令和5年(行コ)第46号葬祭料不支給決定処分取消請求控訴事件令和6年9月12日名古屋高等裁判所民事第2部判決(原審名古屋地方裁判所令和3年(行ウ)第23号) 主文 1 原判決を取り消す。 2 瀬戸労働基準監督署長が平成30年3月26日付けで控訴人に対してした労働者災害補償保険法による葬祭料を支給しない旨の処分を取 り消す。 3 訴訟費用は第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文と同旨第2 事案の概要(略称は、特に定めるほかは、原判決と同様である。以下同じ。) 1 本件は、東濃信用金庫(本件信金)の職員であったAの父である控訴人が、Aは、業務上の過大なノルマ(営業目標)の設定や上司によるパワーハラスメント(以下「パワハラ」ともいう。)等により精神障害を発病して自殺した(本件自 死)などとして、労働者災害補償保険法(労災保険法)による葬祭料の支給を請求したところ、処分行政庁が、平成30年3月26日付けで、精神障害の発病が認められず、業務と死亡との間に相当因果関係が認められないなどとして、これを支給しない旨の処分(本件処分)をしたため、被控訴人に対し、本件処分の取消しを求める事案である。 原審は、Aの業務による心理的負荷は、精神障害を発病させる程度であったとはいえないし、Aが精神障害を発病したことを認めるに足りないなどとして、控訴人の請求を棄却したため、控訴人が、これを不服として控訴した。 2 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、原判決「事実及び理由」第2の1ないし3のとおりであるから、これを引用する。 第3 当裁判所の判断当裁判所は、原審と異なり、Aの精神障害の発病が認められ、その発病 点に対する当事者の主張は、原判決「事実及び理由」第2の1ないし3のとおりであるから、これを引用する。 第3 当裁判所の判断当裁判所は、原審と異なり、Aの精神障害の発病が認められ、その発病及び本件自死の業務起因性も認められるから、労災保険法による葬祭料の支給をしない とした本件処分は違法であり、取り消されるべきであると判断する。その理由は、以下のとおりである。 1 判断枠組等、認定事実及びAの精神障害発病の有無に関する医学的意見は、以下のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第3の1ないし3のとおりであるから、これを引用する。 (1)原判決13頁6行目末尾の次に「しかし、事実上の休日業務は行われており、少なくともAにとっては、後記のような過酷な営業目標(ノルマ)があったため、Aは、休日にも自宅からチラシ等を持って出かけ、Z支店には寄らずにその配布を行ったり(ローラー活動)、アポイントを取って顧客と面談するなどしていたし、B支店長のゴルフの送迎までさせられており、まともに休日を取 得できたのは、妻と結婚して以降、2、3日しかなかった(甲A2の1・18頁、同25頁、同33頁、同278頁、同310、311頁、同336、337頁、同357頁、同362〜364頁、同386、387頁、甲A11)。」を付加する。 (2)原判決13頁17行目の「在職中、」の次に「非常に忙しかったため、」を加 え、20から21行目の「280頁」を「50頁、同280、281頁」と改める。 (3)原判決14頁1行目末尾の次に「このような際、B支店長は、残業をしているAに対し、『仕事ができないからそこまで残っているんだろう、仕事もできないくせにこんな時間まで何やっているんだ。』、『無駄に仕事してるふりして るなら客をとって 際、B支店長は、残業をしているAに対し、『仕事ができないからそこまで残っているんだろう、仕事もできないくせにこんな時間まで何やっているんだ。』、『無駄に仕事してるふりして るなら客をとってこい。』などと罵倒した。Aは、妻に、『労基署が入ってから 残業代がつけられなくなった。仕事が終わらないので、パソコンを使わない仕事をしている。実労働時間は変わらないのに残業代の支払はないので給与は下がる一方。給与として反映されている方がましだった。モチベーションが上がらない。』などと述べていた。Aは、前述のとおり休日も顧客回りをすることがあり、妻に、『休日も使ってお客さんのところを回らないと平日だけでは時間 が足りない。そのために案件が取れない。』などと述べていた。」を、2行目の「甲A2の1・」の次に「34頁、同46、47頁、同260、261頁、同」を、3行目の「1172頁、」の次に「甲A12、」を、同行目の「甲C1〜3」の次に「、当審証人C(以下「証人C」又は「C」という。)」をそれぞれ加える。 (4)原判決14頁6行目末尾の次に「Aは、営業目標を達成するために、自分名義の口座をいくつも作ったほか、必要のない父(控訴人)・母や妹であるC名義のクレジットカード(ゴールドカードが多くを占めていた。)を、父(控訴人)・母には頼んだりし(ただし、無断のものもあった。)、Cには無断で作るなどして、年会費は自分で負担し、ノルマとされる預金量を増やすために控訴人から 借金するなどしていたが、それにもかかわらず、仕事上でAの実家のことを知っていたB支店長からは、『親に頼んでもどうにか案件とってこい。』、『おまえの家、金持ちなんだから親に頼んでどうにかなるだろう、仕事を引っ張ってこい。』などと言われていた(甲A2の1・17、18頁 っていたB支店長からは、『親に頼んでもどうにか案件とってこい。』、『おまえの家、金持ちなんだから親に頼んでどうにかなるだろう、仕事を引っ張ってこい。』などと言われていた(甲A2の1・17、18頁、同24頁、同33頁、同47頁、同284、285頁、甲A12、証人C)。」を加える。 (5)原判決14頁11行目末尾を改行の上、次のとおり加える。 「 Aは、平成25年8月1日にZ支店に転入して得意先係として勤務していたが、平成27年4月1日、得意先係主任に昇進した。」(6)原判決15頁21行目の「あったが、指導時間は比較的短時間であった。」