平成28(行ウ)504 国籍確認請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年2月18日 東京地方裁判所
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判決文本文67,292 文字)

令和3年2月18日判決言渡平成28年(行ウ)第504号国籍確認請求事件 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求原告が日本国籍を有することを確認する。 第2 事案の概要 本件は,日本国籍を有する父とロシア連邦(以下「ロシア」という。)国籍を有する母との間の嫡出子として日本において出生し,2002年(平成14年)5月の改正前のロシア国籍法(以下「旧ロシア国籍法」という。)15条2項前段に基づきロシア国籍を取得した原告が,①同項によるロシア国籍の取得は,同項が生来的取得の規定であること等から,国籍法11条1項に該当しないこ と(主位的主張),②仮に旧ロシア国籍法15条2項前段がロシア国籍の志望取得の規定であるとしても,原告に外国の国籍を取得する意思があったとはいえないことから,原告は国籍法11条1項の「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」に該当しないこと(第1の予備的主張),③そもそも同項は憲法10条,13条,22条2項及び14条1項に違反し,違憲,無効であること (第2の予備的主張)により,原告は日本国籍を喪失しないとして,被告に対し,原告が日本国籍を有することの確認を求める事案である。 1 関係法令の定め(1) 国籍法の定めア国籍法2条は,出生により日本国籍を取得する場合として,出生の時に 父又は母が日本国民であるとき(1号),出生前に死亡した父が死亡の時に 日本国民であったとき(2号)等を規定している。 イ国籍法3条1項は,父又は母が認知した子で20歳未満のもの(日本国民であった者を除く。)は,認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合において,その父又は母 を規定している。 イ国籍法3条1項は,父又は母が認知した子で20歳未満のもの(日本国民であった者を除く。)は,認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合において,その父又は母が現に日本国民であるとき,又はその死亡の時に日本国民であったときは,法務大臣に届け出ることによっ て,日本の国籍を取得することができることを規定している。 ウ国籍法5条1項は,法務大臣が帰化を許可することができる条件の一つとして,国籍を有せず,又は日本の国籍の取得によってその国籍を失うべきこと(5号)を規定している。また,同条2項は,法務大臣は,外国人がその意思にかかわらずその国籍を失うことができない場合において,日 本国民との親族関係又は境遇につき特別の事情があると認めるときは,同条1項5号に掲げる条件を備えないときでも,帰化を許可することができることを規定している。 エ国籍法11条1項は,日本国民は,自己の志望によって外国の国籍を取得したときは,日本の国籍を失うことを規定している。また,同条2項は, 外国の国籍を有する日本国民は,その外国の法令によりその国の国籍を選択したときは,日本の国籍を失うことを規定している。 オ国籍法12条は,出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは,戸籍法の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ,その出生の時に遡って日本の国籍を失うことを規定して いる。 カ国籍法13条1項は,外国の国籍を有する日本国民は,法務大臣に届け出ることによって,日本の国籍を離脱することができることを規定している。また,同条2項は,同条1項の規定による届出をした者は,その届出の時に日本の国籍を失うことを規定している。 キ国 ることによって,日本の国籍を離脱することができることを規定している。また,同条2項は,同条1項の規定による届出をした者は,その届出の時に日本の国籍を失うことを規定している。 キ国籍法14条1項は,外国の国籍を有する日本国民は,外国及び日本の 国籍を有することとなった時が20歳に達する以前であるときは22歳に達するまでに,その時が20歳に達した後であるときはその時から2年以内に,いずれかの国籍を選択しなければならないことを規定している。 また,同条2項は,日本の国籍の選択は,外国の国籍を離脱することによるほかは,戸籍法の定めるところにより,日本の国籍を選択し,かつ,外 国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによってすることを規定している。 ク国籍法15条1項は,法務大臣は,外国の国籍を有する日本国民で同法14条1項に定める期限内に日本の国籍の選択をしないものに対して,書面により,国籍の選択をすべきことを催告することができることを規定し ている。また,同法15条2項は,同条1項に規定する催告は,これを受けるべき者の所在を知ることができないときその他書面によってすることができないやむを得ない事情があるときは,催告すべき事項を官報に掲載してすることができることを規定している。さらに,同条3項は,同条1項及び2項の規定による催告を受けた者は,原則として,催告を受けた 日から1月以内に日本の国籍の選択をしなければ,その期間が経過した時に日本の国籍を失うことを規定している。 ケ国籍法16条1項は,選択の宣言をした日本国民は,外国の国籍の離脱に努めなければならないことを規定している。また,同条2項は,法務大臣は,選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失っていないものが ケ国籍法16条1項は,選択の宣言をした日本国民は,外国の国籍の離脱に努めなければならないことを規定している。また,同条2項は,法務大臣は,選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失っていないものが自己 の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であっても就任することができる職を除く。)に就任した場合において,その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは,その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができることを規定している。 コ国籍法17条1項は,同法12条の規定により日本の国籍を失った者で 20歳未満のものは,日本に住所を有するときは,法務大臣に届け出るこ とによって,日本の国籍を取得することができることを規定している。 サ国籍法18条は,国籍取得の届出,帰化の許可の申請,選択の宣言又は国籍離脱の届出は,国籍の取得,選択又は離脱をしようとする者が15歳未満であるときは,法定代理人が代わってすることを規定している。 (2) 旧ロシア国籍法の定め(甲29,乙8により認める。) ア旧ロシア国籍法12条1項は,ロシア国籍は,①承認により,②出生により,③登録により,④帰化により,⑤ロシア国籍の回復により,⑥領土の変更その他ロシアが当事者である国際条約が定める原因に基づく国籍の選択により,⑦その他同法が定める原因により,取得される旨規定していた。 イ旧ロシア国籍法14条は,出生時に父母がロシア国籍を有する子は,その出生地を問わず,ロシア市民である旨規定していた。 ウ旧ロシア国籍法15条1項は,父母の一方が子の出生のときにロシア国籍を有し,他方が無国籍者であったときは,子は,その出生地を問わず,ロシア市民である旨規定していた。 旧ロ た。 ウ旧ロシア国籍法15条1項は,父母の一方が子の出生のときにロシア国籍を有し,他方が無国籍者であったときは,子は,その出生地を問わず,ロシア市民である旨規定していた。 旧ロシア国籍法15条2項は,「父母の国籍が異なり,子の出生時に一方がロシア国籍を有し,他方がそれと異なる国籍を有する場合,子の国籍に関する問題は,子の出生地を問わず,父母の書面による合意によって決定される。このような合意が存在しない場合は,子がロシア国内で出生するか,又はロシア国籍を認めなければ無国籍者になるときは,子はロシア国 籍を取得する」旨規定していた。 エ旧ロシア国籍法16条は,ロシア国内にいる子で,その父母が共に知れない子は,ロシア市民である旨規定していた。 オ旧ロシア国籍法17条1項は,ロシア国内でロシアとは異なる国籍を持つ父母の下に出生した子は,その国家が,子にその国籍を与えないときに は,ロシア市民である旨規定し,同条2項は,ロシア国内で無国籍者から 出生した子はロシア市民である旨規定していた。 カ旧ロシア国籍法42条は,ロシア国籍は,権限ある機関による決定又はロシア大統領の大統領令の発布の日から,取得され,又は喪失されたものとみなす旨規定していた。 2 前提事実(証拠等を掲げていない事実は当事者間に争いがない。) (1) 原告は,日本国籍を有する父のA(以下「原告父」という。)とロシア国籍を有する母のB(以下「原告母」という。)との間の嫡出子として,平成13年▲月▲日,日本国内で出生し,出生により日本国籍を取得した。 (2) 原告父及び原告母(以下,併せて「原告父母」という。)は,平成13年▲月▲日,駐日ロシア大使館(以下「ロシア大使館」という。)において,原 告に係る旧 出生により日本国籍を取得した。 (2) 原告父及び原告母(以下,併せて「原告父母」という。)は,平成13年▲月▲日,駐日ロシア大使館(以下「ロシア大使館」という。)において,原 告に係る旧ロシア国籍法15条2項前段の父母の合意文書を作成し,提出した(甲3,89,90,原告父尋問,原告母尋問)。 (3) 原告母は,平成13年5月12日頃までに,原告が旧ロシア国籍法15条2項に従い,2001年(平成13年)▲月▲日ロシア国籍を取得した旨記載されたロシア大使館の証明書(以下「本件証明書」という。)を受領した(甲 3,弁論の全趣旨)。 3 争点(1) 旧ロシア国籍法15条2項前段によるロシア国籍の取得が国籍法11条1項に該当するか否か(2) 原告が国籍法11条1項に該当するか否か (3) 国籍法11条1項が憲法10条,13条及び22条2項に違反するか否か(4) 国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するか否か 4 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(旧ロシア国籍法15条2項前段によるロシア国籍の取得が国籍 法11条1項に該当するか否か)について (被告の主張)アロシア外務省の口上書(乙16の2)によれば,ロシア外務省は,旧ロシア国籍法15条2項の父母の合意文書の性質について,「事実上,父母の合意は許可ではなく,通知の特徴を帯び,管轄機関が子のロシア連邦国籍の取得に関する特別な決定を行う必要がなかった。」とした上で,「承認及 び出生による国籍取得の場合に関し,同法第42条は適用されていなかった。」「父母の国籍が異なる子の国籍は不確定とみなされ,子の出生日から1年以内に管轄機関に提出された父母の合意書の日付以降,または,(ロシア国内で生まれた子は)その年の満了 2条は適用されていなかった。」「父母の国籍が異なる子の国籍は不確定とみなされ,子の出生日から1年以内に管轄機関に提出された父母の合意書の日付以降,または,(ロシア国内で生まれた子は)その年の満了により取得されていた。」と回答しているのであるから,承認及び出生による国籍取得の場合には「ロシア国籍 は,権限ある機関による決定又はロシア大統領の大統領令の発布の日から,取得され,又は喪失されたものとみなす」旨規定する同法42条の適用はなく,また,父母の一方が子の出生のときにロシア国籍を有し,他方がそれと異なる国籍を有しているロシア国外で出生した子については,子の出生日から1年以内に管轄機関に提出された父母の合意文書の日付以降にロ シア国籍を取得するとされ,ロシア国内で出生した子については,その年の満了により取得するとされていたものである。 したがって,旧ロシア国籍法42条は,国籍取得時期に関する包括的な規定ではなく,承認及び出生による国籍の取得の場合には適用されないことは明らかであり,また,同法15条2項については,前段,後段共に後 発的な取得を定めた規定であると解される。 イ上記アで述べたところに照らせば,旧ロシア国籍法15条2項は,国際結婚における出生の際の国籍問題の解決においては,正に父母の意思こそが決定的なものであると位置付けて,その国籍問題の解決手続に関するルールを定めた規定であるといえる。 そして,我が国の国籍法11条1項は,国籍変更の自由を保障しつつ, 重国籍の弊害を踏まえ,重国籍発生の防止を趣旨とする規定であり,同項の「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」とは,帰化,国籍の回復,国籍の取得の届出その他名称のいかんにかかわらず,直接外国の国籍の取得を希望する意思 籍発生の防止を趣旨とする規定であり,同項の「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」とは,帰化,国籍の回復,国籍の取得の届出その他名称のいかんにかかわらず,直接外国の国籍の取得を希望する意思行為によって,その効果として外国の国籍が付与されるものでなければならないから,「自己の志望によって外国の国籍を取 得したとき」の解釈に当たっては,当該登録手続が当該国の国籍の取得の意思を示す形態のものか否かにより判断されるべきである。 旧ロシア国籍法15条2項前段による父母の合意文書の提出は,国籍問題の解決にとって決定的なものであるから,単にその登録により子の出生を登録する「形式的届出の意義」の性質を有するものではなく,ロシア国 籍の取得の意思を示す形態そのものであると解される。したがって,同項前段による父母の合意文書の提出は,自己の志望によって外国の国籍を取得するための意思行為にほかならないから,国籍法11条1項における「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」に該当するものである。仮に,旧ロシア国籍法15条2項前段によるロシア国籍の取得は,出生時に ロシア国籍を取得するものであると解し得たとしても,父母の合意文書が提出されるまでは,子の国籍は不確定であり,ロシア国外で出生した子については,父母の合意文書の提出が国籍問題の解決にとって決定的であったことからすると,国籍法11条1項の解釈としては,かかる不確定的な国籍の取得は,外国の国籍の当然取得には当たらず,旧ロシア国籍法15 条2項前段による父母の合意文書の提出こそが,自己の志望によって外国の国籍を取得するための意思行為にほかならないといえるから,これが国籍法11条1項の「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」に該当するとの結論は異ならない。 出こそが,自己の志望によって外国の国籍を取得するための意思行為にほかならないといえるから,これが国籍法11条1項の「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」に該当するとの結論は異ならない。 なお,原告の父母による合意文書の提出は,原告自身による行為ではな いが,国籍法18条は,15歳未満の子の国籍取得の届出,帰化の許可の 申請等については,法定代理人が代わってする旨を規定しており,子の法定代理人の行為による外国の国籍の取得についても,同法11条1項の「自己の志望」に該当するものとされているから,上記合意文書の提出による原告のロシア国籍の取得が同項の「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」に該当することには問題がない。 ウ(ア) これに対し,原告は,旧ロシア国籍法15条2項前段による合意文書の提出は単なる国籍の確認制度であり,これによって新たにロシア国籍が取得されるものではない旨主張する。 しかしながら,上記イのとおり,旧ロシア国籍法15条2項前段による父母の合意文書の提出は,単にその登録により子の出生を登録する形 式的届出の意義のものではなく,ロシア国籍の取得の意思を示す形態そのものである。 この点に関して,飽くまでも旧ロシア国籍法15条2項前段により当該子がロシア国籍を生来的に取得することになるという前提に立つのであれば,1992年4月10日制定の「ロシア連邦国籍問題審査手続規 程」(以下「1992年規程」という。)2章3条が定める期間内に合意書面が提出されないことによって,当該子は一旦生来的に取得したというロシア国籍を事後的に喪失したと解するのが本来は自然である。しかしながら,旧ロシア国籍法15条2項前段の父母の書面による合意とは,当該子が生来的に取得したロシア国籍の確定又は 生来的に取得したというロシア国籍を事後的に喪失したと解するのが本来は自然である。しかしながら,旧ロシア国籍法15条2項前段の父母の書面による合意とは,当該子が生来的に取得したロシア国籍の確定又は選択であるとする原告 の主張を前提とすれば,父母の合意文書を提出しないという,確定とも選択とも解し難い不作為の行為によって,生来的に取得したロシア国籍を喪失するという重大な結果をもたらすことを合理的に説明することは困難である。 (イ) また,原告は,ロシア外務書の口上書は,旧ロシア国籍法15条2 項が生来的なロシア国籍の取得について定めた規定であることを前提 とするものである旨主張する。 しかしながら,上記ロシア外務省の口上書が旧ロシア国籍法15条2項前段によるロシア国籍の取得を「出生による国籍取得」であるとするのは,生来的な国籍取得を意味するものではなく,飽くまで,父母の書面による合意がされることによって,「出生を原因として」新たに国籍を 取得するという意味と解される。 (ウ) さらに,原告は,①旧ロシア国籍法15条2項前段の合意文書の提出は,父母が子の法定代理人として行うものではなく,固有の権能として行うものであり,かかる父母の行為に対し,法が認めた効果として子にロシア国籍が付与されるものであるから,これを「法定代理人による 外国の国籍の志望取得」の場面とみることは誤りである,②国籍法は18条に規定されていない国籍の変動を法定代理人の行為によって生じさせることを予定していないなどとして,法定代理人による外国の国籍の志望取得を理由に同法11条1項を適用して未成年者の日本国籍を喪失させることは誤りである旨主張する。 しかしながら,国籍法18条が規定する,国籍取得の届出,帰化の許可の申請,日本国籍選 の志望取得を理由に同法11条1項を適用して未成年者の日本国籍を喪失させることは誤りである旨主張する。 しかしながら,国籍法18条が規定する,国籍取得の届出,帰化の許可の申請,日本国籍選択の宣言及び国籍離脱の届出といった国籍法上の要式行為については,個々の表意者に関して個別的に意思能力の有無を判断することはできる限り回避するのが適切であり,代理を認めないとすれば,意思能力を欠く未成年者がこれらの行為をする途を閉ざすこと になってしまうため,同条は,意思能力を欠く可能性の高い一定年齢に達しない者については常に法定代理人が代わってしなければならないものとし,逆に,その年齢に達した者については本人自身がしなければならないとしたものである。