主文 1 被告が,原告に対し,平成10年9月30日付けでした,平成9年9月24日発生した災害につき公務外であると認定した処分を取り消す。 2 訴訟費用は,被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求本件は,被告が原告に対し,平成10年9月30日付けでした,平成9年9月24日発生した災害につき公務外であると認定した処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求める請求である。 第2 事案の概要 1 争いのない事実等(証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実を含む。)(1) 原告の職歴原告(昭和32年1月8日出生)は,岡山県X市消防本部X市消防署(以下「X消防署」という。)に勤務する消防職員であり,X消防署第1係に所属し,火災,救急,救助等の業務に従事している。 (2) 本件処分に至る経緯等ア原告は,平成9年9月24日午後3時ころ,公務の一環として実施された体力測定に当たり,その実施種目の一つである立ち幅跳び(以下「本件立ち幅跳び」という。)を行うために踏み切り動作をした瞬間,四肢等に電撃が走ったような痛みを感じ,臀部から着地した。四肢が痺れて思うように動けなかったことから,しばらく休憩したところ,再び動ける状態になり,原告は,2回目の立ち幅跳びを行うため再度踏み切り動作をしたが,1回目と同様に,その瞬間四肢等に電撃が走ったような痛みを感じた(以下「本件災害」という。)。原告がしばらく休憩したところ,症状が軽快したことから,上体起こしと腕立て伏せを引き続き行った。 イその後,原告は,足の痺れを感じながらも,検査及び治療を受けることなく通常の勤務を続け,大阪・京都方面への職員親睦のためのバス旅行にも参加 ,上体起こしと腕立て伏せを引き続き行った。 イその後,原告は,足の痺れを感じながらも,検査及び治療を受けることなく通常の勤務を続け,大阪・京都方面への職員親睦のためのバス旅行にも参加する等日常生活を続けていたが,依然足の痺れが治まらないため,平成9年10月15日備中整形外科病院で受診したところ,成羽病院にてMRI検査を受けるように勧められ,同年10月17日成羽病院でMRI検査を受けたが,同年10月20日にMRI検査の結果を聞くため再度備中整形外科を受診したところ,倉敷中央病院を紹介され,同年10月24日同病院を受診した。その結果,倉敷中央病院で「頸髄損傷,頸椎椎間板ヘルニア」との診断を受けた(ただし,診断内容の当否については争いがある。)。 ウその後,原告は,平成9年11月18日,倉敷中央病院の整形外科において,第6頸椎及び第7頸椎間(以下「C6ー7」と略した表記を使用する。他の頸椎間についても同様に表示する。)のヘルニアなどの圧迫を除去して固定する手術を受けた結果,左右両下肢の痺れと左上肢の痺れはほぼ消失したが,手術後に右握力低下(C7神経が通っている。),右示指の背屈・伸展困難(C6神経やC7神経の障害による。)及び知覚障害といったC6神経やC7神経が関与する神経症状が発症した。原告は,同年12月24日退院した後は,自宅での療養とリハビリに努め,平成10年5月まで休職した。 エ原告は,本件災害が公務上発生したものであるとして,平成9年11月11日付けで被告に対し公務災害認定請求を行ったところ,被告は,平成10年9月30日付けで本件災害につき公務外と認定する旨の本件処分を行い,そのころ,原告に通知した。 オ原告は,この決定を不服として,平成10年11月14日付けで地方公務員災害 ,平成10年9月30日付けで本件災害につき公務外と認定する旨の本件処分を行い,そのころ,原告に通知した。 オ原告は,この決定を不服として,平成10年11月14日付けで地方公務員災害補償基金岡山県支部審査会(以下「支部審査会」という。)に対し,審査請求を行ったが,支部審査会は,平成11年8月2日付けでこれを棄却する旨の裁決を行った。原告は,この裁決を不服として,平成11年8月20日付けで地方公務員災害補償基金審査会(以下「審査会」という。)に対し,再審査を請求したが,審査会は,平成12年6月21日付けで再審査請求を棄却する旨の裁決を行い,そのころ原告に通知した。 (3) 頸椎椎間板ヘルニアの概念及び発生機序(乙第3号証)ア椎間板の構造は,線維性組織が周囲を取り囲み(線維輪),その内部が液体様部分(髄核)で形成され,髄核は常に一定の体積を保ち,線維輪が伸び縮みして椎体の動きを調節している。椎間板の機能は,骨である椎体と椎体の間にあって,圧力衝撃吸収装置としての機能を果たしている。 イところで,椎間板は,加齢などともに(組織学的には20歳ころから)線維輪が脆弱化し,髄核内の水分量も減少する結果,椎間板の弾性が低下するが,これを椎間板の退行変性という。 ウそして,椎間板の弾性が低下した結果,頸椎に対する荷重の分散が不均衡となり,大きな負荷や運動によって線維輪の断裂や髄核の後方転位(膨隆や脱出)が生じることにより,脊髄や神経根を圧迫して神経障害を起こすのがヘルニアである。症状を呈する頸椎椎間板ヘルニアの90%以上は,第5頸椎と第6頸椎の間(C5ー6)及び第6頸椎と第7頸椎の間(C6ー7)に起こり,なかでも30歳代から40歳代の男性に発症が多く,外傷や外力(交通事故,転落・転倒事故な 板ヘルニアの90%以上は,第5頸椎と第6頸椎の間(C5ー6)及び第6頸椎と第7頸椎の間(C6ー7)に起こり,なかでも30歳代から40歳代の男性に発症が多く,外傷や外力(交通事故,転落・転倒事故など)が頸椎椎間板ヘルニアの原因になるとされている。 