーダー前であっても,客が少ない場合には,店内の清掃を行っており,控訴人は,本件疾病を発症した3月13日も午後8時前ころから,ダクトの掃除をしていた。」(10) 原判決23頁23行目の「タイムカードの打刻や」を削る。 (11) 原判決24頁12行目の「あった」を「あり,売上高は前年度の80%程度であった」と改め,同14行目の「1 していた。」(10) 原判決23頁23行目の「タイムカードの打刻や」を削る。 (11) 原判決24頁12行目の「あった」を「あり,売上高は前年度の80%程度であった」と改め,同14行目の「13,」の次に「14,」を加える。 (12) 原判決24頁19行目末尾に改行の上,次のとおり加える。 「 ただし,店長にはアルバイトの雇い入れの権限はなく,控訴人は,Aに,アルバイトの増員を求めたことがあったが,売上高の減少を理由に断られていた。」(13) 原判決24頁23行目の「18日」を「31日」と,25頁3行目の「57」を「56」と,それぞれ改める。 (14) 原判決25頁18行目から26頁6行目までを次のとおり改める。 「オ休憩及び休日について(甲1,2,4,乙4,9,11,13,14,16,19,原審証人A,原審控訴人本人,弁論の全趣旨)本件会社においては,就業規則で,休憩時間は,所定勤務時間が8時間を超える場合は,その途中において1時間以上と定められていた。 しかしながら,飲食店という業種であることから,従業員が一斉に連続して休憩をとることはできず,アルバイトと交替で分散して休憩をとることになっていたため,休憩を十分に取得できるかどうかは,いわば店長の采配に委ねられており,実際には,繁忙時には休憩をとることができず,閑散時であっても,アルバイト1名との2人体制で店舗を運営していることが多く,その場合には,調理や接客などの業務全般を任せ られるアルバイトと一緒でなければ,休憩をとることが困難であった。 控訴人は,1日に20本ないし40本程度の喫煙をしており,手のあいた際,本件店舗内の更衣室兼倉庫で喫煙することがあったが,店内でアルバイトだけでは対応できない場合には直ちに対応しなければならなかったし,食 ,1日に20本ないし40本程度の喫煙をしており,手のあいた際,本件店舗内の更衣室兼倉庫で喫煙することがあったが,店内でアルバイトだけでは対応できない場合には直ちに対応しなければならなかったし,食材等の発注書の作成やエリアマネージャーのAとの打合せなどの業務をしながら喫煙することもあった。 そのため,控訴人は,店長になるまでは合計して1時間の休憩を取得できたが,店長になった1月16日以降は,本件店舗の正社員が2名であった1月31日までと控訴人がC店に応援に行った際は,合計して1時間の休憩を取得することはできたが,正社員が控訴人1名になった2月1日からは,平均すれば1日当たり15分の休憩を取得できたにすぎなかった。 また,就業規則においては,休日は,週1回,年間96日以上とされ,控訴人の労働条件としても月8日又は9日とされていたが,控訴人が本件店舗の店長となってから本件発症までの間で休日を取得したのは1月22日,2月1日,2月5日,2月8日,2月25日,3月7日の6日間,発症前1か月間の休日は2日間にすぎず,控訴人は,本来休日であった2月15日,2月22日に店長会議に出席していた。」(15) 原判決26頁15行目の「加し,その後,直接,本件店舗に出勤した。」を「加した。」と,同24行目の「C店でも」を「C店では」と,それぞれ改める。 (16) 原判決26頁末行の括弧内を「甲1,2,6,乙5ないし14,17,18,当審調査嘱託の結果」と改める。 (17) 原判決27頁2行目の「別紙のとおり。」を「発症前1か月は別紙1,発症前2か月は別紙2のとおりであり,発症前3か月ないし発症前6か月については,ぞれぞれ原判決別紙の発症前3か月ないし発症前6か月のと おりである。」と改める。 (18) 原判決27頁の表を次の は別紙2のとおりであり,発症前3か月ないし発症前6か月については,ぞれぞれ原判決別紙の発症前3か月ないし発症前6か月のと おりである。」