令和4年第71号公職選挙法違反被告事件主文被告人を罰金30万円に処する。 その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和3年10月31日施行の第49回衆議院議員総選挙に際し、小選挙区選出議員選挙奈良県第1区の候補者及び近畿選挙区における比例代表選出議員選挙の衆議院名簿登載者として届け出る予定であった候補者であるが、自己が当選する目的で、いまだ候補者の届出及び衆議院名簿の届出のない同月14日、奈良市所在のa ビルにおいて、日本郵便株式会社b 郵便局の従業員に集荷させる方法により、奈良市内35か所に宛てて、「私たちの同窓であるc 君がd 衆議院奈良県第1選挙区支部長に選ばれて、今秋の解散、総選挙に向けて政治活動を続けております。」、「つきましては、是非、e 大学校友の皆様方におかれましても、c’君への支援の輪を広げて頂きたく、本書をもってお願い申し上げます。」等と記載した文書、「奈良市、生駒市内において、c とf 知事との2連ポスターを掲示する活動を続けています。 今年秋、衆議院選挙が終わるまででも結構です。」、「衆議院奈良1区は、奈良市と生駒市が選挙区です。何卒お力添えの程を宜しくお願い申し上げます。」等と記載した「ポスターのお願い」と題する文書、「選挙区は、『c』、比例区は『d』とお書き下さい。」等と記載して被告人の写真等を掲載したはがき、「例 c’さんへぜひ一票をお願いします。」、「ご署名とメッセージをお願いします。」等と記載した「『選挙はがき』ご協力のお願い」と題する文書等在中の封書合計35通を発送し、その頃、これらを前記35か所にそれぞれ到達させ、もって法定外選挙運動 「ご署名とメッセージをお願いします。」等と記載した「『選挙はがき』ご協力のお願い」と題する文書等在中の封書合計35通を発送し、その頃、これらを前記35か所にそれぞれ到達させ、もって法定外選挙運動用文書を頒布するとともに、候補者の届出前かつ衆議院名簿の届出前の選挙活動をしたものである。 第1 争点等 1 被告人が、判示日時場所において、35か所に宛てて、公訴事実記載の封書(以下「本件封書」という。)合計35通を発送し、これらが上記35か所にそれぞれ到達したことについては、当事者間に争いがなく、関係各証拠から明らかである。 2 本件で公訴事実に掲げられているのは、「事前運動(の禁止)」と⒝「法定外選挙運動用文書の頒布(の禁止)」の2点である。 まず、「事前運動(の禁止)」についてみると、本件封書の送付行為が、「選挙運動」が許容される候補者の届出及び衆議院名簿の届出よりも前に行われたことは明らかであるところ、本件封書の送付行為が「選挙運動」(公職選挙法〔以下「法」という。〕129条)に該当するか否かが問題となる。 そして、仮に本件封書の送付行為が「選挙運動」(法129条)に該当するならば、本件封書に在中していた各文書(下記第2の2⑵の①のはがき、②の文書、③の封筒、④の挨拶文、⑤の文書、⑥の機関紙)は選挙運動のために使用されたものということになるところ、これらが法142条1項1号が選挙運動のために使用を許容している文書に該当しないことは明らかであるから、当然に「法定外選挙運動用文書の頒布(の禁止)」にも該当することとなる。 そうすると、本件における客観面に関する争点は、本件封書の送付行為が「選挙運動」(法129条)に該当するか否かの1点に集約され 然に「法定外選挙運動用文書の頒布(の禁止)」にも該当することとなる。 そうすると、本件における客観面に関する争点は、本件封書の送付行為が「選挙運動」(法129条)に該当するか否かの1点に集約されることとなる。 3 また、弁護人は、被告人には故意がなかった旨主張するところ、故意が認められるか否かが本件における主観面に関する争点となる。 4 以下、当裁判所が、本件封書の送付行為は「選挙運動」(法129条)に該当し、被告人には故意が認められるので、本件犯行は「事前運動(の禁止)」と⒝「法定外選挙運動用文書の頒布(の禁止)」に該当すると判断した理由について、補足して説明する。 