令和6(う)55 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反、殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反、殺人未遂、傷害

裁判年月日・裁判所
令和7年2月20日 福岡高等裁判所
ファイル
hanrei-pdf-93938.txt

判決文本文15,675 文字)

令和7年2月20日宣告令和6年(う)第55号 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中340日を原判決の刑に算入する。 理由 第1 本件の概要及び控訴趣意 1 本件の概要被告人は、北九州市に拠点を置き、平成4年6月には指定暴力団に、平成24年12月には特定危険指定暴力団に指定された甲會(代替わりの前後を区別しない。) 又はその二次団体である乙組(同様に区別しない。)等において、本件各犯行当時組員として活動していた。 本件は、①平成22年3月15日、北九州市内の自治会長方に拳銃で弾丸6発が撃ち込まれたが、自治会長らに命中せず殺害に至らなかった事件(原判示第1。「自治会長事件」)、②平成23年11月26日、a1株式会社会長が拳銃で射殺された事 件(原判示第2。「a1事件」)、③平成24年9月7日、ラウンジ「a2」経営者とタクシー運転手が刃物で切り付けられるなどして傷害を負ったが殺害に至らなかった事件(原判示第3。「a2事件」)、④同月26日、クラブ「a3」の運営会社関係者が刃物で刺されて傷害を負った事件(原判示第4。「a3事件」)からなる事案である。 被告人は、①自治会長事件の実行又は共謀共同正犯、②a1事件、③a2事件及び ④a3事件の共謀共同正犯として起訴された。 原審において、被告人は、種々の点を争い、①ないし④全てについて無罪を主張した。 原判決は、いずれの事件についても、公訴事実(訴因変更後のものを含む。)と同旨の各事実を認定して被告人を有罪とし、被告人を懲役30年に処した。なお、被 告人は、平成25年1月28日、甲會総裁Aの担当看護師が刃物で刺されるなどし て傷害を負ったが殺害に至らなかったとの組織犯罪処罰法 告人を有罪とし、被告人を懲役30年に処した。なお、被 告人は、平成25年1月28日、甲會総裁Aの担当看護師が刃物で刺されるなどし て傷害を負ったが殺害に至らなかったとの組織犯罪処罰法違反の公訴事実についても共謀共同正犯として起訴されていたが、原裁判所は被告人の共謀を否定して無罪とし、検察官はこの点につき控訴をしなかった。そこで、以下では①ないし④についてのみ検討することとし、①ないし④を指して「本件全事件」ということがある。 2 控訴趣意 主任弁護人B及び弁護人Cの控訴趣意は、①本件全事件、自治会長事件又はa2事件に関する研究者論文(以下「本件各論文」という。)及び自治会長事件に関する検証の請求を却下した点が訴訟手続の法令違反に当たると主張するもの、②自治会長事件、a1事件及びa2事件につき実行犯の殺意並びに本件全事件につき被告人と他の共犯者らとの共謀を認めた点で事実誤認を主張するもの、③a2事件につき組織犯 罪処罰法を適用する根拠を欠くとして法令適用の誤りを主張するものである。 そこで、以下ではまず本件各論文の証拠調べ請求を却下した点に係る訴訟手続の法令違反の主張を検討し(第2)、以降は事件ごとに控訴趣意に対する検討を加え(第3ないし第6)、最後に結論を述べる(第7)。 第2 訴訟手続の法令違反の控訴趣意のうち、本件各論文の証拠調べ請求の却下に 関する主張について所論は、本件各論文を参照して殺意及び共謀に関する判断を行う必要性があったのに、これらを採用しなかった原審の訴訟手続には法令違反がある、という。 しかし、原裁判所は、本件各論文に係る原審弁護人の証拠調べ請求に対し、原審検察官が不同意の意見を述べたため、伝聞例外に該当しないことから採用の根拠を 欠くものとして却下したことが明らか 。 しかし、原裁判所は、本件各論文に係る原審弁護人の証拠調べ請求に対し、原審検察官が不同意の意見を述べたため、伝聞例外に該当しないことから採用の根拠を 欠くものとして却下したことが明らかであって、所論は失当である。 