平成24(ワ)16103 特許権に基づく差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年8月29日 東京地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-83529.txt

キーワード

判決文本文31,398 文字)

平成25年8月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官上原啓司平成24年(ワ)第16103号特許権に基づく差止等請求事件(口頭弁論の終結の日平成25年7月9日)判決 東京都中央区〈以下略〉原告株式会社テクニカルメディアサービス 千葉県柏市〈以下略〉原告A原告ら訴訟代理人弁護士加藤伸樹同訴訟代理人弁理士小林義孝 東京都文京区〈以下略〉被告三菱UFJニコス株式会社同訴訟代理人弁護士吉澤敬夫同訴訟代理人弁理士岡崎信太郎同新井全同補佐人弁理士野口和孝 主文 原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙イ号物件目録記載のサービス(以下「被告サービス」という。)を提供してはならない。 2 被告 第1 請求 1 被告は,別紙イ号物件目録記載のサービス(以下「被告サービス」とい う。)を提供してはならない。 2 被告は,原告株式会社テクニカルメディアサービス(以下「原告会社」という。)に対し,787万5000円及びこれに対する平成24年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 - 2 - 3 被告は,原告Aに対し,1575万円及びこれに対する平成24年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,発明の名称を「情報データ出力システム」とする2件の特許権を有する原告らが,被告の提供する被告サービスが上記各特許権を侵害している旨主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく差止請求として被告サービスの提供の禁止を求めるとともに,民法709条又は特許法102条3項に基づく損害賠償及びこれらに対する不法行為の後である平成24年6月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)(1) 当事者ア原告会社は,計算機用入力データ作成及びプログラミング作成業等を目的とする株式会社であり,原告Aは,肩書住所地に居住する者である。 イ被告は,クレジットカード業等を目的とする株式会社である。 (2) 原告らの特許権ア原告ら及び株式会社ジャワネット(以下「ジャワネット」という。)は,次の特許権(以下「本件特許権1」といい,その特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書1」という。)を有している。(甲1,2)特許番号特許第46 ジャワネット」という。)は,次の特許権(以下「本件特許権1」といい,その特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書1」という。)を有している。(甲1,2)特許番号特許第4606626号発明の名称情報データ出力システム出願日平成13年3月21日出願番号特願2001-80877登録日平成22年10月15日- 3 -イ本件特許権1に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,当該発明を「本件発明1」といい,本件発明1に係る特許を「本件特許1」という。)。 「 販売する商品の個別情報データと提供する役務の個別情報データとの少なくとも一方を記憶可能,かつ,記憶した前記個別情報データをインターネットにおけるネットワーク上に送信可能な少なくとも1つのサーバ装置を備え,前記インターネットを介して前記サーバ装置にアクセス可能な多数の端末装置が,印字手段を介して前記サーバ装置から受信した前記個別情報データを出力する情報データ出力システムにおいて,前記端末装置各々には,HTTP(HyperTextTransferProtocol)の記述言語に対するそれら端末装置の互換性の相違(HTTPに対する前記端末装置の機種や該端末装置のオペレーティングシステム,前記端末装置にインストールされているアプリケーションソフトウェア,前記端末装置で使用するフォント環境の相違)にかかわらず,それら端末装置が前記情報データを統一された一定の規則性に基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力することを可能にする共用アプリケーションソフトウェアがインストールされ,前記共用アプリケーションソフトウェアが,前記情報データを印字する印刷用紙における該情報データの文 最適なレイアウトで出力することを可能にする共用アプリケーションソフトウェアがインストールされ,前記共用アプリケーションソフトウェアが,前記情報データを印字する印刷用紙における該情報データの文字数および行数,前記印刷用紙に印字する前記情報データの個数,前記印刷用紙に印字する前記情報データの文字サイズおよび文字フォントを統一された一定の規則性に基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能を有し,前記サーバ装置が,前記共用アプリケーションソフトウェアを前記インターネットにおけるネットワーク上に送信する共用アプリケーションソフトウェア送信手段と,前記情報データを前記共用アプリケーション- 4 -ソフトウェアが電子的に処理可能な中間データに変換するデータ変換手段と,前記中間データを前記インターネットを介して前記端末装置に送信するデータ送信手段とを有し,それら端末装置が,前記インターネットを介して前記共用アプリケーションソフトウェアを受信かつインストール可能であり,前記サーバ装置から前記中間データを受信すると,前記共用アプリケーションソフトウェアを利用して前記中間データに変換された前記情報データを前記印字手段を介して出力することを特徴とする情報データ出力システム。」ウ本件発明1の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下「構成要件A」などという。)。 A 販売する商品の個別情報データと提供する役務の個別情報データとの少なくとも一方を記憶可能,かつ,記憶した前記個別情報データをインターネットにおけるネットワーク上に送信可能な少なくとも1つのサーバ装置を備え,B 前記インターネットを介して前記サーバ装置にアクセス可能な多数の端末装置が,印字手段を介して前記サーバ装置から受信した前記個別情報デー ワーク上に送信可能な少なくとも1つのサーバ装置を備え,B 前記インターネットを介して前記サーバ装置にアクセス可能な多数の端末装置が,印字手段を介して前記サーバ装置から受信した前記個別情報データを出力する情報データ出力システムにおいて,C 前記端末装置各々には,HTTP(HyperTextTransferProtocol)の記述言語に対するそれら端末装置の互換性の相違(HTTPに対する前記端末装置の機種や該端末装置のオペレーティングシステム,前記端末装置にインストールされているアプリケーションソフトウェア,前記端末装置で使用するフォント環境の相違)にかかわらず,それら端末装置が前記情報データを統一された一定の規則性に基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力することを可能にする共用アプリケーションソフトウェアがインストールされ,D 前記共用アプリケーションソフトウェアが,前記情報データを印字- 5 -する印刷用紙における該情報データの文字数および行数,前記印刷用紙に印字する前記情報データの個数,前記印刷用紙に印字する前記情報データの文字サイズおよび文字フォントを統一された一定の規則性に基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能を有し,E 前記サーバ装置が,前記共用アプリケーションソフトウェアを前記インターネットにおけるネットワーク上に送信する共用アプリケーションソフトウェア送信手段と,前記情報データを前記共用アプリケーションソフトウェアが電子的に処理可能な中間データに変換するデータ変換手段と,前記中間データを前記インターネットを介して前記端末装置に送信するデータ送信手段とを有し,F それら端末装置が,前記インターネットを介して前記共用アプリケーションソフトウェアを受信かつインストール 記中間データを前記インターネットを介して前記端末装置に送信するデータ送信手段とを有し,F それら端末装置が,前記インターネットを介して前記共用アプリケーションソフトウェアを受信かつインストール可能であり,前記サーバ装置から前記中間データを受信すると,前記共用アプリケーションソフトウェアを利用して前記中間データに変換された前記情報データを前記印字手段を介して出力するG ことを特徴とする情報データ出力システム。 エ原告ら及びジャワネットは,次の特許権(以下「本件特許権2」といい,本件特許1と併せて「本件各特許権」という。)