平成19(行ウ)91 費用返還決定処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成20年12月10日 大阪地方裁判所 その他
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判決文本文31,371 文字)

主文 本件訴えのうち,泉南市福祉事務所長が平成17年8月29日付けで原告に対してした原告に対し生活保護法63条を適用する旨の通知(泉南福第○○号)の取消しを求める部分を却下する。 泉南市福祉事務所長が平成17年8月31日付けで原告に対してした生活保護法63条に基づく返還金の額を557万5804円と定める旨の処分(泉南福第○○号)を取り消す。 訴訟費用は全部被告の負担とする。 事実及び理由 第1請求 泉南市福祉事務所長が平成17年8月29日付けで原告に対してした原告に対し生活保護法63条を適用する旨の通知(泉南福第○○号)を取り消す。 主文2項と同旨第2事案の概要 原告は,内縁の夫であるAが事故により死亡したため,生活保護を受けていたところ,上記事故につき,原告が,遺族慰謝料の支払を,原告とAとの子であるBが,遺族慰謝料及びAから相続した損害賠償金の各支払を,それぞれ受けたため,泉南市福祉事務所長(以下「処分庁」という。)は,原告に対し,上記事故時以降に支給した保護費につき,生活保護法63条を適用する旨の通知をするとともに(以下「本件通知」という。),同条に基づく返還金の額を557万5804円と定める旨の処分(以下「本件処分」という。)を行った。 本件は,原告が,本件通知及び本件処分をいずれも不服としてこれらの各取消しを求めた抗告訴訟である。 法令の定め(1)生活保護法(以下「法」という。)法1条は,法は,日本国憲法25条に規定する理念に基づき,国が生活に 困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする旨規定する。 法4条1項は,保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,そ 必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする旨規定する。 法4条1項は,保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる旨規定し,同条3項は,同条1項,2項の規定は,急迫した事由がある場合に,必要な保護を行うことを妨げるものではない旨規定する。 法8条1項は,保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする旨規定する。 法10条は,保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする旨規定するとともに,ただし,これによりがたいときは,個人を単位として定めることができる旨規定する。 法63条は,被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない旨規定する。 (2)民法民法711条は,他人の生命を侵害した者は,被害者の父母,配偶者及び子に対しては,その財産権が侵害されなかった場合においても,損害の賠償をしなければならない旨規定する。 民法3条1項は,私権の享有は,出生に始まる旨規定するが,同法721条は,胎児は,損害賠償の請求権については,既に生まれたものとみなす旨規定し,同法886条1項は,胎児は,相続については,既に生まれたものとみなす旨規定する。 民法787条本文は,子,その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は,認知の訴えを提起することができる旨規定し,同法784条本文は,認知は,出生の時 いては,既に生まれたものとみなす旨規定する。 民法787条本文は,子,その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は,認知の訴えを提起することができる旨規定し,同法784条本文は,認知は,出生の時にさかのぼってその効力を生ずる旨規定する。 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記各証拠又は弁論の全趣旨によって容易に認められる。なお,争いがない事実には証拠を附記しない。 (1)関係者等アAは,原告の内縁の夫であった者であるが,後記のとおり,平成▲年▲月▲日の交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡した。 イBは,平成▲年▲月▲日,Aと原告との間に出生した女児である。 ウ泉南市福祉事務所長(処分庁)は,泉南市長から,法19条4項に基づき,法24条1項に規定する保護の開始及び変更に関する事務,法26条に規定する保護の停止及び廃止に関する事務並びに法63条に規定する被保護者が返還すべき額の決定に関する事務等について権限の委任を受けた行政庁である。(弁論の全趣旨)(2)本件処分に至る経緯ア原告とAとは,内縁関係にあったところ,Aは,平成▲年▲月▲日,交通事故(本件事故)により死亡した。 イ原告は,同月15日,処分庁に対し,生活維持者であったAが本件事故により死亡し,また,原告も妊娠中であるため就労が困難であるなどとして,法7条に基づき,保護の開始の申請を行ったところ,処分庁は,同年4月2日,原告が属する世帯(以下「原告世帯」という。)が窮迫している状態が認められるとして,法24条1項に基づき,上記申請日からの保護の開始を決定した。 ウ原告は,同年▲月▲日,Aとの間にBを出産し,その後,処分庁に対してBの出生を届け出て保護の変更を申請したところ,処分庁は,同月29日, Bの出生日に遡及して同人を原告世帯の構成 を決定した。 ウ原告は,同年▲月▲日,Aとの間にBを出産し,その後,処分庁に対してBの出生を届け出て保護の変更を申請したところ,処分庁は,同月29日, Bの出生日に遡及して同人を原告世帯の構成員として認定した。 エBは,大阪家庭裁判所岸和田支部に対し,大阪地方検察庁岸和田支部支部長検事を被告として,BがAの子であることを認知する旨の判決を求める訴訟を提起したところ,同裁判所は,平成17年5月31日,BがAの子であることを認知する旨の判決(以下「本件認知判決」という。)を言い渡し,同判決は,同年6月21日の経過により確定した。(甲5の1,2)オ原告及びBは,同年8月9日,C株式会社から,本件事故に関し,自動車損害賠償責任保険金合計1955万7317円(以下「本件保険金」という。)の支払を受けた。同保険金の内訳は,原告固有の遺族慰謝料158万3333円(以下「原告固有慰謝料」という。),Bの固有の遺族慰謝料とAからの相続分との小計1797万3334円(以下「B保険金」といい,B保険金のうち,B固有の遺族慰謝料部分を以下「B固有慰謝料」と,B保険金のうちAからの相続分を以下「B相続分」と,各呼称する。)及び文書料(印鑑証明書代及び戸籍謄本代)650円(以下「本件文書料」という。)である。 原告は,同月11日,処分庁に対し,上記本件保険金の受領の事実を報告した。 なお,B保険金は,現在に至るまで費消されることなくB名義の預金口座において管理されている。(甲6ないし8,弁論の全趣旨)カ処分庁は,同月29日付けで,原告(ないし原告世帯)に対し,「生活保護法第63条(費用返還義務)適用について(通知)」と題する書面(甲1。以下「本件通知書」という。)を交付して,原告(ないし原告世帯)に対して法63条を適用する旨通知した(本件通知)。 ,「生活保護法第63条(費用返還義務)適用について(通知)」と題する書面(甲1。以下「本件通知書」という。)を交付して,原告(ないし原告世帯)に対して法63条を適用する旨通知した(本件通知)。 なお,本件通知書には,「この決定に不服があるときは,この決定のあったことを知った日の翌日から起算して60日以内に知事に対し審査請求 することができます」「審査請求に対する裁決を経た場合に限り,その審査請求に対する裁決があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に,泉南市を被告として(省略)この決定の取消しの訴えを提起することができます」との記載がある。(甲1)キ処分庁は,平成17年8月31日付けで,原告世帯に対し,保護廃止決定をするとともに,法63条による返還金の額を557万5804円と定める旨決定し(本件処分),原告に対し,各旨通知した。なお,本件処分に係る通知書(生活保護法第63条(費用返還)による返還金決定通知書。 甲3)には,生活保護法63条の適用期間として,平成▲年▲月15日から平成17年8月31日までとの記載がある。 (3)保護費の支給状況上記保護開始から保護廃止決定までの原告世帯に対する保護費の支給状況は,別紙保護費返還額一覧表記載のとおりである。なお,同表において,平成16年4月分の保護費につきマイナス表示されているものについては,原告世帯の申請時の資産調査によって,生命保険の解約返戻金27万9840円及び過支給分1万1880円(原告の生活保護開始日が前記のとおり▲年▲月15日であり,同年4月1日に生活保護基準改定が実施されたことによる過支給分)の合計29万1720円を返納したことから,マイナスと表示されたものである。