令和5(行ウ)20

裁判年月日・裁判所
令和7年3月25日 奈良地方裁判所
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判決文本文23,635 文字)

令和7年3月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(行ウ)第20号平群町メガソーラー林地開発許可処分取消請求事件口頭弁論終結日令和7年1月14日判決当事者の表示別紙1当事者目録記載のとおり 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 奈良県知事が令和5年2月24日付けで参加人に対してした林地開発許可処分(奈良県指令森と人第44号の8)を取り消す。 第2 事案の概要本件は、参加人が奈良県知事から森林法(以下「法」という。)10条の2による林地開発許可を受けて生駒郡平群町に大規模太陽光発電所(いわゆるメガ ソーラー)を建設していることにつき、開発区域の下流域に居住する原告らが、被告を相手に、林地開発許可処分の取消しを求める事案である。 1 関係法令等の定め(1) 森林法ア法10条の2第1項は、地域森林計画の対象となっている民有林(法2 5条又は法25条の2の規定により指定された保安林並びに法41条の規定により指定された保安施設地区の区域内及び海岸法3条の規定により指定された海岸保全区域内の森林を除く。)において開発行為(土石又は樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為で、森林の土地の自然的条件、その行為の態様等を勘案して政令で定める規模をこえるものをいう。 以下同じ。)をしようとする者は、農林水産省令で定める手続に従い、都道 府県知事の許可を受けなければならない旨を規定している。なお、法10条の2第1項の政令で定める規模は、専ら道路の新設又は改築を目的とする行為以外の行為にあっては、土地の面積1ha とされている(森林法施行令〔令和4年政令 ればならない旨を規定している。なお、法10条の2第1項の政令で定める規模は、専ら道路の新設又は改築を目的とする行為以外の行為にあっては、土地の面積1ha とされている(森林法施行令〔令和4年政令第313号による改正前のもの〕2条の3)。 イ法10条の2第2項は、都道府県知事は、同条1項の許可の申請があっ た場合において、次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、これを許可しなければならない旨を規定している。 (ア) 当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること(1号)。 (イ) 当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること(1号の2)。 (ウ) 当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい 支障を及ぼすおそれがあること(2号)。 (エ) 当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること(3号)。 ウ法10条の2第6項は、都道府県知事は、同条1項の許可をしようとす るときは、都道府県森林審議会及び関係市町村長の意見を聞かなければならない旨を規定している。 (2) 林野庁の関係通知林野庁は、地方自治法245条の4の規定による技術的助言として、次の通知等を発出している(以下「関係通知」と総称する。)。 ア 「開発行為の許可制に関する事務の取扱いについて」(平成14年3月2 9日付け1 5条の4の規定による技術的助言として、次の通知等を発出している(以下「関係通知」と総称する。)。 ア 「開発行為の許可制に関する事務の取扱いについて」(平成14年3月2 9日付け13林整治第2396号農林水産事務次官依命通知〔最終改正・平成29年3月9日付け28林整治第2173号、甲100〕、令和4年11月15日付け4林整治第1187号による改正前のもの。以下、同通知の別記「開発行為の許可基準の運用について」を「運用基準」という。)(ア) 運用基準第2の7は、法10条の2第2項1号関係事項として、「下流 の流下能力を超える水量が排水されることにより災害が発生するおそれがある場合には、洪水調節池等の設置その他の措置が適切に講ぜられることが明らかであること。」と定めている。 (イ) 運用基準第3は、法10条の2第2項1号の2関係事項として、「開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能に依存する地域において、 当該開発行為に伴い増加するピーク流量を安全に流下させることができないことにより水害が発生するおそれがある場合には、洪水調節池の設置その他の措置が適切に講ぜられることが明らかであること。」と定めている。 イ 「開発行為の許可基準の運用細則について」(平成14年5月8日付け1 4林整治第25号林野庁長官通知〔最終改正・令和元年12月24日付け元林整治第690号、甲71〕、令和4年11月15日付け4林整治第1188号による廃止前のもの。以下「運用細則」という。)(ア) 運用細則第2の8(1)は、運用基準第2の7の洪水調節池等の設置に係る技術的細則として、「洪水調節容量は、下流における流下能力を考慮 の上、30年確率で想定される雨量強度における開発中及び開発後のピーク流量を開発前のピーク流量 2の7の洪水調節池等の設置に係る技術的細則として、「洪水調節容量は、下流における流下能力を考慮 の上、30年確率で想定される雨量強度における開発中及び開発後のピーク流量を開発前のピーク流量以下にまで調節できるものであること。 また、流域の地形、地質、土地利用の状況等に応じて必要な堆砂量が見込まれていること。」と定めている。 (イ) 運用細則第3の1は、運用基準第3の洪水調節池等の設置に係る技術 的細則として、「洪水調節容量は、当該開発行為をする森林の下流におい て当該開発行為に伴いピーク流量が増加することにより当該下流においてピーク流量を安全に流下させることができない地点が生ずる場合には、当該地点での30年確率で想定される雨量強度及び当該地点において安全に流下させることができるピーク流量に対応する雨量強度における開発中及び開発後のピーク流量を開発前のピーク流量以下までに調節でき るものであること。また、流域の地形、土地利用の状況等に応じて必要な堆砂量が見込まれていること。なお、安全に流下させることができない地点が生じない場合には、第2の8の(1)によるものであること。」と定めている。 ウ 「開発行為の許可基準の運用細則の適用について」(平成14年5月8日 付け14林整治第82号林野庁森林整備部長通知〔最終改正・平成25年4月1日付け24林整治第2658号、甲101〕、令和4年11月15日付け4林整治第1188号に伴い廃止された。