平成20(ワ)15832等 雇用関係存在確認等請求反訴事件,損害賠償請求事件(通称 アールインベストメントアンドデザイン解雇)

裁判年月日・裁判所
平成21年12月24日 東京地方裁判所
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判決文本文15,849 文字)

主文 1 甲事件原告・乙事件被告及び乙事件被告らは,乙事件原告に対し,連帯して70万円並びにこれに対する甲事件原告・乙事件被告及び乙事件被告Aはいずれも平成20年4月27日から,同Bは同月21日から,同Cは同月28日から各支払ずみまで年5分の割合による各金員を支払え。 2 甲事件原告・乙事件被告の甲事件請求の訴えのうち,本判決確定日の翌日以降の金員の支払を求める部分を却下する。 3 甲事件原告・乙事件被告のその余の甲事件請求及び乙事件原告のその余の乙事件請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,甲,乙事件を合算して4分し,その1を乙事件原告の負担とし,その余を甲事件原告・乙事件被告及び乙事件被告らの負担とする。 5 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求 1 甲事件(1) 甲事件原告・乙事件被告(以下,単に「原告」という。)が,甲事件被告(以下,単に「被告会社」という。)に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 (2) 被告会社は,原告に対し,平成20年6月から毎月末日限り各30万円を支払え。 2 乙事件原告及び乙事件被告らは,乙事件原告に対し,連帯して300万円並びにこれに対する訴状送達日の翌日から各支払ずみまで年5分の割合による各金員を支払え。 第2 事案の概要甲事件は,被告会社従業員の原告が,被告会社による解雇が無効であると主張 して,被告会社に対し,雇用契約上の地位確認と平成20年6月以降の賃金の支払を求めた事案である。乙事件は,被告会社代表取締役の乙事件原告が,原告及び乙事件被告らによる街宣活動の際,プライバシーと肖像権を侵害されたと主張して,原告及 地位確認と平成20年6月以降の賃金の支払を求めた事案である。乙事件は,被告会社代表取締役の乙事件原告が,原告及び乙事件被告らによる街宣活動の際,プライバシーと肖像権を侵害されたと主張して,原告及び乙事件被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求権としての慰謝料(訴状送達日の翌日からの遅延損害金)の支払を求めた事案である。 1 前提事実(争いのない事実及び後掲各証拠により認められる事実)(1) 当事者等被告会社は,平成15年7月31日に設立され,不動産の売買,仲介,賃貸借及び管理並びに各建築物,構築物に関する企画,デザイン,設計,施工管理及びこれらのコンサルティングを主な業務とする株式会社である。 原告は,平成14年2月27日,株式会社Dに入社し,平成16年3月8日,同社の子会社であった被告会社に転籍し,従業員となった。 乙事件原告は,平成17年4月1日,株式会社Dの代表取締役と被告会社の取締役,平成18年2月16日,被告会社の代表取締役に就任した。 乙事件被告らは,東京南部労働者組合(以下「組合」という。)の組合員で,乙事件被告Bは組合委員長,同Aは書記長,同Cは原告の父である。 (2) 原告の休業開始から被告会社による復職命令までの経緯ア原告は,平成15年6月19日以降,過労とストレスによる業務上の疾病を理由に自宅療養に入ることを理由に就労しなくなり,同年7月31日以降転籍前までは株式会社Dが,転籍後は被告会社が,診断書の提出を受けることなく,業務上の疾病として取り扱い,就業規則に基づき休業補償として賃金の6割の支給を続けていた。 原告は,平成17年1月23日,組合に加入した。組合は,同月24日,株式会社Dに対し,原告の休業補償と医療保障等に関する団体交渉を要求した。被告会社は,同年2月7日,組合に対し,原 続けていた。 原告は,平成17年1月23日,組合に加入した。組合は,同月24日,株式会社Dに対し,原告の休業補償と医療保障等に関する団体交渉を要求した。被告会社は,同年2月7日,組合に対し,原告の療養期間が1年7か月に及び,合理的な治癒期間を経過しているのではないかと考えている こと,復職の可否を確認し,復職可能であれば直ちに復職を命じるか,適切な処遇を検討すること,1週間以内に症状及び復職可能性について言及した診断書を提出し,必要と判断した場合には被告会社が指定する医師を受診することを求めること,診断書提出後,担当者が原告と面談することを記載した申入書(以下「本件申入書」という。)