主文 1 被告フェニックスは,原告Aに対し,45万1000円及びこれに対する平成24年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告フェニックスは,原告Bに対し,22万円及びこれに対する平成24年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告フェニックスは,原告Cに対し,99万円及びこれに対する平成24年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告フェニックスは,原告Dに対し,61万6000円及びこれに対する平成24年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告フェニックスは,原告Eに対し,44万円及びこれに対する平成24年 5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 被告フェニックスは,原告Fに対し,92万4000円及びこれに対する平成24年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 7 被告フェニックスは,原告Gに対し,44万円及びこれに対する平成24年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 8 被告フェニックスは,原告Hに対し,34万9030円及びこれに対する平成24年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 9 被告フェニックスは,原告Iに対し,56万1000円及びこれに対する平成24年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 10 被告フェニックスは,原告Jに対し,52万8000円及びこれに対する平 成24年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 11 被告フェニックスは,原告Kに対し,51万7000円及びこれに対する平成24年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 11 被告フェニックスは,原告Kに対し,51万7000円及びこれに対する平成24年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 12 被告フェニックスは,原告Lに対し,22万円及びこれに対する平成24年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 13 被告フェニックスは,原告Mに対し,13万2000円及びこれに対する平 成24年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 14 被告フェニックスは,原告Nに対し,66万円及びこれに対する平成24年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 15 被告フェニックスは,原告Oに対し,44万円及びこれに対する平成24年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 16 被告フェニックスは,原告Pに対し,89万1000円及びこれに対する平成24年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 17 被告フェニックスは,原告Qに対し,85万6020円及びこれに対する平成24年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 18 原告らの被告フェニックスに対するその余の請求及び被告片山化学に対する 請求をいずれも棄却する。 19 訴訟費用は,原告らに生じた費用の80分の3と被告フェニックスに生じた費用の40分の3を被告フェニックスの負担とし,原告ら及び被告フェニックスに生じたその余の費用と被告片山化学に生じた費用を原告らの負担とする。 20 この判決第1ないし第17項は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,別紙1「氏名」欄記載の各原告に対し,連帯して を原告らの負担とする。 20 この判決第1ないし第17項は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,別紙1「氏名」欄記載の各原告に対し,連帯して,同別紙「減縮後請求額」欄記載の各金額及びこれらに対する同別紙「遅延損害金起算日」欄記載の各日から各支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,分離前相被告株式会社悠香(以下「悠香」という。)と被告フェニックスが製造し販売した化粧石鹸にアレルギー感作を生じさせる成分が含まれていたため,同石鹸を使用した原告らが小麦依存性運動誘発性アレルギーとなり,小麦摂取後の運動で,アナフィラキシー,アナフィラキシーショック症状 を起こすなどし,生命の危険にさらされ,小麦摂取の困難,制限,摂取後の安 静など日常生活,就労において各種制限を受けることとなったとして,石鹸を製造販売した悠香,被告フェニックス及びアレルギー感作を生じさせる成分を製造した被告片山化学に対して,製造物責任法に基づき,上記一切の損害を包括する慰謝料等として,1人550万円から880万円の損害賠償(遅延損害金を含む。)を請求した事案である。 提訴後,原告らはいずれも悠香と和解し,別紙1「解決金額」欄記載のとおり解決金を受領した。このため,悠香に対する原告らの訴訟はすべて終了した。 原告らとともに提訴した者は,被告フェニックスとの間でも和解し,被告片山化学に対する訴えを取り下げたので,これらの者の訴訟は終了した。原告らは,悠香から和解金を受領したことを理由として,請求を一部減縮した。 悠香と原告らの訴訟は終了したが,その後悠香は,被告らに補助参加した。 悠香は,補助参加人として,本件石鹸の欠陥の有無,同欠陥に係る開 金を受領したことを理由として,請求を一部減縮した。 悠香と原告らの訴訟は終了したが,その後悠香は,被告らに補助参加した。 悠香は,補助参加人として,本件石鹸の欠陥の有無,同欠陥に係る開発危険の抗弁の成否並びに原告らの損害の有無及び範囲について,後記第3「当事者の主張」中悠香の主張記載欄及び別紙2中悠香の主張記載欄のとおり主張し,被告らはこれらを明示的ないし黙示的に援用したが,悠香は弁論終結後の平成3 0年2月1日補助参加の申出を取り下げた。 1 前提事実(争いのない事実等) 当事者等ア悠香は,医薬部外品・化粧品等の製造販売を業とする株式会社である。 悠香は,無農薬栽培の茶葉エキスを用いた石鹸を被告フェニックスに製 造・納入させ,平成17年6月ころから平成22年9月25日までの間,インターネット通販により,以下の2種類の石鹸(以下,これらを併せて「本件石鹸」という。)を,通称「茶のしずく」石鹸として,消費者に販売した。 薬用悠香の石鹸 薬用フェイスソープP イ被告フェニックスは,本件石鹸を製造し,平成17年6月7日から平成22年11月25日までの間,悠香に販売,納入した者である。被告フェニックスは本件石鹸を製造するにあたり,被告片山化学が製造したグルパール19Sを石鹸の成分として用いた。 ウ被告片山化学は,本件石鹸を組成する成分であるグルパール19Sを製 造し,平成10年11月30日から平成22年8月4日までの間,被告フェニックスに販売,納入した者である。グルパール19Sは小麦のグルテンを酸もしくは熱で分解して製造される加水分解コムギ末といわれるものの一種である。 原告らの本件石鹸使用 原告らは,早い者で平成1 入した者である。グルパール19Sは小麦のグルテンを酸もしくは熱で分解して製造される加水分解コムギ末といわれるものの一種である。 原告らの本件石鹸使用 原告らは,早い者で平成18年9月ころから,遅くとも平成21年ころから,本件石鹸の使用を開始し,おおむね平成22年ないし23年ころまで使用を継続した。 アレルギー患者の発現と関係機関の対応ア危害情報(甲A4・2ないし4頁) グルパール19Sを配合した石鹸(本件石鹸を含む。)に関し,平成16年以降,全国消費生活情報ネットワーク・システム(PIO-NET)に,皮膚障害やアナフィラキシー反応等の全身性のアレルギー等の危害情報が寄せられた。その中には,小麦依存性運動誘発性アレルギーに関する報告が複数存在した。 イ厚生労働省の警告厚生労働省は,平成22年10月15日加水分解コムギ末を含有する医薬部外品及び化粧品に関して,都道府県衛生主管部(局)長に対し,医薬部外品製造販売業者及び関係団体等に,同成分を含む医薬部外品等の容器又は外箱等に,その製品に小麦由来成分が含まれている旨及び使用中に異 常があった場合は使用を控える旨記載することそのほかを周知指導する よう依頼する文書を出した(甲A1)。 ウ悠香の自主回収悠香は,平成22年10月20日,ホームページに,本件石鹸等の使用に当たって何か異常を感じたら医師に相談するようにとの案内を掲載し,平成23年5月20日,被告フェニックスとともに,本件石鹸の自主回収 を開始し,その旨悠香のホームページに掲載した(甲A4)。 その後,それまで年数件ないし十数件にとどまっていたPIO-NETへの本件石鹸による危害情報の相談が,4か月 石鹸の自主回収 を開始し,その旨悠香のホームページに掲載した(甲A4)。 その後,それまで年数件ないし十数件にとどまっていたPIO-NETへの本件石鹸による危害情報の相談が,4か月足らずで600件に迫るなど,飛躍的に増加した(甲A4,A5)。 エ日本アレルギー学会による特別委員会 日本アレルギー学会は,患者,医療従事者及び一般国民向けの情報提供,診療可能な施設についての選定とその情報提供,今後の同様な問題の発生防止のための調査研究を目的として,平成23年7月4日,特別委員会を設置した(乙イB1の1・1頁)。 特別委員会は,本件石鹸を使用しているうちに,本件石鹸に含まれる加 水分解コムギに対してアレルギーを発症し,最終的には口から食べる小麦に対してまでアレルギー反応を来すことがあるとして,同年10月11日,「茶のしずく石鹸等に含まれた加水分解コムギ(グルパール19S)による即時型コムギアレルギーの診断基準」を策定した(甲A4・5頁,13)。 同診断基準では,①加水分解コムギ(グルパール19S)を含有する茶の しずく石鹸等を使用したことがあり,②小麦製品摂取後に膨疹,呼吸困難等の全身症状がでたことなどがあり,③グルパール19Sのプリックテスト等で陽性反応を示した患者を確実例とすることなどが定められている(以下,グルパール19Sに感作することにより発症した経口小麦アレルギーを,「本件アレルギー」という。)。 2 争点 本件石鹸に製造物責任法上の欠陥があるか(争点1) 引渡当時,本件石鹸に欠陥があることを認識できたか(争点2 開発危険の抗弁) グルパール19Sに製造物責任法上の欠陥があるか(争点3) 引渡当時,グルパー 争点1) 引渡当時,本件石鹸に欠陥があることを認識できたか(争点2 開発危険の抗弁) グルパール19Sに製造物責任法上の欠陥があるか(争点3) 引渡当時,グルパール19Sに欠陥があることを認識できたか(争点4 開発危険の抗弁) 前記各欠陥により原告らが受けた損害の有無及び範囲(争点5) 過失相殺・素因減額事由の有無(争点6)第3 当事者の主張 各原告の被った損害についての当事者の主張は,これに対する当裁判所の判断と併せて別紙2(各論)に記載する。 1 本件石鹸に製造物責任法上の欠陥があるか(争点1) 原告らの主張ア本件石鹸に「欠陥」があること 本件石鹸は,いずれもいわゆる薬用石鹸であるところ,原告らは,本件石鹸を,皮膚を清潔にし,美化することを目的として,泡立てて顔面等の皮膚に塗布する方法で使用したにもかかわらず,その使用により,本件アレルギーを発症した。本件石鹸は,製造物責任法2条2項にいう「通常有すべき安全性を欠」く製造物である。 製造物である石鹸やその組成物質が,それを使用した多数の消費者の身体等に重篤な被害をもたらした場合,当該石鹸等に設計上の欠陥が,被害について指示警告が適切にされていない場合,指示警告上の欠陥がある。 そして,以下ないしの各事情を総合すれば,本件石鹸に欠陥があることは明らかである。 石鹸は,すべての消費者にとって顔面や体を洗うために毎日使用され ることが予定されている最も身近な製品であるから,多様な体質や体調等の老若男女が日常的に長期にわたり使用することを前提とした安全性が確保されなければならない。また,石鹸の製造にグルパール19Sは不可欠ではなく,同成分を排 も身近な製品であるから,多様な体質や体調等の老若男女が日常的に長期にわたり使用することを前提とした安全性が確保されなければならない。また,石鹸の製造にグルパール19Sは不可欠ではなく,同成分を排除することは客観的・技術的に可能であった。 従来,化粧品によるアレルギーとして想定されてきたのはⅣ型アレルギーであり,抗体は関与せず,T細胞の働きで炎症を起こすものであった。接触性皮膚炎がこれに当たり,可逆性の炎症反応であるが,原因物質との接触を回避することによって速やかに治癒し,死亡に至る危険はない。 本件アレルギーは,Ⅰ型アレルギーであり,感作によりHWP(加水分解コムギ)型WDEIA(小麦依存性運動誘発アナフィラキシー)症状を生じるもので,本件アレルギーを発症すると,接触蕁麻疹やアナフィラキシー症状にとどまらず,時として急激な血圧低下や呼吸困難と言ったアナフィラキシーショックまでも引き起こし,生命に対する危険を 生ぜしめるものである。本件アレルギーを発症した者は,以上の危険にさらされ,症状を回避するため,食事,小麦製品を含有する薬品使用,行動,運動などで制限を受けることになり,その精神的負担は極めて重い。 本件アレルギーは,不特定多数の一般健常者に発症しており,既往症 やアトピー体質に起因して一部の者にのみ発症しているものではない。 厚労省に報告された本件アレルギーの発症者数は,平成23年5月20日から平成25年4月19日の集計で2851件に達し,日本アレルギー学会の検討委員会疫学調査においては,平成25年8月20日時点の確実例は1941件とされている(甲A30)。 本件石鹸引渡当時の社会通念として,洗顔用石鹸を用法に従って使用 する者が,一定の頻度でⅠ型小麦アレルギーに罹患する 5年8月20日時点の確実例は1941件とされている(甲A30)。 本件石鹸引渡当時の社会通念として,洗顔用石鹸を用法に従って使用 する者が,一定の頻度でⅠ型小麦アレルギーに罹患することがやむを得ないこととして容認されていたとはいえない。 また,本件石鹸は,医薬品ではなく医薬部外品であり,身体を清潔に保つことなどを目的とするものにすぎないから,その使用により健康を損なう副作用を伴うことがあってはならない。 本件石鹸及びこれに配合されたグルパール19Sの効用は,石鹸の泡立ちを良くし,保湿性を持たせるという泡の改質程度のものであるのに対し,本件石鹸が使用者にもたらし得る被害(本件アレルギー)は,血管透過性の亢進や血管拡張による浮腫ないし有効循環血液量の低下及び血圧低下,平滑筋の収縮等による気道収束・呼吸困難にとどまらず,激 しい場合にはアナフィラキシーショックによる重篤な症状にまで至るなど,生命の危険まで及ぼしかねない。このような重大な危険は社会的に許容されない。 製造物につき,有用性ないし効用との関係で除去し得ない危険性が存在し,その危険性の発現による事故を消費者側で防止・回避するに適切 な情報を製造者が与えなかった場合,指示・警告上の欠陥がある。被告フェニックス及び悠香は,本件石鹸につき,アレルゲンとなった加水分解コムギ末を成分として表示し,肌に異常があったときには使用をやめるよう促す注意表示をしたにすぎず,本件石鹸の使用継続による重篤な本件アレルギー発症の危険性につき,何ら具体的に告知していない。前 記注意表示は,本件アレルギーを防止・回避するための指示・警告にあたるとはいえない。また,一般の使用者において「加水分解コムギ末」が何であるか理解し得ないから,成分表示をもって本件アレ 。前 記注意表示は,本件アレルギーを防止・回避するための指示・警告にあたるとはいえない。また,一般の使用者において「加水分解コムギ末」が何であるか理解し得ないから,成分表示をもって本件アレルギーを防止・回避するための指示・警告ということもできない。 イ被告フェニックスの主張に対する反論 被告フェニックスは,薬事法上の規制を遵守し,安全性検査をしたこ と,引渡当時の技術水準によれば,安全性試験等で本件アレルギー発症に係る資料を得ることは技術的に不可能であったから,本件石鹸にグルパール19Sを配合しない合理的な技術代替措置を講ずることはできなかったなどと主張する。しかし,被告フェニックスが,本件石鹸を使用することによる本件アレルギー発症の危険性を事前に確認することがで きたか否かは,欠陥の認識可能性として開発危険の抗弁で考慮されるものであって,当該事情は本件石鹸の欠陥の存在を否定するものではない。 グルパール19Sが本件石鹸に不可欠の成分ではなく,配合しないで本件石鹸を製造することが技術的に可能であったことは前記アのとおりである。 被告フェニックスは,本件石鹸使用後,眼蓋浮腫等の軽度の症状を認識しながら本件石鹸の使用を継続した使用者の行為が,通常予見される使用形態を逸脱したものであると主張する。しかし,通常予見される使用形態とは,消費者の立場で合理的に予見される使用形態である。眼蓋のはれや痒みは本件石鹸使用時に出現したものではないから,相当期間 本件石鹸を使用してきた経緯の下で,医学的知見のない一般消費者である原告らにおいて,眼蓋の腫れや痒みが発生しても,本件石鹸が原因であるとは思い至らないのが通常である。腫れや痒みの生じた者が本件石鹸の使用を継続したからといって,通常予見される使 ない一般消費者である原告らにおいて,眼蓋の腫れや痒みが発生しても,本件石鹸が原因であるとは思い至らないのが通常である。腫れや痒みの生じた者が本件石鹸の使用を継続したからといって,通常予見される使用形態から外れたものということはできない。 ウ悠香の主張に対する反論悠香は,過剰な免疫反応を起こす者が本件石鹸を使用し,本件アレルギーを発症したとして,使用者の体質こそが本件アレルギーの原因であると主張するが,本件アレルギーの発症率は既往症の有無による差がなく,使用者の素因と無関係である。 消費者にはそれぞれの体質や体調,既往等に応じて個性があることは自 明であるところ,悠香は,こうした個性を持つ多数の消費者に対して多くの本件石鹸を出荷してきたのであるから,個性の存在は所与の条件として,本件石鹸の「欠陥」の有無を判断すべきである。 被告フェニックスの主張本件石鹸の特性(アレルギー発生の内在的危険性),本件石鹸を引き渡し た時期(製造当時の科学技術水準・被害発生防止措置の技術的実現可能性,被告片山化学が被告フェニックスにグルパール19Sの安全性を信頼させたこと等),本件石鹸の効用,本件石鹸の表示に照らせば,本件石鹸に欠陥はない。 ア本件石鹸の特性(アレルギー発症をもって欠陥があるといえないこと) アレルギーの特性アレルギー症状とは,本来生体に有害でない物質を,ヒトの免疫機構が抗原と認識し,過剰な生体防御反応を起こし,ヒトの生体,身体を傷つけるものであって,特定の者に不利益な症状を発症させるものである。 あらゆる物質が生体への接触を通じてアレルゲンとなり得る可能性を有 しており,生体に接することが予定された物を製造するに当たり,およそアレルギ ,特定の者に不利益な症状を発症させるものである。 あらゆる物質が生体への接触を通じてアレルゲンとなり得る可能性を有 しており,生体に接することが予定された物を製造するに当たり,およそアレルギー反応の可能性を有する成分を予めすべて排除することは技術的に不可能である上,アレルギー発症の医学的機序も解明されておらず,どのようなヒトに対し,どのような物質がアレルゲンとなるのかを知ることはできず,アレルギー発症を予防することはできない。本件石 鹸のような人の身体に接触することを前提とする製造物は,不可避的にアレルギー発症の危険性を内在的に有している。 以上のアレルギーの特性に鑑みれば,本件アレルギーが,他のアレルギー誘引物質に基づくアレルギーに比べ,被害の程度が有意に重く,被害発生の蓋然性が有意に高い場合に初めて,本件石鹸に欠陥があること になるというべきである。 本件アレルギー被害の程度及び被害発生の蓋然性a 被害の程度小麦アレルギーでは,小麦に対する耐性獲得に伴い特異的IgE抗体値が陰性化することが多く,これはグルパール19Sについても同様であるところ,原告らのグルパール19S特異的IgE抗体値は減 少傾向にある。また,原告らは,グルパール19S特異的IgE抗体値の減少を踏まえ,経口小麦負荷試験や,これと同等の小麦製品摂取を伴う経過観察を受けているのであり,その時点で,治癒ないし寛解,あるいは少なくとも日常生活上の小麦摂取が可能となっている。本件アレルギー患者の半数を超える者が,平成25年6月までに小麦製品 の摂取を始めており,しかも摂取後に重篤な症状は誘発されていない(乙イ総C2)。本件アレルギーはいずれ治癒する可能性があり,他のアレルギーに比べて被害の程度は軽い。 本件 月までに小麦製品 の摂取を始めており,しかも摂取後に重篤な症状は誘発されていない(乙イ総C2)。本件アレルギーはいずれ治癒する可能性があり,他のアレルギーに比べて被害の程度は軽い。 本件アレルギーが重篤化している者については,その素因が一定程度寄与しているとみられる。既往症としてアトピー素因を持つ者は, 経皮感作を契機とした食物アレルギーを発症しやすい。 b 被害発生の蓋然性日本の天然小麦アレルギーの有病率は0.21%であるところ,本件アレルギーの発症率は0.03%に至らない。発症の頻度は低く,アレルゲンとなり得る他の物質との有意差はない。 イ本件石鹸の引渡時期(石鹸という製造物に期待されていた安全性) 本件石鹸の製造販売に係る規制及びその遵守等被告フェニックスは,医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年8月10日法律第154号。平成16年当時の名は「薬事法」であり,以下に示す条文はいずれも本件石鹸 引渡当時の条文である。以下「薬事法」という。)に定める化粧品及び 医薬部外品である本件石鹸の製造業ないし製造販売業としての許可を取得し,本件石鹸を製造販売した。薬事法上,医薬部外品を製造販売しようとする者は,製造販売業の許可とは別に,販売しようとする医薬部外品の品目ごとに製造販売についての承認を厚生労働大臣から受ける必要がある(同法14条1項)。厚生労働大臣は,その承認手続において, 実際に製造販売される製品の品質,有効性,安定性及び安全性等に関する事項が適当であるかどうか判断し,申請に係る医薬部外品がその効能,効果又は性能に比して著しく有害な作用を有することにより,医薬部外品として使用価値がない場合には,製造販売に係る承認 安全性等に関する事項が適当であるかどうか判断し,申請に係る医薬部外品がその効能,効果又は性能に比して著しく有害な作用を有することにより,医薬部外品として使用価値がない場合には,製造販売に係る承認をしないこととされている(同法14条2項。実際には独立行政法人医薬品医療機器総 合機構(PMDA)が審査をする。)。 厚生労働大臣は,申請の際に添付された安全性ないし効能等に関する資料に基づき,当該品目の品質,有効性,安定性及び安全性等について調査をすることとされているが(同法14条3,4項),その申請に係る事項が医学薬学上公知であると認められる場合その他資料の添付を必 要としない合理的理由がある場合は,資料の添付は不要とされている(同法施行規則18条の3,医薬部外品等の製造又は輸入の承認申請に際し号))。これについて,厚生労働省は,同省医薬食品局長名義で,「医薬部外品原料規格」(平成3年5月14日薬発第535号薬務局長通知 「医薬部外品原料規格について」,平成5年2月10日薬発第115号薬務局長通知同追補,平成6年3月15日薬発第243号薬務局長通知同追補2,平成10年3月24日医薬発第296号医薬安全局長通知同追補3及び平成10年5月22日医薬発第476号医薬安全局長通知同追補4の総称。以下「旧外原規」という。),「化粧品原料基準」(昭 和42年8月厚生省告示第322号。以下「粧原基」という。)及び「化 粧品種別配合成分規格」(平成5年10月1日薬審第813号審査課長通知。以下「粧配規」という。)を,あらかじめ厚生労働省が化粧品や医薬部外品に配合できる成分や添加物の公定書として公表し,平成18年3月31日には,旧外原規,粧原基及び粧配規を統合して「医薬部外品原料規格2006」(薬食発第0331030号。 生労働省が化粧品や医薬部外品に配合できる成分や添加物の公定書として公表し,平成18年3月31日には,旧外原規,粧原基及び粧配規を統合して「医薬部外品原料規格2006」(薬食発第0331030号。以下「外原規」と いう。)を発出し,同規格は同年4月1日に施行された(乙ロA2~5)。 化粧品及び医薬部外品の製造業者は,前記旧外原規等に記載されている原材料に属する成分(添加物)と,同一カテゴリー内にある成分(添加物)を対象製品の原材料として指定された配合量の範囲内で使用する場合には,審査実務上,薬事法が原則的に求める安全性等に関する試験結 果の添付の省略が許されている。前記旧外原規等に新たに成分(添加物)として追加記載されるためには,その成分(添加物)について,過去に,薬事法が定める原材料としての安全性等の試験結果を添付して承認申請がされ,かつ承認の上使用されている前例(使用前例)があることが前提条件となる。 本件石鹸に使用された成分(添加物)であるグルパール19Sは,粧配規等に掲載された加水分解コムギ末と同一性がある成分(添加物)であり,配合量も定められた数値の範囲内であった。被告フェニックスが本件石鹸の製造承認を申請したところ,PMDAが,書面審査上,申請書に記載された加水分解コムギ末が当時の粧配規(粧外規)に記載され た加水分解コムギ末であることを確認し,厚生労働大臣が平成17年6月7日付で承認をした。 安全性検査によっても異常が確認されなかったこと被告フェニックスは,本件石鹸の製造承認の申請に当たり,自ら及び第三者機関を通じて本件石鹸の安全性に関する検査をしたが,いずれの 検査でも異常は確認されず,原告らが主張するようなアレルギー発症の 危険性を事前に確認することができなかっ り,自ら及び第三者機関を通じて本件石鹸の安全性に関する検査をしたが,いずれの 検査でも異常は確認されず,原告らが主張するようなアレルギー発症の 危険性を事前に確認することができなかった。また,本件訴訟後においても,被験者のうち皮膚トラブルを申し出る者はいない。具体的な検査の内容及び結果は,以下のとおりである。 ① 被告フェニックスによる社内検査15名に対し,24時間クローズドパッチテストを実施し,人体の 皮膚に対する刺激性の有無を検査したが,いずれも塗布部には紅斑ないし浮腫等の異常は確認できなかった(乙ロA7)。 ② 株式会社消費科学研究所による外部検査10名の女性に対し,初期,10日後,20日後,30日後の合計4回にわたり,本件石鹸の使用前の状態と使用後の状態を比較して, 皮膚の状態を経時的に確認したところ,アレルギー症状を疑わせる炎症反応等は確認できなかった(乙ロA8)。 薬事法施行規則18条の3は,医薬部外品の製造承認申請書に添付すべき資料の一つに,安全性に関する資料を挙げているが,厚生労働省医薬食品局審査管理課は,同規則を受けて,平成元年9月11日,医薬品 の製造(輸入)承認申請に必要な毒性試験のガイドラインを発出した。 厚生労働省は,同ガイドラインを踏まえて,本件石鹸を含む医薬部外品に対する安全性に関する試験方法として,具体的に,急性毒性(単回投与毒性)試験,反復投与毒性試験,皮膚一次刺激性試験,連続刺激性試験,皮膚感作性試験,光毒性試験,光感作性試験,眼刺激性試験,ヒト パッチ試験等の試験を挙げており,それらの試験の遂行を求めるとともに,その試験実施要領を定めた。そのうちヒトパッチ試験とは,40例以上の日本人を対象として,被験物質を対象者の上背部に閉塞貼付し パッチ試験等の試験を挙げており,それらの試験の遂行を求めるとともに,その試験実施要領を定めた。そのうちヒトパッチ試験とは,40例以上の日本人を対象として,被験物質を対象者の上背部に閉塞貼付し,貼付24時間後に貼付(パッチ)を除去し,除去による一時的な紅斑の消退を待って,1時間後及び24時間後の皮膚反応を観察して,その評 点を比較し,高い評点の総和を被験者数で割った百分率を皮膚刺激指数 として人体に対する安全性の有無を確認する試験方法であるが,被告フェニックスがした②の試験は,上記安全性に関する試験方法よりも経時的に長期の皮膚の状態を観察する手法であった。 本件石鹸引渡当時,本件石鹸という医薬部外品を製造するに当たり,その用いる成分(添加物)の安全性の具備のために定められていた実用 的な意味での科学・技術水準は,薬事法,薬事法施行規則及び厚生労働省が定めた各種安全性に係る調査の種類・内容の中に反映されているものといえる。 被告片山化学からの注意事項の指摘がなかったこと医薬部外品の原材料として用いられる成分を製造する業者は,その原 材料の安全性に対する独自の検査をしているのが通常である。 被告片山化学は,被告フェニックスに対し,グルパール19Sについて,粧原基及び外原規に収載されている加水分解コムギ末に相当・適合する成分で,アイライナー,口紅リップクリーム,歯磨き以外の製品に使用できる素材であり,シャンプー・リンスにも使用できること,その 性能は乳化・保湿・触感改良の効果であり,化粧石鹸のひび割れ防止や泡の改良効果もこれらの性能が関与していること,食品衛生法上の食品であり,食品添加物や既存化学物質としても登録されていること,化粧品に使用する場合は,粧配規に収載されていない原料として所 割れ防止や泡の改良効果もこれらの性能が関与していること,食品衛生法上の食品であり,食品添加物や既存化学物質としても登録されていること,化粧品に使用する場合は,粧配規に収載されていない原料として所定の規格に従った申請をする必要があり,現に申請中である旨を説明し,グルパ ール19Sの安全性を信頼させた。 被告片山化学は,グルパール19Sを供給するに当たり,グルパール19Sの分子量が大きいことや,食品以外の用途として石鹸等に配合して使用することが危険であるなどを含め,感作性等の安全性に係る注意をしたことは全くなかった。 引渡時点の科学・技術水準の解釈 欠陥の有無の判断に際しては,引渡時点の技術水準に照らして,合理的な代替設計によって危険性の除去又は軽減措置をなし得る可能性があったか否かが重要な基準となる。また,合理的代替設計か否かは,当該製造物の種類,一般的な構造,機能や用途等という前提要素の下で,危険性の度合いや代替設計の有効性,必要性の程度との比較において,代 替設計による当該製造物の有効性を阻害する程度と,代替設計に必要な科学技術の普及の程度,費用対効果の面も考慮すべきである。 薬事法の安全性審査上,医薬部外品に含有される個々の成分が即時型アレルギー発症をもたらすかどうかに関する試験項目は存在しない。本件アレルギー発症の可能性を適時に確認するには,経皮経粘膜感作によ る即時型アレルギーの発生を動物実験で確認する必要があるが,動物実験は,世界的に禁止ないし縮小傾向にあり,同試験方法の適切な代替手段は確立されていない。本件アレルギーにつき,本件石鹸の使用開始時から発症までの期間は,最短でも1か月,長いと5年もの長期間の経過を要するものであるから,例えば1年以上の過程で経皮経粘膜によ 代替手段は確立されていない。本件アレルギーにつき,本件石鹸の使用開始時から発症までの期間は,最短でも1か月,長いと5年もの長期間の経過を要するものであるから,例えば1年以上の過程で経皮経粘膜による感 作テストをし,加水分解コムギ末と経口小麦との間の交差反応性の有無のテストという過大なコストのかかる試験をしなければ発見できないが,そのような試験は,現時点で明らかになった知見に基づくものにすぎないし,現時点でも技術的に不可能である。 以上のとおり,本件石鹸の引渡当時の安全性の審査に係る実務運用基 準の内容とその技術水準に照らせば,本件石鹸の使用による即時型アレルギー発症の危険性を事前に確認し,原因を事前に特定してこれを排除するための合理的な技術代替措置をとることはできなかった。これに前記に掲げた事情も併せると,本件石鹸は,引渡当時の科学・技術水準に照らして,十分な安全性の調査を経たものと評価できる。 ウ本件石鹸の効用・社会的有用性本件石鹸に配合された加水分解コムギ末であるグルパール19Sは,保湿性,起泡性等に優れた効果を持ち,また,粒子分散力,乳化力,保水力等に優れ,吸湿性が低く,化粧品向けとして理想的な保湿剤であるほか,天然由来成分であるため,他の化学物質と異なり環境に与える負荷は低く, 公害の原因になりにくい。しかも加水分解コムギ末は,旧外原規等に収載されている成分で,本件石鹸に限らず,古くから食品等にも多く使用されているほか,化粧品等の原材料として現実に広範に使用されてきた。 エ本件石鹸の表示 被告フェニックスは,薬事法上の規制及び日本化粧品工業連合会の自 主規制の施行時期にかかわらず,自発的に,平成16年当時から,本件石鹸の外箱及び石鹸本体を包む包 本件石鹸の表示 被告フェニックスは,薬事法上の規制及び日本化粧品工業連合会の自 主規制の施行時期にかかわらず,自発的に,平成16年当時から,本件石鹸の外箱及び石鹸本体を包む包装部分の双方に,「加水分解コムギ」等の成分が含有されている旨の成分表示及び「お肌に異常がある時,お肌に合わない時はご使用をおやめください。」等の注意表示をしていた。 特に,注意表示は,四角囲みに囲んで表記するなど,消費者の目につき やすい態様で表記し,注意内容も危険が予見された際の対処方法として,端的に使用を中止することを求めた。 被告フェニックスが本件石鹸の引渡当時の技術水準で取り得る安全確保策は,使用者に対し,本件石鹸の成分がアレルゲンとなり得る潜在的可能性を告知し,万一使用者が使用の過程で異常を感知したときは, 当該表示に従って可及的速やかに使用を中止するよう求めることであり,当該表示は必要かつ十分なものであった。 原告らは,本件石鹸の成分表示をもって本件アレルギーを防止・回避するための指示・警告になり得ないと主張する。 しかし,原告らのうちには,本件石鹸を使用し始めて短時間のうちに, 眼瞼の発赤・腫脹,顔面の痒みや膨疹,眼瞼浮腫,鼻汁,くしゃみや鼻 水等を発症した者があり,それが加水分解コムギ末によるものであると認識できなかったとしても,医師の診断を受け,本件石鹸を使用した後に症状が生じたというエピソードが伝えられたら,本件石鹸の「加水分解コムギ末」等の成分表示の確認を通じて,当該症状の原因解明がされ,その後の使用継続を回避することで重篤化を回避できた可能性がある。 本件石鹸の成分表示と使用上の注意表示は,一般的な石鹸の使用に伴う皮膚障害に対する事前の注意表示として適切な機能を有するだけでなく, の使用継続を回避することで重篤化を回避できた可能性がある。 本件石鹸の成分表示と使用上の注意表示は,一般的な石鹸の使用に伴う皮膚障害に対する事前の注意表示として適切な機能を有するだけでなく,より重篤な症状の発生を避けるための機能を果たし得るものである。 一般に,製品に指示・警告上の欠陥があるというためには,製造業者に,製品の使用者等に対する当該危険についての警告義務があることが 前提となる。本件石鹸の使用により,重篤な本件アレルギーを発症することは,本件石鹸引渡当時の世界最高水準の知見によっても予測困難であったから,被告フェニックスは本件石鹸にした前記の表示以上の指示・警告義務を負わない。 オ通常予見される使用形態 本件石鹸の使用で本件アレルギーを発症した原告らの中には,本件石鹸を継続使用する中で,洗顔後,眼蓋浮腫,痒み,顔の疱疹,鼻汁等の軽度の症状を経験したにもかかわらず,使用を継続した者が相当数いた。前記エのとおり,肌に異常が生じた場合には,使用を中止するよう注意表示していたのであるから,このような症状を認識しながら本件石鹸を継続使用 することは,通常予見される使用形態を逸脱したものである。 