平成24(わ)2538 覚せい剤取締法違反,関税法違反

裁判年月日・裁判所
平成25年5月29日 大阪地方裁判所
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判決文本文5,917 文字)

主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件公訴事実本件公訴事実は,「被告人は,氏名不詳者らと共謀の上 1 営利の目的で,みだりに,平成24年5月8日,大阪府所在の関西国際空港において,同空港関係作業員らをして,覚せい剤(フエニルメチルアミノプロパン塩酸塩)約7899.7グラム在中の機内手荷物であるスーツケースを,アラブ首長国連邦ドバイ国際空港発エミレーツ航空第316便から搬出させ,上記覚せい剤を本邦に輸入した 2 同日,前記関西国際空港内大阪税関関西空港税関支署旅具検査場において,輸入してはならない貨物である上記覚せい剤を上記スーツケース内に隠匿して同支署税関職員の検査を受けたが,同職員に発見されたため,これを輸入するに至らなかったものである。」というものである。 第2 争点など本件公訴事実のうち,被告人が,平成24年5月8日,覚せい剤約7899.7グラム在中のスーツケースを日本に持ち込んだという事実については争いがなく,証拠上も明らかである。 主たる争点は,被告人に覚せい剤の認識があったかどうかである。 検察官は,被告人がスーツケースの中に,覚せい剤などの違法薬物が隠されているかもしれないと思いながら,あえてこれを持ち込んだと主張する。 裁判所は,証拠を十分検討しても,被告人が,スーツケースの中に覚せい剤を含む違法薬物が隠されているかもしれないと思いながら,あえてこれを持ち込んだと認めることについては,常識に照らし,疑いが残ると判断した。 第3 無罪の理由 1 被告人が持ち込んだ覚せい剤の量や隠されていた状況等について 証拠によれば,本件の覚せい剤は合計約7899.7グラムで,コーヒー豆の袋20袋の中に分けて隠されており,そのコーヒー豆の袋は,スーツケースの下蓋3分の せい剤の量や隠されていた状況等について 証拠によれば,本件の覚せい剤は合計約7899.7グラムで,コーヒー豆の袋20袋の中に分けて隠されており,そのコーヒー豆の袋は,スーツケースの下蓋3分の2ほどの広さを占める形で入れられていたこと,スーツケースは被告人の所有物であり,スーツケースの中に入れられていたコーヒー豆の袋以外の荷物もすべて被告人のものであったことが認められる。また,覚せい剤が大量であることや,覚せい剤がコーヒー豆の袋の中に巧妙に隠されていた状況から,この覚せい剤の密輸には海外の密売組織が関与していたことが認められる。  この密輸を企てた者は,日本国内で覚せい剤を密売し,多額の利益を取得しようと目論んでおり,このような大量の覚せい剤を確実に回収するためには,通常であれば,運び役との間で覚せい剤に関する情報を共有していると考えられる。また,人は自分が所持するスーツケースの中身が何であるのか認識しているのが一般的である。そうすると,被告人は,本件覚せい剤の存在を認識していたとも思われる。 しかし,運び役の特性等によっては,密売組織が,運び役に事情を一切伝えることなく,覚せい剤を隠した荷物を運ばせて密輸入を企てる場合もあり得る(なお,検察官は,被告人が帰国した際に密売組織からの接触がなかったことから,事前に運び役である被告人自身に何らかの事情を伝えていたと考えるのが自然であるとも主張している。しかし,密売組織が帰国した被告人に接触しようとしていないことについては証拠上明らかでないから,この主張は採用できない。)。 ところで,被告人は,覚せい剤がスーツケースの中に入っていることは知らなかったと述べているので,以下,検討する。 2 ウガンダ旅行に至った経緯や旅行中の出来事について  被告人は,概ね次のとおり供述 告人は,覚せい剤がスーツケースの中に入っていることは知らなかったと述べているので,以下,検討する。 2 ウガンダ旅行に至った経緯や旅行中の出来事について  被告人は,概ね次のとおり供述している。 ア平成24年4月20日頃(以下,「平成24年」の記載は省略する。),約半年間交際し,4月から同棲をしていたAから,一緒に母国であるウガンダへ行くことを誘われ,4月30日からウガンダに旅行に行っていた。 イ 5月7日(現地時間)の朝,Aから,ホテルで突然,今日,日本に帰国すると言われ,急かされながらスーツケースに自分の荷物を乱雑に詰めた。その後,Aの実家に行った。被告人がスーツケースの中のドライヤーを出し入れしたとき,Aから,荷物の詰め方が下手くそだから詰め直してあげるなどと言われ,Aが被告人の荷物を詰め直した。