したがって,子の法定代理人の行為による外国の国籍の取得について,同法11条1項の「自己の志望」に該当する ものとし,さらに,当該代理行為を日本法上適法な法定代理人からの申 請であることが必要であるとする行政実務の取扱は,同法18条の趣旨に沿うものである。 また,外国の国籍を取得するか否かについては,専ら当該外国の専権事項であり,国籍の取得の手続についても,当該外国の権限ある当局に対してするものであり,当該外国の法律等の規定するところによるが, 当該外国の国籍を取得した結果,日本国籍を喪失するか否かは,我が国の問題であり,我が国の国籍法が適用されるのであるから,法定代理人による外国の国籍の志望取得について,同法11条1項の適用があることは明らかである。 したがって,父母の合意文書の提出による旧ロシア国籍法15条2項 前段によるロシア国籍の取得には,国籍法11条1項の適用がある。 (原告の主張)ア(ア) 旧ロシア国籍法15条2項前段には,出生時にロシア国籍 の提出による旧ロシア国籍法15条2項 前段によるロシア国籍の取得には,国籍法11条1項の適用がある。 (原告の主張)ア(ア) 旧ロシア国籍法15条2項前段には,出生時にロシア国籍を取得していないことを直接にも間接的にも示す文言はない。同法は,12条1項で国籍の取得原因として七つの事由を列挙し,13条以下で,列挙し た順番に基づき,具体的な規定を設けている。このうち,同法12条1項で二番目に挙げられている出生による国籍の取得については,同法14条から17条までに規定が設けられており,同法15条もこの中に位置付けられている。このような同法の構成をみる限り,同条2項前段が出生に関する国籍の取得について定めた規定であるとの理解は,ごく自 然かつ合理的なものである。 また,旧ロシア国籍法の実施規則である1992年規程は,「出生による国籍の取得」と題された2章3条において,同法15条2項前段の合意文書の提出について規定しており,同項前段が出生による国籍の取得に関する規定であることを前提としている。そして,1992年規程3 条は,「異なる国籍を有する父母は,子の国籍を選択する際に,(中略) 子の国籍の選択に関する合意書面を提出する。」としており,父母による合意文書の提出は,子が生来的にロシア国籍と外国の国籍を取得していることを前提として,生来的に有するロシア国籍の確認又は選択を行うものであることが分かる。以上のことは,同項がロシア国内で出生した子についても,その片親がロシア国籍とは異なる国籍であることを理由 にロシア国籍の生来的取得を否定する趣旨とは解されないのに,父母の書面による合意を要求していることからも明らかである。 さらに,ロシア当局の見解は,ロシア外務省回答(甲7の6),ロシア移住庁国 にロシア国籍の生来的取得を否定する趣旨とは解されないのに,父母の書面による合意を要求していることからも明らかである。 さらに,ロシア当局の見解は,ロシア外務省回答(甲7の6),ロシア移住庁国籍局説明(甲23),同局の回答(甲24),ロシア移住庁ノヴォシビルスク州支局回答(甲25),ロシア大使館による証明書(甲37) 及びロシア外務省の口上書(乙16の2)のいずれにおいても,旧ロシア国籍法15条2項によるロシア国籍の取得がロシア国籍の生来的取得を意味するとしている。ロシアの指導的学説も,同項を出生によるロシア国籍の取得を定めた規定として位置付けている。 加えて,父母の合意文書について,定型の申請様式が存在しないこと も,既に有する国籍を確認又は選択する手続であることから改めて申請等は不要であるという考えであることを推認させるものである。 以上の検討を踏まえると,旧ロシア国籍法15条2項及び1992年規程2章3条は,①ロシア人とそれと異なる国籍の人との間の子が生来的にロシア国籍を有していることを前提として,父母の合意文書の提出 によりロシア国籍の保有が確認又は確定され,②父母の合意文書の提出がなくても,子がロシア国内で出生していたときは出生から1年の経過によりロシア国籍の保有が確認又は確定され,③父母の合意文書の提出がないまま1年が経過し,かつ子がロシア国外で出生した場合であっても,子が無国籍者となるときには,ロシア国籍の保有が確認又は確定さ れ,④その余の場合には,ロシア国籍の取得の効果が確認又は確定され ないから,結果的にその者のロシア国籍が存在しないことが確定されるとしていると解するのが最も合理的である。 (イ) 以上によれば,旧ロシア国籍法15条2項前段の父母の合意文書の提 れ ないから,結果的にその者のロシア国籍が存在しないことが確定されるとしていると解するのが最も合理的である。 (イ) 以上によれば,旧ロシア国籍法15条2項前段の父母の合意文書の提出の手続は,自己の志望によって新たにロシア国籍を取得する手続ではなく,その手続によって新たにロシア国籍が取得されるものではない から,同項前段によるロシア国籍の取得は,国籍法11条1項には該当しない。 イ(ア)a 被告は,ロシア外務省の口上書(乙16の2)の記載内容を根拠に,旧ロシア国籍法15条2項は前段,後段共に後発的な取得を定めた規定である旨主張する。 b しかしながら,上記aのロシア外務省の口上書は,父母の合意文書の提出とは,出生による国籍の取得という既に発生した事実又は状態を通知する行為であり,それに対して管轄機関が決定を下すということはなく,旧ロシア国籍法42条の適用はないとするものであり,同法15条2項が生来的なロシア国籍の取得について定めた規定である ことを前提とするものである。 ところで,上記ロシア外務書の口上書は,「父母の国籍が異なる子の国籍は不確定とみなされ」としているが,これは,将来的にロシア国籍の存在が父母の合意文書の提出等によって揺るぎない状態になるか,逆に存在しない状態になるかが決まること,すなわち確定するこ とを想定したものである。また,上記ロシア外務省の口上書は,国籍の取得日について,「子の出生日から1年以内に管轄機関に提出された父母の合意文書の日付以降,または(ロシア国内で生まれた子は)その年の満了により取得されていた。」としているところ,出生時以外の時期を国籍の取得の時期とすることは立法政策上及び立法技術上十分 に可能であるから,これは, たは(ロシア国内で生まれた子は)その年の満了により取得されていた。」としているところ,出生時以外の時期を国籍の取得の時期とすることは立法政策上及び立法技術上十分 に可能であるから,これは,旧ロシア国籍法15条2項による国籍の 取得は出生を原因としつつ,その取得時期を父母の合意文書の日付の日,又はロシア国内で出生した子については出生後1年を経過したときとするものであるという理解を前提とするものと解され,同項がロシア国籍の志望取得について定めたものであることの根拠となるものではない。 c さらに,被告の主張を前提とすると,旧ロシア国籍法は,父母の双方がロシア国籍である場合に限って,子が出生によって生来的にロシア国籍を取得するという制度を採用していたということになるが,このような結論は,同法が出生による国籍取得について,父又は母のいずれか一方が国民であれば出生した子は出生によって生来的に国籍を 取得するという父母両系血統主義を採用していたということと両立し得ない。 (イ) 被告は,仮に旧ロシア国籍法15条2項前段によるロシア国籍の取得が出生時に国籍を取得するものと解し得たとしても,同項に基づく父母の合意文書の提出は,国籍法11条1項における「自己の志望による」 外国の国籍の取得に該当する旨主張する。 しかしながら,国籍法11条1項の要件充足の有無を画する「志望取得」と「当然取得」は,いずれも国籍の後発的取得に関する分類概念であるのに対し,「生来的取得」はこれらの上位概念である「後発的取得」に対応するものであって,これらのいずれにも含まれるものではない。 被告の主張は,生来的な国籍の取得のうち出生時に確定的に国籍を取得するものと,出生時の国籍の取得が不確定であり,その後の意思行為によっ ものであって,これらのいずれにも含まれるものではない。 被告の主張は,生来的な国籍の取得のうち出生時に確定的に国籍を取得するものと,出生時の国籍の取得が不確定であり,その後の意思行為によって国籍の取得が確定的となるものとを区別し,前者が「当然取得」に,後者が「志望取得」にそれぞれ含まれるものとするものであり,独自の見解である上に概念の混乱を来しており,それ自体明らかに失当で ある。 また,被告の主張によれば,我が国の国籍法2条1号及び2号による日本国籍の取得は,「当然取得」に該当することになるが,他方,同条1号及び2号を前提としつつ,生来的な日本国籍の取得を制限する規定と解釈されている同法12条は,被告の上記主張によれば,出生により外国の国籍を取得した日本国民であって国外で出生した者は,生来的に日 本国籍を取得するものの,国籍留保の意思表示がされるまではその日本国籍の取得は不確定なものであり,国籍留保の意思表示がされたときに日本国籍は確定的なものとなる,ということになる。そうすると,同条は,同法2条1号及び2号とは別個の日本国籍の「志望取得」の規定であることになるが,これは従前の被告の理解に反するものであり,被告 の主張には矛盾がある。 さらに,旧ロシア国籍法15条2項後段が適用される場面では,単に出生から1年が経過した事実が存在するのみで,被告が「ロシア国籍の取得に向けた意思行為」と表現する行為は存在しないから,被告の主張を前提としても,この規定を「志望取得」の規定とみることは不可能で ある。他方で,同項後段の場合には,出生から1年を経過した事実があるのみで,婚姻,養子縁組,親の帰化など,通常当然取得の根拠とされる事実は存在しないから,これを「当然取得」ということも困難である。 そうすると で,同項後段の場合には,出生から1年を経過した事実があるのみで,婚姻,養子縁組,親の帰化など,通常当然取得の根拠とされる事実は存在しないから,これを「当然取得」ということも困難である。 そうすると,同項前段及び後段を共に後発的取得の規定であるとする被告の主張によれば,同項後段の性質について説明がつかなくなる。そも そも同項後段は,ロシア人と外国人との子がロシア国内で出生した場合について,1年以内に父母の合意文書を提出しなくともロシア国籍の取得を認めるというものであるから,出生後1年間ロシア国籍を付与せず,1年を経過した時点で初めてロシア国籍を付与するという扱いをする必要はないことからも,同項前段及び後段を後発的取得の規定とする被告 の主張に合理性はない。 ウ(ア) 仮に,旧ロシア国籍法15条2項前段の解釈が被告の主張するとおりのものであったとしても,血統に起因する国外在住の自国民の無制限な増大を防止するために,国外出生児の自国籍の取得に一定の制限をかけようとする法制度は多くの国の国籍法制に存在するのであり,その際には国籍の存否を本人の国籍保有の意思に係らしめている例が多い。出 生時に国籍を取得し,意思行為により国籍の保有が確定するものか,出生時には国籍を取得せず,意思行為により国籍を取得するかは,技術的な違いにすぎず,制度の本質的な要素でないのみならず,国によっては明確な区別をしてない。これらのことからすれば,旧ロシア国籍法15条2項前段について,当該規定がたまたま志望取得の性質を有する手続 であったことを理由に国籍法11条1項を適用して日本国籍を喪失したとすることは,不合理というべきである。 (イ)a また,旧ロシア国籍法15条2項前段の父母の合意文書の提出は,父母が子の法定代理人として行うもの 由に国籍法11条1項を適用して日本国籍を喪失したとすることは,不合理というべきである。 (イ)a また,旧ロシア国籍法15条2項前段の父母の合意文書の提出は,父母が子の法定代理人として行うものではなく,固有の権能として行うものであり,かかる父母の行為に対し,法が認めた効果として子に ロシア国籍が付与されるものである。したがって,これを「法定代理人による外国の国籍の志望取得」の場面とみることはできないから,同項前段によるロシア国籍の取得について,国籍法11条1項を適用することはできない。 b 国籍法18条は,国籍の取得の届出,帰化の許可の申請,選択の宣 言及び国籍離脱の届出は,本人が15歳未満であるときは法定代理人が代わって行うものと規定する。これは,国籍の得喪に関する意思表示は,本人の法的な身分や地位に重要な変更を及ぼす行為であるから,本来は代理になじまず,本人のみがなし得る行為であるが,意思無能力者がこれらの行為を一切行い得ないとすると不都合な事態も生じる ことから,15歳未満の者についてはこれらの行為を法定代理人がな し得るとしたものである。民法に親権に関する規定が存在するにもかかわらず,国籍法がかかる規定を設けた趣旨を考えるならば,むしろ,同法は18条に規定されていない国籍の変動を法定代理人の行為によって生じさせることを予定していないと解するのが正当である。 したがって,法定代理人が未成年に代わって外国の国籍の志望取得 の手続を行い,未成年が外国の国籍を取得しても,当該法定代理人による行為は,国籍法11条1項の適用において未成年者本人による外国の国籍の取得行為と同一に評価することは許されず,これによって未成年者の国籍を喪失させることは許されないから,父母の合意文書の提出を原因とする旧ロシア 11条1項の適用において未成年者本人による外国の国籍の取得行為と同一に評価することは許されず,これによって未成年者の国籍を喪失させることは許されないから,父母の合意文書の提出を原因とする旧ロシア国籍法15条2項前段によるロシア国籍 の取得を理由に,国籍法11条1項によって日本国籍を喪失したとすることは許されない。 (2) 争点(2)(原告が国籍法11条1項に該当するか否か)について(被告の主張)ア(ア) 国籍法11条1項は,国籍変更の自由を保障しつつ,重国籍の弊害 を踏まえ,重国籍発生の防止を趣旨とする規定であり,同項の「自己の志望によって」とは,国籍変更の自由を保障する趣旨である。そして,「自己の志望によって」外国の国籍を取得した者については,国籍変更の自由を保障している以上,重国籍発生の防止の見地から,同項により,その反射的効果として日本国籍を失うとしたものである。 (イ) 以上を前提とすると,国籍法11条1項の「自己の志望によって」とは,帰化による外国の国籍の取得に限られず,国籍の回復,届出による国籍取得,国籍申告等,その名称いかんにかかわらず,本人の外国の国籍取得を希望する意思行為に基づき,直接外国の国籍を取得するものを広く指し,「外国の国籍を取得したとき」とは,外国の国籍を有効に取 得することが必要であり,外国の国籍が有効に取得されたかどうかは, その外国の法律によって決定される。そして,通常,外国の国籍を有効に取得するには,外国の国籍を取得する意思が必要であり,既に当該外国の国籍を取得している者については,重ねてこれを取得する意思を有することはないから,上記外国の国籍を取得する意思とは,新たに外国の国籍を取得する意思のことをいう。抵抗し難い程度の強迫を受けて帰 国籍を取得している者については,重ねてこれを取得する意思を有することはないから,上記外国の国籍を取得する意思とは,新たに外国の国籍を取得する意思のことをいう。抵抗し難い程度の強迫を受けて帰 化の申請をした場合のように,実質上外国の国籍の取得が自己の意思に基づくものと認め難い場合であっても,通常,当該外国政府によって当該外国の国籍を有効に取得したことが認められれば,新たに外国の国籍を取得する意思を有していたものと認められるから,特段の事情のない限り,「外国の国籍を取得したとき」には該当する。しかしながら,かか る場合には,「自己の志望によって」に該当するとはいえないので,国籍法11条1項の要件を充足せず,当該外国の国籍取得の反射的効果として日本国籍を喪失しないのであり,「自己の志望によって」とは,身分行為に伴う当然取得を除外するほか,実質上外国の国籍の取得が自己の意思に基づくものと認め難い場合を排除するものであって,我が国の意思 表示の理論と同様のものではない。これに対し,仮に強迫等を理由として,当該外国政府によって当該外国の国籍の取得が取り消されたような場合には,そもそも「外国の国籍を取得したとき」との要件を充足しないから,当然,日本国籍を喪失することもない。 したがって,単なる外国の国籍を取得する意思の有無については,「自 己の志望によって」の要件充足性の問題ではなく,「外国の国籍を取得したとき」の要件充足性の問題として位置付けられるが,通常,外国の国籍を取得する意思が欠けていたのであれば,そもそも有効に外国の国籍を取得することもなく,外国の国籍取得の反射的効果として日本国籍を喪失することもないので,「外国の国籍を取得したとき」の要件を充足す るには,新たに外国の国籍を取得する意思が必要であ 国の国籍を取得することもなく,外国の国籍取得の反射的効果として日本国籍を喪失することもないので,「外国の国籍を取得したとき」の要件を充足す るには,新たに外国の国籍を取得する意思が必要であるものの,当該外 国の法律上,有効に当該外国の国籍を取得した事実があるときは,通常,新たに外国の国籍を取得する意思があるというべきであるから,特段の事情がない限り,新たに外国の国籍を取得する意思があるものと認められるというべきである。 (ウ) 仮に,このような行政の取扱いを許さないとすれば,日本政府とし ては,真に外国の国籍を取得する意思があったか否かにつき逐一実質的な調査をしなければ国籍法11条1項に該当する者であるか否かにつき判断ができないことになり,事務に著しい支障が生じ,また,自ら外国の国籍の取得手続を行い,外国の国籍を取得しておきながら,後になって外国の国籍の取得の意思はなかったと主張するだけで,同項の適用を 容易に免れることが可能となり,重国籍防止という同項の趣旨が全く没却されてしまうのであるから,極めて不合理である。 イ原告父母は,2001年(平成13年)▲月▲日,そろってロシア大使館に赴き,「ロシア国籍を所有している旨の手続を希望いたします。」旨明記されたロシア国籍関連手続書類に所定事項を記入して提出するなどの手 続をし,その結果,旧ロシア国籍法15条2項により,原告が同日ロシア国籍を取得した旨が記載された本件証明書を受領しているのであるから,当該手続をもって,ロシア官憲により,原告がロシア国籍を取得しているものと取り扱われていることは明らかであり,原告父母がロシア大使館において,合意文書を提出するなどの手続を行ったことにより,同項前段に よりロシア国籍を「新たに」取得したものと認められ ているものと取り扱われていることは明らかであり,原告父母がロシア大使館において,合意文書を提出するなどの手続を行ったことにより,同項前段に よりロシア国籍を「新たに」取得したものと認められる。したがって,原告父母には,原告に新たにロシア国籍を取得させる意思があったというべきであるから,原告のロシア国籍取得の意思の存在を否定すべき特段の事情は認められず,原告について,「新たにロシア国籍を取得する意思」があったことは明らかである。そうすると,原告は,国籍法11条1項の「自 己の志望によって」との要件を充足し,同項に該当する。 ウ(ア) これに対し,原告は,原告父母は,原告が生来的にロシア国籍を有すると認識しており,ロシア大使館で行った手続は,ロシア国籍の存在確認のため,あるいはロシア国籍を留保するためのものであると認識していたのであるから,原告にロシア国籍を志望取得させる意思など全くなかったのであり,国籍法11条1項の「自己の志望によって」という 要件を充足しない旨主張する。 (イ) 原告父母は,日本において出生した原告について,ロシア人である母の子であるから,当然に生来的にロシア国籍を取得したと認識していた旨供述するが,その供述する理由をみても,外国で出生した子についても当然に血統主義により生来的にロシア国籍を取得すると認識してい たことに合理的な根拠はない。仮に,原告父母において漠然と原告が生来的にロシア国籍を有するとの認識を抱いていたとしても,以下で指摘するような原告父母のロシア大使館における手続の状況や本件証明書に係る認識からすると,「新たにロシア国籍を取得する意思」がなかったとは到底いえない。 すなわち,ロシア大使館における手続において,原告母は,当初,自己の国内用パ 状況や本件証明書に係る認識からすると,「新たにロシア国籍を取得する意思」がなかったとは到底いえない。 すなわち,ロシア大使館における手続において,原告母は,当初,自己の国内用パスポートに原告を記載するものであると思っていたものの,実際に訪問した際にロシア大使館の職員から説明を受け,手続をしなければ使えないロシア国籍を使えるようにするという意思をもって手続をしたものである。そして,当時記載した申請書については,ロシア 国籍に関する手続を希望する旨の記載があったことを明確に認識していたのであるから,原告母は,当該手続が単なる出生登録ではなく,原告のロシア国籍に関する手続であることを認識していたことは明らかである。一方,原告父は,ロシア大使館における手続において,ロシア語で記載された文書の内容が不明であったにもかかわらず,大使館職員に何 のための書類であるかを何ら確認することなくサインしているところ, 当該手続について,ロシア国籍を残すとか,そのための手続であるというような認識でいたというのであるから,サインした書類に係る手続が,単なる出生登録のようなものではなく,原告のロシア国籍に関する手続であることを認識していたことは明らかである。さらに,原告父母は,旧ロシア国籍法15条2項により,原告が原告父母のロシア大使館での 手続の日である2001年(平成13年)▲月▲日にロシア国籍を取得した旨が記載された本件証明書を受領したが,ロシア国籍の取得日として記載された日付について特に疑問を持つことはなかった旨供述するところ,仮に原告が生来的にロシア国籍を取得していたのであれば,出生日をもってロシア国籍を取得することが記載されるはずであり,当該記 載に何ら疑問を抱かなかったのは不自然である。 さらに るところ,仮に原告が生来的にロシア国籍を取得していたのであれば,出生日をもってロシア国籍を取得することが記載されるはずであり,当該記 載に何ら疑問を抱かなかったのは不自然である。 さらに,仮に原告父母の認識が原告の主張するようなものであったとしても,旧ロシア国籍法15条2項の規定の存在の不知にすぎないのであり,かかる認識であったことをもって,原告のロシア国籍取得の意思の存在を否定すべき特段の事情があったということはできない。 (ウ) そうすると,原告父母において,原告にロシア国籍を取得させることについて,抵抗し難い程度の強迫を受けるなど,実質上原告父母の意思に基づくものと認め難いといえるような事情は何ら存しないというほかなく,原告が国籍法11条1項の「自己の志望によって」の要件を充足することは明らかである。 エなお,原告は,日本国内に生活の本拠を有し,居住している者について,国籍法11条1項の適用の基礎を欠き,あるいは外国の国籍を取得する意思を推認することが誤りである旨主張する。 しかしながら,外国の国籍を取得する意思の表示については,当該外国の権限ある当局に対してするものであって,当該外国の法律上,申請によ り有効に当該外国の国籍を取得した者に対して,国籍法11条1項の適用 に当たり,現に日本国内に生活の本拠を有し,居住している場合等を考慮することは全く予定されておらず,原告の主張は条文解釈を超えた独自の見解である。また,「現に日本国内に生活の本拠を有し居住している場合」が,実質上外国の国籍の取得が本人の意思に基づくものと認めることができないような,真にやむを得ない特段の事情に該当するとは到底考えられ ない。 (原告の主張)ア(ア) 国籍法11条1項が設け 外国の国籍の取得が本人の意思に基づくものと認めることができないような,真にやむを得ない特段の事情に該当するとは到底考えられ ない。 (原告の主張)ア(ア) 国籍法11条1項が設けられた目的の一つは,外国が,国籍の志望取得手続において,事前又は国籍取得と同時に従前の国籍を喪失することという厳格な原国籍離脱要件を課している場合に,これを充足するこ とによって本人の国籍離脱の自由を保障するという点にある。同項は,日本国籍のみを有する者の国籍離脱の自由を保障することを内容としており,本人が外国の国籍を取得する意思を有することは,その本質的な内容のはずである。そうすると,外国の国籍を取得する意思は,上記の立法目的との関係では,同項の本質的要素であり,「自己の志望によって」 の要件の要素として位置付けられるべきものである。 (イ) また,国籍法は,重国籍の防止・解消を一つの理念としているが,重国籍の防止・解消の制度における本人の意思の取扱いをみるならば,同法は,日本国籍を取得する,あるいは外国の国籍を取得又は選択するという本人の意思に,外国の国籍の離脱を求め,あるいは日本国籍を喪 失させることを許容する根拠を見いだそうとするものと理解することができる。 そうすると,国籍法11条1項は,外国の国籍を積極的に取得しようとする本人の意思を許容性のよりどころとして,重国籍発生防止のために日本国籍を喪失させるものと理解すべきであるから,外国の国籍を取 得する意思は同項適用の要件とされることが不可欠であり,同要件は「自 己の志望によって」の不可欠の要素と理解されるべきである。 (ウ) したがって,国籍法11条1項の「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」とは,本人の自由意志に基づき真に志望 己の志望によって」の不可欠の要素と理解されるべきである。 (ウ) したがって,国籍法11条1項の「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」とは,本人の自由意志に基づき真に志望取得の意思をもって外国の国籍の取得手続を行うことを指すものであるところ,「外国の国籍を取得したとき」に該当するか否かは,当該外国の法制に依拠し て判断されるが,「自己の志望によって」に該当するか否かの判断は,当該外国の法制に基づく国籍取得の成否とは別の問題であり,当該外国の国籍取得の行為に意思の瑕疵があった場合は,たとえ当該外国がその意思の瑕疵にかかわらず本人に対し国籍を付与する場合であっても,「自己の志望によって」の要件を充足しない。 (エ) なお,被告は,新たに外国の国籍を取得する意思の有無について,外国官憲の認定に依拠すべきである旨主張する。 しかしながら,かかる被告の主張は,国籍法11条1項に関して被告に課せられた立証責任は重荷であるから,これを国民の側に転嫁したいというにすぎず,誤りである。また,本人が志望取得の手続によって, 外国の国籍を取得したとしても,その手続の際に,当該外国政府が「外国の国籍取得の意思」を積極的に認定しているとは限らず,「外国政府が外国の国籍の取得の意思について既に認定しているから,改めて日本側においてその意思を認定する必要はない」との考え方に合理的な根拠はない。加えて,外形的には志望取得の手続によって外国の国籍を取得 したが,実態としては外国の国籍の取得の意思がなかったという場合に,そのことを理由に,当該外国の国籍の取得の取消し又は撤回ができるか否かは,当該外国の法制度次第であり,外国の国籍を取得する意思がなかったのであればその取得を取り消し,又は撤回すればよいとはいえず ,そのことを理由に,当該外国の国籍の取得の取消し又は撤回ができるか否かは,当該外国の法制度次第であり,外国の国籍を取得する意思がなかったのであればその取得を取り消し,又は撤回すればよいとはいえず,また,当該外国政府が国籍の取得の取消し又は撤回を認めないか らといって,当該外国の国籍を取得する際に本人が外国の国籍の取得の 意思を有していたことを推認する根拠とはならない。したがって,被告の主張は理由がない。 イ(ア) 原告母は,原告が生来的にロシア国籍を有していると認識しており,ロシア大使館に行ったのも国内用パスポートに原告を記載するためであった。そして,原告母がロシア大使館で記入した書類は,「ロシア国籍が 存在している手続をお願いいたします。」「出生により」という記載があるもので,ロシア国籍の取得を希望する意思が表示されたものではなく,原告が生来的にロシア国籍を有しているという原告母の認識に揺らぎはなかったから,原告母は,原告のロシア国籍の存在確認の手続をしたという認識であった。 したがって,原告母は,ロシア大使館での手続によって原告にロシア国籍を志望取得させる意思など全くなかったのであるから,原告は,国籍法11条1項の「自己の志望によって」という要件を充足しない。 (イ) 原告父は,手引書を読んで母親がロシア人である原告が生来的にロシア国籍を有すると認識しており,原告母にロシア大使館に連絡を取ら せたのも,ロシア国籍を留保するために何らかの手続が必要ではないかと考えたからであった。そして,原告父は,ロシア大使館において,ロシア語で書かれた書類に,内容を理解できず,説明もないまま,サインをしたが,その際も,原告のロシア国籍を留保するための手続をするものであると認識していた。原告 て,原告父は,ロシア大使館において,ロシア語で書かれた書類に,内容を理解できず,説明もないまま,サインをしたが,その際も,原告のロシア国籍を留保するための手続をするものであると認識していた。原告父には,原告にロシア国籍を志望取得さ せる意思など全くなかったのであるから,この点からも,原告は,国籍法11条1項の「自己の志望によって」という要件を何ら充足しない。 (ウ) また,本人が未成年であるために親権者が外国の国籍の取得手続を行う場合について,国籍法11条1項による国籍喪失の効果が生じるためには,その親権者について「自己の志望によって」という要件を充足 する必要があり,我が国においては,父母が親権者である場合,親権は 共同して行使すべきものであるところ,原告のロシア国籍の取得は,親権の共同行使によってされたものではなく,この点からも,原告は同項の要件を充足しない。 ウ 「自己の志望によって」外国の国籍を取得した場合には,国籍法11条1項により日本国籍を喪失するが,いわゆる当然取得の場合には,同項は 適用されず,日本国籍を喪失しない。かかる取扱いの区別の根拠として,自らの意思で外国の国籍を取得した者は,その国に帰属することを自ら希望したものであるから,もはや日本への忠誠を期待し得ず,日本国籍を存続させる実益がないとの見解が示されることがある。 しかしながら,現に日本に生活の本拠を有して居住しており,今後も日 本国内に生活基盤を有して生計を維持し,人生を送ることが見込まれる者について,日本から離脱し,国籍を取得した外国に帰属することを希望する旨の意思を示したものとみなすのは誤りである。したがって,志望取得の手続によって外国の国籍を取得した者が,現に日本国内に生活の本拠を有し居住している場合には,国籍法1 た外国に帰属することを希望する旨の意思を示したものとみなすのは誤りである。したがって,志望取得の手続によって外国の国籍を取得した者が,現に日本国内に生活の本拠を有し居住している場合には,国籍法11条1項の適用の基礎を欠くものと して,その適用を否定すべきである。そうでないとしても,少なくとも,同人について,外国の国籍を取得する意思があったと推認することは不合理であり,その者に外国の国籍を取得する意思があったことを日本政府の側が積極的に立証しなければならないというべきである。 原告の両親は日本に在住しており,日本国民である原告父の収入によっ て日本で生計を維持しているところ,原告は日本で出生し,日本で父母の庇護養育の下に生活を続け,日本語を母語とし,一貫して日本の教育を受けているのであって,原告の父母が原告を日本に帰属させる意思がなかった,あるいは日本に居住しながら原告をロシアに帰属させることを希望したと考えることは不合理である。したがって,原告について,国籍法11 条1項を適用すること自体が不合理であり,少なくとも,被告において, 原告の父母が原告にロシア国籍を取得させる意思を有していたことを積極的かつ具体的に主張立証すべきであるが,そのような主張立証はされていないから,原告は日本国籍を喪失していない。 (3) 争点(3)(国籍法11条1項が憲法10条,13条及び22条2項に違反するか否か)について (原告の主張)ア日本国籍の剥奪が制約される根拠(ア) 国民主権原理及びそれに基づく代表民主制の原理からの制約日本国籍は,日本国の統治者たる主権者としての資格を意味する。そして,憲法の国民主権原理は,全ての国民に選挙を通じた国政への参加 を固有の権利として保障し,国民主権原理及びこれ 理からの制約日本国籍は,日本国の統治者たる主権者としての資格を意味する。そして,憲法の国民主権原理は,全ての国民に選挙を通じた国政への参加 を固有の権利として保障し,国民主権原理及びこれに基づく代表民主制の原理は,全ての国民が代表民主制の過程に参加し続けられることを統治機構の在り方に関する最も根本的な要請として求めている。国民から日本国籍を剥奪することは,主権者としての資格を奪い,代表民主制の過程から追放するものであり,このような事態をもたらす日本国籍の剥 奪は,憲法が拠って立つ正統性の淵源を損ない,憲法が定める国民主権原理及び代表民主制の原理に基づく統治の在り方に関する最も根本的な要請に反するものであって,原則として許されない。したがって,日本国籍の剥奪を定める法律は,国民主権原理及びそれに基づく代表民主制の原理に反して憲法10条の委任の範囲を逸脱し,違憲であると推定さ れる。 (イ) 基本的人権尊重原理からの制約基本的人権尊重原理は,日本国憲法制定の目的たる原理である。同原理の実現手段である国民主権原理及びそれに基づく代表民主制の原理は,基本的人権が保障されてこそ有効に機能し,憲法が追求する基本的人権 の保障に結実していく。国民から日本国籍を剥奪することは,基本的人 権の保障の土台を根こそぎ奪い,日本国籍に結び付いた権利及び自由とそれらの保障を包括的かつ全面的に失わせるものであり,日本国憲法制定の目的の否定ともいえる行為である。したがって,日本国籍の剥奪を定める法律は,基本的人権尊重原理に反して憲法10条の委任の範囲を逸脱し,違憲であると推定される。 (ウ) 「個人の尊重」原理からの制約「個人の尊重」原理(憲法13条)は,立憲主義及び基本的人権保障の基盤であり,全法秩序 て憲法10条の委任の範囲を逸脱し,違憲であると推定される。 (ウ) 「個人の尊重」原理からの制約「個人の尊重」原理(憲法13条)は,立憲主義及び基本的人権保障の基盤であり,全法秩序の指針となる憲法の根本原理である。同原理は,国民一人一人の存在の唯一性,代替不能性及び自己同一性を承認した上で,各人が自認する自己の存在意義や生きる目的(アイデンティティと 人格権)を尊重し,各人が自己にとって重要な事項について自由に決定すること(自己決定権の行使)や,各人が自己の存在意義や生きる目的の実現のために自由に活動すること(幸福追求権の行使)を最大限尊重することを求めている。 国籍は,個人にとって容易に切り捨てることのできない祖国との紐帯 であって,アイデンティティの重要な一部,人格権の重要な要素にほかならず,日本国籍の剥奪は,「個人の尊重」原理に反してアイデンティティや人格権,日本国籍の離脱に関する自己決定権,幸福追求権を侵害するものであり,原則として許されない。したがって,日本国籍の剥奪を定める法律は,憲法の根本原理たる「個人の尊重」原理に反して憲法 10条の委任の範囲を逸脱し,違憲であると推定される。 (エ) 憲法22条2項からの制約憲法22条2項は,国籍離脱の自由を保障するところ,その根底には,国籍の得喪に関する個人の自由意思を尊重すべきであるとする国籍自由の原則があるから,同項は,日本国籍を離脱する自由を保障すると同時 に,日本国籍の離脱を強制されないこと,すなわち,日本国籍を離脱し ない自由を原則として無制限に保障している。本人の意思に反して日本国籍を剥奪することは,日本国籍を離脱しない自由を直接に侵害することにほかならないから,日本国籍の剥奪を定める法律は,同項に違反して違憲 自由を原則として無制限に保障している。本人の意思に反して日本国籍を剥奪することは,日本国籍を離脱しない自由を直接に侵害することにほかならないから,日本国籍の剥奪を定める法律は,同項に違反して違憲であると推定される。 イ日本国籍を剥奪する立法の合憲性審査基準 上記アのとおり,日本国籍を剥奪する法律には違憲の推定が働くというべきであるから,その法律が合憲であるかどうかは,単に幾つかの基本的人権を侵害する法律の合憲性を審査する場合に比して,一層厳格に審査されなければならない。具体的には,①立法目的が正当であって国民から日本国籍を剥奪してでも追求すべき重要な利益を促進するものでなければな らず,②手段は目的達成のために必要最小限でなければならない。この手段の審査に当たっては,⒜日本国籍の剥奪という手段が立法目的を実際に促進するか,⒝日本国籍の剥奪以外に立法目的を達成する手段がないか,⒞立法目的との関係で手段(日本国籍剥奪の対象)が不足していないか(過小包摂),あるいは過剰ではないか(過大包摂)が重要な要素となる。 ウ 「国籍変更の自由の保障」という立法目的及びこれを達成する手段について(ア) 立法目的について被告は,国籍法11条1項の立法目的に国籍変更の自由の保障が含まれるとするが,誤りである。同項は,明治32年に制定された旧国籍法 (同年法律第66号。以下,単に「旧国籍法」という。)20条の規定をそのまま引き継いだものであるが,立法者から同条の立法趣旨に国籍変更の自由の保障が含まれるという説明がされた事実はなく,仮にこれを後に発見・提唱された同条の効用・機能としてみたとしても,それは旧国籍法が一般的に日本国籍の離脱を認めていなかったからこそ有用性 を発揮するものであった。現行の国籍法11条1項 く,仮にこれを後に発見・提唱された同条の効用・機能としてみたとしても,それは旧国籍法が一般的に日本国籍の離脱を認めていなかったからこそ有用性 を発揮するものであった。現行の国籍法11条1項の規定は,昭和25 年に現行の国籍法が制定された際に,国籍変更の自由を保障するという機能があるか否かについて吟味検討がされないまま,漫然と旧国籍法20条を引き継いだものであり(当時は8条),昭和59年法律第45号による国籍法の改正(以下「昭和59年国籍法改正」という。)の際にも何ら吟味検討がされないまま同一の文言で11条1項として存続した ものである。したがって,同項の立法目的に国籍変更の自由の保障を含むとする見解は,現行国籍法下においては成り立ち得ない。 以上のような立法の沿革はおくとしても,国籍法11条1項が国籍変更の自由を保障する効用・機能を有するのは,①本人が日本国籍を離脱し外国の国籍を取得することを希望する場合であること,②当該外国の 国籍法制において国籍取得と同時に原国籍を離脱することを要件としていること,③国籍取得と同時に原国籍の離脱ができない場合は原国籍を離脱しないで国籍取得を認める旨の救済規定が存在しないことという条件が全て揃った場合に限定されるところ,このような限定された効用・機能を維持するために同項を存続させる必要性は,何ら検証されていな い。 (イ) 立法目的を達成する手段について仮に,国籍法11条1項の立法目的に国籍変更の自由の保障が含まれるとしても,同項は,上記(ア)①から③までの要件を満たさない原告からも日本国籍を剥奪する。