- 1 -主文 1 原告の主位的請求(時効特例給付不支給決定の取消請求)を棄却する。 2 被告は,原告に対し,2199万7508円及びこれに対する平成21年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告のその余の第1次予備的請求(年金の支払請求)及び第2次予備的請求(国家賠償請求)をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,これを3分し,その2を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求厚生労働大臣が平成23年3月31日付けで原告に対してした時効特例給付不支給決定を取り消す。 2 第1次予備的請求(年金の支払請求)被告は,原告に対し,3001万0058円及びうち別表1の「未支給年金額」欄記載の各金員に対する各支払期日末日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 第2次予備的請求(国家賠償請求)被告は,原告に対し,3001万0058円及びうち別表1の「未支給年金額」欄記載の各金員に対する各支払期日末日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,亡夫A(以下「亡A」という。)を被保険者とする国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)による改正前の厚生年金保険法(以下「旧厚年法」という。)に基づく遺族年金について,厚生労働大臣から平成23年3月31日付けで,厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付 - 2 -に係る時効の特例等に関する法律(平成19年法律第111号。以下「時効特例法」という。)1条に基づく時効特例給付を不支給とする決定(以下「本件決定」という。)を受けた原告が,被告に対し,(1) 主位的請求として,本件決定の取消しを求めるともに,(2) 第1次予備的請求(年金の支払請求 条に基づく時効特例給付を不支給とする決定(以下「本件決定」という。)を受けた原告が,被告に対し,(1) 主位的請求として,本件決定の取消しを求めるともに,(2) 第1次予備的請求(年金の支払請求)として,昭和56年4月分から平成16年3月分までの上記遺族年金は時効により消滅していないなどとして,合計3001万0058円及びうち別表1の「未支給年金額」欄記載の各金員に対する各支払期日末日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(公法上の当事者訴訟),さらに,(3) 第2次予備的請求(国家賠償請求)として,昭和56年4月分から平成16年3月分までの上記遺族年金が時効により消滅しているのであれば,被告の担当者が違法に権利行使を妨げたことが原因であるとして,合計3001万0058円及びうち別表1の「未支給年金額」欄記載の各金員に対する各支払期日末日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。 2 関係法令の定め(本件に関係する時期のものを,本件に関係する限度で摘示する。)(1) 厚生年金保険法の定めア保険給付旧厚年法32条は,同法による保険給付の1つとして,遺族年金(以下「遺族年金」とは旧厚年法によるものをいうものとする。)を定めている。 イ裁定平成19年法律第109号による改正前の厚生年金保険法33条は,保険給付を受ける権利は,その権利を有する者(以下「受給権者」という。)の請求に基づいて,社会保険庁長官が裁定する旨定めている。 ウ年金の支給期間及び支払期月厚生年金保険法36条1項は,年金の支給は,年金を支給すべき事由が - 3 -生じた月の翌月から始め,権利が消滅した月で終わるものとする旨を定めている。また,年金の支給期月について,平成元年法 厚生年金保険法36条1項は,年金の支給は,年金を支給すべき事由が - 3 -生じた月の翌月から始め,権利が消滅した月で終わるものとする旨を定めている。また,年金の支給期月について,平成元年法律第86号による改正前の厚生年金保険法36条3項本文は,毎年2月,5月,8月及び11月の4期に,それぞれその前月分までを支払う旨を定めており,上記改正後の厚生年金保険法36条3項本文は,毎年2月,4月,6月,8月,10月及び12月の6期に,それぞれその前月分までを支払う旨を定めている。なお,平成元年法律第86号のうち厚生年金保険法36条1項の改正に係る部分は平成2年2月1日に施行された(平成元年法律第86号附則1条2号)。 エ遺族年金(ア) 受給権者旧厚年法58条1項は,遺族年金は,被保険者又は被保険者であった者が同項所定の各号の一に該当する場合にその者の遺族に支給すると定め,同項3号は,通算年金通則法4条1項各号に掲げる期間を合算した期間が6か月以上である者が,被保険者の資格を喪失した後に,被保険者であった間に発した傷病に係る初診日から起算して5年を経過する日前に,その傷病により死亡したときを定めている。そして,昭和60年法律第34号附則2条による廃止前の通算年金通則法4条1項2号は,厚生年金保険の被保険者期間を掲げている。 昭和57年法律第66号による改正前の厚生年金保険法59条1項は,遺族年金を受けることができる遺族は,被保険者又は被保険者であった者の配偶者,子,父母,孫又は祖父母(以下単に「配偶者」,「子」,「父母」,「孫」又は「祖父母」という。)であって,被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者によって生計を維持したものとする,ただし,妻以外の者にあっては,同項ただし書に掲げる要件に該当する場合に限るものと は「祖父母」という。)であって,被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者によって生計を維持したものとする,ただし,妻以外の者にあっては,同項ただし書に掲げる要件に該当する場合に限るものとする旨定めており,同ただし書2号において,子 - 4 -について,18歳未満であること等を掲げている。 (イ) 年金額a 旧厚年法60条1項は,妻に支給する遺族年金の額は,基本年金額の100分の50に相当する額に加給年金額を加算した額とする旨定め,同条2項は,上記の場合において,基本年金額の100分の50に相当する額が50万1600円に満たないときは,同規定にかかわらず,その額を50万1600円とする旨定める。 b 旧厚年法34条1項は,基本年金額は,(a) 2050円に被保険者期間の月数を乗じて得た額と,(b) 被保険者であった全期間の平均標準報酬月額(被保険者期間の計算の基礎となる各月の標準報酬月額を平均した額をいう。以下同じ。)の1000分の10に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて得た額を合算した額とする旨定める。また,同条2項は,被保険者期間の月数が240に満たないときは,上記規定中「被保険者期間の月数」とあるのは,「240」と読み替えるものとする旨定める。 c 旧厚年法62条1項は,妻に支給する遺族年金の加給年金額は,妻がその権利を取得した当時その者と生計を同じくし,かつ,同法59条1項に規定する要件に該当した子について計算する旨定める。また,同法62条3項は,同条1項に規定する子が,(a) 妻と生計を異にするに至ったとき,又は,(b) 遺族年金の受給権を失ったときの一に該当するに至ったときは,その子については,同項の規定にかかわらず,加給年金額を計算しないものとし,上記に該当するに至った月の翌月から年金の額を改 ,又は,(b) 遺族年金の受給権を失ったときの一に該当するに至ったときは,その子については,同項の規定にかかわらず,加給年金額を計算しないものとし,上記に該当するに至った月の翌月から年金の額を改定する旨定める。 d 旧厚年法34条5項は,加給年金額は,その計算の基礎となる子については一人につき2万4000円とし,ただし当該子のうち二人までについてはそれぞれ6万円とする旨定める。 - 5 -e 旧厚年法62条の2第1項本文は,遺族年金の受給権者である妻が同項所定の各号のいずれかに該当するときは,同法60条の遺族年金の額に当該各号に定める額を加算すると定め,同法62条の2第1項1号は当該遺族年金の加給年金額の計算の基礎となっている子があるときは12万円(その子が2人以上あるときは21万円)と,同項2号は60歳以上であるとき(前号に該当するときを除く。)は12万円と定める。 オ時効平成19年法律第111号(時効特例法)による改正前の厚生年金保険法92条1項は,保険料その他同法の規定による徴収金を徴収し,又はその還付を受ける権利は,2年を経過したとき,保険給付を受ける権利は,5年を経過したときは,時効によって,消滅する旨定める。 