平成16(ワ)3481 持分権移転登記手続請求事件

裁判年月日・裁判所
平成19年2月2日 福岡地方裁判所
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判決文本文6,680 文字)

- 1 -主文 被告は,原告に対し,被告が原告に対して191万3034円を支払わなかったときは,別紙物件目録記載の各不動産について,平成16年4月4日遺留分減殺を原因として,持分4億3231万7003分の187万1125の所有権移転登記手続をせよ。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1請求被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の各不動産(以下,これらを総称して「本件不動産」という)について,平成16年4月4日遺留分減殺を原因。 として,持分4億3231万7003分の187万1125の所有権移転登記手続をせよ。 第2事案の概要本件は,原告が,実母であるAから全部相続させる趣旨の遺言に基づいて相続を受けた被告に対し,遺留分減殺請求権を行使したことを理由に,相続財産である本件不動産について,所有権の一部移転登記手続を求めた事案である。 前提事実㨯Aは,平成15年7月23日,Aの有する財産全部を被告に相続させる趣旨の公正証書遺言(以下「本件遺言」という)をした(争いがない。 。 。)㨯Aは,同年11月14日,死亡した。同人の法定相続人は,子である原告及び被告である(争いがない。 。)㨯Aは,相続開始時において,別紙相続財産一覧表記載のとおり,本件不動産を含む積極財産として4億3231万7003円,消極財産として4億2483万2503円(以下,このうち,上記一覧表2㨯記載の長期借入金債務を「本件債務」という)の各財産を有していた(争いのない事実,鑑定。 - 2 -の結果。 )㨯原告は,被告に対し,平成16年4月4日,遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした(争いがない。 。)㨯被告は,同年5月17日,本件不動産につき,平成15年11月14日相続を原因 )㨯原告は,被告に対し,平成16年4月4日,遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした(争いがない。 。)㨯被告は,同年5月17日,本件不動産につき,平成15年11月14日相続を原因として,Aからの所有権移転登記を経由した(鑑定の結果。 ),,,㨯被告は原告に対し平成18年2月20日の本件口頭弁論期日において前記㨯の遺留分減殺に対する価額弁償の意思表示をした(記録上明らかな事実。 ) 主たる争点及び主たる争点についての当事者の主張遺留分侵害額の算定方法及び本件における原告の遺留分侵害額(原告の主張)被相続人が相続開始時に債務を有していた場合における遺留分の侵害額は,被相続人が相続開始時に有していた財産の価額から,債務の全額を控除し,それに法定の遺留分の割合を乗じて算定した遺留分の額に,遺留分権利者が負担すべき相続債務の額を加算して算定する(最高裁平成8年11月26日第三小法廷判決・民集50巻10号2747頁。 )ところで,本件遺言はいわゆる相続させる趣旨の遺言であるが,その法的性質は,包括遺贈ではなく,被告をして単独で相続させる遺産分割の方法及び相続分が指定されたものと解すべきである。そして,遺言者(債務者)は債務を自由に処分することはできないのであるから,債権者は相続分の指定には拘束されず,共同相続人に対し法定相続分に従って債務の負担を請求し得ることからすると,遺言者が遺産分割の方法を指定したとしても,そのことによって,。 ,,相続債務に影響を与えることはないそうすると相続債務のうち可分債務は法律上当然に分割され,共同相続人がその相続分に応じて承継するのが確定した判例(最高裁昭和34年6月19日第二小法廷判決・民集13巻6号757頁)であるので,本件においても,Aの消極財産のうち可分債務については法 割され,共同相続人がその相続分に応じて承継するのが確定した判例(最高裁昭和34年6月19日第二小法廷判決・民集13巻6号757頁)であるので,本件においても,Aの消極財産のうち可分債務については法- 3 -定相続分に応じて当然に分割される結果,その2分の1を原告が負担することになる。 以上により,本件における遺留分侵害額の算定においては,積極財産4億3231万7003円から消極財産4億2483万2503円を差し引いた748万4500円の4分の1である187万1125円に,相続債務の2分の1に相当する2億1241万6252円を加算しなければならず,この算定方法によると,本件における原告の遺留分侵害額は2億1428万7377円となるので,原告は,本件不動産につき4億3231万7003分の2億1428万7377の共有持分権を有する。 (被告の主張)本件における原告の遺留分侵害額を算定するに当たって,遺留分の額に相続債務の額の2分の1を加算して算定するのは誤っている。なぜなら,本件遺言は全部包括遺贈と同視されるべきところ,包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)から,包括受遺者が可分債務を相続する場合にも包括遺贈の割合が基準となり,全部包括遺贈の場合には包括受遺者が全債務を負担することになる。また,本件遺言は,消極財産のすべてを被告に相続させる趣旨であるところ,相続債務が相続により当然に法定相続分による分割債務になるという趣旨は,債権者保護の観点からであるから,債権者及び債務を相続する相続人に異議のない場合は,法定相続分と異なる債務の相続分の指定は有効である。そうすると,本件債務においては,債権者と被告との間で,当初から被告のみを承継人とすることが当然の前提とされていたから,本件遺言の上記趣旨は有効である。