つまり,同項は,日本国籍の離脱を望まない 者の日本国籍を剥奪して日本国籍の離脱を強制する点で,日本国籍の剥奪の対象が明らかに過大包摂である。また,立法技術 ない原告からも日本国籍を剥奪する。つまり,同項は,日本国籍の離脱を望まない 者の日本国籍を剥奪して日本国籍の離脱を強制する点で,日本国籍の剥奪の対象が明らかに過大包摂である。また,立法技術上,外国の国籍を自己の志望によって取得した者のうち,上記(ア)①から③までの条件の全てを満たす者についてのみ,外国の国籍取得と同時に日本国籍を失うという立法をすることは容易である。 エ 「複数国籍防止」という立法目的及びこれを達成する手段について (ア) 立法目的についてa 複数国籍の発生防止自体は,憲法から導かれる要請ではない。被告は,国籍唯一の原則は国籍の存在意義から当然に導かれる原理として国際的に承認されてきたなどと主張するが,どのような者に国籍を与えるかはその国の対人主権の行使にかかわる事項であって他国が介 入することは許されないという原則(主権尊重の原則又は国内管轄の原則)からすれば,むしろ複数国籍の発生は避けられない事態である。 そして,ヨーロッパ諸国のように比較的広く複数国籍を肯定する国もあれば,中華人民共和国のように明文規定をもって複数国籍を禁止する国も存在しており,各国の国籍法制は多様である。複数国籍の防止 が国籍概念の本質から生じる普遍的な要請であるとする被告の主張は誤りであって,複数国籍を防止解消する必要性は各国が置かれた状況によって異なるものである。 b 被告が挙げる我が国における複数国籍の弊害は,以下のとおり,全く根拠がないか,弊害のおそれがあったとしても抽象的・観念的なも のにとどまる。 (a) 外交保護権の衝突について外交保護権の衝突は,①国籍国同士が互いに相手国に対し外交保護権を主張する場合と,②国籍国の一方が第三国に対し外交保護権を主張した場合であって,当該第三国 る。 (a) 外交保護権の衝突について外交保護権の衝突は,①国籍国同士が互いに相手国に対し外交保護権を主張する場合と,②国籍国の一方が第三国に対し外交保護権を主張した場合であって,当該第三国はその国を本人の帰属国とし て扱ってよいかが問題となる場合の二つがある。しかしながら,①については,国籍法抵触条約4条が相互に外交保護権を行使できないと定めており,これが国際慣習法化している。②については,「実効的国籍の原則」が国際慣習法となっている。日本がこれらの国際慣習法を無視することは現実的に不可能又は著しく困難であるから, 複数国籍を理由とする外交保護権が衝突する現実的具体的な危険性 はない。 ⒝ 兵役義務の抵触について徴兵制度を持たない日本と外国との間で,兵役義務の衝突が生じる余地はない。日本が兵役義務を有する外国に対して自衛権を行使せざるを得ない事態になったときに,複数国籍者は,日本の方針に 従って当該外国の兵役を拒否するか,当該外国の方針に従ってその兵役義務を履行するかの選択を余儀なくされるというジレンマに立たされるが,これは複数国籍によって生じるものではなく,両国に対する帰属意識によって生じるのであり,本人の選択によって解決が図られるべき問題にすぎない。 ⒞ 納税義務の抵触について納税義務は国籍から自動的に発生するものではなく,法律により誰にどのような基準で賦課するかを定めることによって,初めて具体的な納税義務が発生する。したがって,複数国籍であるが故に当然に納税義務に抵触が生じるものではない。また,日本の税制にお いては国籍を基準に課税する制度は存在せず,そのような議論も現時点では存在しない。 ⒟ 適正な入国管理の阻害について外国の国籍を有する者に対する出入国管理と い。また,日本の税制にお いては国籍を基準に課税する制度は存在せず,そのような議論も現時点では存在しない。 ⒟ 適正な入国管理の阻害について外国の国籍を有する者に対する出入国管理と日本国籍を有する者に対する出入国管理はその内容を異にしており,日本国民について は居住移転の自由及び出入国の自由が保障されている以上,日本国民に対する入国管理とは,出国及び入国の事実の確認並びに有効な旅券の所持の確認にとどまるのであって,そもそも複数国籍者の出入国について人物の同一性を確認することは予定されていない。複数国籍者が日本の旅券を提示して入国し,入国管理官署において入 国の事実と旅券の有効性を確認する限り,日本国民に対する適正な 入国管理が阻害されるという事態は生じない。 (e) 重婚の発生について戸籍制度を有する日本において重婚が発生するのは,外国で成立した婚姻が速やかに日本人当事者の本籍地に届けられず,戸籍に婚姻が記載されていない状態が利用された場合である。このような事 態は,当該本人が日本国籍のみを有する場合であっても生じるのであり,複数国籍と重婚の発生とは無関係である。 ⒡ 単一国籍者が得られない利益を享受する者の発生について複数国籍者が日本国民としての権利利益を保障されるのは日本の法制度によるものであり,他方,外国の国籍国において国民として の権利利益を保障されるのもその国の法制度によるものである。複数国籍者は,それぞれの国において提供される便益を享受するとともに,それぞれの国において課される義務を負担するのであり,単一の国籍のみを有する者と異なるのは当然であるが,それだけのことであり,何ら弊害があるものではない。 c 上記bのとおり,被告の挙げる複数国籍の弊害 おいて課される義務を負担するのであり,単一の国籍のみを有する者と異なるのは当然であるが,それだけのことであり,何ら弊害があるものではない。 c 上記bのとおり,被告の挙げる複数国籍の弊害はせいぜい抽象的・観念的なものにとどまるのに対して,国籍法11条1項による日本国籍の剥奪が憲法の要請する統治の在り方及び原告個人の具体的な人権保障に与える損害は,著しく甚大で確実に生じるものである。したがって,複数国籍の発生防止という同項の立法目的は,憲法が原則とし て禁止する日本国籍の剥奪という手段を用いてまで求めるべき重要な利益を促進するものであるとは到底いえない。 (イ) 立法目的を達成する手段についてa 前記(ア)bのとおり,被告が挙げる複数国籍の弊害とされる現象は,現実に発生する可能性がない又は低いか,発生するとしても複数国籍 が原因ではないから,改めて防止策を採る必要がないか,あるいは複 数国籍の発生の防止以外の方法によって防止することができる。 b 国籍法の採用している立法政策についてみると,同法は,血統に起因する場合を中心に複数国籍の発生を広く認めている一方,複数国籍の発生を防止する制度については,同法5条2項が帰化における原国籍離脱要件の例外規定を置いているほか,同法12条が国籍留保の意 思表示をすれば日本国籍を保持することを許容しているのであるから,複数国籍の発生防止を徹底しているとはいえない。また,一旦発生した複数国籍を解消する制度については,同法11条2項,13条,14条,15条及び16条が存在するが,基本的に本人の意思に基づいて複数国籍の解消を行うものとしており,唯一の例外である選択催告 (同法15条)についてはこれまで適用された事例はない。このように,我が国の国籍法は,複数国籍 るが,基本的に本人の意思に基づいて複数国籍の解消を行うものとしており,唯一の例外である選択催告 (同法15条)についてはこれまで適用された事例はない。このように,我が国の国籍法は,複数国籍の発生の解消について,本人の意思を尊重するという制度設計を採用しているのに対し,同法11条1項に限っては,本人の意思にかかわらず,即時かつ自動的に日本国籍を失わせることとしており,同法全体の立法政策とは整合しない。 そして,複数国籍の防止という立法目的を達成するには,国籍法11条1項より権利侵害的でない手段として国籍離脱制度(同法13条)や国籍選択制度(同法14条)があり,立法目的を達成することのできる代替手段がある。 c 他方で,国籍法11条1項によって複数国籍の発生を防止すること ができるのは,外国の国籍の志望取得の場合のみであり,出生,日本への帰化及び外国の国籍の当然取得により生じる複数国籍を防止することはできない。このように,同項は,立法目的との関係で過小包摂となっており,このことは立法目的の正当性を疑わせるものである。 オ小括 以上によれば,国籍法11条1項の立法目的は,憲法が禁止する日本国 籍の剥奪という手段を取らざるを得ないほど重要な利益を促進するものではなく,また,手段が過小包摂であることから立法目的としての正当性が疑わしい。手段については,日本国籍の離脱を望まない者の日本国籍を剥奪せずに立法目的を達成できる代替手段があり,かつ過小包摂であるから,同項の採用する手段は,その立法目的達成のための必要最小限の手段とい うこともできない。したがって,同項は,昭和25年の立法当初から,憲法10条の委任の範囲を逸脱し,憲法13条及び22条2項に違反するものであって違憲,無効である。 また, 要最小限の手段とい うこともできない。したがって,同項は,昭和25年の立法当初から,憲法10条の委任の範囲を逸脱し,憲法13条及び22条2項に違反するものであって違憲,無効である。 また,仮に国籍法11条1項の合理性を支える立法事実が立法時に存在していたとしても,その後,同項に相当する制度を有する国は減少し,平 成9年当時には過半数の国が外国の国籍を志望取得しても原国籍を喪失しないとする制度に移行していた。このような国際的な動向に加えて,複数国籍者の増加の実情,複数国籍の弊害や有益性に関する研究の進展等を踏まえると,同項の合理性を支える立法事実は,遅くとも同年頃までに失われていたというべきである。 カ原告について原告について具体的に検討する限り,これまで主張してきたような議論を要するまでもなく,その日本国籍をその意に反して剥奪されない権利が保障されなければならないことは,議論の余地もない。すなわち,原告は,日本国内で日本人父とロシア人母の嫡出子として出生し,出生と同時に日 本国籍を取得した。原告の出生当時,両親は,日本国内に生活の本拠を有し,原告の出生後も,日本国内で生活することを予定していた。そして,原告は,日本で生活を営み,日本語を母語とし,日本の文化と教育を身に付けて今日に至っている。このような原告について,その日本国籍を剥奪してロシア国籍のみとしなければならない必要性は全くない。また,被告 も未成年者について複数国籍による弊害が顕在化するおそれは少ないこ とを認めており,生後間もない時点でロシア国籍を取得した原告の日本国籍を喪失させる必要性はない。 しかるに,国籍法11条1項の適用においては,これを国外居住者に限定するとか,未成年者について適用をしないという限定解釈を い時点でロシア国籍を取得した原告の日本国籍を喪失させる必要性はない。 しかるに,国籍法11条1項の適用においては,これを国外居住者に限定するとか,未成年者について適用をしないという限定解釈をすることは,その文言及び立法趣旨からして不可能である。したがって,原告に対して 同項を適用することは,何らの必要性もなく原告の日本国籍を喪失させるもので,憲法13条及び22条2項に違反し,違憲,無効である。 (被告の主張)ア日本国籍の離脱を強制されない権利は,憲法13条,22条2項等により保障されてはいないこと (ア) 原告が主張する権利の内実は,重国籍を保持する利益を保有するとの主張にすぎないこと原告の主張を前提とすると,日本国籍を有する者は自己の志望により外国の国籍を取得しても,その意思に反して日本国籍を失わない権利が憲法上保障されていることになる。そうすると,当該外国の国籍に加え て,日本国籍をも保持することになるが,このことは原告の主張する権利の内実が,重国籍を保持する利益であることを示している。 しかしながら,上記のような原告の主張を前提とすると,二つの国籍国のいずれにおいても主権者たる地位を与えられ,旅券の発給を受け,参政権を行使し,居住の権利,出入国の権利が保障され,社会保障を受 け得る地位を取得し,それらの国により外交保護権によって庇護を受けるという立場を取得する利益があるということになるが,このような便益を求める関係は,国籍概念が前提としている国民と国家との結合関係とは余りにもかけ離れたものである。国籍の得喪の問題は,その者と国家との結合関係をどのように把握するかという問題であって,その者が 受けることのできる便益のみを考慮して決まるものではない。 したがって,憲法1 である。国籍の得喪の問題は,その者と国家との結合関係をどのように把握するかという問題であって,その者が 受けることのできる便益のみを考慮して決まるものではない。 したがって,憲法13条又は22条2項が,日本国籍の離脱を強制されない権利,すなわち重国籍を保持する利益を保障しているとの原告の主張は,明らかに前提を欠くものである。 (イ) 日本国憲法は,日本国籍の得喪に関する要件について何ら言及しておらず,この点について広い立法裁量を認めていること 何人を国家の構成員とするのかは国家統治の根幹にかかわる事柄であって,国籍の得喪要件をどのように定めるかは各々の主権国家における自主的な判断に委ねられるのが原則である。現に我が国を始め各国は,その国の歴史的沿革,伝統,社会的・経済的事情,国際社会の状況等の諸般の要因を考慮して国籍の得喪要件を定めているところであり,それ ゆえ,その得喪要件は各国によって異なる。そして,我が国の憲法は,22条2項において国籍離脱の自由を明確に定めるほかは,10条において「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」と規定するにとどめ,国籍の得喪に係る要件の定立を国会による立法事項として,その裁量に委ねている。加えて,憲法22条2項は「国籍を離脱する自由」を 規定するものの,その文理に照らしても,同項が,国籍離脱の自由を超えて,日本国籍を有する者に対して,原告が主張するような日本国籍の離脱を強制されない権利を具体的に保障しているとは解し難い。 以上のとおり,憲法は日本国籍の得喪に係る要件について国会に広い立法裁量を与えているのであるから,原告が主張するような日本国籍の 離脱を強制されない権利が憲法上の権利として保障されているということはできない。 (ウ) 国籍を個人の権利義 いて国会に広い立法裁量を与えているのであるから,原告が主張するような日本国籍の 離脱を強制されない権利が憲法上の権利として保障されているということはできない。 (ウ) 国籍を個人の権利義務の問題としてのみ捉える考え方は誤りであることそもそも国籍の得喪は,個人の側から見た権利義務の問題として捉え れば事足りるというものではなく,国家の側からみて,どのような者に 統治権を及ぼすのが相当であるのかという観点をも考慮して制度が設計されなくてはならない問題である。原告の主張は,国益という観点を欠き,専ら個人の権利義務の問題と捉えるものであって,国籍の意義や性質に反するものである。 (エ) 原告の主張に対する反論 a 原告は,原告の主張する権利の内実は重国籍を保持する利益ではなく,日本国籍を奪われない権利であるなどと主張する。 しかしながら,国籍の得喪を専ら個人の権利義務の問題と捉えることが誤りであることは上記(ウ)のとおりである上に,原告が国籍法11条1項によって日本の国籍を失うのは,外国の国籍を取得したとき であって,同項によって日本国籍を失った結果無国籍となるものではないから,原告が主張する権利の内実は,つまるところ,重国籍を保持する利益にほかならない。加えて,憲法が国籍の得喪に係る要件の定立を国会による立法事項としてその裁量に委ねていることは前記(イ)のとおりであって,原告が主張するような日本国籍の離脱を強制 されない権利が憲法上の権利として保障されているとはいえない。 b 原告は,憲法22条2項は日本国籍を離脱しない自由を保障しているから,本人の意思に反した日本国籍の剥奪は上記自由の侵害であり,同項に違反する旨主張する。 しかしながら,憲法22条2項に定める国籍離脱の自由は,国家の は日本国籍を離脱しない自由を保障しているから,本人の意思に反した日本国籍の剥奪は上記自由の侵害であり,同項に違反する旨主張する。 しかしながら,憲法22条2項に定める国籍離脱の自由は,国家の 構成員たる資格からの離脱を自ら意欲する者に対して,国家があえて引き止めず妨害しないという消極的権利にすぎず,それ以外の国籍の得喪の場面においても本人の意思が尊重されるべきことが憲法上直ちに要請されているとみることはできない。 c 原告は,国籍はアイデンティティの重要な一部であって,人格権の 重要な要素にほかならず,日本国籍を剥奪することは,これら重大な 要素を奪い取るものとして許されない旨主張する。 しかしながら,原告が主張するところの日本国籍を介在させた「アイデンティティ」等の概念は極めて曖昧なものであって,憲法上の権利として法的保護に値するような利益であるとはいえない。 (オ) 小括 以上のとおり,日本国籍の離脱を強制されない権利は,憲法上保障されているとはいえない。 イ仮に日本国籍の離脱を強制されない権利が憲法上保障されているとしても,国籍法11条1項の立法目的は合理的であり,同項は立法目的を達成する手段としても合理性を有していること (ア) 国籍法11条1項に係る憲法13条及び22条2項適合性の判断基準①憲法10条は,国籍の得喪の定めについて,歴史的沿革,伝統,社会的・経済的事情,国際社会の状況等種々の要因を考慮する立法府の合理的な裁量判断に委ねていること,②国籍の得喪に起因する利益は,表 現の自由などのような前国家的な権利利益ではなく,上記のような広範な立法裁量を下敷きに定められた国籍制度を前提とした利益にとどまるものであって,性質上,かかる利益に何らかの制約が課せられるとして 現の自由などのような前国家的な権利利益ではなく,上記のような広範な立法裁量を下敷きに定められた国籍制度を前提とした利益にとどまるものであって,性質上,かかる利益に何らかの制約が課せられるとしても,それによる不利益の程度は限定的というほかはないこと,③国籍法11条1項は,自己の志望により外国の国籍を取得した場合に限って日 本国籍を喪失するというにとどまり,同項が適用される前提として日本国籍を喪失する者の自己決定が存在することからすれば,同項の憲法適合性の判断基準を,原告が主張するように厳格な審査基準で検討するのは明らかに不当であり,立法目的とその立法目的の達成手段について合理性が認められれば足りるというべきである。国民主権原理及び基本的 人権尊重原理を根拠として厳格な違憲審査がされるべきであるという原 告の主張は,自己の志望により外国の国籍を取得し,当該外国の国籍に加えて日本国籍をも二重に保持することにより,二つの国籍国のいずれにおいても主権者たる地位や基本的人権の享有主体を保持することを認めるべきであるというものであって,このような場面においても国民主権原理や基本的人権尊重原理の重要性を理由に,厳格な違憲審査がされ なければならないとはいえない。 (イ) 国籍法11条1項の立法目的は合理的であることa 国籍法11条1項の立法目的国籍法11条1項の立法目的は,国籍変更の自由を認めるとともに,国籍の積極的抵触(重国籍の発生)を防止することにあり,これが相 互に密接に関連している。 b 立法目的の合理性(a) 国籍が,主権の保持者であり統治権に服する者の範囲を画定するという問題である以上,一人の人間に対して複数の国家が対人主権を持つ,又は,主権在民の国において一人の者が複数の国に対して (a) 国籍が,主権の保持者であり統治権に服する者の範囲を画定するという問題である以上,一人の人間に対して複数の国家が対人主権を持つ,又は,主権在民の国において一人の者が複数の国に対して 同時に主権を持つということは,主権国家の考え方とは根本的に相容れないことであって,人は必ず国籍を持ち,かつ,国籍は唯一であるべきであるという考え方は,国籍の本質から導かれるものである。