平成13(ネ)10 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成15年6月27日 広島高等裁判所 広島地方裁判所 平成8(ワ)216
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判決文本文28,928 文字)

主文 1 原判決中,控訴人と被控訴人Aに係る部分を次のとおり変更する。 (1) 被控訴人Aは,控訴人に対し,金8558万1296円及びこれに対する平成7年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 控訴人の被控訴人Aに対するその余の請求を棄却する。 2 被控訴人B1株式会社に対する本件控訴を棄却する。 3 控訴人と被控訴人Aとの間に生じた訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを2分し,その1を控訴人の,その余を同被控訴人の各負担とし,控訴人と被控訴人B1株式会社との間では,控訴費用は控訴人の負担とする。 4 この判決は,第1項(1)に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人らは,控訴人に対し,各自1億5700万円及びこれに対する平成7年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被控訴人ら本件各控訴をいずれも棄却する。 第2 事案の概要 1 本件は,被控訴人Aの設置・経営する社会保険A病院(以下「被控訴人病院」という。)において,被控訴人B1株式会社(以下「被控訴人会社」という。)の製造・販売する薬剤の投与による方法(HMG-HCG療法)で不妊治療を受けていた控訴人が,その副作用で卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症して脳梗塞を併発し,右上下肢及び言語機能障害等の重篤な後遺障害を負ったことに関し,本件医療事故は,同病院の医師による治療上の過失及び被控訴人会社の医薬品添付文書の副作用等に関する記載の不備によって惹き起こされたものであるとして,被控訴人らに対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償(1億5700 院の医師による治療上の過失及び被控訴人会社の医薬品添付文書の副作用等に関する記載の不備によって惹き起こされたものであるとして,被控訴人らに対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償(1億5700万円及びこれに対する不法行為の日である平成7年4月3日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案である。 その余の事案の概要は,原判決事実の「第二主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。 原審は,被控訴人らいずれにも過失はなく,責任は認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。 これを不服として控訴人から提起されたのが,本件控訴事件である。 2 当審における争点は,次のとおりであり,原審と同様である。 (1) 被控訴人病院の医師の過失の有無ア不妊治療法に過失があったかどうか(ア) 「スプレキュア」の使用方法に過失があるか(イ) HMG製剤を過量に使用した過失があるか(ウ) HMG製剤からHCG製剤への切替時期が遅れた過失があるか(エ) HCG製剤を過量に使用した過失があるか,また,これを追加使用したことが過失にあたるかイ検査を十分にしなかった過失があるかウ平成7年4月3日時点で入院治療をしなかったことが過失にあたるかエ脳梗塞に対する治療の誤りの有無(ア) 適切な薬物治療を遅滞し,かつ懈怠した過失があるか(イ) 内科的治療をせず,直ちに手術を選択したことが過失にあたるか(ウ) 手術が不可避であったとしても,手術の時機を逸した過失があるか(2) 被控訴人会社の過失医薬品添付文書の記載に不備があったか(3) 控訴人の損害額この点に関し,被控訴人Aは,当審において, たとしても,手術の時機を逸した過失があるか(2) 被控訴人会社の過失医薬品添付文書の記載に不備があったか(3) 控訴人の損害額この点に関し,被控訴人Aは,当審において,次のとおり控訴人の損害の一部が填補されたので,その分を損害額から控除すべきである旨主張し,控訴人は被控訴人A主張の医療費,医療手当及び障害年金を受領した事実を認めた。 医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構は,原判決言渡し後である平成13年11月7日付けで,控訴人に対し,医療費・医療手当支給決定及び障害年金支給決定(年額215万7600円)をし,控訴人は,医療費及び医療手当並びに障害年金を受給したところ,医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法30条2項が「救済給付に係る疾病,障害等の原因となった医薬品について賠償責任を有する者がある場合には,その行った救済給付の価額の限度において,救済給付を受けた者がその者に対して有する損害賠償の請求権を取得する」と規定しているところから,この分は控訴人の損害額から控除すべきである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,被控訴人Aについて,前記第2の2(1)ア(ア)ないし(ウ),エ(ア)ないし(ウ)の過失については,原審と同様,認めることはできないが,同ア(エ)(ただし,過量使用の点は除く),イ,ウの過失については,認めることができるから,責任を認めるべきものと判断し,控訴人会社については,原審と同様,過失を認めることはできず,責任も認められないものと判断する。 その理由は,被控訴人Aについては,前記第2の2(1)の争点のうち,ア(イ),(エ),イ及びウについては後記2のとおり変更するほか,同ア(ア),(ウ),エ(ア)ないし(ウ)については,要旨原判決の理由説示のとおりであり,被控訴人会社につ 2の2(1)の争点のうち,ア(イ),(エ),イ及びウについては後記2のとおり変更するほか,同ア(ア),(ウ),エ(ア)ないし(ウ)については,要旨原判決の理由説示のとおりであり,被控訴人会社については,原判決の理由説示のとおりであるから,これらを引用する。 2 被控訴人Aについて(1) 前提となる事実争いのない事実,証拠(甲7,9ないし20,22ないし34,36,37,39,41,42,45ないし49,51ないし55〔枝番を含む。以下同様。〕,56,58,乙1ないし7,9ないし16,18ないし22,24,25,30,34,いずれも原審における証人C,同D,同E,同F,同G及び鑑定の結果)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア不妊治療法不妊症の原因の一つとして脳下垂体の卵巣機能(排卵及びホルモン分泌)の不全に基づく排卵障害がある。その治療法の基本は,患者の卵巣内の卵胞を刺激して発育成長させ,排卵させ,黄体化させることであり,一般的には,まず,患者の脳下垂体から性腺刺激ホルモンの分泌を増加させる作用を持つ抗エストロゲン製剤を経口排卵誘発剤として使用し,それが無効な場合に,外来性の性腺刺激ホルモンを投与して患者の卵巣に直接作用を及ぼし卵胞発育を促進して排卵を誘発するHMG-HCG療法(ゴナドトロピン療法ともいう。)が実施される。このようにHMG-HCG療法は,経口排卵誘発剤によっては排卵の起こらない難治性の無排卵症に適応があり,また,経口排卵誘発剤で排卵は起こるものの,長期間妊娠に至らない症例に対して使用することもある。 HMGとは下垂体性性腺刺激ホルモンであり,FSH作用(卵胞を発育成長させる作用)を有するものであり,また,HCGとは胎盤性性腺刺激ホルモンであり,LH作用(排卵さ て使用することもある。 HMGとは下垂体性性腺刺激ホルモンであり,FSH作用(卵胞を発育成長させる作用)を有するものであり,また,HCGとは胎盤性性腺刺激ホルモンであり,LH作用(排卵させ,黄体化させる作用)を有する。いずれも元来は人体内から分泌されるものであるが,薬物として精製され投与されるものでもある。HMG-HCG療法とは,まず薬物としてのHMGを投与して卵胞を発育成長させ,卵胞成熟後に薬物としてのHCGを投与して排卵させる療法である。通常,HCG投与後36ないし40時間で排卵が生じる。 