平成2(行ウ)22 無申告加算税賦課処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成5年3月29日 神戸地方裁判所 租税
ファイル
hanrei-pdf-16478.txt

判決文本文16,060 文字)

○ 主文一原告らの請求をいずれも棄却する。 二訴訟費用は原告らの負担とする。 ○ 事実及び理由第一請求一被告が原告Aに対して昭和六三年七月二〇日付けでした昭和六一年七月一一日相続開始に係る相続税の無申告加算税の賦課決定処分を取り消す。 二被告が原告B、同C及び同Dの被相続人Eに対して昭和六三年七月二〇日付けでした昭和六一年七月一一日相続開始に係る相続税の無申告加算税の賦課決定処分を取り消す。 第二事案の概要本件は、被告が原告A及びEに対してした相続税の無申告加算税の賦課決定処分に対して、原告らが、原告A及びEにおいて申告書を提出しなかったことについて正当な理由があったと主張して、その取消しを求めた事案である。 一本件処分の存在等(当事者間に争いがない。) 1 原告A及びEは、いずれも被相続人Fの子であったが、Fが昭和六一年七月一一日に死亡したので、同人について相続(以下「本件相続」という。)が開始した。 なお、原告BはEの妻、同C及び同DはともにEと原告Bの子であったが、Eが平成二年七月一四日に死亡したので、原告B、同C及び同Dは、Eの地位を承継した。 2 原告A及びEは、相続開始の日から六か月を経過する昭和六二年一月一二日」までに本件相続に係る相続税について申告をしなければならなかった(相続税法二七条一項)が、右期限までに本件相続税の申告をしなかった。 3 被告は、原告A及びEに対し、相続税の期限後申告書の提出を勧めたが、同人らは、いずれもその期限後申告書を提出しなかった。そこで、被告は、昭和六三年七月二〇日付けで、原告Aに対し、相続税の課税価格を二六七三万五〇〇〇円、納付すべき税額を九五三万四四〇〇円とする相続税の決定及び無申告加算税の金額を九五万三〇〇〇円(納付すべき税額の一万円未満の端数を切り捨てた金額の一〇パー 、相続税の課税価格を二六七三万五〇〇〇円、納付すべき税額を九五三万四四〇〇円とする相続税の決定及び無申告加算税の金額を九五万三〇〇〇円(納付すべき税額の一万円未満の端数を切り捨てた金額の一〇パーセント相当額)とする加算税の賦課決定処分を、Eに対し、課税価格及び納付すべき税額を原告Aに対する決定処分の金額と同額とする相続税の決定処分及び無申告加算税の金額を原告Aに対する金額と同額とする加算税の賦課決定処分をそれぞれした(以下、右各処分のうち原告A及びEに対する無申告加算税の各賦課決定処分を併せて「本件処分」という。)。 4 原告A及びEは、昭和六三年九月二〇日、被告に対し、本件処分について異議の申立てをしたが、被告は、同年一二月二一日、右異議申立てを棄却する旨の決定をし、右決定の通知は同月二二日に原告A及びEに到達した。 5 原告A及びEは、平成元年一月二二日、国税不服審判所長に対して審査請求の申立てをしたが、右所長は、平成二年六月一二日、右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同裁決書の謄本は、同月二二日、原告A及びEに送達された。 二争点本件の主な争点は、原告A及びEが法定申告期限内に本件相続税の申告をしなかったことについて国税通則法六六条一項ただし書きに規定する正当な理由があると認められるかどうかである。原告ら及び被告は、この点について、それぞれ次のように主張する。 1 原告ら原告A及びEは、本件相続によって相続税の納税義務が生じたことを知り、納税申告書の作成及び提出の前提になる相続財産の内容を知るため、可能な限りの努力を払って相続財産の内容について調査を尽くしたが、次のような理由から期限内に相続財産の内容を知ることはできなかった。 (一) Fは、その夫のGと死別した昭和二〇年九月以降、その子である原告A、E及び両名の姉であるH(本件 について調査を尽くしたが、次のような理由から期限内に相続財産の内容を知ることはできなかった。 (一) Fは、その夫のGと死別した昭和二〇年九月以降、その子である原告A、E及び両名の姉であるH(本件相続に係る原告A及びEの共同相続人である。以下「H」という。)を婚家に残したまま実家に帰った。昭和三〇年ころ、Fの兄のIが死亡したため、Fは、市松の財産(この財産のうち残存しているものが本件相続の対象になった財産である。)を相続したが、Fから婚家に残されたままのA及びEは、Fが相続したこれらの財産の内容を知ることはできなかった。 (二) Hは、昭和三三年ころ、夫と離婚してFと同居するようになったが、Fの財産を独占しようと長期間にわたって画策するとともに、原告A及びEがHの同席なしにFと会うのを妨害し続けたので、原告A及びEは、Fからその財産の範囲を聴取する機会がなかった。 (三) Hは、Fの死亡後も、原告A及びEに対し、相続財産の内容を一貫して秘匿し、Fの四九日の法要に際しても、その形見分けをせず、相続財産の内容や遺言等についても知らせなかった。 (四) このようなHの対応のため、原告A及びEが遺産分割の調停(神戸家庭裁判所尼崎支部昭和六一年(家イ)第五〇四号遺産分割調停事件)を申し立てたが、Hは、申告書提出期限が経過するまでの間、相続財産の内容を明らかにすることを拒み続けた。 申告書提出期限が迫ってきたため、原告A及びEの代理人は、昭和六一年二月二六日、Hに対し、共同で申告書を提出するか、Hが単独で申告するならばHの申告書のコピーを事前に頂きたいという趣旨の申出をしたが、Hは、この申出を全く無視した。 (五) 原告Aは、相続財産中の不動産の調査のため、申告期限前に、芦屋市役所に赴いて、同原告がFの相続人の一人であることの資料を示して、同市役所備 趣旨の申出をしたが、Hは、この申出を全く無視した。 (五) 原告Aは、相続財産中の不動産の調査のため、申告期限前に、芦屋市役所に赴いて、同原告がFの相続人の一人であることの資料を示して、同市役所備付けのF名義の不動産についての土地課税台帳及び名寄等の閲覧を求めたが、担当職員は、Hの同意がないことを理由にその閲覧を拒否した。 (六) 原告A及びEは、前記調停において、昭和六二年九月四日付けで相続財産中の預貯金等の調査嘱託を神戸家庭裁判所尼崎支部に申し立て、これが採用された。そして、神戸家庭裁判所調査官Jがそれらを調査し、昭和六二年一二月二三日付け調査報告書を提出したが、それによっても相続財産の内容は不明のままであった。 このように、原告A及びEは、本件において、期限内に相続税の納税申告書を作成して提出するため、可能な限りの努力を払ってその前提となる相続財産の内容の調査を尽くしたにもかかわらず、Hの執拗な相続財産の秘匿及びその他の諸事情により、原告A及びE並びにその代理人はもちろん、家庭裁判所調査官の調査によっても相続財産の全貌を知ることができず、申告書の提出期限内には相続財産の内容のほとんど全てが原告らにとって判明していなかったのであるから、原告A及びEが法定期限内に申告書を提出できなかったのはやむを得ない事情があったということができる。 したがって、本件において、原告A及びEが納税申告書を提出しなかったことは、国税通則法六六条一項ただし書きに規定する「期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合」に該当する。 2 被告(一) 原告らが主張する事情は、要するに相続財産の内容の不知という単なる主観的なものにすぎないものであって、右事情をもって正当な理由とすることはできない。 (二) 原告らは、期限内において相続 告(一) 原告らが主張する事情は、要するに相続財産の内容の不知という単なる主観的なものにすぎないものであって、右事情をもって正当な理由とすることはできない。 (二) 原告らは、期限内において相続財産の全容を知ることができなかったと主張するが、原告A及びEは、法定申告期限内に相続財産の内容を全く知らなかったわけではなく、その一部(Fの自宅敷地、竹園旅館及び三和銀行への貸地並びに三和銀行への預金四口)については、Fの相続当時既にその存在を認識しており、自分たちが現に把握している一部の相続財産だけでも相続税の基礎控除額を優に超過しており、したがって、相続税の申告義務を免れるものではないことを容易に認識し得たものである。 ところで、相続税の申告は相続財産の全容を把握しなければすることができないものではなく、相続財産の一部でも認識し把握していれば、期限内に把握した限りで申告することは可能であり、かつ、そうすれば、無申告加算税を賦課されることもない。 そうすると、原告A及びEは、法定期限内に納税申告書を提出することが十分に可能であったといわなければならないから、原告A及びEが期限内に申告書を提出しなかったことにつき「正当な理由」があるとは到底認めることはできない。 (三) 原告らは、原告A及びEが可能な限りの努力を払って調査を尽くしたと主張するが、原告A及びEが申告期限内にした調査とは、Fと同居していた共同相続人のHから相続財産の内容を聞き出すために遺産分割の調停を申し立て、その手続の中でHに資料の提出を求めたことと、芦屋市役所に赴いていわゆる名寄帳の閲覧を求めたことの二つにすぎない。しかも、芦屋市においては共同相続人の同意がなくても固定資産課税台帳や名寄帳の閲覧をすることができるから、原告Aが本当に芦屋市役所まで赴いたか、名寄帳を閲覧するため有 を求めたことの二つにすぎない。