を有している(以下,本件特許権2の特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書2」といい,本件明細書1と併せて「本件各明細書」という。)。(甲3,4)特許番号特許第4758546号発明の名称情報データ出力システム出願日平成12年11月22日出願番号特願2000-356493- 6 -登録日平成23年6月10日オ本件特許権2に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,当該発明を「本件発明2」といい,本件発明1と併せて「本件各発明」という。また,本件発明2に係る特許を「本件特許2」といい,本件特許1と併せて「本件各特許」という。なお,下線部は,本件特許権1に係る特許請求の範囲の請求項1の記載との相違点であり,下線部以外の部分は同記載と同一である。)。 「 多数の情報データを記憶可能,かつ,記憶した前記情報データをインターネットにおけるネットワーク上に送信可能なサーバ装置を備え,前記インターネットを介して前記サーバ装置にアクセス可能な多数の端末装置が,印字手段を介して前記サーバ装置から受信した前記情報デー インターネットにおけるネットワーク上に送信可能なサーバ装置を備え,前記インターネットを介して前記サーバ装置にアクセス可能な多数の端末装置が,印字手段を介して前記サーバ装置から受信した前記情報データを出力する情報データ出力システムにおいて,前記端末装置各々には,HTTP(HyperTextTransferProtocol)の記述言語に対するそれら端末装置の互換性の相違(HTTPに対する前記端末装置の機種や該端末装置のオペレーティングシステム,前記端末装置にインストールされているアプリケーションソフトウェア,前記端末装置で使用するフォント環境の相違)にかかわらず,それら端末装置が前記情報データを統一された一定の規則性に基づいて規則正しいレイアウトで出力することを可能にする共用アプリケーションソフトウェアがインストールされ,前記共用アプリケーションソフトウェアが,前記情報データを印字する印刷用紙における該情報データの文字数および行数,前記印刷用紙に印字する前記情報データの個数,前記印刷用紙に印字する前記情報データの文字サイズおよび文字フォントを統一された一定の規則性に基づいて規則正しいレイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能を有し,前記サーバ装置が,前記共用アプリケーションソフトウェアを前記イ- 7 -ンターネットにおけるネットワーク上に送信する共用アプリケーションソフトウェア送信手段と,前記情報データを前記共用アプリケーションソフトウェアが電子的に処理可能な中間データに変換するデータ変換手段と,前記中間データを前記インターネットを介して前記端末装置に送信するデータ送信手段とを有し,それら端末装置が,前記インターネットを介して前記共用アプリケーションソフトウェアを受信かつインストール可能であり,前記サーバ 記インターネットを介して前記端末装置に送信するデータ送信手段とを有し,それら端末装置が,前記インターネットを介して前記共用アプリケーションソフトウェアを受信かつインストール可能であり,前記サーバ装置から前記中間データを受信すると,前記共用アプリケーションソフトウェアを利用して前記中間データに変換された前記情報データを統一された一定の規則性に基づいて規則正しいレイアウトで出力する前記印字手段を有することを特徴とする情報データ出力システム。」カ本件発明2の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下「構成要件A」などという。なお,下線部の意味は上記オと同じ。)。 A 多数の情報データを記憶可能,かつ,記憶した前記情報データをインターネットにおけるネットワーク上に送信可能なサーバ装置を備え,B 前記インターネットを介して前記サーバ装置にアクセス可能な多数の端末装置が,印字手段を介して前記サーバ装置から受信した前記情報データを出力する情報データ出力システムにおいて,C 前記端末装置各々には,HTTP(HyperTextTransferProtocol)の記述言語に対するそれら端末装置の互換性の相違(HTTPに対する前記端末装置の機種や該端末装置のオペレーティングシステム,前記端末装置にインストールされているアプリケーションソフトウェア,前記端末装置で使用するフォント環境の相違)にかかわらず,それら端末装置が前記情報データを統一された一定の規則性に基づいて規則正しいレイアウトで出力することを可能にする共用アプリケーションソフトウェアがインストールされ,- 8 -D 前記共用アプリケーションソフトウェアが,前記情報データを印字する印刷用紙における該情報データの文字数および行数,前記印刷用紙に印字する前記情報データの個数 アがインストールされ,- 8 -D 前記共用アプリケーションソフトウェアが,前記情報データを印字する印刷用紙における該情報データの文字数および行数,前記印刷用紙に印字する前記情報データの個数,前記印刷用紙に印字する前記情報データの文字サイズおよび文字フォントを統一された一定の規則性に基づいて規則正しいレイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能を有し,E 前記サーバ装置が,前記共用アプリケーションソフトウェアを前記インターネットにおけるネットワーク上に送信する共用アプリケーションソフトウェア送信手段と,前記情報データを前記共用アプリケーションソフトウェアが電子的に処理可能な中間データに変換するデータ変換手段と,前記中間データを前記インターネットを介して前記端末装置に送信するデータ送信手段とを有し,F それら端末装置が,前記インターネットを介して前記共用アプリケーションソフトウェアを受信かつインストール可能であり,前記サーバ装置から前記中間データを受信すると,前記共用アプリケーションソフトウェアを利用して前記中間データに変換された前記情報データを統一された一定の規則性に基づいて規則正しいレイアウトで出力する前記印字手段を有することG を特徴とする情報データ出力システム。 (3) 本件各特許権の出願経過ア特許庁審査官は,本件特許権1の出願に対し,平成22年4月26日付けで拒絶理由通知書(乙1の4。以下「本件拒絶理由通知書1」という。)を起案し,同年5月6日にこれを発送した。また,特許庁審査官は,本件特許権2の出願に対し,平成21年12月2日付けで拒絶理由通知書(乙2の4。以下「本件拒絶理由通知書2」といい,本件拒絶理由通知書1と併せて「本件各拒絶理由通知書」という。)を起案し,同- 9 -月15日にこれを発 ,平成21年12月2日付けで拒絶理由通知書(乙2の4。以下「本件拒絶理由通知書2」といい,本件拒絶理由通知書1と併せて「本件各拒絶理由通知書」という。)を起案し,同- 9 -月15日にこれを発送した。 本件各拒絶理由通知書は,いずれも特開2000-66984(乙5。 以下「乙5文献」といい,これに記載された発明を「乙5発明」という。)等を引用文献として,本件各発明は,乙5発明等から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとするものである。(乙1の4,乙2の4,乙5)イ原告らを含む本件各特許の出願人は,本件拒絶理由通知書1に対しては平成22年7月5日に,本件拒絶理由通知書2に対しては平成22年2月12日に,特許庁審査官宛てに意見書(それぞれ乙1の5及び乙2の5。以下,これらを併せて「本件各意見書」という。)を提出した。 本件各意見書には,乙5文献「には,本願発明の特有な構成である『情報データの文字サイズおよび文字フォントを統一された一定の規則性に基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能』の記載はおろか,その示唆すらなく,その機能を実現するための『共用アプリケーションソフトウェア』の記載はおろか,その示唆すらない」との記載がある。(乙1の5,乙2の5)(4) 被告の行為ア被告は,平成19年頃から現在に至るまで,被告発行のクレジットカードであるNICOSカードの利用者に対し,オンラインでの情報提供等を行うために,Web会員サービス「NetBranch」を提供している。被告は,同サービスの一環として,その利用者に対し,「ご利用明細ネット切替サービス」と称する被告サービスを提供している。 被告サービスは,利用者に対して,Eメール etBranch」を提供している。被告は,同サービスの一環として,その利用者に対し,「ご利用明細ネット切替サービス」と称する被告サービスを提供している。 被告サービスは,利用者に対して,Eメールで毎月の請求額の確定を通知し,上記「NetBranch」で利用明細を確認するサービスであり,平成24年11月18日までは別紙イ号物件目録記載の構成を有- 10 -しており,翌日以降の構成も,アイコンの名称やページの表示手順等に若干の相違があるものの,基本的にはこれと同一といってよいものである。(甲6~12,乙4の1・2)イ被告サービスにおいて利用者に提供される利用明細のデータは,本件発明1の構成要件Aにいう「販売する商品の個別情報データ」には該当しない。