主文 1 被告らは,原告に対し,各自,2億円及びこれに対する平成11年3月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用のうち,参加によって生じた部分は補助参加人の負担とし,その余は被告らの負担とする。 3 この判決は,上記1に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告主文1,2と同旨の判決及び仮執行宣言 2 被告ら(1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は,原告の負担とする。 第2 事案の概要 1 事案の要旨被告らは株式会社a銀行(以下「a銀行」という。)の取締役であったが,a銀行の貸付先に対する後記本件担保解除の禀議について,被告bはその決裁の際に,被告cはその意見具申の際に,取締役の善管注意義務違反ないし忠実義務違反(以下「善管注意義務違反等」という。)により,a銀行に対して少なくとも3億6002万4196円の損害を与えたところ,原告は,同義務違反(債務不履行)による損害賠償請求権をa銀行から譲り受けたとして,同請求権に基づき,被告らに対し,各自,内金2億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成11年3月26日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 これに対して,被告らは,原告主張の善管注意義務違反等を否認するなどして争っている。 2 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(甲1,2,3の1の1・2,3の2の1・2,5の1・2,6の1ないし7,7の1・2,10ないし13,18,19,21,23の1,24,25,乙18,丙1,証人d,同e《補助参加人》,被告両名各本人)及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実である。 (1) 当事者等被告bは,昭和63年6月から平成7年7月まで,a銀行の審査部・国際部を担当 ,丙1,証人d,同e《補助参加人》,被告両名各本人)及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実である。 (1) 当事者等被告bは,昭和63年6月から平成7年7月まで,a銀行の審査部・国際部を担当する常務取締役の地位にあり,後記本件担保解除の禀議に関する最終決裁権者であった。 被告cは,平成6年6月,補助参加人の後任としてa銀行の取締役審査部長に就任し,後記本件担保解除の禀議時には同地位にあった。 (2) 後記本件担保解除の前提となる担保設定等a銀行は,平成4年5月29日,f興産株式会社(以下「f興産」という。)がg抵当証券株式会社(以下「g抵当証券」という。)から借り入れる5億円につき,一般支払承諾(債務保証)をし,同日,f興産所有の別紙不動産目録記載の各不動産(以下一括して「本件不動産」という。)につき,極度額を10億円,債権の範囲を銀行取引・手形債権・小切手債権,債務者をf興産とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)の設定を受け,同日,その旨の根抵当権設定登記を経由した。 その後も,a銀行は,同年7月31日,f興産がg抵当証券から借り入れる5億円につき,同様に本件根抵当権を担保として一般支払承諾(債務保証)をした。 a銀行は,f興産に対し,他に融資も行っており,a銀行の平成6年8月時点の与信総額は約42億円,同時点での他の金融機関からの分をも含めたf興産の借入れ総額は約364億1300万円であった。 hローン株式会社(以下「hローン」という。)は,平成2年3月29日,f興産から,本件不動産のうち別紙不動産目録記載1の土地につき,極度額を12億円,債権の範囲を証書貸付取引・手形貸付取引・手形保証・小切手債権,債務者をf興産とする根抵当権の設定を受け,a銀行に先立って同日その旨の根抵当権設定登記を経由し,同年4月16日,本件 度額を12億円,債権の範囲を証書貸付取引・手形貸付取引・手形保証・小切手債権,債務者をf興産とする根抵当権の設定を受け,a銀行に先立って同日その旨の根抵当権設定登記を経由し,同年4月16日,本件不動産のうち同不動産目録記載3の建物についても同根抵当権の追加として同根抵当権の設定を受け,a銀行に先立って同日その旨の根抵当権設定登記を経由した。 (3) 本件担保解除等a銀行は,平成6年5月27日,f興産が後記売買契約に基づきi学園から受領する手付金・中間金の合計2億9000万円につき,宅地建物取引業法41条に定める手付金等の保全のため,支払保証をすることを決定した。 