悠香の主張ア原告らの小麦アレルギー発症の機序が不明であること原告らは,本件石鹸の使用により,体内でグルパール19S特異的IgE抗体が産生され,加水分解コムギアレルギーを発症したと主張する。 しかし,同抗体が産生されるためには,グルパール19Sが体内に侵入 し,かつ樹状細胞に情報が取り込まれる必要があるが,本件石鹸の使用によりグルパール19Sがどのように体内に入ったかは未だ不明である。抗原特異的IgE抗体が,樹状細胞に取り込まれた異物の情 入 し,かつ樹状細胞に情報が取り込まれる必要があるが,本件石鹸の使用によりグルパール19Sがどのように体内に入ったかは未だ不明である。抗原特異的IgE抗体が,樹状細胞に取り込まれた異物の情報を伝えることができるのは,抗原の分子量が約5000以上の場合に限られるところ,皮膚や粘膜にはバリア機能があり,通常の皮膚では分子量500以上,粘 膜では分子量1200以上のものは透過することができないと考えられている。グルパール19Sの平均分子量は5万ないし6万であり,バリア機能が崩壊していない皮膚において,皮膚を介した感作はあり得ない。 また,本件において原告らのアレルギー発症のアレルゲンと考えられているグルパール19Sは,天然小麦に含まれているたんぱく質を酸によっ て加水分解することで得られる成分であり,タンパク質が加水分解してできた物質(ペプチド)の複合体である。小麦タンパク質とグルパール19Sとは,分子量も分子構造も全く異なるため,その性質や機能も異なり,グルパール19Sについてアレルギーを発症したとしても,その後交差反応により小麦アレルギー様症状を発症するとは考え難い。 イ原告らの小麦アレルギー発症の原因は不明であること原告らは,グルパール19Sを含有する本件石鹸を使用したことにより,加水分解コムギアレルギーを発症し,交差反応により小麦アレルギー症状を呈するようになったと主張する。しかし,アレルギーはそもそも身体にとって有用又は無害なものに対する過剰な免疫反応であり,発症の原因は, 医学的に定説がなく,むしろ本件石鹸の特性とは無関係の遺伝的要因や環境的要因による影響があり得るとされているところ,原告らは,本件石鹸を使用した後に小麦アレルギーを発症したと主張するのみで,原告ら 医学的に定説がなく,むしろ本件石鹸の特性とは無関係の遺伝的要因や環境的要因による影響があり得るとされているところ,原告らは,本件石鹸を使用した後に小麦アレルギーを発症したと主張するのみで,原告らの本件アレルギーが本件石鹸使用以外の要因によらないことを立証しない。本件では,他の要因として,原告らの過剰免疫体質が挙げられる。 ウ本件石鹸に欠陥がないことグルパール19S自体は無害で,健常人が接触してもアレルギー反応は起きない。原告らのグルパール19Sとの接触は,本件アレルギー反応が生じる契機を意味するにすぎず,本件アレルギーの原因は原告らの過剰免疫体質にあり,本件石鹸が原因であるとはいえず,欠陥はない。 原告らは,本件アレルギー症状が重篤であるとして,本件石鹸に欠陥があるとする。しかし,原告らが本訴で主張する「アナフィラキシーショック」の中には,必ずしも生命の危機に瀕したとはいえないケースがある。また,アナフィラキシーは,複数の臓器(肌,鼻粘膜,目等の体の器官)に同時に症状がみられることを意味するにすぎず,皮膚の蕁麻 疹と鼻粘膜の炎症が起きただけでも該当するから,アナフィラキシーであるからといって直ちに重篤な症状とはいえない。 原告らは,本件アレルギー症状の発症数が多いことをもって欠陥の根拠とする。しかし,アレルゲンを含む製品が,一定割合の使用者にアレルギーを発症させることがあることは避けられないから,アレルギーを 発症した例があったからといって,その製造物に欠陥があるとはいえない。アレルギーにあっては,発症者数ではなく,発症割合を考慮する必要があり,消費者がアレルゲンを含む製造物を使用してアレルギーを生じる割合が少なくとも0.1%を上回らない限り,当該製造物がアレルゲンを含むこと ーにあっては,発症者数ではなく,発症割合を考慮する必要があり,消費者がアレルゲンを含む製造物を使用してアレルギーを生じる割合が少なくとも0.1%を上回らない限り,当該製造物がアレルゲンを含むことが欠陥であるとはいえない。本件石鹸による本件アレル ギー発症割合は,0.03%であり,0.1%を超えない上,一般的な小麦アレルギー発症割合(0.21%)よりもはるかに低い。 エ本件石鹸は法令に適合していること本件石鹸の組成成分は,薬事法等の法規で使用することが認められており,製造,販売はいずれも,薬事法等の法令にのっとってされたから,本 件石鹸に欠陥はない。 オ本件石鹸に指示警告がされていること悠香は,本件石鹸外箱に,「お肌に異常がある時,お肌に合わない時はご使用をお止めください。」(乙イA1の1等),「使用中,赤み,かゆみ,刺激等の異常が出た場合は,使用を中止し皮膚科専門医へご相談ください。」(乙イA1の18等),「傷,湿しん等,お肌に異常がある時は, ご使用にならないでください。」,「使用中,赤み,かゆみ,刺激および目に異物感が残る場合は,使用を中止し皮膚科専門医または眼科医にご相談ください。」(乙イA1の22等),その包装紙に,「お肌に合わないときはご使用をお止めください。」(乙イA1の2等)などと記載し,その使用者に対し指示警告した。本件アレルギーは,食物アレルギー症状が 出る前に,本件石鹸使用時の目や皮膚のかゆみ,鼻炎症状が生じるとされており,使用を続けるとそのかゆみ等の症状が少しずつ悪化するとされていた。したがって,原告らのほとんどは,本件アレルギーを発症する前に肌や目に異常を感じていたにもかかわらず,前記指示警告に従って使用を中止せず,その結果,本件アレルギーを発 少しずつ悪化するとされていた。したがって,原告らのほとんどは,本件アレルギーを発症する前に肌や目に異常を感じていたにもかかわらず,前記指示警告に従って使用を中止せず,その結果,本件アレルギーを発症したものである。 2 引渡当時,本件石鹸に欠陥があることを認識できたか(争点2) 被告フェニックスの主張ア開発危険の抗弁にいう知見開発危険の抗弁における知見は,特定の者の有する知見では足りず,教科書,雑誌,研究書等の形で一般的に公表されていることが必要であるほ か,知識,経験,実験等により裏付けられ,特定の科学・技術の分野において認知される程度に存立しているものであることが必要である。 その知見によっては欠陥が認識できなかったか否かが開発危険の抗弁の成否を決することになる。本件で,欠陥は,本件石鹸によって,使用者に加水分解コムギ末による感作が生じ,交叉反応を起こして経口小麦アレル ギー等を発症すること,感作が寛解することなく,将来的に小麦含有食品 を摂取することができなくなること,被害の程度が他のアレルギー被害より重篤で,被害の発症率が他のアレルギー被害より高いことであるから,以上の欠陥の内容をなす各事実を認識し得る知見が,本件石鹸引渡当時存したか否かが問題となる。 また,欠陥の認識可能性についての知見に関して,非毒性物質による反 応であることの特殊性により得られる知見も総合的に考慮する必要がある。 すなわち,本件アレルギーの抗原は,普通のタンパク質であり,ある特定のヒトに対してのみ不利益な反応をもたらすものであるから,本件石鹸の危険性を認識させ得る知見のみならず,危険性を否定する知見も総合的に考慮すべきである。 本件石鹸引渡当時存した知見によっては,被告フェニックスにお な反応をもたらすものであるから,本件石鹸の危険性を認識させ得る知見のみならず,危険性を否定する知見も総合的に考慮すべきである。 本件石鹸引渡当時存した知見によっては,被告フェニックスにおいて,本件石鹸の欠陥を認識することはできなかった。 イ加水分解コムギ末の安全性等 加水分解コムギ末は,化粧品・医薬部外品の原料となる成分(添加物)として,外原規に古くから収載され,多種多様な分解方法,配合によっ て製品化され,多数の製造業者によって製造物の組成物として用いられてきた。化粧品類,石鹸等の多数が,加水分解コムギ末を組成物とし,その製品は,多数の人に使用されてきたにもかかわらず,これまで,高い発症率で重篤なアレルギー被害が生じたことはなかった。加水分解コムギ末は,所定の安全性の検査を経た物質であり,これを原材料として 用いた製造物が広く販売,使用されていた実績を通じて,安全性に対する信頼が確立し,安全であるとの経験知(知見)が確立していた。欧州において加水分解コムギ末の販売実績を有しているクローダジャパンは,平成24年5月13日の日本アレルギー学会の特別委員会において,「コムギタンパク商品は20年以上化粧品に使用,国際的な販売実績があり, 1億個の商品に対しアレルギー症状が10件以下(工場での粉末吸入, アレルギー患者のかぶれ等)であり,Lowrisk商品と認識している。アナフィラキシー発生の例はない。」とその認識を明らかにした(乙ハA11・2頁)。 アレルゲンとなり得る物質は,多種多様であり,これらは社会生活の中で食物として利用されるほか,工業的に加工されるなどして広範に使 用されている。加水分解コムギ末も,化粧品やシャンプー等の製品の原材料として広く使用され,販売され 様であり,これらは社会生活の中で食物として利用されるほか,工業的に加工されるなどして広範に使 用されている。加水分解コムギ末も,化粧品やシャンプー等の製品の原材料として広く使用され,販売されている。ヒトが摂取ないし接触する製品につき,アレルゲンとなり得る成分をすべて排除することはできない。 ウアレルギーに関する知見 検索可能な文献では,主として加水分解コムギの使用に伴う即時型アレルギー等の発症例が示されているのみであり,症例は極めてわずかである。これらの報告は,加水分解コムギ間での抗体反応の症例であり,本件アレルギーとは異なり,小麦アレルギーを発症した例ではない。 本件石鹸の引渡し当時,一定期間洗顔用石鹸を使用した者が,配合成 分である加水分解コムギ末に対して感作し,交叉反応を起こして,食物アレルギーとしての経口小麦アレルギー症状を発症することを指摘した医学文献は,国内はもとより海外にも存在しなかった。これらの症例報告を認識していたはずの厚生労働省は,本件アレルギー発症が確認されるまで,加水分解コムギ末使用業者に何らの注意喚起もしなかった。こ のことは,当時,加水分解コムギ末が,他のアレルゲンとなり得る成分に対し,有意な差異を有するほど危険な因子を備えたものであるとの認識が,一般的には存在しなかったことを裏付ける。 本件石鹸引渡当時,本件アレルギーの症例報告はなかった。当時存した加水分解コムギ末のアレルギーの症例報告は,いずれも小麦アレルギ ーではなく,本件石鹸の使用による本件アレルギーの発症の危険性を否 定する知見である。また,本件アレルギーによる被害の程度の重篤さ(質)及び被害発生の頻度の多さ(量)の双方を認識し得る知見や症例報告も本件石鹸引渡当時存在しなかった。 ヒトに 危険性を否 定する知見である。また,本件アレルギーによる被害の程度の重篤さ(質)及び被害発生の頻度の多さ(量)の双方を認識し得る知見や症例報告も本件石鹸引渡当時存在しなかった。 ヒトに食物アレルギーを惹起させるアレルゲンは,普通のタンパク質である。これまでの研究の結果では,アレルゲン間に共通する分子構造 やエピトープ(抗体が認識する抗原の一部分)は確認されていない。アレルゲンがアレルギー症状を引き起こす要因には,アレルゲン分子の構造や機能のほか,生体内への侵入経路,曝露量等及びホスト側の遺伝的要因が,アレルギー疾患における感作や発症,病態に密接に関わっていると考えられているが,アレルゲンがなぜある特定のヒトに対してアレ ルゲンとして機能するのかについての明確な知見はない。また,いかなるアレルゲンとの間に分子上の類似性を介して交叉反応が生じるのかについての正確な知見もない。さらに,経皮経粘膜感作と経口感作という感作ルートの相違を超えて,アレルギー症状を発症させるほどの交叉反応が,アレルゲン間のどのような機序により生じるかについて正確な知 見はない(乙ロB12)。 小麦等の成分が,いかなる条件のもとで特定のヒトにアレルゲンとなってアレルギー症状を発症させるかを,事前に把握することはできない。 また,小麦を加工した場合に,どの成分間で交叉反応が生じるか,どのような加工方法が小麦アレルギーを引き起こすのか,どの程度の分子量 まで分解すればアレルゲンとして作用しなくなるのか,本件石鹸引渡時には解明されていなかった。 加水分解コムギ末は,小麦成分を酸,酵素,アルカリ等の方法で加水分解して得られるが,加水分解処理をすることで,タンパク質の特性は大きく変化する。したがって,小麦がアレルゲンとなり得る成分であ 加水分解コムギ末は,小麦成分を酸,酵素,アルカリ等の方法で加水分解して得られるが,加水分解処理をすることで,タンパク質の特性は大きく変化する。したがって,小麦がアレルゲンとなり得る成分であっ たとしても,そのことから直ちに加水分解コムギ末がアレルゲンとなり 得る成分であるとはいえない。 本件アレルギー症例が初めて確認された当時,その原因は不明であり,抗原すら特定されていなかったが,その後の調査研究の結果,本件アレルギーは,従来認知されていた小麦アレルギーとは異なるタイプのエピトープを有する抗原が原因となっていること,従来の小麦アレルギーと 異なり,特定の工程による加水分解の結果産出された高分子量の抗原性タンパク質によるとの知見が得られつつある。 本件石鹸の引渡し当時の知見において,本件石鹸の使用により,グルパール19Sがアレルゲンとして作用し,さらに交叉反応を起こして経口小麦アレルギー等を発症することなど,本件石鹸の欠陥を認識するこ とはできなかった。 従来,小麦アレルギーとして知られていたのは,パン職人喘息及び小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)であった。前者は,小麦粉の吸入によって喘息等の症状を呈する経気道感作であり,後者は,主要抗原がω-5グリアジン(約8割),高分子量グルテニン(約2割) で,経口感作(腸間膜感作)である。これに対して,本件アレルギーは,ω-5グリアジン特異的IgE,高分子量グルテニン特異的IgEのいずれも陰性であり,従来のWDEIAとは,原因抗原,エピトープ,感作経路において異なる。同事実は,発生機序,症状,治療方法,予後等も異なることを意味し,本件アレルギーは従来知られていた小麦アレル ギーとは別のアレルギーである。 エ経皮経粘 プ,感作経路において異なる。同事実は,発生機序,症状,治療方法,予後等も異なることを意味し,本件アレルギーは従来知られていた小麦アレル ギーとは別のアレルギーである。 エ経皮経粘膜感作に関する知見本件石鹸引渡当時,食物アレルギーの感作経路としては,消化管等の経口感作ルートが主体であり,経皮経粘膜感作により重篤な食物アレルギーを発症するという一般的知見はなかった。経皮経粘膜感作が成立するため には,原因抗原が皮膚内に侵入し,抗原提示細胞によって認識されること が必要であるところ,正常な皮膚は角層で覆われており,通過できる分子量は1000ダルトン程度であるため,分子量のはるかに多いアレルゲン(タンパク質)が角層をすり抜けて皮膚内に侵入することはないと考えられていた。グルパール19Sの分子量は2万ないし25万ダルトン程度の分解産物を含むと考えられているところ,このような分子量のタンパク質 が経皮経粘膜で皮膚内に侵入して感作をもたらし,重篤な食物アレルギーを発症させるとの知見が明確に存立していたとはいえない。また,加水分解コムギ末一般の平均分子量の大きさ等が,経皮的感作を通じてアレルギー発症の危険性を誘導することを指摘した医学文献も存在しなかった。その後研究がすすめられ,平成24年ころに至って初めて,特別委員会委員 によって,経皮感作では,7万5000ダルトン以上のタンパク質を含む加水分解コムギ末の感作能が高いことが報告された(乙ロB16)。 オ事前の安全性検査に関する知見 本件石鹸の引渡当時の最高レベルの安全性評価に関する検査をしたとしても,グルパール19Sが本件アレルギー発症の危険性を有すること を事前に判別することは事実上不可能であった。 厚生労働省医薬食品局審査 引渡当時の最高レベルの安全性評価に関する検査をしたとしても,グルパール19Sが本件アレルギー発症の危険性を有すること を事前に判別することは事実上不可能であった。 厚生労働省医薬食品局審査管理課(厚労省)及び日本化粧品工業連合会(粧工連)が公表するガイドラインに示された安全性評価に係る試験方法は,いずれも,皮膚上の感作の有無と皮膚上のアレルギー症状の発症の有無を確認するためのものであり,経皮経粘膜感作から交叉反応を 起こして経口アレルギーの発症の有無を確認するための試験方法は同各ガイドラインに存在しない。また,試験において皮膚上のアレルギー症状を観察する上限期間は1か月程度であり,それ以上の継続的使用による感作を確認することはできない。さらに,同試験においては,総合的な意味での危険性の有無が判定評価されるため,一部皮膚障害が生じた 例があっても,程度が軽い場合は,直ちに使用上安全性に問題があると 結論付けられるわけではない。 本件アレルギーは,本件石鹸の使用開始後早くて1か月,遅いと5年以上も経過した後に始めて発症したというものであり,厚労省及び粧工連の定める検査方法ではその発症の端緒すらつかむことができない。上記試験方法は,試験対象数が少ないから,発症率0.038%の本件ア レルギーを確認できる可能性はわずかで,皮膚障害すら確認できなかった可能性が高い。しかも同試験方法では,当該物質による被害の重さ,発生頻度を定量的に測定することはできない。 厚労省及び粧工連また国内一般において,経皮経粘膜感作から交叉反応を起こして経口アレルギーを発症する危険性そのものが認識されてい なかったからこそ,上記各ガイドライン等の定める試験方法で足りるとされていたのである。 欧米の安全性評価のガイドライン等に 応を起こして経口アレルギーを発症する危険性そのものが認識されてい なかったからこそ,上記各ガイドライン等の定める試験方法で足りるとされていたのである。 欧米の安全性評価のガイドライン等に準拠した試験法によってもグルパール19Sにより本件アレルギーを発症することを事前に判別することは不可能であった。 欧州委員会(EC)による化粧品指令の第7次修正(2003年)及び同委員会の消費者向け製品に関する科学委員会(SCCP)が採択するSCCPガイダンス及びヨーロッパ化粧品・香料協会が公表するガイドラインの試験内容と,粧工連の試験内容は,感作性の安全性項目に係る試験方法はほとんど同様である。また,アメリカ合衆国では,化粧品・ トイレタリー・芳香製品協会(CTFA)が2007年に公表した検査方法も,感作性の安全性項目に係る試験方法は,粧工連のそれと大きな相違はない。CTFAの検査方法には,管理下ヒト使用試験(完成製品を実際に当該製品として予定される使用をした上で皮膚反応を見る試験)が含まれているが,同試験は被告フェニックスが本件石鹸を用いて 株式会社消費科学研究所に依頼して実施した試験とほぼ同内容である (乙ロA8)。いずれも,粧工連の試験方法と同じく,アレルギー発症後の交叉反応を起こした経口小麦アレルギー発症の有無は検査対象となっておらず,試験期間に上限があり,判定も総合判定の手法が用いられる。 すなわち,欧米でも,経皮経粘膜感作から交叉反応を起こして経口ア レルギーを発症する危険性そのものが認識されていなかった。 グルパール19Sによる本件アレルギーの発症の有無を確認するためには,長期間の使用試験や多数回の動物実験を実施する必要があるが,倫理的な意味で困難であり,現実には不可能である。 った。 グルパール19Sによる本件アレルギーの発症の有無を確認するためには,長期間の使用試験や多数回の動物実験を実施する必要があるが,倫理的な意味で困難であり,現実には不可能である。 カ開発危険が認められる場合 一般に開発危険の抗弁が認められるのは,先端の科学・医療技術等の領域や,製造販売時には判明しなかった副作用が,その後明らかになるなど長期間の使用後初めて欠陥が明らかになる場合が想定される。本件は,石鹸という多種多様な化学物質を構成成分ないし添加物として含有し,先端の科学技術に基づいて生産される高度な化学製品であり,また本件アレル ギーは,使用後相当期間を経た後に,突如として経口小麦アレルギーを発症するというものであり,しかも現時点での科学又は技術的知見によってのみ認識し得る新たな抗原に基づく全く新規のアレルギー症状である。本件はまさに開発危険の抗弁が認められるべき典型例である。 キ原告らの主張に対する反論 原告らの主張は,結局,本件石鹸引渡当時の知見を総合すれば,タンパク質は経口,経皮経粘膜等いずれの経路でも感作能を有し,タンパク質で感作されたヒトは交叉反応によりあらゆる種類のタンパク質との間にもアレルギー反応を起こし得るというものである。 原告の主張によれば,およそタンパク質を使用した製造物でアレルギ ー症状が発生すれば,開発危険の抗弁は常に成立しないことになるが, これは明らかに非常識な結論である。 原告らは,加水分解コムギ末につき,分解処理後分子量1万ダルトン以上ではアレルゲン性が失われない場合が多いとし,タンパク質の分子量を持ってアレルゲン性の指標となるかのような主張をする。しかし,分子量のみで当該タンパク質の感作能の危険性を 理後分子量1万ダルトン以上ではアレルゲン性が失われない場合が多いとし,タンパク質の分子量を持ってアレルゲン性の指標となるかのような主張をする。しかし,分子量のみで当該タンパク質の感作能の危険性を測ることはできない。 一定の分子量のタンパク質がアレルゲンとなる可能性があるが,分子量をもって直ちに本件石鹸の危険性に対する認識を可能とするほどの情報が得られるわけではない。一定の分子量の加水分解コムギ末が感作能を有するとの知見は本件アレルギー発症後報告されたものである。 原告らは,エピトープはタンパク質を分解する酵素によって破壊され ないから,グルテンを分解して得られるペプチドも元のタンパク質であるグルテンと交叉反応し得るとの文献(甲B23)があると主張するが,同文献は原告の主張に沿うものではなく,むしろ,タンパク質が熱や酸等によって容易に変化し,変化の一つの結果として不溶性となり,抗原としての能力を失うことを指摘するものである(甲B23・90,91 頁)。 原告らは,食物タンパク分子間での交叉抗原性及び食物アレルゲンと吸入アレルゲンとの交叉抗原性が指摘された文献(甲B25・433頁)があるとして,消化管以外から侵入したタンパク分子と消化管から吸収したアレルゲンによるアレルギー反応の知見が得られるとするが,同文 献は,いずれも腸管を経由して感作する食物アレルギーについてのものであり,本件アレルギーのような経皮経粘膜感作に妥当する見解ではない。吸入アレルゲンは,アレルゲンを吸入し経気道感作により喘息等の呼吸器障害を発症するものであり,経粘膜感作とは別経路のアレルギーである。 経皮感作による食物アレルギーという医学的知見は,平成18年以降 のフィラグリン研究の中で, の呼吸器障害を発症するものであり,経粘膜感作とは別経路のアレルギーである。 経皮感作による食物アレルギーという医学的知見は,平成18年以降 のフィラグリン研究の中で,食物抗原による経皮感作のメカニズムが次第に明らかになり,平成20年に英国の小児科医Lackによって提唱された見解である。原告らは,平成14年及び16年の症例報告をもって同知見が確立していたように主張するが,その当時,各症例報告につき,基礎研究はされず,医学的に正しい知見か否かの検証を経なかった から,同知見が確立していたとはいえない。 悠香の主張ア科学又は技術に関する知見製造物責任法4条1号にいう「科学又は技術に関する知見」は,欠陥の有無を判断するに当たって影響を受け得る程度に確立された知識のすべ てであり,特定の者の有するものではなく,客観的に社会に存在する知識の総体を指す。そして,「科学又は技術に関する知見」といえるためには,一部の学者が述べるだけでは足りず,十分に検証され確立した知識として,最高水準の学者の間で,ある程度のコンセンサスを得ていることを要する。 医学の分野では,患者の個体差や特異体質を考慮しなければならないか ら,数例の症例報告のみでは,同報告による知見を一般化することができず,確立した知見といえない。また,既存の支配的見解と相容れない症例が数例報告されただけでは,当該症例報告に係る知見はその時点では少数説にすぎないから,同知見が確立されたということはできない。 イ経皮的・経粘膜的感作に関する知見 石鹸に含まれた加水分解コムギに経皮経粘膜で感作することが,欠陥の有無を判断するに当たって影響を受け得る程度の知見として確立していたとはいえない。 グルパール 感作に関する知見 石鹸に含まれた加水分解コムギに経皮経粘膜で感作することが,欠陥の有無を判断するに当たって影響を受け得る程度の知見として確立していたとはいえない。 グルパール19S特異的IgE抗体は,グルパール19Sが体内に侵入し,樹状細胞に情報が取り込まれた場合に産出される。樹状細胞は分子量 5000ダルトン以上の物質でないと情報を取り込むことができない。一 方,皮膚は分子量500ダルトン以上,粘膜は分子量1200ダルトン以上の物質を透過させないとされていた(乙イA11(枝番を含む。))。 本件アレルギー発症者の血清学的検査の結果によれば,抗原となった物質は,グルパール19Sのうち分子量が約2万ダルトン以上のものであることが判明した(乙イA12・448頁)。このような分子量の物質が皮膚 を透過するなどということは,当時想像できないことであった。皮膚のバリア機能が崩壊し,大量の抗原が体内に吸収された場合や,もともと感作しやすい特殊な体質の者であれば格別,アレルギーの既往のなかった者が,加水分解コムギ末に経皮経粘膜で感作するといった事態は,世界最高水準のアレルギーの専門家や皮膚科学の専門家にすら全く想定することがで きなかったし,そのような知見は存在しなかった。加水分解コムギ末は,日本だけでなく,世界的に何ら制限なく使用されており,アレルギーの既往のなかった者が加水分解コムギに経皮経粘膜で感作する機序は,医学的知見として確立していなかった。 汗腺口ないし毛嚢口等の開口部は,皮膚表面の0.1%を占めるにすぎ ない。実際には,アレルゲンも薬剤も,分子量の大きな物質が皮膚を通してその感作能や薬理効果を発揮することはない。 マウスの角質層をはがしたり,薬剤による刺激を与えた を占めるにすぎ ない。実際には,アレルゲンも薬剤も,分子量の大きな物質が皮膚を通してその感作能や薬理効果を発揮することはない。 マウスの角質層をはがしたり,薬剤による刺激を与えた場合,皮膚内部の抗原認識細胞であるランゲルハンス細胞が内側のバリアであるタイトジャンクション(TJ)をすり抜けて角質層最下層まで進出し得ることを 示す報告が平成21年12月にあった(乙イB18の1)。同報告によれば,FITC-OVA(分子量4万5000ダルトンのタンパク質を蛍光標識したもの)水溶液を単純塗布しても角質層を透過しなかったので,塗布には密封包帯法を用いたというのである(同・7頁)。同報告は,抗原認識細胞が表皮細胞を突破し,角質層の最下層まで手を伸ばす可能性があ る旨を指摘しつつ,タンパク質は,分子量が大きいので,角質層が障害を 受けているか,アトピー性皮膚炎等のため機能が極端に低下している場合を除いて,角質層を通り抜けることはないと指摘するものである。 ウ天然小麦との交叉反応に関する知見加水分解コムギに感作した者が,交叉反応により,経口摂取した天然小麦にアレルギー症状を発することについては症例報告がなく,知見として 確立していなかった。近縁の抗原間で交叉反応を起こすことはあるが,確率は高くない。抗原となり得る物質は数百,数千に及び,未だその全容は把握されておらず,他方,交叉反応を起こすことが知られているのは,ごくわずかである。交叉反応は起こってみなければ分からない現象であり,具体的に予見することは不可能である。 本件アレルギーの抗原となるグルパール19Sのエピトープは,平成25年になって,天然小麦のアミノ酸配列とは全く異なることが解明された(乙イB25)。本件は,患 とは不可能である。 本件アレルギーの抗原となるグルパール19Sのエピトープは,平成25年になって,天然小麦のアミノ酸配列とは全く異なることが解明された(乙イB25)。本件は,患者の体内において産生された抗体の反応するエピトープが,偶然天然小麦に含まれるアミノ酸配列と類似しており,それゆえ交叉反応が起きたという極めて特殊なケースである。 エ原告らの主張に対する反論 原告らは,石鹸等の界面活性剤が,皮膚バリアの除去効果を持ち,抗原侵入を容易にする知見(甲B23)があった旨主張するが,同書証の原告指摘部分(同・328,329,402頁)は,Ⅳ型アレルギーについて説明したものである。皮膚に接触した物質によるⅣ型アレルギー は,500ダルトン未満の抗原を原因とするものであり,本件のようなⅠ型アレルギーとは,原因となる抗原も発症のメカニズムも全く異なる。 原告らは,当時,小麦粉を吸引することで経粘膜的に小麦アレルギーになり得るとの知見(甲B26,27)があった旨主張する。しかし,同書証の論文では感作経路の特定がされていないし,医師の問診や皮内 反応等詳細な検討の結果小麦粉アレルギーと診断されたのはわずか5名 にとどまる。同論文における有症率は,アンケート調査のみによるもので,客観的根拠に基づくものではない。 経皮,経粘膜感作についての原告ら主張の症例報告なるものは,合計しても数例と少なく,いずれも感作経路が特定されていないか,アトピー性皮膚炎患者についてのものである。これらにより,洗顔石鹸に含有 されていた加水分解コムギに経皮・経粘膜的に感作するという知見が確立したということはできない。 原告らの主張ア開発危険の抗弁にいう「知見 ある。これらにより,洗顔石鹸に含有 されていた加水分解コムギに経皮・経粘膜的に感作するという知見が確立したということはできない。 原告らの主張ア開発危険の抗弁にいう「知見」開発危険の抗弁にいう「科学又は技術に関する知見」とは,当該製造物 が引き渡された時期で入手可能な世界最高の科学・技術水準に基づく知見であるが,必ずしも知見として確立していることを要しない。既知の知識を総合して得られる知見を含み,知見の対象は「本件石鹸によって経口小麦アレルギーを発症すること」などの当該製造物による障害そのものに限定されない。 イ加水分解コムギタンパクが経皮経粘膜で感作能を有すること 昭和55年,日本アレルギー学会の学会誌「アレルギー」において,小麦を吸引する可能性の高い製パン業者が小麦粉による喘息を発症したこと,製パン工場の従業員が他の職種の人より小麦粉アレルギーになりやすいとの知見が発表された(甲B27)。これは経粘膜で小麦粉中に 含まれるタンパクに感作されうることを示す知見であるが,グルパール19Sは小麦タンパクであるグルテンを加水分解したものであり,グルテンより平均分子量が小さいから,グルパール19Sが経粘膜で感作を起こすことを認識可能にする知見である。 昭和49年発行の基本医学書には,石鹸等の界面活性剤が,皮膚バリ アの除去効果を持ち,抗原侵入を容易にする旨の知見が示されていた(甲 B23)。同書によれば,毛穴の奥の毛根を包んでいる部分の脂質(毛包内充塞脂質)の塞栓を溶解,乳化し,又はこれに溶け込むなどの諸条件を抗原性物質自らが持つか,それを持つ他の物質と共存することによって,抗原は大量に侵入する(同・328頁)。化粧品等に添加された 包内充塞脂質)の塞栓を溶解,乳化し,又はこれに溶け込むなどの諸条件を抗原性物質自らが持つか,それを持つ他の物質と共存することによって,抗原は大量に侵入する(同・328頁)。化粧品等に添加された界面活性剤の余剰乳化能は,毛包内重塞脂質と皮脂及び表皮脂質(皮表 脂質膜)の除去効果を持ち,抗原侵入を容易にする(同・329頁)というのである。すなわち,昭和49年当時,界面活性剤がいわゆる皮膚バリアの機能を損傷し得るとの知見が存在した。 経皮吸収経路としては,毛嚢や汗腺口等の皮膚開口部も挙げられ,毛孔も汗孔も真皮より下の皮下脂肪組織まで達している。これらの開口部 からの吸収では,バリア機能を有する角質層を介さず,直接抗原樹状細胞を有する真皮に到達するため,分子量や脂溶性等による制限を受けにくい(甲B42・3頁)。 そのほか,ラテックス(ゴムの木の樹脂)を抗原として経皮的に感作が起こり得ることが,平成12年ころからすでに知られていた(甲B4 3,44)。 被告悠香は,「化学化合物や医薬の皮膚浸透(皮膚透過)に関する500ダルトンルール」と題する医学文献(乙イA11(枝番を含む。))をもって,グルパール19Sが経皮経粘膜的感作能を有することを認識できなかったと主張するが,同文献は,よく使用される皮膚外用薬の分 子量が500ダルトン未満であったとのデータをまとめたレビューにすぎず,経皮経粘膜を通過する分子量自体を実験的に調査したものではない。むしろ,同文献は,水溶性分子であれば角質層以外に汗腺口及び毛嚢口を通って皮膚を透過し得る旨言及する(乙A11の2・2頁)。同文献による知見は,前記の知見を揺るがすに足りるものではない。 ウ交叉反応による小麦タンパクアレル 口及び毛嚢口を通って皮膚を透過し得る旨言及する(乙A11の2・2頁)。同文献による知見は,前記の知見を揺るがすに足りるものではない。 ウ交叉反応による小麦タンパクアレルギー発症昭和49年当時,分子量1万以上のタンパク質は抗原性を有し,グルテンはヒトを含む哺乳動物に抗原性を有する,エピトープはタンパク質を分解する酵素によって破壊されることはなく,グルテンを分解して得られるペプチドも元のタンパク質であるグルテンと交叉反応し得るとの知見が存 在した(甲B23・88ないし90頁)。 平成10年当時,分子量1万ないし7万ダルトンのタンパク質はアレルゲンになり得ること,酸や加水分解酵素処理をしても,1万ダルトン以下の分子量になっていなければ,アレルゲン性が失われない場合が多く,特に酸処理ではアレルゲン性が失われにくいこと,感作されたタンパク分子 とは異なるタンパク分子に対してアレルギー反応を起こすことがあり,吸入・経粘膜で侵入し,感作したタンパク分子とは異なる食物アレルゲンを消化管から吸収し,食物アレルギー反応を起こすことがあるとの知見が存在した(甲B25・431ないし434頁)。 エ経口摂取によるアナフィラキシー症状 平成12年,特定の食物摂取に運動負荷が加わった場合に発症する食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(FDEIA)の症例において,原因食品として小麦が最も多いとの知見が存在した(甲B29)。 オ類似商品による類似症例の報告 平成12年第9回接触皮膚炎に関する国際シンポジウムにおいて,美 容師及び客が,ヘアコンディショナー中に含まれるタンパク(コラーゲン)加水分解物によって,接触性蕁麻疹等を発症したこと,発症者の血清中のタンパク加水 膚炎に関する国際シンポジウムにおいて,美 容師及び客が,ヘアコンディショナー中に含まれるタンパク(コラーゲン)加水分解物によって,接触性蕁麻疹等を発症したこと,発症者の血清中のタンパク加水分解物に対する特異的IgEが顕出されたことが報告された(甲B30(枝番を含む。))。 また,同年,自身にも家族にもアトピーの既往歴のない27歳の健常 な女性が保湿クリーム中の加水分解コムギに感作し,即時型接触アレル ギーを発症したとの報告がある(甲B31(枝番を含む。))。同報告は,査読を経て掲載される国際的なアレルギーに関する学術誌である「Allergy」に掲載されたものであり,現在国内の40の大学が同誌を所蔵し,38の大学が平成12年以前に刊行された同誌を所蔵する。 同年,アトピーでない64歳の女性が,加水分解コムギタンパク0. 06%含有の保湿クリームを2年間顔面及び頚部に塗布していたところ,加水分解コムギに感作し,接触性皮膚炎を起こしたとの報告がある(甲B32(枝番を含む。))。同報告は,接触性皮膚炎に関する学術誌である「Contactdermatitis」に掲載されており,現在国内の63の大学が同誌を所蔵し,50の大学が平成2年以前に刊行 された同誌を所蔵する(甲B33,B34)。 