平成14(行ウ)1等 人事異動具申書内申書開示一部不開示処分取消請求事件,損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年3月18日 甲府地方裁判所 情報公開
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判決文本文15,132 文字)

主文 1 平成14年(行ウ)第1号事件被告山梨県教育委員会が平成12年11月16日付けでした個人情報一部開示決定(教義2第11-4号)のうち,平成10年度末人事異動に係る内申書全部を開示しないとの部分を取り消す。 2 平成14年(行ウ)第13号事件被告山梨県は原告に対し,金5万円を支払え。 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余は被告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 平成14年(行ウ)第1号事件被告山梨県教育委員会が平成12年11月16日付けでした個人情報一部開示決定(教義2第11-4号)のうち,平成10年度末人事異動に係る内申書全部,教職員調査一覧表並びに年度末人事についての意見書のうち「出勤状況」「特技・特能」「勤務等の状況」「意見」「意見に対する説明」に係る記入欄,注意書きの4に記載されている「留任についての説明書き」の部分を開示しないとの部分を取り消す。 2 平成14年(行ウ)第13号事件被告山梨県は原告に対し,金10万円を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が,山梨県個人情報保護条例(以下「本件条例」という。)に基づき,平成14年(行ウ)第1号事件被告山梨県教育委員会(以下「被告委員会」という。)に対し,いずれも地方教育行政の組織と運営に関する法律(以下「地教行法」という。)に基づき作成された平成10年度末人事異動に係る「内申書」(以下「本件内申書」という。)及び「教職員調査一覧表並びに年度末人事についての意見書」(以下「本件意見書」という。)に記載された個人情報の開示を請求したところ,本件内申書全部並びに本件意見書のうち「出勤状況」「特技・特能」「勤務等の状況」「意見」「意見に対する説明」に係る記入欄(以下「本件意見書 見書」という。)に記載された個人情報の開示を請求したところ,本件内申書全部並びに本件意見書のうち「出勤状況」「特技・特能」「勤務等の状況」「意見」「意見に対する説明」に係る記入欄(以下「本件意見書記入欄」という。)及び注意書きの4に記載されている「留任についての説明書き」(以下「本件説明書き」という。)に記載された情報を開示しないとする一部開示決定(以下「本件決定」という。)がされたため,これを不服として,被告委員会に対し,本件決定中の非開示部分の取消しを求め,また,本件決定により,精神的損害を被ったとして,平成14年(行ウ)第13号事件被告山梨県(以下「被告山梨県」という。)に対し,国家賠償法1条に基づく損害賠償請求として,金10万円の支払を求めた事案である。 1 争いのない事実等(1) 本件に至る経緯ア原告は,山梨県の県費負担教職員(地教行法37条参照。)であり,平成11年4月ころ,それまで勤務していたα町立α小学校からβ町立γ小学校に転任処分を受けた(以下「本件転任処分」という。)。 イ原告は,被告委員会に対し,平成12年11月2日,本件転任処分に関し,本件条例に基づき,本件内申書及び本件意見書の開示請求をした。 なお,本件意見書は,平成10年度末定期人事異動のため,原告が当時在籍したα町立α小学校の校長が,地教行法39条に基づき作成し,α町教育委員会に提出され,同委員会から被告委員会に提出された文書であり,その様式は別紙1のとおり,「職名」「氏名」「勤続年数」「通算年数」「その校在籍年数」「免許状の種類」「担任学年・主任教科」「出勤状況」「特技・特能」「勤務等の状況(勤務状況並びに服務の態度等または特記すべき事項)」「希望(退職・異動)」「意見」「意見に対する説明」の各記入欄により構成されており,下部に注意事項が記載さ 出勤状況」「特技・特能」「勤務等の状況(勤務状況並びに服務の態度等または特記すべき事項)」「希望(退職・異動)」「意見」「意見に対する説明」の各記入欄により構成されており,下部に注意事項が記載されている。このうち,「出勤状況」については,平成10年4月1日から平成11年1月11日までの間を調査期間とし,優秀・良好・努力を要するの3段階を文字で記入することとされており,意見欄は「留任」「転出(転出又は配置換えを意味する。)」