平成28(行ウ)223 原因者負担金負担命令取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和元年9月26日 大阪地方裁判所
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判決文本文22,544 文字)

- 1 - 令和元年9月26日判決言渡平成28年(行ウ)第223号原因者負担金負担命令取消請求事件 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求大阪府富田林土木事務所長が原告に対して平成26年4月30日付けでした工事費用納入命令(大阪府達富土第1928号)を取り消す。 第2 事案の概要 平成25年6月26日午後2時頃,大阪府南河内郡(住所省略),(住所省略)(以下,併せて「本件各土地」という。)先において,原告が同地に設置したブロック(以下「本件ブロック」という。)等が一級河川A川の河道内に崩落するとともに,A川の河川護岸の一部が崩壊するという事故(以下「本件事故」という。)が発生した。 本件は,大阪府富田林土木事務所長(以下「本件所長」という。)が,原告が本件各土地上に本件ブロックを設置したことが本件事故の原因であるとして,河川法67条に基づき,原告に対し,応急対策工事費用合計297万5000円の納付を命じる旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたため,原告が,被告を相手に,本件処分の取消しを求める事案である。 1 関係法令の定め(1) いわゆる原因者負担金に関する定め等河川法18条は,河川管理者は,河川工事(河川の流水によって生ずる公利を増進し,又は公害を除却し,若しくは軽減するために河川について行う工事をいう(同法8条)。以下同じ。)以外の工事(以下「他の工事」という。) 又は河川を損傷し,若しくは汚損した行為若しくは河川の現状を変更する必- 2 - 要を生じさせた行為(以下「他の行為」といい,他の工事と併せて「他の工事等」という。)によって必要を生じた河川工事又は河川の維持を当 しくは汚損した行為若しくは河川の現状を変更する必- 2 - 要を生じさせた行為(以下「他の行為」といい,他の工事と併せて「他の工事等」という。)によって必要を生じた河川工事又は河川の維持を当該他の工事の施行者又は当該他の行為の行為者に行わせることができる旨規定する。 河川法67条は,河川管理者は,他の工事等により必要を生じた河川工事又は河川の維持に要する費用については,その必要を生じた限度において, 当該他の工事等につき費用を負担する者(以下「原因者」という。)にその全部又は一部を負担させるものとする旨規定する(以下,同条に基づき上記費用の全部又一部を負担させる旨の処分を「原因者負担金負担命令」という。)。 (2) 河川管理者に関する定め等一級河川(国土保全上又は国民経済上特に重要な水系で政令で指定したも のに係る河川で国土交通大臣が指定したものをいう(河川法4条1項)。以下同じ。)の河川管理者は,国土交通大臣である(同法7条,9条1項)。 河川法9条2項は,国土交通大臣が指定する区間(以下「指定区間」という。)内の一級河川に係る国土交通大臣の権限に属する事務の一部は,政令で定めるところにより,当該一級河川の部分の存する都道府県を統轄する都道 府県知事が行うこととすることができる旨規定するところ,指定区間内の一級河川について同法67条に基づく原因者負担金負担命令をする権限は,上記都道府県知事に委任されている(河川法施行令2条)。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠等により容易に認定することができる事実。以下,書証番号は特記しない限り各枝番を含む。) (1) 原告原告は,トビ・土工工事業等を目的とする株式会社である。 (2) 本件各土地等ア A川は,指定区間内の一級河川である(乙 。以下,書証番号は特記しない限り各枝番を含む。) (1) 原告原告は,トビ・土工工事業等を目的とする株式会社である。 (2) 本件各土地等ア A川は,指定区間内の一級河川である(乙11)。 イ原告代表者の妻は,平成24年11月13日,本件各土地を含む9筆の 土地(以下「本件購入地」という。)を買った(以下「本件売買」という。 - 3 - 甲3,12,乙1の2~1の5)。 ウ本件各土地付近の概要は,別紙のとおりである。本件各土地は,本件購入地のうちの北側部分であり,北側端でA川に接している(甲3)。本件購入地の東側には府道▲号線が南北に走り,A川上にB橋が架けられている(乙6)。 原告代表者の妻が本件購入地を買った平成24年11月13日当時,本件各土地には,河川護岸上にブロック積擁壁(以下「既設擁壁」という。)が設置され,更にその上部に盛土がされていた(ただし,当時の具体的な土地の状況については,当事者間に争いがある。)。 (3) 原告による本件ブロックの設置等 ア原告は,原告代表者の妻が本件購入地を買った後,本件各土地において,既設擁壁の上にA川の河岸に沿って延長約130mにわたり本件ブロックを設置するなどの工事(以下「本件工事」という。)を行った(ただし,本件工事の具体的な内容については,当事者間に争いがある。)。 本件ブロックは,「サイコロブロック」又は「豆腐ブロック」と呼ばれる 立方体のコンクリートブロックであり,その1辺の長さは約90cm,ブロック1個の重さは約1.55tである。 イ本件工事は,河川保全区域内において土地の掘さく,盛土又は切土その他土地の形状を変更する行為に該当し,本来は河川法55条1項による河川管理者の許可を要するものであったが,原告は,その旨の認 。 イ本件工事は,河川保全区域内において土地の掘さく,盛土又は切土その他土地の形状を変更する行為に該当し,本来は河川法55条1項による河川管理者の許可を要するものであったが,原告は,その旨の認識がなく, 同許可を受けずに本件工事をしたものである(乙2,弁論の全趣旨)。 (4) 本件事故平成25年6月26日午後2時頃,本件各土地先において,本件ブロック等がA川の河道内に崩落するとともに,A川の河川護岸の一部が崩壊するという本件事故が発生した。 (5) 本件処分等- 4 - ア本件所長は,本件事故後,本件事故により崩壊した河川護岸について,応急対策工事を行った。 イ本件所長は,平成26年4月30日付けで,原告に対し,原告による本件ブロックの設置により,河道内に既設擁壁,本件ブロック及び盛土等が崩壊するとともに被告の護岸も崩壊したとして,応急対策工事費用合計2 97万5000円(以下「本件費用」という。)