平成28(ワ)11475 特許権侵害差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成30年3月28日 東京地方裁判所
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判決文本文36,839 文字)

平成30年3月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成28年(ワ)第11475号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成29年12月20日判決当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告製品目録記載の製品を製造し,使用し,譲渡し,輸出し,譲渡の申出をしてはならない。 2 被告は,別紙被告製品目録記載の製品を廃棄せよ。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,発明の名称を「第Ⅸ因子/第Ⅸa因子の抗体および抗体誘導体」とする特許第4313531号の特許権(以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」という。また,本件特許の願書に添付したものとみなされる明細書(特許請求の範囲を含む。)及び図面を併せて「本件明細書」といい,上記明細書に記載された特許請求 の範囲を「本件特許請求の範囲」又は単に「特許請求の範囲」という。)を共有する原告らが,別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)は,本件特許請求の範囲の請求項1及び4に係る各発明(以下「本件発明1」及び「本件発明4」といい,両発明を併せて「本件各発明」という。)の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造,使用,譲渡,輸出及び譲渡 の申出(以下,これらを併せて「製造等」という。)の差止めを求めるとともに,同条 2項に基づき,同製品の廃棄を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及 の申出(以下,これらを併せて「製造等」という。)の差止めを求めるとともに,同条 2項に基づき,同製品の廃棄を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,書証番号は,特記しない限り枝番の記載を省略する。)⑴ 当事者米国法人である原告バクスアルタインコーポレーテッド及びスイス法人である 原告バクスアルタゲーエムベーハーは,いずれもヘマトロジー(血液学),イミュノロジー(免疫学),オンコロジー(腫瘍学)での希少疾患等に対する治療薬の開発,製造,販売を行う外国会社である(甲1ないし3)。 被告は,医薬品の研究,開発,製造,販売,輸出入等を目的とする株式会社である。 ⑵ 本件特許権 ア原告らは,以下の事項により特定される特許権(本件特許権)につき,平成27年12月21日受付の移転登録を受け,以後,これを共有している(甲3,4)。 特許番号特許第4313531号発明の名称第Ⅸ因子/第Ⅸa因子の抗体および抗体誘導体登録日平成21年5月22日 出願日平成12年9月13日(以下「本件出願日」という。)出願番号特願2001-523763国際出願番号 PCT/EP2000/008936優先日平成11年9月14日 優先権主張番号 A 1576/99優先権主張国オーストリアイ設定登録時の本件特許請求の範囲は,別紙特許公報の該当欄記載のとおりであった(甲4)。 原告らが,平成29年4月28日,①請求項1における「抗体または抗体誘導体」 を「 ーストリアイ設定登録時の本件特許請求の範囲は,別紙特許公報の該当欄記載のとおりであった(甲4)。 原告らが,平成29年4月28日,①請求項1における「抗体または抗体誘導体」 を「抗体または抗体誘導体(ただし,抗体クローンAHIX-5041:Haema tologicTechnologies社製,および抗体クローンHIX-1:SIGMA-ALDRICH社製を除く)」と,訂正後の請求項1ないし13について訂正すること,②請求項15における「請求項1に記載の抗体または抗体誘導体および薬学的に受容可能なキャリアを含有する,薬学的調製物」を「第IX因子または第IXa因子に対する抗体または抗体誘導体であって,凝血促進活性を増大させる, 抗体または抗体誘導体および薬学的に受容可能なキャリアを含有する,薬学的調製物」と,訂正後の請求項15ないし18について訂正することを求める訂正審判(訂正2017-390031)を請求したところ,同年8月21日付け審決において,上記①及び②を内容とする訂正(以下,併せて「本件訂正1」という。)が認められ,同審決は,同月31日,確定した(甲130,167)。 その後,原告らが,同年9月4日,請求項1における「抗体または抗体誘導体(ただし抗体クローンAHIX-5041:HaematologicTechnologies社製,および抗体クローンHIX-1:SIGMA-ALDRICH社製を除く)」を「抗体または抗体誘導体(ただし,抗体クローンAHIX-5041:HaematologicTechnologies社製,抗体クローンHIX- 1:SIGMA-ALDRICH社製,抗体クローンESN-2:AmericanDiagnostica社製,および抗体クローンESN-3:Amer hnologies社製,抗体クローンHIX- 1:SIGMA-ALDRICH社製,抗体クローンESN-2:AmericanDiagnostica社製,および抗体クローンESN-3:AmericanDiagnostica社製,ならびにそれらの抗体誘導体を除く)」と,訂正後の請求項1ないし13について訂正することを求める訂正審判(訂正2017-390088)を請求したところ,同年10月31日付け審決において,上記を内容とする訂 正(以下「本件訂正2」という。)が認められ,同審決は,同年11月9日,確定した(甲168,191)。 以上のとおり,本件訂正1及び2(以下,併せて「本件各訂正」という。)を認めた審決がいずれも確定した結果,本件特許請求の範囲は,別紙「【書類名】特許請求の範囲」記載のとおりとなった。 ⑶ 本件各発明の構成要件の分説 ア本件発明1(請求項1に係る発明)は,次のとおり構成要件に分説することができる(以下,分説に係る各構成を符号に対応して「構成要件1A」などという。また,「抗体クローンAHIX-5041:HaematologicTechnologies社製,抗体クローンHIX-1:SIGMA-ALDRICH社製,抗体クローンESN-2:AmericanDiagnostica社製,および抗 体クローンESN-3:AmericanDiagnostica社製」を併せて「本件除外抗体」という。)。 1A 第Ⅸ因子または第Ⅸa因子に対する抗体または抗体誘導体であって,1B 凝血促進活性を増大させる,1C 抗体または抗体誘導体(ただし,抗体クローンAHIX-5041: HaematologicTechnologies社製,抗体クローンHIX-1 凝血促進活性を増大させる,1C 抗体または抗体誘導体(ただし,抗体クローンAHIX-5041: HaematologicTechnologies社製,抗体クローンHIX-1:SIGMA-ALDRICH社製,抗体クローンESN-2:AmericanDiagnostica社製,および抗体クローンESN-3:AmericanDiagnostica社製,ならびにそれらの抗体誘導体を除く)。 イ本件発明4(請求項4に係る発明)は,次のとおり構成要件に分説することができる。なお,構成要件4Dは,更に上記構成要件1Aないし1C(引用に係る請求項1に係る発明の構成要件)のとおり分説することができる。 4D 請求項1に記載の抗体または抗体誘導体であって,4E ここで,該抗体または抗体誘導体は,モノクローナル抗体,抗体フラ グメント,キメラ抗体,ヒト化抗体,単鎖抗体,二重特異性抗体,ダイアボディー,およびそれらのダイマー,オリゴマー,またはマルチマーからなる群から選択される,4F 抗体または抗体誘導体。 3 争点 ⑴ 被告製品は本件各発明の技術的範囲に属するか(争点1) ⑵ 被告による被告製品の製造等が,本件特許権を侵害し又はそのおそれがあるか(争点2)⑶ 臨床試験のための被告製品の製造等は「試験又は研究のためにする特許発明の実施」(特許法69条1項)に当たるか(争点3)⑷ 本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか(争点4) ア無効理由1(実施可能要件〔平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項〕違反)は認められるか(争点4-1)イ無効理由2(サポート要件〔平成14年法律第24号による改正前の特許法 ア無効理由1(実施可能要件〔平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項〕違反)は認められるか(争点4-1)イ無効理由2(サポート要件〔平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項1号〕違反)は認められるか(争点4-2)ウ無効理由3(明確性要件〔平成14年法律第24号による改正前の特許法36 条6項2号〕違反)は認められるか(争点4-3)エ無効理由4(訂正要件違反)は認められるか(争点4-4)第3 争点に対する当事者の主張 1 争点1(被告製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)について【原告らの主張】 ⑴ 被告製品の構成が本件各発明の構成要件を充足することについて被告製品の構成は,別紙被告製品説明書記載のとおりであり,これを本件各発明の構成要件と対比するために分説すると,次のとおりとなる。 構成a:活性型第Ⅸ因子および第Ⅹ因子と同時に結合する抗体であり,構成b:血液凝固反応を促進する, 構成c:バイスペシフィック抗体。 そして,被告製品の構成aないしcは,本件発明1の構成要件1Aないし1C及び本件発明4の構成要件4Dないし4Fを充足するから,被告製品は本件各発明の技術的範囲に属する。 被告製品が,凝血促進活性の増大をもたらす機序について被告独自の新たな改良 (酵素の活性部位を有する第Ⅸa因子と基質である第Ⅹ因子との空間的な配向を好 適な状況に制御し,それにより,酵素の活性部位と基質とを正確に接触しやすくすることで,第Ⅷ因子の活性が欠損した状態でも第Ⅸa因子が触媒する第Ⅹ因子活性化反応を促進する。)を加えたものであるとしても,被告製品が「凝血促進活性を増大させる」という構成要件1Bを充足することに変わりはない。 ⑵ 機能的クレ た状態でも第Ⅸa因子が触媒する第Ⅹ因子活性化反応を促進する。)を加えたものであるとしても,被告製品が「凝血促進活性を増大させる」という構成要件1Bを充足することに変わりはない。 ⑵ 機能的クレームの限定解釈について 本件特許請求の範囲は,いわゆる機能的クレームであるところ,機能的クレームによって記載された発明の技術的範囲は,明細書の記載及び図面を考慮して,当業者が実施可能な程度に明細書に開示された技術的思想に基づいて画される。当業者が実施可能な程度とは実施可能要件と同義であるから,当業者が実施可能な程度に明細書に開示された技術的思想の範囲とは,当業者が明細書の記載及び技術常識に基づいて, 過度の試行錯誤なく生産及び使用することが可能であると評価し得る範囲である。そして,当業者は本件明細書の記載及び技術常識に基づいて,過度の試行錯誤なく,「第Ⅸa因子に抗体が結合して第Ⅸa因子の凝血促進活性を増大させる作用を有する,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対する抗体又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」を生産及び使用することが可能であるから,これが本件各発明の技術的 思想である。したがって,「凝血促進活性を増大させる」との文言は,「第Ⅸa因子の凝血促進活性を増大させる」と解釈される。そして,二重特異性抗体は,モノスペシフィック抗体から誘導して作製することのできる抗体誘導体であるから,上述した技術的思想により画される本件各発明の技術的範囲に含まれる。 被告は,凝血促進活性の増大の程度について,「色素形成アッセイにおいてネガテ ィブコントロールとの比が3を超える」との限定解釈を主張するが,本件特許請求の範囲ではそのような数値の限定はされていないし,本件明細書の発明の詳細な説明においても,同数値は一応の目安とされ ィブコントロールとの比が3を超える」との限定解釈を主張するが,本件特許請求の範囲ではそのような数値の限定はされていないし,本件明細書の発明の詳細な説明においても,同数値は一応の目安とされているにとどまり,本件各発明の技術的範囲を画する基準とはされていない。 ⑶ 被告製品に関する実験結果等について 被告が発表した被告製品についての論文(甲110,112)によれば,被告自身, 被告製品が第Ⅸa因子の凝血促進活性を増大させる作用を有していることを自認している。また,被告の実験結果(乙36)によれば,被告が作製した,左右のアームがいずれも被告製品の第Ⅸa因子に結合するアームで構成されたモノスペシフィック抗体(Qhomo)は,ネガティブコントロールと比較して,凝血促進活性を有するとの結果が出ており,他の実験結果(乙38)によっても,Qhomoのバックグ ラウンドに対する比は1.36~1.48であり,科学的な意味で凝血促進活性を増大させるか否かの評価基準である1を超えている。 さらに,原告らが作製した,Qhomoと同一のアミノ酸配列を有する第Ⅸa因子に対するモノスペシフィック抗体(MonoBM)を使用した原告らの実験結果(甲114)においても,同様の結果が出ている。また,他の実験結果(甲163,16 4)によれば,被告製品の凝血促進活性は,被告製品の第Ⅸa因子に結合するアームのみによってもたらされたものといえる。 したがって,被告製品は,第Ⅸa因子の凝血促進活性を増大させる作用を有していると評価することができ,本件各発明の構成要件を全て満たす。 【被告の主張】 ⑴ 機能的クレームの限定解釈及び被告製品の構成が本件各発明の構成要件を充足しないことについて本件各発明は,「凝血促進活性を増大させ 件各発明の構成要件を全て満たす。 【被告の主張】 ⑴ 機能的クレームの限定解釈及び被告製品の構成が本件各発明の構成要件を充足しないことについて本件各発明は,「凝血促進活性を増大させる」という発明の目的又は課題をそのまま機能又は作用として構成要件に用いたものであるから,広すぎる機能的クレームによって記載された発明である。このような発明の技術的範囲は,特許請求の範囲に記 載された機能又は作用を果たし得る構成全てに及ぶのではなく,明細書の発明の詳細な説明に開示された具体的構成に示されている技術的思想に基づいて確定すべきである。しかるところ,被告製品は,バイスペシフィック抗体に関する被告独自の研究開発の成果であり,本件明細書に開示された発明とは全く異なる技術的思想による製品であるから,本件明細書の開示から当業者が実施し得る構成には含まれず,本件各 発明の技術的範囲に属さない。 すなわち,本件各発明は,第Ⅹ因子の活性化作用に酵素として作用する第Ⅸa因子に対する抗体が,第Ⅸa因子に結合することにより,第Ⅸa因子の酵素活性を高め,凝血促進活性を増大させることを目的としているものである。そして,凝血促進活性の増大の評価は定義されていないが,本件明細書においては,凝血促進活性の増加は,第Ⅷ因子補因子活性の測定のための色素形成アッセイにより評価でき(段落【003 1】),第Ⅷa因子のための色素形成アッセイにおいて,ネガティブコントロールとの比が3を超えることが記載されているから(段落【0013】及び【0014】),このことを指すものと考えられる。また,本件明細書においては,第Ⅷ因子補因子活性を示す抗体として,特定の少数のモノスペシフィック抗体及びその誘導体が開示されているのみであり,バイスペシフィック抗体が調製 ことを指すものと考えられる。また,本件明細書においては,第Ⅷ因子補因子活性を示す抗体として,特定の少数のモノスペシフィック抗体及びその誘導体が開示されているのみであり,バイスペシフィック抗体が調製された例も,第Ⅷ因子補因子活性 を測定した例もないから,本件各発明の目的の達成が可能な第Ⅷ因子補因子活性を有するバイスペシフィック抗体を開示しているとはいえない。したがって,「第Ⅸ因子または第Ⅸa因子に対する抗体または抗体誘導体であって,凝血促進活性を増大させる,抗体または抗体誘導体」とは,本件明細書に開示され,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に結合し,かつ本件明細書で開示されている第Ⅷa因子のための色素形成アッセイに おいてネガティブコントロールとの比が3を超えるモノスペシフィック抗体及びその誘導体に限られる。 被告製品は,酵素の活性部位を有する第Ⅸa因子と基質である第Ⅹ因子との空間的な配向を好適な状況に制御し,それにより,酵素の活性部位と基質とを正確に接触しやすくすることで,第Ⅷ因子の活性が欠損した状態でも第Ⅸa因子が触媒する第Ⅹ因 子活性化反応を促進することを目的として開発されたバイスペシフィック抗体である。すなわち,本件明細書に開示された発明とは全く異なる技術的思想による製品であり,本件明細書に記載された抗体の改良ではない。したがって,被告製品は,本件明細書の開示から当業者が実施し得る構成には含まれないから,本件各発明の技術的範囲に属さない。 ⑵ 被告製品に関する実験結果等について 被告の実験結果(乙38)によれば,左右のアームがいずれも被告製品の第Ⅸa因子に結合するアームで構成されたモノスペシフィック抗体(Qhomo)は,色素形成アッセイにおいて,ネガティブコントロールとの比が1.36~1.48であり, ,左右のアームがいずれも被告製品の第Ⅸa因子に結合するアームで構成されたモノスペシフィック抗体(Qhomo)は,色素形成アッセイにおいて,ネガティブコントロールとの比が1.36~1.48であり,3を大きく下回っているから,Qhomoは凝血促進活性を増大させないものである。 これに対し,被告製品は凝血促進活性を増大させるのであるから,被告製品での第Ⅷ 因子様補因子活性の増大は,被告製品の第Ⅸa因子に結合するアームによるものではない。原告らは,乙36によれば,Qhomoは,ネガティブコントロールと比較して凝血促進活性を有するとの結果が出ている旨主張するが,第Ⅷ因子補因子活性では,第Ⅷ因子をポジティブコントロールとすべきであり,被検物質である抗体を添加しない系では,反応速度が小さいため,誤差の影響を受けやすく,比較対象として適切で はない。 また,原告らが作製したMonoBMを使用した原告らの実験結果(甲114)については,MonoBMとQhomoとの同一性を示す証拠は全くなく,同一のアミノ酸配列から出発したとしても,異なる細胞株から全く同一の抗体を作製することは不可能であって,MonoBMのデータがQhomoの結果を反映しているとはいえ ないから,同実験結果は原告ら主張の根拠とはならない。 2 争点2(被告による被告製品の製造等が,本件特許権を侵害し又はそのおそれがあるか)について【原告らの主張】被告は,平成24年8月頃から被告製品を業として製造し,日本国内において被告 製品を使用して臨床試験を行っている。そして,被告は,平成29年7月21日,被告製品について,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律14条1項に基づく製造販売承認申請を行った。その結果,平成30年3月又は6月にはその承 告は,平成29年7月21日,被告製品について,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律14条1項に基づく製造販売承認申請を行った。その結果,平成30年3月又は6月にはその承認を得られ,同年5月から11月までの間には日本国内において上市することが見込まれる。 また,被告製品は,被告の関連会社であるエフ・ホフマン・ラ・ロシュ社によって 国際共同治験の形式で日本及び米国を含む14か国において臨床試験が行われ,さらに,同社のグルーブに属するジェネンテック社によって米国において既に上市されており,被告はそのために被告製品を日本国内で製造し,米国に輸出している。 以上のとおり,被告が,現在において,日本における臨床試験のために被告製品を製造・使用する行為及び上市のために被告製品を製造する行為並びに米国における臨 床試験及び上市のために被告製品を製造・輸出する行為はいずれも本件特許権を侵害するものであり,将来において,日本における上市のために被告製品を製造・譲渡・譲渡の申出をする行為は本件特許権を侵害するおそれがある。 【被告の主張】原告らは,将来の製造販売承認が得られた下での被告製品の製造・譲渡・譲渡の申 出の差止めも求めているが,被告が行っている臨床試験が成功するか,被告製品について製造販売承認が得られるか,当該承認の下で製造等が行われるかは未確定であるから,被告製品の将来の製造販売承認が得られた下での製造・譲渡・譲渡の申出については,本件特許権を侵害するおそれはない。 3 争点3(臨床試験のための被告製品の製造等は「試験又は研究のためにする特 許発明の実施」(特許法69条1項)に当たるか)について【被告の主張】被告製品を含有する医薬品は,新有効成分含有医薬品である。被告製 ための被告製品の製造等は「試験又は研究のためにする特 許発明の実施」(特許法69条1項)に当たるか)について【被告の主張】被告製品を含有する医薬品は,新有効成分含有医薬品である。被告製品は,日本及び米国において臨床試験が行われているところ,これは,新規な有効成分の臨床上の有効性及び安全性を明らかにするためのものであり,医薬品分野の技術の進歩に貢献 するという意義をも有するものであるから,そのための被告製品の製造等は「試験又は研究のためにする特許発明の実施」(特許法69条1項)に当たり,本件特許権の効力は及ばない。 