判決平成14年3月25日神戸地方裁判所平成12年(わ)第952号業務上過失致死,道路交通法違反被告事件 主文 被告人を懲役1年6月に処する。 この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は全部被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 自動車運転の業務に従事しているものであるが,平成8年9月1日午前2時28分ころ,普通乗用自動車を運転し,兵庫県尼崎市ab丁目c番d号付近道路を伊丹市方面から西宮市方面に向け時速約55キロメートルで南進するに当たり,このような場合,自動車運転者としては,絶えず前方左右を注視し進路の安全を確認しつつ進行すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,深夜の交通閑散に気を許し,進路の遠方を望見し進路の安全を十分に確認しないまま漫然前記速度で進行した過失により,折から進路前方の道路を歩行中又は同道路に佇立中のC(当時26歳)に気付かず,自車左前角部を同女に衝突させて同女を路上に転倒させ,よって同女に脳挫傷等の傷害を負わせ,同月21日午後4時3分ころ,兵庫県尼崎市ef丁目g番h号所在のDE病院において,同女を前記脳挫傷により死亡するに至らせ,第2 酒気を帯び,呼気1リットルにつき0.3ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態で,同月1日午前2時28分ころ,同市ab丁目c番d号付近道路において,前記普通乗用自動車を運転したものである。 (証拠の標目)(省略)(弁護人の主張に対する判断)第1 訴訟手続の誤りの主張について弁護人は,差戻審である当審において,判示第1の事実中の本件事故当時のC(以下「被害者」という。)の挙動等について,公訴事実では「右方から左方に向 する判断)第1 訴訟手続の誤りの主張について弁護人は,差戻審である当審において,判示第1の事実中の本件事故当時のC(以下「被害者」という。)の挙動等について,公訴事実では「右方から左方に向かい歩行中」とあったのを「歩行又は佇立中」とするなどの訴因変更がされたことに対し,控訴審判決の審理不尽の判断を受け,検察官が当審において捜査,立証をやり直し,訴因を変更することは,現行の訴因制度に反して許されないから,本件訴因変更は無効なものである旨主張する。 しかし,裁判所は,検察官から訴因変更の請求があったときは,公訴事実の同一性を害しない限り,原則として訴因変更を許さなければならず,例外的に訴因変更が許されないのは,迅速かつ公正な裁判の観点から,訴訟の経過に鑑み,検察官の訴因変更請求が誠実な権利行使とは認められず権利の濫用にあたる場合,すなわち,既に相当の審理期間が経過しているのに,訴因変更によって新たな証拠調べが必要となり,そのために著しく審理が遅延して迅速な裁判の要請が害される場合や,訴因変更が被告人側に対する不当な不意打ちになって根本的に立証活動を立て直すことを余儀なくさせるなど,被告人側の防御に大きな不利益を及ぼす場合などに限られると解すべきであって,弁護人の主張するように,控訴審判決の審理不尽の判断を受け,検察官が捜査,立証をやり直し,訴因を変更することが,すぐに,現行の訴因制度に反して許されないものになるとは解することができない。 そして,本件においては,訴因変更によって新たな証拠調べが必要となってそのために著しく審理が遅延したような事情は存しないし,また,控訴審判決において,「被害者の進行方向が確定できないとして,その場合の過失の有無・内容については・・・更に審理を尽くす必要がある」旨の判示がなされ,訴因変更の可 延したような事情は存しないし,また,控訴審判決において,「被害者の進行方向が確定できないとして,その場合の過失の有無・内容については・・・更に審理を尽くす必要がある」旨の判示がなされ,訴因変更の可能性を指摘した上で当審に差し戻されているのに加え,本件で問題とされている過失の実質的内容は訴因変更の前後で変わっておらず,訴因変更後の訴因は,本件事故当時の被害者の挙動等に関する具体的な状況のひとつに被告人側がそれまで主張してきた状況をもつけ加えるなどしたものに過ぎないものであって,本件訴因変更は,被告人側に対する不当な不意打ちになって根本的に立証活動を立て直すことを余儀なくさせるなど,被告人側の防御に大きな不利益を及ぼすものではないことが明らかであり,その他,本件訴因変更請求が検察官の権利の濫用に当たるとみるべき事情も見当たらない。 してみると,当裁判所が本件訴因変更を許したのは正当であって,弁護人の上記主張は採用できない。 