令和6(わ)66 殺人

裁判年月日・裁判所
令和7年1月16日 前橋地方裁判所
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判決文本文9,006 文字)

主文 被告人を懲役11年に処する。 未決勾留日数中220日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実) 被告人は、令和6年1月23日午前6時頃、前橋市(住居省略)当時の被告人方において、A(当時69歳)に対し、殺意をもって、その胸部及び背部を包丁(刃体の長さ約19.3センチメートル)で3回突き刺し、よって、同日午前8時16分頃、同市(住居省略)B病院において、同人を背面・胸部刺創に基づく出血性ショックにより死亡させて殺害した。 (争点に対する判断)第1 争点関係証拠によれば、被告人が、判示のとおり、Aを包丁で3回突き刺して死亡させたことが認められ、そのことについては争いもない。その上で、弁護人は、①被告人に殺意はなかった、②被告人には、正当防衛又は過剰防衛若しくは誤想 防衛又は誤想過剰防衛が成立すると主張している。 第2 前提事実被告人の公判供述その他関係証拠によれば、次の事実が認められる。 1 本件犯行に至る経緯等⑴ 被告人は、令和4年3月21日、前橋市所在のCアパートに入居し、その後、 同年7月10日に判示の当時の被告人方(以下、単に「被告人方」という)に転居した。被告人方は、北側が玄関、南側がベランダとなっているワンルーム型の部屋で、被告人は、本件犯行当時、同所に単身で居住していた。 ⑵ Aは、令和5年6月15日、Cアパートに入居したところ、被告人は、同年9月頃、Aと知り合い、当初は年長であるAの舎弟としてAと付き合っていた が、次第にAの言動に嫌気がさすようになり、本件犯行当時は、Aとの間に距 離を置いていた。 ⑶ Dは、Cアパートに居住し、Aの舎弟としてAとの付合いを続けていたが、被告人との間に深い付合いはなかった。 ⑷ 被告人は うになり、本件犯行当時は、Aとの間に距 離を置いていた。 ⑶ Dは、Cアパートに居住し、Aの舎弟としてAとの付合いを続けていたが、被告人との間に深い付合いはなかった。 ⑷ 被告人は、令和6年1月22日午後6時頃、Cアパートに住む知人のEから電話で呼び出されてCアパートを訪れたところ、同人とトラブルになっていた Aから、「なんでお前がここにいるんだ」などと大声で怒鳴られるなどした。その後、Aは、通報を受けて臨場した警察官に連れて行かれ、被告人は帰宅した。 ⑸ 同日午後11時頃、Aが、D及び暴力団関係者を名乗る若い男と共に、被告人方を訪れた。Aは、被告人方の中に入った後、被告人に対し、それまでの被告人の言動について不満を言った上、被告人方にあった包丁を突き付けて、「殺 してやる」などと言った。すると、若い男が仲裁に入り、Aが被告人の頭を被告人方にあるガラス製の灰皿で1回殴ることでその場を収めることを提案した。Aと被告人は、その提案に乗り、Aが被告人の頭頂部付近を同灰皿で1回殴り、被告人は5ミリメートルほどの浅い小創を負った。その後、Aらは被告人方から退去した。 2 本件犯行状況等⑴ 同月23日午前5時30分過ぎ頃、被告人が被告人方で寝ていたところ、A及びDが被告人方を訪れた。被告人は、玄関ドアを開けて、両名を被告人方の中に入れ、被告人は、被告人方南側にある居間に置かれた布団(西側壁寄り)に座り、Aは、机を挟んで同布団の向かいに置かれた長座布団(東側壁寄り) に座り、Dは、居間と玄関の間にある台所付近に座った。 ⑵ Aは、被告人に対する不満を言った上、Dに包丁を持ってくるよう指示した。 Dは、台所付近に置かれていた万能包丁を持ってきてAに手渡し、台所付近に戻った。Aは、万能包丁の切っ先を 近に座った。 ⑵ Aは、被告人に対する不満を言った上、Dに包丁を持ってくるよう指示した。 Dは、台所付近に置かれていた万能包丁を持ってきてAに手渡し、台所付近に戻った。Aは、万能包丁の切っ先を被告人の胸に突き付け、「殺すぞ」などと言い、被告人は、「刺すなら刺してください」などと言った。さらに、Aは、「布 団のとこに寝ろよ」などと言い、被告人は、その言葉どおり、頭をベランダ側 に向けて布団の上で仰向けになった。 ⑶ Aは、仰向けになった被告人の太もも付近に馬乗りになり、左手に持った万能包丁の切っ先を被告人の胸に向け、右手で万能包丁の柄の部分を上から叩くようなしぐさをした。それまで投げやりな気持ちでいた被告人は、そのようなAのしぐさを見て殺されたくはないと思い、Aの左手首を両手でつかんで前方 に押した。すると、Aの体を難なく押し倒すことができ、体勢が逆転して、被告人が仰向けになったAの体に馬乗りになった。その体勢で、被告人が、Aの左手首をつかみながら、万能包丁の刃の背の部分を右手でつかみ、その刃をAに向けようとしたところ、刃が根元から折れた。被告人は、折れた刃を布団の下に隠した。 ⑷ 被告人は、Aの体に馬乗りになった状態で、Dに包丁を持ってくるよう指示した。Dは、台所付近に置かれていた刺身包丁を持ってきて被告人に手渡した。 被告人は、同じことを繰り返させないためにAを脅そうと考え、刺身包丁の切っ先をAの体に近づけたところ、Aが「包丁を収めてくれ」などと言ったことから、Aの体から降りた。そして、被告人とAは、お互いにあぐらをかいた体 勢で、30センチメートル程度離れて向かい合って座り、被告人は、持っていた刺身包丁を自身の右腰のすぐ横に置いた。 ⑸ 被告人とAは、お互いに黙ったまま向かい合 、お互いにあぐらをかいた体 勢で、30センチメートル程度離れて向かい合って座り、被告人は、持っていた刺身包丁を自身の右腰のすぐ横に置いた。 ⑸ 被告人とAは、お互いに黙ったまま向かい合って座っていたが、Aがいきなり中腰になる動きをしたことから、被告人は、Aが刺身包丁を取ろうとしていると感じ、すぐさま利き手である右手で刺身包丁をつかんで、正面にいるAの 体に向けて突き出したところ、その刃がAの右側胸部下部に突き刺さった(1回目の刺突行為)。その後、Aが立ち上がり、被告人の左側(被告人方の西側壁沿い)を通ってベランダ方向に進もうとする動きをしたところ、被告人は、Aの体に向けて刺身包丁を突き出し、その刃がAの左乳房部外側上部に突き刺さった(2回目の刺突行為)。さらに、Aが、被告人に背中を向けて、ベランダ方 向に進もうとする動きをしたところ、被告人は、Aの背後からその体に向けて 刺身包丁を突き出し、その刃がAの左肩甲下部に突き刺さった(3回目の刺突行為。なお、以上の3回の刺突行為を総称して「本件刺突行為」という)。左肩甲下部に刺身包丁の刃が突き刺さった後、Aは、ベランダ側の窓沿いの床に倒れ込んだ。 ⑹ 被告人がAを突き刺した刺身包丁は、先端が鋭利で、刃体の長さが約19. 3センチメートルの、金属性の包丁であった。右側胸部下部の創傷は、全刺創管長12センチメートルの盲管刺創、左乳房部外側上部の創傷は、全刺創管長4センチメートルの盲管刺創、左肩甲下部の創傷は全刺創管長19センチメートルの盲管刺創であり、そのうち左肩甲下部の刺創は、左肺下葉外側から肺門部を貫通し、左下葉気管支、左肺静脈、肺動脈主幹部を切断するものであった。 ⑺ 被告人は、本件刺突行為の際、手のひらの面に滑り止めのためのゴムのイボ 左肩甲下部の刺創は、左肺下葉外側から肺門部を貫通し、左下葉気管支、左肺静脈、肺動脈主幹部を切断するものであった。 ⑺ 被告人は、本件刺突行為の際、手のひらの面に滑り止めのためのゴムのイボが付いた軍手を、利き手である右手だけに装着していた。 ⑻ 被告人は、同日午前6時4分、Dの携帯電話機を使って110番通報し、同日午前6時16分、現場に臨場した警察官に現行犯人逮捕された。 ⑼ 同月24日、Aの身体の司法解剖が行われた際、Aは、身長が166センチ メートル、体重が57キログラムであった。被告人は、本件犯行当時、身長が162センチメートル、体重が65キログラムであった。 第3 殺意の有無(争点①)について 1 被告人がAを突き刺した刺身包丁は、先端が鋭利で、刃体の長さが約19.3センチメートルの、金属性の包丁であり、客観的に見て、殺傷能力が高いもので あったことは明らかである。 そして、刺身包丁が被告人方に置かれていたものであることや、わざわざ被告人がDに指示して刺身包丁を持ってこさせていることからすれば、本件刺突行為の際、被告人においても、刺身包丁のそのような殺傷能力の高さは当然に認識していたはずである。 