平成15(わ)48 強盗殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年8月26日 名古屋地方裁判所
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判決文本文5,268 文字)

主文 被告人を懲役17年に処する。 未決勾留日数のうち160日を刑に算入する。 回転弾倉式けん銃1丁(平成15年押第54号の1)を没収する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (犯罪事実)被告人は,法定の除外事由がないのに第1 スーパーマーケットの従業員から売上金を強取しようと企て,平成14年12月30日午後8時57分ころ,不特定若しくは多数の者の用に供される場所である名古屋市a区bc丁目d番地所在の株式会社Ab店南側駐車場において,同店従業員B(当時38歳),同C(当時27歳)及び同D(当時23歳)に対し,所携の回転弾倉式けん銃1丁で,上記Dの頭上に向けて,弾丸1発を発射して脅迫し,その反抗を抑圧して,同人が左手に持っていた上記B管理に係る現金合計1081万199円入り現金袋4個在中の買い物かご1個を強取した上,同けん銃で,同人及び上記Cの間に向けて,更に弾丸1発を発射し,同人らを威嚇して逃走しようとしたところ,上記B及び同Cがひるまず被告人を追跡しようとしたことから,同けん銃を上記B及び同Cに向けて左右に振りながら,けん銃で弾丸を発射した場合には,同人らに命中して死亡するに至るかもしれないことを認識しながら,あえて,上記Bに対し,同人に向けて同けん銃で弾丸1発を発射して,同人の左側腹部を貫通させたが,同人に加療約4週間を要する左側腹部挫創(銃創)の傷害を負わせたにとどまり,殺害するに至らず,次いで,上記Cに対し,同人に向けて同けん銃で弾丸1発を発射したが,同弾丸が同人着用の上着の右胸ポケット内の携帯電話等に命中してとどまったため,殺害するに至らず,引き続き,逃走するに際し,上記B及び同Cの間に向けて,同けん銃で弾丸1発を発射した。 第2 前記回転弾倉式けん銃1丁を所持していたものであるが,前記日時・場所において,上記回転弾倉式 するに至らず,引き続き,逃走するに際し,上記B及び同Cの間に向けて,同けん銃で弾丸1発を発射した。 第2 前記回転弾倉式けん銃1丁を所持していたものであるが,前記日時・場所において,上記回転弾倉式けん銃1丁をこれに適合する実包5発とともに携帯した。 (証拠)(省略)(事実認定の補足説明)第1 判示第1の事実について,被告人は,けん銃を発射したのはすべて威嚇のためであって,判示Bに対しても,同Cに対しても,殺意はなかったと弁解し,弁護人も同様に主張して,被告人には強盗致傷罪が成立するにすぎないと主張する。一方,検察官は,被告人には確定的殺意があったと主張する。そこで,当裁判所が判示事実を認定した理由を以下補足して説明する。 第2 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 1 被告人は,判示回転弾倉式けん銃(以下「けん銃」という。)を20発の実包とともに知人から購入し,そのうち15発を試し打ちしており,けん銃に発射機能があり,人を殺傷する性能を有することを十分認識していた。 2 本件当時,被告人は,けん銃に5発の実包を装てんしていた。 3 本件犯行において,被告人は,まず,現金入りのかごを持った判示Dが自動車に乗り込もうとしたとき,Dの前に出てDと約1.6メートル離れた場所まで進んできて,「おい,金を出せ。」と怒鳴り,Dの頭上目がけてけん銃を1発発射した。Dは,強盗だと思い驚いてその場に倒れ,現金入りのかごを落とし,そのかごを被告人が左手で奪い取った。 4 そして,被告人は,前方の左右に立っていたBとCの間に向けて威嚇のためにけん銃をさらに1発発射し,同人らの間を通り抜けた。被告人は,同人らの間を通り過ぎた後振り向き,左手にかごを持ったまま,右手に持ったけん銃を水平に構えて,銃口を同人らに向けてさらに威嚇の姿勢を示しながら,後ずさりを 発発射し,同人らの間を通り抜けた。被告人は,同人らの間を通り過ぎた後振り向き,左手にかごを持ったまま,右手に持ったけん銃を水平に構えて,銃口を同人らに向けてさらに威嚇の姿勢を示しながら,後ずさりをしようとした。