平成15(ワ)3565 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成18年3月17日 大阪地方裁判所 棄却
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判決文本文21,227 文字)

- 1 -主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,原告らの負担とする。 事実及び理由 第1請求 被告は,原告Aに対し,1905万7202円及びこれに対する平成14年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告B及び同Cに対し,各1002万8601円及びこれに対する平成14年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,亡D(以下「亡D」という)の勤務先で実施された定期健康診断に。 おいて,これを受託していた被告の担当医が,亡Dの胸部X線検査の異常陰影を見落とし,このために亡Dが肺がんにより死亡するに至ったなどとして,亡Dの相続人である原告らが,被告に対し,民法715条に基づき損害賠償(亡Dの死亡日以降の遅延損害金の支払を含む)を求めた事案である。 。 第3基礎となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない)。 原告Aは,亡Dの妻であり,原告B及び同Cは,いずれも亡Dの子である。 被告は,傘下にE病院,健康管理事業部を有し,昭和62年以降,F健康保険組合(以下「健康保険組合」という)から委託を受けて,毎年一定の時期に。 健康保険組合に加入している各信用金庫の従業員に対する定期健康診断を実施している。これらの定期健康診断は,被告の医師,診療放射線技師,看護師らが検診車で各信用金庫本店,営業所等に赴いて実施され,実施項目は,身長・体重・視力・聴力・血圧の測定,検尿,胸部X線間接撮影及び診察(問診・聴診)である。 亡Dは,勤務先であるG信用金庫で実施される定期健康診断を毎年受診していたところ平成11年5月26日同金庫本店で実施された定期健康診断以,,(- 2 -下「平成11年健診」という)を受け,その中で,胸部X線間接撮 庫で実施される定期健康診断を毎年受診していたところ平成11年5月26日同金庫本店で実施された定期健康診断以,,(- 2 -下「平成11年健診」という)を受け,その中で,胸部X線間接撮影(以下,。 これにより撮影された写真(甲A4)を「平成11年写真」という)が行われ。 た。 被告は,亡Dに対し,平成11年健診の結果に基づいて精密検査の指示をすることはなかった。 亡Dは,平成12年5月11日,G信用金庫本店で実施された定期健康診断(以下「平成12年健診」という)を受け,その中で,胸部X線間接撮影(以。 下,これにより撮影された写真(甲A5)を「平成12年写真」という)が行。 われた。 亡Dは,平成12年6月17日,医療法人Hが開設するI病院を受診した。 その後,亡Dは,I病院の外来で種々の検査をした後,平成12年9月1日から12日まで同病院に入院して検査を受けた結果,ステージⅡB(T3,N0,M0)の肺がん(腺がん)と診断された(甲A2,7の53・54・69)。 ,,(,・70頁しかし同月19日の再入院後の検査の結果病期はⅢBT4Nx,M0)と判断された(甲A2,7の130頁。 ) 亡Dは,平成12年9月29日以降,J病院(以下「J病院」という)に。 繰り返し入退院をして治療等を受けていたが,平成14年8月5日午後8時,()。(,)同病院において肺がん腺がんのため死亡した甲A68から12まで 本件においては,平成11年写真及び平成12年写真に精密検査の指示を要すべき異常陰影があるか否かについて,5名の鑑定人(医師)によるいわゆるアンケート方式による鑑定(以下「本件アンケート鑑定」という)を実施し。 た。 第4 争点 平成11年健診につき被告担当医に平成11年写真の異常陰影を見 ついて,5名の鑑定人(医師)によるいわゆるアンケート方式による鑑定(以下「本件アンケート鑑定」という)を実施し。 た。 第4 争点 平成11年健診につき被告担当医に平成11年写真の異常陰影を見落とすなどの過失があるか。 平成12年健診につき被告担当医に平成12年写真の異常陰影を見落とすな- 3 -どの過失があるか。 上記1の過失と亡Dの死亡との間の相当因果関係の有無 上記2の過失と亡Dの死亡との間の相当因果関係の有無 亡Dの損害第5争点に対する当事者の主張 争点1(平成11年健診における過失の有無)(原告らの主張)(1)亡Dの平成11年写真には,肺尖部に沿った帽子状の陰影(apicalcap-肺尖部帽子状陰影)をはっきりと認めることができる(素人的には平成12年写真と比較すると分かりやすい。このapicalcapの陰影の意味するも。)のは,①加齢や陳旧性肺結核,②特に片側性(本件)の場合は,胸水,早期のpancoasttumor-肺溝の肺がん,などである。被告担当医は,肺尖部のapicalcapをはっきり確認し,両肺の内の右肺肺尖部に異常陰影を発見したが,これを何らの医学的理由なく「治癒型痕跡」と判定した。 (2)平成11年健診において,被告担当医は,その年度に初めて出現した右肺肺尖部及び胸膜部分に異常陰影を見つけた時に,亡Dが48歳というがん適齢期であり,しかもタバコを1日40本も吸うヘビー・スモーカーであることを考慮し,特に胸部X線検査は肺がん発見のためであるという医学上の認識により万全を期して専門医での精密検査を勧めたりまた前年度平,,,(成10年)のX線写真と比較して治癒型の疾病であるか否か確認したりすべき業務上の義務があるのに,これを怠った過失がある。 (3)本 して専門医での精密検査を勧めたりまた前年度平,,,(成10年)のX線写真と比較して治癒型の疾病であるか否か確認したりすべき業務上の義務があるのに,これを怠った過失がある。 (3)本件アンケート鑑定においては,5名の専門家のうち2名しか異常陰影を見つけることができなかったが,平成11年健診の担当医は,平成11年写真に異常陰影を認めており,それを前年と比較することなく,陳旧性の胸膜炎と判定した誤りを犯したのであって,この判定ミスには,医療過誤の成立する余地がある。 - 4 -(被告の主張)(1)平成11年健診は,労働安全衛生法に基づく定期健康診断であって,肺がんの診断を目的としたいわゆる「肺がん検診」ではない。 定期健康診断は,企業等に所属する多数の者を対象にして異常の有無を確認するために行うものであり,病院と個人との個別の契約により,肺がんの「」,,発見を主目的として行う肺がん検診とは自ずから実施する検査の種類精度が異なる。 具体的には「肺がん検診」は,肺がんの発見を主目的とするものである,から,X線撮影はより詳細な画像が得られる直接撮影で行われるが,定期健康診断では,胸部のX線撮影は,通常,間接撮影で行われる。また,定期健康診断の担当医は大量のX線写真を短時間に読影しなければならないことから,担当医に課せられる注意義務の程度にも限界があるとされている。 (2)平成11年写真には,精密検査を指示すべき異常所見が存在するとの像は描出されていない。 平成11年写真を読影したのは被告理事長のK医師(以下「K医師」とい。),,。 ,うであるが同医師も写真上に陰影自体は認めているしかしながら同写真の読影は,大多数の受診者には異常がないという前提条件の下,大量のX線写真を短時間に読影しなければなら 。),,。 ,うであるが同医師も写真上に陰影自体は認めているしかしながら同写真の読影は,大多数の受診者には異常がないという前提条件の下,大量のX線写真を短時間に読影しなければならないという定期健康診断の制約を負った上でされている。このような条件下で,間接撮影で撮影されているために画像が詳細ではない,平成11年写真上の陰影から肺がんの疑いを指摘するのは極めて困難である。 (3)本件アンケート鑑定の結果からすれば,平成11年写真には,通常の定期健康診断において求められる医療水準に鑑み,定期健康診断において精密検査等を指示すべき異常所見は描出されていないと解すべきであることは明らかである。上記鑑定結果の評価としては,いずれの鑑定人も放射線科の専,,門家であるからそのうちの1名でも異常所見なしとの意見がある場合には- 5 -当該画像フィルムの読影として異常所見なしと判断することも,特に定期健康診断という場を考慮すると医療水準の範囲内と考えるのが妥当である。今回は,5名中実質的に1名のみが異常所見ありと指摘しているに過ぎないから,この理は一層明らかであると思料する。 したがって,平成11年健診において,被告に精密検査,再検査等を指示すべき義務は存せず,被告に診断・指示を誤った過失は存しない。 争点2(平成12年健診における過失の有無)について(原告らの主張)(1)本件アンケート鑑定の結果によっても,平成12年写真に異常所見が認められ,精密検査を必要とすることは全員一致と考えてよく,定期健康診断医として肺がんを疑い精密検査を指示すべきことを否定する医学所見は全く存しない。 ところが,平成12年健診の担当医は,再検査又は肺がんの疾病の性格から専門医の精密検査を受けることを告知すべき義務を怠り,胃カメラとか気管支の再 を指示すべきことを否定する医学所見は全く存しない。 ところが,平成12年健診の担当医は,再検査又は肺がんの疾病の性格から専門医の精密検査を受けることを告知すべき義務を怠り,胃カメラとか気管支の再検を指示するなどして,速やかな受診機会を失わせた過失がある。 (2)被告は,診察中に,L医師(以下「L医師」という)が亡Dに対し,。 胸部を含めた精密検査の受診を指示していると主張しているが,以下の理由から,そのような事実はない。 ア甲A第1号証の8健康診断個人票において胸部X線検査の欄に右(),「」,「」。 側治癒型不整形陰影と記載され更に有所見健康と記載されているこれは,胸部に心配はいらないということを意味する。そして,平成12年5月30日に診察医が電話で「胃カメラ」と「気管」受診を勧めるとある。問診で胸部精密検査を勧めたのなら,このような注意記事を個人票に記載するはずはない。被告の上記主張は虚偽である。 イ甲A第1号証の8には「血痰」との記載があるが,血痰というのは医,学大辞典(医歯薬出版)によれば「血液が気道に入ったことを示し,喀,- 6 -痰に血液が混じっているものを血痰という」と解説されている。胃・食道からの出血を意味しない。胃カメラの必要性はないし,患者のその後の検査で胃に異常は全くないことが確認されている。また,気管とは,同辞典によると「喉頭下縁から始まり食道前面を下がって第4,5胸椎間の高さで左右の気管支に分かれる」とあり,肺野は入らない。胃カメラとか気管などといって意識的に肺疾患表現を避けているとしか考えられない個人票(カルテに相当する)の記載である。 このような記載がされた理由は,平成11年のX線にもほぼ同個所に異常陰影があり(平成12年分に較べると比較的小さい,平成11年健。 いるとしか考えられない個人票(カルテに相当する)の記載である。 このような記載がされた理由は,平成11年のX線にもほぼ同個所に異常陰影があり(平成12年分に較べると比較的小さい,平成11年健。)診の担当医がこれを「有所見健康,右側治癒型胸膜癒着」と記載し,所見は健康と判定しているからである。この陰影が治癒型胸膜癒着であれば,当然前々年分(平成10年分)にもこの陰影が見られたはずであるから,2年分を見れば(この手法が簡単であることは,単に当該年のロールから番号部分を切り出して比較検討するだけで手間はかからない)治癒痕跡。 でないことが明白であったはずであり,そうなれば,前年度担当医の判読ミスが暴露されるので,あえて平成12年健診担当医は,前年を踏襲して「治癒型」と文書上判定して記載し,後で電話で他に異常があるかもしれないように装い,肺と関係のない何らかの再検査を指示し(そうすれば患者は何らかの再診を受けるので,患者の誤判定の不利益を幾分助けよう)としたものと思われ,これ以外には考えられない。 ウ亡Dも,平成12年11月,J病院に入院中に被告理事長に面談で抗議をしており,胸部再検査の指示がなかったことを直接非難している。亡Dが,平成12年健診の後,胸部検査を受けた理由は「胸痛」の自覚症状,が出たので,念のため,I病院の診察を受けたものであり,健診医の指示によるものではない。 (被告の主張)- 7 -(1)被告は,平成12年健診の際に,担当のL医師が亡Dに対し精密検査を,,。 受けるよう指示を出しており同年について診断指示を誤った過失はない(2)被告による健康診断の手続は,以下のとおりである。 ア健康診断実施前被告は,健康保険組合から依頼を受け,健康保険組合に加入している各信用金庫の従業員に対して定期健康診断を実施 た過失はない(2)被告による健康診断の手続は,以下のとおりである。 ア健康診断実施前被告は,健康保険組合から依頼を受け,健康保険組合に加入している各信用金庫の従業員に対して定期健康診断を実施しているところ,この健康診断は,健康保険組合所定の健康診断個人表(平成5年度以降は「健康診断個人票。以下「個人票」という)を用いて実施することとされてい」。 る。 個人票は,1頁に4年分の診断内容を記載できる形式になっており,健康診断実施前に各信用金庫より従業員に配布される。個人票は,後述するように定期健康診断終了後に各信用金庫に返却され,各信用金庫で従業員それぞれの初診時からの個人票が保管されているが,健康診断実施前に従業員に配布されるのは,未記入の記載欄のあるもの1頁分のみである(したがって,前年度で4年分の欄すべてに記載がされた場合には,当該年度には何も記載のない新しい個人票が配布される。 。)イ健康診断時健康診断当日,従業員は個人票を持参し,尿の採取,提出と看護師による身長・体重・視力・聴力・血圧の測定,測定された数値の個人票への記入を経た後,当日の担当医の診察(問診・聴診)を受ける。 担当医は,問診・聴診の結果,精密検査を要するような所見があれば,個人票の医師の診断欄に精密検査までは要しない所見については自「」,「覚症状」及び「他覚症状」の欄にその内容を記載する(この区分は,健康保険組合により個人票の記載要領として要請されているものである。 。)担当医の診察後,従業員は,胸部X線写真の撮影を受け,被告に個人票を提出する。 - 8 -以上で当日の健康診断手続は終了する。 ウ健康診断実施後健康診断実施後,被告は,胸部X線写真を持ち帰り,現像した上で読影を行う。 被告では,胸部X線写真の読影の結果,何らかの 出する。 - 8 -以上で当日の健康診断手続は終了する。 ウ健康診断実施後健康診断実施後,被告は,胸部X線写真を持ち帰り,現像した上で読影を行う。 被告では,胸部X線写真の読影の結果,何らかの異常陰影が認められた場合,読影医が異常陰影のあった場所,大きさ等をスケッチしてメモを残しているしたがって読影に当たって読影医は前年のメモを参照し前。 ,,(年度まで異常陰影が認められなかった場合には当然ながら参照すべきメモは存在しない,異常陰影が認められた場合には,前年度までの陰影と。)当該年度の陰影がどのように変化しているかも確認した上で,精密検査を要する陰影か否かを判断する。 そして,読影医は当該年度の異常陰影についてもメモを作成した上で,読影の結果を個人票に記載し,この個人票をもとに,被告事務局において健康診断結果一覧表(以下「一覧表」という)を2部作成する。 。 一度に読影するX線写真の枚数が多数であるため,読影医は,読影に当たって個人票の記載を確かめることはしないが,一覧表を作成する過程において,被告事務局が問診・聴診の結果とX線写真の読影の結果を照らし,,,合わせ問診・聴診の結果精密検査を要する所見が記載されているのに読影の結果,要精検の指示が出されていないものについては,読影医にその旨を報告し,読影医が再度読影を行うことにしている。 被告は,健康保険組合との間で,健康診断実施後約2週間で健康診断の結果を健康保険組合に提出しなければならないとされているため,健康診断実施から約2週間で一覧表を健康保険組合に提出し,あわせて撮影した胸部X線写真のロールを添付して個人票を健康保険組合に返却している。 その後の手続については被告の関知するところではないが,健康保険組合によると,個人票については健康保険組合で内容を確認 せて撮影した胸部X線写真のロールを添付して個人票を健康保険組合に返却している。 その後の手続については被告の関知するところではないが,健康保険組合によると,個人票については健康保険組合で内容を確認し,再検査及び- 9 -要精検とされた従業員に連絡して検査を指示するなどの必要な手続を経た上で,各信用金庫に返却しているとのことである。また,一覧表については健康保険組合で内容を確認して1部を各信用金庫に交付し,1部を健康保険組合で保管しているとのことである。 エ平成12年健診について亡Dに対する平成12年健診は,同年5月11日に,被告が亡Dの勤務先であるG信用金庫の本店に医師らを伴って実施した。 当日,亡Dの診察(問診・聴診)は,L医師が担当した。 L医師は,診察(問診・聴診)で,亡Dから血痰が出る旨の訴えがあったため,個人票の「医師の診断」の欄に「血痰」との記載をし(甲A1の8,その場で亡Dに対し,食道,喉頭,胃及び胸部の精密検査のため,)医療機関を受診するようにとの指示をした。L医師が食道及び喉頭についての精密検査の指示も出したのは,本人からは血痰の訴えがあった場合でも,消化器からの出血の可能性もあるからである。 L医師が「自覚症状」及び「他覚症状」の欄に「n.p (異常なし)と,」の記載(甲A1の8)をしたのは,健康保険組合から,個人票の記載要領として,精密検査を要する所見は「医師の診断」欄に,精密検査を要しない所見は「自覚症状」及び「他覚症状」の欄に記載するように求められていたため,それに従ったものである。 そして,健康診断終了後,被告は,保管していた個人票に胸部X線写真の読影の結果を記入し,平成12年5月25日に一覧表等とともに個人票を健康保険組合に返却した。 健康保険組合の説明によれば,その後,個人票等の返却を受けた健康 被告は,保管していた個人票に胸部X線写真の読影の結果を記入し,平成12年5月25日に一覧表等とともに個人票を健康保険組合に返却した。 健康保険組合の説明によれば,その後,個人票等の返却を受けた健康保険組合で個人票及び一覧表の記載内容を確認していたところ,亡Dの個人票に「血痰」との記載があったため,職員が同月30日に亡Dに電話で連絡をとり,血痰に関する医師からの指示の有無及びその内容について問い- 10 -合わせたとのことであり,これに対して亡Dから,精密検査の指示があったとの返答があったので,同職員が個人票に「5/30TELにて確認。