平成14年2月,眼瞼クリームとボディ保湿クリームを10か月毎日使用していた46歳のアトピーを持つ女性が,接触性蕁麻疹を発症し,検査前の2か月間に,小麦グルテンや加水分解コムギタンパクを含む食品を食べた30分後に全身性蕁麻疹の発作を2度起こしたこと,同女性 のグルテン特異的IgEが高値であった症例の報告があった(甲B33(枝番を含む))。同報告は,化粧品等を使用して加水分解コムギタンパクに感作した後に,コムギ の発作を2度起こしたこと,同女性 のグルテン特異的IgEが高値であった症例の報告があった(甲B33(枝番を含む))。同報告は,化粧品等を使用して加水分解コムギタンパクに感作した後に,コムギグルテンや加水分解コムギタンパクを含有する食品を食べて全身性蕁麻疹の発作を起こす可能性があることを示すものであり,加水分解コムギタンパクの感作後に,グルテンを主要タン パクとする小麦に対する食物アレルギーを発症し得ることを示す。 平成16年3月,7人の女性が加水分解コムギタンパク配合の化粧品を塗布して接触性蕁麻疹となり,そのうち6名が改質グルテンを含む保存食品や持ち帰り総菜を食べた後にアナフィラキシー反応や蕁麻疹を起こしたこと,全ての症例で加水分解ペプチドと一部の未改質小麦粉タン パク質の両方に反応するIgEがあった旨の報告があった(甲B34(枝 番を含む。))。同報告は,発症者の既往歴からすれば,化粧品に対するアレルギーが食物アレルギーに先行していたと推論している。 カ被告らの主張に対する反論 被告らは,本件アレルギーの治療や研究等をする医師の発言を踏まえて,世界最高水準のアレルギーの専門家や皮膚科学の専門家に本件アレ ルギーが予想できなかった旨主張するが,これらの医師の発言は,本件石鹸の引渡し時に,本件石鹸の欠陥を認識し得る科学的知見がなかったとするものではない。 被告フェニックスは,本件アレルギーが従来の小麦アレルギーとは異なる旨主張し,従来型の小麦アレルギーや加水分解コムギタンパクに関 する知見・症例報告が,本件石鹸の欠陥を認識し得る知見ではない旨主張する。しかし,開発危険の抗弁にいう知見とは,具体的な障害そのものではない。本件アレルギーのエピトープと通常の タンパクに関 する知見・症例報告が,本件石鹸の欠陥を認識し得る知見ではない旨主張する。しかし,開発危険の抗弁にいう知見とは,具体的な障害そのものではない。本件アレルギーのエピトープと通常のWDEIAのエピトープが異なるとしても,前記ウに記載のとおり,グルテンと加水分解した後のグルパール19Sは共通するエピトープを有するから,小麦タン パクの一部で感作すれば,小麦タンパクに対してアレルギー反応を起こし得ることは当然である。本件アレルギーのエピトープと従来のWDEIAのエピトープが同一かどうかは欠陥の認識には無関係である。 また,被告フェニックスは,粧工連が定める試験方法では,本件石鹸による本件アレルギーの発症確認はできなかったから,確認方法に関す る知見が存在しなかった旨主張する。しかし,本件石鹸引渡当時に存在した前記イないしオの知見を組み合わせれば,本件石鹸の欠陥の存在は認識可能であり,経口小麦アレルギーの発症を実験的に確認する必要はない。 悠香は,加水分解コムギが外原規に収載されており,広く使用されて いた旨主張する。しかし,外原規は医薬部外品の原料規格について成分 ごとに必要な規格項目及び試験法を定めたものにすぎないし,外原規に収載されても,医薬部外品の承認申請に当たり安全性試験の資料の添付が不要になるというにとどまり,安全性試験をすることが免除されているわけではない。また,本件石鹸に配合されていたグルパール19Sは,広く使用されていた加水分解コムギタンパクと平均分子量が異なる上, 石鹸への使用濃度も他の製品と異なるから,グルパール19Sの安全性が使用経験等によって実証されていたわけではない。グルパール19Sが外原規に収載されていたことや加水分解コムギタンパクが広く , 石鹸への使用濃度も他の製品と異なるから,グルパール19Sの安全性が使用経験等によって実証されていたわけではない。グルパール19Sが外原規に収載されていたことや加水分解コムギタンパクが広く使用されていたことは,本件石鹸に欠陥があることを認識できる科学的知見が当時存在しなかったことを示すものではない。 3 グルパール19Sに製造物責任法上の欠陥があるか(争点3) 原告らの主張アグルパール19Sに「欠陥」があることグルパール19Sは,化粧品等に保湿性等を付与する自然由来の乳化剤であるが,成分が経皮経粘膜で体内に取り込まれ,本件アレルギーを もたらす危険性を有していた。原告らは,グルパール19Sが含有された本件石鹸を,皮膚を清潔にし,美化することを目的として,泡立てて顔面等の皮膚に塗布するなどその用法に従って使用したにもかかわらず,アナフィラキシーショックをも引き起こす小麦アレルギーを発症した。 グルパール19Sは,その保湿性から本件石鹸の製造においてひび割れ 抑制のために加えられた原材料であり,石鹸の製造に必要な材料ではなかった。 石鹸は,誰もが日常生活で安心して日々使用するものであるが,石鹸ないし石鹸の原材料となった物質の作用でアレルギー発症による健康被害がもたらされることは,いつの時代であろうとも,また科学技術的な 水準にかかわらずあってはならない。グルパール19Sは,本件石鹸の ひび割れ防止及び起泡性を高めるという程度の効用しか持たず,本件アレルギー被害をもたらすことを容認しうるような効用はない。グルパール19Sは,石鹸の原材料として通常有すべき安全性を欠いている。 また,本件石鹸の使用による小麦アレルギーの発症は,平成26年10月20日時点の確実例で2000例 認しうるような効用はない。グルパール19Sは,石鹸の原材料として通常有すべき安全性を欠いている。 また,本件石鹸の使用による小麦アレルギーの発症は,平成26年10月20日時点の確実例で2000例を超えており(甲A34),グル パール19Sに欠陥があることが裏付けられる。 欠陥の立証には,欠陥原因等の特定は不要である。原告らは,本件アレルギーの機序等を明らかにする責任を負わない。当該製造物を通常予見される使用形態において使用し,被害が生じれば製造物には欠陥が存在することが推認される。 イ通常予見される使用形態被告片山化学は,グルパール19Sを,食品とともに化粧品・医薬部外品全般に使用できる原材料として製造し,被告フェニックスに対し,化粧品原材料としてシャンプー・リンスにも使用でき,その性能は乳化・保湿・触感改良の効果であること,化粧石鹸のひび割れ防止効果や泡の改良効果 もこれら基礎性能が関与していることなどを説明した。石鹸の原材料として配合されることは,グルパール19Sの本来の使用方法である。被告片山化学は,購入者への交付資料等で,高分子構造による乳化剤としての機能,表面コーティング機能を強調し,そのための最良の配合割合として0. 3%を推奨していたから,本件石鹸へのグルパール19Sの配合割合であ る0.3%は,被告片山化学が想定した割合である。 原告らが,本件石鹸の使用に際し,毎日朝晩等複数回,本件石鹸を泡立て,手や顔等に付着させることも,本件石鹸の通常の使用方法であるから,グルパール19Sが,使用者の皮膚や粘膜に接触することになるのも,グルパール19Sを配合したことから想定される結果であった。 ウ製造物を引き渡した時期 意義製造物を引き渡した時期とは の皮膚や粘膜に接触することになるのも,グルパール19Sを配合したことから想定される結果であった。 ウ製造物を引き渡した時期 意義製造物を引き渡した時期とは,欠陥を判断するに当たり,当該製造物が引き渡された時点の社会において要請される安全性の程度等,社会通念を反映させる要素であって,「その時代の消費者期待」とも言い換え られるものである。被告片山化学は,「その製造業者等が製造物を引き渡した時期」において,当該製造物に係る科学・技術的水準,その利用可能性,実現可能性等を考慮すべきであると主張するが,引渡時点の製造物の科学・技術的水準等は,欠陥の認識可能性として,開発危険の抗弁において考慮されるものである。 石鹸及びその成分について,消費者がこれら製造物に期待する安全性のレベルが引渡時期により大きく異なることはない。 引き渡した時期グルパール19Sの引き渡した時期として問題にすべき時期は,被告フェニックスが本件石鹸の製造を開始した平成16年から平成22年8 月までである。被告片山化学は,平成10年11月30日を引渡開始時期とするが,これは被告フェニックスの石鹸の割れ防止の研究段階における購入であるから,同日を始期とすべきではない。そして,原告らの中で最も早く本件石鹸の使用を中止した原告Jの,本件石鹸最終購入日は平成19年4月であるから,この時期を基準に,本件石鹸及びグルパ ール19Sの欠陥の有無を判断すべきである。 平成19年当時の社会通念ないし消費者期待に照らせば,石鹸を用いて洗顔して本件小麦アレルギーを発症することは許容されないし,石鹸の製造にグルパール19Sは不可欠なものではなかった。 エ被告片山化学の表示・警告 ないし消費者期待に照らせば,石鹸を用いて洗顔して本件小麦アレルギーを発症することは許容されないし,石鹸の製造にグルパール19Sは不可欠なものではなかった。 エ被告片山化学の表示・警告 求められる表示・警告 製造物の危険性について,適切な表示・警告がされたというためには,危険を抽象的に告知するだけなく,具体的な危険と危険を招く使用の禁止,誤使用等による危険の除去,回復の方法等を具体的かつ明確に警告する必要がある。 分子量が平均6万であるグルパール19Sを石鹸に配合することは安 全性を欠くから,被告片山化学は,グルパール19Sについて購入者に交付する原材料に係るパンフレットに,使用できない素材として「石鹸」を加えるべきであった。 グルパール19Sの表示被告片山化学は,被告フェニックスに提供したグルパール19Sの技 術資料で,グルパール19Sの特徴として,乳化力が強く,保湿性がよく,無味無臭で,蛋白質素材で安全性が高いことを強調した上で,「化粧品の分野で安心して使用できます。」,「化粧品に用いる場合,類似の化合物に使用前例があり,化粧品用基剤としての利用が見込めます(現在別紙申請中)。」(平成2年発行。乙ロA24),「化粧品,医薬部 外品としての利用も可能です。」(平成3年発行。乙ロA25),「グルパールはその高い保湿性により化粧品石けんのひび割れ防止に効果的です。」(平成26年発行。乙ロA27),「その性能は乳化・保湿・触感改良の効果であり,化粧石鹸のひび割れ防止や泡の改良効果もこれら基礎性能が関与しています。」(平成10年発行。乙ロA23)と表 示し,グルパール19Sの配合濃度について,「液中濃度0.3%程度で十分な乳化力を発揮し,乳化の安定 防止や泡の改良効果もこれら基礎性能が関与しています。」(平成10年発行。乙ロA23)と表 示し,グルパール19Sの配合濃度について,「液中濃度0.3%程度で十分な乳化力を発揮し,乳化の安定性も良好です。」(乙ロA25),「グルパール19Sを原料に対して0.5%添加することで割れの問題はほとんど解決できました。」(乙ロA27)と記載し,石鹸成分としてグルパール19Sを使用した場合の安全性・有用性を強調してきた。 類似の化合物における使用前例があるとの表示は,グルアディンAGP (乙ロA26)において安全に使用されている前例があることを示すもの,「別紙申請中」との表示は,グルパール19Sを配合した製品につき,安全性試験を経た医薬部外品(株式会社リアル製造のスクラブクリーム)としての製造承認申請中であることを示すものであり,いずれも購入者に対してグルパール19Sの安全性を強調するものである。 また,被告片山化学は,被告フェニックスに対し,グルパール19Sを粧原基,粧配規,旧外原規に収載されている加水分解コムギ末に該当する旨説明した。旧外原規等に収載されている物質については,それを配合した化粧品や医薬部外品の製造承認申請時に,厚生労働省から特段の安全性資料の添付が求められない。すなわち,被告片山化学は,被告 フェニックスに,グルパール19Sを,特段の安全性資料の添付が必要とされない石鹸の原材料として説明し,グルパール19Sの安全性を一層強調した。 そして,被告片山化学は,本件石鹸にグルパール19S配合の効果がより発揮できるよう自社内で溶解度等の加工方法を変更するなどして, 新たな改良品のサンプルを試作して,被告フェニックスに提供していた。 被告片山化学が被告フェニックスに提供したグルパール19S より発揮できるよう自社内で溶解度等の加工方法を変更するなどして, 新たな改良品のサンプルを試作して,被告フェニックスに提供していた。 被告片山化学が被告フェニックスに提供したグルパール19Sの有害性情報は,「感作性」について「データ無し」というものに止まっており,0.3%の濃度での使用の禁止や,使用頻度の限定,混ぜ合わせを禁じる他の原料等の表示,その他注意喚起をしなかった。 被告片山化学は,原料・製法・構造等の基本的情報を被告フェニックスに提供したから,表示・警告等に足りないところはないと主張する。 しかし,製造物責任法における指示・警告上の欠陥がない場合とは,前記のとおり,当該製品に内在する危険等を具体的にわかりやすく表示することをいい,単なる成分等の表示では足りない。 被告片山化学が被告フェニックスにグルパール19Sを販売する際に した指示・説明は,グルパール19Sの用法・用量,危険回避のための指示・警告とはいえない。 被告片山化学は,薬事法上も実務の通例においても,汎用的原材料の製造業者に安全性検査義務はないと主張する。しかし,薬事法における医薬部外品及び化粧品の製造業者の安全性確保義務は,医薬部外品及び 化粧品の原材料製造業者に安全性確保の責任を免じるものではない。 警告上の欠陥について,被告片山化学は,合理的に予見不可能な危険については,警告義務を負わない旨主張する。しかし,警告上の欠陥について,欠陥の前提として予見可能性が必要と解すべき余地はない。 設計上の欠陥について,予見不可能な危険を有する製造物に対して, 製造者が危険回避措置義務を負わないとはいえない。 被告片山化学は,グルパール19Sの高分子量性のもつ危険性を表示・警告することはなく,むしろ,被告片山化 能な危険を有する製造物に対して, 製造者が危険回避措置義務を負わないとはいえない。 被告片山化学は,グルパール19Sの高分子量性のもつ危険性を表示・警告することはなく,むしろ,被告片山化学は,平成10年に被告フェニックスに交付した製品安全シート(乙ハA4)において,「危険性,有害性の評価は必ずしも十分ではありません」と表示しながらも, グルパール19Sを危険性,有害性なしとしていた。 オ原材料・汎用品の欠陥の有無原材料について欠陥がないというためには,その原料の「通常予見される使用形態」等において,設計上・製造上の欠陥がないことはもとより,原材料を用いる製造業者による誤使用を防ぐ具体的な指示・警告を 適切な方法でしたことが必要である。そして,指示・警告は,当該製造物の特性,適正な使用方法,誤使用による危険の内容について,具体的に,見やすい方法で説明されていることが必要である。 汎用的原材料は,多様な完成品に用いられる可能性があるから,製造され得るすべての完成品との関係で,安全性を確保できなければならな い。原材料については,その製造業者が最も専門的な知識及び情報を有 しているから,原材料の選択や使用によって製造物に欠陥をもたらすことがないよう,取扱説明書等に必要な指示・警告等をする義務を負い,当該指示・説明がない場合,その原材料には欠陥があることになる。 被告片山化学は,グルパール19Sが本件石鹸に配合されることを知っており,被告フェニックスとの間で,配合の効果の検証等を重ねてい た。被告片山化学は,グルパール19Sを汎用品として被告フェニックスに販売したのではない。 カグルパール19Sの感作能 小麦の食物アレルギー発症率は,卵,牛乳に次ぐが,小麦から物理 被告片山化学は,グルパール19Sを汎用品として被告フェニックスに販売したのではない。 カグルパール19Sの感作能 小麦の食物アレルギー発症率は,卵,牛乳に次ぐが,小麦から物理的に抽出される小麦タンパク質であるグルテンを構成するグルテニン及び グリアジンの中に,アレルギー感作を誘発しやすいエピトープが含まれている。小麦由来のグルパール19Sの分子量は,最低数千から最大10万ダルトン以上にも及ぶが,その製造において感作リスクの高いエピトープの開裂が進まず,そのまま保持されている可能性が高い。 グルパール19Sは,生グルテンを原材料にして,酸加熱分解等を経 て製造されるが,その中に,塩酸によりpHを1程度にし,95℃で40分間酸加水分解する工程がある。酸加水分解の時間が長ければ,分解が進み分子量が小さくなるが,40分という短時間では,グルテンのペプチド結合の開裂が十分に進行せず,分子量は高いままである。そのため,グルパール19Sは,グルテンに含まれていたエピトープの分子配 列が保持されたままの状態で脱アミド化が生じ,本来疎水性・不溶性であるグルテンの親水性・可溶性・起泡性を高め,皮膚・粘膜を通じた体内侵入が生のグルテンのままの状態よりも促進され,感作能が増強した。 グルパール19Sは経皮感作能の高い物質であった(甲B62)。 界面活性剤の機能を有するグルパール19S(乙ロA27・8頁)が, 界面活性剤である石鹸の中に配合されたのであるが,顔面の皮膚は角質 層が薄く,また眼瞼・鼻腔の粘膜に至っては角質層がなく粘膜上皮層に覆われているだけであるところ,界面活性剤が,表皮バリア障害ないし角質層の一部除去を引き起こし,グルパール19Sによる経皮経粘膜感作を生じさせた。グルパール19 膜に至っては角質層がなく粘膜上皮層に覆われているだけであるところ,界面活性剤が,表皮バリア障害ないし角質層の一部除去を引き起こし,グルパール19Sによる経皮経粘膜感作を生じさせた。グルパール19Sの感作能の高さに加えて,洗顔石鹸に配合するという用途・用法の下では,界面活性剤の特性によって非常 に感作性が高くなったもので,グルパール19Sを石鹸に配合してはならなかった。 被告片山化学の主張アグルパール19Sに欠陥がないことあらゆる製造物は,本来的にアレルギー反応を引き起こす危険性を内 在しているから,製造物の使用者の一部にアレルギーが発生した場合,常に当該製造物に欠陥があるとされることになると,有用な製造物の流通が阻害される。また,化粧品・医薬部外品やその原材料については,各消費者個々人の体質・体調等の諸条件と相まって,アレルギー症状が生じる場合もあるから,直ちに製造物に欠陥があると判断することが不 適切な場合がある。したがって,一定の有用性がある製品(食品・医薬品・化粧品等)については,アレルギー発症の危険を一定程度内在していても,危険につき指示・警告表示で対応することで,同製品を流通に置くことが許容される。 原材料が,特定の製品のためのものでなく,汎用品である場合,それ を用いて製造された製品ではなく原材料自体の製造上の欠陥,設計上の欠陥,警告上の欠陥の有無を問題とすべきである。そして,原材料の基本的な情報(用途,性能,危険性等)が適切に表示されていれば,完成品製造業者が表示を考慮して欠陥のない完成品を製造・加工することが期待できるから,当該原材料に欠陥はないと解すべきである。 設計上の欠陥,表示・警告上の欠陥は,製造業者が被害発生の危険を 回避すべき義務ないし表 陥のない完成品を製造・加工することが期待できるから,当該原材料に欠陥はないと解すべきである。 設計上の欠陥,表示・警告上の欠陥は,製造業者が被害発生の危険を 回避すべき義務ないし表示・警告義務を負うことを前提とするものであるから,製造物による被害発生の危険が,引渡当時の社会の常識や通念に照らして,製造業者にとって予見可能であることが必要である。 グルパール19Sの出荷期間である平成22年8月4日以前において,たん白加水分解物が配合された石鹸の使用によって,天然小麦を摂取し た際のアレルギー症状が発生することは,厚生労働省や専門家医師においても全く想定できなかったから,被告片山化学は,グルパール19S配合の石鹸による本件アレルギーの発症の危険について,危険回避義務ないし表示・警告義務を負うものではなかった。 また,グルパール19Sは,食品,化粧品,医薬部外品用として汎用 的でかつ有用な製造物であって,被告片山化学は,被告フェニックスにグルパール19Sを供給するに当たり,グルパール19Sの原料・製法・構造等の基本的情報を提供した。薬事法や,原材料製造業者と化粧品等製造業者との関係や化粧品製造業界の通例に照らせば,グルパール19Sを石鹸等に配合した場合の安全性検査等は被告フェニックスがすべき ことである。 本件石鹸による健康被害については,被告フェニックスないし悠香の製造過程での誤使用が介在している。 以上の事情からすると,グルパール19Sに安全性において欠けるところはなく,欠陥があるとはいえない。詳細な主張は以下のとおりであ る。 イ被告フェニックスへのグルパール19S提供経緯被告片山化学は,様々な分解方法・分解条件で小麦たん白を加水 ころはなく,欠陥があるとはいえない。詳細な主張は以下のとおりであ る。 イ被告フェニックスへのグルパール19S提供経緯被告片山化学は,様々な分解方法・分解条件で小麦たん白を加水分解し,生成された各分解物の性能を試験した。その結果,実験No.19の分解条件によるグルテン加水分解物(後のグルパール19シリーズと なる物質)が,乳化力及び粒子分散力に富む性質を有することが判明し た。被告片山化学は,平成元年12月ころグルテン加水分解物を「グルパール」と命名し,標準品としてグルパール19,グルテン改質に著効を有するグルパール26,乳化力に富むグルパール32,表面張力低下能及び粒子分散に有効なグルパール46を,食品,化粧品,医薬部外品,洗剤等への配合用成分とした場合の需要調査を開始し,平成3年12月 厚生労働省からグルパール19Sを配合した医薬部外品の製造承認を受け,その後製造・販売を始めた。 被告片山化学は,篠永化成株式会社(以下「篠永化成」という。)から,被告フェニックスがグルパール19Sに関する資料の提出を要望していると聞き,平成9年5月ころ被告フェニックスに,グルパール19 Sの性状,特徴,安全性データ,性能データ等が記載された技術資料を交付した。同資料には,性状として「外観淡黄色粉末1%pH 6~8嵩比重 0.3~0.4 平均分子量数万」安全性データとして,「グルパール19Sは,食品衛生法で定めるところの『食品』から作られたものです。化粧品に用いる場合,類似の化合物に使用前例があり,化粧品用基材としての利用が見込めます(現在別紙申請中)。 ・変異原性なし(Ames試験)[英国 Safe 品』から作られたものです。化粧品に用いる場合,類似の化合物に使用前例があり,化粧品用基材としての利用が見込めます(現在別紙申請中)。 ・変異原性なし(Ames試験)[英国 SafepharmLaboratories社の分析による]・ヒメダカLC50 10,000ppm以上[(財)日本食品分析センターの分析による] ・重金属限度内 [同上]・ヒ素限度内[同上]」と記載されていた。 このころ,被告フェニックス担当者は,被告片山化学担当者に,グル パール19Sの保湿性や低吸湿性を石鹸のひび割れ防止やシャンプー・リンス,洗浄剤に役立てることができるのではないかと独自のアイデアを披露した。 その後,被告片山化学は,被告フェニックスの要望に応じてグルパール19Sの製品見本を提供した。 被告片山化学は,平成9年6月30日篠永化成に対し,グルパール19Sの使用前例が,平成3年に尚和化工株式会社が製造承認を受けた医薬部外品(ショーワスベットスクラブクリーム)である旨説明し,同内容はそのころ被告フェニックスに伝えられた。同じころ,被告片山化学担当者Rは,被告フェニックス担当者Sに対し,グルパール19Sの安 全性試験を実施していないことを伝えた。 被告フェニックス担当者は,平成9年7月16日,被告片山化学担当者に,グルパール19Sを石鹸に配合した場合に,ひび割れ防止や泡の改良効果があるとして,シャンプー等他の化粧品にもグルパール19Sを配合することを検討している旨を話した。 被告フェニックスは,同年11月11日,篠永化成を通じて,被告片山化学に対し,グルパール19Sについての特許出願の相談をした。その際,被告フェニックスは することを検討している旨を話した。 被告フェニックスは,同年11月11日,篠永化成を通じて,被告片山化学に対し,グルパール19Sについての特許出願の相談をした。その際,被告フェニックスは,被告片山化学に,グルパール19Sを配合した石鹸につき,モニター数60名で実施した試験結果が良好であったことなどを述べた。 また,被告片山化学は,平成10年7月ころ被告フェニックスから, グルパール19をシャンプーやリンスに配合する場合の技術説明を求められ,同月8日「グルパール19Sのシャンプー・リンスへの利用について」と題する文書を交付した。同文書には,グルパール19Sが「化粧品原料基準外規格1993追補に記載されている『加水分解コムギ末(成分コード523069)』に相当」し, 「1994年に出された『化粧品種別許可基準』により」各種化粧品に使用できる成分である旨の記載が,「1.グルパール19Sの構造」として,「分子量約6万」(平均),「分子中にカルボキシル基と4級アンモニウムというイオン性官能基を 持つ両性高分子電解質(このイオン性が他の植物タンパク系商品と異なる特徴です)」ということ,「2.毛髪への影響性」として「毛髪蛋白であるケラチンは,グルタミン(酸)リッチの蛋白であるため4級アンモニウムイオンのようなカオチンを有する成分を吸着しやす いと言われています。 グルパール19Sもカオチン性イオンを有しており,かつ分子量6万程度の疎水性吸着しやすい分子量であるため,毛髪に吸着しやすいと考えられます。 いったん吸着したグルパールは,その保湿力によりしっとりさを保つ ばかりでなく,その有する乳化力で毛髪の疎水部分をより滑らかにし,さらには6万という分子量で表面コーティングの効果も期 ます。 いったん吸着したグルパールは,その保湿力によりしっとりさを保つ ばかりでなく,その有する乳化力で毛髪の疎水部分をより滑らかにし,さらには6万という分子量で表面コーティングの効果も期待」できる旨の記載が,「3.まとめ」として「グルパール19Sが分子量6万の両性高分子電解質であること及び乳 化・保湿・触感改良の効果を有することにより,毛髪に対してもしっと りさ・滑らかさ・表面コーティングの効果が期待できると考えられました。 毛髪に使用したときの各種効果を定量的に取得したことはありませんが,実際その溶液を毛髪に使った場合に毛髪の櫛通りが改善された例やしなやかさがよくなった事実が」ある旨の記載がそれぞれあった。 このとき,被告フェニックス担当者は,被告片山化学担当者に,2000個の石鹸によるモニター試験をした結果,化粧品会社から製造を請け負った石鹸にグルパール19Sを採用する可能性が高いことなどを話した。 被告片山化学は,平成10年10月9日に,篠永化成を通じて,被告 フェニックスに対し,グルパール19Sの「製品安全データシート」を交付した(乙ハA4)。同シートには,「有害性情報」として「感作性:データなし」,「危険性,有害性の評価は必ずしも十分ではありません。」,「記載内容は情報提供であって,保証するものではありません。」との記載があった。 被告片山化学は,平成11年6月9日及び平成14年7月17日,被告フェニックスに対し,被告片山化学に化粧品・医薬部外品のノウハウがなく,化粧品用としての試験(人体や髪,豚の皮を使用した試験)はできないことを説明した。被告片山化学は,被告フェニックスが様々な商品を検討する過程において,グルパール19Sを化粧品類に配合し ハウがなく,化粧品用としての試験(人体や髪,豚の皮を使用した試験)はできないことを説明した。被告片山化学は,被告フェニックスが様々な商品を検討する過程において,グルパール19Sを化粧品類に配合した 場合の有用性や安全性の試験等に一切関与していない。 被告片山化学は,平成10年11月30日から平成22年8月4日までの間,篠永化成を通じて,被告フェニックスに対し,グルパール19Sを出荷した。 この期間,被告片山化学は,被告フェニックスからどのような製品を 開発しているかなどの詳細を聞かされたことはなく,本件石鹸にグルパ ール19Sが配合されていることを知ったのは平成18年9月ころであった。被告片山化学は,本件石鹸の開発に一切関与しておらず,被告フェニックスにグルパール19Sの石鹸への使用を推奨したり,特定の完成品における推奨配合濃度等を説明したことはなかった。 原告は,被告片山化学が,前記の製品データシート交付後,グルパ ール19Sが粧外規・外原規収載の加水分解コムギ末に当たるとして,グルパール19Sの安全性を強調したことが,前記製品データシートの記載より重要である旨主張する。しかし,グルパール19Sが粧外規等収載の加水分解コムギ末に当たる旨の説明は,安全性試験を実施したということを示すものではなく,グルパール19Sの安全性を強調するも のではない。 ウグルパール19Sは有用かつ汎用的な原材料であることグルパール19Sなど加水分解コムギ末は,小麦たん白加水分解物の一種で,古くから世界中で洗顔,スキンケア,ヘアケア等,多種の化粧品・医薬部外品に使用されてきた。グルパール19Sは,乳化力・保湿性に優 れており,特定の完成品ことに本件石鹸の原材料として製造されたものではなく 中で洗顔,スキンケア,ヘアケア等,多種の化粧品・医薬部外品に使用されてきた。グルパール19Sは,乳化力・保湿性に優 れており,特定の完成品ことに本件石鹸の原材料として製造されたものではなく,食品,医薬部外品等の汎用的原材料として製造したものであり,薬事法上も,化粧品・医薬部外品に用いることができる成分と位置づけられていた。被告片山化学は,グルパール19Sを他社に紹介する際にも,汎用的材料と説明し,食品の品質改良剤として,食品会社に販売した実績 もある。 グルパール19Sは,汎用品であるがゆえに,数限りない用途が想定される。被告片山化学において,あらゆる用途を想定して情報提供することは,不可能であり,グルパール19Sを石鹸等医薬部外品に使用する場合の配合濃度やともに配合する界面活性剤等について指示特定する技術,ノ ウハウはなく,そのような指示等をしたことはない。グルパール19Sの 販売先は,一般消費者ではなく,専門的知見を有する化粧品・医薬部外品ないし食品の製造業者であるから,製造物の表示・警告として,想定される用途を特定し,各用途に特化した安全性等の情報を提供しなかったからといって,表示等が不当ということはできない。 エ引渡当時グルパール19Sにより本件のような小麦アレルギーが発生 することは全く想定されていなかったこと 製造物責任法上の「欠陥」の有無の判断に当たって,「その製造物の引き渡しの時期」が要素として考慮される。これに関して,引渡時点における,製品に対する社会の常識・通念のほか,当時の科学・技術的水準,その利用可能性を考慮すべきであり,その他,製造に関する当時の 法令上の安全規制の内容とこれを順守して製造したか否かも事情の一つとなる。 引渡当時にグルパール1 当時の科学・技術的水準,その利用可能性を考慮すべきであり,その他,製造に関する当時の 法令上の安全規制の内容とこれを順守して製造したか否かも事情の一つとなる。 引渡当時にグルパール19Sが備えておくべき性状,安全性の程度は,当時の科学・技術水準に従って設定される。その当時の科学・技術水準は,加水分解コムギ末の性状,安全性についての厚生労働省や専門家医 師の認識内容によって判定すべきである。製造物責任法は,過失を要件としないが,欠陥判断の各考慮要素は,実質において予見可能性・結果回避可能性が考慮されるべきである。 開発危険の抗弁における科学・技術水準は,①世界最高水準で最先端のものが問題となり,②その知見が唯一の判断基準であるのに対し,欠 陥の有無を判断する際に考慮される科学・技術水準は,①実用的な水準及びその実現可能性が問題となり,②他の事情とともに欠陥の有無を判断する際に考慮されるもので,異なった観点から製造物責任の異なった場面において取り上げられるものである。 グルパール19Sは加水分解コムギ末であり,加水分解コムギ末は, 被告片山化学が被告フェニックスに供給していた期間(平成9年から平 成22年8月まで),粧外規,粧配規,旧外原規に収載され,薬事法上,化粧品及び医薬部外品に汎用的に用いることができる成分とされていた。 厚生省ないし厚生労働省は,加水分解コムギ末により本件のような小麦アレルギーを発症することを全く想定していなかった。アレルギーを専門とする研究者や医師においても同様に,グルパール19Sのようなタ ンパク加水分解物に経皮的・経粘膜的に感作された場合に,天然小麦を摂取することで全身性のアレルギーを発症するという現象を予想する者はいなかった。 日本化 ルパール19Sのようなタ ンパク加水分解物に経皮的・経粘膜的に感作された場合に,天然小麦を摂取することで全身性のアレルギーを発症するという現象を予想する者はいなかった。 日本化粧品工業連合会は,平成23年8月26日「酸分解で製造したものであって,かつ,平均分子量5万~6万程度の加水分解コムギ末(グ ルパール19Sの特徴)」を今後化粧品及び薬用化粧品等の医薬部外品に配合しないこととしたが,これ以前に同成分に関する規制等はなかった。被告片山化学において,グルパール19Sが,本件アレルギーに係る危険を生ぜしめることを予想,回避することはできなかった。 グルパール19Sが本件アレルギーを発症させる機序は,現在も解明 されていない。本件アレルギーの症例が認知されてきたころから,多数の研究者によって研究が進められ,一般社団法人日本アレルギー学会は,平成23年7月4日本件石鹸による小麦アレルギー発症に関する正確な情報提供,今後の同様な問題の発生防止のための調査研究を実施等する目的で,特別委員会を設置し,本件石鹸による小麦アレルギー発症に関 する情報収集と分析,原因の解明研究,予後の調査等をしてきたが,未だに原因等は明らかでない。 グルパール19S引渡当時の科学・技術水準では,分子量約2000以上の加水分解コムギによって経皮経粘膜で感作し,感作成立後に経口摂取した小麦成分を含有する食品等との交叉反応により,小麦アレルギ ー症状を呈し,健康被害を生じることは,専門医にも想定できなかった。 人体の皮膚や粘膜は,通常体内外の物質を隔てるバリアとしての機能を有し,皮膚には,10層以上の層からなる角質層と,細胞同士がしっかり結びついたシール構造を有する表皮細胞との二重の 人体の皮膚や粘膜は,通常体内外の物質を隔てるバリアとしての機能を有し,皮膚には,10層以上の層からなる角質層と,細胞同士がしっかり結びついたシール構造を有する表皮細胞との二重のバリアがある。 これらにより分子量500以上の物質が皮膚を透過できないとされていた(500ダルトンルール)。通常のバリア機能を保持した皮膚,粘膜 では,グルパール19Sのように分子量約2000以上の物質が透過することはあり得ない。特に,石鹸に含有される成分は,石鹸使用後大部分が直ちに洗い流され,長時間付着することはない。 オ製造物の使用者の一部にアレルギーが発症したことをもって欠陥があるとはいえないこと アレルギー反応の原因物質は,化粧品等の化学物質のみならず,自然界に存在する植物,動物,金属等広範に存在し,いかなる人に対しても全くアレルギー症状を引き起こすことのない製造物は存在しない。使用者の一部にアレルギーを発症させた製造物について欠陥があるとされた場合,社会的に有用な製造物が生産されず,新たな開発も過度に抑制さ れることとなりかねない。このような事態は,製造物責任法の立法趣旨に沿わず,社会的にも悪影響を及ぼす。したがって,有用な製造物については,アレルギー発生の危険が一定程度あったとしても,その危険については指示・警告表示で対応することで流通に置くことが許容されていると解すべきである。 グルパール19Sは,乳化安定性,保水性,グルテン分散性を有し,食品,化粧品及び医薬部外品用の素材として広く有用である。そして,化粧品・医薬部外品は,人の身体を清潔にし,美化し,魅力を増し,容貌を変え,又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つという効用を有する。 グルパール19Sが配合 して広く有用である。そして,化粧品・医薬部外品は,人の身体を清潔にし,美化し,魅力を増し,容貌を変え,又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つという効用を有する。 