f興産は,同年5月30日,i学園との間で,本件不動産を14億5000万円で売却する契約を締結した。なお,当該売買契約は,本件不動産のすべてがその対象とされているが,「売主は,中間金受領後速やかに,売主の責任と買主の費用負担において,買主の指定する建物解体業者に売買物件建物の解体・撤去を行なわせ,所有権移転時までにこれを完了させるものとする」との特約が付されているとおり,その実質は本件不動産のうち土地のみを目的とするものであった。 a銀行は,f興産が上記売買契約締結の際手付金・中間金として受領した合計2億9000万円をa銀行甲支店(以下単に「甲支店」とのみいうこともある。)に定期預金させ,これをいったん保全のための支払保証の担保として拘束した。 甲支店は,同年8月25日,「乙町不動産(本件不動産)の売却代金からa銀行が回収することは不可能であり,売却代金から返済を受けることなく,本件根抵当権及び本件担保定期預金を解放する」旨の貸出条件変更禀議書類一式を作成し,本店審査部に回付した。本店審査部では,上記禀議書を初審担当者jが審査した上,取締役審査部長である被告cが同禀議を可 件根抵当権及び本件担保定期預金を解放する」旨の貸出条件変更禀議書類一式を作成し,本店審査部に回付した。本店審査部では,上記禀議書を初審担当者jが審査した上,取締役審査部長である被告cが同禀議を可とする意見を付し,同禀議の決裁権者である被告bに回付し,同被告は,上記禀議を可決決裁した。 i学園は,同年8月末,f興産に本件不動産の売買契約による残代金11億6000万円を支払い,同時に,a銀行は,上記決裁に基づき,本件根抵当権設定登記を抹消する手続をし,上記のとおり担保として拘束していた定期預金を解放した(以下「本件担保解除」という。)。 (4) その他の背景事情a銀行では,従来,担保物件を売却して回収するに際し,優先的に利息・遅延損害金(以下「利息」という。)に充当し,帳簿上の収益率を上げることを行っていたが,平成6年4月に実施された大蔵省(当時)の銀行検査において,担保物件の売却による回収金を利息に充当して計上することは適当ではない旨の指摘を受けた。 平成6年8月29日時点において,先順位担保権者であるhローンがf興産に対して有していた債権額(被担保債権額)は,元金9億5000万円,利息8446万1487円,損害金1064万8317円の合計10億4510万9804円であった。 本件不動産の売買契約の代金が支払われた際,第1順位担保権者であるhローンは自己を根抵当権者とする上記根抵当権設定登記を抹消する対価として8億円を,k株式会社等(売買仲介業者)は仲介手数料として計4486万6000円をそれぞれ受領した。 f興産は,a銀行に対して,平成6年3月31日に合計6929万0315円,同年9月30日に合計1億4682万6502円の利息を支払ったほかは,本件売買契約締結のころ,借入金の利息の支払も滞っており,a銀行としては,f興産の営業 成6年3月31日に合計6929万0315円,同年9月30日に合計1億4682万6502円の利息を支払ったほかは,本件売買契約締結のころ,借入金の利息の支払も滞っており,a銀行としては,f興産の営業収入からの債権回収を図るのが困難な状況であった。 (5) 本訴請求債権の譲渡等a銀行は,平成8年11月21日,大蔵大臣(当時)から預金払出業務を除く業務停止命令を受け,事実上倒産した。そして,平成9年6月27日開催の同行第96期定時株主総会において,営業の全部譲渡(l銀行への営業譲渡及び原告への資産譲渡)等が特別決議をもって可決され,同決議に基づき,平成10年1月26日,a銀行はl銀行に対して営業を譲渡し,原告に資産を譲渡した。原告に譲渡された資産の中には,a銀行が有する債務不履行に基づく損害賠償請求権及び事務管理,不当利得,不法行為その他契約以外の原因に基づいてa銀行が有する権利(譲渡当時及びそれ以前におけるa銀行の役職員,a銀行の借り手その他の関係者に対し責任追及する一切の権利を含む。また,既に権利が確定しているもののほか,資産買取日においてその存在の確認若しくは内容の特定が未了であるものを含む。)が含まれていた。 a銀行は,被告らに対し,平成11年1月15日到達の確定日付ある書面によって,上記資産譲渡のうちa銀行が被告らに対して有する損害賠償請求権(本訴請求債権)を原告に譲渡した旨を通知した。 3 争点及びこれに関する当事者の主張(1) 本件担保解除につき,被告らに善管注意義務違反等があったか。 (原告の主張)① a銀行の取締役である被告らは,原則としてa銀行の貸付金の返済なくして担保解除をしてはならず,担保解除に応じる際には貸付金の回収が最大限図られるよう努めるべき義務を負う。