を交付した。組合は,被告会社及び株式会社Dに対し,本件申入書は一方的で不当であると抗議した回答書を提出した。その後,被告会社は,同月16日付け再申入書,同年3月2日付け通知書,同月10日付け回答書で,診断書の提出を求められたが,原告及び組合は,被告会社に診断書を提出しなかった。(乙3~8,10,11)イ組合は,平成17年3月9日,被告会社に対し,原告の休業補償と復職環境改善を議題とする団体交渉の開催を要求し,同月31日~同年12月14日の間,後述の経過のとおり,6回にわたり,団体交渉が行われた。 原告は,同年3月19日に結婚披露宴を行い,同年5月6日,後楽園ホールでキックボクシングの試合を観戦している様子を知人に目撃された。 また,株式会社D在職中に貸与を受けていた携帯電話を被告会社に返還せず,深夜時間帯に長時間通話やメール送信をする等,私的利用を頻繁に繰り返し,被告会社は,これらの情報を入手していた。(甲8,21)ウ平成17年3月31日の団体交渉で,組合は,会社の責任による業務上の疾病の休業補償が6割である根拠を質問し,労働環境の改 頻繁に繰り返し,被告会社は,これらの情報を入手していた。(甲8,21)ウ平成17年3月31日の団体交渉で,組合は,会社の責任による業務上の疾病の休業補償が6割である根拠を質問し,労働環境の改善について確認できなければ原告の診断書は提出できない等と述べた。 同年4月19日の団体交渉は,株式会社Dを退職した組合員の出席をめぐり,機密情報の漏洩防止の観点から退席又は守秘義務契約の締結を求めると主張する被告会社と,これを拒否する組合とが対立し,実質的な話合いに入ることなく終了した。 同年9月6日の団体交渉で,被告会社は,勤怠管理及び経理の改善,週 休2日制の完全実施,3日間の夏季休暇の付与,遅い時間帯のミーティングの廃止等により労働環境が改善され,過度の超過勤務がなくなり,病欠者は出ていないこと等を説明し,原告の診断書の提出を求めた。組合は,2通の診断書を提出した。1通(同年3月12日付け)は,病名を自律神経失調症とし,「鍼灸治療および漢方薬投与を施行し漸次体調の改善がみられているが,向後も同治療を継続する必要が認められる」と記載され,もう1通(同月14日付け)は病名をうつ病性障害,不整脈,神経性腹部緊満症とし,「現在諸症状は改善傾向にあるが,未だ不安定であり,就業は困難である。治療のためには向後約3か月の心身の療養が必要と思われます(但し延長の可能性があります)」と記載されている。 同年10月13日の団体交渉で,被告会社は,原告が復職する際の職場候補として経営管理部及びプロパティマネジメント事業部を示し,組合は,戻る段階になったら交渉すると述べ,被告会社の責任による業務上の疾病の休業補償が6割であることの理由の説明を要求した。 同年11月21日の団体交渉で,組合は,業務上の疾病について被告会社に責任があるから,休業 たら交渉すると述べ,被告会社の責任による業務上の疾病の休業補償が6割であることの理由の説明を要求した。 同年11月21日の団体交渉で,組合は,業務上の疾病について被告会社に責任があるから,休業補償として給与全額を支給すべきであると主張し,被告会社は,就業規則に基づく6割支給を主張した。 同年12月14日の団体交渉で,被告会社は,6割支給の根拠は労働基準法であると説明し,組合は,全額支給すべきであるとの従前の主張をし,E株式会社の就業規則の写し等を示して10割の休業補償をしている会社があるのになぜ被告会社は6割なのかとの質問をした。被告会社は,復職日を平成18年1月6日,所属,業務内容を面談の上決めるとし,復職しない場合,就業規則の制裁規定の適用その他の法的措置をとることがある等と記載された原告に対する復職命令書を読み上げ(以下「本件復職命令」という。),発令の根拠として,上記2通の診断書の療養期間が経過していること,被告会社の労働環境が整ったこと,原告が団体交渉に複数 回出席し,私生活では元気に外出しているとの情報を得ていること等を説明した。組合は,今復職したら原告は死ぬ,本件復職命令の発令は組合無視の不当労働行為に当たる等と抗議して撤回を求めたが,被告会社は,争議等により,場合によっては会社がなくなることも覚悟して取締役会で決めたことで,決議事項は軽いものではない,撤回も留保もしないと答え,上記復職日までであれば復職に向けた団交に応じると述べた。 (甲2~7,9,乙14,15)(3) 不当労働行為救済命令申立てから本件解雇までの経緯ア組合は,被告会社に対し,平成17年12月26日付けで本件復職命令は不当労働行為であると主張し,撤回と休業補償を議題とする団体交渉の再開を求める文書を送付し,平成18年1月8日,病名 での経緯ア組合は,被告会社に対し,平成17年12月26日付けで本件復職命令は不当労働行為であると主張し,撤回と休業補償を議題とする団体交渉の再開を求める文書を送付し,平成18年1月8日,病名をうつ病性障害等とし,「現状での職場復帰は困難と思われ今後とも外来通院を継続する必要がある」と記載された同月6日付け診断書を送付した。 組合は,被告会社から,団体交渉には応じないとの回答を得たため,同月23日,東京都労働委員会に対し,復職命令の撤回と休業補償等を議題とする団体交渉の再開を求める不当労働行為救済申立てを行い,被告会社と組合は,労働委員会の立会いの団体交渉(以下「立会団交」という。)を2回行った。 (甲19,乙16,18)イ平成18年6月12日の1回目の立会団交において,被告会社は,本件復職命令で原告が体調を崩したということなので謝罪し,撤回すると述べ,原告の復職の意思及び具体的な復職可能時期を尋ねたところ,原告は,仕事に復帰したいが,仕事ができる状態にまで回復していないと答え,組合は,復職に向けた具体的な提案をするまでには体調が戻っていない,期限は分からない等と答え,被告会社の誠実な迎え入れ態勢が欠けている,被告会社の姿勢,代表者の言動が原告を傷つけたことをどのように考えるの か等と主張した。被告会社は,過去の話ではなく,あくまで復職に向けた具体的な話を進めたいと述べ,復職するための具体的条件を提示するよう組合に求め,組合も,この団交の中で合意を作りたいと思っている,職場復帰に向けた就労形態を検討して提案すると答えた。 被告会社は,原告の具体的復職時期の目処が立たない状態にあるため,組合から提案される具体案を見た上で,場合によっては,打切補償を行って解雇することを決め,打切補償額通知書(打切補償額として平均賃 被告会社は,原告の具体的復職時期の目処が立たない状態にあるため,組合から提案される具体案を見た上で,場合によっては,打切補償を行って解雇することを決め,打切補償額通知書(打切補償額として平均賃金の1200日分929万1996円を算定したもの)と特別支給金相当額通知書(労働者災害補償保険法による休業補償給付金の案として55万円余~216万円を算定したもの)を作成して立会団交に臨むこととした。 同月19日の2回目の立会団交において,組合は,原告の病状について,非常に具合が良くない,リハビリ就労さえ明日にも開始できる状況ではない,復職は3か月後を1つの目標にしたい,3か月後の診断でリハビリに堪えられないということであれば,またその3か月後を目標とする,精神的に緊張したり,重い物を持つと激痛に襲われ,意識が遠のく倒れ方をする,社内でそうなった場合,救急車で運ばれると思うが,本人が飲んでいる薬の関係で絶対に投与してはいけない薬がある,それで呼吸困難になったことがある等と述べた。被告会社は,復職不可能な状態にあることが明らかになったと判断し,上記打切補償額通知書と特別支給金相当額通知書を交付して合計1200万円での和解を提案すると告げ,同月26日までに和解に応じない場合,打切補償のみを行うと伝えた。 (甲10,12,13)ウ被告会社は,組合から期限までに回答がなかったため,平成18年6月27日,原告に対し,労働基準法81条に基づく打切補償を行うとともに,就業規則に基づき,同日をもって解雇すると記載された通知書を発送し,これは,同月28日に到達した(以下「本件解雇」という。)。被告会社 は,原告に対し,同月27日,打切補償金929万1996円及び同日までの日割賃金15万1834円を支払った。また,被告会社は,原告に対し,平成1 到達した(以下「本件解雇」という。)。被告会社 は,原告に対し,同月27日,打切補償金929万1996円及び同日までの日割賃金15万1834円を支払った。また,被告会社は,原告に対し,平成19年11月9日,解雇予告手当30万円及びこれに対する同日までの遅延損害金2万4658円を支払った。(甲14,15)エ被告会社就業規則31条1項には解雇事由が規定されており,平成18年2月16日の改正により,従前の1~3号(2号には,「精神または身体の障害により業務に耐えられないと認められたとき」の規定がある。)に,4号の「業務上の負傷または疾病による療養の開始後3年を経過しても当該負傷または疾病がなおらない場合であって,従業員が傷病補償年金を受けているとき又は受けることとなったとき(打切補償を支払ったときを含む)」との規定が追加された。(甲11,乙2)(4) 原告,乙事件被告らによる街宣活動原告及び乙事件被告らは,本件解雇が不当であるとして,平成18年11月ころ~平成21年5月25日の間,月1回程度,被告会社本社前で街宣活動を行うようになった。