診察Drより一度胃カメラの指示あり。気管の受診も勧める」との記載をしたとのことである。 (3)原告は,平成12年健診の担当医について「再検査又は肺がんの疾病,の性格から専門医の精密検査を受けることを告知すべき義務を怠り,胃カメラとか気管支の再検を指示するなどして,速やかな受診機会を失わせた過失がある」などと主張する。 しかしながら,平成12年健診を担当したL医師は,健康診断当日の同年5月11日に亡Dに対し,食道,喉頭,胃及び胸部についての精密検査を受けるよう指示を出しており,亡Dは,同年6月17日にI病院を受診しているのであるから,亡Dが担当医師の誤った指示によって適切な診断を受ける機会を逸したという事実は存しない。 また,原告は,平成12年健診を担当した医師が消化器についての検査も指示したのは,平成11年健診の担当医の判読ミスが露呈しないようにする,,ためであったと主張するがそもそも平成11年健診の担当医に過失はなくまたL医師が食道,喉頭及び胃についても精密検査の指示を出したのは,本人から血痰の訴えがあった場合であっても消化器からの出血の可能性も否定できないからである。 したがって,平成12 当医に過失はなくまたL医師が食道,喉頭及び胃についても精密検査の指示を出したのは,本人から血痰の訴えがあった場合であっても消化器からの出血の可能性も否定できないからである。 したがって,平成12年健診の担当医に診断,指示を誤った過失はない。 なお,平成12年写真には,精査を要する陰影が認められるところ,これを読影した被告理事長のK医師は,亡Dに対し特段の指示をしていないが,L医師が上記指示をしている以上,被告に過失はない。 争点3(上記1の過失と死亡との因果関係の有無)について(原告らの主張)(1)平成11年健診で,前年にない陰影があるとさえ判定すれば,亡Dの肺- 11 -がんは少なくとも第Ⅰ期程度であり,外科手術も可能で,十分延命できたと考えられる。 (2)被告は,平成11年健診における異常陰影が仮に肺がんのものであったとしても,その病期が第Ⅰ期であることは判明しないようにいうが,平成10年の健康診断において何らの異常陰影が認められていない以上,肺がん発病は同年5月以降平成11年5月までの1年間に発病したものであることは容易に推認される。甲B第7号証16頁「肺がんの組織型別ダブリングタイムの分布」に記載されているとおり,腺がんの進行はダブリングの速度によっても割合と進行が遅く,そのような点から見ても平成11年写真上では病期Ⅰと推測される。 (3)また,肺がんが平成11年健診の段階では右肺における肺尖部に極限さ,(),()れている上亡Dには後になってもリンパ節転移N0遠隔転移M0がなかったのであるから,この段階では「早期肺がん」といえる可能性が極めて大である。すなわち,甲B第7号証17頁でいう「肺野末梢部早期肺がん」の定義に従えば,①亜区域支から末梢の肺に原発した肺がん,②腫瘍径が2㎝以下である,③ は「早期肺がん」といえる可能性が極めて大である。すなわち,甲B第7号証17頁でいう「肺野末梢部早期肺がん」の定義に従えば,①亜区域支から末梢の肺に原発した肺がん,②腫瘍径が2㎝以下である,③リンパ節転移がなく,胸膜浸潤が肺胸膜を越えていない,遠隔転移がない,という3つの要件を満たしている。同号証17頁4の記載によると,5年生存率は86.7%,10年生存率は66.9%であり,平成11年健診で早期発生が指摘されていたら,亡Dの余命生存率は極めて高いことが推測されるのである。 (被告の主張)亡Dの場合,平成12年9月9日の時点では,臨床所見により病期はT3N0M0,ⅡB期(甲A7・69頁,同月20日の時点ではT4N0M0,Ⅲ)B期(甲A8・8頁)と修正診断されているが,その約1年4か月前の平成11年5月時点に関しては,間接撮影のX線フィルムしかなく,他に詳細なデータも存在しないため,病期がどのような段階にあったかを明確にすることがで- 12 -きない。原告らは,同月時点の亡Dの病期について,少なくとも第Ⅰ期程度であったと主張するが,そのように判断できる証拠は存しない。 肺がん患者の予後は病期によるものであるから,病期が特定できないまま患者の予後について判断するのは困難であるが,一般的に肺がんの予後については,各種のがんの中でもとくに予後不良とされており,肺がん症例を分析した文献でも「肺癌の5年生存率はわが国の場合,全体で25~30%といわれており,予後は不良である(乙B2・吉田聡ほか「肺癌治療のグローバルスタ」ンダード」治療82巻2号185頁「要旨「肺癌の予後は現在非常に悪く,エビ」),デンスに基づいて確立された治療法はごくわずかである。遺伝子治療や免疫療法などの新しい治療法の開発も世界規模で行われてはいるが,肺癌を根治す 185頁「要旨「肺癌の予後は現在非常に悪く,エビ」),デンスに基づいて確立された治療法はごくわずかである。遺伝子治療や免疫療法などの新しい治療法の開発も世界規模で行われてはいるが,肺癌を根治する決め手となる治療法として期待し得るものは未だないのが現状である(同19」0頁)と指摘されている。 したがって,このような一般的な生存率や予後のデータからすれば,亡Dの予後も不良であったと考えざるを得ないところであり,仮に平成11年5月時点でがんが存在し何らかの治療が開始されていたとしても,原告らが主張するように,亡Dが「十分延命でき,更に定年までの7年間欠勤することなく勤」務できたといい得るかは疑問である。 争点4(上記2の過失と死亡との因果関係の有無)について(原告らの主張)(1)平成12年健診において,亡Dに精密検査の指示がされなかったことにより,亡Dは,早期に治療を受けて治癒ないし延命を受ける権利を侵害された。 (2)仮に平成12年健診時において肺がんが進行しており,被告が精密検査の指示をしていたとしても,亡Dが延命できたとまでは認められない場合であっても,延命できた相当程度の可能性(期待権)はあった。その理由は,以下のとおりである。 - 13 -ア健診から死亡までの経過平成12年5月11日健診6月17日胸痛の自覚症状があり,2か月前に血痰が出たので亡Dの意思でI病院内科で診察を受けた。同日X線撮影,心電図,心エコー,胸部単純CT,喀痰細胞診等の検査が行われた。 