第2 前提事実 関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 1 被告人は、g 高等学校を卒業し、e 大学法学部に進学して同大学を卒業し、昭和62年に司法試験に合格し、その後、h 弁護士会に弁護士登録をして活動していた。 被告人は、平成16年7月及び平成22年7月の参議院議員選挙に奈良県選挙区から立候補して当選し、当時のi 所属の参議院議員として2期にわたり国会議員を務めたが、平成28年7月に行われた参議院議員選挙に同選挙区から立候補するも落選した。その後、平成29年10月に行われた衆議院議員総選挙に奈良県第3区から立候補したが落選し、平成31年4月に行われた奈良県知事選にも立候補したが落選した。 被告人は、令和2年8月頃、d から衆議院議員総選挙に立候補することを表明し、同党の衆議院奈良県第1選挙区支部長に就任した。被告人は、令和3年10月14日の衆議院解散に伴い実施されることになった第49回衆議院議員総選挙(同月19日公示、同月31日施行)(以下「本件総選挙」という。) 議院奈良県第1選挙区支部長に就任した。被告人は、令和3年10月14日の衆議院解散に伴い実施されることになった第49回衆議院議員総選挙(同月19日公示、同月31日施行)(以下「本件総選挙」という。)に、d の公認候補として小選挙区は奈良市(旧都祁村の区域を除く)及び生駒市を選挙区とする奈良県第1区、比例区は近畿選挙区にそれぞれ立候補したところ、小選挙区では落選したが、比例区で当選した。 2⑴ 被告人は、被告人の出身校であるe 大学の同窓会組織であるe 大学校友会(以下「e’校友会」という。)が発行した、e 大学の卒業生の氏名、住所等が掲載された平成13年版のe 大学校友名簿(以下、「e’校友名簿」という。)を入手し、平成26年頃、e’校友名簿の中から、住所を奈良県内とする者約8715名分の氏名、住所等を宛名印刷ソフトの住所録データとして電子データ化した(以下、当該データを「e’名簿」という。)。 ⑵ e’名簿のうち、奈良市在住の2441名(本件公訴事実記載の被送付者35名はこれに含まれる。)につき、令和3年10月14日、被告人の選挙事務作業所から本件封書が発送された。本件封書の内容は、「j 法律事務所」の 名称等が記載された封筒に、①選挙運動用通常はがき(以下「選挙はがき」という。)2枚(以下「①のはがき」という。)、②「『選挙はがき』ご協力のお願い」と題する文書1枚(以下「②の文書」という。)、③「c 事務所行」の返信用封筒1通(以下「③の封筒」という。)、④「e 大学校友の皆様」で始まる挨拶文1通(以下「④の挨拶文」という。)、⑤「ポスターのお願い」と題する文書1枚(以下「⑤の文書」という。)、⑥「機関紙d 号外」と題する機関紙1通(以下「⑥の機 ④「e 大学校友の皆様」で始まる挨拶文1通(以下「④の挨拶文」という。)、⑤「ポスターのお願い」と題する文書1枚(以下「⑤の文書」という。)、⑥「機関紙d 号外」と題する機関紙1通(以下「⑥の機関紙」という。)(以上を併せて「本件文書等」という。)が同封されたものであった。 ①のはがきの内容は、表面に「あなたの1票で奈良県にd の国会議員が誕生します!」、「選挙区は『c』、比例区は『d』とお書き下さい。」、「c は、比例区にも重複立候補しています。」、「したがって、選挙区は『c』、比例区は『d』に投票して頂いたなら、奈良県にも必ずd の国会議員が誕生します。」などと記載され、d のf’副代表と共に、被告人の写真(上半身)が掲載されていた。また、同はがき表面下部には、「私も応援しています。」との記載とともに、メッセージを書き込める欄が設けられているものであった。なお、同はがき裏面には、被告人の政策とともに、下部には、「衆議院奈良県第1区 c」との記載とともに被告人の顔写真が掲載されていた。 ②の文書には、①のはがきの記載要領、取扱要領が記載されており、具体的には、「直接ポストへ投函しないで下さい。」、「ご記入後は、返信用封筒にてお送りください。」との記載があり、「はがき記入例」と題して、①のはがきに吹き出しを付けて「郵便番号は必ずご記入ください。奈良市か生駒市に在住の方をお願いします。」、「宛名は個人名をお書き下さい。」