平成21(う)14 強盗殺人

裁判年月日・裁判所
平成21年5月26日 札幌高等裁判所 棄却 札幌地方裁判所 平成20(わ)866
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判決文本文3,509 文字)

- 1 -主文本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中100日を原判決の刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は,主任弁護人組村眞平,弁護人磯田丈弘連名作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,検察官生形修作成の答弁書に,それぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。 事実誤認の論旨について論旨は,被告人には殺意がなかったから,これを認めて強盗殺人の事実を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。 所論にかんがみ,記録を調査して検討するに,原判決挙示の関係証拠を総合すると,被告人が,逮捕を免れる目的で,原判示の窃盗の被害店舗の店員であるA(以下「被害者」という)。 を,原判示の普通乗用自動車(以下「本件車両」という)の。 車底面と路面との間に挟み込み,被害者が死に至るかもしれないことを認識しながら,被害者を本件車両の車底部で引きずったまま同車を走行させて同人を殺害した事実を認定することができるから,原判決に事実の誤認があるとはいえない。以下若干補足する。 所論は,被害者の死因を惹起した前胸部圧迫は,被害者を車底部と路面との間に挟み込んだ本件車両の前輪が被害者を轢過した時点で発生したものであり,この時点において,被害者を車底部と路面との間に挟み込んだ認識のない被告人には,被害- 2 -者を本件車両の前輪で轢過する事実の認識がないから,被告人に殺意を認めることはできないというのである。確かに,被害者の死因の特定及び死体の状況等をとりまとめた検察官作成の捜査報告書(原審甲15号証)中には「左肩部・左上腕・前,『胸部の皮内出血,鎖骨・肋骨の骨折,肺挫傷,心臓破裂』の損傷は,前胸部が左側から広い面によって強く圧迫されて発生したものと考えられる。これが死因 原審甲15号証)中には「左肩部・左上腕・前,『胸部の皮内出血,鎖骨・肋骨の骨折,肺挫傷,心臓破裂』の損傷は,前胸部が左側から広い面によって強く圧迫されて発生したものと考えられる。これが死因を惹起している。交通事故によるならば,この損傷はタイヤにより強圧された可能性がある」との記載があるが,この記載は被害者の損傷のみによっ。 てその可能性をいうにすぎないものであって,被害者の衣類や身体の表面にはタイヤによって印象された痕(いわゆるタイヤ痕)が見当たらず,本件車両の左前輪タイヤハウスに付着した血痕が人血痕とは認められないことのほか,本件現場の状況,本件車両の形状や状況,被害者の遺体や着衣の状況に加え,これらの状況から認められる被害者が本件車両の車底部と路面との間に挟まれながら少なくとも約60メートルにわたって引きずられたとの本件態様を総合すると,本件死因を惹起した上記損傷は,本件車両の前輪タイヤで轢過されて生じたものではなく,本件車両の車底部と路面との間に挟み込まれたまま引きずられて生じたものと認めるのが自然かつ合理的であるから,所論はその前提を誤っており,採用することができない。 また,所論は,被告人は,被害者を本件車両の車底部と路面との間に挟み込んでいた時点においても,被害者の存在を認識した事実はないから,被告人に殺意を認めることはできないというのである。しかしながら,被告人は,被害者が本件車両のボンネット上にしがみついていることに気づきながら,本件車- 3 -両を発進させ,被害者を振り落とそうとして蛇行走行した後,一旦逃走を断念してブレーキをかけて停車させたところ,被害者の姿が見えなくなったので,被害者がボンネット上から付近路上に落下したものと考えたが,被害者の落下位置を確認することなく本件車両を発進させ,その 走を断念してブレーキをかけて停車させたところ,被害者の姿が見えなくなったので,被害者がボンネット上から付近路上に落下したものと考えたが,被害者の落下位置を確認することなく本件車両を発進させ,その直後に「ガン」という物音が聞こえ,さらに本件車両の走行を続けると,アクセルが急に,,重くなり何かが本件車両に引っかかっているように感じたがアクセルを踏み続けて同車を走行させ,その後アクセルが急に軽くなったように感じ,そのまま同車を走行させたというのであり,上記本件態様にこのような被告人の認識内容を照らし併せると,被告人が逃走中でいわゆるパニック状態にあり,上記一連の出来事が短い時間で生じていることなど所論指摘の事情を考慮しても,被告人は,遅くとも上記のアクセルが重くなったように感じた時点においては,本件車両が被害者を引きずっていることを認識していたと優に認められ,所論は採用することができない。 