- 1 -平成31年1月10日判決言渡平成27年(行ウ)第266号障害基礎年金支給停止処分取消請求事件主文 1 厚生労働大臣が原告に対し平成26年2月5日付けでした障害基礎年金支給停止処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要 本件は,障害の状態が国民年金法施行令(以下「国年令」という。)別表に定める障害等級2級に該当するとして障害基礎年金の支給を受けていた原告が,厚生労働大臣から,原告の障害の状態が障害等級2級に該当しなくなったとして,平成26年2月5日付けで,障害基礎年金の支給停止処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,被告を相手に,本件処分の取消しを求める事案である。 1 関係法令の定め等⑴ 障害基礎年金の支給及び支給停止ア障害基礎年金の支給疾病にかかり,又は負傷し,かつ,その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)について初めて医師又は歯科医師の 診療を受けた日(以下「初診日」という。)において被保険者であった者が,当該初診日から起算して1年6月を経過した日(その期間内にその傷病が治った場合においては,その治った日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。)とする。)において,その傷病により国民年金法(以下「国年法」という。)30条2項に規 定する障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときは,障害基礎年 - 2 -金が支給される(国年法30条1項1号)。 イ障害基礎年金の支給停止障害基礎年金は,受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったときは,原則として,その障害の状態に該当しない間,その支給を停止する 0条1項1号)。 イ障害基礎年金の支給停止障害基礎年金は,受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったときは,原則として,その障害の状態に該当しない間,その支給を停止する(国年法36条2項本文)。 ⑵ 障害等級の定め等ア国年法30条2項は,障害等級は,障害の程度に応じて重度のものから1級及び2級とし,各級の障害の状態は,政令で定める旨規定する。 イ国年令4条の6は,国年法30条2項に規定する障害等級の各級の障害の状態は別表に定めるとおりとする旨規定し,同別表は,障害等級2級の 障害の状態として,以下のものを掲げる。 (ア) 一下肢の機能に著しい障害を有するもの(12号)(イ) 1号から14号までに掲げるもののほか,身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が上記各号と同程度以上と認められる状態であって,日常生活が著しい制限を受けるか,又は日常生活に著 しい制限を加えることを必要とする程度のもの(15号)ウ厚生年金保険法47条2項は,同条1項所定の障害厚生年金に係る障害等級について,障害の程度に応じて重度のものから1級,2級及び3級とし,各級の障害の状態は,政令で定める旨規定する。 厚生年金保険法施行令(以下「厚年令」という。)3条の8は,厚生年 金保険法47条2項に規定する障害等級の各級の障害の状態は,1級及び2級についてはそれぞれ国年令別表に定める1級及び2級の障害の状態とし,3級については厚年令別表第1に定めるとおりとする旨規定し,同別表は障害等級3級の障害の状態として,以下のものを掲げる(以下,国年令で定める障害等級1級を「障害等級1級」,同令で定め る障害等級2級を「障害等級2級」,厚年令で定める障害等級3級を - 3 -「障害等級3級 態として,以下のものを掲げる(以下,国年令で定める障害等級1級を「障害等級1級」,同令で定め る障害等級2級を「障害等級2級」,厚年令で定める障害等級3級を - 3 -「障害等級3級」という。)。 (ア) 一下肢の3大関節のうち,2関節の用を廃したもの(6号)(イ) 1号から11号までに掲げるもののほか,身体の機能に,労働が著しい制限を受けるか,又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの(12号) エ障害等級の認定は,実務上,「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(昭和61年3月31日庁保発第15号社会保険庁年金保険部長通知。本件において適用されるのは平成25年6月1日改正後のもの。以下,単に「障害認定基準」という。)に従って行われているところ,その主な内容は以下のとおりである(乙1,3の2)。 (ア) 障害の程度障害の程度を認定する場合の基準となるものは,国年令別表,厚年令別表第1に規定されているところであるが,その障害の状態の基本は,次のとおりである(障害認定基準第2の1)。 a 1級 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとする。この日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度とは,他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度のものである。 例えば,身のまわりのことはかろうじてできるが,それ以上の活動 はできないもの又は行ってはいけないもの,すなわち,病院内の生活でいえば,活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるものであり,家庭内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね就床室内に限られるものである。 b 2級 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とす ,活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるものであり,家庭内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね就床室内に限られるものである。 b 2級 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,日常 - 4 -生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。この日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは,必ずしも他人の助けを借りる必要はないが,日常生活は極めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のものである。 例えば,家庭内の極めて温和な活動(軽食作り,下着程度の洗濯等)はできるが,それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの,すなわち,病院内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね病棟内に限られるものであり,家庭内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものである。 c 3級労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。 また,「傷病が治らないもの」にあっては,労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものとする(「傷病 が治らないもの」については,第3の第1章に定める障害手当金に該当する程度の障害の状態がある場合であっても3級に該当する。)。 (イ) 認定の方法(障害認定基準第2の3)障害の程度の認定は,診断書及びX線フィルム等添付資料により行う。 