【原告らの主張】被告は,本件特許権の存続期間満了前の製造販売を目的としており,被告が行って いる臨床試験は本件各発明の改良のために重要な科学的知見をもたらすものでない から,日本国内での臨床試験のための被告製品の製造・使用は,「試験又は研究のためにする特許発明の実施」(特許法69条1項)に当たらない。また,米国での臨床試験のための被告製品の製造・輸出についても,同様に同条項は適用されない。そして,日本での上市のための製造及び米国での上市のための製造・輸出は,臨床試験に必要な範囲を超えているから,同条項は適用されない。 4 争点4(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか)について⑴ 争点4-1(無効理由1(実施可能性要件違反)は認められるか)について【被告の主張】物の発明において,当業者が,明細書及び出願日当時の技術常識を考慮しても,過 度の負担なしにはその物を製造し使用できない場合には,明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合しない。そして,発明の詳細な説明は,当業者が,特許請求の範囲の全てにわたり,その物が製造し使用できるよ なしにはその物を製造し使用できない場合には,明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合しない。そして,発明の詳細な説明は,当業者が,特許請求の範囲の全てにわたり,その物が製造し使用できるように記載されていなければならない。したがって,特許請求の範囲が機能的クレームである場合には,発明の詳細な説明は,当該機能を有している物全てを製造し使用できるように記載されている 必要がある。 本件各発明は,「凝血促進活性を増大させる」という機能的な構成要件を含む機能的クレームによって記載された発明であるが,いずれの抗体が「凝血促進活性を増大させる」のか予測が困難であり,しかも,「凝血促進活性を増大させる」との記載自体が何ら定義されておらず,いかなる機序によって「凝血促進活性」が増大するのか, いずれの手法で凝血促進活性の増大を評価するのか,どの程度の上昇を必要とするのか明確ではない。また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載には,第Ⅷ因子様活性に必要とされる共通の性質(例えば,配列や構造)は何ら記載されておらず,第Ⅷ因子様活性を示す第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノスペシフィック抗体は,同抗体全体のごくわずかの割合を占めるにすぎないから,当業者がこの機能を備えた「抗体 または抗体誘導体」全てを製造するためには,あらゆる抗体及び抗体誘導体を調製し, 「凝血促進活性」の「増大」を検証することを強いられ,過度の試行錯誤を強いられる。 さらに,バイスペシフィック抗体については,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子以外の抗原及びそのエピトープが特定されていない。バイスペシフィック抗体の第Ⅷ因子様活性は,対応するモノスペシフィック抗体からは予測できず,試験対象の候補に何ら限定 がないから,試料の調製及び試験のための期間・費用も無限になる 定されていない。バイスペシフィック抗体の第Ⅷ因子様活性は,対応するモノスペシフィック抗体からは予測できず,試験対象の候補に何ら限定 がないから,試料の調製及び試験のための期間・費用も無限になる。 また,本件各訂正によって本件各発明の技術的範囲から除かれた「抗体誘導体」(本件除外抗体の誘導体)の範囲も明確ではない。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件各発明に係る特許請求の範囲にいう「凝血促進活性を増大させる」という機能を有しているところの「抗体 または抗体誘導体」全てを製造し使用できるように記載されているとはいえないから,実施可能要件に違反するものであり,本件各発明についての特許は,特許無効審判により無効とされるべきである。 【原告らの主張】争点1において主張したとおり,当業者は本件明細書の記載及び本件出願日当時の 技術常識に基づいて,過度の試行錯誤なく,「第Ⅸa因子に抗体が結合して第Ⅸa因子の凝血促進活性を増大させる作用を有する,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対する抗体及び抗体誘導体」を生産及び使用することが可能であるから,実施可能要件を満たす。 被告は,「凝血促進活性を増大させる」との記載自体が不明確であることなどから,当業者がこの機能を備えた抗体又は抗体誘導体全てを製造するためには過度の負担 を強いられる旨主張するが,本件明細書に従った手順によって凝血促進活性を増大させる抗体又は抗体誘導体を作製でき,それ以上にその機序や共通の性質が開示される必要はないから,過度の試行錯誤を強いられるとはいえない。また,バイスペシフィック抗体についても,本件出願日当時の技術常識であった手法によって,過度の試行錯誤を有さずに生産及び使用することが可能であった。したがって,本件明細書の発 明の詳細 ない。また,バイスペシフィック抗体についても,本件出願日当時の技術常識であった手法によって,過度の試行錯誤を有さずに生産及び使用することが可能であった。したがって,本件明細書の発 明の詳細な説明は,実施可能要件に適合している。 ⑵ 争点4-2(無効理由2(サポート要件違反)は認められるか)について【被告の主張】サポート要件は,「特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆が無くとも当業者が出 願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」という基準によって判断される。本件各発明に係る特許請求の範囲は機能的クレームに該当するところ,そのサポート要件の充足性は,特許請求の範囲全体(特許請求の範囲記載の機能を有している物全て)が発明の詳細な説明に適切に記載されているかという観点から判断される。 しかるに,本件明細書の発明の詳細な説明には,「凝血促進活性を増大させる」ために必要とされる共通の性質(例えば,配列や構造)は何ら記載されておらず,その実現手段を何ら開示していないから,当業者が,発明の詳細な説明及び出願日当時の技術常識を考慮しても,多数存在する抗体,特に第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子以外の結合部位の抗原が無制限に存在するバイスペシフィック抗体の中から,その占める割合が少 ない「凝血促進活性を増大させる」ものを選別するためには,無制限に試験を行う必要がある。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に特許請求の範囲に記載された機能を有している物全てが適切に記載されているとはいえないから,本件各発明に係る特許請求の範囲は,サ 制限に試験を行う必要がある。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に特許請求の範囲に記載された機能を有している物全てが適切に記載されているとはいえないから,本件各発明に係る特許請求の範囲は,サポート要件に違反するものであり,本件各発明についての特許は,特許無効審判により無効とされるべきである。 【原告らの主張】争点4-1において主張したとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合しているから,本件特許請求の範囲は,それと判断が重なり合うサポート要件に適合している。 ⑶ 争点4-3(無効理由3(明確性要件違反)は認められるか)について 【被告の主張】 明確性要件の充足性の有無は,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 本件各発明は,「凝血促進活性を増大させる」という機能的な構成要件を含む機能的クレームによって記載されているが,「凝血促進活性を増大させる」との記載自体が何ら定義されておらず,いかなる機序によって「凝血促進活性」が増大するのか, いずれの手法で凝血促進活性の増大を評価するのか,どの程度の上昇を必要とするのか明確ではない。また,本件明細書では複数の測定方法が使用され得るとされているところ(段落【0037】),その測定方法によって「凝血促進活性を増大させる」か否かの評価結果が異なる結果になる。したがって,当業者は個別の場面で具体的に測定方法及び条件並びに判定基準を選択することができず,特許請求の範囲の記載が第 三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。 また,本件各訂正によって本件各発明の技術的範囲から除かれた「抗体誘導体」(本件除外抗体の誘導体)の範囲が明確ではない。 した 囲の記載が第 三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。 また,本件各訂正によって本件各発明の技術的範囲から除かれた「抗体誘導体」(本件除外抗体の誘導体)の範囲が明確ではない。 したがって,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性要件に違反するものであり,本件各発明についての特許は,特許無効審判により無効とされるべきであ る。 【原告らの主張】争点1において主張したとおり,「凝血促進活性を増大させる」との文言は,「第Ⅸa因子の凝血促進活性を増大させる」と解釈され,当業者は技術常識から測定方法及び条件並びに判定基準を適宜選択できる。また,当業者がその機序を認識する必要は ない。したがって,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはなく,明確性要件に適合している。 ⑷ 争点4-4(無効理由4(訂正要件違反)は認められるか)について【被告の主張】本件各訂正のうち本件各発明に係る部分は,いずれも新規事項の追加に当たり,特 許法126条5項に違反するから,本件各発明についての特許は,特許無効審判によ り無効とされるべきである。 【原告らの主張】本件各訂正は,いずれも訂正要件(特許法126条1項ただし書1号,5項,6項及び7項所定の各要件)を満たしている。 第4 当裁判所の判断 1 本件各発明の意義について⑴ 本件明細書の記載本件明細書の発明の詳細な説明には,おおむね以下のとおりの記載がある(甲4。 図面については,別紙特許公報を参照。)。 ア本件各発明の属する技術分野 「【0001】本発明は,第IX因子/第IXa因子-抗体および抗体誘導体に関する。」イ従来技術「【0003】 は,別紙特許公報を参照。)。 ア本件各発明の属する技術分野 「【0001】本発明は,第IX因子/第IXa因子-抗体および抗体誘導体に関する。」イ従来技術「【0003】活性化された第IX因子(FIXa)および活性化された第VIII因子(FVI IIa)の複合体による第X因子の活性化は,凝固における重要な工程である。