平成29(わ)1680 危険運転致死傷,暴行(予備的訴因 監禁致死傷),器物損壊,強要未遂被告事件

裁判年月日・裁判所
平成30年12月14日 横浜地方裁判所
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判決文本文13,518 文字)

主文 被告人を懲役18年に処する。 未決勾留日数中260日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 平成29年5月8日午後8時15分頃,山口県下関市a町(住所省略)の道路を普通乗用自動車を運転して走行中,A(当時41歳)の運転する普通貨物自動車に追い越されたことに憤慨し,同車を停車させた上,同人を降車させて文句を言おうと考え,その頃から同日午後8時20分頃までの間,同所付近から同市b町(住所省略)に至るまでの道路上において,パッシングし,クラクションを鳴らし,同車の進路前方に自車を停車させるなどの行為を繰り返し,同日午後8時20分頃,同所先道路上に自車に続いてA運転車両が停車した後,降車してA運転車両の運転席側付近に近づき,その頃から同日午後8時25分頃までの間,同運転席側窓ガラス及びフロントガラスを手で叩きながら,「けんかうっとるんか。」「出てこい。」などと怒号して降車を要求し,その要求に応じなければ同人の生命及び身体に危害を加えかねない気勢を示して同人を怖がらせ,もって人に義務のないことを行わせようとしたが,Aが警察に通報したため,その目的を遂げなかった(以下「第1事件」という。)第2 同月9日午前1時頃,同市a町(住所省略)国道191号線上において,有限会社B所有の普通乗用自動車の運転席ドアを3回足蹴りして凹損(損害見積額合計23万6300円)させ,もって他人の物を損壊した(以下「第2事件」という。)第3 1 同年6月5日午後9時33分頃,普通乗用自動車を運転し,神奈川県足柄上郡(住所省略)の高速自動車国道第一東海自動車道(通称東名高速道路)下り 54.1キロポスト先の片側3車線道路の第2車両通行帯を,cイン 3分頃,普通乗用自動車を運転し,神奈川県足柄上郡(住所省略)の高速自動車国道第一東海自動車道(通称東名高速道路)下り 54.1キロポスト先の片側3車線道路の第2車両通行帯を,cインターチェンジ方面からdインターチェンジ方面に向かい進行中,東名高速道路下り線eパーキングエリアにおいてC(当時45歳)から駐車方法を非難されたことに憤慨し,同人が乗車するD(当時39歳)運転の普通乗用自動車を停止させようと企て,同自動車道下り54.1キロポスト先道路から同郡(住所省略)同自動車道下り54.8キロポスト先道路の間において,同車の通行を妨害する目的で,第2車両通行帯を走行する同車を重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約100㎞の速度で左側から追い越して同車直前の同車両通行帯上に車線変更した上,減速して自車をD運転車両に著しく接近させ,自車との衝突を避けるために第3車両通行帯に車線変更したD運転車両直前の同車両通行帯上に重大な交通の危険を生じさせる速度である前記速度で車線変更した上,減速して自車をD運転車両に著しく接近させ,自車との衝突を避けるために第2車両通行帯に車線変更したD運転車両直前の同車両通行帯上に重大な交通の危険を生じさせる速度である前記速度で車線変更した上,減速して自車をD運転車両に著しく接近させ,さらに,自車との衝突を避けるために第3車両通行帯に車線変更したD運転車両直前の同車両通行帯上に重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約63㎞の速度で車線変更した上,時速約29㎞まで減速して自車をD運転車両に著しく接近させたことにより,同日午後9時34分頃,Dをして,前記自動車道下り54.8キロポスト先道路に同車を停止することを余儀なくさせ,同日午後9時36分頃,同所において,同車の後方から進行してきた大型貨物自 