被告又は被告の親会社である株式会社三菱東京UFJフィナンシャル・グループの管理する,「cr.mufg.jp 」又は「branch.nicos.co.jp」というドメイン名により特定されるサーバ並びにデータ保存サーバ及びデータ変換サーバ(以下,被告サービスに用いられるこれらのサーバを併せて「被告サーバ」という。)は,多数の情報データを記憶することが可能で,かつ,記憶した情報データをインターネットにおけるネットワーク上に送信することが可能なサーバ装置を備えている。したがって,被告サービスは,本件発明1の構成要件Aのうち「情報データとの少なくとも一方を記憶可能,かつ,記憶した前記個別情報データをインターネットにおけるネットワーク上に送信可能な少なくとも1つのサーバ装置を備え」の部分及び本件発明2の構成要件Aを充足する。(甲15,16)ウ被告サービスの利用者が使用するパソコン等の利用者端末が本件各発明の構成要件Bの「端末装置」に該当するか否かは別として,被告サービスを利用する多数の の構成要件Aを充足する。(甲15,16)ウ被告サービスの利用者が使用するパソコン等の利用者端末が本件各発明の構成要件Bの「端末装置」に該当するか否かは別として,被告サービスを利用する多数の利用者は,各自の利用者端末を用い,インターネットを介して,被告サーバにアクセスすることができ,また,利用者端末は,被告サーバから受信した情報データを,利用者端末の画面やプリンタを介して出力することが可能であるから,被告サービスは,その限度で,上記の構成要件Bを充足する。 エ被告サービスは,情報データ出力システムであるから,本件各発明の構成要件Gを充足する。 - 11 - 2 争点(1) 被告サービスは本件各発明の技術的範囲に属するか(本件特許1について)ア構成要件Aの「提供する役務」の充足性(本件各特許について)イ構成要件B,C,E及びFの「端末装置」の充足性ウ構成要件CないしFの「共用アプリケーションソフトウェア」の充足性エ構成要件Eの「共用アプリケーションソフトウェア送信手段」の充足性オ構成要件Eの「データ変換手段」の充足性(2) 本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものかア記載要件違反の有無イ実施可能要件違反の有無ウサポート要件違反の有無エ乙5文献に基づく無効理由(新規性,進歩性)の有無(3) 損害額 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(被告サービスは本件各発明の技術的範囲に属するか)についてア争点(1)ア(構成要件Aの「提供する役務」の充足性)について(原告らの主張)「役務」は,サービスと同じ意味で使用されているところ,被告サービスは,被告のクレジットカード事業に関して,利用者に対し情報を提供するサービスであり,「役務」に当たる ついて(原告らの主張)「役務」は,サービスと同じ意味で使用されているところ,被告サービスは,被告のクレジットカード事業に関して,利用者に対し情報を提供するサービスであり,「役務」に当たるから,これにより提供される情報データは,本件発明1の構成要件Aの「提供する役務」の個別情報- 12 -データに該当する。 仮に,被告が下記において主張するように「役務」の意義が限定されるとしても,被告サービスにおいては,データベースに含まれる多数の利用者に係る多数の取引履歴から,利用者ごとに,かつ,特定の月に関して,情報を類別し,抽出するものであるから,構成要件Aを充足するというべきである。 (被告の主張)本件明細書1を参照すると,本件発明1の構成要件Aにいう「個別情報データ」は,商品を販売する側又は役務を提供する側が,インターネットを通じて複数の商品の情報や,提供しようとする複数の役務情報を得て,これを利用者に提供する場合のデータを意味すると解されるから,「提供する役務」とは,選択可能な複数の役務を検索し,役務の種類ごと,役務の提供者(製造者)ごと,役務の販売者ごとなどに類別できるようにするものと解される。これに対し,被告サービスに係る利用明細は,カードによる決済後の情報を利用者に提供しているだけであるから,その情報自体,選択可能な複数の役務に関するものではなく,構成要件Aにいう「提供する役務」の個別情報データとは全く異なるものである。 したがって,被告サービスは,本件発明1の構成要件Aを充足しない。 イ争点(1)イ(構成要件B,C,E及びFの「端末装置」の充足性)について(原告らの主張)本件各発明は,情報データ出力システムに関する発明であり,情報データを提供するサーバとこれを受領する端末装置の存在が予定されてい ,E及びFの「端末装置」の充足性)について(原告らの主張)本件各発明は,情報データ出力システムに関する発明であり,情報データを提供するサーバとこれを受領する端末装置の存在が予定されているところ,例えば,本件明細書1に開示された実施例1が情報提供者をメーカー,情報受領者を販売店としていることから明らかなとおり,情報提供者と情報受領者は別の主体であることが前提とされている。した- 13 -がって,本件各発明は,情報受領者が端末装置を保有することも当然の前提としており,利用者端末は本件各発明の構成要件B,C,E及びFの「端末装置」に該当する。 (被告の主張)利用者端末は,被告サービスの利用者個人が保有するものであり,被告が保有するものではないから,構成要件B,C,E及びFの「端末装置」に該当しない。 ウ争点(1)ウ(構成要件CないしFの「共用アプリケーションソフトウェア」の充足性)について(原告らの主張)(ア) 被告サービスにおいては,別紙イ号物件目録記載2gのとおり,利用明細が,アドビ・システムズ・インコーポレイテッド(以下「アドビ社」という。)が無償で提供するアプリケーションソフトウェアであるAdobeReader (以下「リーダー」という。なお,AdobeReaderの前身であるAdobeAcrobatReaderを含めて用いることがある。)によるPDF形式のファイルとして送信され,利用者はこれを利用者端末に保存した後,画面に表示し,又は印刷することができる。 リーダーは,Windows,Linux又はMacOSのように,複数のオペレーティングシステム(以下「OS」という。)の下で,利用者の端末にインストールされているアプリケーションソフトウェアの構成にかかわらず作動し,フォント環境の相違 はMacOSのように,複数のオペレーティングシステム(以下「OS」という。)の下で,利用者の端末にインストールされているアプリケーションソフトウェアの構成にかかわらず作動し,フォント環境の相違に関わらず,一定の規則に従ってレイアウトを維持したままデータを出力することができるから,本件各発明の構成要件CないしFの「共用アプリケーションソフトウェア」に該当し,これらの構成要件を充足する。 被告は,リーダーは,PDFデータをPDF形式によって指示されたとおり表示し,印字するだけであると主張するが,①リーダーは,- 14 -例えば,端末装置にMS明朝のフォントがインストールされていない場合,端末装置にインストールされた明朝フォントを代替フォントとして用いて出力する機能や,②A4サイズの用紙を前提に作成されたPDFファイルを,そのレイアウトを変えずにB5サイズの用紙に縮小して印刷する場合,文字サイズ,上下端縁及びマージンを変更して出力する機能を有しているから,上記主張は失当である。 また,リーダーは,PDFファイルについて印刷命令が出された場合,プリンタの機種に応じたページ記述言語データを作成するが,これは,ページ記述言語データにデータ数,文字数,文字サイズ,文字フォント,行数,上下端縁,マージン等を設定するものであり,本件各発明の構成要件Dにいう「統一された一定の規則性に基づいて規則正しく最適なレイアウトで(又は規則正しいレイアウトで)出力する状態に自動的に設定する機能」を有しているということができるものである。 (イ) 被告は,下記のとおり包袋禁反言を主張するが,本件各意見書は,乙5文献に示されたリーダーが共用アプリケーションソフトウェアに当たることを除外する趣旨ではなく,クライアント相互間でデータを読み取るアプリケーシ 記のとおり包袋禁反言を主張するが,本件各意見書は,乙5文献に示されたリーダーが共用アプリケーションソフトウェアに当たることを除外する趣旨ではなく,クライアント相互間でデータを読み取るアプリケーションを共用にすることによってレイアウトの崩れという課題を解決するという本件各発明に特有の構成が,乙5文献には記載されておらずその示唆もないと指摘するものにすぎない。したがって,原告らが本件訴訟において,リーダーが共用アプリケーションソフトウェアに当たると主張することが許されないということにはならない。 (被告の主張)(ア) 被告が利用者に提供する利用明細は,PDF形式のフォーマットであって,利用先,利用者,カード種類,支払回数,利用金額,当月- 15 -の請求金額,新規利用分の支払総額,備考等の欄が空欄となったものがあらかじめ用意されており,その空欄中に,当該利用者に対応するデータをデータベースから抽出し埋め込んで作成するものである。このように,利用明細は,最初からPDF形式で作成され,それがそのまま利用者に送信されるのであって,利用明細に対応するPDF形式以外の中間データが存在し,それがPDF形式に変換されるものではない。利用者端末におけるリーダーは,このように送信されたPDFデータをPDF形式によって指示されたとおり表示し,印字するだけであるから,「最適なレイアウトで出力」するように処理したり,「一定の規則性に基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能」などは有していない。