- 1 -令和6年3月27日判決言渡令和5年(行ケ)第10034号審決取消請求事件口頭弁論終結日令和6年1月29日判決 原告白崎ベルベツト工業有限会社同訴訟代理人弁護士松田和也同訴訟代理人弁理士増田建川崎仁被告有限会社ブイテック 同訴訟代理人弁護士網谷威同訴訟代理人弁理士中出朝夫 主文 1 特許庁が無効2020-800045号事件について令和5年2月28日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の求めた裁判主文同旨第2 事案の概要 本件は、無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり、争点は、進歩性欠如、サポート要件違反、新規性欠如、冒認出願の各無効理由についての判断の誤りの有無である。 1 特許庁における手続の経緯被告は、発明の名称を「立毛シートの製造方法」とする発明につき、A(以下「A」 という。)を発明者として、平成28年12月27日に特許出願をし、平成30年3 - 2 -月16日、特許第6304634号として特許権の設定登録(請求項の数4)を受けた(以下、この特許を「本件特許」といい、本件特許に係る明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。甲94)。 原告及びB(以下「B」という。)は、令和2年5月11日、特許庁に対し、本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をし、特許庁は、これを無効2020- 800045号事件として審理した。特許庁は、令和5年2 以下「B」という。)は、令和2年5月11日、特許庁に対し、本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をし、特許庁は、これを無効2020- 800045号事件として審理した。特許庁は、令和5年2月28日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、本件審決の謄本は、同年3月10日、原告に送達された。 なお、原告及びBは、上記審判において、Bが本件特許に係る発明の発明者であり、本件特許には冒認出願の無効理由があると主張していたものであるが、原告は、 令和元年11月16日、Bが有するとされる本件特許に係る発明の特許を受ける権利の一部譲渡を受けており、上記審判請求時には、同権利を共有していた(甲16)。 Bは、令和3年12月13日に死亡し、その相続人の全員が相続放棄をしたことから(甲110、111(特記しない限り枝番があるものは枝番を含む。以下同じ。))、Bが有していたとされる特許を受ける権利は、全て原告に帰属する(民法264条、 255条)。 原告は、令和5年4月5日、本訴を提起した(当裁判所に顕著)。 2 発明の要旨本件特許の特許請求の範囲の請求項1から4までの記載は、次のとおりである(以下、請求項1から4までに係る発明をそれぞれ請求項の番号に応じて「本件発明1」 などといい、本件発明1から4までを併せて「本件各発明」という。甲94)。 【請求項1】熱可塑性繊維糸からなる一対の織物基布の間にパイル糸を織り込んで、ベルベット織組織の基材生地を製織する製織工程と、前記パイル糸をカットして2枚の立毛シートを形成する切断工程と、 この立毛シートをスチーマーにより高温水蒸気で蒸す蒸し工程と、 - 3 -前記立毛シートをヒートセッターにより形態安定化せしめるプレセット工 て2枚の立毛シートを形成する切断工程と、 この立毛シートをスチーマーにより高温水蒸気で蒸す蒸し工程と、 - 3 -前記立毛シートをヒートセッターにより形態安定化せしめるプレセット工程と、前記立毛シートを洗浄する精練工程と、前記立毛シートを染料により着色する染色工程と、脱水機により前記染料を脱水する脱水工程と、前記立毛シートを熱風で乾燥させる乾燥工程とを含んで構成されることを特徴と する立毛シートの製造方法。 【請求項2】蒸し工程において、スチーマー内で立毛シートを垂下させた状態で配置して蒸すことを特徴とする請求項1記載の立毛シートの製造方法。 【請求項3】 乾燥工程において、タンブラーにより回転させながら立毛シートを熱風で乾燥させることを特徴とする請求項1または2記載の立毛シートの製造方法。 【請求項4】切断工程後のパイル糸の長さを、織物基布から3~10mmの範囲で突出させることを特徴とする請求項1~3の何れか一つに記載の立毛シートの製造方法。 3 本件審決の理由の要点(1) 無効理由2(サポート要件違反)について本件各発明は、「簡素な工程で、長めの立毛パイルであっても立毛性を確実に付与することができ、特に、化粧用具の材料に適した立毛シートの製造方法を提供すること」(本件明細書の【0008】)を課題としている。 本件明細書の記載によれば、「長めの立毛パイルであっても立毛性を確実に付与」するための手段として、「蒸し工程による湿潤下における加熱処理と、乾燥工程による湿潤下における加熱処理とが相俟って、熱可塑性繊維糸が収縮して熱履歴によって織物基布の地組織を確実に締め付け・・・熱履歴によって高い立毛性を得る」(【0014】~【0016】)ことがあげられている。当該記載 おける加熱処理とが相俟って、熱可塑性繊維糸が収縮して熱履歴によって織物基布の地組織を確実に締め付け・・・熱履歴によって高い立毛性を得る」(【0014】~【0016】)ことがあげられている。当該記載からは、「熱可塑性繊維 糸からなる一対の織物基布の間にパイル糸を織り込んで、ベルベット織組織の基材 - 4 -生地を製織する製織工程」と、「この立毛シートをスチーマーにより高温水蒸気で蒸す蒸し工程」と、「前記立毛シートを熱風で乾燥させる乾燥工程」を含む本件発明1が本件各発明の課題を解決することを理解することができる。 よって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~4についての特許は、原告が主張する無効理由2によって無効とすることはできない。 (2) 無効理由1(甲11(特開昭64-40637号公報)に記載された発明及び甲12(特開昭62-191566号公報)に記載された事項に基づく進歩性欠如)についてア甲11には次の発明(以下「甲11発明」という。)が記載されている。 両面綿パイル織物の製織において、地経糸としてアクリル繊維100%の52番 手双糸を、地緯糸およびパイル引出し用抜緯糸としてとしてポリエステル繊維バルキー紡績糸の30番手双糸を、またパイル糸として綿100%の20綿番手双糸で撚係数α=3.2、上下比55%の綿糸を用い、パイル長を表面4.5mm、裏面5.0mmに設定して製織し、上下の織物地に掛け渡されたパイル糸をその中央部でカットし、 二枚のパイル織物を製造して得られた生機の裏面側の抜緯糸を引き抜く前に蒸し箱にて蒸熱処理(100℃、20分)を行い、蒸熱後に引き抜くことによりパイルを引き出して両面綿パイル織物とし、この織物をウインスで淡いベージュに染色し、柔軟加工後にタンブラ を引き抜く前に蒸し箱にて蒸熱処理(100℃、20分)を行い、蒸熱後に引き抜くことによりパイルを引き出して両面綿パイル織物とし、この織物をウインスで淡いベージュに染色し、柔軟加工後にタンブラ乾燥し、毛割加工、剪毛加工を行う 両面パイル織物の製造方法。 イ甲11発明と本件発明1とを対比すると、次の点で一致し、相違する。 [一致点1]「熱可塑性繊維糸からなる一対の織物基布の間にパイル糸を織り込んで、ベルベット織組織の基材生地を製織する製織工程と、 前記パイル糸をカットして2枚の立毛シートを形成する切断工程と、 - 5 -この立毛シートをスチーマーにより高温水蒸気で蒸す蒸し工程と、前記立毛シートを染料により着色する染色工程と、前記立毛シートを熱風で乾燥させる乾燥工程とを含んで構成される立毛シートの製造方法。」