平成16(ワ)2952 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成17年6月23日 東京地方裁判所
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判決文本文38,814 文字)

H17.6.23東京地方裁判所平成16年(ワ)第2952号損害賠償請求事件 主文 1 被告Aは,原告に対し,200万円及びこれに対する平成14年10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告の被告Aに対するその余の請求及び被告株式会社Bに対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余を被告Aの負担とする。 4 この判決は,原告勝訴部分に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告Aは,原告に対し,2000万円及びこれに対する平成14年10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告A及び被告株式会社Bは,原告に対し,各自133万1799円及びこれに対する平成14年10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,亡C(以下「亡C」という。)が,被告A(以下「被告A」という。)から,癌治療として行っていた新免疫療法と称する治療を受け,被告株式会社B(以下「被告B」という。)から健康食品を購入したところ,死亡するに至ったことから,亡Cの相続人である原告が,被告Aに対しては,新免疫療法には被告Aが発表していたような治療効果はなく,一般的な治療方法の必要性や有用性を説明しなかった説明義務違反があると主張し,被告Bに対しては,新免疫療法の一環として販売されている健康食品に,癌治療の効果はなかったことなどを告知しなかったと主張し,被告A及び被告Bに対し,不法行為(共同不法行為)又は債務不履行に基づき,損害賠償を請求する事案である。 1 前提事実(証拠を掲げない事実は当事者間に争いがない。)(1) 当事者ア原告等亡Cは,昭和21年4月29日生まれの女性であり,平成15年9月3日に死亡した。 原告は を請求する事案である。 1 前提事実(証拠を掲げない事実は当事者間に争いがない。)(1) 当事者ア原告等亡Cは,昭和21年4月29日生まれの女性であり,平成15年9月3日に死亡した。 原告は亡Cの配偶者(夫)であり,遺産分割により,亡Cが有する債権債務を全て相続した(甲C1からC3まで)。 イ被告ら(ア) 被告Aは,免疫学等を専門とする医師であり,平成7年にD大学医学部第一外科兼同大学保健学部助教授に就任し,平成9年9月にEクリニック(以下「被告クリニック」という。)を開設して同クリニックの院長となった。平成10年4月には被告クリニックの院長を辞め,同年5月にF大学腫瘍免疫等研究所教授に就任した。平成16年8月に同研究所を退職し,同年10月から現在まで,Gクリニックの院長をしている。被告Aは,被告クリニック等において,癌治療として「新免疫療法」を行ってきた。(甲B58,乙A4,B33)(イ) 被告Bは,医薬品の研究,開発及び製造,卸,販売等を目的とする株式会社であり,被告Aの妻で薬剤師のHが代表取締役を務め,健康食品等の販売を行っている。被告Bは,現在は被告クリニックと同一建物の同一フロア(2階)に所在し,被告クリニックと隣接している。 (2) 亡Cの診療経過亡Cは,平成13年5月11日,I病院で卵巣・肝臓転移を伴った回盲部大腸癌で緊急手術(卵巣・子宮切除及び大腸回盲部切除術)を受け,平成14年1月28日には同病院で肝臓部切除・胆嚢摘出手術を受け,平成14年5月31日から被告クリニック等で被告Aの新免疫療法を受けたが,平成15年9月3日に死亡した。 亡Cの被告Aによる診療経過は別紙診療経過一覧表記載のとおりであり,I病院及びJ病院における診療経過は別紙診療経過一覧表(I及びJ病院関係)記載のとおりであり,K病院における診療 3日に死亡した。 亡Cの被告Aによる診療経過は別紙診療経過一覧表記載のとおりであり,I病院及びJ病院における診療経過は別紙診療経過一覧表(I及びJ病院関係)記載のとおりであり,K病院における診療経過は別紙参考診療経過一覧表「K病院」欄記載のとおりである(当事者の主張の相違する部分を除き,当事者間に争いがない。)。 また,亡Cの腫瘍マーカー(シアリルLEX-1,STNコウゲン,NCC-ST-439,CA72-4,CEA)の推移,エコー(超音波診断)・レントゲン検査所見,投薬及び通院の経過は,概ね,別紙参考資料のとおりである(前記各診療経過一覧表,甲A2,A3,乙A1,A2)。 2 争点(1) 被告Aが,新免疫療法の効果が乏しいことを容易に知りえたにもかかわらず,化学療法や放射線療法の説明をせずに新免疫療法を選択させ,亡Cの延命利益を奪ったのか否か。 (原告の主張)ア新免疫療法について被告Aは,多数の著作,インターネットホームページ,講演会,患者説明会や患者に手渡す「新免疫療法のご案内」と題するリーフレット等において,癌の治療として被告Aが行っている新免疫療法について,他の癌治療方法に比べ,驚異的な奏効率(化学療法などの癌の治療方法に対する評価に用いられる指標)を示しており,さらに副作用や身体への侵襲もないとし,極めて優れた治療方法であるとしてその有効性を謳っている。そして,被告Aが示す奏効率は,患者及び一般の読者等からみると,当然,被告Aのいう奏効率も他の治療方法について用いられる奏効率と同一であり,新免疫療法が他の治療方法より明らかに有効であると信じさせるものである。亡Cも被告Aの著書,マスコミ報道等をみてそのように信じたものである。 しかし,世界的共通基準(WTO等が承認する奏効率の判定方法)や日本癌治療学会が一般に使用して 有効であると信じさせるものである。亡Cも被告Aの著書,マスコミ報道等をみてそのように信じたものである。 しかし,世界的共通基準(WTO等が承認する奏効率の判定方法)や日本癌治療学会が一般に使用している奏効率は,CT,超音波,レントゲン等の画像診断を用いて判定を行うこととされており,腫瘍マーカーはあくまで例外的な補助手段とされているにもかかわらず,被告Aは,画像診断による判定は行わず,補助手段である腫瘍マーカーだけで,しかも自身に都合のいい腫瘍マーカーだけを採用してその判定をただ1人で行っており,被告Aが示す奏効率判定の結果を他の治療方法の奏効率判定における結果と対比することはできないものである。また,被告Aの奏効率判定は,本来は奏効率の判定など不可能な治療開始時点や手術により癌を切除した症例等についてもなされているなど,ずさんな判定であり,奏効率の水増しもされており,医学的根拠に乏しい。 このように,被告Aの行っている新免疫療法は,その治療効果が承認されておらず,奏効率を評価し直せば,治療効果のないものであることは明らかである。 イ標準的治療について被告らは,亡Cに対しては,癌の3大治療法である手術,抗癌剤投与,放射線照射のいずれも尽くされていると主張するが,被告Aが抗癌剤治療が尽くされていると判断した根拠である腫瘍マーカーCEAの上昇についてはその判断を支える医学的証拠を持っておらず,肝転移については問診のみで医学的な資料を有していなかったのであるから,亡Cに抗癌剤による治療が尽くされていると判断すべき理由はない。実際には,I病院でCEAの低下がみられており,抗癌剤の治療効果が窺える状態にあった。 ウ被告Aの説明義務違反について(ア) 被告Aの説明義務被告Aが実施していた新免疫療法が前記アのようなものであったことからすると Aの低下がみられており,抗癌剤の治療効果が窺える状態にあった。 ウ被告Aの説明義務違反について(ア) 被告Aの説明義務被告Aが実施していた新免疫療法が前記アのようなものであったことからすると,被告Aは,亡Cに対し,自らが提示している新免疫療法の奏効率が,実は一般的に使われている奏効率とは異なるものであり,治療効果が乏しいことを説明すべきであり,確立された治療方法である化学療法及び放射線療法などの必要性や有用性を説明すべきであった。 (イ) 被告Aの説明についてしかし,被告Aは,亡Cに対し,新免疫療法が治療効果に乏しいことを説明せず,化学療法及び放射線療法などの必要性や有用性も説明しなかった。 したがって,被告Aには説明義務違反(過失,債務不履行)がある。 (ウ) 結果との因果関係について亡Cは,被告Aから,新免疫療法の真実の奏効率や治療効果,化学療法及び放射線療法などの必要性や有用性についての説明を受けていれば,新免疫療法を受けることはなく,化学療法及び放射線療法によって延命利益を享受することができた。 (被告らの主張)ア新免疫療法について新免疫療法は,非特異的免疫療法で,β1-3Dグルカン構造を持つある種のキノコ菌糸体成分及び酵母成分,α1-3Dグルカン構造を持つ特殊なオリゴ糖の内服により,インターロイキン12やインターフェロンγの産生を促し,細胞性免疫を賦活化して,癌を殺傷する作用がある細胞障害性T細胞,ナチュラルキラー細胞(NK細胞),NKT細胞が活性化され,ヒトが元来持っている癌に対する免疫力を高めると同時に,サメ軟骨の内服により,癌の新生血管(癌が自らを栄養できるようにするために作る異常血管)の増殖を抑制することにより,癌を小さくする又は癌が大きくなるのを遅くすることを狙った治療法である。 新免疫療法では,細胞障 により,癌の新生血管(癌が自らを栄養できるようにするために作る異常血管)の増殖を抑制することにより,癌を小さくする又は癌が大きくなるのを遅くすることを狙った治療法である。 新免疫療法では,細胞障害性T細胞,ナチュラルキラー細胞(NK細胞),NKT細胞が活性化されるまでに2,3か月かかるため,治療開始後3か月を目途に検査を行い,患者との相性を判定する。 手術,抗癌剤及び放射線が癌の3大治療法であるが,新免疫療法は,これらで対処できない末期癌についても効果が期待できる治療方法である。 イ被告クリニックにおける新免疫療法の説明について(ア) 被告クリニックは,新免疫療法によって癌の治療を行うことだけを目的に設立した診療所であり,また,新免疫療法については保険対象外で患者の負担が重いことから,当然,患者に対して新免疫療法の説明を行い,納得を得ている。被告Aは,著書,ホームページ,患者説明会で一般的な説明を行っているが,個別の患者に対し,資料を示し,詳細に説明を行っている。 (イ) 被告クリニック初診時の亡Cの状態亡Cは平成14年5月31日に被告クリニックに初めて来院したが,そのときには同人のS状結腸癌は肝臓へ遠隔転移があり,ステージⅣであった。 ステージⅣであれば,癌の3大治療法である手術,抗癌剤投与,放射線照射のうち,手術及び放射線照射については適応がないとされている。亡Cは,平成13年5月及び平成14年1月に手術を受けており,被告クリニック来院以前に既に抗癌剤である5-FU500mg+アイソボリン,CPT-11の投与が多数回実施されていて効果がなかったことから,被告クリニック初診時に既に末期の状態であり,有効な一般的治療法はなかった。可能なのは,延命を期待する治療又は生活の質(QOL)向上のみを考えた疼痛緩和治療だけであった。 (ウ) かったことから,被告クリニック初診時に既に末期の状態であり,有効な一般的治療法はなかった。可能なのは,延命を期待する治療又は生活の質(QOL)向上のみを考えた疼痛緩和治療だけであった。 (ウ) 亡Cに対する説明被告Aは,亡Cに対し,平成14年5月31日の初診時に,亡Cの状態はステージⅣであり,前記のように平成13年5月及び平成14年1月に手術が実施されており,抗癌剤治療については被告クリニック来院以前に既に5-FU500mg+アイソボリンの投与が実施されており,放射線療法については適応がないこと,すなわち癌の3大治療法は既に尽くされていることを説明した。 その上で,被告Aが行っている新免疫療法を実施した場合には効果がある可能性があること,新免疫療法には副作用が少ないこと,自由診療で費用がかかることを説明した。 亡Cは,I病院で同人の病状について説明を受けており,被告Aの前記説明を十分理解できたし,ステージⅣで癌の3大療法は既に尽くされていることを理解しており,可能性が低くても3大療法以外の療法を試してみたいとの意向を有していた。 したがって,被告Aに説明義務違反はない。 ウ因果関係について亡Cは,被告クリニック受診時には,既に化学療法は尽くされ,放射線療法は適応がない状態であり,有効な一般的治療法はない状態であったから,標準的治療方法を実施しても延命し得たとはいえない。 (2) 被告Aがイレッサの適応や副作用についての説明を怠ったのか否か。 (原告の主張)ア被告Aは,亡Cに対し,平成14年9月20日からイレッサを処方しているが,イレッサは厚生労働省が肺癌についてのみ適応を認めた薬剤であり,特に大腸癌には全く効果がないという報告があり,亡Cには適応がなった。 また,イレッサは間質性肺炎を併発する副作用の危険性が指摘されており,発疹 は厚生労働省が肺癌についてのみ適応を認めた薬剤であり,特に大腸癌には全く効果がないという報告があり,亡Cには適応がなった。 また,イレッサは間質性肺炎を併発する副作用の危険性が指摘されており,発疹が副作用として起こることもある。 これらのことから,被告Aは,亡Cに対し,イレッサの有効性及び副作用について説明する義務がある。 イしかし,被告Aは,亡Cに対し,イレッサの有効性及び副作用について説明したことがなかった。 亡Cは,イレッサについて大腸癌,肝臓癌等への有効例の報告が見られず,厚生労働省が肺癌のみにしか適応を認めておらず,重大な副作用もある薬剤であることを説明されていたら,あえて高額の薬代を支払ってその服用に同意するとは考えられない。 (被告らの主張)ア被告Aは,平成14年8月23日,亡Cの腫瘍マーカーCEAが上昇し続けていることから,新免疫療法の効果が出るまでに時間がかかる可能性があり,新免疫療法のみでは癌の増殖を抑制することがかなり難しいと考えられたため,亡Cにその旨説明し,イレッサについて,大腸癌に対する有効性が考えられることとともに副作用が出現する可能性があることを絵や図表を用いて十分に説明した。 さらに,被告Aは,平成14年9月20日,亡Cに対し,肺に多発転移が増大していること,肝臓に転移が現れたこと,腫瘍マーカーCEAが上昇していること,新免疫療法は効果が出るまでに時間を要する者がいること,新免疫療法とイレッサを併用すると大腸癌にも効果が現れる者もいること,イレッサは大腸癌に対する有効性も示唆され,論文にも掲載されていることを分かりやすく説明した。そして,図表を使ってイレッサの副作用と効果を十分説明し,保険がきかない新薬で高額なことなども説明し,亡Cが了解した上でイレッサの経口投与を開始した。 イしたがって,被告 を分かりやすく説明した。そして,図表を使ってイレッサの副作用と効果を十分説明し,保険がきかない新薬で高額なことなども説明し,亡Cが了解した上でイレッサの経口投与を開始した。 イしたがって,被告Aに説明義務違反はない。 (3) 被告Bが,亡Cに対し,自らの販売する健康食品等が,医薬品ではなく癌の治療効果を持つものでないことを告知すべきところ,これを怠り,新免疫療法の効果について亡Cが誤信しているのに乗じて高額の健康食品等の販売を行ったのか否か。 (原告の主張)ア被告Bについて被告Bは,被告Aが60パーセントを出資する株式会社であり,被告クリニックの薬剤師で同クリニックの経営に主体的に関与している被告Aの妻Hが代表者を務めており,他の役員も被告Aの親族又は被告クリニックの職員が務めており,実質的な経営主体は被告Aである。 そして,被告Bは,被告Aが癌治療に効果があると提唱している健康食品を販売しており,被告クリニックで診察を受けた患者が,被告クリニックで医薬品の処方を受け,隣接する被告Bで被告Aが指示した健康食品を購入することになっている。そして,被告Bは一般の通行人が気づく場所にはなく,被告クリニックで診察を受けていない者が被告Bで健康食品を購入することはない。したがって,もっぱら被告Aの新免疫療法を受けている患者に被告Aが指示する健康食品を販売するためだけに存在しているといえ,被告Bで健康食品を購入する者は,被告Aの著作・講演・ホームページを見聞し,被告Aの診察を受けて,新免疫療法に驚異的な癌治療の奏効率があると信じ,その治療の一環として,健康食品にも驚異的な癌治療の効果があると信じて健康食品の購入に訪れるのである。被告Bはこのような実態については十分認識していた。 イ被告Bの責任についてしかし,前記のように,被告Aの新免疫 して,健康食品にも驚異的な癌治療の効果があると信じて健康食品の購入に訪れるのである。被告Bはこのような実態については十分認識していた。 イ被告Bの責任についてしかし,前記のように,被告Aの新免疫療法は医学的根拠に乏しく,治療効果がないものであり,また,被告Bで販売している健康食品は,医薬品ではなく単なる食品にすぎず,医学的には癌に対する治療効果があるとは認められていない。 したがって,被告Bとしては,その販売する健康食品は医薬品ではなく,癌治療の驚異的な効果はないことを告知するべきである。にもかかわらず,被告Bは健康食品の購入者に対してそのような説明を行っていない。 よって,被告Bには,不法行為(共同不法行為)又は売買契約上の債務不履行があるというべきである。 (被告らの主張)ア原告の主張は争う。被告Aは亡Cに対し,新免疫療法について十分説明しているのであり,亡Cに誤信はない。 被告Bは,薬剤師ではないし,薬局でもないから,それを前提とした医薬品及び健康食品の効能と副作用等について患者に助言すべき義務は発生しない。 イ被告Bは,被告Aの妻で薬剤師のHが代表者を務めていることは事実であるが,被告Bは被告クリニックと実質上一体であるとはいえない。 被告B以外でも新免疫療法で必要な健康食品は販売・処方されており,被告クリニックの患者でも被告B以外で健康食品を購入する者もおり,被告クリニックへの通院が必要なくなった元患者や患者の知人が購入することもある。 (4) 損害及び損害額(原告の主張)ア亡Cの損害亡Cが標準的な治療方法による治療を受けた場合にどの程度の延命が可能であったかは明らかではないが,癌細胞増加数と腫瘍マーカーの増加の相互関係から数理的に算定すると,少なくとも平成16年12月までは生存していたものと考えられ,数年の延命は 場合にどの程度の延命が可能であったかは明らかではないが,癌細胞増加数と腫瘍マーカーの増加の相互関係から数理的に算定すると,少なくとも平成16年12月までは生存していたものと考えられ,数年の延命はできたものと考えられる。 イ被告Aが賠償すべき損害-慰謝料亡Cは,効果のない治療法を有効なものと信じて受け,一般的な治療を受け,延命の利益を失った。 亡Cの精神的苦痛に対する慰謝料は,2000万円を下らない。 ウ被告らが連帯して賠償すべき損害-医療費,薬品・健康食品購入費等亡Cが被告A及び被告Bに支払った医療費,薬品・健康食品購入費等は,確認できる範囲で133万1799円であり,この損害については,被告Aのみならず,被告Bも不法行為(共同不法行為)又は債務不履行に基づき被告Aと連帯して賠償責任を負う。 エ相続前記ア及びイの損害額の合計は2133万1799円であり,被告Aに対する2000万円の損害賠償請求権並びに被告A及び被告Bに対する133万1799円の損害賠償請求権を,原告が相続した。 オまとめよって,原告は,被告Aに対し,不法行為又は債務不履行に基づき,2000万円及びこれに対する不法行為の日より後であり弁済期後の日である平成14年10月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告A及び被告Bに対し,不法行為(共同不法行為)又は債務不履行に基づき,各自133万1799円及びこれに対する不法行為の日より後であり弁済期後の日である平成14年10月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告らの主張)原告の主張は争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(被告Aが,新免疫療法の効果が乏しいことを容易に知りえたにもかかわらず,化学療法や放射線療法の説明をせず 損害金の支払を求める。 (被告らの主張)原告の主張は争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(被告Aが,新免疫療法の効果が乏しいことを容易に知りえたにもかかわらず,化学療法や放射線療法の説明をせずに新免疫療法を選択させ,亡Cの延命利益を奪ったのか否か)について(1) 被告Aが行っていた新免疫療法についてア新免疫療法の概要被告Aは,新免疫療法の内容,メカニズムについて,以下のとおり説明している(甲B1,B2(枝番を含む。以下,枝番のある書証について,特に枝番を表示しないときは,全ての枝番を含む。),B7,B11,B12,B23,B26,B27,B29,B34,B58,乙A4,B2,B4,B33,被告A本人)。 新免疫療法は,人間が本来持ち合わせている免疫機能を高め,かつ,癌の増勢に伴い形成される新生血管の形成阻害を行うことにより,抗腫瘍効果を期待する治療法である。具体的には,免疫機能を高める目的でβ1-3Dグルカンを基本構造とする担子菌糸体や酵母由来の食品,医薬品を,新生血管の形成を阻害する目的でサメ軟骨加工品を摂取するというものである。 β1-3Dグルカンはインターフェロンγやインターロイキン12の産生を促し,Ⅰ型ヘルパーT細胞系が賦活化され,実際に癌細胞を殺傷する作用がある細胞障害性T細胞(CTL),ナチュラルキラー細胞(NK細胞),NKT細胞が活性化され,細胞障害活性が向上する。また,ベターシャークMCというサメ軟骨は,癌細胞から産生され,癌細胞が増殖する原因となる新生血管造成因子(サイトカイン)を阻害するという作用がある。これら2つの作用により,癌が小さくなり,又は大きくなるのが遅くなる。 全体の免疫能力が癌の進行状況によって,摂取する薬品・食品(健康食品)を調整し,抗癌剤との併用投与も行うことがある。 イ実際の診療(甲B5 作用により,癌が小さくなり,又は大きくなるのが遅くなる。 全体の免疫能力が癌の進行状況によって,摂取する薬品・食品(健康食品)を調整し,抗癌剤との併用投与も行うことがある。 