令和7年3月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 令和5年(ワ)第10125号意匠権侵害差止等請求事件 口頭弁論終結日令和7年1月21日判決 原告 山崎実業株式会社 代表者代表取締役 訴訟代理人弁護士 岡村久道 同中道秀樹 同南石知哉 同尾形信一 同村田充章 同入星亮介 同岡村峰子 同尾上富美 同淀川亮 同富井和哉 同村上岳優 同西口加史仁 同芦田千佳 訴訟代理人弁理士 柳野隆生 補佐人弁理士 柳野嘉秀 同関口久由 被告 アスベル株式会社 代表者代表取締役 訴訟代理人弁護士 山上和則 同雨宮沙耶花 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、別紙被告商品目録記載の容器を製造、販売、輸入し、販売のために展示してはならない。 2 被告は、その本店、営業所及び倉庫に存する同目録記載の容器を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、2697万円及びこれに対する令和6年12月20日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本判決におけ の容器を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、2697万円及びこれに対する令和6年12月20日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本判決における略称(1) 本件意匠(権):意匠登録第1707515号に係る意匠(権) (2) 被告商品:別紙被告商品目録記載の製品(3) 被告意匠:被告商品に係る意匠(4) 乙3意匠:意匠登録第1630787号に係る意匠(本件意匠の基礎意匠)(5) 乙4意匠:意匠登録第1725892号に係る意匠(6) 被告先行商品:甲9の「ディスペンサーボトル」 2 原告の請求被告意匠が本件意匠と同一又は類似である、又は、本件意匠と利用関係にあり、被告商品の製造販売等が本件意匠権の侵害行為であることを前提とする、①意匠法37条1項に基づく被告商品の製造販売等の差止請求、②同条2項に基づく被告商品の廃棄請求、③民法709条に基づく損害賠償金2697万円の支払請求 3 前提事実(争いのない事実及び証拠〔枝番を含む。〕により容易に認定できる事 実)(1) 当事者等ア原告は、アイロン台ヘラ台、インテリア小物等の製造販売等を目的とする株式会社である。 イ被告は、合成樹脂の製品加工等を目的とする株式会社である。 (2) 原告の意匠権原告は、次の各意匠に係る意匠権を保有している。乙3意匠は、本件意匠の基礎意匠である。 ア乙3意匠(乙3)(ア) 意匠に係る物品:液体石鹸ディスペンサー用容器 (イ) 登録番号:第1630787号(ウ) 出願日:平成30年8月30日(エ) 登録日:平成31年4月12日(オ) 意匠の図面:別紙「乙3意匠(図面)」のとおりイ本件意匠(甲3、4) 登録番号:第1630787号(ウ) 出願日:平成30年8月30日(エ) 登録日:平成31年4月12日(オ) 意匠の図面:別紙「乙3意匠(図面)」のとおりイ本件意匠(甲3、4) (ア) 意匠に係る物品:液体石鹸ディスペンサー用容器(イ) 登録番号:第1707515号(ウ) 出願日:令和3年6月2日(エ) 登録日:令和4年2月4日(オ) 意匠の図面:別紙「本件意匠(図面)」のとおり (3) 被告の意匠権被告は、次の乙4意匠に係る意匠権を保有している。 ア意匠に係る物品:液体供給用容器イ登録番号:第1725892号ウ出願日:令和4年4月27日 エ登録日:令和4年9月16日 オ意匠の図面:別紙「乙4意匠(図面)」のとおり(4) 被告商品の販売被告は、遅くとも令和5年6月から、業として、ECサイトである楽天市場において被告商品の販売を開始し、その後、他の複数のECサイトで被告商品を販売した。被告商品の形状は、別紙「被告商品の形状」のとおりである。 (5) 原告による警告ア被告は、被告商品の販売前から被告先行商品を販売していた。 原告は、被告先行商品を販売していた株式会社ニトリに対し、当該販売が本件意匠権の侵害であるとして被告先行商品の販売の差止めを求め、ニトリとの間で、被告先行商品が本件意匠の権利範囲に属することを認めることを 前提に、販売数を限定した被告先行商品の販売の許諾(有償ライセンス)等を内容とする合意をした(甲10)。 イその後、原告は、被告商品の販売を確認し、令和5年6月19日、被告に対し、被告商品の販売が本件意匠権を侵害する旨通知した。しかし、被告は、被告商品の販売を継続した。 4 争点 0)。 イその後、原告は、被告商品の販売を確認し、令和5年6月19日、被告に対し、被告商品の販売が本件意匠権を侵害する旨通知した。しかし、被告は、被告商品の販売を継続した。 4 争点(1) 本件意匠と被告意匠が類似するか(争点1・請求原因)(2) 被告意匠は本件意匠又はこれと類似する意匠を「利用する」(意匠法26条)ものであるか(争点2・請求原因)(3) 原告の被った損害の額(争点3・請求原因) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件意匠と被告意匠が類似するか)について【原告の主張】(1) 本件意匠及び被告意匠の構成態様本件意匠と被告意匠の各構成態様は、別紙「構成態様一覧表」の「本件意匠」 及び「被告意匠」の各「原告の主張」欄記載のとおりである。 (2) 本件意匠と被告意匠が類似することア本件意匠の要部ポンプタイプの「液体石鹸ディスペンサー用容器」は、着脱可能なポンプを取り外してシャンプー等を補充されることが一般的であり、更に着脱可能な蓋を備える構成を採用する必要はない。しかし、本件意匠は、一般的なデ ィスペンサーと異なり、ポンプのみならず蓋も着脱可能な構成とすることにより、容易にシャンプー等を補充し、詰替用の袋入りシャンプー等を袋のまま装填することを可能とし、これにより、詰め替え時に容器内部を洗浄することを不要とした。詰替用の「液体石鹸ディスペンサー用容器」においては、着脱可能な蓋を具備する構成は、その用途・目的に照らし、重要な構成であ り、被告商品のパッケージにも、蓋の着脱のイラストとともに、「袋のまま詰め替え可能」と記載されている。また、本件意匠の出願当時、基本的構成態様(A)ないし(D)を組み合わせた「液体石鹸ディスペンサー用容器」や 品のパッケージにも、蓋の着脱のイラストとともに、「袋のまま詰め替え可能」と記載されている。また、本件意匠の出願当時、基本的構成態様(A)ないし(D)を組み合わせた「液体石鹸ディスペンサー用容器」や、基本的構成態様(A)ないし(D)と具体的構成態様(I-1)の全てを組み合わせた「液体石鹸ディスペンサー用容器」は存在しなかった。 以上のとおり、物品の性質、目的、用途、使用態様を考慮すると、容器本体、マグネットの形状、容器とマグネットの位置関係、大小関係の有機的結合について看者が最も注意を惹かれるといえるから、本件意匠の要部は、基本的構成態様(A)ないし(D)と具体的構成態様(I-1)である。 なお、被告の指摘する先行意匠(乙1、乙2)には、本件意匠の容器本体 や蓋本体の構成、容器本体と蓋本体とを組み合わせた態様、使用状態におけるマグネットの機能・用途を含むマグネットの構成・形状のすべてを組み合わせた意匠は存在しない。仮に、「容器の壁取付面にマグネットを付して利用すること」が公知であったとしても、本件意匠のマグネットの機能及び用途とは異なる。また、被告が要部であると主張するマグネット部分は、通常 の使用態様では見えない部分であるから、需要者は注視しない。 イ類否本件意匠と被告意匠は、物品、対象部分の位置、大きさ及び範囲において共通する上、本件意匠の要部である基本的構成態様(A)ないし(D)のすべて、及び具体的構成態様の(E)(G)において共通し、蓋本体及び容器本体の外形・寸法やマグネットの基本的形状を含む構成の多くの構成において 共通する。