以下「82号通知」という。)(ア) 82号通知第3の2は、運用細則第2の8(1)関係事項として、「『下流における流下能力を考慮の上』とは、開発行為の施工前において既に3 年確率で想定される雨量強度におけるピーク流量が下流における流下能力を超えるか否かを調査の上、必要があ 係事項として、「『下流における流下能力を考慮の上』とは、開発行為の施工前において既に3 年確率で想定される雨量強度におけるピーク流量が下流における流下能力を超えるか否かを調査の上、必要があれば、この超える流量も調節できる容量とする趣旨である。」と定めている。 (イ) 82号通知第4の2は、運用細則第3の1関係事項として、「『当該開発行為に伴いピーク流量が増加する』か否かの判断は、当該下流のうち 当該開発行為に伴うピーク流量の増加率が原則として1%以上の範囲内とし、『ピーク流量を安全に流下させることができない地点』とは、当該開発行為をする森林の下流の流下能力からして、30年確率で想定される雨量強度におけるピーク流量を流下させることができない地点のうち、原則として当該開発行為による影響を最も強く受ける地点とする。なお、 当該地点の選定に当たっては当該地点の河川等の管理者の同意を得てい るものでなければならない。」と定めている。 (3) 奈良県の「林地開発許可制度の手引き」奈良県水循環・森林・景観環境部森と人の共生推進課(旧・森林整備課、現・環境森林部森林環境課)は、前記(2)の林野庁の関係通知に準拠して、林地開発行為の許可基準を「林地開発許可制度の手引き(令和2年度改訂版)」 (乙59。以下「手引き」という。)第3章において定めている。その内容は、別紙2のとおりである。 (4) 調整池の技術基準奈良県県土マネジメント部河川整備課(旧・河川課)は、調整池の技術基準として、「宅地及びゴルフ場等開発に伴う調整池技術基準(平成2年5月改 訂)」(乙2。以下「ゴルフ場基準」という。)及び「大和川流域調整池技術基準(平成30年3月)」(甲20。以下「大和川基準」という。)を定めている。 その内容は、ゴルフ 術基準(平成2年5月改 訂)」(乙2。以下「ゴルフ場基準」という。)及び「大和川流域調整池技術基準(平成30年3月)」(甲20。以下「大和川基準」という。)を定めている。 その内容は、ゴルフ場基準は別紙3、大和川基準は別紙4のとおりである。 大和川流域における5ha 以上の特定開発行為(後記(5)ア参照)に対しては、ゴルフ場基準と大和川基準の「2つを適用し、厳しい方の比流量、必要 容量を採用する」ものとされている(大和川基準1-2節の解説(2))。 (5) 大和川流域における総合治水の推進に関する条例大和川流域における総合治水の推進に関する条例(平成29年奈良県条例第13号〔甲21〕、令和4年奈良県条例第10号による改正前のもの。以下「大和川条例」という。)の内容は、別紙5のとおりであり、その概要は次の とおりである。 ア大和川条例における「特定開発行為」とは、大和川流域(同条例2条1号参照)における同条例2条8号ア~オのいずれかに該当する行為をいい、同号イは、森林法10条の2第1項の規定により知事の許可を受けなければならない同項に規定する開発行為に該当する行為を掲げている。 イ大和川条例9条2項は、特定開発行為をする者(以下「特定開発行為者」 という。)は、知事が定める基準に基づき、防災調整池その他知事が必要と認める施設(以下「防災調整池等」という。)を設置しなければならない旨を規定している。 ウ大和川条例10条1項は、知事は、同条例9条2項の規定に違反して防災調整池等を設置しない特定開発行為者に対し、期限を定めて、防災調整 池等の設置を命ずることができる旨を規定している。 エ大和川条例10条2項は、知事は、特定開発行為者が設置する防災調整池等が、同条例9条2項に規定する基準に適合 対し、期限を定めて、防災調整 池等の設置を命ずることができる旨を規定している。 エ大和川条例10条2項は、知事は、特定開発行為者が設置する防災調整池等が、同条例9条2項に規定する基準に適合しないと認めるときは、当該特定開発行為者に対し、期限を定めて、当該防災調整池等を当該基準に適合させるために必要な措置を講ずべきことを命ずることができる旨を規 定している。 2 前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠等により容易に認められる事実)(1) 当事者ア参加人は、生駒郡平群町大字櫟原792番地ほか所在の土地約48ha を事業区域として太陽光発電所「生駒平群発電所」(以下「本件メガソーラー」 という。)を建設する事業を令和2年に生駒平群発電株式会社から承継した会社である(甲7、8)。 イ原告らは、本件メガソーラーの開発区域の下流域に居住する住民である(甲1、弁論の全趣旨)。 (2) 令和元年許可 ア生駒平群発電株式会社は、奈良県知事に対し、平成31年4月8日、本件メガソーラーの建設工事につき法10条の2による林地開発許可の申請をし(甲3)、奈良県知事は、令和元年11月1日、これを許可した(奈良県指令森第44号の8〔甲4〕。以下「令和元年許可」という。)。 なお、同社は、上記申請のほかに、奈良県知事に対し、平成31年4月 8日、宅地造成等規制法(令和4年法律第55号による改正前のもの。以 下同じ。)8条1項本文の宅地造成に関する工事の許可の申請をし(甲5)、奈良県知事は、令和元年11月1日、これを許可した(甲6)。 イ許可を受けた林地開発行為者の地位を生駒平群発電株式会社から承継した参加人は、奈良県知事に対し、令和3年2月16日、令和元年許可に係る林地開発行為につき変更の申請をした(甲 許可した(甲6)。 イ許可を受けた林地開発行為者の地位を生駒平群発電株式会社から承継した参加人は、奈良県知事に対し、令和3年2月16日、令和元年許可に係る林地開発行為につき変更の申請をした(甲7、10)。 (3) 「考える会」の申入れと行政指導による工事の停止ア原告らを含む平群町内外に居住する住民980名は、令和3年3月8日、本件メガソーラーの建設工事の差止めを求める民事訴訟を提起した(当庁令和3年(ワ)第101号、顕著な事実)。 イ平群町の住民らにより組織される「平群のメガソーラーを考える会」は、 奈良県知事に対し、令和3年5月19日、前記(2)アの申請及び同イの変更申請の内容は下流水路の勾配(全ての測点で180‰とされていた。)等に重大な誤りがあり、このまま開発が行われた場合には極めて危険な災害の発生が想定されるとして、申請内容の再審査及び法10条の3による参加人に対する開発行為の中止命令を求める旨の申入れをした(甲14)。 ウ奈良県は、参加人に対し、令和3年6月15日、次の内容の行政指導をし、同月22日、その内容を記載した書面を交付した(甲15、16)。 (ア) 奈良県が申請内容について森林法及び宅地造成等規制法に規定する基準に適合すると認めるまで、工事は停止すること。 (イ) 工事の再開に際しては、先行して防災調整池の工事を終えたことを奈 良県が確認するまでは、全体の造成工事に着手しないこと。 エ参加人は、令和3年6月14日、本件メガソーラーの建設工事(全体の造成工事)を停止した上、前記ウの奈良県の行政指導に従い、令和5年1月頃までに、洪水調整機能を有する仮設調整池の設置を含む応急防災対策工事を完了した(甲16、37、52、93、乙8、16)。 オ参加人は、奈良県森林審議 奈良県の行政指導に従い、令和5年1月頃までに、洪水調整機能を有する仮設調整池の設置を含む応急防災対策工事を完了した(甲16、37、52、93、乙8、16)。 オ参加人は、奈良県森林審議会に対し、令和4年7月15日、令和元年許 可に係る申請における下流河川の狭小箇所の勾配及び調整池容量の算定に誤りがあったことを認める旨の報告をした(甲93)。 (4) 変更申請とその許可ア参加人は、奈良県知事に対し、令和4年9月1日、令和元年許可に係る林地開発行為につき変更の申請をした(甲17。以下「本件変更申請」と いう。)。本件変更申請に係る変更箇所は、開発区域下流の水路及び河川の狭小箇所(ネックポイント)を再調査した結果に基づき、全ての狭小箇所の勾配を修正し、流下能力及び比流量を再計算したこと、狭小箇所のうち水路2箇所(測点K-①及びK-⑤)を改修すること、開発行為において設置する調整池の個数を3個から4個に変更し、各調整池の容量を再計算 したことなどである。上記再調査に係る狭小箇所の位置関係は別紙6、各狭小箇所の流下能力等の算定結果は別紙7のとおりである。(甲56)イ本件変更申請による変更後の林地開発行為における4個の調整池(1号調整池から4号調整池まで。以下「本件各調整池」と総称する。)の容量は、調整池下流の水路及び河川の流下能力の最小比流量が下表の上段であり、 ゴルフ場基準に基づいて算定される必要容量が下表の中段であるのに対し、計画容量(後記ウの訂正後のもの)は下表の下段である(乙53~56)。 1号調整池 2号調整池 3号調整池 4号調整池下流の流下能力の最小比流量0.024 ㎥/s/ha(測点K-8)0.043 ㎥/s/ha(測点K-12)ゴルフ場基準による必要容量 調整池 2号調整池 3号調整池 4号調整池下流の流下能力の最小比流量0.024 ㎥/s/ha(測点K-8)0.043 ㎥/s/ha(測点K-12)ゴルフ場基準による必要容量7905.91 ㎥ 10128.42 ㎥ 5818.53 ㎥ 10331.45 ㎥計画容量7922.7 ㎥10438.3 ㎥5917.2 ㎥10357.9 ㎥(注)中段の必要容量は、ゴルフ場基準(市街化調整区域につき50年確率降雨強度による。)に基づいて算定されたものであり、大和川基準に基づいて算定される必要容量がこれを上回るか否かには争いがある。 ウ奈良県森林審議会は、本件変更申請について、令和4年12月23日に林地開発審査部会を開催して審議の上、これを可決し(甲27)、その後に調整池水理計算書の訂正(乙53~56)があったことから、令和5年1月31日に同部会を再び開催して審議の上、これを可決した(甲28)。 エ奈良県知事は、参加人に対し、令和5年2月24日、本件変更申請によ る変更後の林地開発行為につき法10条の2第1項の許可をするとともに(奈良県指令森と人第44号の8〔甲2〕。以下「本件許可処分」という。)、前記(2)アの宅地造成に関する工事の許可に係る変更許可をした(甲18)。 オ原告らは、令和5年8月23日、本件許可処分の取消しを求める本件訴えを提起するとともに執行停止の申立て(当庁令和5年(行ク)第6号) をした。他方、参加人は、同年9月25日、本件許可処分に基づき、本件メガソーラーの建設工事を再開した(甲48)。その後、当裁判所は、令和6年3月28日、原告らの執行停止の申立てを却下する旨の決定をした。 3 争点及び当事者の主張の要旨本件の争点は、本件許可処分の違法性であ の建設工事を再開した(甲48)。その後、当裁判所は、令和6年3月28日、原告らの執行停止の申立てを却下する旨の決定をした。 3 争点及び当事者の主張の要旨本件の争点は、本件許可処分の違法性であり、その主たる争点は、本件許可 処分に係る本件各調整池の洪水調節容量が法10条の2第2項1号及び同項1号の2の要件に係る審査基準に適合するとした処分行政庁の判断の適否である(なお、原告らが本件許可処分の取消しを求める原告適格を有することは特に争いがなく、後記第3の1のとおり、これを認めることができる。)。 (1) 調整池の洪水調節容量について 【原告らの主張の要旨】ア大和川基準は、手引き(令和2年度改訂版)第3章Ⅰ7の「なお、洪水調整池の設置は、原則として県土マネジメント部河川課の指導による」との文言によって、法10条の2第2項1号及び同項1号の2の要件に係る処分行政庁の審査基準の内容となっている。 イ大和川基準2-6節の解説(3)にあるV/A=585㎥/ha(50年確率 降雨時〔市街化調整区域〕)という定数を用いた簡易な方法により洪水調節容量を算定してよいのは、「通常の場合」、すなわち、下流河川の流下能力が0.10㎥/s/ha 以上となる場合である。下流河川の流下能力がこれを下回る場合には、上記定数を用いた簡易な方法により洪水調節容量を算定することができないから、同基準2-6節の解説(2)及び図2-7のフロー チャートに示された厳密計算法により洪水調節容量を算定すべきである。 本件各調整池は、下流河川の流下能力がいずれも0.10㎥/s/ha を下回るから、上記定数を用いてその洪水調節容量を算定するのは誤りであり、厳密計算法により算定すると、その必要容量は下表の上段のとおりになる。 したがって、本件許 能力がいずれも0.10㎥/s/ha を下回るから、上記定数を用いてその洪水調節容量を算定するのは誤りであり、厳密計算法により算定すると、その必要容量は下表の上段のとおりになる。 したがって、本件許可処分における本件各調整池の計画容量は法10条の 2第2項1号及び同項1号の2の要件に係る審査基準である大和川基準に適合しないことになるから、本件許可処分は違法である。 1号調整池2号調整池3号調整池4号調整池大和川基準による必要容量 9195 ㎥ 14439 ㎥ 7064 ㎥ 13282 ㎥計画容量7922.7 ㎥10438.3 ㎥5917.2 ㎥10357.9 ㎥ウ大和川基準にいう「通常の場合」の意味につき被告主張の解釈を採用する場合には、同基準は下流の流下能力を考慮しないことになるから、調整池の洪水調節容量について「下流における流下能力を考慮の上」とする林 野庁の通知に反し、法の委任の範囲を超えた違法な審査基準の設定となり、これに基づいてされた本件許可処分は違法となる。 エゴルフ場基準は、前方集中型降雨波形を用い、降雨継続時間を10時間とするが、降雨継続時間を24時間以上とせず、中央集中型又は後方集中型の降雨波形を用いない点は現在の科学技術水準に照らして不合理である。 