しかも、芦屋市においては共同相続人の同意がなくても固定資産課税台帳や名寄帳の閲覧をすることができるから、原告Aが本当に芦屋市役所まで赴いたか、名寄帳を閲覧するため有効な申出をし適切に折衝を行ったかには疑問がある。また、原告Aは、Hからの資料提出を期待するだけで、Fの自宅敷地や竹園旅館及び三和銀行への貸地につき必要な調査もしていない。 このように、原告A及びEは、遺産分割について係争中の相手方からの情報提供に期待するという最もあてにならない手段にこだわる余り、自らの努力により独自の調査方法を採るという姿勢に欠けており、当時採ることが客観的に可能であり相当であった全ての調査手段を尽くしたとは認められないうえ、原告A及びEがした調査方法が相続財産を把握するのに有効適切であったとも認められず、その結果、期限内に相続財産の把握ができず申告書を提出できなかったからといって、「正当な理由」があると認めることは到底できない。 第三争点に対する判断一 「正当な理由」の意味について 1 相続税は、いわゆる申告納税方式による国税であり、納税義務の確定を第一次的には納税者の自主的な申告に委ねる原則をとっている(国税通則法一七条以下、相続税法二七条以下)。そして、納税者の自主的な申告に委ねた法の趣旨に反して、納税者が適正な申告をしない場合には、自主的な申告納税方式を維持するために、各種の加算税を課するものとしている(国税通則法六五条、六六条、六八条)。 2 しかし、納税者が適正な申告をしようとしてもそれをすることができなかったような場合には、適正な申告をしなかったとしても申告納税方式の制度が害されるおそれがないから納税者に制裁を課すのは相当でなく、また、そのような場合に制裁を課すのは納税者に不可能を強いることになり酷であるから、 には、適正な申告をしなかったとしても申告納税方式の制度が害されるおそれがないから納税者に制裁を課すのは相当でなく、また、そのような場合に制裁を課すのは納税者に不可能を強いることになり酷であるから、そのような場合には加算税を課さないものとしている。加算税を課さない趣旨が以上のようなものであることからすると、加算税を課さない「正当な理由」(無申告加算税については法六六条一項ただし書き。)とは、納税義務者の無申告加算税という行政上の制裁を課することを不当あるいは酷ならしめるような事情をいうものと解するのが相当である。 3 このような法の趣旨からすると、法の不知や課税範囲の誤信などの単なる申告義務者の主観的な事情がそれだけでここにいう「正当な理由」に当たらないことは、被告が主張するとおりである。 しかし、原告らは、単に相続財産の内容を知らなかったために申告書を提出することができなかったということを「正当な理由」と主張しているのではなく、原告A及びEが、他の共同相続人の種々の遺産隠しの行為や態度、さらには市役所、税務署などの不適切な対応等の客観的事情によって、Fの相続財産の内容を知ることができない立場に置かれるに至ったため、Fの遺産の全部の内容を知ることができず、申告書を提出をすることもできなかったということを「正当な理由」として主張しているのである。したがって、これらの主張を、単に原告A及びEの主観的な事情として排斥することはできず、原告が主張するこれらの事情が主観的なものであって「正当な理由」に当たらないという被告の主張は採用することはできない。 4 なお、無申告加算税は、納税者が法定期限内に申告書を提出しない場合に原則として課されるものであり、「正当な理由」が存在すると認められる場合、例外的に無申告加算税を課さないとするための要件であるから なお、無申告加算税は、納税者が法定期限内に申告書を提出しない場合に原則として課されるものであり、「正当な理由」が存在すると認められる場合、例外的に無申告加算税を課さないとするための要件であるから、加算税の申告を免れようとする納税義務者の側にそれが存在することの主張立証責任があると解するのが相当である。 二相続財産の全容を知ることができなければ申告書を提出することができないか否かについて 1 相続税法は、相続又は遺贈(以下、単に「相続等」という。)によって被相続人から財産を取得した全ての者の相続税の課税価格の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合で、その者の相続税の課税価格に係る相続税額(同法一五条ないし一九条、一九条の三ないし二一条)があるときに、相続等によって財産を取得した者に対し、申告書の提出義務を課している(同法二七条)。しかし、その相続人が遺産の全容を把握するまでこの義務が発生しないとか、全容が把握できない場合にこの義務を免除すると定めた規定は存在せず、また、前記申告書の提出義務を定めた条項の解釈としても、納税者による相続財産の全容の把握という不確実かつ主観的な事情によって申告書提出義務の発生又は消滅をもたらすような解釈をとることは相当でない。 