第2 過失の不存在の主張について 1 弁護人の主張の要旨等弁護人は,判示第1の事実について,被告人は,本件事故当時,前方の注視を尽くしていたにもかかわらず,停止距離(「空走距離」と「制動距離」との和を「停止距離」という。以下同じ。)の範囲内で被害者を視認できなかったのであるから,被告人に注意義務違反はなく,被告人は無罪である旨主張するので,当裁判所が前示のとおり認定した理由について,以下説明をする。 2 本件事故の発生平成8年9月1日午前2時28分ころ,兵庫県尼崎市ab丁目c番d号付近道路(以下「本件道路」という。)南行第1通行帯上(東側歩道西端から約5.9メートルの地点。実況見分調書(原1審検2)添付の交通事故現場見取図のA地点。 当裁判所の検証調書(当審職権1)別紙見取図2,3の点2 下「本件道路」という。)南行第1通行帯上(東側歩道西端から約5.9メートルの地点。実況見分調書(原1審検2)添付の交通事故現場見取図のA地点。 当裁判所の検証調書(当審職権1)別紙見取図2,3の点2の地点。以下「衝突地点」という。)において,北から南に向け時速約55キロメートルで直進進行していた被告人運転の普通乗用自動車(F,以下「被告人車両」という。)が被害者をはねとばして判示の傷害を負わせ,判示のとおり死亡させたことは,前掲関係各証拠により明らかである。 3 被害者の挙動についてまず,本件事故当時の被害者の挙動について検討する。 破棄判決の拘束力は,破棄の直接の理由,すなわち原判決に対する消極的,否定的判断について生ずるところ,原1審判決を破棄した本件控訴審判決は,その結論部分において,「被害者が西から東に向かって横断していたと認めることはできず,関係証拠を精査しても,これを認定するに足るものはない。」と判示しているから,当審としても,前記控訴審判決時と同じ証拠関係にある限り,「被害者が西から東に向かって横断していたと認める」判断はなし得ないこととなる。また,前記控訴審判決は,「被害者の進行方向が確定できないとして,その場合の被告人の過失の有無,内容については,未だ十分な審理がなされたとはいえない状況にあり,この点について更に審理を尽くす必要がある」とも判示しているところ,当審においては,その判断に従って,被害者の進行方向が確定できないことを前提として,その場合の被告人の過失の有無,内容を明らかにするべく検証等の証拠調べを行ったが,被害者の進行方向が西から東に向けてであることを明らかにするための証拠調べは行われていないから,結局,前記控訴審判決のいう「被害者が西から東に向かって横断していたと認めることはできな べを行ったが,被害者の進行方向が西から東に向けてであることを明らかにするための証拠調べは行われていないから,結局,前記控訴審判決のいう「被害者が西から東に向かって横断していたと認めることはできない」との判断に拘束されることとなる。 そして,関係各証拠を総合してみても,前記控訴審判決も言及しているとおり,本件事故の直前,被害者は本件道路を西から東に向かって歩行中であった可能性も十分にあるが,東から西に向かって歩行中の可能性も否定できず,あるいは衝突地点付近に佇立していた可能性すら考えられ,そのいずれであるとも確とは認定できないのであるから,結局のところ,被害者が本件事故時点において衝突地点にいたことは間違いないけれども,事故の直前にどのような挙動をとっていたかは明らかではないというほかない。 4 本件事故当時の被告人の視認状況について弁護人は,前記のとおり,本件事故当時,被告人が停止距離内において被害者を発見することは不可能だった旨主張するので,本件事故当時の被告人の視認状況について,次に検討する。 (1) 当裁判所は,上記3の判断を踏まえ,本件事故現場において,被害者が,本件道路を西から東に向かって横断していた場合及び東から西に向かって横断していた場合並びに衝突地点付近に佇立していた場合を想定し,本件事故当時の被告人車両からの視認状況について,平成4年式で型式がGである被告人車両とほぼ同年の平成3年式で同型式である自動車(以下「検査用車両」という。)を用いて,検証を実施した。 