などといった記載に加え、下部のメッセージ欄には、吹き出しを付けて「ご署名とメッセージをお願いします。記載内容に制限はありません。」との記載とともに、「c’さんへぜひ一票をお願いします。当選一郎」との例文が記載されていた。 ③の封筒は、②の文書でいう返信用封筒である。 ません。」との記載とともに、「c’さんへぜひ一票をお願いします。当選一郎」との例文が記載されていた。 ③の封筒は、②の文書でいう返信用封筒である。 ④の挨拶文は、「c を支えるe’有志の会会長 k」名義の文書であり、「私たちの同窓であるc 君がd 衆議院奈良県第1選挙区支部長に選ばれて、今秋の解散、総選挙に向けて政治活動を続けております。」、「つきましては、ぜひ、e 大学校友の皆様方におかれましても、c’君への支援の輪を広げて頂きたく、本書をもってお願い申し上げます。」などと記載され、下部には被告人の略歴が記載されていた。 ⑤の文書は、表面に「奈良市、生駒市内において、c とf 知事との2連ポスターを掲示する活動を続けています。」、「今年秋、衆議院選挙が終わるまででも結構です。」などと記載され、裏面には「お願い」、「衆議院奈良1区は、奈良市と生駒市が選挙区です。」、「何卒お力添えの程を宜しくお願い申し上げます。」、「ご支援、ご協力頂ける方は、下記の□に✓して、FAXや郵便、電話、メールなどでご連絡をお願い致します。」などと記載されており、□が付いているところには、「ポスターを貼ってもいい。」、「ポスティング(ビラ配り)をする。」、「活動資金をカンパする」、「事務作業のボランティアができる。」、「奈良市、生駒市の友人、知人を紹介する。」、「『c を支える会』に入会する。」、「d の党員になる。」及び「ミニ集会を開催する。」との項目が挙げられていた。 ⑥の機関紙は、①のはがき表面と同様の写真が掲載されるとともに、「奈良県に『d の国会議員』を!」、「d は、衆議院奈良1区(奈良市、生駒市)の支部長に、c を選びました。」などと記載され、その下及び の機関紙は、①のはがき表面と同様の写真が掲載されるとともに、「奈良県に『d の国会議員』を!」、「d は、衆議院奈良1区(奈良市、生駒市)の支部長に、c を選びました。」などと記載され、その下及び裏面に①のはがき同様の被告人の政策が記載されていた。 3⑴ e’校友会は、e 大学、その系列の高等学校等を卒業すると自動的に構成員となるe 大学等の卒業生の親睦団体である。e 大学創立以来の会員数は49万人を超え、代議員約1500名からなる代議員会により、組織的な意思決定を行い、会長1名及び副会長6名からなる執行部並びに代議員から選出された常議員約70名を中心に運営される団体である。また、e’校友会の地域支 部として、奈良県e’倶楽部及び生駒支部があり、そのほか、奈良県内には、e’橿原倶楽部やg’奈良倶楽部がe 大学卒業生関係の団体として存在している。 e’校友会は、「会員相互の交誼を厚くし母校e 大学の隆盛を図ることをも目的とする」(e'校友会会則2条)ものであり、あくまでもe 大学等の卒業生の親睦を図ることを目的とした任意団体であり、特定の政治家や特定の宗教などを応援する組織ではない。e’校友会では、選挙に立候補した場合には、いわゆる為書を送り、当選した場合に祝電を送っていたことがあったが、それは儀礼的に出しているものであった。被告人は、本件選挙において、e’校友会から為書や祝電を送られたが、これは、e 大学等を卒業した立候補者全てに対してなされたものであった。 e’校友会では、平成13年版を最後にe’校友会名簿の発刊を行っていないが、e’校友会の役員名簿の発刊が続けらており、平成17年に個人情報保護規定を作成して以降は、役員名簿に目的外使用を禁止する e’校友会では、平成13年版を最後にe’校友会名簿の発刊を行っていないが、e’校友会の役員名簿の発刊が続けらており、平成17年に個人情報保護規定を作成して以降は、役員名簿に目的外使用を禁止する旨を明記していた2021年10月版の同名簿では、名簿の利用に関して「政治活動、宗教活動、営利活動など、この名簿を利用して、ダイレクトメールやその他広告・宣伝用の文書、物品の配布等を禁止します。」と明記された。 ⑵ 被告人のe 大学及びe’校友会とのかかわりは以下のとおりである。 被告人は、同大学卒業後も、同大学で司法試験受験研究会で後輩を指導したり、同大学法学部で講師を4年間ほどしており、同大学のゼミの卒業生の集まりにも参加していた。また、被告人は、e’校友会の代議員に参議院議員のときに選ばれたが、参議院議員に落選してから選ばれなくなり、令和3年に再び代議員に選ばれた。被告人は、奈良県e’倶楽部の会合やイベントには足しげく参加しており、e’校友との親交を温めていた。また、g 高等学校の卒業生の集まりであるg’奈良倶楽部の集まりにも参加していた。 4 被告人の整備した名簿について⑴ 被告人は、前記e’名簿とは別に、e’名簿作成よりも以前から、交友関係や 仕事で知り合った知人や自身の政治活動を支援してくれる者などを掲載した住所録を作成し、同住所録をデータ化した名簿(以下「c’名簿」という。)を作成・管理しており、e’名簿を作成した際には、c’名簿に既に掲載されていた者や、同名簿に転記した者を除いて、c’名簿とe’名簿の重複を避けてe’名簿を作成し、その後も適宜c’名簿に掲載されたe 大学等の卒業生について、e’名簿との重複を避けるように整理がなされてきた。 た者や、同名簿に転記した者を除いて、c’名簿とe’名簿の重複を避けてe’名簿を作成し、その後も適宜c’名簿に掲載されたe 大学等の卒業生について、e’名簿との重複を避けるように整理がなされてきた。 ⑵ c’名簿には、以前からの知り合いや、単に名刺交換をしたものも原則載せることとしており、i から立候補していた関係の労働組合の関係者なども含まれていた。c’名簿では、それぞれ個人ごとに「特A」、「A」及び標記なしに分けられており、「特A」は、平成28年の参議院議員通常選挙以降において、カンパや、ボランティアとして選挙活動を行ってくれた者など特に関係の深いものであり、「A」は、前記参議院議員通常選挙以降はカンパやボランティアなどの選挙活動をしていないが、それ以前に被告人に協力した者などの関係性の深い者であり、それ以外を標記なしとしていた。 c’名簿の掲載者に対しては、i 時代には、1年に1回サポーター募集の書面や活動報告、c を支える会の入会案内のリーフレットなどを同封して送付していた。 ⑶ 他方で、e’名簿については、その前身である平成13年版e’校友会名簿に基づいて、平成16年5月頃、被告人が初めて参議院議員に立候補した際に、c を支えるe’有志の会として、奈良県在住のe 大学卒業生に、被告人への支援をお願いする文書を送付した。 次に、被告人は、平成22年5月に、当時のe 大学前理事長l 氏を招いた講演会を企画し、その案内を奈良県内に住所のあるe 大学卒業生に送付した。 また、被告人、平成26年11月には、e’卒業生を対象に座談会を企画し、その案内を送った。 被告人は、平成28年5月には、e’出身で、m テレビ解説委員長であったn 氏 企画し、その案内を送った。 被告人は、平成28年5月には、e’出身で、m テレビ解説委員長であったn 氏を迎えた講演会を企画し、その案内を送った。 被告人が平成29年10月に行われた衆議院選挙に立候補した際には、e’名簿は使用しなかった。 平成31年3月に、被告人が、奈良県知事選に立候補した際には、e’名簿の掲載者に対して、選挙の公示後に選挙はがきを送付した。推薦人欄には「cを支えるe’有志の会」の判子を押していた。 5 本件総選挙においては、被告人は、c’名簿のうち、特Aに当たる奈良県在住の者に対して、選挙はがき5枚、説明文及び返信用封筒並びにボランティア・ポスターのお願いの文書等を送付し、特Aに当たる奈良県外に在住する者に対して、選挙はがき2枚、説明文及び返信用封筒並びにボランティア・ポスターのお願いの文書等を送付し、A及び標記なしの奈良市及び生駒市在住の者に対しても、選挙はがき2枚、説明文及び返信用封筒並びにボランティア・ポスターのお願いの文書等を送付した。また、支援が期待できるo 教関係者に対しても、選挙はがき2枚、説明文及び返信用封筒等を送付した。 第3 本件封書の送付行為が「選挙運動」(法129条)に該当するか否かについて1⑴ 法129条は、候補者の届出及び衆議院名簿の届出の前の「選挙運動」を禁止している。