その他所論がるる主張する点を検討しても,原判決には所論の主張するような事実の誤認があるとはいえない。 論旨は理由がない。 法令適用の誤りの論旨について論旨は,本件は,強盗殺人罪は成立せず,強盗致死罪が成立するのみであるから,強盗殺人罪を適用した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。 しかしながら,上記1で検討したとおり,強盗殺人罪が成立するから,原判決には法令適用の誤りはない。 - 4 -論旨は理由がない。 量刑不当の論旨について論旨は,被告人を無期懲役に処した原判決の量刑は重すぎて不当であるというのである。 所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せ検討する。 本件は,釣具店で万引きした被告人が,追跡してきた店員を殺害した強盗殺人の事案である。 被告人は,深夜,釣 うのである。 所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せ検討する。 本件は,釣具店で万引きした被告人が,追跡してきた店員を殺害した強盗殺人の事案である。 被告人は,深夜,釣り具を見ていた原判示の店舗に店員が2,,人しかいなかったことから友人と共謀して釣り具を万引きし逃走しようと本件車両に乗り込んだところ,本件車両のボンネット上に被害者がしがみついたため,逮捕を免れる目的で,そのまま本件車両を発進させて蛇行走行した後,ブレーキをかけて停車した本件車両から被害者が路上に落下して転倒するや,再び本件車両を発進させ,被害者が死に至るかもしれないことを認識しながら,あえて被害者を本件車両の車底部で引きずったまま走行させて強盗殺人の犯行に及んだものであり,発端と,なった万引きを含めその身勝手な動機に酌むべき事情はない上本件車両の車底部で被害者を引きずったまま,アクセルを踏み続けて60メートル近くも本件車両を走行させており,態様が残虐で悪質というほかなく,被害者の死亡という結果はまことに重大であって,被害者の遺体の損傷の程度も著しく,その被った肉体的苦痛や恐怖等の精神的苦痛は量り知れず,被害者の遺族の衝撃や悲しみは相当に深い。 以上によれば,被告人の刑事責任は極めて重い。 そうすると,窃盗の被害は回復されていること,本件犯行が- 5 -偶発的な面を有しており,殺意の程度も比較的弱いものであること,被告人は,逃走したものの,犯行翌日には警察に出頭していること,殺意以外の事実関係をおおむね認め,被害者の遺,族にあてた謝罪文を作成するなど反省の態度を示していること被告人は21歳と若年であり,前科がないこと,原判決後,被告人の家族が被害者遺族宅へ弔問に出向いていることなど,被告人のために酌むことのできる諸事情を十 罪文を作成するなど反省の態度を示していること被告人は21歳と若年であり,前科がないこと,原判決後,被告人の家族が被害者遺族宅へ弔問に出向いていることなど,被告人のために酌むことのできる諸事情を十分に考慮しても,無期懲役に処した原判決の量刑はまことにやむを得ないものであって,これが重すぎて不当であるとはいえない。 なお,所論は,検察官が無期懲役を求刑したが有期懲役となった事例を調査し,本件と比較すると,被告人に無期懲役を科すことは重きに失するというのであるが,所論が掲げる事例の多くは殺人あるいは強盗致死の事例であるほか,強盗殺人の事,。 例も本件とは事案を異にするものであって所論は採り得ない論旨は理由がない。 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,当審における未決勾留日数の算入につき刑法21条を適用して,主文のとおり判決する。 平成21年5月26日札幌高等裁判所刑事部裁判長裁判官小川育央裁判官井口実- 6 -裁判官二宮信吾

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