令和1(ワ)1175 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年11月30日 札幌地方裁判所
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判決文本文14,793 文字)

- 1 -判決 主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は,別紙物件目録記載1の土地(以下「被告土地」という。)に建築した木造2階建て建物(以下「被告建物」という。)のうち別紙図面の斜線に係る建物部分(以下「2階東部分」という。)を切除して撤去せよ。 2 被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する令和元年6月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,本件土地の北側に隣接する別紙物件目録記載2の土地(以下「原告 土地」という。)を所有し,原告土地上の建物(以下「原告建物」という。)に居住する原告が,被告土地を所有する被告が建築した被告建物により原告建物に対する日照時間が減少し,原告の日照権や人格権が侵害されていると主張して,①日照権又は人格権に基づき,2階東部分の切除及び撤去を,②不法行為(民法709条)に基づき,損害賠償金300万円及びこれに対する不法行為 開始後の日(訴状送達の日の翌日)である令和元年6月27日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求める事案である。 2 前提事実(根拠(掲げた証拠の直後の〔〕内の記載は当該証拠における関係ページ番号又は関係部分である。以下同じ。)を括弧内に示す。) ⑴ 原告土地,被告土地及び法的規制- 2 -ア原告は,原告土地を平成18年12月15日に購入し,これを所有している(争いのない事実,甲2)。 イ被告は,原告土地の南側で隣接する被告土地を平成30年10月19日に購入し,これを所有している(争いのない事実,甲1,乙1 年12月15日に購入し,これを所有している(争いのない事実,甲2)。 イ被告は,原告土地の南側で隣接する被告土地を平成30年10月19日に購入し,これを所有している(争いのない事実,甲1,乙10)。 ウ原告土地と被告土地は,札幌市の都市計画上,第1種低層住居専用地域 のほか,高度地区であって北側斜線高度地区に指定されている(争いのない事実,甲6の3〔1枚目〕)。札幌市内の第1種低層住居専用地域におい日影による中高層の建築物の高さの制限のとおりの建築物及びその各部分の高さの制限があり,北側斜線高度地区に 軒の高さが7mを超える建築物又は地階を除く階数が3以上の建築物につき,冬至日の真太陽時による午前9時から午後3時までの間において,平均地盤面からの高さ1.5mの水平面に,敷地境界線からの水平距離が5mを超える範囲において,①敷地境界線からの水平距離が10m以内の範囲において3時間以上,②上記距離が10mを超える範囲に おいて2時間以上,日影となる部分を生じさせることのないものとしなければならない(建築基準法56条の2第1項本文,別表第四の1項(同表(に)欄につき(二)号。札幌市建築基準法施行条例5条))。 建築物の高さは,10m又は12mのうち当該地域に関する都市計画において定められた建築物の高さの限度を超えてはならない(建築基準 法55条1項。札幌市においては10mである(弁論の全趣旨)。)。 建築物の各部分の高さは,当該部分から前面道路の反対側の境界線又は隣地境界線までの真北方向の水平距離に1.25を乗じて得たものに,5mを加えたもの以下(上記水平距離をxとすると,1.25x+5m以下)としなければならない(同法56条1項3号)。 建築物の各部分の地盤面からの高さは,当該部分か 5を乗じて得たものに,5mを加えたもの以下(上記水平距離をxとすると,1.25x+5m以下)としなければならない(同法56条1項3号)。 建築物の各部分の地盤面からの高さは,当該部分から北側隣地境界線- 3 -までの真北方向の水平距離に5mを加えたもの以下(上記水平距離をxとすると,x+5m以下)としなければならない(建築基準法58条,乙101,102)。 ⑵ 原告土地及び被告土地上の建物ア原告は,原告土地上に平成23年9月16日に2階建ての原告建物を新 築してこれを所有している(争いのない事実,甲3)。 イ被告土地には,被告が購入する前,2階建てで,南北方向の中心線を最高点とする東西方向の勾配屋根を有する建物(以下「旧建物」という。)が被告土地の東寄りに建てられていた(争いのない事実,乙8,11,29〔第三面〕)。被告は,旧建物が解体されて更地となった被告土地を購入 して被告建物の建築に着手し,令和元年8月19日に完成した(争いのない事実,甲29)。 ウ被告建物は,2階建てで,2階は南側の辺を最高点とする勾配屋根で,最高の軒の高さが5.91mであって上記⑴ウの制限の対象となる建築物でない。被告建物の最高の高さは8.087m(8087mm)で,1 0mを超えず,また,北側側面部分の高さは6.045m(6045mm)で,当該部分から北側隣地境界線までの真北方向の水平距離に5mを加えたもの(6159.46mm)を超えない。(争いのない事実,甲6の2〔3枚目〕,乙5,6,28〔第二面,第三面の各2枚目〕) 3 争点 ⑴ 被告建物による原告の日照権,人格権侵害の有無⑵ 差止めの必要性⑶ 損害額 4 争点についての当事者の主張⑴ 争点⑴(被告建物による原告の日照権,人格権侵害 〕) 3 争点 ⑴ 被告建物による原告の日照権,人格権侵害の有無⑵ 差止めの必要性⑶ 損害額 4 争点についての当事者の主張⑴ 争点⑴(被告建物による原告の日照権,人格権侵害の有無)について (原告の主張)- 4 -ア原告建物の冬至における午前9時から午後3時までの日照時間は,被告建物が建築されたことにより,1階西側にある100歳近い母親の介護室で従前は約6時間であったのが34分間,1階中央の居間で従前は約6時間であったのが2時間未満に制約された。 被告土地は第1種低層住居専用地域であるとともに北側斜線高度地域で あって,日照保護の要請が特に強い地域であるから,建物を建築するに当たっては,他の居宅に及ぼす日影の影響ができる限り少なくなるよう,建物の形状,大きさ,位置等の慎重な検討が必要であった。 ところが,被告建物は,建築基準法56条の2第1項本文の対象となる建築物でなく,その北側軒先の高さは北側斜線高度地域に係る規制高さ以 下であるものの,その高さは,周囲の他の建物より高く,2階建て住宅としても高い部類に属し,幅は,周囲の建物が8~10m程度であるのに対して約16mと非常に広く,土地の東西方向の幅いっぱいに作られており,かつ,旧建物よりも北側に寄せて高く建築されている上に,北側斜線高度制限との差は僅か152mmで,冬季の積雪を踏まえると実質的には制限 を超えることが明らかである。 こうしたことからすれば,被告建物の建築による日影被害は,原告の受忍限度を大きく超えるものであって,原告の日照権を侵害する。 イ被告建物が建築されたことにより,原告建物のうち,介護ベッドから南側の大きな窓,更には庭木や外の風景が見えるように設計された1階介護 室からは被告建物の北側側 ,原告の日照権を侵害する。 イ被告建物が建築されたことにより,原告建物のうち,介護ベッドから南側の大きな窓,更には庭木や外の風景が見えるように設計された1階介護 室からは被告建物の北側側面しか見えず,窓に顔を近づけると屋根越しに空模様が見える程度のものとなっているほか,1階居間からは,従前と異なり,被告建物の北側側面しか見えない状態になっていて,原告及びその家族は,居室からの視野が阻害されるとともに,強い圧迫感を覚えていて,日影被害と相まって,受忍限度を大きく超える被害が生じている。 さらに,原告が原告土地の前所有者から引き継ぎ,また,記念として植- 5 -樹するなどしていて思い入れが深く,庭の風景を構成する不可欠の要素となっている庭木が,日影のほか,被告建物の屋根からの雨水や落雪により枯れて死ぬおそれがある。また,被告建物の屋根には落雪を防止する設備があるものの,人為的に屋根を除雪した場合に落雪が生じる危険性があり,これにより庭木が毀損されるおそれもある。こうした被害のおそれが生じ ていることは,原告及び家族の心情が大きく損なうもので,原告の人格権侵害を基礎づける。 ウ原告土地及び被告土地を含む地域の住民は,低層住宅による良好な住環境の確保を主眼とする閑静な住宅街で,厳しい規制に服することで良好な住環境を維持しようとしているのであり,近隣の建物の住環境に配慮する ことなく建てられた建築物はない。