本件意匠と被告意匠は、要部である具体的構成態様(I-1)のマグネットの大きさが「略全面」であるか「大部分」であるかとの点で相違するが、上記相違点は使 を含む構成の多くの構成において 共通する。本件意匠と被告意匠は、要部である具体的構成態様(I-1)のマグネットの大きさが「略全面」であるか「大部分」であるかとの点で相違するが、上記相違点は使用状態において外観に表れないマグネットの構成比率の微差にすぎず、「縦長長方形状」であるとの基本的な形状の点では共通する。また、本件意匠と被告意匠は、具体的構成態様(F)(H)(I-2) において相違するが、これらの点は、蓋本体の上面の若干の傾斜の有無、蓋本体の側面への延出部の有無、及び滑り止めの有無であり、いずれも微差や設計上の微調整にすぎず、外観に与える影響は極めて小さい。 以上によれば、本件意匠と被告意匠は類似する。 【被告の主張】 (1) 本件意匠及び被告意匠の構成態様本件意匠と被告意匠の各構成態様は、別紙「構成態様一覧表」の「本件意匠」及び「被告意匠」の各「被告の主張」欄記載のとおりである。 (2) 本件意匠と被告意匠が類似しないことア本件意匠の要部 公知意匠は要部になり得ないから、公知な構成である容器本体及び蓋本体の構成、すなわち、基本的構成態様(A)ないし(C)は要部ではない。また、本件意匠は、容器をマグネットで壁面に取り付ける点が重要な物品であり、需要者はマグネット部分を注視するが、マグネットを設ける構成自体は公知であるから、基本的構成態様(D)は要部とはならない。そうすると、 ①マグネットが貼り付けられている面の具体的形状、又は、②マグネットの 形状を含む具体的構成態様のほぼすべてが要部となる。 本件意匠のマグネットシートは、壁取付面の縦約92パーセント、横約68パーセントの大きさであり、ほぼ面全面に亘って広く設けられている点が特徴であり、これにより、マグネット すべてが要部となる。 本件意匠のマグネットシートは、壁取付面の縦約92パーセント、横約68パーセントの大きさであり、ほぼ面全面に亘って広く設けられている点が特徴であり、これにより、マグネットでしっかり壁面に取り付けられるとの印象を受ける。また、長方形のマグネットの形状は、角丸正方形筒状の容器 本体の形状とあいまってシンプルな形状であるとの印象を受ける。 以上から、本件意匠の要部は、少なくとも、マグネットの形状である具体的構成態様(I)「マグネットは、容器本体の壁取付面の略全体に亘って広く設けられた縦長長方形シート状であり、横、縦の長さ比は、約1:2.9となっている。」及び(J)「マグネットは、容器本体から突出しており、突出 部の形状は縦長長方形である。」である。 イ類否本件意匠と被告意匠は、①容器や蓋の形状である基本的構成態様(A)ないし(C)及び具体的構成態様(E)(G)、並びに、マグネットが存在するとの基本的構成態様(D)において共通し、②蓋の一部の形状である具体的 構成態様(F)(H)、並びに、壁取付面のマグネットの具体的形状である具体的構成態様(I)(J)及び防滑シートの有無(具体的構成態様(J))において相違し、要部において相違している。 また、被告意匠のマグネットは、本件意匠よりも容器の側面全体からみて細く、防滑シートと合わせると突出部が「I型」の形状となっているため、 被告意匠には、本件意匠のマグネット形状が与えるシンプルかつしっかりとした美感や印象がない。さらに、被告意匠の防滑シートは、マグネットと異なる素材が用いられているため、被告意匠は、需要者の注目する壁取付面にマグネット以外の部材がついている印象を強く受け、マグネットが略全体に存在することによる本件意匠の美感や印 ートは、マグネットと異なる素材が用いられているため、被告意匠は、需要者の注目する壁取付面にマグネット以外の部材がついている印象を強く受け、マグネットが略全体に存在することによる本件意匠の美感や印象とは異なる。 したがって、本件意匠と被告意匠は類似しない。なお、被告商品は、乙4 意匠の実施品であるが、乙4意匠は本件意匠と類似しないからこそ意匠登録を受けている。 