と改める。 (18) 原判決27頁の表を次のとおり改める。 発症前総労働時間時間外労働時間平均時間外労働時間1週間 59時間49分19時間49分1か月 268時間22分100時間14分 100時間14分2か月 241時間09分73時間09分 86時間41分3か月 247時間34分71時間34分 81時間39分4か月 218時間51分48時間33分 73時間22分5か月 228時間19分60時間19分 70時間45分 6か月 163時間28分21時間47分 62時間36分 3 上記2認定事実についての補足説明(1) 出勤時刻について控訴人は,開店準備作業を行う必要があるため,遅くとも午後4時には出勤していた旨主張し,証拠(甲2,5,原審証人A,原審控訴人)の中にはこれに副う部分がある。 確かに,証拠(甲1の99ないし102頁,6,当審調査嘱託の結果)によれば,控訴人は,2月13日には午後3時58分,2月27日には午後3時48分,3月1日には午後3時59分,3月6日には午後3時23分と,タイムカードの打刻時間より前に,近畿大阪銀行D支店のATMから前日の売上金を入金していることが認められる。そして,証拠(甲2,乙12,原審控訴人本人)によれば,売上金を入金するにはいったん本件店舗まで行って金庫から売上金を取り出す必要があり,本件店舗から上記銀行のATMまでの距離が約200mであることが認められ,そうすると,控訴人の出勤時刻は,上記入金時刻の3分前と認めるのが たん本件店舗まで行って金庫から売上金を取り出す必要があり,本件店舗から上記銀行のATMまでの距離が約200mであることが認められ,そうすると,控訴人の出勤時刻は,上記入金時刻の3分前と認めるのが相当である。 しかし,それ以外に,タイムカードの打刻時刻より前に出勤していたことを認めるに足りる証拠はなく,本件会社からタイムカードを打刻する前に売 上金を入金するように指示されたことはなく,タイムカード打刻前に開店準備を行わなければならない理由も見い出せないことからすれば,タイムカード打刻時間が午後4時以降であっても,常に遅くとも午後4時に出勤していたとの控訴人の原審供述(甲2の陳述記載も含む。以下同じ。)は採用することはできない。 したがって,控訴人の出勤時刻については,タイムカード打刻時間より前に売上金を入金している場合は,その入金時刻の3分前,それ以外は,店長会議の場合を除き,タイムカード打刻時間によって認定するのが相当である。 (2) 休憩時間について休憩時間とは,労働者が労働時間の途中において休息のために労働から完全に解放されることを保障されている時間であり,単に実労働に従事していないというだけで,何かあれば即時に実労働に就くことを要する場合には,手待時間であって休憩時間とはいえない。 この点,被控訴人は,業務の過重性を判断する際の休憩時間は,労働基準法上の休憩時間と同義に解する必要はなく,現に実労働に従事していなければ労働時間と評価すべきではない旨主張する。 しかしながら,業務の過重性の判断要素として労働時間の長さを考慮するのは,業務には,どのような業務であれ,それを遂行することによって生体機能に一定の変化を生じさせる負荷要因があり,この負荷要因によって様々なストレス反応が引き起こされるが,業務に 間の長さを考慮するのは,業務には,どのような業務であれ,それを遂行することによって生体機能に一定の変化を生じさせる負荷要因があり,この負荷要因によって様々なストレス反応が引き起こされるが,業務によって生じるストレス反応は,休憩・休息,睡眠,その他の適切な対処によって回復し得るものであるのに,恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には,ストレス反応が持続し,かつ,過大になり,ついには回復し難いものになり(これを疲労の蓄積という。),生体機能を低下させ,血管病変等が増悪することがあるという医学的知見に基づくものである(乙1ないし3)。