[相違点1] 本件発明1は、「この立毛シートをスチーマーにより高温水蒸気で蒸す蒸し工程」の後であって、「前記立毛シートを洗浄する精練工程」、「前記立毛シートを染料により着色する染色工程」、「脱水機により前記染料を脱水する脱水工程」及び「前記立毛シートを熱風で乾燥させる乾燥工程」の前に、「前記立毛シートをヒートセッターにより形態安定化せしめるプレセット工程」を行うのに対して、甲11発明は、そ のようなプレセット工程を行うことが特定されていない点。 [相違点2]本件発明1は、「前記立毛シートを染料により着色する染色工程」の前に、「前記立毛シートを洗浄する精練工程」を行うのに対して、甲11発明は、「この織物をウインスで淡いベージュに染色」する前に、そのような精練工程を行うことが特定さ れていない点。 [相違点3]本件発明1は、「前記立毛シートを染料により着色する染色工程 発明は、「この織物をウインスで淡いベージュに染色」する前に、そのような精練工程を行うことが特定さ れていない点。 [相違点3]本件発明1は、「前記立毛シートを染料により着色する染色工程」の後であって、「前記立毛シートを熱風で乾燥させる乾燥工程」の前に、「脱水機により前記染料を脱水する脱水工程」を行うのに対して、甲11発明は、「この織物をウインスで淡い ベージュに染色」した後で、「柔軟加工後にタンブラ乾燥」する前に、そのような脱水工程を行うことが特定されていない点。 ウ相違点についての判断(ア) 甲11には、「蒸熱」、「染色」、「タンブラ乾燥」に加えて、「蒸熱」を経た「両面面パイル織物」であって、「染色」、「タンブラ乾燥」といった工程を経る前のもの をヒートセッターにより形態安定化せしめるプレセット工程を備えるべきことの記 - 6 -載はないし、示唆する記載もない。そして、当該事項は甲12に記載された事項ではないし、甲12に示唆する記載もない。 また、ヒートセット又はプレセットに係る証拠である甲12、21、33~39にも、「蒸熱」、「染色」、「タンブラ乾燥」に加えて、「蒸熱」を経た「パイル織物」であって、「染色」、「タンブラ乾燥」といった工程を経る前のものをヒートセッター により形態安定化せしめるプレセット工程を備えることの記載はないし、示唆する記載もない。 したがって、相違点1は、甲11、12、21、33~39に接した当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (イ) よって、他の相違点を判断するまでもなく、本件発明1は、甲11に記載さ れた発明及び甲12(判決注:本件審決55頁には甲2とあるが、甲12の誤記と認める。)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたも もなく、本件発明1は、甲11に記載さ れた発明及び甲12(判決注:本件審決55頁には甲2とあるが、甲12の誤記と認める。)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備えるものであるから、本件発明1と 同様の理由により、甲11発明及び甲12(判決注:本件審決55頁には甲2とあるが、甲12の誤記と認める。)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 オよって、本件特許は、原告が主張する無効理由1によって無効とすることはできない。 (3) 無効理由3(公知公用発明に基づく新規性、進歩性欠如)についてアライン3製造工程(ア) 原告の主張するライン3製造工程は、「平成28年9月以降、新しい蒸し箱を丸平染色株式会社(以下「丸平染色」という。)に移設する29年1月頃まで、原告が、製織工程(a)、切断工程(b)によりポリエステル製立毛シートの半製品を製 織し、及び蒸し工程(c)を行って、丸平染色が染色工程(d)~(h)を行って、 - 7 -パフ用立毛シートを製造していた製造ライン」である。しかし、甲6の写真を参照しても、ライン3製造工程が原告の主張する内容のものと認定することはできない。 (イ) ライン3製造工程が「公然実施をされた」こと、つまり、不特定多数の者に見学をさせた、あるいは不特定多数の者が見学し、その内容を容易に知ることができるような状況であったことまでを示す証拠はないから、ライン3製造工程は、「公 然実施をされた発明」(特許法29条1項2号)にあたるとはいえない。 イ甲2生産工程原告 易に知ることができるような状況であったことまでを示す証拠はないから、ライン3製造工程は、「公 然実施をされた発明」(特許法29条1項2号)にあたるとはいえない。 イ甲2生産工程原告は、ライン3製造工程が甲2に記載されていると主張するが、甲2の記載からは、「基材生地」が「ベルベット織組織」のものであることその他各工程の内容を把握することができないから、ライン3製造工程が甲2に記載されたものとはいえ ない。 甲2生産工程は、甲52の2(平成22年12月にFAX送信された加工指図書)には記載のない「PS工程」、「乾燥工程」、「テンターブラシ工程」も備えていることから、同月当時のパフ用立毛シートの製造工程が甲2生産工程と略同内容とはいえない。 平成23年10月19日に作成され、株式会社新栄染色(以下「新栄染色」という。)から株式会社タイキ(以下「タイキ」という。)宛てに送付された甲53の1(加工工程と条件の再確認)は、その翌日にタイキから被告宛てに送付された甲53の2(送付状)に記載されているように試験前のものであるから、当時、甲53の1(判決注:本件審決62頁には甲52の1とあるが、甲53の1の誤記と認め る。)に記載された工程が確立されていたとはいえない。 したがって、平成26年7月時点で甲2生産工程が存在していたとはいえない。 ウ無効理由3についてのまとめ原告の主張するライン3製造工程又は甲2生産工程は、公然知られた又は公然実施をされていたということが推認できず、また、ライン3製造工程又は甲2生産工 程は、原告が主張するとおりのものと認定することはできないため、本件各発明は、 - 8 -特許法29条1項1号又は2号に該当せず、また、ライン3製造工程又は甲2生産工程に基づいて、当業 程は、原告が主張するとおりのものと認定することはできないため、本件各発明は、 - 8 -特許法29条1項1号又は2号に該当せず、また、ライン3製造工程又は甲2生産工程に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、本件特許は、原告が主張する無効理由3によって無効とすることはできない。 (4) 無効理由4(冒認出願ないし共同出願要件違反)について ア Aが発明者であることについてAの職歴等に鑑みると、Aは、繊維製品の製造の技術分野における当業者であるといえ、Aは本件特許の出願時に繊維製品の製造について知見を有していたものと認められる。 本件各発明を完成させるための開発の過程において、Aのほかに各工程の担当者 が関与していたが、Aの証言によれば、他の担当者はAの指示に従って受動的に作業をしていたにすぎず、本件各発明の完成に向けて、各工程の開発を総まとめし、個々の各工程の本件各発明との関係を全て把握していたのはAのみであった。 本件各発明の特徴的部分は、「立毛シートの製造方法」において、「この立毛シートをスチーマーにより高温水蒸気で蒸す蒸し工程と、前記立毛シートをヒートセッ ターにより形態安定化せしめるプレセット工程」と、「前記立毛シートを染料により着色する染色工程と、脱水機により前記染料を脱水する脱水工程と、前記立毛シートを熱風で乾燥させる乾燥工程」とを含んでいるところ、Aの証言によると、Aが、「立毛シートの製造方法」において、「この立毛シートをスチーマーにより高温水蒸気で蒸す蒸し工程と、前記立毛シートをヒートセッターにより形態安定化せしめる プレセット工程」とを含んで構成したことを、試行錯誤により発見したこと、及び「立毛シートの製造方法」において、「前記立毛シート し工程と、前記立毛シートをヒートセッターにより形態安定化せしめる プレセット工程」とを含んで構成したことを、試行錯誤により発見したこと、及び「立毛シートの製造方法」において、「前記立毛シートを染料により着色する染色工程と、脱水機により前記染料を脱水する脱水工程と、前記立毛シートを熱風で乾燥させる乾燥工程」とを含んで構成したことを、試行錯誤により発見したことが示されている。 