令和5(わ)261 傷害致死被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年7月25日 大分地方裁判所
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判決文本文3,485 文字)

令和6年7月25日宣告令和5年第261号傷害致死被告事件 主文 被告人を懲役6年に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、交際相手のAを帯同し、知人の被害者ら飲み仲間と店を変えながら飲み会を続けていたところ、令和5年12月3日午前3時29分、大分県別府市ab丁目c 番地d 先路上において、酒に酔った被害者(当時40歳)がAの意に反してその背後から抱きついたので、Aの身体を防衛するため、防衛の程度を超え、被害者を路上に引き倒し、被害者の腹部を右足で1回蹴り、さらに、仰向けに倒れた被害者の腹部を右足で1回踏みつける暴行を加え、被害者に外傷性膵臓損傷等の傷害を負わせ、よって、同日午前6時55分、同市e 町f 番g 号B病院において、被害者を前記傷害に起因する失血により死亡させた。 (争点に対する判断)第1 本件の争点本件の争点は、過剰防衛の成否である。具体的には、弁護人は、被害者のAに対する判示の抱きつき行為(以下「本件抱きつき行為」という。)は、Aの性的な自由や身体の安全に対する急迫不正の侵害に当たり、被告人は、Aを守るために、判示の暴行(以下「本件暴行」という。)に及んだが、防衛の程度を超えていた旨主張するのに対し、検察官は、本件当時の事情・状況全般を総合すると、Aに対する危険が差し迫り、被告人が反撃行為に出ることが正当とされるような緊急状況、すなわち、急迫不正の侵害は認められない旨主張する。 第2 当裁判所の判断 1 本件の事実関係関係証拠によれば、本件の事実関係は、以下のとおりである。 ⑴ 本件前日午後11時頃、被告人とAは、被害者を含む被告人の飲み仲間が開催していた飲み会に途中参加した。Aと被害者は、 件の事実関係関係証拠によれば、本件の事実関係は、以下のとおりである。 ⑴ 本件前日午後11時頃、被告人とAは、被害者を含む被告人の飲み仲間が開催していた飲み会に途中参加した。Aと被害者は、Aが被害者の働くバーを利用した際に二、三回会ったことがある程度の関係であった。 ⑵ その後、被告人らは、店を変えながら飲み会を続けていたところ、店内や路上において、酒に酔った被害者が、Aに抱きついて持ち上げる、手や腕をつかんで引き寄せる、頭をなでるなどの行為に及ぶことがあった。これに対し、素面のAは、不快に思いながらも、場の雰囲気を壊したくないなどの理由から、被害者の行為を明示的に拒絶することはせず、被告人は、二人を遠ざける、二人の間に割って入るなどの対応を取ることがあった。 ⑶ 本件当日午前3時28分頃、被告人らが次の店に向かって歩いていたところ、被害者がAに接触したため、被害者の行動が行きすぎであると感じ始めていた被告人は被害者を手で押してAから遠ざけた。 ⑷ 同日午前3時29分、被告人らが引き続き歩いていたところ、被害者がAの背後から本件抱きつき行為に及んだ。Aは、被害者を振りほどこうとしたが振りほどけず、強い拒絶の趣旨で「もういいっちゃ」と言った。本件抱きつき行為を見た被告人は、いい加減にしろという意味の言葉を発し、被害者を路上に引き倒した。 すると、被害者はAの身体に手を触れたまま路上に倒れ、Aも被害者もろとも倒れる形になった。被告人は、Aが立ち上がり始めた時、路上に倒れた被害者の腹部を右足で1回蹴り、さらに、立ち上がり終えたAに制止されながらも、仰向けに倒れた被害者の腹部を右足で1回踏みつけた。 ⑸ 被告人は、本件暴行直後、なおも被害者に向かっていこうとしたが、飲み仲間に制止された。他方、被害者は、いったん立ち上がったも されながらも、仰向けに倒れた被害者の腹部を右足で1回踏みつけた。 ⑸ 被告人は、本件暴行直後、なおも被害者に向かっていこうとしたが、飲み仲間に制止された。他方、被害者は、いったん立ち上がったものの、再び倒れた。なお、被害者は、その後搬送先のB病院で判示の傷害に起因する失血により死亡が確認されたが、その時点で強度酩酊状態であった。 