a銀行としては,本件不動産の売却代金から売買諸費用や は,原則としてa銀行の貸付金の返済なくして担保解除をしてはならず,担保解除に応じる際には貸付金の回収が最大限図られるよう努めるべき義務を負う。a銀行としては,本件不動産の売却代金から売買諸費用や先順位担保権者であるhローンへの返済としてhローンの被担保債権額を控除してもなお3億6002万4196円の余剰があり,ここから回収することは可能であった。しかも,f興産が本件担保解除の決裁までにa銀行に提出した平成5年12月期の決算報告書(甲14)には,平成5年12月時点でのf興産のhローンに対する借入金残元金が9億5000万円であり,未払利息が5902万9560円であることが明記されていたし,本件担保解除の禀議書に資料として添付されていた平成6年6月30日付け及び同年7月31日付けのf興産の銀行取引明細書(甲15の1・2)にも,当時のhローンに対する借入金残元金が9億5000万円にすぎないことが明記されていたのであるから,被告らは,本件不動産の売却代金からhローンが優先的に元利金を全額回収してもなおa銀行が回収しうる余剰があることを認識し,若しくは容易に認識することができたというべきである。にもかかわらず,被告cは返済を条件とするなど回収を図るための措置を講じることなく本件担保解除を可とする意見具申をし,被告bはこれを可決決裁したのであるから,被告らには善管注意義務違反等が認められる。 ② 被告らの後記各主張は争う。 被告bは,上記資料は通常禀議決裁の際に目を通さない後記B書類の中に含まれていたものであり,これを確認しなかったからといって被告bに善管注意義務違反等があるとはいえないと主張するが,本件担保解除の決裁を行うには,前記のとおり,先順位担保権者の被担保債権額を確認することが不可欠であり,そのための資料である上記資料は本件担保解除の 管注意義務違反等があるとはいえないと主張するが,本件担保解除の決裁を行うには,前記のとおり,先順位担保権者の被担保債権額を確認することが不可欠であり,そのための資料である上記資料は本件担保解除の可否ないし当否を判断するに必要な資料である後記A書類に含まれていたと考えられる。 特に,平成6年6月30日付け及び同年7月31日付けのf興産の銀行取引明細書(甲15の1・2)は,その日付からみて本件担保解除の禀議用に徴求されたと考えられ,それが後記A書類から除外されていたとは到底考えられない。 仮に上記資料が後記B書類の中に含まれていたとしても,被告bは,後記B書類に含まれていた平成6年5月27日付け手形金支払保証に関する禀議書(甲10)により,先順位担保権者の被担保債権額が12億円を上回るとの認識を有していたと主張していることから明らかなように,後記B書類にも目を通していたのであるから,被告bに善管注意義務違反等があるとはいえないとの同被告の主張は失当である。 (被告bの主張)① 原告の主張は争う。 ② a銀行において,審査部担当役員は,支店が調査し審査部次長(初審担当者)が確認した前提事実を判断の基礎として,審査部長から回付されてきた稟議書に対し稟議内容に対する審査部次長の所見及び審査部長の可否の判断を踏まえて最終的な諾否の経営判断を下すという職務を担当していた。 禀議に際し,審査部長から回付されてくる書類には,審査対象となる当該稟議書並びに支店及び初審担当者が当該稟議事項に関する参考書類として抽出した添付書類の束(以下「A書類」という。)と,その他の書類がつづられたファイル形式の書類の束(以下「B書類」という。)があり,審査部担当役員は,A書類のみを判断材料とすれば足りる(換言すれば,それ以上の調査・確認は,支店及び初審担当者がその責任に の書類がつづられたファイル形式の書類の束(以下「B書類」という。)があり,審査部担当役員は,A書類のみを判断材料とすれば足りる(換言すれば,それ以上の調査・確認は,支店及び初審担当者がその責任においてなすべきものである。)とされてきた。 ③ 被告bは,先順位担保権者であるhローンの被担保債権額が極度額である12億円を下回るとの認識を有していなかったが,これは以下のような事情によるものであり,そのような認識を有していなかったことはやむを得ないというべきである。 〇 平成6年5月の融資禀議書の審査所見欄には「先順位hローン1,200百万円」との記載があった(甲10)。 〇 同年8月の禀議書添付の「f興産・担保物件一覧表」には「先順位1,200,000千円」との記載があった(甲22の1,25)。 〇 同禀議書添付の「担保土地建物調査表」の「先順位設定の内容」欄には「設定金額1,200百万円,有効先順位・共通被担保債権額1,200百万円」との記載があった(甲22の2,25)。 