2 また、相続税の申告書には課税価格、相続税額その他の事項を記載しなければならない(相続税法二七条一項)から、適正な相続税の申告のためには、相続財産の全容を正確に把握している必要があり、納税義務者はその把握のために努力すべきことはいうまでもない。しかし、申告後に相続税額に不足を生じたり過大になったりするような事態が判明した場合には修正申告又は更正請求をすることができる(国税通則法一九条、二三条、相続税法三一条、三二条)ものとされていることからすると、相当な努力を払ったにもかか 過大になったりするような事態が判明した場合には修正申告又は更正請求をすることができる(国税通則法一九条、二三条、相続税法三一条、三二条)ものとされていることからすると、相当な努力を払ったにもかかわらず法定申告期限内に相続財産の全容が把握できない場合に、とりあえず判明している相続財産の範囲内で相続税の申告をすることが禁止されるわけではなく、かえって、相続財産の全容が判明しない場合であっても、判明している範囲で相続税の申告をすることこそが予定されていると解するのが相当である。そして、このことは、納税者に判明し得た相続財産の価額が控除額(これ以下であれば申告義務はない)を超える場合であれば、その判明し得た相続財産が相続財産全体のどれくらいの割合を占めるかにかかわらず、基本的に妥当するというべきである。 3 このような申告さえしておけば、納税者は、少なくとも無申告加算税を賦課されることはない。また、申告までに判明していなかった相続財産が判明した場合にはそれについて修正申告書を提出すれば、更正を予知しない修正申告として(国税通則法六五条五項)過少申告加算税を課されることもなく、そうでなくても、申告した税額の計算の基礎とされなかった部分について、計算の基礎にしなかったことに「正当な理由」があれば、やはり過少申告加算税は賦課されない(同法六五条四項)のである。このように、やむを得ない理由によって相続財産の全容が判明しない場合、とりあえず判明している部分についてだけ相続税の申告をしておけば、これらの加算税を課されるおそれはないのであり、他方、このような申告及び修正申告の手続を納税者に求めたとしても、納税者に無理を強いるものではなく、何ら納税者に不当な負担を課すものということはできない。 したがって、相続財産の一部しか判明していない場合であっても、相続 び修正申告の手続を納税者に求めたとしても、納税者に無理を強いるものではなく、何ら納税者に不当な負担を課すものということはできない。 したがって、相続財産の一部しか判明していない場合であっても、相続税の申告は十分可能であり、相続財産の全容が判明しなければ相続税の申告ができないという原告らの主張は採用することができない。 4 原告らは、本件においては、前述のとおり、相続財産の全容を把握できる立場から除外されていたうえ、Hが「未分割財産はなく、全ての財産は自分が相続した。」と主張しており、その立場におかれた平均的な能力を有する通常人が未分割財産はないと判断しても無理でない状況にあり、現に、法定申告期限後に判明したところでは、土地についてはほぼ全てをHが遺贈と生前贈与によって取得していたのであるから、原告A及びEが、未分割財産がなく申告義務がないと信じたことには何ら責任がなく、また、このような場合に申告の義務を負うとしても、想定される申告方法はすべて問題があるから、原告A及びEが法定期限内に申告書を提出しなかったことについて「正当な理由」があると主張する。 5 ところで、被相続人の死亡によって相続が開始すると、それと同時に相続財産に属する権利義務一切が、相続人の知、不知又は事実的占有取得の有無を問わず、当然かつ包括的に相続人に移転承継されるという実体的効果を生じ、相続人は確定的な相続権を取得する。このことは、仮に共同相続人間において相続関係について紛争が生じ、これに関して訴訟や遺産分割等の調停(以下「訴訟等」という。)が係属していたとしても、当該相続人が相続を放棄しないかぎり右の実体的効果には何らの影響をも及ぼすものではない。このように共同相続人間で遺産分割につき争いがある場合には、法定申告期限までに分割が完了せず、各相続人が現実に取得する財 が相続を放棄しないかぎり右の実体的効果には何らの影響をも及ぼすものではない。このように共同相続人間で遺産分割につき争いがある場合には、法定申告期限までに分割が完了せず、各相続人が現実に取得する財産を確定することができない事態が生じ得るが、そのような場合に、取得財産を確定するまでは申告をすることができないとして、遺産分割があるまで申告義務を猶予することを認めたのでは、長期間にわたって遺産分割を行わないことにより、未だ現実に相続により取得した財産が確定していないことを理由に相続税を免れるという結果を来たし、相当でない。