また,同表の平成16年8月分及び同年12月分の各一時扶助欄記載の金額は,大阪府被保護者夏期歳末一 れたことによる過支給分)の合計29万1720円を返納したことから,マイナスと表示されたものである。また,同表の平成16年8月分及び同年12月分の各一時扶助欄記載の金額は,大阪府被保護者夏期歳末一時金制度による支給金であって,生活保護制度上の支給ではない。(弁論の全趣旨)(4)審査請求及び本件訴えア原告は,平成17年10月24日,大阪府知事に対し,本件通知及び本件処分を不服として,審査請求を行った。 イ大阪府知事は,原告の上記審査請求について,本件処分の取消しを求めるものであるとの前提で,平成18年11月14日,同審査請求を棄却す る旨の裁決をした。(甲4)ウ原告は,平成19年5月10日,本件訴えを提起した。(顕著な事実) 争点 (1)本件通知の処分性(本案前の争点)(2)本件通知及び本件処分の適法性(本案の争点)ア原告が,原告固有慰謝料を「資力」(法63条)として取得した時期イBが,B保険金を「資力」(法63条)として取得した時期ウBが,B保険金を「資力」(法63条)として取得したことを理由として,原告に対し法63条に基づく返還請求をすることができるか 争点に関する当事者の主張(1)争点(1)(本件通知の処分性)について【原告の主張】本件通知は,処分庁が,原告一家の経済状況を勘案し,原告に生活保護費の返還能力ありと判断して,原告に対して法律上一定額の返還義務を課したものであり,取消訴訟の対象となる行政処分に該当する。なお,本件通知書には,決定に対する不服申立方法が記載されているが,これは,本件通知が行政処分であることを被告が認めた結果である。 【被告の主張】取消訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法3条2項)とは,公権力の主体たる国又は地方公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の 分であることを被告が認めた結果である。 【被告の主張】取消訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法3条2項)とは,公権力の主体たる国又は地方公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される。しかるところ,本件通知は,法63条が適用される旨を通知するものであるが,このような法63条が適用される旨の通知は,法63条による返還決定がされることを予告するものにすぎず,被保護者等の権利,義務関係に変動を来し得る法的効果を伴うものとはいえないから,取消訴訟の対象となる「処分」には該当しない。したがって,本件通知の取 消しを求める訴えは不適法であって却下されるべきである。なお,本件通知書には,「不服に対する審査請求」についての記載があるが,上記のとおり,本件通知について,その効果等を定める根拠規定はなく,不服審査の対象となるものとはいえないから,同記載は本来不要なものである。 (2)争点(2)ア(原告が,原告固有慰謝料を「資力」(法63条)として取得した時期)について【原告の主張】法は,1条において,困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,最低限度の生活を保障する旨規定し,単なる理念的な資産の有無ではなく,現実の資産の有無と困窮状態に応じた現実主義的観点からの保護を定めているのであって,現実には資産はないのに,権利が存するとの理由で理念的に資産ありとして理念的な生活維持の可能性を探り,現実の困窮を無視して理念的な状況を保護基準とすることは許されない。したがって,法4条1項の「利用し得る資産」ないし法63条の「資力がある」とは,いずれも,理念的な存在ではなく,現実の「利用し得る資産」及び現に「資力」を有する状態をいうものと解すべきである。すなわち,この「資 4条1項の「利用し得る資産」ないし法63条の「資力がある」とは,いずれも,理念的な存在ではなく,現実の「利用し得る資産」及び現に「資力」を有する状態をいうものと解すべきである。すなわち,この「資力」がある場合とは,保護適用時において,現実に不動産を所有するが直ちに生活資金に換金し難く,現金に困窮しているような場合を意味するのであって,理念的に「資産」性ある権利を有するはずであっても,保護適用時においてその「資産」性のある権利の存否及びその行使の可否が不明で現実に困窮している場合には,後に権利の存在が確定しその行使が可能となったとしても,その保護適用時において「資力」があったということはできないのである。 本件では,Aが,平成▲年▲月▲日に本件事故により死亡し,理念的には,原告が加害者に対する損害賠償請求権を取得したはずであるが,現実には,本件事故後,本件事故に係る損害賠償請求権の存否すら争われ,同請求権行使の可否も不明だったのであり,本件事故に係る損害賠償請求権は,極めて 不確実な,単なる理念的な「存在するはずの権利」にすぎなかった。その後,原告は,平成17年8月に,原告固有慰謝料の支払を受けたが,これは,弁護士を通じた保険者との強力な交渉の結果なのである。したがって,本件においては,平成17年8月に原告の損害賠償請求権の存在が確定されるとともに実行されたのであり,この時点で,原告は,原告固有慰謝料を法63条にいう「資力」として取得したのである。したがって,それ以前に受給した保護費については,法63条が適用される余地はない。 被告は,最高裁昭和42年(オ)第1245号同46年6月29日第三小法廷判決・民集25巻4号650頁(以下「昭和46年最判」という。)を援用し,法63条にいう「資力」は,履行済である(現実の給付を受けている) 裁昭和42年(オ)第1245号同46年6月29日第三小法廷判決・民集25巻4号650頁(以下「昭和46年最判」という。)を援用し,法63条にいう「資力」は,履行済である(現実の給付を受けている)ことを要しない旨主張する。しかしながら,上記判例においても,法63条に基づく返還請求をすることができるのは,履行が確実で,履行済の場合と同視し得る場合に限られており,単に理念的に存在するにすぎず,給付が不確実な事例は含まれていないのである。したがって,原告の主張は,昭和46年最判に反するものではない。 【被告の主張】法は,4条1項において,要保護者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行うものとしている。そして,法63条は,法4条3項が上記要件を満たさない場合,すなわち,利用し得る資産等がある場合であっても,「急迫した事由」がある場合には,必要な保護を行うことを妨げないとしていることを受けて,急迫の場合等においてその資力があるにもかかわらず,保護を受けた被保護者に対し,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において,保護の実施機関の定める額の返還義務を規定したものであり,昭和46年最判においても,法63条につき同趣旨に解されている。そして,同判例は,損害賠償の責任や範囲等について争いがあり,賠償を直ちに受けること ができない場合についても,「利用し得る資産」はあることを前提としているものと解される。さらに,昭和47年12月5日付け厚生省社会局保護課長通知社保196号「第三者加害行為による補償金,保険金等を受領した場合における生活保護法第63条の適用について」(乙4)は,生活保護法63条にいう資力の発生時点としては,加害行為発生時点から被害者に損害賠償請求権が存するので 行為による補償金,保険金等を受領した場合における生活保護法第63条の適用について」(乙4)は,生活保護法63条にいう資力の発生時点としては,加害行為発生時点から被害者に損害賠償請求権が存するので,加害行為発生時点たること,したがって,その時点以後支弁された保護費については法63条の返還対象となること,と定めているところ,同通達は,上記法63条の趣旨及び昭和46年最判の判示に沿うものであり,十分な合理性を有する。 そうすると,第三者の加害行為(自動車による交通事故)による損害賠償請求権は,当該行為(交通事故)の時点において既に発生しており,自動車損害賠償保障法により保険金が支払われることが確実であるから,同時点以降,被保護者は,「利用し得る資産」を有するものとして「資力がある」と解するのが相当であり,同損害賠償請求権の発生時点以降に支給された保護費については,法63条による費用返還義務の対象となると解するのが相当である。これを本件についてみると,原告の本件事故に係る損害賠償請求権は,本件事故時である平成▲年▲月▲日に発生しており,自動車損害賠償保障法により保険金が支払われることが確実であるから,原告は,この時点で,「利用し得る資産」を取得し,「資力」要件を満たすに至ったというべきである。 なお,原告は,昭和46年最判について,同判例においても,法63条に基づく返還請求をすることができるのは,履行が確実で,履行済の場合と同視し得る場合に限られており,単に理念的に存在するにすぎず,給付が不確実な事例は含まれていないなどとして,原告の主張は,昭和46年最判に反しない旨主張するが,同判例を曲解するものであって失当である。 (3)争点(2)イ(Bが,B保険金を「資力」(法63条)として取得した時 期)について【原告の主張】争点(2)ア 6年最判に反しない旨主張するが,同判例を曲解するものであって失当である。 (3)争点(2)イ(Bが,B保険金を「資力」(法63条)として取得した時 期)について【原告の主張】争点(2)アにおいて述べたとおり,法63条にいう「資力」とは,現実に利用し得るものであることを要するところ,本件において,Bが,B保険金の支払を受けたのは,平成17年8月であるから,同時点以前においては,Bは,法63条にいう資力を有していなかったことは原告固有慰謝料と同様である。これに加えて,B保険金については,さらに,以下の点を指摘することができる。 ア本件において,Bが出生したのは,本件事故後の平成▲年▲月▲日であるところ,被告は,民法721条及び886条を根拠として,本件事故時である同年▲月▲日にBがB保険金を「資力」として取得したとしている。 しかしながら,胎児はいまだ私権の享有主体ではなく,胎児の間に生じる相続,損害賠償請求については,いずれも胎児は本来その地位にないため,理念的な特例として,民法は上記各条項によって,胎児に相続人としての地位及び損害賠償請求権者としての地位を定めたにすぎず,これらの具体的な地位は,私権を享有し得る出生後に初めて取得することに変わりはない。また,民法721条及び886条は,相続と損害賠償請求について胎児の利益を図るために同法3条1項の特則として定められた規定であるところ,これはみだりに解釈で類推すべき規定ではなく,また,法63条とはその基本理念の異なる規定であって,法にも法63条が民法3条1項の特則である旨規定した条文もないから,民法3条1項の定める大原則を否定し,胎児に法63条に基づく義務を課すことは許されない。さらに,胎児に理念的な相続人の地位,損害賠償請求権者の地位があるとしても,法4条にいう「利用し得 もないから,民法3条1項の定める大原則を否定し,胎児に法63条に基づく義務を課すことは許されない。さらに,胎児に理念的な相続人の地位,損害賠償請求権者の地位があるとしても,法4条にいう「利用し得る資産」又は法63条にいう「資力」を有すると認めることはできない。すなわち,胎児については,胎児の地位の理念性に加え,「利用し得る資産」ないし「資力」の理念性が加わり,より一層現 実性に乏しく,現実性を求める法4条の「資産」ないし法63条の「資力」には到底該当しないのである。仮に,胎児についても「利用し得る資産」ないし「資力」を有する状況を認めるとすると,胎児が死産となったときは,理論上はいったん胎児に対して法63条に基づき保護費の返還を求めた上,これを取り消すことになるが,これが不相当な処理であることは明らかである。したがって,法4条,63条は,胎児に対しては適用されず,出生後,現実に資産を有する状況に至って初めてこれらの規定が適用されるのであり,胎児の時点にさかのぼって法63条にいう「資力」を取得したものとしてした本件処分は違法である。 イまた,BとAとの間の親子関係は,平成17年6月の本件認知判決の確定により初めて形成されたものであり,この親子関係形成以前においては,BはAの相続人とはいえず,同人に係る損害金を受領する余地はなく,抽象的にも「資力」とは無関係であったのである。したがって,Bが抽象的にでも「資力」を取得したのは,平成17年6月の本件認知判決確定後であって,この点においてもBが本件事故時に「資力」を取得したことを前提とする本件処分は違法である。 【被告の主張】アBは,本件事故当時胎児であったが,同人が生きて生まれたことにより,B保険金についても,原告固有慰謝料と同様に,本件事故時である平成▲年▲月▲日に発生してい 件処分は違法である。 【被告の主張】アBは,本件事故当時胎児であったが,同人が生きて生まれたことにより,B保険金についても,原告固有慰謝料と同様に,本件事故時である平成▲年▲月▲日に発生していたものと解され,保険金が支払われることは確実であるから,Bはこの時点でB保険金を「利用し得る資産」として取得したとみるのが相当である。すなわち,Bは出生時,非嫡出子であったことから,Aとの間に親子関係はなかったものであるが,本件認知判決が確定したことにより,「出生の時にさかのぼって」認知の効力が発生し(民法784条),また,Bが生きて生まれたことにより,Bが胎児であった被相続人Aの死亡時点において既に生まれたものとみなされる結果(民法7 21条,886条),同時点において,Bは,B保険金を取得したことになるのである。 イこれに対し,原告は,民法721条及び886条はみだりに解釈で類推すべき条文ではないなどと主張するが,被告は,上記アで述べたとおり,民法721条,886条の規定等に照らしてBが財産を取得しているから,これを踏まえて法63条の要件を満たすことを認定して本件処分を行ったものであり,そもそも民法の規定を他に類推したものではない。 また,原告は,被告の主張によると,法63条は胎児に返還義務を課す条文となり,これによると胎児が死産となったときは,理論上はいったん胎児に対して法63条に基づき保護費の返還を求めた上,これを取り消すことになって不当である旨主張する。しかしながら,被告は法63条を胎児に義務を課す条文と理解したわけではないし,胎児が死んで生まれた場合には,権利関係の帰属主体たり得ず,相続による権利義務関係の取得をそもそも観念し得ないのであるから,死んで生まれた場合であっても法63条による保護費の返還を求め得ることを前提とす 死んで生まれた場合には,権利関係の帰属主体たり得ず,相続による権利義務関係の取得をそもそも観念し得ないのであるから,死んで生まれた場合であっても法63条による保護費の返還を求め得ることを前提とする原告の上記主張は当を得ない。 (4)争点(2)ウ(Bが,B保険金を「資力」(法63条)として取得したことを理由として,原告に対し法63条に基づく返還請求をすることができるか)について【原告の主張】被告は,法10条が,保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めると規定していることから,保護費は世帯単位で返還するものとして,原告に対し,法63条に基づく保護費の返還請求をした。しかしながら,法10条は,「但し,これによりがたいときは,個人を単位としてこれを定めることができる。」とも規定し,個人単位での保護費の返還を求め得ることも示しているのである。すなわち,保護費の支給は世帯単位でするものと,個人 単位でするものとに分かれているのであるが,これらはいずれも一括して世帯の代表者に対して支給されるため,返還も世帯単位でするものとされているのである。そして,保護の実施機関が支給する保護費は,世帯別のものと個人別のものに分かれ,いずれも世帯の代表者に対して一括返還を求め得るとしても,世帯の代表者に返還資力があれば格別,資力のない場合には,返済原資は,原則として,世帯別に支給したものについては代表者の,個人別に支給したものについては,当該個人のものを充てるべきものである。 そして,本件においては,原告が受領した原告固有慰謝料については,暴力団関係者風のAの債権者と称する者から借金の返済を迫られたり生活費等に費消するなどして残存していないから,これを保護費の返還の原資とすることはできず,ただ,B保険金のみが,同人名義の預金口座に保管されている のAの債権者と称する者から借金の返済を迫られたり生活費等に費消するなどして残存していないから,これを保護費の返還の原資とすることはできず,ただ,B保険金のみが,同人名義の預金口座に保管されているにすぎないから,保護費の返還原資とし得るのはこのB保険金しかない。 また,処分庁が,原告に対し,同人が本件事故に関して支払を受けたのは原告固有慰謝料158万3333円にすぎないにもかかわらず,557万5804円もの返還決定をしたのは,Bが受領したB保険金を「資力」として認定し,これを返還原資の当てにしていたからにほかならない。 しかるところ,原告には,B保険金についての処分権限はないから,BがB保険金を取得したことを理由として,原告に対し,保護費の返還を求めることはできないというべきである。すなわち,原告が,Bの財産であるB保険金をもって保護費を返還することは,自分が管理するBの資産を自己の生活費のために使用し,あるいは他の兄弟のために使用することになるから,民法826条が規定する利益相反行為に該当し,これを行うことができるのは,家庭裁判所に特別代理人の選任を請求し,特別代理人がB保険金を原告の保護費返還債務に使用することを認めた場合に限られるのである。以上のとおり,特別代理人の選任等がされるまでの間,原告はBの資産を処分することができないのであって,Bが「資力」を取得したとしても,原告自身は 無資力というほかない。そして,現実に資力がない者に対して,現状を無視して保護費の返還を命じることになれば,無資力者が破産状況に追い込まれることは必至であり,そのような事態を生じさせることは法の趣旨に反する。 したがって,本件処分は無資力者に対して保護費の返還を求めるものであって違法である。 