カ昭和60年法律第34号附則等昭和60年法律第34号附則78条1項は,旧厚年法による年金たる保険給付等については,原則として従前の例とする旨を定め,同条2項は年金額の自動改定の規定を織り込む等の読み替えをした上で,旧厚年法の保険給付の額の計算及びその支給の停止に関する規定等はなおその効力を有するものなどと定めた。なお,同条1項は,数次に渡り所要の改正がなされて現在に至っている。 (2) 会計法会計法30条後段は,国に対する権利で,金銭の給付を目的とするもので,時効に関し他の法律に規定が などと定めた。なお,同条1項は,数次に渡り所要の改正がなされて現在に至っている。 (2) 会計法会計法30条後段は,国に対する権利で,金銭の給付を目的とするもので,時効に関し他の法律に規定がないものは,5年間これを行わないときは,時効により消滅する旨を定めている。また,同法31条1項後段は,国に対する権利で,金銭の給付を目的とするものの時効による消滅については,別段の規定がないときは,時効の援用を要せず,また,その利益を放棄することができないものと定めている。そして,同条2項後段は,国に対する権利で, - 6 -金銭の給付を目的とするものについて,消滅時効の中断,停止その他の事項(前項に規定する事項を除く。)に関し,適用すべき他の法律の規定がないときは、民法の規定を準用する旨定めている。 (3) 時効特例法等の定めア時効特例法1条は,厚生労働大臣は,同法の施行の日(平成19年7月6日)において厚生年金保険法による保険給付(これに相当する給付を含む。以下同条並びに附則2条及び4条において同じ。)を受ける権利を有する者又は上記の施行の日前において当該権利を有していた者(同法37条の規定により未支給の保険給付の支給を請求する権利を有する者を含む。)について,同法28条の規定により記録した事項の訂正がなされた上で当該保険給付を受ける権利に係る裁定(裁定の訂正を含む。以下時効特例法1条において同じ。)が行われた場合においては,その裁定による当該記録した事項の訂正に係る保険給付を受ける権利に基づき支払期月ごとに又は一時金として支払うものとされる保険給付の支給を受ける権利について当該裁定の日までに消滅時効が完成した場合においても,当該権利に基づく保険給付を支払うものとする旨定めている。 イ時効特例法附則4条は,同法による改正後 とされる保険給付の支給を受ける権利について当該裁定の日までに消滅時効が完成した場合においても,当該権利に基づく保険給付を支払うものとする旨定めている。 イ時効特例法附則4条は,同法による改正後の厚生年金保険法92条1項及び4項の規定は,時効特例法の施行の日後において厚生年金保険法による保険給付を受ける権利を取得した者について適用する旨を定めている。 なお,同改正後の厚生年金保険法92条1項は,保険給付を受ける権利(当該権利に基づき支払期月ごとに又は一時金として支払うものとされる保険給付の支給を受ける権利を含む。4項において同じ。)は,5年を経過したときは,時効によって,消滅する旨を,同条4項は,保険給付を受ける権利については,会計法31条の規定を適用しない旨をそれぞれ定めている。 3 前提事実(当事者間に争いのない事実のほか各項掲記の証拠(枝番の存する - 7 -ものは,全枝番を含む。以下同様。)によって認められる事実)(1) 当事者等昭和56年3月●日に亡A(昭和●年●月●日生)が死亡した当時,原告は亡Aの配偶者であり,亡Aと原告との間には,長男B(昭和48年9月●日生。以下「長男」という。)及び二男C(昭和51年3月●日生。以下「二男」という。)がいた。 (2) 亡Aの厚生年金保険の被保険者期間亡Aの厚生年金保険の被保険者期間は,甲昭和41年4月11日から昭和45年8月22日までの52月間(以下「甲の期間」という。),乙同月28日から昭和50年8月26日までの60月間(以下「乙の期間」という。),丙昭和51年6月1日から昭和54年9月30日まで39月間(以下「丙の期間」という。),丁昭和55年6月1日から同年7月1日までの1月間(以下「丁の期間」という。)の合計152月間である(甲5,11)。 (3 1日から昭和54年9月30日まで39月間(以下「丙の期間」という。),丁昭和55年6月1日から同年7月1日までの1月間(以下「丁の期間」という。)の合計152月間である(甲5,11)。 (3) 亡Aの死亡亡Aは,丙の期間中に発した傷病により,初診日である昭和54年9月11日から起算して5年を経過する日前の昭和56年3月●日,死亡した(甲4,5)。 (4) 本件記録訂正社会保険庁長官は,平成21年5月19日,亡Aの厚生年金保険被保険者記録として甲の期間ないし丁の期間の記録が確認できたことから,甲の期間及び乙の期間に係る厚生年金保険の年金手帳記号番号(以下「手帳記号番号」という。)●●●●-●●●021と丙の期間及び丁の期間に係る厚生年金保険の手帳記号番号●●●●-●●●826の重複取消処理(1つの記号番号に統合する処理。以下「本件記録訂正」という。)をした上で,手帳記号番号●●●●-●●●021を基礎年金番号とする付番処理をした(乙 - 8 -6)。 (5) 本件裁定請求等原告は,平成21年6月30日,社会保険庁長官に対し,亡Aに係る遺族年金の裁定請求をした(以下「本件裁定請求」という。)。 本件裁定請求を受け付けたa社会保険事務所長は,原告が時効特例給付の対象者と思われるとして,同日付けで,社会保険業務センター所長宛に「時効特例給付対象者報告書」により報告した。 (6) 本件裁定等社会保険庁長官は,平成21年9月3日,本件裁定請求に対し,遺族年金の受給権の発生年月を昭和56年3月として,遺族年金の裁定をした(以下「本件裁定」という。)上で,原告に対し,同年4月分から平成16年3月分までの遺族年金(支分権。その内容は,別表1のとおり。以下「本件不支給部分」という。)については時効消滅した旨を通知し,同年4月 「本件裁定」という。)上で,原告に対し,同年4月分から平成16年3月分までの遺族年金(支分権。その内容は,別表1のとおり。以下「本件不支給部分」という。)については時効消滅した旨を通知し,同年4月分以降の遺族年金を支給することとした。 (7) 本件決定日本年金機構法(平成19年法律第109号)附則69条,73条1項,2項により,社会保険庁長官から時効特例給付を支給する権限を承継した厚生労働大臣は,平成23年3月31日,原告に対し,「過去に時効消滅によりお支払いすることができなかった年金は,厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律の規定による年金記録の訂正に基づく裁定又は裁定の訂正を原因とするものではないため」として,時効特例給付不支給決定(本件決定)をした。 (8) 審査請求等ア原告は,平成23年5月2日,本件決定を不服として,近畿厚生局社会保険審査官に対して,審査請求をした。これに対し,近畿厚生局社会保険審査官は,同年11月14日,同審査請求を棄却する決定をした。 - 9 -イ原告は,平成23年12月26日,上記アの決定を不服として,社会保険審査会に対して,再審査請求をした。これに対し,社会保険審査会は,平成24年6月29日,同再審査請求を棄却する裁決をした。 (9) 本訴提起等(当裁判所に顕著な事実)ア原告は,平成24年12月25日,本件決定の取消しを求める訴えを提起した。 イ原告は,平成25年6月6日,予備的請求として国家賠償請求を追加した。 ウ原告は,平成25年8月7日,予備的請求として本件不支給部分の支払を求める当事者訴訟を追加した。 エ原告は,平成25年8月28日に行われた第2回弁論準備手続期日において,上記アないしウの各請求の関係について,(1) 主位的 予備的請求として本件不支給部分の支払を求める当事者訴訟を追加した。 エ原告は,平成25年8月28日に行われた第2回弁論準備手続期日において,上記アないしウの各請求の関係について,(1) 主位的請求として,時効特例給付不支給処分の取消請求(上記アの請求),(2) 第1次予備的請求として,時効が完成していないことを前提とする年金の支払請求(上記ウの請求),(3) 第2次予備的請求として,時効が完成していることを前提とする国家賠償請求(上記イの請求)と整理した。 4 争点(1) 本件決定の違法性(本件において時効特例法1条が適用されるか。主位的請求関係)(2) 本件不支給部分の支払請求の当否(消滅時効の起算点,消滅時効の主張の信義則違反の有無等。第1次予備的請求関係)(3) 国家賠償請求の当否(第2次予備的請求関係) 5 当事者の主張(1) 争点(1)(本件決定の違法性(本件において時効特例法1条が適用されるか。主位的請求関係))について(原告の主張) - 10 -時効特例法は,いわゆる「消えた年金」問題が大きな社会問題として議論され,基礎年金番号に統合されていない記録が大量に残っていることをめぐり,国民の間に不安が広がっている状況に対処するため,その対応策をとりまとめて年金記録処理に対する国民の信頼の回復を図るという目的で,すなわち,誤った年金事務により年金を受給する権利を行使できなかったのに,会計法によって一律5年で時効消滅させる取扱いは余りにも不合理ではないかとの当然の理由から,時効消滅をさせない取扱いをするために制定されたものである。 