このように,重国籍の発生防止という考え方自体は,国籍の本質から導かれ,国際法上も認められてきた国籍立法の理想であって, 国籍の得喪の決定が国内管轄事項とされる中にあって,これを我が国の国籍法が立法目的の一つとして掲げることが,憲法適合性の吟味に際して不合理であるとされる余地はない。 ⒝ 重国籍者は二以上の国家に所属するため,国家が国民に対して有する対人主権が重複して及ぶこととなり,外交保護権の衝突等によ り国際的摩擦が生じるおそれがある。また,国家は,自国民に対し, 兵役義務,納税義務等を課し得るが,重国籍者はその所属する各国からの義務の履行を要求され,その義務が抵触する事態も生じ得る。 さらに,重国籍者は,関係国間の通報制度がない限り,その属する各国において別個の氏名により国民として登録されることも可能であり,別個の旅券を行使し得るから,個人の同一性の判断が困難と なり,場合によっては,適正な入国管理が阻害され,重婚を防止し得ないという事態も生じ得る。他方,重国籍者は,その属する各国において国民としての権利を与えられ,複数の本国に自由に往来居住し,各々の国で社会保障の利益,経済活動の自由を享受し得ることになるが,それは単一の国籍のみを有する者には与えられていな い利益であり,保護に値する利益とはいえない。このような見地から, 住し,各々の国で社会保障の利益,経済活動の自由を享受し得ることになるが,それは単一の国籍のみを有する者には与えられていな い利益であり,保護に値する利益とはいえない。このような見地から,人は必ず国籍を持ち,かつ,国籍は唯一であるべきであるという国籍唯一の原則は,国籍立法のあるべき姿として国際的に承認されてきたものである。 原告は,重国籍による弊害はない旨主張するが,重国籍の弊害は, 重国籍という事実状態に内在する問題であり,重国籍の発生がこれらの弊害発生の要因と考えられる以上,その防止を図ることが合理的であることは当然であって,重国籍の弊害の具体的な事象の存在が認められない限りは,立法目的の合理性が否定されるかのような原告の主張は失当である。 ⒞ そして,外国法が重国籍防止の規定を設けるかどうかは当該外国の立法政策に委ねられている以上,自己の志望により外国の国籍を取得する者について,日本国籍を喪失させて重国籍防止を図ることは合理性がある。 c その余の原告の主張に対する反論 (a) 原告は,旧国籍法20条が国籍変更の自由の保障をその立法目的 としていなかったとした上で,そうである以上,国籍法が国籍変更の自由の保障という立法趣旨を踏襲することはあり得ない旨主張する。 しかしながら,旧国籍法20条は,国家は個人の意思に反して自国の国籍を強制すべきでないという国籍自由の原則の発現であると されており,同条が国籍自由の原則,すなわち国籍変更の自由の保障を基礎に置く規定である以上,同条を踏襲した国籍法11条1項も,また,国籍変更の自由の保障を基礎に置いていることは明らかである。 ⒝ 原告は,国籍法は重国籍の解消を本人の意思に委ねている結果, 重国籍が最終的に解消さ 同条を踏襲した国籍法11条1項も,また,国籍変更の自由の保障を基礎に置いていることは明らかである。 ⒝ 原告は,国籍法は重国籍の解消を本人の意思に委ねている結果, 重国籍が最終的に解消されない事態が不可避的に生じることが当然に予測されるところ,同法はこれを容認している旨主張する。 しかしながら,原告の上記主張は,我が国の国籍法の理念に反して事実上の便益を得ている者が存在することを捉えて,その者と原告との不均衡を論ずるものであって,このような立論の前提自体が 失当である。重国籍の防止という要請は,国際法下において守るべき他の要請との比較においては後退することもあり得るし,国内法制で重国籍解消を完全に実現することには限界があるため,国民に対して国籍の離脱を訓示的規定をもって促し,国籍離脱義務の履行を国民の良心に委ねている部分も存する。しかしながら,上記のよ うな実情があるからといって,我が国の姿勢として重国籍を容認したとは到底いえない。 (ウ) 国籍法11条1項の立法目的達成の手段が合理性を有すること日本国籍を有する者が自己の志望により外国の国籍を取得した場合,日本国籍を喪失させることとしなければ,必ずその者は重国籍者となる ことになる。そうすると,国籍変更の自由を認めるとともに,重国籍の 弊害を回避するためには,その者が外国の国籍を取得した段階で,日本国籍を喪失させ,重国籍の状態に至るのを防ぐことが合理的であることは明らかである。したがって,国籍法11条1項の手段は,立法目的達成の手段として合理的である。 (エ) 小括 以上のとおり,国籍法11条1項の立法目的は合理的であり,その達成の手段が合理性を有することは明らかであるから,原告の主張する権利の制約が憲法13条及び22条2項に違反す 。 (エ) 小括 以上のとおり,国籍法11条1項の立法目的は合理的であり,その達成の手段が合理性を有することは明らかであるから,原告の主張する権利の制約が憲法13条及び22条2項に違反することにはならない。 ウ結論日本国籍の離脱を強制されない権利は,そもそも憲法13条及び22条 2項並びに原告の指摘する憲法上の諸原理により保障されているとはいえず,仮に保障されているとしても,その制約は上記各条項に違反するものではない。 なお,原告は,仮に立法時に国籍法11条1項の合理性を支える立法事実が存在していたとしても,その後の重国籍者の増加の実情,重国籍の弊 害や有益性に関する研究の進展,国際的な制度改変の動向によって,平成9年頃までに失われたと主張する。 しかしながら,確かに,国籍の得喪が飽くまでも国内管轄事項とされる中で国際化が進み,重国籍者は不可避的に発生することとなったが,それは重国籍の弊害が発現するおそれが高まっているということを意味して おり,重国籍者の数が増加することによって重国籍防止の要請がなくなるわけではない。昭和59年国籍法改正により国籍選択制度が新たに設けられたことにも照らすと,むしろ,重国籍を解消するという立法目的がより一層妥当する状況に至っているとすらいえる。また,諸外国において,自己の志望により外国の国籍を取得した場合に自国籍を失わせる法制を持 たず,望ましくない重国籍の弊害を,重国籍防止の法制ではなく個別的な 問題の処理として解消していたとしても,そのことが直ちに我が国における法制を否定するものではない。我が国を取り巻く国際情勢の下では,重国籍の弊害に対処する条約等の整備を進めることは困難であり,重国籍の弊害が,既存の法律や個別事案ごとの国家間の調整によって 国における法制を否定するものではない。我が国を取り巻く国際情勢の下では,重国籍の弊害に対処する条約等の整備を進めることは困難であり,重国籍の弊害が,既存の法律や個別事案ごとの国家間の調整によって,その全ての解決が見込まれるような問題ではないことから,諸外国の国際法制から, 同法11条1項の立法事実が失われたと即断するのは失当である。したがって,原告の主張は理由がない。 (4) 争点(4)(国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するか否か)について(原告の主張) ア差別的取扱いが存在していること(ア) 差別的取扱いが存在する場面について国籍法11条1項と対比して,次の場面で複数国籍の発生について差異が生じている。 a 外国の国籍の当然取得による複数国籍の場合 外国の法の規定において,婚姻や養子縁組,認知等の身分行為があった際に本人の意思にかかわりなく当然に当該外国の国籍を付与することとされている場合や,ある者の帰化に伴いその配偶者や子に対しても当然に当該外国の国籍を付与することとされている場合等,一定の身分行為等に伴い外国の国籍を当然に取得すること(当然取得) があり得るが,その場合には国籍法11条1項に該当しないため,その者は日本国籍を喪失せず,複数国籍を保持することとなる。 b 生来的取得による複数国籍の場合①日本人と外国人(血統主義国の国籍を有する者)の夫婦の子として日本国内で出生した場合,あるいは②日本人と外国人(血統主義国 の国籍を有する者)の夫婦の子として日本国外で出生した者や生地主 義国において日本人の父母の間に出生した者等が,国籍法12条の国籍留保をした場合には,生来的に日本国籍と外国の国籍を取得することとなる。 c 日本国籍の志望取得に 国外で出生した者や生地主 義国において日本人の父母の間に出生した者等が,国籍法12条の国籍留保をした場合には,生来的に日本国籍と外国の国籍を取得することとなる。 c 日本国籍の志望取得による複数国籍の場合国籍法3条1項又は同法17条1項による届出により日本国籍を取 得した場合,あるいは同法5条2項の要件を充足して日本への帰化が認められた場合は,外国の国籍を保有したまま自己の志望によって日本国籍を取得し,複数国籍を有することとなる。 (イ) 差別的取扱いの具体的内容a 国籍選択の機会の有無 上記(ア)aからcまでの場合は,一旦複数国籍となることが認められ,一定の熟慮期間を経て,日本国籍と外国の国籍のいずれかを選択する機会が与えられる(国籍法14条)。これに対し,同法11条1項の適用を受ける者は,国籍選択の機会を与えられずに当然に日本国籍を喪失させられる。このように,同項は,国籍選択の機会の有無に ついて差別的取扱いを生じさせている。 b 日本国籍を保持する機会の有無国籍法14条2項に定める選択の宣言は,当然には複数国籍を解消しない。そして,選択の宣言を行った者に対する外国の国籍の離脱の努力義務(同法16条1項)は,訓示規定とされ,法的な強制力はな いから,その者は複数国籍の保持を継続することができる。これに対して,同法11条1項の適用を受ける者は,国籍選択の機会を与えられない結果,選択の宣言を行う機会もなく,複数国籍を保持する機会も与えられない。このように,同項は,最終的に日本国籍を保持する機会の有無について,差別的取扱いを生じさせている。 イ国籍法11条1項の憲法14条1項適合性を判断する基準 上記アの差別的取扱いが合理性を有するか否かに関しては,立法府に与えら の有無について,差別的取扱いを生じさせている。 イ国籍法11条1項の憲法14条1項適合性を判断する基準 上記アの差別的取扱いが合理性を有するか否かに関しては,立法府に与えられた裁量を行使しても,なおそのような区別することの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として憲法14条1項に違反するものとなるというべきであ る。 ウ 「国籍変更の自由の保障」という立法目的についてそもそも国籍変更の自由の保障は,国籍法11条1項の立法目的に含まれるものではない上,国籍変更の自由は同法13条の定める国籍離脱手続によって実現することが可能であるから,同法11条1項に国籍変更の自 由を保障するための制度として固有の存在意義や役割は認められない。また,前記(3)(原告の主張)ウのとおり,同項が国籍変更の自由を保障する効用・機能を有するのは限定された場面においてのみであり,かかる限定された場面における有用性を前提としても,その適用範囲が過度に広範であるから,立法目的との間の合理的関連性を有しない。 エ 「複数国籍防止」という立法目的について(ア) 当然取得の場面との差別的取扱いについて複数国籍の防止という観点からすれば,当然取得によって外国の国籍を取得した者も,自己の志望によって外国の国籍を取得した者も,その結果生じる複数国籍状態には何ら差異はない。したがって,当然取得と 志望取得との間で日本国籍の保持・喪失に関する取扱いに差異を設けることの合理的根拠は見いだし難い。 被告は,当然取得の場合には外国の国籍の取得に本人の意思が介在していないという点を,志望取得の場合と取扱いを異にす 日本国籍の保持・喪失に関する取扱いに差異を設けることの合理的根拠は見いだし難い。 被告は,当然取得の場合には外国の国籍の取得に本人の意思が介在していないという点を,志望取得の場合と取扱いを異にする根拠として主張する。しかしながら,志望取得の意思は飽くまで当該外国の国籍の取 得に向けられたものであり,日本国籍の離脱に向けられたものではなく, 外国の国籍の取得の意思と日本国籍離脱の意思は表裏一体のものでないにもかかわらず,なぜ外国の国籍を取得する意思を有する者は当然に日本国籍を喪失させることが許容されるのかについて,合理的な根拠は何ら示されていない。また,志望取得か当然取得かは,当該国が国籍取得に当たって取得意思の表明を要件としているか否かという立法政策上の 選択によって変わるところ,このような他国の立法政策上の選択によって日本国籍の得喪が自動的に変動するという点についても合理性がない。 (イ) 生来的取得による複数国籍の場面との差別的取扱いについて日本国籍と外国の国籍を生来的に取得した者についても,それによって生じた複数国籍の状態は,外国の国籍を志望取得したことによって生 じた場合と何ら異なるところはない。生来的な複数国籍は本人の意思により生じたものではないが,そのことが志望取得の場合との取扱いを異にする根拠となり得ないことは上記(ア)のとおりである。 なお,被告は,生来的な複数国籍はその発生について当該個人に責任がないことを理由に,ひとまず複数国籍が発生することを容認するもの であると主張する。しかしながら,そこでいう「責任」とは誰の何に対する責任を意味するのか不明である上,そもそも国籍法は個人の帰責性を理由に日本国籍の得喪を左右するという仕組みを採用していないのであるから,被告の主張は根 しながら,そこでいう「責任」とは誰の何に対する責任を意味するのか不明である上,そもそも国籍法は個人の帰責性を理由に日本国籍の得喪を左右するという仕組みを採用していないのであるから,被告の主張は根拠がない。また,被告の上記主張が,本人の行為に起因して複数国籍となったことを指摘するものであるとしても, 外国の国籍を志望取得した者が当然に日本国籍を喪失させられる理由の説明にはなっていないし,外国の国籍の当然取得や日本国籍の志望取得による複数国籍の場合も,本人の行為に起因して複数国籍が発生したことに変わりないから,被告の主張は失当である。 (ウ) 日本国籍の志望取得の場面との差別的取扱いについて 志望取得の手続により日本国籍を取得した外国人と,外国の国籍を志 望取得した日本国民との間で,その結果生じる複数国籍の状態に何らの違いも存在しない。のみならず,志望取得によって日本国籍を取得する際に原国籍の離脱を要件とすることは,法技術的に可能である。それにもかかわらず,国籍法3条1項,17条1項及び5条2項は,いずれも日本国籍の志望取得の場合に,一旦複数国籍を発生させることを容認し ている。これらの規定に係る場面と対比すれば,外国の国籍の志望取得との間の差別的取扱いについて,「複数国籍の防止」という立法目的との間で合理的関連性が認められないことは明白である。 (エ) 被告の主張に対する反論被告は,制度目的や趣旨が異なることにより重国籍防止を図る方法に 差異があるのは当然である旨主張する。 しかしながら,国籍法は,複数国籍が発生するいくつかの場面を予定しつつ,それらの解消を国籍選択制度によって統一的に処理することを予定しているにもかかわらず,同法11条1項に限って,これと異なり,外国の国籍の取得と同時に日本 数国籍が発生するいくつかの場面を予定しつつ,それらの解消を国籍選択制度によって統一的に処理することを予定しているにもかかわらず,同法11条1項に限って,これと異なり,外国の国籍の取得と同時に日本国籍を強制的に喪失させるものとしてい る。そして,外国の国籍を志望取得した者に限って異なる取扱いをする必要性は見いだせないから,被告の主張は失当である。 (オ) 小括以上のとおり,外国の国籍を当然取得して複数国籍となった者,生来的に複数国籍を取得した者及び日本国籍を志望取得して複数国籍となっ た者との対比において,国籍法11条1項が外国の国籍を志望取得した者の意思に反して日本国籍を喪失させることは,立法目的との関係で合理的関連性を有しない。 オ国籍法11条1項が昭和59年国籍法改正時点で憲法14条1項に違反すること 以上を前提とすれば,昭和59年国籍法改正により,複数国籍の発生を 広く容認し,国籍選択制度によって本人の意思に基づく複数国籍の解消を期待するという制度が設けられたことを踏まえると,この改正の時点で,志望取得により外国の国籍を取得した者とその他の形態により複数国籍となった者との間に,国籍選択によって日本国籍を保持する機会の有無について不平等な取扱いが生じ,同法11条1項は憲法14条1項 に違反する状態となったというべきである。 カ立法事実の変遷により国籍法11条1項が憲法14条1項に違反する状態となったこと仮に,昭和59年国籍法改正の時点において国籍法11条1項が憲法14条1項に違反しないものであったとしても,前記(3)(原告の主張)オ のとおり,その後の国際的な動向,複数国籍者の増加の実情及び複数国籍の弊害や有益性に関する研究の進展等を踏まえると,国籍法1 条1項に違反しないものであったとしても,前記(3)(原告の主張)オ のとおり,その後の国際的な動向,複数国籍者の増加の実情及び複数国籍の弊害や有益性に関する研究の進展等を踏まえると,国籍法11条1項の合理性を支える立法事実は平成9年頃には既に失われており,同項は憲法14条1項に違反する状態となっていた。 キ小括 以上によれば,国籍法11条1項は,憲法14条1項の定める平等原則に違反し,無効である。 (被告の主張)ア国籍法11条1項に係る憲法14条1項適合性の判断基準憲法10条が国籍立法について広範な立法裁量を認めていること,憲法 14条1項が合理的根拠に基づく区別を許容していることを総合すれば,国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するとされるのは,立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合(最高裁平成 18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号 1367頁〔以下「平成20年大法廷判決」という。〕)に限られるものというべきである。 イ原告の主張する「差別的取扱い」は国籍法11条1項の憲法14条1項適合性とは無関係であること原告は,①当然取得によって外国の国籍を取得した日本国民,②生来的 に外国の国籍を取得した日本国民及び③日本国籍を志望取得した外国人には,それによって重国籍となることを国籍法が認めているにもかかわらず,自己の志望により外国の国籍を取得した日本国民のみが,同法11条1項に基づき,外国の国籍の取得と同時に日本国籍を喪失するという差別的取扱いは,憲法14条1項に違反すると主 認めているにもかかわらず,自己の志望により外国の国籍を取得した日本国民のみが,同法11条1項に基づき,外国の国籍の取得と同時に日本国籍を喪失するという差別的取扱いは,憲法14条1項に違反すると主張する。 しかしながら,国籍法11条1項は,自己の志望によって外国の国籍を取得した者については,国籍変更の自由を保障している以上,重国籍防止の見地から,当然に従来の国籍を放棄する意思があると認めるべきであり,その反射的効果として日本の国籍を失うとした規定である。