2 争点本件の争点は,本件災害につき公務起因性がないか否か,すなわち,原告が公務の一環である体力測定において行った立ち幅跳びによって頚髄損傷ないし頸椎椎間板ヘルニアが発症したものであるとしても,それは立ち幅跳びを単なる誘因とするものにすぎず,公務の遂行と発症との間には相当因果関係がないといえるか否かである。 a 被告の主張(1) 本件災害の内容原告が行った立ち幅跳びが誘因となって頸椎椎間板ヘルニアが発症した事実は認められるが,X線写真及びMRI画像等によるも,原告がその際頚髄損傷を受けたという事実はない。 (2) 公務起因性の不存在ア公務起因性の認定基準(ア) 災害補償制度の目的・趣旨災害補償制度は,被用者の業務の遂行が使用者の支配管理下において行われ,その利益が使用者に帰属するけれども,被用者の行う業務には多かれ少なかれ各種の危険性が内在しており,使用者の支配管理下にある被用者にとってその危険性を自ら回避することが困難な場合があることから,業務に内在する危険性が現実化して,被用者が負傷し又は疾病に罹った場合は,使用者に何らの過失がなくても,その危険性の存在ゆえに使用者において当該災害による危険を負担して,その損失補償に当たるべきであるとするものである(企業危険説)。 (イ) 公務災害の意義地方公務員災害補償制度は, おいて当該災害による危険を負担して,その損失補償に当たるべきであるとするものである(企業危険説)。 (イ) 公務災害の意義地方公務員災害補償制度は,労働者災害補償保険制度,国家公務員災害補償制度と基本的性格が同一であり,各制度は相互に均衡のとれた運用がなされなければならないことから,業務ないし公務と負傷ないし疾病との相当因果関係は統一的に解釈・運用されなければならない。そして,地方公務員災害補償制度において,災害補償の対象にされる災害は,あくまで「公務上」の災害に限られるところ(地方公務員災害補償法26条,28条,28条の2,29条等),ここにいう「公務上」といえるためには,災害補償を行うについて,職員の負傷ないし疾病と公務との間に相当因果関係のあることが必要である。すなわち,地方公務員災害補償制度が,公務に内在する各種の危険性が現実化した場合の損失につき使用者たる地方公共団体が無過失責任を負うものであり,それに要する費用も,地方公務員災害補償制度の場合であれば地方公共団体の負担金により一切が賄われ,地方公務員には一切保険料などの負担がなく,かつ,地方公共団体に地方公務員の責任割合による損失分担が認められず,画一的に100%の法定賠償額の支払いを使用者たる地方公共団体に義務づける制度が採用されていることからすると,およそ公務の遂行に際して災害が発生したからといって,すべての災害につき地方公共団体に全責任を負わせることはできない。このため,前記災害のうち,その損失補償の責任を地方公共団体に帰すべきか否かを適正かつ客観的に判断するため「相当因果関係」の概念が用いられている。 (ウ) 相当因果関係の内容と認定基準具体的には,災害が発生した時点に立っ か否かを適正かつ客観的に判断するため「相当因果関係」の概念が用いられている。 (ウ) 相当因果関係の内容と認定基準具体的には,災害が発生した時点に立って,そこから過去に遡って,客観的に災害を発生させる原因となりえた(条件関係を有する)複数の原因を抽出し,その原因の1つである公務の遂行のみに危険責任を負わせ,全損害の補填をさせることが相当であるか否かを判断する必要があり,その相当性を肯定するためには(客観的相当因果関係),少なくとも公務が他の災害を引き起こす原因との関係で相対的に有力な原因であると評価できる関係の存在することが必要であるというべきである(相対的有力原因説)。 被告は,前記見地から,当該災害が公務上のものか,公務外のものかの判断に当たり,個々の事案に則して迅速かつ公正に行うとともに(地方公務員災害補償法1条),他の類似制度である労働災害補償制度及び国家公務員災害補償制度との均衡を保ちつつ,適正かつ明確な基準に基づいて行う必要があることから,昭和48年11月26日付地基補第539号通達(ただし,その後一部改正を実施している。)をもって地方公務員の事故に起因する災害の公務上外の認定基準(以下「本件認定基準」という。)を定めているところであって,本件においても,原告に発症した頸椎椎間板ヘルニアが本件認定基準2(3)の「公務上に起因することが明らかな疾病」のうち,同シ記載の「公務と相当因果関係をもって発生したことが明らかな疾病」であるといえることが必要である。 イ本件災害の検討(ア) 本件災害の発生状況原告は,通常のやり方で立ち幅跳びを行ったが,踏み切った直後に四肢等に痺れを感じたというものである イ本件災害の検討(ア) 本件災害の発生状況原告は,通常のやり方で立ち幅跳びを行ったが,踏み切った直後に四肢等に痺れを感じたというものであるところ,①立ち幅跳びは,一般に身体的な負荷をもたらすような危険性のある業務ではないこと,②原告は,過去に数回立ち幅跳びをしているが,本件災害時に例年と特に異なる動作をしたものではないこと,③原告が過去に行った立ち幅跳びの際に本件災害時のような違和感を覚えたことはなく,被告は,これまでに原告の同僚の中に立ち幅跳びで身体の異常を訴えた者を知らないこと,④原告が行った立ち幅跳びの際に頸部に原告の意に反した急激な力が作用するといった突発的な事態がなかったことからすると,当該立ち幅跳びにおける踏切動作が著しく身体の負荷を与えるような非生理的動作であったとはいえず,そうであれば,原告が踏み切った瞬間急激な力が突発的に頸部に作用したために頸椎椎間板ヘルニアが発症したものということはできない。 (イ) 頸椎椎間板ヘルニアと立ち幅跳びの関係本件災害は,原告が体力測定の1項目である立ち幅跳びを1回行った際に発生したものであるが,その発生状況に照らせば,1回の踏み切り動作による頸部への負荷は軽度であり,この程度の力で正常な線維輪が断裂し,ヘルニアを発症させることは医学的に考え難いところである。