原告自身も,原告建物を新築した際,建築位置をその北側の建物より東側にずらし,2階部分を当初の設計より部屋数を減らして日影に配慮するなど,最大限の配慮を行った。ところが,被告建物は,その大きさのほか,中庭のテラスを中心として広い空間,バーコーナー等の施設が特に充実した豪邸で,地域一帯の他の建物と比べて 減らして日影に配慮するなど,最大限の配慮を行った。ところが,被告建物は,その大きさのほか,中庭のテラスを中心として広い空間,バーコーナー等の施設が特に充実した豪邸で,地域一帯の他の建物と比べて も,近隣建物の住環境への配慮を欠いている。 また,基礎の木枠工事の段階から被告建物による日影被害等に関する懸念を何度も伝え,設計変更等の対応を求めており,法的手段としても可能な限り係争性の低い民事調停を選択し,仮処分や訴訟提起を避けてきた原告に対し,被告は,上記の求めを一切受け入れず,民事調停手続中も被告 建物の建築工事を着々と進行させ,最終的に,設計変更の大きな負担を理由に対応を拒絶した。このように,被告は,原告からの求めにまともに取り合わず,原告の重大な日影被害を回避し得たのに敢えてこれをせず,原告に重大な被害を生じさせた。 エこうした事情からすれば,被告建物により原告には受忍限度を超える日 照権及び人格権の侵害が生じたというべきである。 - 6 -(被告の主張)ア被告建物は,建築基準法上の日影規制の対象外であり, イ上記の日影規制を当てはめると,被告建物については,春分,夏至及び秋分の時期においては基準を超える日影を生じさせる部分はない一方で, 冬至において,基準を超える日影を生じさせる部分があり,また,原告建物南面の主要開口部の一部に,日影時間が5時間を超える地点がある。しかし,日射量には,日影の主な原因となる直達日射(太陽から直接地上に到達する光)のほかに散乱日射(太陽光が大気中の粒子等により散乱,反射されて地上に届く光)があり,札幌市内の散乱日射量の占める割合は, 12月で69%,冬至日で90%に達していて,この時期の日射量はほぼ散乱日射によるものであるから,日影による直達日射量 ,反射されて地上に届く光)があり,札幌市内の散乱日射量の占める割合は, 12月で69%,冬至日で90%に達していて,この時期の日射量はほぼ散乱日射によるものであるから,日影による直達日射量の減少によっても,総日射量はさほど減少しないといえる上に,札幌市内の日照時間は,12月の平均で2.5時間,冬至日で0.7時間にすぎないから,被告建物を原因とする原告建物に対する日射量の減少は僅かである。 原告建物も,上記の日影基準を満たしていないし,この地域の多くの2階建て建物は,この基準を満たしていない可能性が高い。 ウ原告土地及び被告土地を含む地域の建物を見ると,敷地面積がいずれも100坪前後,多くが2階建ての住宅で,敷地北側に建物を寄せ,南側を庭とする配置を採用し,被告建物の建ぺい率(39.84%)と同程度の 建物も少なくなく,その容積率(59.13%)を超える建物もあるなどの事情がみられる。こうした事情からして,被告建物は,この地域における平均的な2階建ての建物であるといえる。 エしかも,被告は,隣地等の建築状況にかかわらず希望する間取りと日照を両立させるため,十分に時間をかけて南西角地となる被告土地を探し, 必要となる割高の対価を支払い,屋根の形状を北側に向けて低くする断面- 7 -計画を採用するなどしたし,民事調停における原告の要望は大幅な設計,配置変更を求めるもので受け入れ難かったものの,被告からの対応案のうち,屋根架構の計画変更,大型の雨樋と屋根最下部への大型の固定雪止めの設置を行っている。 他方,原告建物は,敷地南側境界線との距離が5.7mしか離れておら ず,その距離が8~10mのものが多い近隣の建物に比べ,南側の建物の影響を受けやすい配置になっている。また,周辺地域では,多くの土地 ,原告建物は,敷地南側境界線との距離が5.7mしか離れておら ず,その距離が8~10mのものが多い近隣の建物に比べ,南側の建物の影響を受けやすい配置になっている。また,周辺地域では,多くの土地で従前の建物よりも高い建物に建て替えられている。仮に原告が介護室の環境を中心に設計したというのであれば,南側建物の建て替えを視野に入れ,日影の影響を受けないように建物の配置その他の設計に留意すべきであっ たのであり,こうした検討を行うことなく,旧建物の存続と日影の影響を前提とした間取りと設計をしたといえる。 