平成21年3月18日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成19年第26540号損害賠償請求事件( )ワ口頭弁論終結日平成20年12月19日判決主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求 被告は,原告A,原告B及び原告Cに対し,各949万8342円及びこれに対する平成18年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Dに対し,1224万8342円及びこれに対する平成18年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 事案の要旨本件は,亡Eの相続人である原告らが,Eが脳梗塞の後に誤嚥性肺炎を発症して死亡したのは,Eに対する往診を行っていた被告が,脳梗塞の発症を見落とし,入院加療指導を怠ったためであるとして,被告に対し,不法行為又は診療契約上の債務不履行に基づき損害賠償を請求した事案である。 前提となる事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない)。 当事者( )ア原告らは,いずれも平成18年10月1日(以下,特に記載のない限り,日付は平成18年の日付である)死亡したE(大正9年5月20日生)。 の子であり,相続人である(甲A1,11,12,甲C1ないし3)。 イ被告は,肩書地おいて,F医院(以下「被告医院」という)を開設,。 運営する医師である。 診療経過( )アEは,平成14年3月16日,高血圧,高脂血症,不整脈等を主訴として,被告医院を初めて受診し,以後,継続的に被告医院に通院し,狭心症,心肥大,心房細動,腰痛等の疾患について治療を受けていた(乙A1,。 6)イ平成15年8月ころ,被告は,Eの意識がややはっきりしないことがあったことから 以後,継続的に被告医院に通院し,狭心症,心肥大,心房細動,腰痛等の疾患について治療を受けていた(乙A1,。 6)イ平成15年8月ころ,被告は,Eの意識がややはっきりしないことがあったことから,脳梗塞の発症を疑い,Eに対し,頭部MRI検査を勧め,他院にて同検査を行ったところ,陳旧性多発性微小脳梗塞が認められた。 そのため,以後,被告は,Eに対し,採血,心電図,胸部レントゲン等の検査を定期的に行い,インデラル(不整脈治療薬,バファリン(解熱鎮)痛剤,ジゴシン(強心薬)等の薬剤を処方しながら,前記各疾患に対す)る治療を継続した。 なお,被告は,Eからの頭が急にボーっとしたり,熱くなったりするという訴えを受けて,平成16年9月3日に,他院への診療情報提供書を作成し,検査を依頼した。Eは翌4日に他院でMRI検査等を受け,同検査の結果,Eの脳には慢性の微小梗塞(慢性微小循環障害に起因した高信号領域)があると診断された(乙A1,6)。 ウ8月1日,Eは,両足背浮腫,腰痛,頻尿の精査を目的として,G大学医学部附属H高齢者医療センター(以下「高齢者医療センター」という)に入院し,同月16日,高齢者医療センターを退院した。退院後間。 もなく,Eに脱水症状や意識状態の低下等の症状が見られるようになったものの,Eは,被告の往診やI医療システム株式会社(以下「I」という)の訪問看護を受けるなどして,輸液等の処置を受けながら,自宅に。 て経過を観察していた(甲A11,12,乙A1,6)。 エ9月9日午後9時ころ,Eは,食事中に突然意識を失い,翌10日になっても目を覚ますことはなく,同月11日ころからは発熱もみられるようになったが,入院はせず,その後も自宅にて被告やIの看護師から輸液や抗生剤の投与などの治療を受けていた(甲A12,乙A1,6) なっても目を覚ますことはなく,同月11日ころからは発熱もみられるようになったが,入院はせず,その後も自宅にて被告やIの看護師から輸液や抗生剤の投与などの治療を受けていた(甲A12,乙A1,6)。 オ9月21日,原告らは,Eの容態に不安を覚えたことなどから,救急車を呼び,EをG大学医学部附属I医院(以下「J病院」という)に搬送。 してもらい,Eは同病院に入院することとなった。 同病院での検査の結果,肺炎及び脳梗塞が確認され,入院後,これらに対する治療が行われたが,肺炎及び脳梗塞が改善することはなく,10月1日,Eは死亡した(甲A1,12,乙A1,6,7)。 争点 脳梗塞の発症を見落とし入院加療指導を怠った過失の有無( ) 脳梗塞の発症を見落とし入院加療指導を怠った過失とEの死亡との間の因( )果関係の有無 損害額( ) 争点についての当事者の主張別紙主張要約書のとおりである。 第3当裁判所の判断 認定事実証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 高齢者医療センターへの入院( )ア7月31日,原告らは,Eの体調が優れないことから,被告に往診を依頼した。その際,Eは,被告に対し,7月22日,28日と改善傾向にあった腰痛が強くなり,歩くのも困難であると訴えた。被告は,Eの腰痛について,加齢による脊椎変形に伴う症状を疑ったが,腰痛の程度も弱いものではなく,以前に比して夜間頻尿の症状が増悪しており,便秘,浮腫等 の症状もあったことから,他に重大な病気が隠れている可能性もあると考え,Eに対し,現症状の原因精査,疼痛治療のため入院を勧めた。Eは,被告からの勧めがあったことなどから,翌8月1日から高齢者医療センターに検査入院をすることになった(甲A11,乙A1,6,被告本人)。 イ8月1日, の原因精査,疼痛治療のため入院を勧めた。Eは,被告からの勧めがあったことなどから,翌8月1日から高齢者医療センターに検査入院をすることになった(甲A11,乙A1,6,被告本人)。 イ8月1日,Eは,両足背浮腫,腰痛,頻尿の原因精査等の目的で,高齢者医療センターに入院した。 高齢者医療センターでのMRV(MR静脈造影)検査等の結果,両足背浮腫の原因は,両総腸骨静脈血栓症,下腿深部静脈血栓症と考えられると診断され,これらに対し,ヘパリンの投与が開始されたところ,両足背浮腫は改善,消失した。なお,MRV検査の結果,両総腸骨動脈・内腸骨動脈に瘤が確認された。 また,入院中,腰痛については,骨粗鬆症に伴う疼痛であり,頻尿は,神経因性頻尿と診断された。そして,腰痛に対しては,ボナロン内服,エルシトニン筋注が,頻尿に対しては,ブラダロンの投与が行われ,いずれについても改善傾向が認められた(甲A12,乙A1,6)。 ウ8月16日,Eは,高齢者医療センターを退院した。なお,退院後は,8月22日と24日に高齢者医療センターの外来を受診することが予定されていた(甲A11,12,乙A1,6)。 高齢者医療センター退院後の経緯( )ア8月19日,被告は,原告らから,Eが高齢者医療センター退院直後であり体力が弱っているため,高齢者医療センターの外来には行けそうにないが,どのようにすればよいかとの連絡があったことから,状態が落ち着いているのであれば,自宅で少し様子をみて通院の時機をうかがうように指示し,それでも通院が難しいということであれば,被告がしばらくの間,往診に応じる旨を伝えた(甲A11,13,乙A1,6,被告本人)。 イ8月23日,被告はEを往診し,その際,Eに尿失禁,発熱,不整脈, 物忘れ傾向などの症状が確認された。被告は,発熱につ の間,往診に応じる旨を伝えた(甲A11,13,乙A1,6,被告本人)。 イ8月23日,被告はEを往診し,その際,Eに尿失禁,発熱,不整脈, 物忘れ傾向などの症状が確認された。被告は,発熱について,尿路感染症と考え,抗生剤を投与した。 同月26日,被告がEのもとを訪れたところ,Eの物忘れ傾向は進行しており,腰痛も強い状態であった。被告は,Eの既往歴等から,脳梗塞又は脳出血を疑い,再入院を勧めたが,原告らが入院に同意しなかったため,入院には至らなかった(甲A11,13,乙A1,6)。 ウ8月28日の往診の際,原告らから,Eが昨日までは普通に話をしていたが,夜ころより眠っていることが多くなり,反応が鈍くなったとの話があり,被告が診察したところ,左半身の動きが低下しており,瞳孔反応も鈍く,強い不整脈等も認められたことから,被告は,Eの症状は,多発性脳梗塞発作,全身衰弱であると診断した。 そこで,被告は,そのころ,原告らに対し,精査・治療のための入院の必要性を説明したが,原告らは,入院はEが一番嫌がっているので,原告らはその意思に従うとして,入院に反対の意思を示したため入院には至らなかった。 なお,8月29日,Iの訪問看護が開始され,K看護師がE宅を訪問した。被告が作成した同月29日付のIへの訪問看護指示書・在宅患者訪問点滴注射指示書には「主たる傷病名」欄に「1)心房細動2)深部静,,脈血栓症3)腰椎すべり症,と記載されており,また「病状・主訴」」,欄に「腰痛(すべり症による)寝たきり状態となり,脱水症も含めて衰弱が増強している」と「療養生活指導上の留意事項」欄に「意識レベルが。 ,不安定となっている」と記載されている(甲A4,5,甲A8の1,甲。 A11,12,乙A1,6,被告本人)エ8月30日,Eは,前日と同様, と「療養生活指導上の留意事項」欄に「意識レベルが。 ,不安定となっている」と記載されている(甲A4,5,甲A8の1,甲。 A11,12,乙A1,6,被告本人)エ8月30日,Eは,前日と同様,K看護師から点滴等の処置を受け,その後,被告の往診を受けた。被告が診察したところ,飲水量は増加している様子であり,発熱もなく,握力も含めて力も少し入るようになっており, 排尿・排便も確認された。しかし,Eの意識レベルについては,はっきりとした改善は見られず,嚥下機能が低下していたこともあって,処方されていたジゴキシン,インデラルといった薬剤等の服薬も十分にはできていなかった(甲A14,乙A1,6)。 オ8月31日,Eは,L看護師から,点滴等の処置を受け,9月1日もL看護師の訪問看護を受けた。同日,被告の往診も行われ,被告が診察したところ,Eの反応は比較的良くなっているものの,大きな改善は認められなかった。被告は,多臓器不全の可能性を考えたものの,腎機能は保たれていたことから,脳を中心とした循環障害による衰弱と判断した(甲A。 11,12,14,乙A1,6)カ9月2日もL看護師による訪問看護及び被告による往診が行われた。往診の際,被告は,Eの経口摂取量の減少が確認されたことから,やはり入院が必要と考え,原告らに対し,入院が必要であること,入院をすればIVH(中心静脈栄養)もできることなどを説明したが,原告Dがこれに反対したことから,入院には至らなかった。