主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中580日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、第1(訴因変更後の令和5年3月6日付け起訴状記載の公訴事実)Aらが投資資金としてBに預けた現金相当額を回収する名目で、Bから現金等を奪おうと考え、Aと共謀の上、令和4年6月1日午後8時11分頃から同日午後8時49分頃までの間に、Bが事務所として使用していた広島県C郡D町E町F番G号H号室において、B(当時71歳)に対し、Aが「1000万は返してよ」「金庫あるでしょ」「もうさ、返そうよ」などと言い、被告人が「今日中にお前幾らか返せよお前」「ここで死ぬか返すかはっきり決めろ」「あばら全部折ってくからな」「仮病使ってっと、もう1回あばら折るぞ」などと言ってBを脅迫するとともに、被告人がBの身体を多数回殴るなどの暴行(以下「被告人の暴行」という。)を加え、その反抗を抑圧した上、更にI、J、K、L、Mとも共謀の上、同日午後8時49分頃から同月2日午前0時48分頃までの間に、同所において、室内を物色するとともに、B管理の現金約11万円を強取し、その際、前記暴行により、同日午前1時36分頃から同日午後1時8分頃までの間に、同所において、Bを死亡させ、第2(令和4年7月13日付け起訴状記載の公訴事実)I、A、J、K、L、Mと共謀の上、令和4年6月1日午後8時44分頃から同月2日午前1時36分頃までの間、前記H号室において、Bが携帯電話機を自由に使用できないようにするなどして外部との連絡を遮断するとともに、Bの動静を監視するなどして、Bが同室から脱出するのを著しく困難にし、もって不法に人を監禁し、第3(令和5年2月13日付け起訴状記載の公訴事実) I、A、Jと共 を遮断するとともに、Bの動静を監視するなどして、Bが同室から脱出するのを著しく困難にし、もって不法に人を監禁し、第3(令和5年2月13日付け起訴状記載の公訴事実) I、A、Jと共謀の上、令和4年6月2日午後1時8分頃、前記H号室からBの死体を運び出して、同ビル先路上に停止させた普通乗用自動車に積み込み、その頃から同月3日頃までの間に、同車を使用してBの死体を同所から埼玉県内又はその周辺まで運搬した上、隠匿し、もって死体を遺棄した。 (証拠の標目)【省略】(事実認定の補足説明)第1 争点罪となるべき事実第2の監禁の事実には争いがない。罪となるべき事実第1の強盗致死、罪となるべき事実第3の死体遺棄の事実について、被告人が、被害者に対し多数回殴るという暴行を加えたことには争いがないが、被害者の遺体が発見されていない中で、暴行の程度や目的、被害者の死亡時期、被告人の暴行と被害者の死亡との因果関係が争われている。 具体的には、①被害者は、H号室(以下「事務所」という。)から運び出される前に死亡したか(争点1)、②被害者は、被告人以外の者による暴行ではなく、被告人の暴行により死亡したか(争点2)、③被告人の暴行は、現金等を奪うために行われたか(争点3)が問題となる。 第2 当裁判所の判断 1 争点1(被害者の死亡時期)についてIの裁判官調書によると、Iは、令和4年6月2日朝、Jに頼まれて被害者の様子を見にいき、被害者が脱衣所で仰向けに倒れており、被害者の体に触ると、冷たく、少し硬くなっていたので、Jに被害者が死んでいると伝えたと認められる。この点のIの供述は、Jの証言とも整合している上、Iは、被害者の体調を気にしており、Jに頼まれてもいるから、確認した被害者の様子を勘違いするなどとは考え難く、この点のIの いると伝えたと認められる。この点のIの供述は、Jの証言とも整合している上、Iは、被害者の体調を気にしており、Jに頼まれてもいるから、確認した被害者の様子を勘違いするなどとは考え難く、この点のIの供述は信用できる。