この点,被告は,保護費の返還については,世帯の全収入を基礎とす そのような事態を生じさせることは法の趣旨に反する。 したがって,本件処分は無資力者に対して保護費の返還を求めるものであって違法である。 この点,被告は,保護費の返還については,世帯の全収入を基礎とする旨主張するが,それは,保護費の返還義務者とされた者(本件においては原告)が同世帯の収入を自由に処分することができることを前提としているのであって,法は,処分の名あて人が当該世帯に属するとしても,他の世帯構成員の独自の金員まで自由に処分する権限を授与するものではないのである。 【被告の主張】ア法10条は,世帯単位の原則として,保護は,世帯を単位として,その要否及び程度を定めるものとする旨規定するが,法が,このような世帯単位の原則を定めているのは,生活保護は経済的援護を目的とするところ,保護の要否及び程度を判断する生活困窮という状態は,世帯,すなわち家計を一つにする消費生活上の一単位ごとに現れるためである。したがって,ここにいう世帯とは,収入及び支出,すなわち,家計を一つにする消費生活上の一単位をいい,夫婦,親子その他の直系血族又は兄弟姉妹が同一の住居に生活していれば反証のない限り同一世帯に属するという推定を受け,一般に,夫婦及び親と未成熟の子は,同一の世帯に属するものとみなされるものと解され,このような解釈は,民法730条の規定にも適うものである。そうすると,法律上親子関係にあり,親と未成熟の子からなる原告世帯については,同一生計を営む同一世帯といえることは明らかである。 そして,法10条にいう「単位としてその要否及び程度を定める」とは,世帯員の需要及び収入を一括して,世帯としての最低生活費及び収入の認定を行い,それに基づいて保護の要否及び程度を定めるという意味である と解される。なお,法10条ただし書が,世帯単位の原則の例外を定めて 需要及び収入を一括して,世帯としての最低生活費及び収入の認定を行い,それに基づいて保護の要否及び程度を定めるという意味である と解される。なお,法10条ただし書が,世帯単位の原則の例外を定めているのは,世帯主が法4条1項の要件を満たさないにもかかわらず世帯全員として生活困窮に陥り,他に途なき場合あるいは世帯としての構成に無理がある場合等に世帯単位の取扱いを強制すると,与えられるべき保護を拒む結果ともなり,このような場合には世帯単位の取扱いが形式的に可能であっても実質的には法の目的に背致することになるためであるが,本件においては,そのような世帯単位の原則により難い事情は何ら認められないから,法10条ただし書を適用することはできない。 以上のように,生活保護における世帯単位の原則により,保護は「世帯」に対して行われるものであるから,世帯構成員のいずれかの者が世帯が生活する上で十分な資力を有する場合には,世帯収入として十分とみるべきであり,保護・返還の要否を判断するに当たっても,結局,当該収入が世帯構成員のうちだれの資産であるかは考慮する必要はないのである。 すなわち,保護費は,「世帯」に対して支給されるものであり,その返還の場面においても,「世帯」が返還すべきものである(なお,本件において,本件処分のあて名が原告となっているのは,世帯代表として記載されているものである。)。したがって,同返還債務を,あたかも原告が原告個人名義で私経済活動により負担した債務と同様のものであることを前提に,利益相反行為であるなどとする原告の主張は,生活保護における保護の考え方,保護費の返還義務の性質を誤るものであり,失当である。 イまた,妊婦である被保護者に対する保護については,世帯主のみならず胎児を含め母体への健康等に配慮して扶助しているのであり,世帯 保護の考え方,保護費の返還義務の性質を誤るものであり,失当である。 イまた,妊婦である被保護者に対する保護については,世帯主のみならず胎児を含め母体への健康等に配慮して扶助しているのであり,世帯単位の原則に基づき,世帯全体の最低生活需要を充足することが当然の前提とされているのである。本件においても,処分庁は,原告が生活保護の申請をした際,世帯主である同人が妊婦であったため,母体保護の観点から栄養補給等妊産婦の特別の需要に対応するために妊婦加算の認定を行った上で, 生活保護の適用を決定し,その後も妊婦検診料の認定に基づく保護を行っているのである。結局,Bについても,胎児であった間については母親である原告に対する保護を通じて保護を受けており,出生後は被保護者として保護を受けているのである(出生前の時点においては胎児を制度上被保護者として認定できないにすぎない。)。このような保護の支給の場面の取扱いからも明らかなとおり,本件における法63条の適用の可否を含めた生活保護の要否の判断は,Bの収入を含めた世帯の収入を基に行うべきなのである。 ウさらに,原告は,原告が受領した原告固有慰謝料はすべて費消した旨主張するが,その客観的裏付けを欠き,原告主張事実の存否は不明というほかない。この点をおくとしても,法63条の「資力」の有無は保護の時点における資力を意味するのであって,返還決定時の「資力」の有無に左右されるものではなく,保護の時点にはあった「資力」がその後返還決定までに費消されたとしても,そのことにより法63条に定める返還義務発生の要件が欠けるものではない。 なお,法63条は,返還額の決定について,受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額と規定しているところ,「生活保護手帳(別冊問答集)」(乙7)においては るものではない。 なお,法63条は,返還額の決定について,受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額と規定しているところ,「生活保護手帳(別冊問答集)」(乙7)においては,原則として当該資力を限度して支給した保護金品の全額を返還額とすべきであるとされ,ただ,そのような取扱いを行うことが当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合には例外的に返還額から一定の範囲で控除して差し支えないとしているのであるが,本件においては,原告の主張によっても,Bが受領したB保険金はB名義の預金として残っているのであるから,上記例外的場合に該当しないことは明らかである。 エ以上のとおり,本件処分が前提とする,原告世帯の「資力」取得時期及び世帯単位の原則の適用はいずれも適法であるから,本件処分も適法であ る。 オなお,法上,法63条の返還決定について,債務名義を得なくとも強制徴収ができる等の明文の規定はないため,被保護者が法63条に基づく返還決定により保護費の返還義務を負うのにその返還を拒絶した場合の債権回収の手続は,民事執行法の手続によることになり,世帯構成員に対する債務名義(法63条の返還決定は「世帯」に対するものであるから,世帯構成員に対する債務名義が必要となる。)を得る必要がある。 第3当裁判所の判断 争点(1)(本件通知の処分性)について取消訴訟の対象となるのは,行政事件訴訟法3条2項に定める「処分」に限られるところ,ここにいう「処分」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。 接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。 ところで,前記法令の定めのとおり,法63条は,資力があるにもかかわらず保護を受けた被保護者について,その受けた保護の金品に相当する金額全額を返還すべきものとはせずに,当該金額の範囲内において,保護の実施機関の定める額を返還すべきものとしているのであるが,これは,資力があるにもかかわらず保護を受けた被保護者であっても,当該保護を受けた時点から返還までにある程度の期間が経過することも予想されることからすると,その間の生活状況等によっては受けた保護の金品に相当する金額の全額を一律に返還すべきものとすると,かえって当該被保護者の自立更生の妨げになるなど,法の趣旨目的に反することになる場合も想定されることから,被保護者が返還すべき金額は,被保護者の生活状況等に通暁する保護の実施機関(法25条2項,28条1項,29条,61条参照)において,法の目的を踏まえて上記金額の範 囲内でその裁量により決定することとしたものと解される。このような法63条の趣旨に加えて,同条は保護の実施機関による返還金額の決定のみを規定し,金額の決定とは別個の返還決定ないし通知については何ら規定せず,法令上他に返還額の決定とは別個の返還決定ないし通知について定めた規定は存しないことなどからすると,法は,保護の実施機関が返還すべき金額を決定することによって初めて,被保護者に法63条に基づく具体的な返還義務が生じるとする仕組みを採用しているものと解される。そして,証拠(乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,実務上,生活に困窮する者が,資産を有するもののこれを直ちに処分することが困難 く具体的な返還義務が生じるとする仕組みを採用しているものと解される。