令和6(行ウ)3 免許取消処分の取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年11月14日 水戸地方裁判所
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判決文本文7,615 文字)

主文 1 茨城県公安委員会が令和6年1月31日に原告に対してした運転免許取消処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要等 1 事案の要旨本件は、普通乗用自動車(以下、「原告車両」という。)を運転中、信号無視 をした上、専らその不注意により、被害者に加療約6か月を要する傷害を負わせる人身事故(後記本件事故)を発生させたために、違反行為に係る累積点数(以下、「累積点数」という。)が15点に達したとして、処分行政庁から運転免許取消処分(以下、「本件処分」という。)を受けた原告が、本件事故につき、原告に信号無視の過失はないか、少なくとも専ら原告の不注意によって発生したも のではないので、累積点数は15点に達しないから、本件処分は違法であると主張して、本件処分の取消しを求める事案である。 2 関連法令の定め本件処分に関係する道路交通法(以下、「法」という。)及び道路交通法施行令(以下、「令」という。)の定めは、別紙記載のとおりである。 3 前提事実次の事実は、括弧内に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実のほか、当事者間に争いがない。 ⑴ 原告は、昭和59年、埼玉県公安委員会から普通乗用自動車の運転免許を受け、令和元年7月28日、千葉県公安委員会から免許証の有効期間の更新を受 けた者である(甲1)。 ⑵ 原告は、令和3年2月4日午後9時頃、原告車両を運転し、茨城県桜川市鍬田1194番地1先の信号機により交通整理の行われている十字路交差点(以下、「本件交差点」という。)を直進するに当たり、同交差点において、実況見分を実施中の警察官であるA(以下、「本件巡査部長」という。)に原告車両前部を 機により交通整理の行われている十字路交差点(以下、「本件交差点」という。)を直進するに当たり、同交差点において、実況見分を実施中の警察官であるA(以下、「本件巡査部長」という。)に原告車両前部を衝突させ、よって本件巡査部長に加療6か月を要する左足関節外果骨 折等の傷害を負わせた(以下、「本件事故」という。)。 ⑶ 茨城県公安委員会は、令和6年1月31日、法104条に基づき原告に対する意見聴取を行った上で、法103条1項5号に基づき、原告の運転免許を取り消し、免許を受けることができない期間を1年間とする処分(以下、「本件処分」という。)を行った(甲2)。 本件処分は、本件事故につき、交通違反点数として、信号無視により基礎点数2点、治療期間が3か月以上であり本件事故が専ら原告の不注意によって発生したものであることにより付加点数13点となり、累計点数が15点に達したことを理由とするものである。 原告は、本件処分当時、本件事故についての上記違反点数以外に、交通違反 点数が記録されていなかった(弁論の全趣旨)。 ⑷ 原告は、令和6年2月3日、本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。 4 争点及び当事者の主張⑴ 本件の争点は、本件処分の適法性であり、具体的には、本件事故が、専ら原告の不注意によって発生したものかが主たる争点であり、そのほかに、本件事 故について原告に信号無視の過失があったかについても争われている。 ⑵ 被告の主張原告は、本件事故の際、本件交差点の停止位置の手前で原告車両を安全に停止することが十分可能であったのであるから、原告に信号無視の違反がある。 そして、法7条の信号順守義務は、自動車運転者にとって交通事故を防止する うえで基本的なものであって、本件事故は、これに違反した原 とが十分可能であったのであるから、原告に信号無視の違反がある。 そして、法7条の信号順守義務は、自動車運転者にとって交通事故を防止する うえで基本的なものであって、本件事故は、これに違反した原告の重大な不注 意によって発生したものである。 他方、本件事故当時、対向車のヘッドライトの交錯による蒸発現象は生じていなかった。 また、交通事故現場における交通規制にあっては、限られた人員と資機材の中で必要な措置を執ることが求められるのであり、本件現場における本件巡査 部長及びその他の警察官による本件実況見分には過失がない。 