また,原告のX線写真等では,ヘルニア状態にあったC6ー7以外にもC5ー6等多数の頸椎に退行性の椎間板変性,突出が散見され,明らかに原告の頸椎には加齢による退行変性が存在する。もちろん,1回立ち幅跳びをしただけの負荷によって,このような退行変性が生じることはありえない。 したがって,体力測定のための立ち幅跳び 椎には加齢による退行変性が存在する。もちろん,1回立ち幅跳びをしただけの負荷によって,このような退行変性が生じることはありえない。 したがって,体力測定のための立ち幅跳びが原因で頸椎椎間板ヘルニアが発生したものではなく,原告は,本件災害時以前から頸椎椎間板ヘルニアを発症していたものである。 (ウ) 相当因果関係の不存在原告の場合,本件災害時までに従事した公務が著しく身体に過度の負担を与えるものであったため,頸椎椎間板ヘルニアが自然的経過を超えて増悪していたとは認められない。すなわち,① 業務内容原告の業務内容は,消防士としてごく一般的なものであり,身体に対する特段の負荷はない。原告は,日頃の業務が重量物を持ち上げるなど頸部に負荷があることを主張し,業務の加重性を主張しているが,原告が頸部に負担を与える作業として指摘したホースの2本背負いは,日常訓練で10ないし20秒間,林野火災の場合に10分くらい背負うことがあるという程度のものであり,あるいは空気呼吸器を約20分間背負うというものであり,このような作業内容及び負荷の頻度からすると,消防士として行う他の一般業務,通常訓練等における動作と特に質的に異なるものとはいえず,業務の加重性は認められない。 また,消防士の場合,訓練や実際の出動を通じ,比較的重量のあるものを運搬することがあるとはいえ,傷病人の運搬を除けば(これは2人で担当する。),原告が取り扱う最重量物は約30㎏の油圧資機材であり,労働省基準局の「職場における腰痛予防対策の推進について」の通達によると,取扱い重量として男子1人につき55㎏以下にすること等の対策が提示されているこ が取り扱う最重量物は約30㎏の油圧資機材であり,労働省基準局の「職場における腰痛予防対策の推進について」の通達によると,取扱い重量として男子1人につき55㎏以下にすること等の対策が提示されていることからしても,原告の業務で見られる程度の重量物の取扱いが原告に対し特段重い負荷を課する重労働に当たるということはできない。 ② 勤務状況原告の勤務は,24時間勤務すると,次の24時間は休むというものであること,出動回数は1勤務につき1,2回程度であり,勤務時間の大半は訓練及び待機時間であること,休日出勤等残業はほとんどないことからすると,その業務は,通常の職務の範囲内であり,身体に過度の負担を受けていたとはいえず,業務の加重性は認められない。 ウ本件処分の適法性原告の頸椎椎間板ヘルニアは,加齢等の素因が有力な原因となって発症したものであり,公務の遂行としての立ち幅跳びそれ自体は単なる誘因にすぎないから,公務の遂行と本件災害との間に相当因果関係があるということはできない。すなわち,原告の場合,日常生活によくみられる何気ない動作であっても,頸椎椎間板ヘルニアの症状が発症する状態にあったところ,たまたま立ち幅跳びを契機として頸椎椎間板ヘルニアが発症したものである。 したがって,公務の遂行と本件災害との間に相当因果関係があるということはできないから,本件処分は適法である。 b 原告の反論公務起因性の存在についてア原告には,被災前に頸椎椎間板ヘルニアがあったが,全く症状はなかったところ,本件立ち幅跳びにより頸部と四肢に激痛が走るとともに四肢の痺れを覚え,倉敷中央病院での検査により,医師から「早く発見 ア原告には,被災前に頸椎椎間板ヘルニアがあったが,全く症状はなかったところ,本件立ち幅跳びにより頸部と四肢に激痛が走るとともに四肢の痺れを覚え,倉敷中央病院での検査により,医師から「早く発見できたので,治る可能性がある。3か月遅れていたら手術をしても治らなかっただろう。」という説明があり,手術を勧められている。一般に頸椎椎間板ヘルニアの手術治療の場合,危険が高いため,慎重にならざるをえないのであるが,医師が手術に積極的であり,それだけ急激に状態が悪化したことを示している。したがって,本件立ち幅跳びにより,原告の有していた頸椎椎間板ヘルニアは,手術を要するまでに急激に悪化したものであり,公務に内在する危険が現実化して発症したものであるから,本件災害と公務の遂行との間に相当因果関係が認められる。 イところで,原告は,十数年にわたり消防士として公務に従事してきたが,その業務内容は,消火や救助のための出動の際には重量のあるものを背負って歩いたり,走ったり,上り下りしたりするなど肉体を酷使する業務であり,出動以外にも日常的に様々な訓練に従事する身体的負荷の多い業務である。このため,原告の頸椎椎間板ヘルニアは,業務に従事する中で自然的な経過を超えて悪化し,その状態は「同年代の男性と比べて重い状態」となっていたが,公務の一環としての体力測定での立ち幅跳びを行ったところ,四肢の痺れ等を内容とする頸椎椎間板ヘルニアの症状が急激に発症し,その後手術を要するまでに悪化したものであるから,まさに公務に内在する危険が現実化したものである。 ウ被告は,災害補償制度の目的・趣旨や制度の統一的運用の必要性等を強調し,地方公務員労働災害補償制度における相当因果関係の解釈としては相対的有力原因説が正当である旨主張するが,被告主張の ウ被告は,災害補償制度の目的・趣旨や制度の統一的運用の必要性等を強調し,地方公務員労働災害補償制度における相当因果関係の解釈としては相対的有力原因説が正当である旨主張するが,被告主張のように,企業危険説に立ったとしても,公務が1つの原因となって頸椎椎間板ヘルニア等を発症した場合であれば,公務に内在する危険が現実化したものといえるのであるから,ことさら「相対的に有力な原因」という一段高いハードルを設ける根拠を見い出すことはできない。