そこで,被告は,エンシュアリキッド(経腸栄養剤)を使用することとし,同月3日,エンシュアリキッドをEのもとに届けた(甲A11,12,14,乙A1,6)。 キ9月5日から同月8日は,被告の往診はなく,Iによる訪問看護のみが行われた。 なお,同月5日付けのIに対する訪問看護指示書・在宅 キッドをEのもとに届けた(甲A11,12,14,乙A1,6)。 キ9月5日から同月8日は,被告の往診はなく,Iによる訪問看護のみが行われた。 なお,同月5日付けのIに対する訪問看護指示書・在宅患者訪問点滴注射指示書には「主たる傷病名」欄に「1)心房細動2)脱水症3),全身衰弱「病状・治療・状態」欄には「腰痛のため寝たきり状態となり」,全身衰弱が著しい「療養生活指導上の留意事項」欄には「2次感染,脱」,水に留意」と記載されている。また,同月8日には,訪問看護に訪れたM。 ,看護師により,Eに褥瘡が生じつつあることも確認された(甲A8の2甲A12,乙A1,6) 9月9日以後の経緯( )ア9月9日,被告がEを往診した際,Eは,被告の話しかけを理解をしているようであったが,意識レベルに変化はなく,傾眠傾向が続いている状態であった。 同日午後9時ころ,Eは,食事中,急に眼を閉じベッドに寄りかかるように寝入ってしまい,翌10日朝になっても目覚めることはなかった。同日午前10時40分ころ,M看護師が,Eのもとを訪れ,点滴のための処置を行った。その後,M看護師は,原告らから点滴漏れがあるとの連絡を受け,同日午後3時ころ,再度E宅を訪れた。その際,原告らは,M看護師に対し,Eの容体の変化について被告に連絡するよう依頼し,M看護師から連絡を受けた被告は,E宅に急遽往診を行うこととした。同日午後5時45分ころ,被告がE宅に到着し,Eを診察したところ,Eは,反応がほとんどなく,瞳孔反応も鈍い上,経口摂取はほとんどできておらず,点滴を含めた水分の総摂取量も少なく,排尿もない状態で,昏睡に近い状態であった。被告は,Eの衰弱感が強かったことなどから,原告らに対し,入院治療を勧めたが,原告らの同意を得ることはできず,輸液を追加し様 を含めた水分の総摂取量も少なく,排尿もない状態で,昏睡に近い状態であった。被告は,Eの衰弱感が強かったことなどから,原告らに対し,入院治療を勧めたが,原告らの同意を得ることはできず,輸液を追加し様子をみることとなった(甲A4,5,12,乙A1,6,被告本人)。 イ9月11日,N看護師がEのもとへ訪問看護に訪れたところ,体温は38.6℃で,肺雑音も確認され,N看護師は,点滴とともに,リンコシン(リンコマイシン系抗生剤)を筋肉注射を実施した。被告は,同日,往診を行い,Eを急性肺炎と診断した。 なお,同日付の訪問看護指示書では「主たる傷病名」欄に「1)心房,細動2)脱水症3)全身衰弱「病状・治療・状態」欄には「意識レ」,ベル低下し,経口摂取は不可能となっている「療養生活指導上の注。」,意」欄には「2次感染予防と脱水留意」と記載されている(甲A5,甲。 A8の3,甲A12,乙A1,6) ウ9月12日,L看護師が訪問看護に訪れ,前日と同様,点滴とともに,リンコシンの筋肉注射が実施された。なお,その際のEの体温は37.7℃で,両肺部で肺雑音も確認された。その後,被告の往診も行われ,Eの状態にほとんど変化はないものの,脱水傾向が悪化していることが確認された。 同月13日,L看護師が訪問看護に訪れ,リンコシンの筋肉注射や点滴等の処置を行った。なお,同日のEの体温は38.3℃であった(甲A。 12,乙A1,6,被告本人)エ同月14日,15日も,Iによる訪問看護が行われ,リンコシンの筋肉注射等の処置が行われた。なお,同月14日,被告は,Eのもとを訪れ,血管確保を行った。 同月16日,被告はEを往診し,リンコシンの筋肉注射やバルーンカテーテルの設置等の処置を行い,Eの意識状態に変化はなく,衰弱が一層強。 ,まっていること,褥瘡 Eのもとを訪れ,血管確保を行った。 同月16日,被告はEを往診し,リンコシンの筋肉注射やバルーンカテーテルの設置等の処置を行い,Eの意識状態に変化はなく,衰弱が一層強。 ,まっていること,褥瘡が深くなっていることを確認した(甲A9,1112,14,乙A1,被告本人)オ9月18日,O看護師の訪問看護があり,リンコシンの筋肉注射,点滴等の処置が行われたが,その際のEの体温は,36.5℃であった。なお,同日付訪問看護指示書では「主たる傷病名」欄に「1)心房細動2),脱水症3)全身衰弱「病状・治療・状態」欄には「意識レベル(反応」,ほとんどなし「療養生活指導上の留意事項」欄には「脱水と2次感染)」,予防」と記載されている(甲A8の4,12,乙A1,6)。 カ9月19日,L看護師の訪問看護があり,リンコシンの筋肉注射等が行われた。その際,Eの体温は,前日の36.5℃から,37.1℃まで上昇していたが,肺雑音は確認されず,その後,体温は36℃台から37℃台で推移した。 翌20日もL看護師の訪問看護があり,前日と同様にリンコシンの筋肉 注射等の処置が行われた(甲A12,乙A1,6)。 J病院への入院( )ア9月21日,原告らは,Eの容態について不安を覚えたため,救急車を呼び,EをJ病院に搬送してもらって,救急外来を受診させたところ,胸部CT上肺炎が疑われ,同病院総合診療科に入院となった。そして,同日行われた頭部CT検査で,側脳室の中等度拡大,脳室周囲の深部白質・脳幹・両側視床内側領域・右後頭葉・右小脳半球白質に低吸収域が確認されたことから,同病院脳神経内科と総合診療科を兼科して診療を受けることとなった。 なお,入院当日,原告らは,J病院の担当医師らに,Eが体中に穴をあけての延命措置は望んでいなかったこと,鼻から 確認されたことから,同病院脳神経内科と総合診療科を兼科して診療を受けることとなった。 なお,入院当日,原告らは,J病院の担当医師らに,Eが体中に穴をあけての延命措置は望んでいなかったこと,鼻から胃への高カロリー栄養摂取を希望するが,鎖骨付近の血管からの高カロリー輸液は望まないこと,入院を継続しても診療効果が得られないと医師が判断した場合には,Eを自宅に引き取りたいことなどを伝えた。 9月25日,頭部MRI・MRA検査が施行され,同検査の結果,脳底動脈血栓症による脳幹,視床,右後頭葉,右小脳半球などの急性期脳梗塞で,脳幹や視床の病変では出血性梗塞が生じていると診断され,また,原因については,Eに心房細動の既往があり,高脂血症,高血圧の既往がなかったことから,脳梗塞は,心原性のものである可能性が高いと診断された(甲A12)。 イ入院後,Eに対しては,補液を行いながら,脳梗塞についてヘパリン及びグリセロール(製品名:グリセオール)の投与,肺炎についてメロペン(カルバペネム系抗生剤)の投与などの治療が行われたが,脳梗塞及び肺炎の症状が改善することはなく,Eの意識状態は,JCS(ジャパンコマスケール)200(痛み刺激で手足を動かしたり,顔をしかめたりする)ないし300(痛み刺激に対し全く反応しない)で推移し,10月。 。 1日,Eは死亡した。 なお,J病院の診療録退院サマリーには「H18.9.9午後8時食,事中に突然意識障害をきたし,JCS200となったが,livingwillとして入院加療を拒否していたため,往診医による点滴・抗生剤投与のみで加療されていた」との記載がある(甲A1,12)。 。 医学的知見証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の医学的知見が認められる。 心房細動と脳梗塞発症との関連性(甲B4)( )心 与のみで加療されていた」との記載がある(甲A1,12)。 。 医学的知見証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の医学的知見が認められる。 心房細動と脳梗塞発症との関連性(甲B4)( )心房細動は,脳梗塞発症のリスクを2倍から7倍高くする確立した危険因子である。 脳梗塞の治療(甲B4)( )ア血栓溶解療法(静脈内投与)t-PA( )ア組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)の静脈内投与は,経験を積んだ専門医師が適切な設備を有する施設で,適応基準(脳梗塞発症後3時間以内,CTで早期虚血所見がないか,又は軽微)を十分に満たす場合,有効性が期待される治療方法であるが,上記条件を満たさない場合には,予後を悪化させる可能性があるとされている。 ウロキナーゼ( )イウロキナーゼの点滴静脈内投与は,急性期(5日以内)の脳血栓症患者の治療法として行うことを考慮してもよいとされる治療法であるが,十分な科学的根拠はないとされている。 イ血栓溶解療法(経動脈的投与)神経脱落症候を有する中大脳動脈塞栓性閉塞においては,来院時の症状が軽症から中等症で,CT上梗塞を認めず,発症から6時間以内に治療開始が可能な症例に対しては,ウロキナーゼによる経動脈的な選択的局所血 栓溶解療法が有効とする報告があり,推奨される治療法とされる。 ウ抗凝固療法ヘパリンの投与は,発症48時間以内の脳梗塞患者に対し行うことを考慮してもよいとされる治療法であるが,十分な科学的根拠はないとされている。なお,ヘパリンの投与には出血合併症の危険性があるとされる。また,低分子ヘパリン,ヘパリノイドは脳梗塞急性期に使用することを考慮してもよいとされる治療法であるが,これらについても十分な科学的根拠はないとされている。 エ抗血小板療法アスピリン160ない また,低分子ヘパリン,ヘパリノイドは脳梗塞急性期に使用することを考慮してもよいとされる治療法であるが,これらについても十分な科学的根拠はないとされている。 エ抗血小板療法アスピリン160ないし300mg/日の経口投与は,発症早期(48時間以内)の脳梗塞患者の転帰改善に有効であるとして推奨される治療法である。しかし,アスピリンの重篤な血管事故再発予防効果のnumberneededtotreat(NNT,1人の患者に治療効果を認めるために,その治療を何人の患者にある期間中行う必要があるかを表した治療効果の指標)は,平均約3週間の投与で111であるとの報告がされており,また,症候性頭蓋内出血の頻度をわずかながら増加させるとされている。 オ脳保護薬エダラボン(抗酸化薬)の静脈内投与は,発症後24時間以内の脳梗塞(血栓症,塞栓症)患者に対し推奨される治療法とされている。もっとも,エダラボンは市販後比較的日が浅く,エビデンスを示す文献は少ない。また,急性腎不全などの副作用も報告されており,重篤な腎機能障害のある患者には禁忌とされ,高齢者や腎機能障害・心疾患・肝機能障害合併症例については慎重投与とされる。 カグリセロール・マンニトールの投与高張グリセロール(10%)静脈内投与は,心原性脳塞栓症,アテローム血栓性梗塞のような頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳梗塞の急性期に推奨さ れる治療法である。