2 本件刺突行為によって生じた創傷の部位は、いずれも身体の枢要部であった上、 そのうち1回目と3回目の刺突行為による刺創は、Aの身体の深部にまで及んでいる。特に3回目の刺突行為による刺創の深さは、刺身包丁の刃体の長さとほぼ同じであり、3回目の刺突行為の際にAが被告人から遠ざかる動きをしていたと考えられることも併せれば、3回目の刺突行為の強度は相当程度強かったものと認められる。そのような創傷の部位・程度、刺突行為の強度からすれば、本件刺 突行為が、客観的に見て、Aが死亡する危険 たと考えられることも併せれば、3回目の刺突行為の強度は相当程度強かったものと認められる。そのような創傷の部位・程度、刺突行為の強度からすれば、本件刺 突行為が、客観的に見て、Aが死亡する危険性が非常に高い行為であったことは明らかである。 そして、ⅰ)本件刺突行為による創傷の部位が、いずれもAの胸背部付近という身体の枢要部に集中していること、ⅱ)本件刺突行為は、被告人とAとが近接していた位置関係で行われており、被告人が誤認して各部位を刺突したとは考え にくいこと、ⅲ)1回目と3回目に生じた刺創がAの身体の深部に及んでおり、特に3回目の刺創を生じさせた刺突行為の強度が強いものであったこと、ⅳ)同じような刺突行為が短時間に連続的に3回行われていることからして、それらの創傷の部位・程度が、被告人の意図せぬ偶然の結果によるものであったとは考え難い。加えて、被告人自身、公判廷において、敢えてAが死亡しないように意識 して刺突行為に及んだわけではない旨供述している。それらのことからすると、ピンポイントで刺突部位を狙ったかどうかは措くとして、被告人は、本件刺突行為の際、当該行為が、Aが死亡する危険性が非常に高い行為であることを相応に認識していたものと推認できる。 3 他方、被告人は、公判廷において、Aを殺すつもりはなかった旨供述している が、前記1、2の検討結果を踏まえて見た場合、被告人の言わんとするところは、要するに、本件刺突行為が、深く考えずに行われたとっさの行動であったと言うにとどまるものであり、前記1、2に示した判断と矛盾することを言っているわけではないと解される。 4 以上からすれば、被告人は、Aが死亡する危険性が非常に高い行為であると認 識しながら本件刺突行為を行ったといえるから、本件刺突行為の際 矛盾することを言っているわけではないと解される。 4 以上からすれば、被告人は、Aが死亡する危険性が非常に高い行為であると認 識しながら本件刺突行為を行ったといえるから、本件刺突行為の際、被告人には 殺意があったものと認められる。 第4 正当防衛等の成否(争点②)について 1 まず、被告人が刺身包丁の切っ先をAの体に近付けるまで(前記第2の2⑷)のAの行動について見ることとする。 ⑴ 被告人が刺身包丁の切っ先をAの体に近付ける前に、Aは、被告人の太もも 付近に馬乗りになり、万能包丁の切っ先を被告人の胸に向けているが、その時点においては、被告人は、すぐにもAから万能包丁で突き刺されるかもしれない押し迫った状態にあったといえる。それに先立ってAを被告人方の中に入れた際、被告人において、その後にAが何らかの不穏当な言動をする可能性もあることをある程度は認識していたのではないかと考えられるが、他方、それ以 前に、Aが被告人の頭を灰皿で叩くことで両名の間で折合いが付いていたこと(前記第2の1⑸)からすれば、Aを被告人方の中に入れた時点で、万能包丁を使うような攻撃をAから受けることを被告人が十分予期していたとまでは認められない。被告人方の中には、Aの舎弟であるDも入っており、いわば2対1 の劣勢な状況に置かれていたことからして、被告人がAの攻撃を容易に排 除できる状況にはなかったともいえる。したがって、Aが、被告人の太もも付近に馬乗りになり、万能包丁の切っ先を被告人の胸に向けた時点においては、Aによる急迫不正の侵害に対し、被告人が反撃行為をすることは許容される状況にあったといえる。 ⑵ しかしながら、その後、ⅰ)被告人が、Aの体を難なく押し倒し、体勢を逆 転させてAの体に馬乗りになり、万能包丁の 侵害に対し、被告人が反撃行為をすることは許容される状況にあったといえる。 ⑵ しかしながら、その後、ⅰ)被告人が、Aの体を難なく押し倒し、体勢を逆 転させてAの体に馬乗りになり、万能包丁の刃を奪い取っていること、ⅱ)本来、A寄りの立場にあったはずのDが、被告人の指示に従って刺身包丁を被告人に手渡していること、ⅲ)被告人は、刺身包丁を受け取った時点で、丸腰のAの体に馬乗りになっており、両名の攻守の立場が完全に逆転し、被告人が圧倒的に優位な体勢にあったこと、ⅳ)被告人とAの体格差(前記第2の2⑼)、 年齢差(本件犯行当時、被告人は64歳、Aは69歳であった)等からすれば、 体力的に被告人のほうがAに優っていたと考えられることからすれば、被告人が刺身包丁の切っ先をAの体に近付けた時点においては、被告人は、Aから攻撃を受ける押し迫った状態を既に脱しており、Aによる急迫不正の侵害は、いったん終了していたものと認められる。 2 次に、被告人とAが向かい合って座っていた際、Aが中腰になる動きをした際 (前記第2の2⑸)のAの行動について見ることとする。 ⑴ 前記第2の2⑸のとおりAが中腰になる動きをした際、Aが現実に刺身包丁を取ろうとしていたのか否かは不明であるが、Aのそれまでの行動からすれば、Aが刺身包丁を取ろうとしていた可能性を完全に否定することはできない。そこで、被告人に有利に解釈して、その際にAが刺身包丁を取ろうとしていたこ とを前提に論を進めると、Aがそのような行動をしたのであれば、その際、被告人において、Aから刺身包丁で突き刺されるなどの攻撃を受ける押し迫った状態になかったとはいえない。 ⑵ しかしながら、その一方で、現実にAが刺身包丁を手に取ることはなく、逆に、被告人が刺身包丁を利き手であ て、Aから刺身包丁で突き刺されるなどの攻撃を受ける押し迫った状態になかったとはいえない。 ⑵ しかしながら、その一方で、現実にAが刺身包丁を手に取ることはなく、逆に、被告人が刺身包丁を利き手である右手でつかみ、その際にAは丸腰状態に あったことや、前記1で見たとおり、それに先立つAの万能包丁による攻撃を被告人が容易に制圧できていたことからすれば、少なくとも本件刺突行為の直前に被告人が刺身包丁をつかんだ時点においては、被告人がAから刺身包丁で突き刺されるなどの攻撃を受ける危険性は僅少なものになっていたといえる。 また、前記第2の2⑺のとおり、被告人は、本件刺突行為の際、手のひらの 面に滑り止めのためのゴムのイボが付いた軍手を右手に装着していたところ、それまでの被告人とAのやり取りなどに照らせば、被告人は、Aから万能包丁の刃を奪い取ってから本件刺突行為に及ぶまでの間に、同軍手を装着したとしか考えられない。そのような時点で同軍手を敢えて利き手である右手だけに装着したという被告人の行動は、Aを刺身包丁で積極的に攻撃することまでを意 図したものであったかどうかは措くとして、少なくとも、Aからの何らかの攻 撃を予期し、それに備えて刺身包丁を確実に使用するためのものであったと見るのが自然であり、被告人にそのような予期があったことを推認させる。 そして、被告人は、Aと向かい合って座っていた際、利き手である右手の近くに刺身包丁を置いた上、Aがいきなり中腰になる動きをした際、特段戸惑う様子も見せずに、すぐさま1回目の刺突行為に及び、更に連続的に2回目、3 回目の刺突行為も行って、致死に至る傷害をAに負わせている。そのような被告人のよどみない一連の動きも、被告人がAからの何らかの攻撃を予期していたことを推認させ 為に及び、更に連続的に2回目、3 回目の刺突行為も行って、致死に至る傷害をAに負わせている。そのような被告人のよどみない一連の動きも、被告人がAからの何らかの攻撃を予期していたことを推認させるものといえる。 さらに、被告人は、Aの体に馬乗りになって万能包丁の刃を奪い取った時点で、既にAよりも相応に優位な体勢にあったといえるところ、そのような状況 の下、被告人において、自身の身を守るために、わざわざDに指示して刺身包丁を持ってこさせる必要性があったとは考え難い。それにもかかわらず、被告人は、刺身包丁を受け取って完全にAを制圧した後も、Dに刺身包丁を片付けさせることもなく、Aも使えるような位置に漫然と刺身包丁を置いている。そのような経緯を考慮すると、仮に、1回目の刺突行為の直前に、被告人が感じ たとおり、Aが刺身包丁を取ろうとしていたのだとしても、そのようなAの行動が、被告人が自招した側面が強いものであったことは否めない。 