ここにおける、「選挙運動」とは、「特定の公職の選挙につき、特定の立候補者又は立候補予定者に当選を得させるため投票を得若しくは得させる目的をもつて、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をすることをいうものである。」と解される(最高裁第1小判昭和52年2月24日刑集31巻1号1頁参照)。 そし は得させる目的をもつて、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をすることをいうものである。」と解される(最高裁第1小判昭和52年2月24日刑集31巻1号1頁参照)。 そして、①のはがきには、「選挙区は『c』、比例区は『d』とお書きください。」「c は比例区にも重複立候補しています。」「したがって、選挙区は『c』、比例区は『d』に投票していただいたなら、奈良県にも必ずd の国会議員が 誕生します。」という文言があり、被送付者に対し、被告人の応援を求める文書が目に留まるものとなっているし、④の挨拶文及び⑤の文書が、被告人への応援をほのめかす内容のものとなっていることからすると、これらは一連の文書として、被送付者に応援を求める文書になっているといえる。以上の書類が送付されたのが、本件総選挙の公示5日前であり、被告人への投票を呼び掛ける意味合いが特に強い時期であるといえる。 ⑵ 他方で、選挙運動を選挙運動期間中に十全なものとするためには、その選挙運動の準備行為は必然的に選挙運動期間前に行われることになり、一見、前記の「選挙運動」に該当する文書に当たるとしても、これを選挙運動の準備行為として頒布することまで禁止したものではないと解すべきである。 そこで、本件文書等についてみると、①のはがきは、②の文書及び③の封筒と相まってみれば、選挙はがきに宛名及び推薦文を書いて被告人の事務所に送付することを求めるものであり、法定文書である選挙はがきの宛名書き、すなわち作成・準備行為といい得るものである。また、⑤の文書は、ポスターの掲示場所の依頼等を行っているもので、これも選挙運動の準備行為といえ、④の挨拶文及び⑥の機関紙とともに、被送付者の知人に選 、すなわち作成・準備行為といい得るものである。また、⑤の文書は、ポスターの掲示場所の依頼等を行っているもので、これも選挙運動の準備行為といえ、④の挨拶文及び⑥の機関紙とともに、被送付者の知人に選挙はがきが送付されるように宛名書きを依頼し、また、ポスターの掲示場所の提供、ボランティアやカンパ等の依頼を行うという選挙運動の準備行為ともみえる体裁を整えている。 しかしながら、被送付者と被告人との関係によっては、実質的に見て、選挙運動に該当し得る場合がある。 すなわち、本件封書の体裁は、被送付者が、被告人の立候補予定の選挙区内に居住する特定の知人に対し、被告人への投票を呼び掛ける旨の宛名書き等を依頼するものであるが、被送付者が被告人の支援者ではない者であった場合、支援者ではない被送付者が選挙はがきの宛名書き等を手伝う理由はなく、選挙はがきの宛名書き等の協力依頼は名目にすぎず、実質的には、被送 付者に対し、被告人に投票することを呼びかけるのと同様の効果を目的としたものといわざるを得ない。 ⑶ そうすると、本件封書の被送付者と被告人との関係、すなわち被送付者において、実質的に見て協力依頼が名目に過ぎないといえるか否か、被送付者と被告人との間に選挙運動の準備行為を期待し得る人的関係があったか否かについて、検討することが必要となる。 2 文書の送付先について⑴ 被告人において、e 大学卒業生が、選挙準備行為を期待し得る者といえるか前記のとおり、本件封書の被送付者は、e’名簿に掲載された者のうち、住所が奈良市として掲載され、かつ、c’名簿に掲載されることによって印刷除外設定がなされていなかった者である。e’名簿は平成13年版のe’校友会名簿を基礎として 者は、e’名簿に掲載された者のうち、住所が奈良市として掲載され、かつ、c’名簿に掲載されることによって印刷除外設定がなされていなかった者である。