グルパール19Sが配合された化粧品・医薬部外品は,平成23年5 月以降に被告フェニックスらによって自主回収の対象となった35品目 に及ぶ。このうち「渋の泡石鹸」は,約170万個が販売されたが,同石鹸でアレルギー症状を引き起こした報告はなく,その他の商品を含めても,アレルギー報告は本件石鹸のほかは2品目(各1例)にとどまっている。食品用グルパールシリーズは97万3596キロ出荷されたが,アレルギーの発症報告はない。グルパール19Sによるアレルギー発症 の頻度は極めて低い。 いかなる製造物についても使用者の一部にアナフィラキシーショックを含む重篤なアレルギー症状を発症させる可能性があり,その回避は不可能である。したがって,製造物に起因してアナフィラキシーショックという重い症状を経験した使用者がいるとしても,直ちに,当該製造物 に欠陥があると評価するのではなく,アレルギーの重篤度(急性期のもののみならず,どの程度で治癒するかという期間も含む。)や頻度が通常のアレルギーより重度かつ高頻度である場合に初めて,欠陥があると評価されるべきである。本件のようなアレルギーについては,通常のWDEIA及び小麦アレルギーと比較する必要がある。 本件アレルギーは,比較的早期に改善し,小麦摂取可能となっている症例が多数を占める。治癒遷延症例についても,オブリズマブ(ゾレア)投与により症状が緩和されるから,原告らはいずれも現時点での治癒か,近い将来において治癒を見込める状態にある。一方,WDEIAの根本的治癒法は未だ開発されておらず についても,オブリズマブ(ゾレア)投与により症状が緩和されるから,原告らはいずれも現時点での治癒か,近い将来において治癒を見込める状態にある。一方,WDEIAの根本的治癒法は未だ開発されておらず,治癒まで長期間を要する。したがっ て,本件アレルギーの重篤度は,通常のWDEIAより圧倒的に低い。 加えて,本件アレルギー患者に対する治療及び同患者に対する生活指導については,加水分解小麦含有石鹸の使用中止という点以外は,WDEIAに対するものと同じである。原告らには,小麦等の特異的IgE抗体値の陰性化の傾向があり,現在までに日常生活において小麦の摂取が 可能となっている。IgEが改善しても本件小麦アレルギーが改善しな い患者については,もともとの素因,体質,アレルギーなどが影響しているのであって,グルパール19Sとの因果関係が疑問である。 本件アレルギーの発症率は1万人中3人(0.03%)であるが,我が国の小麦アレルギー有病率は0.21%であり,このうちショックに至る率は18.9%である。したがって,本件石鹸の使用者のうち,本 件アレルギーを発症したり重症化させたりする割合は,通常の小麦アレルギーに比して突出して高いというわけではない。 カグルパール19Sの表示・警告 当該製造物に警告上の欠陥があるのは,当該製造物の販売時において,製造者が使用に伴う危険という欠陥を予見することができ,一方通常の 使用者は同危険を予測し得ない場合である。 グルパール19Sを配合した本件石鹸を使用することで本件アレルギーを発症することは,厚生労働省や専門医師ですら全く想定できず,被告片山化学も同危険を予測することができなかった。被告片山化学が,グルパール19Sの出荷全期間において,本 使用することで本件アレルギーを発症することは,厚生労働省や専門医師ですら全く想定できず,被告片山化学も同危険を予測することができなかった。被告片山化学が,グルパール19Sの出荷全期間において,本件アレルギーを回避するた めの表示・警告義務を負っていたとはいえない。 部品が完成品の内部に組み込まれる場合,部品の製造業者は最終の使用者に対しては警告義務を負わない。部品がさまざまな完成品の製造に使用される場合も,部品の製造業者は,使用方法すべてにわたって生じる危険について最終の使用者に直接警告する必要はない。したがって, 被告片山化学がグルパール19Sについて警告義務を負うのは,被告フェニックスに対してであって,原告らではない。 そして,完成品の製造業者は,その分野においては専門家といえるから,被告片山化学は,被告フェニックスが化粧品・医薬部外品を製造する専門業者であることを前提として表示・警告すれば足りる。被告フェ ニックスの化粧品・医薬部外品の製造・販売における専門性は高度であ るから,被告片山化学に,被告フェニックスに対して,グルパール19Sを各種化粧品・医薬部外品に配合した場合のアレルギー発症の危険性等を表示・警告すべき義務があったとはいえない。 薬事法は,化粧品・医薬部外品の製造販売業者に,その安全性確保の責任を負わせているが,化粧品・医薬部外品の原料として使用される成 分のメーカーは,製品を化粧品・医薬部外品の製造販売業者に提供する段階で,何らの規制も受けない。化粧品・医薬部外品製造業者の業界においては,特定の原料を特定の化粧品・医薬部外品に配合する際の安全性試験は,化粧品・医薬部外品製造販売業者によって実施されるのが通例である。 被告片山化学は,被告フェニ 業界においては,特定の原料を特定の化粧品・医薬部外品に配合する際の安全性試験は,化粧品・医薬部外品製造販売業者によって実施されるのが通例である。 被告片山化学は,被告フェニックスにグルパール19Sを供給するに当たり,①前記の内容が記載された技術資料,②前記の内容が記載された「グルパール19Sのシャンプー・リンスへの利用について」と題する資料,及び③前記の内容が記載された「製品安全データシート」と題する資料により,グルパール19Sの原料・製法・構造等(小 麦由来であること,平均分子量が6万以上であること,感作性については保証範囲外であること等)の基本的情報を提供し,被告片山化学の担当者が,被告フェニックスを訪問した際などに,グルパール19Sの安全性試験を実施していないこと,化粧品・医薬部外品に配合した場合の安全性・感作性についての情報はないことを説明したのであって,被告 片山化学は,原材料の製造販売業者として,化粧品・医薬部外品製造業者に十分な情報を提供した。 被告フェニックス及び悠香は,被告片山化学から以上の説明等を受けたのであるから,グルパール19Sを石鹸に配合した場合の安全性について不足する情報があれば,自らその試験を実施すべきであった。 キグルパール19Sが行政法上の規制に適合していることグルパール19Sは,薬事法上,化粧品・医薬部外品に汎用的に用いることができる成分と位置づけられ,行政法上の規制に適合したものであった。 ク被告フェニックス及び悠香の誤使用 部品については,製造者がこれを適正に使用して完成品を作成したのに,完成品に欠陥が生じたという場合でなければ,部品に欠陥があるとはいえない。本件の場合,被告フェニック 香の誤使用 部品については,製造者がこれを適正に使用して完成品を作成したのに,完成品に欠陥が生じたという場合でなければ,部品に欠陥があるとはいえない。本件の場合,被告フェニックス及び悠香が製造業者として,安全性試験や検査,調査を実施し,危険の発生を予防する措置を講ずるなどしてはじめて部品を「適正に使用した」といい得る。 薬事法上及び実務上,本件石鹸の製造販売に当たって,原材料の配合結果の安全性に責任を持つべき者は,製造者である被告フェニックスないし悠香である。また,本件では,被告フェニックスは,石鹸製造の専門業者であり,グルパール19Sに関し,被告片山化学から,感作性に関する試験を実施していないこと,被告片山化学が化粧品及び化粧品原 料としての安全性試験を実施できないことを聞いていたのであるから,この点からも本件石鹸にグルパール19Sを配合した場合の安全性に対する責任を負うべきは,被告フェニックスないし悠香である。 本件石鹸引渡当時,グルパール19Sを含む本件石鹸の使用により本件アレルギーを発症する危険性が科学技術知見により予見可能であった とすれば,その危険を回避することが可能であり,被告フェニックスないし悠香は,これを怠ってグルパール19Sを本件石鹸に配合したことになる。この場合,被告フェニックス及び悠香がグルパール19Sを適正に使用したといえない。 グルパール19Sを配合した「渋の泡石鹸」は,平成22年には薬用 石鹸の中で4番目のシェアを占める製品であったが,同石鹸で,本件ア レルギーを発症した報告はない。その他のグルパール19S配合化粧品類についても,運動誘発性アレルギーを発現したとの報告があったのは,本件石鹸を除き2品目で各1例にすぎなかった。 本件 レルギーを発症した報告はない。その他のグルパール19S配合化粧品類についても,運動誘発性アレルギーを発現したとの報告があったのは,本件石鹸を除き2品目で各1例にすぎなかった。 本件では,グルパール19Sが本件石鹸において,特定の物質とともに特定の濃度で配合され,本件石鹸につき不適切な使用法を消費者に勧 めたことが本件アレルギーの原因である。 特別委員会の平成24年5月28日の中間報告は,①グルパール19Sが界面活性剤を含む石鹸に配合されたこと,②配合濃度が0.3%であったこと,③本件石鹸が毎日の入念な洗顔に用いられたことなどの事由が複合することにより,グルパール19Sが経皮経粘膜で吸収され, 本件アレルギー発症の準備状況が作り出されたとしている。また,同報告は,①に関して,グルパール19Sは,石鹸など界面活性剤を用いないと皮膚から感作することはできない,配合される界面活性剤によって,感作の有無・程度が異なってくるなどの見解が示されているほか,②に関して,グルパール19Sが0.3%というヘアケア商品並みに高い濃 度で配合されたことが,アレルギー拡大の一因であるとの見解も示されている。 グルパール19Sを0.3%という濃度で洗顔石鹸へ配合すること,同石鹸に配合する他の界面活性剤の種類や濃度を決定したのは,被告フェニックスないし悠香であり,本件石鹸の使用法として,入念な洗顔方 法である「ダブル洗顔」を考案し,消費者に推奨したのも被告フェニックスないし悠香である。被告片山化学はこれらに一切関与していない。 悠香が本件石鹸の販売手法として採用した「まとめ買いによる割引」や「定期購入」の仕組みも,利用者が体調にかかわらず,本件石鹸の使用を継続する要因となり,被害の発生に関与した可能性が高い。 悠香が本件石鹸の販売手法として採用した「まとめ買いによる割引」や「定期購入」の仕組みも,利用者が体調にかかわらず,本件石鹸の使用を継続する要因となり,被害の発生に関与した可能性が高い。 さらに,被告フェニックスないし悠香が,早期に本件石鹸の回収をし ていれば,被害は小規模で済んだはずである。 以上の事情に照らせば,原告らの健康被害の原因は,原材料であるグルパール19Sの「欠陥」にあるのではなく,被告フェニックスないし悠香が,グルパール19Sを,特定の濃度の特定の界面活性剤とともに洗顔石鹸に0.3%という濃度で配合し,入念なダブル洗顔を原告らに 推奨したことなどにあり,被告フェニックスらの誤使用に起因したといえるから,グルパール19Sに欠陥はない。 4 引渡当時,グルパール19Sに欠陥があることを認識できたか(争点4) 被告片山化学の主張ア開発危険の抗弁 加水分解コムギ末を含有する石鹸やシャンプーその他の化粧品製品・医薬部外品等の使用により,加水分解コムギ末に感作した結果,小麦アレルギーを発症する例はこれまで知られていなかった。したがって,グルパール19S引渡当時の知見によれば,グルパール19Sが本件小麦アレルギーを発症させる欠陥があることを認識することができなかった。具体的な 主張は前記3のとおり。 イ被告片山化学がした安全性試験被告片山化学は,グルパール19Sの安全性確認のための試験として,眼・皮膚刺激性試験等,各種安全性確認試験をしたが,眼・皮膚刺激性試験では,いずれも無刺激性との結果であり,安全性を欠くとの結果は出な かった(乙ハA34,35)。 ウ原告らの主張について 原告指摘の医学文献や,海外の論文等に 刺激性試験では,いずれも無刺激性との結果であり,安全性を欠くとの結果は出な かった(乙ハA34,35)。 ウ原告らの主張について 原告指摘の医学文献や,海外の論文等による症例報告を考慮しても,本件石鹸に含有されていた加水分解コムギに経皮経粘膜で感作し,感作成立後に経口摂取した小麦又は小麦成分を含有する食品等との交叉反応 により,小麦アレルギー症状を呈し健康被害を生じることは,専門医に も想定できなかった。以下の原告指摘のいずれの文献等によっても,グルパール19Sによる感作を想定することはできなかった。 原告は,甲B第23号証を根拠に,グルパール19S引渡当時,石鹸等の界面活性剤が皮膚バリアの除去効果を持ち,抗原侵入を容易にするなどの知見が存在したと主張する。しかし,同文献の原告指摘部分は, 遅発型のⅣ型アレルギーについてのもので,即時型のⅠ型アレルギー(本件アレルギーを含む。)に関するものではない。Ⅳ型アレルギーは,500ダルトン未満の抗原を原因とするものであるため,Ⅰ型アレルギーとは原因となる抗原も発症のメカニズムも異なる。 また,原告は,甲B第25号証を根拠に,分子量1万以上の小麦グル テン分解物はヒトに対して抗原性を有し,酸分解した小麦グルテンに感作された者は異なるタンパク分子を有するグルテンに対してもアレルギー反応を起こす可能性が高いこと,皮膚から侵入したタンパク分子に感作した後にコムギタンパクを経口摂取してアレルギーを起こし得ることなどについての知見が存在したと主張する。しかし,同文献の原告指摘 部分は,腸管を経由して感作したか,呼吸器からの吸引により感作した食物アレルギーを想定した記載であり,石鹸や化粧品による経皮・経粘膜感作の報告では 在したと主張する。しかし,同文献の原告指摘 部分は,腸管を経由して感作したか,呼吸器からの吸引により感作した食物アレルギーを想定した記載であり,石鹸や化粧品による経皮・経粘膜感作の報告ではない。 原告は,甲B第9,26号証を根拠に,経粘膜で小麦粉中に含まれる小麦タンパクに感作する可能性があり,したがって,グルテンよりも平 均分子量が小さいグルパール19Sは経粘膜で感作されうるとの知見が存在したと主張する。しかし,同各文献では,感作経路が特定されていないばかりか,呼吸器からの吸引によって感作発症したことを想定しており,本件アレルギーに直接参考となるものではない。 原告は,甲B第30号証の1,2,同第31号証の1,2,同第32 号証の1,2,同第33号証の1,2,同第34号証の1,2などの文 献から,タンパク加水分解物,加水分解コムギが使用された化粧品等を使用した場合,加水分解コムギアレルギーないし小麦グルテン等に対するアレルギーを発症し得るとの知見が存在したと主張する。しかし,これらはいずれも,グルパール19Sとは異なる抗原であったり,感作経路につき経口感作の可能性が否定できなかったり,本件アレルギーのよ うな経口小麦アレルギーではなく,軽度の皮膚障害にすぎなかったり,交叉反応により天然小麦や未改質グルテンに対するアレルギーを発症した症例ではなかったり,アトピー性皮膚炎の患者に関する報告等であり,グルパール19S引渡当時,原告主張の前記知見が存在したということはできない。 原告らの主張ア開発危険の抗弁について前記2と同旨。 イ被告片山化学の主張について 甲B第23号証の原告指摘部分は,Ⅳ型アレルギーに関して記載した 原告らの主張ア開発危険の抗弁について前記2と同旨。 イ被告片山化学の主張について 甲B第23号証の原告指摘部分は,Ⅳ型アレルギーに関して記載した ものであるが,界面活性剤入りの化粧品中の成分の体内への侵入機序を記載した部分は,Ⅰ型アレルギーの抗原侵入にも応用できる。 甲B第26,27号証の各文献で紹介されている例は,経気道感作を前提としており,経粘膜感作の可能性があるから,本件に関わる知見である。症例数からして,一般的な小麦アレルギーの有病率より明らかに 高く,そのうち呼吸器症状を起こしたのは3年以上の勤務期間の者がほとんどであったから,同各文献は小麦粉の吸引,経粘膜感作により小麦アレルギーを発症したことを示す疫学的知見である。 被告片山化学は,前記に掲記の文献の症例報告に関し,グルパール19Sとは異なるタンパク分解物が問題になった症例である,感作 経路が特定されていない,Ⅳ型アレルギーの症例報告である,交叉反応 の症例ではない,使用者の身体的素因が関与している可能性があるなどと主張する。しかし,化粧品であるから,感作経路が経皮ないし経粘膜とされた症例であることは明らかであり,またⅣ型アレルギーに関する症例だとしても本件アレルギーに係る事例と類似しているから,本件アレルギーに係る知見といえる。そして,交叉反応に関する症例でないと しても,他の知見と総合すれば,本件アレルギーの発症を認識し得る知見ということができる。アトピー患者に関する症例であったからといって,本件に関係のない知見ということはできない(本件石鹸には,アトピー患者の使用を防ぐ警告はない。)。 5 前記各欠陥により原告らが受けた損害の有無及び範囲(争点5) あったからといって,本件に関係のない知見ということはできない(本件石鹸には,アトピー患者の使用を防ぐ警告はない。)。 5 前記各欠陥により原告らが受けた損害の有無及び範囲(争点5) 以下は,各原告に共通する損害についての主張を示す。各原告の個別損害に係る主張は,別紙2(各論)記載のとおり。 原告らの主張ア原告らの損害原告らは,本件石鹸の欠陥により小麦アレルギーになり,診療機関の受 診,入通院治療を余儀なくされ,治療費・交通費・文書料・入院雑費等の各支出をした。 同アレルギーの発症により,WDEIAを引き起こすと,初期症状として目や顔面のかゆみ,腫脹,進行症状として消化器・呼吸器障害,血圧低下等を発症し,場合によってはアナフィラキシーショックを起こして意識 を失うこともある上,眼瞼や顔面が腫れあがると醜状を来し,眼瞼の腫脹によって目が開けられなくなることがある。 同アレルギーは,容易に治癒・軽快するものではないから,原告らは,小麦成分の摂取を避け,食後運動を自主的に制限し,それでも発症した場合は,対症療法を受けねばならない。原告らのうちには,抗アレルギー薬 を継続して服用し,救急薬「エピペン」を常時携行する者がある。小麦成 分の摂取を避けるとなると,食べることのできる食品が極めて限られ,生活の基本となる食事が著しく制限される。同アレルギーは,家事労働程度の運動によっても発症し,体調によっては安静にしていても発症し得る。 原告らは,慎重に小麦を避けて食事をした上,食後数時間,安静にする必要があり,1日の大部分において,著しく行動が制限される。 原告らは,事実上ほとんど運動をすることができない上,食事による交流ないし幸福追求の機会を制限されている。 さらに,本件ア にする必要があり,1日の大部分において,著しく行動が制限される。 原告らは,事実上ほとんど運動をすることができない上,食事による交流ないし幸福追求の機会を制限されている。 さらに,本件アレルギーの発症により,ショック状態に至らないまでも,くしゃみや鼻水,腫脹のため安静を保たなければならず,仕事の中断,休業等を余儀なくされることがある。痒み等による集中力低下,仕事能率の 低下もある。このような様々な制限から,家事労働についても必要以上に時間的経済的コストがかかる。 原告らは,被告らの対応の遅れもあり,本件石鹸が本件アレルギーの原因であることを長く知らなかった。このため,医療機関で適切な対応が受けられず,いつどのようにして発症するか分からないという状態に置かれ, 極めて大きな精神的苦痛を負った。そして,原因を知らされた後も,前記のとおり意識消失等の重篤症状の発症と隣り合わせの中で生活することに変わりはない。 本件アレルギーを含む食物アレルギーには,直接的な根治療法はなく,抗アレルギー剤等の対症療法的な薬剤処方と検査等にとどまる。したがっ て,原告らは,本件アレルギーが分かった後も,通院はあまり多くない。 原告らは,小麦製品を含む食事制限や運動制限等の日常的な負荷を受け生活をしているのであって,通院日数に基づく損害額算定は,本件では適切でない。 イ損害額 原告らは,本件アレルギーの発症により,生命・生理的機能に対する重 大な被害を受け,憲法25条により保障された健康で文化的な生活を営む権利及び憲法13条により保障された幸福を追求する権利が破壊され,体力的・精神的・経済的に多大な負担を負ったのであり,今後もそのような負担が継続する。 被告らの無責任な行為・対応,原告らの現在の 憲法13条により保障された幸福を追求する権利が破壊され,体力的・精神的・経済的に多大な負担を負ったのであり,今後もそのような負担が継続する。 被告らの無責任な行為・対応,原告らの現在の症状,過去の症状経過等 一切の事情を総合して考慮すれば,各原告の全人格的損害の賠償のために最低限支払われるべき金額は,少なくともそれぞれ別紙1の各原告の「減縮後請求額」欄記載の金額が相当である。 ウ本件アレルギーの治癒可能性被告らは,治癒が可能であると主張するが,一般的にアレルギーの治 療方法は確立されておらず治癒し難いとされており,本件アレルギーの治癒可能性について確立した医学的知見,治療法はなく,確実に治癒したとの症例報告はない。制限なく小麦製品を食べて3か月以上アレルギー症状が見られない状態を「略治」とした場合,本件アレルギー患者の約半数が略治となるのにかかる期間は5.4年と極めて長期であり,ま た略治となったとしても,今後症状が全く出ないとも言い切れない。平成26年10月の調査時点で略治したといえる本件アレルギー患者は,全体の22%にとどまる。 血液中のアレルゲン特異的IgE抗体の数値は,アレルギー体質の診断,アレルギー反応の発症,その予後の判定の指標の一つであるにすぎ ず,その数値の減少をもって,アレルギーが治癒・寛解したと評価するエ)においても,特異的IgE抗体の存在は,確実例の一要件中の選択的な指標の一つとして挙げられているにすぎない。現に特別委員会の報告においても,小麦グルテンの血中特異的IgE抗体値が陰転化しても小麦摂取により 症状を呈する例が複数存在することが報告されている。症状が軽減され たとされる事例の報告もごくわずかにとどまる。このような抽象的軽減可能性をもっ gE抗体値が陰転化しても小麦摂取により 症状を呈する例が複数存在することが報告されている。症状が軽減され たとされる事例の報告もごくわずかにとどまる。このような抽象的軽減可能性をもって,原告らの本件アレルギーが治癒・寛解すると評価することは妥当でない。 被告らは,小麦の耐性獲得に伴って特異的IgE抗体価が陰性化する場合が多い旨主張するが,通常の小麦アレルギーにおける一般的指標と してのものであり,ω-5グリアジンに対して陽性反応を示すことが非常に少ない本件アレルギーおいては当てはまらない。ω-5グリアジン,小麦,グルテンの特異的IgE抗体検査が陰性化しても,わずかな小麦の摂取で症状が誘発された例も存在する(甲B47・403頁)。 食物経口負荷試験の実施段階にいる原告はいるが,食物経口負荷試験 は,急変時の緊急対応が可能な施設においてアレルゲンである食物を少量経口摂取した上,摂取によってアレルギー症状が発症しないか確認する試験であり,治癒寛解として評価されるべき日常生活上と異なる小麦食品の摂取状況である。同試験は単なる治療の過程にすぎず,治癒寛解ということはできない。 原告らの中に小麦を摂取している者もいるが,摂取量や種類,運動制限,投薬等医師の指示の下でされ,通常人と同じように小麦を無制限に摂取することができるのではない。医師が小麦摂取後の原告らを観察しているわけではないから,厳密な本件アレルギー発症の有無を判断することはできない。耐性獲得判断のためには,食物経口負荷試験を長期か つ複数回にわたって実施しつつ,経過観察が行われる必要がある。 被告フェニックスの主張ア本件アレルギーの治癒可能性本件アレルギーを発症した者の全てに重篤な症状が現れるわけではなく,特別に素 て実施しつつ,経過観察が行われる必要がある。 被告フェニックスの主張ア本件アレルギーの治癒可能性本件アレルギーを発症した者の全てに重篤な症状が現れるわけではなく,特別に素因を持つ使用者に現れるにすぎない。また,原告らにつ き,小麦依存性運動誘発アナフィラキシーを発症するおそれが一生続く わけではない。 本件石鹸に含有されるグルパール19Sによる即時型小麦アレルギーは,将来的に治癒ないし寛解する可能性がある。グルパール19S特異IgE抗体値は,食物負荷試験の陽性率との間に相関関係があり,予後の評価のための重要な指標の一つとされている。その半減期は,一部例 外を除いて約5.1か月とされ,加水分解コムギへの暴露の消失により経時的に減少する。原告らの小麦ないしグルテン等特異的IgE抗体値は,低下傾向がみられる。本件アレルギーに伴う病態については,本件石鹸の使用中止により改善傾向に向かう患者が多い。検査対象の患者のうち半数を超える本件アレルギーの患者が小麦を摂取しても重篤な症状 が誘発されていない上,その臨床症状は軽快傾向と評価されている。その検証をした委員も,同検証結果が本件アレルギーの治癒可能性を示唆すると評価している(乙ロB23)。 一般的な食物(コムギ)アレルギーが治癒し難いとしても,本件アレルギーは性質が異なり,治癒し難いわけではない。 原告らは,小麦等の特異的IgE抗体値が低下し陰性化しても,アレルギー症状を発症することがある旨主張するが,そのようなケースは例外である。原告らのうちにその例はない。 最後にアレルギー症状を発症してから相当の期間が経過しているにもかかわらず,格別の症状誘発もなく,積極的な治療実績の確認ができな いケースや,再発に備えた抗アレルギー剤 うちにその例はない。 最後にアレルギー症状を発症してから相当の期間が経過しているにもかかわらず,格別の症状誘発もなく,積極的な治療実績の確認ができな いケースや,再発に備えた抗アレルギー剤の処方や小麦等の特異的IgE抗体値の経時的検査すらされていないようなケースについては,本件アレルギーが治癒ないし寛解したと推認すべきである。 事態の再発防止の見地から,加水分解コムギ末の外原規における規格が修正されることとなっており(乙ロB27),今後加水分解コムギ末 に関する新たな規格が設けられれば,同規格に準拠した加水分解コムギ 末のみ原材料としての使用が許されることになる。将来的には,本件アレルギー患者が,たまたまグルパール19Sと類似する加水分解コムギ末を原材料とする製品を摂取することで,交叉反応を通じて本件アレルギーの症状を再発させることはない。 イ本件アレルギーの重篤性 本件アレルギーの発症形態には軽重があり,原告らすべてにアナフィラキシーないしアナフィラキシーショック状態が引き起こされるとはいえない。本件アレルギーの症状の多くは湿疹やかぶれ等の皮膚障害である。 原告らがこれまで小麦依存性運動誘発アナフィラキシーを発症したことがあるとしても,将来も同様の症状を繰り返し引き起こすとはいえない。 原告らの中には,単発的に小麦を摂取して再発した者もいるが,症状の程度は比較的軽微であり,しかも徐々に減弱しており,アナフィラキシーショックに至る重篤な状態が惹起された例はない。本件石鹸使用中止後,小麦摂取を再開しても,急性期のような重篤なアレルギー症状の再発をもたらすことはない。 ウ原告らの素因の寄与等本件石鹸の使用により本件アレルギーが重篤化した例は,使用者に素因 取を再開しても,急性期のような重篤なアレルギー症状の再発をもたらすことはない。 ウ原告らの素因の寄与等本件石鹸の使用により本件アレルギーが重篤化した例は,使用者に素因がある場合に限られる。また,アトピー性皮膚炎等の遺伝的要因や石鹸中界面活性剤による障害等の後天的要因により表皮バリア障害が生じると,経皮感作が起こりやすい状態になるとされており,既往症としてアトピー 性皮膚炎(AD),花粉症,口腔アレルギー症候群(OAS)等のアトピー素因を持つ患者は,経皮感作を契機としたクラス2食物アレルギーを起こしやすい。 症状の維持ないし亢進がもたらされているケースについても,アトピー素因が寄与している可能性が高い。実際,アトピー素因の強い患者で既存 のアレルギー疾患の活動性が亢進されると,小麦アレルギーの活動性も亢 進されてしまう症例が報告されている(乙ロB25)。本件アレルギーは,全体の傾向として改善に向かっており,全体として徐々に症状が軽快する患者が多く,一部の患者について改善傾向が見られないとしても,いずれ他の多くの患者と同様に改善に向かうとみるのが,医学上の経験則である。 改善に向かわない患者については,その体質的素因の寄与が推認される。 本件アレルギーの症状内容は,45%が目の腫れ,鼻閉,鼻水,痒み等であり,25%にアナフィラキシーショックが生じたとされているところ,このような中心的な症状は,重篤な花粉症やアトピー性皮膚炎ないしOASの症状と共通している。原告らの症状について,前記重篤な花粉症等によるものである疑いがある。特に,特異的IgE抗体値が陰性化している にもかかわらず,症状がある者は,花粉症等によるものであると考えられる。 被告片山化学の主張原告 症等によるものである疑いがある。特に,特異的IgE抗体値が陰性化している にもかかわらず,症状がある者は,花粉症等によるものであると考えられる。 被告片山化学の主張原告らの損害に関する主張については,被告フェニックス及び悠香の主張と同旨。 悠香の主張ア包括一律請求の問題点包括一律請求が許されるのは,原告間に共通する最小限の損害についてのみであり,原告側において相当程度の立証がされ,被告側において適切な防御権を行使した場合でなければならないほか,裁判所の判断の客観性 が客観的な証拠等により確保される必要がある。また,原告らは,いつからいつまで小麦製品が摂取できない状態にあったのかなどを客観的に立証しておらず,生活上の不便等を論ずる前提を欠く。 イ原告らの後遺障害について原告ら全員につき,現時点で症状が寛解せず残存しているわけはなく, 症状が残存する者も,今後回復する可能性がある。 抗体価が低くなるにつれてアレルギーの発症率は低くなる。グルパール19S特異的IgE抗体価の半減期は5.1か月であり,本件石鹸の使用中止によりグルパール19Sに対する抗体価,小麦又はグルテン特異的IgE抗体価は減少する。本件アレルギーを発症した者の中でも,発症の当初から小麦を摂取できた者が半数程度おり,本件アレルギー患者の大多数 が発症後3年以内に摂取している。小麦摂取を再開できるか否かは,症状の重症度と関係がなく,小麦を摂取している者の中で,約半数は症状がなく,症状がごく軽微である者も一定程度存在する。本件アレルギーは,臨床的にも,検査数値的にも時の経過とともに軽快していくといえる。 ウ学会診断基準をもって小麦アレルギーであるとはいえないこと 状がごく軽微である者も一定程度存在する。本件アレルギーは,臨床的にも,検査数値的にも時の経過とともに軽快していくといえる。 ウ学会診断基準をもって小麦アレルギーであるとはいえないこと 日本アレルギー学会の診断基準は,グルパール19Sのアレルギーについて確定的診断をするものにすぎない。同診断基準では,小麦アレルギーの症状が全くない場合であっても確実例となる。同診断基準に該当するからといって,小麦アレルギーを発症したということはできない。 エ本件アレルギーによる症状 アナフィラキシーショック本人の自覚症状として意識障害が存在したとしても,アナフィラキシーショックがあったということはできない。アナフィラキシーショックは,医師が適切に対処しなければ生命に危険が及ぶものであるから,カルテに記載がない場合には,アナフィラキシーショックがあったとはい えない。アナフィラキシーショックと似たものとして,副交感神経が過度に緊張して起こる迷走神経反射がある。予防注射や採血の際にも生じるもので,特に治療をしなくても短期間で回復する。血圧低下や意識消失等の症状が出た後,特に治療を受けることなく回復した原告らについては,迷走神経反射であったと考えられる。 呼吸苦や嘔吐,下痢等 原告らの診療録で,呼吸苦や嘔吐,下痢があったり,救急搬送,緊急診療されていたとしても,アナフィラキシーショックがあったとみなすことはできない。呼吸苦は息苦しさを意味するにすぎない場合があり,嘔吐や下痢は食あたり等の場合にもみられ,直ちに生命の危険があるとはいえない。救急搬送は,119番通報があり,何らかの症状を訴えて いればされるものであるから,同事実から直ちに生命に危険があったとはいえない。 り等の場合にもみられ,直ちに生命の危険があるとはいえない。救急搬送は,119番通報があり,何らかの症状を訴えて いればされるものであるから,同事実から直ちに生命に危険があったとはいえない。 症状のあった期間原告らについて,いつからいつまで小麦製品摂取及び運動後に症状が出る状態にあったのか,どの程度の運動をした場合に症状が出る状態に あったのか,現時点において小麦摂取後運動をした際に症状が出る状態にあるかなどについては全く明らかでない。 被告フェニックスの主張予後に関して,本件アレルギー症状が早期に改善しない患者については, ハウスダスト又はスギ等の特異的IgE抗体値がクラス3以上ある者や,小麦に曝露される職業に継続的に従事していた経験を有する者がほとんどであり,本件アレルギー症状の長期化には原告ら自身の素因が関与している。当該事情に照らせば,相当な素因減額がされるべきである。 悠香の主張 ア過失相殺本件石鹸の外箱には,「傷,湿しん等,お肌に異常がある時は,ご使用にならないでください。」,「使用中,赤み,かゆみ,刺激および目に異物感が残る場合は,使用を中止し皮膚科専門医または眼科医にご相談ください。」,その包装紙に,「お肌に合わないときはご使用をお止めくださ い。」などと指示警告が記載されており,本件アレルギーは,食物アレル ギー症状が出る前に,石鹸使用時,目や皮膚のかゆみ,鼻炎症状が生じるとされ,本件石鹸の使用を続けると,かゆみ等の症状が少しずつ悪化するとされていた。したがって,原告らのほとんどは,本件アレルギーを発症する前に肌や目に異常を感じていたにもかかわらず,前記指示警告に従わなかった結果,本件アレルギーを発 ゆみ等の症状が少しずつ悪化するとされていた。したがって,原告らのほとんどは,本件アレルギーを発症する前に肌や目に異常を感じていたにもかかわらず,前記指示警告に従わなかった結果,本件アレルギーを発症したと考えられる。原告らは,本件 アレルギーを発症したことに不注意・落ち度があったから,5割の過失相殺をすべきである。 イ素因減額アレルギーは,身体にとって有用又は無害な物に対する過剰な免疫反応であるから,本件アレルギーも,グルパール19Sを抗原として過剰な免 疫反応を起こす個体において初めて発症するものであって,原告らの過剰な免疫反応によって生じたといえる。そして,アレルギー疾患の発症や重症化に遺伝子多型が関与しているばかりか,本件アレルギーの発症には遺伝的素因が関与している可能性がある(乙イB17,総C4等)。したがって,本件では少なくとも5割程度素因減額されるべきである。 原告らの主張ア本件アレルギー発症に原告らの体質等は寄与していないこと被告フェニックス及び悠香は,本件アレルギーにおける症状の重篤化について,原告らのアトピー等の個別的素因が寄与している旨主張するが,論拠とする論文(乙ロB8・1638頁)は,その可能性を指摘するもの にすぎない。 本件アレルギーの機序は,本件石鹸の長期間にわたる反復使用の結果,皮膚角質が弱くなり,そこからランゲルハンス細胞によるグルパール19Sの取り込みが繰り返され,感作に至ったというもので,専ら外的要因による。アトピー性体質ないしアトピー素因保有であることと,本件アレル ギーの発症,継続ないし重篤化とは関連性がない(甲A34・3頁,7頁)。 イ過失相殺・素因減額の対象にならないこと仮に原 アトピー素因保有であることと,本件アレル ギーの発症,継続ないし重篤化とは関連性がない(甲A34・3頁,7頁)。 イ過失相殺・素因減額の対象にならないこと仮に原告らの何らかの素因的性質が本件アレルギーの発症や重篤化に影響を与えていたとしても,当該性質は素因減額の対象と解すべきでない。 原告らにアレルギーに罹患しやすい体質の者がいたとしても,個々人の個体差の範囲内のものにすぎない。アトピー性体質は,我が国の国民に相当 の割合で存在し,それ自体は疾患ではない。花粉症といったアレルギー疾患は,今日では多数みられる一般的疾患であり,当該疾患の有無が,本件石鹸等の欠陥による損害賠償請求権の存否に影響を与えると解すべきでない。 