を「あり、指導時間はD次長と比べると短かったものの、長時間に及ぶこともあ った。B支店長は、部下職員の営業目標不達成に対して非常に厳しい叱責を行 っており、『案件取らぬ者は給料泥棒』、『バカじゃないか?お前なんか給料もらう資格もない。』などと罵倒し、案件が取れた場合も『こんな案件にどれだけ時間かけてんだ。お前の段取りが悪すぎるからじゃないのか。』などと罵ることがあり、Z支店の支店長室は、職員らから『説教部屋』と呼ばれていたし、B支店長自身も『パワハラ支店長』、『恐怖で人を縛るタイプ』などと言われて いた。Eは、B支店長から、同僚からみても理不尽と思われるような激しい叱責を受けるいわゆるターゲットになっていた。Aは、平成29年1月のEの転出により、今度は自分がB支店長のターゲットになるのではないかと恐れていたが、その後、実際にターゲットになってしまった。また、本件信金では、パワハラに対する体制が非常に甘く、上司のパワハラを訴え、聞き取り調査によ ってその事実があったとされたとしても、その上司が異動になることはなかなかなく、そのまま上司が残るという状態であり、パワハラがあっ する体制が非常に甘く、上司のパワハラを訴え、聞き取り調査によ ってその事実があったとされたとしても、その上司が異動になることはなかなかなく、そのまま上司が残るという状態であり、パワハラがあってもなかなか言えない状況であった。」と改め、23行目の「多かった。」の次に「しかも、些細なミスや独自のルールによる細かいことの注意にまで及び、部下職員らは、理不尽と感じ、困っていた。また、Z支店では、個人の携帯電話の管理にも厳 しく、着信のあった携帯電話に触れただけでも怒られ、同僚同士の関係も殺伐としたものであった。」を、同行目の「甲A2の1・」の次に「29頁、同33、34頁、同359頁、同388、389頁、同」を、24行目の「1166頁、」の次に「同1202、1203頁、甲A12、」を、同行目の「甲C2」の次に「、証人C」をそれぞれ加える。 (7)原判決16頁5行目の「(甲C1〜3)」を次のとおり改める。 「このような際、B支店長は、Aに対し、『横領しているからではないか』などと言い、その言い方も次第に激しくなっていった。また、Aが営業ルートから外れると、『おまえまたサボっていただろう。』などとも言った。さらには、Aが何回も直前で大きな仕事を逃してしまったことに対しては、『こんなのも取 れなかったのか、なんでなんだ、なんでそんなこともできないんだ。』などと罵 倒し、胸倉を掴んで『案件取らぬ者は給料泥棒』などと罵倒したり、『おまえの家、金持ちなんだから親に頼んでどうにかなるだろう、仕事を引っ張ってこい。』などと詰め寄ったりした。(甲A2の1・34頁、甲A12、甲C1〜3、証人C)」(8)原判決16頁9行目と10行目の間に次のとおり加え、10行目の「(6)」を 「(9)」と改める。 「 エ Aは、B支店 りした。(甲A2の1・34頁、甲A12、甲C1〜3、証人C)」(8)原判決16頁9行目と10行目の間に次のとおり加え、10行目の「(6)」を 「(9)」と改める。 「 エ Aは、B支店長の支店長会議の送迎をさせられていたし、休日も含め、B支店長のゴルフや飲み会の送迎をさせられていた(甲A2の1・48頁、同343、344頁、甲A2の3・1203頁、甲A12、証人C)。 (6)Aは、平成29年に入った頃から食欲がなくなって、それまでの半分く らいになり、『おかずを食べると気持ちが悪くなるから』などと言っておにぎりやご飯だけを食べることもあり、夜は、良く寝られないようになって、リビングにいたりすることもあった(甲A2の1・281頁、285頁、甲A2の3・1196、1197頁、甲A11、甲A12、証人C)。 (7)Aは、妻との結婚後も月に1度は会っていた中学校時代からの親しい友 人に、Z支店での勤務について、『休みがほとんどないし、残業が多く、学生時代の理想とは違った。本当にテレビの半沢直樹と同様に上からの言葉は絶対だし、あのままだよ。』などと述べ、これを聞いた友人は、普段あまり愚痴を言わないAがこんなことを言うなんて、よほど辛いのだろうと感じて心配した(甲A11)。 また、上記友人は、本件自死の直前頃、Aを食事に誘ったが、Aは、普段は断ることがないのに、『体調が悪い。風邪をひいたかもしれないから当分会えない。』と言って誘いを断った。 (8)Aは、妹のCと仲が良く、二人だけで会って、職場のことを含め様々な話をしていた。AがCに話す内容やその様子は、以下のように変わっていっ た。Aは、周囲には心配をかけないようにしており、特に妻や母親にでき るだけ心配をかけないために、C以外には話していないこと た。AがCに話す内容やその様子は、以下のように変わっていっ た。Aは、周囲には心配をかけないようにしており、特に妻や母親にでき るだけ心配をかけないために、C以外には話していないことも多かった。 (甲A2の1・31〜35頁、甲A12、証人C)ア Aは、支店長がB支店長に代わった後、それまでにはなかった支店長から罵倒されるなどの話をするようになった。 具体的には、B支店長から、仕事ができないからそこまで残っている んだろう、仕事もできないくせにこんな時間まで何やっているんだなどと言われる、横領というような犯罪まがいのことを言われる、少し営業ルートから外れると、おまえまたサボっていただろうなどと言われる、人前で大声で言われる、字が汚いから怒られる、無理やり帰れと言われる、特に自分に対してはひどいなどと話した。 Aが案件が取れないことについては、B支店長から、『案件取らぬ者は給料泥棒』などと言われ、胸倉を掴んで罵倒されるし、『おまえの家、金持ちなんだから親に頼んでどうにかなるだろう、仕事を引っ張ってこい。』と言われるなどと話した。 イ Aは、本件自死の1箇月ないし2箇月前(平成29年4月から5月) 頃には、話の内容だけでなく、話をしている様子もそれまでとは変わり、落ち込んでいる様子になった。