平成26年10月22日判決言渡 平成26年(ネ)第10052号債務不存在確認請求控訴事件(原審東京地方裁判所平成25年(ワ)第32026号) 口頭弁論終結日平成26年8月27日判決 控訴人株式会社高井製作所 訴訟代理人弁護士田中成志 平出貴和 板井典子 山田徹 澤井彬子 杉本賢太 訴訟代理人弁理士濱田百合子 本山慎也 補佐人弁理士北島健次 被控訴人株式会社ヤナギヤ 訴訟代理人弁護士吉田和彦 高石秀樹 主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 本件を東京地方裁判所に差し戻す。 第2 事案の概要等 なお,呼称は,審級による読替えを行うほか,原判決に従う。 1 請求 被控訴人が,控訴人に対し,原判決別紙控訴人製品目録記載の製品(以下「控訴人製品」という。)の生産,譲渡,貸渡し,輸出若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)について,本件特許権に基づく差止請求権,廃棄請求権,損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を有しないことを確認する。 2 事案の概要 本件は,控訴人が,被控訴人に対し,控訴人による控訴人製品の生産,譲渡等は,被控訴人の有する本件特許権(特許第3537377号。発明の名称「円筒式 求権を有しないことを確認する。 2 事案の概要本件は,控訴人が,被控訴人に対し,控訴人による控訴人製品の生産,譲渡等は,被控訴人の有する本件特許権(特許第3537377号。発明の名称「円筒式絞り機」)を侵害するものではない旨主張し,被控訴人が,控訴人に対して,特許法100条1項に基づく差止請求権,廃棄請求権を有しないこと,不法行為に基づく損害賠償請求権,不当利得返還請求権を有しないことの確認を求めた事案である。 被控訴人は,本案に対する答弁をすることなく,控訴人の訴えは確認の利益を欠くものであるから不適法であるとして,訴え却下の答弁を行った。 原審は,平成26年4月24日,控訴人の訴えを却下する旨の判決を言い渡したところ,控訴人は,同年5月7日に控訴した。 3 前提事実原判決2頁19行目の「特許権者である」の後ろに「(甲1,2)」を加えるほか, - 3 -原判決第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。 第3 確認の利益に関する当事者の主張次のとおり原判決を補正するほか,原判決第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正) 1 原判決3頁22行目の「受けた」と「。」の間に「(甲14の1ないし14の3)」を挿入する。 2 原判決4頁9行目の末尾に改行の上,次のとおり加える。 「イ被控訴人の上申書(甲6)は,控訴人旧製品のY字型スクレーパを並行型に設計変更すれば,本件特許権の技術的範囲に属さないと控訴人は考えているという控訴人の認識(甲5)が,誤解であることを指摘したにすぎず,控訴人製品が本件特許権を侵害すると述べたものではない。 また,被控訴人の広報誌「ヤナギヤニュース」(甲9)は,別件訴訟が和解により終了した事実と当該和解の内容を正確に記述したものにすぎず,控訴人製品が 製品が本件特許権を侵害すると述べたものではない。 また,被控訴人の広報誌「ヤナギヤニュース」(甲9)は,別件訴訟が和解により終了した事実と当該和解の内容を正確に記述したものにすぎず,控訴人製品が本件特許権を侵害すると述べたものではない。ヤナギヤニュースの内容が正確であるにもかかわらず,控訴人が取引先から問合せを受けたとすれば,それは控訴人が設計変更後も控訴人旧製品と同じ名称を使用し続けているからであって,被控訴人の態度によって控訴人の法的地位が不安定となったわけではない。」 3 原判決4頁10行目の「イ」を「ウ」と改める。 第4 当審における当事者の主張 1 控訴人被控訴人は,別件訴訟において,本件上申書(甲6)のみならず,平成24年10月29日付け準備書面(3)(甲21),平成25年2月18日付け準備書面(5)(甲19)でも,控訴人製品が本件発明の技術的範囲であることを明言していた。 - 4 -また,控訴人は,被控訴人が別件訴訟において控訴人旧製品の構成を熟知しており(甲15ないし19,枝番号の書証を含む。),控訴人が被控訴人に対して説明したとおり,控訴人旧製品と控訴人製品の差異は,スクレーパの形状をY型スクレーパから平行スクレーパに変更しただけであるから,被控訴人は控訴人製品の構成を承知していた。 