第4 当裁判所の判断 1 本件石鹸の製造,販売及び原告らのアレルギー発症等前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によると,本件石鹸の製造,販売及び原告らのアレルギー発症等に関し,以下の事実等が認められる。 当事者等ア被告フェニックス 被告フェニックスは,奈良県御所市に本店を有し,各種石鹸,洗剤,油剤,油脱剤の製造販売,グリセリン,化粧品,油脂化学製品の製造販売等を目的として,昭和23年6月26日に設立された株式会社である。資本金の額は8500万円である。 イ悠香 悠香は,福岡県大野城市に本店を有し,日用雑貨品の製造,販売及び輸出入業,医薬品,医薬部外品及び化粧品の製造,販売及び輸出入業,茶葉成分を利用した健康食品,医薬部外品及び化粧品の製造,販売及び輸出入業等を目的として,平成15年5月23日に設立された株式会社である。 資本金の額は3000万円である。 ウ被告片山化学 ,医薬部外品及び化粧品の製造,販売及び輸出入業等を目的として,平成15年5月23日に設立された株式会社である。 資本金の額は3000万円である。 ウ被告片山化学 被告片山化学は,大阪市a区に本店を有し,工業用薬品,塗料の製造及び販売,医薬品,医薬部外品,農業薬品,試薬,毒物,劇物の製造及び販売,食品添加物,飼料添加物の製造及び販売,各種化学薬品の製造及び販売等を目的として,昭和31年12月26日に設立された株式会社である。 資本金の額は9800万円である。 エ原告ら原告らは,早い者で平成18年9月ころから,遅い者で平成21年ころから,本件石鹸の使用を開始し,おおむね平成22年ないし23年ころまで使用を継続した(各原告の本件石鹸の購入量,使用態様等の詳細な認定は,別紙2で示す)。 本件石鹸の企画,製造及び販売ア本件石鹸の企画等悠香は,お茶の成分を配合した石鹸の製造,販売を企画し,被告フェニックス従業員であり,石鹸の製造等に精通するS(以下「S」という。)に製造協力を依頼し,その下で,無農薬茶葉配合をうたった「茶のしずく」 石鹸(本件石鹸)を開発した。 悠香は,本件石鹸につき,良質なカテキンを豊富に含んだ無農薬・有機栽培茶葉を使用し,きめの細かい,弾力のある泡を作り出すことができ(甲A14の2),シミのもとであるメラニンを含む古い角質(垢)を洗い流すことができ(甲A15・5枚目),毛穴まできれいにする(甲A14の 2),肌にやさしく,効果的に肌の悩みを解消する石鹸(甲A15・2枚目)とうたい,その効能を本件石鹸の広告チラシ等に記載して,主に女性を対象に,美肌のための化粧石鹸として,通信販売の方法により販売した。 イ本件石鹸の製造・販売 消する石鹸(甲A15・2枚目)とうたい,その効能を本件石鹸の広告チラシ等に記載して,主に女性を対象に,美肌のための化粧石鹸として,通信販売の方法により販売した。 イ本件石鹸の製造・販売被告フェニックスは,本件石鹸を製造し,そのうち薬用フェイスソープ Pにつき,平成17年6月7日から平成22年9月27日までの間,薬用 悠香の石鹸につき,同年4月7日から同年11月25日までの間,悠香に販売,納入した。 悠香は,グルパール19Sを配合した石鹸(本件石鹸も含む。)を,平成16年3月から平成22年9月26日までの間,販売した。このうち,薬用フェイスソープPについては,平成17年6月ころから平成22年5 月までの間,販売元を悠香,製造販売業者を被告フェニックスとして販売し,薬用悠香の石鹸(60g及び110gのもののみ)については,同月から同年9月26日までの間,製造販売業者を悠香として販売した。被告フェニックス及び悠香は,同日以降,グルパール19Sの代わりに,水解小麦末(プロモイスWG-SP)や加水分解シルクを配合している(乙イ A1の22ないしA1の33)。 悠香は,通信販売の方法を採用し,本件石鹸につき,30gのもので1050円,60gのもので1980円,110gのもので3500円の価格で,60gのものについては10個のまとめ買いで1万4800円,110gのものについては6個のまとめ買いで1万6200円の価格でそ れぞれ販売し(甲14の1),いずれの商品についても,周期毎(毎月,2か月に1回,3か月に1回のいずれか)の定期便による購入で,送料を無料にし(通常であれば,購入価格が5000円未満の場合は370円か630円かかる。),4回目以降は通常価格より1割引の価格で販売した(甲15・2 か月に1回のいずれか)の定期便による購入で,送料を無料にし(通常であれば,購入価格が5000円未満の場合は370円か630円かかる。),4回目以降は通常価格より1割引の価格で販売した(甲15・20枚目)。 本件石鹸の売上は,平成20年に94億円(薬用洗顔料の中でのシェアは33.6%),平成21年に223.3億円(同56.5%),平成22年に237億円(同58.5%)であり(乙ハA20の1),その総売上個数は約4650万個,購入者の総数は,約455万人であった(乙ハA15・5頁,弁論の全趣旨)。 悠香は,本件石鹸の外箱や広告チラシ,悠香製造に係る化粧品等の使用 手引き等に,本件石鹸の使用方法について,化粧落としにも使用できることを記載し,化粧をしているときには,本件石鹸により2回洗顔すること(1回目は化粧落とし,2回目は洗顔)を推奨した(甲A15・8,9頁,乙イA1の13,15,17,19,21)。また,悠香は,その広告チラシ等や使用手引きに,本件石鹸を使用した女性の感想等を掲載し,その 中には,肌が弱く自分に合う化粧品等がなかったものの本件石鹸の使用により肌の調子が良くなったことや(甲A15・16枚目),アトピーで顔全体に湿しんができるような状態であったが,本件石鹸の使用によりアトピーが良くなったこと(甲個7の4の2・6頁)などが記載されていた。 ウ本件石鹸の効用等 本件石鹸は,洗顔用石鹸としての効用を有し,美容効果についても,一定の保湿性,汚れ等の除去能等を有する(甲A14,15(枝番を含む。))が,その他の美容効果の程度及び効用は証拠上明らかでない。そして,保湿性等の効用を付与するためには,必ずしもグルパール19Sを使用する必要はなかった(弁論の全趣旨 (甲A14,15(枝番を含む。))が,その他の美容効果の程度及び効用は証拠上明らかでない。そして,保湿性等の効用を付与するためには,必ずしもグルパール19Sを使用する必要はなかった(弁論の全趣旨)。 エ本件石鹸の表示悠香は,本件石鹸の外箱等に,本件石鹸には「加水分解コムギ」又は「水解小麦末」が配合されている旨記載し,「お肌に異常がある時,お肌に合わない時はご使用をお止めください。」(薬用フェイスソープP),「傷,湿しん等,お肌に異常のある時は,ご使用にならないでください。使用中, 赤み,かゆみ,刺激等の異常が出た場合は,使用を中止し皮膚科専門医へご相談ください。」(薬用悠香の石鹸)と表示したが,本件アレルギーの可能性を示唆する表示はしなかった(乙イA1の1ないしA1の12,A1の14,A1の16,A1の18,A1の20)。 本件石鹸の組成等 ア成分組成 本件石鹸は,おおむね,有効成分(薬事法59条7号)であるグリチルリチン酸2K及びその他の成分である石鹸用素地,茶エキス-1,オウゴンエキス,カモミラエキス-1,アロエエキス-2,黒砂糖,ユキノシタエキス,ホホバ油,シア脂,ベントナイト,水解小麦末(グルパール19Sのこと),グリセリン,ファンゴ,ヒドロキシエタンジホスホン酸4N a,フェノキシエタノール,黄酸化Fe,群青,香料,BGから成る(乙イ総C1・6枚目)。グルパール19Sの添加濃度は,0.3%であった。 イ加水分解コムギ末加水分解コムギ末は,小麦を構成するタンパク質を酸処理,熱処理,ないしは酵素処理をするなどして,分子配列を分解して得られる物質である。 粧原基,粧配規及び外原規では,小麦の種子を加水分解して得られる 解コムギ末は,小麦を構成するタンパク質を酸処理,熱処理,ないしは酵素処理をするなどして,分子配列を分解して得られる物質である。 粧原基,粧配規及び外原規では,小麦の種子を加水分解して得られる水溶性成分の乾燥粉末であり,定量するとき,窒素8.0ないし18.0%を含む成分と定義される(乙ロA2ないし4)。小麦に含まれているタンパク質を加水分解した物質を指すこともある。タンパク質は,アミノ酸がひも状に連なり,立体的に特定の構造をとることによって構成される物質で あり,酸処理等によってアミノ酸の結合が断ち切られ,ペプチドに分解されるとともに,立体的な構造が再構築される。 被告片山化学は,上記のようにして生成された加水分解コムギ末について,分解条件により異なる特徴を持つ生成物が得られることを発見し,その分解物につき,グルパールという商品名を付けて販売を始めた(甲A2 7)。被告片山化学が製造販売するグルパールには,代表的なものとして,グルパール19シリーズ(グルパール19Sを含む。),グルパール26シリーズ,グルパール46シリーズがある(乙ハA1の1)。グルパール26シリーズは,粉末の形状をし,グルテン分散性を有し,ハムやクリーム類等の食品・化粧品に使用され,グルパール46シリーズは,粉末液体 の形状をし,洗浄性を有し,野菜・生鮮食品用の洗剤に使用される(乙ハ A1の1)。グルパール19シリーズは,粉末の形状をし,乳化安定性,保水性,グルテン分散性を有し,グルパール26シリーズと同じくハムやクリーム類の食品・化粧品に使用される(乙ハA1の1)。このうち,グルパール19S(平均分子量五,六万ダルトン)は,乳化力及び乳化安定性をグルパール19と同等に保ちながら,塩分を少なく精製したもので, 食品用と 化粧品に使用される(乙ハA1の1)。このうち,グルパール19S(平均分子量五,六万ダルトン)は,乳化力及び乳化安定性をグルパール19と同等に保ちながら,塩分を少なく精製したもので, 食品用として製造販売されるグルパール19Hとは名称が異なるのみで同じ物質である(乙ハA137・2,3頁)。被告片山化学は,平成10年11月30日から平成22年8月4日までの間,グルパール19Sを製造し,篠永化成株式会社(以下「篠永化成」という。)を通じて,被告フェニックスに納入した(甲A24)。 ウ小麦タンパク質(乙ロB17)小麦粉は,65から79%の糖質,6から15%のタンパク質,0.6から2%の脂質,0.3から2%の灰分,0.2から1%の繊維及び13から15%の水分から構成される。 小麦タンパク質の構成成分は,塩不溶性のグルテン(85%)及び塩可 溶性の非グルテンタンパク質(15%)に大別される。非グルテンタンパク質は,水に可溶なアルブミンと,不溶なグロブリンに分けられ,グルテンは,水に難溶性で,さらに70%エタノールに可溶なグリアジンと不溶なグルテニンに分けられる。 グリアジンは,生化学的性質により,αグリアジン,βグリアジン,γ グリアジン,ωグリアジンに分けられ,さらに,ωグリアジンは,ω-1グリアジン,ω-2グリアジン,ω-5グリアジンに分けられる。グルテニンは,分子量が約3万ダルトンの低分子量グルテニンと,7から9万の高分子量グルテニンに分けられる。 アレルギー患者の発現 ア危害情報 平成16年ころ以降,本件石鹸の使用により,皮膚障害やアナフィラキシー反応,全身性のアレルギー(WDEIA)等が生じた旨の危害情報が,全国消費生 ア危害情報 平成16年ころ以降,本件石鹸の使用により,皮膚障害やアナフィラキシー反応,全身性のアレルギー(WDEIA)等が生じた旨の危害情報が,全国消費生活情報ネットワーク・システム(PIO-NET)に寄せられるようになった。その件数は,平成16年から平成19年までの間に3件,平成20年には3件,平成21年には6件,平成22年に は16件,平成23年には同年5月20日までに3件であった(甲A4・2枚目)。厚生労働省は,平成22年10月15日,加水分解コムギ末を含有する医薬部外品及び化粧品に関して注意喚起することとし,都道府県衛生主管部(局)長に対し,医薬部外品製造販売業者,化粧品製造販売業者及び関係団体等に,以下の事項を周知指導するよう依頼する文 書を出した(甲A1)。 ① 同成分を含む医薬部外品・化粧品については,その容器又は外箱等に,同製品に小麦由来成分が含まれている旨及び使用中に異常があった場合は使用を控える旨記載すること。 ② 製造販売業者に,その製造販売する加水分解コムギ末を含有する製 品の使用者で全身性のアレルギーを発症したとする研究報告を入手している場合には,薬事法施行規則の規定に基づき,PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)に速やかに報告等し,当該製品について上記注意事項に加えて,同製品につき目や鼻等の粘膜への使用を避け,使用中又は使用後に眼瞼の腫れ等の症状が出た場合には速やか に医師に相談する旨記載し,その加水分解コムギ末を含有する製品が医薬部外品である場合,その製品から加水分解コムギ末を除去し,又はその他の成分に切り替える承認申請をすること。 悠香は,平成22年10月20日,ホームページに,厚生労働省から,化粧品等でも小麦由来成分で全 である場合,その製品から加水分解コムギ末を除去し,又はその他の成分に切り替える承認申請をすること。 悠香は,平成22年10月20日,ホームページに,厚生労働省から,化粧品等でも小麦由来成分で全身性アレルギーを発症した事例が報告さ れたため,本件石鹸等の使用に当たって何か異常を感じたら医師に相談 するようにとの案内を掲載した。また,悠香及び被告フェニックスは,平成23年5月20日までに医療機関から消費者庁へ,本件石鹸使用により小麦アレルギーとなり,運動誘発性アレルギーを発症するなどの事例が67件報告されていたことを踏まえ,同日本件石鹸の自主回収を開始し,その旨悠香のホームページに掲載した(甲A2,4)。消費者庁 も,同年6月7日,悠香らが本件石鹸の自主回収をしている旨公表した(甲A3)。独立行政法人国民生活センター(以下「国民生活センター」という。)は,同年7月13日付で,悠香に対し,当該アレルギーの性質上,早急の使用中止が重要であるとして,自主回収について消費者への周知を進め,社内における消費者対応窓口を整備すること,被害者の 救済及び再発防止のために積極的に原因究明に協力することを求めた。 悠香は,回収について消費者への周知を進めるために,同年7月2日本件石鹸の最終出荷時点で登録していた顧客からすでに交換返品の対応をした者を除いた顧客らに回収情報を記載したハガキを送付し,同年8月16日にも,本件石鹸をすべて使いきっていないと思われる顧客に再度 前記ハガキを送付し,同年9月2日同顧客への電話による回収情報の連絡を開始した。悠香は,消費者対応窓口として「アレルギー対応センター」を設置し,日本アレルギー学会等に石鹸や成分に係るサンプルを提供し,同学会の特別委員会の会議に出席した。悠香は,自主回収等に係る 絡を開始した。悠香は,消費者対応窓口として「アレルギー対応センター」を設置し,日本アレルギー学会等に石鹸や成分に係るサンプルを提供し,同学会の特別委員会の会議に出席した。悠香は,自主回収等に係る以上の対応を,同年9月5日ころ国民生活センターに報告,回答した (甲A5・4,5頁)。 悠香らの自主回収開始や,消費者庁による自主回収の公表により,PIO-NETへの本件石鹸による危害情報の相談は飛躍的に増加し,平成23年5月20日以降同年7月14日までに216件,同日以降同年9月8日までに367件の相談がPIO-NETに寄せられた(甲A4, 5)。 イ厚生労働省の対応厚生労働省は,平成23年8月24日,都道府県知事に対し,管轄下の医療機関,薬局,店舗販売業者につき,医薬品及び医療機器のみならず,医薬部外品や化粧品によることが疑われる健康被害を認識した場合には,速やかに報告することを周知するよう通知し(甲A6),都道府県衛生主 管部(局)長に対し,薬事法74条の4の2第1項及び同法施行規則253条3項によれば,医薬部外品又は化粧品の製造業者等は,有害な作用が発生するおそれがあることを示す研究報告を知ったときは30日以内にその旨を厚生労働大臣に報告しなければならないとされているが,ここにいう研究報告とは,国内外の学術雑誌等に掲載されたもののみでなく,自 社又は関連企業においてされた研究報告等も含まれること,皮膚障害等保健衛生上注意を要する有害な作用が起こること又はその可能性があることを疑う情報を医療関係者から得た場合には,そのような事実を示す報告書類をとりまとめ,研究報告として前記期限内に報告することを,管轄下の関係業者へ周知することを求める旨通知した(甲A7)。また,厚生労 働省 療関係者から得た場合には,そのような事実を示す報告書類をとりまとめ,研究報告として前記期限内に報告することを,管轄下の関係業者へ周知することを求める旨通知した(甲A7)。また,厚生労 働省は,同年9月9日,都道府県衛生主管部(局)長に対し,加水分解コムギを含有する医薬部外品及び化粧品につき,小麦由来の成分名を記載し,小麦由来であることを成分名の後にかっこ書きで表示すること,当該医薬部外品等の使用中に異常があった場合には使用を控えることを表示することを,可及的速やかに,遅くとも1年以内にすべきことを医薬部外品等 製造販売業者等に周知指導することを求める旨通知した(甲A8)。 ウ日本アレルギー学会による特別委員会の設置 日本アレルギー学会は,前記アの危害情報に関し,患者,医療従事者及び一般国民向けの情報提供,診療可能な施設についての選定とその情報提供,今後の同様な問題の発生防止のための調査研究を目的として, 平成23年7月4日,特別委員会を設置した(乙イB1の1・1頁)。 構成員は,委員長である藤田保健衛生大学医学部教授のTをはじめとして,医師ら14名(後に増減あり。)であり,特別委員会の報告には,参考人として,悠香,被告フェニックス,被告片山化学らが出席することもあった(甲A10,11,乙ロB3・164頁,ハA11,12)。 特別委員会は,悠香らから症例数の報告を受け,診断書,医療関係者か らの裏付け資料を収集し,またグルパール19Sの感作抗原性等の実験・調査をし,加水分解タンパク含有化粧品の障害実態,本件石鹸の障害実態の把握,グルパール19Sの感作抗原性の分析・交叉反応性の検討,施設情報の収集と広報に努めた(甲A10)。 特別委員会は,平成23年9月3日の報告において,参 害実態,本件石鹸の障害実態の把握,グルパール19Sの感作抗原性の分析・交叉反応性の検討,施設情報の収集と広報に努めた(甲A10)。 特別委員会は,平成23年9月3日の報告において,参考人として出 席していた悠香に対し,テレビCMでの自主回収についての広報,経口物質を経皮に使用することによるリスクに関する疫学調査,本件石鹸以外の加水分解コムギの検討も含め研究への協力を要請した(甲A11)。 特別委員会は,収集した情報をもとに,同年10月11日までにその危害の内容を統計的に分析し,本件アレルギーの診断基準を策定し,日 本アレルギー学会ホームページに公表した(甲A13)。その内容は以下のとおりである。 【確実例】以下の①,②,③のすべてを満たす。 ① 加水分解コムギ(グルパール19S)を含有する茶のしずく石鹸等 を使用したことがある。 ② 以下のうち少なくとも一つの臨床症状があった。 ②-1 加水分解コムギ(グルパール19S)を含有する茶のしずく石鹸等を使用して数分後から30分以内に,痒み,眼瞼浮腫,鼻汁,膨疹などが出現した。 ②-2 小麦製品摂取後4時間以内に,痒み,膨疹,眼瞼浮腫,鼻汁, 呼吸困難,悪心,嘔吐,腹痛,下痢,血圧低下などの全身症状が出た。 ③ 以下の検査で少なくとも一つ陽性を示す。 ③-1 グルパール19S 0.1%溶液,又はそれより薄い溶液でプリックテスト(前腕皮膚に抗原液を滴下し,注射針等で皮膚 を軽く刺して,膨疹径を測定するテスト)が陽性を示す。 ③-2 ドットブロット,ウエスタンブロット(いずれも,DNA,RNA,タンパク質等をシート状のニトロセルロースやナ 等で皮膚 を軽く刺して,膨疹径を測定するテスト)が陽性を示す。 ③-2 ドットブロット,ウエスタンブロット(いずれも,DNA,RNA,タンパク質等をシート状のニトロセルロースやナイロンの支持体に浸み込ませて,適当な特異的プローブ(超音波探触子)によって目的の物質を検出する方法。),ELISA(酵 素免疫抗体法。抗体又は抗原を標識して対応する抗原又は抗体を検出する方法。)などの免疫学的方法により,血液中にグルパール19Sに対する特異的IgE抗体が存在することを証明できる。 ③-3 グルパール19Sを抗原とした好塩基球活性化試験が陽性で ある。 【否定できる基準】④ グルパール19S 0.1%溶液でプリックテスト陰性【疑い例】①,②を満たすが③を満たさない場合は疑い例となる。 ただし,①,②を満たすが③を満たさない場合でも,血液特異的IgE抗体価検査や,プリックテストで小麦またはグルテンに対する感作が証明され,かつω5グリジアンに対する過敏性がないか,小麦及びグルテンに対する過敏症よりも低い場合は強く疑われる例としてよい。 原告らのアレルギー発症 ア原告らの本件石鹸使用 原告らはいずれも,本件石鹸を本来の用途にしたがって,洗顔ないし体の洗浄のため使用した(甲個1の4の1,2,甲個4の4の1,2,甲個5の4の1,2,甲個7の4の1,2,甲個10の4の1,2,甲個11の4の1,2,甲個12の4の1,2,甲個13の4の1,2,甲個16の4の1,2,甲個17の4の1,2,甲個21の4の1,2,甲個24 の4の1,2,甲個28の4の1,2,甲個29の4の1,2,甲個30の4の1,2,甲個33の4の1,2 の4の1,2,甲個16の4の1,2,甲個17の4の1,2,甲個21の4の1,2,甲個24 の4の1,2,甲個28の4の1,2,甲個29の4の1,2,甲個30の4の1,2,甲個33の4の1,2,甲個37の4の1,2,弁論の全趣旨)。 イ発症時期原告らは,早い者で平成20年ころ,遅い者でも平成23年6月ころま でに,小麦依存性運動誘発アナフィラキシーを起こした。 原告らの中には,本件石鹸使用中に皮膚の腫脹等を生じたが,使用を中止しなかった者があった(甲個1の4の1,個12の4の1,個21の4の1,個24の4の1及び弁論の全趣旨)。原告らは,眼瞼等の腫脹について,医療機関を受診するなどしたこともあったが,医師らにおいても原 因を特定できない場合があった(甲個1の2の5,個1の4の1,個12の2の1,個12の4の1,個21の2の2,個21の4の1)。 ウ特別委員会の診断基準による確定診断原告らは,平成23年7月ないし平成24年10月ころ,本件石鹸やグルパール19Sのプリックテストで陽性反応を示すなどしたため,特別委 員会の診断基準に基づき,本件アレルギーの確定診断を受けた。 アレルギー等アアレルギー(乙ロB1)アレルギーとは,身体にとって有用又は無害な異物が侵入したにもかかわらず,誤って過剰な免疫反応が働き,自らの身体を傷つけるなどの不要 な反応をしてしまうことをいう。 イアレルギー発症のメカニズム(乙イB4,ロB1)生体の免疫機構は,身体内に侵入した細菌,ウイルス,寄生虫等の異物を,免疫細胞が攻撃して体外に排出しようとする生体防御機能である。皮膚の粘膜等に存在する樹状細胞等の抗原提示細胞が,体外から侵入してきた細菌やウイルス等, 内に侵入した細菌,ウイルス,寄生虫等の異物を,免疫細胞が攻撃して体外に排出しようとする生体防御機能である。皮膚の粘膜等に存在する樹状細胞等の抗原提示細胞が,体外から侵入してきた細菌やウイルス等,生体にとって有害となる異物(抗原)を感知すると, これを免疫細胞(リンパ球である1型ヘルパーT細胞とB細胞)に伝達し,1型ヘルパーT細胞がそれぞれの抗原に対して特異的に反応する「抗体」の産生をB細胞に促し(この過程で産生される抗体は「IgG抗体」と呼ばれる。),IgG抗体がマスト細胞等の受容体に結びつくことを通じて,生体内部に侵入した異物を排除する作用をもたらす。この抗体は,一度体 内に侵入した物質が,再び体内に侵入する場合に備え,その物質の特徴を記憶する役割を有する「免疫グロブリン」と呼ばれるタンパク質である。 通常の場合,ヘルパーT細胞はB細胞に対する抗体の産生を指示するとともに,その産生量を適度に調節する機能も有するから,抗体が異常に産生されて生体を傷つける過程をたどることはない。しかし,アレルギーの 場合は,本来生体には直ちに有害な作用をもたらさないはずの物質(花粉,塵等。アレルゲンと呼ばれる。)であるにもかかわらず,その侵入に対して免疫細胞のうち2型ヘルパーT細胞の関与により,これらを抗原として認識し,B細胞にIgE抗体を形成するよう指示し,この作用が制御不能となって過剰に抗体の産生が繰り返される。 大量に生産されたIgE抗体が,生体内部の免疫系を構成する細胞であるマスト細胞や好塩基球等の受容体に結合することを通じて,同細胞から大量にヒスタミンやロイコトリエンを含む顆粒が放出される。放出されたヒスタミン等が体内の血管を拡張させ,皮膚に痒みを起こさせ,鼻水等の粘液の分泌を促進し,腸管を収縮させ,抗 ことを通じて,同細胞から大量にヒスタミンやロイコトリエンを含む顆粒が放出される。放出されたヒスタミン等が体内の血管を拡張させ,皮膚に痒みを起こさせ,鼻水等の粘液の分泌を促進し,腸管を収縮させ,抗原となるアレルゲンの体内への 侵入を食い止めようとする。このような一連の生体反応が生体に不利益な 症状として現れた場合を即時型(Ⅰ型)アレルギー反応と呼び,抗体の過剰生産によりその反応が生体自らを傷つけてしまうことで生じた症状をアレルギー疾患と呼ぶ。 他方,アレルゲンとなる物質が接触した箇所のみがアレルギー反応を起こす場合もあるが,それは,細胞中に存在するT細胞が抗原と反応して放 出した物質(リンホカイン)によって,周囲の組織のみが傷害を起こすためである(Ⅳ型アレルギー)。この反応に抗体は介在しない。接触性皮膚炎(金属アレルギーや化粧品によるかぶれ),ツベルクリン反応がこれに当たる(乙イB7)。 ウ交叉反応 本来,抗原Aに対するIgE抗体は,抗原Aに対してのみ特異的に反応するもので,抗原Bに反応することはない。しかし,抗原Aに対するIgE抗体が,抗原aにも反応することがある。このような反応を交叉反応という。ある食物等に対するアレルギーを有している場合に,交叉反応により,別の食物等に対するアレルギーも有している可能性は,食物等の種類 によっても異なる(乙イB22の1・14頁)。 エアレルギー発症要因(乙ロB1,弁論の全趣旨)あらゆる物質がアレルゲンとなり得,現在の科学技術水準によっても,誰一人アレルギー反応を起こすことのない成分の化粧品や医薬部外品を作ることは困難である。 アレルギー発症に至る原因については,医学的な定説は未だないものの,一般に,遺伝 術水準によっても,誰一人アレルギー反応を起こすことのない成分の化粧品や医薬部外品を作ることは困難である。 アレルギー発症に至る原因については,医学的な定説は未だないものの,一般に,遺伝的要因(特異的IgE抗体を過剰に産生し,アレルギー疾患を発症しやすい人が共通して持つ遺伝子が20以上存在することが知られている。)及び環境的要因(ヒトを取り巻く環境が衛生的になったため,細菌由来成分が減少し,ヘルパーT細胞の分布(1型か2型か)に不均衡 が生じたためにアレルギー疾患が増加したとする説。)が影響していると されている。 オ食物アレルギー 食物アレルギーの原因,種類食物アレルギーは,食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象をいう。非 毒性物質が引き起こす食物アレルギーは,ヒトの免疫学的機序を介するが,特定のヒトにだけ生じる。 食物アレルギーは,主に食物に含まれるタンパク質がアレルゲンとなって発症する。アレルギー症状の原因食品としては,平成24年時点で,鶏卵が約38%と最も多く,次いで牛乳(約16%),小麦(約8%) と続く(乙イB22の1・12頁)。小麦成分は,うどんやパスタ,加工食品や醤油をはじめとする調味料等,多種食品に含有されている。 口腔アレルギー症候群(OAS。乙イB22の1・7,11頁,ロB24・606頁) 花粉に対するIgE抗体が,果物や野菜と反応するためにおこる口腔局所の即時型(Ⅰ型)アレルギーで,口の中や唇の粘膜や皮膚にピリピリや掻痒感という刺激感が生じる。ときに,鼻症状(鼻孔の掻痒,くしゃみ,鼻汁,鼻閉),眼症状(流涙,眼球結膜の充血や腫脹),耳症状( 局所の即時型(Ⅰ型)アレルギーで,口の中や唇の粘膜や皮膚にピリピリや掻痒感という刺激感が生じる。ときに,鼻症状(鼻孔の掻痒,くしゃみ,鼻汁,鼻閉),眼症状(流涙,眼球結膜の充血や腫脹),耳症状(耳孔の掻痒),皮膚症状(眼瞼や顔面の浮腫,全身性蕁麻疹),消化 器症状(腹痛,嘔気,嘔吐,下痢),呼吸器症状(呼吸苦,喘息発作,咽頭浮腫)を伴い,さらにアナフィラキシーショックに至ることもある。 果物や野菜を大量に食べた場合に全身症状が出ることがある。皮膚科における食物アレルギーの臨床頻度として,口腔粘膜外症状は約3分の1でみられる。 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(食物依存性運動誘発性アレル ギー。乙イB22の1・7頁,甲B37・205頁)食物アレルギーの一種で,原因となる食物を摂取した後,運動することによりアナフィラキシーが誘発される。食物摂取又は運動のみでは発症しない。運動によって腸での消化や吸収に変化が起き(腸管粘膜の障害や血管透過性の亢進),未消化なタンパク質が吸収されてしまい生じ ると考えられている。 カアレルギー検査 血中抗原特異的IgE抗体価検査(乙イB22の1・20頁,弁論の全趣旨)血液中の食物アレルゲンに対する特異的IgE抗体の有無を調べる検 査方法である。アレルゲンごとの血液中の特異的IgE抗体の測定値を0ないし6にクラス分けするもので,クラスが高いほどアレルギー症状が起きやすくなる。ただし,クラスが1であってもアレルギーがないと判定することはできず,当該アレルゲンによって症状を引き起こすか否かを診断するためには,詳細な問診や食物経口負荷試験が必要となる。 クラスごとの抗体価(単位はUA/ml。以下省略 判定することはできず,当該アレルゲンによって症状を引き起こすか否かを診断するためには,詳細な問診や食物経口負荷試験が必要となる。 クラスごとの抗体価(単位はUA/ml。以下省略。)は,クラス0(陰性)が0.35未満,クラス1(擬陽性)が0.35以上0.70未満,クラス2(陽性。以下同じ。)が0.70以上3.50未満,クラス3が3.50以上17.5未満,クラス4が17.5以上50.0未満,クラス5が50.0以上100.0未満,クラス6が100.0 以上である。 プリックテスト(乙イB2,イB3)上腕屈側皮膚をアルコールで清拭し,アレルギーの疑われる物質のエキスを垂らし,そこを針で軽く傷つけたときの20分以内の紅斑膨疹反応を見る検査方法である。膨疹径(腫れた直径)が3mm以上で,かつ 針を刺しただけで腫れる機械的な反応を見るための陰性コントロール (対照群)との差が2mm以上の場合,陽性ととる場合が多い。ヒスタミンによる陽性コントロールの膨疹径の2分の1以上を陽性の条件に加える場合もある。発赤は参考記録程度として考える。 スクラッチテスト(乙イB3)小型尖刀,針を用いて長さ4mm程度の浅い,血がにじむ程度の傷を 皮膚に付け,その部位にアレルゲンエキスを滴下し,ガラス棒ですり込まないように広げ,滴下後20分以内に生じる紅斑膨疹反応の強さを見る検査方法である。 ヒスタミン遊離試験(乙イB22の1・20頁)好塩基球ヒスタミン遊離試験ともいう。血中の好塩基球という細胞に 抗原を反応させ,ヒスタミンが遊離されるか否かを調べる検査方法である。ヒスタミンが遊離すれば,抗原に対する特異的IgE抗体の存在が証明されたことになる。 いう。血中の好塩基球という細胞に 抗原を反応させ,ヒスタミンが遊離されるか否かを調べる検査方法である。ヒスタミンが遊離すれば,抗原に対する特異的IgE抗体の存在が証明されたことになる。 好塩基球活性化試験(乙ロB19・3426頁)末梢血中に最も多数を占める抗原特異的細胞である好塩基球を抗原と 反応させてその活性化レベルを定量する検査方法である。感作のみならず,細胞自体の反応性も評価するため,実際に生体で起こる反応,すなわち最終診断法である経口負荷試験により近いとされる。 パッチテスト(乙イB22の1・19頁)抗原液を20分間皮膚に密着させ,膨疹や発赤の有無を判定する検査 方法である。 経口負荷試験(乙イB22の1・21頁,乙ロB18・58頁以下)アレルギーが疑われる食品を,一定の時間間隔で分割摂取し,医師が症状出現の有無を確認する検査である。検査者にも被験者にも負荷食品が分かっているオープン法と,検査者にはわかっているが被験者には負 荷食品を伏せて行うブラインド法とがある。対象となるアレルギーが運 動誘発性アレルギーの場合には,食品摂取後に運動を負荷することもある。 キアナフィラキシー等 アナフィラキシーは,即時型アレルギー反応の一つの総称であり,皮膚,呼吸器,消化器等多臓器に全身性の症状が現れる場合をいう。以下 のいずれかに該当する場合,アナフィラキシーの可能性が高いとされている(甲B40)。 ① 皮膚症状(全身の発疹,掻痒又は紅斑),粘膜症状(口唇・舌・口蓋垂の腫脹等)のいずれか,又は両方を伴い,急速に(数分ないし数時間)発症する症状で,下記の少なくとも一つを伴う ① 皮膚症状(全身の発疹,掻痒又は紅斑),粘膜症状(口唇・舌・口蓋垂の腫脹等)のいずれか,又は両方を伴い,急速に(数分ないし数時間)発症する症状で,下記の少なくとも一つを伴う ㋐呼吸器症状(呼吸困難,気道狭窄,低酸素血症)㋑循環器症状(血圧低下,意識障害)② その患者にとってアレルゲンと考えられるものへの曝露の後,急速に(数分ないし数時間)発症する以下の症状のうち,2つ以上を伴う㋐皮膚・粘膜症状(全身の発疹,掻痒,紅斑,浮腫) ㋑呼吸器症状(呼吸困難,気道狭窄,喘鳴,低酸素血症)㋒循環器症状(血圧低下,意識障害)㋽持続する消化器症状(腹部疝痛,嘔吐)③ アレルゲン曝露後(数分ないし数時間)の血圧低下 アナフィラキシーショックは,急性の全身性循環障害で,重要な臓器 の機能を維持するために十分な血液循環が得られない結果発生する生体機能異常を呈する症候群を指し,通常は血圧低下を伴う。 ク抗アレルギー薬 抗ヒスタミン薬アトピー性皮膚炎の皮膚のかゆみや蕁麻疹の対症療法として用いられ ており,食物アレルギーに対しては,蕁麻疹の予防目的で用いられるこ とがある。抗ヒスタミン薬には,エバステル,アレジオン,アレロック,アレグラ,クラリチン,ザイザル等多くの種類が存在する(乙イB22の1・24頁)。 エピペン,ボスミンエピペンは,食物等に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治 療のための携帯可能な注射器型の強心剤(アドレナリン)である。喉頭浮腫や呼吸困難等が生じたときに,自分で太腿の前外側に穿刺して使用する。 は,食物等に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治 療のための携帯可能な注射器型の強心剤(アドレナリン)である。喉頭浮腫や呼吸困難等が生じたときに,自分で太腿の前外側に穿刺して使用する。ボスミンも同様にアドレナリンであるが,病院において医師が使用する(乙イB22の1・25ないし28頁)。 本件アレルギーの発症原因等 ア特別委員会は,平成24年5月28日,本件アレルギーの発症原因等に関し,以下の中間報告をした(乙イB1の1)。 情報サイトの統計結果を分析した結果に係る報告本件石鹸等による小麦アレルギー情報サイトでの患者問診票254例(診察した医師が登録する。)の統計結果について,以下のとおり報告 した。 本件石鹸の使用部位について,「顔だけ64%,顔と体17%,顔と首2%,顔・腕・手1%,体だけはなし。記載なし16%。顔面に解答した84%の者は全員顔面に使用し,20%は顔面以外の部位にも使用していました。」 洗顔後と小麦摂取後のアレルギー症状の組み合わせについて,「洗顔後に目が腫れる,顔に蕁麻疹がでるなどのアレルギー症状と小麦摂取後アレルギー症状の両方の症状があった症例が67%,洗顔後の症状はなく小麦摂取後アレルギー症状ありが30%,洗顔後症状があり小麦摂取後アレルギー症状なしが3%でした。つまり,97%の症例は小麦摂取 後にアレルギー症状を発症していました。」 洗顔後と小麦摂取後のアレルギー症状について,洗顔後の症状は,「洗顔後に症状のないものが30%ありました。