検証に当たっては,検証現場付近の通行を止め,衝突地点の東側付近には,本件事故当時駐車されていたトラックと,大きさ,幌の形状や色などの点で類似するトラックを駐車させ,本件事故当時とほぼ同様の月齢の日及び時刻を選び, ,検証現場付近の通行を止め,衝突地点の東側付近には,本件事故当時駐車されていたトラックと,大きさ,幌の形状や色などの点で類似するトラックを駐車させ,本件事故当時とほぼ同様の月齢の日及び時刻を選び,周辺の店舗,街灯等は本件事故当時とは異なるものの,店舗等の協力を得,店舗内の照明も消してもらい,街灯は,本件事故現場に近いバス停留所付近のものを視認実験に応じて点灯あるいは消灯させた以外は,本件事故現場周辺のものは全て消灯させ,自動販売機等の明かりも遮蔽するなどして,でき得る限り本件事故当時の衝突地点付近の客観的な状況を再現するとともに,本件事故当時の明るさを超えないように配慮した上,被害者と同程度の身長で被害者の本件事故当時の服装(平成12年押第165号の1ないし3)と同様の格好をさせた被験者を用意し,想定した被害者の挙動に応じて,衝突地点をはじめ数地点を設定し,被験者にその地点に佇立・移動等させ,特に第2視認実験においては,その都度くじを引いて,被験者がいずれかの地点に佇立している場合といずれの地点にも佇立していない場合を無作為に織り交ぜて,検証官(当裁判所)には,被験者が佇立しているのかいないのか,佇立している場合にもどの地点に佇立しているのか,予め分からないようにして,検証官(当裁判所)の予断をできる限り排除することにしていたのであり,しかも,検証(視認実験)時の天候は曇りのち雨であって,本件事故当時の天候が曇りであったのと比べると,月明かりの点においても検証時の方が明るくはなかったといい得るのであるから,検証の結果は,本件事故当時の被告人から被害者に対する視認状況を知る上で高い価値があるということができる。 そして,その結果は,検証調書(当審職権1)に記載されているとおりであるが,第2視認実験として,本件事故現場に近い ら被害者に対する視認状況を知る上で高い価値があるということができる。 そして,その結果は,検証調書(当審職権1)に記載されているとおりであるが,第2視認実験として,本件事故現場に近いバス停留所付近のものをも含めて本件事故現場周辺の街灯を全て消灯させ,本件事故当時の被告人車両と同様に検査用車両の前照灯を下向きにして,衝突地点の北方50メートルの地点(出発地点。前記検証調書別紙見取図2,3の点Aの地点)から衝突地点に向かって検査用車両をゆっくりと進行させつつ,被験者の視認状況を検証したところ,被験者が衝突地点の西方2メートルの地点(前記検証調書別紙見取図2,3の点1の地点),衝突地点(同じく点2の地点),衝突地点の東方1.5メートルの地点(同じく点3の地点)に佇立していた場合には,出発地点においてすでに人らしきものの存在が確認でき,被験者が衝突地点の東方3.5メートルの地点(同じく点4の地点)に佇立していた場合には,他の地点に佇立していた場合と比較すれば若干見えにくくはなるものの,その場合でも衝突地点から43.6メートル北方(手前)の地点に至ればぼんやりと人らしきシルエットが見え,同じく37.72メートル北方(手前)の地点で検査用車両の方を向いている被験者の顔が認識でき,同じく30.65メートル北方(手前)の地点(同じく点Bの地点)では,被験者が上記地点のいずれの地点にいても,人が佇立していることがはっきりと認識できただけでなく,同地点では,被験者が衝突地点の西方2メートルの地点,衝突地点の東方1.5メートルの地点,衝突地点の東方3.5メートルの地点からそれぞれ衝突地点に向け歩行し,あるいは衝突地点から左右に向け歩行するのがはっきりと認識できたこと(なお,衝突地点から30.65メートル北方(手前)の地点の検証結果は,同地点 .5メートルの地点からそれぞれ衝突地点に向け歩行し,あるいは衝突地点から左右に向け歩行するのがはっきりと認識できたこと(なお,衝突地点から30.65メートル北方(手前)の地点の検証結果は,同地点になって初めてはっきり認識できるようになったことを意味するものではない。)が認められる。また,第3視認実験として,本件事故現場に近いバス停留所付近のものを点灯した以外に本件事故現場周辺の街灯を全て消灯させ,本件事故当時の被告人車両と同様に検査用車両の前照灯を下向きにして,仮想衝突地点(バス停留所付近の街灯が取り替えられ移動していることを考慮して,光源からの距離を同じにするため実際の衝突地点からやや南方にずらした地点。以下同じ。)の北方50メートルの地点(出発地点。前記検証調書別紙見取図2,4の点ホの地点)から仮想衝突地点に向かって検査用車両をゆっくりと進行させつつ被験者の視認状況を検証しようとしたところ,被験者が仮想衝突地点の西方2メートルの地点(前記検証調書別紙見取図2,4の点イの地点),仮想衝突地点(同じく点ロの地点),仮想衝突地点の東方1.5メートルの地点(同じく点ハの地点),仮想衝突地点の東方3.5メートルの地点(同じく点ニの地点)のいずれに佇立していた場合にも,出発地点においてすでに人が佇立していることがはっきりと認識でき,被験者が仮想衝突地点の左右を歩行するのも同様にはっきりと認識できたことが認められる。 