オ本件各調整池が大和川基準及びゴルフ場基準に適合するとしても、論理必然的に手引きの基準にも適合するという関係にはないにもかかわらず、 処分行政庁は、手引きの基準の適合性についての審査をしていない。 【被告の主張の要旨】ア処分行政庁は、林野庁の関係通知に準拠した林地開発行為の許可基準として手引きを定めている。これに対し、大和川基準及びゴルフ場基準は、いずれも河川課による行政指導の基準であ 【被告の主張の要旨】ア処分行政庁は、林野庁の関係通知に準拠した林地開発行為の許可基準として手引きを定めている。これに対し、大和川基準及びゴルフ場基準は、いずれも河川課による行政指導の基準であり、大和川条例施行後は同条例 9条2項の基準として位置付けられているものであって、これらの基準に適合することを林地開発行為の許可基準とするものではない。 イ本件各調整池の計画容量は、大和川基準所定の定数(50年確率降雨時〔市街化調整区域〕はQ/A=0.10㎥/s/ha、V/A=585㎥/ha)を用いて算定される必要容量(下表の上段のとおり)を上回っているから、 同基準に適合している。大和川基準は、特定開発行為に伴う流出増の抑制を目的とし、開発後のピーク流量が開発前のピーク流量を上回らないようにするための基準であり、同基準にいう「通常の場合」とは、上記定数を用いても開発後のピーク流量が開発前のピーク流量を上回らない場合には上記定数を用いることに問題がないことを意味している。本件各調整池は、 上記定数を用いても開発後のピーク流量が開発前のピーク流量を上回らないことが確認されているから、上記定数を用いることに問題はない。 1号調整池2号調整池3号調整池4号調整池大和川基準による必要容量 5098 ㎥ 5016 ㎥ 3536 ㎥ 6027 ㎥手引きの基準の必要容量 3231 ㎥ 4107 ㎥ 2619 ㎥ 4280 ㎥計画容量7922.7 ㎥10438.3 ㎥5917.2 ㎥10357.9 ㎥ウ林野庁の関係通知に準拠した手引きの基準に基づく調整池の必要容量は上表の中段のとおりであり、本件各調整池の計画容量は同基準に適合している。 (2) 原告らのその余 7.9 ㎥ウ林野庁の関係通知に準拠した手引きの基準に基づく調整池の必要容量は上表の中段のとおりであり、本件各調整池の計画容量は同基準に適合している。 (2) 原告らのその余の主張について【原告らの主張の要旨】ア本件許可処分に係る開発行為における切土、盛土等の工事は、手引き(令和2年度改訂版)第3章Ⅰ2(1)ア・イ、同2(3)ウ・エ及び同4(1)~(4)の基準に適合せず、本件許可処分は法10条の2第2項1号に違反する。 イ本件許可処分に係る開発行為においては、開発前は大釜川流域であった区域からの排水を4号調整池経由で椿台水路に流す計画とされ、これに伴い稜線部分の森林を伐採して切土を行うこととされているから、太陽光発電施設の設置を目的とする開発行為について「りょう線の一体性を維持するため、尾根部については、原則として残置森林を配置する。」とする手引 き(令和2年度改訂版)第3章Ⅳ1(1)及び表7の基準に適合せず、本件許可処分は法10条の2第2項3号に違反する。 第3 当裁判所の判断 1 原告適格について法10条の2第2項1号及び同項1号の2の規定は、土砂の流出又は崩壊、 水害等の災害防止機能という森林の有する公益的機能の確保を図るとともに、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害による直接的な被害 を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相 等の災害による直接的な被害 を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である(最高裁判所平成13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号283頁参照)。 これを本件についてみると、証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば、原告 らのうち原告Bを除く26名は3号調整池及び4号調整池の下流水路沿いに位 置する椿台団地に居住しており、各原告の住所地の当該水路からの距離は約300m以内であること、原告Bは本件各調整池の下流河川の狭小箇所(測点K-12)付近に居住していることが認められる。以上の事実によれば、原告らは、本件許可処分に係る開発行為に起因する水害等の災害が発生した場合に直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住するものと認められる から、本件許可処分の取消しを求める原告適格を有すると認められる。 2 本件許可処分の違法性について(1) 調整池の洪水調節容量についてア判断枠組み法10条の2第2項は、都道府県知事は、同条1項の許可の申請があっ た場合において、同条2項各号のいずれにも該当しないと認めるときは、これを許可しなければならない旨を規定する。同条1項の林地開発行為の許可に関する事務は、都道府県の自治事務であり、同条2項各号の要件に係る審査基準の設定は、都道府県知事の権限に属する。そして、奈良県は、林野庁の関係通知に準拠して、法10条の2第2項各号の要件に係る審査 基準を手引き(令和2年度改訂版)第3章において定めている。 ところで、法10条の2第1項の許可の申請に係る調整池の設置計画が同条2項1号又は同項1号の2の要件に係る審査基準に適合するか否かを都 基準を手引き(令和2年度改訂版)第3章において定めている。 ところで、法10条の2第1項の許可の申請に係る調整池の設置計画が同条2項1号又は同項1号の2の要件に係る審査基準に適合するか否かを都道府県知事が審査するには、当該審査基準において、洪水到達時間、流出係数、ピーク流量及び洪水調節容量の計算方法等のほか、当該地域(流 域)の実情に応じた計画対象降雨の降雨強度曲線(式)、降雨継続時間等の技術的事項を具体的に定めておくことが必要不可欠である。また、「水害の防止に係る洪水調節池等の設置に係る計画例について」(平成25年4月1日付け24林整治第第2657号林野庁治山課長通知〔甲83〕)にも「なお、以下は参考例であって、各都道府県の実情に応じて計画することを妨 げるものではないので留意されたい。」とあるとおり、法10条の2の林地 開発許可制度は、全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、地域(流域)の実情に応じた規制を施すことを容認する趣旨であると解される。そうすると、調整池の洪水調節容量の算定に用いる計画対象降雨の降雨強度曲線(式)、降雨継続時間等を含む技術的事項に係る具体的な審査基準の設定は、地域(流域)の実情を踏まえた各都道府県知事の専門技術的 裁量に委ねられているものと解するのが相当である。 