また,労働災害補償制度・国家公務員労働災害補償制度との統一的運用の必要性を強調してみても,各制度における根拠法律自体が「相対的に有力な原因」という条件を法定しているわけではないから,相対的有力原因説が正当であるとすべき根拠が存在しない。 エまた,被告は,災害補償制度における相当因果関係につき「業務に内在する危険が現実化したものと認められるかという価値判断をするための要件として機能する」,「客観的に災害を発生させる原因となり得た複数の原因を抽出し,その原因の1つに公務がある場合に公務にのみ危険責任を負わせ,全損害の填補をさせることが相当か否かを判断する基準である」などと主張するが,災害補償制度が,公務が原因で負傷・死亡し,疾病に罹患した場合に労働者の生活保障のために定率の補償をする制度であることは争いのないところ,公務に関連して発生した災害につき使用者である地方公共団体のみに危険性を負わせることが不当であるために災害の原因を限定すべきであるとする被告の主張は,地方公務員災害補償基金からの支払いを減らしたいという被告の願望を述べているにすぎない。被告は,災害補償制度が全損害を填補するものであるというが,補償は,定率方式によってなされるだけでなく,慰藉料等は含まれていないから,誤りであ 払いを減らしたいという被告の願望を述べているにすぎない。被告は,災害補償制度が全損害を填補するものであるというが,補償は,定率方式によってなされるだけでなく,慰藉料等は含まれていないから,誤りである。 オ被告は,原告の業務内容が消防士としては一般的なものであり,業務の加重性は認められないというが,消防士の業務一般が強度の肉体的負担を伴うものである以上,原告の従事していた業務が消防士として一般的なものか否かを議論する意味はなく,椎間板ヘルニアが公務の一環である体力測定のため立ち幅跳びを行ったことにより発生したものである以上,消防士の業務に内在する危険によって椎間板ヘルニアが発生し,悪化したものというべきである。被告は,立ち幅跳びの動作が著しく身体の負荷を与える非生理的動作であるということはできず,その際急激な力が突発的に頸部に作用した事実自体が認められない旨主張するが,体力測定としての立ち幅跳びは,その成果が成績として記録されるものである以上,原告としては,全力を尽くすものであり,その際踏み切り動作により頸部,腰部及び背部に急激な強い負荷を与えたとしても,何ら不自然ではないといえるから,被告主張のように,この踏み切り動作をもって日常的に行っている諸動作と同視し,本件災害につき公務起因性がないとすることは許されない。 したがって,本件処分は,本件災害につき公務上の災害とすべきところ,その認定判断を誤り,公務外の災害であるとしたものであるから,違法であることを免れない。 第3 当裁判所の判断 1 前提事実関係について(1) 原告の業務内容について甲第5号証及び原告本人の尋問結果によれば,①原告は,昭和32年1月8日出生の男子であり,昭和60年4月1日にX市消防本部に消防職員とし について(1) 原告の業務内容について甲第5号証及び原告本人の尋問結果によれば,①原告は,昭和32年1月8日出生の男子であり,昭和60年4月1日にX市消防本部に消防職員として採用され,同日以降現在までX消防署に勤務していること,②X消防署では,職員が2班に分かれ,24時間交代で勤務しており,通常,午前8時30分に出勤して車両の点検を行い,午前10時から午後4時まで1時間の昼休みを挟んで救助,放水,ポンプ操法及び救急・救助の資機材取扱いの各訓練などを行い,午後4時から午後5時までベンチプレス等の器具を使った筋力トレーニングやランニングを行い,夕食休憩の後,午後7時から午後9時まで学習の時間があり,午後10時まで休憩し,その後は翌日午前7時まで仮眠の時間であること(この間に交代制で2時間の通信事務担当がある。),③救急での出動回数は,全体で,1日平均4回程度であり,火災出動は,建物火災及び林野火災を併せ,春先に多い日で3回程度の出動があり,このうち,林野火災については全体で年20回ぐらい出動し,原告自身もそのうち半分程度出動していること,④建物火災や林野火災の出動では,ヘルメット,防火衣,長靴又は編み上げ靴等を着装する必要があり,これらの重量は3ないし4㎏になり,このうち,建物火災の出動では,背中に約10㎏の空気呼吸器を背負い,ホース延長等の作業をするが,このホースは,1本20mの長さで約10㎏の重さがあり,林野火災の出動では,前記の装備の他に,1本20mのホースを2本収納した重さ20㎏の背負子を背負ってホースを延長する作業があること,⑤X消防署では,毎年1回,消防署の業務計画に基づき職員の体力測定を実施しており,実施種目は,立位体前屈,上体起こし,腕立て伏せ,時間往復走,立ち幅跳び,5分間走,握力,肺活量及び背 業があること,⑤X消防署では,毎年1回,消防署の業務計画に基づき職員の体力測定を実施しており,実施種目は,立位体前屈,上体起こし,腕立て伏せ,時間往復走,立ち幅跳び,5分間走,握力,肺活量及び背筋力の9種目であり,総合得点によってランク付けを行っていたことが認められる。 (2) 本件災害の発生状況等について甲第5号証,乙第2号証の1,2,6,7,8,14及び27,原告本人の尋問結果によれば,①原告は,平成9年9月24日午後1時から消防署業務計画に基づく体力測定に参加し,柔軟体操の後,肺活量,背筋力,立位体前屈を待機室及び仮眠室で行い,午後3時ころ,地下訓練場の砂場において,立ち幅跳びを行ったが,地面から空中に跳び上がった瞬間,四肢に電撃が走ったような痛みを感じ,臀部から着地したこと,②原告の立ち幅跳びのやり方は,ライン上で,気をつけのような体勢から両手を上方に振り上げ,体を後に反らせ,膝を屈伸させてその際の反動力を使って踏み切り,地面から空中に跳び上がると,空中で足と上体及び両手とを前方に突き出し,コの字型の姿勢をとり,足から着地するものであること,③原告は,最初に立ち幅跳びをしたが,前記痛みのため着地したまま少しの時間動くことができず,両手首から先と両足の裏が痺れていたことから,はって砂場を出て10分ほど休み,痺れが多少落ち着いてきたので,2度目の立ち幅跳びを行ったが,1回目と同じように,頸部の激痛と手足の痺れがあったこと,④ところが,原告は,足の痺れが消えないため,この体力測定では,立ち幅跳び,時間往復走,5分間走を断念し,腕立て伏せのみ行ったこと,⑤その後も,足裏の痺れは残り,次第に悪化し,走るのが困難になり,手の痺れや陰部の痺れも発症したことから,原告は,同年10月15日初めて備中整形外科を受診し,検査 を断念し,腕立て伏せのみ行ったこと,⑤その後も,足裏の痺れは残り,次第に悪化し,走るのが困難になり,手の痺れや陰部の痺れも発症したことから,原告は,同年10月15日初めて備中整形外科を受診し,検査を受けたところ,頸椎椎間板ヘルニアと診断されたことが認められる。 (3) 本件災害発生後診断結果判明までの生活状況について乙第2号証の27によれば,本件災害発生後から成羽病院でMRI検査を受けるまでの原告の生活状況は,以下のとおりであったことが認められる。 <1> 9月25日非番日であり,自宅で普通の生活をしていた。 <2> 9月26日 5回の救急出動がある。その他は車両及び資機材の点検のほか,事務処理を行う。 <3> 9月27日非番日であり,自宅で普通の生活をしていた。 <4> 9月28日午前8時30分から午前12時00分まで及び翌日午前1時00分から午前3時00分まで通信勤務を行い,午後1時00分から午後2時00分まで庁舎清掃,午後7時30分から午後8時30分まで市街地広報を行う。 <5> 9月29日非番日であり,自宅で普通の生活をしていた。 <6> 9月30日週休日であり,午前12時から午後3時までテニス場へ行くが,できずに見学する。その他は自宅で普通の生活をしていた。 <7> 10月1日週休日であり,午前10時から午後3時半まで岡山市内の無線機店に修理依頼と廃車手続きをする。その他は自宅で普通の生活をしていた。 <8> 10月2日午前8時30分から午前10時00分まで,午後1時00分から午後6時00分まで及び翌日午前5時00分から7時00分まで,通信勤務を行い,午前10時15分から午前11時45分まで <8> 10月2日午前8時30分から午前10時00分まで,午後1時00分から午後6時00分まで及び翌日午前5時00分から7時00分まで,通信勤務を行い,午前10時15分から午前11時45分まで福祉センターで救急法を指導し,午後7時30分から午後8時30分まで市街地広報を行う。 <9> 10月3日非番日であり,郵便局で振込の手続きをしたほかは,自宅で普通の生活をしていた。 <10> 10月4日 3回の救急出動がある。その他は車両及び資機材点検と通信勤務(午後11時00分から翌日午前1時00分まで)を行う。 <11> 10月5日及び翌6日大阪・京都方面へ職員親睦旅行に出かける。 <12> 10月7日週休日であり,自宅で普通の生活をしていた。 <13> 10月8日 3回の救急出動がある。その他は車両及び資機材点検と事務処理を行う。 <14> 10月9日非番日であり,自宅で普通の生活をしていた。 <15> 10月10日通信勤務,車両及び資機材点検を行う。 <16> 10月11日非番日であり,自宅で普通の生活をしていた。 <17> 10月12日有給休日であり,午前10時から午後3時まで八幡神社大祭に参加した。他は自宅で普通の生活をしていた。 <18> 10月13日有給休日であり,自宅で普通の生活をしていた。 <19> 10月14日週休日であり,自宅で普通の生活をしていた。 <20> 10月15日備中整形外科病院で診察を受ける。 <21> 10月16日 2回の救急出動がある。その他は車両及び資機材点検と事務処理を行う。 していた。 <20> 10月15日備中整形外科病院で診察を受ける。 <21> 10月16日 2回の救急出動がある。その他は車両及び資機材点検と事務処理を行う。 <22> 10月17日成羽病院でMRI検査を受ける。 上記のとおり,原告は,この間,足の痺れを感じながらも,特に検査及び治療を受けることなく,通常どおりの勤務を続け,大阪・京都方面へのバスによる職員親睦旅行にも参加する等,日常生活を続けていたものである。 (4) 症状,診断結果及び治療経過について甲第5号証,乙第3号証,第4号証の1及び6,第5号証の3,第7号証の1及び2,第8号証の1ないし8,第9号証の1ないし16,第10号証の1ないし5及び原告本人の尋問結果によれば,原告の症状,検査所見及び治療経過等について,以下の事実が認められる。 (ア) 原告は,平成9年10月15日になって初めて備中整形外科で甲医師の診察を受け,両足底部に痺れ感が継続し,両下肢に倦怠感があり,両膝がガクッとなる感じがある旨訴えた。同医院での同日の検査結果によれば,ラセグ90度(-),膝蓋腱反射及びアキレス腱反射が左右両側とも亢進,クローヌス・バビンスキー反射陽性,圧痛は認められず,脊椎湾曲に異常は認められず,両足底部に痺れ感を訴えるも,他覚所見は認められなかった。