文理解釈からしても,また,上記のような立法経過ないし立法事実を踏まえても,同法1条にいう「記録した事項の訂正」には,これまで見つからなかった年金記録が新たに発見されて に制定されたものである。 文理解釈からしても,また,上記のような立法経過ないし立法事実を踏まえても,同法1条にいう「記録した事項の訂正」には,これまで見つからなかった年金記録が新たに発見されて,受給権のあることが確認された場合を当然に含むと解すべきである。 本件では,亡Aの年金記録が新たに発見されて,原告に遺族年金の受給権のあることが確認されたのであるから,同法1条の要件を満たすというべきであって,同条の要件を満たさないとした本件決定は違法である。 (被告の主張)時効特例法1条は,厚生年金保険法28条の規定により記録した事項の訂正がなされた上で,当該保険給付を受ける権利に係る裁定(裁定の訂正を含む。)が行われた場合には,消滅時効が完成した場合であっても,時効特例給付を支給する旨規定するところ,時効特例法1条にいう「記録した事項の訂正」とは,裁定(裁定の訂正を含む。)に結びつく記録の訂正,すなわち,年金の受給資格又は年金額に影響を与える記録の訂正に限られ,受給資格又は年金額に影響を与えない記録の訂正は該当しない。 本件では,本件記録訂正前から丙の期間及び丁の期間に係る手帳記号番号は原告が保有していた年金手帳に記載されていたのであり,本件記録訂正によって原告の遺族年金の受給資格が確認され,新たに年金を支払うことにな - 11 -ったものではない。また,本件記録訂正の前後で,原告が受給する遺族年金の額に変わりはない。そうすると,本件記録訂正は原告の遺族年金の受給資格や年金の額に影響を与えるものではないから,本件は時効特例法1条の要件を満たさないものであって,本件決定は適法である。 (2) 争点(2)(本件不支給部分の支払請求の当否(消滅時効の起算点,消滅時効の主張の信義則違反の有無等。第1次予備的請求関係))についてア を満たさないものであって,本件決定は適法である。 (2) 争点(2)(本件不支給部分の支払請求の当否(消滅時効の起算点,消滅時効の主張の信義則違反の有無等。第1次予備的請求関係))についてア年金の改定について(被告の主張)原告は,長男及び二男が18歳に到達した平成3年9月●日及び平成6年3月●日から加給年金対象者に該当しないことになり,また,二男の18歳到達に伴い寡婦加算の支給要件をも満たさないこととなった。社会保険庁長官は,平成21年10月に,原告に対し,亡Aに係る遺族年金の額の改定をした。同改定後の昭和56年4月分から平成16年3月分までの遺族年金(本件不支給部分)の額は,別表2のとおりである。 イ消滅時効の起算点について(被告の主張)消滅時効の起算点である「その権利を行使することができる時」(民法166条1項)とは,一般に権利行使について法律上の障害がないことを意味すると解されている。ここでいう法律上の障害とは,権利の内容,属性それ自体により客観的に権利を行使することができないことをいう。なお,例えば,債務者の側に同時履行の抗弁権がある債権のように,債権者が自分の意思で除去できるものは,権利行使が可能な状態にあるということができるから,法律上の障害には当たらない。 受給権者は,年金の基本権について裁定請求をして裁定を受けさえすれば,裁定前に生じている支分権についても直ちに権利を行使することができ,裁定請求をするかどうかは専ら受給権者の意思に委ねられているとい - 12 -うことができるから,それが法律上の障害に当たるということはできず,また,受給権者において裁定請求することが,基本権及び支分権の性質,内容や年金制度の仕組みからして,現実に期待することができないといったような事情もない。そうすると,基 に当たるということはできず,また,受給権者において裁定請求することが,基本権及び支分権の性質,内容や年金制度の仕組みからして,現実に期待することができないといったような事情もない。そうすると,基本権につき裁定を受けていないことは,支分権の消滅時効との関係で法律上の障害に当たるとみることはできない。 なお,このような解釈は,時効特例法1条,2条が本来の支払期限から5年が経過した支分権が会計法31条により当然に時効消滅して年金の支給ができない事態となることを回避し,年金受給者の救済を図る趣旨で設けられたことと整合する(原告のように裁定前には支分権がおよそ時効消滅する余地がないのであれば,かかる規定を設ける意義も必要もない。)。 (原告の主張)年金の基本権の存在が明らかではないのに,支分権のみ消滅時効にかかるというのは余りに不合理であることに照らすと,基本権の裁定前に支払期が到来した支分権の消滅時効の起算点は基本権の裁定時であると解すべきである。なお,かかる見解は,法務省訟務局内社会保険関係訴訟実務研究会「社会保険関係訴訟の実務」によっても明らかにされている。 また,この点を措くとしても,原告は,社会保険事務所の職員に権利行使を妨げられてきたのであって,かかる場合には法律上の障害があったというべきである。 ウ本件において消滅時効の主張が信義則に反するかについて(原告の主張)保険者側の誤った説明,教示によって裁定請求を適切な時期に行うことができず,そのために本来有していた権利の行使が妨げられたといえるような特段の事情がある場合には,消滅時効の主張が信義則に反し許されないと解される。 - 13 -原告は,亡Aの死亡した年である昭和56年から平成21年2月26日までの間に数十回にわたり,a社会保険事務所に足を運び,遺族 ,消滅時効の主張が信義則に反し許されないと解される。 - 13 -原告は,亡Aの死亡した年である昭和56年から平成21年2月26日までの間に数十回にわたり,a社会保険事務所に足を運び,遺族年金の裁定請求をしたい旨を述べていたにもかかわらず,同事務所の担当者は,亡Aの厚生年金保険加入記録がなく,遺族年金は支給されない旨の誤った回答をし続けた。そのため,原告は,遺族年金の裁定請求を適切な時期に行うことができなかったということができるから,被告が本件不支給部分につき消滅時効の主張をすることは信義則に反し許されない。 (被告の主張)社会保険事務所の職員は,遺族年金の受給に関する相談があった場合,被保険者又は被保険者であった者(以下「被保険者等」という。)の被保険者記録を確認した上で,相談者が遺族年金の受給要件を満たしているか否かを確認しているところ,原告は,社会保険事務所の相談窓口において,亡Aに係る遺族年金の受給に関する相談をした際,丙の期間及び丁の期間に係る亡Aの年金手帳を持参したというのであるから,社会保険事務所の職員は亡Aに係る被保険者記録を容易に確認でき,遺族年金の受給要件を満たしている旨回答できた筈であり,原告に対し受給できないなどと回答するとは考えられない。 仮に,職員がそのような回答をしたとすれば,それは,原告が,亡Aの被保険者の情報や死亡の原因又は死亡に係る傷病の発症日等の情報を正しく伝えてなかったものとも考えられ,上記回答が信義則に反するものということはできない。 すなわち,社会保険事務所の職員に信義則に反する行為があったとはいえないから,被告が本件不支給部分につき時効を主張することが信義則に反するものではない。 (3) 争点(3)(国家賠償請求の当否(第2次予備的請求関係))について - 為があったとはいえないから,被告が本件不支給部分につき時効を主張することが信義則に反するものではない。 (3) 争点(3)(国家賠償請求の当否(第2次予備的請求関係))について - 14 -ア国家賠償法上の違法について(原告の主張)年金保険納付記録を管理する被告の担当者は,常に年金保険納付記録を整備し,必要に応じてその情報を国民に正確に開示し,年金受給権者の年金受給権の行使を妨げることのないようにしなければならない職務上の注意義務を負っている。 しかるに,被告の担当者は,亡Aに係る遺族年金の裁定に必要な年金保険納付記録を適正に作成・保管せず,かつ,原告から昭和56年から平成21年までの間,社会保険事務所で遺族年金の裁定を受けたい旨の申し出を受けていたにもかかわらず,原告に対し,亡Aに係る遺族年金は支給されない旨誤った内容の教示をしたのであって,かかる誤教示は国家賠償法上違法である。 (被告の主張)(ア) 社会保険事務所における年金相談の範囲が,被保険者記録,年金の裁定,支払,見込額に関すること等多岐にわたることに加え,窓口担当職員が限られた時間で多数の相談者に対応をしなければならず,またその回答もその相談内容に応じたものにならざるを得ないことに照らすと,社会保険事務所の相談窓口の職員は,受給要件を構成し得る全ての事実について積極的な聴取・確認をする法的義務を負うものではない。 (イ) 前記(2)ウの被告の主張欄掲記のとおり,社会保険事務所の相談窓口の職員が,原告に対し,亡Aに係る遺族年金を受給できないなどと回答するとは考えられないし,仮にかかる回答があったのであれば,それは原告が上記職員に対し正確に情報を伝えていなかったためと考えられる。