具体的には、それまでは、前記アのような支店長の言動についての話のほかに、趣味の話や、顧客から良くしてもらった話などもあったのが、楽しい話が一切なくなって、仕事がつらい、嫌だ、辞めたいなどという、暗い話ばかりになった。表情も、以前 は生き生きした顔をしていたのが、目がうつろで死んでいるような顔になった。 そして、契約直前で大きな仕事を逃し、落ち込んでいるところへ、B支店長からは、『こんなのも取れなかったのか、 以前 は生き生きした顔をしていたのが、目がうつろで死んでいるような顔になった。 そして、契約直前で大きな仕事を逃し、落ち込んでいるところへ、B支店長からは、『こんなのも取れなかったのか、なんでなんだ』、『なんでそんなこともできないんだ』などと罵倒されるし、書類の管理等につい ても、横領しているからではないかなどと何回も言われ、横領している という言われ方が激しくなったなどと話した。 ウ Aは、平成29年4月終わり頃及び5月頃にCと会った際には、悲しそうに、しくしくと泣き、覇気がなく、言葉がうまく出てこない様子で、激詰めを受けている、仕事を辞めたい、つらい、眠れなくなったなどと話した。 Cは、Aのこのような様子を見て、悲しくて、自分がどうしていいのか、誰に何を言っていいのかわからなくなっている、心が弱り切っている、Aの心が壊れてしまうと感じ、Aに、今すぐ辞めたほうがいい、仕事なんて代わりは幾らでもあるから辞めたほうがいい、病院に行ったほうがいいなどと言った。また、Aが眠れないことについては、Cは、病 院に行くことを勧めたが、Aは、市販の睡眠薬を買って飲んでみるから大丈夫だと言っていた。 Cは、このような話をAの母や妻には伝えなかったが、父である控訴人には伝え、絶対転職させるべきだと話した。(甲A2の1・34、35頁、甲A12、証人C)」 (9)原判決16頁10行目の「甲A2の1・」の次に「50、51頁、同」を加える。 (10)原判決17頁19行目の「ことはなかった。」を「ことができなかった。ただし、B支店長は、これが到底『横領』(犯罪行為)とはいえないものであることを十分認識しており、その上で、あえて上記のような厳しい叱責を行ってい たのである。」を付加する。 (11)原判 だし、B支店長は、これが到底『横領』(犯罪行為)とはいえないものであることを十分認識しており、その上で、あえて上記のような厳しい叱責を行ってい たのである。」を付加する。 (11)原判決18頁2行目末尾の次に、「Aは、外出中に、ヘリウムガスを使用して自殺しようとしたが、死ぬことができなかった。また、Aは、本件遺書を遺した。」を加える。 (12)原判決18頁3行目の「スーツに着替えて」を「髪の毛を整えることなく、 スーツには着替えて」と改める。 (13)原判決18頁5行目と6行目の間に次のとおり加える。 「(10)本件信金における業務に関係するものの他には、Aが本件自死に至るような原因は見当たらないし、精神障害を発病するような原因も見当たらない。 また、Aが亡くなった原因は、B支店長の怒鳴るような叱責、D次長の 長時間の注意や独自の指示等が積み重なって、大きなストレスになったことだと明言する同僚職員もいる。 Aの本件自死の後、Z支店では、そのショックでしばらく仕事に出てくることができなかった職員もいたし、顧客がAを訪ねてきたり、顧客からA宛の電話がかかってきたりすると、女性職員が泣きだしてしまうといっ た状況が長く続いた。 (甲A2の1・288頁、同330頁、甲A2の3・1201頁)」 2 Aは精神障害を発病していたか(争点1)について(1)前記補正して引用した認定事実のとおり、本件自死に至るまでのAの状況は以下のとおりであった。 Aは、本件自死の1箇月ないし2箇月前頃から、様子が変わり、それまでとは違って落ち込んでいる様子になった。Aは、妹のCと会った際にも、それ以前には出ていた楽しい話が全く出なくなって、仕事がつらい、嫌だ、辞めたいなどという、暗い話ばかりになり、その表情も 、それまでとは違って落ち込んでいる様子になった。Aは、妹のCと会った際にも、それ以前には出ていた楽しい話が全く出なくなって、仕事がつらい、嫌だ、辞めたいなどという、暗い話ばかりになり、その表情も、目がうつろで死んでいるような顔になった。そして、4月終わり頃及び5月頃にCと会った際には、悲しそ うに、しくしくと泣き、覇気がなく、言葉がうまく出てこない様子で、激詰めを受けている、仕事を辞めたい、つらい、眠れなくなったなどと言うようになった(Cは、Aが、悲しくて、自分がどうしていいのか、誰に何を言っていいのかわからなくなっている、心が弱り切っている、心が壊れてしまうと感じ、転職を勧め、病院に行くことを勧めた。)。 また、この頃には、Aは、食欲がなくなり、不眠が生じていた。 Aは、以前には、B支店長の指導に対しても、これに納得できない場合には、反論したり、不満を顔に出したりしていた。しかし、平成29年5月23日には、Aは、B支店長の「横領」、「握りこみ」といった不相当な強い言葉に対してさえも、全く言い返すことができなくなり、Aの状況は顕著に悪化した。 Aの以上のような状況は、前記のAの友人が感じた状況と整合しており、A が、自死直前に、友人からの食事の誘いを、体調不良を理由に断ったこととも整合している。 Aは、本件自死の前日である平成29年5月23日、帰宅後、非常に落ち込んだ様子で、妻に対し、「絶対明日むちゃくちゃ言われるので会社に行きたくない。」等と話し、食事に手を付けず、深夜にかけて、眠れないなどといって 外出を繰り返すなどし、この間に、ヘリウムによる自殺をしようとしたが果たせず、同月24日午前、本件自死に至った。 そして、本件遺書には、「自分が弱いせいです。申し訳ございません。」、「ただただ、案 外出を繰り返すなどし、この間に、ヘリウムによる自殺をしようとしたが果たせず、同月24日午前、本件自死に至った。 そして、本件遺書には、「自分が弱いせいです。申し訳ございません。」、「ただただ、案件が中々取れない辛さ、期待に応えられない辛さが原因です。」、「ダメな旦那を許して下さい。」