オ以上の各事情を考慮するならば,被告建物によって受ける原告建物の日照その他への影響は,当該地域に暮らす者として受忍限度の範囲内である。 ⑵ 争点⑵(差止めの必要性)について (原告の主張)上記⑴の日照権及び人格権侵害を回復するには,被告建物の2階東部分を撤去する方法によるほかないから,当該部分を撤去する旨の差止めの必要性がある。 (被告の主張) 争う。 ⑶ 争点⑶(損害額)について(原告の主張)上記⑴の日照権及び人格権侵害のほか,その交渉経緯により原告は多大な精神的苦痛を被ったもので,これを慰謝するのに必要な慰謝料は300万円 を下回らない。 - 8 -(被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実括弧内の証拠その他の根拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ る。 ⑴ 被告建物等による日影の形成状況等ア冬至において,建物の1階の設計GL(地盤面)から1.5mの高さをおり日影が生じる(乙30,69,70)。 真北方位角を17度33分00秒とすると,被告建物により,原告建物に対し,約35%の部分に5時間以上,他の約25%の部分に4 から1.5mの高さをおり日影が生じる(乙30,69,70)。 真北方位角を17度33分00秒とすると,被告建物により,原告建物に対し,約35%の部分に5時間以上,他の約25%の部分に4時間以上,他の約20%の部分に3時間以上,他の約15%の部分に2時間以上,その余の部分に1時間以上の,1階西側の部屋の窓には,5時間15分間の日影(乙30,69) 原告建物により,その北側土地の建物に対し,約14%の部分に5時間以上,約48%の部分に4時間以上,約21%の部分に3時間以上,約17%の部分に2時間以上の日影(乙70)イ札幌市における平成22年から平成30年までの日照時間は,12月について1日当たり平均約2.5時間,冬至日について平均約0.7時間で あり,全天日射量に対する散乱日射量の割合は,同月について1日当たり平均69%,冬至日について平均90%である(乙38~47,57)。 ⑵ 原告土地及び被告土地を含む地域の建物の状況ア札幌市(住所省略)における原告土地及び被告土地の周辺の各土地区画は,略長方形で,東西方向を長辺とするもの(東西方向の長さ17~20 m程度,南北方向の長さ15~17m程度のもの)と南北方向を長辺とす- 9 -るもの(東西方向の長さ13.8m程度,南北方向の長さ20m程度のもの)とが見られる(甲17~19,乙10,11~27)。 原告土地及び被告土地は,それぞれ南北方向の長さが約15m,東西方向の長さが約20mである(甲6の1〔図面番号01〕,乙7,8,10)。 イこの地域の各土地区画の建物のうち16棟は,昭和62年3月から平成 25年10月までに建築確認がされ,平成22年10月(乙21)や平成23年5月(乙14)に建築確認がされたものが含まれていて,①建ぺい の各土地区画の建物のうち16棟は,昭和62年3月から平成 25年10月までに建築確認がされ,平成22年10月(乙21)や平成23年5月(乙14)に建築確認がされたものが含まれていて,①建ぺい率は約22~40%,②容積率は約39~71%,③最高の高さは6.473~9.467m,④軒の高さは5.691~6.971m,⑤建物の長さは9.9~16.38m,⑥北端から北側境界線までの距離は1.0 ~3.2m,⑦南端から南側境界線までの距離は1.1~11.675mである(乙11~27)。他の区画にも,おおむね,2階建ての居住用住宅が玄関の位置を問わず北側境界線に寄せて建てられている(甲20,乙7,8,92~94)。 上記の各居住用住宅の屋根の形状は陸屋根又は三角屋根であり,北面の 側面につき,2階部分の横幅が1階部分の横幅に比して短いもの(甲15)やほぼ異ならないもの(甲20,乙11,95)が見られる。 ウ原告建物は,2階建て,床面積は1階が81.56㎡,2階が45.38㎡,2階部分は1階部分の東寄り半分程度を占めているもので,建ぺい率は約29%,容積率は約42%,北端から北側の敷地境界線までの距離 は1.100m,南端から南側(被告土地)の敷地境界線までの距離は5. 