2 争点2(被告意匠は本件意匠又はこれと類似する意匠を「利用する」(意匠法26条)ものであるか)について【原告の主張】 (1) 第三者の実施する意匠が、他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠(部分意匠を含む。)をそのまま実施する場合、当該登録意匠を利用するもの(意匠法26条)として意匠権の侵害となる。上記の実施の有無は、一個の意匠を構成する一部が登録意匠全部と同一又は類似であるか否かを検討すべきである。 (2) 被告意匠は、次の構成を有する意匠を包含する。 (基本的構成態様)a 全体が、蓋本体及び容器本体から成っている。 b 容器本体は、上面に開口を有する縦長の角丸正方形筒状である。 c 蓋本体は、容器本体の上面の開口に合わせた角丸正方形状であって、容器本体に取り付けた状態ではプレートのように見えるものである。 d 容器本体の壁取付面には、縦長長方形シート状のマグネットが貼り付けられている。 (具体的態様)e 容器本体は、横、奥行き、高さの長さ比を、約1対1対2.4としたものである。 f 蓋本体の上面は、中央に近づくに従って上方に向かって若干傾斜したものである。 g 蓋本体の下面には、蓋本体の外形よりも一回り小さい角丸正方形枠状の突部を形成している。 h 蓋本体のすべての側面を外方向に延出しないように形成 に従って上方に向かって若干傾斜したものである。 g 蓋本体の下面には、蓋本体の外形よりも一回り小さい角丸正方形枠状の突部を形成している。 h 蓋本体のすべての側面を外方向に延出しないように形成している。 i マグネットは、容器本体の壁取付面の略全体に亘って広く設けた縦長長方 形シート状であり、横、縦の長さ比は、約1対3.3となっている。 被告意匠に包含された上記意匠と本件意匠は、全ての基本的構成態様と具体的構成態様(E)(G)において共通するところ、共通点は、蓋本体及び容器本体の外形・寸法やマグネットの基本的形状に関する構成である。被告意匠に包含された上記意匠と本件意匠は、蓋本体の上面の若干の傾斜の有無、蓋本体の 側面への延出部の有無、及びマグネットの縦横比率の微差において相違するが、相違点が外観に与える影響は極めて小さい。したがって、被告意匠に包含された上記意匠は、本件意匠と類似し、また、意匠の特徴が破壊されることなく、他の部分(滑止め部分)と区別し得る態様において存在するといえる。 (3) 以上によれば、被告意匠は、本件意匠を利用するもの(意匠法26条)とい える。 【被告の主張】(1) 意匠の利用関係が成立するには、①ある意匠が他の登録意匠又はこれに類似する意匠の特徴をそっくりそのまま残して包含していること、②登録意匠又はこれに類似する意匠が他の構成要素と区別して美感を起こさせることが必要 である。上記1【被告の主張】のとおり、本件意匠と原告が被告意匠に包含されると主張する意匠とは、「マグネットは、容器本体の壁取付面の略全体に亘って広く設けた」との構成で相違し、マグネットの形状の相違や防滑シートの有無による印象や美感が大きく異なる。また、本件意匠のマグネットと防滑シートは、別素材であっ は、容器本体の壁取付面の略全体に亘って広く設けた」との構成で相違し、マグネットの形状の相違や防滑シートの有無による印象や美感が大きく異なる。また、本件意匠のマグネットと防滑シートは、別素材であって突出部として一体となった「I型」の形状であるが、 原告が被告意匠に包含されると主張する意匠に当該構成はないから、当該意匠は、本件意匠の特徴が破壊されているといえる。よって、少なくとも上記①の要件を欠く。 (2) また、利用関係が成立する類型としては、①2つの意匠の物品が類似しない場合と②2つの意匠の物品が同一であるが、他人の登録意匠に更に形状、模様、 色彩等を結合して全体として別個の意匠とした場合の2つの類型があり、本件 意匠と被告意匠の物品は同一又は類似であるから、本件においては②の類型のみが妥当するが、②の類型では原則として利用関係は成立しない。