この複合体の成分の非存在またはその機能の妨害は,血友病と呼ばれる血液凝固障害に関連する…。血友病Aは,第VIII因子活性の(機能的)欠如を示すが,血友病Bは,第IX因子活性の欠如によって特徴付けられる。現在は,血友病Aの処置は,第VIII因子濃縮物の投与による補充療法を介してもたらされる。しかし,約20~3 0%の血友病Aの患者は,第VIII因子インヒビター(すなわち,第VIII因子に対する抗体)を発生させ,それによって投与された第VIII因子調製物の効果が阻害される。第VIII因子を抑制する患者の処置は,非常に困難かつ危険性を含み,そして従来はこれらの患者を処置するために限定された数の処置しか存在しなかった。」 ウ本件各発明が解決しようとする課題 「【0004】低いFVIIIインヒビターレベルを有する患者の場合において,高用量の第VIII因子をこのような患者に投与して,従って第VIII因子に対する抗体を中和することは,高価であるが可能である。次いで,インヒビター抗体を中和するために必要な量を超える量の第VIII因子は,うっ血作用を有する。多くの場合において, 脱感作がもたらされ得,次いでその上に,標準的な第VIII因子処置を再び適用し得る。しかし,大量の第VIII因子を必要とするこのような高用量第VIII因子処置は多大な時間を必要とし,そして重篤 脱感作がもたらされ得,次いでその上に,標準的な第VIII因子処置を再び適用し得る。しかし,大量の第VIII因子を必要とするこのような高用量第VIII因子処置は多大な時間を必要とし,そして重篤なアナフィラキシーの副反応を伴い得る。 …【0005】 さらなる高コストの方法は,免疫グロブリン(プロテインA,プロテインG)または固定化された第VIII因子に結合するレクチン上の,特別な体の免疫吸着(extracorporealimmunoadsorption)を介して第VIII因子インヒビターを除去する工程を包含する。この処置の間,患者はアフェレーシス器械に連結されなければならないので,この処置はまた,患者への大きな負担と なる。この方法においてはまた,急性の出血を処置することはできない。」エ本件各発明の目的「【0010】(発明の要旨)血友病患者の処置において生じ得る可能な危険性および副作用の観点から,FV IIIを抑制する患者の有効な処置を可能にする治療の必要性が存在する。そのため,第VIII因子を抑制する患者についての特定の利点を有する,血液凝固障害の処置のための調製物を提供することが本発明の目的である。」オ課題解決手段「【0007】 血液凝固の脈管内系において,最後の段階は第X因子の活性化である。この反応 は,第VIIIa因子の第IXa因子への結合,ならびに第IXa因子,第VIIIa因子,第X因子およびリン脂質からなる「テナーゼ(tenase)」複合体の形成によって刺激される。FVIIIaの結合なしでは,FIXaは酵素活性を示さないか,またはFXと比較してほんのわずかの酵素活性しか示さない。」「【0011】 本発明に従って,この目的は,第V よって刺激される。FVIIIaの結合なしでは,FIXaは酵素活性を示さないか,またはFXと比較してほんのわずかの酵素活性しか示さない。」「【0011】 本発明に従って,この目的は,第VIIIa因子補因子活性または第IXa因子活性化活性を有し,そして第IXa因子の凝血促進活性における増加を導く,第IX因子/第IXa因子に対する抗体または抗体誘導体の使用を通して達成される。 驚いたことに,本発明の第IX因子/第IXa因子-活性化抗体または抗体誘導体の作用は,インヒビター(例えば,第VIII因子/第VIIIa因子に対するイ ンヒビター)の存在によっては反対方向に影響されないが,代わりに,この場合は第IXa因子の凝血促進活性がまた増加される。」カ本件各発明の効果「【0012】本発明のさらなる利点は,本発明に従う調製物の投与が,FVIIIを抑制する 患者の場合でさえも,第VIII因子または第VIIIa因子の非存在においてでも迅速な血液凝固を可能とすることである。驚いたことに,これらの因子はまた,第VIIIa因子の存在下においても有効である。」キ抗体又は抗体誘導体の産生方法「【0030】 (産生の方法)本発明の抗体は,先行技術から公知の方法によって調製され得る(例えば,慣例的なハイブリドーマ技術によってかまたはファージディスプレイ遺伝子ライブラリー,免疫グロブリン鎖混合の方法もしくはヒト化技術によって)…。本発明の抗体および抗体誘導体の産生は,例えば,慣例的なハイブリドーマ技術によって行なわ れる…。本発明に従って,ヒトおよび非ヒト種(例えば,ウシ,ブタ,サル,ニワ トリおよびげっ歯類(マウス,ラット))はまた,ハイブリドーマ技術のために使用され得る。通常,免疫競合Bal れる…。本発明に従って,ヒトおよび非ヒト種(例えば,ウシ,ブタ,サル,ニワ トリおよびげっ歯類(マウス,ラット))はまた,ハイブリドーマ技術のために使用され得る。通常,免疫競合Balb/cマウスまたはFIX欠損マウスは,使用され得る…。免疫化は,例えば,第IX因子,第IXaα因子または完全に活性化された第IXaβ因子,またはそのフラグメントで影響され得る。」ク凝血促進活性の評価方法 「【0013】従って,本発明に従う抗体および抗体誘導体は,FVIII補因子様の活性を有し,これは,2時間のインキュベーション後のFVIIIアッセイ(例えば,COATEST(登録商標)アッセイまたはイムノクロム(Immunochrom)試験)において,少なくとも3のバックグラウンド(基本的ノイズ)対測定値の比を示す。こ の比の計算は,例えば,2時間のインキュベーションの後に,以下のスキームに従って達成され得る:【0014】【数1】」 「【0037】本発明の抗体および抗体誘導体の精製はまた,先行技術で記載された方法によって行なわれ得る(例えば,硫酸アンモニウム沈殿,アフィニティー精製(プロテインGセファロース),イオン交換クロマトグラフィー,またはゲルクロマトグラフィーによって)。本発明の抗体および抗体誘導体が,第IX因子/第IXa因子に結合し,第 IXa因子の凝血促進性活性を増加するかまたは第VIII因子様活性を有することを示すための試験方法として,以下の方法は使用され得る:一工程凝血試験(MikaelassonおよびOswaldson,Scand.J.Haematol., Suppl.,33,79-86頁,1984)または色素形成試験(COATESTVIII:C(登録商 kaelassonおよびOswaldson,Scand.J.Haematol., Suppl.,33,79-86頁,1984)または色素形成試験(COATESTVIII:C(登録商標)(Chromogenix)またはImmunochrom(IMMUNO)など)。原則的には,第VIII因子活性を決定するために使用される全ての方法が使用され得る。測定のコントロールブランク値として,例えば,非特定的マウスIgG抗体が使用され得る。」 ケ抗体又は抗体誘導体「【0019】本発明の抗体,および抗体誘導物,ならびにこれらから誘導された有機化合物は,ヒトおよび動物のモノクローナル抗体またはそれらのフラグメント,一本鎖抗体およびそれらのフラグメントならびにミニ抗体,二重特異的(bispecific)抗 体,二重抗体(diabody),三重抗体(triabody),またはそれらのダイマー,オリゴマーもしくはマルチマー(multimer)を含む。本発明に従う抗体から誘導されたペプチドミメティックス(peptidomimetics)またはペプチド(例えば,これらは,1つまたはいくつかのCDR領域,好ましくはCDR3領域を含む)もまた含まれる。」 「【0021】用語第IX/IXa因子活性化抗体および抗体誘導物はまた,宿主細胞内における,変更された,免疫グロブリンコード領域の発現によって産生されるタンパク質(例えば,合成抗体,キメラ抗体またはヒト化抗体のような「技術的改変抗体」,またはそれらの混合物,あるいは例えば,Fv,Fab,Fab’またはF(ab)’2などの 定常領域を部分的もしくは完全に欠損する抗体フラグメントを含み得る。これらの技術的改変抗体において,例えば,軽鎖および/または重鎖の一部分また Fv,Fab,Fab’またはF(ab)’2などの 定常領域を部分的もしくは完全に欠損する抗体フラグメントを含み得る。これらの技術的改変抗体において,例えば,軽鎖および/または重鎖の一部分またはいくらかの部分は,置換され得る。このような分子は,例えば,ヒト化重鎖および未改変軽鎖(またはキメラ軽鎖)からなる抗体を含み得,逆も同様である。用語Fv,Fc,Fd,Fab,Fab’またはF(ab)’2は,先行技術(HarlowE.およびLa neD.,「抗体,実験室マニュアル(Antibodies,ALabora toryManual)」,ColdSpringHarborLaboratory,1988)に記載されるように用いられる。」「【0024】本発明に従うヒト化抗体は,好ましくは,ヒト抗体の構造,またはそのフラグメントの構造を有し,そして治療的適用(例えば,患者(好ましくは,第VIII因 子を抑制する患者)における凝固障害の処置)のために必要な特徴の組み合わせを含む。」「【0026】二重特異性抗体は,1つの単一分子内に2つの異なった結合特異性を有する,高分子のヘテロ二機能性架橋である。この群には,例えば,二重特異性(bs)Ig G,bsIgM-IgA,bsIgA-二量体,bs(Fab’)2,bs(scFv)2,ダイアボディー(diabodies),およびbsbisFabFcが属する…。」コ実施例の記載 実施例1 段落【0043】ないし【0046】には,おおむね,マウスを第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子のいずれかで免疫化し,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対する抗体を分泌するハイブリドーマ細胞を産生した旨の実施例が記載されている。 実施例2段落【00 おおむね,マウスを第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子のいずれかで免疫化し,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対する抗体を分泌するハイブリドーマ細胞を産生した旨の実施例が記載されている。 実施例2段落【0047】ないし【0055】には,おおむね,ハイブリドーマ細胞を色 素形成アッセイでスクリーニングし,第Ⅷ因子様活性を有する抗体を産生するものを選択した旨の実施例が記載されている。 実施例3段落【0056】ないし【0061】には,おおむね,実施例2で得られた第Ⅷ因子様活性を有する抗体を含むハイブリドーマ上清について,ELISAによって 第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対する活性を確認した旨の実施例が記載されている。 実施例4「【0062】(実施例4:色素形成FVIIIアッセイにおいてFVIII様活性を示す抗FIX/FIXa抗体)いくつかの抗FIX/FIXa抗体産生ハイブリドーマクローンを,4回までサブ クローニングし,そして得られるモノクローナルハイブリドーマ細胞株を使用して,モノクローナル抗体含有上清を産生した。