令和6(わ)55 死体遺棄、詐欺被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年11月5日 山口地方裁判所 岩国支部
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判決文本文3,755 文字)

令和6年11月5日宣告令和6年(わ)第55号、同第64号死体遺棄、詐欺被告事件判決 主文 1 被告人両名をそれぞれ懲役2年6月に処する。 2 被告人両名に対し、この裁判が確定した日から4年間、それぞれその刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実) 被告人両名は、共謀の上、第1 令和6年3月頃、山口県a町b番地cC方において、同居中の実母である前記C(当時77歳)が死亡しているのを認めたのであるから、その死体を埋葬等しなければならない義務があったのに、その頃から同年7月4日までの間、その死体を同所に放置し、もって死体を遺棄し 第2 令和6年3月頃、前記Cが死亡しているのを認めたにもかかわらず、同人が生存しているように装い、同人が受給していた老齢基礎年金、年金生活者支援給付金及び老齢厚生年金をだまし取ろうと考え、同居の親族として、前記Cが死亡した旨を、老齢基礎年金及び年金生活者支援給付金については同人が死亡した日から14日以内に、老齢厚生年金については10日以内に、日本年金機 構を介して厚生労働大臣に届け出なければならないのに、あえて届け出ず、かつ、前記Cの死亡の事実を知った日から7日以内に、同人が死亡した旨をa町役場に届け出なければならないのに、あえて届け出ず、東京都千代田区霞が関1丁目2番2号厚生労働省年金局事業管理課長らに、前記Cが生存しており、同人に前記各年金等の受給権があり、同人に対する前記各年金等の支給義務が あるものと誤信させ、よって、令和6年6月14日、山口県a町d番地株式会 社D銀行E支店に開設された被告人Aが管理する前記C名義の普通預金口座に現金合計14万1995円を振込入金させ、もって人を欺 のと誤信させ、よって、令和6年6月14日、山口県a町d番地株式会 社D銀行E支店に開設された被告人Aが管理する前記C名義の普通預金口座に現金合計14万1995円を振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させたものである。 (証拠の標目)省略 (事実認定の補足説明) 1 被告人Bの弁護人は、判示第1の事実について、①被告人Bは母親であるC(以下「亡C」ということがある。)の死体を放置しただけであり、死体遺棄罪(刑法190条)の遺棄には当たらない、②被告人Bには埋葬義務が認められない、③被告人両名の間には共謀が認められないと、判示第2の事実について、被告人 両名の間には共謀が認められないとして、被告人Bはいずれも無罪であると主張する。また、被告人Aは、判示第2の事実について、詐取金の出し入れは一緒に行っていないから共謀はしていないと述べる。そこで、以下、これらの点について検討を行う。 2 被告人Bの行為が死体遺棄罪の「遺棄」に当たるか 刑法190条は、社会的な習俗に従って死体の埋葬等が行われることにより、死者に対する一般的な宗教的感情や敬虔感情が保護されるべきことを前提に、死体等を損壊し、遺棄し又は領得する行為を処罰することとしたものと解される。 したがって、習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を放棄する行為が死体遺棄罪の「遺棄」に当たると解するのが相当である。そして、法令、慣習等に より埋葬の義務を有する者が、死体のある場所から立ち去るなどしてこれを放置したような場合には、不作為による「遺棄」として、当該行為も死体遺棄罪の「遺棄」に当たると解される。 被告人両名は、令和6年3月頃、母親が死亡したことを認識しながら、布団や毛布をかぶせるのみで3か月以上にわたって死体を自宅の居間に放置 」として、当該行為も死体遺棄罪の「遺棄」に当たると解される。 被告人両名は、令和6年3月頃、母親が死亡したことを認識しながら、布団や毛布をかぶせるのみで3か月以上にわたって死体を自宅の居間に放置しており、 死体が高度に腐敗して一部白骨化し、異臭を放つに至っても、腐敗するままに任 せている。このような長期間の死体の放置は習俗上の埋葬等と相容れないというほかない。そして、被告人両名の行為は前記の不作為による「遺棄」に該当するところ、被告人両名は亡Cの実子であり長年にわたり同居して生活を共にしてきたこと、同居の親族として第一順位の死亡の届出義務を負っていたこと(戸籍法87条1項)からすれば、被告人Bは、被告人Aとともに、法令又は慣習によっ て亡Cの死体の埋葬義務を負っていたと認められる。 