の納付を命じる旨の原因者負担金負担命令(本件処分)をした(甲1)。 ウ原告は,平成26年6月27日付けで,大阪府知事に対し,本件処分につき審査請求をしたところ,同知事は,平成28年3月31日付けで,同審査請求を棄却する旨決定した(甲2,乙5)。 (6) 本件訴えの提起原告は,平成28年9月24日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。 3 主な争点(1) 本件工事が本件事故の原因であったか(2) 本件所長が原告に本件費用の全部を負担させたことにつき裁量権の範囲 の逸脱又はその濫用があったか 4 上記争点に対する当事者の主張(1) 争点(1)(本件工事が本件事故の原因であったか)について(被告の主張)ア本件工事の内容 (ア) 本件売買当時(平成24年11月 ったか 4 上記争点に対する当事者の主張(1) 争点(1)(本件工事が本件事故の原因であったか)について(被告の主張)ア本件工事の内容 (ア) 本件売買当時(平成24年11月当時)の本件各土地の状況は,概要,別添図1のとおりであった(同図は,本件各土地の北側端付近を南北方向に切断し,東側から西側に向かって観察したとした場合の断面図である。別添図2から5までも同じ。)。 すなわち,本件各土地の北側端部分には既設擁壁が設置され,本件各 土地上には,既設擁壁の高さ以上の一定の高さまで盛土がされ,盛土に- 5 - よる斜面となっていた。盛土の高さは,既設擁壁の天面の位置から2. 7mを下回らないものであり,盛土の高さに対する水平面の割合が1対1.5(水平面に対する角度が約34°)よりも急勾配な斜面ではなかった。 (イ) 原告は,既設擁壁の天面上の天面北側端から約196mm南側に控え た場所に本件ブロックを約2.7mの高さまで設置し,斜面上に本件各土地の南側付近にあった土砂を移動させ,本件ブロックのすぐ南側の際まで,本件ブロックの天面の高さ近くに達するまで,十分に転圧しながら土砂を敷き詰めた。その上で,外部から砂利を搬入し,本件各土地全体に15~20cmの厚さをもって転圧を掛けて当該砂利を敷き詰め た。 本件工事により,本件各土地の状況は,概要,別添図2のとおりとなった。 イ本件事故の態様本件事故は,本件各土地の北側斜面(河川護岸,既設擁壁,本件ブロッ ク(本件工事後に限る。)及び周辺の土砂により一体として形成された斜面。 以下,本件工事の前後を問わず「本件斜面」という。)が安定性を欠くに至り一塊となって滑るように崩壊したものである。 これに対し,原告は,本件事故は河川水衝部の既設擁 により一体として形成された斜面。 以下,本件工事の前後を問わず「本件斜面」という。)が安定性を欠くに至り一塊となって滑るように崩壊したものである。 これに対し,原告は,本件事故は河川水衝部の既設擁壁と護岸が割れて崩れたために発生したと考えられるなどと主張する。しかしながら,仮に 本件斜面が安定しているという前提において,河床の洗掘等の事情で特定部分の護岸が崩壊したからといって,それにつられるように幅77mにもわたって高さ9m近い斜面の全体が下方に移動して崩壊することなど考えられない。約130mにわたる本件斜面が全体的に安定性を欠く状況にあったといっても,実際の土の状況(内部摩擦角,粘着力,間隙水圧)はそ れぞれの箇所によって異なり得るから,同じ雨量の降雨にさらされたとし- 6 - ても,崩壊してしまった箇所と崩壊せずにとどまった箇所があること自体は,むしろ当然のことである。 ウ本件工事と本件事故との間に因果関係があること以下の(ア)から(ウ)までのとおり,本件斜面は,原告がした本件工事により斜面の安定性が著しく損なわれ,斜面崩落の蓋然性が許容できない程度 に高まった危険な状態に陥ったものである。また,(エ)のとおり,仮に本件斜面が本件工事前の状態のままであれば,本件事故の当日と同等の雨量ないしそれをはるかに超える雨量があったとしても,斜面崩壊は発生しなかったと認められる。 したがって,本件事故が発生した原因は,専ら原告による本件工事にあ るものというべきである。 (ア) 円弧滑り計算法による安定計算(以下「円弧滑り計算」という。)により算出される本件斜面の安全率の値は,本件工事により著しく悪化しており,かつ,本件工事後の斜面の安全率の値は,斜面崩壊の蓋然性が高い,危険な状態を示していること 「円弧滑り計算」という。)により算出される本件斜面の安全率の値は,本件工事により著しく悪化しており,かつ,本件工事後の斜面の安全率の値は,斜面崩壊の蓋然性が高い,危険な状態を示していること 被告は,本件に関して,3回,斜面の安定性を評価するために一般的に用いられる手法である円弧滑り計算を実施した(乙6の3,13,22)。いずれの計算結果によっても,本件工事により本件斜面の安定性がいつ崩壊してもおかしくない危険な程度にまで損なわれたところ,その危険が現実化して本件事故が発生したことが示されている。特に,乙第 22号証の計算は,より真実に近い推測値を使用し,さらに,本件事故当日の1時間ごとの降雨量と河川水位の変化,それを前提とする本件各土地付近の地盤への雨水の浸透,護岸からの河川水の浸透についても浸透流解析の手法により計算条件に反映させて実施したものであるところ,同計算結果は,本件工事前の本件斜面の状況であれば,本件事故当 時と同等の雨量があったとしても本件斜面の崩壊が起こらなかったこ- 7 - とを明確に示すものであって,これらの円弧滑り計算の結果から,本件事故の原因が本件工事にあることが明確に裏付けられているというべきである。 (イ) 本件事故当時の降雨によりA川流域の護岸が崩壊したのは本件事故の箇所だけであったこと 本件事故当時の降雨によりA川流域の護岸が崩壊したのは本件事故の箇所だけであったのであり,降雨によりA川の流水が護岸の許容限度を超えていたといった事情は認められない。 (ウ) 本件事故の原因として,本件工事により斜面の安定性が損なわれたこと以外の原因の存在をうかがわせる事情がないこと 本件事故の現場付近の河川護岸は定期的に点検されているところ,河川の流水による河床の洗掘の 因として,本件工事により斜面の安定性が損なわれたこと以外の原因の存在をうかがわせる事情がないこと 本件事故の現場付近の河川護岸は定期的に点検されているところ,河川の流水による河床の洗掘の兆候はなくむしろ土砂が堆積していた。そもそも,本件事故の現場付近の川幅は一定で,緩やかな曲線は描くものの,ほぼ直線であり,洗掘の生じやすい屈曲部とはいえない箇所である。 洗掘による護岸の損傷が本件事故の原因であった可能性が存在しない ことは明白である。 他に,本件事故の原因として,本件工事により斜面の安定性が損なわれたこと以外の原因の存在をうかがわせる事情は見当たらない。 (エ) 本件工事がなければ本件事故は生じ得なかったこと本件斜面には,遅くとも昭和61年2月までに,既設擁壁が設置され, その上に盛土がされていたのであり,その頃には既に,原告が本件工事をする直前の本件斜面の状況と同様の状況となっていたものである。この昭和61年2月から本件工事が行われた平成24年12月頃までの約27年間,本件事故時を大幅に超える雨量や河川水位の上昇を生じさせる降雨を何度となく経験しつつも,本件斜面は崩壊することなく推移 し,かつ,本件工事後の最初の本格的な降雨というべき平成25年6月- 8 - 26日の降雨時に本件事故が発生したのである。このことのみをもってしても,本件工事がなければ本件事故が生じ得なかったことが明らかであるということができる。 上記(ア)のとおり,本件斜面が本件工事直前の状況であった場合に,仮に本件事故時と同様の雨量,河川水位の上昇があったとしても,本件斜 面が崩壊しなかったと考えられることについては,乙第22号証の円弧滑り計算の結果からも明確に証明されているところである。 エ小括以上のとおり,本件 河川水位の上昇があったとしても,本件斜 面が崩壊しなかったと考えられることについては,乙第22号証の円弧滑り計算の結果からも明確に証明されているところである。 エ小括以上のとおり,本件工事が本件事故の原因であったということができる。 (原告の主張) ア本件工事の内容原告は,平成24年11月21日から平成25年1月頃までの間に,本件各土地上の雑草やコンクリートと共に表土を50cmに至らない程度の深さの分だけ除去・処分し,本件各土地の北側部分には本件ブロックを積んでその手前部分は埋め戻し,敷地全体に砕石を15~20cm敷きなら した。現地にあった盛土を本件ブロック設置のために一度のけて,ブロック設置後に元に戻したにすぎない。原告のした本件工事の概要は,別添図3のとおりである。 被告は,本件工事前の盛土の斜面の状態について,通常の斜面と同程度の勾配であったとして,盛土の高さに対する水平面の割合が1対1.5(水 平面に対する角度が約34°)よりも急勾配な斜面ではなかったと主張するが,被告が根拠とする写真(甲3の4,乙10)によっても,上記斜面が通常の斜面と同程度の勾配であったとは認められない。上記斜面は,被告の主張より急な勾配であった。 被告は,原告が既設擁壁の天面上の天面北側端から約196mm南側に 控えた場所に本件ブロックを設置した旨主張するが,原告は,本件ブロッ- 9 - クを既設擁壁の天面に重ならないように設置した。 被告は,原告が盛土の斜面上に本件各土地の南側付近にあった土砂を移動させたと主張するが,原告は,本件各土地全部にわたって南北の緩い勾配を付けるように整地をしただけであり,土砂を移動させて敷き詰めたものではない。 イ本件事故の態様被告は,一体として形成され たと主張するが,原告は,本件各土地全部にわたって南北の緩い勾配を付けるように整地をしただけであり,土砂を移動させて敷き詰めたものではない。 イ本件事故の態様被告は,一体として形成された本件斜面が一塊となって滑るように崩壊した旨主張する。しかしながら,本件ブロック,既設擁壁,河川護岸及びそれら周辺の土砂・盛土は,それぞれ設置された時期も,組成も,比重も異なり,盛土は水平で,本件ブロックは垂直に置かれたものであるから, 一体として形成された斜面であるということはできない。また,本件事故の状況を見ると,原告が本件ブロックを設置した,全長約130mの区域のうち東寄り真ん中辺りの約50mの範囲のみの土砂と本件ブロックが崩れ,その部分のみ既設擁壁及び護岸も割れて崩れている。その崩れ方は,上記部分の既設擁壁と護岸が崩れたために,それにつられるように本件ブ ロックと土砂が崩れ落ちたように見える。しかも,割れて崩れた箇所の既設擁壁と護岸は,崩れていない箇所と比べて,その色調が異なっている。 また,上記箇所は,ちょうどA川の屈曲部,水衝部,川幅狭小部である。 このような既設擁壁及び河川護岸の損傷状況や損傷個所が水衝部等に限られていることからも,本件事故が,一体として形成された斜面が一塊とな って滑るように崩壊したというものではないということができる。 仮に,被告の主張するとおり,本件工事により本件斜面の安定性が損なわれ,本件斜面が一体となって崩落したのであれば,原告が本件ブロックを積んだ部分全体(本件斜面全体)が崩落していたはずである。また,仮に円弧滑りにより本件事故が発生したのだとすれば,現地で滑り面が確認 されてしかるべきであるが,本件で滑り面は確認されていない。 - 10 - 以上のとおり,本件事故は,河 る。また,仮に円弧滑りにより本件事故が発生したのだとすれば,現地で滑り面が確認 されてしかるべきであるが,本件で滑り面は確認されていない。 - 10 - 以上のとおり,本件事故は,河川水衝部の既設擁壁と護岸が割れて崩れたために発生したものと考えられる。 ウ本件工事と本件事故との間の因果関係(ア) 本件事故の原因について本件工事の内容は上記アのとおりであり,本件各土地の状況は,本件 工事の前後で実質的に変わっていないのであるから,本件工事により本件斜面の安定性が著しく損なわれたということはないはずである。本件事故の態様は上記イのとおりであり,既設擁壁又は河川護岸が降雨による土圧・水圧に耐え切れずに崩壊して本件事故が発生したと考えるのが自然である。 (イ) 円弧滑り計算について被告が採用する円弧滑り計算に基づく斜面の安全率という考え方が妥当するのは,土質が均一な人工斜面に限られるのであって,本件のように,先に既設擁壁が設置されて盛土がされ,その後に原告が本件ブロックを設置したような場合には,上記考え方は妥当しない(そもそも, 本件斜面が一体として形成された斜面であるといえないことは上記イのとおりである。)。 また,被告が計算したとする本件斜面の安全率は,様々な仮説条件(盛土の数値・係数は本件斜面のものではなく近隣地質調査結果の数値を,地山の数値・係数も本件斜面ではなく砂質土の一般値を用いるなど)の 積み重ねの下で計算された数値にすぎず,現実の本件斜面の安全率と異なる。このことは,被告が自認するとおりである。そうすると,安全率が1を下回ることのみを理由に本件工事により本件事故が発生したということはできない。 エ小括 以上によれば,本件工事が本件事故の原因であるとの立証はさ るとおりである。そうすると,安全率が1を下回ることのみを理由に本件工事により本件事故が発生したということはできない。 エ小括 以上によれば,本件工事が本件事故の原因であるとの立証はされていな- 11 - いというべきである。 (2) 争点(2)(裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無)について(原告の主張)ア原因者負担金負担命令の適法要件等原因者負担金制度は,河川維持費用(応急対策工事費用を含む。)の全部 を国又は都道府県が負担することを前提とした上で(河川法59条,60条),工事の必要を生じさせた者に,当該工事の必要を生じた限度において(同法67条),その全部又は一部を負担させることができるとするものである。 したがって,原因者負担金は,他の工事等と河川工事との間に因果関係 がある場合に(負担の有無の判断基準),その必要を生じた限度においてのみ(負担割合の判断基準),原因者に負担させることができるものであり,因果関係さえあればその費用の全部を負担させるというものではない。そして,後者の負担割合の判断は,国又は都道府県が工事費用の全部を負担するのを前提として,他の工事等の内容,危険性,河川法55条による許 可の有無,許可を得ていない場合はその事情,河川管理の支障の程度,河川工事の内容及びそれを必要とするに至った諸要素その他の事情を考慮して河川管理者の合理的な裁量判断により決せられるべきものと解される。 そうすると,上記判断に当たって,河川管理者が考慮すべきことを考慮せず,その判断が社会通念に照らして甚だしく不当であるときは,当該原因 者負担金負担命令は,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとして違法となるというべきである。 イ本件所長が原告に本件費用の全部を負担させたこ して甚だしく不当であるときは,当該原因 者負担金負担命令は,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとして違法となるというべきである。 イ本件所長が原告に本件費用の全部を負担させたことには裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったと認められること仮に,本件工事が本件事故の原因の一つであり,本件工事と本件事故と の間に因果関係が認められるとしても,本件事故に関しては,以下の諸事- 12 - 情が認められる。それにもかかわらず,本件所長は,これらの事情を一切考慮することなく,本件斜面の安全率が1を下回っていることのみを理由として,本件費用の全部を原告の負担としたものである。また,原告自身,本件事故により多大な損害を被ったものであるが,本件処分は,そのような原告に本件費用の全部を負担させる甚だしく酷なものである。そうする と,本件所長が原告に本件費用の全部を負担させたのは,社会通念に照らして甚だしく不当であって,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったというべきである。 (ア) 本件事故の原因として,当日の降雨・河川流量の増大,河川護岸・既設擁壁の経年劣化,A川の河川整備が十分でなかったことが挙げられる。 また,争点(1)で主張したように,既設擁壁又は河川護岸が降雨による土圧・水圧に耐え切れずに崩壊して本件事故が発生した可能性も否定することができない。 (イ) 本件各土地は,以前から,既設擁壁が設置され,その上に盛土がされて,安全性が欠けるか,少なくとも安全性に乏しい状態となっていたの であり,それ自体崩壊のおそれが内在していたものである。 (ウ) 原告は,本件売買の際,売主から本件各土地が河川保全区域内にあるとの重要事項説明を受けたことはなく,かえって開発行為非該当証明書(甲13)の交付を受け 壊のおそれが内在していたものである。 (ウ) 原告は,本件売買の際,売主から本件各土地が河川保全区域内にあるとの重要事項説明を受けたことはなく,かえって開発行為非該当証明書(甲13)の交付を受けたため,資材置場として適法に使用できるものと信じ,見た目をきれいにする目的で敷地全体を整地したにすぎず,外 部から土砂を新たに搬入したわけでもなく,本件各土地の形状を変えたという認識もなかった。 (エ) 大阪府富田林土木事務所職員は,本件工事期間中,工事状況を現認し,原告代表者と面談しているが,同職員が本件工事の危険性や違法性を指摘することはなく,原告が,本件工事が問題のある危険な工事であると の認識を持つことはなかった。その後,同土木事務所職員は,河川巡視- 13 - もしていたが,危険性についての指摘はなかった。 (オ) A川は,具体的な改修計画のない未改修河川であった。 (カ) 本件事故現場の河川護岸の浸食,河床の洗掘があったかどうかの確認もされていなかった。 (被告の主張) ア河川法67条の趣旨等河川法67条が「その必要を生じた限度において」と定めるのは,河川工事等が,他の工事等によって必要を生じた事項のみならず,他の行政目的の実現のための事項をも含む場合に,原因者負担金の範囲を限定する趣旨にすぎないから,専ら他の工事等によって必要を生じた河川工事等の費 用については,原因者がその全部を負担すべきである。すなわち,例えば,他の工事等によって河川が汚損されたことから,当該汚損を除去する工事の必要を生じたが,それ以前から河床に砂利が堆積し,近日中に撤去する予定であったため,当該砂利の撤去も,上記工事と併せて行ったという場合には,汚損の除去費用を限度として原因者が負担すべきであることを明 ら が,それ以前から河床に砂利が堆積し,近日中に撤去する予定であったため,当該砂利の撤去も,上記工事と併せて行ったという場合には,汚損の除去費用を限度として原因者が負担すべきであることを明 らかにする趣旨で「その必要を生じた限度において」との規律が設けられているにすぎないのである。 本件において,本件所長は,本件事故による河川汚損を受けて,専ら汚損を除去するための工事を行ったにすぎないから,その費用の全部を原告が負担すべきことは明らかである。 イ原告の負担額を制限すべき事情がないこと原告は,本件各土地は本件売買の前から少なくとも安全性に乏しい状態となっていたなどとして,原告の負担額が制限されるべき旨主張する。しかしながら,護岸上に既設擁壁を設置し,その上に盛土をした行為は,昭和61年2月には完了しており,その後,27年間にもわたって本件各土 地は同じ形状のまま崩壊することなく安定的に推移してきたものである。 - 14 - 仮に既設擁壁を設置し盛土をした行為がそれ自体も違法な行為であったとしても,本件斜面は,その後,長年にわたり斜面の安定性が保たれてきたのであるから,平成25年6月に発生した本件事故の原因の一端が,27年以上も前の行為にあるとして,原告の負担額を減殺しようとする原告の上記主張が妥当でないことは明らかである。 