HMG-HCG療法の一つに,GnRHa(性腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体を薬物として精製したもの)を併用するGnRHa-HMG-HCG療法がある。患者にGnRHaを使用すると,性腺刺激ホルモン(HMG,HCG)が分泌され,投与後約4時間でその血中濃度がピークとなり,一時的に性腺機能(FSH作用,LH作用)が賦活し(フレア・アップ),継続的に使用すると,性腺刺激ホルモン(HMG,HCG)の分泌を抑える脱感作現象が起こり,性腺機能(FSH作用,LH作用)が抑制される効果がある。フレア・アップによって,一時的にHMGの分泌を促進し,より多くの卵胞発育を期待することができ,また,脱感作現象によって,HMGの分泌を抑制して,卵胞の発育をHMGの投与の制御下におくことができ,更にHCGの分泌に伴うLH作用を抑制して,排卵をHCGの投与の制御下におくことが期待できる。 GnRHa-HMG-HCG療法は体外受精を行う際に通常多く用いられる方法であるが,無排卵症に対する排卵誘発法としても用いられており,文献上も使用例が報告されている。 GnRHa-HMG-HCG療法には,GnRHaの使用によるどの時点のどの効果を利用するかに であるが,無排卵症に対する排卵誘発法としても用いられており,文献上も使用例が報告されている。 GnRHa-HMG-HCG療法には,GnRHaの使用によるどの時点のどの効果を利用するかによって,主に次の三種類の方法(Short protocol,Ultrashortprotocol,Long protocol)がある。 Short protocol(Short term protocolともいう。)は,GnRHaを月経開始後から使用し,数日内にHMGの投与を始め,その後HMGの投与からHCGの投与へ切り替えるが,右切替時までGnRHaの使用を継続する方法であり,前記のとおり,フレア・アップによって,一時的にHMGの分泌を促進し,より多くの卵胞発育を期待することができ,脱感作現象によって,HMGの分泌に伴うLH作用を抑制し,HCGの投与によってLH作用を制御することが期待できる。あわせて,HMGの分泌促進により,HMGの投与量を減らすこともできる。ただ,フレア・アップ時において,HCGの分泌も促進されるため,その際のLH作用の上昇により,卵胞成熟に障害が起こることがある。 Ultra short protocol(Ultra short term protocolともいう。)は,GnRHaを月経開始後から使用し,数日内でその使用を止めてHMGの投与を始め,更にそれをHCGの投与に切り替える方法であり,フレア・アップによる効果はShort protocolと同様であるが,GnRHaの継続使用がないので,脱感作現象によりHCGの分泌抑制に伴うLH作用の抑制効果は期待できない。HCGの分泌に伴うLH作用の著しい上昇を予防できないため,HCGの投与の時期に注意する必要がある。 Long protocol(Lon CGの分泌抑制に伴うLH作用の抑制効果は期待できない。HCGの分泌に伴うLH作用の著しい上昇を予防できないため,HCGの投与の時期に注意する必要がある。 Long protocol(Long term protocolともいう。)は,GnRHaの使用を月経周期(月経第1日から約2週間の卵胞期と排卵後の黄体期とからなる。)の前周期の黄体期中期から開始するものと,月経直後から開始するものとがあるが,GnRHaの使用の開始からHMGの投与の開始までの期間が長く(2週間以上),いずれも脱感作現象のみを期待して行われる。この場合,脱感作現象によるHCGの分泌抑制に伴うLH作用の抑制のため,卵胞発育に対する障害が少ない反面,HMGの分泌抑制により,卵胞成熟に必要なHMGの投与量を増加する必要が生じることになる。 以上の3種類の方法が,各医療機関等において実施されている。 イ卵巣過剰刺激症候群(OHSS)OHSSは排卵誘発剤の副作用によって発症する卵巣の過剰反応であり,急激な下腹部痛,悪心,嘔吐,下腹部膨隆,腹水・胸水貯留,卵巣腫大,血液濃縮,血液凝固,出血症状等の諸症状を惹き起こし,重篤になると肝腎機能不全,呼吸不全,血栓症,脳梗塞等を生じ,多臓器不全に陥るものである。性腺刺激ホルモン(HMG,HCG)の使用が発症原因とされているが,発症率に関する報告は,HMG-HCG療法中の患者のうちの1割程度とするものから6割程度とするものまで,差が大きい。通常,HMGからHCGに切り替えた後の卵巣腫大及び腹水貯留によって現れ,妊娠の成立とともに更に悪化し,腹水貯留は胸水貯留にまで達し,血液濃縮が顕著となってゆく経過をたどることが多い。また,患者が多嚢胞性卵巣(PCO)やPCO様卵巣の場合に発症しやすいともいわれている。PCO 成立とともに更に悪化し,腹水貯留は胸水貯留にまで達し,血液濃縮が顕著となってゆく経過をたどることが多い。また,患者が多嚢胞性卵巣(PCO)やPCO様卵巣の場合に発症しやすいともいわれている。PCOとは卵巣が多嚢胞化し腫大し,卵巣の白膜が肥厚し,無排卵,不妊となる症候群であるとする見解もあるが,その定義は定まっているわけではなく,一応,その特徴としては,内分泌学的所見におけるFSH値は正常であるが,LH値は高くなり,超音波検査所見により多嚢胞形成を認めるものとされている。性腺刺激ホルモンによる過剰刺激が原因とされ,HCG製剤を投与すると,正常卵巣がPCO様の外観を呈するようになるといわれている。 OHSSの診断は,通常,卵巣腫大や腹水貯留の有無を,触診及び超音波断層法により確認し,また,一般検血,出血凝固検査,電解質,BUN,クレアチニン,水分出納測定,尿量検査等によって行う。 OHSSの症状の程度の分類法は必ずしも一定しておらず,おおよそ次のようなものがある。軽い腹部膨満感及び腹部不快感,卵巣腫大5㎝×5㎝以下を軽度,腹部膨満感及び腹部不快感,卵巣腫大10㎝×10㎝以下を中等度,卵巣腫大著明,腹水,胸水,血液濃縮を重篤とするもの(甲24),卵巣腫大8㎝×8㎝以下を軽症,卵巣腫大12㎝×12㎝以下,ヘマトクリット値(赤血球容積率)45%を中等症以上,卵巣腫大が12㎝を超えると重症とし,中等症以上の場合は入院管理が必要であるとするもの(甲18,乙11),卵巣腫大8㎝未満を軽症,卵巣腫大8㎝~12㎝,腹水少~中等量,白血球軽度増加を中等症,卵巣腫大12㎝超,腹水多量,白血球数1万5000/μl超を重症,腹水が非常に多量,白血球2万5000/μl以上を最重症とするもの(甲52),卵巣腫大6㎝×6㎝未満,ヘマトクリット値,白血 中等症,卵巣腫大12㎝超,腹水多量,白血球数1万5000/μl超を重症,腹水が非常に多量,白血球2万5000/μl以上を最重症とするもの(甲52),卵巣腫大6㎝×6㎝未満,ヘマトクリット値,白血球ともに正常を1度,卵巣腫大12㎝未満,ヘマトクリット値45%未満,白血球1万5000/μl未満を2度,卵巣腫大12㎝以上を3度とし,うちヘマトクリット値45%以上,白血球1万5000/μl以上をa,ヘマトクリット値55%以上,白血球2万5000/μl以上をbとするもの(甲53),ヘマトクリット値45%以上,白血球1万5000/μl以上,ヘモグロビン14g/dl以上,赤血球,血小板の増多を重症とし,直ちに入院管理が必要であるとするもの(甲52)などがある。重症度及び治療効果を知る上で最も重要な検査はヘマトクリット値の計測であり,それが45%を超えるような場合は重症化の兆候とされ,直ちに入院の上点滴治療をし,循環動態の改善を図るべきであるとするものが多い。もっとも,程度の判断や治療方法の選択にあたっては,症状の一つに依拠することなく卵巣腫大,腹部膨満感,腹水・胸水の貯留,血液濃縮の程度等の複数の要因から総合的に判断する必要があるとされる。 OHSSの治療の基本は,保存療法であり,患者に生じている症状に対して対症療法を行い,自然の経過によってこれが収まるのを待つことになる。通常,不妊治療を実施した患者の月経周期に妊娠が成立しなければ1,2週間で,妊娠が成立すれば2週間ないし5週間で寛解する。経過観察としては,体重,腹囲,水分摂取量,尿量,脈拍,血圧,呼吸等のバイタルサインをチェックし,超音波検査で腫大卵巣の変化を監視し(超音波検査により,卵巣腫大の程度や腹水貯留の症状が明らかとなるところ,腫大卵巣の変化を把握するためには頻繁に超音波検査を 圧,呼吸等のバイタルサインをチェックし,超音波検査で腫大卵巣の変化を監視し(超音波検査により,卵巣腫大の程度や腹水貯留の症状が明らかとなるところ,腫大卵巣の変化を把握するためには頻繁に超音波検査を行う必要がある。),ヘマトクリット値(赤血球容積率),赤血球,ヘモグロビン,血清蛋白,A/G比,尿浸透圧等を測定するなどの方法がある。