〇 平成6年8月8日,d支店長から,「hローンが先順位担保権に基づいて12億円を受領する」との説明を受けた。 〇 甲支店からも審査部初審からも,「hローンの先順位担保権の被担保債権額が極度額12億円を下回るというような例外的事例に当たる」旨の報告を受けていない。 〇 本件担保解除の稟議書の記載内容や稟議書に添付された参考書類にも「hローンの先順位担保権の被担保債権額が極度額12億円を下回るというような例外的事例に当たる」といった記載は一切なく,これを疑わせるような参考書類も添付されていなかった。 〇 稟議には,当該取引先に関する過去の稟議書や,法人調書,決算書,比較貸借対照表,比較損益計算書,不動産登記簿謄本等,当該稟議事項とは直接関係がない書類(B書類)も併せて回付され れていなかった。 〇 稟議には,当該取引先に関する過去の稟議書や,法人調書,決算書,比較貸借対照表,比較損益計算書,不動産登記簿謄本等,当該稟議事項とは直接関係がない書類(B書類)も併せて回付されるところ,本件担保解除の稟議の際には,B書類は7ないし8センチメートルほどの厚さになる分量があり,本件担保解除の稟議の審査では,B書類に目を通す必要性が感じられなかった。 ④ 被告bが審査部担当役員として求められる上記記載の職務内容(②)と,hローンの被担保債権額が極度額である12億円を下回るとの認識を有し得なかった上記記載の理由(③)とを併せれば,hローンの被担保債権額が極度額である12億円を下回るとの認識を有しなかったことをもって善管注意義務違反等ということはできない。 ⑤ また,時期は異なるものの,本件担保解除の対価として,前記前提事実のとおり,a銀行は,平成6年3月31日には6929万0315円,同年9月30日には1億4682万6502円の利払を受けたのであり,全く無条件で担保解除に応じたわけではない。 (被告cの主張)① 原告の主張は争う。 ② 本件不動産の売却交渉と時期を同じくして,当時a銀行の審査部長であった補助参加人を中心に,f興産との間で,担保解除の条件に関する協議もなされており,売買契約が締結されるころには,平成6年3月31日に受領した約6929万円のほかに,平成6年9月末決算期までの未収利息を見込んだ1億5000万円の支払を受けることを条件に担保解除に応じる旨内諾を与えており,被告cが取締役審査部長に就任する前に,事実上,担保解除の方針とその条件はすべて決定済みであった。担保解除の稟議の判断に当たり,これを否とすることは,売買契約が決済できないことになり,f興産は手付金返還のほか多額の損害賠償を負担しなければならず,そ 除の方針とその条件はすべて決定済みであった。担保解除の稟議の判断に当たり,これを否とすることは,売買契約が決済できないことになり,f興産は手付金返還のほか多額の損害賠償を負担しなければならず,その損害負担は内諾を与えているa銀行としても避けて通れない問題であって,被告cとしては担保解除を可とする判断しかできない立場にあったのであり,これをもって善管注意義務違反等ということはできない。 ③ 原告は,被告cに対し,先順位担保権者であるhローンの被担保債権が極度額を下回っていたことを認識しえたと非難する。しかしながら,先順位担保権者の被担保債権額の調査・確認は,まず支店において行うべきであり,審査部において審査上必要な場合には初審担当者によって確認される仕組みとなっていて,審査部長の審査は,不正の兆候等特別の事情がない限り,この各段階の担当者の調査を信頼して行えば足りるというべきである。本件においては,上記のような特別の事情はなく,被告cは,稟議書自体に添付された担保物件一覧表と担保土地建物調査表等により,先順位担保権者の被担保債権額が極度額である12億円を超えると確認・審査したのであり,この点に善管注意義務違反等を認めることはできない。 (2) 上記善管注意義務違反等により,a銀行が被った損害額はいくらか。 (原告の主張)① 争点(1)に関する原告の主張①のとおり,本件不動産の売却代金14億5000万円から売買諸費用4486万6000円や先順位担保権者であるhローンへの返済として被担保債権額である10億4510万9804円を控除してもなお3億6002万4196円の余剰があり,ここから回収することは可能であったにもかかわらず,何ら返済を受けることなく本件根抵当権を担保解除したのであるから,これによってa銀行は3億6002万4196円の損害 002万4196円の余剰があり,ここから回収することは可能であったにもかかわらず,何ら返済を受けることなく本件根抵当権を担保解除したのであるから,これによってa銀行は3億6002万4196円の損害を受けたことになる。 ② 合計約2億1000万円を損害から控除すべきとする被告らの後記主張,過失相殺等に関する被告bの後記主張はいずれも争う。 