主文 1 原判決のうち平成9年8月17日以降にされた旅費の支出負担行為及び支出命令についての損害賠償請求に関する部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消す。 2 前項の部分につき,本件を福井地方裁判所に差し戻す。 3 平成7年2月の福井県監査委員事務局職員の秋田県への出張に係る旅費の支出負担行為及び支出命令についての損害賠償請求に関する部分につき,本件上告を却下する。 4 その余の本件上告を棄却する。 5 第3項及び前項に関する上告費用は,上告人らの負担とする。 理由 上告人兼上告代理人湯川二朗,同坪田康男の上告受理申立て理由について 1 本件は,福井県(以下「県」という。)の住民である上告人らが,県の平成6年4月から同9年12月までの旅費の支出について,公務出張の事実がないのにされた違法なものがあり,これにより県が損害を被っているとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時,上記旅費の支出に係る支出負担行為及び支出命令につき法令上本来的な権限を有する県知事の職にあった被上告人に対し,損害賠償を求める事案である。 2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。 (1) 県は,平成9年12月,同7年2月の県監査委員事務局(以下「監査委員事務局」という。)職員の秋田県への出張に係る旅費(以下「秋田県出張旅費」という。)の支出が公務出張の事実がないのにされたものであることが明らかになったことを受けて,すべての県職員の旅費の支出について調査を実施することとした。 - 1 -この調査のため,知事部局においては総務部長及び各部次長を構成員とする旅費調査委員会が設置され,監査委員事務局においては監査委員等を構成員とする 費の支出について調査を実施することとした。 - 1 -この調査のため,知事部局においては総務部長及び各部次長を構成員とする旅費調査委員会が設置され,監査委員事務局においては監査委員等を構成員とする監査委員事務局旅費調査委員会(以下,旅費調査委員会と併せて「旅費調査委員会等」という。)が設置された。また,県の出納事務局,企業庁,議会事務局,教育委員会,人事委員会事務局及び地方労働委員会事務局(以下,これらを知事部局と併せて「知事部局等」という。)は,旅費調査委員会による調査に加わることになった。 (2) 旅費調査委員会は,平成6年度から同8年度までの知事部局等における旅費の支出並びに平成9年4月から同年12月までの知事部局等及び監査委員事務局における旅費の支出について,1件ごとに不適切なものであるかどうかを調査した上,「旅費調査結果と改善方策に関する報告書」と題する報告書を作成し,同10年3月10日,これを公表した。同報告書は,公務出張の事実がないのにされた旅費の支出を事務処理上不適切な支出とし,これを更に公務遂行上の経費に充てられたものと不適正なものとに分類して,旅費調査委員会の調査結果を集計しており,これによれば,知事部局等の平成6年度から同8年度までの旅費の支出のうち事務処理上不適切な支出は18億9341万7062円,そのうち公務遂行上の経費に充てられたものは14億6735万4220円,知事部局等及び監査委員事務局の同9年4月から同年12月までの旅費の支出のうち事務処理上不適切な支出は2億5836万5093円,そのうち公務遂行上の経費に充てられたものは2億2046万4000円とされている。 また,監査委員事務局旅費調査委員会は,平成6年度から同8年度までの監査委員事務局における旅費の支出について,1件ごとに不適切なものであるかど てられたものは2億2046万4000円とされている。 また,監査委員事務局旅費調査委員会は,平成6年度から同8年度までの監査委員事務局における旅費の支出について,1件ごとに不適切なものであるかどうかを調査した上,「旅費調査結果報告書」と題する報告書を作成し,平成10年3月10日,これを公表した。同報告書は,旅費調査委員会の上記報告書と同様の分類により,監査委員事務局旅費調査委員会の調査結果を集計しており,これによれば,- 2 -監査委員事務局の平成6年度から同8年度までの旅費の支出のうち事務処理上不適切な支出は1024万9000円とされている。 (3) 上告人らは,平成10年8月17日,県監査委員に対し,① 旅費調査委員会の調査の結果,事務処理上不適切な支出で公務遂行上の経費に充てられたものとされた知事部局等の平成6年度から同8年度までの旅費14億6735万4220円並びに知事部局等及び監査委員事務局の同9年4月から同年12月までの旅費2億2046万4000円,② 監査委員事務局旅費調査委員会の調査の結果,事務処理上不適切な支出とされた監査委員事務局の同6年度から同8年度までの旅費1024万9000円(以下,①及び②の旅費を併せて「本件各旅費」という。)は,公務出張の事実がないのに支出された違法なものであるとして,これによって生じた損害をてん補するために必要な措置を講ずることを求める旨を記載した監査請求書(以下「本件監査請求書」という。)を事実を証する書面と共に提出し,住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)を行った。 (4) 県監査委員は,平成10年10月2日,本件監査請求が対象の特定を欠くことを理由にこれを却下した。 3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断した。 (1) 本件監査請求が問題としている旅費 査委員は,平成10年10月2日,本件監査請求が対象の特定を欠くことを理由にこれを却下した。 3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断した。 (1) 本件監査請求が問題としている旅費の支出の違法性,不当性は,個々の支出ごとに当該旅費の支出を根拠付ける公務出張の事実の有無を審査しなければ判断することができないものであるから,住民監査請求においては,対象とする各支出を特定して認識することができるように個別的,具体的に摘示しなければならない。 (2) 本件監査請求においては,本件監査請求書に加えて上告人らの提出した事実を証する書面及びその他の資料を総合しても,秋田県出張旅費の支出を除き,対象とする各支出を特定して認識することができる程度に個別的,具体的に摘示されていないから,本件監査請求は請求の対象の特定に欠けるものというべきである。 - 3 - 4 しかしながら,秋田県出張旅費の支出を除き本件監査請求は請求の対象の特定に欠けるとした原審の上記(2)の判断は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。 【要旨1】住民監査請求においては,対象とする財務会計上の行為又は怠る事実(以下「当該行為等」という。)を,他の事項から区別し特定して認識することができるように,個別的,具体的に摘示することを要するが,監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載,監査請求人が提出したその他の資料等を総合して,住民監査請求の対象が特定の当該行為等であることを監査委員が認識することができる程度に摘示されているのであれば,これをもって足りるのであり,上記の程度を超えてまで当該行為等を個別的,具体的に摘示することを要するものではないというべきである。そして,この理は,当該行為等が複数である場合であっても異なるものではない。最高裁平 るのであり,上記の程度を超えてまで当該行為等を個別的,具体的に摘示することを要するものではないというべきである。そして,この理は,当該行為等が複数である場合であっても異なるものではない。最高裁平成元年(行ツ)第68号同2年6月5日第三小法廷判決・民集44巻4号719頁は,以上と異なる趣旨をいうものではない。 【要旨2】前記事実関係等によれば,本件監査請求は,旅費調査委員会等の各調査においてそれぞれ事務処理上不適切な支出とされたものである本件各旅費の支出が違法な公金の支出であるとして,これによる県の損害をてん補するために必要な措置を講ずることを求めるものであり,旅費調査委員会等の各調査においては,それぞれ対象とする旅費の支出について1件ごとに不適切なものであるかどうかを調査したというのであるから,本件監査請求において,対象とする各支出,すなわち,支出負担行為,支出命令及び法232条の4第1項にいう狭義の支出について,支出に係る部課,支出年月日,支出金額等の詳細が個別的,具体的に摘示されていなくとも,県監査委員において,本件監査請求の対象を特定して認識することができる程度に摘示されていたものということができる。 そうすると,本件監査請求は,請求の対象の特定に欠けるところはないというべ- 4 -きである。 5 ところで,前記事実関係等によれば,本件監査請求がされたのは平成10年8月17日であるというのであるから,本件各旅費(秋田県出張旅費を除く。)の支出負担行為及び支出命令のうち同9年8月16日以前にされたもの(以下「平成9年8月16日以前の支出負担行為等」という。)については,法242条2項本文所定の監査請求期間が経過していることは明らかである。そして,前記事実関係等によれば,県の住民は,相当の注意力をもって調査すれば遅くとも旅費調 支出負担行為等」という。)については,法242条2項本文所定の監査請求期間が経過していることは明らかである。そして,前記事実関係等によれば,県の住民は,相当の注意力をもって調査すれば遅くとも旅費調査委員会等の前記各報告書が公表された同10年3月10日ころには,客観的にみて監査請求をすることができる程度に平成9年8月16日以前の支出負担行為等の存在及び内容を知ることができたというべきであり,その時点から5か月以上が経過した後にされた本件監査請求は同時点から相当な期間内にされたものということはできないから,平成9年8月16日以前の支出負担行為等については,同項ただし書にいう正当な理由があるということはできない。 そうすると,本件訴えのうち平成9年8月16日以前の支出負担行為等についての損害賠償請求に係る部分を不適法として却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。 6 以上によれば,本件訴えのうち平成9年8月17日以降にされた支出負担行為及び支出命令についての損害賠償請求に係る部分を不適法として却下すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この部分に関する論旨は理由があり,原判決中上記判断に係る部分は破棄を免れない。 そして,同部分については,第1審判決を取り消し,本案の審理をさせるため,本件を第1審に差し戻すのが相当である。平成9年8月16日以前の支出負担行為等についての損害賠償請求に関する上告については,論旨は理由がないから,これを棄却することとする。 - 5 -なお,秋田県出張旅費の支出負担行為及び支出命令についての損害賠償請求に関する上告については,上告人らは上告受理申立て理由を記載した書面を提出しないから,これを却下することとする。 よって,裁判官全員一致の意 出張旅費の支出負担行為及び支出命令についての損害賠償請求に関する上告については,上告人らは上告受理申立て理由を記載した書面を提出しないから,これを却下することとする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官藤田宙靖裁判官金谷利廣裁判官濱田邦夫裁判官上田豊三)- 6 -
▼ クリックして全文を表示