ただし,提出された診断書等のみでは認定が困難な場合又は傷病名と 現症あるいは日常生活状況等との間に医学的知識を超えた不一致の点があり整合性を欠く場合には,再診断を求め又は療養の経過,日常生活状況等の調査,検診,その他所要の調査等を実施するなどして,具体的 現症あるいは日常生活状況等との間に医学的知識を超えた不一致の点があり整合性を欠く場合には,再診断を求め又は療養の経過,日常生活状況等の調査,検診,その他所要の調査等を実施するなどして,具体的かつ客観的な情報を収集した上で,認定を行う。また,原則として,本人の申立等及び記憶に基づく受診証明のみでは判断せず,必ず,その裏付 けの資料を収集する。 - 5 -障害の程度の認定は,上記(ア)の障害の程度に定めるところに加え,第3の第1章「障害等級認定基準」に定めるところにより行うものとする。 なお,同一人について,2以上の障害がある場合の障害の程度の認定は,第3の第1章「障害等級認定基準」に定めるところによるほか,第 3の第2章「併合等認定基準」(以下,単に「併合等認定基準」という。)に定めるところにより行う。 (ウ) 肢体の障害に係る障害等級認定基準障害認定基準の「第3 障害認定に当たっての基準」「第1章障害等級認定基準」「第7節肢体の障害」は「第1 上肢の障害」(以下 「第7節第1(上肢の障害)」という。),「第2 下肢の障害」(以下「第7節第2(下肢の障害)」という。),「第3 体幹・脊柱の機能の障害」及び「第4 肢体の機能の障害」(以下「第7節第4(肢体の機能の障害)」という。)から成り,その主な定めは別添1のとおりである。 (エ) 併合等認定基準併合等認定基準第2節は,二つの障害が併存する場合について,個々の障害について,併合判定参考表(別表1)における該当番号を求めた後,当該番号に基づき併合(加重)認定表(別表2)による併合番号を求め,障害の程度を認定する旨定めているところ,同各別表は別添2及 び別添3のとおりである。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠 づき併合(加重)認定表(別表2)による併合番号を求め,障害の程度を認定する旨定めているところ,同各別表は別添2及 び別添3のとおりである。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠等により容易に認定することができる事実)⑴ 傷病の発生等原告(昭和36年▲月▲日生まれの男性)は,平成15年1月6日頃,右 脳内出血を発症し,医師の診療を受けたが,その後,左片麻痺の後遺症が残 - 6 -り,その症状は固定した(甲1,乙6,弁論の全趣旨)。 ⑵ 障害基礎年金の支給開始等ア原告は,平成18年6月30日,厚生労働大臣に対し,障害基礎年金の裁定請求をした(乙6)。 イ厚生労働大臣は,平成18年8月24日,原告に対し,受給権発生年月 日(障害認定日)を平成16年7月6日とする障害等級2級(15号)の障害基礎年金の裁定(以下「当初裁定」という。)をし,併せて,平成20年から5年ごとに障害の現状に関する診断書の提出を求める旨指定した(甲2,乙6,弁論の全趣旨)。 ウ原告は,平成20年10月15日,当時の社会保険庁天王寺社会保険事 務所に障害状態確認届を提出したところ,厚生労働大臣は,原告の障害の状態を確認し,次回診断書の提出期限を平成25年10月31日とする旨を通知した(甲4,5)。 ⑶ 本件処分ア原告は,平成25年10月9日,日本年金機構天王寺年金事務所に同月 5日現症の診断書(甲5。以下「本件診断書」という。)を提出した。 イ厚生労働大臣は,本件診断書を審査した結果,原告の障害の状態が障害等級2級に該当しなくなった(3級の状態に該当した)として,平成26年2月5日付けで,原告に対し,同月から障害基礎年金の支給を停止する旨の本件処分をした(甲6)。 ⑷ 審査請求等ア 害等級2級に該当しなくなった(3級の状態に該当した)として,平成26年2月5日付けで,原告に対し,同月から障害基礎年金の支給を停止する旨の本件処分をした(甲6)。 ⑷ 審査請求等ア原告が,平成26年3月24日,近畿厚生局社会保険審査官に対し,本件処分について審査請求をしたところ,同審査官は,同年8月15日付けで原告の上記審査請求を棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)をした(甲10,13)。 本件決定では,原告の障害の状態につき,左上肢は,第7節第4(肢体 - 7 -の機能の障害)の認定要領(以下,単に「認定要領」ということがある。)⑸イの「日常生活における動作の多くが「一人で全くできない場合」又は日常生活における動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」」に相当すると認められるが,左下肢は,同ウの「日常生活における動作の一部が「一人で全くできない場合」又はほとんどが 「一人でできてもやや不自由な場合」」に相当すると認められ,これらにより左上肢と左下肢の障害の程度を総合的に判断すると,2級の程度とされる例示の「一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」に相当すると認めることは困難であるとされた(甲10)。 イ原告が,平成26年9月2日,社会保険審査会に対し,本件処分につい て再審査請求をしたところ,同審査会は,平成27年2月27日付けで原告の上記再審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした(甲11,14,乙7)。 本件裁決では,原告の障害の状態を第7節第4(肢体の機能の障害)に照らして検討し,「左上肢の筋力は,肩及び肘関節がいずれも半減,前 腕及び手関節がいずれも著減とされ,左下肢の筋力はすべて著減とされているものの,左上下肢の関節の他動 4(肢体の機能の障害)に照らして検討し,「左上肢の筋力は,肩及び肘関節がいずれも半減,前 腕及び手関節がいずれも著減とされ,左下肢の筋力はすべて著減とされているものの,左上下肢の関節の他動可動域はすべて正常とされ,日常生活における動作の障害の程度は,左上肢関連の動作については,タオルを絞る(両手),ひもを結ぶ(両手),さじで食事をする,用便の処置をする(ズボンの前のところに手をやる/尻のところに手をやる)は, 一人で全くできない,つまむ,握るは,一人でできるが非常に不自由とされているが,顔を洗う,上衣の着脱(かぶりシャツを着て脱ぐ/ワイシャツを着てボタンをとめる)(両手)は,一人でできてもやや不自由な程度とされており,左下肢関連の動作については,片足で立つは,一人で全くできないとされているが,歩く(屋外)は,一人でできてもや や不自由,階段を上る・下りるは,手すりがあればできるがやや不自由 - 8 -な程度で,歩く(屋内)は,一人でうまくできる,立ち上がるは,支持なしでできるとされているのであるから,このような状態は,上記肢体の機能の障害で2級に相当すると認められる例示「一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」に該当しないし,「四肢に機能障害を残すもの」にも該当しない。」などとされ,更に「なお」として,障 害が重い左上肢の障害について,第7節第1(上肢の障害)に照らした検討がされ,「「一上肢の機能に著しい障害を有するもの」すなわち「一上肢の用を全く廃したもの」に該当しないのは明らかである。」とされた(甲11)。 ⑸ 本件訴えの提起 原告は,平成27年8月25日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。 3 争点⑴ 本件処分時(平成26年2月5日)における原告の障害の状態が障害等級 (甲11)。 ⑸ 本件訴えの提起 原告は,平成27年8月25日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。 3 争点⑴ 本件処分時(平成26年2月5日)における原告の障害の状態が障害等級2級に該当しなかったかア第7節第4(肢体の機能の障害)により判断した場合の原告の障害等級 (争点1)イ第7節第2(下肢の障害)により原告の障害等級を判断することの適否及びその場合の原告の障害等級(争点2)ウ併合等認定基準により原告の障害等級を判断することの適否及びその場合の原告の障害等級(争点3) ⑵ 本件処分につき裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるか(争点4) 4 争点に関する当事者の主張⑴ 争点1(第7節第4(肢体の機能の障害)により判断した場合の原告の障害等級)について(被告の主張) ア原告の障害の程度の判断に用いるべき障害認定基準 - 9 -認定要領⑴によれば,肢体の障害が上肢及び下肢などの広範囲にわたる障害(脳血管障害,脊髄損傷等の脊髄の器質障害,進行性筋ジストロフィー等。