「退職又は転出」「退職又は留任」「留任又は転出」「転出又は留任」「退職」の7種類から適切なものを選んで記入することになっている。 また,本件内申書は,平成10年度末定期人事異動のため,α町教育委員会が地教行法38条2項に基づき,教育長の助言により作成し,被告委員会に提出した文書であり,その様式は別紙2のとおり,「整理番号」「発令種目」「発令(職名・所属)」「現在(所属・職名)」「職員番号」「氏名」「備考」の各記入欄により構成されており,このうち,「発令種目」欄は,「採用」「昇任」「転任」「退職」「配置換」「兼職」のいずれかを選択する形式で記入することとなっており,また,「発令」及び「現在」欄のうち「職名」欄は「校長」「教頭」「教諭」「養護教諭」のいずれかを選択する形式で記入することになっている。 ウ被告委員会は,原告に対し,平成12年11月16日付けで,上記開示請求のうち,本件内申書の記載全部について,「個人の評価,選考等に関する情報であって,請求者に開示することにより,当該評価,選考等に著しい支障を及ぼすおそれがあり,本件条例14条1項3号に該当する。また,実施機関と市町村教育委員会との間における検討等に関する情報であって,請求者に開示することにより,将来の検討等に著しい支障を及ぼすおそれがあり,本件条例14条1 件条例14条1項3号に該当する。また,実施機関と市町村教育委員会との間における検討等に関する情報であって,請求者に開示することにより,将来の検討等に著しい支障を及ぼすおそれがあり,本件条例14条1項5号に該当する」として,また,本件意見書記入欄の記載について,上記内申書と同様の理由で,本件説明書きについて,「人事異動の方針に関する情報であって,請求者に開示することにより,将来の人事異動の円滑な実施を著しく困難にするおそれがあり,本件条例14条1項6号に該当する」として,これらを非開示とし,本件意見書のその余の部分につき開示する旨の本件決定を行った。 エ原告は,被告委員会に対し,平成13年1月18日付けで,本件決定について,行政不服審査法6条に基づき異議申立てを行った(以下「本件異議申立て」という。)。 オ被告委員会は,本件異議申立てについて,平成13年3月1日付けで,本件条例23条に基づき山梨県個人情報保護審査会に諮問し,同審査会は,同年9月11日付けで,被告委員会に本件決定は妥当である旨の答申を行い,同答申を踏まえて,被告委員会は,同年10月9日付け(原告への送達は同月10日)で,本件異議申立てを棄却するとの決定をした。 (2) 本件条例には以下の規定がある。 ア(目的)この条例は,県の機関が保有する個人情報の開示及び訂正を求める権利を明らかにするとともに,県内における個人情報の取扱いに関し必要な事項を定めることにより,個人の権利利益を保護することを目的とする(本件条例1条)。 イ(定義)この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる(本件条例2条柱書)。 (ア)個人情報個人に関する情報であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るものをいう(本件条例2条1号本文)。 (イ)実施機関知事,議 ,当該各号に定めるところによる(本件条例2条柱書)。 (ア)個人情報個人に関する情報であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るものをいう(本件条例2条1号本文)。 (イ)実施機関知事,議会,公営企業管理者,教育委員会,選挙管理委員会,人事委員会,監査委員,地方労働委員会,収用委員会及び内水面漁場管理委員会をいう(本件条例2条2号)。 (ウ)行政文書山梨県情報公開条例(平成11年山梨県条例第54号)2条2項に規定する行政文書をいう(本件条例2条5号)。 ウ(自己情報の開示請求)何人も,実施機関に対し,行政文書に記録されている自己の個人情報の開示(個人情報が存在しないときにその旨を知らせることを含む。)を請求することができる(本件条例13条1項)。 実施機関は,開示請求があった場合には,当該開示請求に係る個人情報の開示をしなければならない(本件条例13条3項)。 エ(開示しないことができる個人情報)実施機関は,開示請求に係る個人情報が次の各号のいずれかに該当するものであるときは,前条3項(本件条例13条3項)の規定にかかわらず,当該開示請求に係る個人情報の開示をしないことができる(本件条例14条1項柱書)。 (ア) 個人の指導,評価,診断,選考等に関する個人情報であって,請求者に開示をすることにより,当該指導,評価,診断,選考等に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの(本件条例14条1項3号)。 (イ) 県の機関内部若しくは機関相互又は県の機関と国等の機関との間における審議,検討,調査研究等に関する個人情報であって,請求者に開示をすることにより,当該審議,検討,調査研究等又は将来の同種の審議,検討,調査研究等に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの(本件条例14条1項5号)。 (ウ) 県の機関又は国等の機関が行う取締り,検査,監査,争 により,当該審議,検討,調査研究等又は将来の同種の審議,検討,調査研究等に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの(本件条例14条1項5号)。 (ウ) 県の機関又は国等の機関が行う取締り,検査,監査,争訟,交渉その他の事務に関する個人情報であって,請求者に開示をすることにより,当該事務若しくは将来の同種の事務の実施の目的を失わせ,又はその円滑な実施を著しく困難にするおそれのあるもの(本件条例14条1項6号)。 2 本件の争点(1) 被告委員会が本件意見書記入欄及び本件内申書を開示しないとした決定は違法か。 (2) 被告委員会が本件説明書きを開示しないとした決定は違法か。 (3) 原告は被告委員会の違法な決定により精神的損害を受けたか。 3 当事者の主張(1) 争点(1)についてア被告らの主張(ア) 本件意見書記入欄及び本件内申書は,以下のとおり,いずれも本件条例14条1項3号,5号に該当するから,これを開示しなかった被告委員会の決定に違法な点はない。 (イ) 本件意見書記入欄及び本件内申書に記載された情報は,以下のとおり,本件条例14条1項3号に該当し,開示しないことができる情報である。 a 本件条例14条1項3号の趣旨は,個人の指導,評価,診断,選考等に関する情報の中には,その作成者が,本人に知られないことを前提に作成しているものなどがあり,これらについて開示すると,本人に悪影響を及ぼすこと,作成者と本人との信頼関係を損なうこと,作成者が正確な情報を記録できなくなることなどの結果をもたらす場合が考えられるので,これらを防止しようとするものである。したがって,「個人の指導,評価,診断,選考等に関する情報」とは,当該指導,評価,診断,選考等に影響を及ぼすと認められる関連情報についても含むものであり,県が行う事務のみならず,県以外が行うものも したがって,「個人の指導,評価,診断,選考等に関する情報」とは,当該指導,評価,診断,選考等に影響を及ぼすと認められる関連情報についても含むものであり,県が行う事務のみならず,県以外が行うものも含む。また,「著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」とは,本人に対して行われる指導,評価,診断,選考等が適切に行われなくなる場合のみならず,他者に対する同種の指導,評価,診断,選考等が困難になる場合も含む。 b 本件意見書記入欄に記載された情報は,個人の勤労状況,資質,適性等について,その内容を見定めた評価の記録であり,特定の勤務に就く適任者を選考するために使用されるものであり,「出勤状況」「特技・特能」の各欄についても,校長の評価が当然に含まれている。また,本件内申書に記載された情報は,個人の勤労状況,資質,適性等の評価に基づいて,特定の勤務に就く適任者の選考を行う記録であり,それ自体必ずしも個人の評価の記録ではないが,校長が作成した意見書に基づき,選考を行う記録であるから,意見書と一体の文書であり評価に関する個人情報である。 したがって,本件意見書記入欄及び本件内申書に記載された情報は,いずれも個人の評価及び選考に関する個人情報である。 c さらに,本件意見書記入欄の記載は,当該教職員の所属する学校の校長が率直な意見を記入することとされているので,客観的な事実のみが記載されているわけではなく,開示を前提にすると作成者たる校長と評価・選考される教職員が同じ職場にいることから,校長が何らかの心理的圧迫を受け,ありのままの意見を記載しなくなることが容易に予想され,結果として,意見書の内容が形骸化し,人事異動の資料としての適正さが減殺されるおそれがある上,校長と当該教職員との間の評価についての認識の相違から,両者の信頼関係を損なうおそれもある。