平成14(ネ)236 売買不成立等確認請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成14年10月31日 福岡高等裁判所
ファイル
hanrei-pdf-4171.txt

判決文本文6,118 文字)

主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨主文同旨第2 被控訴人の請求 1 主位的請求別紙株式目録記載の株式について,控訴人が被控訴人にした平成13年6月5日付売渡請求に基づく,被控訴人と控訴人との間の売買契約が存在しないことを確認する。 2 予備的請求別紙株式目録記載の株式について,控訴人が被控訴人にした平成13年6月5日付売渡請求に基づく,被控訴人と控訴人との間の売買契約が無効であることを確認する。 第3 事案の概要 1 本件は,控訴人が商法204条の3により買い受けたと主張する別紙株式目録記載の株式(以下「本件株式」という。)に関し,被控訴人が,主位的に売買契約の不存在確認,予備的に売買契約の無効確認を求めている事案である。 原判決は,被控訴人の主位的請求を認めたので,控訴人が控訴を申し立てている。 2 基本的事実関係(1) 株式会社I(以下「本件会社」という。)は,木材の委託販売,生産加工等を目的とする発行済株式総数2400株の株式会社である(甲1)。本件会社は,定款第8条2項において,その株式を譲渡するには取締役会の承認を要すると定めている(甲2)。 (2) 本件会社の株式は,Aが576株,被控訴人(Aの妻)が96株(本件株式),B(Aの子)が284株,C(Aの子)が244株を保有し,控訴人が588株,D(控訴人の妻)が96株,E(控訴人の子)が396株,F(Eの妻)が60株,G(Eの子)が60株を保有していた(甲3)。 (3) 被控訴人,A,B及びCは,平成13年5月15日,本件会社に対し,各書面をもって,自己の保有する株式をHに譲渡することの承認及びその譲渡を承認しない場合には譲渡の相手 保有していた(甲3)。 (3) 被控訴人,A,B及びCは,平成13年5月15日,本件会社に対し,各書面をもって,自己の保有する株式をHに譲渡することの承認及びその譲渡を承認しない場合には譲渡の相手方を指定するよう請求(以下「譲渡承認等請求」という。)した(甲7の1ないし4)。 (4) 本件会社の取締役会は,平成13年5月25日,上記承認請求のうち,被控訴人に対し,その譲渡を承認せず(乙4),同月30日,譲渡の相手方として控訴人を指定した旨を通知し(甲8),その余の承認請求については法定の期間内に不承認の通知をしなかった。 (5) 被控訴人は,本件会社に対し,同年6月1日付書面をもって前記の譲渡承認等請求を取り下げる旨通知した(甲11)。 (6) 控訴人は,平成13年6月1日,商法204条の3第2項の規定により算定された534万4608円を福岡法務局柳川支局に供託(平成13年度金第59号)するとともに(乙6),被控訴人に対し,同月5日到達の書面により,商法204条の3第1項の規定に基づき本件会社の株式96株の売渡を請求した(乙7の2,乙8,乙9)。 3 被控訴人の主張(1) 主位的請求関係① 被控訴人の譲渡承認等請求は,被控訴人,A,B及びC(以下,この4名を「J一族」ということがある。)が保有する株式全部について一括して譲渡承認あるいは相手方の指定を求める趣旨であり,譲渡承認あるいは相手方の指定を同一に行うことを条件としてなされたものである。したがって,本件会社取締役会が,被控訴人の譲渡承認等請求のみ承認しないで相手方を指定することは許されず,その効力は認められない。控訴人が被控訴人にした売渡請求は,本件会社の効力を有しない相手方の指定に基づくものであり,効力はないから,本件株式の売買は成立していない。 ② 被控訴人は,平成13年6 ず,その効力は認められない。控訴人が被控訴人にした売渡請求は,本件会社の効力を有しない相手方の指定に基づくものであり,効力はないから,本件株式の売買は成立していない。 ② 被控訴人は,平成13年6月1日付け書面により譲渡承認等請求を取り下げたから,本件株式の売買は成立していない。 (2) 予備的請求関係被控訴人は,J一族の保有株と一括して譲渡承認等請求したのであり,被控訴人が保有する本件株式だけの譲渡承認等請求をしたものではない。この事情は,控訴人も十分に認識し,あるいは,認識可能であった。したがって,仮に,控訴人の売渡請求により,被控訴人と控訴人との間に売買が成立するとすれば,被控訴人の意思表示には錯誤があるので,民法95条により売買は無効である。 4 控訴人の主張(1) 被控訴人の主張は争う。 (2)① 被控訴人が主張する,譲渡承認あるいは相手方の指定を同一に行うことを条件とした譲渡承認等請求は,法の趣旨に反し許されない。