以下「多発性障害」という。)の場合には,第7節第4(肢体の機能の障害)により認定することとされているところ,原告の障害は右脳内出血による左片麻痺であるから,原告の障害の程度は第7節第4 (肢体の機能の障害)を用いて判断すべきである。 イ原告の障害の状態認定要領⑵によれば,肢体の機能の障害の程度は,関節可動域,筋力,巧緻性,速さ,耐久性を考慮し,日常生活における動作の状態から身体機能を総合的に認定するとされているところ,本件診断書及び原告本人 尋問の結果等によれば,本件処分時(平成26年2月5日)における原告の障害の状態は,以下のとおりである。 (ア) 左上肢の状態原告の左上肢につき,手 ているところ,本件診断書及び原告本人 尋問の結果等によれば,本件処分時(平成26年2月5日)における原告の障害の状態は,以下のとおりである。 (ア) 左上肢の状態原告の左上肢につき,手指の機能と上肢の機能の障害の程度を見ると,両手で「タオルを絞る(水をきれる程度)」及び左手で「さじで食事を する」が「一人で全くできない場合」に該当し,両手で「ひもを結ぶ」並びに左手で「つまむ(新聞紙が引き抜けない程度)」,「握る(丸めた週刊誌が引き抜けない程度)」,「用便の処置をする(ズボンの前のところに手をやる)」及び「用便の処置をする(尻のところに手をやる)」が「一人でできるが非常に不自由な場合」に当たる。 なお,本件診断書の「⑬ 日常生活における動作の障害の程度」欄(以下「⑬欄」という。)においては,「ひもを結ぶ」,「用便の処置をする(ズボンの前のところに手をやる)」及び「用便の処置をする(尻のところに手をやる)」が「一人で全くできない場合」に該当すると記載されているが,後記(ウ)の観点から原告本人尋問の結果も踏まえ て判断すれば,いずれも,せいぜい「一人でできるが非常に不自由な場 - 10 -合」にとどまる。 他方で,両手で「上衣の着脱(かぶりシャツを着て脱ぐ)」及び「上衣の着脱(ワイシャツを着てボタンをとめる)」並びに左手で「顔を洗う(顔に手のひらをつける)」については,「一人でできてもやや不自由な場合」に該当する。 また,本件診断書においては,左手の握力が「4kg」とされているものの,指関節の他動可動域は全て「正常可動域」とされていること,関節可動域及び筋力について,左の肩関節から手関節までのいずれも,他動可動域は「正常」とされ,強直肢位に関する記載がなく,左の前腕及び手関節の筋力は「著減 動域は全て「正常可動域」とされていること,関節可動域及び筋力について,左の肩関節から手関節までのいずれも,他動可動域は「正常」とされ,強直肢位に関する記載がなく,左の前腕及び手関節の筋力は「著減」とされているが,左の肩関節及び肘関節の 各筋力は「半減」とされている。 以上を総合すると,原告の左上肢の機能の障害の程度については,「機能に相当程度の障害を残すもの」に相当する「日常生活における動作の多くが「一人で全くできない場合」又は日常生活における動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」」(認定要領⑸イ)に 該当するということはできず,せいぜい「機能障害を残すもの」に相当する「日常生活における動作の一部が「一人で全くできない場合」」(同ウ)にとどまるというべきである。 (イ) 左下肢の状態原告の左下肢の機能については,左足で「片足で立つ」が「一人で全 くできない場合」に該当するが,「歩く(屋内)」及び「歩く(屋外)」については,「一人でうまくできる場合」又は「一人でできてもやや不自由な場合」のいずれかに当たり,「階段を上がる」及び「階段を下りる」についても「手すりがあればできるがやや不自由な場合」にとどまる。 そうすると,原告の左下肢の機能の障害の程度についても,「機能障 - 11 -害を残すもの」に相当する「日常生活における動作の一部が「一人で全くできない場合」」(認定要領⑸ウ)にとどまるというべきである。 (ウ) 日常生活における動作の状態の評価方法について以上に対し,原告は,動作を実際に完遂することができるかという観点から,「用便の処置をする(ズボンの前のところに手をやる)」及び 「用便の処置をする(尻のところに手をやる)」は「一人で全くできない場合」に該当し,「顔を洗 際に完遂することができるかという観点から,「用便の処置をする(ズボンの前のところに手をやる)」及び 「用便の処置をする(尻のところに手をやる)」は「一人で全くできない場合」に該当し,「顔を洗う」は「一人で全くできない場合」か,少なくとも「一人でできるが非常に不自由な場合」に該当する旨主張する。 しかしながら,第7節第4(肢体の機能の障害)において日常生活における動作の状態を評価することとしているのは,①握力,関節可動域 及び筋力という客観数値で示された評価結果の妥当性を,日常生活における動作の状態と照合し,これらが整合しているかどうかを確認するとともに,②中枢性疾患(例えば,原告のような脳血管障害による片麻痺で,上肢,手指及び下肢の全てに運動障害を有し,かつ,筋緊張異常や感覚障害などのために,個々の関節の可動域や筋力の評価のみでは,実 際の障害の程度を正確に評価することができない病態)においては,日常生活における動作の状態を評価することによって,実際の障害の程度を正確に評価する必要があるためである。このような趣旨・目的を踏まえると,診断書の⑬欄においては,「⑩ 手(足)指関節の他動可動域」欄で問題にしている母指,示指,中指,環指及び小指の各運動,並びに 「⑪ 関節可動域及び筋力」欄で問題にしている肩関節,肘関節,前腕,手関節,股関節,膝関節及び足関節の各運動がそれぞれ行えているかどうかを評価することになる。これを,日常生活における動作のうち上肢の機能に関連する動作を例にとって説明すると,「さじで食事をする」動作では一上肢全体(肩関節,肘関節,手関節及び指)の総合的な能力 を,「顔を洗う(顔に手のひらをつける)」動作では一上肢全体(肩関 - 12 -節,肘関節,手関節及び指)の総合的な能力並びに前 一上肢全体(肩関節,肘関節,手関節及び指)の総合的な能力 を,「顔を洗う(顔に手のひらをつける)」動作では一上肢全体(肩関 - 12 -節,肘関節,手関節及び指)の総合的な能力並びに前腕の回内及び回外ができているかどうかを,「用便の処置をする(ズボンの前のところに手をやる)」及び「用便の処置をする(尻のところに手をやる)」の各動作では主として肩関節の内旋及び外旋ができているかどうかを,「上衣の着脱(かぶりシャツを着て脱ぐ)」及び「上衣の着脱(ワイシャツ を着てボタンをとめる)」の各動作では患側の肢が健側の肢をどれだけ代償して運動できているか(不全麻痺の者が両手を使ってどの程度可動できているか)を確認するのである。このように,⑬欄は,同欄に示された各動作を行うことにどの程度の支障が生じているかという観点から,各関節運動が実際に行えているかや,神経伝達機能が正常に働いている か等を確認するものである。以上のとおり,同欄に示された各動作を評価するに当たっては,これらの動作を実際に完遂することができるかという観点ではなく,各動作を行うことにどの程度の支障が生じているかという観点から,身体機能の制限の度合いに着目して評価することになる。したがって,仮に,左手で水をすくうことが困難であったとしても, そのことから直ちに「顔を洗う(顔に手のひらをつける)」の動作が「全く一人でできない」と評価されるものではない。また,「用便の処置をする(ズボンの前のところに手をやる)」及び「用便の処置をする(尻のところに手をやる)」については,「ズボンの前のところに手をやる」ことができるか,「尻のところに手をやる」ことができるかとい う観点からそれぞれ判断すべきである。 よって,原告の上記主張は,その前提を誤っており,理由がな ,「ズボンの前のところに手をやる」ことができるか,「尻のところに手をやる」ことができるかとい う観点からそれぞれ判断すべきである。 よって,原告の上記主張は,その前提を誤っており,理由がない。 