また 予想され,結果として,意見書の内容が形骸化し,人事異動の資料としての適正さが減殺されるおそれがある上,校長と当該教職員との間の評価についての認識の相違から,両者の信頼関係を損なうおそれもある。また,内申書は,校長が作成した意見書を尊重し,異動対象と判断した教職員について記載した情報であり,その性質上,意見書の内容を反映したものとなっており,内申書に記載された情報を開示した場合には,本件意見書記入欄に記載された情報を開示するのと同様の支障が生じる。 したがって,本件意見書記入欄及び本件内申書に記載された情報は,いずれも開示することにより評価・選考に著しい支障を及ぼすおそれがある。 d なお,原告は評価であれば本人に開示されるべきである旨主張するが,これは個人指導のための評価を前提とするものであり,内申書及び意見書における評価は人事異動のための評価であるからその主張は失当である。 (ウ) 本件意見書記入欄及び本件内申書に記載された情報は,以下のとおり,本件条例14条1項5号に該当し,開示しないことができる情報である。 a 本件条例14条1項5号の趣旨は,行政内部における内部的な審議,検討,調査研究等の情報の中には,機関として未決定の検討案のように未成熟な情報が多く含まれており,これらの情報が本人に開示されることにより,不正確な理解や誤解を与えるおそれがあるとともに,率直な意見の交換が損なわれるなど,当該審議,検討,調査研究等に著しい支障を及ぼすおそれがあるので,これを防止しようとするものである。また,不正確な理解や誤解による混乱は,未成熟な情報が尚早な時期に開示される場合だけでなく,結論が出たものであっても,未成熟な検討段階での資料が事後に開示されれば起こりうるため,事前,事後を問わず検討途中の段階の情報を不開示にできることを定めたものであ な時期に開示される場合だけでなく,結論が出たものであっても,未成熟な検討段階での資料が事後に開示されれば起こりうるため,事前,事後を問わず検討途中の段階の情報を不開示にできることを定めたものである。 b 意見書に記載される情報は,市町村教育委員会の教育長が受け付け,教育長はその判断により市町村教育委員会へ助言を行うものであり,市町村教育委員会はこれをさらに判断した結果,内申の必要ありと認めるものについて,教職員の任命権者である被告委員会に当該事案を内申している。また,被告委員会は,市町村教育委員会の内申をまって教職員の人事を行うこととされ(地教行法38条1項),市町村教育委員会の内申は,被告委員会が任命権者として適正な職員人事を判断する際の重要なよすがとして尊重されるが,その内申に完全に拘束されるのではなく,内申されたものについて発令行為を行うか否かの判断は,飽くまでも被告委員会が当該市町村のみならず全県にわたる適正な職員配置の観点等から独自に行うものである。したがって,被告委員会は,必ずしも意見書及び内申書の記載のとおりに発令行為をするものではなく,本件意見書記入欄及び本件内申書に記載された情報は,校長,市町村教育委員会及び被告委員会が関与する教職員の一連の人事に係る事務において,適正な人事を行うための検討段階の資料であるから,審議,検討,調査研究等に関する個人情報に該当する。 c 教職員の人事異動は,被告委員会が主体となって行う一連の事務であり,校長の意見及び市町村教育委員会の内申はその一連のプロセスの一部分であるにすぎず,本件意見書記入欄及び内申書に記載された情報が開示されると,必ずしもこれに従った発令行為がなされるわけではないから,誤解や臆測から混乱が生じ,発令前にはそのとおり発令すること,あるいはしないことについて圧力・干渉 欄及び内申書に記載された情報が開示されると,必ずしもこれに従った発令行為がなされるわけではないから,誤解や臆測から混乱が生じ,発令前にはそのとおり発令すること,あるいはしないことについて圧力・干渉等がなされ,発令後においてもその後の職員人事について同様の混乱や圧力,干渉等がなされるおそれがあり,これは開示請求者本人との関係のみならず,人事異動に関与する他者との関係においても生じうるから,本件意見書記入欄及び内申書に記載された情報は,開示することにより教職員の人事に係る事務における検討に著しい支障を及ぼすおそれがある。 イ原告の主張(ア) 地教行法は,別途勤務成績の評定について規定しており(地教行法46条),内申書に記載された情報は,教職員の異動について内申する情報にすぎず評価に関する情報ではない。