これらの上清由来のIgGアイソタイプ抗体を,アフィニティーカラムで精製し,そしてTBSに対して透析した(上記を参照のこと)。IgM抗体を,精製していない上清画分として使用した。以下の実験を,以下の2セットの代表的な抗体を使用して行った:193/AD3および198/AC 1/1(IgGアイソタイプ,抗体198/AC1/1は,親198/AC1ハイブリドーマクローンからの調製物であり,すなわち,198/AC1細胞を含む(凍結した)ウイルスが,培養され,そして抗体が産生される。次いで,この上清を,これらの実験のために使用する)ならびに196/AF2および196/AF1(IgMアイソタイプ 198/AC1細胞を含む(凍結した)ウイルスが,培養され,そして抗体が産生される。次いで,この上清を,これらの実験のために使用する)ならびに196/AF2および196/AF1(IgMアイソタイプ)(図6Aおよび図6B)。簡単に言えば,モノクローナル抗体を含むサ ンプル(精製されていないハイブリドーマ上清,または示される場合には,特定の量のFIX特異的抗体)の25μlのアリコートを,マイクロタイタープレートウェルに移し,そして37℃に昇温させた。色素形成基質(S-2222),合成トロンビンインヒビター(I-2581),第IXa因子(FIXa)およびFXを,滅菌水中で再形成し,そしてFIXa/FXを,供給者のプロトコルに従って,リン脂質と混合 した。1反応あたり,50μlのリン脂質/FIXa/FX溶液を,25μlのCaCl2(25mM)および50μlの基質/インヒビターカクテルと混合した。反応を開始させるために,125μlのプレミックス(premix)を,マイクロタイタープレート中のモノクローナル抗体溶液に添加し,そして37℃でインキュベートした。405nmおよび490nmにおける,サンプルの吸光度を,種々の時点にお いて(5分~6時間),試薬ブランク(ハイブリドーマ上清の代わりに細胞培養培地) に対して,Labsystems iEMS Reader MFTMマイクロタイタープレートリーダーによって,GENESISTMソフトウェアを使用して,読み取った。」 実施例5「【0065】 (実施例5:抗FIX/FIXa-抗体により示されるFVIII様活性は,第Xa因子を産生し,そしてリン脂質,FIXa/FXおよびCa2+に依存性である。)第VIII因子活性は,通常,色素形成アッセイおよ :抗FIX/FIXa-抗体により示されるFVIII様活性は,第Xa因子を産生し,そしてリン脂質,FIXa/FXおよびCa2+に依存性である。)第VIII因子活性は,通常,色素形成アッセイおよび/またはAPTTに基づく凝固アッセイを用いて,決定される。両方の型のアッセイは,FVIIIa/FIXaにより媒介される第Xa因子産生に依存する。色素形成FVIIIアッセイの場合 には,産生される第Xa因子は,引き続いて色素形成基質と反応し,これは,分光学的に(例えば,ELISAリーダーにおいて)モニタリングされ得る。APTTに基づく凝集アッセイにおいては,遊離の第Xa因子が,リン脂質表面におけるFVaと組み合わさって,いわゆるプロトロンビナーゼ複合体となり,そしてプロトロンビンをトロンビンへと活性化させる。トロンビンは,次に,フィブリン産生を生じ,そし て最終的に,凝固の形成を生じる。これら2つのアッセイ系の中心は,FVIIIa/FIXa複合体による第Xa因子の産生である。」「【0067】色素形成基質S-2222の容易に測定可能な切断により判断する場合の,IgM抗FIX/FIXa抗体196/AF2により示されるFVIII様活性による,第 Xa因子の産生における第IXa因子刺激の結果(「16mU FVIII」と「196/AF2」とを比較のこと)を,図7Aに示す。第Xa因子活性は,FXa特異的インヒビター「Pefabloc Xa(登録商標)」により効果的にブロックされ(「196/AF2」と「196/AF2 35μM Pefabloc Xa(登録商標)」とを比較のこと),このことは,実際にFXaが産生されたことを示す。 【0068】 同じ実験を,クローン198/AM1の精製したIgG調 efabloc Xa(登録商標)」とを比較のこと),このことは,実際にFXaが産生されたことを示す。 【0068】 同じ実験を,クローン198/AM1の精製したIgG調製物を使用して,実施した(図7B)。精製されたIgGをTBSで希釈し,最終濃度を0,4mg/mlおよび25μl(すなわち,合計10μg)とし,マイクロタイタープレートウェルに移し,そして37℃に昇温させた。ポジティブコントロールとして,6mUの血漿由来FVIIIを使用した。10μgの非特異的マウスIgG(Sigma,I-538 1)は,ネガティブコントロールとして作用した。このアッセイを,上記のように実施した。」 実施例6「【0073】(実施例6:特定の抗FIX/FIXa抗体は,FIXaの存在下において凝血原 である)正常なホメオーシスの間,FIXはまず,組織因子(TF)/第VIIa因子経路によってか,または後に活性化第XI因子(FIXa)によってかのいずれかで活性化となる。その活性化後,FIXaは,活性化FVIIIとの膜結合複合体において,血小板表面上で会合する。第IXa因子は単独では,FXに対する酵素活 性をほとんどまたは全く有さないが,FVIIIaの存在下では,高度に活性となる。特定の抗FIX/FIXa抗体が,FVIII様活性を有し,従って,FVIIIを欠損したヒト血漿における凝血原であることを実証するために,以下の実験を行った。…」 実施例7 「【0076】(実施例7:抗FIX/FIXa抗体は,FVIIIインヒビターおよびFIXaの存在下において凝血原である)標準的なFVIII置換療法の重篤な合併症が,FVIIIに対する同種抗体の発達であり,これは,FVIIIの中和 IXa抗体は,FVIIIインヒビターおよびFIXaの存在下において凝血原である)標準的なFVIII置換療法の重篤な合併症が,FVIIIに対する同種抗体の発達であり,これは,FVIIIの中和へと導き,そして患者の血液が凝固しないとい う状態に導く。 【0077】特定の抗FIXa抗体が,FVIIIインヒビターの存在下においてさえ,FVIII様活性を有するということを実証するために,以下の実験を行った。異なる量の抗体193/AD3またはコントロールとしてのマウスIgGを,標準的なAPTTに基づく一段階凝固アッセイにおいて使用した。簡潔には,100μlの抗体サンプ ルを,100μlのFVIII欠損血漿(図10A)またはFVIIIインヒビター血漿(インヒビター効力400BU/ml)(図10B)のいずれか,および100μlのDAPTTIN試薬と共に,KC10A凝固分析装置においてインキュベートした。さらに,総量50ngの活性化FIXaを,反応混合物に含ませた。4分間のインキュベーション後に,100μlのCaCl2(25mM)を添加することによっ て,反応を開始した。等価な条件を確実にするために,FVIII欠損血漿およびFVIIIインヒビター血漿を使用する実験を,並置して実施した。この結果を,図10Aおよび10Bに示す。実施例6において既に示したように,FVIIIインヒビターの存在下で抗体193/AD3を補充したサンプルには,明らかな凝固時間の用量依存的減少が存在する。」 実施例8「【0078】(実施例8:抗FIX/FIXa抗体は,欠損性FVIIIおよびFIXaの存在下において凝血原である)特定の抗FIXa抗体が,欠損性FVIIIの存在下においてFVIII様活性 を有す (実施例8:抗FIX/FIXa抗体は,欠損性FVIIIおよびFIXaの存在下において凝血原である)特定の抗FIXa抗体が,欠損性FVIIIの存在下においてFVIII様活性 を有することを実証するために,以下の実験を実施し得る。…」 実施例9「【0079】(実施例9:FIXaの存在下において凝血原活性を有する抗FIX/FIXa抗体は,ヒトFIXaとウシFIXaとの間を識別する) 198回目の融合実験から選択されたFIX/FIXa特異的モノクローナル抗 体を,個々のハイブリドーマ上清から精製し,そして実施例3に記載のように定量した。これらの抗体を,改変された一段階凝固アッセイ(実施例6に記載のような)において分析した。そしていくつかが,凝血原活性を示した。」「【0081】図11は,50ngのヒトFIXaβの添加あり(+)および添加なし(-)でモ ノクローナル抗体198/A1,198/B1,および198/AP1によって示されたFVIII様活性の時間経過を示す。非特異的ポリクローナルマウスIgGを,コントロールとして使用した。198/A1および198/B1は,凝血原活性を示す(実施例6における198/AD3と類似)が,198/AP1は示さない。抗体198/BB1は,同じ活性パターンを有した(データは示さず)。」 実施例10「【0083】(実施例10:抗FIX/FIXa抗体から誘導された抗体誘導体の構造および凝血原活性;ハイブリドーマ細胞株193/AD3,193/K2,198/A1および198/B1(クローンAB2)からの抗体可変ドメインのサブクローニング)…」 「【0084】…結果として生じたベクターをpDAP2-193/AD3scFv 3/K2,198/A1および198/B1(クローンAB2)からの抗体可変ドメインのサブクローニング)…」 「【0084】…結果として生じたベクターをpDAP2-193/AD3scFv,pDAP2-198/AlscFv,pDAP2-198/AB2scFv(抗体198/B1由来)およびpDAP2-193/K2scFvと命名した。これらは,モノクローナル抗体193/AD3,198/A1,198/AB2(抗体198/B 1由来)および193/K2のVH遺伝子およびVL遺伝子をコードする。…」(サ) 実施例11「【0089】(実施例11:抗FIX/FIXa抗体のCDR3領域由来のペプチドの凝血原活性)…」 「【0094】 このような研究の原理を,抗体198/A1および198B/1のCDR3H領域由来の一連のペプチドによって例示する。それぞれ,元のペプチドA1(表2を参照のこと)は,抗体198/A1のCDR3H領域に由来し,そしてペプチドB1は,抗体198B/1のCDR3H領域由来に由来する(実施例10,図16および17を参照のこと)。…」 「【0105】図20は,ペプチドA1/3-Rdの変化されない色素形成活性を実証する。12μMの最終濃度のペプチドまたは緩衝液コントロール(IZ)を,2.3nMのヒトFIXa(+)の存在下でインキュベートした。ペプチドA1/3およびA1/3-Rdの色素形成活性は,実質的に変化されないことが示され,そしてこの色素形成ア ッセイにおいてほぼ同一の結果を生じた。A1/3のスクランブルバージョン,A1/5および緩衝液は,有意なFXa生成を生じなかった。」 実施例12「【0123】(実施例12:FVIIIインヒビタ-血 ぼ同一の結果を生じた。A1/3のスクランブルバージョン,A1/5および緩衝液は,有意なFXa生成を生じなかった。」 