710mである(甲3,6の1〔本文3ページ,図面番号01・03〕,乙29〔第二面の1枚目,第三面〕)。原告建物の最高の高さは8.122m,最高の軒の高さは6.380mである(甲6の3〔6枚目〕,乙29〔第二面の1枚目,第三面〕)。 エ被告建物は,2階建て,2階部分は1階部分の北側全面を占めているも- 10 -ので,建ぺい率は約40%,容積率は約59%,北端から北側(原告土地)の敷地境界線までの距離は1.280m,南端から南側の敷地境界線ま 建て,2階部分は1階部分の北側全面を占めているも- 10 -ので,建ぺい率は約40%,容積率は約59%,北端から北側(原告土地)の敷地境界線までの距離は1.280m,南端から南側の敷地境界線までの距離は1.435mである。(甲6の1〔図面番号01〕,乙3,28〔第二面の1枚目〕)⑶ 原告及びその家族の居住状況 原告は,原告の妻,母親とともに原告建物に居住している。原告はその1階,妻は2階で過ごすことが多く,母親は,1階西側の部屋で過ごしていたが,4年ほど前から,ケアマネージャから勧められ,原告及び妻が冠婚葬祭への参加その他のために上京する際に老人施設を利用するようになり,当初は1か月に7~10日程度老人施設に滞在していたが,滞在期間が順次増え, 現在では,1か月に2~3回,原告建物に1日帰宅する生活を送るようになった。(原告本人〔1,2,6,28~33〕)⑷ 原告と被告の交渉の経緯ア被告建物の建築工事は,被告建物の設計事務所の担当者が平成30年10月30日に被告建物の建築確認を得たこと(乙28)を受けて,翌31 日から開始された(乙103〔2〕)。同日には,被告夫妻及び上記設計事務所の担当者が,原告建物を訪れ,被告建物の建築工事の案内文書を原告の妻に交付した(甲28〔5〕,乙103〔2〕,原告本人〔6〕)。 イ原告は,上記建築工事開始2週間後頃から被告建物の大きさに懸念を覚え,平成30年11月28日又は29日に上記設計事務所に電話で問い合 わせた。上記設計事務所の取締役で,被告建物の設計責任者であるAは,この問合せを受け,同日に原告と協議し,同年12月9日に再度電話連絡を受けて同月11日に協議し,その際,被告建物の高さなどを説明したが,原告から,具体的な希望の内容や回答期限は述べられなか るAは,この問合せを受け,同日に原告と協議し,同年12月9日に再度電話連絡を受けて同月11日に協議し,その際,被告建物の高さなどを説明したが,原告から,具体的な希望の内容や回答期限は述べられなかった。(甲28〔6〕,乙103〔2〕,原告本人〔6~10,20~22〕) Aは,同月17日に工事の中断の要望を原告の妻から受け,更に同月2- 11 -5日に日影図と建築計画書面の交付を求める旨の原告からの手紙が被告のもとに届いたことから,日影図を新たに作成し,平成31年1月11日,上記各書面を原告建物の風除室に届けた(甲28〔7,8〕,乙103〔4,5〕,証人A〔6~8〕,原告本人〔11,12〕)。 ウ原告は,紛争解決に係る助言を参考に,被告を相手方として,平成31 年1月29日に民事調停を申し立てた(札幌簡易裁判所平成31年(公)第2号)。被告は,同年2月28日付け答弁書において,被告建物の概要,原告との交渉経緯,日影被害の程度等を考慮するならば調停の趣旨記載の請求は認められないと主張した(甲22,原告本人〔13〕)。上記調停手続は,同年3月5日及び12日に期日が開かれたが,同日の期日で不成立 とされて終了した(甲14,28〔8~10〕,原告本人〔13,16〕)。 エ被告訴訟代理人弁護士は,平成31年4月4日付け文書で,原告に対し,この地域では冬至日に日照を3時間確保することが現実的に不可能に近いといった事情の理解を求める,日照時間減退等に係る要望には設計変更が困難で対応できない,屋根からの降水や落雪による庭木の破損等に関する 要望には屋根面最下部に内樋や雪止めの新たな設置を検討する,視野阻害と圧迫感の回避,軽減に関する要望に応えられないと回答した(甲21)。 ⑸ 被告建物の設計の一部変更被告は, に関する 要望には屋根面最下部に内樋や雪止めの新たな設置を検討する,視野阻害と圧迫感の回避,軽減に関する要望に応えられないと回答した(甲21)。 ⑸ 被告建物の設計の一部変更被告は,上記⑹の後,設計事務所に対して被告建物北側屋根の下端に,雪止め,雨樋及び樋ヒーターを追加する旨の設計変更を指示し,設計事務所が 費用を負担して変更に係る工事を完成させた(乙9,78,79,103〔6〕,証人A〔10,11〕)。 