いずれにしろ,上記職員の対応が国家賠償法上違法となるとはいえない。 るとは考えられないし,仮にかかる回答があったのであれば,それは原告が上記職員に対し正確に情報を伝えていなかったためと考えられる。いずれにしろ,上記職員の対応が国家賠償法上違法となるとはいえない。 イ被告の担当者の過失について - 15 -(原告の主張)被告の担当者が原告に対し亡Aに係る遺族年金を受給できないと誤った回答をしたことにつき過失がある。 (被告の主張)争う。 ウ違法行為と相当因果関係のある損害について(原告の主張)原告は,被告の担当者の違法な職務行為(誤教示)によって,平成21年6月に至るまで亡Aに係る遺族年金の裁定請求をすることができなかった。仮に,本件決定が取り消されず,かつ,本件不支給部分の時効が完成しているため本件不支給部分の支払請求が棄却された場合には,上記違法な職務行為により,原告は別表1記載の年金額の合計3001万0058円の損害を被った。 また,厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付の支払の遅延に係る加算金の支給に関する法律(以下「遅延加算金法」という。)2条所定の保険給付遅延特別加算金に相当する金額も原告の損害となる。 (被告の主張)本件裁定後の平成21年10月に原告の遺族年金の額が改定された。したがって,仮に原告に損害が発生しているとしても,その額は別表2のとおり合計2199万7508円にとどまる。 また,遅延加算金法2条は,時効特例法1条の適用がある場合に遅延加算金を支給する旨を定めているところ,原告の亡Aに係る遺族年金については時効特例法1条の適用がないから,上記遅延加算金相当額は原告の損害とはならない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件決定の違法性(本件において時効特例法1条が適用され - 16 -るか。主位的請求関係))について(1) 算金相当額は原告の損害とはならない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件決定の違法性(本件において時効特例法1条が適用され - 16 -るか。主位的請求関係))について(1) 時効特例法の立法の経緯時効特例法は,いわゆる議員立法により,平成19年6月30日に成立し,同年7月6日に公布,施行された。同年5月30日の衆議院厚生労働委員会において,時効特例法の提出者から,「年金記録処理については,基礎年金番号に統合されていない記録が残っていることなどをめぐり,国民の間に不安が広がっております。政府においても,社会保険庁改革を進めるに当たって,年金記録について包括的かつ徹底的な対応策を取りまとめ,年金記録処理に対する国民の信頼の回復を図ることとしております。それにあわせ,政府・与党一体となった検討の結果,年金記録の訂正に伴う増額分の年金の支給が時効によって消滅する不利益を解消し,政府管掌年金事業における被保険者等の記録の管理に対する国民の信頼を確保するため,記録した事項の訂正に係る年金の支給を受ける権利について時効の特例を設けるほか,正確な年金個人情報の整備に関する政府の責務規定を定める等の特別の立法措置を講ずることとした次第でございます。」と提案理由が説明され,さらに,法案の内容について,「第1に,社会保険庁長官は,施行日において厚生年金保険及び国民年金の受給権者または受給権者であった者について,年金記録の訂正がなされた上で裁定が行われた場合においては,その年金記録の訂正に係る受給権に基づき支払われる年金の支給を受ける権利について消滅時効が完成した場合においても,年金を支払うものとしております。第2に,施行日後に受給権を取得した者に対し支払い期月ごとに支払われる厚生年金保険及び国民年金の支給を受ける権利に係る時効の ついて消滅時効が完成した場合においても,年金を支払うものとしております。第2に,施行日後に受給権を取得した者に対し支払い期月ごとに支払われる厚生年金保険及び国民年金の支給を受ける権利に係る時効の扱いについては,会計法第31条の規定を適用せず,援用を要するものとしております。第3に,政府は,年金個人情報について,被保険者,受給権者その他の関係者の協力を得つつ,正確な内容とするよう万全の措置を講ずるものとしております。」と説明されている(甲27)。 - 17 -(2) 時効特例法1条の解釈上記のとおり,時効特例法は,基礎年金番号に統合されていない記録が残っていることなど年金記録管理をめぐって国民の間に不安が広がっていることに鑑み,年金記録の訂正に伴う増額分の年金が,時効により消滅して支給できなくなるという不利益を解消するために制定されたものである。 そして,同法1条は,厚生労働大臣は,同法の施行の日(平成19年7月6日)において厚生年金保険法による保険給付(これに相当する給付を含む。)を受ける権利を有する者又は上記の施行の日前において当該権利を有していた者(同法37条の規定により未支給の保険給付の支給を請求する権利を有する者を含む。)について,同法28条の規定により記録した事項の訂正がなされた上で当該保険給付を受ける権利に係る裁定(裁定の訂正を含む。)が行われた場合においては,その裁定による当該記録した事項の訂正に係る保険給付を受ける権利に基づき支払期月ごとに又は一時金として支払うものとされる保険給付の支給を受ける権利について当該裁定の日までに消滅時効が完成した場合においても,当該権利に基づく保険給付を支払うものとする旨定めているところ,上記のような時効特例法の趣旨に鑑みれば,同法1条にいう「記録した事項の訂正」に当たる 裁定の日までに消滅時効が完成した場合においても,当該権利に基づく保険給付を支払うものとする旨定めているところ,上記のような時効特例法の趣旨に鑑みれば,同法1条にいう「記録した事項の訂正」に当たるのは,年金の受給権の有無ないし年金額に影響を及ぼす訂正に限られるものと解するのが相当である。 (3) 本件におけるあてはめ亡Aの手帳記号番号は,甲の期間及び乙の期間につき●●●●-●●●021,丙の期間及び丁の期間につき●●●●-●●●826であり,亡Aにつき2つの手帳記号番号が付されており,平成21年5月19日,これらの記録を統合する手続が取られたものである(前記前提事実(4))。 - 18 -そうであるところ,亡Aが丙の期間中に発した傷病によって,初診日である昭和54年9月11日から起算して5年を経過する日前の昭和56年3月●日に死亡したこと(前記前提事実(3))により,亡Aの遺族に遺族年金の受給権が発生するものであって,このことは甲の期間及び乙の期間の年金記録と丙の期間及び丁の期間の年金記録とが統合されるか否かによって左右されるものではない。 また,亡Aの遺族年金額は,旧厚年法60条1項,34条1項,2項,62条1項,34条5項,62条の2第1項1号,昭和60年法律第34号附則78条2項等の規定により算定されるところ,甲の期間及び乙の期間の年金記録と丙の期間及び丁の期間の年金記録とが統合されることによって,その金額が変動するものではない(前記前提事実(2)のとおり,亡Aの被保険者期間の月数は,甲の期間及び乙の期間の合計が112月間,丙の期間及び丁の期間の合計が40月間と,いずれも遺族年金の支給要件である6か月(旧厚年法58条1項)を超えている一方,甲の期間及び乙の期間と丙の期間及び丁の期間を合算しても,その月数は合計1 間,丙の期間及び丁の期間の合計が40月間と,いずれも遺族年金の支給要件である6か月(旧厚年法58条1項)を超えている一方,甲の期間及び乙の期間と丙の期間及び丁の期間を合算しても,その月数は合計152月間にとどまるため,上記統合の有無にかかわらず,基本年金額の計算上の被保険者期間の月数は240と読み替えられる(同法34条2項)。また,基本権発生当時の基本年金額の100分の50に相当する額が50万1600円に満たないため,遺族年金の計算上基本権発生当時の基本年金額の100分の50に相当する額は50万1600円とされている(同法60条2項)が,このことも上記記録の統合の有無にかかわらない。)。 そうすると,亡Aに係る甲の期間及び乙の期間の年金記録と丙の期間及び丁の期間の年金記録との統合は,原告の遺族年金の受給権の有無及びその額に影響を与えるような年金記録の訂正には当たらないものであって,かかる年金記録の統合は,時効特例法1条にいう「記録した事項の訂正」に当たらないものと解するほかない(なお,a社会保険事務所長は,平成21年6月 - 19 -30日付けで社会保険業務センター所長に対し,原告は時効特例給付対象者と思われる旨の報告をしているところ,同報告書の書式には,新規裁定の場合は,a 「時効特例に該当する記録事項の訂正(追加)を行ったか」,b「上記記録の訂正により初めて受給要件を満たすこととなったか」の両方を満たす場合に時効特例の対象者となる旨の記載があり,原告についてはこのうちaのみに該当する旨のチェックがなされている(甲3)のであるから,そもそも対象者として報告することが相当であったか疑義が存するところであるし,いずれにせよ,かかる報告によって時効特例法1条の要件を満たすということにはならないことはいうまでもない。)