また,原告は,A川の河川整備が不十分であったとか,大阪府富田林土木事務所職員が適切な指導をしなかったなどと主張する。しかしながら,A川に未改修部分が存在することは本件事故とは何ら関係のない事情であるし,また,専ら自らの危険かつ違法な本件工事によって,自らの土地の土砂等を被告(大阪府知事)が管理する河川に崩落させておいて,被告職 員が事前に是正を求めていなかったから被告にも責 事情であるし,また,専ら自らの危険かつ違法な本件工事によって,自らの土地の土砂等を被告(大阪府知事)が管理する河川に崩落させておいて,被告職 員が事前に是正を求めていなかったから被告にも責任の一端があるなどという論理は,信義則論としても権利濫用論としても成り立ち得ないものである。 第3 当裁判所の判断 1 処分権限について (1) 前記関係法令の定め(2)及び前記前提事実(2)アによれば,河川法及び河川法施行令上,指定区間内の一級河川であるA川で行われた応急対策工事に要した本件費用につき原因者負担金負担命令を発する本来的な権限は,大阪府知事に属するものということができる。 もっとも,地方自治法153条1項は,普通地方公共団体の長はその権限 に属する事務の一部をその補助機関である職員に委任することができる旨規定するところ,被告(大阪府)においては,同項の規定に基づき,府土木事務所長等の職にある職員に権限を委任する規則(昭和35年大阪府規則第21号。以下「委任規則」という。乙12)を定め,同規則2条1項15号の7において「河川法第67条の河川工事及び河川の維持に要する費用を徴 収すること」についての権限を府土木事務所長の職にある職員に委任してい- 15 - るというのである。 そうすると,本件所長は,上記規定により大阪府知事から権限の委任を受けた者として,本件費用につき原因者負担金負担命令(本件処分)を発する権限を有するということができる。 (2) これに対し,原告は,委任規則2条1項15号の7は原因者負担金の徴収 権限のみを府土木事務所長等の職にある者に委任したものであって,原因者負担金を負担させること(賦課)については権限を委任していないと解されるとして,本件所長は本件処分を発する権限を 担金の徴収 権限のみを府土木事務所長等の職にある者に委任したものであって,原因者負担金を負担させること(賦課)については権限を委任していないと解されるとして,本件所長は本件処分を発する権限を有しない旨主張する。しかしながら,同号が,原因者負担金等の徴収について定めた河川法74条ではなく,原因者負担金の負担について定めた同法67条を明示して委任事項を特 定していることに加え,委任規則2条1項1号の2が同法18条の規定により河川工事及び河川の維持を行わせることを掲げるなど,委任規則2条1項各号が府土木事務所長等の職にある職員に権限を委任する事項として掲げるものの内容に照らしても,同項15号の7が,原因者負担金を負担させることについては権限を委任せず,大阪府知事が自ら原因者負担金負担命令を 発した後の負担金の徴収に限って権限を府土木事務所長等に委任する趣旨であると解するのは困難である。 したがって,原告の上記主張は,採用しない。 2 争点(1)(本件工事が本件事故の原因であったか)について(1) 認定事実 前記前提事実に加え,証拠(甲3,10~13,乙3~6,9,10,14~16,18,20,21,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア本件工事前の本件各土地の状況等(ア) 本件各土地は,かつて農地であったが,その後,資材置場等として利 用されていた。 - 16 - (イ) 原告代表者の妻は,平成24年11月13日に本件購入地を買ったところ,同日当時の本件各土地の状況は,概ね別添図1のとおりであった。 すなわち,本件各土地の北側端部分(A川との官民境界線付近)には,河川護岸上に既設擁壁が設置された上で,既設擁壁の高さ以上の高さまでの盛土がされ,既設擁壁より上の部分 概ね別添図1のとおりであった。 すなわち,本件各土地の北側端部分(A川との官民境界線付近)には,河川護岸上に既設擁壁が設置された上で,既設擁壁の高さ以上の高さまでの盛土がされ,既設擁壁より上の部分は盛土による斜面となっていた。 なお,盛土の高さは,既設擁壁の天面から2.7m程度であり,斜面の勾配は盛土の高さに対する水平面の割合が1対1.5程度であったと考えられるものの,盛土の高さや斜面の勾配についてこれ以上に正確な数値は証拠上明らかでない。 (ウ) 本件各土地は,遅くとも昭和61年2月頃には,概ね,上記(イ)と同様 に,既設擁壁が設置され,その天面から2.7m程度の高さまで盛土がされている状況となっていたところ,その頃から,本件事故が発生した平成25年6月26日までの間に,本件各土地付近においてA川の護岸が崩壊する等の事故が発生したことはなかった。 イ本件工事 原告は,原告代表者の妻が本件購入地を買った後,同地を資材置場として利用することとし,平成24年11月21日から平成25年1月初旬までの間に本件各土地上において,既設擁壁の上にA川の河岸に沿って延長約130mにわたり本件ブロックを設置するなどの工事(本件工事)を,本来必要とされる河川法55条1項の許可を受けることなく行った。 本件工事の内容は,概ね,以下のとおりである(これをイメージとして表すと,別添図4-1~図4-3のようになる。)。なお,原告は,本件工事を行うに当たり,現地の測量をしたり,図面を作成したりすることはしていない。 (ア) 既設擁壁の天面より上の斜面となっている盛土部分に繁茂していた雑 草等を除去した上で,既設擁壁から南側に2mないし2.5m程度の幅- 17 - の分だけ盛土を除去した(図4-1)。 (イ) 既設 天面より上の斜面となっている盛土部分に繁茂していた雑 草等を除去した上で,既設擁壁から南側に2mないし2.5m程度の幅- 17 - の分だけ盛土を除去した(図4-1)。 (イ) 既設擁壁より南側に,既設擁壁の天面には重ならず,これに沿うように本件ブロックを3段積み重ねて設置し,その南側に本件ブロックの天面の高さまで盛土を埋めた(ブロックを積み重ねるに当たっては,図4-2①②のように,1段ブロックを積むごとに盛土を転圧した。)。この 盛土は,上記(ア)で斜面部分からいったん除去した盛土を埋め戻したほか,本件工事前には本件各土地の南側等の平坦な部分にあった土砂を移動させて埋めたものである。 (ウ) 本件各土地全体を整地し,土地全体に新たに買った砂利を敷き詰めた。 ウ本件事故等 平成25年6月26日,本件各土地付近では,午前4時頃から連続的に雨が降っていたところ,同日午後2時頃,本件斜面が延長約77mにわたって崩壊する本件事故が発生した。 