その態様は,組合員十数人が幟や旗を持って通行人にビラを配布し,拡声器で意見を主張するというもので,被告会社は,街宣活動のたびに,ビルの管理会社やテナントから苦情を受けた。 原告及び乙事件被告らは,平成19年10月16日の街宣活動以降,ビラに乙事件原告の顔写真を掲載した(以下「本件ビラ①」という。)。本件ビラ①には「不当な解雇を撤回せよ!」との見出しの下,乙事件原告は新社長に就任するなり,原告に対する排除攻撃を仕掛け,就労するのが無理なことを百も承知で,復職せよ,命令に従わなければ制裁措置をとる,これで争議になろうが会社が潰れようが構わないと宣伝し,団交も拒否した,労働委員会で会社の不当 する排除攻撃を仕掛け,就労するのが無理なことを百も承知で,復職せよ,命令に従わなければ制裁措置をとる,これで争議になろうが会社が潰れようが構わないと宣伝し,団交も拒否した,労働委員会で会社の不当労働行為の数々が明らかになった,組合の追及に耐えきれなくなった被告会社は社屋を移転して逃げ出した等と記載され,抗議先として被告会社の本店所在地と電話番号,ファクシミリ番号及び代表取締役として 乙事件原告の氏名が記載されている。 原告及び乙事件被告らは,平成20年2月以降,乙事件原告が居住するマンション1階に設けられた住民各戸の各郵便受けに,乙事件原告の顔写真及び住所を記載したビラ(以下「本件ビラ②」という。)を投函した。本件ビラ②には,「社長F(港区<以下略>)は不当な解雇を撤回せよ!」との見出しの下,本件ビラ①と同様の記載の他,労働委員会の場で被告会社の不当性は露わとなったこと,被告会社の主張は嘘とでっち上げでしかない,証拠も後からねつ造したものであること,解雇は就業規則に定める手続さえ踏んでいないことが次々と立証された,地域の皆さんからも乙事件原告に対し,解雇を撤回し,争議を解決せよと抗議の声を集中してほしい旨記載され,抗議先として乙事件原告の氏名及び住居が記載されている。 乙事件原告は,本件ビラ①が配布された後,被告会社が入居しているオフィスビルのコンビニエンスストアに立ち寄った際,ビラを受け取った客から好奇の目で見られる等した。また,本件ビラ②が配布された後,同じマンションの住民らからじろじろと見られたり,怪文書を投函されたりしたため,同マンションから転居した。 (甲20,28,30,原告本人,乙事件原告本人) 2 争点(1) 本件解雇の効力ア解雇理由の有無(被告会社の主張)平成18年6月19日の2回目 め,同マンションから転居した。 (甲20,28,30,原告本人,乙事件原告本人) 2 争点(1) 本件解雇の効力ア解雇理由の有無(被告会社の主張)平成18年6月19日の2回目の立会団交の時点で,原告は,療養開始3年を経過しても疾病が治らず,復職不可能な状況であることが明らかになったから,就業規則31条1項4号の定める解雇事由が存在する。なお,同号は,労働基準法81条を前提とし,解雇事由として当然の内容を規定したもので,不当な動機に基づき規定したものではないから有効である。 (原告の主張)組合は,2回目の立会団交において,復職は3か月を1つの目標にしたい,3か月後の診断でリハビリにも耐えられないということであれば,またその3か月後を目標にすると述べ,治癒の見込み時期を明確に示しており,復職不可能な状況であることが明らかになったとはいえず,解雇事由に該当しない。就業規則の上記規定は,新設規定であり,解雇理由の規定の仕方として一般的でなく,原告を排除するという不当な動機で設けられたものであるから,原告に適用する限度で公序良俗に反し無効である。 イ解雇権濫用ないし不当労働行為該当性(原告の主張)被告会社が平成17年2月~同年3月の間に行った本件申入書,再申入書,通知書及び回答書の各送付は,組合に加入した原告に対する排除攻撃であり,団体交渉でも,原告の話を遮ったり,キックボクシングを観戦したことを問題にする等の加害的言動を行い,本件復職命令の発令によって原告に多大な精神的苦痛を与え,寝たきり状態にまでした。また,被告会社の団体交渉での態度は不当労働行為に該当する不誠実なものであった。 このように原告を会社から排除する姿勢をとり続けることによって,リハビリ復帰が可能な程度に回復していた原告の体調を悪化 また,被告会社の団体交渉での態度は不当労働行為に該当する不誠実なものであった。 このように原告を会社から排除する姿勢をとり続けることによって,リハビリ復帰が可能な程度に回復していた原告の体調を悪化させた被告会社が,3年の経過を理由に打切補償を提示するのは信義則に反する。また,1回目の立会団交終了時,復職に向けて協議する姿勢を示していた被告会社が,2回目の立会団交で,打切補償を提示したのは騙し討ちであり,信義則に反する。