第3 自治会長事件に関する控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人が、D、E、F、G、H及びIと共謀の上、平成22年3月15日午後11時13分頃、北九州市内のB3方 敷地において、G若しくは被告人のいずれか又は両名が、B3方在宅者を殺害する ことになってもやむを得ないと考え、回転弾倉式拳銃を用いて、B3方1階台所勝手口前から1階内部に向け弾丸2発を発射して台所壁に、B3方玄関先から1階内部に向け弾丸4発を発射して8畳和室を通り抜けた先のA3(当時75歳)及びB3(平成22年3月17日当時75歳)がいる1階寝室のふすま等を貫通させて同室押入に、それぞれ着弾させるなどしたが、いずれもB3らに命中せず、殺害に至 らず(原判示第1の1。殺人未遂)、その際、上記拳銃1丁を適合実包6発と共に携帯所持した(同第1の2。拳銃加重所持)、というものである。 論旨は、①検証請求を必要性なしとして却下した原裁判所の判断は証拠の必要性に関する評価を誤ったとする訴訟手続の法令違反、②実行犯らの拳銃発射行為は殺人の実行行為に該当せず、殺意も認められない上、被告人に共謀は認められないと する事実誤認である。 当裁判所は、①検証請求を却下した原裁判所の判断に訴訟手続の法令違反はなく、②実行犯らの拳銃発射行為は殺人の実行行為に該当し、殺意も認められ、被告人の共謀も認められるとした原判決の認定説示は正当であり、是認することができると判断した。以下、詳 に訴訟手続の法令違反はなく、②実行犯らの拳銃発射行為は殺人の実行行為に該当し、殺意も認められ、被告人の共謀も認められるとした原判決の認定説示は正当であり、是認することができると判断した。以下、詳述する。 2 訴訟手続の法令違反の主張についてこの点は後記3⑵イの判断と密接に関連するため、同所で判断する。 3 事実誤認の主張について⑴ 実行犯らの行為の実行行為該当性及び殺意についてア原判決の認定説示 原判決は、要旨以下のとおり説示して、実行犯らの行為が殺人の実行行為に該当し、殺意に欠けるところもないと認定した。 実行犯らは、高い殺傷能力を有する口径0.38インチの真正拳銃を用いて、在宅者が所在する蓋然性の高い2か所の出入口及びそれぞれの奥側に向け弾丸2発及び4発の2群に分かれる弾丸を発射した。1群ごとの方向が異なるために広範囲に 飛来するそれら弾丸が、台所及び在室状態の寝室に到達する軌道で撃ち込まれてい る。B3方は一般住宅の造りであって、当時は深夜であるが、B3方の雨戸を閉めている窓が一部であることなどからすれば、家人による日常の管理が続いていることをうかがわせるもので、内部に人がいる蓋然性があり、これを実行犯も認識していたと推認できる。 以上のことなどによれば、上記銃撃行為は殺人の実行行為に該当すると認められ、 実行犯らは、発射した弾丸がB3方内の住人に命中し、死亡させたとしてもやむを得ないものとして行為に及んだと認められるから、殺意が認められる。 イ当裁判所の判断所論は、①家人による日常の管理が続いていることと、本件当時実際に内部に人がいる蓋然性は直結しない、②B3方の総面積に占める6つの弾丸の軌道の合計面 積は極めて小さく、弾丸が命中する確率は極めて低 は、①家人による日常の管理が続いていることと、本件当時実際に内部に人がいる蓋然性は直結しない、②B3方の総面積に占める6つの弾丸の軌道の合計面 積は極めて小さく、弾丸が命中する確率は極めて低かった、③深夜の一般住宅であれば多くの住人は就寝しており、また、消灯されている場所に住人がい続けることは通常考えられないところ、実行犯らは、勝手口台所や玄関土間が消灯されており人がいないことを確認してから拳銃を発射しているから、実行犯らは命中しないよう配慮しているが、原判決はこの事情を一切考慮していない、という。 しかしながら、①の家人による管理の点は、原判決は、B3方家屋が一般住宅であり、犯行時刻も深夜であったことからすれば、家人による管理が放棄されているなどの事情がない限り居住者が在宅している蓋然性がある旨を説示しているのであって、その説示に誤りはない。②の弾丸の命中確率をいう点については、真正拳銃で6発の弾丸を撃ち込む行為は、人の現在する蓋然性の高い住居に対してなされて いる以上、敢えて人への命中を避けたなどの事情がない限り十分な危険性を有するものであって、所論は失当である。その上で、③の実行犯らが人に命中しないよう配慮して発砲したとの点を検討すると、既にみたとおり、発射された弾丸は、ふすま等の遮へい物を貫通し、A3らが在室する寝室に到達するなどしているところ、銃弾が一般住宅内に存在するそれら遮へい物を貫通し得ることは明らかなのである から、これらの弾丸の軌道等のみに照らしても、そのような配慮があったなどとは いえない。 ⑵ 被告人の共謀についてア原判決の認定説示原判決は、要旨以下のとおり認定説示して、本件犯行当日、犯行現場に向かう車両に同乗した作業着姿の被告人及びGが犯行現場付近で降車し、 ない。 ⑵ 被告人の共謀についてア原判決の認定説示原判決は、要旨以下のとおり認定説示して、本件犯行当日、犯行現場に向かう車両に同乗した作業着姿の被告人及びGが犯行現場付近で降車し、拳銃の発射音らし きものが鳴り響くのに続いて戻って来た両名を車両で連れて去ったとのI供述の信用性を肯定し、被告人に少なくとも共謀共同正犯が成立するとした。 I供述は、実行犯らを送迎した車両を投棄した旨供述する場所から同車両の特徴と一致する車両が発見されていることなどその内容と整合的で裏付けとなる証拠及び客観的事実複数により支えられていること、虚偽供述の動機が見当たらないこと からすれば、信用することができる。したがって、I供述によれば、被告人又はGのいずれか又は双方が自治会長事件の実行犯であると推認でき、仮にGのみが実行犯であったとしても、被告人が現場で連携する立場で共謀を遂げていたとみることができる。 原審弁護人は、以下のとおりI供述の信用性を論難する。すなわち、Iの述べる 本件犯行直前の経過は、本件犯行当日、実行犯らが使用する予定のバイクを用意してHとともに帰宅しようとしたところ、Fからバイクが動かない旨電話で連絡があり、バイクを置いた場所に呼び戻された、バイクを再度動かすことができなかったので別の車両を準備している旨を告げると、犯行現場まで同行することになった、というものである。このうち、Fから携帯電話連絡で呼ばれてHの運転する車両で 戻る際、Fの運転する車両とすれ違い、車両を停めて会話をした、という点は当時の視認条件の不良と矛盾しており、つまりI供述には明確な虚偽部分があるから、全体として信用できない、というのである。 しかし、Fに呼び戻された旨のI供述は通話履歴に裏付けがあり、この通話をきっかけに車両移動 の不良と矛盾しており、つまりI供述には明確な虚偽部分があるから、全体として信用できない、というのである。 しかし、Fに呼び戻された旨のI供述は通話履歴に裏付けがあり、この通話をきっかけに車両移動中に相互の視認に意識を傾けていたとしても不自然ではなく、交 通量が多いとはいえない場所的状況等も考慮すると、すれ違いの機会に視認が可能 であったとみ得るから、理由がない。 イ当裁判所の判断所論は、I供述の信用性を争い、夜間街灯のない道路で自動車がすれ違う際、走行中の対向車の特徴を視認することは一般的に相当困難で、ましてすれ違い時に互いに認識して停車することは一層困難であり、内容的に荒唐無稽であってIの創作 をうかがわせるから、被告人の関与に係る部分を含めた供述全体の信用性も認められない、という。 しかし、原判決は、I供述にはFとの通話履歴の存在等の裏付けがあり、虚偽供述の動機もうかがえないから、同供述の全体的な信用性は高い、との評価を前提とし、また、通話をきっかけに意識を傾けていれば、すれ違い時に互いに相手を認識 して停止することも可能であった、との判断からその点を含めて信用性を肯定したのであって、この判断に誤りはない。 なお、この点に関連して所論は、I供述の内容がおよそ不可能なものでないかは現地での検証を行った上で判断する必要があったのに、その請求を却下した原審の訴訟手続には証拠の必要性に関する判断を誤った法令違反がある、ともいう。 しかしながら、既にみたとおり、原裁判所は、検証を行うまでもなく信用性評価は可能と判断したと解され、その必要性の判断に誤りはない。 ⑶ 小括以上のほかにも、所論は実行犯らの行為に実行行為性及び殺意は認められず、被告人に共謀は認められない旨縷々主張するが、上記認定を は可能と判断したと解され、その必要性の判断に誤りはない。 ⑶ 小括以上のほかにも、所論は実行犯らの行為に実行行為性及び殺意は認められず、被告人に共謀は認められない旨縷々主張するが、上記認定を左右するものではない。 第4 a1事件に関する控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人が、E、J、K、L、H、I及びMと共謀の上、平成23年11月26日、北九州市内の当時72歳の男性(以下、第4では「被害者」という。)方前路上で、Lが、a1株式会社会長である被害 者に対し、殺害に至ってもやむを得ないと考え、回転弾倉式拳銃で被害者がいる方 向に弾丸2発を発射し、うち1発を頚部に命中させ、右内頚静脈及び右鎖骨下動脈の離開に基づく失血により死亡させて殺害し(原判示第2の1。殺人及び拳銃発射)、その際、上記拳銃1丁を、適合実包2発と共に携帯所持した(原判示第2の2。拳銃加重所持)、というものである。 論旨は、実行犯の殺意及び被告人の共謀を認めた点で、原判決には判決に影響を 及ぼすことの明らかな事実誤認がある、というものである。 