以上の検証の結果をそのまま本件事故当時の被告人の視認状況に当てはめれば,本件事故現場に近いバス停留所付近の街灯が消灯していたとしても,本件事故の直前,被害者が衝突地点の西方2メートルの地点,衝突地点,衝突地点の東方1.5メートルの地点にいた場合には,被告人は,衝突地点の北方50メートルの地点において,すでに被害者を たとしても,本件事故の直前,被害者が衝突地点の西方2メートルの地点,衝突地点,衝突地点の東方1.5メートルの地点にいた場合には,被告人は,衝突地点の北方50メートルの地点において,すでに被害者を発見することができ,被害者が衝突地点の東方3. 5メートルの地点に佇立していた場合でも,被告人は,衝突地点の43.6メートル北方(手前)の地点において,被害者をぼんやりとであるが発見することができ,衝突地点の37.72メートル北方(手前)で被害者の顔が認識でき,また,衝突地点の30.65メートル北方(手前)の地点では,被告人は,被害者が上記地点のいずれの地点に佇立していてもはっきりと認識できただけでなく,同地点では,被害者が衝突地点の西方2メートルの地点,衝突地点の東方1.5メートルの地点,衝突地点の東方3.5メートルの地点からそれぞれ衝突地点に向け歩行し,あるいは衝突地点から左右に向け歩行するのがはっきりと認識できたことになり,本件事故現場に近いバス停留所付近の街灯が点灯していたとすれば,被告人は,被害者が上記地点のいずれの地点に佇立していた場合でも,被害者をもっと容易に発見することができたことになることが明らかである。 そして,被害者が上記地点の範囲内(衝突地点の西方2メートルの地点から東方3.5メートルの地点までの間をいう。以下同じ。)にいた場合には,被告人の視認状況は,隣接する2つの地点と同様ないしはその中間のものであったと推認できることはいうまでもないところである。 (2) 弁護人は,上記の検証について,検査用車両が停止又はそれに近い状態で,検証官(当裁判所)が被験者がそこにいることを予想し,じっと目を凝らし見つめて認識したものであり,更には,対向車の通行を遮断して実施したのであるから,移動視力が静止視力より低くな それに近い状態で,検証官(当裁判所)が被験者がそこにいることを予想し,じっと目を凝らし見つめて認識したものであり,更には,対向車の通行を遮断して実施したのであるから,移動視力が静止視力より低くなることや,障害物を予期していない場合には予期している場合よりも発見が遅くなること,対向車の前照灯の影響が無視されていることを考えると,その検証の結果をそのまま本件事故当時の被告人の視認状況に当てはめることはできない旨主張する。 確かに,移動視力が静止視力より低くなることや障害物を予期していない場合には予期している場合よりも発見が遅くなることは,一般的にいえばそのとおりである。 しかしながら,弁護人が,動体視力についての実験で視力が大幅に低下している例を挙げて,移動視力も同様に低下するようにいうのには賛成できない。動体視力では,対象物の動きに合わせて目の調節作用を働かせ,目の焦点を対象物に合わせて移動せしめることが必要なのに対し,移動視力では,自らの動きに合わせて目の調節作用を働かせ,目の焦点を対象物に合わせることが必要なのであって,前者の方が後者よりも困難なことは経験則上明らかなところである。しかも,本件のように,静止し又は極く低速で移動している対象物に向かって直進していく場合に,自らの動きに合わせて目の焦点を対象物に合わせることが比較的容易であることも経験則上明らかなところであって,その場合の移動視力の低下はさほど大きくないと考えられ,弁護人請求の文献である「自動車事故鑑定工学」の写し(原1審弁2)が「静止視力に比して移動視力はおよそ5パーセント低下するといわれている」というのは妥当なところであると思われる。また,上記の検証は,衝突地点をはじめ数地点を設定し,被験者にその地点に佇立・移動等させ,特に第2視認実験に 視力はおよそ5パーセント低下するといわれている」というのは妥当なところであると思われる。また,上記の検証は,衝突地点をはじめ数地点を設定し,被験者にその地点に佇立・移動等させ,特に第2視認実験においては,その都度くじを引いて,被験者がいずれかの地点に佇立している場合といずれにも佇立していない場合を無作為に織り交ぜて,検証官(当裁判所)には,被験者が佇立しているのかいないのか,佇立している場合にもどの地点に佇立しているのか,予め分からないようにして,検証官(当裁判所)の予断をできる限り排除することにして実施したものであるから,弁護人がいうような,被験者がそこにいることを予想し,じっと目を凝らし見つめて認識したなどというものではないことが明らかである。もっとも,検証官(当裁判所)には,いずれかの地点に被験者が佇立している場合があることは予期できたのであるから,その意味では全く何の予期もしていなかった場合と同視するわけにはいかない。