また、本件意匠と被告意匠では、蓋の形状やマグネットの大きさ、壁取付面の突出部の形状が相違するため、②の類型において利用関係が成立すると解される事情、すなわち、ある意匠が他の登録意匠又はこれに類似する意匠の特徴をそっくりそ のまま残して包含していることや、他の登録意匠又はこれに類似意匠の特徴が他の構成要素と区別して美感を起こさせること、がいずれも存在しない。 (3) 以上によれば、被告意匠が本件意匠を利用するものであるとはいえない。 3 争点3(原告の被った損害の額)について【原告の主張】 被告は、令和5年6月以降、少なくとも5万個の被告商品を販売している。 被告商品の販売価格は1798円であり、利益率はその3割を下らない。 以上から、意匠法39条2項に基づき、原告の受けた損害は少なくとも2697万円(=1798円×0.3×5万個)と推定される。 被告商品の販売価格は1798円であり、利益率はその3割を下らない。 以上から、意匠法39条2項に基づき、原告の受けた損害は少なくとも2697万円(=1798円×0.3×5万個)と推定される。 【被告の主張】 否認し争う。 第4 判断 1 争点1(本件意匠と被告意匠が類似するか)について(1) 本件意匠と被告意匠の構成についてア本件意匠の構成 本件意匠は、別紙「本件意匠(図面)」のとおりであり、その構成は、別紙「構成態様一覧表」の「本件意匠」の「裁判所の認定」欄のとおりと特定される。 原告は、マグネットの突出を構成として挙げていないが、上記図面(【斜視図】【正面図】【背面図】)によれば、マグネット部分は、壁取付面において突 出(凸状)していることは明らかであり、美感にも影響する形状であるから、 この点は具体的構成態様として特定するのが相当である。 イ被告意匠の構成被告意匠の構成は、別紙「構成態様一覧表」の「被告意匠」の「裁判所の認定」欄のとおりと特定される。 原告は、防滑シートとマグネットから成る形状を具体的構成態様として位 置付けない旨主張するが、被告意匠の防滑シートとマグネットは壁取付面において本体から突出し、ある程度の大きさを有し、接して配置されていることからすると(甲12)、これらの形状は美感にも影響する形状といえるから、具体的構成として特定するのが相当である。 (2) 本件意匠と被告商品との類否の判断手法 登録意匠とそれ以外の意匠が類似するか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うこととされている(意匠法24条2項)ところ、類否の判断は、登録意匠に係る物品の性質、用途、使用態様を考慮し、更には公知意匠にはない新 否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うこととされている(意匠法24条2項)ところ、類否の判断は、登録意匠に係る物品の性質、用途、使用態様を考慮し、更には公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して、当該意匠に係る物品の看者となる需要者の視覚を通じて最も注意を惹きやすい部分(意匠の要部) を把握し、この部分を中心に、両意匠の構成を全体的に観察・対比して認定された共通点と差異点を総合して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かによって判断するのが相当である。 (3) 本件意匠の要部ア物品の性質、用途、使用態様 本件意匠に係る物品は、「液体石鹸ディスペンサー用容器」である。 本件意匠は、シャンプー等の液体石鹸用のディスペンサー容器であり、背面側のマグネットを利用して壁面に取り付けた状態で使用することもできるものである(甲3:意匠公報の「意匠に係る物品の説明」)。 そうすると、本件意匠の需要者は、上記容器を購入又は購入を検討する消 費者であると認められる。