ウ原告の障害等級該当性以上のとおり,原告の左上肢の手指及び上肢の機能並びに左下肢の機能は,いずれも「日常生活における動作の一部が「一人で全くできない場 合」又はほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」」にとどまる。 - 13 -したがって,原告の障害の程度は,障害等級3級の具体例として挙げられている「一上肢及び一下肢に機能障害を残すもの」にとどまる状態であったと認められる。 エ認定要領⑶の(注)のなお書について原告は,認定要領⑶の(注)において,「なお,肢体の機能の障害が上 肢及び下肢の広範囲にわたる場合であって,上肢と下肢の障害の状態が相違する場合には,障害の重い肢で障害の程度を判断し,認定すること」とされている(以下,この部分を「本件なお書」という。)ことを根拠に,上肢と下肢の障害の状態が相違する原告については,障害の重い左上肢で障害の程度を判断・認定すべき旨主張する。 しかしながら,上記ウのとおり,原告の左上肢の手指及び上肢の機能並びに左下肢の機能は,いずれも,「日常生活における動作の一部が「一人で全くできない場合」又はほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」」にとどまるのであり,左上肢と左下肢の障害の状態が相違する場合には該当しない。したがって,原告の障害について,本件なお書の 適用は問題とならない。 仮に,原告の左上肢の機能障害が左下肢の機能障害より重いといえるとしても,その場合には,本件なお書により,第7節第1(上肢の障害)を用いて障害の程度を判断することとなる(この場 は問題とならない。 仮に,原告の左上肢の機能障害が左下肢の機能障害より重いといえるとしても,その場合には,本件なお書により,第7節第1(上肢の障害)を用いて障害の程度を判断することとなる(この場合には,日常生活における動作の状態も評価されることとなる。)。すなわち,本件なお書 が定められている理由は,障害の状態の重い部位に着目することによって障害の程度を正確に判断できるからであるところ,このとき,上肢と下肢の両方を併せて第7節第4(肢体の機能の障害)によって一律に判断すると,かえって,障害の状態を的確に評価できなくなるおそれがある。例えば,一上肢と一下肢に障害があり,一上肢の障害の状態が「用 を全く廃したもの」であり(第7節第1(上肢の障害)によれば2級相 - 14 -当),一下肢の障害の状態が「機能障害を有するもの」(第7節第2(下肢の障害)によれば障害手当金相当)である場合,第7節第4(肢体の機能の障害)を用いて判断すると,障害等級1級(一上肢及び一下肢の用を全く廃したもの)にも障害等級2級(一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの)にも該当せず,障害等級3級に該当する にとどまることになる。本件なお書は,このような不合理な結果を避けるために,上肢の障害が下肢の障害に比べて重いときは第7節第1(上肢の障害)を用いることとしているのである。加えて,認定要領⑶の例示の表(以下「本件例示表」という。)が障害等級2級に該当する場合として「一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」と定め, 「一上肢又は一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」と定めていないことからしても,左上肢の機能障害のみを理由に,原告の機能障害が障害等級2級に該当するという原告の上記主張は,障害認定基準の理解の仕方とし 又は一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」と定めていないことからしても,左上肢の機能障害のみを理由に,原告の機能障害が障害等級2級に該当するという原告の上記主張は,障害認定基準の理解の仕方として不合理なものである。 以上のとおりであるところ,仮に原告の左上肢の機能障害が左下肢の機 能障害より重いといえるとして,原告の障害の状態を第7節第1(上肢の障害)を用いて判断すると,原告の左上腕の肩関節から手関節までの機能障害及び左上肢の手指の機能障害は,いずれも,障害等級3級に該当する「身体の機能に,労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」にとどまるというべきである。 オ小括以上のとおり,原告の障害の程度は第7節第4(肢体の機能の障害)を用いて認定すべきところ,第7節第4(肢体の機能の障害)により判断した場合,本件処分時における原告の障害の状態は,「一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」には該当せず,障害等級2級に は該当しなかったというべきである。 - 15 -(原告の主張)ア原告の障害の状態(ア) 原告の左上肢の障害の状態を見ると,両手で「タオルを絞る(水をきれる程度)」及び「ひもを結ぶ」並びに左手で「さじで食事をする」,「用便の処置をする(ズボンの前のところに手をやる)」及び 「用便の処置をする(尻のところに手をやる)」が「一人で全くできない場合」に該当する。 また,左手で「顔を洗う」並びに両手で「上衣の着脱(かぶりシャツを着て脱ぐ)」及び「上衣の着脱(ワイシャツを着てボタンをとめる)」は,「一人で全くできない場合」か,少なくとも「一人でできるが非常 に不自由な場合」に該当する。本件診断書では,これらの動作について,「一人でできてもやや不自由 シャツを着てボタンをとめる)」は,「一人で全くできない場合」か,少なくとも「一人でできるが非常 に不自由な場合」に該当する。本件診断書では,これらの動作について,「一人でできてもやや不自由な場合」に該当するとされているが,原告は,左上肢・手指を使わずに右上肢・手指のみを用いて上記各動作を行っている。すなわち,原告は左上肢・手指を用いては上記各動作をすることができないのであるから,「一人でできてもやや不自由な場合」に とどまると評価するのは相当でない。 (イ) 日常生活における動作の状態の評価方法について以上に対し,被告は,日常生活における各動作を評価するに当たっては,これらの動作を実際に完遂することができるかという観点から評価するものではないなどと主張するが,日常生活上の動作の支障の度合い を図る尺度でなければ意味を成さない。被告の上記主張は,障害認定基準の趣旨に反するばかりか,「日常生活における動作」という日本語からも乖離する暴論である。 イ原告の障害等級該当性本件なお書は,「なお,肢体の機能の障害が上肢及び下肢の広範囲にわ たる場合であって,上肢と下肢の障害の状態が相違する場合には,障害 - 16 -の重い肢で障害の程度を判断し,認定すること」としているところ,原告は,左下肢に比して左上肢の機能障害が重いのであるから,左上肢で障害の程度を判断・認定されることとなる。 そうであるところ,上記アによれば,原告の左上肢・手指の機能の障害の状態については,「日常生活における動作の多くが「一人で全くでき ない場合」又は日常生活における動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」」に該当する。 したがって,原告の障害の状態は,障害等級2級に該当していたというべきである。 これに対し ない場合」又は日常生活における動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」」に該当する。 したがって,原告の障害の状態は,障害等級2級に該当していたというべきである。 これに対し,被告は,原告の左上肢の機能障害が左下肢の機能障害より 重いといえる場合には,本件なお書により第7節第1(上肢の障害)を用いて障害の程度を判断することとなり,この場合には日常生活の動作の状態も評価される旨主張する。 しかしながら,被告の上記主張によれば,本件なお書に当たる場合には,第7節第1(上肢の障害)を用いて判断される結果,手指の機能が上肢 の機能の一部として取り扱われないこととなり不合理である。また,本来第7節第4(肢体の機能の障害)により判断されるべき障害(多発性障害)であっても,障害の状態が上肢と下肢とで相違する場合には,第7節第4(肢体の機能の障害)以外の基準によることとなり,第7節第4(肢体の機能の障害)を用いて判断される場合が上肢と下肢とで相違 しない場合に局限されることとなり不合理である。