しかし,上記のとおり,被験者が衝突地点の西方2メートルの地点,衝突地点,衝突地点の東方1.5メートルの地点に佇立していた場合には,衝突地点の北方50メートルの出発地点においてすでに人らしきものの存在が確認でき,被験者が衝突地点の東方3.5メートルの地点に佇立していた場合には,他の地点に佇立していた場合と比較すれば若干見えにくくはなるものの,その場合でも衝突地点から43.6メートル北方(手前)の地点に至ればぼんやりと人らしきシルエットが見え,同じく37.72メートル北方(手前)の地点で検査用車両の方を向いている被験者の顔が認識でき,同じく30.65メートル北方(手前)の地点では,被験者が上記地点のいずれの地点に佇立していても,それがはっきりと認識できただけでなく,同地点では,被験者が衝突地点の西方2メートルの地点 認識でき,同じく30.65メートル北方(手前)の地点では,被験者が上記地点のいずれの地点に佇立していても,それがはっきりと認識できただけでなく,同地点では,被験者が衝突地点の西方2メートルの地点,衝突地点の東方1.5メートルの地点,衝突地点の東方3.5メートルの地点からそれぞれ衝突地点に向け歩行し,あるいは衝突地点から左右に向け歩行するのがはっきりと認識できたものであって,検証官(当裁判所)においては,被験者が衝突地点の東方3.5メートルの地点に佇立していた場合に衝突地点から43.6メートル北方(手前)の地点でぼんやりと人らしきシルエットが見えた際については被験者を発見することが容易であったとはいい難いものの,それ以外の場合にはいずれも被験者を発見することに困難はなかったのであるから,静止視力に比して移動視力が幾分低下することや全く何の予期もしていなかった場合に発見が遅れることがあり得ることを考慮するとしても,それらの影響は小さく,結局,被験者が上記地点のいずれの地点にいたとしても,衝突地点から30.65メートル北方(手前)の地点までには,佇立あるいは歩行している被験者をはっきりと発見できただけでなく,衝突地点から37.72メートル北方(手前)の地点までには,次第にその姿をはっきりと識別できるようになっていた被験者を発見し得ていたと考えるのが相当である。 そして,対向車の前照灯の点については,本件事故当日付けの被告人の警察官調書(原1審検16)では,「事故当時,私の他に付近を走っている車は1台も見当たりませんでした」と述べられており,被告人の供述にも対向車の前照灯に幻惑されたなどというところは見当たらないのであるから,その影響を考慮する必要があるとは考えられない。 (3) 以上みてきたところによれば,上記の検証の おり,被告人の供述にも対向車の前照灯に幻惑されたなどというところは見当たらないのであるから,その影響を考慮する必要があるとは考えられない。 (3) 以上みてきたところによれば,上記の検証の結果を全てそのまま本件事故当時の被告人の視認状況に当てはめることはできないけれども,本件事故現場に近いバス停留所付近の街灯が消灯していたとしても,被告人は,衝突地点の30.65メートル北方(手前)の地点までには,上記地点のいずれかの地点あるいはその範囲内の地点において佇立又は歩行していた被害者をはっきりと発見できただけでなく,衝突地点から37.72メートル北方(手前)の地点においてすでに,上記地点のいずれかの地点あるいはその範囲内の地点に佇立していた被害者を発見し得ていたことは,間違いがないと認められる。 5 結果回避可能性について(1) 以上の視認状況を踏まえて,被告人が,視認状況の最も悪い,本件事故現場に近いバス停留所付近の街灯が消灯していた場合において,本件事故当時,本件事故の結果発生を回避することが可能であったか否かを検討する。 アこの点,自動車運転者としては,前方の路上に人あるいは人らしきものの存在を発見した場合には,まず急制動の措置を講じることが考えられるから,本件においても,被告人が被害者を発見することができた時点において,直ちに急制動の措置を講じていれば,被害者との衝突を避けられたか否かについてまず検討する。 イ(ア) 関係各証拠によれば,本件事故当時,被告人車両は,時速約55キロメートル(秒速約15.28メートル)であり,本件道路における摩擦係数は0.87前後であったと認められる。 (イ) そして,空走距離についてみてみるに,知覚反応時間は,一般に0.7秒程度から1.0秒程度 .28メートル)であり,本件道路における摩擦係数は0.87前後であったと認められる。 (イ) そして,空走距離についてみてみるに,知覚反応時間は,一般に0.7秒程度から1.0秒程度と考えられており,被告人に最大限有利に考えたとしても,知覚反応時間を1.1秒とすれば十分であるから,その場合の空走距離(被告人車両の空走距離の最大値)は,約16.806メートル(55000/3600×1.1=16.806) …………①である。 