観察条件に問題があるなどという弁護人の指摘を踏まえても、Iが被害者の体の冷たさや硬さを認識した時点で、被害者が既 に死亡していた可能性は高い。 また、Jの証言によると、JがIから被害者が死んだ旨伝えられて被害者を事務所から運び出した際、被害者の体は硬く、胴体や手足が曲がっておらず、担架を運んでいるようだったと認められる。この点のJの証言は、実際に体験した者ならではの内容といえ、信用できる。法医学者の証言を踏まえると、Jの証言する被害者の体の状態は、死後硬直によるものと考えられる。 加えて、科学捜査研究所の職員による鑑定結果によると、事務所から発見された靴下に付着していた被害者の血が死体血である可能性が高いと認められる。 これらを考え併せると、被害者は事務所から運び出される令和4年6月2日午後1時8分より前に死亡したと認められる。 なお、Iの供述によると、事務所にI、A、被害者の3人だけになった令和4年6月2日午前1時36分以降に、Iが浴室で被害者の様子を見た際、被害者は寝息を立てていたのであるから、被害者はその際にはまだ生きていたと認められる。そこで、被害者の死亡時期は、罪となるべき事実第1(及び第2)のとおり、令和4年6月2日午前1時36分頃から同日午後1時8分頃までと特定した。 2 争点2(被告人の暴行と被害者の死亡との因果関係)について(1) 前提事情ア事務所に入るまでの被害者の様子動画によると、被害者は、令和4年6月1日午後8時11分頃に事務所に入る際、体のどこかを痛がる様子もなく、しっかりと との因果関係)について(1) 前提事情ア事務所に入るまでの被害者の様子動画によると、被害者は、令和4年6月1日午後8時11分頃に事務所に入る際、体のどこかを痛がる様子もなく、しっかりとした足取りで歩いている。この頃までに被害者の身体に重い傷害が生じていた可能性は低い。 イ被告人の暴行の部位、強度、回数音声データ等によると、被告人は、令和4年6月1日午後8時20分頃から同日午後8時33分頃までの約13分間に、事務所において、被害者に対し、「あばら全部折ってくからな」「見せねーなら、またやるぞ」などと発言しながら、約50回もの暴行を加えている。同日午後8時44分頃に事務所に入ったJの証言による と、被害者は、その頃、目の周りを紫色に腫らし、呼吸が乱れ、あばらを押さえていたと認められる。この点のJの証言は、Kの証言やIの供述と整合しており、信用できる。また、被告人は、同日午後8時46分頃から同日午後8時49分頃までの間に、「あばら何本折れた?さっきので」「仮病使ってっと、もう一回あばら折るぞ」などの肋骨が折れたことを前提とする発言もしている。 これらによると、被告人の暴行は、約50回と多数回に及ぶばかりでなく、その中には胸部に対する相当強度のものが含まれ、被害者の肋骨等に重い傷害を生じさせるものであったといえる。 ウ法医学者の意見法医学者の証言によると、被害者は、被告人の暴行による(広義の)外傷性ショックによって死亡したと考えるのが最も合理的であるというのである。この証言は、法医学の専門家が、関係証拠を検討した上で、法医学の専門的知見に基づく意見を述べたもので信用性が高い。 (2) 評価これらによると、被告人は、事務所に入る前に重い傷害が生じていた可能性の低い被害者に、胸部に対する相当強度のものを含む約 法医学の専門的知見に基づく意見を述べたもので信用性が高い。 (2) 評価これらによると、被告人は、事務所に入る前に重い傷害が生じていた可能性の低い被害者に、胸部に対する相当強度のものを含む約50回もの暴行を加え、その後被害者が死亡するまでの間、被告人の暴行の影響を受けて被害者が浴室内で自ら転倒した可能性の他に被害者の死因となるような出来事は特段うかがえず、また、法医学の専門的知見からすると、被害者は被告人の暴行による外傷性ショックによって死亡したと考えるのが最も合理的であるというのであるから、被害者は、被告人の暴行により死亡したといえる。 (3) 弁護人の指摘する可能性の検討弁護人は、被害者が事務所に入る前にIが被害者の頭を持って自動車のトランクに打ちつけるなどした暴行が被害者の死因となった可能性を指摘する。 確かに、その暴行が被害者の死に影響を与えた可能性を完全に否定することはできない。しかし、前記のような、被告人の暴行の部位、強度、回数と、事務所に入 る直前の被害者の様子に加え、法医学者の証言によると、頭部外傷が死因となる場合、一般的に吐き気や嘔吐などが見られるが、被害者にはそうした症状が見られないため、Iの暴行のみが死因にかかわったとは考え難いというのである。そうすると、Iの暴行が被害者の死に一定の影響を与えた可能性が否定できないとしても、その後の被告人の暴行により被害者が死亡したこと、すなわち、被告人の暴行と被害者の死亡との因果関係は、合理的な疑いなく認められる。 3 争点3(被告人の暴行の目的)について被告人は、Aらから依頼を受けて、Aらが被害者に預けた投資資金を回収するために、被害者に会って被害者と共に事務所に赴き、事務所内で被害者への暴行に及んでいる。その上、被告人の暴行は、「今日中にお前幾らか返 は、Aらから依頼を受けて、Aらが被害者に預けた投資資金を回収するために、被害者に会って被害者と共に事務所に赴き、事務所内で被害者への暴行に及んでいる。その上、被告人の暴行は、「今日中にお前幾らか返せよお前」「半分くらい返せよ、今日中に」「ここで死ぬか返すかはっきり決めろ」などの当日中の現金の交付等を要求する発言と共に加えられている。これらによると、被告人の暴行が現金等を奪うために行われたものであることは明らかである。 被告人は、投資資金の運用状況等を開示させるために暴行を加えたにすぎないと述べるが、そのような目的があったとしても、同時に現金等を奪う目的も有していたことは否定されない。 第3 結論以上の検討を前提とすると、罪となるべき事実のとおり、強盗致死、監禁、死体遺棄の事実が認められる。 (法令の適用)罰条第1の所為刑法60条、240条後段第2の所為刑法60条、220条第3の所為刑法60条、190条刑種の選択第1につき無期懲役刑併合罪の処理刑法45条前段、46条2項本文 未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)量刑の中心となる強盗致死についてみると、被害者を死亡させたのは、被告人が事務所で行った、胸部に対する相当強度のものを含む多数回の暴行であり、その暴行の危険性は高かったといえる。事務所に入る前に被害者に加えられた暴行が被害者の死に影響した可能性が否定できないとしても、被害者を死亡させた責任はほぼ全て被告人が負うべきものである。 また、被告人が暴行脅迫を用いるに至った経緯には、被害者が共犯者から投資資金名目で多額の現金を預かった上で、返還や運用状況等の開示を頑なに拒んだことが影響しているが、被告人は、報 べきものである。 また、被告人が暴行脅迫を用いるに至った経緯には、被害者が共犯者から投資資金名目で多額の現金を預かった上で、返還や運用状況等の開示を頑なに拒んだことが影響しているが、被告人は、報酬目当てに回収の依頼を受けたのであり、そうした被害者の言動もそれを受けた相当強度の脅迫や暴行も想定していたと考えられるのであって、この点を大きく酌むことはできない。 以上を踏まえ、同種事案(強盗致死、共犯関係等-実行共同正犯又は単独犯)の量刑等を参照し、被告人が死体遺棄にも及び、被害者の遺体はいまだ発見されていないことや、被告人が本件を反省しているとはいえないことなども考慮すると、本件は酌量減軽をすべき事案とはいえず、無期懲役に処するのが相当である。 (求刑-無期懲役)令和6年10月11日広島地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官後藤有己裁判官櫻井真理子裁判官金井千夏
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