さらに,本件なお書により第7節第1(上肢の障害)を用いて判断するとしながら,日常生活の動作の状態も評価されるとするという点は,第7節第1(上肢の障害)の文言に反する。そもそも,被告の上記主張は,本件なお書によって,認定要領⑴の定めを完全に否定するものであり,あまりにも無理が ある。 - 17 -むしろ,本件なお書は,認定要領⑶において,本件例示表の(注)として位置付けられていることなどからすると,上記表の記載を解釈するに当たっての指標とみるのが合理的である。そうであれば,上肢の障害の状態と下肢の障害の状態が相違する場合,例えば,上肢の機能に相当程度の障害を残すのに対し,下肢は機能障害を残すにとどまる場合 釈するに当たっての指標とみるのが合理的である。そうであれば,上肢の障害の状態と下肢の障害の状態が相違する場合,例えば,上肢の機能に相当程度の障害を残すのに対し,下肢は機能障害を残すにとどまる場合には, 重い上肢を基準として障害の程度を判断する結果,障害等級2級に相当する「一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」に該当すると解釈するのが合理的である。 ⑵ 争点2(第7節第2(下肢の障害)により原告の障害等級を判断することの適否及びその場合の原告の障害等級)について (被告の主張)争点1における主張のとおり,原告の障害の程度は第7節第4(肢体の機能の障害)を用いて判断すべきであり,第7節第2(下肢の障害)に基づき原告の障害の状態が障害等級2級に該当していた旨をいう原告の主張は失当である。 上記の点を措き,第7節第2(下肢の障害)を用いて原告の障害等級を判断したとしても,原告は,下肢の関節に自分の重みがかかった状態で両下肢を動かして歩行することができているのであるから,原告の下肢の筋力は,第7節第2(下肢の障害)の認定要領⑴イの「著減」の程度(自分の体部分の重さに抗し得ないが,それを排するような体位では自動可能な場合)には 至っておらず,障害等級2級には該当しなかったというべきである。 (原告の主張)仮に,被告が主張するとおり,本件なお書が適用される場合には,第7節第1(上肢の障害)又は第7節第2(下肢の障害)を用いて障害の程度の判断がされるべきであるとするならば,本件なお書にいう「障害の重い肢」で あるかは,第7節第4(肢体の機能の障害)によるのではなく,第7節第1 - 18 -(上肢の障害)又は第7節第2(下肢の障害)における,関節可動域,筋力等を中心とする考慮要素によって あるかは,第7節第4(肢体の機能の障害)によるのではなく,第7節第1 - 18 -(上肢の障害)又は第7節第2(下肢の障害)における,関節可動域,筋力等を中心とする考慮要素によって判断されるべきである。原告の障害についていえば,原告の左下肢の筋力は左上肢の筋力より障害の程度は重い。よって,より重い肢である下肢の障害について,第7節第2(下肢の障害)を用いて障害等級の判断がされるべきである。 原告の左下肢の筋力は,股関節,膝関節及び足関節のいずれも著減しており,「一下肢の3大関節中いずれか2関節以上の関節が全く用を廃したもの」(第7節第2(下肢の障害)の認定要領⑴イ)に該当する。なお,原告はその障害である伸筋群の痙性を利用して歩行しているだけであるから,原告が歩行していることと,原告の左下肢の筋力が著減していることとは何ら矛盾 しない。 したがって,第7節第2(下肢の障害)によれば,原告の障害の程度は,障害等級2級に該当していたというべきである。 ⑶ 争点3(併合等認定基準により原告の障害等級を判断することの適否及びその場合の原告の障害等級)について (被告の主張)争点1における主張のとおり,原告の障害の程度は第7節第4(肢体の機能の障害)を用いて判断すべきであり,併合認定すべき場合である「認定の対象となる障害が2つ以上ある場合」に当たらない。 上記の点を措き,原告の左上肢及び左下肢の障害について,併合認定の考 え方によったとしても,原告の障害の程度の評価は変わらない。すなわち,原告の左上肢及び左下肢の障害について,第7節第1(上肢の障害)及び第7節第2(下肢の障害)によりそれぞれの障害の程度を認定したとしても,原告の左上肢の3大関節の機能障害は「身体の機能に労働が著しい制限を受ける び左下肢の障害について,第7節第1(上肢の障害)及び第7節第2(下肢の障害)によりそれぞれの障害の程度を認定したとしても,原告の左上肢の3大関節の機能障害は「身体の機能に労働が著しい制限を受けるか,労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」 (併合等認定基準別表1併合判定参考表の3級7号の8)にとどまり,原告 - 19 -の左上肢の手指の機能障害は第7節第1(上肢の障害)で定める障害の程度にあると認められず,原告の下肢の障害は「一下肢3大関節のうち,2関節の用を廃したもの」(同表の3級6号の5)には該当しない。併合等認定基準別表2併合(加重)認定表によれば,別表1の3級7号に該当する障害は,同表3級6号以上に該当する障害と併合認定されなければ,障害等級2級と 認定されることはない。そうすると,原告の左上肢の障害と左下肢の障害について併合認定を行ったとしても,その結果,原告の障害の程度が障害等級2級と認定されることはない。 (原告の主張)仮に争点1及び争点2における原告の主張が認められないとしても,原告 の各障害については,併合認定の結果として,障害等級1級又は2級に該当していたというべきである。 ア原告の左下肢の障害は「一下肢の用を全く廃したもの」(併合等認定基準別表1併合判定参考表の2級4号の5)に該当し,原告の左上肢の手指の障害は「一上肢のすべての指の用を全く廃したもの」(同表の2級4号 の3)に該当するため,併合等認定基準別表2併合(加重)認定表により,障害等級1級と認定されるべきである。 イ仮に,原告の左下肢の障害が「一下肢の3大関節のうち,2関節の用を廃したもの」(併合等認定基準別表1併合判定参考表の3級6号の5)にとどまり,原告の左上肢の手指の障害が「一上肢のす きである。 イ仮に,原告の左下肢の障害が「一下肢の3大関節のうち,2関節の用を廃したもの」(併合等認定基準別表1併合判定参考表の3級6号の5)にとどまり,原告の左上肢の手指の障害が「一上肢のすべての指の用を廃し たもの」(同表の3級6号の8)にとどまっていたとしても,原告の左上肢の障害は「一上肢の3大関節のうち,2関節の用を廃したもの」(同表の3級6号の4)にも該当する。 上記各障害のうち2か所以上の該当性が認められる限り,併合等認定基準別表2併合(加重)認定表により,障害等級2級と認定されるべきで ある。 - 20 -⑷ 争点4(裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無)について(原告の主張)ア障害認定基準は,医学的知見を総合して定められたものであり,その内容は合理的なものである。また,障害基礎年金及び障害厚生年金の公平を確保するためには一定の基準に従うことが合理的である。これらの点を考 慮すると,行政庁の障害認定の実務におけるにとどまらず,訴訟においても同基準に従うべきである。このように,障害認定基準によることの合理性は,処分行政庁の恣意的取扱いを阻止し,年金給付の公平を確保することにある。ところが,障害認定基準の運用に客観性を欠き,同一障害に対する判断の内容が,その度ごとに異なるような場合には,その運用方法に 公平性の原則に反する違法があるといわざるを得ない。 イ本件についてみるに,原告の障害は,症状固定後の予後は,一貫して「回復の見込みはない」とされており,一定しているにもかかわらず,当初裁定においては障害等級2級に該当するとされていたものが,突如として,本件処分により否定されるに転じた。 また,本件決定,本件裁決及び本件訴訟における被告の主張を比較すると,本件例示表ない 裁定においては障害等級2級に該当するとされていたものが,突如として,本件処分により否定されるに転じた。 また,本件決定,本件裁決及び本件訴訟における被告の主張を比較すると,本件例示表ないし本件なお書の適用の在り方等について第7節第4(肢体の機能の障害)の解釈が異なっているほか,原告の左上肢の機能の障害の状態に対する評価(当てはめ)も一定していない。 