たことにより,同日午後9時34分頃,Dをして,前記自動車道下り54.8キロポスト先道路に同車を停止することを余儀なくさせ,同日午後9時36分頃,同所において,同車の後方から進行してきた大型貨物自動車前部をE(当時15歳)及びF(当時11歳)が乗車していたD運転車両後部に衝突させて同車を押し出させ,同車左側部をその前方で停止していた自車右後部に衝突させるなどするとともに,これらいずれかの車両をD運転車両付近にいたC及びDに衝突させ,よって,別表(掲載省略)記載のとおり,C及びDをそれぞれ死亡させるとともに,E及びFにそれぞれ傷害を負わせた 2 同日午後9時34分頃,前記自動車道下り54.8キロポスト先路上において,Cの胸ぐらをつかむなどの暴行を加えた(以下第3の1・2を合わせて「第3事件」という。)第4 同年8月21日午後零時30分頃,山口市(住所省略)付近道路を普通乗用自動車を運転して走行中,G(当時44歳)の運転する普通貨物自動車に追い抜かれたことに憤慨し,同車を停車させた上,同人を降車させて文句を言おうと考え,その頃から同日午後零時40分頃までの間,同市(住所省略)付近から同市(住所省略)付近に至るまでの道路上において,同車の進路前方に車線変更した上,減速して自車をG運転車両に接近させ,自車との衝突を避けるためにG運転車両が車線変更すると,同様の車線変更及び減速行為を繰り返し,自車をG運転車両に幅寄せしながら同車の助手席側ドアを手で叩くなどし,同日午後零時40分頃,同所先道路上に同車が停車した後,その前方に自車を停車させ,降車してG運転車両助手席側付近に近づき,その頃から同日午後零時47分頃までの間,同助手席側ドアノブを引っ張るなどし,同助手席側及び運転席側窓ガラスを手で叩きながら,「降りてこいちゃ。」「 車させ,降車してG運転車両助手席側付近に近づき,その頃から同日午後零時47分頃までの間,同助手席側ドアノブを引っ張るなどし,同助手席側及び運転席側窓ガラスを手で叩きながら,「降りてこいちゃ。」「出てこいちゃ。」と怒号するなどして降車を要求し,その要求に応じなければ同人の生命及び身体に危害を加えかねない気勢を示して同人を怖がらせ,もって人に義務のないことを行わせようとしたが,Gが警察に通報したため,その目的を遂げなかった(以下「第4事件」という。)ものである。 (事実認定の補足説明) 1 第3事件について⑴ 争点(主位的訴因について)公訴事実記載の日時場所において,被告人が普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)を運転してD運転の普通乗用自動車(以下「D運転車両」という。)に対し,公訴事実記載の運転行為に及んだこと,被告人車両及びD運 転車両が停車中,D運転車両及び被告人車両に大型貨物自動車が衝突するなどし,公訴事実記載の死傷結果が生じたことには争いがない。また,危険運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律〔以下「自動車運転処罰法」という。〕2条4号)に関し,公訴事実記載の被告人の運転行為のうち,被告人が4度目にD運転車両前方に車線変更した上,減速して自車をD運転車両に著しく接近させるまでの行為が同罪の実行行為に当たることにも争いがなく,同罪の成否に関する争点は,①被告人がD運転車両の直前で自車を停止した行為(以下「直前停止行為」という。)について,重大な交通の危険を生じさせる速度で運転したといえるか否か,②被告人の運転行為とCらの死傷結果との間の因果関係の有無である。 ⑵ 前提となる事実ア eパーキングエリアでの出来事被告人は,平成29年6月5日(以下,本 度で運転したといえるか否か,②被告人の運転行為とCらの死傷結果との間の因果関係の有無である。 ⑵ 前提となる事実ア eパーキングエリアでの出来事被告人は,平成29年6月5日(以下,本項で日付の記載のない時刻は全て同日のものである。)午後9時29分頃,助手席に当時交際していた甲を乗せ,片側3車線の高速自動車国道第一東海自動車道(以下「東名高速道路」という。)