イ実際の診療(甲B55,B58,乙A4,B33,被告A本人)被告クリニックにおける新免疫療法の診療としては,被告クリニックにおいて,診察,腫瘍マーカーの測定等の検査がされるほか,医薬品としてSPG(ソニフィラン),OK-432(ピシバニール),PSK(クレスチン),ビタミンD3(活性型ビタミンD),ウルソデオキシコール酸等が処方され,被告Bにおいて,健康食品であるILX,ILY,ベターシャークMC・LO,OG1・3A(ニゲロオリゴ糖),SIA,イミュトール,総合ビタミン等が処方される。 なお,被告AがD大学病院において新免疫療法を実施していたときには,健康食品は,D大学病院付近の薬局に依頼して販売してもらっていた。 ウ被告Aの書籍,ホームページ,講演等の内容(ア) 「新免疫療法(NITC)のご案内」と題するパンフレット(甲B1)新免疫療法の特徴として,分子標的薬(ハーセプチン,イレッサ,グリベック等)を組み合わせることにより,患者によっては劇的な治療効果が得られていること,癌の種類に関係なくどんな癌にも対応できるため,難治性の骨転移にも有効性が多く見られ,患者の免疫パラメーターを測定することによって免疫細胞の攻撃性を特異的に高めることができることが記載されている。そして,新免疫療法のメリットとして,抗癌剤と異なり副作用がほとんどないこと,QOL(生活の質)が高まること,抗癌剤や放射線治療の副作用も軽減することができることなどが記載されている。 また,これまでの実績として,驚異的な治療効果と題し,新免疫療法を受けた患者数が1万名以上に上り,うち,2002年(平成1 抗癌剤や放射線治療の副作用も軽減することができることなどが記載されている。 また,これまでの実績として,驚異的な治療効果と題し,新免疫療法を受けた患者数が1万名以上に上り,うち,2002年(平成14年)8月末現在で,効果判定に必要な血液検査を受けた患者3763名の治療効果として,CR(著効。4週間以上癌が消失している状態)とPR(有効。癌が半分以下に縮小し4週間以上保てた場合)を合わせた奏効率が36.3パーセントで,これにLongtermNC(長期不変。6か月以上癌の大きさが変化しない状態)を合わせると53.8パーセントとなると記載され,癌の種類ごとに効果判定をまとめた表が添付されている。そして,これらの奏効率は,画期的な奏効率で,患者の大部分が末期癌や進行癌であることを考慮すると,この治療効果は驚異的な数値であると学会でも評価されるようになったと記載されている。治療効果の判定方法については,CR(著効)を4週間以上癌が消失している状態,PR(有効)を癌が半分以下に縮小し4週間以上保てた状態,LongtermNC(長期不変)を6か月以上癌の大きさが変化しない状態であるとそれぞれ定義づけ,効果判定を原則的には画像と腫瘍マーカーで行うが,画像がない場合には腫瘍マーカーのみで判定したとし,治療法は原則免疫療法が中心だが,一部他の治療法も併用していると記載されている。 料金については,初診料又は再診料,1か月分の医薬品,血液検査料,食品(いわゆる健康食品)1か月分を含み,初診時が18万円から34万円くらい,再診時は9万円から30万円くらいで,1か月平均で約17万円であったことが記載されている。 (イ) 「免疫療法の最前線ガン細胞が消えた」と題する書籍(1997年(平成9年)2月発行。甲B2の2)本書籍の外帯には,「TV,雑誌が注 ,1か月平均で約17万円であったことが記載されている。 (イ) 「免疫療法の最前線ガン細胞が消えた」と題する書籍(1997年(平成9年)2月発行。甲B2の2)本書籍の外帯には,「TV,雑誌が注目!」との記載に続き,1995年(平成7年)から,1996年(平成8年)にフジTV「スーパータイム」「ニュース・ジャパン」,週刊新潮,女性自身,東京スポーツ,フライデーにおいて,被告Aの新免疫療法が取り上げられたことが記載されている。 本文中には,新免疫療法の治療効果は腫瘍マーカー値の低下で確認できるとし,1996年(平成8年)8月14日現在で,58例の集計結果で,CR(完全消失)26パーセント,CR~PR(極めて高率の消失例)8.6パーセント,PR(半分以上減少)44.4パーセント,NR(50パーセント未満の減少,25パーセント未満の増大)21パーセントであり,79パーセントの人に新免疫療法が効いていると記載し,CR,PR,NR等の指標については,日本癌治療学会の効果判定基準を説明し,これに準じて話を進めるとしている。そして,新免疫療法は,まだまだ発展途上だが,これだけで癌が完全に治る時代もそう遠くないことは確かであるとし,抗癌剤や放射線治療との併用についても言及している。 (ウ) 「新免疫療法でガンを治す」と題する書籍(1999年(平成11年)12月発行。甲B6)新免疫療法の効果として,1999年(平成11年)8月現在,患者総数は8000名を超えているが,1998年(平成10年)6月までの集計で,3か月以上通院し,2回以上の免疫能力を測定しえた1317例(大部分が進行・末期癌)中,CR(4週間以上腫瘍が消失している状態)が18.4パーセント,PR(腫瘍の50パーセント以上が消えた期間が4週間保てた状態)が27.5パーセントで奏効率が45 317例(大部分が進行・末期癌)中,CR(4週間以上腫瘍が消失している状態)が18.4パーセント,PR(腫瘍の50パーセント以上が消えた期間が4週間保てた状態)が27.5パーセントで奏効率が45.9パーセントであり,GCP(医薬品の臨床試験の実施に関する基準)の有効率をはるかに超えており,副作用がないことなどが記載されている。 (エ) 「新免疫療法(仮称)(NovelImmunotherapyforCancer; NITC)における血管新生阻害剤の役割」と題する論文(Biotherapy Vol.14。平成12年9月(乙B2))新免疫療法において,平成9年9月から治療し,3か月以上投薬が可能で検査が複数回可能であった1317例中,CRが18パーセント,PRが27パーセント,NCが35.8パーセントであり,また,新免疫療法施行の29例の中で,CR6例,PR9例,LNC(6か月以上NC)7例において治療前の12例に比較して血管新生促進因子の有意の低下が認められたことなどから,新免疫療法施行例において血管新生阻害剤ベターシャークが重要な役割を演じていると考えられると記載されている。 (オ) 「さらに進化した新免疫療法ガン細胞が消えた2」と題する書籍(2001年(平成13年)2月発行。甲B7)本書籍の外帯には,「各マスコミも注目の新療法!」との記載に続き,2000年(平成12年)にサンデー毎日,週刊現代,週刊ポスト,日刊ゲンダイで取り上げられたこと等が記載されている。 本文中には,2153例中,奏効率(CR+PR)31.0パーセント,奏効率(CR+PR+LNC)52.7パーセントであったことを示す表が記載され,平均治療期間としてCR17.5か月,PR11.8か月,LNC14.7か月,SNC(短期不変)3.1か月,PD(進行)11.7 (CR+PR+LNC)52.7パーセントであったことを示す表が記載され,平均治療期間としてCR17.5か月,PR11.8か月,LNC14.7か月,SNC(短期不変)3.1か月,PD(進行)11.7か月となっている。また,世界的に用いられている癌治療の評価方法には,腫瘍が消失して4週間以上持続すればその後進行し死亡してもCRと判定されるなど,問題が多いと指摘している。 (カ) 「NTK細胞活性化におけるT細胞受容体とNK受容体の役割の相違」と題する論文(雑誌「臨床免疫」37号(平成14年1月)甲B23)NKT細胞が自己免疫疾患のみならず,抗腫瘍免疫の面でも重要な役割を担う細胞であることが分かりつつあるとして,NKT細胞の性質について論じている。 (キ) 「オーダーメイド治療があなたを救う新免疫療法でがん消滅!」と題する書籍(平成15年2月発行。甲B2の1)従来の癌治療は,手術,抗癌剤投与,放射線照射が3本柱であるが,期待した効果は得られず,患者やその家族に辛い思いをさせたことがあったが,新免疫療法では治療において患者に苦しみを与えず,QOLも高められる治療法であり,新免疫療法を癌に対する「現代の福音」であると記載されている。 そして,1996年(平成8年)9月から2002年(平成14年)8月31日までの3763例の集計結果であるとして,新免疫療法の部位別の奏効率(CR(腫瘍が消えて4週間以上),PR(腫瘍が半分以下になって4週間以上),LNC(腫瘍の大きさが変化せず6か月以上)の合計)として,肺癌45パーセント,婦人科系癌62パーセント,消化器系癌47パーセント,頭頚部系癌54パーセント,泌尿器系癌68パーセント,皮膚癌64パーセント,血液系癌62パーセント,骨・軟部腫瘍51パーセント,その他の癌71パーセントという数値を挙げてい 化器系癌47パーセント,頭頚部系癌54パーセント,泌尿器系癌68パーセント,皮膚癌64パーセント,血液系癌62パーセント,骨・軟部腫瘍51パーセント,その他の癌71パーセントという数値を挙げている。そして,厚生労働省の抗癌剤判定基準が奏効率20パーセント以上,一般的な抗癌剤では奏効率は良くて30パーセントが限界と言われていることから,被告Aの場合にはLNCを含めているものの,50パーセントを超えるこれらの奏効率が,掛け値なしに医者をして信じられないほどの高率であると記載されている。 (ク) 「新免疫療法(NITC)の治療成績とイレッサ併用の効果と成績」と題する論文(「呼吸」22巻12号別刷。平成15年10月。乙B4)新免疫療法における肺癌の奏効率について,評価は腫瘍マーカーと画像とで施行したが,画像が得られない場合は腫瘍マーカーのみで行ったという前置きがあり,肺腺癌では410例中CRとPRの奏効例が30.7パーセント,LNC(6か月以上NCの状態を維持)を含めた奏効例が43.7パーセントで,扁平上皮癌では86例中CRとPRの奏効例が40.7パーセント,LNCを含めた奏効例が50パーセント,小細胞肺癌では48例中CRとPRの奏効例が43.8パーセント,LNCを含めた奏効例が50パーセント,大細胞肺癌では14例中CRとPRの奏効例が42.9パーセントであったとした上で,分子標的治療剤イレッサとの併用投与でさらに効果があがる可能性があると記載されている。 (ケ) 「新免疫療法(NITC)のがんを攻撃するしくみ」と題するホームページ(甲B11,B12,B26,B27,B34,B58,乙B33)a 新免疫療法の概要等のほか,治療効果の判定基準について,当初,CR=腫瘍が消滅して4週間以上,PR=腫瘍が半分以下のまま4週間以上,Longte 2,B26,B27,B34,B58,乙B33)a 新免疫療法の概要等のほか,治療効果の判定基準について,当初,CR=腫瘍が消滅して4週間以上,PR=腫瘍が半分以下のまま4週間以上,LongtermNC=腫瘍の大きさが変化せず6か月以上,ShorttermNC=腫瘍の大きさが変化せず6か月未満,PD=腫瘍の大きくなる状態と定義した上で,奏効率(CR+PR+LNC)が53.8パーセント,奏効率(CR+PR)が36.3パーセントであると公表している(甲B11)。 