そして,制動距離については,摩擦係数が0.87前後であるから,誤差をも考慮して,これも被告人に有利に0.86として計算すれば,約13.847メートル((55000/3600)2÷(2×9.8×0.86)=13.847) ………………………………………②であるから,結局,停止距離は,長くても約30.65メートル(①+②) …………………………………③とみるのが合理的である。 (ウ) この点,弁護人は,空走距離算出のための知覚反応時間について,オルソンの論文(原1審弁8)等を援用して,障害物の存在を予期していない場合には,予期している場合と比べ,障害物の認知が遅れることを理由に,本件事故のように障害物の存在を予期していない場合の知覚反応時間は,上記1.1秒を最大値とする数値よりも長くなると主張する。そして,同論文は,実験の結果から,予期していない場合の知覚反応時間の95パーセントタイル値(100人中95人が反応できる時間)は,1.6秒程度であるとし,また,予期しない状況に直面した運転者の知覚反応時間として2.5秒を用いることを推奨している。 反応時間の95パーセントタイル値(100人中95人が反応できる時間)は,1.6秒程度であるとし,また,予期しない状況に直面した運転者の知覚反応時間として2.5秒を用いることを推奨している。 しかし,この論文における実験は,上り坂の頂上付近に高さ15センチメートル,幅91センチメートルの黄色の気泡ゴムでできた障害物を設置して行った(障害物の上端への平均視程距離は46メートル,被験者の多くの障害物を初めて見たときの速度は秒速12ないし14メートルであり,衝突するまでには3ないし4秒あった。)というものであるところ,論者自身もいうように,もっと脅威のある障害物やブレーキを踏むことしかできないようなものに対しては,知覚反応時間はさらに短くなることが予想されるというのであるし,また,実験の時に比べて障害物への平均視程距離がもっと短かかったり,被験者の進行速度がもっと速かったりしても,やはり知覚反応時間は短くなると思われるから,予期していない場合の知覚反応時間の95パーセントタイル値が1.6秒であるとの結果を本件事故の場合の知覚反応時間としてそのまま用いることはできない。また,2.5秒という数値は,アメリカの交通工学における高速道路設計時の可及的に事故を防止しようとの観点から推奨されている数値であって,論者によれば,疲労やアルコールといった要因が関与する場合を考慮した上で見積もったものであるから,本件のような具体的な事件における知覚反応時間を考える上で用いるべき数値とは到底認められない。上記の1.6秒や2.5秒といった数値を本件における被告人の知覚反応時間として用いるのが適当でないことは明らかである。 そして,前記(イ)で述べた,0.7秒程度から1.0秒程度という知覚反応時間は,障害物の存在を予期していな る被告人の知覚反応時間として用いるのが適当でないことは明らかである。 そして,前記(イ)で述べた,0.7秒程度から1.0秒程度という知覚反応時間は,障害物の存在を予期していない場合をも含めて考えられている数値であるところ,前記「自動車事故鑑定工学」の写し(原1審弁2)には,いくつかの知覚反応時間に関する実験の結果が紹介されていて,実験の方法によってその数値は様々であるが,そのうち,本件事故と最も状況の似た実験である,シミュレーターの視界に突然歩行者を飛び出させて測定した知覚反応時間は,素速いグループの平均値で0.83秒,のろい反応のグループの平均値で1.13秒であったというのであって,上記の数字とごく近い数値であることからすると,本件事故における知覚反応時間は,前記のとおり最大値として1.1秒を用いるのが相当である。 ウそうすると,被告人車両の停止距離は被告人に最も有利に考えても約30.65メートル(前記(イ)の③)であると認められ,また,被告人車両と被害者の速度から考えて,被告人車両が衝突地点の30.65メートル北方(手前)の地点を進行していたときには,被害者は上記地点の範囲内で佇立あるいは歩行していたとみるのが相当であるところ,先に検討したように,被告人は,本件事故現場近くにあるバス停留所の街灯が消灯していたとしても,本件事故当時,衝突地点の30.65メートル北方(手前)の地点に至るまでには,上記地点のいずれかの地点あるいはその範囲内の地点において佇立又は歩行していた被害者をはっきりと発見できただけでなく,衝突地点から37.72メートル北方(手前)の地点においてすでに,被害者が上記地点のいずれかの地点あるいはその範囲内の地点に佇立していた場合には,それを発見することができたと認められるのであるから ,衝突地点から37.72メートル北方(手前)の地点においてすでに,被害者が上記地点のいずれかの地点あるいはその範囲内の地点に佇立していた場合には,それを発見することができたと認められるのであるから,それらの時点で直ちに急制動の措置を講じていれば,被害者に衝突することを避け,本件事故の結果発生を回避することができたことが明らかである。 (2) しかも,自動車運転者としては,上記のように,前方の路上に人や人らしきものの存在を発見した場合には,直ちに急制動・急停止の措置を講じる以外にも,直ちに減速したり,その人の動静を慎重に見極めつつハンドルを的確に操作したり,あるいはクラクションを吹鳴してその人の注意を喚起したりするなどの措置を講じて,同人との衝突を回避するものであるところ,本件においても,本件道路の車線数,南行車線の幅,当時の交通量等に鑑みれば,被告人は,被害者を発見できた地点において,これらの措置を講じることが十分に可能であったのはもとより,被害者に相当程度接近した地点に至って被害者を発見した場合であっても,本件事故が被告人車両の左前角部を被害者に衝突させたものであることから考えれば,上記のような急制動・急停止以外の措置を講じることによっても,被害者との衝突を回避することが十分に可能であったということができる。 6 被告人の過失の有無について以上の事実を前提として,被告人の過失の有無を検討する。 (1) まず,被害者が,本件事故の直前,西から東に向かって歩行したり,あるいは被告人車両の進路上の衝突地点付近の路上に佇立したりしていたとすれば,被害者は,被告人車両の進路上を横切ろうとし,又は被告人車両の進路付近に存在していたわけであるから,前記の視認状況,結果回避可能性を前提とすれば,被告人が,被害者をはっきり したりしていたとすれば,被害者は,被告人車両の進路上を横切ろうとし,又は被告人車両の進路付近に存在していたわけであるから,前記の視認状況,結果回避可能性を前提とすれば,被告人が,被害者をはっきり視認することが可能になっていた衝突地点から30.65メートル北方(手前)の地点に至るまでに,被害者を発見して急制動・急停止の措置を講じていれば,被害者との衝突を避けることができたことが明らかであり,また,その他の適切な措置を講じて被害者との衝突を避けることも可能であった(例えば,被害者が西から東に向かって歩いていたのであれば,少し減速するだけで本件衝突は避けられた。)にもかかわらず,被告人は,前方注視を怠って被害者に気付かず,被害者との衝突回避の措置を取ることなく,被告人車両を被害者に衝突させたものであって,被告人には進路前方を注視してその安全確認をすべき注意義務を怠った過失があることは明らかである。 (2) 次に,被害者が,本件事故の直前,東から西に向かって歩行していたとすれば,被害者は,被告人車両の進路の外(左)側から進路上に入ってきたことになるわけであるが,この点について,弁護人は,通常,人が道路に飛び出す事態を予期し得ない道路状況の下で,トラックの暗色シートを背景にしていた黒ずくめの被害者が,至近距離に迫った被告人車両の前方に飛び出し衝突したと考えられ,被告人のみならず一般人であっても被害者を視認することができなかったから過失がない旨主張する。 しかしながら,被害者が,本件事故当時ヒールの高さが約7.3センチメートルの靴を履いていて,相当程度に酔っていたことや,被害者着用のワンピースの衝突によって生じたと認められる損傷部位,これに対応する被害者の左大腿部の負傷部位などからすると,弁護人の主張するような,被害者が至近 履いていて,相当程度に酔っていたことや,被害者着用のワンピースの衝突によって生じたと認められる損傷部位,これに対応する被害者の左大腿部の負傷部位などからすると,弁護人の主張するような,被害者が至近距離に迫った被告人車両の前方に飛び出しそのまま衝突したという状況ではなかったと考えるのが合理的であるが,仮に,被害者が,弁護人主張のようにトラックを背景に佇立していて,衝突地点の東方3.5メートルないし3.1メートル(トラックの後部右端付近)の地点から衝突地点に飛び出したとしても,前記の視認状況からすれば,被告人は,衝突地点から37.72メートル以上北方(手前)の地点において被害者を発見することができたし,また,上記のような被害者がそんなに速い速度で飛び出すことはできなかったであろうと思われるから,被害者がトラックの後ろから衝突地点まで移動し被害に遭うまでに2秒程度の時間は必要であったと考えられ,他方,被告人車両は時速約55キロメートル(秒速約15.28メートル)で走行していたのであるから,被告人は,約30.56メートル北方(手前)の地点では被告人車両の進路上に入ってこようとする被害者を発見できたことになるところ,自動車運転者としては,前方の路上に自車の進路上に入ってくるおそれのある人の存在を発見した場合には,直ちに減速したり,その人の動静を慎重に見極めつつハンドルを的確に操作したり,あるいはクラクションを吹鳴してその人の注意を喚起する措置を講じたりするなどして,自車の進路の安全を確保し,同人との衝突を回避すべきであって,本件においても,本件道路の車線数,南行車線の幅,当時の交通量等に鑑みれば,被告人は,被害者を発見できた地点において,これらの措置を講じることによって,被害者との衝突を避けることが十分に可能であったのはもとより,被害者が衝突 