以上の点を考慮すると、調整池の技術的事項に係る審査基準の設定及び当該審査基準への当てはめの適否が争われる林地開発許可処分の取消訴訟における裁判所の審理・判断は、専門技術的裁量を有する処分行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであり、現在の 科学技術水準に照らし、処分行政庁が審査に用いた具体的な審査基準に不合理な点があり、あるいは当該開発行為が当該審査基準に適合するとした処分行政 か否かという観点から行われるべきであり、現在の 科学技術水準に照らし、処分行政庁が審査に用いた具体的な審査基準に不合理な点があり、あるいは当該開発行為が当該審査基準に適合するとした処分行政庁の判断過程に看過し難い過誤・欠落があると認められる場合に、審査基準の設定若しくはその当てはめに係る処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある違法なものとして、当該処分を取り消すべきもの と解するのが相当である。 イ大和川基準及びゴルフ場基準が審査基準に含まれるか否かについて本件の争点の一つは、申請に係る調整池の設置計画が大和川基準及びゴルフ場基準に適合することが林地開発許可に係る処分行政庁の審査基準に含まれるか否かである。被告は、大和川基準及びゴルフ場基準はいずれも 河川課による行政指導の基準であり、大和川条例施行後は大和川基準が同条例9条2項の基準として位置付けられたとして、上記各基準に適合することを林地開発行為の許可要件とするものではない旨主張する。 そこで、計画対象降雨の降雨強度曲線(式)及び降雨継続時間に関する上記各基準の内容についてみると、ゴルフ場基準は、大和川流域は同基準 巻末の確率降雨強度式(奈良地方気象台の資料により求めたものとされる。) を用い、紀の川流域はその1.2倍(五條市〔右岸〕)又は1.3倍(大淀町、下市町、吉野町)、淀川流域はその1.3倍とすること(同基準6)、市街化区域の宅地造成は30年確率降雨、市街化調整区域の宅地造成及びゴルフ場造成は50年確率降雨を対象とし、降雨継続時間は10時間までとすること(同基準7)を定めている。また、大和川基準は、大和川流域 における1ha 以上の特定開発行為を対象とするものであるところ(同基準1-2節)、計画対象降雨は30年確率降雨(市街 間までとすること(同基準7)を定めている。また、大和川基準は、大和川流域 における1ha 以上の特定開発行為を対象とするものであるところ(同基準1-2節)、計画対象降雨は30年確率降雨(市街化調整区域にあっては50年確率降雨)及び昭和57年8月降雨とし、30年(50年)確率降雨は同基準の表2-2の奈良県確率降雨強度式を用いて中央集中型降雨波形を作成し、降雨継続時間は24時間を標準とすること(同基準2-3節) を定めている(なお、大和川基準の表2-2の奈良県確率降雨強度式は、ゴルフ場基準巻末の確率降雨強度式と同じものである。)。 これに対し、手引き(令和2年度改訂版)第3章Ⅰ7(1)及び同Ⅱ1は、林野庁の関係通知に準拠して「洪水調節容量は、下流における流下能力を考慮の上、30年確率で想定される雨量強度における開発中及び開発後の ピーク流量を開発前のピーク流量以下にまで調節できるものであること。」等を定め、30年確率降雨強度により洪水調整容量を算定すべきこと等を示すにとどまり、地域(流域)ごとの降雨強度曲線(式)、降雨継続時間等に関する具体的な記載がないから、手引きの記載のみによっては洪水調整容量を算定することができない。このように、手引きに地域(流域)ごと の降雨強度曲線(式)等に関する具体的な記載がないのは、手引きが奈良県の基準であるゴルフ場基準等を参照することを予定しているからであると解される。手引き(令和2年度改訂版)第3章の冒頭に「奈良県の基準」とあるのも、ゴルフ場基準等を参照すべきことをいうものと解される。 他方、奈良県における林地開発許可制度の運用の実情をみると、本件許 可処分に先立つ令和5年1月31日の奈良県森林審議会林地開発審査部会 (前提事実(4)ウ)においては、調整池水理計算書 他方、奈良県における林地開発許可制度の運用の実情をみると、本件許 可処分に先立つ令和5年1月31日の奈良県森林審議会林地開発審査部会 (前提事実(4)ウ)においては、調整池水理計算書の訂正(乙53~56)を受けて、本件各調整池が大和川条例に基づく技術基準に適合することが確認されている(甲28)。原告らの求釈明に対する被告の回答によると、過去10年間の大和川流域における1ha 以上の林地開発許可においては、いずれも調整池が大和川基準及びゴルフ場基準に適合するものとされてい る(令和6年5月28日付け被告準備書面(3)、同年7月17日付け被告準備書面(5)、同月31日付け被告準備書面(6))。このような奈良県における林地開発許可制度の運用の実情は、調整池の設置計画がゴルフ場基準(大和川流域にあっては、大和川基準及びゴルフ場基準)に適合することを林地開発許可の要件としてきたものとみるのが自然である。 さらに、林野庁の関係通知の改正(甲70、117)に伴い手引きの改正がされたところ、改正後の手引き(令和6年度改訂版)第4章Ⅰ7には、「ただし、河川整備課の指導が適用されない開発行為、若しくは(1)から(5)による洪水調節池が下流に対しより安全な計画となる場合については、河川整備課が定める基準を参照し、(1)から(5)により計画を行うものとする。」 (甲119)との定めがある。このただし書の定めも、河川整備課の指導が適用される開発行為については、調整池の設置計画が河川整備課の定める基準である大和川基準及びゴルフ場基準(大和川流域の場合)に適合することを林地開発許可の要件とすることを前提とするものと解される。 以上の諸点に照らせば、大和川基準及びゴルフ場基準は、河川課による 行政指導の基準又は大和川条例9条 和川流域の場合)に適合することを林地開発許可の要件とすることを前提とするものと解される。 以上の諸点に照らせば、大和川基準及びゴルフ場基準は、河川課による 行政指導の基準又は大和川条例9条2項の基準にとどまるものではなく、手引き(令和2年度改訂版)第3章Ⅰ7の「なお、洪水調整池の設置は、原則として県土マネジメント部河川課の指導による」との文言により、林地開発許可に係る処分行政庁の審査基準の内容となっているものと解するのが相当である。これと異なる被告の主張は、採用することができない。 ウ大和川基準の解釈について 本件の最大の争点は、調整池の洪水調節容量の算定に係る大和川基準の解釈である。原告らは、同基準所定の定数を用いた簡易な方法により洪水調節容量を算定してよいのは、「通常の場合」、すなわち、下流河川の流下能力が0.10㎥/s/ha 以上の場合であり、下流河川の流下能力がこれを下回る場合には、同基準2-6節の解説(2)及び図2-7のフローチャート に示された厳密計算法により洪水調節容量を算定すべきである旨主張する。 