b その後,治療効果の判定基準について,従来の判定基準を変更し,腫瘍体積and/or腫瘍マーカーによる総合判定として,PD=腫瘍径and/or腫瘍マーカーが25パーセント以上増加,NC=腫瘍径and/or腫瘍マーカーが25パーセント未満の増減,LNC=NCの状態が6か月以上継続,MR=腫瘍体積and/or腫瘍マーカーが25パーセントから49パーセント減少,PR=腫瘍体積and/or腫瘍マーカーが50パーセント以上減少,CR=腫瘍の消失and/or腫瘍マーカーの正常化,と定義した上で,2002年(平成14年)8月31日現在の3763症例での治療成績として,MR+PR+CRが36.3パーセント,有効率(MR+PR+CR+LNC)53.8パーセント等の数値を公表している(甲B12)。 c 平成16年10月8日及び同月19日の時点では,判定方法として,他の施設の有効率や奏効率と単純に比較することはできず,癌治療学会の効果判定基準とは異なり,腫瘍マーカーを用いた効果判定となっていることを明記した上で,経過観察期間中に対象となる腫瘍マーカーが増加傾向を示す場合で効果判定期間の検査結果が傾向から回帰される12週目の値より低いとき,又は,その腫瘍マーカーが平衡状態又は減少傾向を示す場合で した上で,経過観察期間中に対象となる腫瘍マーカーが増加傾向を示す場合で効果判定期間の検査結果が傾向から回帰される12週目の値より低いとき,又は,その腫瘍マーカーが平衡状態又は減少傾向を示す場合で効果判定期間の検査結果がそのまま減少傾向にあるか正常値にあるときをRとし,その期間が1年以上の場合をLLS,半年以上1年未満の場合をLS,半年未満の場合をSS,経過観察期間中に対象となる腫瘍マーカーが増加傾向を示す場合で効果判定期間の検査結果がそのまま増加傾向にあるとき,又はその腫瘍マーカーが平衡状態又は減少傾向を示す場合で効果判定期間の検査結果が傾向から回帰される12週目の値より高いときをNR,経過観察期間中の傾向によらず,NRの状態が平衡している場合でその期間が半年未満のときをSNRS,半年以上のときをLNRSと定義し,2004年(平成16年)4月15日現在で,2021例中,R+LLS+LS+LNRSの合計が42.0パーセントであることなどが公表されている(甲B26,B27,B34)。 (コ) 「末期患者でも,希望が持てるガン治療-進化を続ける『新免疫療法』の軌跡あきらめるな!進行ガン・末期ガンでも闘える」と題する書籍(2004年(平成16年)8月発行。甲B29)前記(ケ)cの定義を用い,有効率46.1パーセントとした上で,各種癌に新免疫療法又は新免疫療法とイレッサを組み合わせた治療で効果があったことが記載されており,肺癌だけでなく,大腸癌など他の癌にも効果を発揮することが記載されている。 エ被告Aの掲載データの蓄積方法,基礎データ,評価方法(甲B14,B21,B55,B58,乙B33,弁論の全趣旨)(ア) 被告Aから指示を受けた担当者(平成12年2月から平成15年2月まではL(以下「L」という。)が担当)が,患者の血液検査の結果を (甲B14,B21,B55,B58,乙B33,弁論の全趣旨)(ア) 被告Aから指示を受けた担当者(平成12年2月から平成15年2月まではL(以下「L」という。)が担当)が,患者の血液検査の結果を3,4か月分まとめて癌の発生臓器別に分け,さらに患者ごとの腫瘍マーカーと免疫力を測定したデータだけを整理する。それをプリントアウトしたもの(甲B14添付表1)を被告Aが見て,奏効率の判定を「有効性」欄に手書きで記入し,それを担当者がそのまま機械的にデータ入力する。 担当者は,一定の時期に,入力した奏効率が一覧できる表(甲B14添付表2)に,全体としてみた評価として,被告Aの指示により,有効性(奏効率)の判定の中で最もよい判定を「判定用有効性」欄に記入していた。 (イ) 被告Aは,平成10年当時人手が足りなかったので,腫瘍マーカーのみで判定を実施しており,Lが担当していた際も被告Aが画像検査の結果を見たことはなく,判定の際に画像検査の結果を使用せず,ほとんど腫瘍マーカーのみで判定していた。 そして,被告Aは,その著書には,前記方法によって整理・評価し,Lが作成を担当したデータ(甲A1)をその著書,論文等(甲B1,B7,B11,B12,B23,乙B2)に使用した。 (2) 癌の治療方法とその効果の判断方法についてア癌の一般的な治療方法と新免疫療法の位置付け(甲B10,B56)一般的な癌の治療方法としては,外科的手術,抗癌剤投与,放射線療法があり,それに次ぐ治療法として,免疫力を活性化させて癌細胞を消滅させる免疫療法が挙げられることがある。 もっとも,癌の免疫療法は,長期間研究されてきており,自己又は他人のリンパ球を移入する方法,ワクチン療法,特定の部位を攻撃するたんぱくを移入する方法,非特異的に免疫を活性化する方法があるが,効果が期待できる癌の 免疫療法は,長期間研究されてきており,自己又は他人のリンパ球を移入する方法,ワクチン療法,特定の部位を攻撃するたんぱくを移入する方法,非特異的に免疫を活性化する方法があるが,効果が期待できる癌の種類がごくわずかに限られ,奏効率も高々数パーセントと低く,実用的なものはほとんどない状況である。 被告Aが実施している新免疫療法は,免疫療法のうちの非特異的に免疫を活性化する方法に分類されると考えられる。 イ癌の治療効果の判断方法癌の治療効果の判断方法としては,以下のような基準がある(甲B4,B8,B24,B31,B54,B56,B58,乙B13,B33,弁論の全趣旨)。 (ア) WHO癌治療結果報告基準(WHOHandbookforreportingresultsofcancertreatment。甲B4)癌の効果の決定方法として,以下のとおり定義されている。 まず,2方向又は1方向の径が測定可能かどうかで区別し,測定可能な病変については,①すべての知られている病変が消失していることが,4週間以上の期間の2点で観察されていることを完全奏効(著効,CR),②すべての測定された腫瘍病変の大きさが50パーセント以上縮小し,その縮小が4週間以上の間隔の2点で観察されていること,そして新病変の出現やいかなる病変の増強も認められないことを部分的奏効(有効,PR),③すべての腫瘍の大きさが50パーセントの縮小を示したとはいえず,同時にいずれかの病変で25パーセント以上の腫瘍増大があるとも認められない場合を不変(NC),④1つ以上のいずれかの測定可能病変の大きさが25パーセント以上増大したか,あるいは新病変が出現した場合を増悪(病変の進行,PD)という。 測定不能病変については,①すべての知られている病変が少なくとも4週間の間完全に消失した場 変の大きさが25パーセント以上増大したか,あるいは新病変が出現した場合を増悪(病変の進行,PD)という。 測定不能病変については,①すべての知られている病変が少なくとも4週間の間完全に消失した場合を完全奏効(著効,CR),②推定50パーセント以上の腫瘍の縮小が4週間以上続いた場合を部分的奏効(有効,PR),③4週間以上有意な変化がない場合(腫瘍の縮小が推定50パーセント以内に止まり,あるいは推定25パーセント以上の腫瘍増大がなく,疾病が安定している場合)を不変(NC),④それまで認知されなかった新病変の出現あるいは存在した病変の推定25パーセント以上の増大を増悪(病変の進行,PD)という。 効果の持続時間(有効期間)も治療効果の項目として挙げられており,完全奏効(著効,CR)の期間は完全奏効が最初に記録された日時から疾病の増悪(病変の進行,PD)が最初に記録された日までとされ,部分的奏効(有効,PR)に達した患者においては全有効期間(治療開始日時から再び病変が増悪(病変の進行,PD)を示した日時までの期間)のみを記録することとされている。 CR,PR,NC,PDといった他覚的効果は,臨床的にあるいは放射線診断学的に,あるいは生化学的あるいは外科材料による病理学的病期分類(Staging)によって決めることができる。 (イ) 1986年に作成されたWHO癌治療結果報告基準は癌の効果判定基準として広く採用され,日本癌治療学会も同基準を参考にして判定基準(日本癌治療学会固形がん化学療法効果判定基準)を作成し,平成15年5月にはWHO癌治療結果報告基準を改訂した国際的基準であるRECISTガイドライン(固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン)を採用した。 (ウ) 具体的な判定方法いずれの基準でも,効果判定において,一般的には,ある治療 基準を改訂した国際的基準であるRECISTガイドライン(固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン)を採用した。 (ウ) 具体的な判定方法いずれの基準でも,効果判定において,一般的には,ある治療を行った結果,腫瘍の面積が2分の1以下に縮小した状態が4週間以上続いた人の割合を奏効率といい,有効性評価対象例数のうち,CR及びPRと判定された症例の割合をいうとされている。 そして,奏効率の判定は,WHO癌治療結果報告基準が測定可能性及び腫瘍の大きさの変化に着目した基準であったことからもわかるように,画像診断(単純エックス線検査,超音波検査,CT検査,MRI検査等)により判断することが原則であり,画像診断での判断が難しい場合(測定不能の場合)には腫瘍マーカーで代用することもできる。もっとも,画像診断で判定する場合でも,腫瘍マーカーを測定していた場合には,CRの判定には全ての腫瘍マーカーが正常化していなければならないとされている。 また,腫瘍マーカーはあくまで補助的な判定手段であり,単独では有効な判定とはなりにくい。 (3) 被告Aの新免疫療法の効果判定方法等についてア被告Aが実施していた効果判定方法について前記のように,被告Aは,著書等において新免疫療法の治療効果の発表に当たっては,評価指標として,LNCという独自の評価を取り入れているものの,CR,PR,NC,PDといった指標や,奏効率によって治療効果を表示し,WHO癌治療結果報告基準,日本癌治療学会固形がん化学療法効果判定基準,RECISTガイドラインで定義されている指標をほぼ同義で使用しており,それらの基準に準じることを明示している。そして,それらの基準で判定された他の抗癌剤等の治療効果と比較して,新免疫療法が驚異的な治療効果を有する旨を記載しており,それを支持する医師も存在する。 り,それらの基準に準じることを明示している。そして,それらの基準で判定された他の抗癌剤等の治療効果と比較して,新免疫療法が驚異的な治療効果を有する旨を記載しており,それを支持する医師も存在する。(甲B1,B2,B6,B7,B11,B12,B26,B27,B29,B34,乙B13,B15,B20からB30まで)しかし,WHO癌治療結果報告基準,日本癌治療学会固形がん化学療法効果判定基準,RECISTガイドラインにおいては,治療効果の判定は画像診断で実施することが原則とされているにもかかわらず,被告Aは,判定の際に画像検査の結果を使用せず,ほとんど腫瘍マーカーのみで判定しており,その結果を前記のような形で公表している。 被告Aがこのような記載をしていることは,医学的に不正確であり,他の治療方法と治療効果を比較できず,その治療効果については科学的根拠に乏しいものとみざるを得ないにもかかわらず,医学的知識に乏しい一般の者が目にした場合には,癌治療の専門家の著作とされていることもあり,他の治療方法に比べて驚異的な治療効果があり,癌が治癒すると考える者も多数いると考えられる。 イ被告Aが基礎にしていたデータについて(甲B14,B21,B54,B55,B58,乙B7,B33)被告Aは,著書やホームページ(甲B1,B7,B11,B23)等への治療効果の掲載に当たっては,Lがまとめたデータを基礎にしており,その一部(被告AがCRと判断した247症例)が甲A1号証である。 