これに対し,上記①は,外国人との婚姻等の身分行為又は母の外国への帰化等に伴い, 当該外国の法の規定に基づき当然に外国の国籍を取得するもの(当然取得),上記②は,血統主義を採用する外国の国籍を有する者とその配偶者である日本国民から生まれた場合や,日本国民を少なくとも一方の親として生地主義を採る国で生まれた場合に,生来的に外国の国籍を取得するもの(生来的取得),上記③は,出生等により外国の国籍を取得した者が, 日本国民を血統上の親として出生したことを前提とする認知又は届出や,帰化によって日本国籍を取得するものであって,日本国民が自己の志望によって出生後に事後的に外国の国籍を取得する国籍法11条1項の場合とはそもそも制度目的や趣旨が異なる。また,外国の国籍の取得又は日本国籍の取得の制度によって,重国籍防止を図る方法に差異があるのは当然 であり,上記①から③までの場面との対比において同項が合理性を欠くと いうことにはならない。 ウ国籍法11条1項と原告の主張する各場面との区別には合理性があること上記イの点をおくとしても,以下のとおり,国籍法11条1項と原告の主張する上記イ①から③までの場面との区別には合理性がある。 (ア) 当然取得によっ 場面との区別には合理性があること上記イの点をおくとしても,以下のとおり,国籍法11条1項と原告の主張する上記イ①から③までの場面との区別には合理性がある。 (ア) 当然取得によって外国の国籍を取得した日本国民との区別当然取得により外国の国籍を取得した場合,外国の国籍の取得には本人の意思が介在していないから,当該外国の国籍の取得によって直ちに日本国籍を失うこととすると,何ら本人の意思を介在させることなく日本国籍を失わせることとなる。そこで,外国の国籍を当然取得した者に 対しては,ひとまず重国籍が発生することを容認した上で,自らの意思によりどちらかの国籍を選択することによって重国籍を解消させることが相当である。一方,自己の志望により外国の国籍を取得した場合,国籍取得の段階で本人の意思が介在しているため,当然取得に見られる上記のような不都合は存在しない。 したがって,当然取得によって外国の国籍を取得した日本国民と自己の志望によって外国の国籍を取得した日本国民との間で,取扱いの差を設けることに合理性があることは明らかである。 (イ) 生来的に外国の国籍を取得した日本国民との区別ある個人が,血統主義を採用する外国の国籍を有する者とその配偶者 である日本国民から生まれた場合には,父母の国籍が異なるため法律上当然に重国籍が生じ,日本国民を少なくとも一方の親として生地主義を採る国で生まれた場合においても,生地主義を採用する国が存在することから当然に重国籍が生じるものであって,いずれの場合も重国籍の発生について当該個人に責任がないことは明白である。 したがって,生来的に外国の国籍を取得した日本人に対しては,自ら の意思により外国の国籍を取得したものではないから,ひとまず重国籍が発生すること 該個人に責任がないことは明白である。 したがって,生来的に外国の国籍を取得した日本人に対しては,自ら の意思により外国の国籍を取得したものではないから,ひとまず重国籍が発生することを容認した上で,自らの意思によりどちらかの国籍を選択することによって重国籍を解消させることが相当であり,自己の志望によって外国の国籍を取得した日本国民との間に取扱いの差を設けることに合理性があることは明らかである。 (ウ) 日本国籍を志望取得した外国人との区別a 国籍法3条又は17条1項の規定により日本国籍を取得した者は,日本国民を血統上の親として出生した子であるところ,我が国の国籍法が父母両系血統主義を採用していることの均衡上,日本国籍の取得の際に重国籍防止要件を課していないものである。また,これらの場 合には,従来から有する外国の国籍について,その得喪の決定が各国の国内管轄事項であることからすると,一律に重国籍防止義務を課すことは相当でないため,ひとまず重国籍が発生することを容認した上で,自らの意思によりどちらかの国籍を選択することによって重国籍を解消させることとしたものである。したがって,同法3条又は17 条1項のように日本国籍取得前から外国の国籍を有する状態である場合と,日本国籍取得後に外国の国籍の取得を自らの意思で行った場合との間で,重国籍防止の取扱いに差を設けることに合理性があることは明らかである。 b 国籍法5条2項は,帰化による重国籍は人為的なものであり,出生 による重国籍に比べ重国籍防止の要請が強いことから,昭和59年国籍法改正により,重国籍防止要件(同条1項5号)を備えることを原則としつつ,特別の場合にこれを免除することができるとし,当該外国の国籍の離脱又は放棄が可能となったときに,事後的 とから,昭和59年国籍法改正により,重国籍防止要件(同条1項5号)を備えることを原則としつつ,特別の場合にこれを免除することができるとし,当該外国の国籍の離脱又は放棄が可能となったときに,事後的に重国籍を解消させることとしたものである。国籍の得喪の決定が各国の国内管轄 事項であることから生じる制約上,国内法制で重国籍解消を完全に実 現することには限界があることからすれば,同条2項のように自らの意思により外国の国籍を喪失できない場合と同法11条1項のように自己の志望によって外国の国籍を取得する場合との間で,取扱いに差を設けることに合理性があることは明らかである。 (エ) 小括 前記イ①から③までの場面は,国籍得喪の決定が国内管轄事項とされる原則によって,外国の国籍の得喪を我が国の法で規律することができないことから,国籍選択制度を設け,重国籍を事後的に解消することとしたものである。その結果として,国籍選択の義務を履行するまでの間,すなわち重国籍を解消するまでの間に一定の猶予期間を設けざるを得な いのに対し,日本国籍を有する者が自己の志望により事後的に外国の国籍を取得する国籍法11条1項の場面では,我が国の国内管轄事項として日本国籍の喪失を規定することで,重国籍の発生を当初から防止することができ,重国籍を解消するための猶予期間を設ける必要はない。したがって,前記イ①から③までの場面と同項の場面とでは,前提となる 制度の目的や趣旨が異なるのであるから,これらの差異に応じて異なる重国籍防止の方法を設けることに合理性があることは明らかである。 エ以上のとおり,国籍法11条1項の取扱いは,合理的な区別をするものにすぎず,憲法14条1項に違反するものではない。 なお,原告は,仮に昭和59年国籍法改正の時点で同 があることは明らかである。 エ以上のとおり,国籍法11条1項の取扱いは,合理的な区別をするものにすぎず,憲法14条1項に違反するものではない。 なお,原告は,仮に昭和59年国籍法改正の時点で同法11条1項の合 理性を支える立法事実が存在していたとしても,その後の重国籍者の増加の実情等によって立法事実が失われたと主張する。しかしながら,前記(3)(被告の主張)ウのとおり,原告の主張は理由がない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(旧ロシア国籍法15条2項前段によるロシア国籍の取得が国籍法 11条1項に該当するか否か)について (1) 国籍法11条1項についてア国籍法11条1項は,日本国民は,自己の志望によって外国の国籍を取得したときは,日本の国籍を失うと規定しているところ,後記3(2)ア(イ)のとおり,同項は,重国籍の発生を防止するとともに,国籍離脱の自由を保障する憲法22条2項の規定を受けて,国籍離脱の一場面として国籍変 更の自由を保障する趣旨の規定であると解される。そして,同項の「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」とは,帰化,国籍取得の届出,国籍の回復,国籍の選択,登録による国籍の取得その他名称のいかんにかかわらず,外国の国籍の取得を希望する意思行為をし,その法的効果として直接外国の国籍を付与される場合をいい,婚姻や養子縁組等の身分行為 や親権者の帰化の効果が当然に子に及ぶ場合など,一定の事実に伴って法律上当然の効果として外国の国籍を取得した場合(当然取得)を除外する趣旨と解される。 そうすると,外国の国籍の取得が「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」に該当するか否かは,原則として,外国の国籍の取得を希望 する意思行為がされ,その法的効果として直接当該外国の 。 そうすると,外国の国籍の取得が「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」に該当するか否かは,原則として,外国の国籍の取得を希望 する意思行為がされ,その法的効果として直接当該外国の国籍を付与されたものであるか否かによって決すべきである。 イまた,国籍法18条は,国籍取得の届出,帰化の許可の申請,選択の宣言又は国籍離脱の届出は,国籍の取得,選択又は離脱をしようとする者が15歳未満であるときは,法定代理人が代わってする旨規定しているとこ ろ,これは,これらの行為が当事者本人の意思に基づく必要のあるものであるとしても,代理によることを認めないとすれば,意思能力を欠く未成年者がこのような行為をする途を閉ざすことになるため,意思能力を欠く可能性の高い一定年齢に達しない者については,常に法定代理人が代わってしなければならないものとしたものである。この趣旨は,外国の国籍の 取得の場合にも当てはまるから,法定代理人による外国の国籍の志望取得 についても,同法11条1項は適用されるものと解される。 (2) 旧ロシア国籍法15条2項前段によるロシア国籍の取得についてア旧ロシア国籍法15条2項は,「父母の国籍が異なり,子の出生時に一方がロシア国籍を有し,他方がそれと異なる国籍を有する場合,子の国籍に関する問題は,子の出生地を問わず,父母の書面による合意によって決定 される。このような合意が存在しない場合は,子がロシア国内で出生するか,又はロシア国籍を認めなければ無国籍者になるときは,子はロシア国籍を取得する。」旨規定していたものである。 そして,上記規定の内容に加え,ロシア外務省が旧ロシア国籍法15条2項についての見解を明らかにした2018年(平成30年)10月1日 付け口上書(乙 る。」旨規定していたものである。 そして,上記規定の内容に加え,ロシア外務省が旧ロシア国籍法15条2項についての見解を明らかにした2018年(平成30年)10月1日 付け口上書(乙16の2)によれば,同項の父母の書面による合意は,許可ではなく,通知の特徴を帯び,管轄機関が子のロシア国籍の取得に関する特別な決定を行う必要はないこと,また,同項は,父母の一方がロシア国籍で,他方がそれと異なる国籍を有する子の国籍は,出生によっては確定せず,子の出生日から1年以内に管轄機関に提出された父母の合意文書 の日付以降にロシア国籍を取得し,ロシア国内で生まれた子は,その年の満了によりロシア国籍を取得することを定めるものであったと認められる。そうすると,同法の下においては,父母の一方がロシア国籍で,他方がそれと異なる国籍を有する子については,出生によってはロシア国籍を取得するか否かは不確定であり,ロシア国籍を取得しなくとも無国籍とな らない限り,父母の合意文書が1年以内に管轄機関に提出されれば,出生を原因としてロシア国籍を取得するが,それが提出されなければ,ロシア国籍を取得しないことになるから,父母の合意文書の提出は,子についてロシア国籍の取得を希望する意思行為であり,その効果として直接ロシア国籍を付与されることが認められるものということができる。 したがって,旧ロシア国籍法15条2項前段によるロシア国籍の取得は, 法定代理人による外国の国籍の志望取得であり,特段の事情のない限り,国籍法11条1項の「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」に該当するものというべきである。 イ(ア)a これに対し,原告は,旧ロシア国籍法15条2項前段によるロシア国籍の取得は生来的なロシア国籍の取得であり,合意 望によって外国の国籍を取得したとき」に該当するものというべきである。 イ(ア)a これに対し,原告は,旧ロシア国籍法15条2項前段によるロシア国籍の取得は生来的なロシア国籍の取得であり,合意文書の提出は 既に有するロシア国籍の確認又は選択の制度である旨主張する。 b しかしながら,旧ロシア国籍法15条2項前段においては,父母の一方がロシア国籍で,他方がそれと異なる国籍を有する子については,出生によってはロシア国籍を取得するかは不確定であり,父母の合意文書の提出によりロシア国籍の取得の有無が決定されるのである。し たがって,同項前段によるロシア国籍の取得は,出生を原因とするものではあるが,それが出生という事実により当然にロシア国籍を取得するという意味での生来的なロシア国籍の取得であるとはいい難く,また,父母の合意文書の提出も,既に有するロシア国籍の確認又は選択の制度であるとはいい難い。 c 原告は,前記aの主張の根拠として,①旧ロシア国籍法の構成から,同法15条2項前段が出生に関する国籍の取得について定めた規定であると理解することができること,②旧ロシア国籍法の実施規則である1992年規程が,「出生による国籍の取得」と題された2章3条において,同法15条2項前段の合意文書について規定していることを 指摘する(なお,1992年規程2章3条の条文の内容については,証拠(甲29)により原告の指摘する事実が認められる。)。しかしながら,そもそも上記アの解釈も,旧ロシア国籍法15条2項前段によるロシア国籍の取得が出生を原因とするものであることを前提とした上で,合意文書の提出によりその取得を認められるというものである から,原告の上記の各指摘をもって,上記アの解釈が否定されるもの で 籍の取得が出生を原因とするものであることを前提とした上で,合意文書の提出によりその取得を認められるというものである から,原告の上記の各指摘をもって,上記アの解釈が否定されるもの ではなく,原告の主張を根拠付けるものともいえない。 d また,原告は,ロシア当局の見解は,ロシア外務省回答(甲7の6),ロシア移住庁国籍局説明(甲23),同局の回答(甲24),ロシア移住庁ノヴォシビルスク州支局回答(甲25),ロシア大使館による証明書(甲37)及びロシア外務省の口上書(乙16の2)のいずれにお いても,旧ロシア国籍法15条2項によるロシア国籍の取得がロシア国籍の生来的取得を意味するとしている旨主張する。 そこで検討すると,証拠によれば,①在ロシア日本国大使館の照会に対する2010年(平成22年)7月13日付けロシア外務省領事局の回答においては,旧ロシア国籍法15条2項について,「日本で出 生した,一方の親がロシア国籍で,一方の親が外国籍の子は,ロシア国籍取得に関する父母の同意書により申請された場合にのみ,出生に伴いロシア国籍を取得する。」とされていること(甲7の1・5・6),②ロシア移住庁国籍局作成の説明文書では,「出生により国籍が取得される」場合として,同項前段が挙げられていること(甲23),③ロシ ア移住庁国籍局の原告母の照会に対する回答では,原告は,2001年(平成13年)▲月▲日,同項に基づいて,ロシア国籍の存在が確認されたとされていること(甲24),④ロシア移住庁ノヴォシビルスク州支局は,問合せに対し,同法に基づき未成年の子のロシア国籍の存在を確認するための申請書のひな型は存在しなかった旨回答してい ること(甲25),⑤ロシア大使館副領事作成の証明書では,ロシア大使館の領 ,問合せに対し,同法に基づき未成年の子のロシア国籍の存在を確認するための申請書のひな型は存在しなかった旨回答してい ること(甲25),⑤ロシア大使館副領事作成の証明書では,ロシア大使館の領事部は,同項について,子は生まれたとき,出生によるロシア国籍を取得することを定めている旨証明するとされていること(甲37),⑥ロシア外務省の口上書には,同項前段によるロシア国籍の取得が「承認及び出生による国籍取得の場合」に含まれることを前提と する記載があること(乙16の2)が認められる。 しかしながら,上記①,②,⑤及び⑥の「出生に伴い」,「出生により」及び「出生による」は,いずれも「出生を原因として」という意味に解することができ,必ずしもロシア国籍の生来的取得を意味するものとは解されない。また,上記⑤では,「子は生まれたとき,(中略)ロシア国籍を取得する」とあるが,父母の一方がロシア国籍で,他方 がそれと異なる国籍を有する場合の子の国籍に関する問題は,「父母の合意書面により決定される。」とも記載されていることからすれば,ロシア国籍の生来的な取得を意味するものとはいいきれない。さらに,上記③及び④では,同項に関連して,「ロシア連邦国籍の存在が確認されています」「ロシア連邦国籍の存在を確認するための申請書」といっ た記載があるが,ここでいう確認とは,ロシア国籍を取得したことの確認という程度の意義と解し得るものであり,既に国籍を有していることの確認を意味するものとまではいい難い。そうすると,ロシア当局の見解は,上記アの解釈と矛盾するものとはいえない。 e したがって,原告の前記aの主張を採用することはできない。 (イ) さらに,原告は,旧ロシア国籍法15条2項前段の父母の合意文書の提出について,父母が子の と矛盾するものとはいえない。 e したがって,原告の前記aの主張を採用することはできない。 (イ) さらに,原告は,旧ロシア国籍法15条2項前段の父母の合意文書の提出について,父母が子の法定代理人として行うものではなく,固有の権能として行うものであり,これを「法定代理人による外国の国籍の志望取得」の場面とみることはできないから,同項前段によるロシア国籍の取得について,国籍法11条1項を適用することはできない旨主張 する。 しかしながら,外国の国籍の取得の有無は,当該外国の専権事項であるが,国籍法11条1項による日本国籍の喪失の有無は,我が国の法律の適用の問題であるから,旧ロシア国籍法15条2項前段による合意文書の提出については,父母の固有の権能とされるものであったとして も,その実質は子に代わって父母が行ったロシア国籍の取得を希望する 意思行為とみることができる以上,これによる子のロシア国籍の取得については,我が国の国籍法上,法定代理人による国籍の志望取得とみることができるから,国籍法11条1項の適用があるというべきである。 (ウ) そして,ほかに,旧ロシア国籍法15条2項前段によるロシア国籍の取得が国籍法11条1項の「自己の志望によって外国の国籍を取得し たとき」に該当しないものと解すべきこととなるような主張及び立証は見当たらず,この点に関する原告の主張はいずれも理由がない。 2 争点(2)(原告が国籍法11条1項に該当するか否か)について(1) 国籍法11条1項の要件の意義前記1(1)アのとおり,国籍法11条1項の「自己の志望によって外国の国 籍を取得したとき」とは,帰化,国籍取得の届出,国籍の回復,国籍の選択,登録による国籍の取得その他名称のいかんにかかわらず,外国の国籍の取得 り,国籍法11条1項の「自己の志望によって外国の国 籍を取得したとき」とは,帰化,国籍取得の届出,国籍の回復,国籍の選択,登録による国籍の取得その他名称のいかんにかかわらず,外国の国籍の取得を希望する意思行為をし,その法的効果として直接外国の国籍を付与される場合をいうものと解される。このうち「自己の志望によって」とは,外国の国籍の取得が本人の当該外国の国籍の取得を希望する意思行為に基づくもの であることを広く指し,「外国の国籍を取得したとき」とは,外国の国籍を有効に取得したことを意味するものと解されるところ,外国の国籍取得の有効性は,当該外国の法律に基づいて判断されるべきものであるから,当該外国の国籍の取得に際し,外国の国籍を取得する意思を欠くこと等によりその意思行為に瑕疵がある場合における国籍取得の有効性については,「外国の国 籍を取得したとき」の要件において判断されるべきものということができる。 