したがって, 債務の相続分の指定は有効である。そうすると,本件債務においては,債権者と被告との間で,当初から被告のみを承継人とすることが当然の前提とされていたから,本件遺言の上記趣旨は有効である。したがって,本件においては,被告は,本件遺言によって,積極財産のみならず,Aが有していた相続債務の全部も相続することになり,原告が負担すべき相続債務は存在しないことになるからである。 そして,本件不動産には本件債務を被担保債権とする抵当権が付いているので,本件不動産の相続開始時の評価額は,本件不動産の価格から被担保債権額- 4 -を差し引いた2176万1287円になる。そうすると,相続開始時の積極財産の合計額は2707万8290円,消極財産の合計額は1959万3790円(本件債務額を差し引く)となるところ,本件における遺留分侵害額の算。 定においては,相続債務を加算することは許されないから,原告の遺留分侵害額は,相続開始時における積極財産の合計額から同時点における消極財産の合計額を控除した748万4500円に,法定の遺留分割合(4分の1)を乗じた187万1125円となるので,本件不動産に係る原告の共有持分割合は,4億3231万7003分の187万1125となり,価額弁償額も187万1125円となる。 第3当裁判所の判断 遺留分侵害額の算定方法被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は,民法1029条,1030条,1044条に従って,被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え,その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し,それに同法1028条所定の遺留分の割合を乗じ,複数の遺留分権者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続持分の割合を乗じ,遺留分権利者がいわゆる特別受益 て遺留分算定の基礎となる財産額を確定し,それに同法1028条所定の遺留分の割合を乗じ,複数の遺留分権者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続持分の割合を乗じ,遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を,,得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり遺留分の侵害額はこのようにして算定した遺留分の額から,遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し,同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定する(最高裁平成8年11月26日第三小法廷判決・民集50巻10号2747頁。 )そして,原・被告間においては,本件不動産の評価額について争いがあるものの,遺留分の額が結果的に187万1125円となることについては争いが,,,なく原告が相続によって積極財産を得なかったことも争いがないので以下原告が負担すべき相続債務の存否について判断する。 - 5 - 原告が負担すべき相続債務の存否㨯本件遺言の解釈本件遺言は,Aの有する財産全部を被告に相続させる趣旨の遺言であるところ,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は,遺言書の記載から,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り,遺贈と解すべきではなく,当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものであり,また,当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,当該遺産は,被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継されるものと解すべきである(最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁参照。そして,このことは,)遺産全部について「相続させる」趣旨の遺言をした場合でも同様に解すべき,,であってこの場合は法定 る(最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁参照。そして,このことは,)遺産全部について「相続させる」趣旨の遺言をした場合でも同様に解すべき,,であってこの場合は法定相続分を超える遺産を相続させることになるから遺産分割の方法が指定されたとともに相続分が指定されたものと解すべきである。 そうすると,本件全証拠によるも,本件において,遺贈と解すべき特段の事情はなく,また,本件遺言において相続による承継を被告の意思表示にかからせたなどの特段の事情もないから,本件遺言は,被告の相続分を全部と指定し,その遺産分割の方法の指定として遺産全部の権利を被告に移転したものであって,その結果,遺産全部の権利はA死亡の時に直ちに被告に承継されたものと認められる。 㨯相続分が指定された場合の相続債務の承継相続債務については,債権者保護の観点から,また,遺言で法定相続分とは違う指定相続分が定められたとしても外部から窺い知ることが困難であることからして,たとえ遺言で相続分が指定されたとしても,債権者は,法定相続分の割合に従って相続債務が承継されたものとして各法定相続人に対し- 6 -請求することができると解する余地があるが,各共同相続人は,その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する(民法899条)のであるから,指定相続分が定められたときは,その指定相続分の割合に応じて相続債務は承継されることになる。