e’名簿は平成13年版のe’校友会名簿を基礎として作成されたものであり、e’校友会は、特定の政治家や特定の宗教などを応援する組織ではなく、2021年(令和3年)10月発行のe’校友会役員名簿には、「政治活動、宗教活動、営利活動など、この名簿を利用して、ダイレクトメールやその他広告・宣伝用の文書、物品の配布等を禁止します。」と明記されていたものである。 なるほど、被告人は、g 高等学校及びe 大学の関係者と積極的に交友を深めており、被告人の支援者にe’校友が多いという事情が認められるが、e 大学卒業生は、総数で49万人を超えており、被告人と全く接点がない者が大多数であるから、e’校友というだけで、被告人の選挙を手伝ってくれることを期待し得る者であるとはいい難い。特に、被告人は、e’名簿のほかにc’名簿を整備・管理しているところ、e’校友の集まりなどで名刺交換した者もe’名簿からc’名簿に移記することになっていたのであるから、e’名簿に掲載されている者は、単にe 大学卒業という共通点を除けば、被告人と全く接点のない者であったというほかない。 弁護人は、e 大学卒業生は同窓意識が強いので、同窓である被告人の応援が期待し得る集団である旨を主張する。一般に、同じ大学を卒業した者に対し親近感を持ち、応援したい気持ちを持つということはあり得ることではあるが、積極的な関与を要する選挙はがきの宛名書きやポスターの掲示までをも期待し得る集団であるとは到底いえない。 ⑵ 被告人が行った地盤培養行為についての検討 いうことはあり得ることではあるが、積極的な関与を要する選挙はがきの宛名書きやポスターの掲示までをも期待し得る集団であるとは到底いえない。 ⑵ 被告人が行った地盤培養行為についての検討次に、e 大学卒業生が被告人への支援を期待し得るものではないとしても、被告人からe’名簿掲載者に対し、政治活動に関する文書を送付して、支援者を広げる活動を行うという、いわゆる地盤培養行為を行ってきたことから、e’名簿掲載者が、地盤培養行為により被告人への支援を期待し得る集団に変化したかどうかも問題となる。 前記のとおり、被告人は、判明しているだけでも、平成16年5月頃、平成22年5月、平成26年11月、平成28年5月、平成31年3月の5回にかけて文書を送っており、その都度、死亡の連絡があった者、宛所尋ね当たらずで返送された者、送付を希望しない旨の連絡があった者については印刷除外設定を行い、次回から宛名印刷をして送付しないようにe’名簿を整備していた。他方で、支援を表明したり、講演会等の集まりに出席するなどの反応を示した者は、c’名簿に掲載することにし、e’名簿については印刷除外設定を行って、重複印刷を避けるようにしていた。 もっとも、文書の送付の回数は、平成16年から令和3年までの約18年間で確認できるものでこの程度であり、平成26年11月の座談会の案内の送付以外は、被告人が選挙を控えた時期になされているもので、自らの政治活動を日頃からアピールするための行動とはいい難いところである。また、p が被告人の事務所で勤務するようになった令和元年7月以降では、p はe’名簿の存在に令和3年5月頃まで気づいていなかったのであり、その間は、e’名簿に基づいて何らかの発送がなされなかったことも明らかである。しか 月以降では、p はe’名簿の存在に令和3年5月頃まで気づいていなかったのであり、その間は、e’名簿に基づいて何らかの発送がなされなかったことも明らかである。しか も、上記のとおり支援を期待できる者については、c’名簿に移行させて、e’名簿については印刷除外設定を行ってe’名簿に基づいては送付しないようにしていたのである。そうすると、本件の被送付者は、地盤培養行為によって支援が期待し得る集団であったとはいえない。 確かに、本件送付行為により、その趣旨に賛同して被告人の支援を申し出た者も一定程度存在するが、それが不特定多数に対する送付であっても一定数の支援が得られる場合もあるものと考えられ、実際に支援を申し出た者がいることが、e’名簿に掲載された被送付者らが支援を期待し得る集団であることの証とはいえない。本件で送付した者の中で、選挙はがきに宛名書きして被告人事務所へ返送してきた者は、10名から20名ぐらいにとどまるというのであり、発送総数2441名に占める割合からみてもごくわずかである。 ⑶ また、弁護人は、c’名簿とe’名簿に明確な優劣があったわけではない旨を主張する。確かに、c’名簿には、単に名刺交換をしただけの者や被告人が入手した何らかの名簿の掲載者も掲載されている。しかし、弁護人も主張するように、名簿に登録し、文書の送付をするなどしてさらに関係性を築くことによって支援が期待できる集団としての性格を帯びるものである。c’名簿に関しては、被告人がi に所属している頃には、サポーター募集のために1年に1回は文書の送付を行っていたというのであり、その後の活動については詳らかではないものの、e’名簿とは地盤培養行為という点で、有意な違いがあるというべ 属している頃には、サポーター募集のために1年に1回は文書の送付を行っていたというのであり、その後の活動については詳らかではないものの、e’名簿とは地盤培養行為という点で、有意な違いがあるというべきである。 さらに、弁護人は、e’名簿に掲載された人物と、c’名簿の特A以外の人、支援を期待できるo 教関係者へ送った選挙はがきの枚数が同じ2枚であることから、これらの者に対する被告人の依頼の仕方等に差はなく、いずれも支援を期待し得る人たちである旨を主張するが、送付したはがきの枚数が同じであっても、そのはがきを返送してくれる人がどれだけいるのかといった期待 が同じであるとはいえないから、送付したはがきの枚数が同じであることをもって、本件被送付者が、支援を期待できる人々であると基礎づけることができるものではない。 ⑷ 結論よって、本件送付行為は、立候補の準備行為、選挙運動の準備行為、政党の政治行為等に当たるものではなく、法129条にいう「選挙運動」に当たるものである。 第4 故意が認められるか否か 1 弁護人は、被告人には、投票を依頼する目的や投票を得ようとする目的はなく、故意はなかった旨主張する。 2⑴ 被告人が本件文書等の内容を明確に認識していたこと被告人は、q との打ち合わせを繰り返す中で、被告人が立候補する小選挙区及び比例区の双方に関して投票を依頼する趣旨を明確にしようと考え、qに対し、「選挙区は『c』、比例区は『d』とお書き下さい。」、「c は、比例区にも重複立候補しています。」、「したがって、選挙区は『c』、比例区は『d』に投票して頂いたなら、奈良1区にも必ずd の国会議員が誕生します!」と明示して記載するよう指示し、④の挨拶状 は、比例区にも重複立候補しています。」、「したがって、選挙区は『c』、比例区は『d』に投票して頂いたなら、奈良1区にも必ずd の国会議員が誕生します!」と明示して記載するよう指示し、④の挨拶状については、自ら起案して完成させており、被告人が本件文書等の内容を明確に認識していたことが認められる。 ⑵ 被告人がe’名簿の内容や本件文書等の頒布先がe’名簿に基づくことを明確に認識していたこと被告人は、かねてから、名簿管理を担当していたr らに対し、e’名簿とc’名簿の内容が重複しないように手入れすることを指示しており、座談会に出席するなどして被告人と関わりを有するに至った者をe’名簿からc’名簿に転記していたことを認識していた。 また、被告人は、令和3年6月25日、p に対し、e’名簿に関して、「これはあれやな。e’の校友会の名簿をそのままもらっただけ。」などと言って、e’ 校友名簿の内容を引き継いだものであることを確認した。 その上で、被告人は、本件犯行の準備段階にあった同年9月14日、本件文書等の発送先に関し、p に対し、「僕の知り合いのe’の人いてるやんか。それがこの2441に入っているの。」と尋ね、p から「知り合いの方はc’名簿ですよね。入っていませんよ。」と回答を受け、同月15日には、p に対し、「e’名簿が2441で」、「c’名簿のうちe’卒の人は(奈良市)82と(生駒市)12ね。」、「e’名簿は入らないね。」などと言ったことが認められる。 したがって、実際には若干の重複が認められるものの、被告人の認識としては、e’名簿の内容はもとより、本件文書等の頒布先について、公訴事実記載の35か所を含む、c’名簿に掲 とが認められる。 