そうすると,実労働に従事していなくても何かあれば即時に実労働に就くことを要する場 合は,休息を保障されず,業務によるストレスから解放されているとはいえないから,業務の過重性を判断する際にも,休憩時間ではなく,労働時間と評価すべきである。 これを本件について見るに,就業規則等の労働条件としては,休憩時間として,合計1時間を分散で取得することになっていたものの,飲食店であることから,客が少ないときなどを見計らって,ほかの従業員と交替で取得することになるため,労働条件どおりに休憩時間を取得するためには,調理や接客などの業務全般を任せられる従業員が交替要員として存在することが必要になるが,平成13年2月1日以降は,正社員が控訴人1名,後はアルバイトだけで,繁忙時には控訴人とアルバイト2名との3名以上の体制ではあるが,実際には休憩をとることはできないし,閑散時にはアルバイト1名との2人体制であるため,調理などを任せられるアルバイトと一緒に勤務していなければ休憩をとることが困難であり,たとえ,ベテランのアルバイトと一緒に勤務していても,本件店舗内の更衣室兼倉庫において喫煙をする程度であ るため,調理などを任せられるアルバイトと一緒に勤務していなければ休憩をとることが困難であり,たとえ,ベテランのアルバイトと一緒に勤務していても,本件店舗内の更衣室兼倉庫において喫煙をする程度であって,アルバイトだけでは対応できない場合には,直ちに対応しなければならなかったのであるから,このような実労働に従事していない時間も,手待時間であって,休憩時間と見ることはできない。 なお,Aは,原審において,自分が本件店舗の店長をしていたときには合計1時間程度の休憩をとることができたから,控訴人も合計1時間程度の休憩を取得できたと考えられる旨証言し,本件会社の人事部長作成の陳述書(乙13)にも,本件店舗の規模,客数,売上高からすると,控訴人が合計1時間程度の休憩を取得できたと考えられるとの陳述記載があるが,アルバイトの総人数が,Aが本件店舗の店長をしていたときには,7,8名であった(原審証人A)のに対して,控訴人が本件店舗の店長をしていたときには4,5名であって,Aが店長をしていたときよりも店長にかかる負担は大きいといえ,同様に休憩を取得できたとは認められないし,Aが,原審において,「会 社に対する書類を書く時間とか,いろんな帳面をつけるとかいう時間を利用しながら休憩を取ってました。」と証言していることからすれば,Aは,客の対応をしていない時間を休憩時間に組み入れて証言をしているともいえる。 そして,控訴人にはアルバイトの雇い入れの権限がなく,アルバイトの増員要求も実現されなかったことからすれば,本件店舗の規模,客数,売上高から,控訴人が合計1時間程度の休憩時間を取得できたとの人事部長の上記陳述記載も,上記2の控訴人の休憩時間についての認定を左右するものとはいえない。 したがって,控訴人以外に正社員がいた1月31日までとC店に応 計1時間程度の休憩時間を取得できたとの人事部長の上記陳述記載も,上記2の控訴人の休憩時間についての認定を左右するものとはいえない。 したがって,控訴人以外に正社員がいた1月31日までとC店に応援に行った際には,1日当たり合計1時間の休憩を取得できたと認められるが,控訴人のみが正社員となった2月1日以降の休憩時間は平均して1日当たり15分と認めるのが相当である。 (3) 終業時刻について控訴人は,タイムカードの打刻後も業務を行っており,実際の終業時刻は,タイムカードの打刻時間より20分程度後である旨主張し,それに副う供述をする。 しかしながら,タイムカードを打刻した後で業務に従事しなければならない合理的な理由が見い出せず,ほかに,控訴人の上記供述を裏付ける客観的な証拠がないことからすれば,控訴人の終業時刻については,タイムカードの打刻時間を基準にするのが相当である。 (4) その他控訴人は,店長会議の前には資料の作成に追われることが通常であり,店長会議がある時には,勤務終了後,睡眠を取ることなく店長会議に出席していた旨主張し,特に3月3日の店長会議のときは,前々日にAマネージャーから追加の報告書を作成するよう指示を受け,また,前日にAマネージャーから棚卸しをやり直して原価報告をするように指示されたため,睡眠もとら ずに店長会議に出席し,店長会議終了後は引き続き本件店舗で仕事をした旨供述する。 確かに,3月3日の店長会議は,繁忙日である土曜日に行われ,前日も比較的客数の多い金曜日であったから,営業時間内に店長会議に提出する資料を作成することは困難であったとも考えられるが,タイムカード打刻後に棚卸業務や店長会議に提出する資料を作成していたことを裏付ける客観的証拠がなく,タイムカード打刻後に棚卸業務 店長会議に提出する資料を作成することは困難であったとも考えられるが,タイムカード打刻後に棚卸業務や店長会議に提出する資料を作成していたことを裏付ける客観的証拠がなく,タイムカード打刻後に棚卸業務や店長会議用の資料を作成していたために睡眠をとらずに3月3日の店長会議に出席したことを認めるには足りない。 また,控訴人は,発症日の4日前の3月9日には,午前11時からチラシ配布をし,その後そのまま本件店舗での業務に従事した旨主張するが,控訴人が行っていたチラシの配布は,通行人に対してのものではなく,近隣のマンションの郵便受け等への配布であり(甲2),控訴人自身,再審査請求手続において,チラシの配布に要する時間は通常30分程度である旨説明していること(乙17)を踏まえると,3月9日,午前11時からチラシの配布を行っていたと認めるには足りない。 4 控訴人の健康状態及び本件疾病について次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第3の4のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決33頁9行目から同13行目までを次のとおり改める。 「 控訴人は,平成13年1月23日に実施された定期健康診断の結果,身長171.9cm,体重76.5kg,血圧118/62,心電図,尿所見には異常がなく,血糖値,コレステロールを含む血液生化学検査所見にも特に異常は認められなかったが,自覚症状として,胃の調子が悪い,最近食欲がないと訴えていた。なお,本件発症後の平成14年1月22日及び平成15年3月11日に行われた定期健康診断においても,特に異常は認め られていない。」(2) 原判決33頁17行目の「となっていたところ」を「となっており,3月5日には,仕事中息切れがしたり,息苦しく感じることがあり,同月8日には胸の痛みを感 は認め られていない。」(2) 原判決33頁17行目の「となっていたところ」を「となっており,3月5日には,仕事中息切れがしたり,息苦しく感じることがあり,同月8日には胸の痛みを感じて午後10時8分に早退していたところ」と改める。 (3) 原判決34頁16行目から同24行目までを次のとおり改める。 「 冠動脈攣縮(以下「冠攣縮」ともいう。)とは,心臓の表面を走行する冠動脈が異常に収縮して心筋の虚血を来した状態をいう。 近年,冠攣縮の発生には,冠動脈の内皮障害(比較的初期の動脈硬化性病変)の存在と自律神経が関与していると考えられている。 すなわち,血管内超音波装置を用いて,冠攣縮部位の血管壁を観察したところ,冠動脈造影上はほぼ正常に見えても,比較的初期の動脈硬化性病変が認められたとの報告がされている。また,冠攣縮は,特に夜間から早朝にかけての安静時に出現し,通常,日中の運動によっては誘発されにくいが,これは,安静時には副交感神経の活動が亢進し,アセチルコリンが分泌されるところ,アセチルコリンは,血管内皮が正常であれば血管を拡張させるが,内皮障害があると,血管を収縮させるため,このことからも,冠攣縮の発生には内皮障害が関係していると考えられている。 また,冠攣縮は,特にレム睡眠期に出現しやすく,レム睡眠期には副交感神経と交感神経の活動が激しく入れ替わることから,冠攣縮は,自律神経の乱れが原因となると考えられている。」