同日,A川の他の箇所で護岸が崩壊する等の事故が発生した箇所はなかった(なお,原告は他にも事故が発生した箇所があった旨主張し,原告代 表者もこれに沿う供述をするが,原告代表者の供述によっても,原告代表者が自ら事故現場を確認したというのではなく,「行政の方」から「世間話的なことで聞いた」にすぎないというのであるから,同供述に基づいて,他にも事故が発生した箇所があった事実を認定することはできず,むしろ,乙第26号証及び弁論の全趣旨によれば,同事実はなかったものと認定す ることができる。)。 エ本件事故当日の雨量等(ア) 本件各土地付近にある観測所(C観測所及びD観測所)における本件事故当日午前4時から同日午後2時までの間の連続雨量は,いずれも67mmであった とができる。)。 エ本件事故当日の雨量等(ア) 本件各土地付近にある観測所(C観測所及びD観測所)における本件事故当日午前4時から同日午後2時までの間の連続雨量は,いずれも67mmであった。また,本件各土地から約3kmA川の下流に下った場 所に架かっているE橋付近の水位は,同日午後0時から午後1時までの- 18 - 間に最大になり,その水位は1.64mであった。 (イ) 平成17年から本件工事までの間に,C観測所又はD観測所における連続雨量が70mm以上となったことが,以下のとおり,6回あった。 a 平成19年7月16日午後10時から同月17日午前2時までC観測所 127mm D観測所 128mmE橋の最大水位 3.24mb 平成20年5月24日午後4時から同月25日午前6時までC観測所 102mmD観測所 105mm E橋の最大水位 2.83mc 平成21年10月7日午後1時から同月8日午前10時までC観測所 103mmD観測所 105mmE橋の最大水位 2.64m d 平成23年9月3日午後7時から同月4日午前5時までC観測所 66mmD観測所 70mmE橋の最大水位 1.98me 平成24年6月21日午後4時から同月22日午前4時まで C観測所 76mmD観測所 81mmE橋の最大水位 2.18mf 平成24年7月6日午前0時から同日午前7時までC観測所 71mm D観測所 69mm- 19 - E橋の最大水位 1.86m(ウ) 本件工事後,本件事故発生までの間に,C観測所又はD観測所における連続雨量が70mm以上となったのは,平成25年6月19日午後1時から同月20日午前7時までの1回である。その間の .86m(ウ) 本件工事後,本件事故発生までの間に,C観測所又はD観測所における連続雨量が70mm以上となったのは,平成25年6月19日午後1時から同月20日午前7時までの1回である。その間の連続雨量はC観測所が69mm,D観測所が72mmであり,E橋の最大水位は1.3 6mであった。 (2) 判断ア(ア) 上記認定の本件工事の内容に照らせば,本件工事が行われたことによって,本件斜面の上部にある物体の重量が増加したことは明らかであり,これにより本件斜面(既設擁壁及び河川護岸)に対する荷重が増加し, 斜面としての安定性が低下したことが容易に推認される。 この点に関し,原告は,本件工事前の盛土の斜面の勾配は,上記認定(盛土の高さに対する水平面の割合が1対1.5程度)よりも急であったことを前提として,本件工事においては,本件ブロックを設置するためにいったん除去した盛土を元に戻しただけであり,本件各土地の状況 は,本件工事の前後で実質的に変わっていないなどと主張する。しかしながら,上記認定のとおり,原告は本件ブロックを既設擁壁の天面に沿うように設置したことが認められるところ,それを前提に断面図上で単純に考えると,別添図面5のとおり,盛土の斜面の勾配が,盛土の高さに対する水平面の割合が1:0.67よりも急でなければ,除去した盛 土のみで斜面を埋め戻すことはできないはずである。そして,一般的に,盛土を設計する場合の標準法面勾配は盛土の高さに対する水平面の割合が1対1.5以下にすべきこととされているところ(乙9),上記認定のとおり,本件斜面が昭和61年2月頃から本件工事が行われるまでの約27年間,斜面崩壊を生ずることなく安定していたことに加え,写真 (甲3の4の左上写真,乙10の写真,乙16の1及び2の航空 のとおり,本件斜面が昭和61年2月頃から本件工事が行われるまでの約27年間,斜面崩壊を生ずることなく安定していたことに加え,写真 (甲3の4の左上写真,乙10の写真,乙16の1及び2の航空写真)- 20 - からうかがわれる本件工事前の本件斜面の様子に照らしても,上記盛土の斜面がそれほどに急勾配であったとは認められない。そうすると,本件工事において,本件ブロックを設置するためにいったん除去した盛土を元に戻しただけであるとは到底考えられず,上記認定のとおり,本件工事前には本件各土地の南側等の平坦な部分にあった土砂を移動させ て本件ブロックの南側を埋めたことが認められる。 したがって,本件各土地の状況が本件工事の前後で実質的に変わっていないなどとは到底いえないのであって,原告の上記主張は,採用することができない。 (イ) また,上記認定事実によれば,本件斜面が昭和61年2月頃から本件 工事がされるまでの約27年間,本件事故当日の連続雨量を超える雨が降り,A川の水位が上昇したことが一,二年に1回以上の頻度で複数回あったにもかかわらず,斜面崩壊を生ずることなく安定していたのに対し,本件工事が行われた後は,わずか半年余りで,一定のまとまった雨が降った日に本件事故が発生しており,しかも,本件事故当日,A川の 他の箇所で護岸崩壊等の事故は発生していないというのである。 また,上記認定事実によれば,一,二年に1回程度は,本件事故当日と同程度以上の雨が降っており,本件当日の雨量は,一般的に想定される範囲内のものであったということができる。 イ他方で,本件全証拠によっても,本件工事が行われたこと以外に,長年 にわたって安定していた本件斜面が,本件事故の当日に突如として崩壊した原因として考えられるような事情は見 ことができる。 イ他方で,本件全証拠によっても,本件工事が行われたこと以外に,長年 にわたって安定していた本件斜面が,本件事故の当日に突如として崩壊した原因として考えられるような事情は見当たらない。 この点に関し,原告は,本件事故の発生箇所が屈曲部,水衝部,川幅狭小部であり,河川護岸が損傷していたために発生したものである可能性がある旨主張するが,本件各土地付近の本件事故前のA川の形状を見ても, 特に屈曲しているとか,川幅が狭くなっているなどとは認められない。ま- 21 - た,乙第15号証及び弁論の全趣旨によれば,本件各土地付近においてはA川の河床が洗掘されていたことはなく,むしろ土砂が堆積していたというのであり,河床の洗掘により本件事故が生じた可能性も認められない。 