そこで、大和川基準の沿革をみると、大和川流域では、昭和57年8月の大和川大水害を契機として、昭和58年に国(近畿地方建設局〔当時〕)、奈良県及び流域市町村によって大和川流域総合治水対策協議会が設置され、昭和60年に大和川流域整備計画が策定されたものであり、昭和61年に 「大和川流域調整池技術基準(案)」が策定され、平成29年の大和川条例の制定に伴って同基準(案)が改訂され、同条例9条2項の基準として位置付けられたのが現行の大和川基準である(甲20、弁論の全趣旨)。他方、昭和61年の大和川基準(案)に先立って、昭和48年には既に「宅地及びゴルフ場等開発に伴う調整池技術基準」が策定されてお して位置付けられたのが現行の大和川基準である(甲20、弁論の全趣旨)。他方、昭和61年の大和川基準(案)に先立って、昭和48年には既に「宅地及びゴルフ場等開発に伴う調整池技術基準」が策定されており、これが平成 2年に改訂されたのが現行のゴルフ場基準である(乙2、弁論の全趣旨)。 このように、大和川基準は、昭和48年に策定されたゴルフ場基準の存在を前提として昭和61年に策定されたものであり、その趣旨・目的も、以下のとおり、ゴルフ場基準とは異なるものとされている。 すなわち、大和川基準1-3節の解説(1)にも「防災調整池は従来より、 宅地開発等に伴って開発地からの流出量が、下流河川の現在の流下能力を上回らないことを基本として設置されてきたところである。」とあるとおり、ゴルフ場基準は、開発区域下流における水路及び河川の狭小箇所(ネックポイント)を基準地点とし、当該基準地点の現況流下能力(単位㎥/s、ゴルフ場基準においてはQの記号が用いられているが、以下「Qc」という。) を当該基準地点に係る集水面積Aa(単位ha)で除した値(単位㎥/s/ha。 以下、この比流量を「p」という。)に開発面積A(単位ha)を乗じた値P(=Qc・A/Aa)まで開発後のピーク流量を調節するのに必要な容量を調整池の洪水調節容量とするものである(ゴルフ場基準7)。 他方、大和川基準は、「特定開発行為に伴う流出増を開発前の流量にまで調節すること」を基本とするものであり(同基準1-3節)、「調整池の下 流への許容放流量は、計画対象降雨の全てに対し、それぞれの開発前におけるピーク流量の値を上回らないものとする。」(同基準2-5節)として、開発前のピーク流量を上回らないようにするとの目的から調整池の下流への許容放流量を定めた上、開発後のピー それぞれの開発前におけるピーク流量の値を上回らないものとする。」(同基準2-5節)として、開発前のピーク流量を上回らないようにするとの目的から調整池の下流への許容放流量を定めた上、開発後のピーク流量を当該許容放流量にまで調節するために必要な容量の算定方法を同基準2-6節において定めている。 そして、大和川基準は、当該定数に開発面積A(単位ha)を乗じるという簡易な方法により許容放流量Q(単位㎥/s)及び洪水調節容量V(単位㎥)を算定するための定数として、通常の場合における開発面積1ha 当たりの放流比流量及び最大貯留量につき、①30年確率降雨時(市街化区域)はQ/A=0.09㎥/s/ha、V/A=530㎥/ha、②50年確率降雨時(市 街化調整区域)はQ/A=0.10㎥/s/ha、V/A=585㎥/ha という定数を定めている(同基準2-5節及び2-6節)。この定数は、奈良県議会令和5年2月定例会における県土マネジメント部長Aの答弁にも「これは大抵の開発の場合は、この定数を用いていれば十分であるという、過去のデータに基づいて行っているものでございます。」(甲37〔8頁〕)とあ るとおり、昭和60年9月奈良県土木部河川課、八千代エンジニヤリング株式会社「大和川流域総合治水対策検討業務委託報告書」(甲81)に基づいて定められたものである。 ただし、開発区域から下流に流出する開発前のピーク流量を開発面積で除した値(以下、この比流量を「q」という。)が上記定数(50年確率降 雨時〔市街化調整区域〕はQ/A=0.10㎥/s/ha)を下回る場合には、 当該定数を用いた簡易な方法により算定される許容放流量が開発前のピーク流量を上回ることになり、「調整池の下流への許容放流量は、計画対象降雨の全てに対し、それぞれの /ha)を下回る場合には、 当該定数を用いた簡易な方法により算定される許容放流量が開発前のピーク流量を上回ることになり、「調整池の下流への許容放流量は、計画対象降雨の全てに対し、それぞれの開発前におけるピーク流量の値を上回らないものとする。」(大和川基準2-5節)との基準に反することになるから、上記定数(50年確率降雨時〔市街化調整区域〕はV/A=585㎥/ha) により洪水調節容量を算定することもできない。そこで、この場合には、開発前のピーク流量をもって調整池の下流への許容放流量とした上、大和川基準2-6節の解説(2)及び図2-7のフローチャートに示された計算方法(厳密計算法)により洪水調節容量を算定することになる。この点は、奈良県議会令和5年2月定例会の県土マネジメント部長Aの答弁において 「このフローチャートに載っている計算というのは、今申しました0.1という比流量よりも小さくなるような流出をする場合に活用することを想定した式でございます。それは、例えば洪水到達時間が1時間以上と長くなるような、開発地がほぼ平面でというようなところが想定されるのですけれども」(甲37〔8頁〕)と説明されているところである。 以上のとおり、大和川基準における比流量は、ゴルフ場基準とは異なり、下流河川の狭小箇所(ネックポイント)の現況流下能力Qc を当該地点に係る集水面積Aa で除した値(p=Qc/Aa)を意味するものではなく、開発区域から下流へ流出する開発前のピーク流量を開発面積で除した値を意味するものである。そして、大和川基準は、上記比流量が上記定数以上と なる通常の場合(q≧0.10㎥/s/ha〔市街化調整区域〕)には、上記定数(V/A=585㎥/ha〔市街化調整区域〕)を用いた簡易な方法により洪水調節容量を は、上記比流量が上記定数以上と なる通常の場合(q≧0.10㎥/s/ha〔市街化調整区域〕)には、上記定数(V/A=585㎥/ha〔市街化調整区域〕)を用いた簡易な方法により洪水調節容量を算定するが、上記比流量が上記定数を下回る例外的な場合(q<0.10㎥/s/ha〔市街化調整区域〕)には、同基準2-6節の解説(2)及び図2-7のフローチャートに示された厳密計算法により洪水調節 容量を算定することを定めたものと解される。大和川基準が、5ha 以上の 特定開発行為に対しては、ゴルフ場基準と大和川基準の2つを適用し、「厳しい方の比流量、必要容量を採用する」(大和川基準1-2節の解説(2))としているのも、ゴルフ場基準と大和川基準とでは趣旨・目的が異なり、これに応じて比流量の意義も異なることを前提とするものと解される。 