妊娠が成立していないOHSS患者の場合は,月経開始とともに卵巣が縮小してまもなく軽快することが予想されるので,症状が軽度であれば,超音波検査による監視のうえで,自宅で安静にしていれば足りる。中等症の場合には,安静が必要なことはもとより,電解質液,蛋白製剤等により循環血液量の不足を改善し,乏尿が続けば,利尿剤を投与するなどの処置を施し,その他症状によって入院管理が必要となる。重症の場合には,入院のうえで点滴治療を行い,循環動態の改善を図る。低アルブミン血症(血漿アルブミン濃度の低下状態)がある場合,アルブミンの点滴静注を行う。腹水の貯留が高度で呼吸困難等を伴う場合,超音波誘導下に経膣的に腹水を吸引する。大量腹水等の場合,腹水穿刺を行う。卵巣が茎捻転し,破裂による出血性ショックなどがある場合,直ちに開腹手術を行う。 また,原則として,OHSSは,HCGの投与後におこり,かつ,増悪するので,発症後はHCGの追加投与は禁止すべきとされており,多くはHCGの投与中止により症状は軽快するとされている。もっとも,OHSSを発症すると妊娠の確率が高くなるといわれる一方,HCG投与を中止すると妊娠は期待できなくなるため,OHSSの発症後もHCGを追加投与する場合もないわけではない。 なお,鑑定人F(以下「F医師」という。)の場合,卵巣腫大5㎝で軽度のOHSSと診断し,卵巣腫大がみられたら,原則としてHCGの投与 の発症後もHCGを追加投与する場合もないわけではない。 なお,鑑定人F(以下「F医師」という。)の場合,卵巣腫大5㎝で軽度のOHSSと診断し,卵巣腫大がみられたら,原則としてHCGの投与を中止し,卵巣腫大の程度が軽度でも,腹痛や腹水貯留等他の症状があれば中等度と判断して入院させるという対応を採るとしており,これまで何回もOHSSを発症しながら重篤な症状に陥らなかったことが明らかである場合などに例外的にOHSS発症後もHCGを追加投与することがあるとする。 ウ不妊治療法の注意事項(ア) 「スプレキュア」「スプレキュア」は,GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)誘導体製剤である酢酸ブセレリンの点鼻液であり,GnRHa-HMG-HCG療法においてGnRHa製剤として使用し,その際に生じるフレア・アップによって,一時的にHMGの分泌を促進し,より多くの卵胞発育を期待することができ,また,脱感作現象によって,HMGの分泌を抑制して,卵胞の発育をHMGの投与の制御下におくことができ,更にHCGの分泌を抑制してLH作用を抑制し,排卵をHCGの投与の制御下におくことが期待できることは,前記アのとおりである。通常月経開始後1,2日目から投与を開始する。 (イ) HMG製剤の投与量HMG製剤の投与による副作用としてOHSSを発症することがあることは前記イのとおりであるところ,HMG製剤の排卵誘発剤としての有効量とOHSS等の副作用を招来する過剰量との間に有意差は一般に認められておらず,HMG製剤に対する反応の形態も個人差があり一定しないといわれていることから,HMG-HCG療法を行うには個々の患者毎にHMG製剤の使用量の設定に細心の注意を払う必要があり,ある程度医師の経験的な判断も必要となるが, 応の形態も個人差があり一定しないといわれていることから,HMG-HCG療法を行うには個々の患者毎にHMG製剤の使用量の設定に細心の注意を払う必要があり,ある程度医師の経験的な判断も必要となるが,患者の状態や症状に応じて1アンプル(75単位),2アンプル(150単位)又は3アンプル(225単位)の程度で使い分けることが多い。例えば,漸減法として,卵胞期初期にHMGの投与量を多めにし,ある程度の卵胞発育が認められた後に投与量を減量し,その卵胞の発育を維持し,卵胞発育が十分に認められた段階においてHCG製剤の投与に切り換える方法があるほか,HMGの投与量を徐々に増やしていく漸増法等もある。 HMG製剤としては「フェルティノームP注」が臨床の場で広く使われており,他の薬剤と比べてOHSSの発症を起こす確率が低いとする見解もある。 (ウ) HCGへの切替時期HMG-HCG療法におけるHMG投与からHCG投与への切替時期については,文献上,卵胞が最大卵胞径18ないし20㎜を超えた時点とする見解もあれば,最大卵胞径20ないし25㎜を超えた時点とする見解もあり,必ずしも統一的な基準があるものとはされておらず,個々の症例ごとに判断されるべきものといわれている。また,卵胞の計測を最大卵胞径ではなく,平均卵胞径によって行う例もある。 (エ) HCG製剤の使用量及び追加使用臨床上,HMG-HCG療法において,HMGからHCGへの切替時期のHCG投与量は1万単位である例が多いとされている。なお,OHSSの発症比率又は重篤化とHCG製剤の投与回数,時期又は量との関連について,有意のデータは得られていない。 「HCGB2」はHCG製剤の一つであり,HMG-HCG療法におけるHMGからHCGへの切替時期の使 化とHCG製剤の投与回数,時期又は量との関連について,有意のデータは得られていない。 「HCGB2」はHCG製剤の一つであり,HMG-HCG療法におけるHMGからHCGへの切替時期の使用量は1万単位程度が,追加投与の際の使用量は1日3000ないし5000単位が通常とされている。 エ検査HMG-HCG療法においては,HMG投与の有効性の判定やHCG投与への切替の時期の判定のため,卵胞成熟の監視が重要であるとされている。 監視には,過去,卵胞から分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモン)を観察する内分泌学的な方法として血中エストラジオール及び尿中に排泄される総エストロゲンの測定によるエストロゲン検査が使用されていたが,データを得るまでに時間がかかることや発育する卵胞数によって値が異なることなどの欠点があり,最近ではあまり使用されていない。現在は,経膣探針を使用し卵胞の大きさや子宮内膜の厚みを超音波断層法で観察していく画像診断的な超音波検査が非侵襲的に,かつリアルタイムに結果が得られる方法として最も一般的に使われている。他に,監視方法として,頸管粘液の性状を観察して卵胞の大きさを推定する頸管粘液検査もあるが,直接卵胞の大きさをみることができる経膣超音波検査の方が有用とされ,頸管粘液検査は最近ではあまり使用されていない。 超音波検査は,このようにHMG-HCG療法において重要な卵胞成熟及びOHSS治療にも重要な卵巣腫大の変化等の各監視に有用であることから,同検査は,毎日あるいは1日おき程度に行うことが望ましく,少なくともHMG,HCGを投与する際には必ず行うべきであるとされる。 オ脳梗塞に対する治療脳梗塞は,脳の栄養動脈の狭窄あるいは閉塞によってその灌流域に梗塞巣(虚血性脳実質壊死 ,少なくともHMG,HCGを投与する際には必ず行うべきであるとされる。 オ脳梗塞に対する治療脳梗塞は,脳の栄養動脈の狭窄あるいは閉塞によってその灌流域に梗塞巣(虚血性脳実質壊死)を生じたもので,脳血栓や脳塞栓等が原因となり,虚血性梗塞と出血性梗塞とがあり,急性期には脳浮腫や鬱血等による頭蓋内圧亢進を来すこともある。CT所見上は低吸収域巣を呈するが,その出現時期,程度,範囲は病態,経過により異なる。脳血管撮影により原因となった血管病巣を確認することが多い。 急性期脳梗塞には,内科的(保存的,薬物)治療法と外科的治療法がある。内科的治療法としては,血液凝固に対する低分子デキストラン製剤(血流改善剤),ウロキナーゼ(血栓溶解剤),ヘパリン(抗凝固剤)等の投与,脳浮腫に対する抗浮腫剤の投与等をそれぞれ患者の状態に応じて実施する。外科的治療としては,血管内カテーテルを用いて血栓の溶解を目的とする血管内手術,開頭による血栓除去術,閉塞した部位をそのままにして手術的に側副血行路を増大させて脳の保護を目的とするバイパス手術があり,さらに,進行する脳浮腫等により脳圧亢進が増大して死亡或いは植物状態に陥る可能性がある例に対して,前頭葉の一部や側頭葉の一部を除去(内減圧術)し頭蓋骨弁を除去(外減圧術)する内外減圧開頭術等がある。まず,内科的治療によって経過を観察し,脳浮腫等により致命的な状態になった場合に減圧開頭術等の外科的治療に移行するのが通常である。バイパス手術は,古くより実施されている手法であるが,最近,治療法として有効とはいえないとする見解が出され,これに対し有効として反論する見解もあり,その手術適応については目下反省期にあるとの文献もある。 