(4) 原判決35頁2行目の「,飲酒等」を削り,同4行目の「総コレステロール値,」の次に「LDLコレステロール値,」を加え,同6行目末尾に「それは,喫煙時に発生する活性酸素を介して内皮機能を著明に低下させるためと考えられている。ほかに,冠攣縮の危険因子としては,遺伝的要素が考えられる。そして, ステロール値,」を加え,同6行目末尾に「それは,喫煙時に発生する活性酸素を介して内皮機能を著明に低下させるためと考えられている。ほかに,冠攣縮の危険因子としては,遺伝的要素が考えられる。そして,上記のとおり,冠攣縮に,冠動脈の内皮障害と自律神経の乱れが関与していると考えられるため,冠攣縮を発症させないためには,喫 煙と持続したストレスの除去が重要であるとの指摘がある。」を加える。 (5) 原判決35頁7行目の「約20年来にわたり」を「20歳ころからの」と改め,同8行目の「摂取していた」を「摂取していたが,私生活上,控訴人に精神的,身体的負荷を与える要因はなかった。」と改める。 (6) 原判決36頁7行目の「これが動脈硬化を基礎にある血管病変か否か等」を削る。 (7) 原判決37頁3行目の「20年近い」を「15年余の」と改める。 (8) 原判決37頁15行目から同19行目までを次のとおり改める。 「 以上によれば,本件疾病は,冠攣縮による心筋虚血が原因であった蓋然性が高い。」 5 検討上記認定事実に基づき,本件発症と業務との相当因果関係(業務起因性)の有無について検討する。 控訴人の発症前1か月間の時間外労働時間数は100時間を超えている。もっとも,控訴人の労働は,休憩時間は少ないが,月曜日から木曜日までの午後11時以降は手待時間があり,また,控訴人の業務は,調理については,加工された商品をマニュアルに従って加熱したり,焼いて提供する程度のもので,長時間の仕込みや高度な技術を要するものではない定型的な内容であり,そのほかの業務についてもアルバイトにも任せることができる内容であるから,特に精神的緊張を伴う業務と見ることはできない。 しかしながら,発症前1か月間のうち控訴人が休日を取得できたのはわずか2日間 ほかの業務についてもアルバイトにも任せることができる内容であるから,特に精神的緊張を伴う業務と見ることはできない。 しかしながら,発症前1か月間のうち控訴人が休日を取得できたのはわずか2日間にすぎず,2月15日と2月22日は,本来休日であるのに店長会議に出席し,3月3日は,前日が金曜日で比較的繁忙であるのに,午前11時30分から開始された店長会議に出席し,その後,本件店舗に戻って翌4日の午前3時10分まで勤務している。また,控訴人は,同月8日に胸の痛みのため早退していたが,翌9日には午後3時49分から翌10日午前2時24分まで勤 務した後,C店の応援のために同日の午後1時39分から勤務し,その後本件店舗に移動して翌11日午前5時12分まで勤務している。このような休日の少ない連続勤務は,控訴人に身体的,精神的に相当な負荷を与えるものと評価できる。 ところで,日常業務が深夜時間帯で固定されている場合には,その負荷は特に疲労を蓄積させるものとは考え難い(乙2,3)が,控訴人は,本件会社に勤務するまでは日中の時間帯に勤務しており,平成12年9月から深夜勤務となって,本件発症当時は,深夜時間帯に勤務することに慣れてきたと見ることもできるが,他方で,店長会議や他店への応援の際には,日中の時間帯から勤務をすることになるから,深夜時間帯に慣れかけてきた生活リズムが乱れて自律神経のバランスを失わせる原因になったと推認できる。 しかも,控訴人は,本件発症の約2週間前ころ(2月末ころ)から,前胸部不快感を覚えるようになっていたのであるが,それ以降も休日を1日取得しただけで,勤務を続けている。これは,控訴人が店長を務めていた本件店舗が,小規模な居酒屋で,前年度比の80%程度の売上にとどまっていたことなどから,アルバイトの総人数が前店長の 降も休日を1日取得しただけで,勤務を続けている。