当裁判所は、実行犯の殺意及び被告人の共謀をいずれも認めた原判決の判断は正当であって、是認することができると判断した。以下、所論に鑑み説明する。 2 実行犯の殺意について原判決は、実行犯は、殺傷能力の高い口径0.38インチの回転弾倉式拳銃を用 い、道路を走行してきたバイクから降り、道路から被害者方玄関へと続く上り坂の途中(後に血痕が発見された位置付近。)にいた被害者に対し、いくらか上向きの視線により、4mを大きく超えない程度の距離にいた被害者の姿を捉えられる位置関係で、被害者の方向に弾丸2発を発射し、うち1発を頚部 後に血痕が発見された位置付近。)にいた被害者に対し、いくらか上向きの視線により、4mを大きく超えない程度の距離にいた被害者の姿を捉えられる位置関係で、被害者の方向に弾丸2発を発射し、うち1発を頚部に命中させたとし、その行為態様自体から弾丸が命中して殺害に至ることもやむなしとする意思で発射に及 んだと推認できる、として実行犯の殺意を認定した。 所論は、原判決説示の距離から実行犯が被害者に向けて発砲したとする認定の根拠であるA1証言は曖昧なもので、同証言に基づき認定できるのは、実行犯がある位置から被害者と地面を含む空間に向けて拳銃を発射した事実にとどまり、殺意を認定するには足りない、という。 確かに、A1証言には、被害者とA1が当日帰宅時に使用したM1運転車両が犯行の当時、犯行現場に存在したか等の点に混乱が見られるが、本件犯行時、バイクに2人乗りをした実行犯が被害者を拳銃で撃ったとする点は110番通報の当初から一貫しており、被害者が倒れていた位置を含めた客観的な位置関係にも照らせば、銃撃の目撃状況に関するA1証言をも根拠としてなされた実行犯と被害者の位置関 係、距離に係る原判決の認定は正当である。そして、被害者の頚部に着弾している ことから明らかなとおり、実行犯が被害者の身体に向けて、その枢要部を除外することなく4m程度の至近距離から発砲した行為は、その行為自体、被害者が死亡しても構わないとの意思を有していたことを優に推認させる事情であるから、実行犯の殺意を認定した原判決はその説示を含め正当である。 3 共犯者らとの共謀について ⑴ 原判決は、要旨以下のとおり説示して、本件犯行時に被告人が実行犯を乗せたバイクの運転を担当した旨のI供述の信用性を肯定し、被告人の共謀を認定した。 Iは、犯行供用 らとの共謀について ⑴ 原判決は、要旨以下のとおり説示して、本件犯行時に被告人が実行犯を乗せたバイクの運転を担当した旨のI供述の信用性を肯定し、被告人の共謀を認定した。 Iは、犯行供用車両を自身が窃取して調達し、犯行後に投棄した旨述べる。前者につきこれと整合する被害届がなされ、後者につきそれと整合する車両が投棄場所から発見されており、証拠によって裏付けられている上、上位者の関与も進んで供 述していることからすれば、被告人の関与に係るI供述の信用性は高い。 ⑵ 所論は、原判決が共謀認定の根拠とするI供述は、犯行使用車両の投棄場所等につき記憶が曖昧で信用できない、などという。 しかし、所論指摘の事情中、投棄場所の点は、Iは当初別事件で車両を投棄した場所と混同していたにとどまると認められるし、その余の事情を総合しても、被告 人の本件犯行への関与に係るI供述の核心部分の信用性に影響するものとはいえない。 その他、所論は共謀が認められない旨縷々主張するが、原判決の判断の正当性を左右するものは存在しない。 第5 a2事件に関する控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人が、乙組組長であったN、J、K、L、M、O及びPと共謀の上、北九州市c1区内のラウンジ「a2」経営者であった当時35歳のC5にNの地位を知りながら軽んじる言動が現れたと捉え、上記言動に加害で報いることで乙組の威勢や統制を保持する活動として、また、北 九州市c1区の同様の店からいわゆるみかじめ料を徴収するなどして支配する乙組の 権益を維持・拡大する目的で、Nの意思決定及び命令に基づき、あらかじめ定められた任務分担に従って、平成24年9月7日、北九州市c1区内の らいわゆるみかじめ料を徴収するなどして支配する乙組の 権益を維持・拡大する目的で、Nの意思決定及び命令に基づき、あらかじめ定められた任務分担に従って、平成24年9月7日、北九州市c1区内のマンション駐車場において、Oが、殺害に至ってもやむを得ないと考え、刃物で、①タクシーを降車したC5に対し、その左顔面を1回切り付けるなどしたが、入院加療約114日間を要する左顔面切創等を負わせたにとどまり(原判示第3の1)、②①の犯行を制止 しようとした当時40歳のタクシー運転手D5に対し、その左側頭部等を切り付けたが、入院加療14日間を要する左頚部切創等を負わせたにとどまった(原判示第3の2)、というものである(いずれも組織的殺人未遂、不正権益維持・拡大目的殺人未遂)。 