そこで、相続税法五五条は、相続財産の全部又は一部が未分割の場合には、一応各相続人が民法の規定による相続分に従って当該財産を取得したものと擬制して課税価格を計算することにし、その後に、これと異なる割合で当該財産の分割がされた場合には、その分割された内容に従って課税価格を計算に直し、これに基づいて更正の請求あるいは修正申告をすることができる旨を規定している。このことは、共同相続人の一部の者に相続権が有るかどうかが問題になっている場合や共同相続人への遺贈の可能性があるなどのために相続財産の範囲が問題になっている場合であっても同様であり、共同相続人の一人が未分割の財産はないと主張するため相続財産の全容が判明しなかったからといって申告の義務を免れるわけではない。 また、Hが全ての相続財産を自分が相続したと主張していたとしても、それと前記原告らが主張する事情だけで、当然に未分割財産がないと信じるような状況であるということはできず、このことは、結果として全ての相続財産がHに遺贈されていたとしても同様であるし、法定申告期限内に当該財産が相続財産の範囲に含まれないのが明らかになっていたのであればともかく、法定申告期限後に相続財産でないことが 果として全ての相続財産がHに遺贈されていたとしても同様であるし、法定申告期限内に当該財産が相続財産の範囲に含まれないのが明らかになっていたのであればともかく、法定申告期限後に相続財産でないことが判明したとしても、更正請求の原因とはなり得ても、そもそも申告自体を免れる根拠になるものではない。さらに、被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額が相続税の基礎控除額を超え、かつ、その相続財産の取得者自身についても各種の控除後も相続税額がある場合には、その相続人は、相続税の申告書を提出しなければならない(相続税法二七条一項)のであるから、原告A及びEが申告期限前から存在を知っていたとされるFの財産のうち土地のほぼ全てをHが遺贈と生前贈与によって取得していたのだとしても、共同相続人の一人であるHが遺贈によって取得した財産も、当然に課税価格の合計額に参入して申告の要否が検討されるべきものであるし、相続人が相続放棄をしない限り申告義務を免れることはできないのであるから、原告A及びEが知り得た財産がHに遺贈されていたとしても、相続税の申告をしないことが正当化されるものではない。このような場合、判明し得る財産を全て未分割財産として申告したとすると、原告A及びEが実際は相続財産に含まれていなかった土地についても一旦税金を負担することにはなるが、これらの財産が相続財産の範囲外であることが判明した時点で更正の請求をすることによって加重な税負担を免れることができるうえ、事情によっては延納の許可(相続税法三八条、三九条)を受けることもできるのであるから、納税者に過大な負担を課すことになるわけではなく、相続税法の趣旨に反するわけでもない。 6 したがって、相続財産の全容が判明していない場合であっても、相続財産のうち相続税の基 もできるのであるから、納税者に過大な負担を課すことになるわけではなく、相続税法の趣旨に反するわけでもない。 6 したがって、相続財産の全容が判明していない場合であっても、相続財産のうち相続税の基礎控除額を超える部分について判明しているならば、相続人は申告義務を免れないのであり、このような場合は、相続財産の一部しか判明していなくても、相続税の申告は可能であり、むしろ、申告をしなければならないということができる。 三原告A及びEが知り得た相続財産の範囲について 1 そこで、本件において、法定申告期限前に原告A及びEがFの相続財産についてどの程度知ることができたかについて検討する。 証拠によれば、原告A及びEと相続財産の間に次の各事実が認められる。 (一) 原告A及びEは、母Fが原告A、E及びHを婚家に残してその夫であるGと別居して以来、めったにFと顔を合わせる機会もなくなり、昭和三三年ころHが離婚してFと同居するようになってからは、Hが右原告らとFとが会うのを妨げるようになったため、Fに会うことがますます困難になった。また、Hは、Fの死後も、原告A及びEに対して相続財産の内容を明らかにすることを拒んだ。(甲第九号証、原告A本人尋問の結果)(二) 原告A及びEは、昭和六一年九月ころ、神戸家庭裁判所尼崎支部に対して遺産分割の調停を申し立てたが、Hは、その調停手続においても、その相続財産の内容を明らかにすることを拒み続けた。