下り線をcインターチェンジ方面からdインターチェンジ方面に向かい走行中,eパーキングエリア売店南側出入口前の身体障害者用スロープ付近の道幅4.6mの通路左側に被告人車両(ホンダストリーム。ミラーを広げた時の車幅1.923m。)を駐車し,歩道で喫煙していた。 Dは,前記eパーキングエリアでCと運転を交代して,助手席にE,2列目助手席側にC,3列目にFが乗車するD運転車両(トヨタハイエース。ミラーを広げた時の車幅2.3m。)の運転を始め,通路上に駐車していた被告人車両の右側を低速で通過した際,Cは,D運転車両左側スライドドアを開けて被告人に対し,「邪魔だ,ボケ。」と怒鳴って駐車方法を非難した。 イ D運転車両及び被告人車両の走行状況被告人は,Cから非難されたことに憤慨し,D運転車両を停止させて文 句を言おうと考え,被告人車両を運転してD運転車両を追跡し,東名高速道路下り54.1キロポスト(以下,キロポストの記載は全て東名高速道路下り線のものである。)付近で第2車両通行帯を走行中のD運転車両の後方に追いつき,パッシングしたり蛇行したりした。 被告人車両は,午後9時33分37秒頃から,54.1キロポスト先道路において,第2車両通行帯を走行中のD運転車両を時速約100㎞で第1車両通行帯から(この点は,具体的かつ自然で信用できるEの証言や目撃 人車両は,午後9時33分37秒頃から,54.1キロポスト先道路において,第2車両通行帯を走行中のD運転車両を時速約100㎞で第1車両通行帯から(この点は,具体的かつ自然で信用できるEの証言や目撃者である乙の供述で認定した。これに対し,被告人は「D運転車両を右側から追い越した」と供述するが,信用できるE証言や乙供述等と食い違いがあり,被告人自身興奮して記憶が明確でないことを認めていることから,信用できない。)追い越して,D運転車両の直前の第2車両通行帯に車線変更した後,減速して著しく接近した。D運転車両が被告人車両との衝突を回避するために第3車両通行帯に車線変更すると,被告人車両は,午後9時33分43秒頃から,D運転車両の直前に第2車両通行帯から時速約100㎞で車線変更した後,減速して著しく接近し,D運転車両が衝突を回避するために第2車両通行帯に車線変更すると,午後9時33分47秒頃から,D運転車両の直前に第3車両通行帯から時速約100㎞で車線変更した後,減速して著しく接近した。さらに,被告人車両は,午後9時33分56秒頃から,被告人車両との衝突を避けるために第3車両通行帯に車線変更したD運転車両の直前に第2車両通行帯から時速約63㎞で車線変更した後,午後9時34分00秒には時速約29㎞まで減速して著しく接近した(以下,上記被告人の一連の運転を「4度の妨害運転」という。)。 被告人車両は,その後も減速して,午後9時34分9秒頃,54.8キロポスト先道路の第3車両通行帯上で停止し,その後方約2.2m地点にD運転車両が停止した。 被告人車両とD運転車両が停止した地点の第3車両通行帯は幅3.6m で,第2車両通行帯との間には白色破線で区分線が引かれ,右側には幅0.6mの側帯が設けられている。被告人車両 被告人車両とD運転車両が停止した地点の第3車両通行帯は幅3.6m で,第2車両通行帯との間には白色破線で区分線が引かれ,右側には幅0.6mの側帯が設けられている。被告人車両は前記区分線から第3車両通行帯方向に0.3mの距離に,D運転車両は同区分線から第3車両通行帯方向に1.5mの距離にそれぞれ停車し,いずれの車両もエンジンをかけていたがハザードランプを点滅させず,両車両ともテールランプを点灯させていただけであった。 ウ D運転車両及び被告人車両停止後の状況 被告人は,両車両が停車した後,被告人車両から降車し,スライドドアが開いていたD運転車両2列目助手席側付近へ歩いて行き,Cに対し,「けんか売ってんのか。」「海に沈めるぞ。」「車の方に投げるぞ。」「高速道路上に投げてやろうか。」「殺されたいのか。」などと怒鳴りながら,Cの胸ぐらをつかんで(この点は,信用できるEがその旨証言し,これと符合するF供述,目撃者である丙の供述によって認定した。