そもそも原告が信号機の赤色灯火を無視して交差点に進入しなければ本件事故は発生していなかったのであるから、仮に対向車のヘッドライトの交錯や、本件巡査部長及びその他の警察官による安全確保措置に不十分な点があったとしても、本件事故の未然防止及び被害拡大の抑止に影響を与えるものではない。 よって、本件事故は、専ら原告の不注意によって発生したものである。 ⑶ 原告の主張本件事故は、原告が、本件交差点内の対面信号の黄色灯火表示を認めた時点で、停止線手前で安全に停止できないと判断して本件交差点内に原告車両を進入させたところ、原告車両が本件交差点内の原告車両進路上に佇立していた本 件巡査部長に衝突してしまったというものである。 したがって、本件事故について、原告に信号無視の違反はない。 仮に、原告に信号無視の違反があるとしても、本件事故は、対向車のヘッドライトの交錯や、本件巡査部長による安全確保措置の不履行などの複合原因によって発生したものであるから、専ら原告の不注意によって発生したものでは ない。 第3 争点に対する判断 1 認定事実前記前提事実のほか、証拠(下記認定事実末尾 の不履行などの複合原因によって発生したものであるから、専ら原告の不注意によって発生したものでは ない。 第3 争点に対する判断 1 認定事実前記前提事実のほか、証拠(下記認定事実末尾掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 本件交差点は、南北に走る県道つくば益子線(以下、「本件県道」という。) と、東西に走る市道(以下、「本件市道」という。)とが交わる十字路交差点であり、信号機により交通整理が行われている。 本件交差点北側道路は、片側一車線ずつと右折レーンで構成されており、各車線の幅員はいずれも3.0メートルであり、本件県道について速度規制はなかった。本件県道は直線であり、進路上に視野を妨げる障害物はなく、本件交 差点の横断歩道付近には街灯が3基設置されており、本件事故当時、そのうちの2基が点灯していた(乙2、3)。 ⑵ 令和3年2月4日午後7時50分頃、本件交差点において、普通乗用自動車2台が出合い頭に衝突する事故が発生した(以下、「別件事故」という。)ことから、茨城県桜川警察署地域課警察官であるB(以下、「地域課警察官」と いい、後記相勤者と併せて「地域課警察官ら」という。)と相勤者の2名が、別件事故の現場である本件交差点に臨場した(甲12、33、乙1、21、証人B)。 ⑶ 地域課警察官らが本件現場に到着した時点で、別件事故車両であるヴィッツ(以下、「別件車両」という。)が本件交差点東側の本件市道上に、同じく別 件事故車両であるヴォクシーが本件交差点南東側の歩道上に止まっていた(甲12、33、34、乙1、2、21、証人B)。 ⑷ 地域課警察官らは、別件車両の前方に、車両前面が向き合うような形でパトカーを止め、赤色灯は付けたまま、ハザードランプを付け、矢印 に止まっていた(甲12、33、34、乙1、2、21、証人B)。 ⑷ 地域課警察官らは、別件車両の前方に、車両前面が向き合うような形でパトカーを止め、赤色灯は付けたまま、ハザードランプを付け、矢印誘導体をパトカーの後方に設置した上、本件交差点の東側の横断歩道上近辺から矢印誘導版 に至るまでの地点にかけて、別件車両及びパトカーを囲むように、本件市道の中央線付近に等間隔でセーフティコーンを設置した。(甲46、乙2、21、証人B)。 他方で、本件県道上に防護措置として設置された資機材はなかった(甲34、乙2、証人B)。 ⑸ 別件事故について、当事者から足の痛みがある旨の申し出があったため、地 域課警察官は、警察署に対し、交通課員の派遣を依頼し、かかる依頼を受けて、本件巡査部長が本件交差点に臨場した(甲12、乙1、21、証人B)。 本件巡査部長は、乗車してきたワゴンタイプのパトカーを本件交差点北東側空き地に駐車させた。同パトカー屋根の赤色灯は点灯させていなかった(乙21、証人B)。 ⑹ 本件巡査部長と地域課警察官は、午後8時50分頃、本件交差点内で実況見分を開始した。本件巡査部長及び地域課警察官は、事故車両の写真撮影を終えた後、本件交差点内に飛散したプラスチック片等の状況や路面の痕跡を記録し、道路の見通しを写真撮影することとした。 本件巡査部長及び地域課警察官は、実況見分を実施するにあたっては、信号 機による交通整理のほか、対面信号が青色を表示していた際には、地域課警察官が通行車両に対して灯火式停止棒を用いて一旦停止を求め、本件巡査部長に確認した上で、支障がない場合には当該車両を通過させることとした。 