そして,証拠(乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,実務上,生活に困窮する者が,資産を有するもののこれを直ちに処分することが困難である場合等において,法63条が適用される旨を文書により通知した上で同人に対して保護を開始するといったことが行われていることもうかがわれるが,上記説示したところに照らせば,このような法63条が適用される旨の通知は何ら法令上の根拠を有するものではなく,被保護者に対して将来当該資産の処分等が可能になった場合に法63条に基づく返還金額の決定がされ得ることを事前に告知することにより将来における返還金の徴収事務の円滑を図るための事実上の行為にすぎないのであって,当該被保護者の具体的な権利義務又は法的地位に何ら消長を来すものではないというべきである。以上によれば,金額を定めることなく単に法63条を適用することを通知するにすぎない本件通知は,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する効果を有するものであるとはいえないから,取消訴訟の対象たる「処分」には該当しない。 これに対し原告は,本件通知書(甲1)には「この決定に不服があるときは,この決定のあったことを知った日の翌日から起算して60日以内に知事に対し審査請求することができます」等の記載があるところ(前提事実(2)カ),これは,被告が本件通知が「処分」に該当することを認めた結果であると主張する。 しかしながら,行政庁の行為が「処分」に該当するか否かは,当該行為が法律上直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものとされているか否 かによって決せられるのであり,行政庁の認識ないし相手方に対する不服申立てに関する教示の有無は,それを判断するための一つの資料とはなり得るとしても,これ自体によって 定するものとされているか否 かによって決せられるのであり,行政庁の認識ないし相手方に対する不服申立てに関する教示の有無は,それを判断するための一つの資料とはなり得るとしても,これ自体によって処分性の有無が決せられるわけではないから,原告の主張を採用することはできない。 以上によれば,本件訴えのうち本件通知の取消しを求める部分は不適法であり,却下を免れない。 争点(2)ア(原告が,原告固有慰謝料を「資力」(法63条)として取得した時期)について(1)前記前提事実によれば,原告と内縁関係にあったAは,平成▲年▲月▲日に交通事故(本件事故)により死亡し,原告は,平成17年8月9日,本件事故に関し,C株式会社から,原告固有慰謝料として,自動車賠償責任保険金158万3333円の支払を受けたのであるが,弁論の全趣旨によれば,処分庁は,本件事故日である平成▲年▲月▲日に原告が上記原告固有慰謝料を法63条にいう「資力」として取得したものとして,本件処分を行ったものと認められる。 (2)法は,4条1項において,保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる旨規定して,いわゆる保護の補足性の原則を定め,保護の本来的な受給資格について明らかにするとともに,8条1項において,保護の程度についても,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行う旨規定し,さらに,60条において,被保護者は,常に,能力に応じて勤労に励み,支出の節約を図り,その他生活の維持,向上に努めなければならない旨規定している。これらの規定は,法の定める生活保護制度が,資本主義社会における基本 おいて,被保護者は,常に,能力に応じて勤労に励み,支出の節約を図り,その他生活の維持,向上に努めなければならない旨規定している。これらの規定は,法の定める生活保護制度が,資本主義社会における基本原則の一つとしての自己責任の原則を前提とした上で,憲法25条の理念に基づき,生活に困窮 するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障することによって,その自立を図る補足的な制度であることを明らかにしたものということができる。他方,法4条3項は,同条1項の規定は,急迫した事由がある場合に,必要な保護を行うことを妨げるものではない旨規定しているが,これは,保護の補足性の原則を形式的に貫き,生活に困窮する者が,法4条1項にいう利用し得る資産等を有する場合においても,これを直ちに現実に活用することが困難であって当該資産等をおいては他に利用し得る資産を有しない等の理由により,当該生活困窮者が,その生存を危うくしている等,社会通念上これを放置し難い程度に状況が切迫している場合にまで保護を行わないこととすると,国民の最低限度の生活を保障しようとする法の趣旨目的に著しく反することになるため,このような場合には,上記補足性の原則に照らせば本来的な保護の受給資格を有するということはできないものの,例外的に,保護を受けることができることとしたものと解される。以上のような法4条の趣旨及び文言に照らせば,法4条1項にいう「利用し得る資産」とは,現金等,直ちに現実に活用することが可能な資産はもとより,その性質上直ちに処分することが事実上困難であったり,その存否及び範囲が争われる等の理由により,直ちに現実に活用することが困難である資産も含まれるというべきである。これを交通事故に関する損害賠償請求権に即してみると,交通事故 が事実上困難であったり,その存否及び範囲が争われる等の理由により,直ちに現実に活用することが困難である資産も含まれるというべきである。これを交通事故に関する損害賠償請求権に即してみると,交通事故の被害者(当該被害者が死亡した場合における民法711条が定める者も含む。)は,交通事故時において直ちに加害者に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を取得するのであるから,たとい,加害者等の賠償義務者との間で,当該損害賠償請求権の存否及び範囲等について争いがあり,事実上これを直ちに行使し活用することが困難な状況にあるとしても,上記損害賠償請求権は,賠償義務者がその支払能力を欠くなど当該損害賠償請求権が客観的に無価値であるような場合を除き,交通事故時以降,法4条1項にいう「利用し得る資産」に該当するもの というべきである(昭和46年最判参照)。 そして,上記のとおり,法4条3項は,同条1項にいう「利用し得る資産」を有する場合においても,急迫した事由がある場合には保護を受け得ることを規定しているのであるが,先述のとおり,このような場合における保護は,同条1項が規定する補足性の原則に照らすと例外的な措置であって,この場合の保護受給者は,本来的な保護受給資格を有するわけではない。そして,法63条は,被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない旨規定しているのであるが,これは,前記のような法の定める生活保護制度の性格及び法4条3項に基づく保護の性質を踏まえ,同条に基づき保護を受けた場合等において,当該保護受給者においてその資力を現実に活用することができる状態 が,これは,前記のような法の定める生活保護制度の性格及び法4条3項に基づく保護の性質を踏まえ,同条に基づき保護を受けた場合等において,当該保護受給者においてその資力を現実に活用することができる状態になったときには,当該保護受給者に対し,その受けた保護につき費用返還義務を課すこととしたものと解される。以上のような法63条の趣旨及び同条と法4条との関係にかんがみると,法63条にいう「資力」とは,法4条1項にいう「利用し得る資産」と基本的には同義であって,法63条の「資力があるにもかかわらず,保護を受けたとき」に該当するためには,保護を受けた時点(保護の受給時)において「利用し得る資産」を有していることを要するものと解するのが相当であり,現実に直ちに活用することができるか否かはこの「資力」該当性を左右しないものというべきである。 以上を前提として本件について検討するに,前記のとおり,原告の内縁の夫であったAが,平成▲年▲月▲日に本件事故により死亡しているため,原告は,同日,同事故の加害者に対して民法711条に基づく損害賠償請求権を取得したと認められる上,同損害賠償請求権は自動車損害賠償責任保険によりてん補されるものとされていたのであるから,同日,少なくとも当該保 険金額の限度で同損害賠償請求権を法63条にいう「資力」として取得したというべきである。そして,原告は,平成17年8月9日,C株式会社から自動車損害賠償責任保険金として原告固有慰謝料158万3333円の支払を受けたことにより,同日,原告固有慰謝料を資力として現実に活用することができる状態になったということができる。したがって,処分庁において原告が平成▲年▲月▲日の本件事故日に原告固有慰謝料を法63条にいう「資力」として取得したとの判断をしたことは正当である。 (3)これに対し 態になったということができる。したがって,処分庁において原告が平成▲年▲月▲日の本件事故日に原告固有慰謝料を法63条にいう「資力」として取得したとの判断をしたことは正当である。 (3)これに対し,原告は,法は,困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,最低限度の生活を保障する旨規定し,単なる理念的な資産の有無ではなく,現実の資産の有無と困窮状態に応じた現実主義的観点からの保護を定めているのであって,法4条1項にいう「利用し得る資産」ないし法63条にいう「資力がある」とは,いずれも,理念的な存在ではなく,現実の「利用し得る資産」及び現に「資力」を有する状態をいうものと解すべきである旨主張する。 しかしながら,法4条1項にいう「利用し得る資産」ないし法63条にいう「資力」について,現実に直ちに活用することができることを要しないものとしても,現実にこれを直ちに活用することができないがために生活に困窮している等,急迫の事由がある場合には,前記のとおり,法4条3項に基づき保護を受けることも可能なのであって,ただ,このような場合には,後に当該資産が現実に活用することができるようになったときに法63条に基づく返還義務を課され得るにすぎないのであるから,法4条1項にいう「利用し得る資産」ないし法63条にいう「資力」につき,前記のような解釈をとっても法の趣旨目的に反するものではない。むしろ,原告の主張するように,現実に支払を受けるなどして実際に活用することができるものでない限り,法63条にいう「資力」に該当しないとすることは,前記のような生活保護制度の補足的性格と相いれないというべきである。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 また,原告は,法63条にいう「資力」がある場合とは,保護適用時において,現実に不動産を所有するが直ちに生活資 相いれないというべきである。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 また,原告は,法63条にいう「資力」がある場合とは,保護適用時において,現実に不動産を所有するが直ちに生活資金に換金し難く,現金に困窮しているような場合を意味するのであって,理念的に「資産」性のある権利を有するはずであっても,保護適用時においてその「資産」性のある権利の存否及びその行使の可否が不明で現実に困窮している場合には,後に権利の存在が確定しその行使が可能となったとしても,その保護適用時において「資力」があったということはできないとも主張する。しかしながら,前記説示した急迫の場合等における保護の仕組みにかんがみると,法4条1項にいう「利用し得る資産」ないし法63条にいう「資力」に該当するか否かについて,当該資産を現実に活用することができない理由が当該資産の内容,性質にある場合と,当該資産の存否及び範囲等についての争いがある場合とで異なって解すべき理由はないから,原告の上記主張は採用することができない。 争点(2)イ(Bが,B保険金を「資力」(法63条)として取得した時期)について(1)前記前提事実によれば,Aは,平成▲年▲月▲日に本件事故により死亡したのであるが,Bは,その後の同年▲月▲日に出生し,平成17年6月21日の経過により,BがAの子であることを認知する旨の本件認知判決が確定し,同年8月9日に至って,Bの法定代理人である原告が,本件事故につきB保険金1797万3334円の支払を受けたものと認められるところ,前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば,処分庁は,原告世帯が,平成▲年▲月▲日の本件事故時にB保険金を法63条にいう「資力」として取得したことを前提として,本件処分を行ったものと認められる。また,前記前提事実によると,B保 旨によれば,処分庁は,原告世帯が,平成▲年▲月▲日の本件事故時にB保険金を法63条にいう「資力」として取得したことを前提として,本件処分を行ったものと認められる。また,前記前提事実によると,B保険金は,B相続分とB固有慰謝料から構成されるものと認められ,その割合は,正確には不明であるが,弁論の全趣旨によると,概ね2対1であると認められる。 (2)ところで,法1条は,法は,国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障すること等を目的とする旨規定し,法2条は,すべて国民は,法の定める要件を満たす限り,法による保護を受けることができる旨規定し,法4条1項は,保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる旨規定し,法8条は,法2条及び4条1項等を前提として(法5条参照),保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとし,その基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これをこえないものでなければならないとして,具体的な保護の基準及び程度について規定している。これらの規定に照らせば,法は,保護の要否及び程度については,当該保護を行う時点において,客観的に定まり得ることを前提としているものと解される。これに加えて,前記2(2)において説示したとおり,法4条1項は,保護の本来的な受給資格を明らかにした規定であることを併せ考えると,同項にいう「利用し得る資産」とは,前記2にお いるものと解される。これに加えて,前記2(2)において説示したとおり,法4条1項は,保護の本来的な受給資格を明らかにした規定であることを併せ考えると,同項にいう「利用し得る資産」とは,前記2において説示したとおり現実に直ちに活用し得るものである必要はないけれども,当該保護を受ける時点においてその内容が客観的に確定し得るものであることが必要であり,換言すれば,当該保護を受ける時点において,客観的に存在し,かつ,当該保護受給者に帰属していることを要するものというべきである。そして,前記のとおり,法63条にいう「資力」とは,法4条1項にいう「利用し得る資産」と基本的には同義であると解されるから,ここにいう「資力」も,返還されるべき保護費に係る保護を受給した時点において,客観的に存在し,当該保護受給者に帰属していることを要するものというべきである。この点,厚生省社会 ・援護局保護課監修に係る「生活保護手帳(別冊問答集)」(乙7)においても,障害基礎年金が遡及して支給されることとなった場合については,年金が遡及して支給開始される日に法63条の返還請求の対象となる資力が発生したものとして取り扱うのが妥当だとしているが,その理由として,年金受給権は,裁定請求の有無にかかわらず,年金支給事由が生じた日に当然に発生する具体的権利であること指摘しているところであり,法63条にいう「資力」についての上記解釈と整合するものともいえる。 (3)以上を前提に,BがB保険金を法63条にいう「資力」として取得した時期につき検討する。 ア本件事故時まず,B保険金が,本件事故時において法63条にいう「資力」に該当するか検討するに,前記(1)のとおり,本件においては,平成▲年▲月▲日の本件事故時には,Bはいまだ出生しておらず,胎児にすぎなかったのであって,私 ,本件事故時において法63条にいう「資力」に該当するか検討するに,前記(1)のとおり,本件においては,平成▲年▲月▲日の本件事故時には,Bはいまだ出生しておらず,胎児にすぎなかったのであって,私権の享有主体たり得なかったのであるから,B保険金(に係る請求権)が客観的に存在していたとも,これがBに帰属していたものとも認められず,Bが本件事故時にB保険金を「資力」として取得したということはできない。 この点,被告は,民法721条,886条1項が,胎児は,損害賠償の請求権及び相続については,既に生まれたものとみなす旨規定していることから,Bは,本件事故時に「資力」を取得したということができると主張する。しかしながら,これらの民法の規定は,いずれも,胎児と子との均衡の観点から,損害賠償の請求権及び相続についてのみ,胎児についても生まれたものとみなす旨規定しているのであって,このような趣旨からすると,民法の上記各規定は,胎児の間に,上記各事項について権利能力を取得することまでをも定めたものではなく,胎児が生きて生まれたときにその子に損害賠償請求権又は相続人としての地位を取得させるための立 法技術として,不法行為時又は相続開始時にさかのぼって権利能力を有していたと擬制するものにすぎないというべきである(大審院昭和6年(オ)第2771号同7年10月6日判決・民集11巻20号2023頁参照)。 そうであるとすれば,胎児である間に当該胎児に具体的な損害賠償請求権又は相続財産が帰属し存在していたということはできないから,民法の上記各規定を根拠に当該胎児が胎児である間に当該損害賠償請求権又は相続財産を法4条1項にいう「利用し得る資産」ないし法63条にいう「資力」として取得したということはできない。 また,被告は,Bは胎児であった間も母親である原告に対 児である間に当該損害賠償請求権又は相続財産を法4条1項にいう「利用し得る資産」ないし法63条にいう「資力」として取得したということはできない。 また,被告は,Bは胎児であった間も母親である原告に対する保護を通じて保護を受けている旨主張するが,母親に対する保護の効果が胎児に及ぶ関係が事実上認められるとしても,そのことから直ちに法63条にいう「資力」について民法721条又は886条1項の上記趣旨を超えた意義を読み込むのは困難というべきである。 