主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告(1) 被告らは,有田市に対し,連帯して,820万円及びこれに対する平成11年7月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告らの負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 被告ら主文と同旨第2 事案の概要 1 事案の要旨原告(有田市住民)は,元有田市長であった故Eの市民葬に有田市の公金を支出したことが違法であるとして,支出負担行為に関与した,当時,市長であった被告A,助役であった被告B,総務部長であった被告C及び秘書課長であった被告Dに対し,住民訴訟により,有田市(被告ら補助参加人)を代位して,違法公金支出による損害賠償請求権に基づき,連帯して,上記支出金820万円及びこれに対する支出の日である平成11年7月6日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を有田市に支払うよう求めた。 これに対して,被告ら及び被告ら補助参加人は,上記公金支出が適法であったなどと主張して争っている。 2 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(甲1,2,5,10,丙1ないし5,7ないし9,12,19ないし22《各枝番を含む。》)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。 (1) 当事者原告は,有田市に居住する住民である。 後記本件公金支出当時,被告Aは有田市長,被告Bは有田市助役,被告Cは有田市総務部長,被告Dは有田市秘書課長の地位ないし職にそれぞれあったものである。 (2) 市民葬の挙行等被告Aは,平成11年6月16日,故Eを後記本件条例に基づく有田市名誉市民に推戴する旨を市議会に提案し,同日,市議会の同意を得て,故Eを名誉市民に決定した。 被告Aは,同月24日,市 葬の挙行等被告Aは,平成11年6月16日,故Eを後記本件条例に基づく有田市名誉市民に推戴する旨を市議会に提案し,同日,市議会の同意を得て,故Eを名誉市民に決定した。 被告Aは,同月24日,市議会において,「有田市名誉市民前有田市長故E市民葬」(以下「本件市民葬」という。)の執行と,これに必要な費用を賄うため820万円の補正予算を提案し,市議会は,全会一致をもって可決した。 本件市民葬は,同年7月6日に挙行された。 (3) 本件公金支出平成11年7月7日以降,上記補正予算に基づき,本件市民葬の経費として合計778万3049円が支出された。被告らは,自ら又は専決により,この支出の一部について支出負担行為をした。 (4) 本件訴え提起までの経緯原告は,平成12年7月6日,本件公金支出が違法であるとして,有田市監査委員に対し,住民監査請求を行ったところ,同監査委員は,同年9月2日,原告の請求を棄却する旨の判断をし,そのころ,原告に対してその旨の通知を行った。 原告は,平成12年10月2日,本件訴えを提起した。 (5) 関係条例の規定有田市名誉市民条例(昭和42年6月28日有田市条例第14号。以下「本件条例」という。)の規定は,以下のとおりである。 (目的)第1条社会の進歩,文化の興隆に功績のあつた市民又は市に縁故の深い者で,郷土の誇りとなるものに対し,この条例の定めるところにより,有田市名誉市民(以下「名誉市民」という。)の称号を贈つてその栄誉を表彰する。 (選定)第2条名誉市民は,市長が議会の同意を得て決定する。 (表彰)第3条名誉市民には,名誉市民推戴状を贈呈する。 (待遇)第4条名誉市民に対しては,次に掲げる待遇をすることができる。 ① 功績顕彰碑の建立② 死亡の際における相当の礼をもつてする弔慰③ 第3条名誉市民には,名誉市民推戴状を贈呈する。 (待遇)第4条名誉市民に対しては,次に掲げる待遇をすることができる。 ① 功績顕彰碑の建立② 死亡の際における相当の礼をもつてする弔慰③ その他市長が適当又は必要と認める待遇(以下略)(6) 類似事例① 昭和56年には,元有田市長Fの市民葬が挙行され,有田市はこれに545万円余を支出した。 昭和62年には,元有田市長Gの市民葬が挙行され,有田市はこれに749万円余を支出した。 故Eの有田市長の在職期間は,F及びGのそれの2倍以上であった。 ② 平成9年には,元和歌山県知事Hの県民葬が挙行され,その葬儀費用として1676万円余が費やされた。なお,同県民葬は「故H前和歌山県知事県民葬実行委員会」の主催によるものであり,その費用は各種団体の負担金によって賄われ,和歌山県からの公金支出はなかった。 ③ 平成12年には,元神戸市長Iの市民葬が挙行された。なお,同市民葬は神戸市内の団体代表者らからなる「お別れの会実行委員会」の主催によるものであり,その費用は賛助金によって賄われ,神戸市からの公金支出はなかった。 3 争点本件では,終極的には本件公金支出が違法か否かが争われているところ,その違法事由ごとに以下のとおり分類することができる。 (1) 本件公金支出は憲法に反するか。 (原告の主張)本件公金支出は,憲法19条,21条に反する。すなわち,本件公金支出は,公金の支出という形式をもって,有田市民に対し,故Eに対する弔意の表明を間接的に強制したものであるから,有田市民の思想良心の自由を侵害するものとして憲法19条に反する。また,本件市民葬では957名に案内状が発送され,その経費が本件公金支出によって賄われたことにより,有田市民の集会に出席しない自由が間接的に侵害されたといえるから するものとして憲法19条に反する。また,本件市民葬では957名に案内状が発送され,その経費が本件公金支出によって賄われたことにより,有田市民の集会に出席しない自由が間接的に侵害されたといえるから,本件公金支出は憲法21条に反する。 (被告ら及び被告ら補助参加人の主張)原告の上記主張は争う。 (2) 本件公金支出にはその余の違法事由があるか。 (原告の主張)① 本件公金支出は,本件条例の規定を根拠としてなされたものであるところ,本件条例には死者に対して名誉市民の称号を追贈することができる旨の規定がないことからみると(なお,一例として,和歌山県名誉県民条例《甲4》には,「名誉県民の称号は,死没した者に対しても追贈することができる」旨の明文の規定がある。),そもそも故人である故Eを名誉市民としたこと自体が本件条例に反するものである。また,本件条例によれば,名誉市民に対する待遇として,「死亡の際における相当の礼をもってする弔慰」をすることができるものの,これには市民葬の実施または市民葬に対する公金支出が含まれるとは解されない。したがって,本件公金支出には,以上の述べた二重の意味で本件条例に違反する違法がある。 ② 本件市民葬は,「故E市民葬葬儀委員会」が主催して行ったものであり,有田市が行ったものではないから,これに対する公金支出は支出原因を欠き違法である(地方自治法232条1項参照)。 仮に本件市民葬が有田市の主催にかかるものであったとしても,本件市民葬は死者を葬るための儀式であり,普通地方公共団体たる有田市の事務(同法2条2項参照)には該当しない。したがって,これに対する公金支出は違法である。 ③ なお,本件公金支出が違法か否かについては,本件公金支出が条例に適合せず,かつ,社交的儀礼の範囲内に属しない場合にはじめて違法になると解 しない。したがって,これに対する公金支出は違法である。 ③ なお,本件公金支出が違法か否かについては,本件公金支出が条例に適合せず,かつ,社交的儀礼の範囲内に属しない場合にはじめて違法になると解されるが,その判断順序としては,本件公金支出が条例に基づいて行われたことに照らせば,まず,それが条例に適合するか否かを判断し,しかるのちに社交的儀礼の範囲内に属するか否かを判断すべきである。 (被告ら及び被告ら補助参加人の主張)① 本件条例には死者に対する待遇について明定した規定はないものの,反対に「生存者のみを対象とする」あるいは「死者に対して名誉市民の称号を贈ることが許されない」と解さなければならない根拠は存しない。かえって,市民の模範としてその功績を将来にも伝承せしめんという本件条例の趣旨にかんがみれば,生前から名誉市民となるべき適格者でありながら手続上名誉市民とされることなく死亡した者に対し,その死亡後に名誉市民の称号を贈り,その功績をたたえるとともに,これを市民の共通のものとして再認識し,伝承していくことは禁止されていないというべきである。加えて,条例の制定改廃権を有する市議会も,同様の解釈を前提として,全会一致をもって故Eに対し名誉市民の称号を贈ることに同意したのであり,これが本件条例に違反するものでないことは明白である。 ② 本件市民葬に要した費用は合計778万3049円であり,市民あげての葬儀という観点からみても,有田市の財政規模(平成11年度の歳入歳出予算の総額は118億8820万円であった。)という観点からみても,決して高額とはいえないし,その支出項目にも市民葬という目的から逸脱したものはない。加えて,過去,有田市では,名誉市民の称号を贈られた元市長2名の市民葬が昭和56年と昭和62年に行われており(本件市民葬と合わせ,死 えないし,その支出項目にも市民葬という目的から逸脱したものはない。加えて,過去,有田市では,名誉市民の称号を贈られた元市長2名の市民葬が昭和56年と昭和62年に行われており(本件市民葬と合わせ,死亡した歴代市長全員の市民葬が挙行されたことになる。),功績のあった名誉市民たる元市長の市民葬の挙行は慣例となっているといえるところ,故Eの在職期間,市長としての貢献度等にかんがみれば,本件市民葬のために約780万円を支出したことは相当である。 ③ なお,本件公金支出が違法か否かという点を判断するに当たっては,それが社交的儀礼の範囲内に属するか否かを判断すれば足りるというべきである。被告ら及び被告ら補助参加人としては,本件公金支出が条例に適合すると考えているが,本件訴訟における争点との関係では,条例適合性は直接的な問題とはならず,上記の点のみを判断すれば足りるというべきである。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(本件公金支出の憲法適合性)について有田市が本件市民葬の費用(案内状発送費用を含む。)について公金を支出し(本件公金支出),その公金が有田市民が負担する税金によって賄われたとしても,そのことのみをもって,個々の有田市民が故Eに対する弔意の表明や本件市民葬への参列を間接的にであれ強制されたということはできないし,その他本件全証拠によっても,上記強制の事実はこれを認めることができないから,本件公金支出が憲法19条,21条に反する旨の原告の主張は採用することができない。 2 争点(2)(その余の違法事由の有無)について(1) 判断順序について本件においては,上記憲法適合性の点を除いて,①本件公金支出が本件条例に適合するか,②本件市民葬が地方自治法上地方公共団体たる有田市の事務に該当するか,の点が争われているところ,本件市民葬が有田市の 本件においては,上記憲法適合性の点を除いて,①本件公金支出が本件条例に適合するか,②本件市民葬が地方自治法上地方公共団体たる有田市の事務に該当するか,の点が争われているところ,本件市民葬が有田市の事務に該当するのであれば,それが本件条例に適合するか否かを問わず本件公金支出が違法と評価される余地はないし,逆に,本件市民葬が有田市の事務に該当しないのであれば,仮にそれが本件条例に適合するとしても本件条例をもって本件公金支出が正当化される余地はなく(この場合,本件条例は本来制定することができない地方公共団体の事務の範囲を超えたものと評価されることになる。),違法と評価されることになるから,結局,争点たる本件公金支出の違法性を判断するに当たっては,まず②を判断すべきであり,かつ,それをもって足りるというべきである。 (2) 本件市民葬が有田市の事務に該当するかについて原告の主張中には,本件市民葬が有田市とは別の「故E市民葬葬儀委員会」が主催して行ったものであることを前提とする部分が認められるので,まず本件市民葬の主催者について検討する。原告は,上記主張の根拠として,本件市民葬の案内状(甲3)が上記委員会名義で作成・発送されていることを指摘するが,これは上記委員会が結成されたことを意味するとしても,同委員会が有田市と別組織として結成されたことまで意味するものではない。むしろ,同案内状には,「葬儀委員長」とともに「有田市長」の肩書きをもって被告Aの氏名が掲げられていること(甲3),上記委員会は,市長(被告A)たる委員長,市議会議長たる副委員長をはじめとして,市議会議員や市職員及びその他団体役員等を委員とする組織であること(丙10),有田市役所総務部が編集・発行する広報誌「広報ありだ」には,被告Aが有田市長として本件市民葬が執り行われる旨(挙行 として,市議会議員や市職員及びその他団体役員等を委員とする組織であること(丙10),有田市役所総務部が編集・発行する広報誌「広報ありだ」には,被告Aが有田市長として本件市民葬が執り行われる旨(挙行前の7月号。丙15)及び執り行われた旨(挙行後の8月号。