カ医療事故(ア) 控訴人(昭和37年4月18日生まれ)は,平 いとする見解が出され,これに対し有効として反論する見解もあり,その手術適応については目下反省期にあるとの文献もある。 カ医療事故(ア) 控訴人(昭和37年4月18日生まれ)は,平成4年1月から脳下垂体の機能不全に基づく排卵障害による不妊症の治療として,被控訴人病院産婦人科において排卵誘発法であるHMG-HCG療法を受け,同年6月20日,卵巣腫大が認められ,腹痛があったところ,OHSSと診断され,自宅安静を指示され,痛みが増強すれば入院することになる旨告げられ,同月23日,OHSSはやや増悪したが,同月29日,既に痛みが低下し,腹水貯留も認められなかったため,HCG5000単位の追加投与を受け,同年7月7日妊娠したことが確認され,平成5年3月13日第1子として長男Hを出産した。 (イ) 控訴人は,その後,第2子の出産を希望して平成7年1月19日,被控訴人病院産婦人科で受診した。同科担当医師G(以下「G医師」という。)は,超音波検査を行い,難治性の無月経と診断し,月経発来のため経口排卵誘発剤「プラノバール」を投与した。その際,G医師は,カルテに「PCOぎみ」と記載した。なお,控訴人の場合,厳格にはPCOとはいえないものの,当時ホルモン検査によりLH(黄体化ホルモン)値が正常値ながらやや高く,月経異常があり,超音波検査で多数の卵胞の嚢胞状変化が認められたことから,臨床上はPCOとして扱われる症例であり,OHSSを発症しやすい患者であった。 同年2月7日,控訴人は被控訴人病院産婦人科に赴き,G医師に対し同月3日に月経が発来した旨報告した。同医師は,控訴人に経口排卵誘発剤クロミフェン「クロミッド」を投与した。 2月16日,G医師は控訴人に再度「クロミッド」を投与し,超音波検査を行った 同月3日に月経が発来した旨報告した。同医師は,控訴人に経口排卵誘発剤クロミフェン「クロミッド」を投与した。 2月16日,G医師は控訴人に再度「クロミッド」を投与し,超音波検査を行った。 2月23日,G医師は,控訴人に排卵が認められないことから,控訴人の希望を受け,翌月から妊娠のためHMG-HCG療法を行うこととした。そこで,控訴人に対し,超音波検査を行い,プラノバールを投与し,月経発来後GnRHa-HMG-HCG療法のShort protocolを実施する旨説明し,GnRHa製剤である点鼻薬「スプレキュア」10mlを処方して渡し,月経発来2日目からこれを点鼻するよう指導し,プラノバールの投与により同年3月7,8日ころに月経発来が予想されたことから,その後にHMG投与の日程計画を立てるため,同月9日に来院するよう指示した。 同年3月9日,控訴人は被控訴人病院産婦人科で受診したが,月経は発来していなかった。G医師は,もう少し待てば月経は発来すると考え,控訴人に対し,処方して渡してある「スプレキュア」10mlを月経発来2日目から使用開始し,HMGからHCGへの切替時まで継続使用するよう指導し,右使用開始後に来院するように指示した。 3月11日,控訴人は月経が発来したため,その2日目にあたる同月12日から「スプレキュア」の点鼻使用を開始した。 3月14日,控訴人は被控訴人病院産婦人科で受診し,G医師に対し,月経が同月11日発来し,「スプレキュア」を同月12日から使用開始している旨を述べた。そこで,同医師はカルテの同月14日欄に「スプレキュア開始」と記載し,「スプレキュア」の使用に続いてHMG製剤である「フェルティノームP注」を2日間各3アンプル(225単位)宛,更に4日間各2アンプル(1 ,同医師はカルテの同月14日欄に「スプレキュア開始」と記載し,「スプレキュア」の使用に続いてHMG製剤である「フェルティノームP注」を2日間各3アンプル(225単位)宛,更に4日間各2アンプル(150単位)宛注射投与する旨(漸減法)の計画を立て,カルテの次行以下にその旨記載した。 そのうえで,控訴人に右計画どおりの来院を指示した。控訴人は右指示に従って来院し,G医師は右計画に従い,控訴人に「フェルティノームP注」を同月14日,15日各225単位宛,同月16日ないし同月19日各150単位宛の注射投与をした。 3月20日,G医師は,控訴人に超音波検査による卵胞計測を行い,平均卵胞径が右12㎜,左15㎜以下となっていることを確認し,「フェルティノームP注」を更に3日間各2アンプル(150単位)宛注射投与する計画を立て,「フェルティノームP注」を同日ないし同月22日各150単位宛注射投与した。 3月23日,G医師は,控訴人に超音波検査による卵胞計測を行い,右最大23㎜×ll㎜(平均17㎜),左最大25㎜×16㎜×16㎜(平均19㎜)を確認し,平均卵胞径が19㎜となったことから,HMGをHCGに切り替えることとし,HCG製剤である「HCGB2」1万単位を筋肉注射した。 (ウ) 3月27日,控訴人は被控訴人病院産婦人科で受診した。同科担当医師C(以下「C医師」という。G医師は他に転勤した。)は,控訴人に対し超音波検査を行い,少量の腹水,卵巣腫大(4.4㎝×6.2㎝,5.0㎝×6.8㎝)を認め,OHSSと診断した。 3月30日ころから,控訴人には腹部膨満感,腹痛,気分不良などの症状が出現し,自宅で横になることもあった。 3月31日,被控訴人病院で受診した際には,腹部膨満感が認められ,腹痛はあるが低下 月30日ころから,控訴人には腹部膨満感,腹痛,気分不良などの症状が出現し,自宅で横になることもあった。 3月31日,被控訴人病院で受診した際には,腹部膨満感が認められ,腹痛はあるが低下していた。C医師は,同日,超音波検査をしなかったが,控訴人の希望もあったことから,HCG剤である「HCGB2」5000単位を筋肉注射により追加投与した。 平成7年4月1日以降,控訴人は,前記症状に食欲不振も加わり,気分不良の程度も増悪し自宅で終日寝込む程になった。 4月3日朝には,控訴人は,前記症状に朝から吐き気,腹痛などの症状も加わった。控訴人は,同日午前,被控訴人病院で受診したが,その際の超音波検査の結果では,卵巣腫大の程度は6.0㎝×7.8㎝,7.7㎝×7.0㎝であり,血液検査の結果は,ヘマトクリット値(赤血球容積率)50.6%(基準範囲36.0~44.4%),赤血球551万/μl(基準範囲390万~485万/μl),ヘモグロビン(赤血素)16.6g/dl(基準範囲11.7~14.6g/dl),白血球(WBC)2万1900/μl(基準範囲3300~8000/μl)であり,症状としては,吐き気,気分不良,腹部膨満感が認められた(ただし,同月2日は眠れないほど腹部膨満感がひどかったが,同月3日には前日よりは低下していた。)。C医師はOHSSがより顕著に現れてきたものと認めたが,腹部膨満感の低下がみられたことや基礎体温が低下していることから,黄体ホルモンのレベルの低下により妊娠不成立となって月経に移行し,それに伴い,腹部膨満感もなくなり,OHSSも急速な悪化はしないものと予測した。そして,被控訴人病院に空室もなかったことから,入院までの必要はないと考え,控訴人に対し,血液濃縮に対する治療として輸液1,000mlを行い,自 くなり,OHSSも急速な悪化はしないものと予測した。そして,被控訴人病院に空室もなかったことから,入院までの必要はないと考え,控訴人に対し,血液濃縮に対する治療として輸液1,000mlを行い,自宅安静と通院を指示して控訴人を帰宅させた。しかし,控訴人は帰宅後も家事などはできず,昼食は夫が作った粥を茶碗に半分食べた程度で寝込んでいた。 (エ) 4月4日午前0時ころ,控訴人は夫であるE及び長男とともに被控訴人病院産婦人科に赴き,当直医師のI(以下「I医師」という。)及びJ(以下「J医師」という。)に対し,同月3日午後10時ころから頭痛及び腹部膨満感が増強した旨を訴えた。同医師らは,超音波検査により,控訴人に両側卵巣の腫大及び腹水の中等度の貯留を認めた。控訴人は,右診察中は通常の応対をしていたが,診察終了後,突然失神して倒れ,数回嘔吐した。直ちに同病院神経内科の当直医師のK(以下「K医師」という。)が診察し,頭部CT検査を実施したが,脳内出血等の異常所見は認められず,失神の原因は不明であった。控訴人に四肢麻痩等の神経学的所見は認められなかったが,安全を期するため,同病院救命救急センターへ入院させ管理することとした。控訴人は意識は戻ったが,呆然としている様子で,夫や長男の名前を問うと,小声で返答していた。同センターでの血液検査の結果は,ヘマトクリット値48.5%(基準範囲36.0~44.4%),赤血球526万/μl(基準範囲390万~485万/μl),ヘモグロビン(赤血素)16. 0g/dl(基準範囲11.7~14.6g/dl),白血球2万7000/μl(基準範囲3300~8000/μl)であり,同月3日午前の状況とほぼ同じであった(厳密には,ヘマトクリット値,赤血球,ヘモグロビンはわずかに低下したが,白血球は逆に増加した。)