、「素晴らしい両親から、こんなダメ息子が生まれ てしまって、申し訳ない。僕が弱いせいです。生きていくのが、ホントに辛くなりました。」、「ヘリウム自殺失敗、もう飛び降りるしかない。」、「自分の我儘です。弱い自分を許して下さい。」、「全て、私の弱さが招いた事です。会社や、お客様には一切、関わりのない事です。」、などと記載されており、このような本件遺書の内容は、Aの以上のような状況と良く整合するもので、自尊心が崩 壊し、自殺しか選択肢がなくなっており、妻を含む家族との平穏な将来を思い描くこともできなくなっていた。 そして、B支店長から人格をも貶める理不尽な叱責が繰り返されることで、その恐怖に縛られるとともに、自分自身を「ダメな旦那」、「ダメ息子」などと自己を微小化し、卑下した上、後述するとおり客観的にはB支店長の責任に属 する住宅ローン案件の失敗を擦り付けられたことまでをも、自分の能力のなさ や責任であるとして、一職員に過ぎないA個人の問題ではなく、B支店長ないしB支店長が支配するZ支店に原因がある問題であるにもかかわらず、「全て、私の弱さが招いた事です。会社や、お客様には一切、関わりのない事です。」などと捉えており、F医師の意見(甲A3)にあるとおり、微小妄想、罪業妄想が生じているものと認められる。 (2)前記(1)の本件自死に至るまでのAの状況によれば、Aには、遅くとも、本件自死の1箇月くらい前から、抑うつ気分、興味と喜 にあるとおり、微小妄想、罪業妄想が生じているものと認められる。 (2)前記(1)の本件自死に至るまでのAの状況によれば、Aには、遅くとも、本件自死の1箇月くらい前から、抑うつ気分、興味と喜びの喪失、易疲労性、自己評価と自信の低下、罪悪感と無価値観、将来に対する希望のない悲観的な見方、自殺の観念・行為、睡眠障害が生じており、これらは、いずれも重症の程度に至っていたもので、本件自死に至るまで継続し、増々強固なものになっ ていったことが認められる。 なお、遺書に引継ぎが記載されていることについては、この時点において、転勤が決まったなどの引継ぎの必要な客観的状況があったわけではなく、自殺さえしなければ、引継ぎは必要ないのであるから、むしろAの自殺に向かう心理状態が強固なものとなっており、Aにとって、他の選択肢がなくなっていた ことを示すものと理解することができる。正常な判断ができていれば、自殺以外の、例えば妹のCから提案されていた転職等の他の選択肢も検討することになるのであるから、引継ぎの記載があることによって、正常な判断能力があったと認めることはできない(その当時、転職という選択肢が提示されていて、転職さえすれば後述のB支店長によるパワーハラスメントから逃れることが できるのであり、その他に、Aが自殺しなければならないような事情は全くなく、自殺と転職とを比較すれば、自殺が不合理で、転職が合理的であることは言うまでもなく明らかであり、少なくともその時点における自殺という判断自体を合理的判断といえない以上、その当時にAが合理的判断ができていたなどということは到底できないものである。)。また、G医師は、強度の易疲労性が あればとても外出などできないから、Aに「易疲労性」が生じていたとはいえ ない旨の意 的判断ができていたなどということは到底できないものである。)。また、G医師は、強度の易疲労性が あればとても外出などできないから、Aに「易疲労性」が生じていたとはいえ ない旨の意見を記載しているが、Aの外出は、生活上の必要からの外出や気晴らし等が目的の外出ではなく、自殺のための外出であり、外出の性質が全く異なるものであるから、G医師の上記意見は到底採用することができない。 (3)以上によれば、Aは、定型症状の全てを満たし、他の一般症状も4つ以上が存在して、いずれも重症であったから、重症うつ病エピソードに該当していた ものである。そして、F医師は、本件遺書の記載等をBDIテストに当てはめた結果は高得点であるとしており、そこで行われている当てはめは、以上の認定及び判断と良く整合するものである(甲A3)。 さらに、後記のとおり、本件自死前のAに精神障害を発病するおそれが十分にあるだけの心理的負荷が生じていたことに照らしても、Aが平成29年5月 23日頃までに精神障害を発病したことは明らかであり、そうすると、Aは、F医師の意見のとおり、妄想型うつ病を発病したものと認められ、これに反する被控訴人の主張は採用することができない。 3 Aの精神障害発病及び本件自死は業務に起因したものか(争点2)について以下、前記1で補正して引用した認定事実に基づき判断する。 (1)Aの金融機関の営業担当の従業員としての能力Aは、昇進して平成27年4月1日から得意先係主任とされていたものであり、字が汚く、事務処理にミスが多いということはあるものの、それ以外に能力が劣っていたと認められるような証拠はなく、顧客対応に長け、顧客からも信頼されており、少なくとも金融機関の営業担当の従業員として標準的な範囲 内にあったも いうことはあるものの、それ以外に能力が劣っていたと認められるような証拠はなく、顧客対応に長け、顧客からも信頼されており、少なくとも金融機関の営業担当の従業員として標準的な範囲 内にあったものと認められる。 (2)実労働時間並びに同僚及び部下との間のトラブルア AのZ支店における実労働時間については、原判決「事実及び理由」第3の4(2)のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決23頁11行目の「認められ、」から16行目末尾までを「認められるが、少なくとも Aに関する限り、休日のローラー活動を行っていて、厳しい営業目標(ノル マ)があるためにこれを行わなければならない状況であったし、B支店長のゴルフの送迎等もさせられていたことから、妻と結婚して以降、まともに休日を取得できたのが2、3日しかないという状況であった。」と、18行目の「原告に最大限有利に算定しても」を「平日のみであれば」と、19行目の「範囲内であり」から21行目末尾までを「範囲内である。