2 争点⑴(被告建物による原告の日照権,人格権の侵害の有無)について⑴ 原告は,被告建物により,原告の日照権が侵害され,また,原告建物からの眺望を阻害し,圧迫感のほか庭木の破損のおそれを生じさせていて,原告 の人格権を侵害すると主張する。 - 12 -居宅の日照は快適で健康な生活に必要な生活利益であり,法律上保護される利益に含まれるものと解される。また,快適で健康な生活を送ることは,人格的利益の内容に含まれるとも解し得る。 もっとも,生活に関するこうした利益は,社会生活上,隣人等が生活することにより一定程度制約されることが想定される上に,居宅の日照や居宅か らの眺望は,その土地の利用それ自体により排他的に確保し得るものでなく,隣地その他周辺の建物,地形等により不可避的に生じる日影により制約されるものともいえる。そうすると,上記の利益は,社会生活上受忍すべき程度を超えて侵害されたときに初めて違法に侵害されたというべきである。 ⑵ そこでまず,日照に係る生活利益の侵害をいう点について判断する。 ア被告建物により原告建物に生じる日影の程度をみると,前記認定事実⑴によれば,冬至において,1階のうち60%の部分に6時間中4時間以上の日影を生じさせ,特に1階西側の部屋の窓は6時間中45分間を ア被告建物により原告建物に生じる日影の程度をみると,前記認定事実⑴によれば,冬至において,1階のうち60%の部分に6時間中4時間以上の日影を生じさせ,特に1階西側の部屋の窓は6時間中45分間を除いて日影の下にあるというものである(認定事実⑴ア)。このように,被告建物による日影の程度は,日中時間帯のほとんどに及び得るものであり,札 幌市における12月の日照時間が短い一方で散乱日射量が多く(同⑴イ),その結果直達日射がほとんどないとしても,そうした直達日射がほとんど得られない点で上記利益に負の影響があるといえる。 イその一方で,この地域における日影規制の状況をみると,前記前提事実⑴ウのとおり,第1種低層住居専用地域,高度地区であって北側斜線高度 地区に都市計画上指定されたことにより,日影の程度を制限することなどを目的とする建物の高さ等の制限が建築基準法によってされているが,その制限を満たす建物は建築確認がされ,建築が完了し得るというものである。そして,低層の建物については,特段の日影規制がされていない。 被告建物は,前記前提事実⑵ウのとおり,日影規制のない低層建物で, また,他の建築基準法所定の規制を満たしているのであるから,被告建物- 13 -は法令上建築が供用されていて,しかも,これによって日影が大きく生ずることも法令上許容されているものである。 ウこの地域の周辺建物の状況をみると,前記認定事実⑵ア及びイによれば,2階建ての建物が隣接して,かつ,土地の形状にかかわらず北側に寄せて立ち並んでいて,建物の大きさや形状も様々であるところ,原告建物の建 築時においてもそうした状況に変わりはなかったし,原告建物の建築とそれほど時を違えずに建てられたものもあった。 そうすると,原告土地上に居を構える者と や形状も様々であるところ,原告建物の建 築時においてもそうした状況に変わりはなかったし,原告建物の建築とそれほど時を違えずに建てられたものもあった。 そうすると,原告土地上に居を構える者としては,被告土地における将来の建て替えその他の事情により,周辺に同様の建物が同様の配置により建築されることを想定し得るというべきである。 ここで,被告建物は,前記認定事実⑵イ~エによれば,区画の北寄りに位置し,原告建物を含む周辺の建物と比較すると,やや東西方向に長い建物とはいえるが,その程度が著しいとはいえず,また,殊更に高さのある建物とも,建ぺい率や容積率の高い建物ともいえない。前記前提事実⑵ウによれば,その北面屋根は,北側に向かって低くなる斜面となっていて, 殊更に日影を増大させる構造ともいえない。そうすると,新たに建てられた被告建物が,原告土地に居を構える者として想定し得る範囲を逸脱しているとはいえない。 また,被告土地において将来の建て替えその他の事情が客観的に生じ得る上,上記の状況に照らして,原告土地に居を構える者として想定し得る といえることからすれば,仮に被告土地上にあった旧建物による日影形成状況が被告建物によるそれと異なるものであるとしても,そうした状況をそうした者が将来にわたって固定的に享受し得るとはみるべきでない。 