。 00/μl(基準範囲3300~8000/μl)であり,同月3日午前の状況とほぼ同じであった(厳密には,ヘマトクリット値,赤血球,ヘモグロビンはわずかに低下したが,白血球は逆に増加した。)。 同日午前3時30分ころ,看護婦が控訴人の異常に気付き,K医師に連絡をとった。控訴人は,看護婦やまもなく駆け付けたK医師からの呼びかけに対し全く発語がなく,開眼してもすぐ閉眼し,痛み,刺激に対して右上下肢をわずかに動かすのみで,右片麻痺及び失語症の状態と認められた。同医師は,同日午前4時15分ころ控訴人の頭部CT検査を行い,左脳の局所に僅かに低吸収域を思わせる所見が認められたことから,脳梗塞を疑い,当面ニコリン(意識障害改善剤)及び低分子デキストラン(血流改善剤)を投与した。同医師は被控訴人病院脳神経外科の医師Lに対し連絡をとり,相談の結果,右CT所見上に脳浮腫がないようなので,当面グリセオール(脳浮腫改善剤)の投与は必要なく,ニコリン及び低分子デキストランの投与でよいとし,暫く様子を見て夜明け後に再度CT検査を行うこととした。控訴人は同科に移され,同日午前9時20分ころ,同科の医師Mが控訴人の頭部CT検査を行い,左脳の一部に淡い低吸収域を認めたが,正中線偏位(脳室偏位)は認めなかった。同日午前10時ころ,控訴人に低分子デキストランの点滴更新を行った。このころ,被控訴人病院脳神経外科の医師D(以下「D医師」という。)は,控訴人の脳血管撮影により,頸部の左内頸動脈,前大脳動脈,中大脳動脈に至る広範囲に閉塞があり,側副血管路も乏しく,重症の脳血栓症と認め,急速な症状悪化を予測した。同医師は,同所見からして内科的治療を施しても,脳の機能が大幅に失われ,右片麻痺や失語症等の障害が残ることは避けられず,更に悪化すればより重症の障害が残る可能性があ 認め,急速な症状悪化を予測した。同医師は,同所見からして内科的治療を施しても,脳の機能が大幅に失われ,右片麻痺や失語症等の障害が残ることは避けられず,更に悪化すればより重症の障害が残る可能性があるものと予想したが,外科的治療により脳にバイパス手術(浅側頭動脈一中大脳動脈吻合術)を施せば,血行増大により脳の表面の機能が一部救済でき,失語症の拡大防止に多少とも効果があるのではないかと考え,控訴人が30歳代で若く,同手術自体によって症状を悪化させることはないとの確信もあって,手術を試みないより試みた方がよいとの思いから,控訴人の夫に対し,その旨説明し,手術を勧めた。控訴人の夫は,これを聞いて,手術に同意した。 (オ) 同日(4月4日)午前11時15分ころ,控訴人は手術室に入り,D医師及びL医師が執刀し,バイパス手術(浅側頭動脈一中大脳動脈吻合術)及び脳浮腫の場合の対策として外減圧開頭手術を実施した。同医師らは,開頭した際,脳浮腫を認めた。浅側頭動脈から副側血行路を確保し吻合した後,中大脳動脈の径が太くなったことから,浅側頭動脈からの血流が良好と判断し,止血を確認し,頭蓋骨弁を除去し,皮下排液管を留置し,同日午後3時40分ころ手術は終了した。 右手術後,D医師は,控訴人の頭部CT検査により,午前中のCT検査の際よりも低吸収域が増強しているのを認めたが,正中線偏位はやはり認めなかった。同医師は,控訴人の夫に対し,手術は成功したが,2,3日様子を見て,脳浮腫により脳が圧迫されるようなことになると,延命用の手術をしなければならない旨,脳浮腫があらわれた場合に対処するため頭蓋骨弁は外したままにしている旨等を告げた。 その後の控訴人の意識レベルは低く,呼びかけに対する反応は曖昧で,開眼し注視するも,追視はなく,すぐ閉眼し,頭を挙上してキョロキョロ れた場合に対処するため頭蓋骨弁は外したままにしている旨等を告げた。 その後の控訴人の意識レベルは低く,呼びかけに対する反応は曖昧で,開眼し注視するも,追視はなく,すぐ閉眼し,頭を挙上してキョロキョロするも指示に応ぜず,左上下肢の自動運動が認められ,左手の離握手可能であるも,右片麻痺が認められ,失語状態にあるなどの症状を呈していた。この日,控訴人に対し,前記ニコリン及び低分子デキストランの投与の後に,グリセオール(脳浮腫改善剤),マレントール(細胞外液補給剤),ペントシリン(合成ペニシリン)等が投与された。 4月5日,控訴人に対するグリセオール等の薬剤の投与が継続された。同日午前,D医師は,控訴人の頭部CT検査により,脳浮腫の映像が前回よりもはっきりし,その範囲も広がっており,正中線偏位も存在することを確認し,さらに,脳血管撮影により,脳浮腫のためバイパス手術による副側血行路が途絶し閉塞しているのを認め,前記手術の目的が達成できなかったことを知った。 4月6日午前,D医師は,控訴人の頭部CT検査により,脳浮腫が進み,大脳左脳が腫脹し,正中線偏位も増強していることを認め,救命のための減圧開頭手術が必要な状態となっているものと判断し,控訴人の夫に対し,その旨説明して手術の同意を得,同日午後3時ころ,内減圧開頭手術を実施し,左脳の側頭葉の一部が小脳テントにはまり込んで脳ヘルニアを起こしているのを認め,浮腫により脳壊死を起こし機能を喪失した区域並びにヘルニア部分を除去し,硬膜縫合の後,今後の脳浮腫の場合に備えて後頭蓋骨弁は外したまま頭皮を縫合し,同日午後6時45分ころ手術を終えた。 (カ) 4月7日,控訴人は,開眼するも,意識レベルは低く,左上下肢は反応するも,右上肢は麻痺状態で,全く発語はなく,頭部CT検査には未だ正 皮を縫合し,同日午後6時45分ころ手術を終えた。 (カ) 4月7日,控訴人は,開眼するも,意識レベルは低く,左上下肢は反応するも,右上肢は麻痺状態で,全く発語はなく,頭部CT検査には未だ正中線偏位が認められた。また,腹水が著明となった。同月8日,内科の医師Nが控訴人に利尿剤を投与するなどして対応した。同月10日,頭部CT検査により正中線偏位にやや改善が見られることが確認された。その後も,控訴人の意識低レベル,右片麻痺,失語等の症状は変わらず,腹水著明等によりOHSSの症状が続き,産婦人科において,腹水穿刺吸引を施行するなど保存的療法を継続した。 被控訴人病院産婦人科のI医師及びJ医師らは,控訴人の妊娠を疑い,妊娠成立を確認した時点で,OHSS改善のため子宮内容除去の手術を行うことを予定し,同月17日超音波検査を行ったが,両側卵巣腫大及び腹水著明によるOHSSの症状は認めたものの,胎嚢(妊娠初期の胎児の周囲にある嚢状の構造物)は認めなかった。その後,控訴人の腹部膨満が増強し,同月20日再度腹水穿刺吸引が実施され,更に超音波検査が実施されたところ,小さな胎嚢が確認され(妊娠5,6週),同月21日,控訴人の夫の同意の上で,同科のI医師及びJ医師が控訴人に子宮内容物除去術を施行した。その後,控訴人に腹水減少,尿中HCGの低下等OHSSの症状改善が認められた。また,この間,控訴人は呼びかけに僅かに反応を見せるなど,意思疎通がとれるようになってきた。 5月8日,被控訴人病院理学診療科において控訴人のリハビリを開始した。控訴人の尿中HCG検査結果から,子宮内容物残存の疑いが生じ,同月10日超音波検査により小さな胎嚢様の反応が認められた。同月17日耳鼻科において控訴人に言語訓練を開始した。同月18日超音波検査により卵巣の の尿中HCG検査結果から,子宮内容物残存の疑いが生じ,同月10日超音波検査により小さな胎嚢様の反応が認められた。同月17日耳鼻科において控訴人に言語訓練を開始した。同月18日超音波検査により卵巣の縮小が認められたが,同月22日尿中HCG検査により妊娠反応が未だ陽性となっていたことから,再度子宮内容物除去術が必要と認められた。同手術につき,控訴人の夫の同意を得た。 5月23日,被控訴人病院脳神経外科のD医師及びL医師は,控訴人に対し,先の減圧開頭術の際に頭蓋骨弁を除去した部位に頭蓋形成術を施行し,引き続いて残存子宮内容物除去術を施行した。同月24日,控訴人の頭部CT検査により低吸収域は左脳の一部に認められるも,視床,後大脳動脈領域には認められず,正中線偏位も消失しているのが認められた。 その後,控訴人は内診により子宮の収縮が確かめられ,尿中HCG検査もマイナスで,腹水も認められず,右片麻痺及び失語症は残るものの,全身状態は良好で,言語訓練により「ア,イ,ウ…」までは言えるようになり,話しかけに対し,部分的に理解可能となってきた。 キ後遺障害平成7年6月17日,控訴人は被控訴人病院の紹介によりリハビリのため西広島リハビリテーション病院に転入院した。右転入院後,理学作業,言語療法等により,右下肢の麻痺,失語につき僅かに改善がみられた。 