すなわち,被告サービスにおいて,リーダーは,利用明細の「文字数および行数」「データの個数」「文字サイズおよび文字フォントを一定の規則性に基づいて最適なレイアウトで出力」するような処理を一切行わない。したがって,リーダーは,本件各 ーダーは,利用明細の「文字数および行数」「データの個数」「文字サイズおよび文字フォントを一定の規則性に基づいて最適なレイアウトで出力」するような処理を一切行わない。したがって,リーダーは,本件各発明の構成要件CないしFの「共用アプリケーションソフトウェア」に該当せず,これらの構成要件を充足しない。 (イ) 前記前提事実(3)イによれば,原告らは,本件各特許の出願経過においては,リーダーが本件各発明の「共用アプリケーションソフトウェア」に当たることを否定していたのであるから,本件訴訟においてこれを覆すような主張をすることは許されない。また,原告らは,本件各特許の出願経過においては,「共用アプリケーションソフトウェア」はサーバ側のフォントと同一フォントで利用者端末側で印字する機能を有している旨主張していたところ,被告サービスにおいて,OSの違いにより印字されるフォントが異なるものとなることは,原告ら自身が認めるところであるから(甲10,12),被告サーバ側の- 16 -フォントと異なるフォントで印字されても構成要件を充足すると主張することは許されない(包袋禁反言)。 エ争点(1)エ(構成要件Eの「共用アプリケーションソフトウェア送信手段」の充足性)について(原告らの主張)別紙イ号物件目録記載3のとおり,利用者は,アドビ社へのリンクをクリックすれば,アドビ社の設置するサーバ(以下「アドビサーバ」という。)内のリーダーのダウンロードページに直ちに移動することができるから,アドビ社へのリンクは,リーダーをインターネットに対して送信する手段となっており,本件各発明の構成要件Eの「共用アプリケーションソフトウェア送信手段」に該当する。 仮にそのようにいうことができないとしても,アドビサーバは,リーダーを利用者端末に対して送 する手段となっており,本件各発明の構成要件Eの「共用アプリケーションソフトウェア送信手段」に該当する。 仮にそのようにいうことができないとしても,アドビサーバは,リーダーを利用者端末に対して送信する機能を有しており,被告は,その意図により,アドビサーバを自己の道具又は手足として利用しているのであるから,アドビサーバの管理者が被告でなくとも,被告サービスを実施しているのは被告というべきである。 (被告の主張)アドビ社へのリンクは,関連付けられたリンク先のウェブページにジャンプするようにされているだけで,利用者がこれをクリックしたところでリーダーが送信されるものではない。利用者は,リンク先のウェブページにおいてリーダーをダウンロードする手続をアドビ社に対して行なう必要があり,その場合も,リーダーはアドビサーバからダウンロードされるのであって,被告サーバが送信するものではない。したがって,上記のリンクをもって本件各発明の構成要件Eの「共用アプリケーションソフトウェア送信手段」ということはできない。 また,アドビサーバは,被告サーバとは全く異なるサーバであり,し- 17 -かも全く別の主体が所有し運用するサーバである。本件のように,サーバ内に送信手段を有していることが構成要件中に明記されている場合について,当該サーバ中に送信手段が存在しなければ,それだけで構成要件を充足していないとの結論にならざるを得ず,これを道具理論によって埋め合わせることはできないというべきである。 オ争点(1)オ(構成要件Eの「データ変換手段」の充足性)について(原告らの主張)被告サービスにおけるデータ変換サーバは,利用明細に係る情報データを,リーダーの処理可能なPDFデータに変換しており,これは「前記情報データを前記共用アプリケーションソ いて(原告らの主張)被告サービスにおけるデータ変換サーバは,利用明細に係る情報データを,リーダーの処理可能なPDFデータに変換しており,これは「前記情報データを前記共用アプリケーションソフトウェアが電子的に処理可能な中間データに変換する」に該当するから,本件各発明の構成要件Eの「データ変換手段」を充足する。 (被告の主張)被告サービスにおけるPDFデータは,最初から完成されたレイアウトで作成されており,利用者端末のリーダーもこれを指示どおり表示し印字するだけである。したがって,被告サービスにおいては,利用明細のレイアウト等について更に電子的処理を必要とする「中間データ」は存在せず,「中間データに変換するデータ変換手段」も存在しない。 (2) 争点(2)(本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものか)についてア争点(2)ア(記載要件違反の有無)について(被告の主張)本件発明1の構成要件Dには,共用アプリケーションソフトウェアが「統一された一定の規則性」に基づいて「規則正しく」「最適なレイアウト」で出力するとあり,本件発明2の構成要件Dには,共用アプリケーションソフトウェアが「統一された」「一定の規則性に基づいて」- 18 -「規則正しいレイアウト」で出力するとあるが,本件各明細書の記載を斟酌しても,これらが具体的にどのような基準により判断されるのかが明らかではない。また,本件各発明の構成要件Dの「機能を有し」についても,本件各明細書にその機能を達成するための具体的構成・手段についての記載が一切ないため,当業者には当該機能を有する具体的な構成・構造を想定することができない。したがって,本件各特許は,特許法36条6項2号所定の明確性の要件を欠き,無効である。 (原告らの主張)本件各発明の構 ,当業者には当該機能を有する具体的な構成・構造を想定することができない。したがって,本件各特許は,特許法36条6項2号所定の明確性の要件を欠き,無効である。 (原告らの主張)本件各発明の構成要件Dの「統一された一定の規則性に従って規則正しく最適なレイアウト」及び「統一された一定の規則性に従って規則正しいレイアウト」とは,共用アプリケーションソフトウェアの機能により,情報が不規則に散在したり文字が入り乱れたりすることがなく表示又は印字されること,換言すれば,システムの提供者が定めるデータの配置や文字の大きさ等に関する規則性に従うことを意味する。実施例においても,ディスプレイに表示される個別情報データと,プリンタから出力された個別情報データは,一定の規則性に従って各データの配置,文字の大きさ,文字の改行位置などが統一されている。したがって,本件各発明が明確性を欠くということはできない。 イ争点(2)イ(実施可能要件違反の有無)について(被告の主張)本件各特許の特許請求の範囲及び本件各明細書の記載によっても,「共用アプリケーションソフトウェア」がいかなる技術的手段であり,また,その手段によってどのようにすれば「情報データ」を「規則正しく最適なレイアウト」で又は「統一された一定の規則性に基づいて規則正しいレイアウト」で出力する状態に自動的に設定する機能を有することになるのかが明らかではない。これらを具体的に達成する技術手段が- 19 -明細書に記載されていなければ,当業者はこれを追試したり実施することが不可能であるから,本件各特許は,特許法36条4項1号所定の実施可能要件を欠き,無効である。 (原告らの主張)特許庁の審査官は,本件各特許の出願経過において,共用アプリケーションソフトウェアとしてリーダーを挙げてい 特許は,特許法36条4項1号所定の実施可能要件を欠き,無効である。 (原告らの主張)特許庁の審査官は,本件各特許の出願経過において,共用アプリケーションソフトウェアとしてリーダーを挙げていることから,共用アプリケーションソフトウェアに関する明細書の記載が実施不可能なものであるということはできない。 ウ争点(2)ウ(サポート要件違反の有無)について(被告の主張)本件各特許にいう「共用アプリケーションソフトウェア」については,本件各明細書においても,特許請求の範囲に記載された以上の説明はなく,課題を解決するための技術的手段の記載が発明の詳細な説明のいずれにも存在しない。これは,実質的に開示されていない発明について特許を請求するもので,特許法36条6項1号所定のサポート要件を欠き,無効である。 (原告らの主張)本件各特許の特許請求の範囲に記載された共用アプリケーションソフトウェアの機能は,発明の詳細な説明にも記載されている。また,当業者であれば,その機能に関する特許請求の範囲の記載から,リーダーを用いる技術態様を想到することができるから,サポート要件に違反するということはできない。 エ争点(2)エ(乙5文献に基づく無効理由の有無)について(被告の主張)(ア)〔新規性〕 リーダーは,平成6年に無償配布が開始されることによって公開された無償のPDF閲覧ソフトウェアであり,無償配布に- 20 -伴い,アドビ社のホームページへのリンクもフリーであった。したがって,本件各特許の出願時点において,本件各発明の構成要件C及びDの全部並びに構成要件Eのうちの「共用アプリケーションソフトウェアを前記インターネットにおけるネットワーク上に送信する共用アプリケーションソフトウェア送信手段」は公知であった。これら以外の要 びDの全部並びに構成要件Eのうちの「共用アプリケーションソフトウェアを前記インターネットにおけるネットワーク上に送信する共用アプリケーションソフトウェア送信手段」は公知であった。