(原告A本人尋問の結果)(三) Eは、昭和六一年九月一二日、三和銀行に対し、同年六月三〇日における残高証明の発行を依頼したところ、同銀行は、同日における同銀行とFとの間の取引残高が、普通預金四〇万四一三〇円、納税準備預金九一万七八三三円、定期預金一六〇万円及び一七九〇万円であることを証明する書面を発行した。(乙第七号証の一 同銀行は、同日における同銀行とFとの間の取引残高が、普通預金四〇万四一三〇円、納税準備預金九一万七八三三円、定期預金一六〇万円及び一七九〇万円であることを証明する書面を発行した。(乙第七号証の一、二)(四) 原告Aは、相続財産中の不動産の調査のため、申告期限前に、芦屋市役所に赴いて、同原告がFの相続人の一人であると説明して、同市役所備付けのF名義の不動産についての土地課税台帳及び名寄等の閲覧を求めたが、担当職員は、閲覧を拒否した。 なお、芦屋市役所においては、法定相続人であることが証明できれば、固定資産課税台帳、名寄帳の登録事項について照会できるものとされており、また、不動産登記簿の表題部及び甲区欄の内容並びに地番を対照するための地番図は、誰でも自由に閲覧することができるようになっている。(甲第九号証、乙第八号証、原告A本人尋問の結果)(五) 原告A及びEの代理人は、昭和六一年一二月二六日、Hに対して、共同で申告書を提出するか、Hが単独で申告するならばHの申告書のコピーを事前に頂きたいという趣旨の申出をしたが、Hは、この申出にも応じなかった。(甲第一号証の一、二、第九号証、原告A本人尋問の結果)(六) 原告A及びEは、Fの財産として、自宅の土地建物、竹園旅館に貸している土地及び三和銀行に駐車場として貸している土地があったことを、申告期限前から知っていた。 この原告A及びEが知っていた土地の詳細は、次のとおりである。(乙第九、第一〇号証、原告A本人尋問の結果)(1) Fの自宅敷地は、普通住宅地区・家内工業地区に存する芦屋市<地名略>ないし五の各土地で、北側、東側及び南側を路線に囲まれた間口(北側道路部分)約二六・二五メートル、奥行(東側道路部分)約二六・二五メートルの宅地である。しかし、<地名略>ないし五の各土地はHに対して生前に 五の各土地で、北側、東側及び南側を路線に囲まれた間口(北側道路部分)約二六・二五メートル、奥行(東側道路部分)約二六・二五メートルの宅地である。しかし、<地名略>ないし五の各土地はHに対して生前に贈与がされており、相続財産を構成するのは一〇六番の一の宅地(ただし、Hに対して遺贈されている。)一七一・三四平方メートルだけである。 右宅地全体の路線価格は、正面路線、側方路線及び裏面路線のいずれも一七万四〇〇〇円で、奥行価格逓減率は、正面路線、側方路線及び裏面路線のいずれからも奥行距離が約二六・二五メートルであるから、各〇・九九である。また、側方路線影響加算率が〇・〇七、二方路線影響加算率が〇・〇三であるから、一平方メートル当たりの相続税評価額は、一八万二五九六円(一七万四〇〇〇円×〇・九九+一七万四〇〇〇円×〇・九九×〇・〇七+一七万四〇〇〇円×〇・九九×〇・〇三)であり、面積が一七一・三四平方メートルであるから、その価額は、約三二四六万六五三一円となる。 (2) 三和銀行に駐車場として賃貸している土地は、普通商業地区・併用住宅地区に存する芦屋市<地名略>のうち北側の約三五一・五六平方メートルの土地で、間口(東側道路部分)が約一八・七五メートル、奥行(北側道路部分)が約一八・七五メートルのほぼ正方形の角地である。 右土地の路線価格は、正面路線の路線価が三四万円、裏面路線の路線価が二二万円で、奥行価格逓減率は、正面路線、側方路線のいずれからも奥行距離が約一八・七五メートルであるから、各〇・九九である。また、側方路線影響加算率が〇・一〇であるから、一平方メートル当たりの相続税評価額は、三五万八三八〇円(三四万円×〇・九九+二二万円×〇・九九×〇・一〇)であり、面積が約三五一・五六平方メートルであるから、その価額は、約一億二五九九万二〇七二円とな 方メートル当たりの相続税評価額は、三五万八三八〇円(三四万円×〇・九九+二二万円×〇・九九×〇・一〇)であり、面積が約三五一・五六平方メートルであるから、その価額は、約一億二五九九万二〇七二円となる。そして、普通商業地区・併用住宅地区における借地権割合は七〇パーセントであるから、貸地とした場合の相続税評価額は、約三七七九万七六二一円となる。 (3) 竹園旅館に賃貸している土地は、普通商業地区・併用住宅地区に存する芦屋市<地名略>のうち南側四四五・三一平方メートルの土地で、間口(東側道路部分)は約一八・七五メートル、奥行(竹園旅館の北側部分)は約二三・七五メートルのほぼ長方形の土地である。 