さらに,平成17年12月14日には復職可能として本件復職命令を出した被告会社が,平成18年6月27日には疾病が治癒しないことが明らかになったとして解雇することは信義則に反する。原告の疾病は,被告会社に責任のある労災であるから,被告会社は,原告に対し,職場復帰の機会を十分与える必要があったのに,被告会社の対応は,厚生 労働省の指針や手引にことごとく反したものであった。したがって,本件解雇は,社会的相当性を欠き権利を濫用したものであるとともに,その経緯,態様からして,原告が労働組合を結成しようとし,労働組合に加入し,労働組合の活動を行ったことを動機とするものであり,労働組合法7条1号の不利益取扱いに該当し,不当労働行為として無効である。 (被告会社の主張)長期間休職している原告の状況を把握するため,被告会社が診断書の提出を求めたのは当然の行為であるし,団体交渉で加害的言動を行ったこともない。被告会社は,立会団交を通じ,原告及び組合の主張を十分聞き取った上で原告の復職可能性を検討した結果,復職は不可能と判断し,解雇の決断をしたのであるから,本件解雇に信義則違反はなく,解雇権の濫用や不当労働行為に該当しない。厚生労働省の指針や手引は事業者に法的義務を課すものではないし,原告は手引が適用対象とするものに該当しない。 断をしたのであるから,本件解雇に信義則違反はなく,解雇権の濫用や不当労働行為に該当しない。厚生労働省の指針や手引は事業者に法的義務を課すものではないし,原告は手引が適用対象とするものに該当しない。 ウ解雇予告義務違反の解雇の効力(原告の主張)本件解雇は,労働基準法20条1項の解雇予告義務に違反し,絶対的に無効であり,事後に解雇予告手当を支払っても効力を生じない。 (被告会社の主張)被告会社は,即時解雇に固執しておらず,後日解雇予告手当を支払っているから,本件解雇通知後30日を経過した時に解雇の効力を生じている。 (2) 損害賠償請求の可否アビラ配布行為による肖像権及びプライバシー侵害の有無(乙事件原告の主張)乙事件原告の顔写真を無断で掲載した本件ビラ①を配布した行為は,必要性及び許容性がなく,違法な肖像権侵害に当たる。乙事件原告の顔写真及び住居を記載した本件ビラ②を,同じマンションに住む住民各戸の各郵 便受けに投函した行為は,乙事件原告が居住するマンションの居室,仕事,組合との間で抱えているトラブル等,私生活上の事実に関する知られたくない情報を明らかにする行為で,必要性及び許容性も認められないから,違法なプライバシーの侵害に当たる。 (原告,乙事件被告らの主張)ビラに掲載した乙事件原告の顔写真は,既にインターネット上のサイトに掲載して広く公表しているものであるから,肖像権の侵害に当たらない。 マンションの各郵便受けに投函したビラに記載された内容は,被告会社代表取締役としての行為に関する事項であり,個人の私生活上の事実に関する事項ではないから,プライバシーの侵害に当たらない。 原告及び乙事件被告らが行ったビラ配布行為は,不当な本件解雇に抗議し,解雇撤回と職場復帰に向けた団体交渉を求め,組合員 の私生活上の事実に関する事項ではないから,プライバシーの侵害に当たらない。 原告及び乙事件被告らが行ったビラ配布行為は,不当な本件解雇に抗議し,解雇撤回と職場復帰に向けた団体交渉を求め,組合員の団結を維持,強化し,経済的地位の向上を図る目的で行われた憲法28条及び21条で保障された正当な行為であり,違法性が阻却される。 イ損害額(乙事件原告の主張)原告及び乙事件被告らによる上記の違法行為によって受けた精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は,300万円を下ることはない。 (原告,乙事件被告らの主張)否認し,争う。 第3 争点に対する判断 1 本件解雇の効力について(甲事件)(1) 解雇理由の有無について労働基準法19条1項は,労働者が業務上疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は,使用者は,当該労働者を解雇してはならない旨規定して,労働者が業務上の疾病の場合の療養を安心してなし得るよう に解雇制限を行い,但書で例外として,使用者が,同法81条の規定による打切補償を支払う場合はこの限りでないと規定している。上記打切補償は,療養開始後3年を経過しても疾病がなおらない場合,使用者は,平均賃金の1200日分を支払えば,その後は,療養補償及び休業補償を行わなくてよいというものである。なお,同法19条1項が,休業期間だけでなく,その後30日間をも解雇禁止期間であるとしているのは,解雇予告義務の規定に即して,休業期間終了の時点での解雇予告を予定し,解雇の効果発生を解雇予告から30日先にさせた趣旨であると解されるのであり,使用者は,休業期間終了時に解雇予告をし,その30日後に解雇の効力を生じさせることが許容されていると解するのが相当である。 