平成6年3月31日に入金された6929万0315円についていえば,本件担保物件の売買契約が締結されるか否か,売買契約が決済されるか否かにかかわらず,約定に従って返済されるべき利息であり,かつ,本件不動産の売買契約締結前(手付の授受より約2か月前)にf興産が自らの資金を調達して支払った金員であるから,売買前に入金された金員を後日売買契約の決済の際に受領しうべき金額から控除する理由は何ら存しない。a銀行としては,上記利払にかかわらず,本件不動産の売買契約の決済時に回収しうる額を回収し得なかったというにほかならないから,これに相当する額はa銀行の損害に含まれるというべきである。また,上記金員が入金されたのは,粉飾ともいえる未収利息の回収という体裁を帳簿上整えるための不正な目的に基づく不正な処理の結果であり,かかる不正な目的に基づく不正な処理に関する金員を損益相殺として考慮することは不当である。 平成6年9月30日に入金された1億4682万6502円についても,a銀行としては約定に基づいて当然回収しうる金額であり,f興産は,売買残代金支払時においても,上記金額を超える負債の返済を延滞している状況だったのであるから,これを回収しなかったことは,まさしくa銀行の損害であるといわなければならない。また,上記金員は,売買決済時から約1か月も遅れて入金されたものであるから,損益相殺すべき関連性も定かではない。 (被告 これを回収しなかったことは,まさしくa銀行の損害であるといわなければならない。また,上記金員は,売買決済時から約1か月も遅れて入金されたものであるから,損益相殺すべき関連性も定かではない。 (被告bの主張)① a銀行はf興産に対し合計2億1611万6817円の内入弁済と引換えとの約定のもとに本件担保解除を行い,現に同額の内入弁済を受けたのであるから,同額は損害から控除すべきである。 ② さらには,取締役の経営判断の基礎となる前提事実の認識の誤りが,企業における職務分掌上前提事実の調査・確認という職責を有する従業員の故意又は過失による職務違反に起因する場合や,会社組織自体の問題点に起因する場合には,会社に生じた損害のてん補を本来かかる事実調査義務を負担していない取締役個人に全て帰せしめることは公平の原則に反するから,過失相殺規定の適用ないし類推適用によって取締役の責任を減免すべきである。本件において,被告bがhローンの被担保債権額が極度額12億円を下回ることの認識を有しなかったのは,職務上禀議事項の前提事実を調査する職責にある甲支店が種々の調査・確認作業の上,禀議書及び添付資料に明示的に「本件事例は先順位担保権者の被担保債権額が極度額を下回る例外的な事例に当たる」旨の記載をすべき事案であったにもかかわらず,これをしないばかりか,かえって「設定金額1,200百万円,有効先順位・共通被担保債権額1,200百万円」といった記載のある参考資料(担保土地建物調査表《甲25の6~7枚目》等)を添付したためであるから,以上の事情に照らせば,過失相殺ないしその類推適用という見地から,被告bの責任割合は零とすべきである。 (被告cの主張)a銀行はf興産に対し合計2億1611万6817円の内入弁済と引換えとの約定のもとに本件担保解除を行い,現に同額の の類推適用という見地から,被告bの責任割合は零とすべきである。 (被告cの主張)a銀行はf興産に対し合計2億1611万6817円の内入弁済と引換えとの約定のもとに本件担保解除を行い,現に同額の内入弁済を受けたのであるから,同額は損害から控除すべきである。原告は,本件担保解除がなされた時期と内入弁済を受けた時期とのずれを問題視するが,内入弁済を受けない段階で担保解除をすることによるリスクという意味で当不当の問題があるとしても,内入弁済を行うとの約定のもと現に弁済がなされたのであるから,これを損害から控除すべきはむしろ当然である。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(善管注意義務等の存否)について(1) 前記前提事実,証拠(甲10ないし12,14,15の1・2,19,23の1,24,25,26の1ないし3,乙17の1,18,丙1,証人d,同e《補助参加人》,被告両名各本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ① f興産は,平成6年1月中旬頃,a銀行甲支店(d支店長)に対して,本件不動産を売却する話を持ち込み,そのころ,甲支店(d支店長)は,その旨を本店審査部長であった補助参加人に報告した。補助参加人は,昼食の折に偶然顔を合わせたm頭取に支店から報告を受けた内容を伝えたところ,d支店長が当時支店に着任してさほど間がなく,また,補助参加人が以前支店長を務めた経歴を有しf興産側と面識を有していたこともあって,未収利息の回収を図るためf興産と交渉するよう指示を受けた。 ② f興産は,同年3月31日,a銀行に対し,未払利息のうちの6929万0315円を支払った。 ③ f興産とi学園との間で本件不動産の売買契約が成立する目途が立ったため,甲支店は,同年5月27日,手付金・中間金合計2億9000万円に関する支払保証の禀議書を作成し 9万0315円を支払った。 ③ f興産とi学園との間で本件不動産の売買契約が成立する目途が立ったため,甲支店は,同年5月27日,手付金・中間金合計2億9000万円に関する支払保証の禀議書を作成し,本店審査部に回付した(本店受付は同月30日)。審査部初審担当であるn審査部次長は,売買契約の内容等につき,甲支店から聴き取り調査を行って,「売却予定額1450百万円,先順位hローン1200百万円,同利息200百万円,代取立替金50百万円」と調査結果を記載し,「当該物件の担保解除については,売却金の当行内入等が前提であり,本件の承認にて担解を認めるものでない」との意見を付して補助参加人に回付した。補助参加人から回付を受けた被告bは,nが記載した上記調査結果のうち,hローンが受け取るべき「利息200百万円」,代取立替金「50百万円」に丸印をつけ,「絶対に認めない」旨のコメントを書き加えたものの,nが付した上記意見を決裁条件とした上で可決決裁した。 ④ f興産は,同年5月30日,i学園との間で,本件不動産の売買契約を締結した。 ⑤ 同年8月12日ころ,f興産のo常務と甲支店との間で,本件不動産の売買契約に伴う担保抹消依頼書の文案に関し,文書のやり取りがなされた。そのうちの当初の文案(甲26の1ないし3)において,f興産側は,甲支店に対し,本件不動産の売却代金の中から,hローンに対して10億4871万1000円を支払うことなどを示していた。 ⑥ 甲支店は,同月24日,本件不動産に関する担保解除の禀議書を作成した。 同禀議書には,「1番hローン12億と金利等を考慮し,又社長立替金50百万,仲介手数料45百万,取壊し費用約6百万等の必要の中で,現在も接渉中であり1450百万円におさまるよう努力中で,当行取り分はない状況である」との記載がある。ところで,a 慮し,又社長立替金50百万,仲介手数料45百万,取壊し費用約6百万等の必要の中で,現在も接渉中であり1450百万円におさまるよう努力中で,当行取り分はない状況である」との記載がある。ところで,a銀行においては,禀議に当たり,禀議書とこれに添付された支店及び初審担当者が当該禀議事項に関する裏付資料として抽出した書類の束(A書類)とその他の書類がつづられたファイル形式の書類の束(B書類)とが決裁者に送付され,決裁者は,原則としてA書類を参照して判断をするのが通例であった。そして,上記禀議に当たり,A書類かB書類かは別として,f興産の,平成5年1月1日から同年12月31日までの決算報告書(甲14),平成6年6月30日付け銀行取引明細書(甲15の1)及び同年7月31日における銀行取引明細書(甲15の2)がつづられており,そこには,hローンからの借入金残高として,平成5年12月31日時点(甲14),同年6月30日時点(甲15の1)及び同年7月31日時点(甲15の2)で,いずれも9億5000万円である旨の記載がある。上記禀議は,同年8月25日に本店で受け付けられ,初審担当者jの審査を経た上,被告cへ回付され,被告cは,同禀議を可として被告bへ回付した。被告bは,同月29日,これを可決決裁した。なお,稟議書の上記記載のうち,少なくとも「1番hローン」の極度額を超える「金利」に関する部分,「社長立替金50百万」に関する部分が実際には存在しない虚偽の記載であること,そのように虚偽の記載をしたのは,大蔵省から前記のとおりの指摘を受けたので,大蔵省に対して,担保物件の売却代金から未収利息を回収したことを明らかにしたくないとの配慮によるものであることは,甲支店,被告c,被告bにとっては了解済みの事項であり,被告b,被告cは上記各部分が虚偽であることを前提 物件の売却代金から未収利息を回収したことを明らかにしたくないとの配慮によるものであることは,甲支店,被告c,被告bにとっては了解済みの事項であり,被告b,被告cは上記各部分が虚偽であることを前提に決裁手続に臨んだ。 ⑦ i学園は,同日,本件不動産の売買残代金11億6000万円をf興産に支払い,同時に,a銀行は,上記決裁に基づき,前記の支払保証の担保に供されていた定期預金を解放し,本件根抵当権設定登記を抹消する手続をした(本件担保解除)。 ⑧ f興産は,同年9月30日,a銀行に対し,借入金の利息として1億4682万6502円を支払った。 (2) 以上の事実に照らして,以下判断する。 