なお、相勤者は、本件巡査部長到着後、本件事故発生までの間、パトカー内において、別件事故の当事 用いて一旦停止を求め、本件巡査部長に確認した上で、支障がない場合には当該車両を通過させることとした。 なお、相勤者は、本件巡査部長到着後、本件事故発生までの間、パトカー内において、別件事故の当事者から預かった免許証や車検証等のコピーをしてい た。コピーは事故当事者が2名であれば通常長くとも10分程度で終了する作業であった(甲18、乙1、21、証人B)。 本件巡査部長は、実況見分中、図面を手に持って現場周囲の図を記載したり、写真撮影をしたりする作業をしており、本件交差点についての交通整理は地域課警察官一人で行っていた。 実況見分中の車両の交通量はまばらであり、地域課警察官は、灯火式停止棒を携行して本件巡査部長が常に視界に入るよう、本件巡査部長の斜め後ろに位置しつつ、各方向の道路の車両の有無を確認し、本件交差点に車両が近づいてきた際には当該車両を警戒するために同方向に移動するなどの対応をしていた。 ⑺ 本件事故直前、本件交差点においては東西方向の本件市道に対面する信号機 は赤色灯火を示し、南北方向の本件県道に対応する信号機は青色灯火を表示し ており、本件交差点の西側の本件市道上には赤色灯火に従い車両が停止していた。他方、本件県道を南側から進行してきた車両(以下、「本件対向車両」という。)が青色信号に従い右折のウインカーを出しながら進行しようとしていたことから、地域課警察官は本件対向車両に停止を求め、本件対向車両は、本件交差点南側の横断歩道上あたりで停止した。 地域課警察官は本件巡査部長が本件交差点の中心付近で立ったまま手に持っていた図面に挟んだメモを見たり、顔を上げて現場の状況を確認するなどしたりしている様子を確認しつつ、本件対向車両に右折を指示するか思案していたところ、本件対向車両の真上の信号 近で立ったまま手に持っていた図面に挟んだメモを見たり、顔を上げて現場の状況を確認するなどしたりしている様子を確認しつつ、本件対向車両に右折を指示するか思案していたところ、本件対向車両の真上の信号機が青色から黄色に変化し、その後、地域課警察官は、交差点中心付近にいた本件巡査部長の方へと後ずさるように近づ いたところ、背後の北側から、エンジン音が聞こえて原告車両の存在に気づき、本件巡査部長に対して危険を知らせるべく叫んだが間に合わず、本件事故が発生した(甲12、18、33、乙1、21、証人B)。 本件事故発生時、本件巡査部長は、紺色の防寒着を着た上から夜光チョッキ及びヘッドライトを装着したヘルメットを着用し、本件交差点の中心付近で身 体を南側に向け、原告車両に背を向けた状態で、手に持っていた図面に視線を落としていた(乙21、証人B)。 ⑻ 原告は、本件県道北側から本件交差点に向けて走行中、対面信号が青色信号から黄色信号に変わったことを認識しつつ、速度を落とすことなく本件交差点に進入し、本件事故を発生させた(原告本人、弁論の全趣旨)。 2 判断⑴ 上記認定事実によれば、本件事故当時、本件巡査部長は、本件交差点の中心付近で実況見分を行っていたものであり、その際の交通規制については、事故現場の通行車両の交通量に応じ、人員や資機材を用いて必要な限度で措置を講じ、実況見分を行うものと解されるところ、本件事故当時、交通量はまばらで あり、本件巡査部長及び地域課警察官は実況見分を行うに当たり、本件市道に 資機材を設置し、一定の装備を装着し、信号機による交通整理を基本としつつ、往来する車両について一定の確認方法を定めて実況見分を実施している。しかし、交差点においては、信号機による交通整理がされていたとしても、 置し、一定の装備を装着し、信号機による交通整理を基本としつつ、往来する車両について一定の確認方法を定めて実況見分を実施している。しかし、交差点においては、信号機による交通整理がされていたとしても、停止線手前で安全に停止することができないとの判断の下、信号変化にかかわらず交差点を通過しようとする車両が走行してくる可能性もあるところ、本件巡査部 長及び地域課警察官は、原告車両が進行してきた本件県道上に、資機材を設置するなどの防護措置を行わず、パトカー内で作業中の相勤者の到着を待つなどして本件交差点北側における灯火式停止棒による交通整理も行わないまま実況見分を実施し、本件巡査部長は、本件交差点北側に背を向けたまま佇立していた。このように本件巡査部長及び地域課警察官が、十分な防護措置や交通規 制を行わないまま、本件交差点内に佇立して実況見分を行っていたことが、本件事故の発生に有意に寄与したものと認められる。 ⑵ 以上によれば、本件事故が専ら原告の不注意によって発生したと認めることはできず、本件事故に係る原告の付加点数が13点となることはないから、信号無視による基礎点数2点を加えたとしても、原告の累積点数は15点に達し ない。したがって、本件事故につき原告に信号無視の過失があるかどうかを判断するまでもなく、本件処分は違法である。 第4 結論よって、本件処分を取り消すこととし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 水戸地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官三上乃理子 裁判官本多健一 裁判官加藤陽大 (別紙) ⑴ 信号に従う 上乃理子 裁判官本多健一 裁判官加藤陽大 (別紙) ⑴ 信号に従う義務道路を通行する車両等は、信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等に従わなければならない(法7条)。 ⑵ 運転免許の取消等ア法84条所定の運転免許を受けた者が自動車等の運転に関し、法もしくは法に基づく命令の規定又は法の規定に基づく処分に違反したときは、法103条2項1号ないし4号に該当する場合を除き、当該違反をした時におけるその者の住所地を管轄する公安委員会は、令で定める基準に従い、その者の 免許を取り消すことができる(法103条1項5号)イ免許を受けた者が、一般違反行為(自動車等の運転に関し、法もしくは法に基づく命令の規定又は法の規定に基づく処分に違反する行為で、令別表第二の一の表の上覧に掲げるものをいう(令33条の2第1項1号柱書)。)をした場合において、当該一般違反行為をした日を起算点とする過去3年以内 に、令別表第三備考一に定める前歴(以下、「前歴」という。)がなく、累積点数(処分の理由となる違反行為及び当該違反行為をした日を起算点とする過去3年以内におけるその他の違反行為について、令別表第二に定めるところにより付した点数の合計をいう(令33条の2第3項)。)が令別表第三の一の表の第一欄に掲げる区分に応じ、それぞれ同表の第二欄、第三欄、第四欄、 第五欄又は第六欄に掲げる点数に該当したときは、免許を取り消すものとする(令38条5項1号イ)。 ウ令別表第三の一の表は、第一欄において前歴の有無及び回数を区分し、そのうち前歴がない者については、第二欄に45点以上、第三欄に40点から44点まで 取り消すものとする(令38条5項1号イ)。 ウ令別表第三の一の表は、第一欄において前歴の有無及び回数を区分し、そのうち前歴がない者については、第二欄に45点以上、第三欄に40点から44点まで、第四欄に35点から39点まで、第五欄に25点から34点ま で、第六欄に15点から24点までの累積点数を掲げている。 ⑶ 違反行為にかかる基礎点数等ア信号無視に付する基礎点数令別表第二の一の表及び同別表備考一の1並びに同別表備考二の27は、法7条の規定の違反となるような行為(信号無視)に付する基礎点数を2点と定めている。 イ交通事故の場合に付する付加点数令別表第二の三の表及び同別表備考一の2(イ)は、「当該違反行為をし、よって交通事故を起こした場合」には、当該違反行為にかかる基礎点数に所定の付加点数を加えるものとし、人の傷害に係る交通事故(他人を傷つけた者に限る。以下、「傷害事故」という。)のうち、当該傷害事故にかかる負傷者 の負傷の治療に要する期間が3か月以上であるもの又は後遺障害が存するものであって、当該交通事故が専ら違反行為をした者の不注意によって発生したものである場合における付加点数を13点、それ以外の場合における付加点数を9点と定めている。 ⑷ 免許の欠格期間 ア都道府県公安委員会は、法103条1項5号に該当することを理由として同項の規定により免許を取り消したときは、令で定める基準に従い、1年以上5年を超えない範囲内で当該処分を受けた者が免許を受けることができない期間を指定するものとする(法103条7項)。 イ一般違反行為をしたことを理由として免許を取り消したときは、当該処分 を受けた者に前歴がなく、一般違反行為にかかる累積点数が令別表第三の一の表の第六欄に掲げる点 する(法103条7項)。 イ一般違反行為をしたことを理由として免許を取り消したときは、当該処分 を受けた者に前歴がなく、一般違反行為にかかる累積点数が令別表第三の一の表の第六欄に掲げる点数に該当した場合、当該処分を受けた者が免許を受けることができない期間を1年と指定する(令38条6項2号ホ)。

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