エ原告建物の居住状況をみると,前記認定事実⑶によれば,1階西側の介護室については,原告の母親が,日影の状況とは異なる理由で施設に行く 頻度を増やし,これによりほとんど在室せず,他の居住者は他の部屋で過- 14 -ごすことが多いのであり,最も日影時間が長い場所を普段使いする者がおらず,その限度で居住者の感じる日影の影響は限定的ということもできる。 オ被告の行動についてみ 住者は他の部屋で過- 14 -ごすことが多いのであり,最も日影時間が長い場所を普段使いする者がおらず,その限度で居住者の感じる日影の影響は限定的ということもできる。 オ被告の行動についてみても,前記イ及びウに説示したとおり,被告建物は,北側に寄せて建てられる建物が多い地域に建てられ,2階建てで,法的規制を遵守している上に,周辺と比較して殊更に高くなく,東西方向の 幅も極端でなく,屋根も殊更に日影を増大させる構造ではない。そうしたところ,新たに建物を建築しようとする者は,法令上の制限を遵守し,また,地域の特性等に照らして可能な限り自宅に及ぶ日影の時間を短縮するために,建物の南端と南側敷地境界線までの距離を最大化しようとし,そのために敷地の北寄りに建物を配置しようとするのも自然であると考えら れるから,被告は,建物を建てようとする者がとる通常の行動に従って被告建物を建築したといえる。 また,前記認定事実によれば,原告から被告に対する打診は被告建物の着工から約1か月後,工事中断その他の具体的な行為の要請や希望の表明がされたのは約1か月半後で,その間に工事が進捗していた(認定事実⑷ ア及びイ)のであるから,被告が応じられる内容が限られていくものといわざるを得ない。その後民事調停に至っても原告からの要請に直ちには応じておらず,落雪の懸念に対して一部の設計変更に応じたにとどまっている(同⑷ウ及びエ,同⑸)が,そうした対応にとどまったこともやむを得ないと見得る。 こうした事情をみると,被告の行動は法令の制限内で建物を建築する者の通常の行動を逸脱しているとはみられず,その権利を濫用しているとか,原告の生活利益を侵害する意図があるとみることはできない。 カこれまでみてきた事情からすれば,原告の日照に係る生活利 建築する者の通常の行動を逸脱しているとはみられず,その権利を濫用しているとか,原告の生活利益を侵害する意図があるとみることはできない。 カこれまでみてきた事情からすれば,原告の日照に係る生活利益が制限されているとしてもやむを得ないというべきで,社会生活上受忍すべき程度 を超えて侵害されたとはいえない。 - 15 -⑶ 次いで,原告建物の居室からの視野が阻害され,圧迫感を覚えていることをいう点について判断すると,前記⑵のとおり,被告建物が法令の制限を満たし,所在地域の建物として殊更に特殊なものとはいえず,被告において権利の濫用や原告の生活利益の侵害の意図を見いだせない。そうすると,被告建物の建築によって原告建物の居室からの眺望が変化し,これによって視野 が阻害され,圧迫される感覚に至るものであるとしても,そうしたことはやむを得ないというべきで,社会生活上受忍すべき程度を超えて侵害されたとはいえない。 ⑷ さらに,雨水や落雪によって庭木に被害が及ぶおそれをいう点について判断すると,そうしたおそれが生じることを具体的に基礎づける事情は認めら れない上,前記認定事実⑷エ及び⑸によれば,被告は,この点に関して,原告から表明された懸念をくんで樋の形状を変更するなどの対応を取っているのであり,また,被告が人為的に被告建物から原告土地方向に落雪をさせる行為に出ることをうかがわせる事情も認められない。そうすると,そうしたおそれが具体的に生じているとはいえない。 ⑸ 以上の点に関し,原告は,次のとおり主張するが,それぞれにおいて判断するとおり,いずれも採用することができない。 ア原告は,被告建物について,①被告土地の地域が第1種低層住居専用地域等に指定されていることから,建物の形状,配置等を慎重に検討する必要があ て判断するとおり,いずれも採用することができない。 ア原告は,被告建物について,①被告土地の地域が第1種低層住居専用地域等に指定されていることから,建物の形状,配置等を慎重に検討する必要があった,②冬期積雪時に実質的に北側斜面規制を超えると主張する。 