グリセロールの静脈内投与は脳浮腫を改善し,脳血流を増加させ,脳代謝を改善させる。グリセロールは頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳梗塞での救命に有効である。なお,グリセロール(グリセオール)は,循環血液量を増加させ,心臓に負担をかけることから,心臓,循環器系機能障害のある患者には慎重投与とされており,また,一般に高齢者では生理機能が低下していることが多 ,グリセロール(グリセオール)は,循環血液量を増加させ,心臓に負担をかけることから,心臓,循環器系機能障害のある患者には慎重投与とされており,また,一般に高齢者では生理機能が低下していることが多いので,投与に際しては水・電解質異常に留意し,慎重に投与することとされている(甲B9。 )マンニトール(20%)は脳梗塞の急性期に使用することを考慮してもよいが,有効性について十分な検討がなされておらず,十分な科学的根拠はないとされる。 心原性脳塞栓の予後( )発症1週間以内に入院した心原性脳塞栓患者2012人(年齢:73.0±11.8歳)の退院時mRS(modifiedRankinScale,脳卒中患者の予後の指標)について,平成17年に以下の内容の報告がされている(甲B8。 )①grade0(mRS0)全く症状なし…13.8%②grade1(mRS1)症状はあるが特に問題となる障害はない(通常の日常生活及び活動は可能)…18.6%③grade2(mRS2)軽度の障害(以前の活動は障害されているが,介助なしに自分のことができる)…11.8%④grade3(mRS3)中等度の障害(何らかの介助を必要とするが介助なしに歩行可能)…8.4% ⑤grade4(mRS4)比較的高度の障害(歩行や日常生活に介助が必要)…16.3%⑥grade5(mRS5)高度の障害(ベッド上生活,失禁,常に看護や注意必要)…19%⑦grade6(mRS6)死亡…12.1% 誤嚥性肺炎(甲B1ないし3,5)( )ア定義,発症機序等誤嚥とは,水分,食物など外来性のものや口腔・咽頭分泌物,胃液など内因性のものが誤って喉頭下部気道に侵入することであり,これにより引き起こされる肺炎が誤嚥性肺炎である。厳密には,誤嚥は,メ 症機序等誤嚥とは,水分,食物など外来性のものや口腔・咽頭分泌物,胃液など内因性のものが誤って喉頭下部気道に侵入することであり,これにより引き起こされる肺炎が誤嚥性肺炎である。厳密には,誤嚥は,メンデルソン症候群に代表される急速かつ多量の胃内容物の誤嚥と,気付かないうちに少量の口腔・咽頭分泌物や繰り返して気道内に吸引する不顕性誤嚥の二つの意味があるが,通常,高齢者肺炎にかかわる重要な因子は,不顕性誤嚥である。 寝たきり患者では仰臥位にあるため,口腔・咽頭分泌物に加え,胃液の不顕性誤嚥を生じやすく,また,経管栄養チューブの存在は,下部食道括約筋の機能を阻害してさらに誤嚥を生じやすくするとされている。 大脳基底核領域の慢性期脳梗塞患者では脳梗塞のない患者に比べて,2. 0ないし3.6倍肺炎発症率が高い。大脳基底核脳梗塞患者では,夜間就寝中に嚥下,せき反射が著しく低下し,不顕性誤嚥を繰り返すことが観察されている。脳梗塞患者に見られる夜間の嚥下反射の低下は,口腔-咽頭分泌物の気道内侵入を容易にし,その結果,繰り返す不顕性誤嚥によりやがて肺炎が発症する。 不顕性誤嚥に伴う誤嚥性肺炎の多くは基礎疾患を有する高齢者に発症し,繰り返して起こるため予後不良である。 イ治療誤嚥性肺炎の治療は,一般的な肺炎と同様に抗菌薬を使用して加療するが,起因菌として嫌気性細菌が関与していることが多いとされるため,クリンダマイシン(リンコマイシン系抗生剤)を用いられることが多い。また,高齢者や,体力の低下している場合には,グラム陰性桿菌及びメチリシン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)が原因になっていることも少なくなく,その場合には,それぞれ,第3世代セフェム系,カルバペネム系抗菌薬,βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系抗菌薬に加えて,バンコマイシンを使用することも MRSA)が原因になっていることも少なくなく,その場合には,それぞれ,第3世代セフェム系,カルバペネム系抗菌薬,βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系抗菌薬に加えて,バンコマイシンを使用することもある。しかし,高齢者では腎機能など臓器機能が低下していることが多く,副作用が出現しやすいので,注意を払う必要がある。 認定事実に関する補足説明 原告らは,EがJ病院において急性期脳梗塞と診断される前には,被告は( )Eに脳梗塞が発生した可能性があるとの診断をしておらず,脳梗塞の検査及び治療等のために原告らに対してEの入院を勧めたとの事実も,原告らが被告の勧めを拒絶したとの事実もないと主張し,脳梗塞の診断及び原告らに入院を勧めた旨の記載のある診療録(乙A1)はJ病院における診断が判明した後に被告によって改ざんされたものであるとしてその信用性を強く争っている。 そこで,被告による脳梗塞の診断,被告による原告らに対する入院勧告,原告らによる入院拒絶に関する事実が含まれる①8月26日,28日,③9月2日,3日,③9月10日の診療内容等について,上記1のとおりに認定した理由を補足説明し,併せて④被告による診療録の改ざんの有無についても付言しておくこととする。 ①8月26日,28日の診療内容等について( )アまず,原告Dの供述及び陳述書(甲A11)によれば,被告が,8月2 8日にEを往診したこと,原告BがEの手足の動きが悪く,腕に麻痺があり,呂律が回らないように感じる旨を被告に伝えたことが認められる。 イ次に,被告が診療報酬請求のために作成した,Eに関する平成18年8月分の診療報酬明細書(甲A4)には,平成18年にEに発生した傷病名と診療開始日について「8 腰痛症18年7月22日「9 骨粗鬆症,」,( )( )18年8 した,Eに関する平成18年8月分の診療報酬明細書(甲A4)には,平成18年にEに発生した傷病名と診療開始日について「8 腰痛症18年7月22日「9 骨粗鬆症,」,( )( )18年8月23日「㨯尿路感染症18年8月23日「㨯多発性脳梗」,」,塞発作18年8月28日「㨯全身衰弱18年8月28日」との記述」,が印字されていることが認められる。 そして,診療報酬明細書には,医療機関で記載する請求点数の欄のほか,報酬として適切と認められた決定点を記載する欄があることなどからすると,診療報酬明細書は,診療報酬請求のために,請求点数を集計して作成され,毎月定期的に公的機関に提出されてその控えが病院で保管されているものと認められ,提出済みの診療報酬明細書控え等に医師が改ざんを加えることは,提出済みの診療報酬明細書との間に齟齬が生じ,改ざんが容易に発覚することに照らすと,およそ考え難いというべきであるから,平成18年8月分の診療報酬明細書は「多発性脳梗塞発作18年8月2,8日」の部分も含め,甲A第4号証と全く同じ内容のものが,被告が診療報酬を請求した平成18年9月ころには,既に作成されていたものと認めるのが相当である。 また,前記21 のとおり,心房細動は脳梗塞発症のリスクを高める危険( )因子であるところ,Eは心房細動の治療を受けていて脳梗塞を発生しやす( )い素因を有しており,被告はそのことを認識していたこと(第2の22ア,被告は,Eの意識がはっきりしない場合やEから頭が急にボーッと)したりするという訴えを受けた場合には,速やかに頭部MRI検査を依頼しており,被告は従前から脳梗塞の可能性を念頭に置いてEの診療に臨んできたこと(第2の22 イ,そのような状況下で,被告は,前記12 イ( )( )) 場合には,速やかに頭部MRI検査を依頼しており,被告は従前から脳梗塞の可能性を念頭に置いてEの診療に臨んできたこと(第2の22 イ,そのような状況下で,被告は,前記12 イ( )( )) のとおり,8月23日には,Eに物忘れ傾向が生じており,同月26日にはEの物忘れ傾向が更に進行したことを確認し,8月28日には上記のとおり,Eの呂律が回らないように感じることなどを告げられたことなどからすると,被告は,8月26日にEについて脳梗塞又は脳出血を疑い,8月28日にはEに脳梗塞が発生している可能性があると考えたものと認めるのが合理的である。 以上によれば,被告は,8月26日の時点でEに脳梗塞又は脳出血の疑いがあり,同月28日の時点でEに多発性脳梗塞発作が発生している可能性があると診断したと認めるのが相当である。 ウそして,原告らが改ざんがあったと指摘する8月28日の診療録の記載のうち,被告が当日往診をしたこと,Eの反応が鈍かったこと,被告が多発性脳梗塞発作を疑った等の基本的な事実関係が,上記のとおり,原告らが被告による改ざんであると主張せず,かつ,改ざんの可能性も考え難い診療録の記載部分及び原告D自身の陳述書によって裏付けられている以上,8月28日の診療録の記載全体についてもその信用性を肯定することができるというべきであり,これによれば,8月28日の被告の診断内容は前記12 ウのとおりであると認定することができる。 ( )なお,原告Dは,8月28日の被告の診察内容について,被告から脳梗塞という言葉が出たことはなかった,原告らが被告にEの脳梗塞の可能性を尋ねたものの,被告はこれを否定した旨供述するが,上記認定に照らし採用することができない。 エまた,8月28日の診断内容が多発性脳梗塞発作という生命に危険が生じるおそれのある病気 脳梗塞の可能性を尋ねたものの,被告はこれを否定した旨供述するが,上記認定に照らし採用することができない。 エまた,8月28日の診断内容が多発性脳梗塞発作という生命に危険が生じるおそれのある病気が生じた可能性を疑わせるものであること,脳梗塞の確定診断のためには,CT,MRIの画像診断が必要であるところ,被告医院にはこれらの装置が装備されていないこと(被告本人)などからすれば,原告らに対して検査及び治療の目的で入院の必要性を説明すること は,医師である被告の行動として合理的というべきであり,逆にこのような診断をしながら入院の必要性を説明しないということはおよそ考えられないということも,前記認定を支える事情ということができる。 さらに,被告が作成した平成16年9月3日付け診療情報提供書中の「本人は夜間は家に帰ってきたいとのことでなかなか厄介な方です」との記。 