平成18年2月16日に被告会社の就業規則改正によって付加 れるのであり,使用者は,休業期間終了時に解雇予告をし,その30日後に解雇の効力を生じさせることが許容されていると解するのが相当である。 平成18年2月16日に被告会社の就業規則改正によって付加された就業規則31条1項4号の解雇事由の規定は,上記前提事実のとおりであり,労働基準法の規定内容と齟齬のないもので,同法の趣旨を確認的に規定したものと解される。 原告が平成15年6月19日以降,過労とストレスによる業務上の疾病を理由に自宅療養に入った際,株式会社D及び被告会社は,労災保険を用いることなく,業務上の疾病として取り扱うことを合意し,3年以上休業補償を支払っていたこと,被告会社は本件解雇の際,原告に対し,労働基準法81条に基づく1200日分の打切補償として929万1996円と同日までの日割賃金15万1834円を支払ったこと,被告会社は,原告に対し,平成19年11月9日,解雇予告手当30万円及びこれに対する同日までの遅延損害金2万4658円を支払ったことは争いがないから,療養開始後3年以上経過した本件解雇時である平成18年6月27日の時点において,同法81条の「疾病がなおらない」の要件を客観的に満たしているのであれば,労働基準法上も,被告会社の就業規則上も,被告会社は原告に対し,解雇の意思表示を行うことが可能になる。 上記前提事実のとおり,被告会社は原告に対し,診断書等の定期的な提出を要求することなく休業補償を支払い,被告会社が要求した際には,原告がこれを拒否したまま休業補償を受領し続けていたから,原告の疾病について客観的な情報は乏しく,主として原告及び組合からの情報及び本件解雇時の直近の診断書から判断せざるを得ない。上記前提事実のとおり,直近の診断書である平成18年1月6日付け診断書には,病名として当初の段階から共 情報は乏しく,主として原告及び組合からの情報及び本件解雇時の直近の診断書から判断せざるを得ない。上記前提事実のとおり,直近の診断書である平成18年1月6日付け診断書には,病名として当初の段階から共通したうつ病性障害等が記載され,「現状での職場復帰は困難と思われ今後とも外来通院を継続する必要がある」と記載されていること,原告及び組合は,平成17年12月に被告会社から発令された本件復職命令に対し,今復職したら死ぬと述べて職場復帰できない状態にあることを主張して撤回を強く要求したこと,平成18年6月12日の1回目の立会団交では,仕事ができるまでには体調が回復していないと主張していること,同月19日の2回目の立会団交では,リハビリ就労さえ明日にも開始できる状況ではなく,復職は3か月後を1つの目標にしたい,精神的に緊張したり,重い物を持つと激痛に襲われ,意識が遠のく倒れ方をする,絶対に投与してはいけない薬があり,呼吸困難になったことがある等と主張していたこと,このような原告の病状に関する情報は,原告やその近くにいる者でなければ窺い知ることのできない情報であることからすると,本件解雇時である同月の段階では,直近の診断書が示す状況が特に変化しておらず,疾病は治っておらず,職場復帰は可能でなかったと認定するのが相当である。 以上の検討によれば,原告は「疾病がなおらない」の要件を満たしており,労働基準法及び被告会社就業規則により,解雇をすることができる状態にあったと認めることができる。 原告は,被告会社就業規則31条1項4号の改定時期及び内容から,原告を排除するという不当な動機で規定したものであるから,原告に適用する限度で公序良俗に違反して無効であると主張する。しかし,上述のとおり,被 告会社就業規則の上記規定は,同法の規定を確認的に規 を排除するという不当な動機で規定したものであるから,原告に適用する限度で公序良俗に違反して無効であると主張する。しかし,上述のとおり,被 告会社就業規則の上記規定は,同法の規定を確認的に規定しているものであるから,上記主張が本件解雇の有効性を左右することはない。 (2) 解雇権濫用ないし不当労働行為該当性についてア原告は,本件申入書等の送付により,診断書の提出を度々求める等したことが不当であると主張する。 疾病がなおらず,職場復帰できないと一方的に主張するだけで,就労しない状態が1年7か月以上継続している原告に対し,診断書等の客観的な資料を求めることなく,職場復帰の可能性を検討しないままに,漫然と休業補償を支払い続けた株式会社D及び被告会社の従前の対応は,寛容に過ぎる態度である。