主文 被告人を罰金30万円に処する。 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成13年7月26日午後6時30分ころ,業務として普通乗用自動車を運転し,神戸市a区bc丁目d番e号先の信号機により交通整理の行われている交差点を南から北に向かい直進するに当たり,対面信号機の表示に留意し,その信号機の表示に従うべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,対面信号機の表示に留意せず漫然時速約20キロメートルで進行した過失により,対面信号機が赤色信号を表示していたのに気付かず,そのまま同交差点に進入し,折から左方道路から青色信号に従って進行してきたA(当時43歳)運転の普通乗用自動車に気付かず,同車前部に自車左側面部を衝突させ,よって,同人に加療約1週間を要する腰椎捻挫等の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―省略(補足説明)第1 弁護人の主張等被告人は,本件事故現場である交差点(以下「本件交差点」という。)の手前約39.7メートルの地点で本件交差点の対面信号機が赤色を表示しているのを認め,本件交差点手前の停止線付近でいったん停止し,前記対面信号機が青色に変わったのを確認して発進して本件交差点に進入したものである旨当公判廷で供述し,弁護人は,被告人には判示の過失はなく無罪である旨主張するところ,当裁判所は,前掲関係各証拠によれば,被告人に対面信号機の表示に留意せず,これが赤色であるにもかかわらず本件交差点に進入した過失のあることを含め,判示事実は 示の過失はなく無罪である旨主張するところ,当裁判所は,前掲関係各証拠によれば,被告人に対面信号機の表示に留意せず,これが赤色であるにもかかわらず本件交差点に進入した過失のあることを含め,判示事実は優に認められると判断したのであるが,その理由につき若干補足する。 第2 判断 1 証人A(以下「被害者」という。)は,その対面信号機(東西方向の信号機)の表示が青色であることを確認して,普通乗用自動車(赤色。以下「被害者車両」という。)を運転して,西から東に向け,先行車両2台に続いて本件交差点に進入した旨当公判廷で供述するほか,証人Bは,会社のトラックを運転して北から南に向け走行し,本件交差点の対面信号機が赤色を表示していたため,その手前の停止線付近で信号待ちをしていた者,同Cは,本件交差点の西側の横断歩道を南から北に向けて渡ろうとして,その歩行者用の対面信号機が赤色を表示していたため,信号待ちをしていた者であるが,両名ともに,当公判廷において,被告人の運転する白色の車両(以下「被告人車両」という。)が本件交差点に向かう北行き車線を南から北に向け走行し,被告人車両進行方向の信号機が赤色を表示しているのに,そのまま本件交差点に進入して被害者車両と衝突した旨供述する。前記3名の各証言は,それぞれその内容は具体的かつ明確な供述であって,本件事故発生時において,被害者車両の対面信号機が青色,被告人車両の対面信号機が赤色をそれぞれ表示していたという点で完全に一致した供述であるところ,証人B及び同Cは,たまたま本件交差点付近を通りかかった,被害者と面識のない第3者であるから同人らが被害者のために虚偽の供述をする理由は見当たらないことなどを併せ考えると,信号機の表示に関する前記3名の証言の信用性は十分である。 2 被告人は,当公判廷において,本件事故状 3者であるから同人らが被害者のために虚偽の供述をする理由は見当たらないことなどを併せ考えると,信号機の表示に関する前記3名の証言の信用性は十分である。 2 被告人は,当公判廷において,本件事故状況について,大要,前記第1冒頭記載のとおりの供述をするのであるが,事故直後に作成された被告人の司法巡査に対する供述調書(検察官請求証拠番号8)中には,「私が信号を見落として北進したため事故を起こした。」,「私が信号無視して事故を起こしたことに間違いありません。」旨の各供述部分があるところ,被告人はそのような供述はしていない旨公判廷において縷々弁解するが,首肯し難く,被告人は,事故直後においては,明白に「信号見落としの事実」を承認していたものと認められる。さらに,被告人は,冒頭手続の罪状認否においては,「対面信号機は青色に変わっていたと思います。」旨述べるに止まり,信号待ちのため一時停止し,青色に変わってから発進したなどと供述していなかったにもかかわらず,その後,前記のとおり,一時停止した後発進して本件交差点に進入した旨,さらには一時停止した際,本件交差点の南側の横断歩道上を青色信号に従って東から西に向かい横断する若い女性がいたとまで供述するに至っているのであって,公判段階においてすら,格別の理由なく著しい変遷を遂げており,その公判供述は信用できない。 