。 本件 ,そもそも対象者として報告することが相当であったか疑義が存するところであるし,いずれにせよ,かかる報告によって時効特例法1条の要件を満たすということにはならないことはいうまでもない。)。 本件のように,2つの期間(本件では,甲の期間及び乙の期間と,丙の期間及び丁の期間)の年金記録が確認され,これによって新たに受給資格を満たしていることが判明したような場合,遺族年金の受給権者を救済する必要があることは,時効特例法が適用される場合と異ならないようにも思われるところであるが,同法が時効制度の例外を定めた立法であることに鑑みると,2つの期間の統合という年金記録の訂正自体では受給権の有無及び額に変動を及ぼさない以上,救済の必要性を理由として同法の適用範囲を拡張解釈することはできないものといわざるを得ず,かかる場合には,個別の事情に応じて,後に検討する年金請求における時効主張の制限(信義則違反)や,あるいは国家賠償請求等によって解決するほかないものと解される。 よって,原告の主位的請求は理由がない。 2 争点(2)(本件不支給部分の支払請求の当否(消滅時効の起算点,消滅時効の主張の信義則違反の有無等。第1次予備的請求関係))について(1) 遺族年金の額について社会保険庁長官は,平成21年10月,原告に対し,原告の長男が18歳に達したことに伴う加給年金額の減少,原告の二男が18歳に達したことに伴う加給年金額及び寡婦加算額の各加算の打ち切りを理由とし - 20 -て,亡Aに係る遺族年金の額の改定をし,原告に対し,同月15日付けで支給額変更通知書を送付した。同改定後の昭和56年4月分から平成16年3月分までの遺族年金(本件不支給部分)の額は,別表2のとおりである。(乙29ないし31,弁論の全趣旨)(2) 時効の起算点について(時効特 書を送付した。同改定後の昭和56年4月分から平成16年3月分までの遺族年金(本件不支給部分)の額は,別表2のとおりである。(乙29ないし31,弁論の全趣旨)(2) 時効の起算点について(時効特例法制定前の厚生年金保険法上の時効に関する解釈)ア基本権,支分権及び裁定の意義厚生年金保険制度は,労働者の老齢,障害又は死亡について保険給付を行い,労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とし(厚生年金保険法1条),保険方式により被保険者及び被保険者を使用する事業主の拠出した保険料を基として保険給付を行うこと(同法81条,82条等)を基本とするものである。そして,社会保障関係給付の1つである厚生年金保険について,その受給権が実体法上いつどのようにして発生するか,行使可能になるか,請求手続をどのようなものとするかなどはいずれも立法政策に委ねられているところ,同法36条1項は,「年金の支給は,年金を支給すべき事由が生じた月の翌月から始め」ると定めつつ,平成19年法律第109号による改正前の厚生年金保険法33条は,保険給付を受ける権利(支払期ごとに年金の支給を受ける権利である支分権を発生させる根拠となる権利である基本権であり,以下「受給権」ともいう。)について,受給権者の請求に基づいて社会保険庁長官が裁定するものとしている。これは,画一公平な処理によって,給付主体と受給権者との間の無用な紛争を防止し,給付の法的確実性を担保するため,その権利の発生要件の存否や金額等につき,社会保険庁長官において公権的に確認するのが相当であるとの見地から,基本権たる受給権について,同長官による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らか - 21 -にしたものと解される(国民年金法上の裁定に関する最高裁平成3年(行ツ)第 るとの見地から,基本権たる受給権について,同長官による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らか - 21 -にしたものと解される(国民年金法上の裁定に関する最高裁平成3年(行ツ)第212号同7年11月7日第三小法廷判決・民集49巻9号2829頁参照)。 イ基本権の時効について時効特例法による改正前の厚生年金保険法92条1項は,保険給付を受ける権利は,5年を経過したときは,時効によって消滅すると定めているところ,ここにいう保険給付を受ける権利とは,保険給付を受ける根拠となる権利,すなわち基本権のことであると解される。また,基本権に係る時効が会計法とは別個独立に規定されていることに鑑み,その時効を主張するには民法145条により時効の援用が必要であると解されるところであり,被告も,時効特例法による改正前の厚生年金保険法92条1項の規定により時効消滅した場合であっても,時効完成前に裁定請求を行わなかった場合等宥恕すべき理由があるときには,時効を援用しない取扱いをしていた。 ウ支分権の時効について(ア) 他方,支分権の時効については,時効特例法による改正前の厚生年金保険法は会計法とは別段の定めを置いていなかったことから,支分権の消滅時効は,会計法の適用を受け,消滅時効期間の5年を経過すると援用を要することなく直ちに消滅し,被告が時効利益の放棄をすることも認められない(同法30条,31条1項)ものと解される。 また,支分権の消滅時効の起算点は,会計法31条2項が準用する民法166条1項によって「権利を行使することができる時」となるところ,基本権の発生後,受給権者は,裁定の請求をすることにより,いつでも支分権に基づき年金の支払を受けることができるのであるから,基本権が客観的に発生した以降の各支払期日の初日 - 時」となるところ,基本権の発生後,受給権者は,裁定の請求をすることにより,いつでも支分権に基づき年金の支払を受けることができるのであるから,基本権が客観的に発生した以降の各支払期日の初日 - 22 -から,その支払期日に係る支分権の消滅時効が進行し,5年の経過により順次時効消滅するものと解するのが相当である。 (イ) この点,原告は,年金の基本権の存在が明らかではないのに,支分権のみ消滅時効にかかるというのは余りに不合理であることに照らすと,基本権の裁定前に支払期が到来した支分権の消滅時効の起算点は基本権の裁定時であると解すべきである旨主張する。確かに,年金の支給を受けるためには基本権の確認行為である裁定が必要とされるから,基本権についての裁定を受けていないことは,消滅時効の起算点との関係で,裁定前の年金を受ける権利(支分権)の行使についての法律上の障害に当たると考える余地もあろう。 しかしながら,裁定前の年金の支給を受ける権利(支分権)は,裁定を受けない限り,現実に支給を受けることはできないという意味で具体的な権利ということはできないものの,受給権の発生要件や年金給付の支給時期・金額について明確な規定(旧厚年法36条,58条1項,厚生年金保険法36条,58条1項等)が設けられていることや上記アのとおり裁定が確認行為であることに照らすと,年金給付の支給事由が生じた後は,受給権者が受給権についての裁定請求をしないままに経過した場合においても,その支給事由が生じた日の属する月の翌月から支給を始めるべきものとして,年金支給を受ける権利(支分権)は順次潜在的・抽象的には発生するものと観念することができる。そして,受給権について裁定請求をすることにつき法律上の障害が存するものではない上,裁定請求をすれば,支分権についても時効の中 (支分権)は順次潜在的・抽象的には発生するものと観念することができる。そして,受給権について裁定請求をすることにつき法律上の障害が存するものではない上,裁定請求をすれば,支分権についても時効の中断が生じると解されることからすれば,現に裁定がされていないことは,支分権の行使について法律上の障害には当たらないと解するのが相当である。 なお,このように,起算点は基本権が客観的に発生した以降の各 - 23 -支払期日の初日であると解することは,支分権が消滅時効によって消滅した年金受給権者を救済するために時効特例法が制定されたという経緯とも整合するものといえる。 (ウ) 原告は,社会保険事務所の職員によって権利行使を妨げられたような場合には法律上の障害があるというべきであると主張するが,時効の起算点は客観的,一義的に定められるべきものであることに照らすと,原告の主張は採用できない(原告主張の点は,後に検討するように,個別事情に応じて,年金請求に対する信義則による時効主張の制限を認めること等によって解決すべきものといえる。)。 エ小括以上によれば,時効特例法による改正前の厚生年金保険法のもとでは,支分権の消滅時効は会計法の適用を受け,消滅時効期間の5年を経過すると援用を要することなく直ちに消滅し,被告が時効利益の放棄をすることも認められず,その起算点は基本権が客観的に発生した以降の各支払期日の初日であると解するのが相当である。 (3) 被告の消滅時効の主張が信義則上許されないものといえるかについて前記前提事実(3)のとおり,亡Aは,丙の期間中に発症した傷病により,初診日である昭和54年9月11日から起算して5年を経過する日前の昭和56年3月●日に死亡しているから,亡Aに係る遺族年金として同年4月分から支給されることと Aは,丙の期間中に発症した傷病により,初診日である昭和54年9月11日から起算して5年を経過する日前の昭和56年3月●日に死亡しているから,亡Aに係る遺族年金として同年4月分から支給されることとなる(旧厚年法58条1項,36条1項)。そうであるところ,前記前提事実(5)のとおり,原告は,平成21年6月30日に亡Aに係る遺族年金の裁定請求(本件裁定請求)をしているから,昭和56年4月分から平成16年3月分までの遺族年金(本件不支給部分)は,本件裁定請求時点において,各支払期日 - 24 -の初日から5年を経過しているものといえる。 そして,被告は,本件不支給部分について,消滅時効の主張をするところ,原告は,同主張は信義則に反し許されない旨主張するので,以下この点について検討する。 ア前記前提事実,争いのない事実のほか各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 (ア)a 年金記録のオンラインシステム導入までは,紙媒体により年金記録が管理されていた。厚生年金保険については,社会保険事務所で,事業主からの届出に基づき,事業所ごとの被保険者名簿により被保険者記録を管理していた。被保険者名簿の記録は,被保険者資格を喪失した際に,社会保険業務センターに送付され,年金裁定に必要な記録を被保険者ごとに原簿(マイクロフィルム)で管理することとされていた。その後遅くとも平成元年までには厚生年金保険の記録はオンライン化された。もっとも,過去の紙台帳の記録からオンライン化される際に,入力が不正確であったり,入力もれがあったりしたものが少なからず存在した。 (甲27,30)b 年金相談関係業務の取扱いについては,昭和59年2月に年金相談関係業務取扱要領が定められた。その後の改正を経た平成17年10月28日時点での年 したものが少なからず存在した。 (甲27,30)b 年金相談関係業務の取扱いについては,昭和59年2月に年金相談関係業務取扱要領が定められた。その後の改正を経た平成17年10月28日時点での年金相談関係業務取扱要領(以下「本件取扱要領」という。)によれば,同要領の目的は,社会保険事務所及び地方社会保険事務局事務所並びに年金電話相談センター(以下「社会保険事務所等」という。)における年金相談業務の処理方法を定め,もって円滑かつ適正な業務の遂行に資することにある。さらに本件取扱要領では,来訪受付票の記載内容に基づき,相談内容を具体的に聴取し,被保険者等の個人記録を必要と - 25 -する相談については,その回答に必要なデータを収集するものとしている。そして,本件取扱要領は,厚生年金保険の被保険者記録についていえば,(a) 窓口装置により必要なデータを照写すること,(b) 社会保険業務センターにおいてマイクロフィルムに収録されている記録については「被保険者記録等進達関係手続」に基づき,社会保険業務センターに照会すること(当該記録の有無は窓口装置の被保険者記録照会回答票画面にマイクロフィルムのカセット番号の表示により確認できる。),(c)(a)及び(b)以外の記録で自庁所管のものについては,厚生年金保険被保険者原票(被保険者名簿を含む。)により確認すること,(d) (a)及び(b)以外の記録で他の社会保険事務所等の所管に係るものについては,「健康保険・厚生年金保険適用関係業務取扱要領」等に基づいて所要の処理を行うことをそれぞれ定めている。さらに,本件取扱要領は,データの収集に時日を要するため即答できない場合は,後日,文書又は電話により回答するか,再度来訪を促す等により回答するとしている。(乙22,23)なお,年金記録の いる。さらに,本件取扱要領は,データの収集に時日を要するため即答できない場合は,後日,文書又は電話により回答するか,再度来訪を促す等により回答するとしている。(乙22,23)なお,年金記録のオンライン化が完了せず,窓口装置が整備されるまでの間は,被保険者記録は,紙の台帳により管理されており,社会保険事務所の職員は紙の台帳から被保険者記録を検索していた(弁論の全趣旨)。 c 平成9年1月に基礎年金番号制度が導入されたことに伴い,社会保険庁は,その時点で受給者と被保険者全員に基礎年金番号を付番し,これを通知した。社会保険庁は,同通知の際に55歳以下の基礎年金番号を付番された者について照会を行うなどし,その後も受給権者の再裁定,裁定請求,58歳到達時の加入履歴送 - 26 -付による年金相談時の加入履歴確認等の方法により,基礎年金番号への統合を進めたが,基礎年金番号に未統合の記録が平成19年6月時点で約5095万件(同年7月末時点でも約4871万件)存在していた。政府・与党は,同年7月5日,政府・与党取りまとめ及び工程表において,(a) 名寄せを行うためのプログラムを開発した上で,基礎年金番号に未統合のオンライン記録とすべての年金受給者及び被保険者のオンライン記録とのコンピュータ上での名寄せを実施し,(b) その結果,記録が結び付く可能性のある者に対して,平成20年3月までを目途に,「ねんきん特別便」として,その旨と加入履歴等を通知し,本人からの記録の訂正の申し出を通じて,基礎年金番号の下に記録を結び付ける,(c) その他のすべての受給者及び被保険者に対して,同年4月から同年10月までを目途に,改めて自身の年金記録が適正に管理されているかを確認してもらうため,「ねんきん特別便」として加入履歴を通知し,もって基礎年金番号に の受給者及び被保険者に対して,同年4月から同年10月までを目途に,改めて自身の年金記録が適正に管理されているかを確認してもらうため,「ねんきん特別便」として加入履歴を通知し,もって基礎年金番号に未統合の年金記録の統合を進める方針を策定した。その後,社会保険庁は,平成19年12月から平成20年10月までの間に,ねんきん特別便を送付した。(甲30,40,乙17)(イ)a 亡Aの丙の期間(昭和51年6月1日から昭和54年9月30日まで)の被保険者記録の原簿は,平成25年5月2日時点では,マイクロフィルムとして保管されていた。また,a社会保険事務所に保管されていた年金手帳番号払出簿(年金手帳の記号●●●●)の年金手帳の番号「●●●826」には亡Aの氏名,性別(男性に丸印あり),生年月日,資格取得年月日(昭和51年6月1日),事業所の整理記号(●●●92)が記載されている。そして,同事務所に保管されていた事業所番号等索引簿には - 27 -「●●●」の欄に亡Aが丙の期間に勤務していた事業所である「D㈱」が記載されている。(乙8ないし10)b 原告のもとに,平成20年頃,社会保険庁から原告の舅(昭和41年死亡)に係る「ねんきん特別便」が送付されたものの,亡Aに係る「ねんきん特別便」は送付されなかった(原告本人。なお,亡Aに係る「ねんきん特別便」が送付されなかったことについては当事者間に争いがない。)。 ca社会保険事務所の担当者は,平成21年2月26日に,原告に対し,亡Aの2つの被保険者記録に係る記録照会回答票を交付した(甲11)。 d 亡Aに係る基礎年金番号は,平成21年5月19日より前には付されていなかった(前記前提事実)。 イ事実認定に関する検討(ア) 亡Aに係る年金記録の保管状況についてa 前記ア(ア) d 亡Aに係る基礎年金番号は,平成21年5月19日より前には付されていなかった(前記前提事実)。 イ事実認定に関する検討(ア) 亡Aに係る年金記録の保管状況についてa 前記ア(ア)cの経緯に照らせば,「ねんきん特別便」は,オンライン化されている年金記録を基礎年金番号に統合するために実施された施策であり,この統合によって遺族年金等の支給に影響があることを考えると,被保険者の生死の別にかかわらずオンライン化されている年金記録については全件送付の手続がとられたものと推認できる(現に昭和41年に死亡している原告の舅に係る「ねんきん特別便」は送付されている。)。そして,亡Aについて「ねんきん特別便」の送付がされていないことに照らせば,亡Aの記録は平成19年12月から平成20年10月までの時点でオンライン化されていなかったものと認めるのが相当である。 b 上記aの事実に加え,a社会保険事務所の担当者は,平成21年2月26日に,原告に対し,亡Aの2つの被保険者記録に係る記録 - 28 -照会回答票を交付したこと(前記ア(イ)c)に照らすと,上記aから平成21年2月26日までの間に,何らかの経緯によって亡Aの2つの被保険者記録がオンライン化された(コンピューターシステムに入力された)と認められる。しかし,誰が,いつ,どのような理由で亡Aの2つの被保険者記録のオンライン化の作業をしたかは不明である。 c 前記ア(ア)aによれば,被保険者名簿の記録は,被保険者資格を喪失した際に,社会保険業務センターに送付されることになっていた。 