眼瞼の腫脹,蕁麻疹,痒みが多くみられましたが,呼吸困難,ショック症状をきたした症例はありませんでした。」,小麦摂取後の症状は,「アナフィラキシーショック25%, 症状のないものが30%ありました。眼瞼の腫脹,蕁麻疹,痒みが多くみられましたが,呼吸困難,ショック症状をきたした症例はありませんでした。」,小麦摂取後の症状は,「アナフィラキシーショック25%,ショック症状はないが,呼吸困難・嘔吐や下痢を生じた症例2 7%あり,合計52%がアナフィラキシー症状を起こしていました。アナフィラキシー以外の蕁麻疹・眼の腫れ・鼻閉・鼻水・痒みなどは45%で見られました。」従来のコムギによる運動誘発アナフィラキシーと本件アレルギーとの違いについて,本件アレルギーには,①本件石鹸の使用が小麦アレルギ ー症状発症に先行する,②圧倒的に女性に多い,③ほぼ全例で眼瞼浮腫,顔面の膨疹,痒み,鼻水などを生じる(これまでのコムギアレルギーは全身に膨疹を発症する。),④運動依存性が低い(従来の小麦による運動誘発アナフィラキシーでは,相当量の運動負荷をかけなければ症状が現れないが,本件アレルギーの症状は買い物や家事等の軽度の運動で生 じたり,明らかな運動負荷が無くても誘発されたりする。)という特徴がある。 本件アレルギーと運動及び非ステロイド抗炎症薬(NSAID)内服で症状が誘発される。 本件アレルギーと既往との関係について,「症例の約50%にアレル ギー疾患の既往歴がありました。アレルギー疾患のなかでは花粉症が8割,全体では40%を占め,その他のアレルギー疾患は全体の10%でした。この頻度は同年齢の一般の人の有病率と明らかな差は認めませんでした。50%の人にはアレルギー疾患の既往はなく,健常人にも感作が成立することが分かります。どのような人に感作しやすいかは,現在, 研究が進められています。」,重篤化している人とそうでない人との違 いについて,「素因と の既往はなく,健常人にも感作が成立することが分かります。どのような人に感作しやすいかは,現在, 研究が進められています。」,重篤化している人とそうでない人との違 いについて,「素因というものがあると考えています。しかし,詳細はまだ明らかにできておらず,現在,研究が進められています。」 本件アレルギーの発症メカニズム等本件アレルギーの発症メカニズム等について,以下のとおり報告した。 本件アレルギーの発症メカニズムについて,「茶のしずく石鹸は,洗 浄によって皮膚を清潔にすることが目的の製品ですから,界面活性剤を含みます。この中にグルパール19Sという加水分解小麦末が0.3%含有されていました。繰り返し,この石鹸で入念に洗顔することで,抗原が毎日少しずつ経皮的に,また経粘膜的に吸収され,抗原提示細胞によって抗原がリンパ球に提示され,感作特異IgE抗体を産生し,これ が,肥満細胞の表面に結合して,アレルギー症状の準備状況をつくったと考えられています。 経皮・経粘膜的に感作され,特異IgE抗体を産生し続けた個体では,やがて,コムギ製品を摂取すると全身性のアレルギー症状を発症するようになりました。経皮的に吸収されるグルパール19Sの抗原量と,パ ンや,うどんなどとして一度に100gを超える量を摂取する食品中の交叉反応する抗原量では,後者の方が圧倒的に多いと考えられます。疫学研究でも,石鹸洗顔後の症状は眼瞼浮腫,痒み,顔の膨疹,鼻汁などの軽度の症状が主で,アナフィラキシーを生じた例はありませんでしたが,小麦摂取後には50%を超える人が呼吸困難や嘔吐下痢などの重篤 な症状を発生し,25%の人がショック症状を起こしていました。」グルパール19Sが小麦アレルギーを発 せんでしたが,小麦摂取後には50%を超える人が呼吸困難や嘔吐下痢などの重篤 な症状を発生し,25%の人がショック症状を起こしていました。」グルパール19Sが小麦アレルギーを発生させた原因について,「この点について,調査研究と実験をすすめているところです。現在は,抗原タンパク質の立体構造,エピトープ解析をすすめていますが,まだデータはそろっていません。」 本件アレルギーの予後について,「U,V,W委員等の『石鹸使用中 止後の小麦タンパク特異的IgE抗体の経年的変化』の研究では11例を対象に経過を検討しています。その結果,全例で,小麦,グルテン特異的IgE抗体の減少傾向を認めており,10例は指数関数的な急峻な減少(半減期:7-8か月)を認めましたが,1例緩徐な症例もあったと報告されています。T委員のグループの検討でも,グルテン,小麦に 対する特異的IgE抗体もほぼ全例で減少し,ELISA法で経過を負ったグルパール19Sに対する抗体は半減期5.1か月で減少しています。 初診時に小麦が摂取できなかった症例も,原因の石鹸使用を中止することによって,島根大学31例の症例中3例は運動負荷をかけても小麦 製品を摂取できるようになっています。ただし,グルパール19Sと類似した加水分解タンパク質を含む食品を摂取した場合の安全性については,まだ確認できていません。」イ特別委員会は,平成27年5月31日,第114回日本皮膚科学会総会市民公開講座において,「加水分解コムギ末(グルパール19S)による 経皮感作小麦アレルギーから学んだこと」と題して,以下の報告をした(甲A33,34)。 本件アレルギーの特徴発症率及び発症時期について,通常の小 ル19S)による 経皮感作小麦アレルギーから学んだこと」と題して,以下の報告をした(甲A33,34)。 本件アレルギーの特徴発症率及び発症時期について,通常の小麦アレルギーの男女比は女性より男性の方が多く,大人になってから発症するのに対し,本件アレル ギーの男女比は男性よりも女性の方が多く,20代から60代に発症している。アナフィラキシーの初期症状について,通常の小麦アレルギーが全身のかゆみと蕁麻疹であるのに対し,本件アレルギーは瞼・顔面のかゆみ・腫れである。アナフィラキシーの進行症状については,通常の小麦アレルギーは血圧低下し倒れるというものであるのに対し,本件ア レルギーは消化器・呼吸器症状,血圧低下である。 疫学調査から分かったこと特別委員会は,平成23年以降平成26年10月までの間,本件アレルギーに係る疫学調査をした結果,以下の事実が判明した。 本件アレルギーの診断基準を満たした確実例は,平成26年10月20日時点で2111例であった。年齢は1歳(男児)から93歳(女性), 平均年齢45.8歳で,多くは20代から60代の女性であった。悠香がグルパール19Sを含有する石鹸を販売していた時期は,平成16年3月から平成22年9月までで,販売総数は4650万個,一人当たり約15個使用した計算になる。本件アレルギー発症例のうち,アトピー性皮膚炎ないし花粉症の既往を有していたのは約半数であり,したがっ て,アレルギー性疾患やアトピー性皮膚炎があることにより発症したのではない。それ以外の他種アレルギーとの関係も検討したが,相関関係はうかがえなかった。したがって,石鹸を使用したことにより発症したといえる。本件石鹸を使用した際,約6割の患者は,顔面 より発症したのではない。それ以外の他種アレルギーとの関係も検討したが,相関関係はうかがえなかった。したがって,石鹸を使用したことにより発症したといえる。本件石鹸を使用した際,約6割の患者は,顔面のかゆみや眼瞼の腫れを生じたが,3割弱の患者には皮膚症状が出なかった。小麦摂 取後約半数の患者に呼吸困難や嘔吐,アナフィラキシーショック等の重篤な影響があった。目が腫れ,また全身に蕁麻疹を発症した例も多くあった。 血液中のグルパール19Sに対する抗原の血液検査では,多くの患者でグルパール19Sに対する抗体値が低下してきており,臨床症状と相 関している。石鹸の使用を中止することで,臨床症状が軽快し,同時にグルパール19Sに対する特異的IgE抗体値も減少している。ショック,呼吸困難,下痢,蕁麻疹を発症した重篤な症例においても,半数以上の患者が小麦製品を摂取している。しかし,その中には,抗アレルギー薬を摂取している,運動を制限しているなど,生活の質が下がってし まった患者もいる。症状が軽症である患者でも現在も小麦を食べていな い者もいる。本件石鹸の使用中止(原因物質からの回避)により小麦摂取を再開できるようになった患者がおり,その割合は今後増加すると考えられる一方,現在も小麦摂取を回避している,もしくは制限のある中で小麦摂取をしている患者もおり,適切な生活指導や治療法の確立が求められている。 本件アレルギー発症後の経過通常の小麦アレルギーはどんなに治療しても原因タンパク質に対するアレルギー反応は改善しないが,グルパール19Sのアレルギーは,小麦を食べていても食べていなくても,石鹸の使用を中止するだけでアレルギー反応が改善してきている。10施設の協力を得て,患者350名 (全体の は改善しないが,グルパール19Sのアレルギーは,小麦を食べていても食べていなくても,石鹸の使用を中止するだけでアレルギー反応が改善してきている。10施設の協力を得て,患者350名 (全体の16%)のその後の経過を調査した結果,以下の事実が判明した。 「略治」を「制限なく小麦製品を食べて3か月以上アレルギー症状がみられない状態」と定義した場合,平成26年10月時点で22%(350例中77例)の患者が略治していた。また,石鹸を使用中止してか ら半数の患者が略治に至るまでの期間は,5.4年(65か月)であることが判明した。原因となった石鹸の使用を中止すれば,小麦摂取制限をしてもしなくても改善していた。ただし,症状が目や皮膚にとどまらず,下痢や嘔吐,呼吸困難等の臓器症状があった者,血圧低下ショックがあった者は治りにくい傾向にある。さらに,ω-5グリアジンの特異 的IgE抗体値が陽性になっている患者も治りにくい傾向にある。略治と完治は少し異なる概念であり,略治になった患者に今後症状が全く出ないとは言い切れない。 食物依存性運動誘発アナフィラキシーという病態は,食物を食べた上で,運動や内服薬等の二次的要因が加わったことにより蕁麻疹やアナフ ィラキシー症状を誘発するものであり,この組み合わせを止めることで 症状をある程度緩和できる。症状が重症の場合,一次的には小麦製品の摂取中止が必要であるが,症状が軽症の場合は,小麦の摂取制限,運動等の組み合わせを避けることが必要である。抗ヒスタミン薬をあらかじめ服用することも有効である。アレルギー症状が出た場合,すぐに抗ヒスタミン薬を飲むことが必要であり,ショックを発症する場合に備えて エピペンを処方してもらう必要があることもある。そして,石鹸使用 め服用することも有効である。アレルギー症状が出た場合,すぐに抗ヒスタミン薬を飲むことが必要であり,ショックを発症する場合に備えて エピペンを処方してもらう必要があることもある。そして,石鹸使用中止後,3ないし6か月後に定期的に観察してもらい,評価を受け,小麦を食べることができるようになっているかどうかを医師に確認してもらう。特異的IgE抗体値が低下すれば,小麦製品の摂取解除を主治医と検討することになる。治りにくい患者には,抗IgE抗体療法(対Ig E抗体製剤を用いてアレルギーを起こすタンパク質であるIgEを中和する治療法)である「オマリズマブ」投与の手法が研究されている。オマリズマブは,気管支喘息に使用されている薬であり,食物アレルギーの機序の一端であるIgEと複合体を形成して,肥満細胞のレセプターに結合させない効果があり,ヒスタミンの遊離も抑えられる。投与前に アレルギー反応が出ている者も,オマリズマブの投与中や投与後1か月間は症状が抑えられるが,3か月を過ぎると復活してくる。オマリズマブを投与した10名については現時点(平成27年5月31日時点)で副作用は生じていないが,蕁麻疹やショックが起こり得る薬剤である。 加水分解コムギの抗原解析の結果 加水分解コムギ(グルパール19S)は,小麦グルテンの過熱条件下での酸による部分加水分解により生成されるが,その加水分解処理が部分的であったことにより,低分子ペプチドの生成と同時に一部で凝集等されて分子量の大きい物質が形成された。また,同処理方法により,新たに脱アミド化修飾残基が生成されたことにより熱や酸に耐性のある新 たな抗原性の高い抗原決定基が産生されたと思われる。その結果,グル パール19Sを配合する石鹸を洗顔等に使用した り,新たに脱アミド化修飾残基が生成されたことにより熱や酸に耐性のある新 たな抗原性の高い抗原決定基が産生されたと思われる。その結果,グル パール19Sを配合する石鹸を洗顔等に使用したことで,経皮経粘膜にてグルパール19Sが吸収され,体内にグルパール19S特異的IgE抗体が産生し,その抗体が小麦と交叉反応をして,本件アレルギーを発症したと考えられる。 2 本件石鹸の欠陥の有無(争点1) 製造物責任における欠陥の意義製造物が通常有すべき安全性を欠いていることが欠陥であり,その判断は,当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期,その他の当該製造物に係る事情を考慮して判断することになる。 その判断基準に関し,立法時参考にされたEC指令の消費者期待基準,危険効用基準そのほかが提唱されているが,法文解釈としては後記各事情及びそこで考慮される要素を総合して判断することになる。 考慮要素ア本件石鹸の特性 本件石鹸の用途等本件石鹸は,女性を対象とした洗顔用石鹸で,毛穴の汚れを落とし,古い角質層を除去することを含め,美容効果を強調し,毎日継続的に使用することが推奨された。悠香は,本件石鹸を化粧落としにも使用できる旨の説明を使用の手引きに記載し,2回洗顔を勧めたほか,継続的な 使用を推奨した上でそれを促す価格設定をし,顧客を名簿に載せ,継続的な販売を目指した。 本件石鹸は,洗顔用石鹸としての効能を有し,美容効果についても,一定の保湿性,汚れ等の除去能等を有するが,その他の美容効果の程度及び効用は証拠上明らかでなく,保湿性等の効用を付与するためには, 必ずしもグルパール19Sを使用 を有し,美容効果についても,一定の保湿性,汚れ等の除去能等を有するが,その他の美容効果の程度及び効用は証拠上明らかでなく,保湿性等の効用を付与するためには, 必ずしもグルパール19Sを使用する必要はなかった。 本件アレルギー発症等前記1によれば,本件石鹸の使用により,本件石鹸に配合されている加水分解コムギ末であるグルパール19Sを経皮経粘膜により摂取して感作し,交叉反応を起こして,即時型(Ⅰ型)アレルギーである小麦依存性運動誘発性アレルギーに罹患したと推測することができ,これを 覆すに足りる証拠はない。経皮経粘膜で感作したメカニズムが完全に解明されたとはいえないが,おおむね疫学的にみて,本件石鹸に含まれる界面活性剤の作用と原告らの入念な洗顔がグルパール19Sを体内に侵入させる環境を作ったものと推測するほかない。原告らは,本件石鹸に配合されているグルパール19Sに経皮経粘膜的に感作し,交叉反応を 起こして,本件アレルギーに罹患したものと認めるのが相当である。 本件アレルギー症例数につき,本件石鹸の販売総数は平成16年3月から平成22年9月までの間で約4650万個であり,本件石鹸によるアレルギー確実例は平成26年10月20日時点で2111名であった。 また,特別委員会のによれば,本件アレルギーに罹患 した者(情報サイトに登録した者に限る。)のうち,アナフィラキシーに至った者の割合は50%を超え,アナフィラキシーショックに至った者も25%存在したことが認められるところ,本件アレルギー罹患者全体においても,その割合は大きくは異ならないと考えられる。本件アレルギー発症により,本件アレルギー罹患者(本件原告らを含む。)が受 けた被害は約半数の者がアナフィラキシーに,約4分の1の者がアナフ おいても,その割合は大きくは異ならないと考えられる。本件アレルギー発症により,本件アレルギー罹患者(本件原告らを含む。)が受 けた被害は約半数の者がアナフィラキシーに,約4分の1の者がアナフィラキシーショックに至り得るものであった。また,蕁麻疹等についても,眼瞼や顔に限られず,四肢や全身に及ぶケースも存在していた。本件アレルギーは,運動依存性が低く,買い物や家事等の軽度の運動程度をしたにすぎない場合や,明らかな運動負荷が無くても症状が誘発され ることがあった。 本件石鹸の表示悠香は,本件石鹸の外箱等に,本件石鹸には加水分解コムギが配合されている旨記載し,肌に異常があるときには使用中止すべき旨の警告表示をしたが,肌の異常について,赤み,かゆみ,刺激以上の具体的な記載はなく,もとより本件アレルギーの可能性を示唆する表示はなかった。 イ通常予想される使用形態 前記認定のとおり,原告らはいずれも,本件石鹸を本来の用途にしたがい,洗顔や体の洗浄のため本件石鹸を使用した。 原告らの中には,本件石鹸を使用する過程で,皮膚の腫脹等が生じた者があった。しかし,原告らにおいてそれが本件石鹸によるものである ことを推測することが容易であったと認めるに足りる証拠はない。もとより,原告らにおいて,本件石鹸の使用継続により,本件アレルギーが生じる可能性に思い至ることは到底できなかった(アレルギーを発症した後,原告らの多くは特別委員会の報告等を参照するまで,その原因に思い至らなかった。)。原告らを診察した医師らにおいても原告らの眼 瞼腫脹等の原因を特定できない場合すらあった。 ウ引き渡した時期 前記認定のとおり,原告らは,平成18年9月こ らなかった。)。原告らを診察した医師らにおいても原告らの眼 瞼腫脹等の原因を特定できない場合すらあった。 ウ引き渡した時期 前記認定のとおり,原告らは,平成18年9月ころから平成23年ころまで使用を継続したところ,悠香は,このころ(ただし,終期は平成22年9月26日),原告らに対し,本件石鹸を引き渡した。 科学・技術水準前記のとおり,本件アレルギーが発症するに至ったのは,経皮経粘膜でグルパール19Sが体内に浸透し,抗原抗体反応を起こし,その抗体が小麦と反応したものと認められるところ,このような抗原侵入,感作及び交叉反応の機序が引渡当時,産業界,医学を含む科学界において顕 著であったとは必ずしも認められない。一方で,グルパールに代わる同 等の保湿成分は当時から存在し,それらを用いることはもとより技術的に容易であった。ただし,本件石鹸引渡当時のみならず,現時点に至るまでも,本件アレルギー発症につき,グルパール19Sのどのような性質がどの程度関与しているか,本件石鹸のグルパール19S以外のどのような成分がどの程度関与しているか,そのようなグルパール19Sの 性質がその他のタンパク加水分解物とどのように異なるのかは,未だ明らかになっていない。 また,前記認定のとおり,あらゆる物質がアレルゲンとなり得,誰一人アレルギー反応を起こすことのない化粧品や医薬部外品を作ることは困難であるところ,このことは,一般的な化粧品・医薬部外品の使用者 であれば十分認識している事柄であり,それは,本件石鹸のような美容石鹸の使用者においても同様であると考えられる。原告らを含む本件石鹸の使用者は,本件石鹸を使用した場合にアレルギー反応を起こす可能性を認識していたものと推認される。しかしながら,本件 鹸のような美容石鹸の使用者においても同様であると考えられる。原告らを含む本件石鹸の使用者は,本件石鹸を使用した場合にアレルギー反応を起こす可能性を認識していたものと推認される。しかしながら,本件石鹸の使用者が,即時型の,小麦依存性運動誘発性アレルギーを念頭に置いていたこ とをうかがわせる事情はない。むしろ,本件石鹸の外箱の表示及び弁論の全趣旨によれば,皮膚に接触させるにすぎない化粧品や医薬部外品において問題とされるアレルギーは,通常,接触性皮膚炎を代表とするⅣ型アレルギーであって,本件石鹸の使用者も,これを想定していたにすぎないと推認するのが相当である。 本件石鹸の欠陥前記各事情を踏まえると以下のようにいうことができるア現代においては,多数の複雑な化学成分を含む製品が,食品,家庭用品として消費者の身近に多数存する。その成分の性質や合成に係る製品の安全性が保証されないとすると,日常生活に支障をきたすことはもちろんで あるが,製造者に対する信頼が失われ,当該製造者の事業自体が危殆に瀕 することになる。 石鹸は,日常最も頻繁に消費者が使用する物のひとつであり,その使用方法,効能は子供も知る常識となっており,消費者がその用法を誤ることはない。その製品の性状,性質及び効能からして,本来の用法にしたがって使用する限り人体に大きな危害,侵襲をもたらすものではないこと,製 造者においてそのような配慮をもって製造していることを消費者は期待,信頼しており,その期待,信頼は何ら不合理なものではなく,法的保護に値するものである。また,消費者は,効能に関し,従来の石鹸を超える洗浄,殺菌,美容効果を有する新商品を歓迎するが,それらをもたらす成分が身体に侵襲をもたらす可能性がわずかでも のではなく,法的保護に値するものである。また,消費者は,効能に関し,従来の石鹸を超える洗浄,殺菌,美容効果を有する新商品を歓迎するが,それらをもたらす成分が身体に侵襲をもたらす可能性がわずかでもあれば,製品を拒絶すること は明らかである。 イもっとも,石鹸が各種化学成分を含むものであることは周知の事実であり,肌に直接触れるものであるから,製品により,人により,皮膚に湿疹,発赤等のアレルギー症状を発することは,消費者もおおむね予知しているということができる。また,石鹸は全国的に多くの国民がほぼ毎日使用す るものであるから,製品につき使用に伴う危険情報があれば,現在の情報化社会にあっては,直ちにこれを知り,注意することができる。 ウ本件アレルギーのように,感作の結果,小麦摂取後家事程度の運動をしただけで即時型アレルギーを発症するような事態は,消費者の到底予知し得ることではなく,消費者はこのような感作の危険から身を守るすべを持 たない。一方製造者は,製品の企画,設計の段階において,当時確立している科学上の知見を総合して製品の成分からあるいは製造過程で生じ得る危険を予測して,除去することが可能であり,それが期待されている。 製造者は,そのための開発費,危険が現実化した場合の費用を価格に転嫁し,また保険等によって予測困難な損害の発生に対処することができる。 エ石鹸が消費者の身体,健康に大きな被害をもたらすようなことがあって はならない。そのことは,製造者と消費者の間では,社会における約束事となっており,いわば製造者は,消費者に対し,石鹸がそのような危険をもたらすものでないことを保証しているということができる。本件石鹸によるアレルギー発症による被害の程度は,小麦を摂取し,家事程度の軽度 なっており,いわば製造者は,消費者に対し,石鹸がそのような危険をもたらすものでないことを保証しているということができる。本件石鹸によるアレルギー発症による被害の程度は,小麦を摂取し,家事程度の軽度の運動をしただけであったり,特段の運動負荷がなくても,相当程度の割 合で呼吸困難や嘔吐・下痢等のアナフィラキシーやアナフィラキシーショックを引き起こし,これらに至らないまでも全身蕁麻疹を引き起こすこともあるというものである。発症した場合の症状の重さはいうまでもないが,現代社会において,小麦成分は多数の食品に含まれており,小麦を一切摂取しない食事を継続することは極めて困難が伴うものであるところ,本件 アレルギー発症により,小麦成分を摂取した場合に備えて運動等を控えることも必要になると考えられ,個別に差はあるが,本件アレルギー発症による生活上,就労上の制約は大きい。 オ本件石鹸によって本件アレルギーを発症した者の使用者に占める割合は,証拠上明らかでない。もとより,本件石鹸の全使用者の使用態様,頻度, 量,期間などおおまかにであっても明らかにすることは困難である。被告らの主張するように,使用者に占める発症者の割合が0.03%程度にとどまるのか証拠上明らかにすることはできないが,仮にその割合が被告ら主張の数と大差ないものであったとすると,絶対数としての発症頻度が高いということはできない。しかし,欠陥の判断にあたって,被害発生の蓋 然性を被害の程度と切り離して考慮することはできないのであって,本件アレルギーが,人によりアナフィラキシーショックをもたらし,生命の危険にかかわるものであること,本件アレルギー発症による社会生活における影響が大きいことからすると,蓋然性の低さのみを取り上げて,欠陥がないとすることはできない。 ラキシーショックをもたらし,生命の危険にかかわるものであること,本件アレルギー発症による社会生活における影響が大きいことからすると,蓋然性の低さのみを取り上げて,欠陥がないとすることはできない。そして,被告フェニックスが製造し,悠香が 平成16年3月から平成22年9月までに販売した本件石鹸は約465 0万個,販売対象となった顧客は悠香が自認するところでも約455万人に及ぶ。このような製造物の販売規模からすると,危害発生の頻度が低かったとしても,その点を重視することはできない。被告フェニックスらは,本件が社会問題化して,従来の成分のままの販売は取りやめたが,問題の発覚や周知が遅れれば,さらに被害が拡大するおそれがあった。 カ一方,本件石鹸の表示は,接触性皮膚炎による皮膚アレルギーを前提とした注意を喚起する表示であり,本件アレルギーの可能性等を示唆するものではなかった。当該表示は,本件石鹸の使用者にとって,本件アレルギー発症を回避するに十分なものではなかった。 キ以上の諸事情を総合すると本件石鹸には欠陥があるというべきである。 被告らの主張に対する判断ア被告らは,アレルギーの発症は予測不能で不可避である,あるいは本件アレルギーの発症は,本件石鹸ではなく,その人の体質が原因となった旨主張する。 アレルギーの発症機序の細部は現代の科学によってもいまだ解明されて いないこと,アレルギーが免疫の過剰反応であることは所論のとおりであり,本件石鹸使用者のうち本件アレルギーを発症した者が一部にとどまることも特別委員会の中間報告等及び弁論の全趣旨から認められる。 しかしながら,何らかの成分に対応するアレルギー体質の者が一般社会に相当数存在し,そのうち製造物の含 症した者が一部にとどまることも特別委員会の中間報告等及び弁論の全趣旨から認められる。 しかしながら,何らかの成分に対応するアレルギー体質の者が一般社会に相当数存在し,そのうち製造物の含まれる成分にアレルギー反応を惹起 する者があること,あるいは製造物を摂取するなどした者のうち相当数が発症することは,製品を製造する者が所与の条件としなければならないことである。その上で製造者には,アレルギーを起こす成分を極力排除するか,具体的な指示,警告をすることが求められるのであって,本件アレルギーの発症を原告らの体質に帰責して,被告らが責任を免れ得るものでは ない。また,本件では,もともとアレルギー体質でなかったと思われる者 についても本件アレルギー被害が生じたことが認められるのである(甲個13の4の1,個17の4の1,個21の4の1,個30の4の1ほか)。 食品に限っても,アレルギーを生じさせる素材,製品は多数存する。たとえば卵,小麦製品,牛乳は,高い頻度でアレルギー感作を生じさせることが一般に知られているから,その物の特性としていまさら欠陥があると する必要はない。しかし,加水分解コムギ末が,「小麦」の名を含んでいても,一般の消費者には,小麦と同様の性質のものであるか否かはわからず,その危険性を知り得ないとの事実は,本件石鹸の欠陥を肯定する一事情となる。 イ被告フェニックスらは,本件アレルギーによる被害は重篤でなく,被害 発生の蓋然性が低いと主張する。 原告ら被害者の中には,アナフィラキシーショックを起こした者がいること,それまでアレルギーがなかったのに,新たに小麦アレルギー感作が生じた者がいること,本件アレルギー発症による社会生活への影響が大きいことからすると,被害の程 ィラキシーショックを起こした者がいること,それまでアレルギーがなかったのに,新たに小麦アレルギー感作が生じた者がいること,本件アレルギー発症による社会生活への影響が大きいことからすると,被害の程度が軽いとはいえない。発生の蓋然性に関し て,0.03%が発生頻度を表す正確な数値であるのか必ずしも疑いなしとしないが,仮にその割合であったとしても,前記判示のとおり,悠香が自認する使用者数455万人に4650万個という販売個数からすると発症頻度が低いことを欠陥の判断にあたって重視することはできないことは前記判示のとおりである。 被告フェニックスは,本件アレルギーが,一般的な小麦アレルギーに比して被害の程度及び発症率が大きいことが,本件石鹸の欠陥を認定する前提となる旨主張するが,前記のとおり,本件石鹸の欠陥を認定するに当たり,新しい製造物である本件石鹸に起因するアレルギー被害と,卵,牛乳及び小麦など既に社会的に公知となっている他のアレルギー被害とを,発 生の蓋然性で比較する意味はない。 ウ被告フェニックスらは,引渡時の技術水準で,本件アレルギーの発症は予見しえなかったこと,加水分解コムギ末は,厚労省の定める外原規等に収載されているなど,当時において安全性の確認された原料であったこと,被告フェニックスは,独自に安全性試験を実施したものの異常が確認されなかったこと,本件アレルギー発症の態様(継続的使用が原因となったと 推測される)から,事前の試験では発症を予見することも,これを前提として回避することも困難であったことなどを,欠陥を否定する事情として主張する。 しかしながら,製造物責任法4条が「当該製造物をその製造業者が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては,当該製 も困難であったことなどを,欠陥を否定する事情として主張する。 しかしながら,製造物責任法4条が「当該製造物をその製造業者が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては,当該製造物にそ の欠陥があることを認識することができなかったこと」を抗弁として定めたことからすると,当時の技術水準に基づく予見可能性や結果回避可能性の有無を欠陥の判断要素とすることは,製造物責任法の論理的構造に反すると解される。 欠陥の有無に関し「引渡し当時の技術水準」を考慮するに当たっては, 欠陥の予見可能性を一応前提として,その欠陥なくして同等の効用を実現する代替設計の技術的可能性を考慮するのが相当である。そして,本件では,前記のとおり,グルパール19Sを使用しないで本件石鹸と同等の製品を製造することは可能であった。本件アレルギーの機序や原因,アレルギー発症要因がどのような物質のどのような性質にあったのかが現時点 でも完全に解明されていないのは前記のとおりであるが,石鹸は,多くの国民が継続的に使用してきたものであり,本件石鹸引渡当時,重篤なアレルギーを回避するための経験知は存在していたと考えられる。したがって,本件のような重篤なアレルギーを発症しない同等の製品を製造することは可能であった。 エさらに,被告フェニックスらは,本件石鹸外箱の表示(前記)を もって,必要十分の表示警告をした旨主張する。 しかし,前記本件石鹸による被害内容に鑑みれば,本件石鹸における十分な表示警告とは,その使用者において,本件石鹸の使用による小麦依存性運動誘発性アレルギー発症を回避することが可能となるに足りる表示警告を指すと解すべきところ,本件石鹸外箱の表示は,単に皮膚症状につ いて記載するもの 用者において,本件石鹸の使用による小麦依存性運動誘発性アレルギー発症を回避することが可能となるに足りる表示警告を指すと解すべきところ,本件石鹸外箱の表示は,単に皮膚症状につ いて記載するものにすぎず,本件アレルギーを示唆するものですらなかった。このような表示を見た本件石鹸の使用者は,その成分及び本件石鹸の使用により皮膚アレルギーを生じる可能性を認識したにすぎず,それ以上に本件アレルギー発症の可能性を想起することすらできず,その発症を回避することは到底不可能であった。当該表示をもって,本件石鹸に欠陥が なかったということはできない。 3 本件石鹸の欠陥に係る開発危険の抗弁(争点2) 科学又は技術に関する知見「科学又は技術に関する知見」は,製造物の欠陥の有無を判断するのに適した,入手可能な最高水準の知見であることが必要であり,科学技術に関す る知識,経験,実験等によって社会的に確立された知識の総体であると解するのが相当である。知見は,社会的に存在した知識の総体であることが必要であるが,そのような考え方,知識に対して学問的に異論が提起されていないとか,そのような考え方,知識の詳細が科学的に証明されたものであることまでは必要でなく,しかし,知識,経験,実験等によって裏付けられ,特 定の科学,技術の分野において認知される程度に確立したものであることは必要である。 また,開発危険の抗弁における知見は,欠陥を構成する事象そのものに対する知見であることを必要とせず,各種知見を総合し,欠陥が認識し得るものであれば,認識可能性がなかったとはいえないと解すべきである。 引渡当時の科学又は技術に関する知見前記前提事実及び認定事実,後掲証拠並びに弁論の全趣旨によれば, のであれば,認識可能性がなかったとはいえないと解すべきである。 引渡当時の科学又は技術に関する知見前記前提事実及び認定事実,後掲証拠並びに弁論の全趣旨によれば,本件石鹸引渡当時(平成18年9月ないし平成22年9月当時),以下の知見等が存在した。 アアレルギー どのような物質がアレルゲンとなるか,アレルゲンとなった場合に交叉反応を起こすか否か,どのような物質に対して交叉反応性を示すかは,本件石鹸引渡当時のみならず,現在においても具体的に予測することはできない。また,ある物質について,抗原提示細胞を介して免疫細胞に異物(抗原)と認識されて,過剰に抗体が産生され,これによって生体に不利益な 症状を起こすことでアレルギーを発症するものであるが,当該発症のためにどの程度の抗原量が必要になるかは,遺伝子,環境,生活状況等が影響し,これもまた定量的に予測することはできない。 本件アレルギーより以前から知られていた小麦アレルギーは,男女比でやや男性が多く,臨床症状は全身性の膨疹で,アナフィラキシーショック はしばしば起き,IgE反応性については,ω-5グリアジンに対して強い反応を示し,加水分解コムギに対しても弱いIgE反応性を有する(甲B1・54頁,甲B5・449頁)。 FDEIA(食物依存性運動誘発アナフィラキシー)は,原因食物を摂取した後に運動負荷や非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)服用等の 二次的要因が加わって発症する食物アレルギーの一病態である。原因食物は多岐にわたるが,本邦では,小麦が原因となる割合が約60%を占めている。学童期以降の小麦アレルギーは,FDEIAの病型をとることが多い(甲B48・2頁,B49・1ないし3頁)。 イ皮膚 は多岐にわたるが,本邦では,小麦が原因となる割合が約60%を占めている。学童期以降の小麦アレルギーは,FDEIAの病型をとることが多い(甲B48・2頁,B49・1ないし3頁)。 イ皮膚バリア構造 皮膚(乙イB20,甲B42・4頁) 皮膚は,大きく,表皮,真皮及び皮下組織に分けられる。皮下組織は,脂肪織によるクッションの役割と熱保持,栄養保持に関わる。真皮は,頑丈なコラーゲンからなる層で,物理的な刺激から身体を守るとともに,その内部には,毛嚢・脂腺,汗腺,血管,リンパ管等の他,真皮樹状細胞と呼ばれる抗原取得細胞がある。最外層の表皮は,ケラチノサイト(表 皮細胞)により構成される重層上皮組織であり,表面から順に,角質層,顆粒層,有棘層及び基底層から成る。有棘層は,デスモソーム(二つの細胞間の結合を強める装置の一つ)の発達したケラチノサイトが重層する層であり,ランゲルハンス細胞と呼ばれる表皮内樹状細胞(抗原提示細胞)が散在する。角質細胞の層数は,手掌や足底で100層以上ある が,前腕で約14層,顔面では10層以下と,部位により角質層の厚さが異なる。 表皮バリア(乙イB20,甲B42・3,4頁)上皮細胞のシートによるバリアは,上皮細胞それ自身と,細胞と細胞の隙間を通る物質の行き来を制限する閉鎖結合により構成される。角質 層の内側の顆粒層は,非常に扁平化したケラチノサイトが複数積み重なってできた層で,顆粒層の細胞を表面から順にSG1,SG2,SG3細胞とそれぞれ名づけると,SG2細胞の細胞間にのみタイトジャンクション(TJ)という,細胞間を通る物質移動を制限するバリアが存在する。TJは,脊椎動物が持つ特徴的な形態を持った閉鎖結合である。 とそれぞれ名づけると,SG2細胞の細胞間にのみタイトジャンクション(TJ)という,細胞間を通る物質移動を制限するバリアが存在する。TJは,脊椎動物が持つ特徴的な形態を持った閉鎖結合である。 