平成8年2月27日,控訴人は西広島リハビリテーション病院を退院し,通院するようになり,更に同年12月17日から平成9年3月15日までリハビリのため湯布院厚生年金病院に入院し,その後も西広島リハビリテーション病院に通院するなどしてリハビリに努めてきた。 この間,控訴人は,平成7年10月20日,西広島リハビリテーション病院の医師により,同月4日に症状 に入院し,その後も西広島リハビリテーション病院に通院するなどしてリハビリに努めてきた。 この間,控訴人は,平成7年10月20日,西広島リハビリテーション病院の医師により,同月4日に症状固定又は障害確定した旨の診断を受け,同年11月30日,脳血管障害による右上肢機能全廃(2級),右下肢機能障害(4級)及び言語機能喪失(3級)を傷害名とする身体障害者等級1級の障害者手帳の交付を受けた。 控訴人は,現在,右片麻痺及び失語症の症状が残っているが,右足に装具を装着し,杖を使用すれば独立歩行が可能である。また,日常生活においては,左手で動作を行うことにより,文字を書き,食事,トイレ,着替えも一人で行うことができるが,入浴には介助が必要な状態である。その他家庭内では,食事の準備,後片づけ,食器の出し入れ,洗濯物の整理等の手伝いをすることはできるが,家事を通常にこなすことはできず,家政婦を依頼し(週2回,各4時間で控訴人及び長男の食事,入浴,洗濯),本件医療事故後仕事を辞めた控訴人の実母の援助(週2,3日,家事及びリハビリの手伝い)に頼っている。家族との意思疎通は,簡単な受け答えはできるが,単語をつなげて文章にして話をすることはできず,通常の会話は困難である。また,このような状況から,一人での外出はできない。 ク損害の填補控訴人は,医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構に対し,被控訴人病院における不妊治療の際に生じたOHSS及び脳梗塞が,治療過程で投与を受けた「フェルティノームP注」,「HCGB2」及び「スプレキュア」の副作用によるものであるとして,被控訴人病院産婦人科の医師作成の診断書等を添付して,医療費や障害年金等の支給の申請をしていたが,平成8年12月18日付けで同機構は不支給の決定をした。その理由は,控 副作用によるものであるとして,被控訴人病院産婦人科の医師作成の診断書等を添付して,医療費や障害年金等の支給の申請をしていたが,平成8年12月18日付けで同機構は不支給の決定をした。その理由は,控訴人には被控訴人病院において「スプレキュア」と「フェルティノームP注」が同一日より開始されているが,同時に使用すると,フレア・アップによる卵巣への刺激が加重され,過刺激を増強することになり,これを回避するため,「スプレキュア」を2週間以上先行して使用すべきであったのに,控訴人の症例は,これに反した間違った「スプレキュア」の使用法によるものであるから,救済給付の対象とすることはできないというものである。 控訴人は,同不支給決定につき,厚生大臣に対して審査の申立てをしていたところ,平成11年4月13日付けで厚生大臣は審査の申立てを棄却する旨の裁決をした。その理由は,控訴人の症状発生の原因とされている脳梗塞は「スプレキュア」と「フェルティノームP注」による卵巣過剰刺激症候群によるものと考えられるが,「スプレキュア」と「フェルティノームP注」が同一日より開始されており,同時に使用すると,フレア・アップによる卵巣への刺激が加重され,過刺激を増強することになり,控訴人の事例に対してshort term protocolによる排卵誘発は一般的な方法とは言えないものと考えられるから,控訴人のOHSSは「スプレキュア」の間違った使用法によることが推測されるというものである。 その後医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構は,平成13年11月7日付けで,本件原審がスプレキュア投与がフェルティノームP注投与の2日前に開始されていると認定したことを受けて,同投与方法については,short termprotocolに準拠しており,不適正使用とまではいえ 件原審がスプレキュア投与がフェルティノームP注投与の2日前に開始されていると認定したことを受けて,同投与方法については,short termprotocolに準拠しており,不適正使用とまではいえないとして,前記不支給決定を取り消し,同日付けで医療費・医療手当支給決定及び障害年金支給決定(年額215万7600円)をした。 そして,控訴人は,医療費22万6200円,医療手当14万2120円,平成7年9月から平成15年2月28日までの障害年金1642万3700円を受給した。 (なお,被控訴人Aは,請求原因に対する認否1の末段なお書きのとおり自白を撤回し,控訴人はこれに対し異議を述べるが,同撤回の許されることは,原判決理由説示のとおりである。)(2) 判断ア HMG製剤の過量投与(前記第2の2(1)ア(イ))について控訴人は,第1子を妊娠する際もOHSSを発症し,PCOぎみであったから,医師としては,HMG製剤である「フェルティノームP注」を投与するにあたっては過量投与にならないよう一層注意すべきであったのに,これを怠り平成7年3月14日及び15日に各225単位,同月16日から22日までの7日間は各150単位もの過量投与をした旨主張する。 控訴人は,前記(1)カ(イ)のとおりOHSSを発症しやすい患者であったから,HMG製剤の投与に際して過量にならないよう一層注意すべきであったことは控訴人主張のとおりである。 しかしながら,HMG製剤の投与については,患者の状態や症状に応じて75単位,150単位又は225単位の程度で使い分けることが多いこと(前記(1)ウ(イ))からすれば,1回に150単位あるいは225単位を投与すること自体過量とはいえず,平成7年3月から同月22日までの投与方法にし 単位又は225単位の程度で使い分けることが多いこと(前記(1)ウ(イ))からすれば,1回に150単位あるいは225単位を投与すること自体過量とはいえず,平成7年3月から同月22日までの投与方法にしても一般化した使用方法であること(甲58の1),HMG製剤の排卵誘発剤としての有効量とOHSS等の副作用を招来する過剰量との間に有意差は一般に認められていないこと(前記(1)ウ(イ))に加え,HMG製剤投与前の控訴人のホルモン検査所見が一応正常の範囲にあったこと(前記(1)カ(イ))なども考慮すれば,HMG製剤の投与については,過失があったとまで認めることはできない。 イ HCG製剤の過量使用,その追加使用(前記第2の2(1)ア(エ))及び検査(同イ)について平成7年3月23日に「HCGB2」を1万単位投与したことが過量使用かどうかであるが,OHSSが発症すれば,HCG剤の投与は直ちに中止すべきであるとしても,同日時点では,控訴人は,未だOHSSを発症していなかったこと,前記(1)ウ(エ)のとおり,HMGからHCGに切り替える際のHCGの使用量としては1万単位が通常の使用量とされいることからすれば,この点は過失とはいえない。 同月31日のHCG製剤の追加使用及び検査の点について検討するに,前記(1)によれば,次のとおり医師の過失が認められる。 排卵誘発法であるHMG-HCG療法を行う以上OHSSの発症を完全に防止することはできないところ,控訴人は,OHSSを発症しやすいとされるPCOとして臨床上扱われる患者であった上,平成4年に同療法による不妊治療を受けた際(ただし,当時はOHSSの発症防止に効果的とされるGnRHaは用いなかった。)にもOHSSに発症したことがあったのであるから,控訴人の治療にあたっては,OH 平成4年に同療法による不妊治療を受けた際(ただし,当時はOHSSの発症防止に効果的とされるGnRHaは用いなかった。)にもOHSSに発症したことがあったのであるから,控訴人の治療にあたっては,OHSSの発症防止及び発症後の対処に十分な注意が必要であったというべきである。そして,C医師は,平成7年3月27日の時点で,控訴人がOHSSを発症したとの診断をしたのであるから,それ以降は超音波検査を頻繁に行って腫大卵巣の変化を観察し,OHSSが増悪傾向にあれば,直ちにHCGの投与を中止すべきであったものというべきであり,すでにOHSS発症後の平成7年3月31日に超音波検査をしないまま,漫然とHCG5000単位を追加投与したことは医師の過失であるといわなければならない。 被控訴人Aは,控訴人のOHSSは軽症で,同月31日は腹痛は低下していたこと,同年4月3日の卵巣腫大の状況からみても,同月31日時点の卵巣腫大は軽度であったことが明らかであること,控訴人の場合,前回もOHSS発症後のHCGの追加投与によって妊娠しOHSSの本件におけるような急激な増悪はなかったこと,妊娠の結果を得るためにはHCGの追加投与は必要であり,それにより症状が多少ひどくなることは控訴人も承知の上で追加投与を希望したことなどから,同月31日に超音波検査をする必要はなかったし,HCGの追加投与も過失にはあたらない旨主張する。 