6月21日胸部CT(断層撮影)7月13日心エコー+パルスドップラー,トレッドミル検査7月15日喀痰細胞診クラスⅡで,結核の有無の検査をした。 この日患者に6月17日の胸部X線写真を説明し,右胸膜に肥厚,心電図正常,血液検査でWBC10100(やや多め, ップラー,トレッドミル検査7月15日喀痰細胞診クラスⅡで,結核の有無の検査をした。 この日患者に6月17日の胸部X線写真を説明し,右胸膜に肥厚,心電図正常,血液検査でWBC10100(やや多め,Hb正常などが説明され,腫)瘍マーカー,造影CTが計画された(以上甲A7。 ・5頁まで)7月21日胸部造影CT7月22日腫瘍マーカーCEA55.19ng/ml(以下,単位は省略する。正常値は2.5)と異常に多い。悪。 性疾患を十分に診断できる。ここで内科から呼吸器科に紹介された(同6頁)。 7月22日~8月22日多くの部分が腹部の検査に費やされた。特に,このカルテ(甲A7)の9頁には,平成11年5月26日撮影X線(平成11年健診,平)成12年8月11日撮影X線(呼吸器科で撮影した最初のもの,同月22日撮影X線の3枚が比較列)挙され,腫瘍のX線上での増殖されていく様子が読み取れる。 - 14 -8月29日肺がん確定診断のため入院指示。以後は外科に移される(甲A7・12頁以下。9月1日~12日ま)で外科で各種検査(結果は項目ごとに記載されている。主としてこの間は経皮針生検術が行われた。 )()「」カルテ甲A770頁には開胸による腫瘍除去が「適応」としている。その上段の説明では病期ⅡB(T3,N0,M0)となっているので,この段階では切除可能であり手術の日程を組む相談をしている。 9月20日胸腔鏡検査実施(甲A7・149頁。手術不可能)で化学療法+放射線療法によるしかないと説明(同153頁。その後退院してJ病院に入院した。 )イ肺がんの進行について(ア)上記アに指摘した胸部X線の時間的推移について上記アのとおり,甲A第7号証9頁の記載によると,①平成11年5月26日(平成11年健診)X線ではapi 院した。 )イ肺がんの進行について(ア)上記アに指摘した胸部X線の時間的推移について上記アのとおり,甲A第7号証9頁の記載によると,①平成11年5月26日(平成11年健診)X線ではapicalcap程度の陰影が,②平成12年5月11日にはかなり増殖しており,③その3か月後には更に目に見える増殖をしていることが如実に読み取れる。つまり,がんの増殖スピードは,手術,化学療法・放射線療法などの治療を加えないと増殖するし,増殖のスピードは日を追って加速されることがよく分かる。 (イ)平成12年5月11日の健診から確定診断(同年9月11日)まで4か月を要している。このように日時を要したのは,平成12年健診の担当医が「胃カメラを飲め」とか「気管を診てもらえ」等と余計なことを言ったためにI病院の医師が慎重になったこと,また病期について判断ミスがあって,だらだらした対応をしたことによる。 - 15 -(ウ)この治療行為の遷延の原因を作ったのが,平成12年健診の担当医であることは明らかである。もし健診により肺がんの精密検査という指示を患者が受けておれば,患者も熱心に早期発見に努めたし,I病院側もがんの進行速度を考えれば検査だけで3か月もかけないだろう。 ,,もちろん肺がんの手術をするには肺だけを検査するだけでは足りず脳,腹部のCT,肺機能検査など病期の確定と手術前提の検査を要するが,それはやろうと思えば10日間程度でできるものである(甲B3・76頁下段アドバイスと症例の欄参照。ところが,本件ではそれらに)2か月近くかかっている。 (エ)がんの統計には「肺がんの組織型別ダブリングタイムの分布(甲」B4・16頁)というのがあり,がん腫瘍体積が2倍になる期間をX線上で見たものをいう。そして,腺がんでは133例中30例がダブリン )がんの統計には「肺がんの組織型別ダブリングタイムの分布(甲」B4・16頁)というのがあり,がん腫瘍体積が2倍になる期間をX線上で見たものをいう。そして,腺がんでは133例中30例がダブリング期間109.6日(約3か月)である。亡Dの場合,平成11年から平成12年までの1年間で間違いなくダブリングしているし,増殖した腺がんは当然加速度的に増殖するであろうから,上記3か月の術前検査という遅延は致命的であり,I病院の医師にも責任がないわけではないであろうが,やはり根本的な責任の由来は,平成12年健診担当医の患者を欺くといっていい誤診である。 (オ)以上のとおり,平成12年健診の担当医が,多分意識的に,亡Dの肺尖の陰影を肺がんの危険ありとして診断しなかったことにより,余分な検査や時間を掛けすぎた検査などが行われ,これにより,最初病期Ⅱ期といわれ,手術可能であった亡Dのがん進行が意外に早まり,その結果腫瘍除去手術不能になった。もし病期ⅡないしⅡBであれば,リンパ腺転移のない患者の救命率は5年以上生存48.7%(甲B4・17頁肺がんの治療成績参照)と,ほぼ因果関係論で認める50%になるのである。最近の術後の化学療法+放射線療法の組み合わせではさらに治療- 16 -実績があがっているので,救命期待は歴然としている。 (被告の主張)否認ないし争う。 上記2及び3の被告の主張のとおりである。 争点5(損害)について(原告らの主張)(1)亡Dは,G信用金庫に職を有し,健康時の1年間の給与所得は764万1150円であり,所得税の年税額34万円,府市民税合計4万円を差し引くと,年収は726万1150円となる。 ,(2)亡Dが死亡した平成14年8月5日から60歳の定年まで7年あるのでその逸失利益は,生活費控除50%として2061万440 府市民税合計4万円を差し引くと,年収は726万1150円となる。 ,(2)亡Dが死亡した平成14年8月5日から60歳の定年まで7年あるのでその逸失利益は,生活費控除50%として2061万4404円(=7,261,150×5.678×(1-0.5 )である。 )(3)死亡慰謝料1500万円(4)原告らの固有の慰謝料各100万円(5)弁護士費用50万円(6)亡Dの損害の相続は,原告A2分の1,原告B及び同C各4分の1であるから,各原告の損害額は,以下のとおりとなる。 