実施例12「【0123】(実施例12:FVIIIインヒビタ-血漿における抗FIX/FIXa抗体のC DR3領域から得られるペプチド誘導体の凝血促進活性)FVIIIインヒビター血漿におけるペプチドA1/3の凝血促進活性についてアッセイするために,以下の実験を実行した。…」 実施例13「【0125】 (実施例13:196/C4 IgMのIgG1への変換)いくつかのIgM抗体は高FVIII様活性を色素形成アッセイにおいて示すので,このようなIgM抗体をIgG抗体に(Fab,F(ab)2,scFvなどのような抗体誘導体もまた産生され得るが)変換させようと試みた。…」 実施例14 「【0130】 (実施例14:抗FIXa抗体によるFIXaアミド分解活性の活性化:)「…FIXa基質の特異的切断を,ELISAリーダーにおいて405nmでモニターした。抗FIX抗体の存在は,FIXaのアミド分解活性を少なくとも2倍増大した。図24は,抗体198/B1(図24A)および抗体198/AF1(図24B)の存在下でのFIXaのアミド分解活性の増加を示す。」 実施例15「【0131】(実施例15:抗FIX/FIXa-抗体由来のFabフラグメントによって示されるFVIII様活性)抗FIX/FIXa抗体のFabフラグメントを,標準的プロトコルに従って調 製し,そして精製した。…」 実施例16「【0133】(実施例16:抗FIX/FIXa抗体のおよびE.coliアルカリホスファターゼのscFvフラグ プロトコルに従って調 製し,そして精製した。…」 実施例16「【0133】(実施例16:抗FIX/FIXa抗体のおよびE.coliアルカリホスファターゼのscFvフラグメント間の融合タンパク質によって示されるFVIII様活 性)抗体198/B1(サブクローンAB2)の単鎖Fvフラグメント(実施例10を参照のこと)を,pDAP2ベクター系を用いてE.coliアルカリホスファターゼのN末端に融合した…」 実施例17 「【0134】(実施例17:二価のミニ抗体によって示されるFVIII様活性)二価のミニ抗体を得るために,抗体198/B1(サブクローンAB2)のscFvフラグメントを,pZip1ベクター系を用いて両親媒性らせん構造に融合した…」 実施例18 「【0139】(実施例18:抗FIXa/FIX抗体scFvフラグメントによって示されるFVIII様活性)抗体198/B1(サブクローンAB2)の単鎖Fvフラグメントならびに抗体#8860のscFvフラグメントを,pMycHis6ベクター系を用いて発現 させた。…」⑵ 本件各発明の意義以上の本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件各発明の意義は,大要,以下のとおりのものと認められる。 すなわち,従来の血友病Aの患者の処置は,欠如又は不足した第Ⅷ因子の不足を補 うために第Ⅷ因子濃縮物の投与による補充療法であった(段落【0003】)。しかし,補充療法には,第Ⅷ因子インヒビターを生じさせる患者に対する処置が非常に困難かつ危険性を含んでおり(段落【0003】),そのような患者に対する処置としては,高用量の第Ⅷ因子を投与するなどのいくつかの治療方法が存在するが 子インヒビターを生じさせる患者に対する処置が非常に困難かつ危険性を含んでおり(段落【0003】),そのような患者に対する処置としては,高用量の第Ⅷ因子を投与するなどのいくつかの治療方法が存在するが,高価である(段落【0004】,【0005】),多大な時間を必要とする(段落【0004】),重 篤な副反応を伴い得る(段落【0004】),患者への負担が大きい(段落【0005】)等の問題点があった。本件各発明の目的は,第Ⅷ因子を抑制する患者についての特定の利点を有する,血液凝固障害の処置のための調製物を提供することであり(段落【0010】),これを,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に結合して第Ⅸa因子の凝血促進活性を増大させる抗体又は抗体誘導体によって達成するというものである(段落【001 1】)。 そして,抗体又は抗体誘導体は,具体的には,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)を作製し(実施例1ないし3),これを色素形成アッセイ等の方法で凝血促進活性の程度を評価し(実施例4ないし9,14),そのモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)から様々な抗体誘導体(例えば, CDR3領域由来ペプチド及びその誘導体(実施例11,12),キメラ抗体(実施例 13),Fabフラグメント(実施例15),単鎖抗体(scFv。実施例10,16,18),ミニ抗体(実施例17)を作製するものである。 2 被告製品の構成等について⑴ 被告製品の構成被告製品は,別紙被告製品説明書及び「被告製品のアミノ酸配列」記載のアミノ酸 配列を有する非対称型バイスペシフィック抗体であり,抗体の中でもIgGに分類される。被告製品は,2つの抗原結合部位を有し,その一方が第Ⅸa因子を認識し,他方が第Ⅹ因子を認識する。(甲 アミノ酸 配列を有する非対称型バイスペシフィック抗体であり,抗体の中でもIgGに分類される。被告製品は,2つの抗原結合部位を有し,その一方が第Ⅸa因子を認識し,他方が第Ⅹ因子を認識する。(甲23,乙28,38,弁論の全趣旨)⑵ 被告製品の開発経緯被告製品の開発過程において,被告がバイスペシフィック抗体を作製するに当たり 用いられたモノスペシフィック抗第Ⅸa因子抗体は,ヒト第Ⅸa因子に特異的に結合し,かつ,第Ⅸa因子の酵素活性に対してできるだけ阻害活性の弱い抗体が選別された。そこで作製されたバイスペシフィック抗体のうち,最も第Ⅷ因子補因子活性が高かった抗体は,XB12/SB04であるが,これは第Ⅷ因子補因子活性を有さないモノスペシフィック抗第Ⅸa因子抗体から作製されたものである。よって,被告製品 の開発において選別されたモノスペシフィック抗第Ⅸa因子抗体は,第Ⅸa因子の凝血促進活性を増大させるか否かとは無関係に選別されたと認められる。また,モノスペシフィック抗第Ⅸa因子抗体の第Ⅷ因子補因子活性とそれから作製されたバイスペシフィック抗体の第Ⅷ因子補因子活性との相関関係があるとは認められず,バイスペシフィック抗体の第Ⅷ因子補因子活性は,抗第Ⅸa因子抗体由来の構造だけなく, 抗第Ⅹ因子抗体由来の構造にも影響を受ける。(乙55,57,75)そして,被告製品は,第Ⅸa因子と第Ⅹ因子との空間的な配向を好適な状況に制御し,酵素の活性部位と基質とを正確に接触しやすくすることで,第Ⅸa因子が触媒する第Ⅷ因子補因子活性を促進するという機序により,凝血促進活性を増大させるものである(乙33,甲165)。そして,その増大の程度は,本件明細書の実施例と同様 の手法で作製された抗体(198A1,198B3,224F3)と比較して 機序により,凝血促進活性を増大させるものである(乙33,甲165)。そして,その増大の程度は,本件明細書の実施例と同様 の手法で作製された抗体(198A1,198B3,224F3)と比較して,優れ た効果をもたらすものである(乙6,36によれば,約1000倍の効果とされている。)。 ⑵ 被告の実験結果(乙36,38)についてア乙38は,被告が作製した,左右のアームがいずれも被告製品の第Ⅸa因子に結合するアームで構成されたモノスペシフィック抗体(Qhomo)について,血液 凝固第Ⅷ因子活性測定用の色素形成アッセイキットを用いて,凝血促進活性の増大の程度を評価したものである。その結果,Qhomoのネガティブコントロールとの比は,1.36から1.48であった(なお,被告製品の同数値は●省略●から●省略●であった。)。 イ乙36は,被告製品及びQhomo等について,第Ⅸa因子による第Ⅹ因子活 性化反応における酵素反応速度論解析を行った実験結果である。 原告らは,この実験結果において,Qhomoは,ブランクと比較して,Km(ミカエリス・メンテン定数)が低値,kcat(酵素反応速度)が高値,kcat/Km(酵素反応効率)が高値,すなわち,基質(第Ⅹ因子)に対する親和性が高く,生成速度が速く,酵素反応効率が高いことが示されていることから,Qhomoは,第Ⅸa因子(酵素) の凝血促進活性を増大させるものであると主張する。 しかし,本件明細書には,「凝血促進活性を増大させる」と評価するための指標として,酵素反応速度論的解析は挙げられていない上,凝血促進活性の増大と酵素反応速度論解析との関係は記載も示唆もされていないから,これらの値をもって,本件各発明にいう「凝血促進活性を増大させる」と直ちに評価することはでき 的解析は挙げられていない上,凝血促進活性の増大と酵素反応速度論解析との関係は記載も示唆もされていないから,これらの値をもって,本件各発明にいう「凝血促進活性を増大させる」と直ちに評価することはできない。しかも, 基質に対する親和性,生成速度,酵素反応効率がどの程度向上すれば,「凝血促進活性を増大させる」と評価できるのかについての技術常識は何ら示されていない。むしろ,乙36のポジティブコントロール(第Ⅷa因子)の数値と比較すると,Qhomoの数値は,ブランクの値と極めて近いものであるから,同実験結果をもって,Qhomoが「凝血促進活性を増大させる」抗体であるとは認めることはできない。 ウ原告らは,被告が発表した被告製品についての論文(甲110,甲112)に よれば,被告自身,被告製品が第Ⅸa因子の凝血促進活性を増大させる作用を有していることを自認している旨主張する。しかし,被告製品が第Ⅸa因子の凝血促進活性を増大させる作用を有しているとしても,被告製品とQhomoとは異なる構造なのであるから,Qhomoが凝血促進活性を増大させる抗体であると認めることはできない。 ⑶ 原告らの実験結果(甲114,163,164)についてア甲114は,原告らが作製した,Qhomoと同一のアミノ酸配列を有する抗Ⅸaモノスペシフィック抗体(MonoBM)を使用し,ミカエリス・メンテン式による酵素基質反応のパラメータ(カイネティックパラメーター)を算出し,また,APTTの測定を行い,凝血促進活性の増大の程度を測定した実験結果である。甲16 3は,表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBiacore システムを用いて,MonoBM等がヒト第Ⅹ因子およびウシ第Ⅹ因子に結合する様子を測定した実験結果である。また,甲16 甲16 3は,表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBiacore システムを用いて,MonoBM等がヒト第Ⅹ因子およびウシ第Ⅹ因子に結合する様子を測定した実験結果である。また,甲164は,TECHNOCHROM キット(ヒト第Ⅸa因子とウシ第X因子を含む)にヒト第X因子を添加して,被告製品とMonoBMの経時的な吸光度変化を測定した実験結果である。 イ原告らは,これらの実験結果に基づき,Qhomoが凝血促進活性を増大させる抗体である旨(甲114),被告製品の凝血促進活性の増大は第Ⅸa因子に結合するアームのみの寄与によってもたらされたものである旨(甲163,164)を主張する。 しかし,乙79,80では,低分子の有効成分とは異なり,バイオ医薬品(抗体医 薬品もこれに含まれる。)