また,本件意見書記入欄のうち「出勤状況」「特技・特能」の欄は事実に基づいて書かれるべきであり,「勤務等の状況」の欄は,評価が含まれる可能性はあるが,権利行使等が不当に評価されないようにする必要があり,さらに,「意見」及び「意見に対する説明」欄は,人事異動の趣旨からして,当該本人が承知していることが人事異動の効果,教育への効果を高めることにつながることから,いずれも開示されるべき個人情報である。 (イ) 人事異動は,そもそも選考に該当しない上,市町村教育委員会の内申は,校長の意見書に拘束されないし,被告委員会の決定も,市町村教育委員会の内申に拘束されないのであるから,意見書は校長の意見として,内申書は市町村教育委員会の内申としていずれも別個の文書として完結した行政文書であり,未決定の検討案のような未成熟の情報ではない。また,意見書及び内申書が開示されると誤解や臆測から混乱,圧力,干渉等がなされるおそれがあると被告らは主張するが,そのようなこ て完結した行政文書であり,未決定の検討案のような未成熟の情報ではない。また,意見書及び内申書が開示されると誤解や臆測から混乱,圧力,干渉等がなされるおそれがあると被告らは主張するが,そのようなことは個人情報の開示とは別問題であり,むしろ,開示されないことにより誤解や臆測による混乱が生じる。 (ウ) 本件決定により,原告は,本件意見書記入欄のうち「意見」欄の記載が「転任」であったか,転任の理由とされた個人情報が正しいものであったか,本件転任処分は教育法条理に反した指示を受けて作成された情報によるものでないか,被告委員会の行う人事異動が適正な手続きに則ったものか,本件転任処分に関する山梨県人事委員会での証言や説明が虚偽であったか,教員本人の意に沿わない転任(不意転)であることなど公務員としての処遇に係る重要な情報を知ることができず,また,自己の情報が正しいかどうかを確かめることができず,誤った情報ないし不完全な情報により誤った判断がされたか否か検証することが不可能になったのであり,本件決定は本件条例の目的に反する。この点,教育という営みの特質から要請される教員の人事の適正という観点からすれば,教員については他の公務員以上に,人事手続に係る情報が開示されるべきである。また,本件条例14条1項3号,5号は,開示しないことができる場合を定めているにすぎず,たとえこれに該当する場合であってもその不開示には限度があり,最小限度を超えれば違法となるし,不開示の必要性及び著しい支障を及ぼすおそれについても具体的に立証されなければならない。 (2) 争点(2)についてア被告らの主張本件説明書きは,任命権者である被告委員会が校長に対し,人事異動の方針を指示している部分であるから,この部分の情報は,そもそも個人情報(本件条例13条1項,2条1号)に該 ついてア被告らの主張本件説明書きは,任命権者である被告委員会が校長に対し,人事異動の方針を指示している部分であるから,この部分の情報は,そもそも個人情報(本件条例13条1項,2条1号)に該当せず,被告委員会に本件条例13条3項に基づく開示義務がない。 したがって,被告委員会が本件説明書きを開示しないとした決定に違法な点はない。 イ原告の主張本件説明書き自体が個人情報でないことは認めるが,これは意見書のうち「意見」欄に記載される個人情報を理解するため必要な情報であり,同時に開示されるべきである。 したがって,被告委員会が本件説明書きを開示しないとした決定は違法である。 (3) 争点(3)についてア原告の主張(ア) 原告は,被告山梨県に所属する被告委員会による違法な本件決定により,自己の公務員としての処遇に係る重要な情報を知ることができず,誤った情報ないし不完全な情報によって誤った判断がなされたか否かを検証することが不可能になり,本件条例がその目的として保護しようとする自己の情報の流れをコントロールする権利及び利益を侵害され精神的な損害を被った(本件決定が違法である旨の主張の詳細は上記のとおり。)。 (イ) 被告委員会は,故意に本件条例の解釈を誤り,本件意見書記入欄及び本件内申書の非開示決定を行った。 (ウ) その損害額は,10万円である。 イ被告山梨県の主張本件決定に違法な点はない(主張の詳細は上記のとおり。)。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について(1) 本件条例は,山梨県の機関が保有する個人情報について,本人が開示及び訂正を求める権利を認めることを宣言したものであって(本件条例1条,乙4参照。),本人から開示請求があった場合には原則として実施機関は当該開示請求にかかる個人情報を開示する必要がある(本件条 示及び訂正を求める権利を認めることを宣言したものであって(本件条例1条,乙4参照。),本人から開示請求があった場合には原則として実施機関は当該開示請求にかかる個人情報を開示する必要がある(本件条例13条3項)が,他方,本件条例14条1項各号は,本人による個人情報の開示請求であっても,公共の利益や第三者の利益との調整等の観点から開示することが適当でない場合について,例外的に本人にも開示しないことができる旨定めている。 