原告A((2)+(3)+(5))÷2+100万円=19,057,202円原告B及び同C((2)+(3)+(5))÷4+100万円=10,028,601円(被告の主張)否認ないし争う。 第6当裁判所の判断 争点1(平成11年健診における過失)について(1)原告らは,亡Dの平成11年写真には精密検査の指示を要すべき異常陰影が認められるのに,平成11年健診の被告担当医はこれを見落とした旨主張する。 - 17 -(2)本件アンケート鑑定の結果によれば,平成11年写真(鑑定資料B6)について異常陰影の所見なしとしたものが3名,右肺尖部胸膜肥厚所見があり,精査の指示を要すとしたものが1名,同じく右肺尖部胸膜肥厚所見があり,1年に1度経過観察をするよう指示すべきとしたものが1名である。もっとも,1年に1度経過観察をするよう指示すべきとしたものは,平成11年写真のみならず,すべての鑑定資料(平成12年分も含む)について異。 常陰影所見ありとしており,また,受診者に対する指示事項としては,上記経過観察のほかは「直接撮影法により再検査下さい」又は「CTによる精,密検査を施行下さい」というもので,経過観察指示は,指示事項の中で最も軽微なものであるのみならず に対する指示事項としては,上記経過観察のほかは「直接撮影法により再検査下さい」又は「CTによる精,密検査を施行下さい」というもので,経過観察指示は,指示事項の中で最も軽微なものであるのみならず,仮に肺がんを疑わせる所見であれば,1年に1度の経過観察の指示で足りるとは考え難いから,少なくとも,肺がんを疑わせる異常陰影は認められない趣旨の鑑定結果と見ることができる。 (3)上記(2)の本件アンケート鑑定の結果に加え,平成11年健診は,亡Dの勤務先において実施された定期健康診断であって,肺がんのスクリーニングを目的とした肺がん検診ではないことをも考慮すれば,平成11年写真を読影した被告担当医において,亡Dに更なる精査等の指示をすべき異常陰影がないと判断したことをもって,同担当医の注意義務違反であると認めることはできない。 原告らは,平成11年健診の被告担当医は,平成11年写真の右肺尖部に異常陰影を認めているのであるから,それを前年と比較するなどして亡Dに精査を指示すべきであった旨主張する。しかし,定期健康診断において何らかの通常と異なる陰影が認められれば直ちに前年の写真と対比するなどの注意義務が健診担当医にあるということはできず,上記(2)の本件アンケート鑑定の結果にも照らせば,本件で,被告担当医に,この注意義務があるとすべき事情を認めることもできないから,原告らの上記主張は,採用することができない。 - 18 -(4)したがって,原告らの上記(1)の主張は,理由がない。 争点2(平成12年健診における過失)について(1)上記第3の事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実を認めることができる。 ア平成12年5月11日,被告は,健康保険組合からの依頼に基づき,亡Dが当時勤務していたG信用金庫本店において定期健 実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実を認めることができる。 ア平成12年5月11日,被告は,健康保険組合からの依頼に基づき,亡Dが当時勤務していたG信用金庫本店において定期健康診断(平成12年健診)を実施した。 この健診においては,予め個人票が受診者に交付されることになっており,亡Dも,平成11年健診の結果が記載された個人票(甲A1の8)を受領した上,健診に臨んだ。そして,亡Dは,検尿及び身長・体重・視力・聴力・血圧の測定と,それらの結果の個人票への記入を経た後,当日の健診担当医であったL医師の問診及び聴診を受けた。 (甲A1の8,乙A2)イL医師は,亡Dに対し問診及び聴診を行ったところ,タバコを1日に30本,ビールを1日に2本摂取しているが,特に異常所見は認められない旨の判断をいったん行い,個人票の「自覚症状」及び「他覚症状」の各欄にその旨を表す「np」という記載をした。しかし,そのまま問診を終えようとしたとき,亡Dが,自ら,血痰が出る旨を訴えたため,L医師は,肺がんを含む精密検査を要すべき疾患が疑われると考え亡Dに対し肺,,「がん」という言葉は避けつつ,総合病院を受診して胃カメラによる検査や気管支の検査等を行うよう指示するとともに,個人票の「医師の診断」欄に「血痰」と記載した上,アンダーラインを引いた。 この後,亡Dは,胸部X線間接撮影を行い,被告理事長であるK医師がこれにより撮影された平成12年写真を読影したが,右肺尖部の陰影は,治癒型不整形陰影であり,精査を要すべき異常陰影はないと判断した。このため,被告から亡Dに対し,更に何らかの指示がされることはなく,被- 19 -告が健康保険組合に対し,亡Dに更に精査を要すべき異常所見がある旨の報告をすることもなかった。 (甲A1の8,B5の1及び2, 被告から亡Dに対し,更に何らかの指示がされることはなく,被- 19 -告が健康保険組合に対し,亡Dに更に精査を要すべき異常所見がある旨の報告をすることもなかった。 (甲A1の8,B5の1及び2,乙A2,3,証人F)ウ平成12年5月下旬ころ,被告から平成12年健診の結果を記載した個人票や健診時に撮影された胸部X線フィルムのロール等を受領した健康保険組合は,亡Dの個人票に「血痰」の記載があることに気付き,被告(K医師)に対し,亡Dに対しどのような指示をしたのかを問い合わせた。こ,,,れに対しK医師が亡Dに精密検査の必要性を伝えるよう依頼したため同月30日,健康保険組合の看護師が,亡Dに電話してその旨を伝えようとしたところ,亡Dは,健診において診察を担当した医師から,胃カメラによる検査や気管支の検査を受けるよう指示ないし勧告された旨答えた。 これを受け,健康保険組合では,亡Dの個人票に「5/30TELにて,。 。 。」確認診察Drより一度胃カメラの指示あり気管の方の受診も勧めるとの記載をした。 (甲A1の8,B5の1及び2,乙A2,3,証人F)エ平成12年6月17日,亡Dは,1か月くらい前から胸が圧迫されるという症状を主訴として,自宅近隣にある総合病院であるI病院の内科を受診した。そして,同科の医師に対し,亡Dは,1か月前から左ないし両胸部に胸痛があることのほか2か月前から約1か月間血痰のようなもの痰,()。 ,,に少し血が混じったものが持続した旨を訴えたこれに対し同医師は狭心症又は肺がんを疑い,直ちに,胸部X線直接撮影及び心電図検査を指,。 ,,,示しこれが行われたそして同医師はこれらの検査結果をも踏まえ同日,亡Dに対し,更に喀痰細胞診を指示するとともに,同月21日に胸部単純CT検査を 直接撮影及び心電図検査を指,。 ,,,示しこれが行われたそして同医師はこれらの検査結果をも踏まえ同日,亡Dに対し,更に喀痰細胞診を指示するとともに,同月21日に胸部単純CT検査を,同年7月13日には心エコー検査及びトレッドミル検査(心臓負荷試験)を行うこととしてその予約を入れた。 (甲A2,7〔主として1,3,4,48,49頁)〕- 20 -オ平成12年6月21日,I病院において,血痰,胸痛の精査目的で亡Dの胸部単純CT検査が行われたが,検査担当医の所見は「右肺尖に収縮,性の変化を認め,陳旧性の炎症像と考えます。また両肺尖に多数のbullaを認めます。右上葉周囲の胸膜の肥厚を認めます。一部masslesion(腫瘍病変)のように孤立して存在する部分を認めます。胸膜腫瘍の可能性も否定できません」などというもので,結論としては,陳旧性炎症性変化。 と思われるが,胸膜腫瘍の除外が必要なため,造影CTが必要であるという旨のものであった。しかし,この時点では,造影CTは予定されなかった。 ,,,,また同月26日には喀痰細胞診の結果が報告されたがその内容は異型細胞は見られないなどというものであった。 (甲A7〔主として4,30,45頁)〕カ平成12年7月13日,かねて予定されていた亡Dに対する心エコー検査,トレッドミル検査等が行われ,同月15日,その結果を踏まえたI病院担当医による診察が行われた。 上記担当医による問診の結果,亡Dには,血痰はなく,痰自体ほぼ消失し,胸痛も軽減しているとのことであったため,担当医は,肺結核の疑いも抱くようになり,結核菌検出のため喀痰培養検査等の指示をするとともに,胸部X線検査を指示した。 同日,胸部X線検査の結果を確認した担当医は,右肺尖部の陰影に変化がないものと判断し は,肺結核の疑いも抱くようになり,結核菌検出のため喀痰培養検査等の指示をするとともに,胸部X線検査を指示した。 同日,胸部X線検査の結果を確認した担当医は,右肺尖部の陰影に変化がないものと判断し,今後,腫瘍マーカー,造影CT等の検査を行っていくこととした。なお,狭心症の疑いについては,これに関する諸検査の結果でいずれも異常所見が認められなかったことから,この段階で否定された。 (甲A7〔主として1,4,5,47頁)〕キ平成12年7月21日,I病院において,胸痛,血痰の精査目的で亡D- 21 -の胸部造影CT検査が行われたが,検査担当医の所見は「右肺尖は収縮,性変化と胸膜の肥厚を認めます。一部突出し,mass(腫瘍)様にみえますが造影CTで全体に淡くenhancement(造影剤増強)をうけており,胸膜。 ,炎の像と考えます肺野への浸潤がほとんどみられないので否定的ですがmalignancy(悪性腫瘍)を否定するためfollowupお願いします」など。 というもので,結論としては,胸膜腫瘍を除外する必要のある胸膜炎の疑い,陳旧性炎症性変化で,造影剤増強を受けているので念のため経過観察が必要という趣旨のものであった。 同月22日,上記造影CT検査の結果に加え,腫瘍マーカーのうちCEAが55.1(基準値は5.0以下である)と異常高値を示したことも。 あり,I病院の内科担当医は,同病院の呼吸器科医師に亡Dの診察を依頼した。同呼吸科医師は,亡Dにつき,腹部の異常について検査した上で右肺尖部胸膜付近の生検を行うこととし,同月末から翌8月初めにかけて,注腸造影X線,胃カメラ,腹部エコーといった検査を指示した。併せて,同医師は,亡Dに対し,以前に撮影した胸部X線写真を借り出してくるように指示した。 (甲A7〔主として6~8,28,51 にかけて,注腸造影X線,胃カメラ,腹部エコーといった検査を指示した。併せて,同医師は,亡Dに対し,以前に撮影した胸部X線写真を借り出してくるように指示した。 (甲A7〔主として6~8,28,51頁)〕ク平成12年8月3日,I病院呼吸器科担当医は,亡Dが持参した平成11年写真及び平成12年写真と,I病院で撮影した胸部X線写真とを比較し,右肺尖部の陰影の様子をカルテに並べて記載したが,具体的な所見はカルテ上特に記載しなかった。そして,亡Dに対する腹部についての各検査の結果,肝臓に悪性腫瘍の除外が必要な所見が認められたことから,更に腹部造影CT検査を行うこととした。 同月22日,亡Dに対する肝臓を中心とする腹部造影CT検査が行われたが,特に異常は認められなかったため,同医師は,改めて血中CEA検査を行うとともに,亡Dを入院させた上で精密検査を行うこととした。そ- 22 -して,同日のCEAが90.2と更に高値となっていたこともあり,同医師は,同月29日,亡Dに対し,同年9月1日に入院の上,同月6日にCTガイド下生検を行うことなどを伝えた。同医師の入院指示における病名は,肺がんの疑いで精査治療目的というものであった。 (甲A7〔主として9,10,14,19,34頁)〕ケ平成12年9月1日,亡DはI病院に入院し,骨シンチ,ガリウムシンチ等の検査を経て,同月6日,右肺尖部につき胸部CTガイド下生検が行われた。この生検の結果,悪性細胞が確認されたことにより,肺がんと確定診断されるとともに,その余の検査結果を踏まえ,この時点では,TNM分類でT3N0M0の病期ⅡBであり,外科手術の適応ありと診断された。このため,同病院での手術が予定され,亡Dは,同病院外科の空床待ちを理由に同月12日にいったん同病院を退院し,同月19日,再び同病院に入 3N0M0の病期ⅡBであり,外科手術の適応ありと診断された。このため,同病院での手術が予定され,亡Dは,同病院外科の空床待ちを理由に同月12日にいったん同病院を退院し,同月19日,再び同病院に入院した。 同月20日,亡Dに対する胸腔鏡検査が行われたところ,がんが相当程度に進行しており,T4NxM0の病期ⅢBであることが判明したことから,外科的措置(切除術)は行われないこととなった。そして,I病院では更なる治療が困難であったことから,亡Dが希望したJ病院に転院することとなり,亡Dは,同月22日にI病院を退院の上,同月25日,J病院に入院した。 