したがって、実際には若干の重複が認められるものの、被告人の認識としては、e’名簿の内容はもとより、本件文書等の頒布先について、公訴事実記載の35か所を含む、c’名簿に掲載された者が含まれていない2441名であると認識していたことが認められる。 ⑶ 頒布時期を明確に認識していたこと本件文書等の送付は、被告人の指示により、被告人が作成した工程表に基づいて行われたものであり、また、被告人は、送付後にはその旨報告を受けていたことが認められる。したがって、被告人が、本件文書等の発送が公示5日前であることを明確に認識していたことが認められる。 ⑷ このように、被告人は、本件文書等の内容、本件文書等の頒布先の属性、本件文書等の頒布時期に関して、いずれも明確に認識していたものであるから、事前運動及び法定外選挙運動用文書の頒布のいずれについても、被告人に故意が認められることは明らかである。 第5 憲法違反の主張について 1 弁護人は、法239条1項1号、129条が憲法違反である旨主張する。 法129条は、選挙運動の期間を定め、その期間より前に選挙運動を行うこと、いわゆる事前運動を禁止したものである。公職の選挙につき、常時選挙運動を行なうことを許した場合、その間、不当、無用な競争を招き、経費や労力がかさみ、経済力の差による不公平が生ずる結果ともなり、不正行為の増大を もたらし、ひいては選挙の腐敗をも招来するおそれがある。このような弊害を防止して、選挙の公正を確保するためには、選挙運動の期間を長期に亘らない相当の期間に限定し、かつ、その始期を一定して、各候補者が可能なかぎり同一の条件の下に選挙運動に従事し得ることとする必要がある 防止して、選挙の公正を確保するためには、選挙運動の期間を長期に亘らない相当の期間に限定し、かつ、その始期を一定して、各候補者が可能なかぎり同一の条件の下に選挙運動に従事し得ることとする必要がある。選挙運動をすることができる期間を規制し事前運動の禁止することは、まさに、上記の要請に応えようとする趣旨に出たものであって、憲法の保障する表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限である(最高裁判所昭和44年4月23日大法廷判決・刑集23巻4号235頁参照)。弁護人の法令違憲の主張は採用できない。 2 また、弁護人は、事前運動の禁止を、憲法に適合するように解釈するとすれば、限定的に解するほかなく、文字通り一般選挙人に対する訴えかけ、すなわち特定の選挙で自分ないし自党に投票してくれるようにと、一般不特定多数の人々に訴えかける活動に限られると解すべきである旨を主張するが、前記のとおり、e’名簿による本件文書頒布行為は、不特定多数の者に対する頒布行為と同視すべきものであるから、弁護人の主張は理由がない。 第6 結語以上の次第であって、判示事実が優に認定できる。 (量刑の理由)本件は、被告人が、第49回衆議院議員総選挙に際し、選挙運動期間前に35か所にわたって法定外選挙運動用文書を頒布した事案である。本件犯行は、民主主義・国民主権の根幹をなし、民意を正しく反映させるべき選挙制度の公正を害するものであり、被告人自らが整備した名簿の掲載に従い、挨拶文を用意するなどした計画的な犯行であるとともに、事務所職員の手を借りるなどして大規模に行われたもので、その態様は悪質である。もっとも、地盤培養行為が進んでいれば、選挙運動の準備行為として許容される余地もあったところであり、支持団体を持たない被告人の焦りからこのような行為に及んだものとも解され、この その態様は悪質である。もっとも、地盤培養行為が進んでいれば、選挙運動の準備行為として許容される余地もあったところであり、支持団体を持たない被告人の焦りからこのような行為に及んだものとも解され、この点は、酌むべき事情である。 これに、被告人の当選が無効となること、被告人に前科前歴がないことなどの事情を考慮して、主文のとおりの罰金刑に処することとした。(なお、以上の事情等に照らせば、公民権停止期間を短縮すべき情状は認められない。)(求刑-罰金30万円)令和5年1月20日奈良地方裁判所刑事部 裁判長裁判官澤田正彦 裁判官石川理紗 裁判官矢島佑一
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