その間,被告人は,Aとは別の部屋で食事や化粧等をしていて,Aが詰め直しをする様子は見ていなかった。 ウその後,Aとともにウガンダのエンテベ国際空港に向かっていたところ,途中でAの父親が亡くなったという連絡が入り,Aから言われて,急きょ,一人で日本に帰国することになった。 エエンテベ空港で,Aに対し,スーツケースの中に被告人の荷物以外のものが入っていないか尋ねると,Aは,「コーヒーが少し入っている」と答えた。被告人は,ウガンダ滞在中,スーパーマーケットでAがコーヒー豆を四,五袋買っていた際,被告人の父親であるBへの土産に一袋もらえるという話になっていたため,それらを入れてくれたものと理解した。 オ Aが実家で荷物を詰め直してから,関西国際空港で税関検査を受けるまでの間,被告人がスーツケースの中を見たことはなかった。  このような被告人の供述は,急きょ,一人で帰国することになったとの電話連絡を受けた父Bの証言 直してから,関西国際空港で税関検査を受けるまでの間,被告人がスーツケースの中を見たことはなかった。  このような被告人の供述は,急きょ,一人で帰国することになったとの電話連絡を受けた父Bの証言内容と合っているし,逮捕から2日後に行われた検察官による弁解録取の際の発言内容とも主要な部分が一致しており, 一貫している。また,実際に体験した者でなければ語ることができないような具体性や現実味があり,作り話であるとは思われない。 特に,エンテベ空港で,Aに対し,被告人の荷物以外のものが入っていないか尋ねると,「コーヒーが少し入っている」とAが答えたという部分は,本件争点を判断する上で,重要なポイントになっている。旅行に出かける前に,父親から他人の物を持ってはいけないと注意されていたことや,もし,Aの靴などが入っていたらAが困ると思って,確認の質問をしたというのは合理的である。そして,このことは,Aの実家でAが荷物を詰め直すところを見ていなかったからこその会話であるといえる。次に,被告人が,税関検査を受けた際,確認票の余白部分に「コーヒ豆」と記載したこととも符合する。すなわち,この記載は,コーヒーが少し入っているということを聞いていただけで,実際には目で確認していなかったため,コーヒーが本当に入っているのかどうか,何袋入っているのか正確なことが分からず気になっており,「1.これらはすべてあなたの荷物ですか?」という問いに対して,どのように記載すべきか迷っていたため,税関職員に相談した上で,「コーヒ豆」と記載したという被告人の供述内容に符合するものである。 このように被告人の供述内容は,その前後の流れをみても自然な経過であり整合性を有している。 他方,被告人の法廷での供述には,検察官が指摘するとおり,その一部において,違法薬物の認 るものである。 このように被告人の供述内容は,その前後の流れをみても自然な経過であり整合性を有している。 他方,被告人の法廷での供述には,検察官が指摘するとおり,その一部において,違法薬物の認識に関連する事柄には触れないようにする部分が若干みられたり,捜査段階の供述と細かい点で違っている部分もあるが,被告人の供述全体の信用性を低下させるほどのものではない。 そうすると,被告人の供述内容は基本的には信用することができるといえるから,上記でみた被告人の供述どおりの事実を認定できる。  これに対し,検察官は,①被告人は,出発前に,父親から他人の荷物を 持ってはいけないなどと注意されており,Aが被告人のスーツケースにAの荷物を入れるのを目の前でさせたのであるから,ウガンダの実家でAが荷造りをし直す様子を見ていないのは不自然である,②空港でAからコーヒーが少し入っていると告げられながらスーツケースの中身を確認していないのは不自然であるから,被告人は,中身を確認していたはずであると主張する。 しかし,確かに他人の物を持ってはいけないなどという父親の注意はあったものの,①被告人の認識としては,Aは,ウガンダの実家では被告人の荷物を詰め直すだけであり,日本を出国する前にAの物を被告人のスーツケースに入れていた場面とは状況が異なる。加えて,被告人は,当時同棲していたAのことを信用して特に疑っていなかったのであるから,詰め直しの様子や詰め直しした後の状態を確認していないことは必ずしも不自然であるとはいえない。②また,海外旅行に慣れていない被告人が,急きょ,一人で帰国することになり,混乱した心理状態にあったことや,実際にスーパーマーケットで,Aがコーヒー豆を買っている場面を見ており,父親のためにコーヒー豆を土産にもらうことになっていたと が,急きょ,一人で帰国することになり,混乱した心理状態にあったことや,実際にスーパーマーケットで,Aがコーヒー豆を買っている場面を見ており,父親のためにコーヒー豆を土産にもらうことになっていたという経緯からすれば,空港でスーツケースの中身を確認しなかったとしても,不自然であるとはいえない。  