3 弁護人は,被告人車両は重量1390キログラム,被害者車両のそれは1140キログラムであるところ,衝突後,被告人車両は飛ばされて中央分離帯コンクリートにさらに衝突していることなどの事故状況に照らすと,被告人車両は被害者車両よりも遅い速度で進行していたことになるところ,被告人車両が本件交差点手前で一時停止せず進行してきた旨の前記B及び同C証言には信用性がないと主張するが,被害者車両が衝突地点 ,被告人車両は被害者車両よりも遅い速度で進行していたことになるところ,被告人車両が本件交差点手前で一時停止せず進行してきた旨の前記B及び同C証言には信用性がないと主張するが,被害者車両が衝突地点から前方に約3.2メートル進行した地点で停止したことや,被告人車両が被害者車両との衝突後,進行方向をほとんど変えることなく,衝突地点から前方約6.3メートル進行した地点の前記中央分離帯コンクリートに衝突し,その衝突により,その右側面部に被害者車両との衝突によりその左側面部に生じた凹損と同程度の凹損が生じていること等の事故状況からは,被告人車両の速度が被害者車両の速度よりも遅かったとは必ずしも認めがたいところである。なお,裁判所は,犯罪事実として,被告人車両の事故時の速度は時速約20キロメートルである旨認定したのであるが,これは,公訴事実にその旨記載され,その旨被告人が当公判廷で述べており,この点を争っていないこと,被告人車両の速度につき,「感覚的には時速50キロメートル位であった」旨の前記B証言はあるものの,その信用性は,被告人に不利益な方向での速度認定資料としては必ずしも十分とはいえず,採用し難いこと,その他,交通力学による速度鑑定等の証拠はなく,被告人車両の最終停止地点は証拠上明らかでないから,鑑定等による被告人車両の衝突時の速度を確定することは困難であること等の事情に照らし,本件においては,少なくとも時速約20キロメートルである旨認定するに止めるのが相当であると判断したものである。 さらに,弁護人は司法巡査作成の「道路交通法違反による交通事故の認知状況について」と題する書面(同1)には,警察官が事故現場に到着した際には,目撃者である前記B及びCはすでに現場を離れていたにもかかわらず,この2名から現場で事情を聴取した等明らかに事実 事故の認知状況について」と題する書面(同1)には,警察官が事故現場に到着した際には,目撃者である前記B及びCはすでに現場を離れていたにもかかわらず,この2名から現場で事情を聴取した等明らかに事実と異なる記載がある旨主張するところ,前掲関係証拠によれば,後日,同報告書作成日までになされた事情聴取等により明らかとなった事実を,事故当日現場で聴取したもののごとく記載するなどの不実記載部分のあることは弁護人主張のとおりであると認められ,そのこと自体は不適切で遺憾であるというほかはないが,この事実は,何ら前記犯罪事実の認定を左右するものではない。 4 以上のとおり,信号表示に関する前記証人A,同B及び同Cの各証言の信用性は十分であり,これらの証言を含む前掲関係各証拠によれば,被告人に対面信号機の表示に留意せず,これが赤色であるにもかかわらず本件交差点に進入した過失を含め,判示事実を認めるに十分である。被告人及び弁護人の主張は理由がない。 (法令の適用)被告人の判示所為は,平成13年法律第138号による改正前の刑法211条前段に該当するところ,所定刑中罰金刑を選択し,その所定金額の範囲内で被告人を罰金30万円に処し,その罰金を完納することができないときは,刑法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。 (量刑の理由)本件は,被告人が被告人車両を運転して,本件事故現場の交差点を南から北に向かい直進するに当たり,過失により,対面信号機が赤色信号を表示していたのに気付かず,そのまま同交差点に進入し,左方道路から青色信号に従って進行してきた被害者車両に気付かず,同車前部に自車左側面部を衝突させ,被害者に加療約1週間を要する腰 号機が赤色信号を表示していたのに気付かず,そのまま同交差点に進入し,左方道路から青色信号に従って進行してきた被害者車両に気付かず,同車前部に自車左側面部を衝突させ,被害者に加療約1週間を要する腰椎捻挫等の傷害を負わせた業務上過失傷害の事案であるところ,その過失の態様,程度,被害者の被った傷害の部位,程度,被害者にも全く落ち度のない事案とまではいえないこと,物損を含め被害者に対し保険金が給付されていること,被告人は信号表示につき不合理な弁解をして譲らないため,被害者の被害感情には厳しいものがあること等の事情を総合考慮して,罰金刑を選択した上,主文のとおり量定した。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年6月20日神戸地方裁判所第11刑事係甲裁判官杉森研二
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