このような皮膚バリア機能を有する角質層をテープストリッピング(セロハンテープ等の粘着性テープを皮膚に貼り付け,引きはがすこと。 二,三十回繰り返すと,角質層がほぼ除去される。)等で除去(皮膚バリア機能を破壊)すると,分子量が数十万の物質でも吸収され得る。 経皮吸収経路としては,毛孔や汗孔を経由する「経付属器官経路」と 角質層を経由する「経表皮経路」の2つが存在する。経付属器官経路か らの吸収では,バリア機能を有する角質層を介さずに直接真皮に移行でき,分子量や脂溶性等による制限を受けにくいが,毛孔や汗孔の面積は角質層の面積と比較して極めて小さいため,経皮吸収には主に経表皮経路が寄与している。 経皮吸収されやすい場合(乙B42・4,5頁) 分子量が大きいと分子サイズが大きくなることや,拡散性が低下することから,経皮吸収性が低下する。分子量が小さい(正常皮膚では500ないし600ダルトン以下,粘膜では1200ないし1300ダルトン以下)ほうが経表皮経路から吸収されやすい。また,正常の皮膚を有している者よりも,アトピー性皮膚炎を発症している者の方が,皮膚透 過率は高く,その透過性は1.5倍程度(800ないし900ダルトン以下)である。 角質層は脂溶性が高いため,脂溶性が高いものの方が経皮吸収性が高まるが,角質層から下層については,脂溶性が高すぎると逆に経皮吸収性が低下する。 ウ 500ダルトンルール(乙イA11(枝番を含む。))主要な接触アレルゲン 方が経皮吸収性が高まるが,角質層から下層については,脂溶性が高すぎると逆に経皮吸収性が低下する。 ウ 500ダルトンルール(乙イA11(枝番を含む。))主要な接触アレルゲンは,事実上全て500ダルトン未満であり,それよりも分子量が大きい接触感作物質が知られていないこと,皮膚外用治療において最も良く使用される薬剤はいずれも500ダルトン未満であること,経皮薬物送達系(経皮ドラッグデリバリーシステム)で使用される 既知の皮膚外用薬はいずれも500ダルトン未満であることから,化合物が経皮吸収されるためにはその分子量が500ダルトン未満でなければならず,500ダルトンを超えると,ヒトの正常皮膚に対する透過吸収性が急速に低下すると考えられる。そのため,皮膚外用治療薬や経皮全身治療又は経皮ワクチン接種を目的として医療関連の新規化合物を開発する 場合には,おおむね分子量を500ダルトン未満に抑えている。皮膚病治 療用の全身投与薬として導入されたシクロスポリン(分子量1202ダルトン)は,皮膚病(乾せん)のみならず,アトピー性皮膚炎やアレルギー性接触皮膚炎に外用しても効果がなかったことは,前記考察を裏付ける。 タクロリムスやアスコマイシン等の800ダルトン強の分子量を持つ外用薬については,アトピー性皮膚炎患者に対しては有効であるが,それは 同患者のバリア機能が欠損しているからであると考えられる。水溶性分子は,角質層以外に汗腺口及び毛嚢口を通って皮膚を透過し得るが,それらの開口部は皮膚表面積の0.1%である。 角質層の透過耐性を乗り越えるには,超音波等で角質層を破壊する(フォノフォレーシス法)か,高電圧パルスで角質層を破壊する(エレクトロ ポレーション法)かする必要がある。ラテックスアレ 角質層の透過耐性を乗り越えるには,超音波等で角質層を破壊する(フォノフォレーシス法)か,高電圧パルスで角質層を破壊する(エレクトロ ポレーション法)かする必要がある。ラテックスアレルギー(天然ゴム製品が原因となって発症する即時型アレルギー(甲B43)。詳細は後記。)について,ラテックスは基本的に高分子量分子(5万ダルトン以上)であるが,これによる即時型アレルギー発症経緯は,皮膚表面のタンパク質中のペプチド結合を切断する酵素によってラテックスのタンパク質が分解 され,生成された小ペプチドが皮膚バリアを透過してアレルギー反応を起こすものと考えられる。 エ感作経路と誘発経路,交叉反応 ラテックスアレルギー(甲B37・206頁,43,44,乙イB22の1・14頁) 天然ゴム製品に直接接触したり,アレルゲンが吸着した浮遊パウダー・花粉を吸入したりすることによって感作が成立し,症状が誘発されるアレルギーであり,感作経路は皮膚からの侵入がほとんどである。症状は,接触箇所の発赤等比較的軽いものから,全身性蕁麻疹やアナフィラキシーショックに発展する場合もある。ラテックスは,果物や野菜と いった植物性食品に対する交叉反応性を有する(ラテックス-フルーツ 症候群)。天然ゴム製品に接触等することにより即時型アレルギー反応を示す患者は,高頻度(35%)で,バナナやアボカド等を食べることにより即時型アレルギー反応を起こすことがある。ラテックス抗原は,水溶性であり,汗やぬれた手,粘膜上皮等と接触し,毛包等を通して吸収されることで経皮感作が生じると考えられている。 食物のアレルゲン性(甲B25,乙ロB12・90頁)食物アレルゲンの分子量は,1万から7万 接触し,毛包等を通して吸収されることで経皮感作が生じると考えられている。 食物のアレルゲン性(甲B25,乙ロB12・90頁)食物アレルゲンの分子量は,1万から7万ダルトンのものが多く,低分子化するとアレルゲン性が失われる。食物アレルゲンとなるタンパク質の多くは熱処理に安定しており,アレルゲン性を失わない。完全な加水分解はタンパク分子のアレルゲン性を消失させるが,加水分解の程度, 加水分解酵素の反応部位の違いによっては,アレルゲン性が残る。 食物タンパク分子間には交叉抗原性がある場合があり,例えばある豆類に対する皮膚試験が陽性の症例に,別の豆類を経口的に負荷すると約6割の症例が反応を示す。また,食物アレルゲン(消化管)と吸入アレルゲン(呼吸器)との間に交叉抗原性があることもある。例えば,リン ゴアレルゲンに対するIgE抗体の特異性が,カバ花粉アレルゲンに対するIgE抗体の特異性に含まれるため,呼吸器により吸入されたカバ花粉アレルゲンにより感作した結果,リンゴを食べて口腔内や口周囲に紅斑や膨疹を生じさせることがある。一般的に,類似のアレルゲン間には,多くの場合免疫学的交叉反応性があり,分類学的に近縁な関係にあ るものほど交叉反応が生じやすい。 オ症例報告 ヘアコンディショナーにより接触皮膚炎を発症した2症例(平成2年スウェーデンの報告。甲B30(枝番を含む。))患者の一人は,美容師として,タンパク加水分解物であるコラーゲン 加水分解物が配合されたヘアコンディショナーを扱っていたところ,ヘ アコンディショナーによる免疫的接触蕁麻疹として,痒みを伴う紅斑や蕁麻疹性の腫れを発症した。また他の患者は,当該ヘアコンディショナーを髪 合されたヘアコンディショナーを扱っていたところ,ヘ アコンディショナーによる免疫的接触蕁麻疹として,痒みを伴う紅斑や蕁麻疹性の腫れを発症した。また他の患者は,当該ヘアコンディショナーを髪に塗られた5分後に,頭皮や顔にひりひりとした痒みが生じ,数分内で蕁麻疹が全身に広がった。両名のタンパク加水分解物に対する特異的IgE抗体価は,美容師で2.1,客で1.5であり,いずれもク ラス2であった。両名とも,季節性のアレルギー性鼻炎と手の湿しんを伴うアトピーの既往を有していた。 化粧クリームにより即時型接触アレルギーを発症した症例(平成12年。甲B31(枝番を含む。))アトピーの既往のない27歳の健常女性が,加水分解コムギを含有す る保湿ボディクリームを1週間使用したところ問題が生じなかったが,その後使用し続けたところ,塗布後すぐに掻痒性,紅斑性,蕁麻疹様の発疹を発症した。皮膚プリックテスト及びIgE抗体価検査によれば,同クリーム中の成分のうち,加水分解コムギタンパクのみ陽性であった。 なお,市販の小麦についてはプリックテスト及び特異的IgE抗体価検 査で陰性であった。 化粧クリームによりアレルギー性接触皮膚炎を発症した症例(平成12年。甲B32(枝番を含む。))アトピーでない64歳の主婦が,2年前から,小麦加水分解タンパク質を含有する保湿クリームを,毎日顔面と頸部に塗布していたところ, 2か月前から,眼瞼,顔面,頚部にかゆみや紅斑,浮腫性の病変が生じるようになった。同人が,同クリーム及び小麦加水分解タンパク質の10%水溶液のパッチテストをしたところ,いずれも陽性反応であった。 眼瞼クリームと保湿ボディクリームにより接触性蕁麻疹を発症した症例(平 同人が,同クリーム及び小麦加水分解タンパク質の10%水溶液のパッチテストをしたところ,いずれも陽性反応であった。 眼瞼クリームと保湿ボディクリームにより接触性蕁麻疹を発症した症例(平成14年。甲B33(枝番を含む。)) アトピーの既往を有する46歳の女性が,異なる会社が製造する眼瞼 クリームと保湿ボディクリーム(いずれも加水分解小麦タンパク質を含有する。)を毎日塗布して10か月ほど使用していたところ,2か月前から接触性蕁麻疹を発症した。その後,同人は,保存食品(ソーセージとレンズ豆,又はカスレ(フランス南部の豆料理))を食べた30分後に全身性の蕁麻疹を2回発症したことがあったが,パンやペーストリー (菓子)等の穀物ベースの製品を食べても何ら問題はなかった。プリックテストを実施したところ,保存食品,それら製品に成分として含まれる小麦グルテン,前記2種のクリーム,加水分解小麦タンパク質に対して強い陽性反応を示した。純グリアジン及びグルテン成分でも同様であった。クリーム中の加水分解小麦タンパク質は,保存食品のグルテンと 同じメーカーのものであった。特異的IgE抗体価は,小麦粉について16.4,グルテンについて16.2で,いずれもクラス3であった。 加水分解小麦タンパク質により誘発された化粧品に対する接触性蕁麻疹に関する症例(平成16年。甲B34(枝番を含む。))異なるブランドの加水分解小麦タンパク質が配合されている化粧品を 使用していた7人の女性が,化粧品を塗布した直後に接触性蕁麻疹を発症し,このうち6人が,改質グルテンを含む保存食品や持ち帰り総菜を摂取した後にアナフィラキシー反応や蕁麻疹を生じた。パンを摂取した後にアレルギー反応を生じた者はいなかった。 た直後に接触性蕁麻疹を発症し,このうち6人が,改質グルテンを含む保存食品や持ち帰り総菜を摂取した後にアナフィラキシー反応や蕁麻疹を生じた。パンを摂取した後にアレルギー反応を生じた者はいなかった。その7人の女性は,化粧品,それらに配合されている加水分解小麦タンパク質及び改質グルテン に対する皮膚試験で陽性反応を示し,未改質の小麦粉に対する皮膚試験はいずれも陰性であった。特異的IgE抗体価は,小麦につき2例で,グルテンにつき3例で陽性であった。同人らの血清には,いずれも,加水分解ペプチドと一部の未改質小麦粉タンパク質の両方に反応する特異的IgE抗体があった。既往歴からは,化粧品に対するアレルギーが食 物アレルギーに先行していたと考えられている。 各症例についての考察以上の各症例について,加水分解コムギ等を含む化粧品等の使用開始時には蕁麻疹等を発症していないのに,その数か月後等に眼瞼浮腫や全身性の接触性蕁麻疹等を発症し,血液検査で加水分解コムギ等に対して陽性反応を示したというのである。これに,ヘアコンディショナーや保 湿クリーム等は通常皮膚等に塗布するのみで経口摂取するものではないことも併せれば,上記各症例に係る各患者は,いずれも,化粧品に含まれる加水分解コムギ等に経皮的に感作したものと推認するのが相当である。 本件石鹸の欠陥の認識可能性 ア本件で,開発危険の抗弁において認識可能性が問題となる本件石鹸の欠陥は,本件石鹸を洗顔等に使用した場合に,その使用者が,相当程度の割合でアナフィラキシーないしアナフィラキシーショックを引き起こす小麦依存性運動誘発性アレルギー(ただし,運動依存性は高くない。)を発症し得ることである。そして,石鹸は通常皮膚に塗布して使用する の割合でアナフィラキシーないしアナフィラキシーショックを引き起こす小麦依存性運動誘発性アレルギー(ただし,運動依存性は高くない。)を発症し得ることである。そして,石鹸は通常皮膚に塗布して使用するもので あるから,開発危険の抗弁が認められるためには,本件石鹸の使用により,経皮経粘膜でグルパール19Sに感作し得ることの認識可能性がなかったことが必要である。 イ本件石鹸引渡当時,500ダルトンルールが提唱されており,分子量が500ダルトンを超える物質は,経皮吸収性がかなり低下するとの知見が 存在した。粘膜についても,分子量が1200ないし1300ダルトンを超える物質は,経粘膜的に吸収されにくいとの知見が存在した。したがって,平均分子量五,六万ダルトンのグルパール19Sは,経皮的,経粘膜的に吸収されることが想定しにくい物質であったと一応いうことはできる。 しかし,500ダルトンルールは,単に経皮吸収性の薬剤を開発するに 当たっては,その分子量を500ダルトン未満にすべきであると提唱するものにすぎず,分子量が500ダルトンを超える物質について,経皮吸収性を全く否定したものではない。 経皮的吸収経路としては,経表皮経路以外にも毛孔,汗孔等経付属器官経路が存在するところ,後者の皮膚に占める表面積は極めて小さいが,本 件石鹸が毛孔,汗孔の汚れの除去を効能としてうたっており,被告フェニックスらはそのための入念な洗顔を推奨していたことからすると,毛孔,汗孔を経由しての吸収による感作の可能性が認識の対象外であったということはできない。 経表皮経路感作として,ラテックスアレルギーは主に経皮感作によるも のと考えられるが,その分子量(5万ダルトン以上)を考慮すると,何らかの の対象外であったということはできない。 経表皮経路感作として,ラテックスアレルギーは主に経皮感作によるも のと考えられるが,その分子量(5万ダルトン以上)を考慮すると,何らかの条件があれば分子量が大きい物質についても経皮(経粘膜)感作を生じ得ることは十分認識し得たということができる。グルパール19Sの平均分子量が五,六万ダルトンであったことに照らせば,食物アレルゲンとしての感作能を有していても不思議ではないし,ラテックスアレルギーと 同様,条件次第で経皮(経粘膜)的に感作する可能性がある。 そして現に,前記認定のとおり,タンパク加水分解物ないし加水分解小麦タンパクを含有したヘアコンディショナー,化粧クリーム,ボディクリームを使用したことにより,同各物質に経皮的に感作して即時型アレルギーを発症した症例が存在したのであり,加水分解コムギが経皮(経粘膜) による感作能を有するとの知見が存在した。 以上によれば,本件石鹸引渡当時,本件石鹸を洗顔等に使用した場合に,その使用者が,本件石鹸に含まれているグルパール19Sに経皮(経粘膜)的に感作し得ることを認識することができなかったということはできない。 ウ本件石鹸引渡当時,ラテックス-フルーツ症候群の存在が知られており, ある物質に経皮的に感作した後,経口摂取した食物にアレルギー反応を示すことがあることは知見として存在していた。したがって,当時の知見に照らして,グルパール19Sについて経皮(経粘膜)的に感作した後,小麦を経口摂取してアレルギー反応を起こし得ることを認識することができなかったということはできない。 エ前記認定の知見によれば,本件石鹸引渡当時,同種食物のタンパク分子間に交叉抗原性があることが 取してアレルギー反応を起こし得ることを認識することができなかったということはできない。 エ前記認定の知見によれば,本件石鹸引渡当時,同種食物のタンパク分子間に交叉抗原性があることが知られていた。グルパール19Sは,小麦タンパク質を加水分解した物質であり,小麦由来の物質であるところ,グルパール19Sと小麦タンパク質との間に交叉抗原性が存在し得ないということはできない。したがって,本件石鹸引渡当時,グルパール19Sに 感作した者が,交叉反応を起こして,小麦アレルギーを発症することを認識できなかったということはできない。 オ前記認定の知見によれば,本件アレルギー以前より知られていた小麦アレルギーは,全身性の膨疹(蕁麻疹)を生じ得,ショック症状もしばしば誘発し得るもので,その多くが運動誘発性アレルギーであった。これらの 事情に照らせば,本件石鹸引渡当時,グルパール19Sに感作した後,交叉反応を起こして,相当程度の割合でアナフィラキシーないしアナフィラキシーショックを引き起こす小麦依存性運動誘発性アレルギーを発症し得ることを認識することができなかったということはできない。 カ結局,以上を総合すれば,本件石鹸引渡当時,本件石鹸の欠陥を認識す ることができなかったとはいえないから,本件石鹸の欠陥につき,開発危険の抗弁が認められるということはできない。 被告フェニックスらの主張についてア被告フェニックスらは,アレルギーは遺伝的・環境的要因が影響するため,どのような物質がアレルゲンとなるのか,どのような交叉反応が生じ るかを事前に予測することはできず,本件石鹸引渡当時,原告らに本件ア レルギーが発症するのを予見することは到底できなかった旨主張する。 ある物 か,どのような交叉反応が生じ るかを事前に予測することはできず,本件石鹸引渡当時,原告らに本件ア レルギーが発症するのを予見することは到底できなかった旨主張する。 ある物質のアレルゲン性の有無及びアレルギー発症後の交叉反応の有無について具体的,定量的に予測できないことは,前記認定した知見のとおりである。しかしながら,開発危険の抗弁が認められるためには,本件石鹸を引き渡した当時,当該欠陥(アレルギーの発症及びその交叉反応性も 含む。)を認識できなかったことが証明されなければならないが,同知見に基づいても,グルパール19Sに経皮経粘膜的に感作し,交叉反応を起こして,食物依存性運動誘発アナフィラキシーを発症し得る経口小麦アレルギーを発症することが認識できなかったとはいえないことは,前記認定のとおりである。 イ被告フェニックスらは,前記認定した知見の各症例報告について,感作経路が特定されていない症例であったり,アトピー性皮膚炎を発症している患者についての症例であったりしており,これらの症例報告をもって加水分解コムギ末が経皮経粘膜による感作能を有するとの知見が存在したということはできない旨主張する。 しかし,当該各症例報告について,加水分解コムギが配合された化粧品がクリーム類であることを考慮すると,加水分解コムギが主として経皮経粘膜により感作した症例に関する報告であると推認することができるし,また,皮膚のバリア機能に関していえば,前記認定のとおり,アトピー性皮膚炎があることにより皮膚の透過率は正常者の1.5倍程度になるのに とどまるのであって,アトピー性皮膚炎であることが,経皮感作の主たる要因となるとは解されない。これら症例報告を総合すれば,加水分解コムギが経皮経粘膜 の透過率は正常者の1.5倍程度になるのに とどまるのであって,アトピー性皮膚炎であることが,経皮感作の主たる要因となるとは解されない。これら症例報告を総合すれば,加水分解コムギが経皮経粘膜による感作能を有するとの知見が存在したということができる。当該症例報告に係る知見は,プリックテストや血液検査等によって裏付けがされた報告であり,複数の大学や研究機関に所蔵される文献に 掲載されたものであるから(甲B35,B36),開発危険の抗弁の成否 に関し考慮すべき知見である。 ウさらに,被告フェニックスらは,加水分解コムギ末で感作した後,小麦の経口摂取によるアレルギーを発症した例がないこと,加水分解コムギ配合の化粧品等を使用した結果,加水分解コムギアレルギーを発症した症例は存在するものの,その者らは小麦を経口摂取してもアレルギー反応を示 さなかったことから,加水分解コムギと小麦との交叉反応性は認識することができなかった旨主張する。 しかし,前記認定した知見によれば,本件石鹸引渡当時,加水分解コムギが配合された眼瞼クリーム・保湿ボディクリームを使用した者が加水分解小麦アレルギーに罹患し,その後のプリックテストで小麦グルテンに対 して陽性反応を示し,特異的IgE抗体値検査で小麦及びグルテンのいずれについても陽性であった症例が存在することが知られていた。当該症例では,パンや菓子等の穀物ベースの製品を食べても症状はなかったのであるが,当該症例報告をもって,加水分解コムギに感作した後経口小麦アレルギーを発症しないとの知見が存在したということはできない。むしろ, 当該症例は,小麦グルテン等に対してアレルギー陽性反応を示しているのであって,加水分解コムギ感作後に経口小麦アレルギーを発症し得る可能性を いとの知見が存在したということはできない。むしろ, 当該症例は,小麦グルテン等に対してアレルギー陽性反応を示しているのであって,加水分解コムギ感作後に経口小麦アレルギーを発症し得る可能性を示唆していると理解すべきである。当該症例報告に係る知見が開発危険において考慮すべき知見といえることは,前記イのとおりである。 エ被告フェニックスは,本件アレルギーのアレルゲンであるグルパール1 9Sについて,本件石鹸によるアレルギー被害が発覚するまで,安全であるとの経験知が存在しており,実際に,グルパール19Sをアレルゲンとする重篤なアレルギー被害が報告されることはなかった旨主張する。 しかし,本件全証拠に照らしても,本件石鹸引渡当時,グルパール19Sが本件アレルギーのようなアレルギーのアレルゲンたり得ないとの知 見が存在していたと認めることはできない。前記認定した知見のとおり, 食物アレルギーのアレルゲンの分子量は,1万ダルトンから7万ダルトンのものが多く,グルパール19Sの分子量も平均分子量五,六万ダルトンとアレルゲン性を有し得る分子量であったことに加え,海外では,加水分解コムギを配合した化粧品による加水分解小麦アレルギー発症が報告されていたのであって,むしろ当時の知見を総合すれば,グルパール19S はアレルゲン性を有し得る成分と認識することができたといえる。 オそして,開発危険の抗弁における知見は,生じた事象そのものの知見であることを必要としないところ,開発危険の抗弁に係る被告フェニックスらのその余の主張は採用できない。 カ以上によれば,本件石鹸に係る欠陥について,被告フェニックスらの開 発危険の抗弁は採用できない。 4 グルパール19Sの欠陥の有無(争点3) その余の主張は採用できない。 カ以上によれば,本件石鹸に係る欠陥について,被告フェニックスらの開 発危険の抗弁は採用できない。 4 グルパール19Sの欠陥の有無(争点3) 考慮要素前記前提事実及び認定事実,証拠(乙ロA45(枝番を含む。),ロA48,ハA137,ハA139の1ほか後掲)並びに弁論の全趣旨によれば, グルパール19S等に関し,以下の事実等が認められる。 ア製品の特性 グルパール19Sの開発(甲A28・51頁,乙ハA31,A137・1,2頁)被告片山化学は,食品工場のボイラで使用できる耐熱性の強いスケー ル(水あか)防止剤の開発に際し,小麦グルテンが,スケール防止剤として用いられているポリカルボン酸系の重合物と類似の構造を持っており,他のタンパク質に比べ,グルタミン酸残基等の酸性アミノ酸が多く含まれていること(約40%)に着目した。しかし,小麦グルテンは水に溶解せず,そのままでは水に溶解して用いるスケール防止剤としての 効果が期待できないことから,小麦グルテンを部分的に分解することに より溶解性を向上させ,スケール防止剤として用いることができないか試みた。その過程で,小麦グルテンを,酸分解,アルカリ分解,酵素分解等の各種加水分解したところ,分解条件や分解方法の組み合わせにより,粒子分散効果やスケール防止効果に優れたもの,乳化安定性,保水性,表面張力の低下,小麦グルテンの分散力等の効果を持ったもの等, それぞれ異なった性質・特徴を持つ物質を得ることができた。 被告片山化学は,これら部分分解による小麦グルテンが,食品である小麦の分解物という性質上,当初想定していたスケール防止剤だけでなく,加工食品の乳化分散及び品質改良剤,食品・食器の洗浄 きた。 被告片山化学は,これら部分分解による小麦グルテンが,食品である小麦の分解物という性質上,当初想定していたスケール防止剤だけでなく,加工食品の乳化分散及び品質改良剤,食品・食器の洗浄剤としても利用可能性があると考え,平成元年ころ,当該分解物を食品分野で用い ることができる物質として開発し,「グルパール」と名付けた。同商品には,標準品として,乳化力及び粒子分散力に富むグルパール19,グルテン改質に効果的なグルパール26,乳化力に富むグルパール32,表面張力低下能及び粒子分散に有効なグルパール46がある。その後,被告片山化学は,グルパールの研究・開発を進める中で,乳化力及び乳 化安定性をグルパール19と同等に保ちつつ,塩分を少なくした分解物の調製に成功し(塩分が少ない方が汎用的である。),これを「グルパール19H」として販売を開始した。その後,被告片山化学は,保湿性の高いグルパール19を化粧品に活かせないか検討し,その結果,グルパール19Hに「グルパール19S」という名称を付し,化粧品原材料 として商品化することとした。 グルパール19S(グルパール19H)の性質,用途等グルパール19S(グルパール19H)は,水や塩酸を入れて撹拌するなどした後,加熱して40分間酸分解し,冷却して水酸化ナトリウムを投入して等電点沈殿をさせ,上澄み液を分離するなどの脱塩処理をし, 水酸化ナトリウムで中和させるなどの中和処理をして,スプレードライ ヤーにより粉末化して生成される(乙ハA127ないし130)。グルパール19Sを含むグルパールシリーズは,食品や化粧品・医薬部外品,洗剤等に配合するなど,他の製造物等の原材料として,その製造物に配合して使用される。 被告片山化学は,乳化力及 いし130)。グルパール19Sを含むグルパールシリーズは,食品や化粧品・医薬部外品,洗剤等に配合するなど,他の製造物等の原材料として,その製造物に配合して使用される。 被告片山化学は,乳化力及び粒子分散力に富み,保水力や吸湿性を有 するグルパール19Sを乳化力や保水力が求められるハムやソーセージ,乳化の安定性や泡立て時の起泡性の向上等が求められるホイップクリームや高温での乳化の安定性やフェザリング(タンパク凝集物が浮く現象)の防止が求められるコーヒークリーム等のクリーム類,耐酸性や,耐塩性,加熱耐性,冷凍耐性が求められるドレッシング類等への用途に適し ているとして売り出した(甲A28)。そして,平成5年から平成23年までの間,食品メーカーに対し,グルパールシリーズを合計97万3596kg販売した(乙ハA13)。 被告片山化学は,グルパール19Sにつき,開発後平成22年8月の引渡し終了までの間仕様変更しなかった(乙ハA127ないしA130)。 グルパール19S含有製造物グルパール19Sは,本件石鹸以外の以下の化粧品及び医薬部外品(本件石鹸含め,合計35商品)にも配合されていた(乙ハA18)。 化粧品:アルケー,梅の花化粧石鹸,FY石鹸,AUサボンクリア,LVJフェイシャルソープ,花蜜精はちみつクレンジングソープ,蔵人 純米ソープ,クルクベラサボンクリア,クレンジングソープPF,化粧石鹸LH,化粧石けんAB,化粧石けんHEP,化粧石けんHN,化粧石けんKI-5,化粧石ケンOB,化粧石けんSD,サヴォンアンベリール,サヴォンアンベリールノワール,ジュエリエクレンジングパーフェクトソープ,ジュエリエⅡクレンジングパーフェクトソープ,洗顔ソ ープT-1,洗 石ケンOB,化粧石けんSD,サヴォンアンベリール,サヴォンアンベリールノワール,ジュエリエクレンジングパーフェクトソープ,ジュエリエⅡクレンジングパーフェクトソープ,洗顔ソ ープT-1,洗顔ソープT-5,ハイサイスキンケアソープEX,はち みつクレンジングソープP,フェイスソープFT,フェイスソープFT-1,ペーアッシュスタイリングフォーム,ベル・ジュバンススタイリングフォーム,抹茶石鹸医薬部外品:薬用石けんTR-5,薬用スキンケアソープTR-4,薬用ドライスキンクリームRF,レイミーソープ 株式会社リアルは,平成3年3月7日,厚生労働省に対し,薬事法に基づき,グルパール19Sを配合した医薬部外品(商品名「ショーワスベットスクラブクリーム」)の製造承認申請をし,同年12月1日同承認を受けた。このとき,被告片山化学は,同承認申請に関与したことはなく,株式会社リアルにグルパール19Sの安全性試験データを提供す ることもなかった。 グルパール19S含有製造物による被害報告前記認定のとおり,原告らは,本件石鹸を使用する中で,本件石鹸に配合されているグルパール19Sに経皮経粘膜的に感作して,交叉反応を起こして,小麦依存性運動誘発性アレルギーを引き起こした。グルパ ール19Sは,本件アレルギーの原因物質であった。 ケアソープTR-4は,被告フェニックスがグルパール19Sを0.3%の濃度で配合して製造し,エモテント社が「渋の泡」石鹸として販売する石鹸であり,被告フェニックスは,平成21年2月13日から平成2 3年4月20日までの間,エモテント社に対し,同石鹸を,合計170万個以上納入したが,同製造物に関しては,厚生労働省に対する健康被害の発生報告はない( クスは,平成21年2月13日から平成2 3年4月20日までの間,エモテント社に対し,同石鹸を,合計170万個以上納入したが,同製造物に関しては,厚生労働省に対する健康被害の発生報告はない(乙ハA19)。また,本件石鹸以外の加水分解コムギを含有する製品によって,小麦アレルギーを複数人が発症したという報告は見当たらない(乙ハA36・3頁)。本件石鹸以外のグルパー ル19Sを配合した製品によって小麦アレルギーを発症した者は,2品 目につき各1例ずつであり,本件石鹸による被害に比して極めて少なかった(甲B60,64)。 また,グルパール19Hに関し,その新規感作により小麦アレルギーを発症したとの報告は見当たらない。 グルパール19Sの感作能 グルパール19Sは,両性界面活性剤としての機能を有する(乙ロA27・8頁)。 グルパール19Sが本件アレルギーの原因物質となった理由について,本件アレルギー患者の血清中のIgEは,加水分解コムギの大きいタンパク質に強く結合する傾向があること,グルパール19Sは,グルテン を酸処理で部分加水分解したもので,分子量が1万以上と大きかったことから,不完全な分解により高分子量タンパク質を含むグルパール19Sが産生され,アレルゲン性を獲得した可能性があるとの研究報告がある(甲B45・3頁,B37・4頁)。また,酸処理で加水分解をすると,グルテン,特にγ-グリアジンの脱アミド化(アミドが有機化合物 から取り除かれる反応)が生じ,高いIgE結合性活性をもつグルタミン酸に置き換わった可能性があるとの報告,ヒトは小麦を体内で脱アミド化しているが,これにより,口に入れるときは抗原性が低い小麦食品について,体内で脱アミド化修飾を受け IgE結合性活性をもつグルタミン酸に置き換わった可能性があるとの報告,ヒトは小麦を体内で脱アミド化しているが,これにより,口に入れるときは抗原性が低い小麦食品について,体内で脱アミド化修飾を受けて,グルパールと相同性の高い物質に変化して抗原性(誘発能)を獲得し,アレルギー症状を誘発する ものと考えられるとの報告がある(甲B47・4,5頁)。そして,界面活性剤を含む洗顔料に,界面活性作用を持つ乳化剤であるグルパール19Sを配合したことにより,皮膚バリアを破壊し透過しやすくなり,特に,顔面は角質が薄くバリア機能が低下しやすく,脂腺が発達しており,経皮吸収能が高い上,本件石鹸は粘性が高く泡立ちが良い石鹸であ って,皮膚に接触する時間が長く,本件石鹸を洗顔石鹸として連日の複 数回にわたる洗顔をしたために,抗原曝露が繰り返され,経皮経粘膜感作が成立したと考えられるとの報告がある(甲B38・87頁,B45・3頁)。 グルパール19Sの経皮感作能に関する実験として,マウスの背中を剃毛し,セロハンテープで角層をはく離した後,グルパール19S又は グルテンの懸濁液を貼付し,0.5%ラリウル硫酸ナトリウム(SDS,陰イオン性界面活性剤の一つ)添加群及び非添加群とを比較したところ,グルテンについては,SDSを添加した群では特異的IgE抗体の産生がみられ,SDSを添加しなかった群ではIgE抗体の産生がみられなかったが,グルパール19Sで感作した群では,SDS添加の効果はみ られなかった(甲B63)。 グルパール19Sの表示被告片山化学は,平成2年8月30日,グルパール19Sの販売促進のため,購入を検討する相手に配布する資料として,グルパール19Sの技術資料を作成した(乙ロA24)。同資料には, の表示被告片山化学は,平成2年8月30日,グルパール19Sの販売促進のため,購入を検討する相手に配布する資料として,グルパール19Sの技術資料を作成した(乙ロA24)。同資料には,①グルパール19 Sが乳化力,保湿性に優れた小麦タンパク分解物であり,グルパール19をさらに精製して得られたタンパク質素材であるとして,化粧品の分野で安心して使用できること,②安全性データとして,グルパール19Sは食品衛生法上の「食品」から作られたものであり,化粧品に用いる場合,類似の化合物に使用前例があり,化粧品用基剤としての利用が見 込めること,③O/W比(油と水の比率)=30/70,ホモミキサー10分混合で24時間後の各種脂油に対する乳化力としては,流動パラフィンについては添加濃度3.0%以上,中鎖トリグリセリドについては添加濃度1.0%以上,セチルイソオクタノエートについては添加濃度1.0%以上で均一に乳化すること,④ハンドクリームに配合してモ ニター試験をしたところ,使用後にしっとりするという評価が得られた ことが記載されていた。②の使用前例とは,平成元年ころ,一丸ファルコス株式会社が開発した加水分解コムギである「グルアディンAGP」の使用前例を指す(乙ロA26,ハA139の1・18頁)。 被告片山化学は,平成3年6月1日,前記技術資料と同じ目的で, グルパール19シリーズに係る技術資料を作成した(乙ロA25)。同資 料には,①グルパール19は,平均分子量数万のポリペプタイドであり,乳化及び乳化安定力,保水力,個体粒子の分散力等を特徴とすること,②グルパール19シリーズには,グルパール19,19D,19H,19S,19M,19N,19Rが存在すること,③グルパール19シリーズは,液中濃 安定力,保水力,個体粒子の分散力等を特徴とすること,②グルパール19シリーズには,グルパール19,19D,19H,19S,19M,19N,19Rが存在すること,③グルパール19シリーズは,液中濃度0.3%程度で十分な乳化力を発揮し,乳化の安定性 も良好であること,④ショ糖脂肪酸エステル等に比べ,耐塩性,耐熱性に優れ,耐酸性,耐冷凍性を有していること,⑤安全性として,グルパール19シリーズは食品衛生法上の「食品」であり,また食品添加物や既存化学物質としても登録されているものであり,化粧品に使用する場合は別紙規格で申請することになるが,すでに申請中であり,化粧品, 医薬部外品としての利用も可能であることが記載されていた。「別紙規格」(「別紙」とのみいうこともある。)とは,使用(承認)前例のない成分(公定書に収載されていない成分)を配合した化粧品及び医薬部外品については,薬事法上の規定に基づき,安全性に関する資料等を付して承認申請する必要があるが,その申請に係る添付資料である。なお, グルパール19Sは,厚生労働大臣が食品衛生法11条に基づき指定する指定添加物には該当せず,その製造に当たって安全性試験を実施する必要はない。既存化学物質についても,既存化学物質名簿への掲載に際し,法律上(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)安全性試験の実施は求められていない。 被告片山化学は,平成7年11月ころ,グルパールのパンフレットを 作成した(乙ハA39)。同パンフレットには,グルパールが,現代の消費傾向の大きな潮流である「安全性」をクリアした天然素材であること,ハム等の食肉加工品にも安心して使用できること,グルパール19Sの主な用途は化粧品用精製品であり,使用前例があることが記載されていた。 向の大きな潮流である「安全性」をクリアした天然素材であること,ハム等の食肉加工品にも安心して使用できること,グルパール19Sの主な用途は化粧品用精製品であり,使用前例があることが記載されていた。使用前例は,株式会社リアルのショーワスベットスクラブクリ ームのことであった。また,被告片山化学は,平成9年6月30日,篠永化成を通じて,被告フェニックスに対し,グルパール19Sの使用前例とは,平成3年12月1日に株式会社リアルが製造販売承認を得た医薬部外品(薬用化粧品)の前記クリームである旨伝えた(乙ハA40,41)。 被告片山化学は,平成10年7月7日,被告フェニックスに対し,「グルパール19Sのシャンプー・リンスへの利用について」と題する資料を作成して提供した(乙ロA23)。