甲A1号証の奏効率の判定は,前記のように,画像検査の結果を使用せず,ほとんど腫瘍マーカーのみで判定したものである。 そして,被告Aが測定していた腫瘍マーカーは相当種類に上るが,癌の治療効果は腫瘍マーカー単独では有効な判定ができないものであり,仮に腫瘍マーカーで治療効果を判定すると カーのみで判定したものである。 そして,被告Aが測定していた腫瘍マーカーは相当種類に上るが,癌の治療効果は腫瘍マーカー単独では有効な判定ができないものであり,仮に腫瘍マーカーで治療効果を判定するとしても,甲A1号証のデータは,まだ治療をしていない段階(治療期間が0)のものであるにもかかわらず,NC(不変)との判定がなされていたり,腫瘍マーカーが異常値を示しているにもかかわらずCRと判定されていたりしている。 また,甲A1号証には,治療開始前に外科手術によって癌が摘出・切除された症例についてもCRと判定されていたり,乳癌の根治手術によって肉眼的に確認できる癌細胞はすべて摘出された後に再発予防のために新免疫療法を始めた患者について,再発が確認されたにもかかわらず,CRと判定されていたり,CRという判定にもかかわらず2か月半から3か月後に死亡した例が含まれている。 さらに,既に被告Aが奏効率の評価をした症例について,Lが手違いで再度プリントアウトして被告Aに渡したところ,被告Aが判定した奏効率が,前回判定した奏効率と異なることも相当あった。 治療効果の判定をするには,ある治療方法の開始前と開始後を比較するべきであると考えられるところ,被告Aは治療開始当初よりも増加する腫瘍マーカー値があり癌が大きくなっていても,以前の一定の時点よりも縮小した場合には効果があるという判定をしており,誤解を与える治療効果の判定方法となっている。 ウ日本癌治療学会の対応(ア) 被告Aが所属する日本癌治療学会は,平成16年2月10日付け質問状(甲B24の2)に対し,同年8月1日付けで,被告Aがホームページ上で公表している新免疫療法の治療成績は,日本癌治療学会の現在のガイドライン及び過去の判定基準に準拠せずに評価した症例があり,科学的に不十分な評価がなされた可能性 月1日付けで,被告Aがホームページ上で公表している新免疫療法の治療成績は,日本癌治療学会の現在のガイドライン及び過去の判定基準に準拠せずに評価した症例があり,科学的に不十分な評価がなされた可能性があること,そして,現在のガイドライン及び過去の判定基準に準拠せずに評価され算出された奏効率を,臨床の場において患者に対し新免疫療法を実施するための主要な根拠にしているとすれば,科学性が不十分かつ未確立であり,将来的に確立される見込みの不明な治療法を実施していると考えざるを得ず,新免疫療法を受けたがん患者がその科学性に関し,十分に理解し,同意した上に治療を受けていたか疑問が残ると言わざるを得ないこと,被告Aが実施している新免疫療法に高い評価を与えた事実はないこと,今後,被告A本人等から事情を聞き,同被告に対する対応等を検討すること等を記載した回答書を送付した(甲B24の1)。 (イ) そして,日本癌治療学会は,平成16年11月15日付けで,同年9月2日に被告Aから新免疫療法の効果判定方法等に関して事情を聴取し,事実関係の把握を行ったところ,新免疫療法の効果判定基準は日本癌治療学会の推奨する判定基準を用いていなかったにもかかわらず,不適切な説明により,その判定方法を採用していたかのような誤解を生じたこと,新免疫療法の効果判定基準は,通常日本癌治療学会の推奨する判定基準ではなく腫瘍マーカーを中心とした独自の評価基準であったこと,ホームページ上において,驚異的な効果であると学会でも評価されるようになったとの記載をしていた事実があり,本学会における発表の事実をいわゆる新免疫療法の宣伝に利用していると受け取らざるを得ず不適切であることが確認されたとした(甲B31)。 そして,被告Aから平成16年9月29日付けで同学会総務委員会委員長宛に,書籍やイン 実をいわゆる新免疫療法の宣伝に利用していると受け取らざるを得ず不適切であることが確認されたとした(甲B31)。 そして,被告Aから平成16年9月29日付けで同学会総務委員会委員長宛に,書籍やインターネットで画像診断によらずCRやPRという表現を用いていたことは遺憾であり反省していること,インターネットで癌治療学会における講演等が評価されたと記載されていたことは不適切であったと考えたため削除したこと,現在では日本癌治療学会の基準やRECISTガイドラインの判定基準と異なることを明記していること等の内容が記載された文書が送付され,科学的に不適切な評価方法や表現法等が原因となって騒動を起こしたことを深く反省しているものと考えられたことも考慮して,同学会は,被告Aに対し,厳重注意の処分をとった(甲B30,B31)。 エ被告Aの対応被告Aは,平成15年7月24日に成立したM医師(以下「M医師」という。)との間の地位保全仮処分申立事件の和解において,新免疫療法の治療効果について評価可能なデータの見直しをすることを約束し(甲B3),その後,前記ウ(イ)のように,平成16年9月2日に日本癌治療学会からの事情聴取に応じ,新免疫療法の効果判定方法について,書籍やインターネットで画像診断によらずCRやPRという表現を用いていたことは遺憾であり反省していること等を記載した文書を日本癌治療学会に送付した。 オ訂正後のホームページ上の治療効果(甲B12)について被告Aは,近時になって,新免疫療法の治療効果についてデータを見直し,ホームページ上の治療効果を訂正したようであり,治療効果の判定基準について,従来の判定基準を変更し,腫瘍体積and/or腫瘍マーカーによる総合判定として,PD=腫瘍径and/or腫瘍マーカーが25パーセント以上増加,NC=腫瘍径an うであり,治療効果の判定基準について,従来の判定基準を変更し,腫瘍体積and/or腫瘍マーカーによる総合判定として,PD=腫瘍径and/or腫瘍マーカーが25パーセント以上増加,NC=腫瘍径and/or腫瘍マーカーが25パーセント未満の増減,LNC=NCの状態が6か月以上継続,MR=腫瘍体積and/or腫瘍マーカーが25パーセントから49パーセント減少,PR=腫瘍体積and/or腫瘍マーカーが50パーセント以上減少,CR=腫瘍の消失and/or腫瘍マーカーの正常化,と定義し,MRという判定を導入したようである(甲B12,B58,乙A4,B33)。しかし,同ホームページで公表されているMR+PR+CRの合計は36.3パーセントとなっており,従前のホームページ等(甲B1,B11)で用いられていたCRとPRの合計数値である奏効率と一致し,的確な治療効果の再検討がなされたとみることはできないものである。 カ以上からすると,被告Aが使用して公表している新免疫療法の治療効果の判定方法は,一般的に使用されているWHO癌治療結果報告基準,日本癌治療学会固形がん化学療法効果判定基準,RECISTガイドラインで定義されている指標をほぼ同義で使用し,それらの基準に準じている旨の記載をしており,それらの基準で判定された他の抗癌剤等の治療効果と比較して,新免疫療法が驚異的な治療効果を有する旨を公表しているものの,現実には,それらの一般的に用いられている効果判定の基準とは異なる効果判定方法を用いるものであり,その治療効果については他の治療方法と単純には比較できず,一般的に用いられる評価指標・方法で治療効果を判断すると,被告Aが公表している奏効率とは大きく異なる可能性があること(サメ軟骨などの健康食品が癌に効果があるとの文献等は見当たらないとされている(甲B2 般的に用いられる評価指標・方法で治療効果を判断すると,被告Aが公表している奏効率とは大きく異なる可能性があること(サメ軟骨などの健康食品が癌に効果があるとの文献等は見当たらないとされている(甲B22)。)は明らかである。 (3) 新免疫療法の評価及びそれを前提とした説明義務ア癌の治療方法としては,手術,抗癌剤,放射線が一般的であるが,それ以外にも多様な治療方法が存在するところであり(甲B8,B56),一般的な手術,抗癌剤投与,放射線療法といった治療方法以外にも,有効な治療方法の研究・検証・開発・普及が期待されるところである。 もっとも,一般的でない治療方法を試みる場合には,それを受けようとする患者が,一般的な治療方法である手術,抗癌剤投与,放射線療法の内容やその適応,副作用等を含めた危険性,治療効果・予後等について説明を受けて理解をしていることが前提であり,担当医師としては,それらについて説明をした上で,試みようとする一般的でない治療方法についての内容や危険性,治療効果・予後について,当該患者がいずれの治療方法についても,十分理解して自ら選択できるよう,正確な情報を提供する義務があるというべきである。なぜなら,手術,抗癌剤投与,放射線療法以外の一般的でない治療方法を実施する場合には,患者としては,特にその治療効果・予後,副作用等について大きな関心を有することが通常であるにもかかわらず,その効果等についての客観的・科学的な根拠・資料が不足していることが多く,危険性についても予測がつかない場合があり,患者に対し,できるだけ正確な情報提供をし,その理解を得ることが重要となるからである。 イしたがって,新免疫療法を実施する場合にも,新免疫療法が被告Aが独自に始めた治療方法であり,一般的に確立され普及している癌の治療方法とは到底いえない以 その理解を得ることが重要となるからである。 イしたがって,新免疫療法を実施する場合にも,新免疫療法が被告Aが独自に始めた治療方法であり,一般的に確立され普及している癌の治療方法とは到底いえない以上,まず,患者に対し,一般的な治療方法である手術,抗癌剤投与,放射線療法の内容やその適応,副作用等を含めた危険性,治療効果・予後等について十分説明をする必要があり,その上で,新免疫療法の内容や危険性,治療効果・予後について正確な情報を提供する義務があるというべきである。 そして,新免疫療法の治療効果・予後については,前記のように,被告AがWHO癌治療結果報告基準,日本癌治療学会固形がん化学療法効果判定基準,RECISTガイドラインの基準に従った効果判定を実施していなかったにもかかわらず,その著書やホームページ等で,PR,NC,PDといった指標や,奏効率によって治療効果を表示し,WHO癌治療結果報告基準,日本癌治療学会固形がん化学療法効果判定基準,RECISTガイドラインで定義されている指標をほぼ同義で使用しており,それらの基準に準じることを明示した上で,他の抗癌剤等の治療効果と比較して,新免疫療法が驚異的な治療効果を有する旨を明示しており,しかも被告Aはその著書やホームページ等の多くを医学的知識に乏しい一般向けに公表していることからすると,被告Aの著書やホームページ等をみて被告Aを受診する患者の多くは新免疫療法が他の抗癌剤等の治療方法に比べて驚異的な治療効果を有し,副作用もほとんどないと考えているものと認められる。 