すなわち,商法204条の2第1項は,譲渡承認等請求は書面をもってなす要式行為であるとし,記載内容も明定されており,条件に関する記載はなく,余事記載を許す条項もない。また,商法204条の4第1項は,裁判所に請求できる事項を「売買価格の決定」としている。加えて,被指定者の売渡請求権は,法定売買を一方的に成立させる形成権であることを総合すると,法は,譲渡承認等請求に条件を付すことは予定していないというべきである。 また,被控訴人は,被控訴人らの譲渡承認等請求は一括して譲渡承認あるいは相手方の指定を求める趣旨であると主張するが,請求書の形式及び記載内容からしても,そのような趣旨を読みとることはできない。本件請求の形式は,それぞれ独立個別の請求である。 ② 被控訴人は,譲渡承認等請求を取り下げた旨主張するが,立法の するが,請求書の形式及び記載内容からしても,そのような趣旨を読みとることはできない。本件請求の形式は,それぞれ独立個別の請求である。 ② 被控訴人は,譲渡承認等請求を取り下げた旨主張するが,立法の趣旨,民法521条1項の規定等を勘案すると,譲渡承認等請求は,会社が同請求を受理した後は,取り下げることができない,少なくとも,会社が譲渡の相手方を指定するか,指定通知が請求人に到達した後は取り下げることができないものである。 本件において,譲渡の相手方は,平成13年5月25日取締役会により控訴人と指定され,この通知は,同月30日に被控訴人に到達しているところ,被控訴人は平成13年6月1日付けで取下通知をしているから,取下の効力は生じない。 (3) 被控訴人は錯誤無効を主張するが,一括譲渡承認等請求をしたつもりが,結果はそうでなかったというのであり,動機の錯誤に過ぎず,その動機は何ら表示されていないから,錯誤無効の主張は理由がない。 5 本件の争点(1) 本件会社取締役会の被控訴人に対する譲渡不承認及び譲渡の相手方指定の効力の有無(2) 被控訴人の譲渡承認等請求の取下の効力の有無(3) 錯誤無効の成否第4 当裁判所の判断 1 主位的請求について(1) 争点(1)について証拠(甲3,4,同5ないし6の各1,2,7の1ないし4,乙3の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,本件会社は,昭和35年3月4日,控訴人と,その従兄弟にあり,被控訴人の夫であるAと控訴人とが中心となって設立されたものであり,株主構成は,被控訴人側と控訴人側が平等の割合とされてきた。しかしながら,本件会社の運営につき,控訴人側が中心となって行われるようになったことから,J一族は,保有する株式の買取りを控訴人に求めるようになり,平成10年9月9日付け書面(甲4) とされてきた。しかしながら,本件会社の運営につき,控訴人側が中心となって行われるようになったことから,J一族は,保有する株式の買取りを控訴人に求めるようになり,平成10年9月9日付け書面(甲4)をもって,控訴人の買取意思を確認したところ,控訴人が買い取る意向を示したので交渉をしたが(甲5の1),買取価格の調整が付かなかったこと(甲5の2),さらに,J一族は,平成11年12月8日,柳川簡易裁判所において,控訴人を相手方として調停を申し立て(甲6の1),保有する株式全部の買取りを求めたが,買取価格の調整が付かず,平成12年4月10日不調となったこと,被控訴人を含めたJ一族がした各譲渡承認等請求は,同一日付けで行われたが(甲7の1ないし4,乙3の1ないし4),これらの書面には,「被控訴人らが一括して譲渡承認あるいは相手方の指定を求める趣旨であり,譲渡承認あるいは相手方の指定を同一に行うことを条件としている」ことは記載されていなかったことが認められる。 前記認定の事実及び前記第3の1の基本的事実関係を基に検討するに,本件におけるJ一族の各譲渡承認等請求は,譲渡承認等請求の主体が異なる上,譲渡承認等請求書には,被控訴人らが一括して譲渡承認あるいは相手方の指定を求める趣旨であることや譲渡承認あるいは相手方の指定を同一に行うことを条件としていることは記載されていなかったのであるから,各譲渡承認等請求における譲渡の相手方が同一であったからといって,これを不可分と解することは困難である。また,J一族がその保有する株式全部の買取を控訴人に求めたことが過去にあったからといって,J一族の各譲渡承認等請求が不可分で一括されたものであると断定することはできない。そして,仮に,株式の譲渡承認等請求における譲渡の相手方とされた者が,株式の過半数を取 とが過去にあったからといって,J一族の各譲渡承認等請求が不可分で一括されたものであると断定することはできない。そして,仮に,株式の譲渡承認等請求における譲渡の相手方とされた者が,株式の過半数を取得する意図を有していたとしても,そのことから直ちに各譲渡承認等請求が不可分で一括されたものになるとは考えられない。 