そうすると,上記のように解した場合,債権者は,各共同相続人に対して,法定相続分の割合に従って請求することもできる(この場合,指定相続分の割合を超えて履行した相続人は,本来負担すべきであった相続人に対し求償することになる)し,本来の承継された指定相続分。 の割合に従って相続債務を請求することもできることになるが,いずれにせよ,相 の割合を超えて履行した相続人は,本来負担すべきであった相続人に対し求償することになる)し,本来の承継された指定相続分。 の割合に従って相続債務を請求することもできることになるが,いずれにせよ,相続人間においては,指定相続分の割合に応じて相続債務が承継されたものとしてその法律関係が律せられることに変わりはない。 したがって,本件遺言により被告の相続分が全部と指定されたのであるから,被告は相続債務をすべて承継し,原告が負担すべき相続債務はないことになる。 これに対し,原告は,最高裁昭和34年6月19日第二小法廷判決を引用して,可分相続債務は法定相続分に応じて当然に分割されると主張するが,同最高裁判決は,債権者と相続人との間の事案について判示したものであって,相続人間の事案について判示したものではないから,本件は同判決の射程範囲外の事件に当たるし,そもそも,同判決は「被相続人の金銭債務そ,の他の可分債務は,法律上当然分割され,各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継する」と判示するにとどまっており,法定相続分に応じて承継するとは明言しておらず,また,同判決は,法定相続分に従って可分債務を分割させてはいるが,当該事案の相続分が法定相続分であればそのように分割させるのは当然のことであって,指定相続分が定められているにもかかわらず,法定相続分に従って可分債務を分割させた事案ではないから,同判決によって原告の上記主張を根拠付けることはできず,したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 - 7 - 遺留分減殺請求の効果以上によれば,原告の遺留分侵害額は遺留分の額である187万1125円となるところ,遺言者がした相続分の指定に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合,相続分の指定は遺留分減殺請求に服しめられる(民法902条1項 遺留分侵害額は遺留分の額である187万1125円となるところ,遺言者がした相続分の指定に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合,相続分の指定は遺留分減殺請求に服しめられる(民法902条1項ただし書)から,被告が取得した権利は,原告の遺留分を侵害する限度で当然に原告に帰属する。 そうすると,原告は,遺留分減殺請求権の行使により,被告が取得した権利のいずれについても,積極財産全体の評価額4億3231万7003円のうち遺留分侵害額187万1125円の割合による部分を取得したことになるから,本件不動産についても4億3231万7003分の187万1125の割合の共有持分権を取得したというべきである。 価額弁償の額前記前提事実記載のとおり,本件においては,被告が価額弁償をする旨の意思表示をしているので,弁償されるべき価額を算定すると,鑑定の結果によれば,口頭弁論終結時における本件不動産の価額の総額は4億4200万円であ,,ると認められるから本件不動産の原告の共有持分権に対する価額弁償の額は上記金額に本件不動産の原告の共有持分割合(4億3231万7003分の187万1125)を乗じて得られた191万3034円となる。 第4 結論 よって,その余の点を判断するまでもなく,原告の本訴請求は,主文第1項記載の持分割合による所有権移転登記手続を同項記載の条件付きで求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担については,被告の敗訴部分がわずかであるので,民事訴訟法64条ただし書,61条を適用して,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第3民事部- 8 -裁判長裁判官一志泰滋裁判官荒谷謙介裁判官福田敦- 9 -(別紙)物件目録 所在福岡市○○区● 主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第3民事部- 8 -裁判長裁判官一志泰滋裁判官荒谷謙介裁判官福田敦- 9 -(別紙)物件目録 所在福岡市○○区●●4丁目地番××番地目宅地地積188.42平方メートル 所在福岡市○○区●●4丁目地番■■番地目宅地地積277.68平方メートル 所在福岡市○○区●●4丁目■■番地,××番地家屋番号■■番種類共同住宅・店舗構造鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根13階建床面積1階149.67平方メートル2階ないし13階144.20平方メートル- 10 -(別紙)相続財産一覧表 積極財産㨯保険解約返戻金305万8714円㨯現金3万0000円㨯預貯金合計213万0296円㨯本件不動産4億2700万0000円㨯家財一式5万0000円㨯国民健康保険4万4500円㨯介護保険料3493円合計4億3231万7003円 消極財産㨯医療費5万2790円㨯固定資産税117万4000円㨯償却資産税2万8000円㨯住民税31万2000円㨯個人事業税26万8000円㨯準確定申告申告所得税63万0000円㨯長期借入金4億0523万8713円㨯預かり敷金1712万9000円合計4億2483万2503円以上

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