また,検察官は,被告人の供述によると,ウガンダ滞在中に民族衣装の採寸や音楽ビデオの撮影をするために,Aの仕事先関係者が被告人のウガンダへの渡航費用を負担してくれたというのであるが,そのような仕事を被告人はウガンダでしていないから,渡航目的に関する供述は不自然であるなどと主張する。 しかし,被告人は,Aの家族に会うことや,Aが民芸品の買い付けをすることも,ウガンダへ渡航した目的に含まれていたと述べており,この供述の信用性も否定できない。 そして,Aの仕事先関係者が渡航費用を負担した点は,常識的に考えれば,被告人において,疑問を抱いてもおかしくはないといえる。 もっとも,金銭感覚が甘く,両親から多額の金を受け取ることにさしたる抵抗感のない被告人において,交際していたAの仕事先関係者に渡航費用を負担してもらうことについて違和感を感じていなかったとしても,不自然であるとまではいえない。また,仮に違和感を感じたとしても,渡航費用の見返りに違法行為に加担させられるとか,ましてや違法薬物の密輸に関与するかもしれないとの認識があったと直ちに結びつけることはできない。 3 税関検査時の被告人の言動について 税関職員であるC及びDの証言は基本的に信用できるところ,その証言によれば,次のような事実が認められる。すなわち,被告人は,検査台での税関検査の際,終始笑顔であり,Cに対し,実際には覚せい剤が入っていたコーヒー豆の袋のことを自ら話 に信用できるところ,その証言によれば,次のような事実が認められる。すなわち,被告人は,検査台での税関検査の際,終始笑顔であり,Cに対し,実際には覚せい剤が入っていたコーヒー豆の袋のことを自ら話題に出し,確認票を記載する際にもコーヒー豆の扱いについてCに質問し,余白に「コーヒ豆」と記載している。また,スーツケースの中を確認することになった際には,求められる前に自ら鍵を差し出している。第2検査室に移動した後,エックス線検査やコーヒー豆の袋の開披検査を行う旨告げられた際も,淡々とあるいは平然としており,職員から,エックス線検査での映り方がおかしいと告げられた際や,Dから,コーヒー豆の袋から出てきた覚せい剤について,これは何かと尋ねられた際も,笑顔を見せて応対している。 被告人の様子が変わったのは,関税法違反により被告人の荷物や身体を捜索すると告げられ,帰宅も父親への連絡もできないと分かったときである。 このような被告人の税関検査の際の一連の言動は,スーツケースの中に覚せい剤などの違法薬物が隠されているかもしれないと思っている者の行動とは通常考え難いものである。  検察官は,被告人が,携帯品・別送品申告書の「他人から預かったもの」を持っていますかとの問いに「いいえ」と答えていること,聞かれてもいないのに,「荷物を詰めたのは彼です」と発言していること,確認票の「荷物の中身をすべて知っていますか?」に「いいえ」と答えていることは,違法薬物が隠されているかもしれないと分かっていたことの現れであると主張する。 被告人のこれらの言動を,検察官が主張するように解釈することも可能ではあるが,被告人が自らの認識や経験したことを素直に表現している可能性もある。そうすると,検察官が主張するような意味だけに被告人の言動を解釈することはできない。 が主張するように解釈することも可能ではあるが,被告人が自らの認識や経験したことを素直に表現している可能性もある。そうすると,検察官が主張するような意味だけに被告人の言動を解釈することはできない。  その他,税関検査時の被告人の言動に,覚せい剤などの違法薬物が隠されているかもしれないと認識していたことをうかがわせるようなものは見当たらない。 4 結論以上によれば,被告人は,密売組織に一方的に運び役として利用された可能性があり,被告人において,スーツケースの中に覚せい剤などの違法薬物が隠されているかもしれないと思いながら,あえて持ち込んだこと,すなわち,覚せい剤密輸の故意があったと認めるには,常識に照らして,疑いが残る。 よって,本件公訴事実については,その他の点について判断するまでもなく,犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により,被告人に対し,無罪の言渡しをする。 (検察官の求刑懲役12年,罰金600万円,覚せい剤20袋の没収)平成25年6月5日大阪地方裁判所第7刑事部 裁判長裁判官島田 一裁判官諸岡亜衣子                裁判官      山下真吾

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