そして,閉鎖的会社では,株主の個性が重要であることから,会社にとって好ましくない者が株主になることを阻止したり,株主の持株数をコントロールすることができるようにするため,商法204条1項ただし書により,株式会社は,定款において,株式の譲渡について取締役会の承認を必要とするという制限を定めることができるとされているのであるから,その趣旨からすると,本件のような場合,複数人からの同一人に対する譲渡承認等請求につき,特定人の持株数が過半数にならないように一部の株主からの譲渡承認等請求につき不承認とすることは許されてしかるべきであり,J一族の各譲渡承認等請求につき,被控訴人の株式の譲渡承認等請求のみを承認せず,譲渡の相手方として控訴人を指定した取締役会決議が効力がないということはできない。 したがって,この点に関する被控訴人の主張は理由がない。 (2) 争点(2)について本件会社が被控訴人の譲渡承認等請求を承認せず,譲渡の相手方を指定したのに対し(平成13年5月30日被控訴人に通知到達),被控訴人は,平成13年6月1日譲渡承認等請求を取り下げる旨の通知をしていることは前記認定のとおりである。 ところで,商法204条の2第1項の譲渡承認請求及び譲渡の相手方の指定請求のうち,後者は実質的には株式の売却の申込みに当たり,被指定者の売渡請求は(商法204条の3第1項),これに対する承諾に当たると解される。そして,会社 第1項の譲渡承認請求及び譲渡の相手方の指定請求のうち,後者は実質的には株式の売却の申込みに当たり,被指定者の売渡請求は(商法204条の3第1項),これに対する承諾に当たると解される。そして,会社は,譲渡承認等請求を受けてから譲渡承認又は不承認及び被指定者の通知を請求の日から2週間以内にすることを要し(商法204条の2第2項,3項),被指定者は,会社の譲渡の相手方指定の通知が株主に対してされた日から10日以内に株主に対し売渡請求をすることができ(商法204条の3第1項),これらの期間を徒過したときはいずれも株主がさきに譲渡の承認を求めた相手方に対する株式の譲渡につき取締役会の承認があったものとみなされるなど(商法204条の2第4項,204条の3第3項),会社の株式譲渡承認等請求についての応答期間や被指定者の株主に対する売渡請求権の行使期間が厳格に法定されていること,通常承諾期間を定めてした契約の申込みは取消(撤回)することができないこと(民法521条1項),承諾期間を定めなかった契約の申込みの場合,相当の期間は撤回できないこと(民法524条)等からすると,株式の譲渡承認等請求の手続において,被指定者は,会社の譲渡の相手方指定の通知が株主に対してされた日から10日以内に株主に対して売渡請求ができる旨の商法204条の3第1項の規定は,被指定者に売渡請求権を行使するかどうかの考慮期間を付与する趣旨であると解される。そうすると,譲渡の相手方と指定された者が売渡請求権を行使できるまでの間は,譲渡承認等請求をした者は,株式売却の申込みをしたのと同様の拘束力を受け,これを取り下げたり,撤回したりすることはできないと解すべきである。 したがって,本件において,本件会社が譲渡の相手方の指定をした後に行われた被控訴人の譲渡承認等請求の取下は,効力を生 束力を受け,これを取り下げたり,撤回したりすることはできないと解すべきである。 したがって,本件において,本件会社が譲渡の相手方の指定をした後に行われた被控訴人の譲渡承認等請求の取下は,効力を生じないから,この点に関する被控訴人の主張は理由がない。 (3) そうすると,本件では,本件株式の売買は有効に成立しているから,被控訴人の主位的請求は理由がない。 2 予備的請求について前記1(2)で認定したとおり,被控訴人を含めたJ一族がした各譲渡承認等請求は,同一日付けで行われたが,これらの書面には,被控訴人らが一括して譲渡承認あるいは相手方の指定を求める趣旨であり,譲渡承認あるいは相手方の指定を同一に行うことを条件としていることは記載されていなかったことに照らすと,仮に,被控訴人らが内心において本件株式の譲渡承認等請求について一括して譲渡承認あるいは相手方の指定を求める意思であり,譲渡承認あるいは相手方の指定を同一に行うことを条件とする意思であったとしても,その意思内容は,各譲渡承認等請求をした動機に過ぎず,かつ,本件においてはその動機が表示されているとはいえないから,被控訴人に要素の錯誤があったということはできない。したがって,この点に関する被控訴人の主張も理由がない。 3 よって,被控訴人の請求は,いずれも理由がないから棄却すべきところ,これと異なり,被控訴人の主位的請求を認容した原判決は不当であり,取消を免れない。 福岡高等裁判所第1民事部裁判長裁判官宮良允通裁判官藤本久俊裁判官野島秀夫 (別紙株式目録省略) 俊裁判官 野島秀夫 (別紙株式目録省略)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る