論旨は、実行犯の行為は殺人の実行行為に該当せず、殺意も認められない、被告 人の共謀も認められないとする事実誤認、組織犯罪処罰法3条の罪の成立要件を欠くのに、その成立を認めたという法令適用の誤りである。 当裁判所は、実行犯の行為の実行行為該当性及び殺意、被告人の共謀をそれぞれ認めた原判決の説示は正当であり、組織犯罪処罰法3条の罪の成立を認めた原判決の判断についても是認することができると判断した。以下、所論に鑑み説明する。 2 実行犯の行為の実行行為該当性及び殺意について⑴ 原判決の説示原判決は、要旨以下のとおり説示して、実行犯であるOの行為の実行行為該当性及び殺意を認めた。 Oは、タクシーから降りたC5が、間近に迫るまでOの存在に気付かない状況下 で、C5の左顔面に対し、上から下に大きく振り下ろすように鋭利な刃物の刃先を突き刺し、長さ約20cm、深さ約5cmの切創を負わせている。状況からみてOは当初から意図してこの突き刺し行為に及んだ。 で、C5の左顔面に対し、上から下に大きく振り下ろすように鋭利な刃物の刃先を突き刺し、長さ約20cm、深さ約5cmの切創を負わせている。状況からみてOは当初から意図してこの突き刺し行為に及んだ。また、Oは、D5に対しても、左頚部に長さ約12cm、深さ約2cmの切創を生じさせる切り付け行為に及んでいる。奥まった位置の頚部に重い程度の受傷が存することからすれば、Oは、刃物を 能動的に動かして刃先を奥の方に届かせようとしていた。以上のOの行為は、人を 死亡に至らせる危険性を備えた殺人の実行行為に該当する。そのような行為を、それと認識しつつ実行したOについて、未必的殺意が認められる。 原審弁護人は、刃物にカバーがつけられていた可能性を主張するが、加害行為時の刃物が既にみた受傷を生じさせられる形状であり、そのような刃物をOが保持していたと推認できる以上、認定は左右されない。 ⑵ 当裁判所の判断所論は、①本件で使用された刃物には致命傷を与えるほどに深い傷を負わせないようカバーがなされていた可能性は原判決の説示でも排斥されていない、②OはC5やD5の頭部や頚部を狙って切りつけたものではない、などという。 しかし、①については、原判決が正当に説示するとおり、実際にはC5にもD5 にも生命に危険を生じさせる長さ及び深さの傷を負わせている以上、Oが使用した刃物にカバーがなされていたとしても、そのような傷を負わせるに足る程度の危険性は備えていたとみるほかなく、実行行為該当性及び殺意に係る原判決の説示の正当性を左右しない。また、②については、原判決の説示するとおり、C5はOが間近に迫るまでその存在に気付いていなかったというべきであるから、Oの突き刺し 行為は当初から意図したものであったといえ、狙ったものではないと 、②については、原判決の説示するとおり、C5はOが間近に迫るまでその存在に気付いていなかったというべきであるから、Oの突き刺し 行為は当初から意図したものであったといえ、狙ったものではないとする所論は採用できない。また、D5についても、OがC5を刺したと認識したD5が、「こら、やめろ」などと言いながら割って入ったところ、Oから切り付けられたという経緯からすれば、Oは、D5が自らを逮捕し、あるいは逃走を妨害するなどのおそれを感じたとみるべきで、これに原判決の認定説示するD5の受傷状況等を併せ考慮す れば、Oは、D5の妨害等を確実に排除すべく、D5の頚部に攻撃を加えることを認識して行為に及んだとみることができ、狙ったものではないとは考え難いから、所論は採用できない。 以上のほかにも、所論は実行行為性及び殺意が認められない旨縷々主張するが、いずれも上記認定を左右しない。 3 被告人の共謀について ⑴ 原判決の認定説示原判決は、要旨以下のアないしエのとおり認定説示して、被告人の共謀を認めた。 ア C5は、深夜の帰宅時にタクシーから降車した直後に襲撃されており、金品奪取を伴わないこと等に照らすと、あらかじめC5を対象に、帰宅時を狙って襲撃する計画であり、C5の行動等を確認してその情報を実行犯に伝えるとともに、実 行犯が臨場できるようにしていたと考えられる。 イ被告人は、平成24年8月28日から同月29日にかけての夜間に行われた職務質問時、これに先立って、a2が3階に所在するb1ビルの正面にあるb2ビル4階にしばらく滞在し、b1ビル近辺の様子を目視していた(以下「本件滞在行為」という。)。 