備中整形外科で同日撮影されたX線写真によれば,頸椎のうち,C6ー7,C5ー6,C4ー5,C3ー4などの椎間に骨棘(退行変性の所見)や頸椎の配列異常が認められた。 (イ) 原告は,同年10月17日成羽病院でMRI検査を受けたが,そのMRI像によれば,頸椎C6ー7レベルで,後方及び後外方に脱出したヘルニアと骨棘が前方より,肥厚した黄色靱帯(退行変性の所見)が後方よりそれぞ は,同年10月17日成羽病院でMRI検査を受けたが,そのMRI像によれば,頸椎C6ー7レベルで,後方及び後外方に脱出したヘルニアと骨棘が前方より,肥厚した黄色靱帯(退行変性の所見)が後方よりそれぞれ頸髄を強く圧迫し,このため,頸髄がブーメラン様に変形していた。頸椎C5ー6のレベルでは,主に後方中央に突出したヘルニアが認められるが,頸髄圧迫の程度は軽度であった。頸椎C3ー4,C4ー5の椎間板も軽度に突出していた。変性した椎間板による椎間孔の狭窄は,頸椎C3ー4からC6ー7まで認められ,特に,前記のとおり,頸椎C6ー7では,後方への骨棘のほか,後縦靱帯骨化症の可能性があり,狭窄が強く,脊髄内にも異常所見が認められた。 (ウ) 原告は,同年10月24日,備中整形外科の紹介を受けて倉敷中央病院を受診し,乙医師の診察を受け,入院して精密検査を受けるよう勧められた。原告は,同年11月7日及び翌8日,同病院に検査入院し,丙医師より「首の軟骨が後に飛び出ている。C6ー7間がきつい。手術が必要だと思う。腸骨から骨移植をして骨を固定する。神経が痛んでいる。症状が出たのが9月とまだ間がないからよくなる可能性が高い。」といった説明を受けた。同年11月7日撮影された脊髄撮影(ミエログラフィー),断層撮影(CTミエログラフィー)によれば,頸椎C6ー7レベルの両側神経根に一致した部分が圧迫のため造影されておらず,また,同レベルでクモ膜下腔が強く狭窄され,不完全ブロックの状態となっている。 (エ) 原告は,同年11月14日倉敷中央病院に入院し,同年11月18日頸椎C6ー7の頸椎前方固定術の手術,すなわち,C6ー7間の椎間板,椎体を切除し,脊髄に対する圧迫を除去した上で,右腸骨から骨を移植する手術を受けた。手術前にあった両下肢,左上肢の痺れはほぼ消失した 椎C6ー7の頸椎前方固定術の手術,すなわち,C6ー7間の椎間板,椎体を切除し,脊髄に対する圧迫を除去した上で,右腸骨から骨を移植する手術を受けた。手術前にあった両下肢,左上肢の痺れはほぼ消失したが,右上肢の痺れは軽減することなく,症状が残った状態で退院となり,外来で診察を受けることになった。 (オ) 原告は,本件災害前に頸椎疾患に罹患した既往歴はなく,頸椎に外傷を受けた事実もない。 2 公務起因性について(1) まず,原告が公務の一環である体力測定において実施種目の一つとして立ち幅跳びを行ったところ,これを契機に四肢の痺れ等を内容とする頸椎椎間板ヘルニアの症状が発症したことは,当事者間に争いがない。 この点に関し,甲第2号証によると,原告は,外傷を契機として神経根症状及び脊髄症状をきたしていたことから,倉敷中央病院で頸髄損傷と診断されている事実が認められるが,そのカルテ等には頸髄損傷に該当するような症状の記載はなく,X線写真及びMRI画像によるも,頸椎の損傷は認められず,他方,原告は,1回目の立ち幅跳びの際痛みを感じたため,しばらく休んでいたところ,動ける状態となったことから,再度同じ踏み切り動作を行い,その後は腕立て伏せを行える状態にまで回復し,以後も直ちに医療機関で検査・治療を受けることなく,通常の勤務を継続していることからすると,頸髄自体が損傷を受けたものではなく,立ち幅跳びの際椎間板ヘルニアによる頸髄の圧迫症状が発症したものと認めるのが相当である。 (2) 原告の頸椎椎間板ヘルニアが発症した原因について検討するに,原告が,立ち幅跳びに際し,これまでの立ち幅跳びと異なり,頸部を過度に屈曲したり,伸展したりした姿勢をとった事実がないことからすると,踏み切り動作すなわち地面から空中に跳び上が について検討するに,原告が,立ち幅跳びに際し,これまでの立ち幅跳びと異なり,頸部を過度に屈曲したり,伸展したりした姿勢をとった事実がないことからすると,踏み切り動作すなわち地面から空中に跳び上がった瞬間に両上肢が強く後方に引っ張られ,肩部や頸部の周辺筋に強く外力が作用したことが推認されるものの,その程度の負荷又は衝撃だけでは正常な線維輪が断裂するとは考え難いところ,前記のように,頸椎のうちC6ー7以外にもC5ー6,C4ー5,C3ー4等に中等度から軽度の椎間板退行変性が見られることからすると,原告は,以前より頸椎椎間板の退行変性によって生じた頸椎椎間板ヘルニアという基礎疾患を有していたが,それまで格別症状がないまま推移してきたところ,本件立ち幅跳びにおける踏み切り動作によってその症状が出現するに至ったものと認めるのが相当である。 3 そこで,以上認定の事実に照らし,本件災害につき公務起因性があるといえるか否かにつき検討する。 (1) 公務起因性の認定基準について地方公務員災害補償法にいう「職員が公務上負傷した場合」とは,職員が公務に起因して負傷した場合をいい,公務の遂行と負傷との間に原因結果という条件関係だけでなく,相当因果関係が存在することが必要であると解されるところ(最高裁判所昭和51年11月12日第2小法廷判決・裁集民第119号189頁参照),地方公務員災害補償制度の目的が,公務に内在ないし通常随伴する危険が現実化した場合に,これによって職員に生じた損失を補償することにあることに鑑みるならば,職員が,公務の遂行とは直接関係なく,加齢等による基礎疾患を有していたところ,これが公務の遂行を契機として症状が発現し,及び増悪した場合にあっては,公務による加重な精神的・身体的負荷によって基礎疾患が自然経過を超えて は直接関係なく,加齢等による基礎疾患を有していたところ,これが公務の遂行を契機として症状が発現し,及び増悪した場合にあっては,公務による加重な精神的・身体的負荷によって基礎疾患が自然経過を超えて増悪させたと認められるときに初めて公務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したものとして,当該災害と公務遂行との間に相当因果関係があると認めるのが相当である。 