載(乙A1の23頁)のほか,Eが体中に穴をあけての延命措置は望んでおらず,入院を継続しても診療効果が得られないと医師が判断した場合にはEを自宅に引き取りたい等のJ病院入院当日の原告らの担当医師に対する説明内容(前記14 ア,livingwillとして入院加療を拒否していた旨( ))のJ病院の診療録退院サマリーの内容(前記14 イ)はいずれも,Eが従( )前から入院加療を嫌がっていたことから,この意を受けた原告らが,被告による入院の必要性の説明に対して,入院に反対の意思を示したとの前記認定を裏付ける事情というべきである。 ②9月2日,3日の診療内容等について( )アまず,原告Dの供述及び陳述書(甲A11)によれば,被告が9月2日にEを往診したこと,同月3日に被告がEのもとにエンシュアリキッド(経腸栄養剤)を届けたことが認められる。 イ次に,前記12 エ認定のとお 原告Dの供述及び陳述書(甲A11)によれば,被告が9月2日にEを往診したこと,同月3日に被告がEのもとにエンシュアリキッド(経腸栄養剤)を届けたことが認められる。 イ次に,前記12 エ認定のとおり,8月30日にはEの嚥下機能が低下し( )ていたこともあって薬剤の服用が十分にできていなかったことからすると,9月2日の時点において,Eの経口摂取量が減少していたという状態が確認されたことは事実経過として合理的というべきである。 そして,経口摂取量が減少している中で,被告がEの栄養状態を維持する手段として中心静脈栄養(IVH)を勧めることは治療手段の選択として自然かつ合理的というべきであるところ,前記14 アのとおり,原告ら( )はJ病院の医師に対して,入院当日に鎖骨付近の血管からの高カロリー輸液は望まない旨を述べており,Eに対する栄養供給方法として中心静脈栄 養があることを知りながらあえてこれを拒絶する意思を明確に示したとの事実は,9月2日に被告がEに対する栄養供給方法として中心静脈栄養を勧め,原告Dがこれを拒絶したとする診療録の記載の信用性を裏付けるものである(なお,被告医院に勤務していた看護師である証人Pは,被告が原告Dに対し,Eの入院を勧めたにもかかわらず,同原告がこれを拒否した現場に居合わせたことがあり,被告が原告らに対し,このままでは栄養の経口摂取ができなくなり,全身が衰弱するので,入院して高カロリー輸液による改善に努めた方がよいと説明しているのを聞いたことがあると証言している。また,中心静脈栄養は,通常,患者を入院させて行う措置。)であり,それまで在宅のEに対する措置としては行われていなかったことからすれば,このとき,被告が原告DにEの入院を勧め,原告Dがこれを拒絶したとの診療録の記載についても,同様に信用できる 措置。)であり,それまで在宅のEに対する措置としては行われていなかったことからすれば,このとき,被告が原告DにEの入院を勧め,原告Dがこれを拒絶したとの診療録の記載についても,同様に信用できるというべきである。 これに対し,9月2日には,被告から中心静脈栄養もできるから入院したらどうかという具体的な勧めはなかった旨の原告Dの供述は,上記認定に照らし採用できない。 以上によれば,9月2日,3日の診療内容は,前記12 カのとおりであ( )ると認定することができる。 ③9月10日の診療内容等について( )アまず,原告Dの供述及び陳述書(甲A11)によれば,Eが9月9日午後9時ころ,食事中に眼を閉じベッドに寄りかかるように寝入ってしまい,10日の朝になっても目覚めることがなく,意識が戻らない状態は同日夕方の時点でも続いていたこと,同日午後5時45分ころ,被告がEの往診をし,Eの血圧と脈拍,眼の状態を見たこと,輸液の調整をしたことが認められる。 イそして,前記2 で説示したとおり,被告は8月28日の時点ではEに多( ) 発性脳梗塞が発生している可能性があると認識していたこと,9月9日,10日のEの容態の変化は脳に重大な病変が発生していることを疑わせる異常なものであったことは,被告が原告Dに対して入院治療を勧めたものの原告Dが家で面倒をみるとして同意しなかったとの診療録の記載の信用性を裏付けるものということができる。 なお,原告Dは,9月10日の被告の往診時に,被告から入院等を勧められたことはなく,しばらく様子をみようと言われたのであり,原告らが家でEの面倒をみるなどと述べたことはなく,被告は,Eの容体をみて驚き,オロオロとした落ち着かない様子であり,その様子を見て,Eに異常な事態,大変な事態が生じていることを認識し,被告 あり,原告らが家でEの面倒をみるなどと述べたことはなく,被告は,Eの容体をみて驚き,オロオロとした落ち着かない様子であり,その様子を見て,Eに異常な事態,大変な事態が生じていることを認識し,被告に説明を求めたが,被告からは何ら具体的な回答を得られなかったと供述するが,仮にそうであるならば,少なくとも,被告に対し更に具体的な説明や対応策を求め,それでも納得のできる回答等が得られない場合には,自らが救急車を手配するなどして,速やかにEを入院させる手続をとったものと考えられる。 ところが,原告らは,翌11日にはN看護師及びL看護師からEの容体が急変する可能性があると聞いたにもかかわらず,その後も,同月21日に至るまでEの入院に関して何ら具体的な行動をとらなかったのであって,このような原告らの行動は,原告Dの上記供述内容を前提とすると極めて不自然というべきである。また,原告Dは,9月19日の夕方には,原告Cの知人である看護師から,このままではEの状態は良くならない旨指摘され,これ以上被告やIの訪問看護に頼ってはならないことを感じ取り,入院することを決めたとしながら,翌20日に入院させるのではなく,丸一日以上が経過した9月21日になってはじめてEを入院させたのであって,この点もやはり不自然というべきである。 したがって,原告Dの供述は採用することができない。 ウ以上によれば,9月10日の診療内容は前記13 アのとおりであると認( ) 定することができる。 なお,原告Dは,その供述及び陳述書(甲A11)において,被告は原告らに対し,8月28日に「再入院して治療するか,それとも自宅療養を続けるか」と尋ね,9月17日に「Eの治療方針について)今後どうし。 (ますか」と尋ねたこと以外に,Eの容体について具体的な説明をして,。 同人について入 再入院して治療するか,それとも自宅療養を続けるか」と尋ね,9月17日に「Eの治療方針について)今後どうし。 (ますか」と尋ねたこと以外に,Eの容体について具体的な説明をして,。 同人について入院を勧めたことはなく,原告らが入院を拒否したこともないと供述し,その供述の信用性を裏付ける証拠として,同原告作成のメモ,日記等の書証(甲A第13号証ないし第16号証)を提出している。しかし,被告が原告らに対し,Eの入院を勧めていたにもかかわらず,原告らがこれを拒否していたことは前記認定のとおりであることのほか,甲第13号証及び甲第16号証はパソコンにより作成されたものであり,甲第14号証及び甲第15号証は鉛筆書きであって,いずれも事後にその書き替えが可能なものであること,甲第14号証及び甲第15号証については,文字が掠れているなど,実際に書き替えが行われたのではないかと疑われる箇所が複数存在することなども認められるところであり,これらを併せ考えると,甲A第13号証ないし第16号証が原告Dの上記供述部分の信用性を支えるものとはいうことができない。 ④被告による診療録の改ざんの有無について( )ア原告らは,7月31日以降の診療録の記載が不自然に詳細になっていること,被告が往診を行ったとする日に往診料の保険点数が計上されておらず,原告らにも往診分の診療報酬請求がされていないこと,9月10日以前にCT検査等を行うことなく脳梗塞と診断した旨の記載があることなどを根拠に,被告によって診療録の改ざんが行われたと主張する。 イまず,診療録の記載が7月31日以降詳細になっていることについて,被告は,7月31日に被告がEに対し入院を勧めた際,原告らが医師である被告の勧めには従わず,医師ではない第三者からの勧めにより,Eを入 院させることにした旨の 以降詳細になっていることについて,被告は,7月31日に被告がEに対し入院を勧めた際,原告らが医師である被告の勧めには従わず,医師ではない第三者からの勧めにより,Eを入 院させることにした旨の連絡を受けたことから,原告らを不審に思うようになり,以後診療録に詳細な記載をするようになったと述べている。医師が患者又はその家族の対応に不信感を持った場合に,診療録の記載を詳細にすることは後日の紛争に備えた対応として十分考えられるところであり,7月31日以降の診療録の記載が詳細であることをもって,被告が診療録の改ざんしたと認めることはできない。 次に,保険点数・診療報酬との齟齬についても,診療報酬請求の点数上,往診は,計画的に患者の下に赴いて診療を行うものではなく,急な対応が必要になった場合に行うものであるから(乙A8,乙B1,証人Q,実)際に往診した回数が多数回にのぼる場合に,全てを往診として扱うことは困難であるとして,診療報酬の請求の際には,実際には往診を行っていても,往診とは扱わず,往診の診療報酬を請求しないとの取扱い自体は,特段不自然なものとはいえない。そして,そうした取扱いをすれば,実際の往診日と保険点数(診療報酬請求の点数)の計算に齟齬が生じ,その結果診療報酬請求との間に齟齬が生じることも十分考えられるところである。 また,被告は,看護師や事務員が出勤していない休日や日中の診療が終了した後にも,Eのもとを訪れることがあり,そのような場合には,看護師や事務員が往診の事実を正確に把握できないという事態が生ずることも考えられるところであって,このような場合にも齟齬が生じる可能性を否定できない(乙A8,証人Q。したがって,保険点数・診療報酬との間に)齟齬があることをもって被告が診療録の改ざんをしたと認めることはできない。 さらに,診 このような場合にも齟齬が生じる可能性を否定できない(乙A8,証人Q。したがって,保険点数・診療報酬との間に)齟齬があることをもって被告が診療録の改ざんをしたと認めることはできない。 さらに,診療録の8月21日の欄に「再梗塞の疑い十分にあり,26」日の欄に「脳梗塞か脳出血?検査必要,28日の欄に「診断脳梗塞発」作(多発性」と記載していること(乙A1)については,8月26日の)時点でEに脳梗塞又は脳出血の疑いがあり,同月28日の時点で被告がE に多発性脳梗塞が発生した可能性があると診断していたことは前記㨯認定のとおりであり,8月26日以前の段階においても,Eは脳梗塞のリスク因子である心房細動(甲B4)の既往があったこと,第2の22 イのとお( )り,以前,Eは陳旧性多発性微小脳梗塞と診断されていること,前記1㨯イのとおり,8月23日ころから,Eに痴呆の症状が確認されるようになったことからすると,被告がEについて脳梗塞の発症を疑うこと自体は十分考えられるところである。