原告は,河川護岸・既設擁壁の経年劣化が本件事故の原因である可能性も否定できない旨主張するが,本件全証拠を通覧しても,その可能性をう かがわせる事情は見当たらない。そもそも,上記認定のとおり,本件事故は,原告が本件ブロックを設置した延長約130mの範囲のうち77mという広範囲にわたって斜面が崩壊したものと認められるところ,仮に,原告が主張するように,河川護岸や既設擁壁の特定の部分が劣化して斜面が崩れたのであれば,上記のように,広範囲にわたって斜面が崩壊するとは 考え難く,むしろ,本件事故後の現場の状況に照らせば,本件事故は,本件斜面が上部の荷重に耐えられなくなって発生したものとみるのが自然である。原告の上記主張は,採用することができない。 ウ(ア) さらに,証拠(乙22~25)及び弁論の全趣旨によれば,被告において,一般的に斜面の安全性を把握する際に用いられる円弧滑り計算を 実施したところ,本件工事前の本件斜面(盛土の斜面の勾配は ア) さらに,証拠(乙22~25)及び弁論の全趣旨によれば,被告において,一般的に斜面の安全性を把握する際に用いられる円弧滑り計算を 実施したところ,本件工事前の本件斜面(盛土の斜面の勾配は盛土の高さに対する水平面の割合が1対1.5とする。)について,仮に本件事故当日と同等の雨量,河川水位があったとした場合(ただし,E橋付近の水位を採用。)の同日午後0時時点(河川水位ピーク時)の安全率は1. 215,同日午後7時時点(降雨終了時)の安全率は1.102であっ たのに対し,本件工事後の本件斜面(盛土斜面の勾配は上記同様)については,前者が1.087,後者は0.973であったことが認められる。そして,安全率は1.0を下回れば斜面が崩壊することを意味するから(甲4,6,乙17),上記計算結果は,本件工事により本件斜面の安定性が有意に害され,仮に本件工事が行われていなければ崩壊するこ とのなかった本件斜面が,本件当日の降雨及びそれに伴うA川の水位の- 22 - 変化を契機として崩壊したことを表すものということができる。 (イ) これに対し,原告は,円弧滑り計算に基づく斜面の安全率という考え方が妥当するのは,土質が均一な人工斜面に限られるのであって,本件斜面には妥当しない旨主張し,その根拠として甲第4号証を挙げる。しかしながら,甲第4号証は,盛土のように土質が均一で単純な斜面では 円弧滑り面を仮定して安定計算が行われていること,自然斜面については計算による安定の検討が困難であることが記述されているにすぎず,これらの記述をもって,土質が均一でない斜面には円弧滑り計算は一切妥当しないとまでいう趣旨と理解することはできない。むしろ,証拠(甲6~8,乙17,23,24)及び弁論の全趣旨によれば,円弧滑り計 算は堤防の て,土質が均一でない斜面には円弧滑り計算は一切妥当しないとまでいう趣旨と理解することはできない。むしろ,証拠(甲6~8,乙17,23,24)及び弁論の全趣旨によれば,円弧滑り計 算は堤防の安全性を把握するためにも広く用いられていることがうかがわれるところ,堤防の土質が常に均一であるとは考え難いことからしても,円弧滑り計算が土質の均一な人工斜面にしか妥当しないとは考えられない。他に,本件全証拠を通覧しても,原告の上記主張を基礎付けるに足りる文献等は見当たらず,原告の上記主張は採用することができ ない(なお,被告が実施した上記円弧滑り計算に当たっては,土質の違いも考慮に入れられている。)。 また,原告は,被告による上記計算は,様々な仮説条件の積み重ねの下で計算された数値にすぎず,現実の本件斜面の安全率と異なる旨主張するところ,確かに,上記計算過程においては,計算の前提となる条件 を推測によって設定しており,その意味で,上記計算結果が現実に生じた現象を厳密に反映したものでないことは否定することができない。しかしながら,証拠(乙22~25)及び弁論の全趣旨によれば,上記推測は相応の合理的根拠に基づくものであると認められ,推測値が用いられているからといって,直ちに上記計算結果が不合理であるとか,本件 事故の説明として無意味であるとかということはできない。そして,上- 23 - 記計算においては,本件工事前の本件斜面と本件工事後の本件斜面とで同じ推測値を前提条件としているところ,本件工事前の安全率と本件工事後の安全率とで有意な差があることは上記認定・説示のとおりであって,「同じ斜面に対して,現実的に想定できるシナリオに基づき,安全率が上下しているのであれば,(中略)相対的な数値の大小の比較によって 安全性 で有意な差があることは上記認定・説示のとおりであって,「同じ斜面に対して,現実的に想定できるシナリオに基づき,安全率が上下しているのであれば,(中略)相対的な数値の大小の比較によって 安全性が推移する評価の指標になりうると考えて良い」(乙17)といえるから,少なくとも,上記計算結果は,本件工事により本件斜面の安定性が有意に害されたことを示すものとして採用することができるというべきである。 エ以上によれば,本件工事により本件斜面の安定性が損なわれたところ, 一般に想定される範囲内の一定の降雨があったことが契機となって本件事故が発生したものと考えるのが自然かつ合理的であって,このことは,土木工学的にも相応の裏付けが可能であるということができる。 したがって,本件工事が本件事故の原因であったものと認められる。 3 争点(2)(裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無)について (1) 判断枠組み河川法67条の規定するいわゆる原因者負担金制度は,他の工事等により必要を生じた河川工事又は河川の維持に要する費用については,当該他の工事等がなければその必要が生じなかったはずであるから,その費用を原則的な費用負担者である国等(同法59条)に負担させるのではなく,当該他の 工事等につき費用を負担する者(原因者)にこれを負担させるのが衡平にかなう上,特に他の行為により河川に損傷・汚染等が生じた場合には,河川につき迅速に本来の機能を回復させるための修理等を河川管理者において実施し,その費用を原因者に負担させるのが便宜であることから定められたものと解される。 このような原因者負担金制度の趣旨に照らせば,河川法67条が「その必- 24 - 要を生じた限度において」費用を負担させることとしているのは,他の工事等 定められたものと解される。 このような原因者負担金制度の趣旨に照らせば,河川法67条が「その必- 24 - 要を生じた限度において」費用を負担させることとしているのは,他の工事等により直接必要を生じた河川工事又は河川の維持に要する費用について,当該必要を生じた時点における河川等の機能の回復に必要な限度で,これを原因者に負担させる趣旨によるものと解される。