この点,癌の治療効果については多様な評価指標・方法があり(甲B8),多様な評価指標・方法によって多角的に検討されることが望ましいが,一般的に用いられている評価指標・方法によらずに治療方法の評価を行って公表する場合には,一般的な評 な評価指標・方法があり(甲B8),多様な評価指標・方法によって多角的に検討されることが望ましいが,一般的に用いられている評価指標・方法によらずに治療方法の評価を行って公表する場合には,一般的な評価指標・方法によって評価された他の治療方法の治療効果と単純には比較できないのであるから,どのような評価指標・方法を用いたのかを明確にし,一般的に用いられる評価指標・方法及びそれらの評価指標・方法を用いて判定した他の治療方法の治療効果と誤解・混同が生じないように配慮する必要がある。具体的には,新免疫療法の治療効果・予後を説明するに当たっては,既に治療効果について誤解をしていると考えられる患者に対し,新免疫療法の治療効果の判定方法は他の治療方法で用いられている効果判定の方法とは異なり,治療効果については他の治療方法と単純には比較できず,一般的に用いられる評価指標・方法で治療効果を判断すると,被告Aが公表している奏効率とは大きく異なる可能性もあることについて説明をして誤解を解き,正確な理解を得られるようにする必要があるものと解される。 (4) 被告Aの亡Cに対する説明についてア被告クリニック受診時の亡Cの状態(ア) 亡Cは,平成13年5月11日,I病院で緊急手術が実施され,術中に卵巣・肝臓転移・腹膜播種を伴った回盲部大腸癌であると判断され,卵巣・子宮切除及び大腸回盲部切除術を受けたが,肝転移については特に処置をされなかった。その後,同病院外科外来において,抗癌剤である5-FU,アイソボリンの点滴投与を受け,肝転移は同年5月の3.5センチメートルから同年9月時点で2.5センチメートルまで縮小し,腫瘍マーカー(CEA)も47.9から5.6まで低下した。抗癌剤の副作用が辛いということで,内服薬フルツロンに変更したが,腫瘍マーカー(CEA)が上昇して 年9月時点で2.5センチメートルまで縮小し,腫瘍マーカー(CEA)も47.9から5.6まで低下した。抗癌剤の副作用が辛いということで,内服薬フルツロンに変更したが,腫瘍マーカー(CEA)が上昇してきたため,同年11月に5-FU,アイソボリンの点滴投与を受けたが,肝転移が増大した。平成14年1月28日には同病院で肝臓部分切除・胆嚢摘出手術を受けたが,取りきれない肝転移があるので,5-FU,アイソボリンの点滴投与を継続して受けたが,同年5月15日には肝転移の増大,肺転移の増大が確認され,翌日から,抗癌剤CPT-11(カンプト)を追加投与したが,副作用が強かった。(診療経過一覧表(I及びJ病院関係),乙A2)そして,亡Cが被告Aを受診した平成14年5月31日時点では,亡Cには大腸癌(結腸癌)の遠隔転移がある状態であり,病期(ステージ)はⅣであった(甲B5,乙B1)。この段階では,放射線療法の適応はなかった(甲B54,乙A2,A4,被告A本人)。なお,抗癌剤については,亡Cは,被告クリニック受診までに,5-FU,アイソボリンの点滴投与を12回,その後6回,さらに6回受け,CPT-11(カンプト)の投与も受けていた(診療経過一覧表(I及びJ病院関係),乙A2)。 (イ) このように,亡Cが被告クリニックを受診した段階では,大腸癌は既にステージⅣであり,肝臓や肺に転移していることから,手術をすることは困難であり,また放射線療法の適応もなかった。 そこで,抗癌剤治療の実施が考えられるが,亡Cは,被告クリニック来院時までに,I病院において,平成13年5月以降抗癌剤5-FU,アイソボリンの点滴投与を受け,一時肝臓の腫瘍が縮小し,腫瘍マーカー(CEA)値が低下するという効果がみられたが,その後は肝転移が増大し,腫瘍マーカー(CEA)値も上昇がみられてお 抗癌剤5-FU,アイソボリンの点滴投与を受け,一時肝臓の腫瘍が縮小し,腫瘍マーカー(CEA)値が低下するという効果がみられたが,その後は肝転移が増大し,腫瘍マーカー(CEA)値も上昇がみられており,同様の使用量,使用方法であれば,5-FU,アイソボリンに関しては,これ以上の効果はあまり期待できない状況であったと考えられる(甲B19,B20,B54,被告A本人)。 もっとも,5-FU,アイソボリン以外に大腸癌に効果があるとされているCPT-11(カンプト)については,平成14年5月16日から投与開始された段階であり,被告クリニック初診時点では,その効果について判断できる状況にはなかったと考えられる。5-FU,アイソボリンについては,投与方法・投与量を変えて投与する方法が考えられ,大腸癌に対する抗癌剤としては保険適用ではないが,他の抗癌剤を使用する方法も考えられないではなかった(甲B19,B20,B54)。 抗癌剤の投与について,被告A自身,新免疫療法を実施しない場合には,抗癌剤の投与方法等を変えて,積極的に抗癌剤治療を実施していく立場であると供述している(被告A本人)。 イ亡Cに対する説明義務そこで,被告Aとしては,亡Cの状態を可能な限り正確に把握した上で,一般的な治療方法のうちで実施が一応検討される抗癌剤投与について,その内容(投与することが考えられる抗癌剤の種類,量,方法等)やその適応,副作用等を含めた危険性,治療効果・予後等について説明をする必要がある。 その上で,亡Cに対して,新免疫療法を実施しようとする場合には,亡Cが被告クリニックから取り寄せた資料(甲B1)や書籍(甲B7)等を読んで被告Aの診察を希望して被告クリニックを受診している経緯(診療経過一覧表,甲B9,証人N)からすると,同人が,新免疫療法が他の治療方法に比べて治 から取り寄せた資料(甲B1)や書籍(甲B7)等を読んで被告Aの診察を希望して被告クリニックを受診している経緯(診療経過一覧表,甲B9,証人N)からすると,同人が,新免疫療法が他の治療方法に比べて治療効果が極めて高く,副作用もほとんどないと考えていたものと推認され,このような事情については被告Aも承知していると考えられるのである(甲B58,乙B33)から,新免疫療法の内容や危険性のほか,治療効果・予後について,新免疫療法の治療効果の判定方法は他の治療方法で用いられている効果判定の方法とは異なること,よって,被告Aの書籍等に記載してある治療効果については他の一般的な治療方法の治療効果と単純には比較できず,一般的に用いられる評価指標・方法で治療効果を判断すると,被告Aが公表している奏効率とは大きく異なる可能性もあることについて説明をして誤解を解き,正確な理解を得られるようにする義務があるというべきである。 ウ被告Aの初診時までに被告クリニックで亡Cから聴取して把握していた内容(乙A1,証人M)亡Cは,被告クリニック初診時までに,問診表に,病名として大腸癌と記入し,手術歴について,2001年(平成13年)5月10日に大腸,卵巣,子宮の手術を,2002年(平成14年)1月28日に肝臓の手術をそれぞれ受けたこと,抗癌剤について,2001年(平成13年)5月9日から同年9月まで及び同年10月1日から同年12月20日までに5-FU,アイソボリンの点滴投与を,2002年(平成14年)3月7日から薬品名は未記入であるが抗癌剤の点滴投与を受けていることを記入した(乙A1)。 そして,亡Cは,M医師に対し,平成13年5月10日にS状結腸切除,平成14年1月に肝臓部分切除の各手術を受けたことを話し,M医師はその内容を診療録に記載した(甲B19,乙A1,A4 た(乙A1)。 そして,亡Cは,M医師に対し,平成13年5月10日にS状結腸切除,平成14年1月に肝臓部分切除の各手術を受けたことを話し,M医師はその内容を診療録に記載した(甲B19,乙A1,A4,証人M)。 エ被告Aの亡Cに対する説明内容(ア) 被告Aの供述内容(乙A4,A5,被告A本人)被告Aは,亡Cとの間で,概要,以下のようなやりとりがあったと供述している。 被告Aは,平成14年5月31日の診察時に,亡Cから,抗癌剤について,5-FU500ミリグラム,アイソボリンを週1回合計12回受け,CEAが147から10台まで低下したこと,しかし,CEAが再上昇し,5-FU,ロイコボリン(アイソボリンの間違いではないかと考えられる。)を使用しても腫瘍マーカーがどんどん上がること,肝切除しても肝転移があることを聞いた。また,平成14年3月7日から続けている抗癌剤が何かと尋ねたのに対し,亡Cは,肝転移があることから5-FUとアイソボリンにCPT-11(カンプト)を加えてあり,CPT-11(カンプト)を2回使ったが,その副作用が耐えられないと話した。そして,被告Aが被告クリニックでは低濃度のカンプト(CPT-11)と新免疫療法で有効な症例もあると話したのに対し,亡Cはもうしたくないと答え,また,肺転移があることも話した。被告Aは,そのため亡Cに対し,次回来院前に,胸部レントゲンとともに,肝転移と頸部・腹部骨盤の転移状態を確かめるためにエコーを一緒に撮ってくるように伝え,K病院宛の紹介状を書き,現在の病状は,癌性腹膜炎,肝転移,肺転移がある末期癌の状態であり,癌の3大療法である手術,放射線療法,抗癌剤投与が適用できないことなどを説明した。 そして,新免疫療法については,図(乙A4参考資料1)を示しながら,インターフェロンγやインターロイキン12 であり,癌の3大療法である手術,放射線療法,抗癌剤投与が適用できないことなどを説明した。 そして,新免疫療法については,図(乙A4参考資料1)を示しながら,インターフェロンγやインターロイキン12が沢山量産されて免疫力が増加すれば,腫瘍マーカーの上昇が止まったり,低下することがあること,効果が出るまで2,3か月かかる者がほとんどで,3か月以上投与しないと有効かどうか判断できないこと,インターフェロンγやインターロイキン12がどうしても産生できなければ効果が期待できないこと,産生されれば食欲が出てよく眠れるようになること,インターフェロンγやインターロイキン12が産生されないと効果が出ない場合もあること,インターロイキン12が産生されても生体が癌抗原を認識できないために,臨床的に効果がはっきりでないことがあることを説明した。そして,治療内容の説明書(乙A4参考資料3)に手書きしながら,医薬品や健康食品の摂取方法・回数・量等を説明した。 平成14年6月28日には,被告Aは,亡Cに対し,血液検査の結果をもとに同人の免疫力が強いことを説明し,胸部レントゲンと超音波検査の結果,肝転移が消失したが,肺に多発転移があることを説明し,さらに,新免疫療法はたとえ免疫力が高くても一般的には医薬品・健康食品を最低2,3か月投与しないと効果がでないので,経過を見る必要があることを説明した。 被告Aは,同年7月26日にも新免疫療法はたとえ免疫力が高くても一般的には医薬品・健康食品を最低2,3か月投与しないと効果がでないので,経過を見る必要があることを説明し,CPT-11(カンプト)を勧めたが,亡Cは以前使用して副作用で苦しんだということで拒否した。 (イ) 被告Aの供述内容の信用性被告クリニックの診療録(乙A1)には,M医師が亡Cから聴取した内容(前記ウ)に 1(カンプト)を勧めたが,亡Cは以前使用して副作用で苦しんだということで拒否した。 (イ) 被告Aの供述内容の信用性被告クリニックの診療録(乙A1)には,M医師が亡Cから聴取した内容(前記ウ)に加え,被告Aの筆跡で,亡Cが平成13年5月10日にI病院においてS状結腸癌にてS状結腸前方切除及び女性付属器合併切除を受けたこと,肝臓転移が1個あり,2.5センチメートル大であったこと,5-FU500ミリグラム,アイソボリンを週1回合計12回受け,CEAが147から10台まで低下したこと,平成14年1月28日に肝臓切除手術を受け,現在I病院に通院していることが記載されており(甲B19,乙A1,A4,証人M),この部分については被告Aの供述内容と符合する。