これに対し,被告人は「Cの二の腕をつかんだが,胸ぐらはつかんでいない」と供述するものの,この点についての被告人供述も,信用できる前記各供述と食い違いがあり,信用できない。)車外に引っ張り出そうとしたり,D運転車両内に上半身を乗り入れてCを車内に押し倒したりした。 これに対し,Cは,「けんか売ってません。すみません。」などと謝罪し,車外に引きずり出されないように,車内にしがみついたり踏ん張ったりし,DやEは,座っていた席から,Cが車外に引きずり出されないように,Cの腕や手をつかみ,被告人に対し,謝罪し,やめるように言うなどした。 甲は,被告人車両から降りてD運転車両付近にいた被告人に近づき,被告人の腰を両手で引っ張ったり,やめるように言ったりした後,泣 をつかみ,被告人に対し,謝罪し,やめるように言うなどした。 甲は,被告人車両から降りてD運転車両付近にいた被告人に近づき,被告人の腰を両手で引っ張ったり,やめるように言ったりした後,泣き出したEをなだめ,子供がいるからやめるよう被告人に言った。 すると,被告人は,Cから手を離し,被告人車両に歩いて戻ろうとし, 甲も後から付いて行った。 他方,被告人車両及びD運転車両が停車していた第3車両通行帯の後方では,同通行帯を走行していた車両が,衝突を避けるために減速や停止をし,第2車両通行帯の車両の流れが途切れた際に同通行帯へ車線変更して通過して行った。 エ事故の発生丁は,大型貨物自動車(三菱ふそうスーパーグレード。以下「丁運転車両」という。)を運転し,前方の大型トラック(キャリアカー)に追従して,第3車両通行帯を進行していたところ,前方の大型貨物自動車が急に左に車線変更し始めた。その後方最大約24mを走行していた丁は,時速約91㎞で走行中,D運転車両の後方最大約53.8m地点で同車両に気付き,急ブレーキをかけると同時に左にハンドルを切ったが,午後9時36分7秒頃,D運転車両後部に衝突し,更にD運転車両の左側部及び丁運転車両が前方に停止していた被告人車両の後部に衝突し,いずれかの車両がD運転車両付近にいたC及びDに衝突した(以下「本件事故」という。)。 なお,丁運転車両は,D運転車両を発見した地点において,制動距離が不足するためD運転車両と衝突せずに停止することは不可能であった上,第2車両通行帯では大型貨物自動車が並走していたため,第2車両通行帯に車線変更することも不可能であった。 本件事故により,C及びDが死亡し,E及びFが負傷し,被告人及び甲も負傷した。 オ付近の当 は大型貨物自動車が並走していたため,第2車両通行帯に車線変更することも不可能であった。 本件事故により,C及びDが死亡し,E及びFが負傷し,被告人及び甲も負傷した。 オ付近の当時の交通量本件事故の現場からdインターチェンジ方向に700m余り先の55.56キロポスト地点に設置された装置によると,本件事故の前後である午後9時30分00秒から午後9時39分59秒までの10分間,第1車両通行帯は平均時速約72㎞から約74㎞で91台,第2車両通行帯は平均時速約8 0㎞から約84㎞で125台,第3車両通行帯は平均時速約96㎞から約100㎞で72台の車両が通行していた。 ⑶ 争点①(直前停止行為の構成要件該当性)についてア検察官は,被告人が,被告人車両を運転中,D運転車両を停止させようと企て,4度の妨害運転後に更に減速して直前停止行為に及んだという一連一体の運転行為が危険運転致死傷罪の実行行為であると主張するが,当裁判所は,被告人の4度の妨害運転は同罪の実行行為に該当するものの,直前停止行為は同罪の実行行為には該当しないと判断したので,その理由について説明する。 イ危険運転致死傷罪が,単に重大な死傷事故を惹起する危険性が高い行為により死傷の結果を生じさせた場合の全てを処罰対象としているわけではなく,そのうちそのような危険性の高い類型の運転行為を実行行為として抽出した上,これに該当する運転行為により人を死傷させた場合に限って特に重く処罰する趣旨であることは,同罪の制定経緯及びその規定の形式から明らかである。 そして,自動車運転処罰法2条4号所定の重大な交通の危険を生じさせる速度(以下「速度要件」という。)