一般的にいって,警告書において,「貴社製品は,特許発明の技術的範囲に属すると解釈することも可能です。」とだけ述べ,具体的に差止請求や損害賠償請求をしなれば,現に紛争が生じていないと解するのは不当であり,そのような事例と比較してみても,本件において,紛争の成熟性は十分認められる。 なお,被控訴人は,控訴人が本件特許権の請求項すべてに対して申し立てた無効審判請求(甲7)を受けて,平成26年2月24日付け訂正請求書(甲2 てみても,本件において,紛争の成熟性は十分認められる。 なお,被控訴人は,控訴人が本件特許権の請求項すべてに対して申し立てた無効審判請求(甲7)を受けて,平成26年2月24日付け訂正請求書(甲20の1)及び同年4月3日付け手続補正書(甲20の2)により,本件特許権の特許請求の範囲の請求項すべてにつき訂正請求をした。かかる訂正請求が,別件訴訟における主張とどのような関係となるかは必ずしも明らかではないが,控訴人製品が本件特許を侵害していないこと,控訴人の権利,法的地位に具体的,現実的な危険が生じていることに変わりはない。よって,本件訴えには確認の利益が認められる。 現実に,特許権に基づく差止請求権及び損害賠償請求を行使している場面においては,関連製品に関わる権利又は法律関係についても,できる限り同一機会で確定することが訴訟経済にも適う。 2 被控訴人被控訴人は,別件訴訟では,控訴人旧製品について議論していたのであり,上記準備書面(3)も,控訴人製品について権利行使の対象とする前提で主張したものではない。被控訴人が,控訴人製品の構造を知らずに主張したことが,控訴人製品に対する権利行使とみなされる理由はない。現時点においても,被控訴人は,控訴人製品の構造を確認していないし,確認する意図もない。実際の製品を検討もせずに,特許発明の技術的範囲への属否を述べることは困難である。 - 5 -被控訴人は,本件和解が成立した平成25年10月17日以降,控訴人に対し,具体的な権利行使の態度を示したことはなく,控訴人において,控訴人製品に関して本件特許権に起因する現実的な不安ないし危険が客観的に発生していない。 本件は,控訴人が主張するような,警告書で特許権の技術的範囲に属する可能性を示唆した場合とは全く状況が異なる。 本件では,当 件特許権に起因する現実的な不安ないし危険が客観的に発生していない。 本件は,控訴人が主張するような,警告書で特許権の技術的範囲に属する可能性を示唆した場合とは全く状況が異なる。 本件では,当事者間に,控訴人製品に関する現実的な紛争はなく,控訴人の権利,法的地位に具体的,現実的な危険は存在せず,即時確定の利益はない。 第5 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の訴えは,訴えの利益を欠くものとして不適法なものであるから,控訴人の本件訴えを却下した原判決は相当であり,本件控訴は棄却されるべきものと判断する。 その理由は,次のとおり原判決を補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正)(1) 原判決4頁25行目の「被控訴人は,」の後ろに,「控訴人製品について,控訴人から,別件訴訟において,本件訴訟の訴状別紙の図面と同じ図面を提示されて控訴人旧製品のY字型スクレーパを平行スクレーパに構造変更したものであるとの説明を受け,本件訴訟の原審においても,訴状別紙で同じ説明を受けただけで,現物を確認したわけではなく(甲5,弁論の全趣旨),具体的に,」を加える。 (2) 原判決5頁8行目の「甲5,6」の後ろに,「,18,19,21,乙1」を加える。 (3) 原判決5頁9行目の末尾に,改行の上,「ア控訴人が,平成24年6月4日付け第2準備書面において,控訴人旧製品は,本件発明1の「滞留部における受け入れ量よりも排出量を小さくするような絞り通路が連通されて」の要件を充足しないと主張したのに対し,被控訴人は,平成24年10月29日付け準備書面(3) - 6 -において,加圧蓋の隙間をスクレーパの隙間よりも極端に狭く設定する場合も同要件を充足すると主張し を充足しないと主張したのに対し,被控訴人は,平成24年10月29日付け準備書面(3) - 6 -において,加圧蓋の隙間をスクレーパの隙間よりも極端に狭く設定する場合も同要件を充足すると主張した。