では,バイオシミラーの先発医薬品との同一性を担保することは困難である旨述べられており,乙92では,MonoBMとQhomoとは同一であるとはいえないとの意見が述べられているから,上記実験結果(甲114,163,164)をもって,MonoBMとQhomoとが同一であると認めることはできず,それを前提にしてQhomoが凝血促進活性を増大させる抗体であるとか, 被告製品の第Ⅸa因子に結合するアームのみが凝血促進活性を増大させるものであ ると認めることはできない。 これに対し,原告らは,甲162を根拠に,触媒酵素活性を特定するのに必要な情報はアミノ酸配列に含まれており,配列が高次構造を特定するという原理の一般性が確立されているから,アミノ酸配列が同一であれば高次構造まで同一であり,MonoBMとQhomoは同一である旨主張する。しかしながら,同号証50頁には,「同 様の再折りたたみの実験は,多くの他のタンパク質におい ら,アミノ酸配列が同一であれば高次構造まで同一であり,MonoBMとQhomoは同一である旨主張する。しかしながら,同号証50頁には,「同 様の再折りたたみの実験は,多くの他のタンパク質においても行われた。多くの場合,天然の構造は最適な条件下で再現された。しかしながら,タンパク質によっては再び効率よく折りたたまれないものもある。」とされており,高次構造が再現されるのは「最適な条件下」であって,しかも,再現されない場合もあるとされているのであるから,アミノ酸配列が同一であれば高次構造まで同一であるとは必ずしもいえない。 3 本件出願日当時の技術常識について⑴ 第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するバイスペシフィック抗体の作製法は,本件出願日当時に複数知られており,その中でも,クワドローマ技術は簡便な方法であり,本件出願日当時の当業者にとって,合理的な時間および努力の範囲内でバイスペシフィック抗体を作製できる手法であった。バイスペシフィック抗体を産生するクワドロ ーマを融合し及び選択する種々の方法及びプロトコルは,1999年において,利用可能であり,良好に確立され,二重特異性のIgG分子を作製するのに幅広く用いられていた。(本件明細書段落【0026】,甲97,甲140の1)。 したがって,当業者は,本件出願日の技術常識から,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するバイスペシフィック抗体を作製可能であったと認められる。 ⑵ 前記2⑵で説示したとおり,モノスペシフィック抗第Ⅸa因子抗体の第Ⅷ因子補因子活性とそれから作製されたバイスペシフィック抗体の第Ⅷ因子補因子活性との相関関係があるとは認められず,バイスペシフィック抗体の第Ⅷ因子補因子活性は,抗第Ⅸa因子抗体由来の構造だけなく,抗第Ⅹ因子抗体由来の構造にも影響を受ける(乙55,5 ク抗体の第Ⅷ因子補因子活性との相関関係があるとは認められず,バイスペシフィック抗体の第Ⅷ因子補因子活性は,抗第Ⅸa因子抗体由来の構造だけなく,抗第Ⅹ因子抗体由来の構造にも影響を受ける(乙55,57,75参照)。 しかし,モノスペシフィック抗体からバイスペシフィック抗体に変換するとき,第 Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対する結合部位は1価になるが,1価でも凝血促進活性を増大させる効果がある(本件明細書実施例10ないし12,15,16,18)。そして,バイスペシフィック抗体の2つの抗原間で立体干渉が生じない限り,モノスペシフィック抗体の活性は維持される(甲140の1)。第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子以外の結合部位が第Ⅹ因子である場合を想定すると,本件出願日当時,第Ⅸa因子と第Ⅹa因子 の構造が明らかとなっており,第Ⅸa因子と第Ⅹa因子の立体構造からすると,当業者は,第Ⅸa因子と第Ⅹ因子に結合するバイスペシフィック抗体で,第Ⅸa因子結合部位の活性に対する干渉は起こりにくいと予測できる(甲140の1)。 したがって,当業者は,本件出願日の技術常識から,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノスペシフィック抗体から誘導されたバイスペシフィック抗体が,モノスペシ フィック抗体が有する凝血促進活性を増大させる作用を維持できると予測できたと認められる。 4 争点1(被告製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)について⑴ 本件特許請求の範囲の請求項1(本件発明1に係る特許請求の範囲)の記載は,「第Ⅸ因子または第Ⅸa因子に対する抗体または抗体誘導体であって,凝血促進活性 を増大させる,抗体または抗体誘導体(ただし,抗体クローンAHIX-5041:HaematologicTechnologies社製,抗体クローンHIX-1:SIGMA- って,凝血促進活性 を増大させる,抗体または抗体誘導体(ただし,抗体クローンAHIX-5041:HaematologicTechnologies社製,抗体クローンHIX-1:SIGMA-ALDRICH社製,抗体クローンESN-2:AmericanDiagnostica社製,および抗体クローンESN-3:AmericanDiagnostica社製,ならびにそれらの抗体誘導体を除く)。」であり,請求 項4(本件発明4に係る特許請求の範囲)は請求項1を引用している。ここで,「凝血促進活性を増大させる」との記載の意義については,本件明細書においてこれを定義した記載はない上,「血液凝固障害の処置のための調製物を提供する」(段落【0010】)という本件各発明の目的そのものであり,かつ,本件各発明における抗体又は抗体誘導体の機能又は作用を表現しているのみであって,本件各発明の目的又は効果 を達成するために必要な具体的構成を明らかにしているものではない。 特許権に基づく独占権は,新規で進歩性のある特許発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるものであるから,このように特許請求の範囲の記載が機能的,抽象的な表現にとどまっている場合に,当該機能ないし作用効果を果たし得る構成全てを,その技術的範囲に含まれると解することは,明細書に開示されていない技術思想に属する構成までを特許発明の技術的範囲に含ましめて特許権に基づく独占 権を与えることになりかねないが,そのような解釈は,発明の開示の代償として独占権を付与したという特許制度の趣旨に反することになり許されないというべきである。 したがって,特許請求の範囲が上記のように抽象的,機能的な表現で記載されている場合においては,その記載のみによって発明の技術的範囲を 特許制度の趣旨に反することになり許されないというべきである。 したがって,特許請求の範囲が上記のように抽象的,機能的な表現で記載されている場合においては,その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはで きず,上記記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきである。 ただし,このことは,特許発明の技術的範囲を具体的な実施例に限定するものではなく,明細書及び図面の記載から当業者が実施し得る構成であれば,その技術的範囲に含まれるものと解すべきである。 ⑵ そこで,本件明細書において開示された具体的構成に示されている技術思想について検討する。 アある抗体が,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に結合し,第Ⅸa因子の凝血促進活性を増加するか又は第Ⅷ因子様活性を有することを示すための試験方法としては,凝血試験や色素形成試験等があり,これらによって評価が可能である(段落【0013】, 【0014】,【0037】,【0065】)。そして,第Ⅸa因子に対する抗体をスクリーニングし,色素形成アッセイによって第Ⅷ因子様活性を有するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)が複数作製されており(実施例4,9),そのなかで第Ⅷ因子インヒビターを有する血漿の凝血をもたらす抗体(193/AD3)も確認されている(実施例7)。よって,当業者は,第Ⅸa因子に対する抗体をスクリーニングす ることにより,過度の試行錯誤を要することなく,一定の割合で凝血促進活性を増大 させるモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)を作製できたと認められる。 また,凝血促進活性を増大させるモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)からの誘導体も複数作製され 増大 させるモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)を作製できたと認められる。 また,凝血促進活性を増大させるモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)からの誘導体も複数作製されているから(例えば,CDR3領域由来ペプチド及びその誘導体(実施例11,12),キメラ抗体(実施例13),Fabフラグメント(実施例15),単鎖抗体(scFv。実施例10,16,18),ミニ抗体(実施例17)), 凝血促進活性を増大させるモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)からの誘導体も作製できたと認められる。 もっとも,「凝血促進活性を増大させる」程度については,本件明細書においては,色素形成アッセイにおけるネガティブコントロールとの比が,1.7程度(例えば,段落【0081】・図11において,198/AP1はネガティブコントロールとの比 が1.7程度であるが,凝血促進活性を示さないとされている。段落【0067】・図7A(196/AF2 35μMPefablocXa(登録商標)),段落【0068】・図7B(198/AM1 35μMPefablocXa(登録商標))も同様。)や2程度(段落【0105】・図20において,A1/5はネガティブコントロールとの比が2程度であるが,有意な凝血促進活性はないと評価されている。) の場合においても,「凝血促進活性を増大させる」とは評価されていないのであるから,「凝血促進活性を増大させる」とは,少なくともネガティブコントロールとの比が2程度を超える程度のものでなければならないものと解するのが相当である。そうすると,凝血促進活性の増大がわずかであるものは,「凝血促進活性を増大させる」とは評価できず,その程度は,実質的なものでなければならないのであって,「凝血促進活 性を増大 のが相当である。そうすると,凝血促進活性の増大がわずかであるものは,「凝血促進活性を増大させる」とは評価できず,その程度は,実質的なものでなければならないのであって,「凝血促進活 性を増大させる」とは,少なくともネガティブコントロールとの比が2程度を超えており,実質的に凝血促進活性を増大させる程度の増大であることを要するものと解すべきである。 