とは,通行を妨害する目的で特定の相手方に著しく接近した場合に,自車が相手方と である。 そして,自動車運転処罰法2条4号所定の重大な交通の危険を生じさせる速度(以下「速度要件」という。)とは,通行を妨害する目的で特定の相手方に著しく接近した場合に,自車が相手方と衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に認められる速度又は相手方の動作に即応するなどしてそのような大きな事故になることを回避することが困難であると一般的に認められる速度をいい,その下限は概ね時速約20㎞ないし30㎞程度である。こうした速度要件は,重大な交通の危険を生じさせる速度に至らない速度で割込み運転を行った場合のように重大な死傷の結果を発生させる危険が類型的に高いとまではいえない運転行為を本罪の処罰対象から除外し,本罪の重い処罰に値する程度の当罰性を有する行為を限定する趣旨で設けられている。 そうすると,直前停止行為,すなわち,時速0㎞で停止することが,一般 的・類型的に衝突により大きな事故が生じる速度又は大きな事故になることを回避することが困難な速度であると認められないことは明らかである。 ウこれに対し,検察官は,最低速度が法定され(道路交通法75条の4),停車又は駐車が禁止されている(同法75条の8)という高速道路の特質を考慮すれば,高速道路上においては低速走行や停止行為も速度要件を充たすと主張する。 しかしながら,自動車運転処罰法2条4号の「重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」との文言によれば,運転行為として,自動車を進行させることが要求されると解され,そこに停止まで含まれると読み取ることは,文言の解釈上無理がある。そして,速度要件を求めた自動車運転処罰法の趣旨及び立法経緯からも,停止させることまで含むとする検察官の主張を採用することはできない。 よって,被告人の直前停止行為は同条 ,文言の解釈上無理がある。そして,速度要件を求めた自動車運転処罰法の趣旨及び立法経緯からも,停止させることまで含むとする検察官の主張を採用することはできない。 よって,被告人の直前停止行為は同条号の実行行為には当たらない。 エ以上の検討により,主位的訴因の実行行為について,判示のとおり認定した。 ⑷ 争点②(因果関係の有無)についてア危険運転致死傷罪は,自動車運転処罰法2条各号所定の運転行為により人の死傷結果が生じた場合に成立する結果的加重犯であるところ,その制定経緯や同条の文言に照らせば,運転行為と死亡結果との間に通常の因果関係があれば足り,刑法上の因果関係と別異に解する理由はない。 イところで,弁護人は,直前停止行為が実行行為に含まれないとしても,本件では被告人の4度の妨害運転に内在する危険がCらの死傷結果に現実化したとはいえないから因果関係は認められないと主張するので,以下検討する。 ウまず,eパーキングエリアから54.8キロポスト付近に至るまでの被告人車両の動きをみると,被告人は,同パーキングエリアでCから非難されたことに憤慨し,D運転車両を停止させてCに文句を言いたいとの一貫した意 思のもとで,それ自体D運転車両及びその他の車両の衝突等による重大な人身事故につながる重大な危険性を有する4度の妨害運転に及んだ。そして,被告人は,4度目の妨害運転後にも減速を続けて自車を停止させたものであるから,直前停止行為は4度の妨害運転と密接に関連する行為といえる。 次に,D運転車両の動きをみると,被告人車両の短時間での4回にわたる妨害運転に対し,車線変更するなどして逃れようとするも逃れることができなかったこと,被告人の4度目の妨害運転の際の被告人車両の進入・接近状況,減速状況や当時の交通量からすると, 時間での4回にわたる妨害運転に対し,車線変更するなどして逃れようとするも逃れることができなかったこと,被告人の4度目の妨害運転の際の被告人車両の進入・接近状況,減速状況や当時の交通量からすると,前方の被告人車両の減速に対して回避行動をとることは困難であったといえ,被告人の4度の妨害運転により,D運転車両は停止せざるを得なかったというべきである。