イ Bについて - 9 -原告は、Bが本件各発明の発明者であると主張し、Bの陳述書(甲1の1)を提出しているが、その裏付けとなる証拠がない。したがって、Bが本件各発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したとはいえず、真の発明者がBであることを推認できない。 また、原告は、Aが発明に関与していたとしても、Bは、少なくとも本件各発明 の共同発明者であると主張するが、上記のとおり、Bが本件各発明の発明者であると認めることはできず、また、A以外の者が、本件各発明を完成させるために、それぞれの工程の順序を決定したり、各工程における温度や時間を決定したりしていたことを示す証拠はないから、Bは、共同発明者ではない。 ウ無効理由4についてのまとめ よって、本件特許は、原告が主張する無効理由4によって無効とすることはできない。 第3 原告の主張する取消事由 1 取消事由1(甲11発明及び甲12に記載された事項に基づく進歩性欠如についての判断の誤り) (1) 本件発明1では、条件によっては単独での「蒸し工程」を省略し、「乾燥工程」に「蒸し工程」を組み込むことができるから、本件発明1におけるプレセット工程は、「前記切断工程により形成された立毛シートのままの前記立毛シート、またはこの立毛シートに蒸し工程を施した前記立毛シートをヒートセ 工程」を組み込むことができるから、本件発明1におけるプレセット工程は、「前記切断工程により形成された立毛シートのままの前記立毛シート、またはこの立毛シートに蒸し工程を施した前記立毛シートをヒートセッターにより形態安定化せしめるプレセット工程」を意味する。そうすると、相違点については、次のと おり、相違点1-1と相違点1-2とに分けて認定すべきである。 (相違点1-1)本件発明1は、「前記パイル糸をカットして2枚の立毛シートを形成する切断工程」の後であって、「前記立毛シートを洗浄する精練工程」、「前記立毛シートを染料により着色する染色工程」、「脱水機により前記染料を脱水する脱水工程」及 び「前記立毛シートを熱風で乾燥させる乾燥工程」の前に「前記立毛シートをヒー - 10 -トセッターにより形態安定化せしめるプレセット工程」を行うのに対して、甲11発明は、そのようなプレセット工程を行うことが特定されていない点(相違点1-2)本件審決の相違点1と同じ(2) 甲12には精練工程と、「熱セット」としてプレセット工程の記載があり、脱 水工程の記載もある。そのため、甲11発明に甲12に記載された事項を組み合わせると、相違点1-1は容易想到である。なお、甲12に記載された事項は周知技術であって、甲11発明に甲12に記載された事項を組み合わせることは、単なる設計事項の範囲であり、阻害事由もない。 また、甲11発明に甲12に記載された事項を組み合わせ、更に甲33(特公昭 62-1032号公報)に記載されているような周知技術(リラックス処理後に、プレセットを行い、その後、染色すること)も考慮すると、相違点1-2は容易想到である。 なお、本件発明1は、その工程の順番まで特定したものではない(本件明細書の【0029】 (リラックス処理後に、プレセットを行い、その後、染色すること)も考慮すると、相違点1-2は容易想到である。 なお、本件発明1は、その工程の順番まで特定したものではない(本件明細書の【0029】)から、特定の順番であることを前提とした本件審決の判断には誤りが ある。 2 取消事由2(サポート要件違反についての判断の誤り)本件発明1に係る特許請求の範囲には、「熱可塑性繊維からなる一対の織物基布の間にパイル糸を織り込んで、ベルベット織組織の基材生地を製織する製織工程」との記載があるところ、「熱可塑性繊維からなる」との限定は、「一対の織物基布」 のみにかかる限定であり、「パイル糸」にまでかかるものではない。 そのため、本件発明1には「パイル糸」が綿繊維からなるものが含まれるが、綿繊維はセルロース繊維であるので熱セットされにくく、熱履歴によっては、綿繊維からなるパイル糸の立毛性が改善されない(甲95)。 そうすると、本件特許の出願時の技術常識に照らし、本件特許の特許請求の範囲 の記載にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは - 11 -いえない。 3 取消事由3(公知公用発明による新規性欠如についての判断の誤り)(1) 新栄染色は、平成23年10月当時、甲53の1に記載された工程を実施していた。新栄染色又は被告の従業員が、同月頃、甲53の1のうち手書き文字のないもの(甲101の2)を作成し、これを、被告の大阪営業所から、タイキに対し、 守秘義務を負わせることなく郵送又はFAX送信しており、同月頃には、甲53の1記載の工程は公然知られていた。 甲53の1は、被告、新栄染色及びタイキの間で、タイキ向けのパフ用立毛シートの量産に向けて製造工程の改善を図るための議論が活発に行われていた 、同月頃には、甲53の1記載の工程は公然知られていた。 甲53の1は、被告、新栄染色及びタイキの間で、タイキ向けのパフ用立毛シートの量産に向けて製造工程の改善を図るための議論が活発に行われていた時期に作成されたものである。なお、被告において、平成23年12月には量産体制が構築 され、タイキへの納品量が急増した(甲90の2)。 (2) 被告代表者であったC(以下「C」という。)は、平成26年6月17日、甲53の1の工程と実質的に同一の工程を記載した甲2(甲98・写真3左側の図)を作成し、同年7月頃、丸平染色、株式会社ウエマツなど複数の染色工場に、守秘義務を負わせることなく提示しており、同月頃には、甲2記載の工程は公然知られ ていた。 なお、被告は、当時、染色工程を委託していた新栄染色の蒸し箱に不具合が生じ、不良品が多く出るようになったことから、丸平染色等の他の業者に染色工程を委託することを検討しており、複数の業者に対し、甲2を示して打診をしていた。 (3) 甲53の1記載の工程と甲2記載の工程は、本件発明1の工程を全て含むも のであって、実質的に本件発明1と同一であるから、本件発明1には新規性欠如の無効理由がある。 ア甲53の1には、「生機投入」とあるが、これは製織工程と切断工程を含むものである。ベルベット業界においては、昭和40年代には、製織工程と切断工程を経てベルベット生地を得ることは技術常識であり、ベルベット業界の当業者は、両 工程を経て形成されたベルベット生地(立毛シートを含む。)を、「生機」と呼んで - 12 -いた。 イ甲2の「織り」は、製織工程と切断工程を意味するものである。昭和30年~40年代当時から、少なくとも福井県のベルベット織物業者が使用しているベルベット織物(ベルベッ - 12 -いた。 イ甲2の「織り」は、製織工程と切断工程を意味するものである。昭和30年~40年代当時から、少なくとも福井県のベルベット織物業者が使用しているベルベット織物(ベルベット生地)の製織機には、切断工程を行うためのカッターが備え付けられており、製織をすれば、必ずパイルカッターにより切断がされる。その ため、ベルベット業界の当業者は、製織工程と切断工程を併せて、単に、「織り」、「製織」などと呼んでいた。 4 取消事由4(冒認出願についての判断の誤り)(1) 本件各発明の発明者はBであり、本件特許は本件各発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたものであるから、冒認出願に当たり 無効である(特許法123条1項6号)。 (2) 本件各発明の特徴的部分は、次の各構成であり、タンブラーを用いた乾燥工程を含む構成2においては、蒸し工程の「立毛」効果に対する寄与度は無視することができ、構成3においては、蒸し工程は省略し得る。本件審決(65頁)が、本件各発明の特徴的部分について、「製織、切断、蒸し、プレセット、精練、染色、脱 水、乾燥の各工程」を含んで構成されるもののみであると認定したのは誤りである。 (構成1)「製織、切断、蒸し、プレセット、精練、染色、脱水の各工程、及び、タンブラーを用いない乾燥工程を含み、蒸し工程における加熱処理と、タンブラーを用いない乾燥工程における加熱処理と、が相俟って、高い立毛性を得ることができる構成」 (構成2)「製織、切断、蒸し、プレセット、精練、染色、脱水の各工程、及び、タンブラーを用いた乾燥工程を含み、タンブラーを用いた乾燥工程における加熱処理により、高い立毛性を得ることができる構成」(構成3)「製織、切断、プレセット、精練、染色、脱水の 脱水の各工程、及び、タンブラーを用いた乾燥工程を含み、タンブラーを用いた乾燥工程における加熱処理により、高い立毛性を得ることができる構成」(構成3)「製織、切断、プレセット、精練、染色、脱水の各工程、及び、タンブラーを用いた乾燥工程を含み、タンブラーを用いた乾燥工程における加熱処理によ り、高い立毛性を得ることができる構成」 - 13 -(3) Aは、本件の審判手続において、蒸し工程が本件各発明のキーポイントであり、蒸し工程をプレセット工程の前に入れること、プレセット工程において立毛シートが湿潤状態であることが重要であると証言したが、この証言は、本件明細書の記載と整合していない上、本件明細書には、蒸し工程をプレセット工程の前に入れることの本件各発明への寄与についての記載がない。また、蒸し工程により湿潤度 が上がるものではないから、蒸し工程を経ることで立毛シートが湿潤状態になるなどということはないし(甲92の1)、湿潤状態でヒートセットするなどということは本件明細書に記載されていないが、Aは、本件の審判手続において、蒸し箱から出てきたときには非常に濡れた状態であるなどと事実と異なる証言をした(甲61、89)。 このようにAは、自ら発明のポイントであるとする蒸し工程について理解をしておらず、本件明細書との矛盾する証言をしており、本件審決が、Aを発明者であると認定したことは誤りである。 (4) 他方、Bの陳述(甲1の1)は他の証拠と矛盾せず、蒸し工程を取り入れた経緯についての説明も自然であり、信用できる。Aは、平成18年9月当時、Cに 対し、蒸し工程の詳細についてBと打ち合わせるよう指示しており(甲50)、このことからも、Bが真の発明者であることがうかがわれる。 Bは、平成40年代に、プレセットの前に 8年9月当時、Cに 対し、蒸し工程の詳細についてBと打ち合わせるよう指示しており(甲50)、このことからも、Bが真の発明者であることがうかがわれる。 Bは、平成40年代に、プレセットの前に蒸し工程を行うことが立毛に有効であることを偶然に発見し、同工程による染色工程を確立させていた。 (5) 前記(3)の本訴における原告の主張及び実験結果を受け、被告は、立毛シート が蒸し工程後に湿潤状態であるとの主張をトーンダウンさせる一方、平成24年から25年頃に、新栄染色に新しい蒸し箱と大型タンブラー2台を導入したなどと記載したAの陳述書(乙8)を提出したが、そのような事実はない。常温の蒸し箱やタンブラー乾燥はBのアイディアであり、蒸し、プレセット、精練、染色、脱水、乾燥の順での染色工程は、Bの指導により、昌和染織株式会社(以下「昌和染織」 という。)において昭和50年代に行われていた。 - 14 -第4 被告の主張 1 取消事由1(甲11発明及び甲12記載事項に基づく進歩性欠如についての判断の誤り)本件発明1の「プレセット工程」は、「蒸し上がった前記立毛シートをヒートセッターにより形態安定化せしめる」ものであるから(本件明細書【0023】)、蒸し 工程を経ていることが前提となっている。本件発明1に係る特許請求の範囲に「蒸し工程」を経ない「立毛シート」に「プレセット」を行う態様が含まれていると解釈することはできない。したがって、原告の主張する相違点1-1は存在しない。 2 取消事由2(サポート要件違反についての判断の誤り)原告は本件の審判請求書記載の主張を繰り返しているにすぎず、本件審決は正当 である。 3 取消事由3(公知公用発明による新規性欠如についての判断の誤り)(1) 甲53の1について )原告は本件の審判請求書記載の主張を繰り返しているにすぎず、本件審決は正当 である。 3 取消事由3(公知公用発明による新規性欠如についての判断の誤り)(1) 甲53の1について「生機投入」との記載をもって製織工程及び切断工程が開示されているとはいえない。また、甲53の1における「糊抜き」後の脱水と、本件発明1における染色 後の脱水を同一視することはできない。更に、甲53の1では染色工程の前に脱水をしているが、本件発明1では染色工程の前に脱水をしておらず、精練工程の後の脱水もしていないし、染色工程のために「液流染色機(横型)」に移動させることもしておらず、ブラシ乾燥もしていない。甲53の1ではタンブラー乾燥には全くいきついていないし、「使用製剤」の中には中和剤となる酸性の薬剤も書かれていない。 加えて、甲53の1は、開発途上のものであって、技術として確立していなかった(甲53の2)。 したがって、甲53の1が平成23年10月当時に公然知られていたとしても、本件発明1の新規性が失われることはない。 (2) 甲2について 甲2は全て手書きであり、その作成日付(平成26年6月17日)には信用性が - 15 -ない。また、「撚糸」→「織り」とあるだけで、製織工程及び切断工程を示しているわけではない。加えて、「織り」と「蒸しセット」の間に「侵清」との記載があり、これが「浸漬」を意味するとしても、浸漬工程を挿入可能としている点で本件発明1とは異なる。「PS」が何を意味するか不明であり、仮にプレセットであるとしても、本件明細書記載の温度とは異なり、精練の時間も異なる。乾燥に加えて、テン ターブラシを必要とする点においても本件発明1とは別物である。また、甲2記載の工程が甲53の1記載の工程と同じであ ても、本件明細書記載の温度とは異なり、精練の時間も異なる。乾燥に加えて、テン ターブラシを必要とする点においても本件発明1とは別物である。また、甲2記載の工程が甲53の1記載の工程と同じであるならば、前記(1)と同じ理由で本件発明1とは異なる。 したがって、甲2が公然知られていたとしても、本件発明1の新規性が失われることはない。 4 取消事由4(冒認出願についての判断の誤り)(1) 本件発明1の特徴的部分は、切断工程の後、プレセット工程の前に蒸し工程を入れることで、高い立毛性という顕著な効果を得ることができる点にある。Aは、繊維分野における技術者であり、染色担当者2名と関連の長1名を補助者として技術改良を行い、本件各発明の特徴的部分にたどりついた(甲74の3・90~92 項目、186項目)。試行錯誤の上で、蒸し工程を切断工程とプレセット工程の前に入れることで安定性が格段に良くなることや、乾燥工程においてタンブラー乾燥が有効であることに気づいたのである(甲74の3・130項目、241項目~)。そして、特許申請に当たり、弁理士に発明内容を説明したのはAであり、Bは関わっていない。 したがって、本件各発明の発明者はAであり、本件審決は正当である。 (2) 発明の経緯ア新栄染色では、従前、短いパイル毛のベルベットを製造しており、その工程は、「製織→切断→蒸し→精練→脱水→染色→脱水→(被告で)テンターブラシ乾燥」というものであった。平成22年から23年頃、商社から約4mmの長いパイル毛 の化粧用パフに用いるベルベットの製造依頼があったことから、Aは、本件各発明 - 16 -の開発を開始した。 イ具体的には、前処理(染色までの工程)に関し、次の各条件を組み合わせて実験を行ったところ、 用いるベルベットの製造依頼があったことから、Aは、本件各発明 - 16 -の開発を開始した。 イ具体的には、前処理(染色までの工程)に関し、次の各条件を組み合わせて実験を行ったところ、薬品処理をしないで、蒸し処理の後にプレセットをする方式が良いことが判明した。 ・薬品処理:①濃度10%のアルカリ性の水溶液を用いる場合 ②濃度10%の酸性の水溶液を用いる場合③薬品処理をしない場合・プレセット処理:170℃×2分・蒸し処理:90℃の蒸気で、0分、30分、60分、120分ウ Aは、工程を簡素化するために、精練工程で酸性の薬剤を投入して中和する ことを思いついた。