同資料には,①グルパール19Sは,粧外規に記載されている加水分解コムギ末に相当すること(規格内),②アイライナー,口紅リップクリーム及び歯磨き以外の製品に使用でき る素材であり,シャンプー及びリンスにも使用できること,③乳化,保湿,触感改良の効果を有しており,化粧石鹸のひび割れ防止や泡の改良効果もこれらの基礎性能が関与していることが記載されていた。 被告片山化学は,同年10月9日,グルパール19Sに関し,製品安全データシートを作成し(乙ハA4),このころ,被告フェニックスに 対して同資料を交付した。同資料には,有害性情報として,刺激性に関し,皮膚や目に付着した場合刺激を起こすことがあること,感作性に関し「データなし」であること,危険性及び有害性について,「なし」としながら,その評価は必ずしも十分ではないことが記載されていた。 被告片山化学は,平成16年8月1日,グルパール19Sの販売促進 のため こと,危険性及び有害性について,「なし」としながら,その評価は必ずしも十分ではないことが記載されていた。 被告片山化学は,平成16年8月1日,グルパール19Sの販売促進 のための配布資料として,「グルパール19S(化粧品・食品用)技術 資料」と題する資料を作成した(乙ロA27)。同資料には,①グルパール19Sの特徴は,乳化力が強く,乳化安定性,保湿性が高く,たんぱく質素材で安全性が高いこと,水溶性であること,②グルパール19Sは,粧外規1993追補に記載されている加水分解コムギ末に相当すること,③実績・実施例として,グルパール19Sを原料に対して0. 5%添加することで化粧石鹸のひび割れ防止の問題が解決できたこと,ひび割れ防止の他にも,泡の状態が良いなどの効果もあること,リンスインシャンプー等へは,添加量0.3%でリンス効果が高くなり,櫛通りが改善できたことが記載されていた。 被告片山化学は,平成19年11月7日,被告フェニックスに対し, グルパール19Sは外原規2006に定められる加水分解コムギ末の規格基準に適合する旨通知した(乙ロA6)。 イ通常予想される使用形態前記認定のとおり,被告フェニックスは,乳化力及び保湿力等の特性を理解した上,石鹸のひび割れ防止や泡の改良を期待して,グルパール19 S0.3%を本件石鹸に配合した。 ウ引き渡した時期 前記認定のとおり,悠香は,平成18年9月ころから平成22年9月までの間,本件石鹸を購入者に引き渡しており,被告片山化学も,同じころ,グルパール19Sを被告フェニックスに対して引き渡した(ただ し,終期は平成22年8月。乙ハA5)。 科学・技術水準前記認定の しており,被告片山化学も,同じころ,グルパール19Sを被告フェニックスに対して引き渡した(ただ し,終期は平成22年8月。乙ハA5)。 科学・技術水準前記認定のとおり,被告フェニックス及び悠香は,平成22年9月,本件石鹸含有成分をグルパール19Sから別の加水分解コムギ末(プロモイスWG-SP)や加水分解シルクに変更した。すなわちグルパール 19S引渡当時,乳化力や保湿性,泡の改良等に関し,グルパール19 Sと同程度の成分が他に存在した。ただし,本件アレルギー発症につき,グルパール19Sの構造,分子量等の何がどの程度関与したのか,グルパール19S以外の本件石鹸成分がどのように,またどの程度関与したかといった機序については,分子量や脱アミド化が感作性の発現に一定程度関与していると考えられているものの,現時点においても未だ明ら かではない。 エ被告片山化学と被告フェニックスとのやり取り等 被告フェニックスは,被告片山化学に対し,平成11年6月9日ころ,リンスインシャンプーやボディシャンプーにグルパール19Sを配合した場合の効果を教えてもらいたい旨伝え,平成14年7月17日ころに は,人体の皮膚や髪の毛,豚の皮等を使用したグルパール19Sの化粧品用途での試験を被告片山化学でできないか質問した。これに対し,被告片山化学は,化粧品に関してノウハウを有しておらず,試験方法が分からないため,回答できない旨答えた。被告フェニックスは,被告片山化学に対し,これらの試験等を被告フェニックスですることを伝えた。 薬事法上の規定及び規制医薬部外品の製造販売をしようとする者は,厚生労働省令の定めるところにより,申請書に臨床試験の試験成績に関する ニックスですることを伝えた。 薬事法上の規定及び規制医薬部外品の製造販売をしようとする者は,厚生労働省令の定めるところにより,申請書に臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料を添付して申請し,品目ごとに厚生労働大臣の承認を受けなければならない(薬事法14条1項及び3項)。また,医薬部外品について前記添付 しなければならない資料とは,①起源又は発見の経緯及び外国における使用状況等に関する資料,②物理的化学的性質並びに規格及び試験方法等に関する資料,③安定性に関する資料,④安全性に関する資料,⑤効能又は効果に関する資料であるが,合理的理由がある場合にはその資料を添付することを要しない(薬事法施行規則40条1項3号,同条2項)。 ここにいう安全性に関する資料とは,単回投与毒性試験,皮膚一次刺激 性試験,連続皮膚刺激性試験,皮膚感作性試験,光毒性試験,光接触感作性試験,眼刺激性試験,遺伝毒性試験,パッチテストの9つの試験項目に関する資料である(乙ロA29,32)。さらに,昭和55年5月30日薬発第700号各都道府県知事あて厚生省業務局通知である「医薬部外品等の製造又は輸入の承認申請に際し添付すべき資料について」 第二は,申請に係る医薬部外品の内容に応じ資料の添付を省略することができるなどと規定する。これらを受けて,厚生労働大臣(実際の審査業務はPMDAが担当)は,当該申請に係る事項が医学薬学上公知であると認められる場合その他資料の添付を必要としない合理的理由がある場合には,その資料の添付を要しない扱いとしている。具体的には,製 造販売予定の医薬部外品について,その製造業者が,医薬部外品に配合する原材料に使用(承認)前例があると説明した場合,厚生労働省は,その使用(承認) 付を要しない扱いとしている。具体的には,製 造販売予定の医薬部外品について,その製造業者が,医薬部外品に配合する原材料に使用(承認)前例があると説明した場合,厚生労働省は,その使用(承認)前例が確認できれば,それ以上に当該原材料についての安全性資料を要求しない通例となっていた(乙ハA122)。そして,厚生労働省は,その使用(承認)前例の確認に際し,①配合する製品の カテゴリーにおいて,その原料を配合した申請を承認したことがあるか,②配合する原料規格を承認したことがあるか,あるいは承認したことがある原料の規格と同等の規格とみなすことができるか,③配合する原料の配合量を承認したことがあるか,あるいは承認したことがある配合量を踏まえ,安全性上問題がない配合量と判断されるかを確認していた(乙 ロA46(枝番を含む。))。ただし,使用(承認)前例がない原材料を配合した化粧品・医薬部外品について,必ずしも原材料それ自体の安全性試験が求められるわけではなく,当該原材料を配合した化粧品や医薬部外品に係る安全性試験資料をもって足りる場合があった(乙ハA140)。 厚生労働省(当時は厚生省)は,化粧品の許可事務の簡素合理化のた めに,昭和42年8月に,承認を必要としない化粧品に配合可能な原料を記載した「化粧品原料規準」(粧原基)を,昭和61年7月に,化粧品を種別に分類し,その種別ごと(石鹸,シャンプー等)に承認を必要としない化粧品に配合可能な原料を記載した「化粧品種別許可基準」(昭和61年7月29日薬審2第678号厚生省薬務局審査第二課長・監視 指導課長通知「化粧品製造(輸入販売)業の許可申請等について」別紙)を,平成5年10月に,同種別許可基準の改定に伴い「化粧品原料規準外成分規格」(粧外規。後 8号厚生省薬務局審査第二課長・監視 指導課長通知「化粧品製造(輸入販売)業の許可申請等について」別紙)を,平成5年10月に,同種別許可基準の改定に伴い「化粧品原料規準外成分規格」(粧外規。後に名称を「化粧品種別配合成分規格」(粧配規)と改める(乙ロA2・4頁)。)を定め,また,医薬部外品の承認申請実務の便宜を考慮して,平成3年5月に,別表Ⅰに主に医薬部外品 の有効成分(薬事法59条7号),別表Ⅱにその他の成分を定めた医薬部外品原料規格(旧外原規)を定め,その後,平成18年3月31日,粧原基,粧配規及び旧外原規をまとめたものとして,「医薬部外品原料規格2006」(外原規)を定めた(乙ロA4)。化粧品や医薬部外品の原材料が,粧外規,粧配規,外原規等へ収載されるためには,厚生労 働省が,化粧品や医薬部外品の製造業者・輸入業者に対して収載を希望する原料を募集し,応募があった成分につき使用前例(承認前例)を確認できることが必要であった。ただし,その際,厚生労働省は,当該原料に係る承認前例につき,実際に製品に使用されたか否か,その商品が市場に流通したか否かを確認せず,また当該原料に係る安全性試験を求 めることもしなかった(乙ロA46(枝番を含む。),ハA122)。 また,厚生労働省は,平成20年3月27日,各都道府県衛生主管部(局)長に宛てて,医薬部外品の添加物について,医薬部外品の種類ごとに配合前例を示した「医薬部外品の添加物リストについて」と題する通知を発出した(乙ロA40)。同通知では,「添加物を配合した際の 製品の安全性については,別途申請者において十分に確認すること」が 求められていた。 化粧品・医薬部外品の製造業者と原材料製造業者との関係性 外品を製造販 製品の安全性については,別途申請者において十分に確認すること」が 求められていた。 化粧品・医薬部外品の製造業者と原材料製造業者との関係性 外品を製造販売するためには,厚生労働大臣の承認が必要であり,その申請に当たっては,原材料も含めて,自ら安全性に関する資料を添付す る必要があった。そして,厚生労働省は,当該原料について安全性等を確認する必要があると考えた場合には,直接原料の製造業者に連絡するのではなく,化粧品・医薬部外品の製造業者を通じて,原料の製造業者に確認していた(乙ハA140の1)。 また,原材料製造業者は,自らその原材料について安全性試験をする こともあったが(乙ハA122・9頁),一部の安全性試験については実施せず,その旨を示すために,当該原材料の安全性データシートに当該試験に関し「データなし」などと記載することがあった(乙ロA26・16,17頁,ハA144ないし151(いずれも枝番を含む。))。 それゆえ,化粧品・医薬部外品の完成品製造業者が,自ら同化粧品・医 薬部外品に係る安全性試験を実施することがあった(乙ロA7,8)。 加水分解コムギ末の公定書への収載平成6年3月,加水分解コムギ末が粧外規に収載された。その収載過程で,被告片山化学が,厚生省に,グルパール19Sの安全性に関する資料を提出したことはなかった。その後,加水分解コムギ末は,平成1 8年3月の粧配規の廃止に伴い,外原規に移行して収載されたが,その際も,被告片山化学は,厚生労働省に,グルパール19Sの安全性に関する資料を提出したことはなかった。 グルパール19Sの欠陥アグルパール19Sは,本件石鹸に配合され,本件石鹸が洗顔等に使用さ 化学は,厚生労働省に,グルパール19Sの安全性に関する資料を提出したことはなかった。 グルパール19Sの欠陥アグルパール19Sは,本件石鹸に配合され,本件石鹸が洗顔等に使用さ れることで,その使用者に経皮経粘膜的に感作を生じさせ,即時型の経口 小麦アレルギーを発症させることは前記認定のとおりである。そして,被告片山化学が,グルパール19Sにつき,石鹸に0.5%配合した場合には割れの問題を解決できることを表示していた以上,本件石鹸に0.3%配合して使用したことは,通常予見できる使用形態であったといえる。 一方,グルパール19Sが同じ量配合された化粧石鹸「渋の泡」につい ては,その使用者が本件アレルギーを含む即時型の経口小麦アレルギーを発症したとの報告がなく,その使用により本件アレルギーあるいはこれに類するアレルギーを発症したことはなかったと推認される。その他,グルパール19Sが配合された化粧品・医薬部外品については,その使用者が小麦アレルギーを発症した件数は2品目に1件ずつのみで,本件石鹸の被 害に比して極めて少ない。また,加水分解コムギ末は,遅くとも平成元年ころから使用されているものであるが(グルアディンAGP),その全てが化粧石けんに配合されたわけではない。 イグルパール19Sは,シャンプーやリンス等の化粧品・医薬部外品に配合される原材料としてだけでなく,ハムやソーセージ,クリーム,ドレッ シング等の食品や,食器用洗剤等に配合する原材料としても使用される上,別の成分等と組み合わせて使用されるものであり,グルパール19Sが使用される完成品や,完成品にともに配合される成分等は,極めて広範に及ぶ。そのような原材料の製造業者において,その原材料が使用される可能性がある全ての完成 て使用されるものであり,グルパール19Sが使用される完成品や,完成品にともに配合される成分等は,極めて広範に及ぶ。そのような原材料の製造業者において,その原材料が使用される可能性がある全ての完成品(完成品にともに配合される成分等)を想定して, その用途全てにおいて安全性を確保した原材料を作ることは極めて困難である。被告片山化学も含め,原材料製造業者は,製造した原材料につき,完成品製造業者に対し,感作性試験を含む安全性試験を実施していないことを製品安全データシートに記載して,当該原材料を販売することが往々にしてあった。そして,グルパール19Sを使用するのは,完成品製造物 に関して専門的知識・経験を有する製造業者であり,一般消費者がグルパ ール19Sそれのみを完成品として使用することはない。 被告片山化学は,石鹸等製造の専門業者である被告フェニックスに対し,グルパール19Sを販売するに当たって,平成2及び3年に作成したグルパール19Sの性質・特徴が記載された技術資料を交付し,平成10年に感作性試験は実施していないためデータがなく,危険性・有害性の評価は 十分でない旨記載した安全性データシートを交付した。被告片山化学は,原材料製造業者として,グルパール19Sの具体的な構造,性質,特徴及びグルパール19Sに関して被告片山化学が認識した諸事情を表示したものということができる。この点に関し,被告片山化学が,グルパール19Sが感作性を有しないなどとしてグルパール19Sの安全性を保証し たり,虚偽の説明をしたりしたことを認めるに足りる証拠はない。 ウ以上の諸事情を総合するとグルパール19Sには欠陥があったということはできないというべきである。 原告の主張に対する判断ア原告は,被 ことを認めるに足りる証拠はない。 ウ以上の諸事情を総合するとグルパール19Sには欠陥があったということはできないというべきである。 原告の主張に対する判断ア原告は,被告片山化学が,被告フェニックスに対し,グルパール19S の安全性を強調した指示警告上の欠陥があった旨主張する。 前記のとおり,被告片山化学は,被告フェニックスに対し,グルパールが外原規等に収載されていること,グルパール19S及び類似化合物に使用(承認)前例があることなどを説明した。しかしながら,同各説明はグルパールをめぐる客観的な事実の告知であって,それ自体誤りではない。 そして,使用(承認)前例があるとの説明は,直ちに,当該原材料そのものの安全性試験を実施したことを意味するものでなく,外原規等の記載に照らせば,使用(承認)前例の確認対象となる成分は,グルパール19Sそのものではなく,これを含む加水分解コムギ末であると考えられるところ,加水分解コムギ末に係る使用(承認)前例があることが,直ちにグル パール19Sの安全性を保証するものと解することはできない。公定書に 収載されている成分であるとの説明についても同様である。厚生労働省は,配合前例のある添加物についても,別途承認申請者がその安全性を確認することを求めていた。また,グルパール19Sが食品添加物や既存化学物質として登録されているとの説明は,グルパール19Sにつき安全性試験を実施したことを示すものではない。以上によれば,被告片山化学の被告 フェニックスに対する前記各説明がそのまま,グルパール19Sの安全性を保証する趣旨のものであったとは認められない。 イ原告は,グルパール19Sにつき,酸加水分解が十分にされなかったためにグルテンにおける感 する前記各説明がそのまま,グルパール19Sの安全性を保証する趣旨のものであったとは認められない。 イ原告は,グルパール19Sにつき,酸加水分解が十分にされなかったためにグルテンにおける感作性を維持し,また脱アミド化により親水性等を高めたために,グルテンに比して感作能が増強し,界面活性剤を添加せず とも単体で経皮感作能を有するに至ったなどとして,その危険性の高さから欠陥があったというべきである旨主張する。 しかし,グルパール19Sにつき,本件石鹸以外の完成品にも添加されたことがあるにもかかわらず,「渋の泡」石鹸も含め,アレルギー被害を発症していない製品が数多く存在することは前記認定のとおりであると ころ,グルパール19Sがどのような化粧品・医薬部外品に対しても配合の許されない危険な成分であると断定することはできない。 ウそのほかグルパール19Sの欠陥を認めるに足りる証拠はない。 5 欠陥により原告らが受けた損害の有無及び範囲(争点5) 損害の発生 前記認定のとおり,本件石鹸によるアレルギー確実例は平成26年10月20日時点で2111名であったが,特別委員会が患者問診票を分析した254例については,本件アレルギーに罹患した者のうちアナフィラキシーに至った者の割合は50%を超え,アナフィラキシーショックに至った者も約25%存在した。原告らを含む本件アレルギー罹患者全体においても,その 割合は大きくは異ならないと考えられる。 詳細な認定は別紙2(各論)のとおりであるが,本件原告ら(17名)のほぼ全員が,顔の腫れなどの皮膚症状が生じただけでなく,グルパール19Sによる感作後の交叉反応で小麦摂取及び運動等により,原告らのうち4名にアナフィラキシーショックが,ま が,本件原告ら(17名)のほぼ全員が,顔の腫れなどの皮膚症状が生じただけでなく,グルパール19Sによる感作後の交叉反応で小麦摂取及び運動等により,原告らのうち4名にアナフィラキシーショックが,また8名に全身の蕁麻疹が生じたほか,嘔吐の症状のあった者が2名,急激な血圧の低下の見られた者が3名あった。 原告らの現在の症状本件アレルギーを発症した結果,原告らが,身体,健康の被害を受け,日常生活,社会生活上の制約を受けるなどし,身体の苦痛のみならず,精神的苦痛を受けたことは明らかである。しかし一方で,本件アレルギーは,通常の小麦アレルギーと異なり,寛解,治癒に向かう傾向が認められる。具体的 には以下のとおりである。 ア特異的IgE抗体価の減少平成24年ころ,特別委員会委員長であるTがグルパール19Sに感作した患者のグルテン,小麦及びグルパール19S特異的IgE抗体価を調査した範囲では,グルテン,小麦についてはほぼ全例で減少しており,藤 田保険衛生大学の扱った122の症例で,グルパール19S特異的IgE抗体価の平均半減期は5.1か月であった(乙ロB3・167頁,B4,乙イ総C1・17枚目,乙イC2)。 一般的に,小麦・グルテン特異的IgE抗体価の高低と即時型小麦アレルギー症状誘発の有無とは必ずしも対応,相関するものではないが,多数 の症例でみるとマクロ的な対応関係があることは否定できない(甲B45・1877頁,B47・9頁,乙ハB10・6頁)。 イ小麦摂取の再開本件アレルギー発症患者57名の予後調査をしたところ,平成25年6月時点で,重症度にかかわらず,42例が小麦製品を摂取しており,その うち2例に小麦摂取後腹痛があった以外に重篤な症状の誘発はみられな ギー発症患者57名の予後調査をしたところ,平成25年6月時点で,重症度にかかわらず,42例が小麦製品を摂取しており,その うち2例に小麦摂取後腹痛があった以外に重篤な症状の誘発はみられな かった。また,同月時点でグルパール19SIgE抗体値が100を超える症例が3例存在したものの,うち2例は小麦製品を摂取しても重篤な症状の誘発はなかった(1例は摂取していない。)(乙ロB23)。 特別委員会は,本件診断基準により確定診断を受けた350名の予後調査をした。その結果,略治を,通常の食事及び日常生活をし3か月以上即 時型アレルギー症状がないことと定義した場合,本件石鹸の使用を中止後略治に至った患者の割合は,中止後12か月で3.1%,24か月で12. 2%,36か月で21.4%,48か月で30.5%,60か月で41. 6%,72か月で51.8%であり,略治期間の推定中央値(調査対象のうち,半数の患者が本件石鹸の使用を中止して略治に至るまでの期間)は, 65.3か月であった。特別委員会は,略治の推定中央値を算出するにあたって,略治患者数の経時的推移を観察し,各時期の略治患者割合を算出するカプラン・マイヤー法という手法を採用した。この手法では,追跡できなかった患者を母集団から除外するため,略治の診断を受けるまでに,症状が軽快し,医療機関の受診を止めた者が中央値の算出に反映されない。 すなわち,略治とされるべき者の割合は,同手法で算出された割合より高くなることが推認される。 前記調査で,皮膚症状以外の臓器症状(嘔吐,呼吸困難等)があった症例や,ショックに至った症例,血液検査でω-5グリアジン特異的IgE抗体値陽性の症例は治癒しにくい傾向があった(甲A33・4頁)が,そ れらを伴わない患者については,本件 吸困難等)があった症例や,ショックに至った症例,血液検査でω-5グリアジン特異的IgE抗体値陽性の症例は治癒しにくい傾向があった(甲A33・4頁)が,そ れらを伴わない患者については,本件石鹸の使用を中止すると,小麦摂取の有無にかかわらず,アレルギー症状の改善がみられた(甲A34・5頁,乙ロB8・11頁)。 ウオマリズマブ(ゾレア)(甲A42,乙ハA126,ハA157,ハA160) 蕁麻疹や気管支喘息の治療薬として使用されるオマリズマブ(以下「ゾ レア」という。)には,IgE抗体を中和して効果を失わせ,IgE抗体とマスト細胞等との結合を押さえる作用がある。ただし,同薬品の保険適用がある使用方法は,蕁麻疹や気管支喘息の治療のみである。 被告ら及び悠香は,平成26年7月ころ,本件アレルギー治癒遷延例を対象に,ゾレアの継続投与による療法・治験を島根大学と共同で行うことを 目的として,研究費としてそれぞれ1666万6667円(合計5000万0001円)をNPO法人生活習慣病予防センターに寄付した(乙ハA126)。また,被告片山化学は,平成29年5月ころ,本件アレルギーの治療遷延例に対してゾレア投与による治療の支援を目的とする基金を設立した(乙ハA157)。同基金等の援助を受けて,現在十数例がゾレ ア投与による試験を実施中であり,ほとんどの症例で小麦摂取制限が解除された。しかし,ゾレアによる治療効果について,未だ確立した知見は存在せず,ゾレア投与によるショックや呼吸困難等の副作用の可能性は否定できない。 エ前記のとおり,小麦・グルテン特異的IgE抗体値の高低と即時型小麦 アレルギー症状誘発の有無とは必ずしも対応,相関するものではなく,特異的IgE抗体の減少や,時 は否定できない。 エ前記のとおり,小麦・グルテン特異的IgE抗体値の高低と即時型小麦 アレルギー症状誘発の有無とは必ずしも対応,相関するものではなく,特異的IgE抗体の減少や,時間の経過があっても略治に至らない例があることは否定できないが,前記認定事実を総合すると,本件アレルギーは,本件石鹸の使用中止により,経時的に回復傾向があると認めるのが相当である。そして,回復速度や回復の程度には個体差があると考えられるもの の,前記特別委員会の略治に関する報告や略治推定中央値の算定方法,実際に小麦摂取しても症状が出なかった症例が存在したことも併せ考慮すると,本件石鹸の使用により,本件アレルギーに罹患したとしても,その使用中止後65か月(5年5か月)が経過した場合には,以降本件アレルギーによる症状誘発がされないことが一応推定できるというべきである。 原告らの慰謝料請求について原告らは損害の発生により,精神的苦痛を受けたことはもとより,通院費,家事労働を含む休業損害等を包括するものとして各損害賠償請求をするが,個別の財産的損害について主張立証がない以上,本訴において,証拠に現れた事情をもとに,各原告の受けた精神的苦痛に対する慰謝料として認容すべ き額を定めるほかない。 慰謝料の算定方法についての判断ア上記小麦アレルギーによる症状は身体を損なうものであり,本件アレルギーが各原告にもたらした苦痛の程度を勘案するのに,各原告の症状の内容のみならず,その軽重を本来見極めるべきであるが,本件の各証拠によ っても,各原告につき,アレルギー症状を引き起こす小麦の摂取量,運動依存の場合の運動の質及び量,アレルギー症状を起こさないための休養の時間などの詳細は明らかでない。原告らの 本件の各証拠によ っても,各原告につき,アレルギー症状を引き起こす小麦の摂取量,運動依存の場合の運動の質及び量,アレルギー症状を起こさないための休養の時間などの詳細は明らかでない。原告らのすべてが医師立会の経口負荷試験を受けたわけではなく,原告らの陳述書等には,アレルギー症状を起こした際の小麦摂取量やその後の運動内容(あるいは運動しなかったこと) などが記載されているが,内容の客観性を担保するものはない。また,発作を起こした後,小麦の摂取を控えた者が少なからずいるから,その頻度をみることもできないし,その発作の内容も,血圧低下,意識喪失などは別として,主観的な訴えに基づくものが少なくなく,その重篤の度合いを客観的に測定することはカルテなどによっても困難である。 イ各原告に生じた症状の程度は見極め難いといっても,本件アレルギーにより,小麦摂取に対する自制,摂取後の運動の抑制等が一定期間生じたことは否定できない。仮に,本件アレルギーによる症状が,顔や身体の一部の腫脹,膨疹,発疹にとどまるなど重篤とはいえない者についても,より重い症状の発生をおそれて,あるいは上記の程度の不具合であっても社会 生活,日常生活上の支障になるとして,小麦摂取等を控えるのは本件アレ ルギーを発症した者の行動として自然だからである。したがって,各原告について,小麦摂取等を制限せざるを得なかったことによる精神的苦痛を同等のものと認め,その期間の長短によって精神的苦痛の程度を判断し,さらに重篤な症状が現れた者について,そのような体質となったことによる精神的苦痛を加算し,その他証拠上認められる各原告個別の加算要素を 検討することとする。 ウ原告らが,日常生活において受けた小麦摂取ないし運動制限の期間 となったことによる精神的苦痛を加算し,その他証拠上認められる各原告個別の加算要素を 検討することとする。 ウ原告らが,日常生活において受けた小麦摂取ないし運動制限の期間前記認定のとおり,本件石鹸の使用中止後65か月が経過した場合には,以降本件アレルギーによる症状誘発がされないことが一応推定できるから,原告らの本件アレルギーによる小麦摂取等の制限が本件石鹸の使用中 止後65か月継続したものと推定し,これに対する相当な慰謝料を160万円と認める。 65か月内に治癒,寛解したことが証拠上認められる原告及び65か月を超えて本件アレルギー発症の危険が証拠上認められる原告については,それぞれ当該期間を基準とすることとする。 そして,治癒寛解の判断にあたっては,①血液中の小麦及びグルテン特異的抗体価,プリックテストによる小麦及びグルテンの反応が陰性化したこと(グルパール19S,本件石鹸の抗体価,プリックテストの結果を含まない。),②現に本件アレルギーによる症状を発して医療機関を受診したことといった事実があるかといった点を総合し判断するのが相当であ る。 原告らは,検査数値などはともかく,重篤な発作を恐れる者が小麦摂取を控え,抗アレルギー剤を服用することは当然であって,発作が起きていないからといって,略治,寛解とはいえない旨主張する。小麦摂取と運動による本件アレルギー症状の程度を測定するには,医師管理下で行われる 経口負荷試験がもっとも適切であり,そうすると,現在の原告の症状につ いては,被告らでなく,原告らのみが証明手段を有するのであって,原告らが同試験に基づく現在の症状を証明する必要があるというべきである。 被告フェニックスらは,小麦特異的 症状につ いては,被告らでなく,原告らのみが証明手段を有するのであって,原告らが同試験に基づく現在の症状を証明する必要があるというべきである。 被告フェニックスらは,小麦特異的IgE抗体価の陰性的中率が高く,IgE抗体価が陰性化した場合,小麦に対する耐性獲得の指標となる旨主張し,乙イ総C第5号証の内容は同主張に沿うものであるが,前記認定の とおり,本件アレルギーは,一般的な即時型小麦アレルギーと臨床症状,IgE反応性において異なり,同書証で言及される小麦特異的IgE抗体価の陰性的中率が本件アレルギーに同様にあてはまるものであるのか疑義がある。小麦特異的IgE抗体価が陰性化したことのみを本件アレルギー治癒の指標とするのは相当でない。 エ現に発症したアレルギーの発作が,生命侵害の危険を感じさせる重篤なものあるいはこれに準じるものであったか医師によってアナフィラキシーショックと診断されたかそれに準じる症状があったと証拠上認められる原告については,精神的苦痛が大きいことが明らかであり,80万円を加算するのが相当である。また,アレルギー 症状により意識を喪失した場合も同様に,生命侵害の危険を感じさせる重篤な症状ということができ,精神的苦痛が大きいと認められるため,50万円を加算するのが相当である。 全身蕁麻疹等の重度の蕁麻疹については20万円,嘔吐をきたした場合10万円を加算することとする。 その他本件アレルギー罹患による精神的苦痛ないし身体的苦痛の有無各原告の個別損害については,別紙2(各論)の認定において判示する。 6 過失相殺・素因減額事由の有無(争点6) 認定事実アアトピー素因(乙ロB1) 医学用 各原告の個別損害については,別紙2(各論)の認定において判示する。 6 過失相殺・素因減額事由の有無(争点6) 認定事実アアトピー素因(乙ロB1) 医学用語にいうアトピーとは,少ない量のアレルゲンに反応してIgE 抗体を分泌し,喘息,鼻結膜炎,湿しん等のアレルギー症状を発症しやすい個人的又は家族性の体質を指す。アトピー性皮膚炎とは,アトピー体質の人に多い湿しんであるが,アトピー性皮膚炎を発症している者は,必ずしもアトピー素因を有する者ではない。 1型ヘルパーT細胞と2型ヘルパーT細胞とは,相互に増殖を抑制する サイトカイン(細胞間の情報伝達分子)を分泌し,互いにけん制し合う。 前記のとおり,アレルギーを発症する際には,2型ヘルパーT細胞が重要な役割を担っている。アトピー素因を有する場合とは,この2型ヘルパーT細胞が,1型ヘルパーT細胞の増殖を抑制することにより,1型ヘルパーT細胞に比して極端に多く,IgE抗体を多く保有している状態を指す。 イ特別委員会報告前記認定の特別委員会の報告によれば,本件アレルギー確定診断症例患者は,本件石鹸を使用したことにより本件アレルギーを発症したといえ,自己の有するアレルギー性疾患やアトピー性疾患によって発症したわけではないことが推認され,これを覆すに足りる証拠はない。 ウ治癒遷延例に係る報告一方で,本件アレルギー患者のうち,アトピー素因がある患者,ハウスダストやスギ等の特異的IgE抗体価がクラス3以上である患者,ω-5グリアジン陽性例等は,本件石鹸使用中止後も小麦・グルテン特異的IgE抗体価の低下や,症状の臨床的な改善が見られにくい傾向にある(乙ロ B23,ハA125)。 アレルギー素因等による グリアジン陽性例等は,本件石鹸使用中止後も小麦・グルテン特異的IgE抗体価の低下や,症状の臨床的な改善が見られにくい傾向にある(乙ロ B23,ハA125)。 アレルギー素因等による素因減額の可否ア前記認定事実に照らせば,原告らが本件アレルギーに罹患したのは,各原告が有するアトピー素因等によるものではないこと,しかしながら,本件アレルギー治癒遷延例については,原告らのアトピー素因等が関与して いることが認められる。アトピー素因は,前記認定のとおり,体内の1型 ヘルパーT細胞に比して2型ヘルパーT細胞が多く,IgE抗体が多い状態を指すところ,これは,原告らの身体的特徴に当たる。 被害者に対する加害行為と被害者の罹患していた疾患がともに原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度等に照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損 害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して,被害者の当該疾患を斟酌することができるが(最高裁平成4年6月25日第一小法廷判決・民集46巻4号400頁),被害者が通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても,それが疾患に当たらない場合には,特段の事情がない限り,被害者の当該身体的特徴を損害賠償の 額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである(最高裁平成8年10月29日第三小法廷判決・民集50巻9号2474頁)。 前記認定のとおり,アトピー素因は,単に2型ヘルパーT細胞及びIgE抗体が多い状態を指すものであり,当該状態が直接にその素因を有する者に対して何らかの不利益な状態をもたらすものではない。あくまで,ア トピー素因は,何らかのアレルギーを発症しやすい状態にすぎない 体が多い状態を指すものであり,当該状態が直接にその素因を有する者に対して何らかの不利益な状態をもたらすものではない。あくまで,ア トピー素因は,何らかのアレルギーを発症しやすい状態にすぎない。これらの事情を考慮すると,アトピー素因は,前記疾患に当たるということはできない。また,本件アレルギー患者のうち,ω-5グリアジンのIgE抗体価が陽性である者(原告Q。原告Dは擬陽性。)について,これが何らかの疾患に起因することを認めるに足りる証拠はない。したがって,本 件アレルギーの重篤化ないし長期化に,原告らのアトピー素因等が一定程度関与しているとしても,これを素因減額事由として考慮しない。 イ被告らは,乙ロ第4,第8号証等に基づき,アトピー性皮膚炎患者について,皮膚バリア機能が減弱しており,本件アレルギーを発症しやすい旨主張するが,同論文はあくまでその可能性を指摘するにすぎない。その余 に,本件アレルギーの発症につき,アトピー素因等原告らの素因が関与し ていることを認めるに足りる証拠はない。 過失相殺事由の有無被告らは,原告らが本件アレルギーを発症し,また重篤化したのは,本件石鹸外箱の注意書きにもかかわらず,原告らが,本件石鹸使用後,眼瞼浮腫等を発症したにもかかわらず,本件石鹸の使用を中止しなかったことにある から,その使用継続行為は,過失相殺事由に当たる旨主張する。 しかし,本件全証拠に照らしても,原告らが,本件石鹸使用後に眼瞼浮腫を発症した時点で本件石鹸の使用を中止していたとすれば,本件アレルギーを発症しなかったことを認めることはできない。まして,前記のとおり,原告らにおいて,本件石鹸使用後皮膚の腫脹等が生じたとしても,これが本件 石鹸を使用したことによるものであ ば,本件アレルギーを発症しなかったことを認めることはできない。まして,前記のとおり,原告らにおいて,本件石鹸使用後皮膚の腫脹等が生じたとしても,これが本件 石鹸を使用したことによるものであると推測することが容易であったとはいえない。前記被告らの主張事実は,過失相殺事由に該当しない。 第5 結論各原告の被った損害の認定は,これに対する当事者の主張と併せて,別紙2に記載のとおりである。第4の認定判断及び別紙2の認定判断を総合すると, 各原告の被告らに対する請求は,被告フェニックスに対し,主文の各金員の支払を求める限度で理由があるからこれらを認容し,その余の被告フェニックスに対する各請求及び原告らの被告片山化学に対する各請求は理由がないから棄却することとする。被告フェニックスから申立てのあった仮執行の免脱宣言は,相当でないからこれを付さない。 よって主文のとおり判決する。 京都地方裁判所第1民事部 裁判長裁判官三木昌之 裁判官鈴木陽一郎 裁判官守屋尚志
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