平成15(う)45 強盗殺人,死体遺棄,窃盗被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年11月20日 仙台高等裁判所 棄却 福島地方裁判所 平成14(わ)105
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判決文本文6,133 文字)

【判示事項の要旨】妻が主導的に行った強盗殺人,死体遺棄事件について,夫についても無期懲役刑が維持された事例 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中270日を原判決の刑に算入する。 理由 第1 本件控訴の趣意は,弁護人小野由可理作成の控訴趣意書に記載のとおりであり,これに対する答弁は,仙台高等検察庁検察官黒田健治作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用する。 控訴趣意は,量刑不当の主張であり,要するに,本件の主犯であるAの罪責と比べれば,被告人を同女と同じ無期懲役に処した原判決の量刑は明らかに重過ぎる,というのである。 第2 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。 1(1) 本件は,被告人が,妻であるA及びAの実子で被告人の養女であるBと共謀の上,所持金と自動車を奪う目的で,Aに金を貸していた男性を自宅に呼び出し,隙を見て襲い掛かって,ガムテープを顔面に巻き付けるなどし,更にスカートで首を絞めて殺害し,その所持金約40万1000円と乗ってきた普通乗用自動車1台(時価約3万円相当)を奪い取り,その3日後に男性の死体をダム湖に投棄した強盗殺人及び死体遺棄(原判示第2及び第3)と,Aと共謀して,ホテルの部屋からテレビ1台(時価約4万円相当)を盗んだ窃盗(同第1)の事案である。 本件強盗殺人及び死体遺棄の犯行に至る経緯は,原判決が(犯行に至る経緯)において認定しているとおりである。 すなわち,被告人は,中学を卒業後,底引き網漁船の漁師となり,パチンコが唯一の娯楽という程度で真面目に働いていたが,平成8年ころ, に至る経緯)において認定しているとおりである。 すなわち,被告人は,中学を卒業後,底引き網漁船の漁師となり,パチンコが唯一の娯楽という程度で真面目に働いていたが,平成8年ころ,兄がAの姪に声を掛けられたことをきっかけにして,Aと知り合い,Aに引かれるまま情交関係を結び,両親の反対を押し切って,情交関係を続け,同年秋ころ建売住宅をローンで購入してA及びBと一緒に生活するようになり,平成9年11月にAとの婚姻の届出をした。 Aは,被告人と知り合う前から,男性と情交関係を持って金銭を得たり借金をするなどして,遊び暮らしていたが,被告人と知り合った後は,被告人に漁師としての給料を差し出させたほか,口実をもうけて金を無心し,それらを自己の借金返済や高価な買い物,飲食代等に費消していたが,被告人は,ひたすらAの言葉を信じて,給料の前借りや知人から借金をして金を用立て,Aの言うがままにお金を渡していた。そのうちに,Aは,公然と家を空け,複数の男性と肉体関係を持ったり,あるいは巧みに嘘をついて金を得て,遊び歩いていたが,本件強盗殺人の被害者の男性も,そうしたAが借金をしていた一人であった。Aは,相変わらず被告人に対して他人の借金の返済の肩代わりをしたなどと嘘を言って,金を工面してくるよう求め,被告人は,不信感を持つこともあったが,結局はAの言うことを信じて,船頭や勤務先などから前借りや借金を重ねて金を作り,それをAに渡すことを繰り返し,Aと別れるように言う両親や兄弟らの忠告にもかかわらず,Aへの未練やBへの愛情もあって,Aと別れることをしないで過ごしていた。そのため,被告人は,次第に周囲の信用を失い,仕事も続 Aと別れるように言う両親や兄弟らの忠告にもかかわらず,Aへの未練やBへの愛情もあって,Aと別れることをしないで過ごしていた。そのため,被告人は,次第に周囲の信用を失い,仕事も続けづらくなり,また,借金の返済に追われながら働くこともいやになって,平成11年6月ころには漁師をやめ,さらに,平成13年9月ころからは全く働かなくなり,ただ借金取りから逃げてパチンコをして暮らす無気力な生活を送るようになり,平成14年1月ころからは,電気やガスが止められた自宅で,Bと共に,Aが時折帰宅してわずかな金を置いていくのを待ち,寒さに震え満足に食事もできない日々を送る状態になっていた。 こうして,被告人とAは,借金の当て先もなくなり,満足に食事も取れずに日々の生活が完全に行き詰まっていたところ,金を工面するための手段として絶対に必要であった自分達の自動車が壊れてしまい,その修理費の工面ができないのを直接のきっかけとして,Aが,借金先の男性が常に相当の現金を持ち歩いているのを知っており,その厳しい借金の取立てに恨みも持っていたことから,その男性から所持する現金と乗っている自動車を奪うことを思い付き,被告人に男性を殺害の上強奪することを持ちかけ,被告人もそれに従って,Aの思い付きから約1時間半後に本件強盗殺人が実行されるに至ったのである。