そして、需要者は、上記容器を壁面に取り付けな い場合には、ディスペンサー容器としての使いやすさやインテリアとの協調性から、その前面や側面の形状に注意を惹かれやすいといえるが、壁面に取り付けて使用する場合には、壁面への接着の強度等への関心から、上記容器の背面(取付面)の形状に注意を惹かれやすい。 イ公知意匠 本件意匠の登録出願日(令和3年6月2日)時点では、①縦長の角丸正方形筒状の容器本体を備える複数の液体用又は泡用ディスペンサー(乙1・番号1、3,4、6、10)、②上記形状の容器本体の背面に略全体に亘って縦長長方形シート状のマグネットが貼り付けられた液体用ディスペンサー(乙1・番号2)、③縦 液体用又は泡用ディスペンサー(乙1・番号1、3,4、6、10)、②上記形状の容器本体の背面に略全体に亘って縦長長方形シート状のマグネットが貼り付けられた液体用ディスペンサー(乙1・番号2)、③縦長の容器本体の背面に縦長長方形シート状のマグネット や滑り止めを備えた歯ブラシホルダー(乙2・番号2、乙11)、略横長長方形状又は台形状の本体の背面に略全体に亘って横長長方形シート状のマグネットが貼り付けられた石鹸置きやトレイ等(乙2・番号3ないし6、乙12ないし16)が存在した(うち、②及び③は、いずれも浴室壁面や金属壁面に取り付けて使用されるものである。)。また、上記時点において、④原告 は、上面に開口を有する縦長角丸正方形筒状の容器本体と同上面の開口に合わせた角丸正方形状の着脱可能な蓋本体から成り、容器本体に取り付けた状態では薄いプレート板状となる、液体用ディスペンサーを販売していた(乙8。取扱開始日は平成26年2月21日。)。 ウ要部の検討 本件意匠に係る物品の性質、用途、使用態様は、上記アのとおりである。 そして、上記イによれば、本件意匠の登録出願時点において、液体用ディスペンサーにおいて、縦長角丸正方形筒状の容器本体を有する構成(上記イ①)や、上面に開口を有する縦長角丸正方形筒状の容器本体及び同開口に合わせた角丸正方形状の蓋を有する構成(上記イ④)、本体の背面に略全体にわた ってマグネットを貼り付ける構成(上記イ③)はいずれも公知であったとい える。 以上を前提に、上記(2)の判断手法に沿って意匠の要部を検討すると、液体用ディスペンサーの上面に開口を有する容器本体と蓋を備えることや、容器本体及び蓋の形状、容器本体の背面にマグネットを貼り付ける構成は、いずれも公知であるか、又は機能的 て意匠の要部を検討すると、液体用ディスペンサーの上面に開口を有する容器本体と蓋を備えることや、容器本体及び蓋の形状、容器本体の背面にマグネットを貼り付ける構成は、いずれも公知であるか、又は機能的形態であり、本件意匠の要部であるとはい えない。本件意匠の使用態様が、浴室等の壁面に取り付けるものであることからすれば、本件意匠の需要者は、容器本体の正面のみならず、マグネットを含めた容器本体の背面(壁取付面)の具体的な形状に最も注意が惹かれるというべきであるところ、正面の構成は上記のとおり公知であるから、本件意匠の要部は、マグネットを含めた容器本体の背面(壁取付面)、すなわち、 具体的構成態様I及びJであると認めるのが相当である。 これに対し、原告は、本件意匠のすべての基本的構成及び具体的構成の組合せが要部になると主張するが、上記(2)の意匠の類否の判断手法とは相容れないものであり、採用できない。 (4) 類否の判断 本件意匠及び被告意匠は、基本的構成態様A、B及びD、並びに、具体的構成態様E及びGにおいて共通し、基本的構成態様C及び具体的構成態様F、HないしJにおいて相違する。 上記共通点は、いずれも本件意匠の要部に関する構成ではないのに対し、上記相違点は、蓋の形状に関する相違は微細な相違であるといえるが、容器本体 の壁取付面の形状(具体的構成態様I及びJ)に関する相違は、本件意匠の要部に関する相違である。具体的にみると、本件意匠では、縦長長方形シート状(横縦比率約1対2.9)のマグネットが同面の略全体にわたって配置されており、需要者にシンプルですっきりとした印象を与えるものといえる。