これにより、精練工程後に脱水しなくとも染色が可能となった。 エ後処理(乾燥工程)に関し、被告の女性従業員から、小試験布の残布を廃棄するに当たり、小型タンブラーに入れて乾燥させたところ、良い仕上がりであったとの報告を受けたことから、Aは、蒸し機と大型タンブラー乾燥機を購入してタンブラーを用いた乾燥工程の実験を行い、80℃から110℃で30分から120分 程度行うことが適正であることが判明した。 テンターブラシ乾燥機を用いることなく、タンブラー乾燥のみで安定して立毛するようになったのは平成27年から平成28年頃である。 オしたがって、本件各発明の完成時期は平成27年から28年頃である。 (3) Bは、新栄染色でレーヨンベルベットの染色を担当しており、化粧用パフに 用いるベルベットの染色には関わっていない。また、Bは、平成20年終わり頃から体調を崩して出勤頻度が減り、平成21年3月6日に退職した。そのため、平成22年から平成23年頃以降に行われた本件各発明の開発に関与していない。 第5 当裁判所の判断 1 本件各発明について ら体調を崩して出勤頻度が減り、平成21年3月6日に退職した。そのため、平成22年から平成23年頃以降に行われた本件各発明の開発に関与していない。 第5 当裁判所の判断 1 本件各発明について (1) 本件明細書には、別紙1「特許公報」のとおりの記載がある(甲94)。 - 17 -(2) 本件各発明の概要前記(1)の記載によると、本件各発明は、簡素な工程で、長めの立毛パイルであっても立毛性を確実に付与することができる、特に、化粧用具の材料に適した立毛シートの製造方法に関するものである(【0001】)。 化粧用のパフの材料としては、スポンジ製のものや立毛織物が適しているところ (【0002】【0003】)、立毛構造のパフにあっては、顔というデリケートな皮膚に使用されるものであることから、肌のトラブルの原因とならないよう、立毛部分に十分な柔軟性が必要であり、そのためには立毛部分を長くするという手段が考えられるものの(【0004】)、立毛部分の長い立毛シートには、製造時、加工工程において立毛同士が静電気等で絡み合い易く、うまく整毛できないという問題があ り、使用時には、使用を重ねる毎に立毛部分が倒れてしまうことから、柔軟性を確保しつつも立毛性を保つという課題がある(【0005】)。更には、従来、立毛部分に立毛性を付与するために、仕上げ工程として立毛部分をブラッシングしていたが、別途ブラッシング装置が必要となって製造コストが嵩む上、生地の表面にブラシ針を押圧して摺動させるために生地への負担が大きく、立毛部分を損傷してしまい柔 軟性を損なうおそれがあるという課題があった(【0006】)。 そこで、本件各発明は、これらの課題を踏まえ、簡素な工程で、長めの立毛パイルであっても立毛性を確実に付与することができ、特 い柔 軟性を損なうおそれがあるという課題があった(【0006】)。 そこで、本件各発明は、これらの課題を踏まえ、簡素な工程で、長めの立毛パイルであっても立毛性を確実に付与することができ、特に、化粧用具の材料に適した立毛シートの製造方法を提供することを目的とし(【0008】)、本件発明1の方法を採用することとした。 本件発明1の方法では、簡素な工程で、長めの立毛パイルであっても確実に立毛性を付与することができるため、化粧用具の材料に適した立毛シートを製造することができ(【0014】)、蒸し工程による湿潤下における加熱処理と、乾燥工程による湿潤下における加熱処理とが相俟って、熱可塑性繊維糸が収縮して熱履歴によって織物基布の地組織を確実に締め付けるとともに、立毛部分も収縮して熱履歴によ って高い立毛性を得ることができる(【0015】)。また、本件発明3では、乾燥工 - 18 -程にタンブラーを使用し、蒸し工程のスチームセットとタンブラー乾燥とを組み合わせることにより、「乾燥」と「立毛」をタンブラー1工程で処理することが可能となることから、従来のような大きなブラッシング付き乾燥機で処理することなく、それ以上の風合いの良い生地を低コストで簡単に実現できる(【0016】【0017】)。 2 事実経緯後掲各証拠及び弁論の全趣旨によると、本件各発明等に係る経緯に関し、次の事実が認められる。 (1) Bは、昭和30年頃から、京都に所在する日本化工有限会社に勤務し、ベルベット織物の染色加工に従事していた。(甲1の1) (2) Aは、関西大学の工学部機械工学科を卒業後、繊維機械メーカーでの紡糸機の開発設計業務を経て、昭和41年10月、長谷川繊維工業株式会社(その後、株式会社ハセガワベルベットに社名変更。以下 (2) Aは、関西大学の工学部機械工学科を卒業後、繊維機械メーカーでの紡糸機の開発設計業務を経て、昭和41年10月、長谷川繊維工業株式会社(その後、株式会社ハセガワベルベットに社名変更。以下「ハセガワベルベット」という。)に入社し、ベルベット織布生産業務に従事した。ハセガワベルベットが平成4年に倒産した後、Aは、平成5年3月8日、ベルベット生地等の仕入れ・プリント・販売を する会社である株式会社ウノテキスタイル(乙5。以下「ウノテキスタイル」という。)を、平成6年10月28日には被告(乙6)を、それぞれ設立し、これらの会社の実質的経営者となった。(乙4から6まで、8)(3) 昭和50年頃、ハセガワベルベットとBの父親が経営する日本化工有限会社との間で取引が開始された。日本化工有限会社は、ハセガワベルベットを含む織物 業者から染色加工の委託を受けてベルベット織物に対する染色加工を行い、パフ用の立毛シートの製造を行っていた。Bは日本化工有限会社の従業員として、染色加工工程に関与していた。(甲1の1、121の1、証人C〔2、13頁〕。頁数は本件訴訟における人証の尋問調書の頁数を指す。以下同じ。)。 (4) Bは、平成元年、日本化工有限会社を退職し、有限会社新栄テキスタイルを 設立した。Bは、同社においても、被告から委託を受けるなどしてベルベット織物 - 19 -に対する染色加工を行った。有限会社新栄テキスタイルは、平成17年に廃業した。 なお、平成元年頃までにBが作成したとされるメモ(甲132の2)には、染色、脱水後の乾燥をタンブラーで行う旨の記載がある(甲1の1、甲9、132の2、乙6、証人C〔5頁〕)(5) Aは、平成18年、Bに声をかけ、福井県鯖江市において自営業としての新 栄染色を立ち上げ、平成 乾燥をタンブラーで行う旨の記載がある(甲1の1、甲9、132の2、乙6、証人C〔5頁〕)(5) Aは、平成18年、Bに声をかけ、福井県鯖江市において自営業としての新 栄染色を立ち上げ、平成18年7月7日、これを株式会社(乙3)とした。Bは、同日、新栄染色の代表取締役に就任し、Aは、同年10月13日、同社の代表取締役(Bと共同代表者)に就任した。Bは、同年5月頃、シリンダードラム乾燥機及びタンブラー乾燥機を京都から運び、新栄染色に設置した。 (甲1の1、120の1・2、121の1、133の1、乙3、8、証人C〔9頁〕) (6) 新栄染色は、原告や被告から委託を受け、パフ用ベルベットについて染色加工を行っており、設立当初は蒸し工程は外注していたが、平成18年又は19年頃に自社内に蒸し箱を設置して以降は、蒸し工程も行っていた。新栄染色において、Bは、染色加工業務を担当し、被告代表者であったCに対し、染色加工の具体的内容を指導するなどしていた。(甲1の1、9、49、51、91、97、119の1、 121の1、127の1、133の1、証人C〔13頁〕)(7) Bは、平成21年3月6日、新栄染色を退職した。その後は、昌和染織を退社して新栄染色に入社していたDが、主に染色加工に係る業務を担当した。 (甲91、119の1、127の1、133の2、乙3)(8) 新栄染色は、平成20年頃、パフ生地を生産しており、同年終わり頃には、 新栄染色におけるパフ用ベルベットの染色加工は、蒸し工程の後、すぐにテンターでプレセットをするという工程が含まれていた。