そして,意思行為に基づいて外国の国籍を有効に取得していれば,特段の事情のない限り,有効な外国の国籍を取得する意思があったものと認められ,「自己の志望によって」当該外国の国籍を取得したものといえるが,当該外国の権限ある当局によって当該外国の国籍を有効に取得したことが認められ ていることから「外国の国籍を取得したとき」の要件を満たす場合であって も,抵抗し難い強迫によって外国の国籍の取得を希望する意思行為をした場合のように,外国の国籍の取得について,当該外国の国籍を取得する意思に基づくものであることを否定すべき特段の事情が認められる場合には,「自己の志望によって」の要件を満たさないものと解すべきである。 以下,これらを踏まえて,原告が国籍法11条1項に該当するか否か検討 する。 (2) 認定事実 が認められる場合には,「自己の志望によって」の要件を満たさないものと解すべきである。 以下,これらを踏まえて,原告が国籍法11条1項に該当するか否か検討 する。 (2) 認定事実掲記の証拠等によれば,以下の事実が認められる。 ア原告父母の子である原告は,平成13年▲月▲日,出生により日本国籍を取得した(前記前提事実(1))。 イ原告父母は,原告について,母がロシア国籍であることから,出生の時から日本国籍とロシア国籍の重国籍となると考えていたが,原告父は,ロシア国籍の留保届のようなものを提出することが必要ではないかと考えており,また,原告母は,自己のロシアの国内用のパスポートに原告を記録する必要があると考えていた(甲89,90,原告父尋問,原告母尋問)。 ウ原告父母は,2001年(平成13年)▲月▲日,ロシア大使館へ赴いた。その際,原告母は,大使館員から,原告母はロシア人であるから,原告は原告母の血を引き継ぎ,ロシア国籍を有しているが,ロシア国籍を使えるようにする手続をする必要がある旨の説明をロシア語で受けた。その後,原告母のみが別室に案内され,「ロシア国籍が存在している手続をお願 いいたします」旨記載された書類に必要事項を記入した。原告父は,原告母に対する大使館員の説明を理解することができず,原告母のみが別室に案内された際はその場で待っていたが,その後,大使館員から,ロシア語で記載された書類にサインをすれば手続が終わるとの説明を受け,書類の内容は理解できなかったが,原告のロシア国籍を留保するための書類であ ると考えて,サインをした(以上につき,甲89,90,原告父尋問,原 告母尋問)。 (3) 原告の国籍法11条1項該当性上記(2)ウの原告 ア国籍を留保するための書類であ ると考えて,サインをした(以上につき,甲89,90,原告父尋問,原 告母尋問)。 (3) 原告の国籍法11条1項該当性上記(2)ウの原告父母が作成した書類は,旧ロシア国籍法15条2項前段の父母の合意文書に該当するものであり,原告は,その提出により同項前段に基づいてロシア国籍を取得したことが認められる。 そして,原告母は,上記書類の作成に際し,原告はロシア国籍を有している旨の説明を受けたとはいうものの,ロシア国籍を使えるようにする手続をする必要がある旨の説明を受け,「ロシア国籍が存在している手続をお願いいたします」旨記載された書類に必要事項を記入したというのであるから,ロシア大使館での手続が単なる出生登録ではなく,原告のロシア国籍に関す る手続であることを認識していたものと認められる。また,原告父も,上記書類の作成に際し,原告についてロシア国籍を留保するための書類であると考え,サインをしたというのであるから,ロシア大使館での手続が単なる出生登録ではなく,原告のロシア国籍に関する手続であることを認識していたものと認められる。これらのことからすれば,原告父母とも,何らの手続を 要することなく原告がロシア国籍を有することができるものとは認識しておらず,直接原告のロシア国籍の取得を希望する意思行為をするものであることを認識しつつ,ロシア大使館で手続を行ったものと認められる。 仮に,原告父母が,ロシア大使館での手続は出生登録と変わらないものであると認識していたとしても,上記の事情からすれば,単に当該手続の意味 を十分に理解することなくこれに応じたものにすぎないというべきであって,ロシア国籍の取得が自己の意思に基づくものであることを否定すべき特段の事情が認められ 事情からすれば,単に当該手続の意味 を十分に理解することなくこれに応じたものにすぎないというべきであって,ロシア国籍の取得が自己の意思に基づくものであることを否定すべき特段の事情が認められるとはいえない。 以上によれば,原告の旧ロシア国籍法15条2項前段によるロシア国籍の取得は,「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」に該当するから, 原告は国籍法11条1項に該当する。 3 争点(3)(国籍法11条1項が憲法10条,13条及び22条2項に違反するか否か)について(1) 日本国籍の離脱を強制されない権利の保障について憲法10条は,「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」と規定し,これを受けて,国籍法は,日本国籍の得喪に関する要件を規定している。憲 法10条の規定は,国籍は国家の構成員としての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであると解される(平成20年大法廷判決,最高裁平成25年(行ツ)第230 号同27年3月10日第三小法廷判決・民集69巻2号265頁参照)。他方で,憲法は,22条2項において,「何人も〔中略〕国籍を離脱する自由を侵されない。」と規定して,国籍離脱の自由を定めているものの,国籍の取得及び保持に関する権利が保障されるか否かについては何らの定めも置いていない。そして,上記のとおり,日本国籍の得喪に関する要件の定立が立 法府の裁量判断に委ねられていることからすれば,同項の定める国籍離脱の自由は,日本国籍からの離脱を望む者に対して,その者が無国籍者となるのでない限り,国家がこれを妨 喪に関する要件の定立が立 法府の裁量判断に委ねられていることからすれば,同項の定める国籍離脱の自由は,日本国籍からの離脱を望む者に対して,その者が無国籍者となるのでない限り,国家がこれを妨げることを禁止するという消極的権利を定めたものにすぎないということができ,同項の規定を根拠に,憲法上,日本国籍を積極的に取得又は保持することができる権利が保障されているということ はできない。また,上記のとおり,憲法10条が,日本国籍の得喪に関する要件を立法府の裁量判断に委ねている以上,そのような立法府の裁量によって付与される地位について,憲法13条に基づいて直ちに何らかの権利が保障されるものとは解し難いというべきである。そうすると,原告の主張する日本国籍の離脱を強制されない権利が憲法13条及び22条2項によって保 障されるものと解することは,困難といわざるを得ない。 もっとも,日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある(平成20年大法廷判決参照)。しかしながら,このことに鑑み,仮に,日本国籍を意思に反して奪われないという利益又は法的地位が,上記基本的人権の保障等の観点から原告の主張する憲法の規定等の精 神に照らして尊重されるべきものであることにより,憲法10条に基づき国籍の得喪に関する要件について立法府に与えられた裁量に一定の制約が及び得るとしても,同条が国籍の得喪に関する要件の定めを立法府の裁量判断に委ねていることからすれば,国籍の喪失を定める立法については,当該立法に係る立法目的及びその目的を達成する手段が合理的である場合には,裁量 の範囲を逸脱又は濫用したものということはできないと解するのが相当である。 ば,国籍の喪失を定める立法については,当該立法に係る立法目的及びその目的を達成する手段が合理的である場合には,裁量 の範囲を逸脱又は濫用したものということはできないと解するのが相当である。そして,以下に述べるとおり,国籍法11条1項は,その立法目的や当該立法目的と手段との関連性の観点から合理性を欠くものとは認められないことから,同項が憲法10条に基づき立法府に与えられた裁量の範囲を逸脱又は濫用したものであるということはできない。 (2) 国籍法11条1項の合理性についてア立法目的について(ア) 国籍法11条1項の立法目的について検討すると,後掲の証拠によれば,以下の事実が認められる。 a 旧国籍法は,出生による国籍の取得については父系血統主義を採 用するとともに,無国籍防止の見地から補充的に生地主義を採用した。他方で,同法20条は,国籍喪失事由として,「自己ノ志望ニ依リテ外國ノ國籍ヲ取得シタル者ハ日本ノ國籍ヲ失フ」と定めており,その趣旨については,国籍の積極的衝突が生じるという弊害を回避するためであるなどと説明されていた(以上につき,甲87,乙27, 28)。 また,旧国籍法は,他の国籍喪失事由として,外国人の妻となった場合等,一定の身分行為又は身分関係に基づいて当然に日本国籍を喪失する場合があることを定めていた。もっとも,国籍の喪失については,17歳以上の男子は既に陸海軍の現役に服したとき又はこれに服する義務がない場合でなければ日本国籍を失わないなどの一般的制限 が設けられていた(以上につき,乙27)。 b 昭和25年に旧国籍法を廃止した上で制定された国籍法(同年法律第147号)は,現行憲法22条2項が国籍離脱の自由を保障したことを受けて,上記aの国籍離脱に関する一般的制限を につき,乙27)。 b 昭和25年に旧国籍法を廃止した上で制定された国籍法(同年法律第147号)は,現行憲法22条2項が国籍離脱の自由を保障したことを受けて,上記aの国籍離脱に関する一般的制限を撤廃し,外国の国籍を有する日本国民は届出により日本国籍を離脱することができる ものとした。一方,自己の志望によって外国の国籍を取得した者は日本国籍を失うと定めていた旧国籍法20条は,国籍法8条(現行11条1項)として引き継がれた(以上につき,甲64,乙27)。 上記国籍法制定の際の法案審議における立法担当者の説明によれば,新たな国籍法においても,国籍の積極的抵触(二重国籍)及び消極的 抵触(無国籍)の発生防止等の原則そのものには変更がないとされ,また,同法8条(現行11条1項)の趣旨は,国籍変更の自由を認めるとともに,国籍の抵触を防止することを目的とする規定であるとされた(甲64〔1頁,3頁〕,甲65〔8頁〕)。 c 昭和59年国籍法改正では,昭和55年に政府が署名した「女子に 対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の批准に備えること,昭和25年の国籍法制定以降の国際情勢及び社会情勢の変化に対応すること等を理由に,出生による国籍の取得について,従来の父系血統主義が改められ,父母両系血統主義が採用された。また,父母両系血統主義の採用等により重国籍者が増加する事態が想定されることを受 けて,重国籍者は成年に達した後,所定期間内にいずれかの国籍を選 択しなければならないものとする国籍選択制度(同法14条から16条まで)が新設されるとともに,従来は生地主義国での出生によって重国籍となる者のみに適用されていた国籍留保制度の対象範囲を拡大し,出生により外国の国籍を取得する子で,日本国外で生まれた者全てに適用する で)が新設されるとともに,従来は生地主義国での出生によって重国籍となる者のみに適用されていた国籍留保制度の対象範囲を拡大し,出生により外国の国籍を取得する子で,日本国外で生まれた者全てに適用することとされた(同法12条)。また,昭和59年国籍法 改正においても,自己の志望によって外国の国籍を取得した者は日本国籍を失う旨の規定は,同法11条1項として存続した(以上につき,乙29,30)。 (イ)a 以上の沿革を踏まえて検討すると,国籍法11条1項は,旧国籍法20条の規定を踏襲したものであって,その趣旨は,自己の志望 によって外国の国籍を取得したときには従前の日本国籍を当然に喪失することとして,重国籍の発生を防止するとともに,憲法22条2項が国籍離脱の自由を保障するに至ったことを受けて,国籍離脱の一場面として国籍変更の自由を保障したものと解される。このように,国籍法11条1項の立法目的は,①重国籍の発生を可能な限り防止しつ つ,②国籍変更の自由を保障するというものであって,両者は相互に密接に関連したものであるといえる。 b これに対し,原告は,国籍法11条1項は旧国籍法20条を引き継いだものであるところ,立法者から同条の立法趣旨に国籍変更の自由の保障が含まれるという説明がされたことはないこと,同項が国籍変 更の自由を保障する効用・機能を有するのは限定的な場面に限られ,このような限定された効用・機能を維持するために同項を存続させる必要性は何ら検証されていないことなどから,同項の立法目的に上記a②の国籍変更の自由の保障という目的は含まれない旨主張する。 しかしながら,旧国籍法の立法時に,同法20条の立法目的に上記 a②の目的が含まれるという明示的な説明がされなかったとしても, 直ちにこれが同条の立 という目的は含まれない旨主張する。 しかしながら,旧国籍法の立法時に,同法20条の立法目的に上記 a②の目的が含まれるという明示的な説明がされなかったとしても, 直ちにこれが同条の立法目的に含まれないとはいえない上,昭和25年の国籍法の制定時には,立法担当者から,同法8条(現行国籍法11条1項)の趣旨は,国籍変更の自由を認めるとともに,国籍の抵触を防止することを目的とするものである旨説明されているから,同項の立法目的に上記a②の目的は含まれるものといえる。また,上記a のとおり,同項の立法目的である上記a①及び②の目的は相互に密接に関連したものであるところ,原告の主張は,上記a①の目的と上記a②の目的とがそれぞれ独立した立法目的であることを前提に,上記a②の国籍変更の自由の保障に資する場面が限定的であるなどと論じるものであって,このようなことから上記a②の目的が同項の立法目 的に含まれないということはできない。 イ立法目的の合理性についてそこで,国籍法11条1項の立法目的の合理性について検討すると,重国籍の発生の防止という点についてみれば,国籍は,国家の基本的構成要素である国民,すなわち,国家の主権者たる地位や権利と共に国家の統治 権に服する地位や義務を持つ者の範囲を画するものであって,個人に対して複数の国家が対人主権を持つ場合,又は個人が複数の国家に対して主権を持つ場合には,国家間の摩擦を生じるおそれがあるほか,国家と個人との間又は個人と個人との間の権利義務に矛盾衝突を生じさせるおそれがあるといえる。具体的には,重国籍者に対しては,複数の国家が対人主権を 持つことになるから,国家間の外交保護権の衝突を招くおそれがある。また,国家は,自国民に対し,納税義務,兵役義務等の種々の義務を課し得 具体的には,重国籍者に対しては,複数の国家が対人主権を 持つことになるから,国家間の外交保護権の衝突を招くおそれがある。また,国家は,自国民に対し,納税義務,兵役義務等の種々の義務を課し得るところ,重国籍者については,これらの義務が衝突したり抵触したりする事態が生じ得る。さらに,重国籍者は,関係国間の通報制度がない限り,その属する各国において別個の氏名により国民として登録されることも可 能であり,個人の同一性の判断が困難となる結果,別個の旅券を行使する ことが可能となって入国管理が阻害されたり,重婚を防止し得ない事態が生じたりする可能性も否定することができない。 このように,重国籍が常態化した場合には,国家間の外交保護権が衝突し,国家と個人との間又は個人と個人との間の権利義務に矛盾衝突を生じさせるおそれがあるから,できる限り重国籍を防止し解消させるべきであ るという理念は合理性を有するものといえる。 そして,国籍法11条1項は,重国籍の発生をできる限り防止しつつ,憲法22条2項により保障される国籍離脱の自由の一場面として外国の国籍への変更を認めることにより,国籍変更の自由を保障したものであるから,その立法目的は合理的であるということができる。 ウ立法目的を達成する手段について(ア) 次に,前記ア(イ)aの立法目的を達成する手段についてみると,重国籍の発生を可能な限り防止するという観点からは,志望による外国の国籍の取得に伴って当然に日本国籍を喪失させることが相当であるといえるから,国籍法11条1項は立法目的を達成する手段として合理的で あるということができる。 (イ) これに対し,原告は,重国籍を解消するためのより権利侵害的でない手段として国籍離脱制度(国籍法13条)や国籍選択制度 は立法目的を達成する手段として合理的で あるということができる。 (イ) これに対し,原告は,重国籍を解消するためのより権利侵害的でない手段として国籍離脱制度(国籍法13条)や国籍選択制度(同法14条)があるから,同法11条1項が志望により外国の国籍を取得した者につき当然に日本国籍を喪失する旨定めていることは,手段として合理 性を欠く旨主張する。 しかしながら,国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかは各国の国内管轄事項に属しているため,重国籍が生じる原因としては様々なものがあり得るところ,重国籍をできる限り解消するための手段としてどのような制度を設けるのが相当であるかは,重国籍が生じた原因によ って異なり得るものといえる。そして,自己の志望によって外国の国籍 を取得する場合以外に重国籍の問題が生じる場合,例えば,出生によって重国籍を取得する場合や,外国人との婚姻等の身分行為によって当然に重国籍が発生する場合のように,何ら自己の意思によらずに重国籍が発生する場合もあり得るのであるから,国籍離脱制度や国籍選択制度のように,自己の意思によって事後的に重国籍を解消させる制度を採るこ とは合理性があるといえる。これに対して,自己の志望によって外国の国籍を取得した者については,事前にいずれかの国籍を選択する機会が与えられているのであるから,一旦重国籍の発生を認めた上で,自己の意思によって事後的に重国籍を解消させる制度を採る必要性は乏しい。 したがって,同項の規定が,自己の志望によって外国の国籍を取得した 者について,重国籍を解消するための手段として国籍離脱制度や国籍選択制度を採用せず,当然に日本国籍を喪失することとしたことが不合理であるとは認められない。 よって,原告の主張には理由がない。 (3) いて,重国籍を解消するための手段として国籍離脱制度や国籍選択制度を採用せず,当然に日本国籍を喪失することとしたことが不合理であるとは認められない。 よって,原告の主張には理由がない。 (3) 原告のその余の主張について ア原告は,①日本国籍を剥奪することは主権者としての資格を奪い,代表民主制の過程から追放するものであること,②日本国籍の剥奪は,基本的人権保障の土台を根こそぎ奪い,日本国籍に結び付いた権利及び自由とそれらの保障を包括的かつ全面的に失わせるものであること,③日本国籍の剥奪は,「個人の尊重」原理(憲法13条)に反してアイデンティティや 人格権,日本国籍の離脱に関する自己決定権,幸福追求権を侵害するものであること,④憲法22条2項は日本国籍を離脱しない自由を無制限に保障していることなどからすれば,日本国籍を剥奪する立法には違憲の推定が働き,立法目的は正当であって国民から日本国籍を剥奪してでも追求すべき重要な利益を促進するものでなければならず,手段は目的達成のため に必要最小限でなければならないなどと主張する。 しかしながら,日本国籍の離脱を強制されない自由が憲法13条及び22条2項によって保障されると解することが困難であることは,前記(1)のとおりである。