しかし、休日に ついては、具体的な時間数を算定できるだけの証拠はないものの、少なくとも、休日さえまともに送ることがほとんどできない状況だったのであって、これによる心理的負荷の程度は少なくとも『中』に該当するといわざるを得ない(なお、後記(4)のとおり、平日についても、上司による日常的な指導等において、残業が認められないことが、かえって心理的負荷を強める要 因の一つになっていた。)。」とそれぞれ改める。)。 イ同僚及び部下との間のトラブルについては、原判決「事実及び理由」第3の4(5)のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決28頁26行目の「るものの」を削除し、29頁1行目の「Eが」から2行目の「うかがわれない上」までを「壁を は、原判決「事実及び理由」第3の4(5)のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決28頁26行目の「るものの」を削除し、29頁1行目の「Eが」から2行目の「うかがわれない上」までを「壁を骨折するほどの力で殴りつけるのは、相当の ストレスが生じるものであったことがうかがわれるが」と、3行目の「からすれば、」を「から、その後は」とそれぞれ改め、5行目の「Aは、」の次に「営業目標達成が厳しい中で、」を加え、6行目の「一方的に」と11行目の「同出来事に該当しないか、」をいずれも削除する。 (3)達成困難な営業目標(ノルマ)の設定 Z支店においては、建て前上は、各職員の営業目標の数値は、職員の意見も聞きながら設定され、上司が一方的にその設定を行うものではなかったし、本件信金におけるアウトプット(成果)考課では、営業目標の達成率等が考慮されるほか、業務改善や後輩職員の指導など営業目標以外の点も総合して評価され、プロセス(過程)考課では業務スキルや業務に向かう姿勢等に重きを置い た評価がされ、総合評定ではアウトプット(成果)考課よりもプロセス(過程) 考課の比重が大きく設定されていたことが認められる。しかし、そもそもいくら過程(プロセス)が良くても、最終的には、営業によって成果(アウトプット)を上げなければ、金融機関として成り立たないし、過程(プロセス)が良いか否かは、結局は成果(アウトプット)が上がるようなものであったか否かということにならざるを得ないのであるから、本件信金におけるパワハラ対策 が実効性のないものであったのと同様に、いわば外向けの綺麗事である可能性が高いし、少なくともB支店長が着任して以降のZ支店においては、営業目標の数値が実際に職員にとって無理のない範囲で設定されていたとの事実は認 ものであったのと同様に、いわば外向けの綺麗事である可能性が高いし、少なくともB支店長が着任して以降のZ支店においては、営業目標の数値が実際に職員にとって無理のない範囲で設定されていたとの事実は認められないし、B支店長が、部下職員の営業目標の不達成に対して厳しい叱責を行い、「案件取らぬ者は給料泥棒」などと述べていることからすると、上記の ような建て前はあるとしても、これによってZ支店における営業目標(ノルマ)が一般的な金融機関の営業職員であれば達成可能な範囲で設定されていたと認めることはできない。また、必要のない親族名義のクレジットカード等の契約を締結したりすること(いわゆる自爆営業)は、通常の営業活動の範囲内にあるということは到底できない。すなわち、Aは、平成23年から平成26年 までの間に、必要のないCを含む親族名義のクレジットカードを無断で契約するなどした上、本人に渡さずに自分で保管し、会費を負担していたのであり(甲A2の1・266~276頁、甲A12、証人C)、これは、ノルマ達成のためにのみ行われていたものであると認められ、自爆営業を行っていたのであるから、Z支店における営業目標が厳しいものであったことを示しているというこ とができる。クレジットカードを勝手に契約しても許されるような関係の親族等の数には限りがあると考えられることからすると、その後に同様の行為が確認できないからといって、営業目標が軽くなったということはできない。そして、B支店長が、Aに、「おまえの家、金持ちなんだから親に頼んでどうにかなるだろう、仕事を引っ張ってこい。」などと詰め寄っていることからすると、少 なくともAについては、自爆営業を余儀なくされるような達成困難な営業目標 が設定され、自爆営業が限界に達した状況にあってもな 引っ張ってこい。」などと詰め寄っていることからすると、少 なくともAについては、自爆営業を余儀なくされるような達成困難な営業目標 が設定され、自爆営業が限界に達した状況にあってもなお、同様の自爆営業的な手段まで使った営業目標の達成を要求されていたことが優に推認されるのである。しかも、B支店長が、部下職員の営業目標の不達成に対し、「案件取らぬ者は給料泥棒」と述べるまでして厳しい叱責を行っていることは、それ自体が目標を達成できなかった場合のペナルティーと評価することができるし、 「給料泥棒」という表現により、給料面や待遇面でも不利益を与えることを示唆しているといえるのである。このようなB支店長の営業目標不達成者への非常に厳しい対応は、後記の住宅ローン案件についてのB支店長の保身的な対応をみると、支店長としての自分の立場を守り、あるいは手柄とするために、必要以上に厳しくなっていたことが推認できるのである。 以上のとおり、Aは、自爆営業まで行い、既にその限界に達していたのに、B支店長から、その継続を要求され、案件が取れないことについて「給料泥棒」などと罵られ、胸倉を掴んで罵倒されていたのであるから、達成困難な営業目標(ノルマ)の設定という点のみにおいても、一般的な金融機関の職員にとって、その心理的負荷の程度は少なくとも「中」に該当し、「強」に近いものであ ったというべきである。 (4)上司による日常的な指導等Aは事務処理にミスが多く、渉外活動日報の手書き部分を乱雑に記載しており、事務処理での不備発生が多いとして改善の必要性が指摘され、さらに、作業の効率も課題とされていたこと、Aの上記ミス等に対して、B支店 長は日常的に大声で叱責していたことが認められる。 