また,被告Aが,亡Cに肺転移があると聞いたと供述する点については,平成14年5月31日付けのK病院宛の紹介状に「肝肺meta」と肺にも転移があったことが記載されており(乙A1),確かに符合している。 しかし,被告クリニックの診療録(乙A1)には,5-FU500ミリグラム,アイソボリンを週1回合計12回受け,CEAが147から10台まで低下したことが記載されているものの,大腸癌に対する重要な抗癌剤であるCPT-11(カンプト)の投与がされていることや,抗癌剤の効果の判断に重要なCEAが再上昇したことについては記載がされていない。そもそも,被告Aは何年にもわたって日々多数の患者を診察してきており(被告Aの著書によると,平成16年4月時点で,新免疫療法を実施し始めてから,10年以上経過し,その間に1万2234人の患者を担当したという(甲B29)。),個別の患者との間のやりとりについてはよほど印象的な出来事等がない限り詳細に記憶していることは期待できないと考えられるが,診療録に全く記載がないにもかか 4人の患者を担当したという(甲B29)。),個別の患者との間のやりとりについてはよほど印象的な出来事等がない限り詳細に記憶していることは期待できないと考えられるが,診療録に全く記載がないにもかかわらず,他の患者についてのやりとりを通常では考えられないほど詳細に供述しており(甲B58,乙A4,B33),被告Aの患者とのやりとりについての記憶,供述内容の信用性については疑問を差し挟まざるをえないところであり,亡Cとのやりとりについても,診療録等に記載していない部分について明確な記憶があるのかどうか極めて疑わしい(被告Aは,本件訴訟に至って,I病院の診療録(乙A2)等で他院の診療経過も確認しており,記憶に混同・変容が生じた可能性もある。)。 したがって,被告Aが,平成14年5月31日の診察時に,亡Cから,抗癌剤について,5-FU500ミリグラム,アイソボリンを週1回合計12回受け,CEAが147から10台まで低下したこと,肝切除しても肝転移があること,肺転移もあることを聞いたと供述する点については信用することができるが,CPT-11(カンプト)の投与がされていることや,CEAが再上昇したことを聞いたと供述する点については信用することができない。そうすると,被告Aには,手術,放射線療法以外の一般的な治療方法である抗癌剤を投与しても効果がないと判断する根拠があったとは考えにくく,被告Aが亡Cに対し抗癌剤投与の適応もないことを説明したと供述する点も信用することはできない。 なお,新免疫療法については,亡Cの同意書があり,治療・検査を受けること,医療費が全て自由診療であること,採取した血清を研究に使用することを承諾することが記載され,同意書の控え及び治療内容の説明書を受領したことが記載されており(乙A1),亡Cがその後に検査を受け,医薬品・健康 全て自由診療であること,採取した血清を研究に使用することを承諾することが記載され,同意書の控え及び治療内容の説明書を受領したことが記載されており(乙A1),亡Cがその後に検査を受け,医薬品・健康食品を購入して新免疫療法を受けていること(診療経過一覧表)などからみても,被告Aが新免疫療法の概要,特にその効果についてはある程度説明したと考えるのが自然であり,その限度では信用することができる。 (ウ) 亡C及びN証人の供述内容とその信用性以上に対し,亡Cは,生前,その陳述書(甲B9)において,被告Aから,「大丈夫です,治ります。」としか言われなかったと供述し,亡Cの子であるN証人は,亡Cは初回は1人で被告クリニックに行って診察を受け,帰宅してから,被告Aから,亡Cの場合を相撲に例えるなら,土俵にのっているようなもので,あとはうっちゃれば大丈夫だから,治るから,消えるから,と言われたと言っていたが,抗癌剤の併用や,治らない可能性があるという話については言っていなかったと供述する(証人N)。 N証人の供述内容は,非常に具体的であり,全体の事実経過も自然であり,信用することができるところ,亡Cの供述内容もN証人の供述内容と矛盾せず,同様に信用することができる。 (エ) したがって,被告Aは,亡Cの状態を正確に把握していたとは認められず(I病院の診療情報を把握していなかった(乙A4,A5,被告A本人)。),同人に対し,一般的な治療方法である抗癌剤の投与の可能性について,特にCPT-11(カンプト)の使用を継続した場合の効果や他に投与することが考えられる抗癌剤の種類,量,方法,効果,副作用については十分な説明をしなかったものと認められる。また,新免疫療法については,被告Aは,新免疫療法の概要については説明したと推認されるが,治療効果・予後については 剤の種類,量,方法,効果,副作用については十分な説明をしなかったものと認められる。また,新免疫療法については,被告Aは,新免疫療法の概要については説明したと推認されるが,治療効果・予後については,新免疫療法の治療効果の判定方法は他の治療方法で用いられている効果判定の方法とは異なり,治療効果については他の治療方法と単純には比較できず,一般的に用いられる評価指標・方法で治療効果を判断すると,被告Aが公表している奏効率とは大きく異なる可能性もあることについて説明したことはないものと認められる。 (オ) まとめよって,被告Aは,亡Cに対し,一般的な治療方法のうちで実施が一応検討される抗癌剤投与について,その内容(投与することが考えられる抗癌剤の種類,量,方法等)やその適応,副作用等を含めた危険性,治療効果・予後等について十分説明をせず,また,新免疫療法の内容や危険性のほか,治療効果・予後について,新免疫療法の治療効果の判定方法は他の治療方法で用いられている効果判定の方法とは異なること,したがって,被告Aの書籍等に記載してある治療効果については他の一般的な治療方法の治療効果と単純には比較できず,一般的に用いられる評価指標・方法で治療効果を判断すると,被告Aが公表している奏効率とは大きく異なる可能性もあることについて説明をしなかったものであり,この点に説明義務違反(以下「本件説明義務違反」という。)が認められる。 (5) 亡Cの損害及び本件説明義務違反と損害との因果関係についてア前記のように,亡Cが被告クリニックを受診した段階では,大腸癌は既にステージⅣであり,肝臓や肺に転移していることから,手術をすることは困難であり,また放射線療法の適応もなく,抗癌剤治療についても,従前の使用量,使用方法では,5-FU,アイソボリンの投与は,それ以上の効 ージⅣであり,肝臓や肺に転移していることから,手術をすることは困難であり,また放射線療法の適応もなく,抗癌剤治療についても,従前の使用量,使用方法では,5-FU,アイソボリンの投与は,それ以上の効果はあまり期待できない状況であったと考えられ,CPT-11(カンプト)も平成14年5月16日から投与開始され,副作用が出て激しい嘔吐に苦しんでいた状況であった(診療経過一覧表(I及びJ病院関係),乙A2)。 そこで,本件説明義務違反がなければ,亡Cは,被告Aから,新免疫療法については,被告Aが実際に説明したと推認される治療内容の概要のほか,治療効果・予後について,新免疫療法の治療効果の判定方法は他の治療方法で用いられている効果判定の方法とは異なること,よって,被告Aの書籍等に記載してある治療効果については他の一般的な治療方法の治療効果と単純には比較できず,一般的に用いられる評価指標・方法で治療効果を判断すると,被告Aが公表している奏効率とは大きく異なる可能性もあることが説明されることになるが,他方,一般的な治療方法の中で選択肢となる抗癌剤投与についての説明内容としては,5-FU,アイソボリンを従前どおり投与してもあまり効果は期待できず,副作用が出ているCPT-11(カンプト)の投与を継続して様子をみることが考えられ,それ以外の抗癌剤や投与方法が考えられないではないという状態であることが説明されることになり,前記のように当時CPT-11(カンプト)の副作用が出ていた状況では,亡Cにとって,抗癌剤の投与を受けることがどれほど有力な選択肢となったかについて疑問が残る。また,実際にも,M医師からO病院において種々の抗癌剤の投与を受け,同医師は一定の延命効果があった旨供述する(甲B16,B17,証人M)が,どれほどの延命効果があったかについては,本件 疑問が残る。また,実際にも,M医師からO病院において種々の抗癌剤の投与を受け,同医師は一定の延命効果があった旨供述する(甲B16,B17,証人M)が,どれほどの延命効果があったかについては,本件証拠上,不明であると言わざるをえない。 以上を考慮すると,被告Aに本件説明義務違反がなければ亡Cが新免疫療法を受けずに抗癌剤治療を選択し,さらなる延命が得られたと断定することはできない(したがって,亡Cが抗癌剤治療を選択し,新免疫療法を受けなかったことを前提とする新免疫療法の医療費,薬品・健康食品購入費等の損害については,本件説明義務違反との相当因果関係を認めることはできない。)。 イもっとも,亡Cにとっては,抗癌剤の副作用から解放され質の高い生活を送ることとともに,長く生きるということも大きな利益であるから,新免疫療法の奏効率については前記のような問題があり,抗癌剤治療が一般的な治療方法の中では選択しうる治療方法であること,また,実際にも,亡Cが副作用と闘いながらも,M医師のもと,被告クリニックから転院してO病院において抗癌剤の投与を継続して受けていることを考えると,本件説明義務違反がなければ亡Cが新免疫療法を受けずに抗癌剤治療を選択した可能性も否定できない。 したがって,被告Aは,本件説明義務違反によって,亡Cが自らの意思で治療方法を決定する機会を奪ったというべきであり,被告Aは亡Cに対し,不法行為に基づき,そのような機会を奪われたことによって生じた精神的損害に対する慰謝料を賠償する責任を負うというべきである。 2 争点2(被告Aがイレッサの適応や副作用についての説明を怠ったのか否か)について(1) イレッサの大腸癌に対する効果について平成14年当時,イレッサに大腸癌に対する抗腫瘍効果があるという論文が出されていた(乙B9からB12 応や副作用についての説明を怠ったのか否か)について(1) イレッサの大腸癌に対する効果について平成14年当時,イレッサに大腸癌に対する抗腫瘍効果があるという論文が出されていた(乙B9からB12まで)が,それらは最も先進的な研究データであっても,未だ臨床試験の第2相段階のものであった(乙B9,被告A本人)。イレッサは,肺癌の治療薬としては,平成14年7月に厚生労働省に認可され,同年9月に肺癌の保険薬として認可された(乙B4)が,大腸癌の治療薬としては認可されていない(甲B32,B46,被告A本人)。 また,イレッサには,間質性肺炎などの副作用があり,死亡事例も存在する(甲B32,B46,乙B4)。 なお,被告Aは,一般向けの著書「末期患者でも,希望が持てるガン治療」(平成16年8月発行,甲B29)の中で,新免疫療法にイレッサを併用すると肺癌以外にも,大腸癌など他の癌についても効果があることを記載しているが,平成15年12月に発行された論文「新免疫療法(NITC)の治療成績とイレッサ併用の効果と成績」(乙B4)では肺癌についての新免疫療法との併用についてのみ検討対象としており,被告A自身が,大腸癌に対するイレッサの投与についてどの程度医学的な研究を実施していたのかは不明である。 (2) 亡Cに対する被告Aのイレッサについての説明内容ア被告Aの供述内容被告Aは,イレッサに関し,亡Cに対し,以下のような説明をしたと供述する(乙A4,被告A本人)。 平成14年8月23日の診察時に,腫瘍マーカーの推移を説明し,そのうちCEA値が新免疫療法開始後3か月目までに上昇し続けており,新免疫療法の効果が出るまでに時間がかかる可能性があると思われたことから,新免疫療法では効果が出るまでに個人差があること,しかし,CEAの上昇からみて新免疫療法のみでは癌 目までに上昇し続けており,新免疫療法の効果が出るまでに時間がかかる可能性があると思われたことから,新免疫療法では効果が出るまでに個人差があること,しかし,CEAの上昇からみて新免疫療法のみでは癌の増殖を抑制することがかなり難しいことを説明した。そして,分かりやすく,イレッサが大腸癌でも有効性が考えられること,他方,呼吸困難,重積発作,発熱等の副作用が出現する可能性があること,保険がきかず高額になることを説明し,家族と相談して次回までに返事をほしいと説明した。 また,同年9月20日には,同日撮影された胸部レントゲンから肺に多発転移が増大していること,エコーで肝臓に転移が現れたこと,CEAが上昇していること,新免疫療法とイレッサを併用すると大腸癌にも効果が現れる者もいること,イレッサはEGFRの発現が多い大腸癌にも有効性があることが示唆され,論文にも記載されていること,副作用や保険の適用がないことなどを説明した。 イ被告Aの供述の信用性被告Aが亡Cに対してどのような説明をしたかについては,診療録(乙A1)には一切記載がなく,客観的な裏付けを欠いており,前記のように,多数の患者を診察していた中で,亡Cに対する説明内容を詳細に記憶していたとは考えにくい。 もっとも,被告Aは,新免疫療法とイレッサを併用したときの効果が生じる機序についてはその著書(甲B29)でも記載しているところであり,イレッサの大腸癌に対する投与については認可されていないが,亡Cが実際に効果があると思って服用していた事実(甲B9,証人N,診療経過一覧表)からして,イレッサが大腸癌に効果があると被告Aが考えていた理由についてはある程度説明をしたものと考えるのが自然である。また,イレッサの副作用についても,N証人が,肺に転移があり,数値に改善が見られないので,それをどうにか 癌に効果があると被告Aが考えていた理由についてはある程度説明をしたものと考えるのが自然である。また,イレッサの副作用についても,N証人が,肺に転移があり,数値に改善が見られないので,それをどうにかしなくてはいけないということで被告Aから,イレッサという薬があり,イレッサを使えば肺の転移が消えるということ,副作用として若干動悸がする等の可能性があることを亡Cが聞いてきて,値段が高いのでどうしようかと相談があったと供述していること(証人N)に照らせば,一定程度は説明がされたものと推認される。 (3) しかし,仮に,被告Aがイレッサの効果や副作用について正確に説明していたとしても,被告Aはイレッサを新免疫療法と併用して投与しており(甲B29,乙A4,A5,B4),新免疫療法の実施が前提となっているから,イレッサの投与を新免疫療法による癌治療と切り離して検討することはできない。 そうすると,亡Cがイレッサの投与を受けるかどうかの判断をするためには新免疫療法について正確な理解をしていることが前提であるというべきであり,前記のように,被告Aに新免疫療法についての効果判定方法等についての説明義務違反が認められる以上,亡Cがイレッサの投与を受けるかどうかの判断をする前提として必要な説明を欠いているというべきであり,仮にイレッサ自体については説明がなされたとしても,本件説明義務違反と併せて全体として違法と評価されるべきである。 3 争点3(被告Bが販売している健康食品等が,医薬品ではなく癌の治療効果を持つものでないことを告知すべきところ,これを怠ったり,亡Cの新免疫療法の効果についての誤信に乗じて高額の健康食品等の販売を行ったのか否か)について(1) 新免疫療法における被告Bの位置付けについてア被告Bは,被告Aの妻で薬剤師のHが代表取締役を務める株式 免疫療法の効果についての誤信に乗じて高額の健康食品等の販売を行ったのか否か)について(1) 新免疫療法における被告Bの位置付けについてア被告Bは,被告Aの妻で薬剤師のHが代表取締役を務める株式会社であり,被告クリニックと同一建物の同一フロア(2階)に所在し,被告クリニックと隣接している(前記前提事実)。Hは被告クリニックの医療従事者として届けられており(甲B50),実際にも,被告クリニックにいることの方が多く,同クリニックで薬の処方や事務的な仕事を行っていた(甲B55)。 そして,被告Aが実施している新免疫療法は,医薬品と健康食品の摂取がその治療の中心であり,被告クリニックにおいて新免疫療法を受ける患者は,被告クリニックで診察を受け,医薬品の処方を受けた後,受け取った被告A作成の健康食品の購入・使用方法について記載された紙に従って,被告クリニックに隣接する被告Bで健康食品を購入して帰ることになる(甲B55,乙A4)。被告クリニックの診療録にも摂取を指示した医薬品と健康食品が記載されている(甲B55,乙A1)。被告Bは宣伝等は行っておらず(甲B58,乙B33),同被告で健康食品を購入しているのは,ほとんどが被告クリニックで診療を受けている患者又はその関係者であり,他は書籍等で新免疫療法について関心を持った者である(甲B55,B58,乙B33)。 また,被告Aが取り上げられたホームページにおいても,被告Bが一緒に掲載されている(甲B52)。 イこれらの事実からすると,被告Bは,被告クリニックひいては被告Aと実質的には一体として新免疫療法を実施しているものというべきである。 (2) 被告Bが負うべき責任についてアしたがって,被告Bは,被告Aと同様に,新免疫療法が他の抗癌剤等の治療方法に比べて驚異的な治療効果を有し,副作用もほとんどない しているものというべきである。 (2) 被告Bが負うべき責任についてアしたがって,被告Bは,被告Aと同様に,新免疫療法が他の抗癌剤等の治療方法に比べて驚異的な治療効果を有し,副作用もほとんどないと考えている健康食品の購入者に対して,新免疫療法の治療効果の判定方法は他の治療方法で用いられている効果判定の方法とは異なり,治療効果については他の治療方法と単純には比較できず,一般的に用いられる評価指標・方法で治療効果を判断すると,被告Aが公表している奏効率とは大きく異なる可能性もあることから,健康食品の摂取を含む新免疫療法の効果判定方法・治療効果について説明して誤解を解くべき義務を免れることはできないというべきである。 この注意義務は,被告Bが,新免疫療法を実施する一環として健康食品を販売することに基づくものであり,被告Bが薬剤師ではないこと,薬局でないことにより,この注意義務が発生しないことになるものではない。 そして,被告Bは,亡Cに対し,健康食品の摂取を含む新免疫療法の効果判定方法・治療効果について前記のような説明をしなかったと認められるから,前記義務に違反したというべきであり,また,被告クリニックひいては被告Aと一体となって,その誤解に乗じて健康食品を販売しており,被告Aとともに,その生じた損害について共同不法行為責任を負うというべきである。 イ因果関係についてもっとも,被告Bに前記義務違反がなかったとしても,亡Cが新免疫療法を受けずに抗癌剤治療を選択し,さらなる延命が得られたと断定することはできないことは前記1(5)アと同様であり,亡Cが抗癌剤治療を選択し,新免疫療法を受けなかったことを前提とする新免疫療法の医療費,薬品・健康食品購入費等の損害について,前記義務違反との相当因果関係を認めることはできないし(被告Bが負う前記義務と 抗癌剤治療を選択し,新免疫療法を受けなかったことを前提とする新免疫療法の医療費,薬品・健康食品購入費等の損害について,前記義務違反との相当因果関係を認めることはできないし(被告Bが負う前記義務と被告Aが負う説明義務は実質的には重なるものである。),被告Aの本件説明義務違反と新免疫療法の医療費,薬品・健康食品購入費等の損害との相当因果関係を認めることができない以上,被告Bが,共同不法行為に基づいて,新免疫療法の医療費,薬品・健康食品購入費等として亡Cが支出した金員相当額を賠償する責任を負うということもできない(不法行為(共同不法行為)も売買契約上の債務不履行も成立しない。)。 4 争点4(損害及び損害額)について(1) 被告Aが賠償すべき損害-慰謝料原告は被告Aに対してのみ慰謝料の賠償を請求しているところ,前記のとおり,亡Cは,被告Aの本件説明義務違反によって,自らの意思によって治療方法を選択する機会を奪われたものであり,その後,亡Cが新免疫療法やイレッサの投与を受けて多額の医薬品・健康食品の購入を余儀なくされたという事情が認められる。 そこで,本件説明義務違反の態様等,本件に現れた諸般の事情を斟酌し,被告Aの本件説明義務違反によって亡Cに生じた精神的損害に対する慰謝料としては,200万円と認めるのが相当である。 (2) 被告らが連帯して賠償すべき損害-医療費,薬品・健康食品購入費等原告は,被告らに対し,医療費,薬品・健康食品購入費等として亡Cが支出した金員相当額の賠償を求めているが,前記のように,被告Aの本件説明義務違反又は被告Bの前記義務違反がなかったとしても亡Cが新免疫療法を受けずに抗癌剤治療を選択したと断定できない以上,新免疫療法に必要な医療費,薬品・健康食品購入費等の購入代金は相当因果関係ある損害とは認められないというべき 違反がなかったとしても亡Cが新免疫療法を受けずに抗癌剤治療を選択したと断定できない以上,新免疫療法に必要な医療費,薬品・健康食品購入費等の購入代金は相当因果関係ある損害とは認められないというべきである(前記1(5)ア及び3(2)イ参照。なお,多額の医薬品・健康食品の購入を余儀なくされたという事情は,前記4(1)の慰謝料の算定に当たって考慮されている。)。 (3) 相続原告は,亡Cの被告Aに対する不法行為に基づく200万円の損害賠償請求権を全て相続したと認められる。 (4) まとめよって,被告Aは,原告に対し,不法行為に基づき,200万円及びこれに対する不法行為後の日である平成14年10月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うというべきである(以上の判断は,被告Aに対する債務不履行に基づく請求においても変わるところはないが,附帯請求の点で,不法行為に基づく請求を認めることとする。)。 5 結論以上のとおりであるから,原告の被告らに対する請求は,被告Aに対し,不法行為に基づき,200万円及びこれに対する不法行為後の日である平成14年10月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,被告Aに対するその余の請求及び被告Bに対する請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部裁判長裁判官佐藤陽一裁判官角田ゆみ裁判官吉岡大地

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