以上のとおり,BがB保険金を本件事故時に法63条にいう「資力」として取得したということはできないから,この点において,本件処分はその要件の認定を誤るものというほかない。 イB出生時前記前提事実によると,Bは,平成▲年▲月▲日に出生したが,Aと原告との間には婚姻関係はなかったため,Bは,認知の訴えを提起し,平成17年6月21日の経過により,本件認知判決が確定したものと認められる。そこで,本件認知判決が確定する前である,B出生時に,BがB保険金を法63条にいう「資力」として取得したということができるのか検討する。なお,前記(1)のとおり,B保険金には,B相続分とB固有慰謝料という性質の異なるものが含まれているから,以下ではこれらにつき格別に検討することとする。 (ア)B相続分について 上記のとおり,Bは,その出生時には,Aとの間に法的父子関係は存在せず,本件認知判決確定までの間,BはAの相続人としての地位を有していなかったのであるから,出生後本件認知判決確定までの間においては,Aが本件事故に関し加害者に対して取得した損害賠償請求権について,何ら権利関係を有しなかったのであり,この時点においてはBにB相続分が帰属していたということはできず,B相続分を法4条1項にいう「利用し得る資産」ないし法 者に対して取得した損害賠償請求権について,何ら権利関係を有しなかったのであり,この時点においてはBにB相続分が帰属していたということはできず,B相続分を法4条1項にいう「利用し得る資産」ないし法63条にいう「資力」として取得したということはできない。 これに対し,被告は,民法784条が,認知は,出生の時にさかのぼってその効力を生じる旨規定していることから,B出生時にはB相続分を法63条にいう「資力」として取得していたと主張する。確かに,民法は,認知の効力を出生の時にさかのぼらせることによって,認知に伴う身分関係及び財産関係が出生の時から存在したものとしているのであって,法的には,Bは,その出生の時からB相続分を取得していたことになるというべきである。しかしながら,法は,4条1項において保護の本来的な受給資格を定めた上,同条3項において,同条1項にいう利用し得る資産を有するため保護の本来的な受給資格に欠ける者についても,急迫した事由がある場合には保護を受けることができるものとするとともに,63条において,そのような保護を受けたときは,当該受給者に対してその受けた保護金品に相当する金額の範囲内において費用返還義務を課すこととしたものであって,このような法63条の趣旨及び同条と4条との関係から,法63条の「資力があるにもかかわらず,保護を受けたとき」に該当するためには,保護を受けた時点(保護の受給時)において「利用し得る資産」を有していることを要するものと解されること,法は,保護の要否及び程度が当該保護を行う時点において客観的に定まり得ることを前提に,保護の要件及び効果等について規定し ていることからして,「利用し得る資産」は,当該保護を受ける時点においてその内容が客観的に定まり得るもの,すなわち,客観的に存在し,かつ,当該保護 を前提に,保護の要件及び効果等について規定し ていることからして,「利用し得る資産」は,当該保護を受ける時点においてその内容が客観的に定まり得るもの,すなわち,客観的に存在し,かつ,当該保護受給者に帰属していることを要すると解されることは,前記のとおりである。しかるところ,嫡出でない子は,認知されるまでは,法的父子関係及びこれに基づく財産関係を何ら有していないのであり,当該子が保護の単位となる世帯に属している場合であっても,当該世帯に対する保護が実施された時点においていまだ認知がされていない以上,認知の法的効果により形成される身分関係(法的父子関係)に基づく財産関係は当該時点においては何ら帰属していないというほかなく,後に当該子に対する認知がされた結果当該子が当該保護の実施時にさかのぼって当該認知により形成された法的父子関係に基づく財産を有していたことになるとしても,当該保護を受けた時点において「利用し得る資産」を有していたということはできず,したがって,法63条の「資力があるにもかかわらず,保護を受けたとき」に該当するということはできない。また,民法は,嫡出でない子については,血縁上の父子関係を有するのみでは法的父子関係を認めず,認知を待って初めて法的父子関係が形成されるものとして,法的父子関係の形成を認知という身分行為にゆだねているところからすれば,嫡出でない子は,血縁上の父子関係を有するのみでは,何ら相続に関する法的地位を有しないというほかなく,これを停止条件が付された債権等と同視することは到底できないというべきである。さらに,認知の訴えを提起するか否かは,当該子の基本的な身分関係にかかわる事柄であって,民法787条本文に掲げられた者の自由な意思にゆだねられるべき性質のものであるから,認知の訴えを提起し得る地位自体が ,認知の訴えを提起するか否かは,当該子の基本的な身分関係にかかわる事柄であって,民法787条本文に掲げられた者の自由な意思にゆだねられるべき性質のものであるから,認知の訴えを提起し得る地位自体が,法4条1項にいう「利用し得る資産」ないし法63条にいう「資力」に該当しないことは明らかである。以上によれば,この点に関する被告の前記主張は採用することができない。 (イ)B固有慰謝料についてBが,B固有慰謝料の支払を受けた時点においては本件認知判決が確定し,その出生の時にさかのぼってAとの間の法的父子関係が形成されていたのであるから,Bは,民法711条に基づく慰謝料としてB固有慰謝料の支払を受けたものと考えられる。もっとも,前記のとおり,B出生時においては,AとBとの間には法的父子関係は存しなかったのであるから,このような場合であっても,出生時において,民法721条,711条ないしその類推適用に基づく慰謝料請求権が存在し,Bに帰属していたといえるのであれば,BはB固有慰謝料をその出生時に法4条1項にいう「利用し得る資産」として取得していたと解する余地がある。 確かに,加害者の不法行為によって被害者が死亡した場合,民法711条に列挙された者に該当しなくても,当該被害者との間に同条所定の者と実質的に同視することができる身分関係が存在し,当該被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は,同条の類推適用により,当該加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求することができる(最高裁昭和49年(オ)第212号同年12月17日第三小法廷判決・民集28巻10号2040頁参照)。しかしながら,本件事故(不法行為)の被害者であるAとBとの間に血縁上の父子関係が存在するとしても,前記のとおり,Bは本件事故時(不法行為時)にはいまだ胎児の状態にあって出生し 号2040頁参照)。しかしながら,本件事故(不法行為)の被害者であるAとBとの間に血縁上の父子関係が存在するとしても,前記のとおり,Bは本件事故時(不法行為時)にはいまだ胎児の状態にあって出生しておらず,A(被害者)の死亡により甚大な精神的苦痛を受けるような生活実態がなかったのであるから,民法711条を類推適用するに足りるだけの事実上の基礎を欠くというべきである。もっとも,不法行為の被害者と法的父子関係のある子については,不法行為時に胎児の状態にあったとしても,民法721条の規定によりその出生時に民法711条に基づく固有の慰謝料請求権を取得することになるが,前記のとおり,民法は,嫡出でない子については認知によって初めて法的父子関係 が生じるものとする一方,法的父子関係と血縁上の父子関係とを截然と区別し,後者の関係については格別の配慮を払っていないのであって,このような民法における法的父子関係と血縁上の父子関係との扱いの差異等にかんがみると,少なくとも,本件のように,未認知の子が胎児の間に,その父が不法行為により死亡し,親子としての生活実態を観念することができないような場合には,認知によって法的父子関係が形成されるまでの間については,民法711条所定の者と実質的に同視することができる身分関係を有するということはできず,同条を類推適用することはできないというべきである。したがって,本件においては,平成17年6月21日の経過により本件認知判決が確定したことによって,Bは,本件事故の加害者に対する固有の慰謝料請求権を取得し,これを行使することができるようになったものというべきである。 以上によれば,平成▲年▲月▲日のB出生の時点においては,Bは,本件事故の加害者に対して何ら固有の慰謝料請求権を有しなかったものと認められるから,上記時 とができるようになったものというべきである。 以上によれば,平成▲年▲月▲日のB出生の時点においては,Bは,本件事故の加害者に対して何ら固有の慰謝料請求権を有しなかったものと認められるから,上記時点において,B固有慰謝料を法4条1項にいう「利用し得る資産」ないし法63条にいう「資力」として取得したということはできない。 ウ本件認知判決確定時上記ア,イにおいて説示したところに照らせば,Bは,平成17年6月21日の経過により本件認知判決が確定したことによって,本件事故の加害者に対するB相続分及びB固有慰謝料に係る請求権を取得したものと認められる。