被告b及び被告cが,f興産による本件不動産の売却に伴う本件不動産に対する本件根抵当権設定登記の抹消手続をすることを承認する本件担保解除の禀議を決裁するに当たっては,本件不動産がa銀行のf興産に対する前記与信額約42億円の唯一の担保であることからして,本件根抵当権の担保余力がいくらであるか,すなわち,本件不動産の先順位の根抵当権者であるhローンの被担保債権額がいくらであるかということが重要な判断要素であり,その上,被告両名は,前記禀議書には,本件不動産が売却されるに当たり,a銀行への支払に優先する支払があって,本件根抵当権の担保余力はない旨記載されているものの,売買代金の一部をf興産に対する貸付金等の与信の利息として回収することとするが,大蔵省による前記指摘を免れるため,その支払のうち少なくともhローンの金利とf興産の社長立替金5000万円が架空の支払であることは認識していたのであるから,hローンの被担保債権額が12億円と記載されていても,これも真実でない可能性があると考えるのが通常であり,したがって,被告両名には,上記被担保債権額の記載の裏付けを調査すべき していたのであるから,hローンの被担保債権額が12億円と記載されていても,これも真実でない可能性があると考えるのが通常であり,したがって,被告両名には,上記被担保債権額の記載の裏付けを調査すべき取締役としての善管注意義務ないし忠実義務があったというべきである。そうとすると,被告両名は,前記のとおり,hローンの被担保債権額が上記禀議書に記載された12億円であることの裏付けを調査しないまま,被告cにおいて,上記禀議を可とする意見を付して被告bに回付し,被告bは最終決裁者として可決決裁をしたのであるから,上記義務に違反したというべきである(なお,f興産の前記決算報告書《甲14》,銀行取引明細書《甲15の1・2》は,hローンの被担保債権額を裏付ける資料であって,本件担保解除の禀議の禀議項目に関する書類というべきであるから,A書類につづられていたと推認されるので,被告両名は,上記義務を尽くすため,禀議に当たり原則として参照すべきA書類にあたれば,上記書類を発見し,そこには上記被担保債権額が前記のとおり9億5000万円と記載されており,12億円もないことを容易に発見することができたはずである。また,仮に被告bが主張するように,上記書類が決裁に当たり必ずしも参照しないB書類につづられていたとしても,被告両名は,下位者に裏付資料を提出させるように命ずることによって上記義務を果たすことができるのであるから,上記被担保債権額の裏付調査をすべき被告らの上記義務に消長をきたすことはない。)。 また,被告cは,担保解除の方針とその条件は被告cが取締役審査部長に就任する前に事実上決定されており,被告cとしてはこれを拒否することはできなかった旨主張する。しかしながら,被告cには,担保解除稟議が上げられた時点において,これを可とすることによりa銀行が受ける利益・ する前に事実上決定されており,被告cとしてはこれを拒否することはできなかった旨主張する。しかしながら,被告cには,担保解除稟議が上げられた時点において,これを可とすることによりa銀行が受ける利益・不利益,これを否とすることによりa銀行が受ける利益・不利益を総合的に考慮して判断することが求められていたというべきところ,上記のとおり,その判断の前提となる事実の確認が不十分であったのであるから,結局,被告cの上記主張は,当時与えられていた責任を全うすることなく,前任者から言われるままに担保解除を可としたというにほかならず,到底その責任を免れる理由となるものではない。 (3) 以上のとおり,被告らには善管注意義務違反等が認められるというべきである。 2 争点(2)(損害額)について(1) 1に認定した善管注意義務違反等の内容,すなわち,被告らは,hローンの被担保債権額が真実10億4510万9804円(平成6年8月29日当時。なお,支店の把握《前記1(1)⑤》によれば,10億4871万1000円)であったのに,十分な調査・確認を怠り,これが12億円であると軽信した上,担保解除時に内入弁済を受けることを条件とすることなく,被告cにおいては稟議を可とする意見を付して被告bに回付し,被告bにおいては稟議を可決決裁したのであるから,被告らの以上の善管注意義務違反等によりa銀行が被った損害額は,担保物件の売却代金である14億5000万円から先順位担保権者であるhローンの前記被担保債権額10億4510万9804円及び前記売買仲介手数料4486万6000円を控除した3億6002万4196円を下らないというべきである。 次に,被告bの主張中には,被告bは,禀議書にhローンの被担保債権額を12億円と虚偽の記載をした甲支店等本件担保解除の稟議に携わった下位者と比 3億6002万4196円を下らないというべきである。 