また、平成22年から23年にかけて、タンブラー(容量30kg、幅100×高さ150×奥行き120cmのもの)2台が増設され、平成18年5月から設置されていた同じ大きさのタンブラー 程が含まれていた。また、平成22年から23年にかけて、タンブラー(容量30kg、幅100×高さ150×奥行き120cmのもの)2台が増設され、平成18年5月から設置されていた同じ大きさのタンブラー1台と併せ、新栄染色には合計3台のタンブラーが設置されるようになり、乾燥工 程に利用されていた。(甲91、119、120、121の1・4、122、129) - 20 -(9) 被告(当時の代表者はC)は、平成22年11月25日、タイキとの間で、「購買基本契約」(甲140の2。第28条には、「基本契約、個別契約または貸与書類等により知り得た相手方の業務上の秘密事項」に関する秘密保持条項があり、同条項上「秘密事項は書面で特定されるものとする。」とされている。)を締結し、平成23年1月4日、タイキに対する納品を開始した。タイキへの納品物は、資生 堂向けのパフ用立毛シートであり、大量生産を要するものであったことから、タイキ、被告及び新栄染色の間で、大量生産のための染色工程の改善の取組が行われた。 その過程で、新栄染色は、タイキからの依頼により「加工工程と条件の再確認」と題する書面に、加工工程や条件を記載した平成23年10月19日付け文書(甲101の2。甲53の1の手書き文字部分を除いたもの。以下「甲53の1文書」と いう。)を作成した。甲53の1文書は、同月20日に、被告の大阪営業所からタイキに対しファクシミリ送信されたほか、この頃、タイキ、被告及び新栄染色の従業員ら数名に対し、守秘義務を負わせることなく配布された。タイキからは、甲53の1文書記載の工程について、条件変更の提案がされた。なお、甲53の1文書には、当時、新栄染色で行われていた工程が記載されているが、被告又はタイキが特 に秘密事項として特定したとの記載はない。 の1文書記載の工程について、条件変更の提案がされた。なお、甲53の1文書には、当時、新栄染色で行われていた工程が記載されているが、被告又はタイキが特 に秘密事項として特定したとの記載はない。(甲90の1・2、101の2、121の1、138の1、140の2、証人C〔15、27頁〕、証人A〔31頁〕)(10) 被告からタイキに対する納品量は、平成23年12月頃から大きく増加した。なお、平成24年1月10日付けのウノテキスタイルのAから被告従業員E宛てのメモの中には、「④新栄染色…タンブラー方式はCOST 高くつく為→テンター方 式へ」「H24年度中旬に変更予定」との記載がされている。(甲90の1・2、100の3)(11) 平成25年頃以降、新栄染色の蒸し機に不具合があり、新栄染色から納品された製品の品質が問題となったことから、被告代表者であったCは、新栄染色以外の業者に、染色加工を依頼することを検討するようになった。Cは、平成26年7 月頃、染色工程等を記載した手書きの文書(甲2(「目録①生産工程説明書(平成2 - 21 -6年6月17日付)」と記載された部分を除く。)、甲98写真3左頁、甲107。以下「甲2文書」という。)を作成し、守秘義務を負わせることなく丸平染色のF専務に交付し、ベルベット織りの立毛シートの製造方法を説明して、染色工程の委託を打診した。Cは、甲2文書を、守秘義務を負わせることなく、株式会社ウエマツ及びYK化工にも渡した。(甲9、10、96、121の1、127の2、証人C〔2 4、26頁〕)(12) Cは、京都に戻っていたBに依頼し、平成26年中に、丸平染色に対し、染色加工に係る指導を2度行った。丸平染色は、平成27年12月、中古のタンブラー乾燥機を購入し、平成28年9月12日以降、 (12) Cは、京都に戻っていたBに依頼し、平成26年中に、丸平染色に対し、染色加工に係る指導を2度行った。丸平染色は、平成27年12月、中古のタンブラー乾燥機を購入し、平成28年9月12日以降、被告に対し、正式に納品をするようになった。ところが、被告のオーナーであるAは、丸平染色との取引に難色を示 し、同年12月6日、被告代表者であったCに対し、同月末までは丸平染色との取引を許可するが、丸平染色への加工指示書や出荷伝票をウノテキスタイルにFAX送信するよう指示し、これらが守られない場合には取引を停止する旨伝えた。(甲8別添2目録③~⑤、甲10、42~45、47、74の3・189項目、甲129、証人C〔17頁〕) (13) Aは、平成28年9月又は10月頃、新栄染色で行っていた染色工程についての発明を、自らが支配する被告において特許出願することとし、弁理士に相談した。被告は、同年12月27日、Aを発明者として、本件特許の出願をした。(甲94、証人A〔33頁〕)(14) Cは、平成29年1月、被告代表者を辞任し、原告の顧問に就任した。(甲 9) 3 取消事由3(公知公用発明による新規性欠如についての判断の誤り)について(1) 公知性前記2を前提として検討すると、甲53の1文書は平成23年10月頃、甲2文 書は平成26年7月頃に、それぞれ公知となっていたものと認められる。 - 22 -(2) 甲53の1文書についてア甲53の1文書は、ベルベット織りの立毛シートの製造工程を示すものとして交付されたものであり、別紙2のとおり、「「生機投入」→「スチームセット」→「ドライセット」→「糊抜き」→「脱水」→「染色」→「脱水」→「乾燥(ブラシ)」→「ブラシ※ブイテック様」」との工程が記載されてい れたものであり、別紙2のとおり、「「生機投入」→「スチームセット」→「ドライセット」→「糊抜き」→「脱水」→「染色」→「脱水」→「乾燥(ブラシ)」→「ブラシ※ブイテック様」」との工程が記載されている。 イ 「生機投入」の部分により、製織工程と切断工程が開示されているといえるかという点について争いがあるので検討するに、「生機」とは「織り上げて織機からはずしたままの織物」を意味するところ(甲114・大辞林第四版)、ベルベット織りの織り機は、織ると同時に切断も行うことから一度に2枚分が織り上がるものであって、「織り機からはずしたままの織物」は、切断後の織物であると認められるか ら(甲40、112)、「生機投入」との記載から、甲53の1文書を受領した当業者は、当然に、製織工程と切断工程を経た生機が投入されると理解すると認めるのが相当である。そして、甲53の1文書の「生機投入」の使用機器欄に記載された「ZQ40 4mm」はパイル長4mmのポリエステル製パフ用の立毛シートの生機の品番を意味するものと認められ(証人C〔28頁〕)、ポリエステルは熱可塑性 繊維であるから(本件明細書【0020】等)、甲53の1文書の「生機投入」工程の記載により、本件各発明の製織工程と切断工程が開示されていると認められる。 ウそして、甲53の1文書の「スチームセット」は本件各発明の「蒸し工程」に、「ドライセット」は本件各発明の「プレセット工程」に、「糊抜き」は本件各発明の「精練工程」にそれぞれ相当する(証人A〔5〕)。また、「染色」は本件各発明 の「染色工程」に相当し、「染色」の次に記載された「脱水」は、真空脱水とあるから脱水機を用いたものであることが明らかであって、本件各発明の「脱水機により前記染料を脱水する脱水工程」に相当する。さらに、 「染色工程」に相当し、「染色」の次に記載された「脱水」は、真空脱水とあるから脱水機を用いたものであることが明らかであって、本件各発明の「脱水機により前記染料を脱水する脱水工程」に相当する。さらに、「乾燥(ブラシ)」はドライセッターで150℃で乾燥させるものであるから、本件各発明の「前記立毛シートを熱風で乾燥させる乾燥工程」に相当する。なお、特許請求の範囲の記載及び本件明 細書の記載を総合しても、本件発明1の乾燥工程から、ブラシを用いるものが除外 - 23 -されているとは認められない。 エそうすると、甲53の1文書に記載された工程は、本件発明1を構成する工程を全て含むものであるから、本件発明1を開示するものといえる。 オこの点、被告は、甲53の1文書記載の工程では、精練工程の後に脱水をしていること、タンブラー乾燥をしていないこと、使用液剤に酸性の液剤が含まれて いないこと等から、本件各発明とは異なると主張する。