そうすると、本件許可処分に係る本件各調整池は、証拠(乙53~56) によれば、各調整池につき許容放流量が開発前のピーク流量を上回らないことを確認の上、上記定数(V/A=585㎥/ha〔市街化調整区域〕)により算定される必要容量(1号調整池5098㎥、2号調整池5016㎥、3号調整池3536㎥、4号調整池6027㎥)を上回るものとして計画されていることが認められ、大和川基準に適合すると認められる。 以上と異なる大和川基準の解釈に係る原告らの主張は、採用することができない(なお、原告らは、上記定数〔Q/A=0.10㎥/s/ha〕により調整池の下流への許容放流量を算定した場合には、1号調整池及び2号調整池に係る「開発行為による影響を最も強く受ける地点」であるK-8地点における開発後のピーク流量が開発前のピーク流量を上回ることになり、 手引きの基準に反する結果となるとも主張するが、証拠〔乙53 に係る「開発行為による影響を最も強く受ける地点」であるK-8地点における開発後のピーク流量が開発前のピーク流量を上回ることになり、 手引きの基準に反する結果となるとも主張するが、証拠〔乙53、54〕によれば、1号調整池及び2号調整池の計画上の許容放流量は、K-8地点の流下能力の比流量〔0.024㎥/s/ha〕を考慮して算定されており、これが開発前のピーク流量を上回らないことが認められるから、手引きの基準に反する結果となるものではなく、上記主張も理由がない。)。 エ大和川基準に係る審査基準の設定の適否について原告らは、大和川基準の解釈につき前記ウの解釈を採用する場合には、同基準は下流の流下能力を考慮しないことになるから、調整池の洪水調節容量について「下流における流下能力を考慮の上」とする林野庁の通知に反し、法の委任の範囲を超えた違法な審査基準の設定となる旨主張する。 しかしながら、林野庁の関係通知における「下流における流下能力を考 慮の上」(運用細則第2の8(1))とは、「開発行為の施工前において既に3年確率で想定される雨量強度におけるピーク流量が下流における流下能力を超えるか否かを調査の上、必要があれば、この超える流量も調節できる容量とする趣旨である」(82号通知第3の2)と定められている。そして、処分行政庁は、上記の関係通知に準拠した基準を手引き(令和2年度版) 第3章Ⅰ7(1)において定めており、大和川基準は、手引きの基準に重ねて適用されるものにすぎない。しかも、大和川流域における5ha 以上の特定開発行為又はその他流域における開発行為に対しては、ゴルフ場基準も適用され、同基準においても下流河川の流下能力が考慮されることになる。 そうすると、大和川基準は、それ自体としては下流河川の流下能力を 開発行為又はその他流域における開発行為に対しては、ゴルフ場基準も適用され、同基準においても下流河川の流下能力が考慮されることになる。 そうすると、大和川基準は、それ自体としては下流河川の流下能力を考慮 することなく調整池の洪水調節容量を算定するものであるものの、これと併せて適用される他の基準において下流河川の流下能力が考慮されることに照らせば、大和川基準における調整池の洪水調節容量の算定方法につき、審査基準の設定に係る処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとは認められず、原告らの上記主張は採用することができない。 オゴルフ場基準に係る審査基準の設定の適否について原告らは、ゴルフ場基準は前方集中型降雨波形を用い、降雨継続時間を10時間としているが、降雨継続時間を24時間以上とせず、中央集中型又は後方集中型の降雨波形を用いない点は現在の科学技術水準に照らして不合理である旨主張する。 そこで検討すると、手引きにも引用されている①昭和62年3月住宅・都市整備公団、地域振興整備公団、日本河川協会「防災調節池技術基準(案)」(甲77。以下「恒久施設基準」という。)及び②同「大規模宅地開発に伴う調整池技術基準(案)」(甲88。以下「暫定施設基準」という。)は、前者が河川管理施設として防災調節池事業により設置される防災調節池につ いての基準であるのに対し、後者が宅地開発に伴う流出増を抑制する施設 として地方公共団体の指導により設置される暫定施設としての調整池についての基準であるから、ゴルフ場基準の合理性を検討するに当たっては、前者の恒久施設基準ではなく、後者の暫定施設基準を参照するのが相当である。そして、原告ら引用の恒久施設基準9条(甲77・12~13頁)には必要な降雨継続時間を24時間以上とする 討するに当たっては、前者の恒久施設基準ではなく、後者の暫定施設基準を参照するのが相当である。そして、原告ら引用の恒久施設基準9条(甲77・12~13頁)には必要な降雨継続時間を24時間以上とする旨の記載があるのに対し、 暫定施設基準8条(甲88・67~68頁)には「降雨波形の継続時間は24時間を標準とする」等の記載があるにとどまることに加え、原告ら作成資料(甲38)によると、降雨継続時間を6時間として調整池の洪水調節容量を算定する旨の基準を定めている都道府県(兵庫県)もあることにも照らすと、ゴルフ場基準が降雨継続時間を10時間としている点が直ち に現在の科学技術水準に照らして不合理であるとまではいえない。 そもそも、降雨継続時間は、いかなる計画対象降雨を想定して開発前及び開発後のピーク流量を算定するかを決める要素の一つにすぎず、ゴルフ場基準が降雨継続時間を10時間としている点の当否は、降雨継続時間を10時間までとした場合における50年確率降雨時の総雨量147.0mm (同基準巻末Ⅱ(ロ)参照。なお、同基準巻末の確率降雨強度式によれば、降雨継続時間を24時間とした場合における50年確率降雨時の総雨量は約215.0mm となる。)を計画対象降雨とすることの当否の問題に帰着するものということができる。そして、林野庁の関係通知に準拠した手引き(令和2年度版)第3章Ⅰ7(1)の基準が3年確率降雨強度における開発 後のピーク流量を下流河川の流下能力まで調節することができる容量を求めるものであり、この手引きの基準及び林野庁の関係通知は暫定施設基準10条(1)(甲88・69~70頁)の考え方を現在も維持しているものと解されるのに対し、ゴルフ場基準は50年確率降雨強度における開発後のピーク流量を下流河川の流下能力まで調節する 知は暫定施設基準10条(1)(甲88・69~70頁)の考え方を現在も維持しているものと解されるのに対し、ゴルフ場基準は50年確率降雨強度における開発後のピーク流量を下流河川の流下能力まで調節することができる容量を求める ものであり、後者が前者を上回る関係にあることにも照らせば、ゴルフ場 基準における計画対象降雨の設定のうち降雨継続時間を10時間としている点のみを取り出して、それが不合理であって審査基準の設定に係る処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできない。 