これら以外の要件は,通常インターネットにおいて用いられるサーバと端末であるパーソナルコンピュータに関するものにすぎないから,原告らの主張によれば,アドビ社へのリンクと,PDFデータのサーバからの送信と,リーダーを備えたパーソナルコンピュータがあれば,ほとんどの場合本件発明の構成要件を充足することになる。 そして,PDFファイルの送受信は,乙5発明により,本件特許出願前に公知であり,公然に実施されたものである。すなわち,乙5発明は,データをインターネットにおけるネットワークに送信することが可能なサーバを有しており,上記データは,「河川管理システムの開発」「建物管理システムの開発」等の提供する役務のデータである。 そして,乙5発明においては,上記サーバにアクセス可能な端末であるクライアントが,帳票を印刷する印字手段を介してサーバから受信したデータを出力している。また,乙5発明のクライアントのウェブブラウザはHTTPのプロトコルでHTMLテキスト等のウェブ情報を送受信するためのクライアント側のソフトウェアであり,クライアントの帳票表示印刷手段は,リーダー等のプラグインソフトウェアである。また,原告らの主張を前提とすれば,リーダーがフォントの埋め込みによって環境に依存しないフォントを出力することができることも公知である。さらに,乙5文献には,帳票出力プログラムをサーバ装置が端末装置に送信する手段を有する場合についても開示があり,クライアントにおいてウェブブラウザから検索されたデータベースか- 21 -らのデータを用いて作成された帳票ファイルをプラグイン実行 バ装置が端末装置に送信する手段を有する場合についても開示があり,クライアントにおいてウェブブラウザから検索されたデータベースか- 21 -らのデータを用いて作成された帳票ファイルをプラグイン実行環境により帳票として出力すること及びクライアントが帳票出力プログラムをインターネットを通じてインストールできることも記載がある。 したがって,本件各特許は,特許法29条1項1号又は2号に違反して登録されたものであり,無効理由がある。 (イ)〔進歩性〕 仮に,乙5発明にはリーダー等の帳票出力プログラムをサーバ装置が端末装置に送信する手段について具体的な開示がなく,本件発明とこの点において差異があるとしても,乙5文献の図2の例は,帳票出力プログラムの配信をネットワークを通じて配信するものであり,乙5発明においてサーバ装置がリーダーをネットワークを通じて配信することは当業者において容易に想到することができたものである。 したがって,本件各発明は,乙5発明によって容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項に違反して登録されたものであり,無効理由がある。 (原告らの主張)(ア)〔新規性〕 乙5発明は,サーバ装置を管理する者においてクライアント端末の環境を変更することができる企業内のイントラネットに係る発明であり,インターネットを示唆する文言は見当たらない。また,本件各発明が共用アプリケーションソフトウェア送信手段を要件とするのに対し,乙5発明はクライアント端末でデータを表示するプログラムを送信する手段について何らの記載もない。このように,乙5発明は,本件各発明との関係で,公然知られた発明でも,公然実施をされた発明でもないから,特許法29条1項1号又は2号違反をいう被告の主張は理由がない。 (イ)〔進歩性〕 乙5発明の のように,乙5発明は,本件各発明との関係で,公然知られた発明でも,公然実施をされた発明でもないから,特許法29条1項1号又は2号違反をいう被告の主張は理由がない。 (イ)〔進歩性〕 乙5発明の帳票出力プログラムは,ウェブサーバを通- 22 -さずにデータベースにアクセスし,データを検索して帳票を出力し,帳票の作成が終了すると帳票出力プログラムは消去されるというものであるから,乙5発明の図2の「帳票出力プログラム」は,本件各発明の共用アプリケーションソフトウェアに対応するものではない。乙5発明で,共用アプリケーションソフトウェアに対応するのは,アプレット実行環境のほか,ドキュメント・ビューア・ソフトウェア及び帳票表示印刷手段であるが,これらをサーバからクライアントに対してネットワークを通じて配信することについて,乙5発明には,何の記載もなく示唆もない。また,サーバとクライアント間又は各クライアント間でフォント環境が異なる可能性についても考慮されていない。 そもそも,乙5発明では,クライアントが帳票出力手段を備えることを前提としており,一部のクライアントが帳票出力手段を備えていない場合についてすら考慮されていない。これは,乙5発明がイントラネットに関する発明であることによるものである。これに対し,本件各発明の実施例であるメーカーと販売店や展覧会主催者と出展者の場合,元々は他人であった者をインターネット環境の下で結び付けることになるため,システム提供者の意向によりクライアントのOSやフォント環境等を統一し,互換性の相違から生じる問題を解消することは容易ではない。したがって,本件各発明は,乙5発明から容易に想到することができるものではなく,特許法29条2項違反をいう被告の主張は理由がない。 (3) 争点(3)(損害額)について ることは容易ではない。したがって,本件各発明は,乙5発明から容易に想到することができるものではなく,特許法29条2項違反をいう被告の主張は理由がない。 (3) 争点(3)(損害額)について(原告らの主張)被告は,平成19年頃から平成24年6月6日に至るまで,利用者に被告サービスを提供し,従来は利用者に郵送されていた送付書類を,インターネットを介して提供することが可能になったことにより,送付書類の印- 23 -刷や郵送に要する費用を免れるという利益を得た。この間の本件各特許に対する実施料相当額は,3150万円を下らず,これが本件各特許の侵害による損害額となる(特許法102条3項)。 原告会社は,本件各特許につき各25%の持分を有し,原告Aは,本件各特許につき各50%の持分を有しているから,原告会社及び原告Aの被った損害の額は,それぞれ787万5000円及び1575万円となる。 (被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)ウ(構成要件CないしFの「共用アプリケーションソフトウェア」の充足性)についてまず,争点(1)ウから判断する。 (1) 認定事実前記前提事実に証拠(各項目の冒頭に掲記した。)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。 ア本件各明細書の発明の詳細な説明の記載(甲2,4)本件各明細書には,発明の詳細な説明として,次の記載がある。 (ア) 本件明細書1a 【従来の技術】及び【発明が解決しようとする課題】「【0002】サーバ装置の内部アドレスファイルに記憶された商品の個別情報データと役務の個別情報データとがインターネットにおけるネットワーク上に送信され,それらデータを受信した端末装置がそれらデータをプリンタを介して出力する場合がある。」「【000 れた商品の個別情報データと役務の個別情報データとがインターネットにおけるネットワーク上に送信され,それらデータを受信した端末装置がそれらデータをプリンタを介して出力する場合がある。」「【0005】しかし,前記個別情報データの出力では,HTTP(中略)の記述言語と個別情報データを受信した端末装置との間に互換性の相違(HTTPに対する端末装置の機種やオペレーティングシ- 24 -ステム,アプリケーションソフトウェア,フォント環境等の相違)があると,個別情報データが不規則に散在してディスプレイに表示されたり,文字が入り乱れた乱雑な状態で印刷用紙に印字されてしまう場合がある。販売店では,それを修正するために,個別情報データについて文字の置き換えや書式の設定,印字様式の設定,印字位置の指定等のデータ処理をしなければならず,手間と時間とを要する。【0006】また,前記互換性の相違があると,端末装置が個別情報データ自体を読み込むことができない場合がある。この場合は,各販売店が個別情報データを製造者から郵送やファクシミリ等で取り寄せなければならない。【0007】本発明の目的は,前記HTTPの記述言語に対する前記端末装置の互換性の相違にかかわらず,サーバ装置から送信された個別情報データを統一された所定の形式で端末装置が出力することができ,個別情報データに対するデータ処理や個別情報データを郵送等で取り寄せるための手間や時間を省くことができる情報データ出力システムを提供することにある。」b 【発明の実施の形態】【発明の実施の形態】には,「スポーツ用品の販売に供する紙票の出力を行う」システムの例(【0012】~【0080】)及び「宿泊施設の提供の取次ぎに供する紙票の出力を行う」システムの例(【0081】~【0117】)が挙げられている。 用品の販売に供する紙票の出力を行う」システムの例(【0012】~【0080】)及び「宿泊施設の提供の取次ぎに供する紙票の出力を行う」システムの例(【0081】~【0117】)が挙げられている。 