この点,本件条例14条1項各号の文言及び内容からして,非開示とすべき個人情報を一義的かつ限定的に列挙したものと解することはできず,当該情報の作成・使用目的,情報が開示された場合の弊害等を実質的に判断した上で同項各号に該当するか否かを判断せざるを得ないが,個人情報は原則として本人に対し開示されるべきものであるから,いたずらに非開示事由を拡大するような解釈をしてはならないことはいうまでもなく,当該事案における開示による弊害等諸般の事情を総合考慮して,当該実施機関の判断が裁量権の範囲を超え又はその濫用があったと認められる場合には,当該非開示決定が違法になるものと解するのが相当である。 (2) ところで,甲17号証によれば,県費負担教職員である市町村立小学校の教諭等の任免等(転任処分を含む。以下同じ。)は,通常,校長が市町村教育委員会に意見を申し出て(地教行法39条),市町村教育委員会は教育長の助言により都道府県教育委員会に対して任免等を内申し(地教行法38条2項),これを受けて都道府県教育委員会が任免等をする(地教行法38条1項)という経過をたどる。これは,都道府県教育委員会の県費負担教職員の任免権の行使に際し,監督者である市町村教育委員会や校長の意見を反映させ,教職員の適正配置と教育水準の維持を図りつつ,人事に係る事務の円滑 経過をたどる。これは,都道府県教育委員会の県費負担教職員の任免権の行使に際し,監督者である市町村教育委員会や校長の意見を反映させ,教職員の適正配置と教育水準の維持を図りつつ,人事に係る事務の円滑を期するためである。もっとも,都道府県教育委員会は,市町村教育委員会の内申を尊重する必要はあるが,これに拘束されるものではなく,また,市町村教育委員会の内申も校長の意見に拘束されるものではなく,事案によっては,校長の意見の申出がなくても,教育長の助言により,都道府県教育委員会に対し県費負担教職員の任免等を内申することができる。 (3) 本件意見書について以上説示したところを前提に検討すると,本件意見書は,校長が所属の県費負担教職員の任免等に関する意見を市町村教育委員会に申し出るために作成するものであり,市町村教育委員会が都道府県教育委員会に対し県費負担教職員の任免等に関する内申をするか否かの判断資料とし(必ずしもこの内申が校長の意見を前提とするものでないことは上記説示したとおりである。),都道府県教育委員会が最終的に当該教職員の任免等を行うか否かの判断資料とするための文書であるところ,本件意見書記入欄のうち「出勤状況」「特技・特能」「勤務等の状況」欄については,校長が,それまでの当該教職員の職務等を監督してきた結果や業績に基づき当該職員の任免等の判断に必要な評価を記載するものであり,「意見」「意見に対する説明」欄の各記載については,上記評価に加え,当該教職員の教師としての成長や身上関係,学校としての教職員の配置等を総合考慮して人事異動の意見及びその理由を記載するものであるから,本件意見書記入欄の記載は,いずれも評価又は選考に関する個人情報ということができる。 このように,本件意見書は,県費負担教職員の人事に係る事務に資することを目的とする 理由を記載するものであるから,本件意見書記入欄の記載は,いずれも評価又は選考に関する個人情報ということができる。 このように,本件意見書は,県費負担教職員の人事に係る事務に資することを目的とする文書であって,その記載には校長の主観的評価,判断が含まれるところ,当該教職員に対する指導監督を目的とするものではなく,これまで本人に開示することを前提にして作成されたものでもないから,本件意見書記入欄には忌憚なく当該職員のプラス面のみならず,マイナス面を記載することになり,また,意見についてはその当否はともかく必ずしも当該職員の希望と一致しない記載がされることも想定される。そうすると,本件意見書記入欄に記載された情報が開示された場合,その記載内容について紛糾したり,当該教職員が校長に対し反感や不信感を抱いたりするなどして,人事に係る事務の適正かつ円滑な執行に混乱を生ずるおそれがあるばかりか,これによりその後の職務についても支障が生ずることも考えられる。