Aは、信用金庫の営業職として、金銭に関 て改善の必要性が指摘され、さらに、作業の効率も課題とされていたこと、Aの上記ミス等に対して、B支店 長は日常的に大声で叱責していたことが認められる。 Aは、信用金庫の営業職として、金銭に関わる事務処理の正確さや丁寧さが求められるし、同じような不注意による単純ミスや乱雑な記載が繰り返されていたことからすれば、B支店長が上司としてAに対し事務処理の改善を促すため叱責することは、それだけで直ちに合理性を欠くということはでき ない。しかし、B支店長の叱責の態様は、強い表現を用い、大声で激しく行 うものであるし、Aは、B支店長のターゲットにされてしまい、平成29年4月頃には、「バカ野郎!」、「横領してるからそうなるんじゃないか」、「無駄に仕事してるふりしてるなら客をとってこい!」などと罵倒されるなど、他の職員と比較しても特に厳しく叱責されていたもので、叱責の内容として事務処理の改善を促す趣旨のものが含まれていたとしても、業務上必要かつ相 当な範囲を逸脱するものといわざるを得ない(なお、字が下手な者にとっては、時間を使って相当の努力をしなければ、丁寧な字を書くことができないのであって、時間がない中で丁寧な字を書くことを要求されることは非常に苦痛でストレスとなるのであるが、元々綺麗な字を書くことができる者にはこれを理解できない可能性が高い。)。 B支店長が、Aが店舗内で昼食をとらないのを叱責していたことについては、得意先係が顧客訪問で預かった金銭や書類等を所持したまま外食に立ち寄ると紛失や盗難のリスクが高まることから渉外活動中の外食が禁止されており(甲A2の1・291頁)、仮にそのような趣旨による叱責であったとすれば、「コンプライアンス違反」などと述べたことも、業務上必要な指導であったと 評価できる可 渉外活動中の外食が禁止されており(甲A2の1・291頁)、仮にそのような趣旨による叱責であったとすれば、「コンプライアンス違反」などと述べたことも、業務上必要な指導であったと 評価できる可能性もある。しかし、Aは、そもそも昼食をとっていなかった(とることができなかった)のであって、外食をしていたわけではないから、コンプライアンス違反ではない。 また、B支店長が、「昼食をとらないと人事考課を下げるぞ」などと降格等の処分を示唆したことについては、仮に昼食をとる時間を確保できるよう効率的 な事務処理を求める趣旨であった(ただし、そのように善意なものであったとは認められない。)としても、一般のサラリーマンにとっては死活問題である現実的な不利益を告知するものであり、業務上必要かつ相当な指導の範囲を超えるものであったというべきである。しかも、前述のとおり、Aは、営業目標の達成を強く要求され、これを達成しようとすれば顧客との対応に時間を使わ ざるを得ないのに、これと同時に、丁寧でミスのない事務処理も要求され、こ れを行うための残業は認めてもらえない中で、止むを得ず行っていた昼食時間の事務処理に対して、「人事考課を下げるぞ」などと明白な不利益を告知されていたのである。そして、本件信金は、顧客に対し、時間をかけた丁寧な対応をしなければ、他の金融機関に競り負ける状況にあり、Aは、そのために案件がとれないことが続いていたのである。 すなわち、Aは、残業をせず、勤務時間終了までに丁寧でミスのない事務処理を行うためには、事務処理のための時間を増やす必要があり、そのためには昼食時間を犠牲にせざるを得ず、逆に、昼食時間を確保するためには、顧客対応の時間を短くせざるを得ないところ、顧客対応の時間を短くすれば、丁寧な対応ができず ための時間を増やす必要があり、そのためには昼食時間を犠牲にせざるを得ず、逆に、昼食時間を確保するためには、顧客対応の時間を短くせざるを得ないところ、顧客対応の時間を短くすれば、丁寧な対応ができず、他の金融機関に競り負けるなどして、案件がさらに取れなくな り、営業目標が達成できず、「給料泥棒」などとB支店長からさらに激しく罵倒される(激詰めされる)という二律背反の進退窮まった状況にあったのである。 これらを両立させ、顧客との接遇に時間をかけずに、契約締結を実現できれば望ましいことではあるが、両立することが困難な状況において、他に望ましい状態があり得ることによって、両立できない困難な状況にあった者の心理的負 荷が小さくなるものではない。また、両立させることが困難な状況において、上司は、それらの両立を要求してはならないというべきである。そうすると、Aの置かれていた上記のような状況が、通常の精神の持ち主であったとしても耐え難い状況であることは容易に理解できるものであり、しかも、AはB支店長の強い叱責のターゲットにされていたのであって、本件信金での勤務を続け る限りこのような身動きの取れない状況から逃れることができなかった(本件信金では、上司のパワハラを訴えても、それが改善される見込みが乏しかった)のであるから、その心理的負荷の程度が非常に強いものであったことは明らかである。 Aは、B支店長から頼まれて通勤途中でB支店長を同乗させて多治見駅から Z支店まで送ることが何回もあったこと、B支店長の休日のゴルフへの送迎等 も行っていたことが認められる。 これは、Aが多治見市内に実家があったことなどから送迎の依頼を引き受けたものであったとしても、自分をターゲットとして日常的にパワーハラスメントを行っているB支店長 も行っていたことが認められる。 これは、Aが多治見市内に実家があったことなどから送迎の依頼を引き受けたものであったとしても、自分をターゲットとして日常的にパワーハラスメントを行っているB支店長を快く同乗させることができるはずはなく、B支店長が、上司であることから止むを得ず送迎を行っていたというべきで、Aの精神 的苦痛が大きかったことは明らかであって、これも心理的負荷を強める要因となっていたものといわざるを得ない。 