しかし,Bは約2メートル,Cは約4メートル前後の距離を被告人と保ちながら,両名とも前屈みの姿勢をとり,被告人と向き合っていた。BとCとの距離は約3.6メートルであった。 5 けん銃を発砲すれば,相手は畏怖して追いかけてくることはないと考えていた被告人は,Bらが逃げるどころか被告人を捕まえようとする構えをとったことから狼狽し,「殺すぞ」などと言いながら,水平に構えたけん銃の銃身をBとCに向けて左右に振りながら威嚇した。しかし,BもCも前同様の距離を保ちながらにじり寄ってきたため,被告人は,右腕を水平に伸ばした状態でけん銃を構え,左右に移動させながら,Bの身体方向に銃身を向けたとき,撃鉄を引くことなく,けん銃を1発発射した。 発射された弾丸は,被告人から約1.6メートルないし2.16メートル離れた場所にいたBの左側腹部を貫通し,Bに加療約4週間を要する左側腹部挫創(銃創)の傷害を負わせたが,Bは「痛てっ」と言っただけで,倒れなかった。 6 さらに,被告人は,すぐにけん銃を移動させて,後ずさりしながら銃身をCの身体方向に向けてけん銃を1発発射した。 発射された弾丸は,被告人から約4.1メートルないし5.8メートル離れた場所にいたCの右胸ポケットに命中したが,ポケット内に入っていたメモ帳2冊や電卓,携帯電話を破損しただけで,Cは,右胸に発赤ができただけで,傷害を負わず,Cも倒れなかった。 7 そして,被告人は,後ずさりしながら,再びどこを狙うということもなく,威嚇して逃走するためにBとCの間にけん銃を1発発射して逃走し,B 胸に発赤ができただけで,傷害を負わず,Cも倒れなかった。 7 そして,被告人は,後ずさりしながら,再びどこを狙うということもなく,威嚇して逃走するためにBとCの間にけん銃を1発発射して逃走し,Bらに追いかけられている途中もBらにけん銃を向けて威嚇したが,Bらに取り押さえられて現行犯逮捕された。 第3 殺意について 1 以上のとおりであって,被告人は,距離にして約2メートルから6メートルという至近距離で,B及びCの身体に向けて殺傷能力を有するけん銃を発射しているのであるから,格別の事情がない以上,少なくとも,BやCに弾丸が命中するかもしれないこと,その場合には同人らが死ぬことになるかもしれないがそれもやむを得ないと認識していたことが優に推認できる。 2 これに対して,被告人は,けん銃を構えて左右に動かしている間,無我夢中で引き金を引いたのであって,当たってもよいとか死んでもかまわないと思っていたとは言えないとか,当たるとか当たらないとかは考えていなかったと弁解する。 しかし,被告人自身,BやCに向けてけん銃を発射したこと自体は認めており,当たらないように撃ったわけではないとも述べているのであるから,被告人の弁解は,殺意があったとの推認を覆す理由とはならない。 3 そして,そのほかにも上記格別の事情は存在しないから,被告人にB及びCに対して少なくとも未必的殺意をもってけん銃を発射したことが認定できる。 4 一方,被告人は,最初の2発の発砲については,人の身体を狙わずに発砲しており,当初から殺害の意図があったものではないものと認められる。また,Bらに対してけん銃を発射したのに同人らが倒れなかった後にも,更に続けて同一人にけん銃を発射するという行動に出ておらず,1発威嚇発射したにとどまっている。 そして,BやCに対する発砲行為は,現金入りの らに対してけん銃を発射したのに同人らが倒れなかった後にも,更に続けて同一人にけん銃を発射するという行動に出ておらず,1発威嚇発射したにとどまっている。 そして,BやCに対する発砲行為は,現金入りのかごを強取した後のことであり,被告人がけん銃を向けて威嚇しているにもかかわらず,被告人を捕まえようとしてにじり寄ってきた同人らから逃げるために行われたものであり,被告人としては,逃走さえできればよく,あえて同人らを殺害しようとするまでの強い動機があるとは考えにくい。また,被告人は,同人らを威嚇するために片手で持ったけん銃を左右に振り,後ずさりしながら,撃鉄を引くことも忘れて発砲したのであって,BとCに対する発砲の際被告人が相当狼狽していたことが認められる。 5 以上の事実に加えて,被告人が,捜査段階から一貫して殺意を否認し,けん銃を発射したのは威嚇のためであったと述べていることも併せると,被告人が至近距離からBやCに向けてけん銃を発射したとはいえ,被告人が同人らを殺害することを意図して発砲したとまでは断定することはできないから,確定的な殺意があったとまで認定することはできない。 