主文 被告人を懲役2年4月に処する。 未決勾留日数中30日をその刑に算入する。 徳島地方検察庁で保管中の包丁1本(令和6年領第258号符号63)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、交際相手であるA(当時21歳)と心中しようと決意し、令和6年3月30日午後10時30分頃、徳島市a 町b 丁目c 番地d ホテルB号室において、同人の嘱託を受け、殺意をもって、同人に対し、その前頸部を包丁(刃体の長さ約17. 0㎝。令和6年領第258号符号63)で1回突き刺し、よって、その頃、同所において、同人を前頸部刺創に伴う右総頸動脈切創による失血により死亡させて殺害したものである。 (事実認定の補足説明) 1 本件は、検察官が承諾殺人の成立を主張するのに対し、弁護人が嘱託殺人の成 立を主張しているので、当裁判所が罪となるべき事実記載のとおり、嘱託殺人が成立すると判断した理由について補足して説明する。 2 被告人の公判供述によれば、犯行に至る経緯について次の事実が認められる。 被告人は被害者を誘って一緒に自殺をする目的で徳島県を訪れ、被告人と被害者は、被告人の提案で入水自殺、首つり自殺を試したが、いずれも失敗に終わっ た。次に被告人はカッターナイフで首を切ることを提案したが、被害者は恐怖心から自分で首を切ることができず、被告人に被害者の首を切るよう依頼した。被告人は、被害者の首元をカッターナイフで刺しても、被害者が死亡に至らなかったため、今度は包丁を2本買ってきて、被害者の腹部を包丁で刺した。それでも被害者は死亡に至らず、被告人が頸動脈を切ることを被害者に提案し、被害者が 了承したため、罪となるべき事実記載の行為に及んだ。 3 2で認定した事実によれば、もともとは一緒に自殺することを 者は死亡に至らず、被告人が頸動脈を切ることを被害者に提案し、被害者が 了承したため、罪となるべき事実記載の行為に及んだ。 3 2で認定した事実によれば、もともとは一緒に自殺することを考えていた被告人は、被害者に頼まれたため、被告人が被害者を殺害することを試み、最終的に包丁で頸部を刺して殺したという一連の事実経過が認められる。そうすると、被告人が被害者を殺害することを決意したのは、被害者が被告人に対してカッターナイフで被害者の首を切ることを依頼したからであり、その依頼は被告人が被害 者の首を包丁で刺すまで継続していたものといえ、被告人は、被害者の嘱託により、被害者の殺害を決意したといえる。 たしかに、被告人が被害者を殺害した包丁で頸動脈を切る方法は、被告人が提案し、被害者が了承したものであるが、被害者からの依頼により被告人が被害者の殺害を決意した後の出来事であり、あくまで殺人の具体的な方法として提案し たに過ぎない。 また、被告人と被害者は、被告人の提案により一緒に自殺することを決意しているが、これはあくまでそれぞれが自殺することを前提とする提案と了承であって、被告人が被害者を殺害することは予定されていなかったものであるから、被告人が被害者からカッターナイフで頸部を切ることを依頼されるよりも前に、被 告人が被害者を殺害することを決意していた事実は認められない。 以上によれば、被告人が被害者の頸部を包丁で突き刺したのは、被害者がカッターナイフで被害者の頸部を切るよう依頼し、被害者に対する殺人を嘱託したことに基づくものといえるから、承諾殺人ではなく嘱託殺人が成立すると判断した。 (法令の適用) 罰条刑法202条後段刑種の選択懲役刑を選択未決勾留日数の算入刑法21条没収 ものといえるから、承諾殺人ではなく嘱託殺人が成立すると判断した。 (法令の適用) 罰条刑法202条後段刑種の選択懲役刑を選択未決勾留日数の算入刑法21条没収刑法19条1項2号、2項本文(主文掲記の包丁1本は、判示嘱託殺人の用に供したもので被告人以外の者に属しない) 訴訟費用刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担) (量刑の理由)本件は、被告人が被害者と心中を図ったものである。被告人と被害者は、それぞれ仕事や職場の人間関係などに悩みや不満を抱えていたが、いずれも自殺に追い込まれるほどのものではなく、他に被告人と被害者に自殺を決意させるような事情は見当たらない。そして、もともと被告人が被害者を誘って自殺を決意し、自殺する方法も提 案して実行していたという経緯からすれば、被告人が被害者を身勝手で短絡的な理由に基づく自殺に巻き込んだといえる。また、被告人は被害者からの嘱託を強く断ることなく本件犯行に及んでおり、本件に至る経緯に同情できる点はない。さらに、被告人は、被害者から嘱託されて、まずはカッターナイフで頸部を刺し、被害者が死に至らないとなると、包丁を購入してきて本件犯行に及んでいることや、被害者が暴れな いように手足を縛っていることなどを考慮すると、被告人は積極的に犯行に及んでおり、その犯意は強固なものであったといえる。以上によれば、被告人の意思決定は厳しい非難に値し、若い命が失われてしまったという重大な被害結果を合わせ考慮すると、被告人の犯情は悪質であって、被害者遺族の強い処罰感情も当然である。 そうすると、被告人が本件について素直に認めて反省の弁を述べていること、被告 人の父親が被告人の監督を誓約していること、被害弁償金として500万円を弁護人に預けて い処罰感情も当然である。 そうすると、被告人が本件について素直に認めて反省の弁を述べていること、被告 人の父親が被告人の監督を誓約していること、被害弁償金として500万円を弁護人に預けて準備していることなど被告人に有利な一般情状を最大限考慮しても、尊い命が失われており、動機、経緯に酌量すべき事情が認められない本件は実刑相当であり、主文掲記の刑が相当である。 (求刑・懲役4年、包丁1本の没収) 令和6年10月22日徳島地方裁判所刑事部 裁判官細包寛敏
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