もっとも,共用アプリケーションソフトウェアによるレイアウトの設定については,「【0031】共用アプリケーションソフトウェアは,HTTP(中略)の記述言語と端末装置6との間に互換性の相違(HTTPに対する端末装置6の機種やオペレーティングシステム,アプリケーションソフトウェア,フォント環境等の相違)があったとしても,統一した所定の形式で個別情報データをディスプレ- 25 -イ7に表示させ,かつ,統一した所定の形式で個別情報データをプリンタ9に印字させるソフトウェアである。【0032】ここで,所定の形式とは,一定の規則性に基づいて整理された個別情報データが,規則正しくディスプレイ7に表示またはプリンタ9から印字されるその状態をいう。【0033】共用アプリケーションソフトウェアは,印刷用紙における文字数および行数,印刷用紙に印字する個別情報データのデータ数,文字サイズおよび文字フォント,印刷用紙の上下端縁および両側縁のマージン等を自動的に設定する機能を有し,個別情報データをディスプレイ7または印刷用紙に無駄なく最適なレイアウトで表示または印字する機能を有する。【0034】その具体例としては,たとえば,端末装置6においてB5縦の印刷用紙を選択すると,1行文字数を80字,1頁行数を30行に設定するとともに,用紙の上下端縁と両側縁とのマージンをそれぞれ10mmに設定し,個別情報データの全てが印刷用紙に納まるようにデータを配列する。」との説明があるのみで,それ以上に詳細な説明はされていない。 また,共用アプリケーションソフトウェアの送信につ 10mmに設定し,個別情報データの全てが印刷用紙に納まるようにデータを配列する。」との説明があるのみで,それ以上に詳細な説明はされていない。 また,共用アプリケーションソフトウェアの送信についても,「【0046】このシステムでは,共用アプリケーションソフトウェアが第1サーバ装置1からインターネット10におけるネットワーク上に送信されている。操作者は,共用アプリケーションソフトウェアを第2サーバ装置5を介して端末装置6にダウンロードし,セットアッププログラムを使用してそれをインストールする。また,共用アプリケーションソフトウェアを記憶したCD-ROMを使用してそれをインストールすることもできる。」との説明があるのみで,それ以上に詳細な説明はされていない。 さらに,中間データへの変換及びその送信並びにその変換及び表- 26 -示・印刷についても,「【0036】第1サーバ装置1では,端末装置6からの指示に基づいて,個別情報データを共用アプリケーションソフトウェアが電子的に処理可能な中間データに変換する(データ変換手段)(S-4)。第1サーバ装置1は,インターネット10を介して中間データを第2サーバ装置5に送信する(データ送信手段)(S-5)。【0037】中間データは,第2サーバ装置5から端末装置6に配信される。中間データを受信した端末装置6は,共用アプリケーションソフトウェアを利用して中間データに変換された個別情報データを読み込み(S-6),ディスプレイ7を介してそれら個別情報データを表示させる。それら個別情報データは,プリンタ9を介して印刷用紙に印字される(S-7)。」などの説明があるのみで(他に【0052】~【0054 】,【0059】~【0061】,【0064】~【0066】,【0071】~【0073】,【0092】 を介して印刷用紙に印字される(S-7)。」などの説明があるのみで(他に【0052】~【0054 】,【0059】~【0061】,【0064】~【0066】,【0071】~【0073】,【0092】~【0094】,【0099】~【0101】,【0104】~【0106】及び【0110】~【0112】にもおおむね同様の記載が繰り返されている。),それ以上に詳細な説明はされていない。 (イ) 本件明細書2a 【従来の技術】及び【発明が解決しようとする課題】本件明細書2の【0002】~【0008】には,上記(ア)aとほぼ同様の説明がある。 b 【発明の実施の形態】【発明の実施の形態】には,「展示会や即売会等のイベントへ参加した出展者がイベント会場へ来場したユーザーに後日,紹介状や案内状等の郵便物を発送する際,その郵便物に貼付する宛名ラベルを出力する場合」(【0012】~【0068】)が例として挙げられている。 - 27 -もっとも,本件明細書2においても,共用アプリケーションソフトウェアによるレイアウトの設定(【0033】~【0036】),共用アプリケーションソフトウェアの送信(【0048】),中間データへの変換及びその送信並びにその変換及び表示・印刷(【0038】,【0039】及び【0062】~【0064】)のいずれについても,上記(ア)bに摘示した以上に詳細な説明がされていないことは,本件明細書1と同様である。 イ本件各特許権の出願経過(乙1の4・5,乙2の4・5)(ア) 本件各特許権の出願経過は,前記前提事実(3)のとおりであるところ,本件各拒絶理由通知書には,次の指摘がある。 a 本件拒絶理由通知書1においては,乙5発明は,ウェブブラウザのプラグインソフトウェア等は,クライアントのOSや利用しているブラ とおりであるところ,本件各拒絶理由通知書には,次の指摘がある。 a 本件拒絶理由通知書1においては,乙5発明は,ウェブブラウザのプラグインソフトウェア等は,クライアントのOSや利用しているブラウザソフトウェアにかかわらず,統一した所定の形式で帳票ファイルをディスプレイに表示し又は紙に印刷するというものであるから,乙5発明のウェブブラウザのプラグインソフトウェア等及び帳票ファイルは,それぞれ本件発明1の共用アプリケーションソフトウェア及び中間データに相当する旨の指摘がされている。 b 本件拒絶理由通知書2においては,乙5文献には,クライアントからの検索条件に基づいて,サーバがデータベースから情報データを取得し,変換装置によりPDF形式の帳票ファイル(本件発明2における「中間データ」)を作成し,当該帳票ファイルをクライアントに送信し,クライアントはブラウザのプラグインソフトウェアとしてインストールされた帳票表示印刷手段を利用してこれを印字手段を介して出力する情報データ出力システムが記載されている旨の指摘がされている。 (イ) これに対して原告らを含む本件各特許の出願人が提出した本件各- 28 -意見書には,次の記載がある。 「確かに引用文献1〔注・乙5文献〕には,クライアントがブラウザのプラグ・イン・ソフトウェアとしてインストールされた帳票表示印刷手段(AcrobatReader等)を利用して帳票ファイルを印字手段を介して出力することが記載されている。引用文献1では,(中略)サーバから送られてきた帳票ファイルの文字フォントがクライアント側に存在しない場合(サーバのフォント環境とクライアントのフォント環境とが相違する場合や各クライアントでフォント環境が相違する場合),それらクライアントはその帳票ファイルをエラーとして扱うか アント側に存在しない場合(サーバのフォント環境とクライアントのフォント環境とが相違する場合や各クライアントでフォント環境が相違する場合),それらクライアントはその帳票ファイルをエラーとして扱うか,または,それらクライアントに存在する文字フォントに置き換えて帳票ファイルを出力する。したがって,サーバとそれらクライアントとに統一した文字フォントが存在せず,文字フォントが異なる場合,文字フォントを統一することができず,クライアントがサーバと同一の文字フォントで帳票を出力することができないのみならず,各クライアントがサーバの文字数(情報データの個数)と異なる文字数で帳票を出力してしまう場合がある。」これ「に対し,本願の請求項1に記載の発明〔注・本件各発明〕は,各端末装置にインストールされた共用アプリケーションソフトウェアがHTTPに対する端末装置の機種や端末装置のオペレーティングシステム,端末装置にインストールされているアプリケーションソフトウェア,端末装置で使用するフォント環境の相違にかかわらず,各端末装置が情報データを統一された一定の規則性に基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力することを可能にする情報データ出力システムであり,その共用アプリケーションソフトウェアが情報データを印字する印刷用紙における情報データの文字数および行数,印刷用紙に印字する情報データの個数,印刷用紙に印字する情報データの文字サ- 29 -イズおよび文字フォントを統一された一定の規則性に基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能を有する。特に,文字サイズや文字フォントを統一された一定の規則性に基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力する状態に自動的に設定することにより,サーバから送られてきた情報データの文字フォントが各 有する。特に,文字サイズや文字フォントを統一された一定の規則性に基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力する状態に自動的に設定することにより,サーバから送られてきた情報データの文字フォントが各端末装置(クライアント)側に存在しない場合(サーバのフォント環境と各端末装置のフォント環境とが相違する場合や各端末装置どうしでフォント環境が相違する場合)であっても,サーバの文字フォントと同一の文字フォントで情報データを各端末装置において再現可能であるから,サーバと同一の文字フォントで情報データを出力することができ,サーバと端末装置とにおいてフォント環境が相違したとしても,各端末装置が情報データを統一された一定の規則性に基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力することができる。