ところで,原告は,本件災害時40歳であったが,X線写真特にMRI画像所見によると,頸椎椎間板ヘルニアが発症する素地である退行変性が頸椎のうちC6ー7を中心に進行していたところ,本件災害が体力測定としての立ち幅跳びにおける踏み切り動作によって四肢の痺れ等という相当に重篤な症状を発症させたものであり,公務の遂行と負傷との間に原因結果という条件関係が存在することは明らかであるが,前記踏み切り動作によって前記症状が発現し,及び増悪したことが頸椎椎間板ヘルニアという基礎疾患にみられる自然経過を超えるものであって,公務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したものと評価できるために,相当因果関係があるといえるか否かについては,本件災害の場合,被告主張のように,原告の年齢からみて加齢的退行変性が進行していたことは事実であるとしても,本件災害前における退行変性の進行状況に関し的確な資料が存在しないだけに,その判断は,原告の基礎疾患と原告の従事した公務の内容等を総合的に考慮して行うほかないというべきである。 (2) 頸椎椎間板ヘルニアの進行程度について乙第13号証及び第14号証によれば,①過去に頸椎疾患の既往歴・外傷歴のない無症候性の男女497名(各年代の男女につきそれぞれ35名ないし49名)を対象にして頸椎椎間板ヘルニアについてMRI検査で調べた結果,40歳代の男性 によれば,①過去に頸椎疾患の既往歴・外傷歴のない無症候性の男女497名(各年代の男女につきそれぞれ35名ないし49名)を対象にして頸椎椎間板ヘルニアについてMRI検査で調べた結果,40歳代の男性は,約67%に頸椎椎間板のヘルニアが認められ,それらは,平均1・15椎間に発生していること,②そして,その約10%に頸髄圧迫症状がみられるが,その程度は頸髄前後径の3分の1未満の軽度圧迫であることが認められる。 これに対し,原告は,本件災害時40歳であったところ,前記のとおり,頸椎椎間板ヘルニアが頸椎のうちC6ー7,C5ー6,C4ー5及びC3ー4椎間に発生しており,とりわけ,C6ー7間に頸髄圧迫症状が認められるが,その程度は,頸髄前後径の3分の1を越えてブーメラン様に変形しているため,四肢の痺れ等を伴うものであり,頸椎前方固定手術を必要としたことからすると(しかし,それによっても右上肢の痺れはとれていない。),本件災害後における原告の頸椎椎間板ヘルニアの程度は相当に重症化したものであったといってよいところ,乙第13号証によると,原告の退行変性については,同年代の男性で比較的よく見られる症例であるというのであるから,特段の反証のない限り,本件災害前における頸椎椎間板ヘルニア症状は,本件立ち幅跳びによって顕著に悪化したものと推認するのが相当である。けだし,原告は,本件立ち幅跳びで踏み切り動作を行うことによって,従前はなかった頸椎椎間板ヘルニアの自覚症状が発現しただけでなく,その自覚症状の出現を裏付けるものとして,椎間板ヘルニアによるブーメラン様の頸髄圧迫が存在するからである。 ところで,この点に関し,原告は,前記のように,昭和60年4月1日以降本件災害時まで12年間消防職員として勤務しているところ,消防業務は,建物火 様の頸髄圧迫が存在するからである。 ところで,この点に関し,原告は,前記のように,昭和60年4月1日以降本件災害時まで12年間消防職員として勤務しているところ,消防業務は,建物火災や林野火災での出動の場合,ヘルメット,防火衣及び長靴又は編み上げ靴等を着装する必要があり,これらの重量が3ないし4㎏になることのほか,建物火災の出動では,空気呼吸器を背中に約10㎏のボンベを背負ってホース延長等の作業をするが,このホースは1本20mの長さで約10㎏の重さがあること,林野火災の出動では,前記の装備のほかに1本20mのホースを2本収納した重さ20㎏の背負子を背負ってホースを延長する作業があることなど,頸部及び肩部に相当に負担のかかる業務であるから,原告の頸椎椎間板ヘルニアは,かかる業務に従事する中で自然的な経過を超えて悪化した旨主張しているが,原告本人の尋問結果によると,一般に頸椎椎間板ヘルニアの原因は加齢による椎間板の退行変性であるとされているところ,建物火災出動や林野火災出動の頻度については,いずれも,全体として,建物火災出動については春先には多い日で1日3回程度の出動があり,これに対し,林野火災出動については年20回ぐらい出動し,原告自身もそのうち半分程度出動しているというのであり,必ずしもその頻度が高いとまではいい難いことに加え,原告のいうホースの二本背負いは日常訓練で10ないし20秒間,林野火災出動で10分間行う程度のものであり,空気呼吸器も約20分間背負うという程度のものであることが認められ,前記のとおり,原告の勤務体制が24時間勤務すると次の24時間は休み,出動回数は1勤務につき2回程度であり,勤務時間の大半は訓練と待機であり,休日出勤等はないことからすると,原告の日常業務一般が身体に対し特に加重な負荷をもたらすも 時間勤務すると次の24時間は休み,出動回数は1勤務につき2回程度であり,勤務時間の大半は訓練と待機であり,休日出勤等はないことからすると,原告の日常業務一般が身体に対し特に加重な負荷をもたらすものであったとまでは認め難く,消防署の同僚のなかにも原告のように頸椎椎間板ヘルニアを発症した者はいないことからすると,原告が従事してきた通常の消防業務自体が本件災害前における頸椎椎間板ヘルニアの進行と無関係であるとまではいえないとしても,加齢的退行変性の進行を自然的経過を超えて促進させる顕著な負荷を伴うものであったというには証拠が十分でなく,この点から公務の遂行と頸椎椎間板ヘルニアの発症との間に相当因果関係があるということはできない。 (3) 立ち幅跳び自体における公務起因性について原告が行った立ち幅跳びは,公務の一環である体力測定のため実施されたものであり,その結果が直ちに当該職員の勤務成績に結びつくものではないとしても,消防業務の特殊性からすると,消防職員にとって普段から体力の維持及び向上が求められているところであって,その状況を明らかにするための体力測定の実施もまた重要な業務内容であるといえるところ(原告は,その結果により1級から5級までランク付けされると述べる。),そうであれば,原告が体力測定の実施種目の一つである立ち幅跳びに全力で取り組んだとしても,何ら不自然ではないといってよく,これまでにも立ち幅跳びでトップクラスの記録(2m54㎝)を出していたことからすると,本件災害時にも全力で取り組んだものと認めるのが相当であり,先に認定した立ち幅跳びの方法によれば,全力で行う地面から空中への踏み切り動作により,その瞬間両上肢が強く後方に引っ張られ,頸部及び肩部の周辺筋に相当に強い外力が働いた結果,前記のとおり四肢の痺れ等 先に認定した立ち幅跳びの方法によれば,全力で行う地面から空中への踏み切り動作により,その瞬間両上肢が強く後方に引っ張られ,頸部及び肩部の周辺筋に相当に強い外力が働いた結果,前記のとおり四肢の痺れ等が発症したものと推認するのが相当である。そして,この踏み切り動作の方法が従前の体力測定における立ち幅跳びにおける踏み切り動作と特に異なるものでなかったにせよ,その結果,前記認定のとおり,原告が踏み切った瞬間に四肢に電撃が走ったような衝撃を感じ,これを裏付けるように,特に頸椎C6-7間の頸髄が強く圧迫されてブーメラン様に変形し,頸椎前方固定手術を必要とするまで重症化しており,原告の主治医であった医師の意見書でも(甲第4号証),原告は,以前から頸椎椎間板ヘルニア発症の素地となる疾患があったが,全く自覚症状がないまま推移してきたところ,今回の立ち幅跳びにより前記症状が急激に出現し,本件災害後におけるMRI画像所見等にみられる検査結果によると,頸椎前方固定を内容とする手術を必要とする状態であったというのであるから,特段の反証のない限り,踏み切り動作が頸椎椎間板ヘルニアを急激に悪化させた蓋然性は十分にあるといってよく(甲第4号証にはその可能性は否定できない旨の意見が述べられている。),立ち幅跳びの後に備中整形外科,成羽病院で検査を受けるまでの間にその症状を更に悪化させるような特段の事情が認められず,他に確たる発症因子のあったことが窺われない以上,本件立ち幅跳びにより原告の頸椎椎間板ヘルニアはその自然経過を越えて増悪したもの,すなわち,公務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したものであり,公務の一環である体力測定で行われた立ち幅跳びと頸椎椎間板ヘルニアの発症との間には相当因果関係があり,本件災害は公務に起因するものと認めるのが相当である。 る危険が現実化したものであり,公務の一環である体力測定で行われた立ち幅跳びと頸椎椎間板ヘルニアの発症との間には相当因果関係があり,本件災害は公務に起因するものと認めるのが相当である。 これに対し,被告は,立ち幅跳びが身体に対して特別の負荷をもたらす危険性のある動作ではなく,原告の供述によっても,本件災害時に例年と特に異なる動作はしなかったというのであるから,立ち幅跳び自体,単なる誘因にすぎず,立ち幅跳びでなく,日常生活によくみられる何気ない動作であっても同様の結果が生じえたものであるから,相当因果関係は認められない旨主張し,上記主張に沿う医師の意見書(乙第3号証)も存するが,前記のように,体力測定の実施種目の一部として実施される立ち幅跳びは,日常生活一般に認められる何気ない動作とは明らかに異質のものが含まれているといってよく,かつ,立ち幅跳び後に発現した頸椎椎間板ヘルニアが頸髄を強く圧迫してブーメラン様に変形するまでに重症化したものであったことからすると,原告においては,加齢的退行変性が進行しており,頸椎部に基礎疾患があったにせよ,当時,原告が40歳という年齢であったことも考慮するならば,加齢を主要因とする退行変性だけでは説明し難い症状が発現したものであるといってよく,本件立ち幅跳びが単に相当に重症である前記症状を発症させる誘因にすぎないとする被告の主張は,明らかに不合理なものであるから,採用することはできない。 そうすると,本件処分は,本件災害につき公務上であるのにその認定判断を誤り,公務外のものと認定判断をしたものであって,違法であることが明らかであるから,取消しを免れない。 第4 結論よって,原告の請求は,理由があるから,これを認容し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事 たものであって,違法であることが明らかであるから,取消しを免れない。 第4 結論よって,原告の請求は,理由があるから,これを認容し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 岡山地方裁判所第1民事部裁判官金光秀明裁判官潮海二郎裁判長裁判官渡邉温は,転補につき署名押印することができない。 裁判官金光秀明
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