加えて、被告人としても、Dが被告人の指示に従って刺身包丁を持ってきた時点において、Dが被告人に協力的であることは認識していたはずであるから、その後、Dに指示して110番通報をさせたり、Aを被告人方から退去させた りするなどして、Aの更なる攻撃を回避する方策を講じることは十分に可能であったといえる。それにもかかわらず、被告人は、そのような方策を講じないまま、本件刺突行為に及んでいる。 ⑶ 以上のことを総合すると、本件刺突行為時、被告人について、Aから自身の身体に対する攻撃を受けかねない状況になかったわけではないものの、本件刺 突行為が許容されるような状況にはなかったというべきである。したがって、 本件刺突行為は、刑法36条所定の侵害の急迫性の要件を満たすものではなく、被 たわけではないものの、本件刺 突行為が許容されるような状況にはなかったというべきである。したがって、 本件刺突行為は、刑法36条所定の侵害の急迫性の要件を満たすものではなく、被告人に正当防衛及び過剰防衛は成立しない。 そして、被告人の公判供述その他関係証拠によれば、そのような判断の基礎となった事実関係自体について、被告人に誤信はなかったと認められるから、被告人に誤想防衛及び誤想過剰防衛も成立しない。 第5 まとめ以上の次第であるので、被告人には判示のとおりの殺人罪が成立する。 (累犯前科) 1 事実⑴ 平成29年10月10日宣告、さいたま地方裁判所、覚せい剤取締法違反の罪、 懲役2年6か月、令和2年3月20日刑執行終了⑵ 令和2年9月16日宣告、さいたま地方裁判所、建造物損壊・器物損壊・暴行の各罪(⑴の刑執行終了後の犯行)、懲役1年8か月、令和4年3月17日刑執行終了 2 証拠捜査報告書(乙14)、判決書謄本(乙12) (法令の適用)罰条刑法199条刑種の選択有期懲役刑累犯加重刑法59条、56条1項、57条、14条2項(3犯)未決勾留日数の算入刑法21条 訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由) 1 本件は、被告人が、知人である被害者を包丁で突き刺して殺害したという殺人の事案である。 2 被告人は、刃体の長さ約19.3センチメートルという殺傷能力の高い包丁を用 いて、被害者の胸部及び背部を3回にわたり突き刺しており、被害者が死亡する危 険性の高い行為を執拗に繰り返した行為態様は、非常に悪質といえる。 被害者は、被告人のそのような行為によっ て、被害者の胸部及び背部を3回にわたり突き刺しており、被害者が死亡する危 険性の高い行為を執拗に繰り返した行為態様は、非常に悪質といえる。 被害者は、被告人のそのような行為によって、かけがえのない生命を奪われており、本件の結果は極めて重大である。 被告人が本件犯行に至った経緯については、前記「争点に対する判断」で説示したとおりであるところ、被告人方に押しかけて被告人に理不尽に包丁を突き付ける などした被害者にもかなりの落ち度はあるが、いったん被害者を制圧することができ、被害者からの新たな攻撃を回避する方策が十分講じられる状況になっていたにもかかわらず、不用意に刺身包丁を手元に置くなどし、被害者の殺傷につながる状況を自ら作って本件犯行に及んだ被告人の意思決定は、相応に非難されなければならない。 3 その他、量刑上考慮すべき一般情状として、被告人が前科12犯を有しており、それらの中には、粗暴犯を含む前記累犯前科や、直近のものとして暴行罪により令和5年10月19日に受けた罰金10万円の前科が含まれていること、被告人に自首が成立すること、被告人が本件犯行を大筋で認めていると解される供述をし、反省の態度も示していることが指摘できる。 4 そこで、以上の情状を考慮し、刃物類を凶器とし、被害者が知人・友人等であり、被害者に落ち度がある殺人既遂事案の量刑傾向も参照して検討した結果、被告人を主文の刑に処することとした。 (求刑-懲役13年)令和7年1月16日 前橋地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官橋本 健 裁判官柴田裕美 裁判官 裁判長 裁判官橋本健 裁判官柴田裕美 裁判官藤井貴洋

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