線数,南行車線の幅,当時の交通量等に鑑みれば,被告人は,被害者を発見できた地点において,これらの措置を講じることによって,被害者との衝突を避けることが十分に可能であったのはもとより,被害者が衝突地点の東方3.5メートルないし3.1メートルの地点から飛び出したような場合であっても,被告人がそれ以前から被害者がトラックを背景に佇立していることに気付いてその動静に注意していれば,すぐさま上記のような措置(知覚反応時間が前記の1.1秒よりも短くなることを考えれば,急制動・急停止の措置も含まれよう。)を講じることによって,被害者との衝突を回避することが可能であったにもかかわらず,被告人は,前方左右の注視を怠って衝突するまで被害者に気付かず,被害者との衝突回避の措置を全く取ることなく,被告人車両を被害者に衝突させたものであるから,被告人には進路前方左右を注視してその安全確認をすべき注意義務を怠った過失があるといわざるを得ない。 (3) 以上のとおりであるから,被告人には判示の過失があったことが明らかである。 (法令の適用)罰条判示第1の所為につき平成13年法律第138号(刑法の一部を改正する法律)附則2条により同法による改正前の刑法211条前段判示第2の所為につき道路交通法119条1項7号の2,65条1項,同法施行令44条の3刑種の選択いずれも懲役刑併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重)宣告刑懲役1年6月刑の執行猶予刑法25条1項(3年間)訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(量刑の理由)本件は,被告人が,普通乗用自動車を運転中,進路前方左右の安全を十分に確認しなかった過失により,自車を道路上にいた被害者に衝突させ 年間)訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(量刑の理由)本件は,被告人が,普通乗用自動車を運転中,進路前方左右の安全を十分に確認しなかった過失により,自車を道路上にいた被害者に衝突させて死亡させたという,業務上過失致死の事案及びその際の酒気帯び運転の事案である。 被告人は,前方左右の注視という自動車運転者としての基本的な注意義務に違反したものであって,その運転態様は危険なものであること,被害者は脳挫傷等の傷害を負い,約3週間後に死亡するに至ったものであって,生じた結果は取り返しのつかない重大なものであること,被害者は26歳という若さで突然にその生命を奪われることになったものであって,被害者自身の無念さはもとより,その子供や母親ら遺族の悲嘆も大きく深いこと,もとより酒気帯び運転をした動機に酌むべき事情はなく,前記の事故もアルコールの影響が全くないとはいい切れないことなどを併せ考えると,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 しかしながら,被害者は,本件当時,相当酒に酔っていた上,深夜,黒ずくめの服装で片側二車線の国道を横断歩道によらないで渡るなどしていたものであって,本件のような重大な結果を招いたことについては,被害者にも相当の落ち度が認められること,被告人は,本件事故後被害者の存命中はその見舞いに足繁く通うなどして,被害者やその遺族らに対して誠意を示しており,遺族との間で示談も成立させていること,被告人には,業務上過失傷害罪や道路交通法違反罪による罰金前科以外に前科がないことなどの,被告人のために酌むべき事情も認められるので,今回は,被告人に対して,その刑の執行猶予の言渡しをすることとする。 (検察官の科刑意見懲役1年6月)よって,主文のとおり判決する。 平成14年3月25日神戸地方裁判所第2刑事部 今回は,被告人に対して,その刑の執行猶予の言渡しをすることとする。よって,主文のとおり判決する。 平成14年3月25日 神戸地方裁判所第2刑事部裁判長裁判官 森岡安廣 裁判官 溝國禎久 裁判官 山田智子
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