被告人の上記滞在は、平成24年8月14日にb1ビルを含む2棟のビルに放火が行われた後、本件が発生 階にしばらく滞在し、b1ビル近辺の様子を目視していた(以下「本件滞在行為」という。)。 被告人の上記滞在は、平成24年8月14日にb1ビルを含む2棟のビルに放火が行われた後、本件が発生するまでの期間内に生じている。この頃、乙組は、c1区に組事務所を設置するなどして拠点にし、組員が周辺の飲食店からみかじめ料を徴収して組織にも納めていた。しかし、警察が地域の暴力団組織に対する警戒を強めていたのに加えて条例に基づく標章制度が始まり、標章が貼られた飲食店に対する暴 力団員の立入りが禁止されるなどしたため、乙組では、その事情を組内で周知の上、標章を掲示する飲食店が多数現れたのに対応して組員が店を調べてまわり、標章の有無の統一的な把握等に努めていた。b2ビルにも標章を掲示する飲食店が現れていたところ、暴力団追放運動に与する姿勢のオーナーが管理するb1ビルを対象に含める前述の放火事件が発生した。この出来事は、その放火が暴力団員の仕業ではない かとの疑念を抱かせるとともに、警察の捜査や職務質問等が強化される可能性を周囲に感じさせるもので、当時、乙組組織委員長を務めていた被告人を含む同組組員においては、一層明瞭に同旨の予測をするはずのものであった。 そうすると、そのような情勢にもかかわらず、b2ビルに出向いた上、その姿を見る周囲の者から不審者通報がなされるまでの一定時間を通じ、標章を掲示する店が 含まれる同ビル4階に滞在して、向かいのb1ビル近辺を視界に保ち、夜半過ぎ頃の 職務質問の対象となった被告人の本件滞在行為は、警察から疑われる危険を承知であえて行う理由があったと考えられる。職務質問に対し、被告人は、飲みに行く店を探していた旨答え、それ以上に不審事由は現れず質問は終わっているが、同ビル4階に営業中の店舗はな から疑われる危険を承知であえて行う理由があったと考えられる。職務質問に対し、被告人は、飲みに行く店を探していた旨答え、それ以上に不審事由は現れず質問は終わっているが、同ビル4階に営業中の店舗はなかった。 ウ乙組筆頭若頭補佐を務めていたLは、平成24年9月3日から同月4日にか けての頃、親交のあった飲食店関係者に対し、a2からのC5の退勤時刻等に関する調査を求めた。その際、Lは、退勤の時間帯が午前0時から午前1時頃であることを告げるほか、タクシー利用であることなどを伝え、詳細を調べるよう求めていた。 これに応じた上記飲食店関係者は、b1ビル内の飲食店勤務の者に対し更に調査を依頼し、同人が目視した状況につき電話連絡を受け、これをLに伝えることが複数回 あった。本件当夜、C5は午前0時42分頃に退勤して普段と同様に付近のコンビニエンスストアに立ち寄った後、路上でタクシーに乗り込み、これによる移動を始めるのと並行してLもそれらの界隈に現れ、携帯電話機で通話をしていた。 エ以上を総合すると、Lは前もってC5の退勤状況の概要を把握しており、その把握内容は、退勤状況を一定程度観察しなければとらえられないものに達してい たといえる。したがって、既に観察の機会があったが、それ以上に詳細をとらえられない何らかの事態に陥り、上記飲食店関係者に依頼したものと推認するほかない。 しかし、Lが観察を重ね、それがとん挫したことをうかがわせる事情はない一方、被告人の本件滞在行為が認められるから、本件滞在行為は、警察から疑われる領域に足を踏み入れてでも退勤状況観察の一端になろうとするなどし、目的の情報又は 自身を含む乙組組員が観察に出向くと職務質問が支障になる旨の情報をLに伝えるなどしたと推認できる。この推認を基礎としてみれば、その後、Lが、C 況観察の一端になろうとするなどし、目的の情報又は 自身を含む乙組組員が観察に出向くと職務質問が支障になる旨の情報をLに伝えるなどしたと推認できる。この推認を基礎としてみれば、その後、Lが、C5の退勤状況調査などという不審がられる類の依頼を、乙組外の者にあえて依頼したことも合理的に理解できる。そのようにして調査を遂げるなどして、本件犯行に及んだものと考えられる。 ⑵ 当裁判所の判断 ア原判決は、本件滞在行為の約1週間後にLが上記飲食店関係者にC5の退勤状況調査を依頼していることからすれば、被告人からLに、C5の退勤状況又は乙組組員が行動確認を行うと職務質問が支障になることを伝えるなどしたとうかがわれる、とする伝達行為の点に加え、本件滞在行為は、b1ビルに対する放火の約2週間後、Lが本件犯行につながったと認められる調査を上記飲食店関係者に依頼する 約1週間前に生じており、本件滞在行為が無関係とは考え難いという時系列の点も考慮して、被告人の共謀を認定したものと理解することができる。 