したがって,9月10日以前に脳梗塞と診断した旨の記載があることをもって,被告が診療録の改ざんをしたものとはいえない。 ウ以上に加え,被告医院では,診療録は記載する都度,事務員が関係書類等を糊で貼り付けることとなっており(証人Q,診療録の改ざんを行う)にはこれらを剥がす必要があるため改ざんの痕跡が残りやすいこと,被告は,訪問看護を依頼するに当たって,IにEに関する診療情報を提供しており,診療録の改ざんを行った場合,診療録の記載とIに提供した情報との間に齟齬が生じる可能性があることからすると,被告が診療録の改ざんを行ったとしても,発覚する可能性が高いことは明らかであるにもかかわらず,あえて被告が診療録の改ざんを行うということは考え難いというべきである。 ま 可能性があることからすると,被告が診療録の改ざんを行ったとしても,発覚する可能性が高いことは明らかであるにもかかわらず,あえて被告が診療録の改ざんを行うということは考え難いというべきである。 また,本件では診療録(9月10日欄)に,事務員であるQによる記載もなされている(証人Q)ところ,医療事務受託会社である株式会社Rから派遣されていたQが被告の改ざんに協力するとも考え難いところである。 エ以上のとおりであり,被告が診療録の改ざんを行ったとの原告らの主張は採用することができない。 争点㨯(脳梗塞の発症を見落とし入院加療指導を怠った過失の有無)について 原告らは,被告が9月10日の往診時に,Eが脳梗塞を発症した可能性が( ) あることを認識し得たにもかかわらず,脳梗塞の発症を見落とし,栄養剤,抗生剤を投与するほかは,何ら治療を行うこともなく,漫然と点滴治療を継続し,入院加療指導を怠ったと主張する。 しかしながら,前記12 ウのとおり,8月28日に被告はEの症状が多発( )( )性脳梗塞発作である旨診断して,そのころ入院の必要性を説明したが,原告らがこれに反対したこと,前記12 カ,13 アのとおり,9月2日と10日( )( )にも原告らに対しEの入院を勧めているのであるから,被告に,脳梗塞の発症を見落とし,入院加療指導を怠った過失があるとは認められない。 なお,被告は,9月10日以降,脳梗塞に対する治療は行っていないが,( )9月10日の時点でEに対して行うことのできる脳梗塞に対する治療は,グリセロールやヘパリンの投与であると考えられるところ,前記22 カのとお( )り,グリセロールは,心臓・循環器系機能障害のある患者や高齢者には慎重投与とされており,ヘパリンについても出血合併症の危険性があるとされてい 投与であると考えられるところ,前記22 カのとお( )り,グリセロールは,心臓・循環器系機能障害のある患者や高齢者には慎重投与とされており,ヘパリンについても出血合併症の危険性があるとされている。これらの薬剤の特性・危険性等に照らすと,被告の往診やIの訪問看護がなされるとはいえ,在宅では十分な管理ができないことは明らかというべきであり,被告がEについて脳梗塞の治療を行っていないことをもって不自然・不合理ということはできず,この事実をもって,被告がEに脳梗塞が発症した可能性があることに気づいていなかったことを示す事実とは認められない。 また,被告は,Iの看護師への訪問看護指示書・在宅患者訪問点滴注射指示書に,Eに脳梗塞が疑われる旨の記載をしていないが,Iの看護師において脳梗塞の治療行為として行うべき措置等はなく,訪問看護指示書等に脳梗塞についての記載をする必要があったとまではいえない。したがって,上記訪問看護指示書・在宅患者訪問点滴注射指示書に脳梗塞との記載がないことも,被告がEに脳梗塞が発症した可能性があることを認識していなかったことを示すものとはいえない。 以上によれば,被告に脳梗塞の発症を見落とし入院加療指導を怠った過失( )があるとする原告らの主張は採用することができない。 争点2 (脳梗塞の発症を見落とし入院加療指導を怠った過失とEの死亡との( )間の因果関係の有無)について上記のとおり,被告に脳梗塞の発症を見落とし入院加療指導を怠った過失があると認めることはできないが,念のため,争点2 についても判断しておくこ( )ととする。 原告らは,Eが,9月10日午後5時45分に被告が往診した時点で適切( )な病院に搬送していれば,グリセロールやアスピリン,エダラボンの投与など,脳梗塞急性期の治療を受ける ( )ととする。 原告らは,Eが,9月10日午後5時45分に被告が往診した時点で適切( )な病院に搬送していれば,グリセロールやアスピリン,エダラボンの投与など,脳梗塞急性期の治療を受けることによって脳細胞壊死を最小限に食い止め,一時的な意識障害を脱し,軽度の後遺障害を残すのみで転帰又は軽快できた可能性が極めて高く,そして,Eの意識障害が一時的なものに止まっていれば,Eの全身状態及び嚥下機能の低下は避けられ,Eが誤嚥性肺炎を発症することもなかったのであるから,10月1日の時点でEが死亡するという結果は生じなかったと主張する。 2 ア確かに,グリセロールやアスピリン,エダラボンの投与等は,脳梗塞急( )性期の治療として推奨される治療方法とされている。 しかし,前記22 オのとおり,エダラボンの投与は,脳梗塞発症後24( )時間以内の患者に対し行われる治療であるところ,高齢者や心疾患のある症例には慎重投与とされていることのほか,前記13 ,4 で認定した事実( )( )によれば,9月9日午後9時ころ,Eに脳梗塞が発症したものと認められるが,被告が9月10日に往診したのは,発症から約21時間が経過した後のことである。そこから病院に搬送する時間,搬送後に搬送先医療機関において各種検査等を行う時間等を考慮すると,9月10日の往診時にEを適切な医療機関に搬送する手続がとられていたとしても,搬送先医療機関においてEにエダラボンの投与が行われたものと認めることはできない (また,本件証拠上は,エダラボンの投与によって,Eの症状がどの程度改善したかも明確でない。 。)また,9月10日にEが入院することとなった場合には,グリセロールやアスピリンの投与が行われたと考えられるとしても(ただし,グリセロール(グリセオール)は心臓,循環 改善したかも明確でない。 。)また,9月10日にEが入院することとなった場合には,グリセロールやアスピリンの投与が行われたと考えられるとしても(ただし,グリセロール(グリセオール)は心臓,循環器系機能障害のある患者には慎重投与とされており,高齢者に投与する際には,水・電解質異常に留意し,慎重に投与することとされている,グリセロールやアスピリンの投与によっ。)て,どの程度の症状の改善が期待できるのかなどついては,本件証拠からは不明といわざるを得ず,原告らの主張するように,上記治療法により,Eが一時的な意識障害を脱し,軽度の後遺障害を残すのみで転帰又は改善した可能性が高いと認めることはできない。 なお,原告らは,上記主張の根拠として,前記23 のとおり,心原性脳( )塞栓であっても,死亡に至るという重篤な結果に至るのは全体の約12%とされており,大半の患者は退院して通常の日常生活,又はそれに準じた生活を送れる状態に転帰していることを挙げる。 しかしながら,上記報告によっても,ベッド上での生活となり,失禁があって,常に看護や注意が必要な状態となった者が全体の19%おり,これと死亡とを併せると,全体の30%を超えているのであって,死亡又は非常に重篤な後遺障害が残る可能性は決して低いものではない。 さらに,上記報告にかかる統計には,平成17年に保険適応となったt-PA治療が行われた患者は含まれていないものの,発症からの経過時間からすると,Eに適応のなかった経動脈的血栓溶解療法が施行された患者が含まれていると考えられること,原告らが根拠とする上記報告には,年齢が比較的若く体力のある患者や入院時の脳梗塞の症状の軽い患者なども含まれていると考えられるところ,当時,Eは86歳と高齢であり,9月10日の被告の往診時に,既に意識がない状態であり, 報告には,年齢が比較的若く体力のある患者や入院時の脳梗塞の症状の軽い患者なども含まれていると考えられるところ,当時,Eは86歳と高齢であり,9月10日の被告の往診時に,既に意識がない状態であり,脳梗塞の症状とし ては重症であったこと,Eの状態は,9月9日の急変以前でも全身衰弱が著しい状態であったことなどからすれば,多くの患者が退院して通常の日常生活又はそれに準じた生活を送ることのできる状態に転帰しているという統計の結果をそのまま当てはめて,Eがそのような状態にまで改善した可能性が高いという結論を導くことはできないというべきである。 イまた,仮に前記治療によりEの意識障害が一時的なものに止まっていたとしても,9月10日の急変以前に,Eは経口摂取が困難となっており,全身衰弱も著しかったことなどからすると,入院中は,寝たきりの状態で,経管栄養チューブによる管理が行われたと考えられる(なお,前記14 ア( )のとおり,中心静脈栄養については,原告らがその施行を拒否していることから,行われなかったものと認められる)が,前記24 アのとおり,。 ( )寝たきり患者では仰臥位にあるため,口腔・咽頭分泌物に加え,胃液の不顕性誤嚥を生じやすく,また,経管栄養チューブの存在は,下部食道括約筋の機能を阻害して更に誤嚥を生じやすくなるとされているところである。 そうすると,Eの意識障害が一時的なものに止まったとしても,やはり誤嚥性肺炎を発症した可能性は高いというべきであり,誤嚥性肺炎の発症を回避できたとは認められない。そして,前記13 イないしオのとおり,E( )に発熱が確認された9月11日からJ病院に入院した同月21日までの間にも,9月17日を除き,被告及びIの看護師らによって,リンコマイシン系抗生剤であるリンコシンの筋肉注射が行われ,9月1 E( )に発熱が確認された9月11日からJ病院に入院した同月21日までの間にも,9月17日を除き,被告及びIの看護師らによって,リンコマイシン系抗生剤であるリンコシンの筋肉注射が行われ,9月18日,19日には解熱し,肺雑音も消失するなど,J病院への搬送前にも,Eの肺炎に対する一定の治療はなされていること,J病院に入院後,肺炎に対する治療としてメロペンの投与等が行われているが,Eの症状に改善は認められなかったこと,前記24 アのとおり,不顕性誤嚥に伴う誤嚥性肺炎の予後は( )不良であるとされていることなども併せ考えると,仮にEが9月10日に入院し治療を受けていたからといって,誤嚥性肺炎が軽快したとはいえず, 10月1日の死亡の結果が回避できた高度の蓋然性があるとは認められない。 