しかしながら、本件発明1の特許請求の範囲の記載に照らすと、請求項1に記載された工程を全て含む必要があるとはいえるものの、同工程のみを含むものに限定されており、別の工程が付加されたものが除外されているものと理解することはできない。そして、本件明細書の記載に照らしても、本件発明1は、請求項1に記載された工程のみを含むものに 限定されていると理解することはできない。そうすると、「精練工程の後に脱水」をしていることをもって本件各発明とは異なるということはできない。また、タンブラー乾燥は本件発明3を構成する要素ではあるものの、本件発明1を構成するものではない(なお、前記2(5)(8)のとおり、タンブラーを利用した乾燥工程は、平成18年頃から新栄染色で行われていたものと認められるが、当時、当該乾燥工程の ものの、本件発明1を構成するものではない(なお、前記2(5)(8)のとおり、タンブラーを利用した乾燥工程は、平成18年頃から新栄染色で行われていたものと認められるが、当時、当該乾燥工程の 存在及び内容が秘密事項として管理されていたことをうがわせるような主張立証はない。そもそも、甲12(パイル織編物の仕上げ方法に関する公開特許公報(昭62-191566号))中にもパイル織物の染色加工後、タンブラー乾燥機で乾燥する旨の記載があることにも照らすと、本件各発明の出願時において、少なくとも、熱可塑性繊維のパイル織物についてタンブラーを利用して乾燥する工程自体は公知 であったと考えられる。)。さらに、酸性の液剤を使用することは本件各発明の技術的範囲に含まれるものではなく、その他の被告の指摘する事項はいずれも本件各発明を構成する事項ではない。したがって、上記被告の主張はいずれも前記エの判断を左右するものではない。 被告は、甲53の1文書の工程は開発途中のものであって技術として確立してい なかったとも主張するが、前記2(9)のとおり、同工程は、平成23年10月頃、新 - 24 -栄染色において、現に商品の製造に用いられていた工程なのであるから、これが発明に当たるとすれば、発明として完成していたのは明白である。 (3) 甲2文書について甲2文書は、前記2(11)のとおり、ベルベット織りによる立毛シートの製造工程を示すものとして交付されたものであり、別紙3のとおり、「織り」→「蒸しセット」 →「PS」→「精練」→「染色」→「乾燥」の各工程が記載されたものである。甲2文書に記載された工程について前記(2)と同様に検討すると、甲53の1文書に記載された工程と同じであり、本件発明1を開示するものであると認められる。なお 「乾燥」の各工程が記載されたものである。甲2文書に記載された工程について前記(2)と同様に検討すると、甲53の1文書に記載された工程と同じであり、本件発明1を開示するものであると認められる。なお、「織り」が製織工程と切断工程を含むことについては前記(2)イと同様であり、「PS」はプレセットを意味するものと認められる(証人A〔34頁〕)。また、甲 2文書の工程には「乾燥」の前の「脱水」が記載されていないものの、乾燥する前に脱水を行うことは当然であるから、当業者は、甲2文書により、脱水工程を含むものが開示されているものと理解すると認められる。 (4) 小括そうすると、本件発明1は、平成23年10月頃には公然知られていたと認めら れるから、本件発明1に係る特許は特許法29条1項1号の規定に違反してされたものであって、特許法123条1項2号の無効理由がある。 したがって、甲2生産工程(甲2文書に記載された工程であり、かつ甲53の1文書に記載された工程)が公然知られたものとはいえず、本件発明1が特許法29条1項1号に該当しないとする本件審決の判断には誤りがあるから、取消しを免れ ない。 4 取消事由4(冒認出願についての判断の誤り)について(1) 冒認出願を理由として無効審判請求をすることができるのは特許を受ける権利を有する者に限られるから(特許法123条2項、1項6号)、原告は、自らが特許を受ける権利を有する者であることを証明する必要がある。そして、原告が主張 する本件各発明に係る特許を受ける権利は、Bが発明者として有していた本件各発 - 25 -明に係る特許を受ける権利に由来するものであるから、原告が特許を受ける権利を有する者であるといえるためには、Bが本件各発明の発明者であると認められる必要がある 有していた本件各発 - 25 -明に係る特許を受ける権利に由来するものであるから、原告が特許を受ける権利を有する者であるといえるためには、Bが本件各発明の発明者であると認められる必要がある。 (2) ここで、発明者とは、発明の技術的思想の創作行為に現実に加担したものであって、課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与した者をいう ところ、前記1(2)によると、本件各発明の特徴的部分は、蒸し工程と乾燥工程の双方を用いることにより、高い立毛性を得ることにあり、本件発明3については、これに加えて、タンブラーを使用することでブラッシング付き乾燥機を要しないものとなったことにあると認められる。 (3) 前記2(9)及び前記3(2)のとおり、本件発明1は平成23年10月までに完 成していたということができる。前記2の経緯及びAが、新栄染色のAとして作成した平成21年7月1日付け文書(甲128の3)に、「現況のB流を60点とすると80点迄は持っていける」と記載していたことからすると、新栄染色では、平成21年7月当時、Bが指導した工程により染色加工が行われていたことが認められ、これに反する証拠はない。そして、前記2のBの職歴や本件訴訟に提出されたBが 作成したメモ(甲132)、Bが、新栄染色設立以前にも昌和染色に対し染色工程を指導するなどしていたこと(甲1の1、証人C〔29頁〕)に照らすと、Bは、立毛シートの染色加工に関し、創意工夫を凝らして発明をするに足る十分な知見を有していたことが推認されるのであり、Bが、その陳述書(甲1の1)において、昭和40年代の後半、プレセットの前に蒸し工程をするという工程を開発した経緯等と して、株式会社杣長からポリエステルなど合成繊維のパフ用ベルベット織物(立毛シートの半製品 甲1の1)において、昭和40年代の後半、プレセットの前に蒸し工程をするという工程を開発した経緯等と して、株式会社杣長からポリエステルなど合成繊維のパフ用ベルベット織物(立毛シートの半製品)の製造委託を受けたが、ポリエステルでは、シルクやレーヨンとは異なり、ピン式ヒートセッターでピン止めして吊るしてプレセットを行うとピン付近とそれ以外の部分が不均質になるという問題があったことから、プレセット前に蒸し工程を行い、ポリエステルを収縮させてからプレセットをしたところ、パイ ルが立毛になるという効果があったこと、蒸しは蒸し箱内にベルベット織物を垂下 - 26 -させて高温水蒸気で蒸すものであり、Bが条件を90~110℃、2時間と指示して行ったこと、パイル長が2~3mmであったことなど、開発の経緯及び内容を具体的に陳述していることは、これと整合するものである。 また、Bは、昭和50年代から、京都において、日本化工有限会社の従業員としてハセガワベルベットから委託を受けた染色加工工程に関与し、平成元年に有限会 社新栄テキスタイルを設立した後も、同社において被告から染色加工の委託を受けていたこと、同年頃までにBが作成したとされるメモ(甲132の2)には、染色、脱水後の乾燥をタンブラーで行う旨の記載があること、平成18年に、新栄染色が設立された際、BはAからの誘いにより代表取締役に就任したこと、その頃、Bが京都からタンブラー乾燥機を新栄染色に持ち込んで設置したこと、新栄染色におい ても、Bは染色加工業務を担当し、被告代表者であったCに対し、染色加工の具体的内容を指導していたことは、前記2(3)から(6)までのとおりである。以上を総合すると、Bは、遅くとも新栄染色を退職する平成21年3月よりも前に、本件各発明をいずれも完成さ に対し、染色加工の具体的内容を指導していたことは、前記2(3)から(6)までのとおりである。