以上によれば,本件処分については,障害認定基準の運用方法に公平性 の原則に反する違法があり,この点において,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるものとして取消しを免れない。 (被告の主張)ア本件決定及び本件裁決は,いずれも本件処分が妥当であると判断しているのであるから,本件処分が公平性の原則に反する旨の原告の主張は理由 がない。 - 21 -イまた,原告の主張は,障害認定基準の定める内容が一義的に明確でない場合,実際には法令の定める要件を満たしていなかったとしても,同要件を満たしているとして誤って障害基礎年金が支給される可能性があり,このような場合と比較して,本件処分は法の一般原則である平等原則に反する旨を主張するものであると解される。上記のような,法令の定める要件 を満たしていないにもかかわらず,誤って障害基礎年金が支給されたという場合,法律による行政の原理からは,上記支給処分をそもそも見直すことになるのであるから,原告は,上記のような例を基に自己に対しても障害基礎年金を支給するよう求めることはできないものと解される。すなわち,平等原則を根拠に,違法な行政処分を求めることはできないのである。 ウ以上のとおり,本件処分に公平性の原則に反する違法がある旨の原告の主張は,理由がない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(第7節第4(肢体 な行政処分を求めることはできないのである。 ウ以上のとおり,本件処分に公平性の原則に反する違法がある旨の原告の主張は,理由がない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(第7節第4(肢体の機能の障害)により判断した場合の原告の障害等級)について ⑴ 原告の障害の程度の判断に用いるべき障害認定基準ア厚生労働大臣は,障害認定基準に従って障害等級の認定を行っているところ,障害認定基準は,障害の程度を的確に評価するとともに,統一的な認定事務を行うことにより公平性を確保する目的で定められたものであって,合理的なものと考えられるから,特段の事情がない限り,障害認定基 準に従って障害等級の認定を行うのが相当である(原告も障害認定基準を用いて原告の障害の状態を判断することの合理性を認めている。)。 イ前記関係法令の定め等⑵エ(ウ)(別添1)のとおり,認定要領⑴は,肢体の障害が上肢及び下肢などの広範囲にわたる障害(多発性障害)の場合には,第7節第1(上肢の障害),第7節第2(下肢の障害)等によらず, 第7節第4(肢体の機能の障害)により認定することとしている(なお, - 22 -認定要領⑶の(注)では,肢体の機能の障害が両上肢,一上肢,両下肢,一下肢,体幹及び脊柱の範囲内に限られている場合には,それぞれの認定基準と認定要領によって認定することとしている。)ところ,前記前提事実によれば,原告の障害は右脳内出血による左片麻痺であって,肢体の障害が左上肢及び左下肢にわたるものであるから,原告の障害の程度(本件 処分時における原告の障害の状態が障害等級2級に該当しなかったか)については,第7節第4(肢体の機能の障害)を用いて判断すべきこととなる。 ⑵ 第7節第4(肢体の機能の障害)の内容及びその判断方法ア における原告の障害の状態が障害等級2級に該当しなかったか)については,第7節第4(肢体の機能の障害)を用いて判断すべきこととなる。 ⑵ 第7節第4(肢体の機能の障害)の内容及びその判断方法ア認定要領⑵は,肢体の機能の障害の程度は,関節可動域,筋力,巧緻性, 速さ及び耐久性を考慮し,日常生活における動作の状態から身体機能を総合的に認定することとしているところ,その趣旨は,第7節第1(上肢の障害)や第7節第2(下肢の障害)においては主として関節の可動域や筋力の障害を評価することとしているのに対し,多発性障害については,個々の関節等の障害の状態を評価するよりも,身体機能の障害を総合的に 認定するのが,その性質等に照らして合理的であることによるものと解される(乙16・4頁参照)。この日常生活における動作と身体機能との関連は,厳密に区別することができないが,おおむね,認定要領⑷に掲げるとおりとされており,また,手指の機能と上肢の機能とは切り離して評価することなく,手指の機能は上肢の機能の一部として取り扱うこととされ ている(認定要領⑷)。 認定要領⑶は,本件例示表において,各等級に相当すると認められる障害の状態の例の一部を示しており,2級に相当すると認められる障害の状態の例として「一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」を示している。本件例示表には,(注)が付されており,上記⑴イのと おり,肢体の機能の障害が両上肢,一上肢,両下肢,一下肢,体幹及び - 23 -脊柱の範囲内に限られている場合には,それぞれの認定基準と認定要領によって認定することとしているほか,本件なお書において,肢体の機能の障害が上肢及び下肢の広範囲にわたる場合であって,上肢と下肢の障害の状態が相違する場合には,障害の重い肢で れの認定基準と認定要領によって認定することとしているほか,本件なお書において,肢体の機能の障害が上肢及び下肢の広範囲にわたる場合であって,上肢と下肢の障害の状態が相違する場合には,障害の重い肢で障害の程度を判断し,認定することとしている。 なお,本件例示表にいう「機能に相当程度の障害を残すもの」とは,「日常生活における動作の多くが「一人で全くできない場合」又は日常生活における動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」」をいい(認定要領⑸),日常生活における動作の状態は,「一人でうまくできる場合」,「一人でできてもやや不自由な場合」,「一人ででき るが非常に不自由な場合」及び「一人で全くできない場合」等の4段階で評価することとされているが(診断書の⑬欄参照),障害認定基準に,その具体的な内容・程度が明示されているものではなく,また,認定要領⑷に掲げる日常生活における動作のうちどの程度が「一人で全くできない場合」に該当すれば,上記認定要領⑸にいう「日常生活における動 作の多く」ないし「日常生活における動作のほとんど」というかについても,具体的な内容は明示されていない。 イ(ア) 以上のような認定要領の内容及びその趣旨に照らせば,本件例示表が障害等級2級に相当する例として示す「一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」に該当するかどうかの判断方法は,以下のと おりであると解するのが自然かつ合理的というべきである。 a 認定要領⑷に掲げる日常生活における動作(特段の事情のない限り認定要領⑷アからウまでに掲げる16の動作)ごとに,その程度を4段階で評価する。その際には,関節可動域,筋力,巧緻性,速さ及び耐久性を考慮する。 b 上肢及び下肢の全体について日常生活における上記16の動作の状 に掲げる16の動作)ごとに,その程度を4段階で評価する。その際には,関節可動域,筋力,巧緻性,速さ及び耐久性を考慮する。 b 上肢及び下肢の全体について日常生活における上記16の動作の状 - 24 -態を見て,その多くが「一人で全くできない場合」又はそのほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」に該当すれば,障害等級2級と認定する。 c 上記bにより障害等級2級と認定することができない場合であっても,上肢と下肢の障害の状態が異なるときは,必ずしも上肢及び下肢 の全体として上記の状態にあるまでの必要はなく,障害の重い肢に関する日常生活における動作(認定要領⑷ア及びイに掲げる10の動作又は同ウに掲げる6の動作)の状態を見てその多くが「一人で全くできない場合」又はそのほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」に該当するのであれば,障害等級2級と認定する。 (イ) これに対し,被告は,本件なお書は上肢と下肢の障害の状態が相違する場合には,第7節第1(上肢の障害)又は第7節第2(下肢の障害)のいずれかを用いて障害の程度を判断すべきであり,仮に原告の左上肢の障害が左下肢の障害より重いのであれば,第7節第1(上肢の障害)を用いて障害の程度を判断すべき旨主張する。