被告人は,最初は,Aに反対し止めようとしたものの,Aの強硬な態度と剣幕に押され,BもAに同調したことから,殺害はともかくまず強盗を行う意思を固め,呼出しに応じて自動車で来て家に上がってきた被害者に襲い掛かり,首を締め付けるなどしたところ,Aがホイールナットレンチで被害者を殴打し,あく 害はともかくまず強盗を行う意思を固め,呼出しに応じて自動車で来て家に上がってきた被害者に襲い掛かり,首を締め付けるなどしたところ,Aがホイールナットレンチで被害者を殴打し,あくまでも殺害しようとする固い意思であることを知って,この上は後戻りできないと考え,被害者を殺害する決意をし,A及びBと共に被害者の顔面にガムテープを巻き付け,両手足をビニール紐で縛った上,自らとどめを刺すように,スカートを被害者の首に巻き付けて締め上げ,被害者を殺害したものである。 (2) このように,本件強盗殺人は,まともに働かずにその日の生活費にも困るまで追い詰められたA及び被告人が,手っ取り早く金銭等を得るため,現金を持ち歩いている被害者に目を付け,殺害して金品を強奪したという,誠に短絡的で身勝手極まりない犯行であり,動機に酌量の余地は全くない。 犯行の態様も,被害者を言葉巧みに自宅に呼び出し,自動車で来た被害者が,家に上がって気を許している隙をついて背後から襲い掛かり,その首を腕で締め付け,ホイールナットレンチで頭部を殴打し,顔にガムテープを巻き付け,ビニール紐等で手足を緊縛した上,スカートを首に巻き付けて締め上げて窒息死させ,その後,その懐中から所持金を奪い,被害者が乗って来た自動車を自分達のものとしたものであり,残忍で悪質である。その上,被告人らは,犯行の発覚を防ぐため,死体を始末することとして,遺棄するのに適当な場所を探し回り,ダム湖に投げ捨てたのであり,死者への思いやりなど全くない,冷酷な仕業である。 被害者は,騙されて殺害されるのも知らずに呼び出され,突然背後から襲われ,抵抗も空しく,事情も飲み込めないまま, 捨てたのであり,死者への思いやりなど全くない,冷酷な仕業である。 被害者は,騙されて殺害されるのも知らずに呼び出され,突然背後から襲われ,抵抗も空しく,事情も飲み込めないまま,苦悶のうちに命を絶たれ,その上,死してもなおシーツや毛布で巻かれてダム湖に捨てられ,1か月以上後に無残な姿で発見されるまで,湖底にあったものであり,その苦痛や無念の程は察するに余りある。父親を殺害された遺族らが,被告人らに対して厳しい処罰を望んでいるのも,当然といえる。 (3) 被告人は,Aから,手っ取り早く金銭や自動車を獲得するためには,被害者を殺害して所持金や自動車を強奪するしかないと強く迫られ,当初こそ反対し止めようとしたものの,Aの強い態度と剣幕に抗し切れず,ともかく強盗を行うことに同意して,被害者の背後から襲い掛かって押え込むことによって自ら犯罪を開始し,さらに,Aの殺害の意思が固いことを知ると,被害者を殺害することもやむなしと決意し,殺害に向けてAやBと共に行動して,最後に自ら被害者の首を絞めて命を絶っているのである。その上,殺害後には,被告人は,犯跡隠蔽に心を砕き,室内に飛散した血痕をふき取り,自ら率先して死体を毛布などで巻き,紐で固く縛ったりし,死体を捨てる場所の選定に奔走して,自ら死体をダム湖に投げ込んでおり,一方で,被害者から奪った現金をAらと気ままに使い,あるいは被害者の自動車を乗り回すなどしているのであって,一たん強盗殺人を犯すや,被告人はひたすら罪責を免れるための行動に走り,さらには良心の呵責を全く覚えないような行動をしているといえるのである。 このように,被告人は,Aに逆えず,その強い意思に引きず や,被告人はひたすら罪責を免れるための行動に走り,さらには良心の呵責を全く覚えないような行動をしているといえるのである。 このように,被告人は,Aに逆えず,その強い意思に引きずられて,本件強盗殺人及び死体遺棄を敢行したのであるが,一たん決意するや,被害者の殺害やその死体の遺棄をほぼ一手に引き受けて行い,まさに主要な実行行為を行っているのであって,本件強盗殺人及び死体遺棄は,被告人なしには実現されなかったのは明らかである。 2(1) 弁護人は,本件各犯行に至る経緯,Aの行状と性格,Aと被告人との関係,被告人の性格等を考慮すると,被告人はAに騙されがんじがらめにされており,本件各犯行は主犯がAであり,被告人はあくまで従属的であって,Aの強引な引っ張り込みに抗し切れず,Aの言うままに殺害等を実行したに過ぎないから,被告人の刑事責任は,Aに比べればはるかに軽く,Aと同じ無期懲役の量刑は重過ぎる,という。 (2) 弁護人が指摘するとおり,Aは,若いころから,暴力団員などを含め複数の男性と同棲したり結婚をし,また,情交関係を持った男性から金を得ては,遊びに耽るといった放縦な生活をしてきており,被告人に近付いたのも,その漁師としての多額の収入に目を付けたからであり,被告人と同棲し結婚した後も,従前と変わらず,被告人の稼いだ金や借金までさせた金を,自らの借金返済に充てあるいは浪費していたことが認められる。