第4 以上の次第であって,被告人は,B及びCに対して,未必の殺意を持ってけん銃を発射したものと認められるから,判示第1のとおり認定する。 (法令の適用)罰条第1 B及びCに対する強盗殺人未遂の点はそれぞれ刑法243条,240条後段,けん銃を発射した点は包括して銃砲刀剣類所持等取締法31条,3条の13第2 銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2項,1項,3条1項科刑上の一罪の処理第1 刑法54条1項前段,10条(B及びCに対する強盗殺人未遂とけん銃発射はそれぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり, 条の3第2項,1項,3条1項科刑上の一罪の処理第1 刑法54条1項前段,10条(B及びCに対する強盗殺人未遂とけん銃発射はそれぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり,5発のけん銃発射は包括して一罪であるから,結局以上を一罪として刑及び犯情の最も重いBに対する強盗殺人未遂罪の刑で処断する。)刑種の選択第1 無期懲役刑法律上の減軽第1 刑法43条本文,68条2号(未遂減軽)併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条,14条(重い第1の罪の刑に法定の加重をする。)未決勾留日数の算入刑法21条没収回転弾倉式けん銃1丁(平成15年押第54号の1)刑法19条1項2号,2項本文(第1につき)訴訟費用刑事訴訟法181条1項本文(量刑の理由)本件は,被告人が,けん銃を発射するなどしてスーパーの売上金を強取して,被告人と対峙した従業員2名に対し,未必の殺意をもってけん銃を発射して,うち1人に傷害を負わせ(第1),その際けん銃を適合実包と共に携帯した(第2)という悪質重大事案である。 被告人は,何度も下見したり,けん銃やナイフといった凶器や,実際には使用しなかったが人相を隠すための覆面を準備した上,売上金を夜間金庫に届けるところを狙って犯行に及んだものであって,計画的犯行であり,実際にけん銃を使用している点で態様が悪質である。そして,被告人は,逃走するために被告人を捕まえようとした被害者らに向けてけん銃を発射したのであって,幸運にも死に至らなかったものの,一歩間違えば2人の死者が出た可能性があった非常に危険な犯行である。その結果,被害者のうち1人は加療 人を捕まえようとした被害者らに向けてけん銃を発射したのであって,幸運にも死に至らなかったものの,一歩間違えば2人の死者が出た可能性があった非常に危険な犯行である。その結果,被害者のうち1人は加療約4週間を要する左側腹部挫創の傷害を負っており,結果も重大である。また,強取金額も約1000万円と多額であり,この点の結果も重大である。しかも,被告人は,公共の用に供する場所において,5発ものけん銃を発射しているのであって,付近住民に与えた不安感も軽視できない。被告人は,生活費等に困窮しているわけでもないのに,スーパーの売上金の運搬が無防備であったことから大金を手に入れようとして犯行に及んだもので,その動機は身勝手かつ短絡的で酌むべき事情はない。また,被害弁償は実現しておらず,未だ被害感情は強い。 そして,被告人は,強盗致傷,強盗強姦等の罪により懲役17年に処せられた前科を有しながら,本件犯行に及んだのであり,被告人の規範意識は鈍磨していたといわなければならない。 そうすると,被告人の刑事責任は非常に重い。 一方,被告人は,事実自体は認め反省していること,殺意は未必的なものにとどまること,被害金は結果的に返還されたこと,被害者3名に対して合計200万円の被害弁償金を提示していること,上記刑による服役後約20年間が経過しており,この間継続して働いていたことなどの事情もある。 そこで,これらの諸事情を総合考慮して,主文のとおり判決することとする。 (求刑-懲役20年,けん銃1丁の没収)平成15年8月26日名古屋地方裁判所刑事第3部裁判長裁判官片山俊雄裁判官岩井隆義裁判官石井寛 山俊雄裁判官 岩井隆義裁判官 石井寛

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