また,被控訴人は,平成25年2月18日付け準備書面(5)においても,同様の主張を繰り返した。」を加える。 (4) 原判決5頁10行目の冒頭の「ア」を「イ」と改める。 (5) 原判決5頁19行目の冒頭の「イ」を「ウ」と改める。 (6) 原判決6頁2行目の末尾に,「その際,被控訴人は,現物の控訴人製品の構造を確認したわけではなく,控訴人の設計変更に関して,本件訴訟の訴状別紙の図面と同じ図面を用いた上申書での説明を前提に,本件上申書を提出したり,控訴人の提案を拒絶したりした。」を加える。 (7) 原判決6頁3行目の冒頭の「ウ」を「エ」と改める。 (8) 原判決6頁8行目の「属しないことを」の後ろに「当然に」を加える。 (9) 原判決6頁9行目の「すなわち,被控訴人は,」の後ろに,「控訴人の被控訴人の主張に対する理解が誤っていることを指摘するとともに,本件特許権の請求項の解釈として,本来別件訴訟の対象製品ではない控訴人製品につき,本件特許権の技術的範囲に属するような解釈も可能性としてあり得ることを示唆したにとどまる。しかも,その際,被控訴人は,本件和解交渉経過において,控訴人が控訴人旧製品のみならず控訴人製品も和解対象としたいという申出に対して,実際に控訴人製品の構造を確認することなく,控訴人製品が,控訴人の主張するように,控訴人旧製品のY型スクレーパを平行スクレーパに変更した製品であるということを前提とし,本件特許の技術的範囲について特定の解釈に依拠した場合には,控訴人製品が,本件特許権の技術的範囲に属することになるという 製品のY型スクレーパを平行スクレーパに変更した製品であるということを前提とし,本件特許の技術的範囲について特定の解釈に依拠した場合には,控訴人製品が,本件特許権の技術的範囲に属することになるという二重の仮定に立った上での意見を述べたにすぎない。したがって,控訴人としては,」を加える。 (10) 原判決6頁11行目の「属すると」の後ろに「確定的に」を加える。 (11) 原判決6頁22行目の冒頭の「① 」の後ろに,「私的自治と自己責任の原則が妥当する私法の領域において,私人は,他の私人に対して自己の権利の有無に関して意見を求める権利を有するものではないことが原則であり,意見を求めら - 7 -れた者がこれに回答すべき法律上の義務を負うものでもないのであって,」を加える。 (12) 原判決6頁23行目の「上記のような」の後ろに,「交渉経過を経て最終的に」を加える。 (13) 原判決6頁24行目の「といって,」の後ろに,「被控訴人が本来回答義務を負わない控訴人製品を和解の対象に含めなかったにすぎず,」を加える。 (14) 原判決6頁24行目の「侵害を」の後ろに,「確定的に」を加える。 (15) 原判決7頁4行目の「特許権者に過度の負担をかけるものであり,」を,「上記で指摘した私的自治と自己責任の原則に照らして,特許権者に不当な義務を課すものであり,」と改める。 (16) 原判決7頁9行目の「製造及び販売」の後ろに,「を」を加える。 2 控訴人の当審における主張に対する判断(1) 控訴人は,被控訴人が,確定的に控訴人製品が本件発明1の特許請求の範囲に属する旨主張していたと主張する。 しかしながら,被控訴人が,控訴人製品の構造を確認した上で,控訴人旧製品のY型スクレーパを平行スクレーパに設計変更したものと認めた が本件発明1の特許請求の範囲に属する旨主張していたと主張する。 しかしながら,被控訴人が,控訴人製品の構造を確認した上で,控訴人旧製品のY型スクレーパを平行スクレーパに設計変更したものと認めたわけではないことは,既に述べたとおりである。そして,別件訴訟の対象ではない控訴人製品につき,別件訴訟の和解交渉の過程において,その構造を確認もせずに,被控訴人が,本件上申書(甲5)や準備書面(甲19,21)において,控訴人製品が本件特許権の特許請求の範囲に属すると確定的に意見表明したとはいえないこともまた,既に述べたとおりである。上記書面の一部において,断定的な表現が用いられたとしても,上記の認定が左右されるものではない。 したがって,控訴人の主張は前提を欠くものであり,理由がない。 (2) また,控訴人は,被控訴人が別件訴訟において控訴人旧製品の構成を熟知しており,控訴人旧製品と控訴人製品との差異は,スクレーパの形状をY型スクレーパから平行スクレーパに変更しただけであるから,被控訴人は控訴人製品の構成を承知していたと主張する。 - 8 -しかしながら,被控訴人が,控訴人旧製品の構成を熟知していたとしても,控訴人旧製品と控訴人製品との差異が,控訴人の説明のとおり,スクレーパの形状だけにとどまるものであるのか否かは,被控訴人にとって真偽不明であり,被控訴人がこれを実際に確認したことを裏付ける資料はないのであるから,被控訴人が控訴人製品の構成を承知していたとは認められない。 したがって,控訴人の主張は,前提を欠くものである。被控訴人の本件上申書や上記準備書面の各記載が,あくまでも控訴人製品の構成を承知せずに行われたものである以上,控訴人製品が本件特許権の特許請求の範囲に属すると確定的に意見表明したとはいえないことは既に述べたとお 上申書や上記準備書面の各記載が,あくまでも控訴人製品の構成を承知せずに行われたものである以上,控訴人製品が本件特許権の特許請求の範囲に属すると確定的に意見表明したとはいえないことは既に述べたとおりであって,確認の利益を肯定するだけの紛争の成熟性を認めることはできない。 (3) さらに,控訴人は,一般的に,警告書において,「貴社製品は,特許発明の技術的範囲に属すると解釈することも可能です。」とだけ述べ,具体的に差止請求や損害賠償請求をしなれば,現に紛争が生じていないと解するのは不当であり,それとの比較においても,本件では,紛争の成熟性は十分認められるとも主張する。 しかしながら,本件で控訴人が問題視する本件上申書や上記準備書面では,本来,特許権侵害の対象として審理されていない製品に関して,事実確認をしないまま,控訴人の主張を前提として,仮定的な事実に基づいた意見が述べられているにすぎないから,これと控訴人の主張する一般的事例とを比較することは相当ではない。 控訴人の主張は採用できない。 (4) なお,控訴人は,控訴審において,本件訴えの確認の利益に関する事情か否かを明言することなく,本件特許権に対する無効審判における被控訴人による訂正請求の事実(甲20の1,20の2。以下「本件訂正」という。)を指摘する。 本件訂正は,請求項1について,「分離液分を得るために用いる円筒式絞り機であって,軸方向を平行にして並設された左右1対の絞り用筒体の少なくとも一方が,多数の微細孔が形成された多孔筒体に形成され,両絞り筒体は,対向側が互いに上から下に向けて回転することにより,対向上側面間に受け入れた絞り原料を両絞り - 9 -用筒体間で圧搾して,分離液分を多孔筒体となる絞り用筒体内に微細孔を通して流入させるように形成され,両絞り用筒体の対向下側 回転することにより,対向上側面間に受け入れた絞り原料を両絞り - 9 -用筒体間で圧搾して,分離液分を多孔筒体となる絞り用筒体内に微細孔を通して流入させるように形成され,両絞り用筒体の対向下側面の途中に分離固形分のスクレーパが設けられ,このスクレーパと,両絞り用筒体の対向中心部から両スクレーパに至るまでの対向下側面部分と,で囲まれるように分離固形分の滞留部が形成され,この滞留部に,滞留した分離固形分に圧搾圧力を与え,対向した多孔筒体の下側面部において微細孔を通して分離液分を筒体に流入させるように,受け入れ量よりも排出量を小さくするように形成した絞り通路が連通されていることを特徴とした円筒式絞り機」とし,下線部分を付加して限定するものであるところ(他の請求項も請求項1を引用しているので,同内容の訂正となる。),現時点では,本件訂正は確定していない。 そして,控訴人が指摘するこれまでの被控訴人の控訴人製品に関する言動は,いずれも本件訂正前になされたものにすぎないから,それらが,訂正によって付加した構成要件についての充足を主張する趣旨の言動と評価する余地はないのであって,紛争の成熟性は一層低下したものといえる。また,本件訂正前の請求項を前提とした不法行為に基づく損害賠償債務の不存在確認請求自体が,当事者間の紛争解決のための法的手段として適切なものとはいい難い。 したがって,本件訂正が確定していない段階とはいえ,確認の利益が認められないという結論は一層明らかといえる。 第6 結論以上より,控訴人の本件訴えを却下した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 - 10 - 裁判長裁判官 本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 主文 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官清水節 裁判官新谷貴昭 裁判官鈴木わかな
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