しかしながら,控訴人は,平成7年3月27日にOHSSの診断を受けたのち,腹部膨満感,腹痛,気分不良などの症状が持続していたこと,同月27日と同年4月3日の超音波検査の結果を比較すると,同月31日は同月27日よりも卵巣腫大は進行しており,OHSSが増悪傾向にあったものと推認できること(前記(1)カ(ウ)のとおり,同年3月27日は4.4㎝×6. 月3日の超音波検査の結果を比較すると,同月31日は同月27日よりも卵巣腫大は進行しており,OHSSが増悪傾向にあったものと推認できること(前記(1)カ(ウ)のとおり,同年3月27日は4.4㎝×6.2㎝,5.0㎝×6.8㎝であったが,同年4月3日は6.0㎝×7.8㎝,7.7㎝×7.0㎝であった。)などからすると,同年4月3日時点での卵巣腫大の程度が中等症に至らないものであり,控訴人本人が自覚症状が軽快した旨述べたからといって,超音波検査の必要性がなかったことにはならない(同月31日に超音波検査を実施していれば,その時点でOHSSが増悪傾向にあることは明らかになったものというべきである。)。また,妊娠の結果を得るためにはHCGの追加投与が必要であり,追加投与に本人の同意があったとしても,OHSS発症後はHCGの投与を禁止すべきことは前記(1)イのとおりであるし,控訴人の場合臨床上PCOと扱われる注意が必要な患者であったのであるから,前回の追加投与の際OHSSが増悪しなかったからといって安易にHCGを追加投与したことが過失にあたることは否定できない。 この点,F医師は,原審において,同月31日にHCGの投与を中止してもOHSSの増悪の可能性はあった旨の証言をするが,一方において,同医師は,少なくともHCGを投与する際は必ず超音波検査をし,OHSSが発症すれば,原則としてHCGの投与を中止しているところ,F医師は重症例の経験がない旨証言していることからすると,頻繁に超音波検査を行い,OHSS発症後HCGの投与を中止することは標準的な医療措置であるということができるのであり,このような措置を講ずることによってOHSSの増悪を回避することが一般的に期待できたというべきである。 そして,以上の諸事情に照らすと,医師の前記過失(追加使 あるということができるのであり,このような措置を講ずることによってOHSSの増悪を回避することが一般的に期待できたというべきである。 そして,以上の諸事情に照らすと,医師の前記過失(追加使用及び検査についてのもの)があったことにより,控訴人にOHSSの増悪をもたらした蓋然性を認めることができるというべきである。 ウ平成7年4月3日時点で控訴人を入院をさせなかったことが過失にあたるか(前記第2の2(1)ウ)控訴人は,平成7年3月27日にOHSSの診断を受けたのち,遅くとも同月30日ころ以降,腹部膨満感,腹痛,気分不良,食欲不振等の症状が持続し,卵巣腫大の傾向は進み,同年4月3日には,朝から吐き気などの症状も加わり,午前中に被控訴人病院で受診した際の超音波検査の結果によれば,卵巣腫大の程度は6.0㎝×7.8㎝,7.7㎝×7.0㎝であり,血液検査の結果が,ヘマトクリット値50.6%,白血球(WBC)2万1900/μl,赤血球551万/μl,ヘモグロビン16.6g/dlであったことは,前記のとおりである。卵巣腫大の程度のみをみれば控訴人のOHSSは軽度に属するにしろ,卵巣腫大の傾向は進み増悪傾向が認められたのであるし,OHSSの症状の程度を判断する重要な指標(血液濃縮の程度を示す。)であるヘマトクリット値のほか,白血球,ヘモグロビンの数値からは,控訴人のOHSSは重症に属し,しかも,控訴人には腹部膨満感,食欲不振,吐き気,腹痛,気分不良等の諸症状もあったのであるから,卵巣腫大の程度,腹部膨満感の低下(しかも,低下したとはいえ,前日は眠れないほどひどかったというのであり,他の症状にも照らして考えると,同月3日時点で大きく症状が改善したものとは認め難い。)を考慮しても,控訴人の諸症状を総合的に判断すれば,当時の控訴人の ,前日は眠れないほどひどかったというのであり,他の症状にも照らして考えると,同月3日時点で大きく症状が改善したものとは認め難い。)を考慮しても,控訴人の諸症状を総合的に判断すれば,当時の控訴人のOHSSは重症で,直ちに入院管理の必要な状況であったというべきである。実際,控訴人は,同日帰宅後も寝たきりで,家事などはできず,夫の作ったお粥も茶碗に半分程度しか食べられなかったのであって,控訴人の前記諸症状はかなりひどかったものと容易に推認することができる。したがって,同月3日の時点で控訴人に対して入院治療の措置を採らなかったことは医師の過失といわざるを得ない。なお,控訴人の当時の前記OHSSの症状の程度からすると,控訴人が帰宅を希望したことや被控訴人病院に空室がなかったことは,被控訴人病院の過失の認定を左右するものではない。 被控訴人Aは,卵巣腫大の程度や腹部膨満感の低下,腹水貯留が顕著でないなどの症状からOHSSが軽度であったこと,基礎体温も低下しており妊娠の可能性が低く,そのまま症状が改善するものと予想されたこと,ヘマトクリット値,白血球,ヘモグロビンといった血液濃縮の程度をOHSSの症状の程度を判断する上で重要な指標とする旨の知見は本件医療事故以前にはなかったこと,同月4日深夜入院した時点で,控訴人のヘマトクリットは48.5%と低下しており,同月3日午前の輸液の治療効果が示されていることなどから入院の必要はなかったとして,医師に過失はなく,また,控訴人を入院させても,治療としては安静と輸液のみであり,脳梗塞の発症を防止できたとはいえないことから因果関係がない旨主張する。 しかしながら,前記イのとおり,卵巣腫大の程度自体,同年3月27日時点に比較して増悪傾向を示し,ヘマトクリット値は本件当時の指標によっても中等症以上 ないことから因果関係がない旨主張する。 しかしながら,前記イのとおり,卵巣腫大の程度自体,同年3月27日時点に比較して増悪傾向を示し,ヘマトクリット値は本件当時の指標によっても中等症以上であった(この点午前中の輸液後の同月4日午前0時ころも48.5%であり,大きく改善したとは到底いえない。)。本件医療事故当時においても,「HCGB2」の添付文書〔甲10の1〕に血液濃縮,血栓症のリスクについての記載があるように,ヘマトクリット値は無視しえない要因であることは明らかである上,症状によって入院が必要な状態であったことは前記(1)イのとおりである。そして,控訴人の場合,食欲不振,吐き気,腹痛,腹部膨満感といった症状があったのである。また,OHSSの程度の判断や治療方法の選択に当たっては,一つの指標のみを基準とすべきではなく,他の症状等も考慮して総合的に検討しなければならないとされている(前記(1)イ)。このようなことからすれば,卵巣腫大の程度や腹部膨満感の低下のみから軽度であるとして入院は不要であると判断することはできない(前記(1)イのとおり,F医師は,卵巣腫大が軽度であっても,症状が進行したり,痛みがあったら入院させるとしている。)。また,入院した場合の治療が安静と輸液であるとしても,入院すれば,自宅におけるよりも一層の安静が保たれることは容易に推認できるし,症状の経過観察によって時機に応じた輸液ができるなど症状に応じた迅速かつ適切な対応が可能になることが明らかである上,OHSSが重症である場合入院加療が必要なことは前記(1)イのとおりであり,この場合入院加療は標準的な治療方法であることなどからすると,入院によって脳梗塞の発症を完全に防止できたとまではいえないにしても,これを回避できた蓋然性は十分認められるのであって,前記過失と あり,この場合入院加療は標準的な治療方法であることなどからすると,入院によって脳梗塞の発症を完全に防止できたとまではいえないにしても,これを回避できた蓋然性は十分認められるのであって,前記過失と脳梗塞との因果関係も認めるのが相当である。被控訴人Aの主張はいずれも採用できない(なお,F医師は,原審において,控訴人が脳梗塞を発症したことは,交通事故のようなもので,予期できない不運な出来事であったという趣旨の証言をするが,一方において,同医師の場合,卵巣腫大の程度が軽症でも,痛みがあったり,OHSSの症状が増悪傾向にあれば入院させている旨証言しており,同医師にあっては,重症例の経験はないというのであるから,前記のとおり,控訴人のような患者に対しては入院治療を行うのが標準的な治療方法であって,このような措置を施していれば,脳梗塞の発症を避け得た蓋然性はこれを十分認めることができるのであって,これを怠った以上過失を否定することはできない。)