これは,控訴人が店長を務めていた本件店舗が,小規模な居酒屋で,前年度比の80%程度の売上にとどまっていたことなどから,アルバイトの総人数が前店長の時期よりも抑えられ,控訴人が原審で供述するようにアルバイトのシフト管理が円滑に行えず,結果として,控訴人が休日を取得できない状況になっていたものと推認できる。 さらに,控訴人は,アルバイトとして本件会社で就労するようになってわずか4か月余り,正社員として雇用されるようになってから起算してもわずか3か月余りで本件店舗の店長になり,接客,調理,アルバイトのシフト管理,売上金の管理・送付,本社への書面での業務報告,店長会議の出席等多岐にわたる業務に従事するようになったから,定型的な業務内容でアルバイトに任せることができるものも多いことを考慮しても,店長業務に慣れていない控訴人にとっては,それなりの負荷であったと考えられる。 以上によれば,控訴人の発症前1か月間の時間外労働時間数には手待時間が ある程度含まれているとしても,控訴人が従事していた業務の労働密度が低いとはいえず,このような100時間を超える時間外労働に加えて,休日を十分取得できないことから,疲労を回復することができずに蓄積していったものと認められる。そして,1か月当たりの時間外労働時間が45時間を超えると,徐々に疲労が蓄積していくと考えられる(乙1ないし3)ところ,控訴人の発症前2か月の時間外労働時間数が73時間9分,発症前3か月の時間外労働時間数が71時間34分と1か月当たり45時間を超え,業務と発症との関連性が強いと評価される80時間に近い時間外労働に従事していたことを併せ考慮すれば,控訴人の本件発症当時の疲労の蓄積は,かなりのものであったと認められる。 それに加 時間を超え,業務と発症との関連性が強いと評価される80時間に近い時間外労働に従事していたことを併せ考慮すれば,控訴人の本件発症当時の疲労の蓄積は,かなりのものであったと認められる。 それに加えて,平素は深夜勤務であるのに,店長会議や他店の応援のために日中から勤務を行うことで自律神経の変調を来たしていたものと認められる。 他方で,控訴人には,15年余の喫煙歴という冠攣縮のリスクファクターがあるが,1月23日に実施された健康診断では特に異常は認められておらず,業務以外に精神的,身体的負荷を与えるような要因はなかった。 そして,冠攣縮の発症原因として,血管内皮の障害(比較的初期の動脈硬化性病変)と自律神経の乱れが考えられるところ,控訴人の本件発症前の業務が上記のとおり,疲労を蓄積させ,自律神経の乱れを生じさせるに足りるものであることからすれば,喫煙歴というリスクファクターがあることを考慮しても,本件疾病は,控訴人が従事していた業務による精神的,身体的負荷によって,控訴人の血管病変(内皮障害)をその自然の経過を超えて増悪させ,発症に至ったものと認めるのが相当であって,本件発症と控訴人の従事していた業務との間に相当因果関係の存在を肯定することができる。 したがって,控訴人の発症した本件疾病は,労働基準法施行規則35条別表第1の2第9号にいう「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当するというべきであり,控訴人の労災保険法に基づく療養補償給付及び障害補償 給付につき,本件疾病に業務起因性がないことを理由として支給しないとした本件処分は違法である。 6 以上によれば,控訴人の請求は理由があり,これを棄却した原判決は相当でないから,本件控訴は理由がある。 よって,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第6民事 件処分は違法である。 主文 以上によれば,控訴人の請求は理由があり,これを棄却した原判決は相当でないから,本件控訴は理由がある。 よって,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第6民事部 裁判長裁判官渡邉安一 裁判官安達嗣雄 裁判官明石万起子
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