【DRY-RUN】主 文 本件抗告を棄却する。 理 由 抗告理由第一点について。 所論本件被告人の上訴権の抛棄に関し錯誤のあつたことは左の事由により之を認 め難い。即ち(
主文本件抗告を棄却する。 理由抗告理由第一点について。 所論本件被告人の上訴権の抛棄に関し錯誤のあつたことは左の事由により之を認め難い。即ち(一)昭和二二年九月一七日の第一審判決宣告のための公判期日の調書によれば、当日判決の宣告があつた後、被告人は上訴権を抛棄する旨の陳述が為されているのである。しかるにその後同年九月二〇日附被告人から第一審裁判所に提出した上申書によると「判決の言渡のあつた際自分は頭が混乱していて深く前後を考えることをせず浅墓にも判事殿のお尋ねにより判決に異存なき旨をお答え致しましたが云々」と記載されているのである。然らば這は単に被告人が軽卒に上訴権の抛棄をしたから、之を取消して更に上訴申立をすることを許容されたいと謂うにあるのであつて、所論の如く被告人の本件上訴権の抛棄が被告人の錯誤に出でたものであることは之を認むることができないのである。(二)加うるに記録の全般から之を考えるのに、(イ)公訴事実はすべて被告人の認めるところであつて、而して第一審における弁護人の弁論の要旨は検事の求刑(求刑懲役八月及び罰金五万円)に対し、出来るだけ軽い罰金刑と執行猶予の判決ありたしと述べており、その判決の結果は罰金額こそ求刑どおりであつたが、八月の懲役刑については三年間の執行猶予の言渡が為されているのである。又(ロ)右判決宣告日即ち被告人が上訴権を抛棄する旨を述べた当該公判廷には、中沢弁護人(本権抗告人)は現に出廷立会していた事実は、公判調書に依り明らかであつて、従つて若し本件被告人の上訴権抛棄の陳述が所論の如く錯誤であるならば、弁護人として即時上訴権抛棄の意義効果等を被告人に告げ、直ちにその抛棄の徹回を為さしめたであろう。然らば以上各事実の経過から推すと本件上訴権の抛棄には- 抛棄の陳述が所論の如く錯誤であるならば、弁護人として即時上訴権抛棄の意義効果等を被告人に告げ、直ちにその抛棄の徹回を為さしめたであろう。然らば以上各事実の経過から推すと本件上訴権の抛棄には- 1 -所論のような錯誤があつたものとは到底判断することはできない。然らば被告人が一旦上訴権を抛棄すれば之に因つて上訴権は消滅し、爾後更に上訴をすることができないことは刑訴第三八六条の規定する所である。されば本件上訴権の抛棄が錯誤に基ずくものなることを主張して之が抛棄の取消を理由とする所論は理由のないものである。従つて原決定が上訴権消滅後の控訴申立として抗告人の抗告申立を棄却したのは正当であつて、毫も憲法第三二条に違反するものでない。論旨は理由がない。 同第二点について。 按ずるに刑訴第三七九条に所謂原審における弁護人は同第三七八条の被告人の法定代理人保佐人等と異なり、被告人の明示した意思に反して上訴することはできないのである。従つて本件において被告人が上訴権を抛棄した以上、仮令法定の上訴期間が残存し従つてこの残存期間内と雖も最早や弁護人が上訴をする訳にはゆかないことは当然の理と謂わねばならぬ。尤も所論憲法第三四条第三七条第三項は被抑留者若しくは被拘禁者又は被告人に直ちに弁護人を附する権利を保障し、従つて弁護人は之等の者の人権保護の万全を期する為め法令上種々の権義を有する所ではあるが、さればと云つてそのことから当然に刑訴法上弁護人に被告人の法定代理人又は保佐人と同様に被告人の明示した意思に反してまでも無制限に上訴権を認めなければならぬとの論結には到達し得ないのである。換言すれば新憲法実施後は憲法第三四条第三七条第三項等の規定により刑訴応急措置法第二条の規定に則り刑訴第三七九条を同第三七八条と同様に変更解釈し弁護人にも無制限に上訴権を認めなけ 達し得ないのである。換言すれば新憲法実施後は憲法第三四条第三七条第三項等の規定により刑訴応急措置法第二条の規定に則り刑訴第三七九条を同第三七八条と同様に変更解釈し弁護人にも無制限に上訴権を認めなければ上示憲法の右法条に反するものとは謂い得ないのである。蓋し上訴権行使の結果は、被告人に経済的並びに精神的の負担を伴わしめ、又時には自由の拘束をも継続せしむるものであるが、此場合被告人に対する法定代理人又は保佐人の地位及び関係と、弁護人の地位及び関係とは全く異なるものであることを考えれば、此一事だ- 2 -けによつても自から以上の理を領得することができるであらう。されば本件被告人の上訴権抛棄後の弁護人の控訴申立を無効なりとしたる原決定には所論指摘の如き憲法違反乃至法令の解釈を誤解したる違法等毫もなく、論旨は理由なきものである。 仍つて、刑事訴訟法第四六六条第一項後段の規定により主文のとおり決定する。 此の決定は裁判官全員一致の意見に依るものである。 昭和二三年一一月一五日最高裁判所大法廷裁判長裁判官塚崎直義裁判官長谷川太一郎裁判官沢田竹治郎裁判官霜山精一裁判官井上登裁判官栗山茂裁判官真野毅裁判官島 裁判官栗山茂裁判官真野毅裁判官島保裁判官齋藤悠- 3 -輔裁判官藤田八郎裁判官岩松三郎裁判官河村又介裁判官小谷勝重は差支えにつき、署名捺印することができない。 裁判長裁判官塚崎直義- 4 -
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