丙16)述べていることからすると,上記委員会は本件市民葬の対応・処置をすべく有田市に設置されたものというべきであり,本件市民葬の主催者は有田市であったと認めるのが相当である。 そして,普通地方公共団体は,地方自治の本旨に反しない限り,自然人や私法人等と同様の社会的活動体として,接待や贈答等と同じく,社会通念上相当と認められる範囲内において祝賀,記念行事,顕彰式典等を社交儀礼の範囲内に属する事務として行うことができると解するのが相当であり,葬儀もこれに含まれるというべきである。したがって,地方公共団体は,このような葬儀に対しては適法に公金を支出することができるといわなければならない。 そこで,有田市が行った本件市民葬に対する支出が社会通念上相当と認められるか否かを判断する。 証拠(丙3,4,7,8)及び弁論の全趣旨によれば,本件市民葬の経費として支出された778万3049円の項目(使途内訳)は,次のとおりであったことが認められ,金額の多寡を問うことなく項目それ自体として不当であると指摘することができるものは見当たらない。 報償費・・・・・・・・・・・・・・・・・合計36万8800円名誉市民之章制作費 23万9400円叙位記念品(額)代金 1万8900円トランペット吹奏お礼(ネクタイ券) 2万0000円司会・コーラスグループ等6団体へのお礼 9万0500円需用費・・・・・・・・・・・・・・・・・合計21万2649円消耗品費(合計8万14 トランペット吹奏お礼(ネクタイ券) 2万0000円司会・コーラスグループ等6団体へのお礼 9万0500円需用費・・・・・・・・・・・・・・・・・合計21万2649円消耗品費(合計8万1427円)額縁 8200円白手袋 2425円テプラプロとテープ 1万2136円冷茶グラスと茶托 2万7825円その他文房具 3万0841円食糧費(合計4万7500円)コーラスグループの昼食用弁当 3万2800円吟詠・コーラスグループの茶代 1万4700円印刷費(合計8万3722円)案内状・冊子の印刷費 7万8000円写真現像・プリント代 5722円役務費・・・・・・・・・・・・・・・・・・合計8万8150円委託料・・・・・・・・・・・・・・・・合計683万0000円祭壇設置委託料 668万0000円ビデオ制作委託料 15万0000円使用料及び賃借料(会場借上料)・・・・・・・28万3450円総計・・・・・・・・・・・・・・・・・・・778万3049円また,金額の点をみても,前記前提事実のとおり,本件公金支出の根拠となった補正予算が市議会において全会一致をもって可決されたこと,有田市では過去に2度(昭和56年,昭和62年)元市長(故Eより在職期間が短い。)の葬儀を行っており,その葬儀費用としてそれぞれ545万円余,749万円余を支出したことがあること,公金からの支出がなかったとはいえ,平成9年に行われた元和歌山県知事の県民葬には合計1670万円余の費用が費やされたことに加え, 費用としてそれぞれ545万円余,749万円余を支出したことがあること,公金からの支出がなかったとはいえ,平成9年に行われた元和歌山県知事の県民葬には合計1670万円余の費用が費やされたことに加え,一般私人の通常の葬儀のために必要とされる費用額をも併せ考えると,本件市民葬の経費に充てられた本件公金支出の金額がその当時の社会通念に照らして社交儀礼の範囲を超えて容認することができないほどに不当であるとまで認めることは困難である(なお,上記は社会通念という規範的な基準による判断であり,時代の変化に応じて社会通念が変動すれば,これを基準とする判断もまた変わらざるを得ない。とりわけ,地方公共団体の財政悪化もあって,公金支出のあり方等に対して住民から厳しい目が注がれている今日の情勢からすれば,今後の同種事案については,本件と同様の金額が支出されたとしても本件の判断とは異なり,違法との結論が出される可能性は少なからずあるものと考えられる。)。 以上によれば,本件市民葬は有田市の事務に該当すると認めることができる。 3 結論以上によれば,市議会により可決された補正予算に基づく本件公金支出が違法であるとはいえず,これが違法であることを前提とする原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 和歌山地方裁判所第二民事部裁判長裁判官礒尾正裁判官間史恵裁判官田中幸大
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