また,そもそも憲法10条は,国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかについて,立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであるから,国籍の喪失を定める立法について違憲の推定が働くと解するこ とはできず,日本国籍を意思に反して奪われない利益又は法的地位が原告の主張する憲法の規定等の精神に照らして尊重されるべきものであることから立法府の裁量に一定の制約が及び得るとしても,前記(1)のとおり,当該立法に係る立法目的及びその目的を達成する手段が 地位が原告の主張する憲法の規定等の精神に照らして尊重されるべきものであることから立法府の裁量に一定の制約が及び得るとしても,前記(1)のとおり,当該立法に係る立法目的及びその目的を達成する手段が合理的である場合には,裁量の範囲を逸脱又は濫用したものということはできないと解する のが相当である。 したがって,原告の主張には理由がない。 イ原告は,国籍をどのような者に与えるかが当該国の国内管轄事項である以上,重国籍の発生は避けられない事態であって,各国の国籍法制も多種多様であるから,重国籍の防止は普遍的な要請ではない旨主張する。 この点,証拠(甲100~102,109,乙40の1~6)及び弁論の全趣旨によれば,確かに欧州諸国の中には重国籍に対して寛容な態度を採る国も存在するものの,重国籍自体を容認していない国や重国籍の発生自体は容認しつつもその解消のための方策を採る国も存在していることが認められ,重国籍から生じる弊害を防止する必要性自体が低下している とはいえない。また,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たっては,それぞれの国の政治的環境や社会的環境等を考慮する必要があるところ,我が国が全ての国との間で重国籍の弊害の防止等を目的とする条約等を締結することは現実的であるとはいえず,現に我が国がそのような条約等を締結している状況にあるわけでもない。したがって,重国籍から生じる弊 害をできる限り解消するという立法目的が不合理であるということはで きない。 ウ原告は,重国籍による弊害について,外交保護権の衝突,兵役義務及び納税義務の抵触,適正な入国管理の阻害,重婚の発生等を例に挙げた上で,他に重国籍による弊害を回避する方法があること,当該弊害が他の要因により生じるものであること等を指摘し,これらの弊害 兵役義務及び納税義務の抵触,適正な入国管理の阻害,重婚の発生等を例に挙げた上で,他に重国籍による弊害を回避する方法があること,当該弊害が他の要因により生じるものであること等を指摘し,これらの弊害は全く根拠がな いか,弊害のおそれがあったとしても抽象的・観念的なものにとどまるとして,重国籍の発生を防止するという立法目的には合理性は認められない旨主張する。 しかしながら,そもそも重国籍によって生じ得る種々の弊害について,他に弊害を回避する方法があり得るとしても,あるいは,必ずしも重国籍 のみが原因でその弊害が生じるものではないとしても,弊害の原因となる重国籍それ自体について,可能な限りその発生を防止しようとする立法目的自体が直ちに不合理になるとはいえない。また,重国籍による弊害の中には,納税義務の抵触のように国家間の条約等によって解決することが可能な事項があるとしても,全ての国との間においてそのような弊害の防止 等を目的とする条約等を締結することは現実的であるとはいえず,現に我が国がそのような条約等を締結している状況にあるわけでもない。さらに,例えば外交保護権の衝突について,重国籍によって生じる国家間の紛争を解決する国際慣習法上のルールが存在するとしても,その解釈や適用等を巡る紛争を未然に防ぐ必要性があることを否定することはできない。 そうすると,原告の主張を踏まえても,重国籍から生じる弊害をできる限り解消するという国籍法11条1項の立法目的が不合理であるとはいえない。 エ原告は,仮に昭和59年国籍法改正の時点において,同法11条1項の合理性を支える立法事実が存在していたとしても,その後の重国籍者の増 加の実情等によって上記立法事実は失われた旨主張するが,重国籍者の増 加等の事情が生じた 点において,同法11条1項の合理性を支える立法事実が存在していたとしても,その後の重国籍者の増 加の実情等によって上記立法事実は失われた旨主張するが,重国籍者の増 加等の事情が生じたからといって,できる限り重国籍の発生を防止し解消させるべきであるという前記(2)イの理念そのものが否定されるものではないことからすれば,これにより上記立法事実が失われたとはいえない。 オ原告は,原告について日本国籍を意思に反して強制的には奪われない権利が保障されなければならないことは議論の余地がないところ,国籍法1 1条1項の適用においては,これを国外居住者に限定するとか,未成年者について適用をしないという限定解釈をすることは不可能であり,原告に対して同項を適用することは,何らの必要性もなく原告の日本国籍を喪失させるもので,憲法13条及び22条2項に違反し,違憲,無効である旨主張する。 しかしながら,前記(1)のとおり,原告の主張するような権利が保障されるとは解し難く,また,原告について,重国籍の発生を防止する必要性があることに変わりはないから,原告の主張は前提を欠くものというべきであって,採用することができない。 (4) 小括 以上のとおり,原告の主張する日本国籍の離脱を強制されない権利が憲法13条及び22条2項により保障されるものとは解し難く,また,仮に日本国籍を意思に反して奪われない利益や法的地位が原告の主張する憲法の規定等の精神に照らして尊重されるべきものであることから,憲法10条により国籍の得喪に関する要件について立法府に与えられた裁量に一定の制約が及 び得るとしても,国籍法11条1項の規定が立法府に与えられた裁量権の範囲を逸脱又は濫用するものとは解されない。したがって,同項が憲法10条, ついて立法府に与えられた裁量に一定の制約が及 び得るとしても,国籍法11条1項の規定が立法府に与えられた裁量権の範囲を逸脱又は濫用するものとは解されない。したがって,同項が憲法10条,13条及び22条2項に違反するということはできない。 4 争点(4)(国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するか否か)について(1) 前記3(1)のとおり,憲法10条は,国籍の得喪に関する要件をどのよう に定めるかについて,立法府の裁量判断に委ねる趣旨であると解される。も っとも,このようにして定められた日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別が,合理的な理由のない差別的取扱いとなるとき,すなわち,立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には,当 該区別は,合理的な理由のない差別として,憲法14条1項に違反するものと解すべきである(平成20年大法廷判決,前掲最高裁平成27年3月10日第三小法廷判決参照)。 原告は,国籍法11条1項について,①外国の国籍の当然取得によって日本国籍との重国籍が生じる場合,②出生によって日本国籍と外国の国籍を取 得して重国籍が生じる場合及び③日本国籍を志望取得することによって外国の国籍との重国籍が生じる場合との間の各区別について,合理的な理由のない差別に当たる旨主張していることから,以下,これらの各区別について,立法目的に合理的な根拠が認められるか否か,及び当該区別と立法目的との間に合理的関連性が認められるか否かを検討する。 (2) 外国の国籍の当然取得により生じる重国籍についてア日本国籍を有する者が,外国人との婚 認められるか否か,及び当該区別と立法目的との間に合理的関連性が認められるか否かを検討する。 (2) 外国の国籍の当然取得により生じる重国籍についてア日本国籍を有する者が,外国人との婚姻等の身分行為によって外国の国籍を取得した場合や親族の外国への帰化等に伴って外国の国籍を取得した場合等,自己の志望によらずに外国の国籍を当然取得した場合には,国籍法11条1項は適用されず,当該重国籍を有するに至った者は,同法14 条1項に基づき,重国籍となった時から2年以内(重国籍となった時が20歳に達する前であれば22歳に達するまで)にいずれかの国籍を選択しなければならないとされている。そして,日本国籍の選択の方法は,外国の国籍を離脱することによるほか,選択の宣言をすることによって行うものとされている(同条2項)。 原告は,この点について,重国籍の防止という観点からすれば,当然取 得によって外国の国籍を取得した者も自己の志望によって外国の国籍を取得した者も何ら差異はないはずであるにもかかわらず,前者については国籍選択の機会が与えられる上,選択の宣言を行った場合であっても重国籍を継続することができる一方,後者の場合には,自己の志望による外国の国籍の取得に伴って当然に日本国籍を喪失することとなることから,両 者の間の区別は不合理な差別的取扱いに当たる旨主張する。 イそこで検討すると,外国の国籍を当然取得した日本人は,国籍の得喪が各国の国内管轄事項に属しており,外国の国籍の得喪を我が国の法律で規律することができないところ,身分行為等によって何ら本人の意思を介在することなく外国の国籍を取得したのであるから,そのような者につい て,直ちに日本国籍を失うものとはせずに,国籍選択の機会を与えることは合理的であるといえ 分行為等によって何ら本人の意思を介在することなく外国の国籍を取得したのであるから,そのような者につい て,直ちに日本国籍を失うものとはせずに,国籍選択の機会を与えることは合理的であるといえる。そして,国籍法14条1項が,一旦重国籍が生じることを前提として,重国籍が生じた時から2年以内(重国籍となった時が20歳に達する前であれば22歳に達するまで)にいずれかの国籍を選択しなければならないものとして猶予期間を設けていることには,上記 のとおり外国の国籍を取得した者に国籍選択の手段を与えるという目的との間の合理的関連性を認めることができる。 他方で,自己の志望によって外国の国籍を取得した者については,当該外国の国籍を取得する前に日本国籍と外国の国籍のいずれかを選択する機会が与えられているのであるから,外国の国籍の取得後にあえて国籍選 択のための猶予期間を設ける必要は乏しく,反面において,重国籍から生じる弊害をできる限り防止し,解消させる観点からは,速やかに日本国籍を喪失させることが望ましいところ,その実現を図るという国籍法11条1項の立法目的は合理的であるといえる。また,そのための手段として,同項が外国の国籍の志望による取得によって日本国籍を当然に喪失する と定めていることには,上記立法目的のための手段として合理的関連性を 認めることができる。 なお,国籍の得喪が各国の国内管轄事項に属する以上,外国の国籍の離脱に法的な強制力を持たせることはそもそも不可能であるから,国籍法16条1項の定める選択の宣言をした場合の国籍離脱の努力義務に法的な強制力がなく,選択の宣言をしながら上記義務を履行しない結果として重 国籍を保持している者が事実上存在するからといって,不合理な差別的取扱いが生じているとはいえない。 籍離脱の努力義務に法的な強制力がなく,選択の宣言をしながら上記義務を履行しない結果として重 国籍を保持している者が事実上存在するからといって,不合理な差別的取扱いが生じているとはいえない。 そうすると,上記アの区別については,合理的な立法目的によるものであり,かつ,立法目的との間に合理的関連性を有する手段により生じたものであるということができる。 ウしたがって,国籍法11条1項により,外国の国籍を当然取得した者と外国の国籍を志望取得した者との間に生じる前記アの区別は,合理的な理由のない差別には当たらないというべきである。 (3) 生来的取得により生じる重国籍についてアある者が血統主義を採用する外国の国籍を有する者とその配偶者である 日本国民との間に生まれた場合や,一方の親が日本国民であって生地主義を採る国で生まれた場合(国籍法12条の規定により出生の時に遡って日本の国籍を失った者を除く。)には,その者は出生によって日本国籍及び外国の国籍を取得することとなる。このように,生来的に重国籍となった者については,同法14条1項により,22歳に達するまでにいずれかの 国籍を選択しなければならないとされている。 原告は,重国籍の防止という観点からすれば,上記のように生来的に重国籍となった者も自己の志望によって重国籍となった者も何ら差異はないはずであるにもかかわらず,前者については国籍選択の機会が与えられる上,選択の宣言を行った場合であっても重国籍を継続することができる 一方,後者の場合には,自己の志望による外国の国籍の取得に伴って当然 に日本国籍を喪失することとなることから,両者の間の区別は不合理な差別的取扱いに当たる旨主張する。 イしかしながら,生来的に外国の国籍と日本国籍を取得する者は,自 の国籍の取得に伴って当然 に日本国籍を喪失することとなることから,両者の間の区別は不合理な差別的取扱いに当たる旨主張する。 イしかしながら,生来的に外国の国籍と日本国籍を取得する者は,自らの意思によらずに重国籍となるのであるから,外国の国籍の当然取得の場合と同様,国籍選択の機会を与え事後的に重国籍を解消するものとすること は合理的であり,その手段として22歳に達するまで猶予期間を設けることには合理的関連性がある。他方で,志望による外国の国籍の取得の場合,重国籍の発生防止の観点から速やかに日本国籍を喪失させるのが望ましく,その実現を図る国籍法11条1項の立法目的は合理的であるといえること,及び同項の定めが上記立法目的を達成する手段として合理的関連 性があることは,前記(2)イのとおりである。なお,同法16条1項の定める国籍離脱の努力義務に法的な強制力がなく,上記義務を履行しない者がいる結果として重国籍を保持している者が事実上存在するからといって,不合理な差別的取扱いが生じているとはいえないことは,前記(2)イのとおりである。そうすると,上記アの原告の主張するような区別につい ては,合理的な立法目的によるものであり,かつ,立法目的との間に合理的関連性を有する手段により生じたものであるということができる。 ウしたがって,国籍法11条1項により,生来的に重国籍となった者と外国の国籍を志望取得した者との間に生じる前記アの区別は,合理的理由のない差別には当たらないというべきである。 (4) 日本国籍の志望取得により生じる重国籍についてア国籍法3条1項は,出生後に日本国民である親から認知された子について,認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合であって,その父又は母が現に日本国民であるとき 生じる重国籍についてア国籍法3条1項は,出生後に日本国民である親から認知された子について,認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合であって,その父又は母が現に日本国民であるとき,又はその死亡の時に日本国民であったときは,届出によって日本国籍を取得することができることを 定めている。また,同法17条1項は,国籍留保制度によって日本国籍を 失った者で20歳未満の者は,日本に住所を有するときは届出によって日本国籍の再取得ができると定めている。さらに,同法5条2項は,帰化を許可するに当たっては従前の国籍を喪失させることが必要であるところ,本人の意思にかかわらずその国籍を失うことができない場合,特別の事情があると認めるときは,帰化を許可することができる旨を定めている。 原告は,上記のような届出による日本国籍の取得及び帰化による日本国籍の取得によって重国籍が生じ得るところ,重国籍の防止という観点からすれば,日本国籍の志望取得によって重国籍となった者も自己の志望によって重国籍となった者も何ら差異はないはずであり,しかも,志望取得によって日本国籍を取得する際に原国籍の離脱を要件とすることは法技術的 に可能であるにもかかわらず,一旦重国籍を発生させることを容認している点について,両者の間の区別が不合理な差別的取扱いに当たる旨主張する。 イしかしながら,そもそも国籍法11条1項は,日本国籍を有する者が自己の志望によって外国の国籍を取得した場合に元々有していた日本国籍を 喪失する旨を定めているのに対し,原告が指摘する同法3条1項,17条及び5条2項が適用される場面では,いずれも元々外国の国籍を有していた者が届出や帰化によって日本国籍を取得した場合に,いかなる方法で元々有していた外国の国籍を喪失さ 告が指摘する同法3条1項,17条及び5条2項が適用される場面では,いずれも元々外国の国籍を有していた者が届出や帰化によって日本国籍を取得した場合に,いかなる方法で元々有していた外国の国籍を喪失させるかが問題となるのであって,両者は全く異なる場面を想定した規定であるから,単純に比較することはでき ない。 そして,外国の国籍の得喪について我が国の法律で規律することができない以上,日本国籍を志望によって取得した者について,一旦重国籍を発生させた上で,国籍法16条1項により事後的に当該外国の国籍の離脱の努力義務を課すことが不合理であるとはいえない。 したがって,上記アの主張をもって,国籍法11条1項が憲法14条1 項に違反するということはできない。 (5) 原告のその余の主張についてア原告は,国籍法が,重国籍が発生するいくつかの場面を想定しつつ,それらの解消を国籍選択制度によって統一的に処理することを予定しているにもかかわらず,同法11条1項に限って上記の制度設計から除外する必 要性はない旨主張する。 しかしながら,前記(2)及び(3)並びに前記3(2)ウで述べたとおり,重国籍の発生をできる限り防止するという観点からすれば,自己の志望によって外国の国籍を取得するという,改めて国籍選択のための猶予期間を与える必要に乏しい場面において,当然取得等の他の場面と異なり直 ちに日本国籍を失うものとのとすることが不合理であるとはいえないから,原告の主張を採用することはできない。 イ原告は,昭和59年国籍法改正当時,同法11条1項が憲法14条1項に違反しないものであったとしても,その後の国際的な動向,重国籍者が増加したこと等を指摘して,国籍法11条1項の合理性を支える立法事実 は失われた旨主張す 当時,同法11条1項が憲法14条1項に違反しないものであったとしても,その後の国際的な動向,重国籍者が増加したこと等を指摘して,国籍法11条1項の合理性を支える立法事実 は失われた旨主張する。 しかしながら,できる限り重国籍を防止し解消させるべきであるという理念に変わりはなく,自己の志望によって外国の国籍を取得する場面について,改めて国籍選択のための猶予期間を与える必要に乏しいという点に変わるところはないから,上記主張には理由がない。 (6) 小括以上のとおり,原告の主張する各区別については,いずれも合理的な理由のない差別的な取扱いであるとは認められないから,国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するということはできない。 5 結論 以上によれば,原告は,平成13年▲月▲日,旧ロシア国籍法15条2項前 段に基づきロシア国籍を取得したことにより,国籍法11条1項に該当し,日本国籍を喪失したものと認められる。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官森英明 裁判官小川弘持 裁判官三貫納有子 (別紙省略)

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