そうすると,亡Aが昭和54年9月30日にD株式会社を退職し,その際に厚生年金保険の被保険者資格を喪失したことを契機として,亡Aの丙の期間に係る被保険者記録が社会保険業務センターに送付され,その後その原 ると,亡Aが昭和54年9月30日にD株式会社を退職し,その際に厚生年金保険の被保険者資格を喪失したことを契機として,亡Aの丙の期間に係る被保険者記録が社会保険業務センターに送付され,その後その原簿はマイクロフィルム化されたと認めるのが相当である。 (イ) 亡Aの丙の期間の被保険者記録の検索可能性についてa社会保険事務所には,亡Aの丙の期間に係る年金手帳に関する年金手帳番号払出簿が備え付けられており,同払出簿の亡Aの欄には資格取得年月日,事業所の整理記号名「●●●92」が記載されている。また,同事務所に保存されている事業所番号等索引簿によれば,整理記号名「●●●92」の事業所名に対応する事業所の名称が記載されている。したがって,亡Aの丙の期間に係る年金手帳などにより,同期間の厚生年金保険の記号番号が判明しさえすれば,同事務所内で必要な簿冊を確認することによって,亡Aが昭和51年6月1日にD株式会社に就職したことにより厚生年金保険の被保険者資格を取得したことは確認することができる。しかしながら,亡Aが昭和54年9月30日にD株式会社を退職した後所要の手続を経て,亡Aの丙の期間に係る被保険者記録の原簿が社会保険業務センターに送付された後は,社会保険業務センターに対して照会をしなければ同 - 29 -期間の被保険者記録を発見することはできないが,逆に,そのような照会をすれば,同期間の被保険者記録を発見することはできたものと認めるのが相当である。 (ウ) 原告の供述の信用性等についての検討a 原告は,亡Aの死亡した年である昭和56年から平成21年2月26日までの間に数十回にわたり,a社会保険事務所を訪れ,亡Aに係る遺族年金の支給を受けたい旨述べた旨を主張し,陳述書(甲28)においては,原告が最初に社会保険事務所を訪れたのはおそ 平成21年2月26日までの間に数十回にわたり,a社会保険事務所を訪れ,亡Aに係る遺族年金の支給を受けたい旨述べた旨を主張し,陳述書(甲28)においては,原告が最初に社会保険事務所を訪れたのはおそらく昭和60年頃のことであった旨述べている。そして,原告は,その本人尋問において,要旨,(a) 原告は,遅くとも夫(亡A)が亡くなってから四,五年あるいは五,六年が経った頃,知人から遺族年金制度の存在を知り,遺族年金の申請を勧められたことから,亡Aの年金手帳(丙の期間,丁の期間に係るもの)を持参し,a社会保険事務所を訪れ,同手帳を提示し,亡Aの勤務先を伝えるなどして,亡Aの遺族年金を受給できないか相談したところ,同事務所の担当者から亡Aの年金記録は見当たらない旨の回答を受け,亡Aの遺族年金の裁定請求をしなかった,(b) 原告は,平成18年3月20日,姉の年金相談の付添いとしてb社会保険事務所を訪れた際に,同事務所の担当者から同事務所でもオンラインで年金記録を調べることができると言われたため,亡Aの年金記録の調査を依頼したが,同事務所の担当者からも亡Aの年金記録はない旨の回答を受けた,(c) 原告は,平成19年8月15日,姉と長男とともに,a社会保険事務所を訪れ,亡Aに係る遺族年金について相談したところ,同事務所の担当者から亡Aの年金記録はないとの回答を受けた,(d) 原告が,社会保険事務所で亡Aに係る遺族年金について相談したのは,上記(a)ないし(c)を含めて10回前後であり,また,原告が,社会保 - 30 -険事務所の職員から亡Aの年金記録を調べて後日連絡する旨を言われたことはなかった旨それぞれ供述している。 b 原告の上記a(a),(d)の供述を直接に裏付ける客観的な証拠はない。他方,原告の姉のEは,その陳述書(甲13)におい 録を調べて後日連絡する旨を言われたことはなかった旨それぞれ供述している。 b 原告の上記a(a),(d)の供述を直接に裏付ける客観的な証拠はない。他方,原告の姉のEは,その陳述書(甲13)において,平成18年3月20日のb社会保険事務所でのやりとりについて原告の上記a(b)の供述に沿う内容を陳述しており,同日に同事務所を訪れた根拠としてEの制度共通年金見込額照会回答票を上記陳述書に添付するほか,同人が同日に同事務所を訪れた際に聞いた内容を記載した書面(甲16)を提出している。また,原告の手帳(甲14)にも,原告が同日姉とb社会保険事務所を訪れたことが記載されている。次に,原告の上記a(c)の供述については,原告や姉のEが平成19年8月15日にa社会保険事務所から入手した制度共通年金見込額照会回答票(甲17)も存在している。このように,原告の上記a(b),(c)の供述については一定の裏付けがあるといえる。 これらからすると,原告は,上記a(b),(c)のとおり,時には姉や長男とともに社会保険事務所を訪れ,亡Aに係る遺族年金について問い合わせ,相談等をしていたにもかかわらず,同事務所の担当者からは亡Aの年金記録はない旨の回答を受けていたものと認めるのが相当である。そして,原告は,亡Aが死亡した昭和56年3月当時は,7歳の長男と5歳の二男をかかえ,八百屋でパートとして働き,母から援助を受けて生活していたような状況であり,また,その後も流し台を製造する工場でパートとして勤めるなどして,2人の子を育てていたものであって,かかる原告にとって亡Aに係る遺族年金の支給を受けることができるかどうかは,原告やその子らの生計を維持していく上でも大きな影響を及ぼすものであったということができる(甲28,原告本人)ことに加え,前記前提事実(4)の Aに係る遺族年金の支給を受けることができるかどうかは,原告やその子らの生計を維持していく上でも大きな影響を及ぼすものであったということができる(甲28,原告本人)ことに加え,前記前提事実(4)のとおり,平 - 31 -成21年5月19日には,亡Aの厚生年金保険被保険者記録として甲の期間ないし丁の期間の記録が確認できたとして,甲の期間及び乙の期間に係る厚生年金保険の手帳記号番号●●●●-●●●021と,丙の期間及び丁の期間に係る厚生年金保険の手帳記号番号●●●●-●●●826との重複取消処理(1つの記号番号に統合する処理。本件記録訂正)を行った上で,手帳記号番号●●●●-●●●021を基礎年金番号とする付番処理がされていることをもあわせ鑑みると,原告は,亡Aが死亡した後数年経ったころ,知人から遺族年金の話を聞き,原告についてもこれが支給されるのではないかとして,昭和60年頃から合計10回程度,亡Aの年金手帳(丙の期間,丁の期間に係るもの)を持参の上,a社会保険事務所を複数回訪問し,同事務所の担当者に同手帳を示して問い合わせるなどしたものの,同担当者からは,亡Aの年金記録は見当たらない旨の回答を受けていたとの,上記a(a),(d)の各供述内容も信用できるものというべきである。 c これに対し,被告は,原告が亡Aの年金手帳を持参して社会保険事務所を訪れたというのであれば,年金手帳の元となった年金記録が存在していることは明らかであり,少なくとも平成17年10月28日頃以降は本件取扱要領(乙22)に基づき,手帳記号番号を窓口装置に入力しても,必要な年金記録が判明しなかった場合には,さらに調査した上で,後日,回答するようにしていたと主張し,それに沿う職員の陳述書(乙25)を提出するなどした上で,社会保険事務所の相談窓口の職員が,単に ,必要な年金記録が判明しなかった場合には,さらに調査した上で,後日,回答するようにしていたと主張し,それに沿う職員の陳述書(乙25)を提出するなどした上で,社会保険事務所の相談窓口の職員が,単に「記録がない」と回答することは考えられず,原告の供述は信用することはできない旨主張する。 しかし,総務省によって,年金記録問題発生の経緯,原因や責任の所在等について調査・検討を行うために発足された年金記録問題検証委員会は,平成19年10月31日検証結果の報告書を公表し,年金 - 32 -記録問題発生の根本は厚生労働省及び社会保険庁の年金記録管理に関する基本的姿勢(国民の大切な年金に関する記録を正確に作成し,保管・管理するという組織全体としての使命感,国民の信任を受けて業務を行うという責任感が,厚生労働省及び社会保険庁に決定的に欠如していた。)にあるなどと指摘し,さらに問題発生の間接的要因として,三層構造に伴う問題(厚生労働省本省採用のⅠ種職員,本庁採用のⅡ種・Ⅲ種職員及び地方採用のⅡ種・Ⅲ種職員という三層構造が,ガバナンスの低下を招いた。),地方事務官制度の問題(昭和22年の地方事務官制度により,社会保険庁の地方に対する指導,監督及び管理が行き届いていなかった。)などと指摘している(甲30)。また,平成21年9月ころ,当時の厚生労働大臣は,標準報酬月額が改ざんされた可能性の高い記録が約6万9000件存在することを明らかにし,年金記録問題拡大作業委員会は,年金記録の改ざんの多くは,現場職員により保険料滞納整理のためになされたものであるなどと明らかにしている(甲30)。