降雨波形の点については、中央集中型又は後方集中型の降雨波形は、降雨強度曲線(式)(これをそのまま用いると前方集中型降雨波形となる。) のグラフを並び替えて作られるが(大和川基準2-3節の解説(2)、恒久施設基準9条の解説(3)〔甲77・12頁〕参照)、降雨継続時間の全体に対する総雨量に変わりはないこと、暫定施設基準においては「洪水調節容量を第11条の算定法によって求める場合は、降雨波形の作成は不要となる」とされており(暫定施設基準8条の解説(2)〔甲88・67~68頁〕)、そ の考え方がゴルフ場基準にも妥当すると考えられることにも照らせば、ゴルフ場基準が中央集中型又は後方集中型の降雨波形を用いていない点が不合理であるとはいえない。 以上によれば、ゴルフ場基準における計画対象降雨の設定につき、審査基準の設定に係る処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると は認められず、原告らの上記主張は採用することができない。 カ手引きの基準の適合性について原告らは、仮に本件各調整池が大和川基準及びゴルフ場基準に適合するとしても、論理必然的に手引きの基準にも適合するという関係にはないにもかかわらず、処分行政庁が手引きの基準の審 基準の適合性について原告らは、仮に本件各調整池が大和川基準及びゴルフ場基準に適合するとしても、論理必然的に手引きの基準にも適合するという関係にはないにもかかわらず、処分行政庁が手引きの基準の審査をしていない旨主張する。 そこで検討すると、調整池の洪水調節容量に係る手引きの基準の内容は、要するに、①30年確率で想定される雨量強度における開発中及び開発後のピーク流量を開発前のピーク流量以下にまで調節できるものであること(手引き〔令和2年度改訂版〕第3章Ⅰ7(1)及び同Ⅱ1)、②開発行為の施工前において既に3年確率で想定される雨量強度におけるピーク流量が 下流における流下能力を超える場合には、当該超える流量も調節できる容 量とすること(同Ⅰ7(1))、③当該開発行為による影響を最も強く受ける地点(ネックポイント)において安全に流下させることができるピーク流量に対応する雨量強度における開発中及び開発後のピーク流量を開発前のピーク流量以下までに調節できるものであること(同Ⅱ1)の3点である(いずれも林野庁の関係通知〔前記第2の1〕に準拠したものである。)。 そして、ゴルフ場基準が50年確率降雨時の開発後のピーク流量を下流河川の流下能力まで調節するための容量を求めるものであることに照らせば、本件各調整池の計画容量は、特段の事情のない限り、ゴルフ場基準に適合することをもって同時に上記①~③の要件をいずれも充足することになると考えられるところ、上記特段の事情を認めるに足りる証拠はない。 以上によれば、本件各調整池の計画容量は、手引き所定の上記①~③の基準に適合しないものとは認められない。これと異なる原告らの主張は、採用することができない。 キ小括以上の次第で、本件各調整池の計画容量が法10条の2第2項1号 量は、手引き所定の上記①~③の基準に適合しないものとは認められない。これと異なる原告らの主張は、採用することができない。 キ小括以上の次第で、本件各調整池の計画容量が法10条の2第2項1号及び 同項1号の2の要件に係る審査基準に適合するとした処分行政庁の判断は、その審査に用いた審査基準の設定につき処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとは認められず、当該審査基準への当てはめに誤りがあるとも認められないから、本件許可処分に違法があるとは認められない。 (2) 原告らのその余の主張について ア切土、盛土等の工事に係る1号違反の主張について原告らは、本件許可処分に係る開発行為における切土、盛土等の工事が手引き(令和2年度改訂版)第3章Ⅰ2(1)ア・イ、同2(3)ウ・エ及び同4(1)~(4)の基準に適合せず、本件許可処分は法10条の2第2項1号に違反する旨主張する。 しかしながら、原告らは、工事停止中の令和3年7月の写真(甲115) 並びに工事再開後の令和6年7月及び同年11月の写真(甲121)等に基づいて土砂災害のおそれを主張するにとどまり、本件許可処分に係る開発行為が法10条の2第2項1号の要件に係る上記基準に適合するとした処分行政庁の判断過程にどのような誤りがあるのかを具体的に主張せず、これを認めるに足りる的確な証拠はないから、本件許可処分に同号違反の 違法があるとは認められず、原告らの上記主張は採用することができない。 イ流域変更に伴う稜線の森林の伐採等に係る3号違反の主張について原告らは、本件許可処分に係る開発行為においては、開発前は大釜川流域であった区域からの排水を4号調整池経由で椿台水路に流す計画とされ、これに伴い稜線部分の森林を伐採して切土を行うこととされているか 原告らは、本件許可処分に係る開発行為においては、開発前は大釜川流域であった区域からの排水を4号調整池経由で椿台水路に流す計画とされ、これに伴い稜線部分の森林を伐採して切土を行うこととされているから、 太陽光発電施設の設置を目的とする開発行為について「りょう線の一体性を維持するため、尾根部については、原則として残置森林を配置する。」とする手引き(令和2年度改訂版)第3章Ⅳ1(1)及び表7の基準に適合せず、本件許可処分は法10条の2第2項3号に違反する旨主張する。 しかしながら、法10条の2第2項3号の規定は、良好な環境の保全と いう公益的な見地から開発許可の審査を行うことを予定しているものと解されるのであって、周辺住民等の個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むものと解することはできない(最高裁判所平成13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号283頁参照)。そうすると、同号違反の主張は行政事件訴訟法10条1項にいう「自己の法律上の利益に関係のない違法」 の主張に当たるから、原告らは、法10条の2第2項3号違反を本件許可処分の違法事由として主張することはできず、上記主張は失当である。 3 結論以上によれば、本件許可処分に違法があるとは認められず、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 奈良地方裁判所民事部 裁判長裁判官和田 健 裁判官石間大輔 裁判官矢島佑一 別紙1:当事者目録(略)別紙2:手引き(令和2年度改訂版)(略)別紙3:ゴルフ場基準(略)別紙4:大和川基準(略)別紙5:大和川条例(略) 別紙6:流域図(略) 別紙1:当事者目録(略)別紙2:手引き(令和2年度改訂版)(略)別紙3:ゴルフ場基準(略)別紙4:大和川基準(略)別紙5:大和川条例(略) 別紙6:流域図(略)別紙7:下流河川流下能力の算定(略)

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