それに対し,被告人は,中学卒業後漁師として真面目に働いており,Aと知り合うまで女性と交際した経験がなく,Aを知ると盲目的にほれ込み,周囲の意見に耳を貸さずに信じ込み,Aの言うがまま金を渡し,その行状に不審を抱きながらも 真面目に働いており,Aと知り合うまで女性と交際した経験がなく,Aを知ると盲目的にほれ込み,周囲の意見に耳を貸さずに信じ込み,Aの言うがまま金を渡し,その行状に不審を抱きながらも,強く問いただすこともなく,その言うがままに従い,周囲の忠告にもかかわらず別れようとせず,自らの生活を崩していったことが認められる。二人を知る周囲の者らの供述によっても,被告人とAの関係は,Aが万事に主導的で,被告人はAに丸め込まれ,その言うなりに行動していたことが認められる。 また,本件強盗殺人の数日前の原判示第1の窃盗も,換金して当座の生活費を得ようとAが言い出したものである。そして,本件強盗殺人も,Aが被害者に目を付けて言い出したものであり,被告人は当初は反対し消極的であって,犯行を決意するまでは何度も抵抗してAを改心させようとしたものの,Aの強固な意思に抗し切れずに,強盗殺人まで犯すに至ったものであり,そこには,Aと被告人との力関係が表れており,本件強盗殺人についての主犯はAであって,被告人の刑事責任はAに比べれば軽いということができる。 (3) しかしながら,被告人の刑責について更に検討してみると,Aの上記のような行状や生活振りを目の当たりにし,Aに愛情がなく,さらに,Aからもはや金づるとしても利用価値がないと見なされていることは,明らかな状況となり,両親をはじめ周囲の者から度々忠告されていたのであるから,被告人としてもAと別れて生活を立て直す契機は少なからずあったのである。それにもかかわらず,被告人は,Aとの生活が破綻し,Aが時折得てくる金銭等によって辛うじて飢えをしのぐ有様で,破滅的な事態に陥りつつありながら, す契機は少なからずあったのである。それにもかかわらず,被告人は,Aとの生活が破綻し,Aが時折得てくる金銭等によって辛うじて飢えをしのぐ有様で,破滅的な事態に陥りつつありながら,主体性の欠如から自らは何ら動くことなく無為に過ごして,Aとの関係を断つなり窮地から脱しようとは一向にしなかったのである。しかも,今回は,Aは他人の生命を奪って金品を強奪しようと言っているのであるから,重大な犯罪に引き込もうとしていることは明白であり,いかに鈍い被告人であっても,Aが恐ろしいことを言い出しており,それに手を貸せば自らも重い責任を負うことになると十分分かったといえるのである。しかし,被告人は,Aが人を殺して金品を奪うというとんでもないことを言い出しているのに,結局は,Aの機嫌を損うことを恐れるという態度から,自らAの意思に従うことを選択し,自らの判断でそのために他人の命を犠牲にすることにしたといえるのである。その上,殺人を行った後は,一気に良心を忘れたように罪証隠滅工作等を積極的に行い,死体遺棄まで行っているのである。そうすると,被告人は自らの意思と判断でAに従ったものであり,また,被告人自身における規範意識のぜい弱さがあると認められるから,Aが主導的であったとしても,そのしん酌の程度は一定程度にとどまるというべきである。 3 したがって,一方で,被告人が捜査段階,原審,当審を通じて一貫して深く反省,悔悟し,被害者に詫びや謝罪の気持ちを表していること,Aとの関係を絶つと決意していること,これまで罰金前科があるのみであること,被告人の父や兄が遺族を訪れ,被害者の墓参りをするなどして謝罪していることなどの酌むべき事情が存在し, ること,Aとの関係を絶つと決意していること,これまで罰金前科があるのみであること,被告人の父や兄が遺族を訪れ,被害者の墓参りをするなどして謝罪していることなどの酌むべき事情が存在し,それらをしん酌し,本件各犯行を主導したのはAであり,被告人は従属的立場にあったことを最大限考慮しても,本件強盗殺人及び死体遺棄の犯行への加担を決意したのは,あくまで被告人自らの選択であり,しかも重要な実行行為者であることに照らすと,被告人の刑事責任は誠に重大であって,無期懲役を酌量減軽して懲役15年にするのが相当とまではいえず,被告人を無期懲役に処した原判決の量刑が重過ぎるとはいえない。論旨は理由がない。 第3 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,当審における未決勾留の算入につき刑法21条を,当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 平成15年11月20日仙台高等裁判所第1刑事部裁判長裁判官松浦繁裁判官根本渉裁判官髙木順子

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