以上の原判決の説示は、後記イでみるとおり伝達行為の点については是認することができないが、b1ビルの放火事件も本件も乙組が標章を掲示する店を調査する中で生じている事件であることも併せ考慮すれば、L同様乙組の幹部組員である被告 人がb1ビル近辺の様子を目視していた本件滞在行為がLによるC5の行動確認と無関係とは考え難い、とする点は是認することができ、この点を考慮して被告人の共謀を認めた結論に誤りはない。以下詳述する。 イ所論は、①本件滞在行為に関し、被告人が平成24年8月28日から同月29日にかけての職務質問時、これに先立ってb1ビル近辺の様子を目視していたと認 定するに足る根拠がない、②b2ビルからはb1 所論は、①本件滞在行為に関し、被告人が平成24年8月28日から同月29日にかけての職務質問時、これに先立ってb1ビル近辺の様子を目視していたと認 定するに足る根拠がない、②b2ビルからはb1ビル3階の腰高窓が開いていなければa2の出入口を見ることができない上、b2ビル4階からはb1ビル3階のa2出入口の下部しか視認できず、1階出入口の様子も確認できないから、C5の行動確認として意味もなしていない、③被告人がLに対し原判決説示のような情報提供をしたとみるべき証拠はないし、LがC5の退勤状況調査を外部の者に依頼したのは被 告人の情報提供に基づくものではないとしても合理的に説明がつくのであり、被告人の関与を推認させるという原判決は誤っている、などという。 しかし、①の被告人によるb1ビル近辺目視の点については、職務質問に当たった警察官が臨場した際、被告人はb2ビル4階から手すりに手を掛けて外を見ている状況であり、その方向には道路を挟んでb1ビルが所在するものと認められるのである から、職務質問に先立ちb1ビル近辺を目視していた旨の原判決の認定は正当である。 また、②のC5を対象とする行動確認の有意性の点については、平成24年8月15日頃から本件発生までの間、四、五日にわたり、Lの指示によりb2ビル3階等からa2の出入口を見張る3名の乙組関係者らがおり、このうち1名が腰高窓の開閉をしていたことが認められるから行動確認の障害になるものではないし、所論の指摘するその余の事情を踏まえても、本件滞在行為がC5の行動確認ないしその準備行 為とする原判決の認定説示に誤りがあるとはいえない。 他方、③のLに情報提供したのが被告人であるとの点については、原判決はその後の外部者への調査依頼を根拠として本件滞在行為から得た情報を 備行 為とする原判決の認定説示に誤りがあるとはいえない。 他方、③のLに情報提供したのが被告人であるとの点については、原判決はその後の外部者への調査依頼を根拠として本件滞在行為から得た情報を被告人がLに伝えた旨認定説示するが、既にみたとおり、Lが別途乙組関係者らに指示してa2を見張らせるなどしていたことからすれば、所論指摘のとおり、原判決説示の情報を被 告人から得なければそのような依頼が考え難いという関係にはないから、この点に係る原判決の認定説示は不合理であって是認することができない。もっとも、既にみたとおり本件滞在行為はC5の行動確認等であると認められるところ、時系列の点等にも照らせば、これがLの行っていた行動確認と無関係になされたとは考え難いとの点は正当であるから、共謀を認めた原判決の結論に誤りはない。 4 法令適用の誤りの主張(組織性)について原判決は、組織的殺人未遂、不正権益維持・拡大目的殺人未遂罪が成立するとしたところ、所論は、被告人は具体的な犯罪目的を共有した上で行為をしていたものではないから、「罪に当たる行為を実行するための組織」(組織犯罪処罰法3条1項)に属していたものとはいえず、「任務」(組織犯罪処罰法2条1項)を分担したとも いえない、という。 しかし、上記3でみたところからすれば、被告人が本件犯行に際し、乙組幹部組員として、本件犯行の目的を理解した上、他の複数の乙組組員らと連携して重要な役割を分担したと認められるのであって、所論は前提を欠いている。 第6 a3事件に関する控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等 原判決の認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人が、N、J、L、M、O、Q及び原審呼称E5(以下単に「E5」という。)と共謀の いて 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等 原判決の認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人が、N、J、L、M、O、Q及び原審呼称E5(以下単に「E5」という。)