また,そのために各端末装置が同一のオペレーティングシステムを利用する必要はなく,各端末に同一のクライアントソフトがインストールされている必要もない。本願の請求項1に記載の発明は,HTTPの記述言語に対するそれら端末装置の互換性の相違があったとしても,各端末装置において情報データが不規則にばらけてしまうことはなく,各端末装置において情報データを規則正しく出力させることができる。」ウ PDFファイル及びリーダーの機能について(甲10~12,17,21,22の1・2,甲29,乙6~8)(ア) PDF(PortableDocumentFormat)は,電子上の文書に関するファイルフォーマットの1つであり,アドビ社により開発されたものである。その最大の特徴は,特定の環境に左右されることなく,ほとんど全ての環境においてほぼ同様の状態で文章や画像を閲覧することができるところにあり,平成20年7月には,国際標準化機構によっ- 30 -てISO 32000として標準化され されることなく,ほとんど全ての環境においてほぼ同様の状態で文章や画像を閲覧することができるところにあり,平成20年7月には,国際標準化機構によっ- 30 -てISO 32000として標準化された。 PDFファイルを作成するに当たっては,同じくアドビ社の開発したAdobeAcrobat(以下「アクロバット」という。)を使用するのが一般的であるが,他にも多くのPDFファイルの作成ツールがあり,MacOSXでは,各種ドキュメントをPDFファイルに変換する標準機能が装備されている。これに対し,リーダーは,PDFファイルを表示・印刷するためのアプリケーションソフトウェアであり,PDFファイルを作成する機能は備わっていない。なお,リーダーは,平成15年のPDFのバージョン1.5以降,名称がAdobeAcrobatReaderからAdobeReaderに変更された。 PDFファイルは,リーダーがインストールされているコンピュータであれば,基本的に,元のレイアウトどおりに表示・印刷することができるため,PDFのファイル形式は,レイアウトを保持する必要のあるドキュメントに多く用いられている。 (イ) PDFファイルを作成するに当たっては,フォントを設定するが,その設定次第では,別の端末で表示・印刷したときに元のレイアウトを保持することができず,エラーや文字化けが発生することがある。 このようなエラーや文字化けが発生した場合の対処方法としては,当該フォントに含まれている全ての字形を埋め込む方法と,当該文章に使用されている字形のみを埋め込む方法がある。PDFファイル内にフォントが埋め込まれているのではなく,フォントが参照されている場合,ファイルを開くシステム上で当該フォントが検索され,システム上のフォントを使用してテキストが表示さ 方法がある。PDFファイル内にフォントが埋め込まれているのではなく,フォントが参照されている場合,ファイルを開くシステム上で当該フォントが検索され,システム上のフォントを使用してテキストが表示されるが,その設定をするためには,リーダー起動スプリクト又はユーザー構成ファイル内のPSRESOURCEPATH変数を設定して,リーダーがインストールされているフォントにアクセスすることができるようにする必要が- 31 -ある。 (ウ) リーダーを使用してPDFファイルを印刷する場合,用紙サイズに合わせてページを拡大又は縮小したり,実際のサイズのまま印刷したりすることを設定することができる。印刷用紙よりも大きいサイズのPDFファイルを実際のサイズのまま印刷する場合には,印字部分が用紙をはみ出す形で印刷されることもあり得る。 エ被告サービスについて(乙3)被告サービスの概要は,別紙イ号物件目録のとおりである(前提事実(4)参照)。 被告サーバにおいては,あらかじめ,PDFファイルを作成するためのテンプレートが用意されており,利用者からPDFファイルによる利用明細を送信するよう要求があった場合,その都度,これに対応する情報をデータベースから読み出し,上記テンプレートの空欄部分に書き込んで,利用明細をPDFファイルとして作成し,これをそのまま利用者に送信している。上記テンプレートの空欄に入る文字数にはあらかじめ所定の制限が設けられており,それ以上の文字数がある情報は,その超える部分が自動的にカットされてPDFファイルが作成される仕様となっている。 利用者において,リーダーを使用して受信ファイルを表示又は印刷する場合,そのレイアウトを変更・加工することはできない。上記の文字数制限についても,カットされた部分を表示させたり,被告が ている。 利用者において,リーダーを使用して受信ファイルを表示又は印刷する場合,そのレイアウトを変更・加工することはできない。上記の文字数制限についても,カットされた部分を表示させたり,被告が送信したファイルと異なる行数で表示させたりすることはできない。 (2) 判断ア本件各発明の構成要件CないしFにいう「共用アプリケーションソフトウェア」がどのようなアプリケーションソフトウェアを意味するかについて検討すると,まず,本件各特許の特許請求の範囲には,「前記共- 32 -用アプリケーションソフトウェアが,前記情報データを印字する印刷用紙における該情報データの文字数および行数,前記印刷用紙に印字する前記情報データの個数,前記印刷用紙に印字する前記情報データの文字サイズおよび文字フォントを統一された一定の規則性に基づいて」「規則正しく最適なレイアウト」(本件特許1)又は「規則正しいレイアウト」(本件特許2)「で出力する状態に自動的に設定する機能を有」するものと記載されており(構成要件D),これによれば,本件各発明の「共用アプリケーションソフトウェア」は,少なくとも,①情報データの文字数及び行数,②印刷用紙に印字する前記情報データの個数,並びに,③印刷用紙に印字する前記情報データの文字サイズ及び文字フォントを,統一された一定の規則性に基づいて規則正しい(最適な)レイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能を有するものでなければならず,そのいずれかの機能を欠くアプリケーションソフトウェアは,「共用アプリケーションソフトウェア」に当たらないものと解される。 また,本件各明細書の記載をみても,前記(1)ア(ア)a及び同(イ)aのとおり,本件各発明は,従来の技術では,HTTPの記述言語と情報データを受信した端末装置との間に互換性の いものと解される。 また,本件各明細書の記載をみても,前記(1)ア(ア)a及び同(イ)aのとおり,本件各発明は,従来の技術では,HTTPの記述言語と情報データを受信した端末装置との間に互換性の相違(端末装置の機種やOS,アプリケーションソフトウェア,フォント環境等の相違)があると,情報データが不規則に散在してディスプレイに表示されたり,文字が入り乱れた乱雑な状態で印刷用紙に印字されてしまう場合があったところ,これを,情報データを中間データに変換して端末装置に送信し,端末装置にインストールされた共用アプリケーションソフトウェアの機能により,統一された一定の規則性に基づいて規則正しい(最適な)レイアウトで出力することによって,統一した所定の書式で表示又は印刷させることができるとの作用効果を有するものとされている。そして,本件各明細書において,共用アプリケーションソフトウェアは,「印刷用紙に- 33 -おける文字数および行数,印刷用紙に印字する個別情報データのデータ数,文字サイズおよび文字フォント,印刷用紙の上下端縁および両側縁のマージン等を自動的に設定する機能を有し,個別情報データをディスプレイ7または印刷用紙に無駄なく最適なレイアウトで表示または印字する機能」を有するものとされている。 さらに,前記(1)ア(ア)b及び同(イ)bのとおり,本件各明細書には,本件各発明の実施例として,(ア)スポーツ用品の販売に供する紙票を出力する場合,(イ)宿泊施設の提供の取次ぎに供する紙票を出力する場合,(ウ)展示会や即売会等のイベントに参加した出展者がイベント会場に来場したユーザーに後日,紹介状や案内状等の郵便物を発送する際の郵便物に貼付する宛名ラベルを出力する場合が挙げられている。そして,このうちの(ア)を例に採ると,本件明細書1中の図 者がイベント会場に来場したユーザーに後日,紹介状や案内状等の郵便物を発送する際の郵便物に貼付する宛名ラベルを出力する場合が挙げられている。そして,このうちの(ア)を例に採ると,本件明細書1中の図6に掲記されたB5縦の紙票には,テニスラケットのメーカー名,商品名,キャッチフレーズ,性能,販売価格及び販売店名が所定の文字数以内,所定の行数以内,所定の列数以内に印字され,テニスラケットの形態(全体図)が所定の範囲に印刷されている。そして,販売店は,この紙票を,テニスラケットやショウケースに貼付したり,広告として使用したり,紹介状や案内状と共に顧客に郵送したりすることもできる旨の作用効果が記載されている(【0079】,【0080】)。上記の①ないし③の一部でもレイアウトが崩れた場合は,このような作用効果を発揮することができず,各販売店が情報データを製造者から郵送やファクシミリ等で取り寄せなければならなくなり,本件各発明の課題(前記(1)ア(ア)a及び同(イ)a参照)を解決することができないこととなる。 