そして,法63条にいう「資力」には,その存否及び範囲につき争いがあるなどして現実に直ちに活用することが困難なものも含まれることは,前記2(2)において説示したところである。以上によれば,Bは,平成17年6月21日の経過時に,B保険金を法63条にいう「資力」として取得したものと認められる。 小括以上のとおり,原告は,平成▲年▲月▲日に原告固有慰謝料を法63条にいう「資力」として取得し,Bは,平成17年6月22日にB保険金を法63条にいう「資力」として取得したものと認められる。 ところで,本件保険金には,本件文書料650円が含まれるのであるが,甲第6号証の記載に照らせば,この本件文書料は,原告及びBが,自動車損害賠償保障法に基づき保険会社に対して保険金請求する際に必要となる戸籍謄本等の文書(同法施行令3条2項2号参照)の取得に要した費用に係る賠償金であると解される(同法16条の3第1項,自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第5,第2の1(2)参照)。そうすると,本件文書料は,原告固有慰謝料及びB保険金を 害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第5,第2の1(2)参照)。そうすると,本件文書料は,原告固有慰謝料及びB保険金を取得するための必要経費のてん補としての性質を有するということができるのであって,法4条1項にいう「利用し得る資産」ないし法63条にいう「資力」からは控除するのが相当であり,原告ないしBが本件文書料を法63条にいう「資力」として取得したということはできないというべきである。 以上によれば,原告は,本件事故時である平成▲年▲月▲日に,158万3333円を法63条にいう「資力」として取得し,Bは,本件認知判決確定時である平成17年6月22日に,1797万3334円を法63条にいう「資力」として取得したものと認められる。 争点(2)ウ(Bが,B保険金を法63条にいう「資力」として取得したことを理由として,原告に対し法63条に基づく返還請求をすることができるか)について(1)法は,10条本文において,保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする旨規定することにより,いわゆる世帯単位の原則を明らかにし,世帯員の需要及び収入を一括し,世帯としての最低生活費及び収入 の認定を行い,それに基づき保護の要否及び程度を定めるものとしている。 そうであるとすれば,法は,4条1項において規定する補足性の原則についても,世帯単位で適用するものとしていると解されるのであって,同項にいう「利用し得る資産」についても,世帯単位でその存否を判断すべきであり,当該世帯構成員のうちだれが当該資産を有しているかという点は保護の要否及び程度を判断するに際して原則として考慮されないというべきである。以上に加えて,前述した法4条と法63条との関係等にもかんがみると, 世帯構成員のうちだれが当該資産を有しているかという点は保護の要否及び程度を判断するに際して原則として考慮されないというべきである。以上に加えて,前述した法4条と法63条との関係等にもかんがみると,法63条にいう「資力」についても,世帯単位でその存否を判断すべきであって,原則として当該資力の取得者ないし処分権限の有無を問わないものというべきである。 なお,法10条は,そのただし書で,世帯単位の原則によりがたいときは,保護の要否及び程度は個人単位で定めることができるとしているのであるが,これは,世帯単位での取扱いをすることが,法の趣旨目的に反することになるような場合に,例外的に個人を単位とし得ることを規定したにすぎないところ,本件においてはそのような事情は何らうかがわれないのであって,世帯単位の原則の適用を否定すべき理由はない。 (2)これに対し,原告は,原告がB保険金を原資として保護費を返還することは,利益相反行為に該当して許されず,これをするためには特別代理人の選任を要するのであって,特別代理人が選任されるまでは原告にはB保険金の処分権限はなく,無資力というほかないから,原告に対して返還請求することは許されない旨主張する。 しかしながら,法63条にいう「資力」の有無は世帯を単位として判断すべきであること及び当該資力は現実に直ちに活用することができるものであることを要しないことは前記のとおりであるし,保護費の返還額の決定は,行政庁の保護受給者に対する一方的な行政処分であることからすると,この返還額の決定自体については,保護を受けた世帯内における親子の利益相反 の問題が生じる余地はなく,仮に,利益相反の問題が生じ得るとしても,それは,当該行政処分によって課された返還義務の履行の段階においてにすぎない。すなわち,法は,生活保護制度の る親子の利益相反 の問題が生じる余地はなく,仮に,利益相反の問題が生じ得るとしても,それは,当該行政処分によって課された返還義務の履行の段階においてにすぎない。すなわち,法は,生活保護制度の設計に当たり,家計を一つにする消費生活上の単位を世帯としてとらえ,当該世帯員の需要及び収入を一括して世帯としての最低生活費及び収入の認定を行い,それに基づいて保護の要否及び程度を定めるという立法政策を採用しているのであって,同居生活を営む親と未成年の子は世帯の中核的構成員として法が当然に予定するところというべきである。そして,前記のとおり,法63条の趣旨及び同条と法4条との関係からすれば,法は63条の適用場面においても世帯単位の原則が適用されることを当然の前提としていると解されるのであって,同条にいう「資力」の有無の認定に当たり,当該世帯の構成員に未成年の子とその子に対する親権等を行う者が含まれている場合について別異に解すべき法上の根拠は何ら見いだせず,法63条の規定に基づく費用返還義務の履行における世帯構成員間の利害の調整等は民法その他の私法規定にゆだねているものと解すべきである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。 本件処分の一部取消しの可否以上説示したところによると,本件において,原告世帯は,平成▲年▲月▲日に158万3333円を法4条1項にいう「利用し得る資産」として取得し,平成17年6月22日に1797万3334円を法4条1項にいう「利用し得る資産」として取得し,それぞれの時点において当該資産を法63条にいう「資力」として有していたものと認められ,他に原告世帯の構成員が原告世帯の需要を充足する「利用し得る資産」ないし「資力」を有していたことは本件記録上うかがわれない。そうすると,平成17年6月21日までに原告世 して有していたものと認められ,他に原告世帯の構成員が原告世帯の需要を充足する「利用し得る資産」ないし「資力」を有していたことは本件記録上うかがわれない。そうすると,平成17年6月21日までに原告世帯が受給した保護に係る保護費については,158万3333円が法63条に基づく返還額の上限となることになる。しかるに,前記前提事実(2)キ,(3)によれば,本件においては,平成▲年▲月15日の保護開始時以降原告世帯が受給し た保護費のうち,既に原告が返納したものを除く全額が法63条に基づく返還対象とされているところ,保護開始時から平成17年5月分までの原告世帯の保護受給額ですら,上記返納額を除き477万5634円にも及び,上記上限額を大幅に上回っているのであり,本件処分は,その要件の認定を誤ったものとして,違法であるといわざるを得ない。 そこで,本件処分のうち,法63条の「資力」の認定に基づいて定め得る返還額の上限を超える部分のみを取り消すことができるか検討するに,前記1において説示したとおり,法63条は,資力があるにもかかわらず保護を受けた受給者について,その受けた保護金品に相当する額全額を直ちに返還すべきものとはせずに,その返還額の決定については,被保護者の生活状況等に通暁する保護の実施機関において,法の趣旨目的を踏まえて,その裁量により定めるべきものとしているのである。そうであるとすれば,本件処分において定められた返還額が,法63条に基づき決定し得る返還額の上限を著しく上回っている本件においては,処分庁において,原告世帯が本件保険金を法63条にいう「資力」として取得した時期に関して上記説示したところを踏まえ,再度その裁量により法63条に基づく返還金の額の決定すべきものであって,本件処分の一部のみを取り消すことは許されないというべきで にいう「資力」として取得した時期に関して上記説示したところを踏まえ,再度その裁量により法63条に基づく返還金の額の決定すべきものであって,本件処分の一部のみを取り消すことは許されないというべきである。 したがって,本件処分は,その全部につき取消しを免れない。 結論 以上によれば,本件訴えのうち,本件通知の取消しを求める部分は,不適法であるから却下すべきであり,その余の部分に係る原告の請求(本件処分の取消請求)は,全部理由があるから,認容すべきである。 よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官西川知一郎裁判官徳地淳裁判官釜村健太

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