と共謀の上、平成24年9月26日、北九州市内のクラブ「a3」の運営会社関係者である当時54歳の男性(以下、第6では「被害者」という。)に対し、E5が、刃物でその左臀部及び右大腿部を3回突き刺すなどし、入院加療15日間を要する臀部・大腿部刺創等を負わせた(原 判示第4。傷害)、というものである。 論旨は、被告人は他の共犯者らと共謀を遂げていないのに、原判決はこれを認めたという事実誤認である。 当裁判所は、被告人の共謀を認めた原判決の認定説示に誤りはないと判断した。 以下、詳述する。 2 被告人の共謀について⑴ 原判決の認定説示M及びE5の供述によれば、実行犯のE5は、事前にLから指示を受け、続いて接触した被告人から、犯行に及ぶ現場の案内や移動手順等の説明を受けている。被告人はE5に対し、被害者の尻を3回刺せなどと伝えて包丁を手渡しており、犯行 直前には、E5及びOが同乗する自動車を被告人が運転し、Jの指示下のM及びQと合流して同人ら手配の別の自動車に乗り換え、よって現場付近に運んだE5及びOと共に車内で待機し、やがてOと共に車を降りて待ち伏せするE5が本件犯行に及んだと認められる。 原審弁護人は、当初殺人未遂事件として捜査が進んでいたにもかかわらず、E5 が供述を始めると、結局傷害事件としての起訴にとどまっていることなどを指摘し、E5と警察との間で取引又は利益誘導等があったなどと主張する。しかし、E5の供述を含む関係証拠に現れる加害行為の態様等を踏まえれば、傷害罪にとどまるという擬律判断が不適合とはいえない などを指摘し、E5と警察との間で取引又は利益誘導等があったなどと主張する。しかし、E5の供述を含む関係証拠に現れる加害行為の態様等を踏まえれば、傷害罪にとどまるという擬律判断が不適合とはいえないことなどからすれば、原審弁護人の指摘する利益誘導等の存在を疑うべき具体的論拠は示されていない。 ⑵ 当裁判所の判断 所論は、E5供述の信用性を論難して、①組織における上位者を巻き込めば相対的にE5に対する非難が軽減されるから、被告人との関係が険悪ではなかったとしても、E5には被告人の関与につき虚偽供述をする動機がある、②E5は殺人未遂の被疑事実で逮捕勾留されていたところ、捜査段階から接見等禁止の一部解除が認められ、傷害罪で起訴されているなど、利益誘導等を疑うべき事情がある、③被告 人の関与を示す供述については、自動車の乗換えの場面等、犯行に直接関係しない部分で限定的にM供述と一致しているにとどまり、十分な裏付けを欠いている、などという。 しかし、①の虚偽供述の動機があるとの点については、抽象的な指摘にとどまるものであり、記録を精査してもE5が被告人の関与につき虚偽を述べたことを具体 的にうかがわせる事情は見当たらない。また、②の利益誘導等をいう点については、接見等禁止の一部解除の点を踏まえても、利益誘導等の存在を疑うべき具体的論拠は示されていないとの原判決の説示は正当である。そして、③のE5の供述が十分な裏付けを欠いているという点についてみると、E5は、本件犯行直前、目出し帽をかぶった状態で、被告人及びE5同様に目出し帽をかぶったOとともに砂利の駐 車場で白い軽自動車に乗って本件犯行現場に向かった、その車中で被告人から本件犯行を指示された、犯行後に同じ車で砂利の駐車場に戻って3名で降車した際、Qと 目出し帽をかぶったOとともに砂利の駐 車場で白い軽自動車に乗って本件犯行現場に向かった、その車中で被告人から本件犯行を指示された、犯行後に同じ車で砂利の駐車場に戻って3名で降車した際、QとMに会った旨供述するところ、Mは、本件犯行日に被告人と覆面をかぶった2人(うち1名はO)が砂利の駐車場で白い軽自動車に乗ってどこかへ向かい、しばらくすると戻ってきて3人が白い軽自動車から降りてきた、その後白い軽自動車内に あった包丁等を事前にJから指示されていたとおり処分した旨述べる。M供述が、本件犯行前後に被告人及びOと行動を共にし、白い軽自動車内で被告人から犯行を指示された旨のE5供述を裏付けるものであることは明らかである。 以上のほかにも所論は、被告人に共謀が認められない旨縷々主張するが、原判決の説示の正当性を左右するに足るものではない。 第7 結論以上によれば、論旨は全て理由がないから、刑訴法396条、刑法21条により、主文のとおり判決する。 令和7年2月20日福岡高等裁判所第3刑事部 裁判長裁判官市川太志 裁判官高橋明宏 裁判官関洋太

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る