以上を総合すると、Bは、遅くとも新栄染色を退職する平成21年3月よりも前に、本件各発明をいずれも完成させていたものと推認するのが相当である。 なお、被告は、Bの陳述書(甲1の1)にパイル長が2~3mmであったとある から、Bには短いパイル長のものに係る知見しかなかったと主張するが、本件各発明の特許請求の範囲(請求項4)には「切断工程後のパイル糸の長さを、織物基布から3~10mmの範囲で突出させる」とあるから、パイル長が3mmのものは、本件各発明の技術的範囲に含まれるものであり、上記被告の主張は、Bが本件各発明をするに必要な知見を有していたとする上記判断を左右しない。 (4) これに対し、Aは、本件の審判手続における尋問では、本件各発明のキーポイントは蒸し工程であり、蒸し工程の後にヒートセット(プレセット)を加えることにたどり着いた、長い間、蒸し工程をいれないでやっていた(甲74の3・064項目、130項目、131項目、149項目)と述べ、本件訴訟においても、被告は、令和5年11月8日付け被告準備書面(2)2頁においては、本件各発明をする 前の短いパイル糸のベルベットに関する新栄染色の染色工程には蒸し工程及びプレ - 27 -セットが含まれておらず、長いパイル糸のベルベットを製造することができなかった旨主張し、それに沿う内容のAの陳述書(乙8)を提出した。ところが、被告は、同年12月19日付け被告準備書面(3)5頁では、本件各発明をする前にも新栄染色では長いパイル糸のベルベットの製造をしており、その工程には蒸し工程が含まれていたがプレセットが含まれていなかったと主張を変更し、更に、令和6年1月 22日付け被告準備書 明をする前にも新栄染色では長いパイル糸のベルベットの製造をしており、その工程には蒸し工程が含まれていたがプレセットが含まれていなかったと主張を変更し、更に、令和6年1月 22日付け被告準備書面(4)では、短いパイル糸の染色工程にも蒸し工程が含まれていたと主張を変更し、変更後の主張に沿う内容のAの陳述書(乙11)を改めて提出した。この主張内容及び陳述内容の変更は、発明の課題そのものや発明の必要性、発明の創作過程に極めて大きな影響を与えるものであるから、真にAが発明者であるのであれば、単なる記憶違いなどによって上記のごとくその内容を変遷させ るとはおよそ考え難い。なお、前記2(6)のとおり、新栄染色では当初は外注により、遅くとも平成19年からは自社で蒸し工程を実施していたのであるから、新栄染色が以前は「蒸し工程をしていなかった」との被告の従前の主張は事実とは認められない。 さらに、被告の主張によると、従前の新栄染色の染色工程においてはプレセット を行っていなかったことになるが、Aが述べる試行錯誤の内容は、プレセットについては、それを行う順番を試行錯誤したというものであって、プレセットを入れることとした理由については何ら説明をしていない。このことは、当時、既にプレセット工程自体は存在しており、Aは専らその工程の順番について試行錯誤していたことをうかがわせるものである。また、Aが蒸し工程について試行錯誤した内容と して述べる条件は、「90℃の蒸気で、0分、30分、60分、120分」と試したというものであって、「95~110℃で2~3時間蒸す」(【0022】)という本件明細書の記載と合致しない。Aは、本件の審判手続の尋問において、自ら発明ノートを作成したことはないことを前提とした発言をしているが(甲74の3・135項目 2~3時間蒸す」(【0022】)という本件明細書の記載と合致しない。Aは、本件の審判手続の尋問において、自ら発明ノートを作成したことはないことを前提とした発言をしているが(甲74の3・135項目)、これは試行錯誤を繰り返していたはずの発明者としておよそ不自然とい うほかない。 - 28 -被告は、本件各発明においては乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いることが重要である旨主張する。しかし、前記2(5)(8)のとおり、新栄染色には、平成18年頃から既にタンブラー乾燥機が設置されており、平成23年頃にはその台数が3台に増加していたことが認められる。Bらが作成し、平成21年8月20日に被告大阪営業所からFAX送信されたものと認められるメモ(甲106)によっても、遅く とも同日までには、新栄染色では、乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いていたことがうかがえる。前記2(10)のとおり、A自身が作成した平成24年1月10日付けメモ(甲100の3)にも、新栄染色に関し、タンブラー方式はコストが高いことから平成24年中旬にテンター方式へ変更する旨の記載がある。これらの点に照らすと、遅くとも、平成24年までには、ベルベット織物の製造分野において乾燥工 程にタンブラー乾燥機を利用することは普通に行われていたと認めるのが相当であるから、本件各発明において創作されたものとは認められない。Aは、中和剤を用いることで精練工程の後の脱水工程を省略し、ウィンス機で精練工程と染色工程ができるようになったと証言しているが(証人A〔6頁〕)、そもそも中和剤を用いることは本件各発明の特許請求の範囲に記載された事項ではなく、本件明細書には「ウ ィンス機を使用して、」「立毛シートを処理液(例えば、アルカリ剤、非イオン活性剤)中に順次送り込んで洗浄する」( ことは本件各発明の特許請求の範囲に記載された事項ではなく、本件明細書には「ウ ィンス機を使用して、」「立毛シートを処理液(例えば、アルカリ剤、非イオン活性剤)中に順次送り込んで洗浄する」(【0024】)との記載があるものの、中和剤を用いることで脱水工程を省略することができる旨の記載はないから、結局、上記Aの証言は、それが発明について述べたものだとしても、本件各発明とは関係のない別の発明について述べるものにすぎない。Aは、小型、大型、中型のタンブラーで 試し、中型のタンブラーを用いることで目的を達成することができたとも証言しているが(証人A〔9頁〕)、本件発明3の特許請求の範囲にはタンブラーの大きさについての言及はなく、本件明細書の記載を考慮しても、「タンブラー」の大きさは不明であり、特許請求の範囲に記載された「タンブラー」が「中型のタンブラー」であり、タンブラーの大きさが何らかの技術的意義を有するものであると解すること ができるような記載もない。 - 29 -以上を総合すると、Aが染色工程につき様々な工夫をしたことがあったとしても、いずれも本件各発明に係る特許請求の範囲の内容に含まれるものではないから、本件各発明の発明者がAであるとの被告の主張を採用することはできない。他にBが平成21年3月よりも前に本件各発明をいずれも完成させていた旨の前記認定を覆すに足りる主張立証はない。 (5) したがって、本件各発明に係る発明者はBであると認めるのが相当であるから、本件の出願は冒認出願に当たり、本件特許には特許法123条1項6号の無効理由がある。また、原告は、Bから特許を受ける権利の一部について譲渡を受け(甲16)、残部はBの相続人の全員が相続放棄したことにより原告に帰属したから(甲110、111)、本件各発 条1項6号の無効理由がある。また、原告は、Bから特許を受ける権利の一部について譲渡を受け(甲16)、残部はBの相続人の全員が相続放棄したことにより原告に帰属したから(甲110、111)、本件各発明に係る特許を受ける権利を有する。よって、本件特許について冒認出願の無効理由がないとした本件審決の判断には誤りがある。 第6 結論以上の次第で、原告の主張する取消事由3及び4には理由があり、その余の取消事由について検討するまでもなく本件審決は取り消しを免れないから、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官清水響 裁判官浅井憲 裁判官勝又来未子 別紙1特許公報(甲94)全6頁省略 別紙2 別紙3
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