右土地の正面路線の路線価は三四万円で、正面路線からの奥行距離が約二三・七五メートルであって、奥行価格逓減率は、〇・九七であるから、一平方メートル当たりの相続税評価額は、三二万九八〇〇円(三四万円×〇・九七)であり、面積が約四四五・三一平方メートルであるから、その価額は、約一億四六八六万三二三八円となる。そして、普通商業地区・併用住宅地区における借地権割合は七〇パーセントであるから、貸地とした場合の相続税評価額は、約四四〇五万八九七一円となる。 (七) 原告A及びEは、昭和六二年四月一五日付けの内容証明郵便によって、Hに対し、HがFから遺贈又は生前贈与を受けた不動産について、遺留分減殺請求の意思表示をし、右意思表示は、翌一六日Hに到達した。(原告A及びEが右意思表示において遺留分減殺の対象にしたのは、FがHに遺贈した土地((1)兵庫県西宮市<地名略>の宅地四五二・八九平方メートル、(2)同県芦屋市<地名略>の宅地一七一・三四平方メートル、(3)同市<地名略>の宅地三八二・二四平方メートル、(4)<地名略>の宅地八一二・七二平方メートル、(5)<地名略> 二・八九平方メートル、(2)同県芦屋市<地名略>の宅地一七一・三四平方メートル、(3)同市<地名略>の宅地三八二・二四平方メートル、(4)<地名略>の宅地八一二・七二平方メートル、(5)<地名略>の宅地三・七八平方メートル、(6)<地名略>の宅地一七七・〇二平方メートル、(7)<地名略>の宅地三九一・六六平方メートル、(8)同市<地名略>の宅地一四八・七六平方メートル)、FがHに生前贈与した不動産((1)兵庫県西宮市<地名略>所在の家屋番号三六五番の五の木造瓦葺二階建居宅、(2)同県芦屋市<地名略>の一所在の家屋番号一〇六番の一の木造瓦及合成樹脂葺二階建居宅、(3)同市<地名略>の宅地一八九・五八平方メートル、(4)<地名略>の宅地一六・五九平方メートル、(5)<地名略>の宅地一六・五四平方メートル、(6)<地名略>の宅地一四一・四五平方メートル、(7)<地名略>、<地名略>所在の家屋番号<地名略>の木造瓦葺二階建居宅、(8)同市<地名略>の宅地一一二・四五平方メートル)及び未だ判明していなかったその他の財産である。なお、原告A及びEは、右意思表示に際し、Hが遺贈を受けたとして移転登記手続をした土地の一部について、Hの代理人を通じて交付を受けた公正証書に記載されていないために遺贈の対象であることを争うことを予告している。(甲第二号証)(八) 原告A及びEは、前記調停手続において、昭和六二年九月四日、Hが提出した申告書には預貯金関係の記載がほとんどない(Fの死亡直前に存在した三和銀行の約二一〇〇万円の預金さえも記載されていない。)からとして、神戸家庭裁判所尼崎支部に対し、預貯金、国債、株券等についての調査嘱託を申し立てたが、同家庭裁判所調査官の調査によっても、預貯金関係はほとんど明らかにならなかった。(右調査官が作成した昭和六二年一二 戸家庭裁判所尼崎支部に対し、預貯金、国債、株券等についての調査嘱託を申し立てたが、同家庭裁判所調査官の調査によっても、預貯金関係はほとんど明らかにならなかった。(右調査官が作成した昭和六二年一二月二三日付けの報告書によると、Fの相続財産中未分割のまま残存することが判明した相続財産として、芦屋市<地名略>及び<地名略>の各土地(地積はそれぞれ三九一・六六平方メートル及び三・七八平方メートル)のうち二九六・〇五平方メートル(Hが提出した相続税申告書における記載額は二八万一二三二円)及び同市<地名略>の土地一〇八・五六平方メートル(Hが提出した相続税申告書における記載額は九一一万九〇四〇円)並びに三和銀行芦屋支店の預金(定期預金、普通預金等)合計二一〇五万九四六一円、太陽神戸銀行芦屋駅前支店の預金(定期預金、普通預金)合計二二二万二四二九円及び兵庫相互銀行芦屋駅前支店の預金(普通預金)二〇万三六五八円などの記載があった。)(甲第三、第四号証、原告A本人尋問の結果)(九) 法定申告期限後、原告A及びEは、Hから同人の申告書の写しを手に入れたが、被告の期限後申告の勧めにもかかわらず、ついに申告書を提出しなかった。 (原告A本人尋問の結果) 2 以上の事実を総合すると、原告A及びEは、相続税の法定申告期限内に、本件相続財産のうち、被相続人の自宅敷地、竹園旅館及び三和銀行への貸地並びに三和銀行への預金四口の存在を認識していたのであり、このうち、HがFから生前贈与を受けていた財産を除いても、その合計金額は当時の基礎控除の額である三二〇〇万円をはるかに超えていて、また、原告A及びEが遺産分割の調停を申し立てていることにより相続権を放棄する意思がないと認められるから、原告A及びEとしては、少なくとも、この部分については申告が可能であり、また、すべきであっ て、また、原告A及びEが遺産分割の調停を申し立てていることにより相続権を放棄する意思がないと認められるから、原告A及びEとしては、少なくとも、この部分については申告が可能であり、また、すべきであったということができる。 