これに対し、被告意匠では、縦長長方形シート状(横縦比率約1対3.3)のマグネ ットだけでなく、その上下に横長 たって配置されており、需要者にシンプルですっきりとした印象を与えるものといえる。これに対し、被告意匠では、縦長長方形シート状(横縦比率約1対3.3)のマグネ ットだけでなく、その上下に横長長方形状の防滑シートが各1枚接して配置さ れ、マグネットと防滑シートを組み合わせた形状は縦長長方形状ではなく「I字」状となっており、需要者には、これらが上記面から突出してこともあって、凸凹部のあるしっかりとした形状であるとの印象を与えるが、構成が複雑となっていることからすっきりとした印象は受けないといえる。 このように、本件意匠と被告意匠は、要部において顕著な相違があり、上記 共通点を考慮しても、両意匠の共通の美感を凌駕するものではなく、需要者が受ける全体としての美感を異にするものというべきである。 (5) 小括以上によれば、本件意匠と被告意匠は類似するとは認められない。 2 争点2(被告意匠は本件意匠又はこれと類似する意匠を「利用する」(意匠法2 6条)ものであるか)について意匠の利用(意匠法26条)とは、ある意匠がその構成要素中に他の登録意匠又はこれに類似する意匠の全部を、その特徴を破壊することなく、他の構成要素と区別し得る態様において包含し、この部分と他の構成要素との結合により全体としては他の登録意匠とは非類似の意匠をなすが、この意匠を実施すると必然的 に他の登録意匠を実施する関係にある場合をいうと解するのが相当である。 上記1によれば、本件意匠と被告意匠は、複数の構成において共通するが、容器本体の壁取付面の形状において顕著な相違があるところ、この相違点は、需要者が最も注意を惹かれやすい部分(要部)、すなわち、各意匠の特徴部分に関する相違点である。このように、意匠の特徴部分において両意匠 体の壁取付面の形状において顕著な相違があるところ、この相違点は、需要者が最も注意を惹かれやすい部分(要部)、すなわち、各意匠の特徴部分に関する相違点である。このように、意匠の特徴部分において両意匠は相違していることからすれば、被告意匠が、本件意匠又はこれに類似する意匠の全部を「その特徴を破壊することなく、他の構成要素と区別し得る態様において包含」するとはいえない。よって、被告意匠は、本件意匠又はこれと類似する意匠を「利用する」ものであると認めることはできない。争点2に係る原告の主張は、理由がない。 第5 結論 以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 松阿彌隆 裁判官 島田美喜子 裁判官 阿波野右起 (別紙)被告商品目録 製品名 ディスペンサー 品番 5205 (別紙)本件意匠(図面) ・実線で表された部分が、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。「内部機構を省略したA-A線断面図」を含めて意匠登録を受けようとする部分を特定している。 【図面】 とする部分である。 内部機構を省略したA-A線断面図を含めて意匠登録を受けようとする部分を特定している。 【図面】 (別紙)乙3意匠(図面) 実線で表された部分が、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。内部機構を省略したA-A線断面図を含めて意匠登録を受けようとする部分を特定している。 【図面】 (以下、省略) (別紙)乙4意匠(図面) 実線で表した部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。一点鎖線は、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界を示すためのみに引いた線である。右側面図は左側面図と対称に表れる。 【図面】 (別紙)被告商品の形状 【正面部】【背面部】【側面部】【側面部】 【平面部】【底面部】※斜視
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