2 検討⑴ 本件抱きつき行為は、女性であるAが、さして親しいわけではない男性である被害者から、その意に反して、振りほどこうとしても振りほどけない程度の強さで抱きつかれたというものであり、Aの身体を現に制約し、嫌悪感を与えるものであるから、急迫不正の侵害に当たる。 この点、確かに、本件暴行に先行する事情として、酒に酔った被害者がAに抱きつくなどの身体的接触が繰り返されていたから、被告人は本件抱きつき行為を予想し得たといえる。しかし、予想し得た侵害の内容は、二人の間に入り、Aから被害者を遠ざけるなどの手段によって回避可能な程度のものであった以上、被告人がAを帯同して次の店に向かうべく被害者ら飲み仲間と行動を共にしていたことが社会的に不相当であったとはいえず、前記事情は、直ちに本件抱きつき行為の急迫性を否定する根拠とはならないというべきである。 ⑵ そして、被告人の本件暴行は、わずか5秒という短時間に同一場所において行われた主として足による攻撃であり、客観的に連続している。また、被告人は、本件暴行の態様やその直後の態度に照らせば、被害者に対する強い怒りの感情から本件暴行に及んだことがうかがわれるものの、その直前も含めて被害者のAに対する身体的接触をやめさせる行動を繰り返していたこと、現に本件抱きつき行為によるAの身体への侵害が存在していたこと、前記のとおり本件暴行がわずか5秒という短時間に行 、その直前も含めて被害者のAに対する身体的接触をやめさせる行動を繰り返していたこと、現に本件抱きつき行為によるAの身体への侵害が存在していたこと、前記のとおり本件暴行がわずか5秒という短時間に行われたものであることを考慮すると、防衛の意思も併存していたといえ、本件暴行を通じてその心理が継続していたと認められる。なお、本件暴行の態様や強度、被害者の酩酊状態等に照らし、本件暴行が防衛行為の相当性を欠くものであったことは明らかである。 ⑶ 以上によれば、被告人の本件暴行は、本件抱きつき行為という急迫不正の侵害に対する一連一体のものであり、同一の防衛の意思に基づく防衛の程度を超えた行為と認めることができるから、過剰防衛としての傷害致死罪が成立する。 (量刑の理由) 本件暴行は、防衛行為であり、必ずしも執拗ではないが、Aの身体への危険性が低かった本件抱きつき行為に比して、過剰性が甚だしく、暴行それ自体が直接的に致命傷を生じさせており、特に、強度酩酊状態である上、路上に仰向けに倒れて無防備な被害者の腹部を強く踏みつける行為は、生命に対する危険性が非常に高いものといえる。確かに、被告人が本件暴行に及んだ際、防衛の意思に欠けるところはなかったし、被害者に対する強い怒りの感情が併存していたことについては、本件の経緯において、被告人の穏当な制止行為にもかかわらず、関係性の希薄なAに対して身体的接触を繰り返した被害者の行動が原因となった面はある。しかし、本件暴行が過剰になったのは、恐怖や驚愕等の心理的動揺によるわけではなく、人を守るためなら暴力を振るってもいいという粗暴な発想が影響した面もあるから、責任非難の減少を考慮するにしても限度がある。そして、被害者の生命が失われた結果の重大性を前提にすると、遺族が厳しい処罰感情を示していることは十分理 ってもいいという粗暴な発想が影響した面もあるから、責任非難の減少を考慮するにしても限度がある。そして、被害者の生命が失われた結果の重大性を前提にすると、遺族が厳しい処罰感情を示していることは十分理解できる。 以上によれば、本件は、過剰防衛が成立することを踏まえても、同種事案(知人・友人・勤務先関係を被害者とする凶器等を用いない偶発的・一時的な犯意に基づく傷害致死の単独犯で、処断罪と同一又は同種の罪の件数が1件のもの)の量刑傾向の中で中間的な部類に属するというべきである。 その上で、被告人が、自らの罪の重さを認識し、遺族に対する謝罪の言葉を口にしていること、被告人の更生支援を申し出ているAの協力を得て、遺族に被害弁償の一部として見舞金50万円を支払ったことを考慮し、主文の刑を量定した。 (求刑:懲役8年、弁護人の科刑意見:懲役4年)令和6年7月26日大分地方裁判所刑事部 裁判長裁判官辛島靖崇 裁判官北島聖也 裁判官山西健太

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