以上によれば,Eを9月10日に入院させていれば,10月1日の時点で( )の死亡を避けることができたということはできないから,仮に,原告らの主張するように,被告に脳梗塞の発症を見落とし入院加療指導を怠った過失があるとしても,その過失とEの死亡との間に因果関係があるとは認められない。 結論 以上のとおりであり,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部村田渉裁判長裁判官松本展幸裁判官小野本敦裁判官 (別紙)主張要約書第1脳梗塞の発症を見落とし入院加療指導を怠った過失の有無(原告らの主張) 9月9日午後9時過ぎにEに脳梗塞が発症したこと 9月9日午後9時ころ,Eは,寿司を食べ始めたが,間もなく,突然ぱた( )りと目を閉じて手をだらりとさせ,持っていた寿司も落としてしまったまま,ベッドに寄りかかって寝入ってしま が発症したこと 9月9日午後9時ころ,Eは,寿司を食べ始めたが,間もなく,突然ぱた( )りと目を閉じて手をだらりとさせ,持っていた寿司も落としてしまったまま,ベッドに寄りかかって寝入ってしまったような状態となった。 これ以降,Eは意識を回復することなく,意識障害の状態が継続した。 そして,9月21日,EはJ病院に搬送され入院したが,同病院での検査により,脳梗塞を発症していることが確認され,同病院の診療録には「梗,塞に関しては,9/9 onSetに加えて現在も亜急性の梗塞あるとの評価であった」との記載がある。 。 以上の事実経過からすると,Eは9月9日午後9時過ぎに脳梗塞を発症し( )たことが明らかである。 そして,Eの脳梗塞は,突然発症していること,心房細動の既往があること等から心原性脳塞栓であると推測される(甲A12。 ) 9月10日の往診時に脳梗塞を疑うべきであったこと 8月28日の往診時,原告Bは被告に対し,Eについて「手足の動きが悪( )かったり呂律が回らないように感じることがあるし,腕に麻痺があるように思えるのですが脳に何か起きているのではないですか」と言って,脳に異。 変が起きている可能性を指摘した。 9月10日午後5時45分ころに被告が往診に訪れた際,Eには意識障害( )が発生し,前日の往診時とは明らかな容態の変化がみられた。また,その際, 被告は,原告Dから前日午後9時過ぎころにEが突如意識障害を発症したことの報告を受け,往診前にもIの訪問看護師を通じて往診依頼を受けた際にEに前夜意識障害が発生したことの報告を受けていた。 突如意識障害が起きる疾患は限られていること,8月28日の往診時の原( )告Bの指摘,Eの意識障害の発生経過,その他Eの既往歴からすれば,高齢者を多く診察する一般内科 ことの報告を受けていた。 突如意識障害が起きる疾患は限られていること,8月28日の往診時の原( )告Bの指摘,Eの意識障害の発生経過,その他Eの既往歴からすれば,高齢者を多く診察する一般内科医であれば,9月10日の往診時には前日の9月9日にEが脳梗塞を発症した可能性を直ちに認識し得たはずである。 被告が脳梗塞を見落とし入院加療指導を怠ったこと 被告は,Eのかかりつけ医として,平成18年8月23日以降,定期的に( )診察してきたのであるから,Eの状態に異変が生じた場合には,直ちに処置を講じるとともに,異変が起きた原因が特定できなければ,精密検査を行うことができる病院に搬送して検査等を受けさせ,全身状態が悪化した場合には,適切な治療設備を持つ病院に入院させる義務を負う。 しかしながら,被告は,9月10日午後5時45分ころに往診した際,E( )に意識障害が発生し,前日までとは明らかに容態が異なっていることを確認したものの,血圧と脈拍,目の状態を診ただけで,推測される原因や入院治療の必要性を説明することもなく,ただ「様子を見ましょう」とだけ言って帰ってしまった。そして,その後も,被告は,栄養剤,抗生剤を投与するほかは,さしたる治療を行うことなく,漫然と点滴治療を継続した。 また,9月11日の往診時,被告は,原告Bからの「血栓が飛んで脳に何( )か起きているのではないですか」との質問に対し「腰部静脈の血栓は脳に。 ,は飛ばない。脱水症状も同じような状態になる」と述べて,脳梗塞ではな。 いと説明している。 さらに,被告は,原告らに対し,CT検査やMRI検査など脳梗塞を診断するために必要な検査を受けるように指示しておらず,さらに,脳梗塞に対する治療を一切行っておらず,これを行うべく検討を行った事実すらない。 8月2 対し,CT検査やMRI検査など脳梗塞を診断するために必要な検査を受けるように指示しておらず,さらに,脳梗塞に対する治療を一切行っておらず,これを行うべく検討を行った事実すらない。 8月29日に被告が作成したIの訪問看護師宛の訪問看護指示書(甲A8( )の1)では,被告は「主たる傷病名」欄に「1)心房細動2)深部静脈,血栓症3)腰椎すべり症「症状・治療・状態」欄に「退院後,認知症状」,全身衰弱が強まっている「在宅患者訪問点滴注射に関する指示」欄には」,「水分補給の目的のためです「病状・主訴」欄には「腰痛のため(すべ。」,り症による)寝たきり状態となり,脱水症含めて衰弱が増強している」と記載しており,9月5日付の訪問看護指示書(甲A8の2)では,被告は,「主たる傷病名」欄に「1)心房細動2)脱水症3)全身衰弱「病状」,」,・治療・状態」欄には「腰痛のため寝たきり状態となり全身衰弱が著しい「療養生活指導上の留意事項」欄には「2次感染,脱水に留意」と記載している。そして,9月11日付の訪問看護指示書(甲A8の3)では,被告は,「主たる傷病名」欄に「1)心房細動2)脱水症3)全身衰弱「病状」,・治療・状態」欄には「意識レベル低下し,経口摂取は不可能となっている「療養生活指導上の注意」欄には「2次感染予防と脱水留意」と記載。」,し,9月18日付訪問看護指示書では,被告は「主たる傷病名」欄に,「1)心房細動2)脱水症3)全身衰弱「病状・治療・状態」欄には」,「意識レベル(反応ほとんどなし「療養生活指導上の留意事項」欄には)」,「脱水と2次感染予防」と記載している。 以上のとおり,被告は,原告らに対し,Eに脳梗塞が発症したとの説明は( )行っておらず,脳梗塞を診断するための検査を 生活指導上の留意事項」欄には)」,「脱水と2次感染予防」と記載している。 以上のとおり,被告は,原告らに対し,Eに脳梗塞が発症したとの説明は( )行っておらず,脳梗塞を診断するための検査を受けることの指示も,脳梗塞に対する治療も行っていない上,脳梗塞を疑ったならば,Iに対してその情報を提供するはずなのに,被告作成の訪問看護指示書には,脳梗塞のことは一切記載されていない。これらのことからすれば,被告はEの症状について主として脱水症状を認識し,脱水症状と感染のみを考えた処置をとっていたことが明らかである。 なお,乙A第1号証には,被告が8月21日と8月26日に脳梗塞を疑い,( ) 8月28日には,Eに脳梗塞の診断をして発症を認めていたかのような記載があり,また,多数回にわたり,被告が入院を勧めたにもかかわらず原告らがこれを頑なに拒否した旨の記載もあるが,以下のとおり,これらはいずれもJ病院で脳梗塞の発症が判明した後に被告が書き替えたものであり,上記の各時点で被告がEに脳梗塞の発症を認めていた事実や被告が入院を勧めたにもかかわらず,原告らがこれを拒否したとの事実はない。 ア不自然に詳細に記録されていること乙A第1号証の診療記録では,7月28日までの記載は,基本的に外国語を中心とした医学用語が単語として羅列されているだけで,文章になっている部分でも極めて簡単な一文が記載されているに過ぎない。また,Eや原告ら家族との会話のやり取りについて記載された箇所はほとんどない。 さらに,所見欄と処方・処置欄とは綺麗に分けて几帳面に記載されており,所見欄の記載が処方・処置欄にはみ出している箇所もほとんどない。ところが,7月31日の欄からは,突如,所見欄に行間がないほどにびっしりと詳細な事柄が記載されている。また,所見欄から処方・処方欄に ,所見欄の記載が処方・処置欄にはみ出している箇所もほとんどない。ところが,7月31日の欄からは,突如,所見欄に行間がないほどにびっしりと詳細な事柄が記載されている。また,所見欄から処方・処方欄にはみ出したり,1行記載するのに2行分使っていたり,下部の欄外に記載されている箇所が多い等,明らかに様相が異なり,乱雑に記載されている。また,文字も7月28日以前のものと比べると,乱雑で,急いで一気に書いたような筆致となっている。 このような変化の理由は,被告が事後に一括して診療録を書き替えたためであり,書き替えの目的は,被告の過失の隠蔽である。 イ診療報酬等との齟齬があること原告らは,9月8日までの診療については,被告に診療報酬の自己負担分を支払っており,その都度被告医院から保険負担分と一部負担金等の内訳の記載がある請求書兼領収書の発行を受けていた。これによれば,往診を行った日(7月31日,8月23日,28日,30日)は,診療報酬の 保険負担分が1万円前後の金額となっている。ところが,被告が往診したと主張する8月26日,8月29日,9月3日,9月8日については,いずれも5000円以下の低額であり,往診を行っていればこのような低額にはならない。 また,診療報酬点数表には,往診のあった8月23日,28日,30日の欄には往診料と思われる650点が計上されているが,その他の日の欄にはこれが計上されていない。また,9月分については9月8日には往診料と思われる点数計算はなく,9月3日,9月13日,9月18日については,そもそも点数計算自体がなされていない。このことは,8月26日,29日,9月3日,8日,13日,18日に往診を行ったとする診療録記載と矛盾している。 さらに,乙A第4号証の「Sさん往診表」と題する所見では,8月分について往診表と思わ 。このことは,8月26日,29日,9月3日,8日,13日,18日に往診を行ったとする診療録記載と矛盾している。 さらに,乙A第4号証の「Sさん往診表」と題する所見では,8月分について往診表と思われる○囲みの「往」が28日×2と30日の二日間記載され,29日には記載されていない。また,9月のカレンダーの右余白欄には「9/1~20往診9回」と記載されているが,被告の主張に,よれば,9月は13回往診したということであり,明らかに上記記載と食い違っている。 加えて,甲A第4号証によれば,被告は,8月に往診4回の診療報酬請求を行っており,9月は往診9回の診療報酬を請求しており,診療録の記載は,被告自身が行った健康保険の診療報酬請求とも矛盾する。 このように,診療録の記載と被告が実際に行った報酬計算及びその請求とは明らかに齟齬があり,これは,診療録の書き替えの際,故意(往診の回数を増やし,十分な診療を行ったかのように装うため)又は過失によって事実に反する記載がなされたためである。 