D次長のAに対する指導は、長時間にわたるものであったと認められるところ、Aの事務処理上のミスについて指導をする必要があったことは前述のとおりであり、これについて根拠を示すなどして詳しく説明しようとすれば時間を 要すると考えられるから、直ちに業務上の必要がないとはいえないし、やむを得ないものと評価することも可能である。しかし、D次長の細かく執拗な指導は、他の職員にとっても度が過ぎるものであった上、上記のとおり、残業を認めてもらえないAにとっては、事務処理のための時間がひっ迫していたのであり、これに食い込んで更に困難な状況に追い込まれるものであったから、業務 上の必要性があるとはいっても、それによって心理的負荷がなくなるものではなく、これを増強させるものであったといわざるを得ない。 以上によれば、Aに対するB支店長及びD次長による日常的な指導等は、継続的に二律背反の事実上不可能なことを強いるものであるし、B支店長については、Aを叱責のターゲットにしていたのであって、本件信金のZ支店での勤 務を続ける限りこのような困難な状況から抜け出せる見込みはなかったのであるから、その心理的負荷の程度は「強」に該当するものであるし、その他の事情も含めればこれが一層強まるものであるといえる。 (5)住宅ローン案件に関 うな困難な状況から抜け出せる見込みはなかったのであるから、その心理的負荷の程度は「強」に該当するものであるし、その他の事情も含めればこれが一層強まるものであるといえる。 (5)住宅ローン案件に関するB支店長の叱責等Aは、平成29年5月17日、住宅ローン案件に係る顧客から契約締結を断 られたことについて、B支店長から激しい叱責を受けたことが認められる。そ して、B支店長の叱責は普段から非常に激しいものであったが、周囲の者が普段の叱責よりもさらに強い態様と感じる激烈なものであったこと、同日中にD次長が、B支店長からの本件同意書の取得指示に従って自分のタイミングで案件を進められなかったAの心情を推察して、Aに対し、B支店長の叱責について「理不尽」等との表現を用いたLINEのメッセージを送信したことが認め られる。 本件同意書の取得が融資を進める上で必要なものであり(甲C1、2)、B支店長が住宅ローン案件について顧客から本件同意書を取得してくるよう指示したこと自体が不合理なものとはいえないとしても、同意書を取得するのがただ早ければよいというものではなく、実際の交渉経過の中で適切と考えられる 時期に取得すればよいものであったのに、自ら本件同意書の取得を指示し、Aが指示に従ったことによって住宅ローン案件の契約締結が実現しなかったのであるから、契約締結が実現しなかった責任は、Aに指示をしたB支店長自身にあるものといわざるを得ない(B支店長が普段から非常に激しい叱責を行っていることからすると、Aは、今はこれを求める時期ではないと考えたとして も、B支店長から叱責を受けないために、その指示に従うしかなかったものと認められる。)。それにもかかわらず、B支店長が、Aに対し、「『奥さんを説得できていた』と言っていたが いと考えたとして も、B支店長から叱責を受けないために、その指示に従うしかなかったものと認められる。)。それにもかかわらず、B支店長が、Aに対し、「『奥さんを説得できていた』と言っていたが、本当だったのか。」、「何故慎重な対応をしなかったのか。」等と述べて激烈な叱責を行ったのは、本件同意書の取得を指示した自らの責任であることを糊塗するために行ったものである可能性が高い(まさ に「理不尽」な叱責である。)。 以上によれば、これについては、そもそも1つの案件が成功しなかったというだけのことであるから、叱責しなければならない業務上の必要性自体が認められないものであり、上記のB支店長による激烈な叱責は、Aが慎重に取り組んでいた住宅ローン案件の契約締結がB支店長の指示によって実現しなくな ってしまったのにもかかわらず、自分の指示が不適切であったことを棚上げし て、失敗した全ての責任をAに押し付けようとする理不尽なもので(本来は、B支店長が、自分の指示が不適切であったことをAに謝罪すべきものである。)、明らかに業務上必要かつ相当な範囲を超えるものといえるし、叱責の態様が普段から激しいところ、これにも増してさらに激烈なものであったことに照らせば、一般的な金融機関の従業員にとって、到底耐え難いものであったことは明 らかで、非常に大きな心理的負荷を受けたものと認められ、精神疾患の発病が避けられない程度の強いものであったと認められる。そうすると、これによるAの心理的負荷の強度は、「強」に該当する。また、この契約の締結に至らなかったことに対するB支店長の叱責は、営業目標(ノルマ)達成と密接に結びついているから、前記(3)の「達成困難な営業目標(ノルマ)の設定」と併せ て評価することが考えられ、前記(3)のとおり、上 ったことに対するB支店長の叱責は、営業目標(ノルマ)達成と密接に結びついているから、前記(3)の「達成困難な営業目標(ノルマ)の設定」と併せ て評価することが考えられ、前記(3)のとおり、上記叱責が行われる前の時点までであっても、達成困難な営業目標(ノルマ)の設定についての心理的負荷は、少なくとも「中」に該当するものであったところ、Aにとって逆らうことの困難なB支店長の指示がその達成を妨げた、Aには責任のない営業目標(ノルマ)の不達成に対してさえ、上記の理不尽かつ激烈な叱責という過酷な ペナルティーが課せられ、今後も同様の激烈な叱責(ペナルティー)が繰り返されることが避けられない状況にあったのであるから、両者を一連のものとして、Aに対する心理的負荷の程度が「強」に至ったことは明らかというべきである。 (6) カードローン案件に関するB支店長の叱責等 Aは、カードローン案件に係る顧客について新しい担当者に引継ぎをしていなかったことにつき、B支店長から「握りこみ」、「横領」といった言葉を使って繰り返し叱責を受けていたが、本件自死の前日である平成29年5月23日にも、これを「横領」であるとして、激しく叱責されたことが認められる。