。 エ被控訴人Aは,賠償の責任を有する者があることが明らかな場合は救済給付は行わない(医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法28条2項)こととされている医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構が控訴人に対する医療費・医療手当及び障害年金の各支給決定をしたことは,被控訴人病院の医師に過失がないことを認めたものである旨主張する。 しかしながら,同条項が責任を有する者があることが「明らかな場合」としていること,同法30条2項が「救済給付に係る疾病,障害等の原因となった医薬品について賠償責任を有する者がある場合には,その行った救済給付の価額の限度において,救済給付を受けた者がその者に対して有する損害賠償の請求権を取得する」と規定し,支給決定後に賠償の責任を有する者が判明する場合を想定していることから 合には,その行った救済給付の価額の限度において,救済給付を受けた者がその者に対して有する損害賠償の請求権を取得する」と規定し,支給決定後に賠償の責任を有する者が判明する場合を想定していることからすると,医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構の支給決定は,賠償の責任を有する者があることが明らかでないとの認定に基づくものであるとはいいえても,医師の過失がなかったことまでを法的に認定するものということはできないのであって,同支給決定があったことをもって医師の過失を否定することはできない。 オしたがって,控訴人は,不妊治療の副作用で発症したOHSSが増悪し,血液濃縮を来して,脳に血栓を生じ脳梗塞を併発したものであるところ,OHSSの増悪及び脳梗塞の併発は,被控訴人病院の医師がOHSS発症後,検査によってOHSSの経過観察を怠り,HCG製剤を漫然追加投与した過失及び平成7年4月3日時点で入院治療の措置を採らなかった過失により惹き起こされたものと認められるから,その被用者である被控訴人Aには,本件医療事故によって控訴人に生じた損害を賠償すべき義務がある。 (3) 損害ア医療費等 134万3200円控訴人は,本件事故後に要した医療費及び入院雑費として150万円,付添看護費用として1550万円を主張する。 しかしながら,症状固定と診断された平成7年10月4日までに控訴人が医療費を支出したことを認めるに足りる証拠はなく,その後,前記(1)クのとおり医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構から医療費・医療手当の支給を受けたほか,前記(1)キのとおり同年11月身体障害者等級1級の認定を受けたことなどからすると,控訴人には,なお被控訴人Aに対し請求しうる医療費の負担があるものと認めることは 療費・医療手当の支給を受けたほか,前記(1)キのとおり同年11月身体障害者等級1級の認定を受けたことなどからすると,控訴人には,なお被控訴人Aに対し請求しうる医療費の負担があるものと認めることはできない。もっとも,平成7年4月4日から症状固定日までの184日間(前記(1)キのとおりこの間は被控訴人病院及び西広島リハビリテーション病院に入院していた。)について,1日あたり1300円の入院雑費を認めるのが相当であり,その額は23万9200円となる。 また,この間の入院付添費として,1日あたり6000円を認めるのが相当であるから,その額は,110万4000円となる。 なお,控訴人は漢方薬代150万5000円を主張するが,同額を支出したこと,その必要性及び効果が不明であり,これを認めることはできない。 したがって,合計134万3200円が認められる。 イ休業損害 166万0637円控訴人は,本件医療事故当時32歳の専業主婦であったところ,平成7年4月4日に被控訴人病院に入院したのち症状固定の診断を受けた同年10月4日までの184日間は全期間入院しており稼働できなかったものであり,この間の休業損害として,賃金センサス平成7年第1巻第1表・女子労働者・学歴計全年齢平均の年収額329万4200円を基礎として算定し,次のとおり166万0637円(円未満切捨て)を認めるのが相当である。 329万4200円÷365日×184日=166万0637円ウ逸失利益 5334万2651円控訴人は,本件医療事故によって前記(1)キのとおりの後遺障害が残ったもので,同事実によれば労働能力を100%喪失し,症状固定時の33歳から就労可能年 5334万2651円控訴人は,本件医療事故によって前記(1)キのとおりの後遺障害が残ったもので,同事実によれば労働能力を100%喪失し,症状固定時の33歳から就労可能年齢67歳までの34年間にわたり,賃金センサス平成7年第1巻第1表・女子労働者・学歴計全年齢平均の年収額329万4200円の収入を得ることができなくなったものと認めるのが相当であり,その逸失利益の現価を,中間利息をライプニッツ方式(34年に相当するライプニッツ係数は16.1929である。)で控除して算定すると,その額は次のとおり5334万2651円(円未満切捨て)となる。 329万4200円×16.1929=5334万2651円エ将来の介護費用 1665万8508円控訴人は,前記(1)キの状況(日常生活において,入浴を除いて身の回りのことは何とかこなすことができ,一人での外出は困難であるが,装具の装着,杖の使用によりなんとか独立歩行も可能である。)からすれば,終生にわたり介護が必要であり,介護費用としては,1日あたり2500円,期間50年(平成7年簡易生命表による33歳女性の平均余命50.71歳を前提とする。)を認めるのが相当である。その現価をライプニッツ方式(50年に相当するライプニッツ係数は18.2559である。)で中間利息を控除して算定すると,その額は次のとおり1665万8508円(円未満切捨て)となる。 2500円×365日×18.2559=1665万8508円オ慰謝料 2100万0000円控訴人は,前記(1)キのとおり,本件医療事故当時32歳の健康な女性であったところ,本件医療事故により長期間にわたる入院加療,リハビリを余儀 2100万0000円控訴人は,前記(1)キのとおり,本件医療事故当時32歳の健康な女性であったところ,本件医療事故により長期間にわたる入院加療,リハビリを余儀なくされた上,重篤な後遺障害が残ったことなど,諸般の事情を勘案すれば,慰謝料として2100万円が相当と認められる。 カ損害の填補控訴人は,前記(1)クのとおり,医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構から平成7年9月から平成15年2月28日までに障害年金1642万3700円を受給したから,これを前記アないオの合計額9400万4996円から控除すると,その残額は7758万1296円となる(ただし,医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構から受給した医療費等については,前記アのとおり医療費を損害に計上していないので,これを控除しない。)。 キ弁護士費用 800万0000円本件訴訟の一連の経緯にかんがみれば,弁護士費用として800万円を認めるのが相当である。 ク被控訴人Aが賠償すべき額の合計 8558万1296円したがって,被控訴人Aが賠償すべき額の合計は,8558万1296円となる。 3 以上の次第で,控訴人の被控訴人Aに対する請求は前記2(3)クの金額及びこれに対する平成7年4月3日から支払済みまで民法所定年5分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,同控訴人に対するその余の請求を棄却すべきところ,これをすべて棄却した原判決は失当であるから取り消し,被控訴人会社に対する請求は棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから棄却する。 よって,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第2部 主文 控訴人会社に対する請求は棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから棄却する。 よって,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第2部 裁判長裁判官鈴木敏之 裁判官松井千鶴子 裁判官工藤涼二

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