ウ以上のとおり,被告は診療録を書き替えているのであり,乙A第1号証の診療録に記載されている原告らの入院拒否の文言は,いずれも事実に反 する記載である。 (被告の主張) 被告は,9月10日の往診時やそれ以前にも入院治療を勧めており,入院加療指導義務を尽くしていること被告は,遅くとも8月26日にはEに脳梗塞の発症している可能性が高いことを認識し,9月10日を含め何度も,原告らに対し,Eの入院を勧めている。 Eの入院が9月21日となったのは,原告らが入院を拒んだためである。 8月26日,被告はE宅を往診し,家族に対して再入院が必要であると告( )げた。しかし,原告Dが,入院は絶対に嫌だと述べたことから,被告は,往診だけでは衰弱が進行し,予後不良である旨説明し 。 8月26日,被告はE宅を往診し,家族に対して再入院が必要であると告( )げた。しかし,原告Dが,入院は絶対に嫌だと述べたことから,被告は,往診だけでは衰弱が進行し,予後不良である旨説明したが,原告Bと原告Dは,家で看取りたいと言い切った。被告は,脳梗塞又は脳出血の可能性を考え,検査,入院が必要であり,本当にこのままでよいのだろうかと考えたものの,被告には,強制的に入院させる権限もなく,断念せざるを得なかった。 8月28日,被告がE宅を訪れたところ,Eの状態について,原告らは,( )昨日までは普通に話したりしていたが,夜ころより眠っていることが多く,反応がにぶくなり,ほとんどウトウトとしていると説明した。被告が診察したところ,左半身の動きが悪く瞳孔反応も鈍く,不整脈も強く見られたことから,被告は,脳梗塞発作(多発性,全身衰弱と診断し,8月29日に,)原告らに対し精査,治療のため入院を勧めた。しかし,原告C,原告Dが,入院はEが一番嫌がっているので原告らもそれに従うと述べた。被告は,入院しなければ限界があると話したが,原告らは「はい」と答えるのみであった。 9月2日,Eの経口摂取量が減ってきたことから,被告は,入院すれば中( )心静脈栄養もできるなどとと説明し,入院を勧めたが,原告Dはこれを拒否した。 9月4日,被告が往診したところ,Eは反応が比較的よく,顔色もよくな( ) ってきたが,水分摂取量は不足していた。そのため被告は,入院した上での補液管理が望ましいと説明したが,原告らはこれを拒否し,原告Dは自宅でこのまま看取りたい,一番入院を嫌がっているのはE本人であると述べた。 9月10日,被告が往診したところ,Eは瞳孔反応が鈍く,経口からはほ( )とんど摂取ができていない様子であった。水分の摂取量も7 まま看取りたい,一番入院を嫌がっているのはE本人であると述べた。 9月10日,被告が往診したところ,Eは瞳孔反応が鈍く,経口からはほ( )とんど摂取ができていない様子であった。水分の摂取量も700+80cc程度で,排尿はなく,衰弱感が強かった。そのため被告は,患者が死亡するかもしれないとの覚悟が必要であるとして,入院治療を勧めたが,家族は「家で面倒をみる」と述べた。 原告らの主張について 訪問看護指示書に脳梗塞との記載がないことについて( )原告らは,I宛ての訪問看護指示書に脳梗塞との記載がないことをもって,被告が9月10日の往診時に脳梗塞を疑っていなかったと主張するが,医師が看護師に対して指示を出す行為は医療行為そのものであり,被告がIの看護師に対して不確定な事項を伝えることは医療行為として適切ではないというべきである。 よって,訪問看護指示書に脳梗塞との記載がなかったことをもって,被告が脳梗塞を疑っていなかったとすることはできない。 被告が本件診療記録を改ざんしたとの原告らの主張に対する反論( )ア診療録の改ざんが客観的にあり得ないこと本件患者に関しては,特別訪問看護指示書を作成し,I江東訪問看護ステーションに提出しており,診療録の改ざん内容の整合性を保つためには,I江東訪問看護ステーションに提出した書面まで改ざんしなければならないが,I江東訪問看護ステーションを巻き込んで改ざんすることは不可能である。 また,診療報酬及び診療録の管理に関しては,被告ではなくRからの派遣事務員が行っており,診療録全体を改ざんするとしたら事務員も巻き込 まなければ行うことはできない。しかし,本事件に直接の利害関係がないRからの派遣事務員が改ざんという犯罪行為に協力することなどあり得ない。 さらに,本事件に関しては,平成19 ら事務員も巻き込 まなければ行うことはできない。しかし,本事件に直接の利害関係がないRからの派遣事務員が改ざんという犯罪行為に協力することなどあり得ない。 さらに,本事件に関しては,平成19年5月18日に証拠保全がなされている。被告が証拠保全を知らされたのは当日であり,証拠保全の連絡を受けた後に急いで診療録全体を改ざんすることなど時間的に不可能である。 イ診療録全体の改ざんが主観的にあり得ないこと被告は,医療過誤に起因する損害賠償保険に加入しており,万が一被告に落ち度があったとしても,この保険により支払は填補される。そのような状況で犯罪を行い,医師の資格を失う危険を冒してまで診療録全体を改ざんする理由は被告にはない。 また,診療録全体の改ざんを試みたと仮定すると,その作業の一環として診療録内に貼り付けた書面を貼り直さなければならないが,そのような作業をすれば,書面を剥がしたときに跡が残るのであり,みすみす発覚するような改ざんをしようと考えるはずがない。 ウカルテ記載が詳細なことについて7月31日以降のカルテ記載が詳細なのは以下の理由によるものであり,何ら不自然ではない。 被告は,7月31日の往診時に,Eに対し入院を勧めたところ,原告らが入院に強硬に反対し,結局入院を説得できずに帰院した。ところが,帰院後,原告らから,マッサージ師から入院させた方がよいと助言されたので入院させますとの電話があり,被告は,この出来事から,原告らはおかしいと考え,できる限り詳細に記載することを心掛けるようになったのである。 エ診療報酬との齟齬について被告は,正規の往診の場合は,医療健康保険の規約に従って請求してい るが,Iの訪問看護師が訪問したときは,たとえ被告が往診をしても往診料は原則として計上しない方針であった(もっとも,9月になってか 告は,正規の往診の場合は,医療健康保険の規約に従って請求してい るが,Iの訪問看護師が訪問したときは,たとえ被告が往診をしても往診料は原則として計上しない方針であった(もっとも,9月になってからは,Iの訪問看護師による訪問看護のない日には被告医院からの往診は不可欠な状態となっており往診料の点数も馬鹿にならないこと,実際に往診の上,具体的な医療行為を行っており,保険請求に際して否認される恐れも少ないことから,9月2日,9日,16日については,往診料の計上を行っている。したがって,診療録上の往診の回数と保険請求回数が相違するの。)は当然である。 オ以上のことからすれば,被告が診療録の改ざんを行っていないことは明らかである。 第2脳梗塞の発症を見落とし入院加療指導を怠った過失とEの死亡との因果関係の有無(原告らの主張) Eの死亡原因Eは,9月9日午後9時ころに脳梗塞を発症し,意識障害を来した。 Eは,9月10日に被告が往診した時点で適切な入院加療を受けられる病院へ搬送されることなく,脳梗塞に対して何の治療もなされなかったために,脳の梗塞壊死は進行し,意識障害の継続によって全身状態も極めて悪化した。このため,Eは9月11日より脳梗塞の合併症である誤嚥性肺炎に罹患し,38℃台の高熱を発するようになった。 9月21日にEはJ病院に入院したが,脳梗塞の進行による全身状態の著しい悪化のために,誤嚥性肺炎が治癒することはなく,Eは10月1日に誤嚥性肺炎により死亡した。 Eは,脳梗塞に対する治療によって脳梗塞の進行を最低限に食い止める措置をとられなかったために,脳細胞壊死が広範に進行し,これによる全身状態の悪化によって誤嚥性肺炎に罹患し,死亡するに至ったものである。 9月10日の時点でEを入院させていれば行われたであろう治療の内 れなかったために,脳細胞壊死が広範に進行し,これによる全身状態の悪化によって誤嚥性肺炎に罹患し,死亡するに至ったものである。 9月10日の時点でEを入院させていれば行われたであろう治療の内容 脳卒中治療は,発症からの経過時間に応じて以下のように区分され,これ( )に応じた治療がなされる。 ①超急性期…発症後6時間以内をいう。 ②急性期…発症後約6時間を過ぎてから,脳浮腫が改善されるまで,あるいは症候が落ち着くまでの期間をいい,概ね2週間ないし1か月間をいう。 ③回復期(慢性期)…急性期を脱した後,リハビリテーションゴールに達するまでをいう。 脳梗塞の治療法は具体的に次のとおりである(甲B4。 ( ))ア組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)脳梗塞は,超急性期(可能ならば発症から3時間以内)に血管閉塞が解除されれば機能障害を最小にすることが可能であるとされており,組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)の静脈内投与による血栓溶解療法が採用されている。この治療法は,平成17年10月11日から保険収載されるようになったものである。 イ経動脈的血栓溶解療法t-PAが保険収載になる以前は,発症6時間以内の脳梗塞,特に心原性脳塞栓症に対して,経動脈的血栓溶解療法により症例によっては良好な結果が得られていた(現在は,t-PAが使用できない発症後3ないし6時間の症例にこの治療を行う場合がある)。 ウ脳浮腫治療薬脳梗塞になると,血管が詰まった場所あるいはその周辺に水分が溜まる脳浮腫が起こる。脳浮腫が強いと脳圧が高まって重要な脳の組織が圧迫され,命にも関わってくる。脳浮腫薬としては,グリセロールの静脈内注射がある。脳浮腫治療薬の投与は,急性期における治療法の一つである。 エ抗血小板療法血液凝固因子を抑 て重要な脳の組織が圧迫され,命にも関わってくる。脳浮腫薬としては,グリセロールの静脈内注射がある。脳浮腫治療薬の投与は,急性期における治療法の一つである。 エ抗血小板療法血液凝固因子を抑え,血栓の発生,増大化を防ぐ目的で,アスピリンの経口投与は,発症早期(48時間以内)の脳梗塞患者の治療法として推奨されている。 オ脳保護薬脳血管の狭窄又は閉塞によって脳細胞に酸素やブドウ糖が供給されなくなると,脳細胞は死滅するが,このときに少しでも神経細胞を保護して生存させようとする薬が脳保護薬である。エダラボンは,脳梗塞発作後に発生する脳に有害な活性酸素を消失させる薬で,発症後72時間以内の患者の予後改善に有効性が示された薬である。 