職場復帰の可能性を検討するために,診断書の提出を求め,職場復帰が可能になった場合の復職命令発令の可能性に言及することは,使用者として当然の行為であり,客観的な資料の提出をしないままに,漫然と自らの休業補償を受領し続けた原告が,被告会社の使用者として当然の行為に出たことを不当であると主張するのは,失当な主張であるといわなければならない。 イ原告は,2回目の立会団交で打切補償を提案したのは騙し討ちであり,信義則に違反すると主張する。 しかし,打切補償は,労働基準法81条に規定されており,「疾病がなおらない」の要件は,上記判断のとおり,客観的な事実関係に係るものであるから,その要件を満たしたとして同条の措置を採ることを提案したことに対し,騙し討ちであり,信義則に反すると評価する余地はない。 ウ原告は,被告会社がいったん復職可能と判断して本件復職命令を出しながら,復職不可能として本件解雇をしたのは信義則に違反すると主張する。 しかし,上 あり,信義則に反すると評価する余地はない。 ウ原告は,被告会社がいったん復職可能と判断して本件復職命令を出しながら,復職不可能として本件解雇をしたのは信義則に違反すると主張する。 しかし,上記前提事実のとおり,平成17年12月の時点で被告会社が認識していた事実(その事実関係自体は,当事者間に争いがない。)を考慮すれば,その時点で復職可能と判断したことは不自然ではないし,他な らぬ原告及び組合からの度重なる主張を考慮して,平成18年6月の時点で復職不可能と判断したことに非があると評価する余地もない。してみれば,被告会社の上記行動を信義則違反ということはできない。 エ原告は,復帰のための十分な機会を与えないままの解雇であり,社会的相当性を欠くと主張する。しかし,上記前提事実のとおり,被告会社は,原告及び組合との複数回の団体交渉の中で,診断書の提出を求めて復帰の見込み時期を尋ねたり,被告会社の労務管理上の改善点を説明して復帰後の配属部署を提示する等,復職に向けた積極的な働きかけを行い,本件復職命令でも,所属及び業務内容は面談を行って決めるとし,立会団交では,一旦発令した本件復職命令を撤回し,復職見込み時期を明らかにして復職に向けた具体的な話合いに入ることを求めていたこと,原告及び組合が復職見込み時期を明らかにせず,復職に向けた具体的話合いにまで至らなかった経緯があったことからすれば,本件解雇が社会的相当性を欠くとの主張は採用できない。なお,厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」に違反することが,本件解雇の社会的相当性欠如の評価根拠事実になるとの原告の主張は,それ自体失当なものであり,採用できない。 オ原告は,本件解雇の経緯及び態様から,これが不当労 復帰支援の手引き」に違反することが,本件解雇の社会的相当性欠如の評価根拠事実になるとの原告の主張は,それ自体失当なものであり,採用できない。 オ原告は,本件解雇の経緯及び態様から,これが不当労働行為に当たると主張するが,経緯及び態様は上記前提事実のとおりであり,この事実関係から本件解雇の不当労働行為該当性を認めることはできない。 (3) 解雇予告義務違反の解雇の効力原告は,本件解雇が労働基準法20条1項の予告義務に違反した解雇であると主張するが,上記前提事実からすると,被告会社は即時解雇に固執する趣旨ではなく,平成19年11月9日,解雇予告手当30万円及びこれに対する同日までの遅延損害金2万4658円を支払っているから,本件解雇は,原告に対する意思表示の日(平成18年6月28日)から30日が経過した 平成18年7月28日の経過時に効力が生じたというべきである。 よって,この点に関する原告の主張もまた,理由がない。 (4) 結論以上より,本件解雇は有効であるから,雇用契約上の地位確認及び賃金請求はいずれも理由がない。なお,賃金請求のうち,本判決確定日の翌日以降の賃金支払を求める部分については,あらかじめ請求をする必要がある場合に当たるとは認められないから,不適法として却下されることになる。 2 損害賠償請求の可否について(乙事件)(1) ビラ配布行為による肖像権及びプライバシー侵害の有無についてアプライバシー侵害について本件ビラ②には,乙事件原告の住所,職業,会社代表者として組合との間で労働紛争を抱えていることが記載されている。これらは,乙事件原告の身上,経歴に関する情報で,一般の人々に広く知られている情報ではなく,みだりに他者に公表されたくないと考えるのが通常であるから,乙事件原告は,このような ことが記載されている。これらは,乙事件原告の身上,経歴に関する情報で,一般の人々に広く知られている情報ではなく,みだりに他者に公表されたくないと考えるのが通常であるから,乙事件原告は,このような情報をみだりに公表されない法的利益を有している。 