さらに,両車両の停車状態からすれば,D運転車両が被告人車両を避けて前方に逃れるのは困難であり,被告人車両がD運転車両の前方に停止したためにD運転車両は停止し続けることを余儀なくされたということができる。また,被告人の妨害運転により,D運転車両を運転するDは恐怖や焦り等から冷静な判断が困難になっていたと認められることからすれば,D運転車両が4度の妨害運転によって第3車両通行帯上に停止し,かつ,停止を継続したことが,不自然,不相当であるとはいえない。 そして,両車両が停車した後,被告人がD運転車両に近づきCに対して胸ぐらをつかむ暴行を加えたり文句を言ったりしたことも,D運転車両を停止させてCに文句を言いたいとの被告人の妨害運転行為開始当初からの一貫した意思に基づくものと認められるから,やはり4度の妨害運転と密接に関連する行為といえる。 さらに,本件事故現場は,片側3車線の高速道路の追越車線に当たる第3車両通行帯で,本件事故現場には照明灯が設置されているとはいえ当時は夜間であったこと,本件事故現場付近は相応の交通量があったことを踏まえれば,高速道路を走行する車両は,通常,車線上に停止車両がないことを前提に 走行しているのであるから,D運転車両の後続車は停止車両の確認が遅れがちとなり,その結果,後続車が衝突を回避する措置をとることが遅れて追突する可能性は高く,かつ,一旦そのよ 提に 走行しているのであるから,D運転車両の後続車は停止車両の確認が遅れがちとなり,その結果,後続車が衝突を回避する措置をとることが遅れて追突する可能性は高く,かつ,一旦そのような事故が発生した場合のCらの生命身体に対する危険性は極めて高かったと認められる。 また,本件事故は,被告人車両及びD運転車両が停止してから2分後,被告人がCに暴行を加えるなどした後,被告人車両に戻る際に発生したもので,前記の追突可能性が何ら解消していない状況下のものであった。 エ以上によれば,本件事故は,被告人の4度の妨害運転及びこれと密接に関連した直前停止行為,Cに対する暴行等に誘発されて生じたものといえる。 そうすると,Cらの死傷結果は,被告人がD運転車両に対し妨害運転に及んだことによって生じた事故発生の危険性が現実化したにすぎず,被告人の妨害運転とCらの死傷結果との間の因果関係が認められる。弁護人の主張は採用できない。 ⑸ よって,第3事件について,主位的訴因である危険運転致死傷罪が成立すると判断した。 2 第1事件について⑴ 被告人及び弁護人は,判示第1記載の日時場所において,被告人が被告人車両を運転して走行し,Aの運転する普通貨物自動車(以下「A運転車両」という。)に追い越されたことに憤慨し,同車を停車させた上,Aに文句を言おうと考え,クラクションを鳴らしたりA運転車両の進路前方に自車を停車させたりしたこと,A運転車両が停車した後,運転席側付近に近づいて同運転席側窓ガラス及びフロントガラスを手で叩いたことは争わないが,被告人は,Aを降車させる考えはなく,パッシングをしたことも,「出て来いや。」などと怒号して降車を要求したこともないと供述し,弁護人も,被告人がAに対し降車を強要した事実はないから,強要未遂罪は成立しな は,Aを降車させる考えはなく,パッシングをしたことも,「出て来いや。」などと怒号して降車を要求したこともないと供述し,弁護人も,被告人がAに対し降車を強要した事実はないから,強要未遂罪は成立しないと主張するので,以下検討する。 ⑵ Aは,当公判廷で,判示第1記載の事実に沿う証言をしているところ,追い 越した後に後方で蛇行し始めた被告人車両が自車を追い抜いて行くように交差点手前で右折車線に入った際の状況等,被害に関する一連の状況について自然で具体的かつ合理的な供述をしていること,被告人の言動に身の危険を感じて110番通報したことと整合すること,被告人とは本件以前に面識がなく,特別な関係もないから虚偽供述の動機がないと認められ,以上によれば,証言の信用性は高いと認められる。 ⑶ これに対し,被告人は,Aの証言に反する供述をしているところ,前記交差点手前でA運転車両が直進車線を進行していたにもかかわらず,右折すると思って,自車を右折車線上で停止させたと述べるなど,不合理で不自然な点が多いことに照らし,信用できない。 ⑷ 以上のとおり,信用できる前記A証言によれば,被告人が判示第1記載のとおりの暴行脅迫を加えてAに対し降車を強要した事実が認められ,A証言から認定できる被告人の暴行態様や脅迫文言に照らせば,強要の故意があったことも明らかであるから,強要未遂罪が成立する。 3 第4事件について⑴ 被告人及び弁護人は,判示第4記載の日時場所において,被告人が普通乗用自動車(以下,本事件において被告人が運転していた車両を「被告人レンタル車両」という。)を運転して走行し,Gの運転する普通貨物自動車(以下「G運転車両」という。)に追い抜かれたことに憤慨し,同車を停車させた上,Gに文句を言おうと考えたこと,G運転車両が停車 人レンタル車両」という。)を運転して走行し,Gの運転する普通貨物自動車(以下「G運転車両」という。)に追い抜かれたことに憤慨し,同車を停車させた上,Gに文句を言おうと考えたこと,G運転車両が停車した後,運転席側付近に近づいて同運転席側窓ガラスを手で叩いたことは争わないが,被告人は,Gを降車させる考えはなく,G運転車両の進路前方に車線変更した上,減速して自車をG運転車両に接近させるなどしたこと,G運転車両の助手席側付近に近づいて助手席側ドアノブを引っ張るなどしたこと,助手席側窓ガラスを手で叩いたこと,「出て来いちゃ。」などと怒号するなどして降車を要求したことはいずれもないと供述し,弁護人も,被告人がGに対し降車を強要した事実はないから,強要未遂罪は成立 しないと主張するので,以下検討する。 ⑵ Gは,当公判廷において,判示第4記載の事実に沿う証言をしているところ,被告人レンタル車両を追い抜いた状況等,被害に関する一連の状況について自然で具体的かつ迫真性のある供述をしていること,被告人の言動に身の危険を感じて110番通報したことと整合すること,被告人とは本件以前に面識がなく,特別な関係もないから,虚偽供述の動機がないと認められ,以上によれば,証言の信用性は高いと認められる。 ⑶ これに対し,被告人は,Gの証言に反する供述をしているところ,被告人が走行中にG運転車両の助手席ドアに触れた態様等,不合理で不自然な点が多いことに照らし,信用できない。 ⑷ 以上のとおり,信用できる前記G証言によれば,被告人が判示第4記載のとおりの暴行脅迫を加えてGに対し降車を強要した事実が認められ,G証言から認定できる被告人の暴行態様や脅迫文言に照らせば,強要の故意を有していたことも明らかであるから,強要未遂罪が成立する。 (法令の適 の暴行脅迫を加えてGに対し降車を強要した事実が認められ,G証言から認定できる被告人の暴行態様や脅迫文言に照らせば,強要の故意を有していたことも明らかであるから,強要未遂罪が成立する。 (法令の適用)被告人の判示第1及び第4の各所為はいずれも刑法223条3項,1項に,判示第2の所為は同法261条に,判示第3の1の所為のうち,危険運転致死の点は被害者ごとに自動車運転処罰法2条4号(人を死亡させた場合)に,危険運転致傷の点は被害者ごとに同法2条4号(人を負傷させた場合)に,判示第3の2の所為は刑法208条にそれぞれ該当するところ,判示第3の1は1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により1罪として刑及び犯情の最も重い別表番号2のDに対する危険運転致死罪の刑で処断することとし,判示第2及び第3の2の各罪についていずれも所定刑中懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第3の1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役18年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中260日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑訴法 