さらに,当該教職員とともに職務を行い,これを直接監督する立場にある校長が,上記のような混乱をおそれて意見書に率直な意見の記載をすることを控え,公平・客観的な評価をしなくなるようになり,ひいては,意見が的確に伝わらない事態が生ずるなどして,意見書が適正かつ円滑な人事に係る事務の資料としての機能を果たさなくなるおそれもあり,かえって教職員の人事に係る事務を不透明にする可能性もあることなどを指摘することができる。そして,かかる開示に伴う諸弊害は,転任等の当該人事前はもちろん,その後の人事に係る事務やその他の職務に与える影響等を考慮すると当該人事後についても生ずるものといえる。 これらを総合考慮すると,本件意見書開示に伴う上記諸弊害発生のおそれは,それぞれ重大なものであり,人事に係る事務等の適正かつ円滑 に与える影響等を考慮すると当該人事後についても生ずるものといえる。 これらを総合考慮すると,本件意見書開示に伴う上記諸弊害発生のおそれは,それぞれ重大なものであり,人事に係る事務等の適正かつ円滑な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるということができる。 以上検討したところによれば,本件意見書記入欄の記載は,評価又は選考に関する個人情報であり,これらの個人情報を請求者に開示することにより,当該事務に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められるから,本件条例14条1項3号に該当し,本件意見書記入欄の記載を開示することが同項5号に該当するか否かを検討するまでもなく,本件意見書記入欄の記載を開示しなかった被告委員会の決定に裁量権の逸脱又は濫用等の違法な点は認められない。 (4) 本件内申書について次に,本件内申書について検討すると,争いのない事実等(1)イのとおり,本件内申書には,市町村教育委員会が都道府県委員会に対してした当該職員の任免等の内申の結論のみが記載されているものと認められ,かかる記載は少なくとも選考に関する個人情報が記載されているものといえる。 ところで,被告らは,本件内申書は,校長が作成した本件意見書を尊重し,本件意見書の内容を反映したものとなっているから,これを開示した場合には,本件意見書記入欄に記載された情報を開示するのと同様の諸弊害が生ずる旨主張するが,本件内申書の記載は本件意見書記入欄の記載とは異なり,任免等の結論のみを示すもので,主観的な評価を含むとも言い難く,また,市町村教育委員会は,校長とは立場が異なり,当該教職員とともに職務を遂行するような立場にはない上,当該職員らによって圧力が加えられたとしても組織としての対応が十分可能と考えられ,本件内申書の開示により,市町村教育委員会が率直な意見の記載を差し控えるよう ともに職務を遂行するような立場にはない上,当該職員らによって圧力が加えられたとしても組織としての対応が十分可能と考えられ,本件内申書の開示により,市町村教育委員会が率直な意見の記載を差し控えるようなことは想定することが困難で,本件意見書記入欄を開示した場合と同様の諸弊害が生ずるおそれは小さいものといえる。なお,意見書及び内申書と実際の任免等の発令との間にそれぞれ齟齬が生じたことが本件内申書の開示により判明した場合などに,当該人事に係る事務等の混乱,その後の人事に係る事務等についての支障が生じ,これにより県費負担教職員の適正かつ円滑な人事に係る事務に支障が生ずるおそれが予想されないわけではないが,かかるおそれは一般的・抽象的な域を出ないと見られるから,少なくとも当該人事後に本件内申書に記載された情報を開示することにより,当該人事に係る事務に著しい支障を及ぼすおそれがあるとまでいうことはできない。そして,本件内申書の記載から本件意見書記入欄の記載が推定されるとしても,せいぜい校長の意見であり,これについても必ずしも意見が一致するわけではないから,本件内申書を開示することにより,本件意見書記入欄を開示したのと同様の結果が生ずるとはいえない。 また,本件内申書は,上記説示のとおり,県費負担教職員の任免等の資料とするため,市町村教育委員会が都道府県教育委員会に宛てて作成するものであるから,そこに記載された情報は,県の機関とその他の機関との間における審議,検討等に関する個人情報であることは認められるところ,内申書に記載された意見と実際の任免等の発令との間に齟齬が生じたことが判明した場合などに,当該職員らが市町村教育委員会又は都道府県教育委員会に対し,その理由の開示を求めたり,反感や不信感を抱くなどして県費負担教職員の人事に係る事務の円滑な執行に 間に齟齬が生じたことが判明した場合などに,当該職員らが市町村教育委員会又は都道府県教育委員会に対し,その理由の開示を求めたり,反感や不信感を抱くなどして県費負担教職員の人事に係る事務の円滑な執行に混乱を生ずるおそれが予想されなくはない。