したがって、被告人Bの行為は死体遺棄罪の「遺棄」に当たるといえる。 3 被告人両名の間に死体遺棄、詐欺の共謀が認められるか⑴ 関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。 ア被告人両名は、いずれも、母親である亡Cが死亡したことを知りながら、 それを正直に届け出れば同人の年金等が打ち切られて生活できなくなることをおそれ、母親の死亡の事実を隠して年金等を受け取り続けるために、その死体を放置した。 イ被告人両名は、互いに、相手方が母親が死亡したことを知りながらその事実を届け出ていないことを認識しており、届出をしないのは、自分と同様に、 母親の年金等が打ち切られて生活できなくなることをおそれ、母親の死亡の事実を隠して年金等を受け取り続けようとしているからだと考えていた。 ウ被告人Aは、令和6年3月頃にみかんの皮むきの内職の業者が自宅を訪ねてきた際、被告人Bが、母親が生存しているかのように装っていたことを認識していたが 取り続けようとしているからだと考えていた。 ウ被告人Aは、令和6年3月頃にみかんの皮むきの内職の業者が自宅を訪ねてきた際、被告人Bが、母親が生存しているかのように装っていたことを認識していたが、制止することはなかった。 エ亡Cの年金等は被告人Aが一人で管理していたが、被告人Bも被告人両名が当該年金等に頼って生活していることを認識しており、亡Cの死亡後に同人名義の口座に振り込まれた現金についても、被告人両名の生活費として費消された。 ⑵ 以上の事実からすれば、被告人両名は、令和6年3月頃、母親の死体を放置 すること及びその死亡の届出をしないことにより年金等を詐取することについ て互いに意を通じ合い、これに基づいて死体遺棄及び詐欺を共同して実行したというべきであるから、被告人両名の間に黙示の共謀が成立していたと認められる。 4 結論以上のとおり、被告人両名には死体遺棄及び詐欺の共謀共同正犯が成立する。 被告人Bの弁護人が主張するところを踏まえて検討しても、この結論は左右されない。 (法令の適用)被告人両名について罰条 判示第1の事実刑法60条、190条判示第2の事実刑法60条、246条1項併合罪の処理刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第2の罪の刑に刑法47条ただし書の制限内で法定の加重)刑の執行猶予刑法25条1項 訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)まず、死体遺棄についてみるに、被告人両名は、3か月以上にわたって母親の死体を放置し、その結果同死体は高度に腐敗して一部白骨化しており、死者に対する敬虔感情が害された程度は相応に大きい。詐欺についても、実行行為自体は不作為 るに、被告人両名は、3か月以上にわたって母親の死体を放置し、その結果同死体は高度に腐敗して一部白骨化しており、死者に対する敬虔感情が害された程度は相応に大きい。詐欺についても、実行行為自体は不作為 によるものであるとはいえ、被告人両名は自宅を訪ねてきた内職の業者や電話をかけてきた兄に対しそれぞれ嘘を言って母親が生存しているかのように装い、死亡の事実が発覚するのを遅らせようとしており、悪質である。被告人両名は、母親の死亡を認識したにもかかわらず、同人の年金等がなければ生活ができないという理由で本件各犯行に及んでおり、そのような利欲的かつ身勝手な動機に酌量の余地はな い。なお、被告人両名は、ともに母親の死亡を認識しながら死体を放置しており、 詐取した金銭についても両名の生活費に充てられているところ、その行為責任に有意な差は認められない。 他方で、詐欺事件について全額被害弁償がされていること、被告人両名が客観的事実を認めて反省の態度を示していること、被告人両名には前科がないことなど、被告人両名にとって有利な情状事実も認められる。また、被告人両名が本件各犯行 に及ぶに至ったのは生活の困窮によるところが大きいといえるが、被告人両名に対しては今後行政による支援が見込まれ、生活を立て直して更生を遂げることが期待できる。そこで、これらの事情も考慮し、被告人両名に対しては、今回に限りその刑の執行を猶予することとして、社会内で更生の機会を与えることとした。 (検察官生貝由香里、弁護人小澤亮平(国選)、出口裕理(国選)各出席) (求刑・被告人両名につき懲役2年6月)令和6年11月5日山口地方裁判所岩国支部 裁判官佐野東吾 主文 (求刑・被告人両名につき懲役2年6月) 理由 令和6年11月5日山口地方裁判所岩国支部 裁判官佐野東吾

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