原告Aは、これらの不動産についてはつきり知っていたわけではないという趣旨の供述をしている。しかし、被相続人の自宅の敷地については原告A及びEにおいてその所在場所を熟知していたし、竹園旅館及び三和銀行への貸地はいずれも駅からの距離も近く又その性質上開放性や周知性が高くその所在場所を知るのは容易である。そして、その所在を地番図(誰でも自由に閲覧できる。)と対照することによって地番も知ることができ、それによって登録簿で所有者等を確認することができるのであるから、相続税評価額計算の基礎となる路線価図(一般に市販されているほか、大阪国税局管内の各税務署及び大阪国税局に備え付けのうえ、常時閲覧に供されている。)、地形及び面積の基礎的な知識があれば、近隣の税務署又は国税局に間い合わせることにより、容易に相続税評価額を知ることができるものである。 したがって、原告A及びEが、これらの不動産や前記の預金の合計額が相続税の基礎控除の額を超えていることは容易に認識することができたものであるから、それをしないで、それらの財産の詳細を知らないからといって、申告書を提出できなかったことにやむを得ない事情があったということはできない。 3 原告らは、本件において、原告A及びEへの無申告加算税の賦課を免れないとしても、同人らに認識することができた財産は自宅敷地、三和銀行及び竹園旅館への貸地及び三和銀行への預金の一部だけであり、他の部分については知ることができず申告しなかったことに正当な理由があると認められるにもかかわらず、本件処分においてHが未分割財産 三和銀行及び竹園旅館への貸地及び三和銀行への預金の一部だけであり、他の部分については知ることができず申告しなかったことに正当な理由があると認められるにもかかわらず、本件処分においてHが未分割財産として申告したもの全部を無申告加算税の対象としているのは、その一部について国民に不可能を強いるものであり、違法だと主張する。 しかし、仮に原告らが主張する相続財産の内容を知り得ない事情が正当な理由と認められるとしても、それにより正当化されるのは、正当な理由が認められる部分について申告をしていないことだけであって、原告A及びEに判明している部分についてまで申告しないことが正当化されるわけではない。原告A及びEは、相続財産の一部とはいえ基礎控除額を超える財産を認識することができたにもかかわらず、その部分についてさえも申告書を提出せずに、納税者の自主的な申告に税金の徴収を委ねた申告納税方式の趣旨そのものを没却させるような行為をしたのであるから、被告が右相続財産の全体について無申告加算税を賦課したとしても、それは自主的な納税方式を維持するためにやむを得ない手段として是認することができ、このことを不当視することはできない。 原告らが主張する事情が正当な理由に当たるとすれば、原告A及びEが申告期限内に判明している部分についてだけでも申告書を提出していれば、過少申告加算税を課されることもなく、期限後であっても申告書を提出さえしていれば、税額の計算の基礎に入れなかったことに正当な理由があると認められる部分を控除したうえ無申告加算税が課される(国税通則法六六条二項、六五条四項)ものとされているのであるから、本件処分が納税者に不可能を強いるものということはできない。なお、前記認定事実によれば、原告A及びEは、申告期限後、Hの申告書の写しを入手しており、被告から期限 四項)ものとされているのであるから、本件処分が納税者に不可能を強いるものということはできない。なお、前記認定事実によれば、原告A及びEは、申告期限後、Hの申告書の写しを入手しており、被告から期限後申告を勧められたにもかかわらず、これをしなかったのであるから、右原告らは自ら無申告加算税の額を増大させたものというべきであり、原告らの右主張は採用することができない。 4 したがって、原告A及びEは、たとえ一部であったとしても、相続税の基礎控除額を超える相続財産の存在を認識することができたのであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告A及びEが本件相続に関し、相続税の申告書を提出しなかったことについて、正当な理由があると認めることはできない。 第四結論以上のとおり、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九三条一項本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判官辻忠雄吉野孝義北川和郎)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る