次に,被告bの主張中には,被告bは,禀議書にhローンの被担保債権額を12億円と虚偽の記載をした甲支店等本件担保解除の稟議に携わった下位者と比較して,その責任が軽いとして,過失相殺ないしその類推適用という見地から,被告bの責任割合を零とすべきであるとする部分があるが,前記1に認定・判断した上記禀議書の記載内容からすれば,最終決裁者である被告bの責任が上記下位者に比して軽いとは到底いえないから,被告bの上記主張は採用することができない。 (2) 被告らは,平成6年3月31日にa銀行が利息として受領した6929万0315円は,担保解除に当たっての内入弁済の前払いとしての性格を有するものであるから,これを損益相殺の対象にすべきであると主張する。しかしながら,担保物件の売買契約が成立したのは,それから2か月後の平成6年5月30日であり,本件全証拠によっても平成6年3月31日当時売買契約の成立が確実であったとまでは認められず,そのころにはいまだ売買契約が締結されるか否か未確定であったというべきところ,仮に交渉の結果売買契約が成立せず,担保解除を要しないような事態に至った場合には,a銀行からf興産に返還されるべき性質の金員であったかは甚だ疑問であり(銀行が利息として受領したものを返還するとは考え難いし,本件においてもそのような約定がなされていたことを認めるに足りる証拠はない。),上記金員が担保解除に当たっての内入弁済の前払いとしての性格を有するものとは認められない。よって,この点に関する被告らの主張は採用の限りでない。 (3) さらに,被告らは,平成6年9月30日にa銀行が利息として受領した1億4682万6502円は,f興産との間で本件担保解除の条件とされ,その条件が履行された結果であるから, 採用の限りでない。 (3) さらに,被告らは,平成6年9月30日にa銀行が利息として受領した1億4682万6502円は,f興産との間で本件担保解除の条件とされ,その条件が履行された結果であるから,担保解除に当たっての内入弁済としての性格を有するものとして,これを損益相殺の対象にすべきであると主張するが,仮にこれを損益相殺の対象にするとしても,a銀行が被った前記損害3億6002万4196円から上記1億4682万6502円を差し引いた2億1319万7694円となり,原告の請求額2億円を上回ることとなる。 3 結論以上によれば,被告らは,原告に対し,各自,上記損害の内金2億円とこれに対する本訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな平成11年3月26日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから,その履行を求める原告の本件請求は理由がある。よって,これを認容することとして,主文のとおり判決する。 和歌山地方裁判所第二民事部裁判長裁判官礒尾正裁判官間史恵裁判官田中幸大物件目録 1 所在神戸市丙区丁町戊丁目地番未番地目宅地地積 469.94平方メートル 2 所在神戸市庚区乙町戊丁目未番地家屋番号未番1種類旅館構造鉄筋コンクリート造陸屋根7階建床面積 1階 111.79平方メートル2階 113.72平方メートル3階 113.72平方メートル4階 113.72平方メートル5階 113.72平方メートル6階 67.75平方メートル7階 14.93平方メートル 3 所在神戸市庚区乙町戊丁目未番地家屋番号未番2種類居宅構 113.72平方メートル6階 67.75平方メートル7階 14.93平方メートル 3 所在神戸市庚区乙町戊丁目未番地家屋番号未番2種類居宅構造木造瓦葺平家建床面積 33.88平方メートル 4 所在神戸市庚区乙町戊丁目未番地家屋番号未番3種類居宅構造木造杉皮葺平家建床面積 13.22平方メートル 5 所在神戸市庚区乙町戊丁目未番地家屋番号未番4種類店舗作業場構造鉄骨造陸屋根4階建床面積 1階 23.72平方メートル2階 23.72平方メートル3階 23.72平方メートル4階 20.44平方メートル 6 所在神戸市庚区乙町戊丁目未番地家屋番号未番5種類店舗兼居宅構造木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建床面積 1階 37.52平方メートル2階 10.24平方メートル 7 所在神戸市庚区乙町戊丁目未番地家屋番号未番6種類居宅兼作業場構造木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建床面積 1階 46.05平方メートル2階 37.95平方メートル
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