以上によれば,本件各発明にいう「共用アプリケーションソフトウェア」は,上記①ないし③の全てを統一された一定の規則性に基づいて規則正しい(最適な)レイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能- 34 -を有するものであることを要し,これらを設定する機能を一部でも欠き,又は機能自体はあっても手動で設定しなければならないこともあるようなアプリケーションソフトウェアは,上記の「共用アプリケーションソフトウェア」には当たらないものと解するのが相当である。 イこれを被告サービスについてみると,前記(1)エのとおり,被告サーバにおいては,あらかじめ用意されているテンプレートに従って利用明細に係るPDFファイルが作成され,これが利用者に送信される 。 イこれを被告サービスについてみると,前記(1)エのとおり,被告サーバにおいては,あらかじめ用意されているテンプレートに従って利用明細に係るPDFファイルが作成され,これが利用者に送信されると,利用者は,元のレイアウトを変更することなく,単に,受信したPDFファイルをリーダーで表示又は印刷するにすぎないことが認められる。すなわち,被告サービスにおいて,共用アプリケーションソフトウェアが有するとされている基本的な機能(利用者端末の機種やOS,アプリケーションソフトウェア,フォント環境等の相違にかかわらず,情報データを統一された所定の形式で端末装置が出力することができるようなファイルを作成する機能)を有するアプリケーションソフトウェアに相当するのは,PDFファイルの作成機能を有するアクロバット等のアプリケーションソフトウェアであって(なお,それは,利用者端末ではなく被告サーバにインストールされているものと認められる。),利用者が利用明細に係るPDFファイルを表示又は印刷する際に使用する利用者端末のリーダーは,これには当たらないものと解される。 ウこれに対し,原告らは,リーダーにも,元の文書に使用されたフォントが端末装置に存在しない場合に代替フォントを用いて出力する機能,元の文書を縮小して印刷する際に文字サイズ,上下端縁及びマージンを変更して出力する機能があると主張する。 しかしながら,前記(1)ウ(イ)のとおり,リーダーのフォントの設定次第では,別の端末で表示・印刷したときに元のレイアウトを保持することができず,エラーや文字化けが発生する場合もあり,これを補正する- 35 -ためには手動で字形を埋め込むなどの作業をしなければならないこともあることが認められる。また,同(ウ)のとおり,リーダーを使用してPDFファイルを印 発生する場合もあり,これを補正する- 35 -ためには手動で字形を埋め込むなどの作業をしなければならないこともあることが認められる。また,同(ウ)のとおり,リーダーを使用してPDFファイルを印刷する場合,その設定次第では,常に最適のサイズでの印刷がされるとは限らないことが認められる。そうすると,リーダーに原告らの主張するような機能があるとしても,リーダーが,文字サイズ及び文字フォントを常に一定の規則性に基づいて規則正しい(最適な)レイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能(前記アの③)を有するとは断定することができないものというべきである。 また,この点をおくとしても,原告らは,共用アプリケーションソフトウェアが有していなければならない前記アの①ないし③の機能のうち,①の情報データの文字数及び行数並びに②の印刷用紙に印字する前記情報データの個数については,リーダーにこれを統一された一定の規則性に基づいて規則正しい(最適な)レイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能があることについて主張すらしていない。なお,この点に関し,原告らは,リーダーはPDFファイルについて印刷命令が出された場合,プリンタの機種に応じたページ記述言語データを作成するところ,これはページ記述言語データにデータ数,文字数,文字サイズ,文字フォント,行数,上下端縁,マージン等を設定するものであると主張するが,それも,元のファイルのレイアウトを最適なものに設定するものではなく,元のファイルのレイアウトを何ら変更することなく,そのとおりに印刷することしかできない機能として主張されているものと解されるから,リーダーが上記①及び②の機能を有していることの根拠とはならないものというべきである。 したがって,原告らの主張はいずれも理由がない。 エ加えて,原 能として主張されているものと解されるから,リーダーが上記①及び②の機能を有していることの根拠とはならないものというべきである。 したがって,原告らの主張はいずれも理由がない。 エ加えて,原告らを含む出願人は,本件各特許権の出願経過において,特許庁審査官の本件各拒絶理由通知書(前記(1)イ(ア))に対して本件各- 36 -意見書を提出し,これには同(イ)のとおりの記載がされていた。 これをみると,原告らは,本件各発明が乙5発明とは異なるもので,かつ,当業者が乙5発明から本件各発明を容易に想到することができないものであることを裏付けるために,リーダーを用いて印刷した場合,文字フォントを統一することができず,クライアントがサーバと同一の文字フォント,サーバと同一の文字数(情報データの個数)で帳票を出力することができない場合があるのに対し,本件各発明の共用アプリケーションソフトウェアにはこのような制約がなく,規則正しく最適なレイアウトで出力することができる旨主張しているのであるから,本件各発明の共用アプリケーションソフトウェアはリーダーとは異なるアプリケーションソフトウェアを想定している旨の主張をしていることが明らかである。 そうすると,本件各特許の出願経過においてこのような主張をし,その登録を受けた原告らが,本件訴訟において,これを翻し,リーダーが本件各発明の共用アプリケーションソフトウェアに当たるとの主張をすることは,信義誠実の原則に反し,許されないというべきである。この点からも,原告らの主張は理由がない。 オ以上によれば,リーダーが本件各特許にいう「共用アプリケーションソフトウェア」に当たるとの原告らの主張は理由がない。そして,原告らは,被告サービスに関し,共用アプリケーションソフトウェアに当たるものとしてリーダ リーダーが本件各特許にいう「共用アプリケーションソフトウェア」に当たるとの原告らの主張は理由がない。そして,原告らは,被告サービスに関し,共用アプリケーションソフトウェアに当たるものとしてリーダー以外のアプリケーションソフトウェアを主張していないのであるから,被告サービスは,本件各発明の構成要件CないしFを充足せず,本件各発明の技術的範囲に属しないものと解するのが相当である。 2 争点(1)エ(構成要件Eの「共用アプリケーションソフトウェア送信手段」の充足性)について- 37 -なお,上記1のとおり,リーダーは本件各特許にいう「共用アプリケーションソフトウェア」には当たらないというべきであるが,仮にその該当性が肯定されたとしても,被告サービスにおいては,リーダーが被告サーバから送信されるものではなく,利用者が被告サービスに係るウェブページに設定されたリンクからアドビ社のホームページに移行し,アドビサーバからこれをダウンロードするものであることは,原告ら自身が認めるところである。 したがって,被告サービスは,「前記共用アプリケーションソフトウェアを前記インターネットにおけるネットワーク上に送信する共用アプリケーションソフトウェア送信手段」を有しているものということはできず,本件各発明の構成要件Eを充足しないものと解される。 これに対し,原告らは,被告はアドビサーバを自己の道具又は手足として利用しているから,アドビサーバの管理者が被告でなくとも,被告サービスを実施しているのは被告というべきであると主張する。しかしながら,被告サーバとアドビサーバは,異なる法人格を有する被告とアドビ社がそれぞれ管理するサーバであるから,アドビサーバが被告の道具又は手足に当たると解することはできない。加えて,構成要件Eは,共用アプリケーションソフ アドビサーバは,異なる法人格を有する被告とアドビ社がそれぞれ管理するサーバであるから,アドビサーバが被告の道具又は手足に当たると解することはできない。加えて,構成要件Eは,共用アプリケーションソフトウェア送信手段が被告サーバに設けられるべきものとしているところ,アドビサーバが被告の道具又は手足と評価されるか否かにかかわらず,その送信手段がアドビサーバにあり,被告サーバにないことには変わりがないのであるから,被告サービスが構成要件Eを充足するということはできない。 よって,被告サービスは,本件各発明の構成要件Eを充足せず,この観点からも本件各発明の技術的範囲に属しないものと解するのが相当である。 3 結論以上によれば,その余の争点につき判断するまでもなく,本件請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,65条1項本文を適用して主文のとおり判決する。 - 38 -東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官長谷川浩二 裁判官清野正彦 裁判官植田裕紀久

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る