カ脳梗塞再発の予防脳梗塞の再発を予防するため,心房細動などの心臓疾患に伴う心原性脳塞栓患者の多くにはワルファリンなどの抗凝固薬を使う。ワルファリンは,心原性脳塞栓の再発の予防に強力な効果があるため,第1選択薬となる。 しかし,出血の副作用があるため,注意が必要となる。高齢者の場合には,ワルファリンに比べると効果は小さいが,出血の危険性が少ないことからアスピリンなどの抗血小板薬を用いることもある。 注意すべき点は,予防の効果が高く,かつ出血の危険が少ない安全な量を決めて使うことである。薬の量は,年齢や合併症の種類によっても異なるが,一般的に標準プロトロンビン時間(INR)が2.0ないし3.0になるように設定する。 本件において9月10日の往診時に被告がEに脳梗塞が発症した可能性を( )認識し,直ちに適切な病院への搬送がなされていれば,脳梗塞発症から約1日しか経過していないから,急性期治療である上記ウないしオの治療を受けることができた。 実際に9月21日に搬送されたJ病院では,改善不能を確認するまでは, の搬送がなされていれば,脳梗塞発症から約1日しか経過していないから,急性期治療である上記ウないしオの治療を受けることができた。 実際に9月21日に搬送されたJ病院では,改善不能を確認するまでは, 脳浮腫治療薬グリセロールと抗凝固薬ヘパリンの投与がなされている。 上記治療によりEの死亡が回避できたこと 前項⑵のうちア及びイは超急性期における治療法であるが,診断によって( )これらの適応がないとしても,ウないしオの急性期治療を行うことにより,梗塞壊死の範囲を最小限に止めることが可能なのであり,脳梗塞発作による一時的な意識障害は回復して軽度の麻痺や言語障害等の後遺障害を残すのみに止めることが可能となる。さらに,回復期(慢性期)には,カの抗凝固薬を使用した治療を行うことで,脳梗塞発作の再発によって患者が重篤な状態に陥ることを防止することが可能となる。 逆にこれらの治療が一切行われなければ,脳細胞に必要な酸素や栄養が供給されず,脳浮腫によって脳圧が上昇した状態が続くために,脳細胞の壊死は梗塞部位から広範に広がっていき,不可逆的昏睡状態,死亡に陥る可能性が極めて高くなる。 「脳卒中データバンク2005」では,脳梗塞発作の発症から7日以内に全国の115病院に入院した約1万6000人を対象とした調査で,心原性脳塞栓症の発症患者の予後について次のとおり公表している(甲B8。 )全く症状がないか,軽度の障害を残すのみで介助が不要な状態( )ア(grade0~grade2)…44.2%日常生活において何らかの介助が必要な状態(grade3~4)…24. ( )イ7%ベッド上での生活となり,失禁があり,常に看護や注意が必要な状態()ウ(grade5)…19%死亡(grade6)…12.1%( )エこのように,脳 …24. ( )イ7%ベッド上での生活となり,失禁があり,常に看護や注意が必要な状態()ウ(grade5)…19%死亡(grade6)…12.1%( )エこのように,脳梗塞の発症に対して適切な治療がなされれば,最も重篤な結果が発生する心原性脳塞栓であっても,死亡に至るという重篤な結果に至るのは全体の約12%にすぎず,大半は退院して通常の日常生活,又はそれ に準じた生活を送れる状態に転帰しているのである。 なお,t-PA投与の保険適用が認められたのは平成17年10月のことであるが,それ以前であっても,脳の減圧や脳保護薬の投与等の治療によって,後遺障害を残すことなく,あるいは軽度の後遺障害を残すのみで転帰する脳梗塞患者は多数存在したのであるから(上記データはt-PAが保険収),載される以前の治療成績である,超急性期治療の適応がないことをもって意識障害が回復し得ないほどの重篤な後遺障害を残し又は死亡する可能性が高い,という論理は医学的に成立しない。 以上のことからすれば,本件においても,9月10日午後5時45分に被( )告が往診した時点で,被告が脳梗塞の発症の可能性を認識して直ちにEを適切な病院に搬送していれば,Eは,脳梗塞超急性期の治療の適応はないとしても,グリセロールやアスピリン,エダラボンの投与などの脳梗塞急性期の治療を受けることによって脳細胞壊死を最小限に食い止め,一時的な意識障害を脱し,軽度の後遺障害を残すのみで転帰又は軽快する可能性が極めて高かったのである。そして,Eの意識障害が一時的なものに止まっていれば,Eの全身状態及び嚥下機能の低下は避けられ,Eが誤嚥性肺炎を発症することもなかったのであるから,9月10日に往診した時点で,被告がEを適切な病院に搬送していれば,10月1日のEの死亡と っていれば,Eの全身状態及び嚥下機能の低下は避けられ,Eが誤嚥性肺炎を発症することもなかったのであるから,9月10日に往診した時点で,被告がEを適切な病院に搬送していれば,10月1日のEの死亡という結果は生じなかったのである。 (被告の主張)因果関係の存否については不知。 なお,脳梗塞の発症時期について,原告らは9月9日と指摘されるが,8月下旬には痴呆様症状が亢進し,反応も鈍く,うとうとしている時間が長いなど,既にそのころには脳梗塞が発症していた可能性が高く,そうすると,脳梗塞の発症を9月9日であることを前提とする原告らの主張は当てはまらないというべきである。 また,原告らが一般論として述べる点については,そのような医学的知見が存在するとの限度で認めるが,Eは本件当時既に87歳と高齢であったことに加え,寝たきりであり,水分摂取量も少ないなど全身衰弱も進行し,心臓にも疾患を抱えていること,原告らも認めているように脳梗塞の積極的な治療によって出血傾向が強まるなどして,却って死期を早める可能性もあることから,入院時期と死亡時期との関連性についての証明は不可能である。 第3損害額(原告らの主張) Eの損害 逸失利益( )ア基礎年収Eは,生前,年間102万7800円の老齢基礎年金を受領していた。 また,Eは,生前,株式会社S機械製作所の代表取締役を務めており,同社から年間60万円の役員報酬を受領していた。 したがって,Eの逸失利益算定の基礎とされるべき基礎年収額は,これらの合計額である162万7800円である。 イ平均余命年数に対応するライプニッツ係数Eは,死亡した10月1日当時,86歳であったから,その平均余命年数は7年であるところ,平均余命年数7年に対応するライプニッツ係数は,5.7864である。 ウ生活費控除率 対応するライプニッツ係数Eは,死亡した10月1日当時,86歳であったから,その平均余命年数は7年であるところ,平均余命年数7年に対応するライプニッツ係数は,5.7864である。 ウ生活費控除率Eの逸失利益を算定するにあたり,生活費控除率は30%とされるべきである。 エ 結論 よって,Eの死亡による逸失利益は以下の算定式により,659万3371円が認められるべきである。 (算定式)162万7800円×5.7864×(1-0.3)=659万3371 死亡慰謝料( )Eは,86歳という高齢に達していたものの,平成18年6月ころまでは極めて健康で,日常生活や会社の伝票付け等も自らこなすほどで,100歳まで元気に過ごすことを目標に日々生活していた。 Eは,8月16日に高齢者医療センターを退院した後,被告の「無理に高齢者医療センターでの外来診療を受けなくてもよい」との助言にしたがっ。 て,被告の往診を受けることとしたのであるが,その際も体力が回復して日常生活を送れるようになるのを心待ちにし,被告にも「助けてください」。 と言っていたほどであった。 Eが脳梗塞を発症した翌日である9月10日に被告が往診に訪れた時点で,直ちに精密検査及び適切な治療が受けられる病院に搬送すべきとの判断を被告が行っていれば,Eの脳梗塞に対する治療が行われ,肺炎等も発症せず,通常の社会生活を営める程度に回復したはずであったのに,被告の誤診によって,最愛の家族と再び言葉を交わすこともできないまま生涯を終えざるを得なかったEの無念は計り知れない。 よって,Eの死亡慰謝料として2400万円が認められるべきである。 原告ら固有の損害 原告ら固有の慰謝料( )原告らは,母であるEを敬愛し,いつまでも元気で過ごしてくれることを願い,また母の元気な姿を喜びとして として2400万円が認められるべきである。 原告ら固有の損害 原告ら固有の慰謝料( )原告らは,母であるEを敬愛し,いつまでも元気で過ごしてくれることを願い,また母の元気な姿を喜びとして日々生活してきた。原告らは,病院での入院治療を望まなかったEの意向になるべく従いながらも,Eの病状が回復するのに最善の措置をとることを望んでいたのであるが,被告からEの病状やその原因について十分な説明を得られなかったために,ただひたすら被告の往診を受けながら自宅療養によってEの介護を続けるという途しか選択 する余地を与えられず,必死の介護を続けてきた。平成18年9月21日にJ病院でEが肺炎や脳梗塞といった多数の病気の診断を受けたことを知り,Eに十分な治療を受けさせられなかった原告らの無念と悲しみは計り知れない。特に,Eと同居していた原告Dは,Eの回復を信じて,9月9日に昏睡状態に陥ったあとも,四六時中付ききりでEの介護を続けてきたのであって,最愛の母を失った悲しみは他の原告にも増して著しいものがある。 したがって,Eの死亡による原告ら固有の慰謝料は,原告Dにつき200万円,その他の原告らにつき100万円が認められるべきである。 葬儀費用(原告Dの損害)( )原告らは,Eの死亡後にEの葬儀を執り行ったところ,原告Dは原告らを代表してEの葬儀費用を支払った。原告Dが負担した葬儀費用は860万円余りに上るが,このうち150万円は相当因果関係ある損害として認められるべきである。 弁護士費用( )原告らは,本件訴訟の提起及び追行を原告ら代理人に依頼したところ,これに要する弁護士費用のうち,少なくとも損害額の1割が相当因果関係ある損害として認められるべきであり,その金額は,原告Dにつき110万円,その余の原告らにつき85万円となる。 依頼したところ,これに要する弁護士費用のうち,少なくとも損害額の1割が相当因果関係ある損害として認められるべきであり,その金額は,原告Dにつき110万円,その余の原告らにつき85万円となる。 原告らによる相続原告らはEの子であり同人の相続人であるところ,原告らの法定相続分は各4分の1である。よって,Eの損害額について原告一人あたりの相続により取得した金額は,764万8342円(1円未満切り捨て)となる。 結論 したがって,原告らの損害額は,原告A,原告B及び原告Cにつき949万8342円,原告Dにつき1224万8342円となる。 (被告の主張) 争う。
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