すなわち,例えば,他の工事等により必要を生じた河川工事と併せて他の河川工事を行うような場合 には,その付加された工事の部分は必要を生じた限度を超えることとなり,原因者に当該部分に係る費用を負担させることはできないことをいう趣旨にすぎないというべきである。そして,同条は,上記の限度においては,原則として,上記費用の全部を原因者に負担させることとしているものと解するのが相当である。したがって,例えば,複数の原因者が関与している等の 特別の事情があるために,衡平の観点から,特定の原因者に費用の全部を負担させることが相当でない場合には,河川管理者の合理的裁量により,特定の原因者に費用の全部を負担させるのではなく,費用の一部に限って負担させ,又は費用を負担させないことができると解する余地があるとしても,特定の原因者に対し費用の全部を負担させる旨の原因者負担金負担命令がさ れた場合に,当該命令が違法となるのは,上記のような特別の事情があって,当該原因者に上記費用の全部を負担させるのが社会通念に照らして著しく妥当を欠くと認められる場合に限られるというべきである。 この点に関し,原告は,費用負担の割合については,国等が工事費用の全部を負担するのを前提として,他の工事等の内容等の諸事情を考慮して河川 管理者の合理的な裁量判断により決せられるべき旨主張するが,上記 関し,原告は,費用負担の割合については,国等が工事費用の全部を負担するのを前提として,他の工事等の内容等の諸事情を考慮して河川 管理者の合理的な裁量判断により決せられるべき旨主張するが,上記説示のとおり,他の工事等により必要を生じた河川工事又は河川の維持に要する費用については,必要を生じた限度においては,原則として,その全部を原因者に負担させることができるものと解されるから,原告の上記主張は採用することができない。 (2) 本件処分の適法性について- 25 - ア上記2で認定・説示したとおり,本件工事が本件事故の原因であったものと認められるから,本件事故を受けて本件所長が行った応急対策工事に係る本件費用は,河川法67条にいう「他の工事又は他の行為により必要を生じた河川工事又は河川の維持に要する費用」に該当するということができる。また,乙第6号証の5及び弁論の全趣旨によれば,上記応急対策 工事は,具体的には「河道内の崩落物の撤去による河川流水断面の確保,右岸堤防の嵩上げと左岸崩壊斜面前面への大型土のう設置,右岸側田んぼへ堤防が破堤した際の流入土砂の撤去,河川内への崩落物により河床勾配が著しく不均衡になったための河床整正,前述に伴い発生した右岸側護岸洗掘の補修」を内容とするものであり,これに要した費用が297万50 00円であったことが認められるから,本件費用の額が同条の「必要を生じた限度」を超えないことは明らかである。 さらに,上記2で認定・説示したところによれば,本件工事が本件事故の原因であり,他に,長年にわたって安定していた本件斜面が,本件事故の当日に突如として崩壊した原因と考えられるような事情は見当たらない 上,原告は,本来必要な河川法55条1項の許可を受けずに,かつ,現地の測量や図 年にわたって安定していた本件斜面が,本件事故の当日に突如として崩壊した原因と考えられるような事情は見当たらない 上,原告は,本来必要な河川法55条1項の許可を受けずに,かつ,現地の測量や図面の作成もせずに本件工事を行い,本件斜面の安定性を低下させて,本件事故を発生させたというのである。 以上によれば,本件所長が原告に本件費用の全部を負担させたことにつき裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったというべき余地はないものと いわざるを得ない。 イ以上に対し,原告は,本件工事のほかにも本件事故の原因が考えられるとか,本件各土地は本件工事以前から安全性に乏しい状態となっていたとかといった主張をするが,これらの事情が認められないことは,既に認定・説示したとおりである。本件事故当日に一定のまとまった降雨があったこ とが本件事故発生の要因の一つであったとしても,上記認定のとおり,そ- 26 - の雨量は一般的に想定される範囲内のものであったのであるから,このことをもって,原告に本件費用の全部を負担させることが社会通念に照らして著しく妥当でないというべき特別の事情に該当するとは到底いえない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 また,原告は,本件各土地を資材置場として適法に使用できるものと信 じ,見た目をきれいにする目的で敷地全体を整地したにすぎず,本件各土地の形状を変えたという認識もなかったなどと主張するが,上記認定の本件工事の内容に照らせば,敷地全体を整地したにすぎないなどということはできないし,また,原告に本件各土地の形状を変えたという認識がなかったとも考え難い。また,原告が本件工事を行った動機等によって,裁量 権の範囲の逸脱又はその濫用の有無が決せられることはないというべきである。原告 告に本件各土地の形状を変えたという認識がなかったとも考え難い。また,原告が本件工事を行った動機等によって,裁量 権の範囲の逸脱又はその濫用の有無が決せられることはないというべきである。原告の上記主張は,採用することができない。 さらに,原告は,大阪府富田林土木事務所職員が適切な指摘ないし指導をしなかったことを根拠に,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用が認められる旨主張するが,同主張は,自ら違法な行為をした者がその負うべき責任 を他に転嫁して免れようとするものであって,そのような主張を採用する余地がないことは,社会通念上,明らかというほかない。 その他,原告は,種々の事情を根拠に,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用を主張するが,いずれも,採用することができない。 ウ以上によれば,本件所長が原告に本件費用の全部を負担させたことにつ き裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったとは認められず,本件処分は適法ということができる。 4 結論よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部- 27 - 裁判長裁判官松永栄治 裁判官森田亮 裁判官大塚穂波

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