このような社会保険庁ないし社会保険事務所における法令遵守の状況等に照らすと,被告が主張し,社会保険事務所の担当職員が陳述書(乙25)で説明するような手順に沿った事務が的 らかにしている(甲30)。このような社会保険庁ないし社会保険事務所における法令遵守の状況等に照らすと,被告が主張し,社会保険事務所の担当職員が陳述書(乙25)で説明するような手順に沿った事務が的確に行われていたかについては疑問を差し挟まざるを得ず,被告の上記主張は採るを得ない。 なお,被告は,原告の年金相談の際に,何らかの誤解や行き違いが原因となって亡Aの年金記録を確認できなかった可能性は否定できない旨を主張する。しかし,原告は,亡Aの遺族年金の相談のため丙の期間,丁の期間に係る亡Aの年金手帳を提示したというのであるから,前記で検討したとおり,社会保険事務所の担当者が関係する簿冊を調査し,社会保険業務センターに照会すれば亡Aの年金記録を確認することができたのであって,被告が主張するような誤解や行き違いが - 33 -原因で亡Aの年金記録が確認できなかったとは考え難い。 このほか,被告は,平成21年2月26日に,原告が何ら請求をしていないにもかかわらず,a社会保険事務所の担当者から亡Aの年金記録が提示されたのは不自然であると主張する。この点,同担当者が同年金記録を無言で原告に差し出した(原告本人)ものとはたやすく措信できず,上記の際に具体的にいかなるやりとりが存したかは判然としないものの,原告が同日にa社会保険事務所を訪れた際,亡Aに係る年金記録として,甲の期間及び乙の期間に係る年金記録と,丙の期間及び丁の期間に係る年金記録が同事務所の担当者から原告に交付されたものであることは明らかである(甲11,原告本人)上,上記のとおり,原告がそれまで時には姉や長男と共に社会保険事務所を訪問し,亡Aの遺族年金の問い合わせをしていたことをも勘案すると,上記被告の指摘する点は,上記bの認定を何ら左右するものではない。 ウ消滅時効の主張 がそれまで時には姉や長男と共に社会保険事務所を訪問し,亡Aの遺族年金の問い合わせをしていたことをも勘案すると,上記被告の指摘する点は,上記bの認定を何ら左右するものではない。 ウ消滅時効の主張が信義則に反するか。 (ア) 会計法31条1項後段が国に対する権利で金銭の給付を目的とするものの時効消滅につき国による援用を要しないこととしたのは,上記権利については,その性質上,法令に従い適正かつ画一的にこれを処理することが,国の事務処理上の便宜及び平等的取扱いの理念に資することから,時効援用の制度(民法145条)を適用する必要がないと判断されたことによるものと解される。このような趣旨に鑑みると,国に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反し許されないとされる場合は,極めて限定されるものというべきである。 しかしながら,国は,その負担する債務の履行を,信義に従い,誠実に行う必要があることはいうまでもないところであり,国が,国民の重要な権利に関し,違法な取扱いをし,その行使を著しく困 - 34 -難にさせた結果,これを消滅時効にかからせたという極めて例外的な場合においては,上記のような便宜を与える基礎を欠くといわざるを得ず,また,国による時効の主張を許さないこととしても,国民の平等的取扱いの理念に反するとは解されず,かつ,その事務処理に格別の支障を与えるとも考え難いから,そのような場合には,国が消滅時効の主張をすることは信義則に反し許されないものというべきである。 (イ) これを本件についてみるに,遺族年金の支給を受ける権利は,当該受給権者が生計を維持していく上でも非常に重要な権利であって,現に原告にとっても,亡Aの遺族年金の支給を受けられるか否かが原告自身や2人の子らの生計を維持していく上でも大きな影響を及ぼすものであっ 受給権者が生計を維持していく上でも非常に重要な権利であって,現に原告にとっても,亡Aの遺族年金の支給を受けられるか否かが原告自身や2人の子らの生計を維持していく上でも大きな影響を及ぼすものであったということができることは,上記イ(ウ)bで説示したとおりである。これに対し,原告が訪れ,亡Aの遺族年金に関して問い合わせや相談等を行った社会保険事務所(主としてa社会保険事務所)の各担当者は,それぞれその業務として,十分な事情聴取を行った上で,必要な簿冊を確認し,あるいは,社会保険業務センターに照会するなどして,年金記録の所在調査等を行う必要があったものであり,上記イのとおり,原告は,亡Aに係る丙の期間,丁の期間の年金手帳を持参し,上記各担当者にこれを提示していたものであるから,適切な調査を行っておれば,亡Aの年金記録は発見された蓋然性が高いものといえる。これに対し,原告が10回程度も社会保険事務所を訪れ,同様の問い合わせや相談を行ったにも関わらず,同事務所の各担当者からはその都度,亡Aに係る年金記録は見当たらないとの回答を受けていたものであって,これは単に一担当者による不適切な取扱いを超えた社会保険事務所の組織全体により繰り返しされた不適切な取扱いと評価できるものであり,そ - 35 -の結果,原告が平成21年2月26日にa社会保険事務所を訪れた際に亡Aに係る年金記録の存在が明らかにされ,その後,同年5月19日に本件記録訂正がされ,同年6月30日に本件裁定請求をするまでの間,原告が,亡Aに係る遺族年金について裁定請求を行うことは極めて困難であったというほかない。そして,本件不支給部分は,昭和56年4月分から平成16年3月分までという23年間もの長期間に及ぶものである。 これらからすれば,被告は,原告の重要な権利に関し, 困難であったというほかない。そして,本件不支給部分は,昭和56年4月分から平成16年3月分までという23年間もの長期間に及ぶものである。 これらからすれば,被告は,原告の重要な権利に関し,違法な取扱いをし,その行使を著しく困難にさせた結果,これを消滅時効にかからせたという極めて例外的な場合に当たるものといえるのであって,本件不支給部分に係る亡Aの遺族年金の支払請求に対し,被告が消滅時効の主張を行うことは,信義則に反し許されないものと解するのが相当である。 エ遅延損害金の起算点について原告は,遅延損害金の起算点につき各支分権の支払期日の末日であると主張する。しかし,旧厚年法の遺族年金の支分権は,社会保険庁長官の裁定を受けるまでは行使することができないから,その裁定時までは支分権の履行遅滞とはならないと解される。 そして,社会保険庁長官は,平成21年9月3日,本件裁定請求に対し,遺族年金の裁定(本件裁定)をしたのであるから,厚生年金保険法36条3項の規定を適用すると,本件裁定後の同年10月31日の経過をもって本件不支給部分につき履行遅滞に陥ったというべきである。 オ小括したがって,原告の第1次予備的請求は,別表2の年金額の合計2199万7508円及びこれに対する平成21年11月1日から支払 - 36 -済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 3 争点(3)(国家賠償請求の当否(第2次予備的請求関係))について原告は,第2次予備的請求として,消滅時効が完成していることを前提とする国家賠償請求をするところ,原告による本件不支給部分に係る亡Aの遺族年金の支払請求(第1次予備的請求)について,被告による時効の主張が信義則に反するものとして認められる 完成していることを前提とする国家賠償請求をするところ,原告による本件不支給部分に係る亡Aの遺族年金の支払請求(第1次予備的請求)について,被告による時効の主張が信義則に反するものとして認められるべきことは,前記2のとおりである(なお,その額及び遅延損害金の起算日については,同認定のとおりとなる。)から,消滅時効の完成を前提とする国家賠償請求は,その前提を欠くものであって,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 4 よって,原告の主位的請求は理由がないから棄却し,原告の第1次予備的請求(遺族年金の支払請求)は被告に対し2199万7508円及びこれに対する平成21年11月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから同限度で認容し,その余は理由がないから棄却し,原告の第2次予備的請求(国家賠償請求)は理由がないから棄却することとして,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言の申立てについては,その必要がないものと認め,付さないこととする。 大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官田中健治 - 37 - 裁判官木村朱子 裁判官尾河吉久は,転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官田中健治
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