181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,Cに駐車方法を非難されたことに憤慨し,被害車両を停止させて文句を言おうと考え,高速道路上で妨害運転に及んで被害車両を第3車両通行帯上に停車させ,その際,Cに暴行を加え,後続の第三者の車両に追突させて死傷させた事案(第3事件),各被害者に追い越されたこと等に立腹して文句を言おうと考え,各車両を停車させ,窓ガラスやフロントガラスを叩くなどしながら怒鳴って降車を強要したが,未遂にとどまった事案(第1事件及び第4事件),被害車両 被害者に追い越されたこと等に立腹して文句を言おうと考え,各車両を停車させ,窓ガラスやフロントガラスを叩くなどしながら怒鳴って降車を強要したが,未遂にとどまった事案(第1事件及び第4事件),被害車両のドアを足蹴りして損壊させた事案(第2事件)である。 まず,量刑の中心となる第3事件についてみると,被告人は,夜間で相応の交通量がある高速道路において,短時間に4回もの妨害運転を行ったもので,それ自体危険な態様である上,その後,被害車両が第3車両通行帯に停止することを余儀なくさせ,さらに,Cに暴行を加えるなどして2分間その場に留め置いたが,当時の付近の交通量や周辺車両の走行状況に照らせば,被害者らの生命・身体に対する危険は極めて高かったと認められる。また,被告人は,何度も止められたにもかかわらず妨害運転や暴行に及んでおり,強固な犯意に基づく執拗な犯行である。 複数人が死傷したという本件の結果は重大で,家族旅行の帰りに,突如その生命を奪われたC及びDの無念さは察するに余りある。両親を一度に失った未成年者Eら遺族の悲しみは深く,被告人に対し厳罰を求めるのも当然である。 被告人は,被害者らが乗車する車両を高速道路上に停止させて文句を言いたいという身勝手かつ自己中心的な動機から短絡的に犯行に及んでおり,酌むべき余地はない。なお,被告人の本件犯行は,eパーキングエリアで被告人がCから非難されたことがきっかけとなっているが,そもそも,被告人が駐車場所に駐車することができたのに通路上に自車を駐車していたことが問題であり,非難を受けたからといって本件犯行に及ぶのは常軌を逸しており,かかる事情を被告人に有利に酌むことはできない。 以上によれば,E及びFの傷害結果が重くはないことを踏まえても,第3事件の危険運転致死傷は,複数人が死傷 のは常軌を逸しており,かかる事情を被告人に有利に酌むことはできない。 以上によれば,E及びFの傷害結果が重くはないことを踏まえても,第3事件の危険運転致死傷は,複数人が死傷した同事案の中でも重い部類に属するものといえる。 次に,第1事件,第2事件及び第4事件についてみると,いずれの犯行も自車が追い越されたこと等に立腹し,各車両を停車させて文句を言いたいという身勝手かつ自己中心的な経緯及び動機に基づくものである。また,第1事件及び第4事件における各車両を停車させるまでの運転態様や各被害者に降車を迫る言動は,各被害者に恐怖感を与えるものである。第2事件の器物損壊の損害額も少額ではない。 以上に加え,被告人が,約3か月半の間に4件の犯行を行ったことは強い非難に値する。 なるほど,被告人は,当公判廷で,第2・第3事件の事実は概ね認め,二度と運転しないなどと反省の弁を述べてはいるが,真摯に反省しているとまでは評価できない。 そうすると,被告人の刑事責任は重大であり,被告人車両が対人・対物無制限の保険に加入しており,今後,第3事件の被害者側に対して相当額の損害賠償が見込まれることなど被告人のために酌むべき事情を考慮しても,主文掲記の刑は免れないところである。 (求刑懲役23年)横浜地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官深沢茂之裁判官伊東智和裁判官澁江美香

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