本件信金において、渉外担当者に一定期間毎の交代と引継ぎをさせる目的が、顧 客と職員との癒着等による不正や不祥事の発生を防止することにあったこと、 Aが以前にも引継ぎを適切に行っていなかったことについて指導を受けていたことからすれば、B支店長が、Aに対し、カードローン案件の引継ぎについてある程度厳しく指導すること自体は許容され得るものであったともいい得る。しかし、「横領」との言葉は、犯罪行為を意味するものであり、Aは、帰宅後、妻に「絶対明日むちゃくちゃ言われるので会社に行きたくな ある程度厳しく指導すること自体は許容され得るものであったともいい得る。しかし、「横領」との言葉は、犯罪行為を意味するものであり、Aは、帰宅後、妻に「絶対明日むちゃくちゃ言われるので会社に行きたくない。」などとこ ぼして、食事さえできない状態になってしまい、本件遺書に「自殺理由」として、「自分が弱いせいです。申し訳ございません。誓って、お客様のお金を横領する様な不正は致しておりません。謄本代や印紙代を立て替えた事はありますが。誓って、一時的にでも、横領した事実はありません。」と記載しているのである。B支店長の上記叱責は、これを繰り返し厳しく責め立て、その激しさが 増していくことによって、事務処理の改善を促すための強い表現という域をはるかに超え、Aが犯罪行為である横領を疑われていると感じざるを得ないまでになっていたものと認められ(これは、B支店長が、部下職員らから「恐怖で人を縛るタイプ」などと言われていたことからも明らかである。)、もはや指導とはいえず、いじめであり、業務上必要かつ相当な範囲を逸脱していたものと いわざるを得ない。金融機関の従業員にとって、自分の業務上の行為について「横領」を疑われるということは、その性質上からも耐え難いことである。そのため、Aにおいて、自らの身の潔白を証明し、B支店長の激烈な叱責から逃れるためには自殺を選ぶしかないと思い詰めるに至ったものと認められる。 そして、Aは、当日の夜、ヘリウムによる自殺に失敗し、翌日の朝、Z支店 に出勤することなく本件自死に至っていることに照らしても、Aが、B支店長から上記叱責を受けたことは、日常的に、ターゲットにされて、激しい叱責が繰り返されていた中で、前記のB支店長の保身に走った激烈な叱責があったところへ、さらに、これに追い打ちをかけたものであるから、 から上記叱責を受けたことは、日常的に、ターゲットにされて、激しい叱責が繰り返されていた中で、前記のB支店長の保身に走った激烈な叱責があったところへ、さらに、これに追い打ちをかけたものであるから、極めて大きな精神的ダメージを与える(心理的負荷をかける)ものであったといわざるを得ない。 なお、叱責について、業務上必要と認められる部分があったとしても、叱責の 態様等が社会的相当性を逸脱している場合には、業務上の必要性によって心理的負荷が軽くなるものではないから、業務上の必要性があったことを心理的負荷の軽重の判断において重視することは相当でないというべきである。 そうすると、上記叱責によってAが受けた心理的負荷の程度は優に「強」となるものであったと認められる。 (7)総合評価以上によれば、Aの本件自死前6か月間の心理的負荷の程度については、Z支店でAが置かれていた状況は異常ともいえるもので、同僚及び部下とのトラブルが「弱」であるものの、時間外労働が「中」、達成困難な営業目標(ノルマ)の設定が強に近い「中」、上司による日常的な指導及び叱責が「強」、上司であ るB支店長による本件自死直前の叱責が、平成29年5月17日、同月23日と、単独でも「強」に該当するものが続けざまにあったのであって、このような状況に一般的な金融機関の従業員が耐えられるものではなく、これらを全体として評価してその程度が「強」であることは明らかである。 (8)前記(7)のとおり、Aは、死亡前6か月の間に本件信金における業務の遂 行によって「強」に該当する心理的負荷を受けたことが認められ、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発病させるのに十分であり、本件信金における業務の他には、Aが強い心理的負荷を受ける出来事があったとは認められない 強」に該当する心理的負荷を受けたことが認められ、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発病させるのに十分であり、本件信金における業務の他には、Aが強い心理的負荷を受ける出来事があったとは認められないから、Aの前記精神障害(妄想型うつ病)の発病は、上記業務の遂行との相当因果関係があり、業務起因性が認められる。そして、Aは、上記精神障害によって、 正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと認められるから、本件自死についても、同様に相当因果関係があり、業務起因性が認められる。 4 まとめ以上のとおり、Aは、本件信金における業務の遂行により「強」に該当する心 理的負荷を受けたもので、Aの精神障害(妄想型うつ病。重症うつ病エピソード も満たしている。)の発病及び本件自死は、いずれも業務起因性が認められる。 したがって、控訴人による労災保険法による葬祭料の支給に係る申請について、精神障害の発病が認められず、業務と死亡との間に相当因果関係が認められないなどとして不支給とした処分行政庁の本件処分は、明らかに違法であるから、取り消されるべきである。 5 結論よって、本件処分は取り消されるべきであり、控訴人の請求は理由があるところ、これを棄却した原判決は失当であるから、これを取り消した上、控訴人の請求を認容することとして、主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第2部 裁判長裁判官長谷川恭弘 裁判官上杉英司 裁判官 長谷川恭弘 裁判官 上杉英司 裁判官 寺本明広
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