その後,亡Dは,同病院への入退院を繰り返していたが,平成14年8月5日,同病院において肺がんにより死亡した。 (甲A2,3,6,7〔主として61,62,69,70,78,83,84,114~124,129~141,149~153頁,8から12〕まで)(2)原告らは,平成12年健診の担当医が,再検査又は肺がんの疾病の性格から専門医の精密検査を受けることを告知すべき義務を怠ったなどと主張す- 23 -る。 確かに,本件アンケート鑑定の結果によれば,平成12年写真(鑑定資料A5)については,これが定期健康診断として撮影及び読影されたものであることを考慮しても,右肺尖部に異常陰影があるものと認めてこれに対する精密検査の指示をする必要があったと認めるのが相当である。 しかし,他方,上記(1)ア及びイ認定の平成12年健診の具体的内容を考慮すれば,同健診により得られた情報のみでは,亡Dにつき肺がんであると。 ,,診断することができないことは明らかであるこのことはI病院において初診時に,亡Dが血痰のようなものが出たと訴え,胸部X線直接撮影がされているにもかかわらず,その時点では肺がんの診断に至っていな ,診断することができないことは明らかであるこのことはI病院において初診時に,亡Dが血痰のようなものが出たと訴え,胸部X線直接撮影がされているにもかかわらず,その時点では肺がんの診断に至っていないことからも裏付けられる。 したがって,平成12年健診において被告ないし健診担当医が亡Dに対して指示すべき精密検査の内容は,肺がんの有無に関する検査に限定されるべきものではなく,他に考え得る疾患に係る精密検査をも指示するのが相当であり,また,定期健康診断においては,一般的に,診察医ないし健診担当者と受診者との間に信頼関係が築かれていないことを考慮すれば,精密検査の指示において肺がんの可能性があることを明示すべき注意義務までがあると認めることはできない。 そうであれば,平成12年健診において,L医師が,亡Dに対し「肺が,ん」という言葉は避けつつ,総合病院を受診して胃カメラによる検査や気管支の検査等を行うよう指示したに止まり,亡D又は健康保険組合に対し,更なる指示ないし報告がされなかった(上記(1)イ)からといって,被告担当医が亡Dに対する定期健康診断担当医としての注意義務に反したと認めることはできない。 (3)ア原告らは,L医師による胃カメラや気管支の検査の指示により,かえって亡Dの速やかな受診機会が失われた旨の主張もするしかし上記(1)。 ,- 24 -認定のとおり,亡Dの肺がんは,I病院において,繰り返し胸部X線直接撮影,胸部CT検査,喀痰細胞診等の諸検査が行われ,最終的に胸部CTガイド下生検によってようやく確定診断されたものであるが,この確定診断に至る経緯が,L医師の上記指示によって影響を受けたことを窺わせる証拠はなく,むしろ,この経緯によれば,亡Dの肺がんは,腺がんということもあり,発見の困難なものであったことが推認される この確定診断に至る経緯が,L医師の上記指示によって影響を受けたことを窺わせる証拠はなく,むしろ,この経緯によれば,亡Dの肺がんは,腺がんということもあり,発見の困難なものであったことが推認されるといえる(ちなみに,この経緯を考慮すれば,仮に平成12年健診の直後,すなわち同年5月中に亡Dが精密検査を受診するようになっていたとしても,その予後がわずかでも変わったと認めることは困難というべきである。 。),,,イ他方原告らはL医師が上記指示をした事実はない旨の主張もするが平成12年健診において亡Dが診察医に血痰の症状を訴えたこと,及び,亡Dに対し,健康保険組合の看護師から,血痰が出るのであれば診察を受けるように連絡があったことはいずれも亡Dの自認するところである甲,(B5の2・3~4頁。このような亡Dの自認する事実に沿う甲A第1号)証の8の個人票の受診指示に関する記載部分は信用するに足りる。 また,原告らは,血痰の訴えに対し胃カメラの検査を指示することはあり得ず,気管は肺野を含まないからあえて気管の検査を指示することは不自然である旨の主張もする。しかし,患者が血痰を訴えた場合に,消化管出血を原因とする吐血との鑑別を要することは,当裁判所に顕著な事実であり,また,L医師が気管の検査を指示したからといって,肺野の検査を不要とした趣旨とは到底認められず,気管の検査の指示が不自然ということはできない。加えて,上記(1)ウ認定のとおり,上記個人票の受診指示に関する記載部分は健康保険組合において記載したものであって,その経緯に照らし,このような記載がされることに不自然な点があるということはできない。したがって,原告らの上記主張は失当というべきである。 さらに,原告らは,亡DがI病院を受診したのは胸痛を自覚したためで- 25 -あり うな記載がされることに不自然な点があるということはできない。したがって,原告らの上記主張は失当というべきである。 さらに,原告らは,亡DがI病院を受診したのは胸痛を自覚したためで- 25 -あり,平成12年健診における指示とは無関係である旨の主張もするが,上記(1)エ認定のとおり,I病院初診時において既に亡Dは約1か月間胸痛を感じており,胸痛を感じて直ちに受診したものではない上,同病院担当医の問診には,約1か月前に消失していた血痰の訴えもしているほか,近医である開業医等の紹介を経ることなく総合病院であるI病院を受診していることを考慮すれば,亡DがL医師の上記指示に関係なく同病院を受診したとは認め難く,原告らの上記主張も採用することはできない。 (4)以上のとおり,争点2に係る原告らの主張は,理由がない。 結論 上記1及び2によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がない。 よって,原告らの請求をいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法65条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第19民事部裁判長裁判官角隆博裁判官伊藤正晴裁判官船所寛生

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