そして,乙事件原告は,本件ビラ②をマンションの近隣住民に配布されたことにより,実際に不快,不安の念を覚えたことが認められるから,本件ビラ②をマンションの郵便受けに投函した行為は,乙事件原告のプライバシー侵害に当たるというべきである。 原告及び乙事件被告らは,組合と労働紛争を抱えていることは,会社代表者としての行為に関する事項であるから,乙事件原告の私生活上の事実に当たらず,プライバシーの侵害にならないと主張する。しかし,少なくとも乙事件原告の住所及び職業は,個人情報として私生活上の事実に当たるし,本件ビラ②の記載内容は,上記前提事実のとおり,専ら乙事件原告個人の言動を挙げてこれを非難する内容で,本件解雇と無関係の近隣住民にまで広く公表されたくないとの期待は法的保護に値するというべきであ るから,プライバシーの侵害に当たらないとの主張は採用できない。 原告及び乙事件被告らは,本件ビラ②の配布は,正当な組合活動であるから,憲法28条,21条により違法性が阻却されると主張する。しかし,組合活動といえども,正当な理由なく,企業経営者の私生活の領域に立ち入るべきではなく,企業経営者個人のプライバシーや私生活の平穏等を侵害する行為が,組合活動であることから当然に正当化されることはない。 本件ビラ②の配布行為は,本件解雇や被告会社の業務とは無関係な乙事件原告が居住するマンションの近隣住民の各郵便受けにビラを投函するという態様のもので,ビラの内容は,組合との労働紛争に至った原因として乙事件原告個人 行為は,本件解雇や被告会社の業務とは無関係な乙事件原告が居住するマンションの近隣住民の各郵便受けにビラを投函するという態様のもので,ビラの内容は,組合との労働紛争に至った原因として乙事件原告個人の言動を挙げて非難し,抗議先としてその住居を記載して近隣住民に抗議を呼びかけるものであるから,本件解雇の不当性を主張する必要があったとしても,正当な組合活動又は表現行為として違法性が阻却されると解することはできない。 イ肖像権侵害について何人も自己の容貌や姿態を撮影した写真をみだりに公表されない利益を有しており,乙事件原告は,本件ビラ①にその上半身を撮影した写真を承諾なく掲載されたのであるから,その肖像権が侵害されたといえる。原告及び乙事件被告らは,既にインターネットのサイト上で公開されている写真であるから肖像権侵害に当たらないと主張するが,人格価値を表象し,人格と密接に結びついた肖像の利用は,本人の意思に委ねられるべきであり,他人がこれをみだりに公表することが肖像権の侵害にほかならないのであるから,上記主張は,失当というほかない。 原告及び乙事件被告らは,本件ビラ①の配布行為は,正当な組合活動ないし表現行為であるから,違法性が阻却されると主張する。しかし,組合活動であるからといって権利侵害が当然に正当化されることはなく,組合活動としての必要性及び社会的相当性が要求されると解すべきである。本 件では,本件解雇の不当性を訴える必要があったとしても,乙事件原告の顔写真を掲載する必要性及び相当性があったと評価するだけの根拠を見出し難いから,本件ビラ①の配布行為による肖像権侵害について,組合活動又は表現行為として違法性が阻却される余地はない。 (2) 損害額について上記前提事実のとおりの本件ビラ①,②の記載内容,表現方法のほ ら,本件ビラ①の配布行為による肖像権侵害について,組合活動又は表現行為として違法性が阻却される余地はない。 (2) 損害額について上記前提事実のとおりの本件ビラ①,②の記載内容,表現方法のほか,乙事件原告が周囲から好奇の目で見られる等してマンションからの転居を余儀なくされたこと等の不利益の程度,原告及び乙事件被告らが,本件解雇の不当性を訴えるために本件ビラ①,②を配布するについて,乙事件原告の顔写真や住所等を掲載する必要性及び相当性を見出し難いこと等を総合考慮すると,精神的苦痛を慰謝するには70万円を相当と認める。 (3) 結論以上より,乙事件原告の請求は,70万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があることになる。 第4 結論以上によれば,原告の被告会社に対する請求は,本判決確定日の翌日以降の賃金支払請求の部分は不適法であり,その余の請求はいずれも理由がない。乙事件原告の原告及び乙事件被告らに対する請求は,70万円とその遅延損害金を請求する限度で理由があり,その余の請求には理由がないという結論になる。 東京地方裁判所民事第36部 裁判長裁判官渡邉弘 裁判官藤井聖悟 裁判官秋武郁代

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