しかしながら,本件内申書は,市町村教育委員会が教育長の助言を受けて作成したものであり,同委員会の確定した意見が記載されているものであり,未成熟な情報ということはできない上,上記のような齟齬が生じることも地教行法上予定されているとも見られるところであり,これについて誤解や憶測が生じ,紛糾を招いたとしても,市町村教育委員会又は都道府県教育委員会は組織として十分対応が可能とも指摘できるから,本件内申書の開示により,直ちに県費負担教職員の人事に係る事務又は将来の同種の事務の適正さが損なわれるとはいえず,少なくとも当該人事後における開示については事務に生ずる支障も著しいとまでいうことはできない。なお,本件意見書の開示の有無は上記判断を左右しない。 以上説示したとおり,本件内申書に記載された個人情報は,少なくとも当該人事後に開示するのであれば,本件条例14条1項3号,5号に規定する当該事務に著しい支障が生ずるおそれがあるということはできず,これを開示しなかった被告委員会の決定には本件条例の解釈適用を誤った裁量権の逸脱又は濫用があったというほかなく,本件決定は本件内申書を非開示とした限りで違法であったものといえる。 2 争点(2)について乙5号証の4及び弁論の全趣旨によれば,本件説明書きには,「全職員の1/2以下にとどめる。」との記載がなされていたこと,かかる記載は,県費負担教職員の任免権者である被告委員会が校長に対し,人事異動の方針を指示するために記載したものと認められる。この点,本件説明書きは,必ずしも本件 める。」との記載がなされていたこと,かかる記載は,県費負担教職員の任免権者である被告委員会が校長に対し,人事異動の方針を指示するために記載したものと認められる。この点,本件説明書きは,必ずしも本件意見書の「意見」欄等に記載される個人情報を理解するために必要な情報とはいえず,原告が本件条例により開示請求することができる「個人に関する情報であって,特定の個人が識別され,又は識別され得る」情報(本件条例2条1号本文)には当たらないから,本件説明書きを開示しなかった被告委員会の決定に違法な点はない(なお,本件説明書きについては,書証として提出された乙5号証の4により,既に原告に開示がされているものの,原告が本件条例の定める手続に基づき個人情報の開示を受けるとの利益は失われておらず,かかる場合に訴えの利益がないとすることは,実施機関による安易な非開示決定を誘発するおそれもあるから,訴訟における書証の提出により事実上開示を受けたことをもって,訴えの利益がなくなったと解することはできない。また,被告委員会は本件決定の通知書に,本件説明書きは本件条例14条1項6号に該当するとの理由を付したにもかかわらず,被告らは,本件審理において,本件説明書きの同号該当性を主張せず,そもそも個人情報に該当しないとの主張しているところ,本件条例16条2項2文が実施機関に対し非開示決定の通知書に理由を付記することを要求した趣旨は,実施機関の恣意抑制及び開示請求者の不服申立ての便宜であると解され,それ以上に実施機関が非公開決定の取消訴訟において当該理由以外の理由を主張することを許さないとの趣旨をも含むとは解されないから,上記被告らの非開示理由の差し替えは許されないものではない。)。 3 争点(3)について上記説示したとおり,本件決定のうち,被告委員会が本件内申書全部を開 さないとの趣旨をも含むとは解されないから,上記被告らの非開示理由の差し替えは許されないものではない。)。 3 争点(3)について上記説示したとおり,本件決定のうち,被告委員会が本件内申書全部を開示しないとの決定をしたことは違法というべきであり,かかる違法な職務行為について被告委員会には少なくとも過失があったということができるから,これにより原告が被った精神的苦痛について,被告山梨県は慰謝料として金5万円を支払う義務がある。 4 以上の次第であって,原告の請求は,主文の限度で理由があるからこれを認容することとし,その余の部分は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 甲府地方裁判所民事部裁判長裁判官樋口直裁判官柴田誠裁判官知野明

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