しかしながら,本件 なお書は,各等級に相当する障害の状態の一部を例示した表(本件例示表)の(注)の中に記載されているところ,このような記載上の位置付けからすれば,上記表を当てはめるに当たっての判断上の留意点を記載しているものと解される。そして,上記(注)のうち本文部分(本件なお書の直前)は「肢体の機能の障害が両上肢,一上肢,両下肢,一下肢, 体幹及び脊柱の範囲内に限られている場合には,それぞれの認定基準と認定要領によって認定する」と定め )のうち本文部分(本件なお書の直前)は「肢体の機能の障害が両上肢,一上肢,両下肢,一下肢, 体幹及び脊柱の範囲内に限られている場合には,それぞれの認定基準と認定要領によって認定する」と定め,第7節第4(肢体の機能の障害)以外の認定基準及び認定要領によるべき旨を明示しているのに対し,本件なお書は「障害の重い肢で障害の程度を判断し,認定すること」と定め,第7節第4(肢体の機能の障害)以外の認定基準及び認定要領によ るべき旨を明示していない。そうすると,本件なお書は,上記本文部分 - 25 -とは異なり,上記表を当てはめるに当たって,障害の重い肢につき,第7節第4(肢体の機能の障害)に従って障害の程度を判断し,障害等級を認定すべきことを示したものと解するのが文言上素直な解釈というべきである。そもそも,認定要領⑵は,上記説示のとおり,多発性障害の場合には,当該障害の性質等に照らし,第7節第1(上肢の障害),第 7節第2(下肢の障害)等により個々の関節等の障害を基に認定するよりも,第7節第4(肢体の機能の障害)により身体の機能を総合的に認定するのが合理的であるとして,その旨定めているものと解されるところ,被告の主張をしん酌しても,多発性障害に該当するにもかかわらず,上肢と下肢とで障害の状態が相違するからといって,第7節第4(肢体 の機能の障害)によらず,第7節第1(上肢の障害)又は第7節第2(下肢の障害)により障害の程度を認定すべき合理的理由は見いだし難い。 また,被告は,認定要領⑶が,障害等級2級に該当する場合として,一上肢「及び」一下肢の機能に相当程度の障害を残すものと定め,一上 肢「又は」一下肢の機能に相当程度の障害を残すものと定めていないことからすると,一上肢の機能障害のみを理由に障害等級2級に ,一上肢「及び」一下肢の機能に相当程度の障害を残すものと定め,一上 肢「又は」一下肢の機能に相当程度の障害を残すものと定めていないことからすると,一上肢の機能障害のみを理由に障害等級2級に該当すると認定するのは不合理である旨主張する。しかしながら,上記定め自体,障害等級2級に相当すると認められる障害の状態の一部の例示にすぎないのであるから,本件なお書を上記のとおり解釈したからといって,本 件例示表の記載と矛盾するものとはいえない。また,被告の上記主張は,手指及び上肢に関する動作と下肢に関する動作の状態とを個別に見て,それぞれにつき,その多くが「一人で全くできない場合」又はそのほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」に該当しなければ,本件例示表にいう「一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」 に該当しないことを前提とするものであるが,多発性障害については, - 26 -その性質等に照らし身体の機能を総合的に認定するのが合理的であるとする認定要領⑵の趣旨に沿わないものといわざるを得ず,むしろ,上記説示のとおり,上肢及び下肢の全体について判断すべき旨を定めたものと解する方が自然かつ合理的である(なお,本件裁決においては,このような判断方法が採用されている。)。さらに,被告の主張する解釈に よれば,第7節第4(肢体の機能の障害)は,肢体の障害が上肢及び下肢などの広範囲にわたる障害の場合のうち,上肢と下肢の障害の状態が同程度である場合に限定されて適用されることとなり,この点においても,被告の主張は不合理といわざるを得ない。 以上によれば,第7節第4(肢体の機能の障害)の判断方法に関する 被告の主張は,採用することができない。 ⑶ 原告の障害の状態について前記前提事実に加え,証拠(甲1 といわざるを得ない。 以上によれば,第7節第4(肢体の機能の障害)の判断方法に関する 被告の主張は,採用することができない。 ⑶ 原告の障害の状態について前記前提事実に加え,証拠(甲1,3~5,13,17,18,20,23~29,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア原告(当時42歳)は,平成15年1月6日頃,右脳内出血を発症し, 医師の診療を受けたが,その後,左片麻痺の後遺症が残り,その症状は固定した(本件処分がされた平成26年2月5日当時と現在とで,原告の障害の状態に変化はない。)。 イ原告の左下肢の痙性は強く,膝関節だけや足関節だけを自ら動かすことはできない。もっとも,症状固定後に歩行のためのリハビリを熱心に行っ た結果,突っ張った左足を前に投げ出すようにするなどにより,杖を用いることなく自力で歩行することができ,手すりを使って階段の上り下りをすることもできる(ただし,段差の大きな階段の上り下りはできない。)。 ウ原告の左上肢は拘縮しており,無意識に肘が曲がることがある。 原告の左上腕の関節の他動可動域はいずれも正常であるが,左の肩関節 及び肘関節の筋力はいずれも「半減」(検者の加える抵抗には抗し得ない - 27 -が,自分の体部分の重さに抗して自動可能な場合)であり,前腕及び手関節の筋力はいずれも「著減」(自分の体部分の重さに抗し得ないが,それを排するような体位では自動可能な場合)である。 エ原告の左上肢の手指は拘縮しており,意識的に指を広げておくようにしなければ,軽く握った状態になる。手指を独立して動かすことはできず, 握力もほとんどない。 オ原告の左上肢は,麻痺のために細かな動作をすることはできない。例えば,エレベーターのボタンを左手指で ければ,軽く握った状態になる。手指を独立して動かすことはできず, 握力もほとんどない。 オ原告の左上肢は,麻痺のために細かな動作をすることはできない。例えば,エレベーターのボタンを左手指で押すことはできず,リモコンのボタンを押すこともできない。 カ原告は,マンションの一室で,特段の介助を受けることなく一人暮らし をしているが,日常生活で必要な動作のほとんどは右手のみを使って行っており,両手の動作を必要とする作業(食器を洗う,包丁で食材を切る)をすることはできない。また,原告は,建設業を営む会社の総務部で勤務し,主に右手を使ってパソコン入力などの業務を行っている。 キ本件診断書の⑬欄の主な記載は,以下のとおりである。 (ア) つまむ(新聞紙が引き抜けない程度)(左)一人でできるが非常に不自由(イ) 握る(丸めた週刊誌が引き抜けない程度)(左)一人でできるが非常に不自由(ウ) タオルを絞る(水をきれる程度)(両手) 一人で全くできない(エ) ひもを結ぶ(両手)一人で全くできない(オ) さじで食事をする(左)一人で全くできない (カ) 顔を洗う(顔に手のひらをつける)(左) - 28 -一人でできてもやや不自由(キ) 用便の処置をする(ズボンの前のところに手をやる)(左)一人で全くできない(ク) 用便の処置をする(尻のところに手をやる)(左)一人で全くできない (ケ) 上衣の着脱(かぶりシャツを着て脱ぐ)(両手)一人でできてもやや不自由(コ) 上衣の着脱(ワイシャツを着てボタンをとめる)(両手)一人でできてもやや不自由(サ) 片足で立つ(左) 一人で全くできない(シ) 歩く(屋内)一人でうまくできる(ス) 歩く( 衣の着脱(ワイシャツを着てボタンをとめる)(両手)一人でできてもやや不自由(サ) 片足で立つ(左) 一人で全くできない(シ) 歩く(屋内)一人でうまくできる(ス) 歩く(屋外)一人でできてもやや不自由 (セ) 立ち上がる支持なしでできる(ソ) 階段を上る手すりがあればできるがやや不自由(タ) 階段を下りる 手すりがあればできるがやや不自由⑷ 原告の障害等級該当性についてア原告の日常生活における動作の状態上記⑶の認定事実を前提に,本件診断書及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を踏まえて,原告の日常生活における動作の状態をみると, 以下のとおりと認められる。 - 29 -(ア) 左上肢についてa 認定要領⑷ア(手指の機能)に掲げる日常生活における動作のうち,「つまむ(新聞紙が引き抜けない程度)」及び「握る(丸めた週刊誌が引き抜けない程度)」は,認定要領⑸の「一人でできるが非常に不自由な場合」に該当し,「タオルを絞る(水をきれる程度)」及び 「ひもを結ぶ」は,認定要領⑸の「一人で全くできない場合」に該当する。 これに対し,被告は,「ひもを結ぶ」について,原告がその本人尋問において「ひもは,右手で石結びで固定さして」などと供述したことを根拠として,せいぜい「一人でできるが非常に不自由な場合」に とどまる旨主張する。しかしながら,原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,原告は右手を用いて「石結び」をすることはできるが,その際,左手はほとんど用いていないことがうかがわれる。そうであるところ,認定要領⑷に掲げる日常生活における動作のうち両手で行うものについて,障害のある方の上肢をほとんど用いることなく, 障害のない方の上肢のみで当 いていないことがうかがわれる。そうであるところ,認定要領⑷に掲げる日常生活における動作のうち両手で行うものについて,障害のある方の上肢をほとんど用いることなく, 障害のない方の上肢のみで当該動作ができるからといって「一人でできる」と評価するのが相当でないことは明らかである。そうすると,「ひもを結ぶ」については,本件診断書において「一人で全くできない場合」に該当するとされているにもかかわらず,原告の上記供述を根拠として,「一人でできるが非常に不自由な場合」にとどまると認 めることはできないというべきである。被告の上記主張は採用することができない。 b 次に,認定要領⑷イ(上肢の機能)に掲げる日常生活における動作のうち,「さじで食事をする」は,「一人で全くできない場合」に該当し,「顔を洗う(顔に手のひらをつける)」,「用便の処置をする (ズボンの前のところに手をやる)」,「用便の処置をする(尻のと - 30 -ころに手をやる)」,「上衣の着脱(かぶりシャツを着て脱ぐ)」及び「上衣の着脱(ワイシャツを着てボタンをとめる)」は,少なくとも,「一人でできるが非常に不自由な場合」に該当する。 これに対し,被告は,「顔を洗う(顔に手のひらをつける)」,「上衣の着脱(かぶりシャツを着て脱ぐ)」及び「上衣の着脱(ワイ シャツを着てボタンをとめる)」は,本件診断書のとおり,「一人でできてもやや不自由な場合」に該当する旨主張する。 しかしながら,原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,原告は顔に左の手のひらをつけ,その状態で手を動かすことはできるものの,手指を閉じることができないために左手で水をすくうことは全 くできないというのである。そうすると,原告が両手で顔を洗おうとした場合,右手ですくった水を使って両手 手を動かすことはできるものの,手指を閉じることができないために左手で水をすくうことは全 くできないというのである。そうすると,原告が両手で顔を洗おうとした場合,右手ですくった水を使って両手で顔をこすることになると考えられるが,このような動作ができることをもって,一人で顔を洗うことができてもやや不自由であると評価するのは相当でない。この点に関し,被告は,日常生活における動作を評価するに当たっては, 当該動作を実際に完遂することができるかという観点ではなく,当該動作を行うことにどの程度の支障が生じているかという観点から,身体機能の制限の度合いに着目して評価するなどとして,左手で水をすくうことが困難であったとしても,そのことから直ちに「顔を洗う(顔に手のひらをつける)」の動作が「一人で全くできない」と評価 されるものではない旨主張する。しかしながら,認定要領⑵が主として日常生活における動作の状態から身体機能を総合的に認定する旨規定していることに加え,認定要領⑷が肢体の動きそのものを掲げるのではなく,日常生活の場面ごとに必要となる動作を掲げ,「顔に手のひらをつける」といった肢体の動きそのものについては必要に応じて 括弧内に記載していることも踏まえれば,日常生活における支障の程 - 31 -度をしん酌することが当然に予定されているというほかない。この点は,障害認定基準の改正に当たり開催された「障害年金の認定(関節の機能等)に関する専門家会合(第1回)」において厚生労働省の担当官が「今の肢体の機能のところなんですが(中略)要は日常生活の中でどういう機能の不具合があるかという見方をしています。」, 「どの程度,日常生活に支障があるかというのを幾つかの動作から判断させていただいています」などと説明している(乙 略)要は日常生活の中でどういう機能の不具合があるかという見方をしています。」, 「どの程度,日常生活に支障があるかというのを幾つかの動作から判断させていただいています」などと説明している(乙16)ことからも裏付けられる。したがって,被告の上記主張をそのまま採用することはできず,左手で水をすくうことが全くできないことも踏まえて判断すれば,上記のとおり,「顔を洗う(顔に手のひらをつける)」に ついては,少なくとも「一人でできるが非常に不自由な場合」に該当するというべきである。 また,証拠(甲25,29,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は上衣(かぶりシャツ・ワイシャツ)の着脱をすることはできるものの,その際,原告は左上肢をほとんど動かしておらず,その役割 も,頭や上肢をシャツに通したり右手でボタンを留めたりしやすいように上衣を固定するといった,極めて限定的な役割にとどまることが認められる(その結果として,原告が上衣の着脱をするには,障害のない者に比べて,相応の時間を要することがうかがわれる。)。このような独自の動作により上衣の着脱をすることができることをもって, 一人で上衣の着脱をすることができてもやや不自由であると評価するのは相当でなく,原告が上衣を着脱する動作を踏まえれば,「上衣の着脱(かぶりシャツを着て脱ぐ)」及び「上衣の着脱(ワイシャツを着てボタンをとめる)」については,少なくとも「一人でできるが非常に不自由な場合」に該当するというべきである。 (イ) 左下肢について - 32 -認定要領⑷ウ(下肢の機能)に掲げる日常生活における動作のうち,「片足で立つ」は「一人で全くできない場合」に,「歩く(屋内)」は「一人でうまくできる場合」に,「歩く(屋外)」は「一人でできてもやや不自 要領⑷ウ(下肢の機能)に掲げる日常生活における動作のうち,「片足で立つ」は「一人で全くできない場合」に,「歩く(屋内)」は「一人でうまくできる場合」に,「歩く(屋外)」は「一人でできてもやや不自由な場合」に,「階段を上がる」及び「階段を下りる」は「手すりがあればできるがやや不自由な場合」に,それぞれ該当する。 イ原告の障害等級について上記アによれば,原告の左上肢及び左下肢の障害を全体として判断すると,日常生活における動作の一部が「一人で全くできない場合」に当たるものの,これが日常生活における動作の多くであるとはいえず,「一人でできるが非常に不自由な場合」を併せても,これらが日常生活にお ける動作のほとんどを占めるとまではいえない。 もっとも,上記アによれば,原告の左上肢と左下肢の障害の状態は異なり,障害の重い肢は左上肢である。そこで,本件なお書に従って障害の重い左上肢で原告の障害の程度を判断すると,日常生活における動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」に該当するというこ とができる。したがって,原告の障害の程度は,障害等級2級に該当するというべきである。 ⑸ 小括以上によれば,本件処分時(平成26年2月5日)における原告の障害の状態が障害等級2級に該当しなかったということはできないから,その余の 点について判断するまでもなく,本件処分は,違法なものとして取消しを免れない。 2 結論よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり,判決する。 大阪地方裁判所第7民事部 - 33 - 裁判長裁判官松永栄治 裁判官森田亮 裁判官 民事部 裁判長 裁判官 松永栄治 裁判官 森田亮 裁判官 横井真由美
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