イバイスペシフィック抗体については,本件明細書において,実施例として作製された例は記載されておらず,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に結合するアーム以外のアー ムが結合する対象の抗原がいかなるものかも開示されてない。しかし,バイスペシフ ィック抗体自体は,抗体誘導体の一態様として明記されている(段落【0019】,【0026】)。そして,凝血促進活性を増大させるモノスペシフィック抗体からの誘導体も複数作製されており(実施例10ないし13,15ないし18),本件出願日当時の技術常識によれば,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するバイスペシフィック抗体を作製可能であり,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノスペシフィック抗体から誘導 されたバイスペシフィック抗体が,モノスペシフィック抗体が有する凝血促進活性を増大させる作用を維持できると予測できたと認められる。そうすると,バイスペシフィック抗体についても,モノスペシフィック抗体の活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体の一態様として「抗体誘導体」に含まれると解される。 ウしたがって,本件各発明の技術的範囲に含まれるというためには,「第Ⅸa因 子の凝血促進活性を実質的に増大させる第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」であることが必要であるものの, 子の凝血促進活性を実質的に増大させる第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」であることが必要であるものの,バイスペシフィック抗体は「抗体誘導体」の一態様としてこれに含まれ得ると解すべきである。 エ被告は,色素形成アッセイにおいてネガティブコントロールとの比が3を超え るモノスペシフィック抗体及びその誘導体に限られる旨主張する。 そこで検討するに,本件明細書には,2時間のインキュベーション後の第Ⅷ因子アッセイにおいて,ネガティブコントロールとの比が3を超える場合には,「凝血促進活性を増大させる」と評価できる旨の記載がある(段落【0013】,【0014】)。 他方,本件明細書においては,凝血促進活性の検査方法について,色素形成アッセイ 以外にも凝血試験などの全ての方法が使用でき(段落【0037】,【0065】),同じ色素形成アッセイであってもインキュベーション時間が2時間ではない例も記載されている(実施例11・図18ないし20)。そうすると,本件明細書に記載された凝血促進活性の評価方法は,複数存在するということができるところ,一般に,評価方法が異なればその基準が同一であるとは限らないから,本件明細書において「凝血 促進活性の増大」が色素形成アッセイにおいてネガティブコントロールとの比が3を 超えるものであると一義的に決定されているとは,直ちには解することができない。 オ原告らは,「凝血促進活性を増大させる」とは,ネガティブコントロールとの比が1を超えるものであれば十分である旨主張する。 しかし,本件明細書においては,色素形成アッセイにおけるネガティブコントロールとの比が,1.7程度や2程度の場合においても,「凝血促進活性 ールとの比が1を超えるものであれば十分である旨主張する。 しかし,本件明細書においては,色素形成アッセイにおけるネガティブコントロールとの比が,1.7程度や2程度の場合においても,「凝血促進活性を増大させる」と は評価されていないのであるから,ネガティブコントロールとの比が1を超えるものであれば十分であるとはいえないことは,既に説示したとおりであって,原告らの上記主張は採用することができない。 ⑶ 他方,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)が第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させるものでない場合には, 別異に解すべきである。すなわち,本件各発明の技術的範囲に属するというためには,「第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」であることが必要であると解されるところ,これには,第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させるものではない第Ⅸ因子又は第Ⅸa因 子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)は含まれないし,かかるモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)から誘導される抗体誘導体(バイスペシフィック抗体もこれに含まれる。)も含まれないというべきである。このような抗体誘導体(バイスペシフィック抗体)は,たとえ,それ自体が第Ⅸa因子の凝血促進活性を増大させる効果を有するものであったとしても,本件各発明の課題解決手段 とは異なる手段によって凝血促進活性を増大させる効果がもたらされているのであって,本件明細書の記載に基づいて当業者が実施できるものとはいえないというべきである。 ⑷ 前記⑵において説示したとおり,「凝血促進活性を実質的に増 進活性を増大させる効果がもたらされているのであって,本件明細書の記載に基づいて当業者が実施できるものとはいえないというべきである。 ⑷ 前記⑵において説示したとおり,「凝血促進活性を実質的に増大させる」とは,少なくともネガティブコントロールとの比が2程度を超えるものでなければならな いものと解されるところ,前記2において認定したとおり,左右のアームがいずれも 被告製品の第Ⅸa因子に結合するアームで構成されたモノスペシフィック抗体(Qhomo)の色素形成アッセイキットによって測定されたネガティブコントロールとの比は,1.36から1.48であったこと(乙38)からすると,Qhomoは第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させるモノスペシフィック抗体とはいえない。 そして,被告製品は,Qhomoの片方のアームを第Ⅹ因子に対するものに改変した バイスペシフィック抗体(抗体誘導体)であるから,第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させるものではないモノスペシフィック抗体からの誘導体ということができる。 そうすると,被告製品は,第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させるものではないモノスペシフィック抗体から,その第Ⅸa因子結合部位を取り出し,特定の第 Ⅹ因子結合部位と組み合わせてバイスペシフィック抗体に変換させることにより,凝血促進活性を増大させる作用をもたらしたものということができるから,「第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」に該当するとは認められない。 ⑸ したがって,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属すると認めることはできないというべきである。 5 結論以上 持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」に該当するとは認められない。 したがって,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属すると認めることはできないというべきである。 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 嶋末和秀 裁判官 伊藤清隆 裁判官 西山芳樹 (別紙)当事者目録 原告バクスアルタインコーポレーテッド 原告バクスアルタゲーエムベーハー 上記両名訴訟代理人弁護士 阿部隆徳 同木下倫子 同風間智裕 同落合馨 同加納正裕 上記両名補佐人弁理士 壽勇 被告中外製薬株式会社 同訴訟代理人弁護士 牧野利秋 同飯 被告中外製薬株式会社 同訴訟代理人弁護士牧野利秋 同飯村敏明 同末吉剛 同訴訟復代理人弁護士星埜正和 同訴訟代理人弁理士寺地拓己 同補佐人弁理士一宮維幸 (別紙)被告製品目録 1 製品名抗体(開発コード:ACE910/一般名:emicizumab) 2 種類医薬品 3 製造者中外製薬株式会社 4 臨床試験開始時期遅くとも平成24年8月頃 5 概要活性型第Ⅸ因子および第Ⅹ因子と同時に結合するバイスペシフィック抗体 (別紙)甲4特許公報添付略 (別紙)甲168「【書類名】特許請求の範囲」添付略 (別紙)被告製品説明書 被告製品は,開発コードをACE910,一般名をemicizumabとする抗体であって,活性型第Ⅸ因子および第Ⅹ因子と同時に結合する抗体である。具体的には,血友病Aの治療を目的とした医薬であり,活性型第Ⅸ因子および第Ⅹ因子と同時に結合することで第Ⅷ因子様の機能を発揮し,血液凝固反応を促進するバイスペシフィック抗体(二つの抗原結合部位が異なる抗原と結合できるように設計された抗体)である。 (別紙) 被告製品のアミノ酸配列 H鎖として QVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTF が異なる抗原と結合できるように設計された抗体)である。 (別紙) 被告製品のアミノ酸配列 H鎖として QVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSYYDIQWVRQAPGKGLEWVSSISPSGQSTYYRREVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARRTGREYGGGWYFDYWGQGTLVTVSS(「Ⅸa 側H鎖」)及びQVQLVQSGSELKKPGASVKVSCKASGYTFTDNNMDWVRQAPGQGLEWMGDINTRSGGSIYNEEFQDRVIMTVDKSTDTAYMELSSLRSEDTATYHCARRKSYGYYLDEWGEGTLVTVSS(「Ⅹ側H鎖」)のアミノ酸配列と, 共通L鎖としてDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCKASRNIERQLAWYQQKPGQAPELLIYQASRKESGVPDRFSGSRYGTDFTLTISSLQPEDIATYYCQQYSDPPLTFGGGTKVEIKのアミノ酸配列とを有し,Ⅸa側H鎖及び上記L鎖に由来する抗原結合部位(「Ⅸa結合部位」)は,第Ⅸa 因子と結合し,X側H鎖及び上記L鎖に由来する抗原結合部位(「X結合部位」)は,第X因子と結合する抗体。

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