しかし,上記①については,前記前提事実⑴ウの各地域の指定によっては,法令上,建物の高さを遵守することが義務付けられているにとどまっているのであり,形状,配置等について,上記の義務の範囲を超えて慎重な検討が必要なものとは直ちに評価し得ない。上記②については,積雪深度を含めた規制がない上に,実質的に見ても,札幌市の規制であり,冬期 積雪時が想定されていないとは直ちにいえない。 - 16 -イ原告は,正確な真北方位角が15度23分43秒であると主張し,これに沿って被告建物による原告建物に対する日影を計算した図面(甲6の1)を証拠として提出する一方,被告が提出する証拠に係る図面には,①被告建物の仮ベンチマーク(KBM)から設計GLまでの高さ標記がなく,KBMをそのまま設計GLとしている点,②真北方位角の値が齟齬している 点で正確性に疑問があると主張する。 しかし,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,上記図面はKBMから設計GLまでの高さの値を計算要素に入れて日影の計算を行ったものであり(甲6の1〔図面番号01〕,乙30,31,97),また,真北方位につき,札幌市作成の建築確認申請の手引き(甲16,乙99)に従って補 正した真北方位角は17度06分14秒〔17°06´14″〕,被告が採用した真北方位角は17度33分00秒〔17°33´00″〕である(乙30,91,98)と認められ,おおむね正確なものというべきである。 もっとも,後掲の証拠及び弁論の全 6´14″〕,被告が採用した真北方位角は17度33分00秒〔17°33´00″〕である(乙30,91,98)と認められ,おおむね正確なものというべきである。 もっとも,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告は,主張に係る 上記数値を真北方位角とする図面で建築確認を得たこと(乙29〔第一面,第三面〕),遅くとも平成24年から札幌市において建築確認申請をする際の真北の設定につき複数の方法が許容されていること(甲16,乙99)が認められ,こうした事情を踏まえると,上記数値にも一応の信用性はあると考えられるが,仮にそうであるとしても被告建物により原告建物1階 西側の窓に生じる日影は5時間26分で,この事情を踏まえても前記判断は左右されないというべきである。 ウ原告は,①被告建物の所在地域に近隣の建物の住環境に配慮することなく建てられた建築物はなく,原告自身も最大限の配慮をしたのに対し,被告は,大きく,テラス,バーコーナー等の施設が特に充実した豪邸である 被告建物を建築し,近隣建物の住環境への配慮を欠いている,②係争性の- 17 -低い手続を選択してきた原告の要望を一切受け入れず,原告の重大な日影被害を回避し得たのに敢えてこれをしなかったと主張する。 しかし,上記①については,証拠(原告本人〔2~5〕)によれば,原告が,原告建物の建築に当たって北側建物の住環境に配慮したことがうかがわれるが,この地域において一般的に何らかの配慮をする旨の慣習があ ったとは証拠上うかがわれない。また,被告建物の規模が周辺建物と比較して巨大といえないことは前記⑵ウに説示したとおりであるし,被告建物の設備の状況は,原告建物の日照等に影響する事情でない上,こうした設備を設けたことから近隣への配慮を欠いていると評価することも相当で して巨大といえないことは前記⑵ウに説示したとおりであるし,被告建物の設備の状況は,原告建物の日照等に影響する事情でない上,こうした設備を設けたことから近隣への配慮を欠いていると評価することも相当でない。上記②については,前記⑵オに説示したとおり,原告から具体的要請 の時期が工事着工後相当期間経過後であることからすれば,やむを得ないとみることができるのであり,被害を回避し得たことを認識しながらこれを回避しない行動を選択したとみることはできない。 ⑹ 以上によれば,前記⑴の生活利益ないし人格的利益が,社会生活上受忍すべき程度を超えて侵害されたということはできない。 3 結論よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第5部 裁判官萩原孝基

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